右京「聲の形?」 (188)

相棒×聲の形のクロスオーバーssです。

舞台は2011年。聲の形のキャラたちは小学生時代の設定になります。

相棒役は神戸さんです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497449781



「これは…あいつだ…」


「あいつのせいでこんなことに…」


「あの女の…呪いなんだ…」


数日前、ある数人組が恨みがましくそう叫んだ。

呪い。その言葉の意味がこれから起きるとある出来事へと繋がることになる。




右京「穏やかですねぇ。」


神戸「そうですねぇ。」


「たまには遠出というのも悪くはありませんね。」


「そうですねぇ。」


「あの…他に言うことないんですか…?」


「そうですねぇ。
キミが黙って安全運転を勤めてもらうため僕なりに配慮してるつもりですがねぇ。」


高速道路の中央自動車道を一台のGT-Rが縦横無尽に駆けていった。

乗車しているのは警視庁特命係の杉下右京。それに相棒の神戸尊の二人。

彼らはこれから所用のため岐阜県の大垣市に向かっていた。

これはその車内でのやりとりだが…




「そもそも僕は車ではなく新幹線で行くことを勧めたはずですよ。」


「いいじゃないですか。どうせ暇な特命係なんですから。
こうしてドライブでも洒落込んだ方が道中の楽しさも満喫出来ると思いませんか。」


「なるほど、確かにそれも一理あります。
ですが我々はあくまでも公務で行くわけですよ。公私混同は謹んでください。」


車内でそんないつもの日常的なやり取りを済ませる右京と神戸。

さて、その右京だが後部座席にある荷物を確かめていた。

それは出発する前に米沢から手渡されたとある道具の一式だ。


「出発する直前に米沢さんから持たされましたけどそれ何なんですか?」


「これは簡単な指紋の検出などが行える鑑識用の道具ですね。」


「何でそんなものを持っていくように言ったんですかね?」


「米沢さん曰く、どうせ行き先で事件に巻き込まれるだろうから必ず役立つとか…」


「うわ…もう事件に巻き込まれること前提ですね…」


そんな米沢のお節介というか余計なお世話に呆れた様子を見せる神戸。

これではまるで自分たちが事件を呼び寄せる死神扱いではないか。

そう心の中でツッコミならがも

どうか行き先で殺人事件が起きませんようにと願いつつ車は一路岐阜県大垣市へと向かった。

それから車は都内からこの大垣市まで

約3時間半近くの長旅を終えて高速道路を降りて市内へと入った。

さて、その道中のことだ。




「あーっ!」


突然道路に一人の少女が飛び出してきた。

赤いランドセルを背負った歳は恐らく小学校高学年。

それに茶髪の入り混じったセミロングの少女。

その少女がなにやら血相を変えて落ち着きのない様子で道路に飛び出した。

その行動を見て咄嗟に車のブレーキペダルを踏み急停止する車。

それから右京と神戸は車内から降りてこの飛び出してきた少女に注意した。


「突然飛び出してきて危ないじゃないか!それで怪我は大丈夫かい?」


「あ…あぅぅ…あ…」


神戸は車に接触していないか少女に尋ねるが何かがおかしい。

少女はどういうわけかまともな返答が出来ずにいた。

するとこのやり取りを見ていた右京がこの少女のある部分に注目した。それは耳だ。




「神戸くん、どうやらこの子は耳が聞こえないようですね。」


「あ、本当だ。耳に補聴器を付けてますね。」


髪の毛で耳元が隠れているがよく見るとこの少女は耳に補聴器を付けていた。

この少女だが衣服に付いている名札には水門小学校6年2組西宮硝子と記されていた。

どうやらこの近隣の女子小学生のようだ。


「西宮…硝子…もしかして…この子…」


「ええ、どうやら今回僕たちの所用に関係ある人物のようですね。」


耳の聞こえない硝子には右京たちが何の話をしているのかさっぱりわからないが

どうやら今回の右京たちの所用にこの西宮硝子が関係しているらしい。


硝子「あ…の゛…う…」


そんな翔子だがなにやら必死になって右京たちに何かを訴えていた。

だが硝子は聴覚障害を患っていてその話し声を聞き取ることができない。

そのため右京は手話を用いて硝子と話すことにした。


「へぇ、杉下さんって手話が出来るんですね。」


「以前にも耳の聞こえない少女とある事件で遭遇しましてね。
それに警察官なら手話くらい出来て当然なスキルだと思いますがね。」


「そこで一々皮肉は余計を付け足さなくてもいい思いますけどね…」


そんな苦笑いを浮かべる神戸は置いといて

硝子は二人をこの近隣にある公園に連れて行った。




「やべっ!人が来た!」


「もう行こうぜ!」


右京たちが駆けつけるとそこから二人組の少年たちが入れ替わりで走って逃げていった。

その二人が居た公園にある水場。そこでは一人の少年がずぶ濡れの状態で倒れていた。

少年は水場に落ちたせいで衣服はずぶ濡れ、

しかも誰かに暴行を加えられたのか全身傷だらけ。

硝子とちがい衣類に名札がないので名前はわからない。

だが背格好からして恐らく同級生であることは間違いない。

少年の所有物らしきランドセルから教科書やノートが散乱していた。

とにかく少年は散々な状態だった。

さらにその少年の手にはあるモノが握られていた。

それは筆談用と書かれた一冊のノート。それだけが大事に握り締められていた。



「キミ、大丈夫ですか?」


「酷いことになってるね。何があったか話してくれるかい。」


「あの…アンタたちは…?」


「警戒しなくてもいいですよ。我々は警察の者です。送りますからおうちはどこですか?」


そう言って警察手帳を見せて警察官であることを証明する右京たち。

だがそれでもこの少年は動揺しているようで落ち着きを取り戻せてはいなかった。


「うちは…その…これは…だから…」


どうやら暴行されたのが余程ショックだったのか少年は酷く怯えていた。

この状況を警察官として…いや大人として放っておくことはできない。

しかしここは岐阜県、自分たちの勝手が通用しない土地だ。

せめてどこかでこの少年の衣服を乾かせることは出来ないかと思った矢先のことだ。


「あ…うぅ…」


「それは本当ですか?」


「硝子ちゃんは何を伝えようとしているんですか?」


「この近くに自分の家があるのでそこで服を乾かすようにと言ってくれています。」


それから硝子の厚意で右京たちはずぶ濡れになったこのボロボロの少年を連れて

この近隣にある硝子の家のマンションへと訪れた。




「おや、硝子…とそれにあなた方は…?」


「失礼します。警察の者です。ちょっとこの少年を乾かしたいのでご協力願います。」


「本当にすいません。用が済んだらすぐに出ていきますので…」


出てきたのはこの硝子の祖母である西宮いと。

それにうしろからもう一人ひょっこりとある少女が現れた。

硝子よりも歳が3つほど離れた

ショートヘアなボーイッシュな雰囲気を漂わせたこの少女は…


結絃「婆ちゃん!お姉ちゃんに何かあったの!?」


いと「落ち着いてゆづ。硝子は無事だけど…」


どうやらこの結絃という少女は硝子の妹らしい。

その妹の結絃は右京たちの後ろに居た姉の硝子を庇うようにして家の中へと入れた。

さて、そんな中で祖母のいとは未だに右京たちとこの少年を不審に思っていた。

さすがに警察官が孫とずぶ濡れになった少年を連れてくれば

家族が不審に思うのも仕方がない。

だがこの祖母は明らかにそれ以外についても何か不審に思っている節があった。

このままでは埒が明かないのだが…



「ひょっとして…お前…石田…?」


「ゆづ…この子が…あの石田くんなのかい…」


「うん、間違いない。前にお姉ちゃんをイジメたところを見ていたから!」


石田という少年は硝子の家族に自分の素性を感づかれて酷く怯えていた。

妹の結絃が言ったように

この石田が硝子をイジメていたとなればその敵意を向けるのは無理もないことだ。


「お前!どのツラ下げて家に来た!お前のせいでお姉ちゃんは酷い目にあったんだぞ!?」


結絃はまるで親の敵でも取るかのように石田を恨みがましく睨みつけた。

その結絃に石田はただ怯え続けていた。

自分よりも3つも年下の女子にこうも言われて石田は反論することもできない。

それに祖母も…


「ゆづおやめ!
刑事さん…申し訳ありませんが…
うちではその子にしてあげることは何もありません。どうかお引き取りください。」


暴れだす結絃をなんとか宥める祖母。

しかしそんな祖母も石田に対してあまよい感情を持ち合わせてなどいない。

むしろ明らかに拒絶する節さえ見られた。

どうやらこの西宮家で石田が厚意を受けることなど無理だと察した右京たちは

諦めて退散しようとするのだが…



「ま゛…で…」


そこへ硝子がバスタオルを持ってきて石田に渡した。

これで身体を拭けとそう言っているらしい。

それから硝子は手話で祖母と妹に石田の衣類が乾くまでこの家に留めるようそう頼んだ。

こうなると二人としても断るわけにもいかない。

こうして不本意ながら石田とそれに右京たちはこの家に招かれることになった。




「御厚意に感謝します。」


「いえ…ただ…乾かしたらすぐに出て行ってもらえますか…」


「それはわかっています。ですが出来ればこうなった事情を説明頂けますか。」


西宮家に招かれた右京と神戸、それにもう一人。

ようやく名前がわかったが石田将也という少年はこの家のリビングに寛いでいた。

祖母が用意してくれた自家製のしそジュースを頂きながら

先ほど結絃が叫んでいたことの経緯を尋ねてみた。


「わかりました…実は…」


それから祖母は険しい顔をしながら事の詳細を説明してくれた。

発端となったのは今から数ヶ月前のこと。

西宮硝子が石田の通う水門小学校に転校してきたことがすべての始まりだ。

女子の転校生ということで当初クラスのみんなから硝子は歓迎されていた。

周りも硝子が聴覚障害を患っていても支えてあげて

当初は硝子もクラスのみんなと仲良く接することができていた。

だが…ある時を境にして何かが変わった。




「硝子はクラスのみんなから嫌がらせを受けるようになりました。
それを率先して行っていたのが…そこにいる石田くんだと聞いています…」


祖母の発言に石田は何も反論せず俯いたままだ。

話を聞くと石田は硝子のイジメを率先して行ったある意味リーダー的立場にいたそうだ。

そのイジメは上履きを隠したり机に落書きをするといった行いやそれだけでなく…


「筆談用のノート…
耳が聞こえない硝子のために
クラスの子たちとコミュニケーションを取るように持たせたノートです。
それにあからさまなまでに悪質な落書きが書かれるようになりました。」


それは先ほどずぶ濡れだった石田が唯一肌身離さず持っていたノートのことだ。

祖母は夢にも思わなかったはず。

障害を抱えた孫の為を思って持たせた筆談用のノートに悪質な落書きが書かれるなんて…

祖母としてこんな心苦しいことになるとは予想すらしていなかったにちがいない。


「なるほど、そんなことがありましたか。
ですがあなた方がここまで石田くんを嫌悪するのは
まだ彼が硝子さんに悪質な悪戯を行ったからではありませんか?」


その右京の疑問に祖母はさらに険しい顔になった。

どうやら右京の疑問は的中のようだ。

確かにいくら筆談用のノートが落書きされたからといって

ずぶ濡れの少年を家に上がらせずに拒んで追い出そうとした。

それには相応の理由があるはずだ。

そんな時、今まで黙って聞いていた結絃が我慢の限界を超えたのか石田の前であることを糾弾した。



「こいつがお姉ちゃんの補聴器を壊したからだッ!」


硝子の補聴器を壊した。

そう叫ぶ結絃に先程から俯いている石田は

さらに罪悪感に苦しめられるような表情で苦悶していた。

だがこれでようやく西宮一家が石田をここまで嫌悪する理由が判明した。

聴覚障害を患う硝子の補聴器が壊された。

この補聴器は耳の聞こえない硝子にしてみれば命綱みたいなものだ。

これが無ければ難聴の硝子は音が何も聞こえない。

そんな大事な物をこの石田は悪意を持って壊した。

そうなれば硝子の家族が石田に嫌悪感を抱いても仕方のないことだった。

だが問題はそれだけではなかった。


「しかもこいつ…8回も壊した!補聴器はお姉ちゃんにとって大事なモノなのに!?」


8回…それは確かに西宮一家にしてみればかなり大事だ。

しかもその際、石田は硝子の耳を傷つけてしまったらしい。

それに補聴器の被害が総額で170万円と大金になり当初の反応にも納得がいく。

いくらずぶ濡れでボロボロだろうと

大事な娘をこうまで傷つけたこの少年に善意を施すことなど出来るはずもない。

だがこれだと疑問が生じる。それでは何故石田はこうまでボロボロなのか?

そんな石田に神戸があることを質問した。



「石田くん、ひょっとしてキミはクラスでイジメを受けてるんじゃないか?」


その質問に石田は思わず身震いした。

この反応からしてどうやら図星のようだ。

恐らく硝子に代わって新たなイジメの標的にされてしまったらしい。

だが何故そうなってしまったのか?

仮にも石田は硝子を率先して虐めていた張本人。

それがいきなり虐められる側に回るということは何かがあったはず。

だがそれが何であるのか?

さすがにその事情をこの祖母も妹の結絃も知らないらしい。

それに石田も先程から口を閉ざしたまま。これでは埓が明かないわけだが…


「あ…うぅ…」


そんな右京たちに硝子が手話で語りかけてきた。

それで大体の事情が判明する。

先日、石田と硝子のクラスで緊急のクラス会が行われた。

その内容は硝子の補聴器が壊れたことについて。

そこで石田はクラスのみんなから硝子へのイジメを糾弾されてその責任を取らされた。

それからすぐに硝子イジメだけではなく石田に対するイジメも行われた。

それが先ほど公園での惨事の原因だった。



「俺…だけじゃないのに…」


「それはどういう意味ですか?」


「西宮に嫌がらせしてたのは…俺だけじゃないんだ…」


「つまりクラスのみんなで硝子さんを虐めていたというのかい?」


右京と神戸の質問に石田は小さく頷いた。

石田の話によると硝子へのイジメがクラス内で始まったのは合唱コンクールからだった。

当時、クラスでは必ずコンクールで一番になろうと意気込んでいた。

だがそんな最中、練習を開始してみれば硝子の発音だけが音を外していた。

原因は幼い頃より難聴の症状がある硝子には発音の仕方がわからないせいだ。

練習中にクラスの誰もが

硝子をコンクールに参加させれば一番どころか最低評価を下されることを予想した。

そこで担任の竹内は硝子だけを不参加にしようとしたが

音楽担当の喜多先生が硝子だけを仲間外れにさせまいとその参加を補佐する。

だがその甲斐虚しく結果は散々なもので終わった。

これによりクラス内で硝子へのイジメが本格化したとのことだ。

その話を聞いて確かにその可能性は否定出来なかった。

何故ならクラス全員が石田の行いをここまで見過ごしていたとは考えにくい。

つまり石田の言うようにクラス全員で西宮硝子にイジメを行ったという見解が正しいはず。

だがそれを証明することはできない。

それが出来るのは精々この石田の証言くらいなのだが…



「その補聴器を拝見させてもらえますか。」


「わかりました…これです…」


それから祖母はこれまで石田によって壊されたであろう補聴器を右京たちに見せた。

それは片方だけだったり大事な部品だけが壊れたりと散々なモノばかり。

部外者である右京と神戸もこの仕打ちに思わず呆れるほどだ。


「これは酷いですね。どれも全部ボロボロですよ。」


「ええ、以前から学校に訴えようと何度も言ったのですが…
それを娘が硝子のためにならないと言って自分一人で解決させようとしていました。
けどこれを見かねて娘もようやく重い腰を上げたんです。」


確かにこんな壊され方をすれば学校に苦情を訴えるのも無理はない。

だがここまで仕出かすとなれば最早子供の悪戯では済まされないはず。

さて、そんな時だった。



八重子「硝子!まだ家に居たのね!?」


右京たちが話し合っているこの部屋に

物凄い剣幕をまくし立てながら一人の女性が駆け込んできた。

その女性が現れた瞬間、硝子はオドオドしはじめ妹の結絃がそれを庇うように前に出た。


「やめなよお母さん…お姉ちゃん嫌がってるじゃん…」


「結絃、退きなさい。
学校から硝子がまだ登校していないから病欠なのかって連絡があったのよ。
まったくどこに行ったのかお母さん探したじゃないの!」


「でもお姉ちゃんが学校でどんな目に遭っているのか知ってるだろ!」


「そんなのは硝子がしっかりしていれば問題はないわ。それに…あら…?」


どうやらこの女性は硝子と結絃の母親らしい。

そんな彼女だが今更になってあることに気づいた。

それは訪問者である右京と神戸、

それに本来ならこの家に招かれることなど許されない石田の存在だ。

そんな彼女に怯える石田に対して母親は睨みつけながらこう告げた。



「あなた…石田くん…どうしてここにいるの…?」


「あの…それは…」


「娘にあんな惨たらしい仕打ちを仕出かしてよくもこの家に上がれたわね!」


「どうせここに来たのも今日のことをやめてほしいと懇願にでも来たのでしょう。」


「出て行きなさい。
ここはあなたのようなクソガキが来るような場所ではないわ。
ほら硝子、さっさと付いてきなさい。学校を休むなんて許さないわよ!」


怒鳴り声を上げながら嫌がら硝子を無理やり引っ張り学校へと連れて行く母親。

目の前に右京たちが居るのにそんなこともお構いなし。

いくら他人さまの家のこととはいえさすがにやりすぎだと思うほどだった。


「すいません…娘の八重子が見苦しい真似をして…」


「いえ、事情を知らなかったとはいえ不躾にお邪魔した僕たちにも非があります。
どうかお気になさらないでください。
ですが娘さんはお孫さんに対して随分と過剰な教育をなさるのですね。」


「仕方ありません。
八重子は硝子たちの父親と離婚してシングルマザーだから…
それで自分がしっかりしなければと気丈に振舞っているんです。」


確かに祖母の言うようにこの家に男の気配はない。

長年この家で暮らしているようで

生活臭溢れているが見たところその生活用品はほとんど女ものばかり。

しかし何故八重子は

聴覚障害の娘を抱えているのに夫と離婚しなければならなかったのか?




「失礼ながら離婚の原因は硝子さんの聴覚障害にあったのではありませんか。」


「あれは…仕方のないことでした…」


娘夫婦の離婚話しに祖母は悔いるように呟いた。

障害を持つ子供の親というのは我が子に障害があることに否定的な傾向がある。

恐らく父親は硝子の聴覚障害について否定的だったのかもしれない。

だから父親は幼い子供たちを八重子に押し付けて離婚した。


「硝子の障害が発覚したのはあの子が3歳の頃でした。」


「他の子とちがって様子がおかしかったからそれを察して…」


「けどそのことを聞きつけた向こうの親御さんが…」


「障害を持つ子をよくも産んだなと文句を突きつけて…」


「それで離婚ということになりました。」


忌まわしい過去の出来事を語る祖母。

確かにそんなことがあれば先ほどの八重子にも納得がいく。

シングルマザーであるが故に気丈に振舞っているのも理解出来なくもない。

だが難聴の娘に対してあの行いは明らかにやりすぎだ。

しかも母親の行いはそれだけではなかった。



結絃「お母さん…この前も…お姉ちゃんの髪を切ろうとした…」


神戸「髪を切るくらい普通じゃないか?」


結絃「ちがう…お姉ちゃんの髪を切って補聴器が見えるようにするって…そんなことしたら…」


結絃はそれ以上のことを言わなかったがその理由を察することはできた。

硝子の髪型はセミロング、そのおかげで耳の補聴器も辛うじて目立たずに済んだ。

だがもしも髪型をショートに変更すればどうなるだろうか?

そうなればこれまで目立たなかった補聴器がどうしても悪目立ちしてしまう。

イジメの原因となったのは硝子の難聴が原因。

恐らく母親はそれでも気丈であれと教えたいのだろうが…

そんなことをすればイジメ問題が悪化するのは目に見えていた。




「失礼、警察の者です。そのお金を渡すのは待ってもらえますか。」


突然の部外者の乱入にこのクラスにいた全員が驚いた。

何故いきなり警察の人間がこのクラスに駆け込んでくるのか?

誰もがそんな疑問を抱かずにはいられなかった。


「失礼ですが…これは学校の問題です。警察の方が関わるようなことでは…」


校長がこの事態をこれ以上大事にさせまいと右京に退室を求めた。

今回の件は口内で処理するため内密に行われる手筈になっている。

それを警察とはいえ部外者が乱入して事を大きくされては面倒なのだが…

しかしそんなことで引き下がる右京ではなかった。


「西宮さんのお婆さまから相談を受けました。
それにこの場において公正な対応が成されているとは言い難い状況だと思います。
どうか警察の介入を許可して頂きたい。」


「公正って…この件は石田が悪い。それで結論は出ています!」


右京の言動に堪らなくなった担任の竹内はすぐさま反論に出た。

悪いのは硝子イジメの主犯である石田であること。

その事実はクラスの全員が認めているのだと訴えてみせた。


「なるほど、確かに石田くんが悪いのは事実のようですね。」


「そうだよ!石田が悪いんだ!」


「そうよ!私たちだって見てたんだから!」


担任教師が認めている時点でこの事実を覆すことなど出来ない。

それに他の生徒たちも右京に対して一斉に石田が悪いと訴えた。

そのことで未だ俯いたままである石田の立場はさらに悪化するのだが…



「なるほど、石田くんが硝子さんに対してイジメを行ったことは
クラス全員が把握しているわけですね。
それではみなさんにお聞きしますよ。
そこまで知っていながら何故誰も石田くんのイジメを止めようとしなかったのですか?」


右京からの質問に先程まで騒いでいたクラス全員がピタッと黙り込んだ。

何故クラスの全員が石田による硝子イジメが行われていたのを知っていたのに

それを止めなかったのかと?

そのことを聞かれて硝子と石田以外の児童たちは険しい顔になった。

それもそうだ。自分たちがイジメを行ったことを疑われているのだから…


右京「つまりこのクラス全員が硝子さんを虐めていたということですね。」


竹内「待ってください!
それでも石田が一番悪いのは事実ですよ!補聴器を壊したんですから!」


確かに補聴器を壊したのは石田であることは間違いない。

その事実を石田自身も認めている。

だが右京がこのクラスに抱く疑惑はそれだけではなかった。



「補聴器を壊したのは本当に石田くんだけでしょうか。」


「それは…どういう意味ですか…?」


「今の問いに答えられない様子を見ると
このクラス全員で硝子さんにイジメを行ったことは間違いないでしょう。
しかしそうなるとある疑問が生じます。
補聴器を壊したのは本当に石田くんだけなのかということですよ。」


その疑問にクラス全員が思わず身震いした。

まさか自分たちが疑われることになるとは…

それもあと少しで石田にすべての罪を擦り付けることが出来る直前なのにだ。

児童たちは歯ぎしりをしながら自分はちがうと心の中で祈るように唱えていた。


「実は先ほど硝子さんの補聴器を調べさせてもらいました。
そしたら硝子さん以外の指紋がベッタリと付いていたのです。
小学6年生にでもなればわかりますよね。
補聴器とは難聴の人には命綱にも等しいモノです。
それを取り外して他人に触らせるなどということは決してありえない。
誰かが取り外さない限りは…」


右京は未だ沈黙を続けている児童たちを睨みつけるようにそう発言した。

その発言に児童たちは激しく怯えていた。

当然だ。既に証拠があるとなれば自分も必ず疑われると思っているからだ。

そんなクラスの誰もが怯える中、一人の児童が席を立ち右京に対してこう告げた。



川井「刑事さんこの二人です!
石田くんと仲の良かった島田くんと広瀬くん!
きっとこの二人が西宮さんの補聴器を壊したんだと思います!」


それは先ほど国語の授業で硝子の朗読を嘲笑していた川井みきだ。

その川井に名指しされたのは先ほど公園で石田をイジメていた少年たち。

名前は島田一旗と広瀬啓祐の二人。

委員長の川井から名指しされたことで二人は酷く狼狽えていた。

それもそのはず。

二人が石田をイジメた理由は硝子に対する嫌がらせ行為を押し付けるため。

それなのに自分たちまでもがその矛先になるとは予想すらしていなかったのだから…


「つまり悪いのは島田くんと広瀬くんの二人なのですね。」


「そうです!二人も西宮さんにイジメを行っていました!だから悪いのはその二人です!」


二人を名指しで否定する川井。

川井はまるで自分は何の関係もないように装いながらそう発言してみせた。しかし…



右京「それではこれよりみなさんに指紋の採取をお願いします。」


川井「何で…だって悪いのは島田くんと広瀬くんじゃ…?」


「いいえ、そうとも言えませんよ。
これを見ていただけますか。先ほど西宮家で拝見させてもらった筆談用のノートです。」


右京はクラス全員にわかるようにその筆談用のノートを見せた。

そこには多数の落書きの痕跡があった。

もし今の川井の話が正しければ硝子にイジメを行っていたのは

主犯の石田とそれに島田と広瀬の三人ということになる。

だがこの落書きの痕跡は三人だけで行われたにしてはどれも筆跡が異なる。

どう考えても数人以上で行われた可能性が高い。

つまり川井の証言が信憑性を欠けているということになる。


「そんな…何で私たちを疑うんですか…私はそんな悪いことなんてしていないのに…」


「ですからその疑いを晴らすために調べたいのです。どうかご協力願いますか。」


疑惑を晴らすためにこそ調べる必要がある。そうクラス全員に告げる右京。

そんな右京に川井は酷く動揺した様子を見せていた。

どうやら川井も補聴器を壊した身に覚えがあるようだ。

だがそんな右京の行動を阻むかのように教員たちが反論を唱えた。



竹内「待ってください!いくら警察でも児童に対してそれは…」


喜多「そうです。まずは保護者に承諾を取らないといけませんよ。」


やはり彼らも先ほど神戸が危惧したように

児童の指紋の採取には保護者の承諾を得なければならないことを指摘してきた。

いくら警察とはいえ勝手に子供たちへの取り調べなど許されるはずもない。

そのことを聞いて一旦は安堵する子供たち。

だがそれも束の間のこと、右京はさらなる指摘を行った。


右京「確かに児童への指紋採取には保護者の承諾が必要です。ですが先生方はどうですか?」


竹内「まさか…あなた…我々を疑っているんですか…?」


「当然ですよ。僕はこの場にいる硝子さんと石田くん以外の人間を疑っています。」


疑っているのは教師も例外ではない。

そのことを聞いて校長と担任の竹内、それに付き添いである喜多は狼狽えた。

まさか自分たちすら疑われるとは…

そしてその中で最も疑うべき人物を問い質した。



「担任の竹内先生。僕はあなたもこの補聴器を壊した人間の一人だと疑っています。」


「そんな…何で…俺が…」


「当然でしょう。
あなたは担任教師でありながら
このクラスで硝子さんの補聴器が8回も壊されていることを黙認していたのですから。」


右京が最初から怪しいと睨んでいたのは担任教師の竹内だった。

しかし何故児童ではなく担任教師を怪しいと思えるのか?

それは先ほど右京が目撃したこの6年2組の授業風景にあった。


「先ほどクラスの授業内容を拝見させて頂きました。至って普通の授業でした。」


「そりゃそうでしょ…俺は西宮に対して何もやましいことはしていません…」


「確かに授業は至って普通のもの。だからこそですよ。
このクラスには難聴の硝子さんがいるのですよ。
それなのに先生はその配慮もせずに黒板への板書と教科書の朗読を当然のように行った。
これでは硝子さんが授業についていくことは難しいのではありませんか。」


右京が先ほど目撃したこのクラスでの授業風景を見ればそう思うのも無理はなかった。

口頭だけで説明しても難聴の硝子には授業の内容は理解出来るとは言い難い。

それなのに竹内はそんな硝子を気にせず授業を進めた。

つまりこのクラスでは硝子に対する配慮は一切なされていない。

それは竹内もまた硝子を疎んじているということだ。


「子供たちは無理ですが
大人である竹内先生なら同意していただければすぐに調べられますよ。
どうですか。疑惑を晴らすためにもそれに子供たちへの手本としても調べてみては…」


動揺を露にする竹内を問い詰める右京だが実は当初からこの竹内を疑っていた。

何故なら竹内は担任教師であるにも関わらず

自分が受け持つクラスで硝子の補聴器が8回も壊されていたことを見過ごしていた。

普通に考えてこんなことはありえない。

自らのクラスでそんなことが行われていれば必ずどこかのタイミングで気づくはず。

それなのに母親が学校に訴えるまでそのことが明るみにならなかったことを踏まえると…



「竹内さん、あなたもまたこのクラスの児童たちと同じく硝子さんを疎んでいましたね。」


「馬鹿な…俺は教師だぞ…そんなこと決してありえない…」


「いえ、むしろ担任教師だからこそですよ。
石田くんから聞きましたがこの学校では合唱コンクールがあったらしいですね。
そのコンクールで6年2組は散々な結果に終わったと聞きました。
あの時から誰もが足を引っ張った硝子さんをイジメるようになった。これは事実ですね。」


確かに合唱コンクールでこの6年2組の評価は最悪だった。

しかしそれが担任教師の竹内が硝子を貶めることとどう繋がるのか?


「言葉が悪いですが障害を患っている以上、硝子さんはこのクラスではお荷物の扱いです。
そんな児童を抱えていては担任教師である竹内先生の負担は大きくなるのは明らかだった。
児童たちは現在小学6年生、
小学校生活も残り一年ですがそれまでこの先も何のトラブルも起きないとは言い難い。
あなたは今後も硝子さん絡みの厄介事が起こると危惧していた。
ですがそんな矢先、石田くんたちクラスの児童たちがイジメを行うようになった。
その行動を目撃してあなたはこう思った。
このイジメがエスカレートすれば
やがては保護者にも知れ渡り硝子さんはイジメを苦にして学校を去ることになると…」


先ほど西宮家で聞いた石田の証言通りなら

竹内は間違いなく硝子のイジメを把握していたはず。

それを知りながら黙認していたことを踏まえると

つまり硝子をこの学校から追い出すために竹内は敢えて何もしなかったことになる。

だが我慢の限界だったのか物の弾みか

竹内も硝子の補聴器を子供たちのいないところで傷つけていたようだ。



右京「あなたの目論見はこうだった。
石田くんたちによる硝子さんのイジメをエスカレートさせる。
止める大人がいなければ子供たちは必然的に増長しますからね。
そして極めつけは石田くん。彼もまたあなたにとっては厄介な生徒になりつつあった。」


石田「何で…俺が…?」


「それはキミが授業妨害を行ったからでしょう。
竹内先生にしてみれば授業は業務の一環、それを妨げる石田くんなど邪魔者でしかない。
だからあなたはこの機会に厄介な二人を排除しようと考えた。」


右京の推理に石田は思い当たる節があった。

それは硝子イジメで竹内は何度もその現場を目撃したのにそれを強く止めなかったことだ。

だから自分の行いは許されるものだと勝手に解釈を行った。

そのせいでイジメは自分でも歯止めが効かなくなるほどエスカレートしてしまった。

それに竹内はかつてイジメを行った自分に対してこう告げた。


『でもまあお前の気持ちはわかるよ。』


あの時、竹内は注意をせず自分の行いを肯定した。

それは竹内自身も西宮を疎んでいたからと解釈していた。

今思えばあれは自分をスケープゴートさせるための罠ではなかったのかと疑うほどだ。


「そして竹内先生が石田くんのみを選んだことにも意味があった。
それは石田くんの家がシングルマザーだからですね。
父親がいない以上、強気に出られることはない。
大人しく170万円を払ってくれると踏んだからでしょう。」


美也子「そんな…嘘でしょ…」


さらに石田一家にのみ170万円の支払いを告げたことにも指摘をしてみせた。

硝子の補聴器の損害金は高額だ。

いざという時、その責任が自分に及ばないために

敢えて強気に出れないシングルマザーの家庭である石田一家を選んだのではないか。

そのことを聞いて思わず竹内に疑惑を向ける美也子。

確かに自分の息子がイジメの主犯だったことは間違いない

親として息子が余所の子を傷つけた以上は責任を負わなければならない。

それにしても…そんな理由で…

信頼していた教師に裏切られてしまい

この場にいる誰もが何を信じればよいのかわけがわからなかった。



喜多「竹内先生…あなた…なんてことを…」


校長「キミは自分が何をやったのかわかっているのか!」


そんな右京の推理をこれまで黙って聞いていた校長と喜多は竹内に対して怒りを顕にした。

これが教職の携わる者がやることかと!

しかし竹内はまるで開き直るかのように二人の前でこう告げた。


竹内「俺だけが悪いとでも言いたいんですか。
ちがうでしょ。そうじゃないですよね。
立場が違えば他の教師だって同じことをしましたよ!」


喜多「ふざけたことを言わないでください!誰が児童を貶めたりするものですか!」


「いいや、断言できますよ。
この学校には障害児を教育する体制なんて整ってないんですからね。」


竹内は呆れるように言ったがそれは事実だった。

この学校は普通学級であり障害児への教育を行う体制は整っていない。

つまり硝子のような難聴の児童に対する個別の指導など行われていなかった。

それなのに何故障害のある硝子を受け入れなければならなかったのか。

こんな障害児を安易に受け入れた学校側にこそ問題があるはずだ。

自分はその貧乏くじを引いてしまった。そう全員の前で告げた。



竹内「大体喜多先生だって同じじゃないですか!
アンタだって手話ができないのにそれを子供たちにいきなり覚えさせようとした!
自分ができないことを子供たちにはやらせる。恥ずかしいと思わないのか!」


竹内「それに合唱コンクールの時だって
西宮を入れたらコンクールがメチャクチャになると伝えたはずだ!
それなのに西宮に同情してゴリ押し、その結果どうなった?うちのクラスは最下位だった。
アンタ結局やること成すことが無責任じゃないか!
そんなアンタに俺を責める資格なんかないだろ!!」


そんな辛辣な言葉で喜多を罵倒する竹内。

自分は硝子がクラスの子供たちと一緒に

合唱コンクールに参加したらどうなるか予想が付いていた。

それなのに喜多がゴリ押ししたせいでクラスの雰囲気はメチャクチャになった。

お前にもその責任の一端があるだろと糾弾してみせた。

そのことを問われて思わず目を逸らす喜多…

だがそれだけでは終わらなかった。


「植野!さっきから黙っているが女子ではお前が石田と一緒に西宮をイジメたよな!」


「佐原ぁっ!自分だけ関係ないってツラしてるがこのまま済まされると思ってるのか!」


「それに川井!
さっきから随分他人をボロクソに言っているがお前だってイジメに加担していたな!」


「俺だけが悪いわけじゃない!みんな同罪だ!」


さらにはクラスの児童たちすら糾弾した。

このまま自分だけが悪者にされてたまるか。

こうなればもう一蓮托生。お前たちも道連れだとでもいうかの如く糾弾を続ける竹内。

そんな竹内だが最後にどうしても糾弾しなければならない人間がいた。それは…



「最後はアンタですよ西宮さん!何でこんな娘をこの学校に入れた!」


「なんですって…?」


「まだわからないのか!
見ればわかるだろ。アンタの娘はこの学校で対応出来るわけないんだよ!
障害者だからってどんな迷惑かけても許されると思ってたのか!?」


それは西宮八重子にしてみれば酷く不快な発言の数々だった。

自らの許容を超えた存在である西宮を担当させられてしまったこと。

通常業務だけでも大変だというのに

そのうえ専門外である障害児童の教育など行えるわけがない。

それに対する恨み辛みをこれでもかというほど発散させていた。

そんな竹内を尻目に右京はこの場で公正な判断を下すことは不可能であると校長に進言。

一旦この場を終わらせて、これより保護者会を開いてもう一度今回の件を話し合い

さらに硝子の補聴器の損害金である170万円も

石田一家だけが負担するのではなく

同じくイジメに加担して補聴器を損傷させた児童の親にも払わせるようにと意見した。

その意見に渋々ながらも頷く校長…

こうして激昂する竹内に代わり校長がLHRを終了させた。

この後、緊急の保護者会を開いて

その場で改めて補聴器の損害金について話し合うことを取り決めた。

それによりクラスの児童たちは誰もが俯いたままだ。

それもそのはず、自分たちの行いが明らかとなり

この後で保護者会を開くとなれば当然自分たちの行いが親に知れ渡る。

そうなれば自分たちが親からどんな叱責を受けるかと恐怖に怯えていた。

とりあえずここまで

まだ続きます



LHRは終了してとりあえず6年2組の児童たちはそれぞれ散り散りと行動を取っていた。

そんな中、硝子は母の八重子に連れられて学校の玄関にいた。


「硝子、これから美容室に行くわよ。」


「うぅ…うぅ…」


「こうなったのもあなたの弱さが原因よ。
やっぱり髪を短めに切ってクソガキどもに舐められないようにしなければならないわね。」


「あ…うぅ…」


「こうなったのも全部あのクソガキどもとそれにこの無理解な学校のせいよ。」


硝子の言葉にもならない声に耳も貸さず無視を続ける八重子。

爪を噛みながら先ほどのLHRでの出来事をかなり不快に感じていた。

それは娘を貶めた自分がクソガキと蔑んでいるクラスメイトたち。

それに子供たちと一緒になって娘をクラスから排除しようとした担任教師。

さらに無理解な学校側。そのすべてに苛立ちを感じていた。

だが今の八重子を一番苛立たせているのは他の誰でもない娘の硝子自身だ。

自分は障害を抱える硝子を普通の子として強く育てたい。ただそれだけなのに…

何故いつもこんな裏目に出てしまうのか?

どうしてこの子は自分の想いをわかってくれないのか?

やはり難聴のせいでその想いが伝わらないからでは?

そんな疑惑が心の中で渦巻いていた。



「いいえ、難聴は関係ありませんよ。」


「あなたは…さっきの…」


「そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。警視庁特命係の杉下といいます。」


そんな西宮親子の前に再び姿を現す右京。

まだ何か用があるのかと聞き流しながら硝子と共に学校を出ようとした。


「失礼ですがこれから娘を美容室へ連れて行かなければいけません。お話ならあとで…」


「硝子さんの髪を切るつもりですね。
辛うじて髪で覆われている耳の部分を出して補聴器を見せる。
それはやめておいた方がいいですよ。ハッキリ言えば愚行です。」


愚行…自らの行いをそう否定された。

まさかこうまで言われるなんて…

いくら警察とはいえそこまで言われる筋合いはない。

その言動に不快感を抱いた八重子は

未だに嫌がる硝子を無理やり連れてこの場を去ろうとするのだが…



「いい加減気づいたらどうですか。
そんなことをすれば硝子さんの心は必ず折れてしまいます。
娘さんはあなたが思っているほど強くはありませんよ。」


「赤の他人に何がわかりますか…警察だからってそこまで言われる筋合いはないわよ…」


「確かに警察が家庭の教育方針に口を挟むのは筋違い。
ですが見過ごせないこともあります。
このまま行けばあなたは取り返しのつかない過ちを及ぼすのですから…」


まるでこれから西宮一家が辿る結末を予想しているかのように告げる右京。

その要因は娘の硝子ではなく母親の八重子自身にあるとそう告げてみせた。


「この学校と同じくあなた自身もまた硝子さんの障害に無理解だったはずです。」


「無理解ですって…?私は硝子の母親ですよ!それなのにどうして!?」


「それではお聞きします。何故硝子さんを普通学級のこの学校へ入れたのですか。」


本来、障害児を抱える親にはある選択肢が与えられる。

それは普通学級の学校へ通うか、

もしくは障害を抱える子供の専門的な教育体制が整っている養護学校へ通わせるかの選択。

つまり硝子には養護学校へ通う選択肢があったはず。

それなのに敢えて普通学級の学校を選択したのは何故なのか?



「そんなの決まっているわ。この子は普通の子です。
だからこそ他の子たちと一緒に普通に学ばせようとしただけ。それの何が悪いんですか!」


普通の子、難聴である硝子を普通の子と八重子は評した。

その発言を聞いて右京はようやく理解することが出来た。

八重子がこうなった現状を未だに理解出来ていないことが…


「確かに障害児とはいえ必ずしも普通学級へ通えないということはありません。
子供に教育の場を与えるのは社会の役割。
その学校へ通うことが出来ないことなどあってはならないことなのですから。
ですがあなたはそのことで生じる他人への迷惑を一度でも考えたことがありますか。」


「迷惑ですって…?」


迷惑などと…何を言っている…

八重子は思わず心の中でそう呟いた。迷惑を受けたのはむしろ自分たちの方だ。

娘は学校でイジメに遭い大事な補聴器を壊された。

それなのにこの男は何を言っているのか?

そんな右京の発言に思わず呆れた様子を見せる八重子だが…



「それなら石田くんのお母さんはどうですか。
今回あなたは石田さんにかなりの迷惑を掛けたじゃありませんか。」


「石田さんに迷惑って何を言ってるんですか!
あの女の息子は硝子をイジメていたことをあなただって知ってるでしょ!
子供をあんな下品なクソガキに育てて何が迷惑よ!?」


八重子はここが校舎であることも関わらず怒鳴るように石田の母を罵倒した。

あの女が石田をあんなクソガキに育てた。

だから迷惑を被ったのは私たちの方だ。

それなのに何が迷惑かと…そう怒鳴るように叫んだ。


「確かに石田くんが硝子さんにイジメを行ったことは事実であり
彼の保護者である母親にはそのことを償う義務があります。
しかしそのために損害金である170万円のお金を用意しなければならなかった。」


「そんなの当然でしょ!石田くんはそれだけのことをやらかしたんですよ!」


「ですがいきなり170万円を持って来いと言われてそんな大金を簡単に用意出来ますか?
言っておきますが
補聴器の弁済に用意した170万円は石田さんが汗水垂らして得た大切なお金です。
そのお金は決して軽々しいモノではありませんよ。」


「だから何なの!娘は深く傷ついたのよ!」


「確かに硝子さんは深く傷ついた。
しかしこうも思うんですよ。
あなたが補聴器の壊れた最初の1~2回で
硝子さんのイジメに気づけばこんな事態にまで酷くはならなかったはずだと…」


その指摘を受けてそれまで怒鳴り散らしていた八重子の声がピタリと止んだ。

まるで何か痛いところを突かれたみたいに険しい顔になる八重子。

だが右京はそんな八重子に構わず自らの考えを述べた。



「思えばどうにも奇妙でした。
硝子さんの補聴器は肌身離さず持ち歩かなければならない大事なモノです。
それを8回も壊されてこれほど大事になるまで母親であるあなたは見過ごしていた。
普通に考えてこんなこと有り得るのでしょうか?」


「それは…硝子は一人でイジメに立ち向かえばと思って…」


「おやおや、イジメられている娘さんにそこまで期待するのは酷でしょう。
唯でさえ硝子さんは難聴を患っているのです。
一人で立ち向かうなどハッキリ言えば不可能。
さて、それでは何故こんな事態にまであなたは見過ごしていたのか?
それはこうなることを望んでいたからではありませんか。」


「何で…私が…そんなことを…」


「その方が与えられるダメージが大きいからですよ。
半端な額では大事にもならず学校側に適当に言い包められて処理される可能性がある。
しかし170万円もの大金が発生するとなれば話は別です。
そんなことになれば学校側が弁済を負わされる可能性もある。
だから学校側もその責任から逃れるためにクラス会を開いて犯人を炙り出した。
そしてあなたは可能な限り過剰な制裁を加える。
つまりあなたが行ったことは憂さ晴らしみたいなものですよ。」


憂さ晴らし…そんなことを告げられて八重子は苛立ちを隠せなかった…

よくもヌケヌケとそんなことを…

いくら警察とはいえ

障害を持つ子供を抱える親の気持ちも知らずになんて酷いことを言うのか。

糾弾する右京を憎たらしげに睨みつける八重子は

何故自分がそんなことをしなければならないのかと言うのだが…

そんな二人のもとへ一人の男が現れた。




神戸「それは以前にも同じことがあったからですね。」


「神戸くん、ようやく合流してくれましたか。」


「ええ、杉下さんの読み通りでした。
硝子ちゃんは転校前の学校でもイジメを受けていたらしいです。
それが原因でトラブルが起きてこうして今の学校に転校する羽目になったとか…」


先ほどから右京とは別行動を取っていた神戸。

そんな神戸が何を調べていたのか?それは硝子が居た前の学校のことだ。

神戸の調べによると硝子は前の学校でも今回のような嫌がらせを受けていたらしい。

その時の被害は微々たるものだったので有耶無耶に処分されてしまい

西宮親子はある意味泣き寝入りの形で幕引きとなった。

それを踏まえると今回の件は前の学校の時のような二の轍は踏みたくなかったということ。

つまり右京の指摘する八重子の憂さ晴らしというのも強ち間違いではないようだ。


「先ほどお宅に招かれた時に家の様子を見ましたが何年も住み慣れた様子でした。
それなのに硝子さんはつい最近この学校に転校してきたとのことだった。
余所から引っ越してきたわけではないとするなら
それは前の学校でトラブルが起きたということになりますね。」


「転校前の学校で聞きましたが
人間関係で何度かトラブルが起きていたらしいですね。」


「神戸くんの調べた通りならあなたはこうした事態を予測することも出来たはず。
その時点で他の子とはうまくやれないと判断して養護学校という選択肢もあった。
それにも関わらず再び普通学級のこの学校へと転校させた。
確かにイジメた子供たちにこそ非はあります。
ですが子供がイジメられる可能性の高い学校へ転校させるのもどうかと思いますよ。」


もううんざりだ。それが八重子の心情だった。

こんな見ず知らずの刑事たちにここまで指摘されるとは侮辱もいいところだ。

仮にそうだとしてだからどうした?それで自分は何か悪いことをしたとでも?

それに硝子だって今は無理でもいずれは健常者の子供たちと触れ合えることができるはず。

それなのにこの刑事たちはそんな可能性を踏み潰そうとする。

そんなことはさせない。何を言われようと母親として頑なな姿勢を決して崩すものか。

そう改めて決意した八重子はこう言い放った。



「さっさといなくなったらどうですか。
今回の件は終わったんですよ。もう要件は済んだはずでしょ!」


確かに八重子の言うように今回の件は一応収まった。

右京たちにしてみても今回の硝子のイジメ問題は行きがかりの偶然で関わっただけ。

本来ならこれ以上西宮親子と関わるべきではないのだが…


「いいえ、我々は最初からあなたに用があってここまで来たんですよ。西宮八重子さん。」


その途端、これまで優しい口調だった右京の言動が急に厳しいものへと変わった。

その変化に八重子は思わず額に冷や汗を垂らした。

自分は何もやましいことなどやっていない。

警察に疑われるような行いなど何もしていないはずなのに…

それから右京は神戸に硝子をこの場から遠ざけるように指示を出した。

恐らくこれから話すことは娘の硝子に聞かせるような内容ではないらしい。

そして八重子と二人きりになった右京は彼女にこう告げた。



「ご主人が逮捕されました。正確に言えば元ご主人ですがね…」


その報せを聞き八重子は呆然とした。

夫が…逮捕された…?

いくら別れたとはいえ硝子と結絃の父親。その夫が逮捕だなんて…

それからすぐさま遠ざけられた硝子へと視線を向けた。

しかし硝子は難聴であるためにそのことをわかっていないようだ。

まさかこんなことで初めて硝子が難聴だったことが幸いだと思えるのは皮肉だ。

だがこれは一体どういうことなのか?

八重子はすぐさまその事情を尋ねた。


「ご主人は違法な宗教詐欺を行っていました。
それも家族絡みでの犯行、この件にはあなたの義両親も関わっています。」


先日、角田課長率いる組対5課が八重子の夫が詐欺を行っていた宗教法人を摘発。

その手伝いの一環として右京たち特命係もこの件に関わっていた。

摘発されて次々と逮捕されていく面々。

そんな最中、主犯である八重子の夫とその両親がとんでもないことを口走った。



『これは…あの女の…八重子の呪いだ…』


『八重子が産んだ忌み子の因果応報が私たちにも災いを招いたのよ。』


『あいつらはワシらを騙しただけに飽き足らずこんな貶めるとは…なんて親子だ…』


『 『すべてあの女の…八重子のせいだ…』 』


この物語の冒頭でも語られた恨み言。

それが摘発された直後に語った夫とその義両親の証言だった。

その事実を告げられて八重子は愕然とした。

そんな…まさか…自分がそんな筋違いの理由からそこまで恨まれていたなんて…

夫とは硝子の障害を理由に離婚されてからもう10年も音沙汰無し。

今回の逮捕についても八重子は何も関わりを持ってはいない。

だからこそ思った。

夫の助けが得られない以上、自分が子供たちを支えなければならない。

そのためには弱い自分を捨てなければならなかった。

だからこそ涙を振り払い弱さを捨てた。

気丈に振舞うことで硝子を普通の子と同じく育てようと決意したのに…


「もう夫とは10年も音沙汰はありません。今更逮捕されても私たちには関係ないことです。」


「その様子だと関わりがないのは事実のようですね。
申し訳ありません。警察としても疑いが出た以上は調べなくてはなりませんから。
こうして遠路遥々と出向かなければならないもので…」


右京たちが八重子の元を訪れたのはこの確認を済ませるため。

そんな公務員のお役所仕事など自分には関係ない。

それに障害を理由に硝子を捨てた前夫とその義両親がどうなろうと知ったことではない。

いや、むしろ当然の報いだ。娘に理解のなかった夫とその義両親。

それが自らの悪行で逮捕されるなんてこれこそまさに因果応報だとそう罵ってみせた。



「確かに逮捕された旦那さんとご両親は自業自得。当然の結果でした。
ですが硝子さんの障害について無理解なのは母親であるあなたも同じはずですよ。」


「私が…あいつら同じ?どういうことよ!?」


「言った通りあなたも硝子さんの障害については無理解な節があるはずですよ。」


何を馬鹿げたことを…

自分はこんなにも硝子を想っているのにそれなのに無理解…?

そんなことがあってたまるものかと言ってのけた。

だが右京とて何の根拠もなくそんなことを指摘したりはしない。

その根拠とは先ほどの西宮家でのやり取りだった。



「お母さまからお聞きしましたが硝子さんの障害が発覚したのは3歳の頃でしたよね。」


「そうです…硝子は突発的にそうなってしまって…」


「本当にそうなのですか?
実はそれよりもっと前から硝子さんの障害について気づいていたのではありませんか。」


そんな指摘を受ける八重子。

つまりこういうことだ。

八重子は硝子の障害が発覚するまでそのことを今まで隠していたのではないのか?

その傾向があると指摘された。


「そんな…私は夫たちとはちがう…あいつらみたく硝子を見捨てずに育てたわ!」


「仰る通りあなたは娘さんを健気にも大切に育てた。
しかしそれとは別で障害に関しては目を瞑っている部分があることは確かです。
その証拠が部屋にあったあのボロボロの玩具でした。」


右京が西宮家で見つけた硝子が昔使っていた玩具。

そのどれもがボロボロに扱われていた。

確かに幼児が扱ったとなれば多少はボロボロになっていても仕方はない。

だがそれでもあの玩具の扱われ方は幼女が遊んでいたにしては乱暴すぎた。



「思えばボロボロになった玩具にはある共通点がありました。
あれらは音を発する玩具、つまり打楽器。それを幼少時の硝子さんに与えましたね。」


「あれは…硝子が夢中になって遊んでいるから…楽しいと思って…」


「夢中になってですか。
なるほど、それは本当のことなのでしょう。
しかし当時の硝子さんが純粋に楽しんでいたのかは疑わしいと思うのですがねぇ。」


「何で…そんなことを…当時のことを知らないあなたにそこまで言われる筋合いは…」


「確かに僕はその当時のことを知りません。
しかし年端もいかない女の子が玩具を乱雑に扱うこと。それに硝子さんの障害。
これらを組み合わせるとある事実が浮かび上がります。
その玩具は硝子さんが楽しむためではなく
母親であるあなたが硝子さんの耳が正常か確かめるために与えたものではないのですか。」


その指摘を受けて八重子の表情は

まるで図星でも突かれたかの如く血の気が引くかのように青ざめた。

幼少時の硝子に与えた玩具は純粋に子供を楽しませるために与えたのではなく

自分が硝子の耳が正常であるか確かめるために与えたもの。

しかしそれが何を意味するのか?


「硝子さんの障害が発覚したのが3歳と聞いて奇妙に思えました。
幼少時の難聴というのは一般的に先天性であることがほとんどです。
それなのに3歳になるまでその症状が出なかった。これは実に疑わしい。
新生児には聴覚検査が行われます。その段階で症状が判明しないとは考えにくい。
しかしその症状を母親であるあなたが隠していたとなれば話は別です。」


「何で…私がそんなことを隠さなきゃならないんですか…」


「それはあなたが先ほどから仰っている『普通』という言葉にあるからですよ。」


そう、先ほどから八重子は頑ななまでに硝子のことを普通と表していた。

確かに硝子は難聴という障害を抱えている以外は至って普通の少女だ。

だが右京たちから見れば八重子は硝子のことを必要以上なまでに普通として扱っている。

それはある意味、親のエゴというべきものだ。



「娘さんを普通の子として育てたい。
それは言い換えれば自分がお腹を痛めて産んだ娘は障害というハンデを負っていない。
あなたもまた娘さんたちを捨てた前夫とその義両親と同じく
硝子さんの障害を受け入れることが出来ずにいるんですよ。」


「あなたは硝子さんの障害から目を背けている。そうではありませんか。」


それはあまりにも残酷な宣告だった。

この学校の連中や無理解だった父親たちだけでなく

母親である自分すら硝子の障害から目を背けているなんて…

だが硝子と障害を分けて考えれば話は別だ。

そもそも夫と離婚するきっかけになったのは硝子の障害が原因。

その原因となった障害を八重子が忌々しく思えていた。

だからこそ硝子の障害が憎かった。それを認めたくはなかった。

本来なら娘には難聴という障害は現れずに自分は幸せな生活を営むことが出来たはず。

それなのに硝子の障害が発覚したことによりそれが狂った。

義両親から忌子を産んだと罵られ夫からは離婚され、

その当時まだお腹に身篭っていた結絃共々押し付けられ自分たちは捨てられた。

確かにそれは不幸な出来事だ。

だがそれは八重子にとっての不幸でしかない。硝子にとっての不幸とは別物だ。



「硝子さんにとっての不幸とは母親であるあなたが障害に無理解だということです。」


「硝子さんのことは大切に思ってもその障害に関しては忌々しく思った。」


「だから娘さんを普通学級の学校に入れた。」


「それにあなたが家族の中で唯一手話を覚えていない。」


「それはつまり硝子さんの障害に目を背けていること。」


「そして…あなたが『普通』にこだわる理由は…」


「硝子さんを普通に育てたいのではなく…」


「あなたが障害など患っていない
普通の健常な子を産んだという後付けが欲しかったからではありませんか。」


それが右京の下した結論だった。

無論これは憶測であり確たる証拠というものはない。

だがその事実を突きつけられて八重子自身思うところがあった。

今の意見を否定してみせたい。けどそれが出来ない。

その通りだから…

離婚した原因も…それにこうして硝子が学校でイジメられる原因も…

すべては硝子の障害が原因。

そのことを何度も忌々しく思えた。それが事実だからだ。



「だから…何だというの…そこまで警察に文句を言われる筋合いはないわ…」


「ええ、我々もそこまで口を挟むような権限などありません。
しかしそれでも敢えて口を挟まなければならないんですよ。
何故ならあなたが硝子さんに『普通』を求めたせいで
クラスの子供たちによってあの子は孤立に追い込まれてしまったのですから。」


そんな…娘に普通を求めただけで何故そんなことに…?

そう疑問を抱く八重子に右京は自らの携帯を見せた。

画面には先ほど右京自身も目撃した6年2組の授業風景が撮られていた。

一見、なんともない普通の授業であるが…


「これがなんだと言うんですか…普通の授業じゃないですか…」


「よく見てください。
竹内先生は児童たちへの授業を行っています。
授業の内容はごく一般的なもの、普通の子供なら理解出来るものだといえます。
ですがこれを難聴の硝子さんに理解出来るものだとは思えません。」


右京は先ほど竹内が糾弾された時に話した6年2組の授業をもう一度説明した。

この動画の硝子は竹内の声が聞こえないために授業内容を理解出来ずにいた。

竹内もそんな硝子に構うことなく淡々と授業を進めていた。

つまりこういうことだ。

担任である竹内は硝子に対して個別の指導などは一切行ってはいない。

やはりこの授業は明らかに硝子への配慮など行われていなかった。



「けど…それじゃあ…硝子はどうやって授業を学んでいたの…?」


「その答えはこれです。次の動画を見てください。」


それから次の動画を見るとようやく竹内はある指示を出した。


『おい植野、西宮に今どこまで進んでいるのか教えてやれ。』


『チッ…ほら…教科書10Pのここ…わかる…?ちがう!そこじゃなくてここ!』


竹内の指示で硝子の近くにいた植野が忌々しく舌打ちしながら内容を教えていた。

不機嫌に無作法で教える植野。

だがそれでも難聴の硝子には理解させるのが難しく手間が掛かりきりだった。

その間に授業は容赦なく進んでいった。

これでは植野は授業の内容を聞きそびれて遅れてしまう。

だが教師から命じられた以上は嫌でもこの役割を行わなくてはならない。

そのため植野は硝子を容赦なく憎たらしげに睨みつけた。

そんな植野に対して硝子は申し訳なく頭を下げるのみ…

これでは硝子がクラスで孤立していっても無理はなかった。



「不幸にもあのクラスでは硝子さんに対する配慮は成されなかった。
そのせいで硝子さんは次第に周りから孤立してしまった。
何故こんなことになったのか。
それは勿論担任の竹内先生が硝子さんの障害に無理解だったことが大きい。
しかしそれだけではなく母親であるあなたが
硝子さんに普通であることを押し付けてしまったことにあるのではありませんか。」


「あなたは硝子が普通であることがそんな難しいことだというんですか!?」


「そう、障害を抱える硝子さんには普通であることは難しいことなんですよ。
難聴、さらに転校してきたばかりでろくに周りとコミュニケーションも取れない。
クラスメイトたちは足を引っ張る硝子さんに対して負の感情を抱いている。
そんな状況で硝子さんに普通を求めることがどれほど酷であるかわかりますか。」


障害を抱えている硝子に『普通』を求めること。

それは母親であっても健常者である八重子には決して理解できない悩みだ。

硝子が普通であろうとするほど周りから孤立していく。それは悪循環に等しい行いだ。


「だからこそあなたは立ち止まるべきです。今ならまだ間に合います。
硝子さんに普通を求めるのではなくどうかありのままのあの子を受け入れてください。」


それが警察官としての領分を超えたであろう右京の意見だ。

今こそ歩みを止めて振り返るべきだと…

そうでなければ手遅れになるとそう告げた。

しかしそれでも未だに諦めた素振りを見せない八重子。

そんな八重子に右京はさらなることを指摘した。

それは西宮家が抱えているもうひとつの問題だ。



「失礼ですが妹の結絃ちゃんはひょっとして不登校ではありませんか。
先ほどお宅にお邪魔した時におかしいと思いました。
姉の硝子さんは無理やり学校へ連れて行かれたのにあの子はそのまま無視された。
恐らく硝子さん絡みで結絃ちゃんとの仲がうまくいってないのではありませんか。」


「さらに言えば恐らく子育てもお母さまに任せきりのようですね。
今はまだそれでもいいのかもしれません。
ですがお母さまがいつまでもその面倒を見てくれるという保証はありませんよ。」


それは西宮一家が抱えるどうしようもない問題だった。

確かに八重子は硝子のことで姉思いの結絃と衝突してしまいそのせいで不仲が続いていた。

それに…母親も…

この先ずっと母が娘たちの面倒を見てくれる保証はない。

既に高齢に差し掛かっている母だ。近い将来…亡くなることだって…

今の西宮家は辛うじて母が支えてくれているようなもの。

その母が亡くなれば西宮一家はすぐに家庭崩壊を起こす。

それはいずれ迫るだろう西宮一家が目を背くことなど許されない問題。

ここで立ち止まらなければその問題が確実に一家を崩壊させることは目に見えていた。


「私は…娘を普通に育てたい…ただそれだけなのに…何でそれが許されないのよ…」


八重子はか細い声でそう右京に訴えた。

どれだけ言われようと娘を普通に育てたい思いは決して変わらなかった。

それは母親としては至極当然の願い…

だがその願いを叶えるにはどうしてもある犠牲が生じてしまう。

そのことを八重子はまだ理解出来ずにいた。

とりあえずここまで

西宮父ちゃんの宗教云々はssのオリジナル設定です

でも原作4巻でそれっぽい感じだったので敢えてそう設定しました。


八重子にその気があれば、いじめ加害者のクソガキに差別発言されたと逆に場をかき回せるな
既にいじめが表になってる上にそのクラスの人間から
「健常者に産めと言われた!」「健常者に産めと言われた!!」「健常者に産めと言われた!!!」
な態度で、もっと言えばマスコミ巻き込むとでも言われたら学校も植野親も告訴や賠償どころじゃなくなる
絶対的正論で言えば植野が文句を言う先は学校であって西宮じゃないからクラスとしていじめに回った時点で加害者の負け

いっちゃんヤバイパターンだと、障害児への差別いじめでマスコミにリークする
取材始めた記者に接触して「悪質ないじめを受けて、そのクラスの子どもに心無い罵声を浴びせられてつい手を上げてしまいました
仲裁して下さった警察の方もその場にいました、本当に申し訳ない事をしました」
な態度で何を言われたのかという質問を待って「耳の聞こえる子に産めば良かったと言われました」
いじめの方がごまかし様もない事実になってるからこれやられたら植野側が最悪ネット私刑で詰みかねない
まあ、八重子もそのぐらい頭回ればもう少し上手く立ち回ってただろうけど。妄想連投すまん。

誰か一人賢い人間がその場にいたら違ったのにな
植野に面倒を全部任せたら植野が授業を受けられないから当番制で隣の席を変えればいい
コンクールに西宮を参加させるか生徒達に話し合わせればいい

…やっぱり担任が無能だとしか思えん。押し付けるにしてももっと上手く押し付ければ良かった

だとしても周りの対応がひどすぎないか?
というか担当の先生は今回の件でクビや責任押し付けられるぐらい無能

>>97 >>99
右京の推測や本人の言動から言って、竹内担任は悪意をもって意図的にやってるし自分が被害者だと思ってる。校長は無能。
この件の本質は、学校を末端とする行政が人為的に硝子にヘイト集中させてるって事
上は過失、下は悪意込みで自分らの職務放棄のケツをクラスの児童に押し付けて、
ほらほらガイジがいると迷惑でしょメンドクサイでしょwwwwww
って児童を煽動して、てめぇらの手を汚さずに硝子をいびり出そうってのがこの件の本質
だから、よく出来てるとは思うけど「相棒」クロスとして見ると違和感ってのも自分の感想
この学校で行われた事は犯罪含めた不法行為(民事)で実態は精神的殺人未遂だからな
>>1は悪い事はもちろん悪いと慎重に書いてるとは思うけど、
明らかないじめ、ハラスメントの精神的殺人に居直る様な奴らにあの絶対正論マンの杉下右京が理屈を寄せるかって事
も一度言うけど、個人個人に同情の余地があっても
法に反して、それも罪の無い他人を傷付けて居直る様な奴には冷酷なぐらいの正論通すのがあの人
植野はまだしも、竹内辺りは右京が通りすがりの立場、子どもの前で抑えてなきゃ恥を知りなさいと怒鳴られかねない
このssだと、被害者「側」が招いた事だと右京が半ば認めてるからな
西宮の問題は問題で現実的な硝子の負担をどうするかって課題はあるけど、「本来は」両成敗が成り立つ次元の事じゃないから

ちょっと勝手な感想長くなっちまったけど、竹内はもう無理だね。
警察絡んでの発表会で多額弁償担任逆ギレ暴力事件しかも障害児差別まで重なったら
校長も教育委員会に報告書出さざるを得ないし部外者含めた証人が多すぎる。竹内本人も意図的にやったと公然とぶっちゃけてる
教育委員会は辞表出させる方向で動くし懲戒免職されても文句は言えない、
マスコミ動いたら全国ニュースで公開謝罪レベルの事案だから教育委員会も揉み消し不能なら危機管理モード入る
「相棒」だと、過去にそういう押し付けられて踏み外した警察官がちょくちょく尻尾切られてる

長くなり過ぎて本当に申し訳ないが、最後にもう一つだけ
やっぱり>>1は「バベルの塔」をみたのかな

公式的な「正解」を言えば、この件のメイン戦犯は学校サイドで、授業進度に就いては担任から校長、教育委員会に報告を上げて
教育委員会レベルで加配を行うなり保護者に情報開示して通級、転校を打診するなりの対応をすべきだった
八重子が病的に反発する(あえてあの言葉は使わない)
のは目に見えてるにしても、衝突を恐れて実情を伝えず立場の弱い無知な児童に負担を押し付けたのなら論外
実際八重子は右京の話に動揺してたぐらいだから、すぐに解決しなくても直接関わる学校から八重子に伝えるべきだった
あの性格だとそう言われると硝子に無理押ししかねないし
西宮家は八重子中心にハイリスク家庭だから、展開次第では児相に精神的含む虐待通告して母子分離する奇手も考えられた
問題は何処で情報が止まっていたかだけど、聾唖の転校生を普通学級に受け容れておいて無関心ならその事自体が校長失格
判例上は教育委員会側に最終決定権があるから、逆に言うと受け容れたからには責任持てと言う事にもなる
当たり前だけど統合教育の「教育的意義」として児童に補助を指示するなら負担を調整するのは教師の責任
担任教師がクラスの児童にストレスフルな負担を押し付けて特定の児童、それも障害児にヘイト集めている以上、
それがいじめの煽動ではない、それ以前に感情に気が付かないと言うのなら教師以前に失格
学習を保障できず、その事を伝えず、いじめを煽動して、事ここに至れば竹内は良くて辞職勧告付の停職、校長も懲戒処分付の更迭
クラスの児童は中身に応じて殺人未遂、自殺幇助、芋蔓で器物損壊つけて警察から児童相談所送致
大概は指導レベルだけど、クラスぐるみの障害児いじめの上の殺人未遂って反響も考えると家裁から児童自立支援施設に強制措置もあり得る状況

>>138訂正
「公式的な「正解」を言えば」と「この件のメイン戦犯は学校サイドで」
の順序逆だった。只でさえ長すぎて申し訳ないが、
訂正しない順序だと言い過ぎだった、すいません。



その後、警察の介入より事態は大事へと発展した。

当初は硝子の補聴器の件で集められるはずだった保護者会は

6年2組の児童たちによる殺人未遂の犯行が明らかとされた内容へと変わった。

集められた保護者たちはこの事実を知らされて愕然とした。

ある親は子供を叱りつけ、またある親は何故こんな事態になったのかと学校側を責めた。

当初は石田のみが責任を取らされる補聴器の件がここまで大事を迎えてしまった。

この事態に誰もが困惑せずにはいられなかった。


「それでは石田さん、西宮さんと硝子さんのことをお願いします。」


「わかりました。西宮さん、硝子ちゃん、行きましょう。」


それから数時間後…

いち早く事情聴取を終えた石田家と西宮家は早々に解放されて帰路に着くことになった。

だが娘の硝子は未だに動揺しており

母親の八重子もまた一連の騒動による疲労困憊で自力での帰宅は困難だった。

そこで石田の母である美也子は自分たちが西宮親子を送っていくことを約束してくれた。

こうして右京と神戸に見送られて学校を去ろうとするのだが…

去り際に右京は石田に対してこんな質問をした。



「待ってもらえますか。
石田くんに聞きたいことがあります。何故キミは硝子さんにイジメを行ったのですか?」


それはこのイジメ問題のきっかけとなった原因。

石田が硝子をイジメた理由。それは何なのか?

これを明らかにしない限り今回のイジメ問題は解決することは出来ない。

そのために石田からそのことを直接聞く必要があった。

押し黙ること数分、石田は重い口を開いてこう呟いた。


「俺…寂しかったんだ…」


寂しかった。そう語る石田。

それから硝子へのイジメを行うきっかけを話し出した。

事の発端は以前まで仲の良かった島田と広瀬たち。

その二人が塾に通いだしたのがきっかけとのことだ。

普段は仲のいい友達が自分から離れだした。

硝子が転校してくる前、石田はクラスの人気者だった。

だが段々それが思うようにいかなくなった。

小学6年生ともなれば塾通いや中学受験の準備などを始めていく。

そうなれば次第にクラスメイトたちもバカ騒ぎをやっている暇もなくなり

そのリーダー的存在であった石田になど構う余裕すらなくなった。



「そんな時に西宮をからかってみた。
最初はウケ狙いのつもりだった。けどそれをみんなが面白がって…」


恐らくクラスメイトたちが面白がった理由は

普段はクラスの足を引っ張る硝子に対するストレスの発散によるものだろう。

そのことでクラスメイトから賛同を受けた石田はさらに調子に乗った。

だがいつしか歯止めが効かなくなり遂には補聴器を壊すまでに至った。

これが硝子のイジメが本格化したきっかけだった。


「あなた…そんな下らない理由で硝子を…ふざけないでよ!」


そんなイジメの理由を淡々と語る石田の襟首を掴み問い詰める八重子。

どんな理由であれ自分の娘がイジメられたことに何の変わりもない。

イジメを行った石田を許せないのは母親としては当然のこと。

そんな八重子を神戸と美也子がなんとか宥めようとする。

それから美也子が母親として八重子に謝ろうとするのだが…

だがそんな三人を押しのけて右京が石田の前に立ちはだかり予想もしない行動に出た。



パン――――――ッ!


一瞬、石田は自分の身に何が起きたのかわからなかった。

だが赤く染まった頬に鋭い痛みが走りそれでようやく理解した。

自分は目の前にいるこの右京に叩かれたのだと…


「何で将ちゃんをぶつんですか!」


「失礼、ですがこれは誰かが石田くんにやらなければならなかったことです。」


目の前で我が子をぶった右京に怒鳴る美也子。

だがこれは右京が言うように誰かがやらなければならないことだった。

それは本来ならこの母親である美也子や担任である竹内がやらなければならないこと。

だが母の美也子はそこまで石田を怒ることが出来ず担任の竹内は未だ警察で事情聴取の身。

そのため、本来なら彼らがやらなければならいことを右京がやってみせた。

そうでなければ今回のことがすべて無駄になってしまうからだ。


「今回、硝子さんに行われたイジメは
恐らくキミがやるまでもなくいずれは起きることでした。
クラスでは既に硝子さんへの不満が高まっていた。
ですがそれでも硝子さんに対するイジメが始まったのはキミのせいです。
キミの身勝手で幼稚な行いがそうさせてしまったのですから。」


自らの行いを幼稚と蔑む右京。

確かに小学6年生ともなれば善悪の分別はつくはず。

それなのに石田は自らの人気取りのために硝子へのイジメを行い続けた。

その行いがクラスに何をもたらすのかわかっていたはずなのに…



「今回キミの愚行が何をもたらしたのか?それはクラスの学級崩壊ですよ。」


「学級崩壊って…そんな…」


「今回は担任教師である竹内先生が既にその責務を放棄していた。
さらにこんな事態にまで陥ったのだから当然その責任を取らされる。
恐らく近日中に彼は担任を解任させられるでしょう。」


「植野さん以外の6年2組の児童たちも同様です。
彼らは硝子さんとキミに殺人未遂を行った。これはもう子供の悪戯の限度を超えた犯罪。
しかし彼らは14歳未満の子供であり実刑が与えられることはない。
ですがここまで大事になったのです。
既に周囲の人間にはこの事実は伝わってしまっているはず。
近隣の人々にこの愚行が伝わればこの街で生きていけますか?
きっとこの街を出て行かざるを得ない子もいますよ。」


「それに硝子さんもです。
恐らくですが彼女も近日中に学校を転校しなければならないはず。
この子には何の非もないのにそうなった原因はなんですか?
キミがくだらないイジメを行ったからじゃありませんか。」


右京からの説明で石田は自分の悪戯が何をもたらしたのかようやく理解できた。

まさかここまで大事になるなんて…

最初は些細な理由だった。いつもみんなの足を引っ張るだけの硝子を懲らしめようとした。

それが思いの外みんなにウケたので調子に乗ってしまった。

だがこんなことになるなんて思いもしなかった。



「確かに竹内先生や6年2組の児童たちにも問題はありました。
ですがそんな彼らの負の感情に火をつけたのは誰ですか?
それは石田くん、キミですよ。
キミのイジメがここまで事態を混乱に貶めてしまったのですよ。」


「勘違いしてほしくないことですが今回僕たちはキミを助けたわけではありません。
本来ならキミだけが責任を取らされてこの件は終わるはずだった。
その方がキミにとってはまだマシだったはずです。
何故ならここまで被害が及んだのですから…
これからキミは
6年2組のクラスメイトたちや担任の竹内先生に恨まれることを覚悟してください。」


右京にそんなことを言われて石田の心にズシリと罪悪感が伸し掛った。

これはある意味、石田に課せられた罰であり明日になればきっと学校で騒がれるだろう。

それで自分はどうなるのだろうか?当然このまま何事もなく済まされるはずもない。

きっと誰もが自分にこの責任を取れと訴えるはずだ。

だが…そんなこと…出来るはずがない…

自分は単なる小学生。何の責任も取れないガキだ。

足元が震えて覚束無い。胃から何かがこみ上げて吐き気がする。

これならまだ島田たちのイジメを受けていた方がマシだとそう思えた。

そんな石田だがふとある疑問が過ぎった。


「………だったら何でなの?」


「はぃ?」


「何で俺を助けたの?」


そう、今朝の公園でイジメられていた石田を助けたのはこの右京と神戸だ。

こんなことになるのなら何で助けた?そう尋ねた。



「先程も言ったように僕たちはキミを助けてはいません。助けたのは硝子さんですよ。」


石田を助けたのは未だに自分の手を引かれながら泣き続けている硝子だと伝える右京。

そこで石田はようやく隣にいる硝子に振り向いた。

自分のせいでイジメを受けた西宮がまさか助けてくれたなんて…


「思えばキミと硝子さんには共通点があった。二人とも父親がいないことです。」


子供たちに父親がいないこと。

それを言われて母親である八重子と美也子は思わずお互い目を背けた。

こればかりはさすがに大人の問題であり子供には関係のことだ。


「キミと硝子さんのちがいなんて障害があるかどうかです。
本来ならキミこそが硝子さんの理解者になれたはずだった。
キミが硝子さんを受け入れればクラスの子たちともうまくやっていけたかもしれない。
こんな醜い事態に陥ることなど決してなかったはずです。」


そのことを聞かされて石田はかつて植野に言われたことを思い出した。

名前が似ていると…

将也(しょうや)と硝子(しょうこ)

その時は少し名前の読みが似ている程度だろと聞き捨てていた。

だが実際は自分たちの境遇が似ていたことに石田は少しだけ驚いた。



「最後にひとつだけ言っておかなればならないことがあります。
石田くん、それに八重子さん。お二人は硝子さんが声を出せない。
何も伝えることが出来ないと思っていますね。」


「だって西宮は耳が…」


「そうよ。そのせいで硝子は声が出せないのよ。」


「そんなことはありませんよ。
彼女は正しい声を出せませんが我々と異なる声を出せることが出来ます。
それが手話でした。」


石田は硝子と出会ってから彼女がずっと手話で語りかけていたことを思い出した。

確かに硝子は手話を用いて自分たちとコミュニケーションを取ろうとした。

だが…自分たちはそれを拒絶した…

理由なんて単純だ。面倒くさかったからでしかない。

硝子一人のためにそこまでやりたくないと自分を含めた6年2組のみんなが思った。

けれど声が伝わらない硝子はそれ以外に何かを伝えることなど出来なかった。

硝子のつらさを知っていれば決してそんなことは思わなかったはずなのに…


「硝子…」


そんな後悔に打ちひしがれる石田と同じく

母親の八重子もまた手話を覚えなかったことに後悔した。

ずっとこの子のためを思って頑張ってきた。

自分の意思を伝えられない哀れな子だと思って…

けどそうじゃなかった。

硝子にもちゃんと意思がありそれを伝えることは出来たはず。

それが伝わらなかったのか…自分が娘の障害に目を背けていたから…

夫と別れる原因となった硝子の障害をずっと疎ましく思っていた。だから…

今頃になってそのことを悔やむ八重子と石田。

そんな時、硝子が石田の前で手話を用いてこう語りかけてきた。



『石田くん、さっきはあなたのおかげで助かった』


『私を助けてくれてありがとう』


『それと…迷惑をかけてごめんなさい…』


手話のわからない石田に右京がそのことを伝えてあげた。

その意味を知って石田はこの場で号泣した。


「ちがう…そうじゃない…」


「俺はお前を助けたんじゃない…お前が俺を助けてくれたんだ…」


「それなのに俺は…お前を傷つけてばかりだった…」


「お前は何も悪くないのに…痛い思いをして…」


「ごめんなさい…西宮…本当に…ごめんなさい…」


それから石田は何度も硝子の前で何度も謝り続けた。

それはきっと遅すぎる後悔なのかもしれない。

石田はこの先ずっと今回のことを引きずって生きていくはずだ。

しかしそれでも石田は硝子に謝ってみせた。

その光景を目の当たりにしてこれまで静観していた神戸が右京にこう問いかけた。



「杉下さん、本当にこれでよかったんですか。
正直僕たちが介入しなかった方がまだマシな結末を迎えたかもしれませんよ。」


「確かにそうかもしれません。
しかしこれは彼らが向き合わなければならない罪であり罰であった。」


「つまり真実に目を背くことは許されないってことですね。」


「そういうことです。
もしも僕たちが関わらなければ
竹内先生や他の児童たちは今回のことを近いうちに忘れ去るだけになる。」


「けどいずれ子供たちも成長して今回のことを振り返り反省するはずですよ。」


「確かにキミの言う通りになるでしょう。
いつか成長した子供たちが過去に硝子さんをイジメたことを悔やむ時がくるかもしれない。
ですがそれでは遅いのです。反省するのはいつかの未来ではなく今でなければならない。
彼らは今というこの時に反省しなければいけない。それが大事なんですよ。」


大事なのはいつかではなく今この時に反省すべきことだと右京は語った。

確かに今回右京たち特命係が関わらなければどうなっていただろうか?

子供たちは近いうちに

硝子や石田をイジメたことを忘れてこの出来事は風化していたかもしれない。

子供たちはこの先も自分の罪を認めることが出来ず、その行いに目を背ける。

そうなればまた同じ過ちが何度も繰り返される。

また今回のように立場の弱い誰かに責任を押し付け

最後には硝子や石田のようにイジメで被害に遭う人間が現れる。

そうなってからでは遅い。

だからこそ特命係は今回の件に関わった。

自分たち大人が

子供に教えることがあるとするのならそれは自らの行いに目を背けないことだ。

今回、特命係が6年2組のイジメ問題に関わる際に

神戸は当初からクラスの学級崩壊や西宮家の家庭崩壊を危惧していた。

その神戸の予想通り事態は最悪な展開を迎えた。

だがそれでもこの事実を明らかにしなければならなかった。

今回の件に関わる際、右京はこう言った。



『心を鬼にする』


その言葉通り、特命係は心を鬼にして今回の事態に当たった。

これは必ずしも円満な解決方法などではない。誰もが傷つき涙を流した。

それでも突き止めなければならない真実がある。

たとえそれが残酷な真実であったとしても…


――――

―――

――

これで本編は終わりです。あとはエピローグを残すだけになります。

乙、だけど、
ほぼ直感の感想だと、いや、いやいや、明らかにバランスおかしいだろ。
確かに石田はかなり重大で責任はとるべきだけど、だからこそどう見ても石田のやった事以上、
神輿にされたガキ相手に、止める側の馬鹿担任や勝手にノッて石田って尻尾切った他のクズ共の自爆分まで持って来られてもなあと。
まあ、実際に逆恨みされるから心構えもあるんだろうし>>1の意図も分かるけど
バランスがどっかおかしく見えたりキミを助けたのではないとか古畑じゃあるまいにぶん殴ったりとか
この杉下右京、何様だ。



2016年夏―――


「それでこの近くに美味しいナポリタンのお店があるんですよ。」


「そうですか。ナポリタンといえばキミの大好物ですからねぇ。」


あれから5年の歳月が過ぎた。

その日、右京は既に特命係を移動した神戸に昼食を誘われて街へと出ていた。


「ところで今度特命係に入ってきた新人くんはどうしたんですか?」


「冠城亘くんのことですか。警察学校で扱かれて大変だと泣き喚いていましたよ。」


「法務省のエリート役人が警視庁の一警察官に転職ですからね。前代未聞ですよ。」


「なんでもメガネの教官が特に厳しいとか…」


「ああ、鑑識の米沢さんが今年から警察学校に転任になりましたよね。」


彼らの話のタネになっているのは去年から特命係に在籍している冠城亘のことだ。

特命係にやってきた新人ということで冠城に興味津々な神戸だが…

さて、そんな話はさておいて神戸はあることを語りだした。

それは今から5年前に起きたとある事件のことだ。



「ところで杉下さん、5年前の岐阜県大垣市での事件を覚えていますか。」


「あの事件ですか。覚えていますとも…」


5年前、水門小学校で起きた

西宮硝子のイジメ問題により児童たちの殺人未遂まで発展したあの事件。

その後の顛末は以下のモノだった。

担任の竹内は一連の騒動が原因で退職へと追い込まれた。

硝子の補聴器損害を黙認していたことと自らもまたそれを破損させた行い。

さらに児童たちが起こした殺人未遂の責任を取らされての処分だ。

6年2組の児童たちは14歳以下の未成年であったためどうにか逮捕は免れた。

それでも子供たちは各家庭で容赦ない叱責を浴びせられた。

そして硝子の補聴器の損害金170万円についてだが…

当初のようにやはり石田が主犯であるという事実に変わりはない。

そのため石田一家が100万円を負担。

残り70万円を他の児童たちの親と竹内が折半という形で支払うことになった。

その際、植野に関しては八重子が負傷させたこともありその支払いは相殺。

当初はこの支払いに渋った様子を見せる家庭もあったが

自分たちの子供が

殺人未遂を行ったこともありどこの家庭も大人しく損害金の支払いに応じた。

ちなみに右京たちが出向いた西宮八重子の夫が犯した宗教詐欺についてだが

八重子の供述通りであったため、夫の証言が嘘であることが判明した。

それにより夫と義両親にはさらに偽証罪が課せられることになった。

まさに因果応報の報いとでも言うべきだろうか。



「あれから岐阜県警にいる知人に聞いたんですけど
杉下さんの予想通り6年2組の児童たちは何人かが転校していったらしいですね。
主に石田くんと一緒に硝子さんをイジメていた島田くんと広瀬くん。
それに殺人未遂の件で主犯扱いされた川井さんもその中に含まれています。」


「やはりそうなりましたか。
わかってはいましたがそれもまた仕方のないことかもしれませんねぇ。」


その後の詳細を聞かされて納得した様子を見せる右京。

右京自身これでよかったなどとは思ってはいない。

あの子たちも自分が犯した過ちを認めてしっかりと歩んでくれることを望むだけだ。

さて、そんな物思いにふける右京だがやはり気になるのはあの二人のこと…


「そういえば石田くんと硝子さんはあれからどうなったのですか?」


「実はそのことなんですけど…」


どうやら神戸が右京を珍しく食事に誘ったのはこれが本題らしい。

それから神戸は胸元のポケットから携帯を取り出して誰かと連絡を取ろうとしていた。

それから連絡先の主と繋がった時だった。



「あの…ひょっとして…神戸さんと…杉下さん…ですか…?」


その時、右京たちはうしろから誰かに呼び止められた。

ふと見回してみるとそこには一人の少年がいた。

ボサボサ頭で高校の制服を着た18歳くらいの少年だ。

右京自身、一瞬誰なのかわからなかった。

そんな右京に構わず神戸がその少年に声を掛けた。


「やあ、久しぶりだね。石田くん。」


「石田くんとは…あの…石田将也くんのことですか…?」


「そうですよ。実は彼から連絡があって今日東京に来てくれたんですよ。」


「お久しぶりです。石田将也です。」


神戸からこの目の前に居る少年があの石田が成長した姿だと聞かされて右京は驚かされた。

これがあの石田かと…

かつて自分たちが遭遇した石田は

傷つきボロボロでそれに自らの行いを認められずにいた弄れた少年だった。

それがまさか今ではこんなに成長した姿で現れるとは…

そんな石田のうしろには一人の少女が隠れていた。

茶髪のロングヘアをなびかせた容姿の整った石田と同い年くらいの美少女。

よく見ると耳には小型の補聴器を付けていた。まさかこの少女は…



「西宮、覚えてるだろ。杉下さんに神戸さんだよ。」


石田に促されてようやく自分たちの前にひょっこり姿を現したのはあの西宮硝子だ。

まさかこの二人が見違える程…成長を遂げるとは…

さて、再会を果たした彼らだが石田はなにやら手話を用いて硝子と会話を行っている。

それにしても石田の手話だがどうにも手馴れた動作だ。

まるで何年も掛けて覚え込んだモノに思えるが…


「石田くん、キミは手話を覚えたのですか?」


「はい。あれから色々とありましたから…」


色々とあった。たった一言の返事だがその言葉には重みがあった。

あの後、石田にもつらいことが多々起きたはずだ。

自らが招いてしまった愚行とはいえ散々な日々だったはず…


「それでも西宮が居たからここまでやってこれました。
西宮がいなかったらきっと俺は今でも腐っていたはず…だから…」


隣で心配そうに見つめる硝子に大丈夫だと手話で語る石田。

その様はまるで仲の良い恋人同士のように見えた。

そんな幸せそうな石田に右京はあることを問いかけた。

それは5年前に聞きそびれたある質問だ。



「実は聞きたかったことがあります。
5年前、公園の水場でキミたちと初めて出会った時のことです。
あの時キミは硝子さんの筆談用のノートを堅く握り締めていた。
当時のキミにしてみればあのノートは忌まわしいモノだったはず。
それを何故大切そうに持っていたのですか?」


それが右京からの質問だった。

確かに当時あのノートは6年2組の児童たちの悪質な落書きに塗れたもので

本来の用途であるクラスの子たちと仲良くするための役割を果たせていなかった。

それを何故石田はあの時大切そうに握り締めていたのかがどうしても引っ掛かっていた。


「それは…あのノートが…水場に捨てられていたからです…」


「捨てられていたというと…つまり…島田くんたちが故意に捨てたのですか?」


「いや、そうじゃなくて…捨てたのは西宮自身でした…」


5年前のあの日、石田が右京たちと出会う直前のことだった。

一人で寂しく学校へ登校しようとした石田は

硝子が筆談用ノートを公園の水場に捨てているところを見かけた。

ずぶ濡れになりボロボロと化していた筆談用ノート。

それを石田は水場から引き揚げようとした。

それを同じく登校中だった島田たちに見つかりイジメられていたのが事の真相だった。



「硝子さん、何故自分からノートを捨てたのですか?」


右京の問いに硝子は手話を用いてこう答えた。

当時の硝子は母親の期待に応えるため、

また自身も友達が欲しくて

筆談用のノートを使ってクラスの子たちとコミュニケーションを取ろうとした。

だがその結果は右京たちも知るように散々なものだった。

ノートには当時の石田をはじめクラスメイトから悪質な落書きをされるだけで終わった。

それでわかった。自分には友達を作ることなど決して出来ない。

当時、母が自分に望んでいた『普通』を手に入れることなど無理だ。

だからノートを捨てた。そのことを諦めてしまったから…


「俺は…西宮がノートを捨てるのを偶然見ていた…」


「あの頃の俺は自業自得だけど西宮と同じくイジメを受けていました。」


「でもノートが捨てられるのがなんとなく嫌だった。だからノートを拾ったんです。」


それは単なる偶然だったのかもしれない。

もしも硝子のイジメが

微々たるもので終わっていたら石田が筆談用のノートを手に取ることはなかった。

つまり硝子が諦めていたノートによって築かれるはずだった誰かとの繋がりは

同じくイジメを受けていた石田の目に止まったことで拾えてもらえた。

皮肉なことかもしれないがあのノートは硝子が誰かと繋がりを得る役割を果たせていた。



「あの後…何度も落ち込むことがありました…
勿論その理由の大半は俺がガキの頃にバカやらかしたのが原因です…」


「昔は過去に戻れるならあの頃の俺を殺してでも止めたいと何度も思った。」


「けどそれでも俺は西宮に出会えた。」


「西宮と出会っていなければ今でも頭の悪いクソガキで終わっていたかもしれない。」


「だからあのノートは今でも俺たちの大切な宝物です。」


「あのノートのおかげで俺は本当の西宮と出会えたから…」


それが石田とそれに硝子の言葉だ。

かつて二人はイジメの被害者と加害者。障害者と健常者であり相容れない関係だった。

それが今では互いを思いやる存在へと変わった。これは素晴らしいことだ。

二人に芽生えた絆を思えば

どうやら当時は行きがかりであったとはいえ

特命係が硝子と石田のイジメに関わったことは無駄ではなかったようだ。



「石田ー!早く来なさいよ!」


「そうだぞー!姉ちゃんも!モタモタしてると置いてっちゃうぞ!」


そんな時、誰かが二人に声を掛けてきた。

振り返ってみるとそこには

石田たちと同い年くらいの黒髪の少女と中学生くらいのボーイッシュな少女。

それに…


「こんな都会ではぐれたら大変でしょ。」


もう一人は硝子の母親である八重子だ。

当時と比べて些か老け込んだように見える八重子。

話を聞くと先月に祖母が亡くなりそのことで塞ぎ込んでいたとか…

しかし石田たちが協力してくれたおかげで今では立ち直ることができた。

もしも石田が動いてくれなかったら八重子はまだ塞ぎ込んでいたはず。

それほどまでに今の石田は西宮一家に影響をもたらしていた。



「それではあちらのショートカットのお嬢さんは妹の結弦さんですね。」


「もう一人は確か…植野さんだね。」


かつては不登校であった妹の結弦は活発な少女へと変貌を遂げていた。

しかも5年前は石田に対して憎たらしげに睨みつけていたのがどうだろうか。

今では彼を義兄だというかのような扱いになっている。

それに植野も当時と比べると口調が柔らかくなった。

どうやら石田と同じくこの二人も5年間で色々と変わったようだ。


「ところでみなさん今日はどういった用事で東京を訪れたのですか?」


「実は西宮と植野が地元を離れてこっちに上京することになったんですよ。」


石田に事情を説明してもらったが

硝子は来年からこの東京の美容師の専門学校に、

植野もまたこの東京にある服飾の専門学校へ通うことが決まった。

今日は硝子と植野が一人暮らしする部屋を家族と一緒に探しに来たとのことだ。

どうやら硝子と植野は地元を離れて都内で一人暮らしを始めるらしい。

この子たちはもう子供ではない。来年から19歳になり独り立ちする時期だ。

石田は地元に残るようでそんな二人をどうにも寂しそうに見つめているのだが…



「何を言ってるの?石田くんもこっちで暮らすのよ。」


「え?おばさん…でも…俺は…」


「諦めろよ石田!
もう石田のおばさんが姉ちゃんと同じ学校にお前の願書送ったんだぜ。観念しろ!」


「いや…俺は…」


「こっちで硝子に変な虫が付いたら大変でしょ。だからこっちでも支えなさい。いいわね。」


「石田!こっちでもよろしくね!」


どうやら石田自身も知らないうちにこちらの専門学校へ願書を出されていたらしい。

そのことを今になって知らされたわけだが…

そんな石田たちを微笑ましそうに見つめる右京たち。

その光景は彼らの記憶にあった5年前とは余りにも異なるものだった。



「もうあの子たちのことを心配する必要はなさそうですね。」


「そうですね。石田くんと硝子さんはお互いが通じ合っているみたいですから。」


「そう、あの二人には互いの心が通じ合える『聲』がある。
確かに硝子さんの耳に普通の声は届かない。それでも硝子さんにも発せられる聲がある。
それは人とはまったく『異なる聲』の形があるのですから。」


硝子の耳が聞こえないのは不幸な出来事だった。

それでも硝子には支えてくれる人たちが、理解してくれる人たちがいた。

母の八重子であり妹の結弦でありそしてこの石田でもあった。

彼らは硝子の聲をわかってくれた。

恐らくここまで来るのに右京たちには知ることのない物語があったはず…

それは果てしない苦労と挫折の連続だったのかもしれない。

それでも諦めずに彼らは今の繋がりを築くことが出来た。

去り際、石田と硝子が立ち去るのを見送りながら右京は石田に向かってこう伝えた。






石田くん、キミは立派になりましたよ――――。





end

これでこのssは終わりです。
最後は駆け足で終えましたがとりあえずやるべきことはすべてやりきったのでご容赦ください。

>>155
まあ今回のssに関しては読んでくださった方の賛否両論はあると思います。
ちなみに私の結論から言わせるとこのssは別に石田の救済を行ったわけではなく
原作では石田だけが悪いということをみんなが悪いという結果に変えただけです
だから原作通り石田が悪いことはなんら変わりありません。

私も右京さんがよその子相手にビンタやったのはやりすぎかなと思いましたが…
けど原作だと補聴器騒動で石田は親や教師から怒鳴られはしたけどちゃんと叱られてはいないんですよね。
だからビンタくらいはやっておくべきかなと思ったまでで…
実際石田が行った補聴器騒動はどうあっても擁護出来る点が一個もないしね

乙でした、楽しませてもらいました
その上で、最後にまとめて書かせてもらうと
個人的な感じ方「相棒」観が多分に入ってると思うけど、自分が違和感覚えたのはこういう事だと思う
起きた事は満遍なくで中心人物と「相棒」コンビを中心に見せた結果、具体的には八重子と石田に変に辛く見える作りになってて、
理屈で言うと「責任」と「原因」の区別ついてるか? って印象を与えてる
もう一度言うけど、起きてる事を満遍なく杉下右京が触った結果、右京自身も言ってる通りの総懺悔状態になって
根本的に、より以上に悪化させた連中も均等になる分、メイン人物の罪が理屈よりも一段重く見える形になってる訳
自殺未遂から殺人未遂って問答無用の破局が無ければ天秤が八重子にガクンと、
その後は石田に無駄に悪化した分までごっそりとってのがドラマチックな形で
「聲の形」は主役がいて現実の延長で普通の人達がこうなる、っ、むしろ理屈が通じないのも現実の内ってドラマを見る作品だけど
杉下右京と言う論理的な「賢者」の裁定としてはどこかバランスがおかしく見える
その辺り、「聲の形」に引っ張られ過ぎたか、極端に言えばガワと言うか作者のアイコンって言う印象が強くなる

それから、もちろん杉下右京が例え悪人相手でも、まして子どもに手を上げるのは普通には見かけない
単に作中でやらないと言うだけじゃなくて、憤怒辛辣哀れみの表現の方が余程痛いし怖い
加えて、むしろ君であっても助けなければならないと言う事と君は責任を取らなければならないと言うのが警察官であり矛盾しない
特に子ども相手なら、現実は現実としながらも本人がやっただけの責任を論理的に釘を刺す方が杉下の流儀だし十分厳しいものに思える
自分でも何処まで正しいか分からない感想垂れ流したけど、全体としては見ごたえのある面白いssをありがとう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年06月26日 (月) 06:10:24   ID: GJXimN4u

一番殴んなきゃいけないのはどう考えても母親と校長だろ
ガイジの母親で苦労しているはずだからなんて同情はいらないよ
生き地獄味わっていたのは娘なんだから
手話すら覚えない母親の何が苦労なのかと

2 :  SS好きの774さん   2017年07月05日 (水) 21:54:36   ID: tEGEUfj-

大人全てが狂っているのが原作
壮大なカタルシスのためにそうさせたまん作者

3 :  SS好きの774さん   2020年03月04日 (水) 20:37:41   ID: Y5QutSta

1番の奴、ガイジという不必要な蔑称使って恐いよ。 ていうか恥ずかしくないのか?

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