【艦これ】エラーねこのなく頃に 艦こまし編  其の二 (139)

*初投稿です。マナーやルール等が間違っていたらご指摘ください。

*地の分あり。むしろ半分くらいそれです。苦手な方はスルーを。

*タイトルの通り、某ホラー作品のパロディです。これも苦手な方はスルーを。
ホラー要素は微塵もありませんが。

前スレを落としてしまったので二スレ目です

前スレ
【艦これ】エラーねこのなく頃に 艦こまし編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475634532/42-)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497540163

なんてこったい
ルールをちゃんと把握してなかったみたいで落としてしまいました
許してくださいなんでもします明石が

お詫びといってはなんですが、魚雷姉妹編その一です




「提督ー北上だよー。入っていいー?」

扉の向こうから聞こえてきた軽いノックと緩い声音に提督は「ああ。入れ」と声を返した。
その返事をもらって、ニヤニヤを顔に張り付けた雷巡・北上がヒョイっと入室してきた。

「お邪魔しまーす……にししし~」

「ん。で、一体何の用だ?」

「ん~別に用はないんだけどね~」

「本当に邪魔しに来ただけか。まったくお前は……」

普段ならそこで露骨に嫌そうな顔で「早よ帰れ」とでも言いそうなものなのに、呆れたように嘆息しつつも柔らかく微笑みかけてくる提督を前にして、北上の胸はドキリと高鳴った。


(おぉーぅ…………これは確かにマズいかねぇ~)

ベクトルは多少違えど、あの加賀と同程度の平静表現力を誇る北上。その動揺する内心をまるで表にせず、彼女は緩いポーカーフェイスを保つことができた。
しかしそれでも、この提督に対して受けに回ればその城壁も長くはもたないだろうと、実際に対面して彼女はそう判断した。

(フッフッフー。でもそれでこそ攻めがいがあるってものよねー)

そう、何を隠そうこの北上、朝の食堂の騒ぎをリアルタイムで目撃していた艦娘の一人であった。
そして意外にも負けず嫌いな彼女はこの提督を逆に弄り倒してやろうと思い立ち、今こうして執務室に赴いたのであった。


何を馬鹿な事をと思うなかれ。
数多の海域で戦果を挙げてきた北上にとって、立ちはだかる壁は壊すか越えるかしないと気が済まないのだ。
そんなチャレンジ精神と好奇心の化身である彼女が、今日の提督を放っておくわけがないのである。
まあ、少しばかりの乙女心が絡んでいるというのもあるのだが。

「まあいいか。執務の邪魔だけはしてくれるなよ」

「はいはーい」

気の抜けたような受け答えをしつつ、北上は提督の座る椅子の左後ろに回り込んだ。いわゆる秘書ポジションと言われる位置取りだ。

提督に近づいたせいか、心拍数が若干増加したような気もする。しかしそれを押し止めつつ、そこから北上は静かに提督の仕事っぷりを眺めることにした。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「…………ねぇ提督さー。ちょっと聞いてもいい?」

「なんだ突然」

「提督ってさー……最近欲求不満なの?」

「は? 何を言っているんだお前」

「やーだってさー。今朝もすごいやんちゃしてたしさー。もしかして色々溜まってるのかなーって。もしくは発情期とか?」

「なんだ発情期って。猫や猿じゃあるまいし。それと、別に欲求不満でもないぞ」

机に向かったままこっちも見ずにそう話す提督。北上の予想通りの、いつもの提督の反応であった。


「ふーん、そっかー……」

(まー面と向かって「実は欲求不満です」なんて言うわけないよねー)

ならば――と、そこで北上はニヒっと笑みをこぼした。

「よいしょっとー」

「むっ……何をする北上」

「んふふー別にー。何となく?」

斜め後ろから上半身だけ提督に抱きつき、提督の肩に自分の顎をのせて北上は楽しげに笑った。

提督に対する軽いスキンシップを度々行ってきた北上(その度に大井の眉間にしわが寄る)だが、ここまで体を密着させる程の大胆なそれは彼女も仕掛けたことがなかった。
というより、ラッキーハプニングでもない限りこんなことしないしできない。
飄々としている彼女だが、他の艦娘の例に漏れず、恥じらいのあるちゃんとした乙女なのである。


そして今、そんな恥じらいをかなぐり捨てて、北上は攻勢に出ることにしたのだ。

(フッフフー。早く慌てふためく姿を見せてごらんよ~…………は、早くして~)

しかしながら、その行為は行使した本人も羞恥に苛まれる諸刃の剣であった。

提督が顔を赤くして慌てだすのが先か、北上が耐えきれずに暴発するのが先か。
傍目にはイチャついているようにしか見えない、女と男のプライドを賭けた闘いが始まった――かのように思われた。

「…………北上、仕事がしづらい。離れてくれ」

「んーもう少しだけー」

「邪魔はするなと言ったはずだぞ。離れろ」

「まあまあ、そう言わずさぁ――」

「クドいぞ。迷惑だ、離れろ。何度も言わせるな」

「う…………」


有無を言わさぬ固い口調に、北上もおずおずと体を離した。
対して提督は彼女には目もくれず、書類仕事を続けている。
彼女の攻撃はまるで効果がなかったどころか、最初から闘いにすらなっていなかったようだった。むしろ明確な拒絶の表れすら見える。

「………………」

「……あ、あの……」

「………………」

「ご、ごめんね? そう、だよね。迷惑だったよね…………嫌、だったよね」

「…………あのな北上」

溜め息を一つついて、提督は席を立った。
それを前に北上はビクッと身を竦ませた。間違いなく怒られる――彼女はそう思っていた。

ところが、どうしたことだろうか。

身を竦ませる北上を、提督はあろうことか正面から抱きしめたのだった。

とりあえず今回はここまで

すんません。これからはもっと小出しにしていくか生存報告をちょいちょいしていくことにします


もう一方も近いうちに投下しますんで、懲りずに待っていただければ幸いです

ゴキより面倒だった来訪者に辟易とする今日この頃

魚雷姉妹編その二です


(へ? へっ……ええぇぇぇぇ!?)

「な、何!? 何なの提督!?」

突然の提督の暴挙に、北上は顔を赤くして硬直する。
怒られると思ったら抱きしめられていた。何を言っているのか分からないと思うが――という状態である。

混乱し過ぎて事態に頭が追い付かない様子の北上であったが、それに対して提督は抱きしめる力を少しばかり強めた。

「一つ、言っておこうか北上。仕事中に限らず、ああいう行為をしかけられるのは俺にとっては非常に迷惑だ。何故か分かるか?」

「そ、それは……あの……嫌、だから?」

「違うな。むしろその逆だ」

「え……それ、どゆこと――」


今一つ要領を得ない提督の答えに困惑する北上の耳元に、提督はそっと口を寄せる。


「あんな事されたら、興奮のあまりうっかりお前をその場で押し倒してしまうかもしれないからだ」


「へ…………~~~~ッ!?」

その言葉が脳を直撃した時、北上は無事に(精神的に)中破した。
彼女ってば装甲は薄いのである。たとえそれが提督にとっては副砲による牽制程度の攻撃であっても、その至近弾は致命傷になりかねない。
実際、あと何かがほんの少し掠るだけで大破になりかねない程の混乱具合であった。

そして、そこで終わってくれるほど今日の提督は優しくはないのである。


(ヤ、ヤバいよこれは……! 早く逃げなきゃ――)

今になってようやく自分の相手がフラル改ではなく中枢棲姫だったことに気づいたかのように、北上は即座に戦線から離脱しようと試みようとした。

しかし、彼女の脳内において"今すぐ逃げなくては!"が半数以上を占める中、提督の温もりに"……もう少しこのままで"という願望がわずかに混じったせいで、身体の反応が遅れてしまった。

そのため、彼女は追撃から逃れることができなくなった。

「まったく日頃俺が我慢してるのにお前ときたら……ああ、それともあれか。そうやって誘ってるのか? お前は」

「ひぅっ!?」


北上を抱きしめたまま、提督の手が彼女のむき出しの腰をそっと撫ぜた。
腰からせり上がってくる甘い痺れに北上が硬直する。
その一撫でで、ただでさえ薄い装甲が更にメキメキと剥がされてしまった。最早バイタルパートもむき出しである。

「随分とふしだらな女になったものだなぁ北上。でも、そういうことならさっき見栄を張って嘘をつく必要もなかったかな」

そこで提督は北上の体を離し、お互いの額がぶつかるような距離で彼女の目をじっと見つめて、一言。



「俺、実は今欲求不満なんだ――お相手、お願いできるか?」



「――――――」


そうして、北上は無言で爆散した。







「北上さんっ! 無事ですかっ!?」

バンッと執務室の扉をブチ開けて、艦隊随一の北上LOVE勢・大井が飛び込んで来た。

彼女もまた、北上と共に朝の提督無双を目撃していたのである。
そんな彼女が、愛してやまない相方が提督に挑んでいったと聞けばどういう行動に出るか、容易に想像がつくというものだろう。

「っ!? そんなっ、北上さんっ!?」

だが時既に遅し。
執務室にたどり着いて大井が目の当たりにしたのは、壁際でへたり込む北上とその傍らに佇む提督の姿。
どう見ても何かしらの事後、といった様子である。大井の恐れていた事態そのままの状況であった。


「北上さんっ、しっかり! しっかりしてください!!」

慌ただしく北上のもとまで駆け寄り、大井はその肩を揺すった。
しかし返事はない。まるで屍のよう。灰になるまで燃え尽きたかのような有様だ。まだ熱いので今しがた爆死したのだろうと予想できる。
ただ、何故だか妙にキラキラしているように見えた。

「入るときはちゃんとノックをしてほしいものだが、ちょうどいい。そいつを部屋に連れていってくれないか。俺はまだ執務中だからな。頼んだぞ」

「……っ!」

動じた様子がまるでないその声音に、大井は険しい目つきで提督を見上げた。


「提督っ、北上さんに一体何を何をしたんですか!?」

「仕事の邪魔をしてきたから、少しばかり灸をすえてやったんだ。これに懲りて、こいつも自重するようになるといいんだが」

「灸って……」

一体どんな灸をすえれば雷巡が灰になるというのか。
大井はすぐに食堂での一件を思い出し、北上も提督の毒牙にかかったのだろうと判断した。
その瞬間、彼女の堪忍袋の緒は派手に千切れ飛んだ。

「ふざけないでくださいっ! 何が"灸をすえてやった"ですか! どうせ朝のときみたいに北上さんにもいやらしいことをしたんでしょう!? こんなになるまで……!」

「まあ確かに、若干やりすぎだったのかもしれん。北上にはあとで俺から謝っておくとするよ。だからほれ、早く連れて行ってやってくれ。お前だってこいつをこんなところに寝かせておきたくはないだろ?」

「…………それだけ、ですか?」

「? それだけ、とは?」

「私の北上さんにこんなことして、言うことはそれだけなのかって言ってるんですっ!!」


勢いよく立ち上がり、肩を怒らせて大井は提督にくってかかった。
彼女のこの反応も当然と言えよう。なにせあの龍田や山城に並ぶシスコン艦である。
もし提督が愛しの北上に手を出したとなれば、彼女ならその手を酸素魚雷で吹っ飛ばすか、股間を蹴り上げるくらいはしそうなものである。

ただ、今怒っている理由は実はそれだけではなかったりするのだが。

「見損ないました! あなたは自分からこんなことをする人じゃないって思ってたのに……! さぁ、何か弁明があるなら聞かせてもらいましょうか!」

「ほぅ……なるほど。何だかよく分からないが、どうやら俺はお前の期待を裏切ってしまったようだな」

「っ……き、期待なんて別にしてませんっ」

「だがまあそれでも、弁明なんて特にないよ。あったとしても、それは"北上に"であって、"お前に"じゃあないからな」

「なっ……!?」

「分かったのなら早く北上を連れていってくれ。俺は執務に戻るから」

そう言って、提督は大井に背を向ける。
おそらくそのまま何事もなく仕事を続けるつもりなのだろう。

今日はここまで

もうすぐ夏だ。頭も沸くぜ

生存ほうこくー
もうちょっと待ってほしいのじゃ

お待たせしやした
いきますでさ


「何よそれ……私には関係ないって言うの? 北上さんに関することで私に関係ないことなんてあるわけないじゃない」

「………………」

「ちょっと! まだ話は――」

「――――――」

――終わってないわよ! と続くはずだった大井の言葉は、提督の突発的な行動で遮られた。

目にも止まらぬ速さで振り返り、大井の両肩を押さえ、そのまま彼女を壁に押さえつけたのである。

「ッ!? ……な、何よ。頭にきたから力づくで黙らせようってわけですか?」

「……そうだな。当たらずも遠からず、だ。正直、俺も限界なんだ」

「フン…………本当に、見損ないました」

「なんとでも言え。ちょうどいい機会だからお前にも一つ、言っておこうか」


そう言うと提督は大井の肩から手を放し、すかさず右手を彼女の顔の側に
軽く叩きつけるように突き出した。
そう、いわゆる壁ドンである。そしてそうなると当然、お互いの顔の距離も近くなる。

「っ……~~~~!」

これにはたまらず大井の顔も自然と赤くなってしまう。怒りも半ばどこかに吹っ飛ぶ衝撃であった。

「実を言うとな大井…………最近俺は、お前と話すのが苦しくてたまらなかったんだ」

「え…………」

そして続いたその一言は、彼女の予想の斜め上を急角度でぶっ飛んでいくものだった。


「正確に言うと、北上の話をしている時のお前と一緒にいると――なんだが。いやホント、我ながらよく今まで我慢できていたと思うよ」

「え、え……だ、だって、そんな素振り少しも……」

「そりゃそうさ。あんなに楽しそうに話をしているお前に、嫌そうな顔を見せるわけにはいかないだろ」

「…………!」

「お前ときたら俺と顔を合わせる度に、北上さんが・北上さんと・北上さんに・北上さんを――と、それはそれはもう生き生きと話して聞かせてくれたよな。最初のうちは聞き流すことができたものだが…………まあ、それももう限界なわけだ。できればそろそろ勘弁してほしい、ってくらいにはな」

「そ、そんな……」

突然の告白に大井は青ざめて言葉を失った。
そうなるのも彼女の事情を鑑みれば無理もない話であった。


年がら年中"北上さん北上さん"と口やかましいイメージを持たれがちな彼女だが、実のところそれほどでもなく、普段他の艦娘達とはちゃんと女子らしい会話をしている。
だが、ただ一つ例外として、提督が相手のときは話題が北上一色になってしまうのである。これも仕方のないことで、彼女が提督と話せる共通の話題がそもそもこれしかないのだ。

他の娘達にするようなプライベートな話はどうにも気恥ずかしくなってしまう。かといって、顔を合わせる度に仕事や戦闘についての話を切り出すような無粋な女とも思われたくない――それでも、何か話しかけたい。
その結果、溺愛する北上についての話題をふっかけるようになってしまった。

それが不器用な彼女の、気になる異性への遠回りな接し方なのであった。

それだけに、提督の告白は尋常ではないショックを彼女に与えた。自分が楽しげに話していた内容が相手を――しかもよりによって提督を不快な気分にさせていたのだから。


これがもし、「もうさーいい加減にしてくんない?」といつもの呆れ顔で提督が面倒くさげに言ったのなら、大井も「私がいつどこで誰に北上さんの話をしようが勝手でしょ?」ぐらい言い返せたのだろう。

しかし、壁ドンされ、互いの息がかかりそうな至近距離で――まるで痛みをこらえるかのような切なげな表情を浮かべる提督を前に、そんな強気に出られるほど今の彼女は強くはなかった。

「で、でもっ、どうして……?」

「どうして? ……おいおい、野暮なことを聞くなよ」

そこで提督は改めてジッと大井の目を見つめた。そして、その視線に身を縮こまらせる大井にそっと告げる。


「気になる相手が、自分のことをそっちのけで別の誰かのことを嬉々として話しているのを聞かされるのがどんな気分か――お前なら分かるだろう?」



「え……あの、それ……って…………ッ~~~~!?」

大井の頭がそれを咀嚼し、何とか飲み込んだ時、彼女の顔は音が聞こえてきそうなほど紅潮した。
彼女にとって、それはまさに打ち上げられたロケットのように予想の成層圏の遥か上を行く答えだったのだ。

「俺はこんなにお前のことを想っているのに、お前ときたら北上北上北上……ああ、まったく。今もそうだが、嫉妬でどうにかなってしまいそうだった」

「え、え、えっ……そ、そんなっ……えええっ!?」

先程とはベクトルが真逆で衝撃度も段違いなその告白に、真っ赤に上気していく顔を両手で覆い、平静さを手放してしまう大井。当然提督のことを真正面でまともに見られるわけもなく、顔も俯かせてしまう。

その混乱具合は、さながら打ち上げられたロケットの計器が全てメーターを振り切ってピーピー警告音を発しているかのよう。しかもそのロケットはまっすぐ太陽に向かって飛んでいくのである。最早爆散待ったなし。


しかし、そう素直に事切れさせてくれるほど、今日の提督は厳(やさ)しくはなかった。

「そういうわけで、だ。今一度言うが、早くそこの北上を連れて帰ってくれ。俺の理性が限界を超える前にな。さもないと――」

そこで提督は顔を覆っている大井の手を優しく丁寧に剥がし、彼女の目を覗き込むように見つめて――



「北上の前で、お前にありったけの情欲をぶつけることになるからな」



――そう言って、妖しく微笑むのであった。


「――――――」

それを前に大井は頭が真っ白になり――








「――で、あの二人はどうしてああなってんだ?」

ベッドの上で灰になって転がっている北上と、同じくベッドの上で布団を被って塞ぎ込んでいる大井の姿を目にして、木曽はそう尋ねずにはいられなかった。

「北上は提督に挑んで返り討ちにあったにゃ」

「提督に? ……ああ、そういや何か話題になってたな」

「で、大井は北上を連れ戻しにいって巻き込まれたクマ」

「まさに飛んで火にいる夏の虫にゃ」

「それ使い方間違ってないクマ?」

「じゃあミイラ取りがミイラにゃ?」

「そんなところクマ」

「姉さん……」


相も変わらずマイペースなやり取りを繰り広げる姉二人に溜め息をこぼしつつも、どうやら緊急性はないことを木曽は察した。それでもただならぬ事になっているのは見て取れたのだが。

「まったく、提督にも困ったもんだクマ。何があったか知らないけど、これじゃこの二人は今日一日使い物にならないクマ」

「まー多摩達今日は非番だからあまり困らないけどにゃー。二人とも何だか満更でもない感じだし、ほっといてもいいんじゃにゃい?」

「しっかしあの提督がなぁ……ふぅーん…………よし」

そこで静かに頷いて、唐突に木曽は踵を反した。

「ん? 木曽、どこ行くクマ?」

「提督のとこだ。どんなものか、ちょっと挑んでやろうと思ってな」

「ちょ、もうっ、木曽までそんな馬鹿なこと言うクマ!?」

「んー、もしかして二人の敵討ちに行くつもりなのかにゃ?」

「それも少しはあるけどよ。ほら、天龍の奴も提督にやられたって言うじゃないか。だから俺がいっちょ提督を負かしてやろうと思って」



「クマ? じゃあ天龍の敵討ちクマ?」

「違う違う。なんで俺があいつの敵を討たなきゃならないのさ」

「じゃあ何なんだにゃ」

「決まってる。あいつを負かした提督に俺が勝てば、それはつまり俺があいつより優れている証明になる。なら、挑まないわけにはいかないだろ?」

「にゃー……そういうこと……」

「まったく、この娘はいつもこうクマ……」

ようするに、いつもの意地の張り合いである。
そんな末っ子のやる気の発露のしょうもない理由に片や納得、片や嘆息といった反応を見せた。

しかしそんな姉達の反応もどこ吹く風といったように木曽は肩をすくめ、再び踵を反してドアに手をかける。


「じゃ、そういうことで。俺はいくぜ」

「待つクマ、木曽」

「何だよ球磨姉さん。言っとくが止めても無駄だぜ?」

「そうじゃないクマ。球磨も一緒に行くクマ」

「はあ? 何でさ?」

「木曽だけだと不安だからだクマ。それに、やっぱり球磨も提督に一言物申さないと気が済まないクマ」

「そーかい。まあ好きにしたらいいさ」

「そうするクマ」

「じゃあ多摩は留守番してるにゃ。二人とも頑張ってにゃー」

「何言ってるクマ。多摩も行くクマ」

「え"。なんで?」


「北上と大井の二人では提督に敵わなかったクマ。だったら球磨達は三人で行くクマ。戦力は実に1.5倍――いや、球磨の長女パワー補正で二倍クマ」

「え~……これそういう問題かにゃ?」

「いいから来るクマ。球磨達は一蓮托生。団体行動は乱しちゃ駄目クマ!」

「う~わかったわかったにゃ。もう、メンドくさいにゃー…………あ、でも提督のいる執務室でお昼寝するのもたまには悪くない、かにゃ?」

「何でもいいから早く行こうぜ。早くしないと昼食時になっちまう」

そうしてなんやかんやと、彼女らは部屋を後にした。





数十分後。

球磨は押し入れに引きこもってかなり早めの冬眠を迎え、多摩は引っ越したばかりの猫のように部屋の隅で震えながら丸くなり、木曽は自慢のマントをすっぽり被って物言わぬ迷彩柄の置物となり果てた。

こうしてこの日、球磨型五姉妹はせっかくの休日のほとんどを部屋で引きこもって過ごすことになった。

今回はここまで

暑い上に台風とか勘弁してほしいね

生存報告をば
現在欧州に出撃中です
懲りずに待っていただければ幸いです

お待たせ待たせてただいま参上

それでは行きましょう防空駆逐艦秋月編前編




「よう、秋月。昼メシ終わったところか?」

「ふぇ?――あ……し、司令!?」

時計の短針と長針が頂点を少し回った頃。昼の賑わいを見せる鎮守府の食堂の一角。
いつもの質素な昼食を食べ終え、食後のお茶でほっと息をついた瞬間。背後から呼びかけてきた声の主に秋月は少しばかり驚いてしまった。

そして彼女はわたわたと立ち上がり、綺麗な姿勢でビシィッと見事な敬礼をしてみせた。

「し、失礼いたしましたっ。何か御用でしょうかっ?」

「そんな堅苦しくしなくていい。別に用があったわけじゃないから」

「そ、そうでしたか……」

しずしずと敬礼を解いて、秋月は改めて提督をまじまじと見つめた。


(わぁ……本当だ。みんなが話してた通り、今日の司令、なんだかいつもより…………か、カッコよく見えます)

微笑む提督をほけー、っと眺めていた秋月の頬にほんのりと赤みが混じる。

ちなみに、そんな彼女と提督を遠目に見る周囲の艦娘達も似たような反応を見せていた。既に被害(?)にあった者に至っては、今にも腰が砕けそうになっている始末である。

「そういえば、お前一人だけか? いつもは照月と初月が一緒だった気がするんだが」

「あ、はい。二人も一緒です。ただ、今は……その……」

「ん? どうした?」

何故か言葉が尻すぼみになり、目を心なしか泳がせる秋月。どう見てもやましい何かを隠しているような様子であった。


しかしそこは生真面目で知られる秋月型の長女。提督に隠し事などあってはならぬと、モジモジしつつも顔を上げる。

「あの……二人は……デ、デザートを取りにいってます……」

「デザート?」

「はい……その、この前の輸送護衛任務で私が活躍したから、そのご褒美を――って、照月が言い出して……。別に私、MVPを取ったわけでもないのに大げさだって言ったのですけど……」

「なるほど。そういうことか。お前たちらしいな」

どんなやましいことを懺悔しだすのかと思いきや、なんとも微笑ましい姉妹のやり取りの報告であった。


質素倹約を旨とする秋月にとって、自分からデザートなんて嗜好品を頼むなんてことはありえないことであった。しかし妹達の厚意を無下にもできない。けれども自分にはやはり分不相応なのでは――と、そんな平和な葛藤を抱いていたところなのだろう。

「何と言いますか……すいません。お恥ずかしいところをお見せしてしまって……」

「謝るようなことじゃないだろう。いいじゃないかデザートぐらい。食べようが食べまいがどうせタダなんだから」

「それは……確かに、そうなんですけど」

「大体、俺は常日頃思っていたんだ。お前たちの食事は遠慮が過ぎると。小食なら別にいいが、そうでないならもっと良いものたくさん食べてもいいんだぞ?」

鎮守府の食堂のメニューは基本全品無料であり、艦娘達は一日三食好きなものを好きなだけ食べられるようになっている。勿論、任務に支障が出ない程度だったり、腹部に余計なバルジができない程度だったりと各々量は抑えるのだが。


そんな中で、秋月型姉妹――特に長女の秋月の食事の質素さは仲間内でも有名であった。
鳳翔や間宮、彼女の僚艦らが気を遣って今の提督と同じことを尋ねると、彼女は決まってこう返すのである。

「でも、私なんかがあんな豪華な食事を頂くなんて、なんだか恐れ多くて……」

豪華も何も一般的な食堂のメニューなので大して豪勢なわけでもないのだが、秋月にはそうは見えなかったようだった。

「目立った活躍もこれといってお見せできてるわけでもありませんし……やっぱり、私には……」

「ハァ……まったく、お前は」


そんな秋月に溜め息をついて、提督はそっと両手を彼女の肩にのせ、それからジッと彼女の目を見つめた。

「あ、あの……し、司令?――」

「いいか秋月、よく聞け?」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「俺はな、派手な撃ち合いで敵を撃破することや大規模作戦で戦果を挙げることだけが"活躍する"ことだとは思っていない。輸送任務や護衛任務を無事に全うして帰ってくることだって、俺にとっては活躍してきたと思えることなんだ。それこそ、この前のお前の対空戦闘も大したものだと俺だって思ったぞ」

「ぁぅ……司令……」


「大体、活躍しないと美味い食事ができないなんて言ったら、赤城なんかはどうなる? あいつは一週間出撃がなかった時でさえとんでもない量の飯を食っていたぞ。あれの十分の一ぐらいはお前に見習ってほしいくらいだ」

ちなみにその赤城はというと、少し離れた席で先程提督の通り魔に会い、今現在大好きな超盛りカレーを前に轟沈寸前の状態で突っ伏している。
助けてくれる相方も、雷撃でトドメを刺してくれる随伴艦も、今はいない。
そうして煙を吹きながら、彼女の一日は過ぎていくのだろう。

「どんな任務であれ、お前たちは命をかけて臨んでくれている。そしてその対価として十分な給料と衣食住を与えている。それを遠慮されたら、俺はどうやってお前たちに報いたらいいか分からなくなるよ」

「司令……」


「お前も照月も初月も、それに見合う以上の働きをしてくれているのは俺が保証する。だからな、秋月。遠慮なんてしなくていい。ずっと今のままでもいいと心の底から思っているなら、これ以上は言わないが……どうだ?」

「…………」

そう尋ねられて、間近にいる提督にドキドキしつつも秋月は想いを馳せる。

見るからに豪勢な(秋月比)あれやこれやを他の艦娘達が美味しそうに食べているのを羨ましく思ったことは一度や二度ではない。しかしその度に、でも自分ごときにはとても――と、我慢してきた。

そんな自分に倣ってか、妹達も同じように振る舞うようになった。きっとあの二人も周りのそれを羨ましく思っていたに違いないだろうに、それをちっとも表に出さず。
これ以上、こんな自分の意地に妹達を付き合わせていいものか?



それに、他でもない提督が言ってくれたのだ。
遠慮なんてしなくていい。お前達は十分に働いてくれている――と。そこまで言わせて、それでもなお遠慮を貫くのはむしろ失礼というもの。

妹達や提督のためにも、自分をもっと評価してあげてもいいのではないか。
そう彼女は考え至ったのであった。

「そう、ですね……わかりました。この秋月、もう遠慮はいたしません! 照月や初月と一緒に毎日日替わり定食を食べてみせます! デ、デザートだって毎日…………み、三日に一回くらいは、頼んでみます」

「ハハハ、最初はそのくらいでいいさ。……でもまあ、そうだな。毎日デザートを食べられるくらい遠慮がなくなったら、俺がもっと良いものをご馳走しようじゃないか。勿論、照月と初月も一緒にな」


「そ、そんなっ。恐れ多いです……!」

「もう遠慮はしないんだろ? それとも、こういうのは嫌だったか?」

「うぅぅ……そ、そんなの……」

嫌なわけがない。むしろ喜んでと言いたい。
しかも何故か妙に色っぽい今の提督に微笑まれながら言われようものなら――もう答えようは一つしかなかった。

「…………ひゃい。そ、そのときは是非ともお願いしましゅ」

「ああ。楽しみにするといい」

感極まって呂律の怪しい秋月とニコニコと笑みを絶やさない提督。
そんな二人を周囲の艦娘達は微笑ましいやら羨ましいやらといった面持ちで眺めていた。

とりあえずそれは、比較的平和な光景であった。


――このまま終わっていれば、どんなに良かったことだろうか。


今回はここまで

ちなみに赤城さんは「いっぱい食べる君が好き」だの「俺はお前が食べたい」とか言われて大破させられた模様

おまた

秋月編その二です



「しかし偉そうに色々言いはしたが、今でも十分楽しげに食事ができているようだな。俺がわざわざ口出しするまでもなかったか」

「いえ、そんなことは。でもそうですね。妹達や他の皆さんとご飯を頂くのは楽しいです。ご飯も美味しいですし」

「そうだろうな。多分お前、頬に米粒ついてても気付かないくらい夢中になってたんだろうな」

「もう、司令っ。いくらなんでもそんなになるまで夢中になったりはしませんよ」

「そうか? まさに今お前の頬に米粒がついているが」

「ええっ!? そんなっ、えっ、えっ……!?」

カァっと顔を赤らめる秋月。
すぐさま米粒を取ろうと考えるも、自分のどちらの頬のどこらへんにそれが付着しているのかが分からないため、両手を顔の近くで慌てさせていた。
顔にお弁当をつけたみっともない状態を、よりによって提督に目の前で見られてしまったことによる羞恥で冷静な対処が即座にできなかったのだろう。


しかしそれもせいぜい二・三秒のこと。
秋月はとりあえず右手を自分の右頬に向かわせた。幸いなことに米粒はちょうどその手の向かう先に付着している。

秋月の手が頬に触れる――しかしまさにその寸前で、提督の手が彼女の手を掴み止めた。

「えっ、司れ――」

そして秋月が呆ける間もなく、提督は彼女に素早く近づいて――



――彼女の右頬に、そっと口づけた。




この食堂において、本日何度目になるか分からない戦慄が秋月を爆心として静かに爆発し、極低温を帯びた爆風が周囲をたちまち凍り付かせた。

「…………ぇ?」

当然、爆心である秋月はもっとひどい。あまりの出来事に思考回路は凍結し、正常に頭が回らなくなっていく。
それはある種の現実逃避。メルトダウンを防ぐための無意識でのスクラム状態。もし凍結しなければ頭がそれはもう派手に吹っ飛んでしまったことだろう。

だがそんな秋月の安全制御など知ったことではないとばかりに、ほんのわずかな粘着音を残して米粒を平らげ、彼女から距離をとって提督は言うのである。


「ごちそうさま。確かに、いい味だ」



「ひゃわあああぁぁぁ!? し、ししししししれいっ、ななな何を!?」

「ん? ああ、美味しそうだったから。つい、な」

「お、おおおおいしそうってなんですかぁ!?」

案の定、頭が沸騰して吹っ飛んだ秋月は右頬を押さえながら後ずさる。
赤熱した顔で、涙目で、口をパクパクさせて、体を小刻みに震わせる今の彼女をこれ以上つつけば色々な意味で再起不能になってしまうのは誰の目から見ても明らかだった。

しかし。やはりというべきか、今日の提督はその辺りをまるで頓着してくれないのである。

「まったく、しっかりしているようでこういうところは抜けてて相変わらず可愛いなお前は。そんなお前に敢えて一つ物申すなら――」

臨界間近で震える秋月に提督が再び接近する。
あまりにも自然に近づいてきたため、秋月の反応が若干遅れてしまう。


そんな彼女の唇に、提督は自分の人差し指をそっと当てた。



「今度お弁当をくっつける時は、"ここ"にくっつけてほしいな。きっとこっちの方がもっと"美味しそう"だから――な?」



「――――――はぅぁ」

そんなことをすればどんな目にあうのか――それを想像してしまったその瞬間、辛うじて保っていた秋月の意識は融解してしまった。









「お待たせー秋月姉。デザート、美味しそうなの選んできたよ!」

「遅くなってすまない姉さん。照月姉さんが選ぶのに時間をかけてしまってな」

「もー初月ってば、そーいうこと言わないでいいのっ。いいじゃない、秋月姉に一番美味しいデザート食べてほしかったんだから」

「まあ気持ちは分かるが…………ん? 秋月姉さん、どうしたんだ?」

「え? あ、ホントだ。秋月ね――ど、どうしたの!?」

そこでようやく照月と初月の二人は姉の様子がどこかおかしいことに気がついた。


テーブルに突っ伏し、微動だにしない秋月。
彼女の頭部から漏れ出る熱が蒸気と陽炎となって沸き立っている。どう見ても正常ではない。

こころなしか周囲も同情するやら冥福を祈るやら羨ましいやらといった視線を向けている。何かが起こったのは明白である。

「だ、大丈夫!? 秋月姉って、熱ぅっ!?」

「こ、これは、尋常じゃない熱気だ……! 姉さん、姉さんっ、しっかりしてくれ! 一体何があったんだ!?」

姉から発せられる熱気を避けつつ、遠巻きに初月が呼びかけた。

すると、秋月が反応を示す。
ギギギと体を持ち上げ、彼女は妹二人に焦点の合っていない目を向けた。


「ぁ……照月、初月……おか、えり……なさい」

「あ、うん。ただいま…………じゃなくてっ! 一体どうしたの秋月姉!? そんなになって……」

「誰かに何かされたのか?」

「…………あのね、二人とも。私ね……」

顔を赤くしたまま、ぼそぼそと。まるで懺悔でもするかのように秋月は告げる。


「私……大変なご褒美を一足先にいただいてしまって……あの、その…………ごめんなさいっ」


「「…………はい?」」

再び机に突っ伏して人型ストーブとなり果てた姉に、照月と初月は首を傾げることしかできなかった。





後日、食堂で提督の姿が見える度に口元に米粒をくっつけるようになった姉に、妹二人はさらに首を傾げることになったという。

今回はここまで

やっぱり秋月型は最高だぜ……!

申し訳ない
こちらは今しばらくかかります

次回はあの喧しい軽巡編の予定

年末は忙しい。これマメな
そういうわけで少しだけ投下。許されよ



"コンコンコン"と、執務室にノックの音が響いた。

「テートクー。川内、入るよー?」

「ん? ああ、入――」

「お邪魔しまーすっ。や、提督! 元気してる?」

提督の入出許可に食い気味で扉を開け放ち、元気ハツラツといった笑顔で軽巡・川内がやって来た。
既に正午を過ぎてしばらく経ったからだろうか、今の彼女のテンションは素のそれよりも高めであるようだ。あと三・四時間もすれば毎晩お騒がせの夜戦バカが完成するだろう。

「ハァ……まったく、ノックするだけまだマシか。それで、何の用だ? 別に呼んでないぞ」

「えっとねー実はさー…………あれ?」

目を細めてニコニコとしていた川内だったが、提督の顔を見るなり首を傾げた。きっと頭の上にはクエスチョンマークが浮いていることだろう。


「あれ、あれ? 私何しにきたんだっけ……?」

「はあ? 何だそれ」

「おっかしーなぁ、部屋入るまでは覚えてたんだけど……」

「俺はてっきり夜戦がどうのこうのと言いに来たんだと思ったが」

「夜戦…………ああっ! それだぁ!」

我が意を得たりとばかりに顔を輝かせる川内。きっと頭の上にエクスクラメーションマークが飛び出したに違いないだろう。

「提督っ、由々しき事態なんだよ!」

「ああ。何だ?」

カツカツと執務机に近づき、両手をついて彼女は真剣な眼差しで提督を見つめ――

「実は私、今月に入って…………まだ二回しか夜戦してないんだよ!」

――何を言うかと思えば、まあ、いつもの彼女のそれだった。


「…………今月に入ってまだ六日なんだが」

「"まだ"じゃないよ! "もう"だよ! せめて今の三倍はやってないと!」

「それはもう一日一回夜戦してる計算になるな」

「いいじゃんやろうよ一日一回! 何が問題なのさ!?」

「問題も何も、お前の練度じゃ夜戦に行く前に大抵決着をつけてしまうじゃないか」

何を隠そう彼女の練度は既にカンストしているのである。

「クッ……強すぎるが故の苦悩……っ! じゃ、じゃあさ、練度が低い駆逐達の教導として私が旗艦を務めるってのは――」

「夜戦になった途端、最高にハイになったお前が一人で敵艦を全部片づけて全く教導にならない光景しか予想できない」

というより、既に何回かそういうことをしでかしている彼女である。


「そ、そんなことはないと思うけどなー……」

「そんなことあるんだよお前の場合。教導は香取と鹿島に任せろ。そして一日一回夜戦は諦めろ。大規模作戦の時に好きなだけさせてやるから」

「いーやーだー! それまでに夜戦の腕が鈍っちゃうよーっ!」

「駄々をこねるな長女。大体、これで鈍るほど柔な腕じゃないだろう」

「う"~~~~……」

返す言葉もなく、執務机に噛り付くように突っ伏して不満まみれの潤んだ上目遣いで川内は提督を睨んだ。
彼女を尊敬する一部の駆逐艦達が幼さの垣間見えるこんな彼女の姿を見ればさぞや驚くことだろう。もっとも、今更これで驚くのは新入りくらいなものなのだが。

とにもかくにも、自分の要望が通りそうにないことを察した川内は不平不満のオーラをまき散らしながら立ちあがった。

「提督のいけずっ! もういいよ、よくわかった! 提督は私に夜戦させたくないんでしょ!? フンだ。このケチ」

「それは違うぞ川内」

「何が違うってのさ? ケチなところ?」

「それもだが。俺が言いたいのは、別に俺はお前に夜戦をさせたくないわけじゃないってことだ」

今宵はここまで
それではメリークリスマス&よいお年を

皆様、あけましておめでとうございます
今年も私の馬鹿話をよろしくお願いします


そう言って、提督はおもむろに机上のパソコンのスリープを解除してマウスを操作し始めた。

「? 何してんの?」

「確か…………これだな。ん」

「?」

手招きされ、怪訝そうな顔のまま川内は執務机を周りこんで提督の側までやって来た。
そして提督に促されるままパソコンの画面を覗き込んだ。

「何……? 動画? あ、これ戦闘記録のやつか」

画面に映し出された戦闘映像を見て、川内はそう呟いた。

この鎮守府ではより詳細な前線の戦闘情報を得るために、出撃する艦隊の旗艦と二番艦の艦娘に小型カメラを装着させる試みがなされている。
直接前線に赴けない提督に代わって艦娘達が戦闘状況を撮影し、撮った映像を後の作戦立案のための材料や艦娘達の訓練資料等で使うのである。

ちなみに、出来の良い映像を撮ってきた者には間宮券が贈呈される。撮影慣れしている青葉の収入源の一つである。


「そうだ。何の映像か分かるか?」

「んーと……暗視撮影みたいだから夜戦の映像だよね? でもこれ誰の……って、お?」

しばらく川内が画面を見ていると、映像の中で戦闘が始まった。
どうやら単縦陣の二番艦視点の映像らしく、旗艦と思しき先頭の艦娘が
敵艦隊に向かって単身突っ込んでいくのが見て取れた。
そこでようやく彼女はこれが誰を撮ったものなのかに気づいた。

「これ私じゃんか。ほうほう…………おーよく撮れてるねー。これ誰が撮ったやつ?」

「萩風だ。確かあいつがここに来て三度目の夜間戦闘の時の映像だったかな」

「あーあの時のか。そういや私も一週間ぶりくらいの夜戦ではしゃいでた気がするなー」

「実際その通りだったさ。半ば無理矢理夜戦に萩風達を連れ出した挙句、それを放って一人で敵に突貫していく程度にははしゃいでいたようだな」

「うぐっ……」


「で。まだ慣れてない上に怖かっただろうに、放置された萩風はせめてものお役に立てればと律儀に綺麗な映像を残してくれたわけだ」

そんな萩風にはこの時、労いの意を込めて間宮券が三枚贈呈された。

「うぅ……その件は神通に散々怒られたから反省してるってば。だからもういいでしょっ。大体なんで今これ見せたのさ? さっき提督が言ってたことと関係あんの?」

「ああ。大いに関係あるとも」

動画を一時停止して、座ったまま提督が川内へと向き直る。
真っ直ぐに見つめてくるその目に何故かドキリとしつつ、果たしてどんな言葉を投げつけられるのかと川内は身構えた。

すると――


「川内。俺はな、お前が夜戦してる姿が一番好きなんだ」


「…………へ?」

――と、彼女の予想を超越した言葉が飛んできた。

今回はここまで
相変わらず遅くて申し訳ない

シャァオラァ投下だオラァ!


「……え? ちょ、え? え!?」

思いがけない突然の告白に、川内の頭がパニックを起こす。それだけ提督の言葉が普段のそれからかけ離れたものだったのだ。
例えるならば、艦載機を全て落とされたヲ級がいきなり魚雷を投げ出すくらいのありえなさ、だろうか。
否、そちらの方がまだ可能性があるというもの。

そんなこんなで目を白黒させて赤面する川内に微笑みながら、提督はさらに畳みかけるかのように口を開く。

「子供みたいにはしゃいでいたくせに、いざ戦闘となると凛とした顔つきになる。最初はそのギャップに心惹かれたものさ。もちろんそれだけじゃない。まるで踊っているみたいに攻撃を躱す可憐な姿も、魚雷の一刺しで次々と敵を葬っていくクールな姿も、戦闘が終わって火照った体で息をつく色気のある姿も、とても魅力的だと思う」

「あ、あ……ぁ、ぁぅ……」

「いつもならそんなお前の姿は演習か荒い記録映像でしか見ることができなかったんだが、萩風のこれは本当によく撮れてたからな。おかげでいつでもお前が夜戦しているところが綺麗な映像で拝めるというわけだ。正直に白状するがこの動画、俺のお気に入りの一つでな。暇なときにたまに見返したりするんだ。職権濫用と怒ってくれるなよ?」

「………………」


「とまあ、そういうわけだ。俺は別にお前に夜戦をさせたくないわけじゃない。むしろ夜戦してる姿をもっと見せて欲しいというのが分かってもらえたか? ただどうしてもタイミングや出撃メンバーの練度の関係で毎回はそうさせてやれない。それも分かってもらえるか?」

「…………はぃ」

消え入りそうなその一言しか、川内の返せる言葉はなかった。
加えて、嬉し恥ずかしでニヤける口元をヒクつかせながら俯くことしか彼女にはできなかった。

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいよ今日の提督っ! 何っ!? 何なのさこれ!? どうしちゃったのさ提督!?)

混乱のあまり目と頭をグルグルさせる川内。事ここに至って彼女はようやく今日の提督がいかに危険であるかを思い知ったのであった。

同時に、主に夜戦時に発揮される彼女の優れた洞察力が告げていた。これ以上ここに居てはいけない、と。


(と、とにかくっ、もう撤退しないと――)

しかし川内がその判断を下すには時は既に遅かった。
撤退するのであれば、執務室に入って提督の顔を見た瞬間、"夜戦のことを忘れてしまった"という異常現象が起きたその時点で彼女はそうするべきだったのだ。

そう、彼女は入室した時点で既にチェックをかけられていたのだ。そこで不利を察して回れ右で部屋をあとにすれば、その後の彼女の平穏は多少なりとも約束されていただろう。
しかしそれがなされなかった今、チェックメイトという名の提督の猛威が振るわれることとなる。

「――なんて、言っておいてあれだが、お前に夜戦をさせたくないってのも実は少しだけあったりするんだよな」

「え?」

案の定提督のその一言に、後退りを始めていた川内の足は床に縫い止められてしまった。


「え、えっと。それどういう……」

「夜戦ともなると、どうしても昼の戦闘と比べると被害が多くなる。出撃した艦が中大破して帰ってくるなんてしょっちゅうだ。それ自体は別にいい。俺からすれば労いはあっても、文句なんて微塵もないからな。ただお前の場合は、中大破して帰って来られると少し困るんだよ。少なくとも俺にとっては。それが何故か分かるか?」

「え、何故って言われても……うーん……」

(修理資材が高くつくとか? いや、軽巡の資材消費なんて大したことないだろうし。神通が心配して泣きついてくるから、ってのは流石にないか。あいつそこらへんは私よりシビアだし。となると……)

そこでふと、川内の脳裏をいつか見かけたとある艦娘と提督のやり取りがよぎった。


『もー提督ってば、鈴谷のこと好きすぎなのはわかるけどさー。小破したくらいで心配し過ぎじゃなーい? あ、もしかして服が破けてチラ見えしちゃう鈴谷の肌にドキドキしちゃうのかな~?』

『フッ、寝言は寝て言え馬鹿女』

『あー! 鼻で笑ったなー! てか馬鹿女ってヒドくない!?』



(…………ま、まさかねー)

まさか自分のことが好きで、傷ついてあられもない姿で帰ってくるのが見てられないから――なんて、どこぞの鎮守府の提督のようなダダ甘な理由ではなかろうなと、川内は考えたがすぐに否定する。目の前にいるこの男はそんなキャラではないのだから、と。

だが、その予想の方向性は決して間違いではなかった。

「………うん。わかんない、かな」

「そうか。では教えよう。川内――」

そこで提督はおもむろに席を立ち、川内を見下ろす形で言った。


「夜戦を終えて、被弾した姿のお前を見ると――そのまま押し倒してしまいたくなる衝動に駆られるのを抑えるのが大変なんだよ。まあ、そういうことだ」


「――――――」

そのトンデモ砲撃に、またもや川内の思考回路は焼き切れてしまった。

あい。今回はここまで
みんなもイベントガンバテネ

イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!


「あ、勿論性的な意味でな。少し倒錯気味だとは自分でも重々承知の上で言うが」

そう付け加える提督に、彼女の身体に遅れてようやく火が点いた。

「ちょ、ちょっ、ええええぇぇぇぇっ!? な、何言ってんのさっ!?」

「だってしょうがないじゃないか。きっとまた見惚れて心奪われるような夜戦をしてきたんだろうなって想像していたら、その当の本人が服が破れて露出多めの扇情的な姿で目の前に来たらそういう気持ちにもなるだろ」

そう、否定こそされたが彼女の予想していた方向性は間違いではなかったのだ。ただその度合いがややぶっ飛び気味だったというだけのこと。
例えるならば、倒したはずのイ級の体の中から防空棲姫が現れて第二ラウンドが始まるくらいのぶっ飛び具合といったところか。


「いやいやいやいやいや! 待ってちょっと待ってホント待ってっ!?」

「それにお前はお前で、帰投するやいなや入渠もしないでひどい格好のまま俺のところに報告に来るのに何の躊躇いもないときた。本当に勘弁してほしい。興奮が冷めきらずにテンションが高めなのはわかるが、ちゃんと入渠してから来いといつも言っているだろう」

「いやそれはっ、そう、だけど……」

「まったく。事が起こってからじゃ遅いんだからな。俺だって男なんだから、いつまでも我慢できるわけじゃないんだ。"夜戦"の連戦だなんて、お前でも流石に嫌だろ?」

「やせっ!? ~~~~ッ!?」

その"夜戦"が何の隠喩なのか、そっち方面には疎い川内でもそれだけはよく知っていた。


耳年増な駆逐達や、知識豊富と見せかけて実はそうでもない戦艦や空母達の会話を小耳にはさんでいたおかげで、何となくそれがそういうものなのだろうと察しはついていたものの、相手があの提督とあっては、自分みたいな女じゃまず関係のない話だと彼女は思っていた。

あるとするなら、それこそ妹の神通みたいな女の子の方がまだ可能性があるのだろうなと割り切っていた。
ほんの少しばかりの心寂しさを残しつつ。


「……でもまあ、そうだな――」


そんな少女だったものだから、川内は――




「そっちの"夜戦"でもお前がいいと言うなら――――俺でよければ喜んで相手になるぞ? 勿論毎日でも」



――他に例えようがない凄まじい衝撃となったその言葉に、派手に胸を撃ち貫かれてしまったのであった。


その時、彼女の胸に残ったものは――





その日から夜戦バカ川内は随分としおらしくなり、鎮守府の夜は比較的静かになった。
二週間程ではあったが。

そして、相変わらず夜戦帰投後は入渠せずに報告に向かってしまうため、提督と神通は引き続き頭を抱えることになった。

今宵はここまで
川内編終了。あと一人分攻略したら解決編です。

さあさいこうかツンデレ対空番長編




「ゲッ、提督……!」

演習に向かう道すがら、廊下でばったり提督に出くわすや否や重巡・摩耶はそんな声を上げた。

「"ゲッ"とは随分な挨拶だな摩耶。今更礼儀云々にとやかく言うつもりはないが、流石にそれはどうかと思うぞ?」

「う、うるせーよ。今日のお前にする挨拶なんてこれで十分だっての!」

「今日の? 俺何かしたか?」

「自覚なしかよ!? 最悪だな!」


心底わからないといった様子で首を傾げる提督に、摩耶も心底呆れ果てていた。だがそれと同時に――

(な、なんだよこれぇ~。ホントに今日の提督ヤベーじゃんかよぉ~! 何かいつもより――いやいやいやいやいつもがどうってワケじゃねーけどな!?)

――と、提督を目の当たりにして高ぶる動悸に対する誰にするわけでもない言い訳を内心で繰り広げながら、赤みを帯びた顔で彼女は提督を睨みつけていたのであった。

既に彼女を除く高雄型姉妹は提督によって撃沈済み。残った彼女はその惨状を前に提督への憤りを覚えた。
かといって自分が突貫しても間違いなく返り討ちに遭うことは目に見えていたので、なるべく提督に出くわさないよう気を付けつつも、しかし心のどこかで何かしらの期待を抱きながら提督の姿を目で探していたりする複雑な乙女心を拗らせていた彼女であった。


「ところで、お前はこれから何するところだったんだ?」

「お、おうっ。ア、アタシか? アタシはほら、アレだ。駆逐の連中と一緒に防空演習行くとこだぜ」

「防空演習か。その駆逐の連中ってのは?」

「磯風と浜風。あと皐月のやつにもちぃっとばかし手伝ってもらうつもり」

「ほう……なるほどな。フフッ」

「な、なんだよ。何か文句あっかよ?」

「いーや別に。何でもないさ。邪魔したな。演習頑張ってくれ」

「え? あ、ちょ、待てよおいっ」


傍らを通り過ぎて行こうとする提督に、摩耶は思わず声をかけていた。

「ん? 何だ?」

「えっと、いや、その…………やっぱなんでもねぇ」

「そうか」

そう短く返して、提督は再び歩き去っていく。
その背中を恨めしげに睨んでから、摩耶も踵を反す。

「……ンだよ、アタシには何もナシかよ」

そんなことを小さくぼやいて、盛大に溜め息をつく摩耶。


提督が今日一日にしでかした蛮行の数々から、自分も何やらとんでもないことをされるのではと警戒(きたい)していた彼女であったが、実際の提督はこの通り、彼女に対して淡白であった。

(どーせアタシみてーな女にゃそんな気も起きねーってこったろ。ケッ)

ただいま絶賛拗らせ系女子である摩耶。これには内心毒づかずにはいられなかった。しかしある意味いつも通りの提督らしい反応なので、諦めと切り替えも早い。

そういうわけで、さっさと演習に向かおうと彼女も歩き出――


「その"何も"というのはこういうことか、摩耶?」


――そうとしたら、突然背後から思い切り抱きしめられてしまった。

今日はここまで
番長はチョロ可愛い

許されよ。大分時間がかかりそうでございます
食材と海防艦でも掘りながらお待ちくださいな


まゆ「プロデューサーのお仕事の人は大変ですねぇ、スーツ着て」
まゆ「プロデューサーのお仕事の人は大変ですねぇ、スーツ着て」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514190792/)

13:名無しNIPPER[sage]
2017/12/25(月) 18:39:26.85 ID:LqU3LnMB0
前作でSSがつまんないといぅ~コメントがありました。 いやあぁ~…ほならね? 自分が作ってみろって話でしょ?
ソッ私はそう言いたいでスッ…けどね? こっちゃあ…こっちはみんなを楽しませる為にィ動画のサムネを….作っている訳でして、やっぱり~…スゥゥ…
前はちょっとぉ、SSシンプルだったのですがぁ~、…いや…ちょとSSやっぱぁ~…凝ったSSが良いかなぁーと思ってまあSS作り始めた訳ですけどもぉ、
そんな~SSつまんないと言わ…とか言われたら、じゃあお前が作れって話でし…だと思いますけどもね?…ええ。
結構ォォ~~~…SSェ~作るのは大変だと思いますよSSの構成ぃ……から考えなアカンし…ヒハァァ…
つまんないと言うんだったら自分が作ってみ゛ろ゛っていう話でしょ?私はそう言いたい。…うん。

170: ◆PChhdNeYjM[sage]
2017/12/19(火) 16:55:35.42 ID:1hpLlIxwO
>>166
同じssを繰り返し投稿するのは手間がかかりますし本当ならやりたくないんですけどね
ここで更新していると貴方のような荒らしが湧きますから
曜「会いたいよ……千歌ちゃん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513119160/)

お待たせ
少しだけいくよぉ


「…………へ?」

一体、何が起きたのか。あまりの事態に摩耶の頭は処理が遅れてしまった。
しかし自分の体を包む温もりと耳元で囁かれた甘い言葉という事実が、じんわりと彼女に浸透していく。
そしてそれは彼女の頭に到達し、発火剤となった。

「~~ッッ!? ちょ、ま、いきなりなにしやがんだよお前ぇぇっ!?」

「いや、物欲しそうな声と背中をしていたから、つい」

「ハアァ!? し、してねーし! 物欲しそうになんかしてねーしっ!」

「おい、あまり暴れるなよ。ただでさえ頭のこれ(電探)のせいで抱きしめづらいんだから」

「知るかよっ。だったら離せばいいだろ!? バーカバーカ!」


「お前が嫌なら離すけど。どうする?」

「うぐっ……」

そう言われて、途端に大人しくなる摩耶であった。当然である。嫌なわけがなかったのだから。
かといってこのままだんまりを決め込むとそれを肯定したことになってしまう。提督にそう思われてしまうのは彼女的にはナシなので、ちゃんと抵抗しておきたいところ。
しかし身体を抱きしめられるこの感触には抗いがたく――と、茹だっている頭で悶々と彼女が葛藤していると、提督がおもむろに口を開く。

「ちなみに、俺としてはもう少しこのままでいたいのだが……」

「~~ッ!?」

「まあ、お前こういう馴れ馴れしいの好きじゃなかったな。悪い、離れるよ」

「…………ッ」


摩耶の身体から今まさに離れていこうとする提督の腕。彼女は思わずその袖口を掴み、それを引き留めていた。

(って、何してんだアタシィィッ!?)

「……えっと摩耶、どうした?」

突然袖を引かれて身動きがとれなくなった提督が首を傾げる。
それを背にして、摩耶も内心パニックを起こしていた。

(あわわわわわわ…………こ、こうなったら……ッ!)

「…………お、お前がそうしたいってんなら、もう少しくらい別に……いいぜ?」

「ん? どういう意味だ?」

「だからっ、アタシが我慢してやるから、もう少しこうしてていいつってんだよっ!」


ヤケクソであった。そして著しく冷静さを欠いていた。口にした数瞬後には“アタシ何言ってんだぁぁぁっ!?”と叫び出しそうになる程度にはやらかしてしまっていた。
もしさっきの言葉を誰かに聞かれようものなら、摩耶はすぐさま連装砲で自分の頭を吹き飛ばすか、比叡に料理を処方してもらいに走り去るかしなくてはならないところであっただろう。

とにもかくにも、今すぐ奇声をあげて逃げ去りたいのを必死にこらえ、摩耶は恐る恐る肩越しに提督を窺った。

「摩耶、お前……」

「うっ……」

目を丸くする提督を見て、ドン引かれたのではないのかと摩耶が思っていると――

「そうか。では遠慮なく」

――再びしっかりと抱き締められてしまったのであった。

今回ここまで
待っててねー摩耶ちゃん墜としたら解決編はすぐだかんねー……多分

さてさて、こちらも少しだけ


「ひうっ……~~ッ!?」

二度目の抱擁は突発的ではなかった分、摩耶も幾分かは気持ちに余裕が――あるわけがなかった。

先程の彼女は突然の事態に思考回路と神経が混乱し、頭が平常運転できていなかった。そのためせっかくのハグも身体はともかく、頭では十分に堪能できていなかったのである。
だからこそ、さっきより混乱の薄れた状態になった今の彼女は、提督に抱き締められる感触とそれに伴う幸福感を余すことなく味あわされることとなった。


(ああぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁぁ~~~~!?)

茹だっていた頭はさらに熱を上げ、そろそろ電探がぐにゃりと溶け出すのではないかと心配になるような有り様に。胸の動悸も激しくなり、まるで単装機銃が火を噴いているかのようなビートを刻んでいる。これ以上余計な刺激を与えると彼女の色々なものが取り返しのつかないことになりかねない。

だというのに、提督はスンスンと鼻を鳴らしてこんなことを言い出すのである。

「お前、意外といい匂いがするんだな」

「~~~~ッ!?」

声にならない悲鳴と共に、彼女の鼓動が単装から連装へと改修された。


「気を悪くしないで聞いてほしいんだが、お前にはこういう匂いのするイメージがあまりなかったものだから、少し驚いた。でもまあ…………うん、そうだな。悪くない。むしろ好きな匂いだ。これ」

「か、嗅ぐなぁぁ……」

最早返す言葉も尻すぼみで弱々しい。いつもの男勝りな部分が秒単位で炙り殺されていく摩耶であった。
足もガクガクと震え出し、いよいよもって彼女の何かが決壊する――その寸前で、提督はようやく彼女を解放した。

「ん……堪能した。悪かったな摩耶」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…………」


膝に手をつき、身体を折って息を切らせる摩耶。空母棲姫二隻の放つ航空隊を防空射撃で迎え撃ったときでさえこうはならなかったというぐらいの疲弊っぷりである。今の彼女は幼稚園児が作った不格好な紙飛行機さえ落とせるかどうか怪しいまである。

だがそれでも、どうしても目の前の男に聞かねばならぬことがあるのだと、摩耶はうるんだ目で提督を睨みつけた。

「ハァハァ…………で、お前……何で、こんなこと、したんだよ……?」


「? だから、お前が物欲しそうにしてたから――」

「か、仮にっ、百歩、いや千歩譲ってアタシが物欲しそうにしてたとしても、いつものお前ならこんなことぜってーしなかっただろうが! 一体何だってんだよっ!?」

そう、それはまさに彼女の言葉通り、普段の提督ならまずありえない行動なのである。
ましてや自分のようなガサツな女にあんなことをするなど、何か裏があるに違いないと、彼女は考えたのだ。

「…………そうだな。なら、白状しようか」

「お、おう」

一体何を言われるのかと、摩耶は身構えた。
すると提督はこう言うのである。


「正直に言うとさっきのは――お前のことが愛おしく思えて我慢ができなかったんだよ」


今回はここまで
クソ暑いですね。熱中症とかには気を付けて下さいませ

生存報告~
皆さんも暑さにはお気をつけて

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