長月「……私を、解体してくれないか」 長門「……」 (52)


――鎮守府内駆逐学校

香取「では皆さん。前回の宿題だった島までの最良ルートの答え合わせをしてから、今日の講義を始めたいと思います」

長月(宿題はやってきた。内容もまず問題ないだろう)

如月(宿題……?あぁ、あったわねそんなの……)

香取「一見ルートAが最短に見えるけどここは海流が読めないから、この島までの最良のルートは……」

長月(一見最短だが海流が読めないため最短ルートは異なる。そう、そうだ)

如月(それにしてもジメジメした季節になってきたわねぇ。髪が痛んじゃう)

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香取「~~以上の要因が重なった結果ルートBが晴天時の回答と言えます」

長月(ルートBが正解、と。想定通りだな)

如月(お昼ごはんどうしよう。久々に司令官にご相伴しようかしら)

香取「……では如月さん。今回の宿題の正解は?」

長月(……?ルートBだろう)

如月「フレンチ……イタリアン?ふふ、二人きりだと嬉しいわぁ……」


香取「……如月さん?もう一度 だ け 聞きます。今回の宿題の正解は?」

如月「……えっ!?あ、あらやだ私が答えるのね、ちょっと待っててくださいな。ええとテキストの77ページね」

長月(全く……如月は講義の最中いつも上の空だな、集中力が足りないんじゃないのか。あの様子、さては宿題もやっていないな)

如月(……)

長月「……聞こえるか如月。ルートBだ。早く答えろ」

如月「ルートFだと思います」

長月(な……)


香取「なぜそう思ったの?」

如月「今回の目的は物資を速やかに届けるルート選択です」

如月「しかし問題文から察するに火急の事態ではなく、また遠方への輸送となるため確実性も考慮すべきと考えます」

如月「更に今回はどの程度の時間で物資を輸送できるか相手方に事前連絡する必要がある事」

如月「加えて、出航時点では晴天ですが海域の天候急変の可能性アリと書かれている事」

如月「これらを総合していかなる天候でも安定して輸送日数が計算できるルートFが最良と考えました」


香取「はい、正解です。ポイントはしっかり問題を読む事でした」

香取「如月さんは安易な回答に逃げずよく考えられましたね、座っていいですよ」

香取「皆さんも、支持を受けた時はその内容を良く吟味するようにしましょう」

如月「……ふぅ。ありがとう長月ちゃん。さっきのがヒントになったわ」

長月「…………」

如月「……長月ちゃん?」

長月(……何故だ……)


――海上機動訓練

天龍「オラオラ避けろ避けろ駆逐共!ゴム弾だからってナメてっと痛い目見るぞ!止まんじゃねぇー!!!!」

皐月「へぇー、良く見るとこのゴム弾一つ一つに顔が書いてあってカワイイねっ!」

皐月「ホラホラ長月見てみなよ、あれとか司令官に似てるー」

長月「皐月!訓練中に遊ぶな!!死ぬぞ!!!」

長月(というか、この状況で何故遊べる!?何故見える!?)

皐月「えー?大丈夫だって当たらなきゃいいんだからさー」


天龍「ほーぅ皐月ぃ、随分と余裕みたいじゃねぇか……弾幕倍にすっぞコラァ!明日の千弾避けもお前だけノルマ二倍だ!!」

皐月「あはははははは!!!!楽しくなってきたね!!!!」

長月「ちょ、待て……ごふっ!?」

皐月「あっ!長月大丈夫?長月ー?」

長月「うぐぅ……」

長月(……痛い……鳩尾に当たった……)

天龍「オラ皐月ぃ!止まってんじゃねー!」

皐月「長月、痛かったら無理しないで武装解除して休憩エリア行ってきた方がいいよ。ボクはもうちょっと天龍さんと遊んでくるねーっ!」


――休憩エリア

龍田「あら長月ちゃん。もう休憩?どこかに直撃しちゃった?」

長月「すみません……鳩尾に……」

龍田「あらあら、それじゃあ休むのもしょうがないわね~」

長月「皐月達は……?」

龍田「あっちで元気にはしゃいでるわよ~」

龍田「天龍ちゃんも活きの良い子相手だと心底楽しそうで、ホント良い師弟関係ねぇ」


長月「……」

龍田「あら?別に長月ちゃんが落ち込む事ないのよ。単に性格の相性がいいってだけの話だから……あ、それとも技術的な話かしら?」

龍田「そうねぇ……長月ちゃんも、頑張ってるのは分かるんだけど。もう少し肩の力を抜いて全体を見るようにすればもっと伸びると思うなぁ~」

長月「……はい」

長月「努力、します……」

長月(……何故だ……)


――食堂

睦月「やれやれ……今日も訓練訓練で疲れたにゃし。然らばこの後は港のスゥイーツ店に乗り込み糖分養分幸せ分を補給すべきであるぞ……」

睦月「志共にする臣下たちよ、睦月の旗の元に集うにゃしぃ!皆で司令官を巻き込んで奢ってもらうのね!」

如月「臣下その1、すいさーん♪」

皐月「臣下その2!もっちろん、行くよ!」

菊月「臣下その3……だ。ふっ」

望月「臣下そのよーん。へっへっへ、おごりのケーキは甘いぜぇ?」

三日月「ちょっともっち!食べたらその分動かないと……あぁ行かないとは言ってないわ!私も行く!臣下5!」


睦月「うむ。これだけの臣下が集って睦月は満足であるぞ……時に長月ちゃんよ、汝も行かないかにゃ?」

長月「……いや。私はいい。遠慮しておく」

睦月「うぅむ、そうであるか。なら無理強いはしにゃしぃ、またの機会に誘うのね」

睦月「では臣下たちよ!執務室に突撃ーっ!!!!」

臣下「「「「「おーっ!」」」」」

長月「……騒がしいな」


長月(月々の給料は有限なんだ。甘いものなどに浪費してはいられない)

長月(そもそも部下たる私達が司令官にたかるなど言語道断だろう。何故みんな平然とついて行くんだ、良識はないのか?)

長月(司令官の気持ちを慮るべきだ。我儘でやっていい事ではない)

長月(……そのはずだ。私が正しい側のはずだ……)

長月(なのに……)

間宮「あらあら、長月ちゃんも行けばよかったのに。まだ間に合うわよ?」

長月「間宮さんまで……私に、そんな余裕はないんだ」

間宮「そう?私としては思いっきり食べて飲んで楽しむことも立派な若さの使い道だって思うんだけどねぇ」

長月(いいや。そんなはずはない。絶対に、ないんだ……)


――駆逐寮・長月の部屋

『今日はルート選定の宿題で間違えた。問題文の一部を見落としていた。もっと注意を払って問題を解く必要がある』

『機動訓練では皐月についていけなかった。鍛え方が足りない。もっと訓練する必要がある』

『睦月の誘いには乗らなかった。私にそんな余裕はないと思ったからだ』

『明日は今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 六月九日』

長月「ふぅ……」

長月(一日の終わりに反省日記を書くことにもだいぶ慣れてきたな……)


長月(そういえば、一月前は何を書いていたのだったか)

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 五月八日』

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 五月七日』

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 五月六日』

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 五月五日』

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 五月四日』


長月(注意力不足のミス。肩の力が抜けていない。効率が悪い)

長月(同じだ……ずっと、同じことばかり書いている。同じところで間違え続けている)

長月(その度に誰かに迷惑をかけて、誰かに怒られて、誰かに慰められて……)

長月(その度に原因を探り対策を講じている。なのに……何故……何故だ……)

長月「何故…………私は…………」

長月(駄目だ。後ろ向きになるな。躊躇うな。努力しろ)


長月(今日失敗したことはなんだ。原因はなんだ。どうすれば改善できる?)

長月(考えろ、考えろ、考えろ……!)




『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない』


――翌日

長月(あまり眠れなかったが……対策はきちんと考えた。今日はミスなく過ごせるように頑張らなければ……)

皐月「おっはよー長月ぃ!!」

長月「ああ、おはよう」

皐月「いやー昨日はホンット美味しい思いさせてもらっちゃった!今度は長月も来るといいよー……ってアレ?長月、目が真っ赤だよ?」

長月「あ、いや、気にしないでくれ。大したことじゃない」

皐月「そう?今日アレあるし寝不足は良くないと思うよ?ほら、香取センセ―の講義あたりで隙見つけてちょろっと寝ておいたら?」

長月「いや、大丈夫だ……」

長月(私が講義中に寝るだと?嘗めるな、誰がそんな不真面目な事をするものか!!)


――鎮守府内駆逐学校

香取「今回の問題は……」

長月(集中……集中だ……!)

香取「ここがBを用いて……」

長月(だ めだ ねて は 集中 しな ければ…… )

香取「で、あるから……ここ分かる人いるかしら?」

長月( )


如月(長月ちゃん、綺麗な姿勢のまま気絶したみたいに寝てるわね……起こすのも可哀そうだし、今日は私が頑張ろうっと)

如月「はーい!」

香取「あら如月さん。やる気があるのは良い事ですよ、今日の講義は重要な部分ですからね」

如月「がんばりまーす!」

如月(……後でノートの写しを長月ちゃんに渡してあげなきゃ)





如月「長月ちゃん、もう講義終わったわよ」

長月「 ぅ……? なっ!?」

如月「大丈夫よ、今日の分のノート私がとっておいたから。これ使って?」

長月(まずいまずいまずいまずいまずい眠ってしまった眠ってしまった眠ってしまった)

長月「い、いや……これは、私の、ミスだ。気遣いはありがたいが借りを作る訳にはいかない。なんとか、する」

如月「……別に、こんなノートの写し位で貸し借りなんて求めないわよ?姉妹じゃない」

長月「いい!とにかく……いいんだ!私はもう行く!」

如月「長月ちゃん……」


――海上機動訓練

天龍「前もって聞いとくぞ。今日体調が悪い奴は今の内に前に出ろ、試験は明日に回してやる。自己管理のなってなさを怒りはするが死ぬよりはマシだろ」

長月(……試験は、今日受けなければ……)

天龍「……よし、居ないな。良いんだな?んじゃ始めるぞ!」

天龍「今日はお待ちかねの千弾避けだ!避けきるまで帰らせねぇぞ!!」

皐月「っしゃこーいっ!」


長月(瞼が、重い……昨日の、対策を、対策を打たなければ……)

天龍「オラオラオラオラァ!!ケツに力入れて避けろォ!!!!!」

皐月「まだまだぁ!どんどん来なよっ!」

長月(そうだ、弾の、出所を、軌道を、予測して、全体を見て、力を抜い)

皐月「……長月前見てッ!危ない!顔!」

長月「 ……え」


――医療室

長月「ぅ……」

長月(ここは……)

天龍「起きたか、馬鹿野郎」

長月「て、天龍さん……」

天龍「……長月、お前寝てたろ」


長月「いや、私は……」

天龍「真っ直ぐ顔面に飛んでくる一番避けやすい弾がぶつかってこうなってんだ」

天龍「昨日までのお前は避けられてたし、喰らっても踏ん張れてたぞ。それとも、他に理由の心当たりでもあるのか」

長月「…………」

天龍「……いいか。寝不足はいい。体調が悪いのもいい。いや良かねぇが、最悪じゃねぇ」

天龍「俺だってなりたての頃は夜遊びに明け暮れて寝てばっかだった」


天龍「だがな。体調悪いなら悪い、今日は無理なら無理できちんと報告しろ。隠すな。どんな理由があろうとそれだけはやるんじゃねぇ」

天龍「なんでかは分かるよな?それをしたら最後、誰もお前の事を把握できなくなるからだ。助ける事もかばう事も出来ねぇ」

天龍「皐月の奴は、お前を庇えなかったって落ち込んでたぞ」

長月「……!」

天龍「いいか長月、刻め。最悪は一つだけ、死ぬことだけだ」

天龍「それに比べりゃお上にどれだけ怒られようが除隊処分になろうが大した事じゃねぇ。生きてりゃどうにでも挽回できる」

天龍「自分の命を守りたきゃ、良かろうが悪かろうがはっきり口に出せ」

長月「……すみませんでした」


天龍「分かったならいい、今日は部屋で寝てろ。明日もっぺん鍛えてやる」

長月「……はい……」

長月(今日は、昨日より良い日にならないといけないのに……)

長月(何故……何故こうなる……?)

長月(私は……何をやっているんだ……何をするべきなんだ……)

長月「そうだ……部屋に帰って、日記を書かなければ……」


――駆逐寮・長月の部屋

長月(……)

『今日は講義で眠ってしまった。機動訓練でも集中力を欠いた結果顔に直撃を受け、皐月や天龍さんに迷惑をかけた。総じて全く良い部分の無い一日だった』

『原因は睡眠不足なのでこれを改善するために今日は早く寝なければならない』

『明日は、今日の反省を踏まえてより良い日にしなければならない 六月十日』

長月「そうだ……明日は……良い日にしなければ……」


長月(出来るのか?そんな事が私に)

長月(昨日の反省点すら活かせなかった私に)

長月(天龍さんに迷惑をかけた私に)

長月(明日の事を期待できるのか?)

長月(私は私を信じていいのか?)

長月(どれだけの間同じミスを繰り返してきた?)


長月(どれだけの間立ち止まっていた?)

長月(いくつ見落とした?いくつ避けられなかった?何故もっと考えられなかった?)

長月(誰と比べて私の何が良いと言えるんだ?)

長月(今はどこだ?ここはいつだ?私は今何をしている?)

長月(いや……私がここにいる必要があるのか?)

長月(私は給料をもらっていいのか?)

長月(わたしは、ワタシは、私は)



長月(私は、ここに居ない方がいいんじゃないのか)


長月(そうだ。そうすれば天龍さんも皐月達才能のあるものにもっと時間を割ける)

長月(香取さんが如月にもっと力を入れれば将来は鎮守府の頭脳になるはずだ)

長月(睦月型も仲良しで一致団結できるだろう。皆毎日を輝かしく過ごすのだろう)

長月(龍田さんだって私に気を遣う必要もなくなる。如月もそうだ。的外れなアドバイスを受けずに済む)

長月(私の給料はもっと将来有望な駆逐艦に配分してやればいい。やる気が出るはずだ)

長月(人的資産を最大限に活用するためには……私はいなくなった方がいい!)


長月(そうだ!そうに決まっている!それが鎮守府の為だ!それが皆の為だ!それが解答だ!!!!)

長月(この目でこの窓から朝日を見る事などあってはならないんだ!!!!)

長月「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

長月(なのに)

長月(何故……それを認める事がこんなにも苦しいんだ……)

長月(……何故だ……)


長月「なぜ、だ……どうして、どうして私だけ、こんなっ」

長月「こんなに、うまく、生きることができないんだ……」

長月「誰か……誰か教えてくれ……」

長月「たすけて、くれ……」

今回はここまでです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年06月16日 (金) 19:31:52   ID: J5ffFK-p

解るわ

2 :  SS好きの774さん   2017年06月28日 (水) 17:50:39   ID: psn0xpZT

ゴメン、他人事に思えない。。。
これから、長月が救われる展開を…切に願う。

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