ヴィーネ「リストラされた……」モバP「天使が現れた日」(24)

原作で出番を減らされながらも私は耐え続けた。

それでもガヴの隣は私の立ち位置だと信じていたから。

けどそれも間違いだった。

もうガヴの隣にはサターニャとタプリスがいる。

ヴィーネ「……私はもう必要ないのね」

ガヴ……朝はちゃんと起きれるかな?

ご飯食べてるかな?

たまには部屋掃除しないとダメよ?

準備を終えた私は、この世界から消え去ることにした。

ここにいても辛いだけだもの。

最後だから本音を言うね。

ヴィーネ「ガヴ、大好きだったわ」

私を必要としなくなった世界。

ガヴ、うかみさん。
そしてみんな……。

さよなら。

その日、私は消えた。

無に還ると思っていた私が目覚めたのは、天使も悪魔も実在しない平凡な日本。

ヴィーネ「ここは?」

財布の中は残った仕送り全ての、数万円。

ヴィーネ「ははは……」

ゲートは開かない。

魔界の存在を感じないのだから当たり前よね。

変身はできた。見飽きた武器も何事もなく、この手のなかに握られている。

私はこの世界唯一の悪魔。

親しい友達も、家族も、知り合いもいない。

溢れる涙が止まらなかった。

私はなんて愚かだったのだろう。

ヴィーネ「ガヴ……会いたいよ」

この世界にガヴはいない。

なぜかそれが理解できた。

私はガヴといられるだけでよかった。

それだけでよかったのに……。

アニメでは仕送りでネタにされ、悪魔らしくないと笑われ、まるで見せ物かのようにヤンデレSSが増産された。

誰も私の本当の姿を見ようともしない。

私はただの女の子で、ガヴと一緒にいたいと願っただけの……それだけの存在なのに。

ヴィーネ「これからどうしよう……」

アルバイトを探す?

それで生きていけるの?

いっそのこと悪魔らしく暴れようかしら。

モバP「今お時間よろしいですか?」

誰だろう?
若い男の人だ。
ナンパかな?

ガヴ怖いよ。

世界に一人きりというのは心まで脆くしてしまう。

不安なんだ、私。

モバP「あの?」

ヴィーネ「……はい?」

肩を叩かれ我に返った。

モバP「私こういう者です」

渡された名刺に目を通す。

わかるのは芸能事務所のプロデューサーだってことくらい。

ヴィーネ「プロデューサーさん、ですか?」

モバP「いきなりごめんなさい。君の横顔を見ていたらスカウトしたいなって、つい声を掛けてしまいました」

ヴィーネ「スカウト?私をですか!?」

モバP「はい。アイドルに興味ありませんか?」

ヴィーネ「……正直に言ってしまえば興味はありません」

モバP「そうですか……」

ヴィーネ「けど!私、今は身寄りもなくて……」

モバP「身寄りがない?」

親はいない。知ってる人もいない。
戸籍だってない。

私は全てを説明した。
悪魔のいない世界なんだ。
話しても問題ないだろう。

モバP「悪魔……ですか?」

ヴィーネ「やっぱり見えませんよね……」

モバP「いやそう意味ではなく……。あの……キャラ作りですよね?」

私は無言で変身する。

モバP「マジ……?」

大きな石を三叉槍で粉々に砕くと、若い男は完全に言葉を失ってしまった。

俯き、しばらく何かを考え込んでいた男は、吹っ切れたのか顔をこちらに向ける。

モバP「手品では……なさそうだ。……本物なのか?」

ヴィーネ「月乃瀬=ヴィネット=エイプリルです。魔族ですが、よろしくお願いします」

お辞儀をしてみせた。

そうよ、ヴィネット。
もう私に失うものなんてないのだから。

モバP「こちらこそよろしくお願いするよ」

握手を交わす。

これは契約だ。

サキュバスなどとネタにされたことも何度かある私だが、実際魅了の力は使える。

アイドルか。

前は使う必要がなかったけど、今は頂点を目指すのも悪くない。

ガヴ、あなたがいなくても私は大丈夫。

それを証明するからね?

寮を与えられ、私は生活を保障された。

レッスンは辛かったけど、夢中になることで皆を忘れることができた。

人一倍努力したのは現実逃避のため……そんな事実を知ったらプロデューサーさん泣いちゃうかな?

プロデューサーさんとは良好な関係を続けていた。

私を救ってくれた人なのだから、恩こそあれ嫌う理由なんてないから。

それどころか軽く依存しているかも。

今は彼だけが私の存在理由だものね。

モバP「デビューが決まったぞ!良かったな」

優しく頭を撫でられた。

ヴィーネ「プロデューサーさんのおかげです」

モバP「ヴィーネが頑張ったからだよ。君が結果を出したんだ」

ヴィーネ「……お役に立てたのなら嬉しいです」

どれだけ依存しても恋愛感情を抱けない。

胸が痛い。
ガヴ、会いたいよ。

観客「ヴィーネちゃ~ん!!」

デビューライヴは満員。

プロデューサーさんはこんなことは異例だと言っていた。

ずっと真面目と言われてきたけれど、こちらにきて私はズルをした。

魅了の力を振り撒き、デビュー前からファンを造り出していたのだから。

これは私の軍団。

観客「ヴィーネちゃぁぁん!」

私は純真無垢を演じ、彼らに応える。

ヴィーネ「みんなー!集まってくれてありがとう!」

罪悪感で痛む心をそっと両手で包む。

……胸小さいな私。

歌い終わり、アンコールに応じるとプロデューサーさんが険しい表情を浮かべていた。

ヴィーネ「次で最後だけど精一杯頑張るからねー!」

観客「うおぉぉぉ!ヴィーネちゃぁぁぁん!」

汗に滲むステージ衣装。

体力的にもキツくなってきた頃、私は流れ落ちる涙に初めて気づく。

……あれ?おかしいな?

観客「ヴィーネちゃん泣いてる?」

観客「泣いてるぞ?」

観客「大丈夫かな?」

騒然となる会場。

私ってこんなにメンタル弱かったかな?

ガヴがいない世界という現実を、私は無意識に受け入れて……そして失敗した。

私の隣には誰もいない。

誰も。

キラキラと輝く私を、一番見てほしい人がいない。

ガヴ「ヴィーネ!!!」

ヴィーネ「……え?」

ラフィ「ヴィーネさん!!」

サターニャ「しっかりしなさい、ヴィネット!」

ありえない声がした。

ありえない幻が見えた。

みんな……どうして……?

ガヴ「前に歌ったろ?『このままずっとずっと一緒にいましょ』って」

サターニャ「仲間外れは許さないわ!ヴィネット!」

ラフィ「ヴィーネさんがいない世界なんて、私たちもいる意味ないですから♪」

ガヴ「タプリスも心配してたぞ。そのうち来るだろ」

ヴィーネ「なんできちゃうのよ……!ばかぁ……!」

ガヴ「ごめんな?悩んでたの気づけなくてさ」

サターニャ「でも相談くらいしなさいよ!私たちその……と、友達じゃない!?」

ラフィ「サターニャさん慌ててましたからね~」

サターニャ「うるさいわね!べ、別にヴィネットの心配なんてしてないわよ」

ガヴ「誰か一人が不幸になる世界なんていらない。私たちは4人一緒って決めたろ?」

ヴィーネ「……私がいてもいいの?」

ガヴ「私の隣にはヴィーネがいて、サターニャがいて、ラフィがいて、タプリスがいなきゃだめなんだ。私は欲張りだからな」

ヴィーネ「ガヴ!」

ガヴの腕に抱かれて、私は自分を取り戻した。

私は月乃瀬=ヴィネット=エイプリル。

親友を想う、生真面目でイベント好きな……そんな普通の悪魔。

ヴィーネ「皆さん、この三人は私が大好きな、私の大切な人たちです!!」

観客「うおぉぉぉ!」

乱入した三人がステージに立つ。

ガヴ「なんか恥ずかしいな……」

ラフィ「観察するのは好きですが、見せ物になるのはなんだか複雑ですね……」

サターニャ「こいつらをこのサタニキア様の下僕……いえ、配下にしてやるわ!!ふふん」

ガヴ「楽しそうだな、サターニャ」

サターニャ「ガヴリール、あんたも珍しくテンション高いじゃないの」

ガヴ「……たまにはな」

サターニャ「素直にヴィネットに会えたからって言えばいいのに」

ガヴ「ぐっ……」

ラフィ「ガヴちゃんの負けですね♪」

ヴィーネ「みんな……黙っていなくなってごめんなさい。それと……来てくれてありがとう」

ガヴ「ヴィーネがいなきゃ誰が私の世話するんだよ。私は自分のためにヴィーネが必要だっただけ」

ヴィーネ「そっか♪私が必要なんだ?」

ガヴ「何度も聞くな。バカヴィーネ」

ヴィーネ「うん♪」

ヴィーネ「2曲ほど歌ってもいいかなー?」

観客「いいともー!」

私たちの持ち歌、ガヴリールドロップキックとハレルヤエッサイムを連続で披露した。

私はきっと解雇される。

ならせめて、お客さんを喜ばせたい。

それが偽りの力で魅了した私の責任。

4人の最初で最後のライヴが幕を下ろす。

楽しかった。
事務所にたくさん迷惑をかけたけど、私悪魔だもん。

モバP「解雇?しないぞ?」

ヴィーネ「……へ?」

モバP「そりゃ悪魔の力を使って人を集めたのは許せないさ。でもヴィーネは観客を楽しませようとしただろ?」

モバP「罪悪感ありありなの見てわかってたし。最後の乱入は褒められたもんじゃないが、客受けは良かったから事務所としてはノーダメージで済んだ」

モバP「お前の正体は俺しか知らないしな。デビューライヴであんなに人集めたアイドルを事務所が手放すわけないだろ」

ヴィーネ「でも私……」

モバP「友達と一緒に残ればいいじゃないか。全員まとめて面倒見るぞ?」

ガヴ「ちょ……ネトゲ」

サターニャ「こっちの世界で始めたらいいでしょ」

ラフィ「タプちゃんもよろしいですか?他にも増えるかもしれませんが……」

モバP「当然。本物の天使と悪魔がアイドルとか最高だろうが!」

サターニャ「そうね!悪魔のいないこの世界では、私こそが唯一の大悪魔!!」

サターニャ「ヌワーッハッハ!」

ちひろ「調子に乗らないでくださいね?」ギロッ

サターニャ「ひっ!」

モバP「ちひろさん、いつからそこに!?」

ちひろ「ずっと一緒にいましたよ~。サタニキアちゃ~ん、悪魔同士仲良くしましょうね?」ギュー

サターニャ「」

ヴィーネ「ははっ」


ガヴ「どこに行っても私たちならさ、新しい物語を紡いでいけるって……私は思う。ちょっと臭かったかな」

ヴィーネ「私たちなら、か。そうよね。ずっと一緒にいるって約束したものね」

こうして私は、新しい居場所を見つけました。

大切な仲間たちも一緒です。

アイドル業は楽しいですが、毎日大変です。

いつかまた、会いましょう。

うかみ様へ
月乃瀬=ヴィネット=エイプリルより



てなことにならないようにヴィーネの出番を増やしてください!お願いしまむら!

終わり

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