新説・仮面ライダーゴースト (27)

誰かが言った


"あの世"は無限ではないと

満杯になってしまったら、死人が現世に溢れだすと


そうならないために輪廻転生があると


ならばそのバランスが崩れてしまったらどうなるのだろう?

産まれ来る数より、死に逝く数の方が遥かに多かったならば…

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第1話「死んで初めて」

大天空寺


テレビのニュースを君ながら質素な朝食を作る


「~は未曽有の大震災であり、これを受けて新たな耐震構造を考える必要があると~」

「~建築基準法の見直しも~」

「~また、東北では巨大ハリケーンが~」

「~州に落ちた隕石は都市を破壊し」



耳に入ってくるのは沢山の人々が死んだ災害の話ばかり

戦争すら比にならない程の被害の数々、ついでに世界的大恐慌にリストラの波で先月社会人の集団自殺


タケル「神も仏も無いって感じだよな…」


そんな住職の息子には合わない言葉を吐く

一日の日課として寺の裏手にある墓地を掃除しつつ墓一つ一つに手を合わせる

もはや墓参りに来る人すら少なくなっている事実は悲しくもあるがこの不況ではそんな暇すらないのだろう

その奥の共同墓地に葬られる人も多くなっている。土地が無いのもそうだが安く済ませたい遺族や独り身が多かった


タケル「…寂しいもんだよな…」


タケル「ん?なんだこれ…」


「天空寺タケルへ」そう書かれた小包が郵便受けに入っていた

タケル「ベルト…か?」


死んだ魚の目のような無機質で不気味、そしてくすんだ灰色の巨大な眼玉

そんな見た目のバックルがついたベルト…その下に手紙も入っている


タケル「…父さんから…『何かあるまで常に身に着けておくように』」

タケル「これだけ…?」


死んだ父親から荷物が届いたと思いきや訳の分からない文面に訳の分からない荷物

何とも不思議というかなんというか…


タケル「とりあえずつけておくかな」


つけてみると不思議にしっくりくる。しっくりくるのだが…何だか


タケル「何だろう…この違和感」

それから三日後

いつもの通り墓地を掃除していると


タケル「珍しいな」


最近はめっきり人の来ないこの墓地に人がいる

この不況に墓参りする心の余裕がある人がまだいるということに何となくホッとする


タケル「墓参りですか?」


箒を持ったままそう言いながら近づいてみる

近づいて…近づいて違和感を持った


妙にふらふらとしてブツブツ何かを言っている


タケル「あの…大丈夫でs…


―ドスッ―

腹に重い衝撃が襲い掛かる

ジワリと中心からしびれが広がり、手足の先から冷たくなっていくのが分かる

遅れて鈍い痛みが腹ではなく頭の奥でジンジンと響いている


ふわりと体がどこかへ舞い、視線がグルリと回る


最後に捕らえた人間の姿は、狂ったように黒目をでたらめにグルグル回して涎を垂らし、血塗れの包丁を手に持っている…殺人犯の姿だった


「うひひいぃぃひははははぁあ!!!」


耳に残る狂人の嫌な笑い声…俺はここで死ぬのか…何の関わりも無い、名前すらも知らない人間に殺されて…


大天空寺、引き継いでくれる人いるのかな…

最期に考えたのはそんな、どこかズれたことだった

―――――
―――

―――
―――――

「おい、起きろ!おっきろタケル!」

甲高い声に起こされる


タケル「…目玉のおばけ…」

昔父さんの部屋で見かけた落書きに似たものが目の前にいる

子供が連想する"おばけ"のように足が無く指の無い手だけが二等身の体から生えていて、その上に巨大な目玉だけが一個乗っかっている


「だれが目玉おばけだ!俺様これでも仙人なんだぜ!」

タケル「仙人?そんなゆるキャラみたいな見た目して…あ、ゆるキャラ仙人、略してユルセン」

ユルセン「変な名前付けんじゃねえよ!」

ユルセン「んなことよりよぉタケル、お前、自分がどんな状況にいるのか分かってるのか?」

タケル「…一応ね」


周りは今までいたところとあまり変わらない

だが、景色の色は褪せ、くすんだ視界がどこまでも広がっている

風が木々を凪いでいるのは分かるが肌が感じ取ることは無い。匂いも音も全てどこか遠くに感じる


タケル「死後の世界…なんだろ?ここは」

死後の世界がこんなにも現世に似ているとは思わなかったけど


ユルセン「あー、ちょっと違うんだなあ」

タケル「え?」

ユルセン「お前は死んでも成仏できず現世に居残っちまったってわけだよ」

タケル「…そっか…寺の息子が成仏できなかったなんて…笑えないなあ」

タケル「で、どうやったら成仏できるんだ?…俺に未練なんか…あんまり思いつかないんだよ」

ユルセン「あー、残念だがそりゃ無理だ」

タケル「え?無理って?」

ユルセン「これだよ」


腰に巻いているベルトを指される

そういえばさっきより目玉が生き生きしているように見える

色褪せている景色とは真逆に色鮮やかになり、何となく温かい


ユルセン「そして周りを見な」


言われるままに周りを見回すと見えてくる。何故今まで見えなかったのだろうと思うほどにはっきりと


タケル「人魂…」

ユルセン「そのベルト、ゴーストドライバーを持ってるってことはお前はゴーストハンターの使命を背負ってるってこったよ」

タケル「…これ、父さんから送られてきたんだ」

ユルセン「なら尚のことゴーストハンターをやるしかねえよな?別に断ったっていいんだぜー?そうすりゃ成仏もできる」

タケル「断れるわけないだろ…父さんの最後の頼みなんだ」

ユルセン「なら決まりだな。ゴーストハンター」

タケル「それにしてもこんなにいるんだな、彷徨える魂ってのは」

ユルセン「あー、そいつらは無視してもいい。お前が気にすべきはあっちだ」


タケル「っ…あいつは」


ほとんど忘れていた、墓地からふらふらと出て行って少し離れているが…


タケル「俺を殺した…」


そいつの背からはおどろおどろしい黒い瘴気があふれ出て包み込んでいた


ユルセン「簡単に言えば悪霊に取りつかれてる。ほら、自分の仇ぐらい取ってこい」

タケル「あ、ああ!…どうすりゃいいんだ?」

ユルセン「ああもうおめえは!まずを印結んで、奴から悪霊を引きはがす」

タケル「おい悪霊!そいつの体から出て行け!」


教えてもらった印を結ぶ

風がその男へと吹きすさび、黒いモヤを引きずり出す


"それ"が人型の像を結び、悪意のある怪物として具現化する


ユルセン「かまうこたねえ!その悪霊を倒すんだタケル!そのベルトの本領を解き放て」

タケル「違うよユルセン。倒すんじゃない」


タケル「成仏させるんだよ。ちゃんとね」

タケル「変身」ヒュォォオオ

生暖かい風が吹き、まとわりつく

周りに浮かんでいる人魂が渦を巻いてベルトに吸い込まれていく

次にベルトを中心に黒いモヤが体を包み込み、やがて全身を包み込む


ユルセン「ゴースト、除霊フォームだ。存分にぶちかませタケル!」

タケル「ぶちかますって、除霊だろ?そんな物騒なこと言うな、よっ」ヒュン


体が軽い。幽霊だからなのか重力を感じない


「ヴぉぉぉおおお!」


悪霊が雄叫びを上げる。まるで獣の雄叫びだ


タケル「話は通じ無さそうだな」

ユルセン「低級の悪霊だ。話どころか自我もないだろうよ」

タケル「そうか…」

人の姿をした悪霊は雄叫びをあげながら襲いかかってくる

タケルはそれを軽く避けると横から掴みかかり、足をかけてバランスを崩しつつ投げ飛ばす




タケル「本当に、触れた」

ユルセン「どっちも幽霊だからなー」

タケル「それも、そうだなっ」


グッと拳を固めて悪霊に殴りかかる



「ぐぉぉおおおお」

避けられてしまう
そのまま悪霊はタケルに噛みつこうとする





タケル「うわっ」
















引っ掻き、噛みつき、もはやその闘い方は人間のそれではない





「ガァッ、グォオッ!」

タケル「そうか…本当に、自我が…」



成仏、させてあげなきゃ

俺が、救ってあげなきゃ





そういう気持ちだけが心の底で大きくなる。もう仇討ちとかそういうことはどこかに行っていた



タケル「大丈夫、すぐに送ってあげるよ」

ユルセン「おいタケル!悪霊が人間の体に逃げ込むぞ!」


偶然歩いてきた通行人に悪霊が駆け寄ろうとしている





当然悪霊やタケルはその人の目には映らないし聞こえない







タケル「そんなことはさせないよ」





再び”印”を結ぶ
右腕に紋様が浮かび上がる

タケル「その人から離れろぉっ!」グィッ

その手で悪霊の首根っこを掴み、空中高く放りあげる


ユルセン「やれー、タケルー」


タケル「ああ」

回りに漂う人魂が渦を巻いてタケルの足に集まってくる


タケル「ゴーストキック」ヒュォォ…


その回し蹴りが悪霊の腹にぶち当たる


「ぅ、ぉぉぉぉ…」


まばゆい光が腹から広がり、悪霊の全身を食らい尽くす



タケル「安らかに眠れ」

やがて悪霊は光の粒子となって霧散した


タケル「これで、こいつと憑依されていた人は救われたのかな」

ユルセン「ああ、その悪霊は救われただろうな。でもあの人間はどうだろなあ、もう霊症なんかは起きないだろうけどお前を殺した罪で捕まるだろうな」

タケル「だ、ダメだよ。あれは悪霊の仕業であってあの人は何も…」

ユルセン「お前はそう思っても世間や警察はそうは思わないと思うぜー?」

タケル「で、でも…だったらどうすればいいんだよ!」

ユルセン「さあなー、大体お前殺されたのに普通殺したやつの心配なんかするかー?」

タケル「あの人こそ被害者だろ!憑依されて何も知らないんだぞ!」



ユルセン「だとしてもお前にできることは何もないぜー?」

タケル「何も…」

ユルセン「お前は幽霊だ。この世に生きる奴等に干渉なんてできねえんだよ。永遠にな」

タケル「……幸いここには監視カメラなんて無いしさっきの通行人にも死体は見られてない」

ユルセン「じゃあ運が良ければ大丈夫かもなー、あいつの運が」

タケル「…幽霊は非力だな」

ユルセン「その通りだ。決してヒーローなんかにはなれねえんだよ。誰にも知られず、誰にも称賛されず、悪霊狩りをただただ全うする。それがお前の役目だ」

ユルセン「それとも、そのベルトを捨てて有象無象の低級霊と一緒になるか?悪霊が溢れて大変なことにるがお前には関係ないことだろ?」

タケル「いや、続けるよ…死んで初めて、俺は俺の役目を見つけた…気がするから」

ユルセン「そいつは結構なこった」


後ろで誰かの悲鳴が聞こえる

きっと死体が見つかったのだろう
今にここは騒がしくなる。あまりお寺で騒がないでもらいたい

でも、そう訴えようと誰にも届かないのだろう


タケルは、「死んでいる」のだから

第一話

次回予告

「何で死んだのよタケルー!」

タケル「死者は、甦っちゃいけないんだよ」

ユルセン「化けやがるぞ!」

「死んだら、あの世はあるのかな」

タケル「死神…」

次回、第2話「近くて遠い」


ユルセン「生き返る方法がある。っていったらどうする?」

続く

途中無駄に多い改行が入ってしまったのはミスです

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