【モバマス】プロレスごっこ (17)


タイトル詐欺で初投稿です

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「かっはぁ…!」

鈍い音がリング上にこだまする。

中野友香の放った拳が、見事Pのみぞおちへと入った。

「うがっあはぁ…!」

たまらずPはその場に膝から落ちる。

『プロデューサーダウーーン!!友香選手のパンチは一発でPをアウトにするのか!?』

実況席の姫川友紀の声が会場内にやかましく響き、そしてそれに呼応するように観客席からは声援がリングに向かって飛ぶ。

「これっくらいで…アウトになんかなるかよ…!」

よろよろとPは立ち上がった。その息はまだ荒々しい。

「OK?」

「もちろん…!」

レフェリーの木村夏樹に意思表示。

大丈夫だ、まだ戦える。

「流石です…私の拳をモロに受けて立ち上がった人間はそうそういません。」

「あいにく、タフさだけがとりえなんでねぇ…!」

「…ファイ!」

『さぁー試合再開だー!』

友香は、次の一撃のためにまた拳を構える。

「次で終わらせる…!」

「何回だろうと受けきってやるよ…!」

セコンドにちらりと目をやると、凛がタオルを用意していた。

Pは「そんなもの必要ない」と、手をひらひらと振りジェスチャーする。

「――ッ!」

その一瞬の隙をつき、友香が右のストレートをPに向かって放った。


・・・
・・


話は、数日前にさかのぼる。

きっかけは、事務所でアイドルたちの女性用下着の盗難事件が多発したこと。

「俺じゃねえ!俺は悪くねえ!俺は悪くねえ!」

そして、無実のプロデューサーが犯人としてやり玉に上げられることとなった。

「大丈夫ですよ、私はプロデューサーさんが犯人じゃないって信じてますから。」

「ちひろさん…ありがとうございます!」

しかし、少数のアイドルは別として、千川ちひろは彼が犯人でないと信じていた。

それもそのはず、犯人は彼女だからである。

彼女は女性用下着をバレないようにアイドルたちから盗み出し、一カ所に集め、そして自分が発信源だとバレないように「プロデューサーが盗んだのでは?」という噂を流した。

「でも…一度失った信用は簡単には戻りませんよ」

どうしてそんなことを彼女はしたのか?

「そうなんですよね…」

すべては。

「ところでプロデューサーさん」

「何ですか?」

「『プロレスごっこ』って知ってます?」

Pをプロレスごっこの舞台に引きずり込むため。


プロレスごっこ。

この言葉を聞き、卑猥な意味を思い浮かべるものも多いだろう。

しかし、ちひろの場合はそうではない。

血みどろの決闘、それがプロレスごっこである。

本来のプロレスには様々なルール決めがあるが、『ごっこ』と名のつくこれにはない。

ルールはたった三つのみ。

『武器は使うな』『一対一で戦え』

『一度始まるとどちらかが戦闘不能ないし、負けを認めるまで勝負は終わらない。』

それが―――プロレスごっこ。


「今度、プレイベントを行うことになったんですよ」

真っ赤な嘘である。

ちひろは数年前から、秘密裏に建設した事務所の地下闘技場で『プロレスごっこ』による賭博を運営していた。

だがしかし、顧客らはマンネリ化を感じ、業績がかつてのようには行かなくなっていた。

そこで、これまでのような業界内の負債者だけでなく、事務所内のアイドルもプロレスごっこに参戦させることにした。

しかし、アイドル同士の殴り合いは受けるかもしれないが後に響く。

ならば、決闘ではなく一方的な暴力を観客に届けるとしよう。

決闘を心の底から臨んでいる客には申し訳ないが、血を見たいという理由だけでプロレスごっこを観戦しに来る奴らが今回はターゲットだ。

だから、Pという絶対に反撃しないサンドバッグを相手役として用意することにした。

「これに出場して、その場で身の潔白を証明しましょう!」

なかなかにアホな作戦である。

常人なら、どうやってプロレスごっこで誤解を解けというのか、至極当然の疑問を持つだろう。

「わかりました…それで誤解が解けるなら!」

しかし、Pは了承した。

彼はここまでに冤罪のせいで心が疲弊しきっており、正常な判断を下すことが難しくなっていたのだ。

わらにもすがる―――まさしく、その言葉通りに彼は出場を了承した。


そして翌日。

「プロデューサー、格闘技の大会かなにかに出るんだよね、そこで下着を盗んだ懺悔をするとか」

「いや、懺悔じゃない、潔白の証明のためだ」

「…そんなことしなくても、私はプロデューサーが犯人じゃないって信じてるよ」

「凛…?」

「プロデューサーは泥棒なんかしない。断言できる」

「…ありがとう!ありがとう!」

「ちょ、泣くことないじゃん!」

渋谷凛は、プロデューサーが下着泥棒ではないと信じていた。

それもそのはず、彼女だけ下着を盗まれていないのである。

下は9歳から上は31歳までのパンツが、AAカップからKカップまでのブラが、すべからく盗まれた。

ただ、渋谷凛のものを除いて。

同じユニットである神谷奈緒と北条加蓮が下着がない、下着がないと焦っている中、自分のものだけは洗濯され、綺麗にたたんでロッカーに返却されていた。

ご丁寧に『なんかちがった』という小馬鹿にしたようなメモも挟んであった。

彼女は信じたくなかった。

「なぜ私の下着はプロデューサーに盗まれていない?」

彼女にとってはひどく辱的なことだった。

佐久間まゆや五十嵐響子、アナスタシア、城ヶ崎美嘉らはPに下着が盗まれたことで少し悦んでもいる。

「私は彼女らと違ってプロデューサーの性の対象外なの?」

彼女は信じたくなかった。

だからこそ、Pが下着泥棒ではないと信じた。

しかしそれもまた。

「だったら凛ちゃん」

「ちひろさん?何?」

「プロデューサーのセコンドになりませんか?」

ちひろの手の上のこと。


セコンド。

格闘技試合における、選手の介添人のことである。

試合時に出場選手に付き添い、試合中のインターバルの時に選手に作戦を授けたり、汗を拭いたり、傷の手当てなどをすることが主な役目(Wikiより)。

また、選手が危険だと判断した際にタオルを投げ入れ、試合を中断させる権限も持つ。

ちひろはこの役目を凛にやらせることにした。

セコンドがPを下着泥棒と疑っている者は、この試合中断の権限を使わない恐れがある。

それは困る。

『商品』は長く使えるように大切に扱わなければならない。

セコンドはせめてPを下着泥棒と思ってない人間にしないといけない。

だから罠にかかりやすい、操りやすい凛の下着のみを盗まず、セコンドに仕立て上げることにした。

「セコンド…」

「少しの間ですけど、プロデューサーさんといっしょにもなれますよ」

Pには聞こえないように、凛の耳元で悪魔の囁きを。

これでよし。

「…やる。私、プロデューサーのセコンドになるよ」

「凛…!ありがとう!本当に本当に…ありがとう!」

これでサンドバッグは用意できた。

次は殴る役だ。


「え…私が?」

殴り役には、中野友香を選択した。

木場真奈美でもよかったのだが、それではPの体が持つかどうか怪しい。

それに、真奈美は操りにくい。

なら、正義感が強く、戦闘力があり、なおかつ操りやすい中野友香にしよう。

なに、彼女の中にある気高き正義の心をちょいと揺さぶれば簡単に頭を縦に振るだろう。

それに今回は彼女だけでなく、事務所のアイドルのほとんどが被害者だ。

他人のためという大義名分があれば、彼女は自分だけのためよりも簡単に拳をふるう。

「プロデューサーを、ちゃんとした人に戻せるのは友香ちゃんだけかもしれないんですよ」

「…!」

それに、プロデューサーも使えばもう勝ち試合だ。

「…わかりました。みんなの、プロデューサーのために、私は拳を使います」

これでよし。

これでいい。


あとは審判と実況だ。

あくまで『CGプロのイベント』という体を装う上では、両方ともCGプロのアイドルの方がいいだろう。

審判には木村夏樹がいい。

決して私情を差し込まず、両立の立場を保ってくれるだろう。

実況は姫川友紀が適任か。

『吐いて汚れた下着を処分してくれて助かったよ~!』

偶然だが、彼女はPに感謝している。

それに、騒ぐのが好きで、野球実況の仕事も何度かこなしたことのある彼女ならきっと場も盛り上げてくれる。

役者はそろった。

宣伝はせずとも、血に飢えた客(バカ)どもは必ず来る。

じゃああとは、盗んだ下着を売りに出すルートを確保しようか。

・・・
・・




・・
・・・

観客席にはCGプロアイドルたちと、かねてよりの常連客合わせて500人ほど。

その500人が、モロに鼻がつぶれる様を目撃した。

『決まったァーーー!!友香選手渾身の右ストレートが!プロデューサーの顔面にストラーーイク!!』

左足をしっかりと踏み混んで繰り出された友香の拳は、Pの鼻をとらえた。

「っっづう!」

たまらず鼻をおさえる。

「――っふ!」

そこを見逃さず、踏み出した左足を軸にして、後ろ回し蹴り。

「ぐうぇおっ!」

がら空きになったPの脇腹へ、友香のかかとが刺さり、そしてロープまで蹴り飛ばす。

『流れるようなダブルプレー!格闘乙女の名は伊達じゃなーい!!』

友紀の実況はこれを本気の決闘だと思い込んでいるためかノリノリだ。

それに乗せられ観客のボルテージも上がり、割れんばかりの完成と雄叫びが会場を飲み込む。

ちなみにこういうことが苦手なアイドル達と、年少組ははもうすでに帰った。

『倒れてしまったぞプロデューサー!ここで終わりかー!?』

Pはロープに跳ね返され、そのままうつ伏せになり、ピクリとも動かなくなった。

「…プロデューサーさん、これに懲りたら罪を償ってください。」

友香は踵を返し、自分が入場したコーナーへと戻ろうとする。



―――その数瞬後、客席からの歓声が消えた。

静寂。

『…あ、あぁっと!立ち上がる!プロデューサーはまだ負けていなーーい!』

それを打ち破ったのは友紀の実況音声と。

「まだだぁっ!!」

Pの雄叫び。


「!?」

「…はっ、はぁ、はぁぁ…!」

友香が振り向くとそこには、息を荒らし、鼻血を垂れ流し、脇腹を押さえながらも厳然として立つPの姿があった。

「OK?」

「応…!」

戸惑う夏樹に戦闘継続の意思を表示。

「な、なんで…?」

「まっだ…3発しか受けてないからなぁ…!あと359回…殴られるまで終われるかよ…!」

Pの声は歓声にかき消され観客席と、実況席には届かなかった。

しかし、リング上の友香と夏樹、そしてセコンドの凛だけがその言葉と意味を理解した。

下着盗難の被害者181人×ブラとパンツ合わせた2=362。

そしてそれから3を引いた数が359。

「プロデューサー…まさか…!」

そうそのまさか。

Pは今回、盗まれた下着の数の分だけ殴られることにしていた。


今日はここまでです、続きはまた

初投稿ですし、三人称も慣れておらず時間もかかりそうなので、前作までのまとめでもみてください
http://twpf.jp/vol__vol

すいません、有香さん誤字ってました

修正してあげなおします、これもう終わらせます

修正したものを後日改めて出すのでこれはHTML化の依頼を出し、ここで切ります
申し訳ありませんでした、以後気をつけます。

>>9
>決して私情を差し込まず、両立の立場を保ってくれるだろう。

両立でも意味は通じるだろうが中立の方がいいと思うよ

>>16
ありがとうございます、そこも修正したいと思います

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