ロコ「ロコが創作する理由」【ミリマス】 (25)

仕事が一段落したところでPCのキーボードから手を放し,グッと伸びをする。

ふとソファの方を見るとロコが画用紙に向かってなにやら描いていた。

P「ロコ,夜も遅いしそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか? 事務所に残っているの俺たちだけだぞ」

ロコ「もうちょっとだけ待っ……ウェイトしてください。今ちょうどロコのクリエイティブなマインドが燃え上がってるところなんです。今このフィーリングをアートに落とし込めるのはこのモーメントしかないんです」

特徴的なしゃべり方をするこの女の子の名は伴田路子。

アイドル活動に取り組む中で同時にアーティストとして創作活動にも熱心に取り組んでいる。

アーティスト名はロコ。アーティスト名で呼んでほしいようなので本人の希望にそってロコと呼ばれている。

作業を続けるロコをなんとなく眺める。

うん,アイドル活動でも創作活動でも何かに打ち込む姿は見ていて気持ちがいい。

たまには労ってやるか。

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P「ほい,お疲れさん」

邪魔にならないところにお茶を置く。

ロコ「わ! ありがとうございます!……ただロコの両手は絵の具でダーティしていて,今コップがハビングできないんです」

P「ならどうしろってんだ?」

ロコ「飲ませてください,ほらっほらっ」

ロコが口を突き出してくる。可愛いのにいちいち行動が残念なんだよなぁ。

P「……気を付けて飲めよ」

ロコ「あっつ!!!」

P「うん,手ェ洗ってきて自分で飲もうな」



P「俺もここでコーヒーでも飲んでいいか? 自分の分も淹れてきたんだ」

ロコ「ウェルカムです」

ロコの横に座らせてもらう。

P「……」

絵を描いているロコの横顔を眺めていると,俺の視線に気づいたのかロコが聞いてきた。

ロコ「ロコの顔に何かついてます?」

ほっぺたに緑の絵の具が付いてるがそこはスルー。かわいいので。

P「何で創作活動をするのかなって」

ロコ「ラディカルなクエスチョンですね。……うーん何でと言われても」

質問があいまい過ぎたか?

ロコ「例えばプロデューサーが何でブレスをするのか? って聞かれたらなんて答えます?」

P「息のことか? うーん……当たり前というか……しないと死ぬだろうし」

ロコ「ロコがアートが創り続けるのもそんなセンシティブです」

P「ふーん……」

しないと死ぬから。案外アーティストってそんな感覚なのか。

P「じゃあ創作をするきっかけとか覚えてたりする?」

どんな有名アーティストも生まれながらにして創作にふけってたことはあるまい。多分……。

ロコ「ロコズシスターがアーティストですからね。インフルエンスは受けていると思います」

なぜかロコをもっとマッドにした強化版ロコが浮かんできた。

ロコ「あとは……自己表現のためですかね」

P「自己表現?」

ロコ「イエスです。プロデューサーもグラッドとかサッドとか……」

P「すまん,今だけはロコ語少なめで頼めるか?仕事疲れで頭働いてない」

ロコ「仕方ないのですね……ロコナイズされた言語の方が気持ちをエクスプレスできるのですが……」

ロコ「ロコの気持ちを表現できることができるのはアートだけだと思っています」

P「気持ち?」

ロコ「はい,うれしいって一言で言ってもちょっとだけうれしかったり,ベリービッグにうれしかったり,いろいろありますよね」

P「まぁ」

ロコ「もしかしたら……今の気持ちにぴったりの言葉も見つかるかもしれません。でもロコはたくさんの言葉は知りません」

ロコ「だから今の気持ちをアートに表していきたいんです」

P「なるほどな」

ロコのアートをのぞきこんでみる。真面目に話してくれたロコには申し訳ないが,様々な色の絵の具で画用紙に書き殴ったようにしかみえない。

うーんと首を捻っていると,ロコが思いがけない言葉を言ってきた。

ロコ「大丈夫です。ロコの気持ちが全部理解できなくても……。そもそもロコも一生懸命あれがいいかな……これでいいかな……って考えながらちょっとずつ進んでいるのです。それを一目見ただけで分かる!て言われちゃうと,ちょっと違うかなって」

P「……」

ロコ「ロコ自身も自分の気持ちがうまく分かってないかもしれないですし。ときどき美術展に行くのですが,ロコも他のアーティストさんのアートがあんまり理解できないときもあります」

ロコ「それでもロコは考えてみるのです。この線はどういう気持ちが込められているんだろう,何でこの色を使ったんだろう……この余白は何を表しているのだろうって」

P「なるほど……。じゃあ俺がロコのアートを見たときもそんな感じで見てみようか」

ロコが驚いたように顔をこちらに向ける。

変なこと言ったか?

ロコ「それは……それはとってもうれしいです!ベリーベリーグラッドです! プロデューサーはそこまでしてくれるんですね」

ロコがへにゃへにゃしている。両手で顔を覆っているけどまた汚れるぞ。

P「そんなうれしいか?下手したら間違ってるかもしれないし」

ロコ「間違っててもいいんです。プロデューサーがロコアートをみてロコの気持ちを考えてくれるなんて……恥ずかしいけどうれしくて……あー!ってなって,うー!ってなります。今,この気持ちを表したアートをクリエイティブしたくなってきました!」

P「あはは……そんなに気持ちを分かってほしいんだったらもっと大衆向けに描いてみるとかさ」

ロコ「うーん……そこは難しいところ何ですよね。ホントは自分は描きたいことだけをする!っていうのが理想なんですが……正直なところ頑張ったから評価されたいなって気持ちもなくもないかなって」

P「それはあるだろうな」

ロコ「はい。でも……人が上手と思う絵と心が動かされる絵って違うと思うので……ディフィカルトです」

ロコ「でもプロデューサーがロコの気持ちを考えてくれるというなら,次の一作はプロデューサーのためだけに描いちゃいたいです」

P「世界にロコズブランドを展開するんじゃなかったのか?」

ロコ「それはそれ,これはこれです」

ロコ「プロデューサーがプロデューサーでよかったぁ……」

P「そんな大げさな……俺はアートの技術を教えたりできないからさ」

ロコ「ロコはプロデューサーにアートのスキルを教えてほしいわけではないんです」

P「そうなのか」

ロコ「どう言えばいいのかな……スキルがあるからといってもクリエイティブなアートが完成するわけではない……みたいな」

P「……言葉をたくさん知ってても面白い小説がかけるとは限らない,みたいな?」

ロコ「! エグザクトリィです」

P「じゃあ俺に何を求めてるんだ?」

ロコ「エモーショナルな体験でしょうか」

ロコ「ロコは多くのアートをクリエイトしてますが,ロコ自身もアートとしてアイドル活動に取り組んでいます。アイドルとしての得た経験がロコのブラッドになりミートとなるのです」

P「……俺はロコにそんな体験をさせてあげられてるか?」

ロコ「オフコースです!アイドル活動に取り組むからこそロコのアートがより進化し,アートが進化するからこそロコのパーフォーマンスもアップします。相乗効果ってヤツです」

P「はえー,アーティストが考えることってすげえな」

ロコ「ロコは人間はどこかでクリエイティブな活動をやって生きているとは思ってます。今日プロデューサーがつけてるネクタイもこのシャツに合うかな,気分に合うかなって考えればアートですし,今日食べるご飯もアートの一部なんです」

P「言われてみれば……ただ俺は作品を自信をもって完成させたことない」

ロコ「小学生のとき夏休みのホームワークで絵や作文はでませんでした?」

P「あったけど……やっつけ仕事だな。あとは親が勝手に作ったり。親の方が熱中してしまってそのまま入選したときは何とも言えない気持ちになったな」

ロコ「プロデューサーは一生懸命創作した経験はないんですか?」

P「……」

ある。

小学生のときの記憶。

多分,思い出したくなくて封印した記憶。

一生懸命かいた読書感想文を字が汚い,せめて「、」をつけろと親に一蹴されたこと。

一生懸命かいた漫画キャラのイラストを勇気を出して見せたら,下手だと言われたこと。

授業中ふと見た友達の絵が信じられないぐらいうまかったこと。

漫画のイラストがうまくて人気者になってた友達のこと。

ロコ「その顔は……あったんですね?」

P「かもな。忘れちまったけど」

P「なあロコ,自分より絶望的に創作がうまい人の作品をみたことがあるか?」

ロコは普段はよくわからないものを創っているが,創作自体はすごくうまい。

ロコにはこんな気持ち……分からないだろうな。

ロコ「ありますよ」

……えっ?

ロコ「ロコよりずっとずっと上手い人たちのアートを見たことは何回もあります。でも……そのとき絶望したとしても,気付いたら筆をとっていました。とにかくクリエイトが誰よりも好きなんです。ロコは……この道を進んでいくしかないんです」

P「強いな,ロコは」

ロコ「そうなんですかね」

P「もしアイディアが枯れたとしたら?」

ロコ「ロコズアートが次のロコズアートを生むんです。アイドル活動を続ける限り,アイディアがなくなることはありません。常に次の一作がロコの最高傑作になると信じています」

P「……そっか」

ロコ「あとから見れば,ああすれば良かったなぁって反省することばかりですけどね」

ロコがニカッと笑った。

P「なら俺も何か創ってみるかな」

ロコ「ホントですかっ!?さすがはロコのパートナーです。創作仲間が増えることはそれはそれはうれしいですっ」

P「みせないけどな」

ロコ「きっとみせたくなりますよ」

P「そうかな」

ロコ「アリストテレスは言ってます,アートは人に見せたくなるものをいう」

P「ロコが頭よさそうに聞こえる……!」

ロコ「ロコは創作分野においてはインテリジェンスを発揮します」

ロコ「それはさておき,記念すべきプロデューサーの創作再スタートはロコとのコラボでいきませんか?」

P「コラボって前も言ってたけど……アーティストにとって他人に筆を入れられることってすごく嫌いそうだけど」

ロコ「アーティストは頭が堅くてはやっていけません。……ロコにとってプロデューサーとのコラボはとても大きな喜びなんです」

ロコ「さぁ,今の気持ちを忘れないうちに」

ロコに筆を渡され,改めてロコのアートをみる。

さっきまでは書き殴ったようにしか見えなかった作品だったが,今みると分かる気がする。

ロコの不安と喜びが……。

では俺も一筆入れさせてもらおうか。

ロコに対する思いに色を重ねて。

おわり

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