提督呼び大会 (51)



吹雪「すぅー………………」

吹雪「………司令ー!」


長門「……」

大和「……」

瑞鶴「……」

加賀「……」


提督「ん? どうした? 呼んだか?」ガチャ


長門「タイムは?」

大和「えーっと、19秒83ね」

瑞鶴「うーん、まぁこんなもんかもね」

加賀「今年は20秒切っているし、それなりに良い方ではないかしら」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496923322


吹雪「司令官、お疲れ様です!」

提督「お、おお。……何か用事でもあるのか?」

吹雪「いえ、特には!」

提督「……そうか。じゃあまたな」バタン



翔鶴「……普通でしたね」

赤城「タイムも平凡ならトークも普通。去年と何も変わらなかったですね」

霧島「しかし、この大会は吹雪さんのコールから始まるのがもはや伝統ですから」

蒼龍「ある意味安定感あるよね」

飛龍「アイスで言ったらバニラ味って感じだよね」

長門「可もなく不可もなく……まあ5点といったところか」

大和「これは私も5点かなぁ」

瑞鶴「同じく5点。これ以外につけようがないわよ」

加賀「そうね。私も5点にさせてもらいます」


吹雪 20点


吹雪「あ、あはは……。今年も20点かー……」

初雪「落ち込まないで。吹雪、頑張った」

深雪「でも毎年20点だぜ?」

白雪「やっぱり何か捻りを入れるべきかもしれませんね」

吹雪「うう……次回の参考にします……」

磯波「次は叢雲ちゃんの番ですね」

叢雲「ええ。まっ、見てなさい。吹雪の仇をとってきてあげるわ」

浦波「叢雲ちゃん、自信たっぷりですね」

白雪「叢雲ちゃんは優勝候補の強豪ですから」



長門「ふむ、次は叢雲か」

加賀「いきなり猛者が来たわね」

瑞鶴「さーてさて。その実力、拝見させてもらおうじゃないの」


叢雲「すぅー…………………………」

叢雲「……………あんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



長門「やはり十八番の女房コールで来たか」

大和「コールも大きい、伸びもいい……やるわね」

加賀「腕を組みながらの仁王立ちも高ポイントだわ。良い仕事です」


ドタドタドタドタ… ガチャ

提督「ど、どうした!?」


大和「10秒07。惜しい!」

瑞鶴「でも10秒の壁にここまでせまる記録って……なかなか見たことないわよ」

長門「古女房叢雲、ここにあり……というわけか」


提督「なんだ!? 何かあったのか!?」

叢雲「あれ、買って来てくれる? 今見たら切らしちゃってるのよ」

提督「……なんだそんな事か。わかった、仕事帰りに買っておく」

叢雲「そ、頼んだわよ」

提督「ああ。じゃ、俺は戻るからな」バタンッ



翔鶴「……でましたね」

赤城「はい。本人たちの間でしか通用することのない以心伝心トーク。その姿はまさに長年連れ添った夫婦そのもの」

霧島「一見淡白にも見える最低限の会話の奥に、何者にも断ち切れぬ強い絆を感じさせます。このコールセッション、ハイレベルですね」

蒼龍「んー、やっぱり貫禄あるね」

飛龍「あんなにちっちゃいのに」

大和「9点です。彼女のコールはもはや伝統芸能の域にまで昇華されてますね」

長門「ふむ……、私は8点かな。トークタイムに小さじ一つ分ほどのデレがあればまた違ったと思う」

瑞鶴「私も8点。確かに全体的にハイレベルなんだけど、実力はあるんだからエンターテイメントも意識して欲しい所ね」

加賀「6点にします」

瑞鶴「……えっ? それはさすがに低すぎるんじゃない?」

加賀「彼女の成長に期待して、という意味よ。叢雲にはまだまだ伸び代があると、私は信じています」

加賀「だからすでに完成された女房コールだけに胡座をかかず、もっと様々な方向性を模索して欲しいという意味での6点です」

長門「なるほど、更に上を目指し続けて欲しいというわけか。深い6点だな」


叢雲 31点


吹雪「叢雲ちゃんすごーい!」

白雪「さすが優勝候補! 私達の誉れです!」

叢雲「……でも思っていたより点数が伸びなかったわね」

磯波「今年はなんか審査が厳しめって感じですねぇ」

夕立「ふふふ、今年の審査員たちは新しい風を求めている……。村雨の読みは当たってたっぽい!」

叢雲「っ……! 白露型……!」

時雨「叢雲、悪いけど今年のベストコールは僕達白露型から排出させてもらうよ!」

夕立「去年の雪辱、今日ここで晴らさせてもらうっぽい!」

叢雲「ふん。やれるもんならやってみなさい」

白雪「凄い自信ですけど、私達の叢雲を抑えられる人材なんてそちらにいましたか?」

時雨「もちろんいるよ。宿敵叢雲を刺す秘密兵器がね」

夕立「さぁ山風! 行ってくるっぽい!」

山風「あ……あぅ」



長門「次は……ほぅ。新人選手か」

大和「山風ちゃんかぁ。うーん、データがないわね」

瑞鶴「あの子大丈夫なの? おどおどしてて見てらんないんだけど」

加賀「コールゾーンに入る前から涙目……あがり症かしら」



山風「……あ、あの……ええと……うぅ……」

山風「ね、ねぇ夕立……? ど、どうすればいいのぉ……?」

山風「やだ……みんな見てる……ック……ヒック……海風ぇ、江風ぇ……」



長門「……おい大丈夫か。泣き始めたぞ」

加賀「追い詰められてるわね」

瑞鶴「なんだか可哀想になってきちゃったわよ……」



山風「……うぁぁ……もうやだ……やだよぅ……」

山風「やだ……助けて……助けてよ……パパッ……パパァァーーーァァァ!!!」


ダダダダダダダッ ガチャ

提督「山風!! 山風ぇぇぇ!! パパはここだ! ここだよー!」



大和「速い! 9秒73!」

長門「なにぃ……パパコールだと!?」

瑞鶴「ふ、ふふ。凄いもん見ちゃったわね私達……。やだ、首筋が粟立ってる……」

加賀「これまでの大会でも五指には入るコール……こんな傑物がまだいたなんて……」


山風「うあぁぁぁ!! パパ! パパァァー!!」

提督「よしよし。大丈夫、大丈夫だよ山風。パパはここに居るから。落ち着いて、な?」

山風「うぅ……ヒック……グスッ……う゛ん」

提督「落ち着いたか?」

山風「………うん。……パ……提督……あ、ありがとぅ……」

提督「なんだ、もうパパって呼んでくれないのか?」

山風「ッ……あたしそんな事……言ってない……」

提督「ん?」

山風「あ、あたし提督のことパパなんて言ってない……言ってないからねっ!」

提督「……ははは! そうだな山風。よしよし」



翔鶴「~~~~ッッッ!!」

赤城「化物かこいつは」

霧島「男たるもの誰しもが持つ父性、それを直接殴りつける魂のパパコール。それだけに留まらず、トークタイムでさらに保護欲を刺激する羞恥心と幼児性も見せつけるなんて……底が見えません。正直恐ろしいです」

蒼龍「うーん、こりゃ今年は決まっちゃったかな」

飛龍「この後の人達どうするんだろうね」

大和「……10点です。ごめんなさい、感動で手の震えが止まらないの。スコアカードが上手く掴めないので口頭だけで申告させてもらいます」

長門「同じく10点だ。いやまったく素晴らしい。この長門、彼女のコールに万感胸にせまる思いだ」

瑞鶴「私も10点。山風のパパコールは今までの主流なコールを全て古典に変えてしまう迫力があったわ。新たな時代の幕開けを感じました」

加賀「9点です」

長門「何……?」

加賀「確かに素晴らしいコール、恐ろしい才能です。しかし彼女の力は追い詰められた状況においてこそ無自覚に発揮されたもの。まだ偶然の域を出ていません」

加賀「山風が自らの意志でパパコールを使いこなした時、私は彼女に10点を捧げるつもりです。ですので今はごめんなさい。9点です」

大和「冷静なのね……」

加賀「……彼女の満点を阻止した私を、後世のコーリストたちは捻くれ者と笑うかもしれないわ。でもね、コールを愛する者として偶然に満点は出せないの。ごめんなさい」

瑞鶴「……ふふ。なによ、熱いこと言うじゃないの」


山風 39点


叢雲「嘘でしょ……」

吹雪「そんな……叢雲ちゃんが負けるなんて……」

夕立「やった! やったっぽい! 今年はついに白露型がベストコール取れるっぽーい!」

時雨「おめでとう山風! 素晴らしいパパコールだったよ!」

山風「ちがっ……あたし言っていないっ! パパなんて言ってないから……!」

深雪「ってか39点ってほぼ満点じゃねぇか。こんなの誰も越えられっこねぇよー」

白雪「悔しいけれど、今年はもう山風さんに決まったようなものですね」

磯波「でもまだやる人いるんですよね……」

初雪「私だったら棄権する。この後にやるなんて恥、かくだけ」

金剛「……ヘイ、どうする気デース?」

アイオワ「む、無理しなくてもいいのよ?」

ウォースパイト「い、いえ。Don't worry……いけます……いきます」

アイオワ「足震えてるわよ? やっぱりgive upした方が……」

ウォースパイト「No! それだけはNo way! 絶対に勝ちます……!」

金剛「本当に大丈夫ですかネー……」



長門「むっ、次はウォースパイトか」

大和「珍しい外国人選手だけど……プレッシャーで一杯一杯みたいね」

瑞鶴「意外と負けん気が強い人だからね。引っ込みつかなくなっちゃってるみたい」

加賀「……奮戦を期待しましょう」


ウォースパイト「………………………………」

ウォースパイト「………………………………」



長門「……………やけに溜めるな」

加賀「いえ、あの顔を見て。かなり思い詰めた顔よ」

瑞鶴「頭ん中真っ白になってるんじゃないの?」

大和「自分の前にあんなコールされたらね。同情するわ……」



ウォースパイト「…………………………My Father?」

ウォースパイト「My Father? My Father? My Father?」



瑞鶴「んっ!?」

長門「やりやがった……! 人のコールをパクりやがったッ!!」

加賀「なんでちょっとウキウキしながら連呼してるのよ……」

大和「何かが吹っ切れたみたいね……」



ウォースパイト「My Father? My Father? MaaaayFaaaaatheeeeeeer!!」


提督「I AM NOT YOUR FATHER」ガチャ バタンッ


ウォースパイト「NOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



大和「47秒32。……酷いタイムね」

加賀「提督も速攻で帰ってるじゃないの……」

瑞鶴「あのノォー!って仕草はすごく外人っぽいわね」

長門「ゆっくりと顔を左右に振りながら……確かに洋画でよく見る動きだな」

あら、ハート使えないのか

※しょうがないから音符に変えて上げ直し。すみません




ウォースパイト「………………………………」

ウォースパイト「………………………………」



長門「……………やけに溜めるな」

加賀「いえ、あの顔を見て。かなり思い詰めた顔よ」

瑞鶴「頭ん中真っ白になってるんじゃないの?」

大和「自分の前にあんなコールされたらね。同情するわ……」



ウォースパイト「…………………………My Father♪」

ウォースパイト「My Father♪ My Father♪ My Father♪」



瑞鶴「んっ!?」

長門「やりやがった……! 人のコールをパクりやがったッ!!」

加賀「なんでちょっとウキウキしながら連呼してるのよ……」

大和「何かが吹っ切れたみたいね……」



ウォースパイト「My Father♪ My Father♪ MaaaayFaaaaatheeeeeeer!!」


提督「I AM NOT YOUR FATHER」ガチャ バタンッ


ウォースパイト「NOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



大和「47秒32。……酷いタイムね」

加賀「提督も速攻で帰ってるじゃないの……」

瑞鶴「あのノォー!って仕草はすごく外人っぽいわね」

長門「ゆっくりと顔を左右に振りながら……確かに洋画でよく見る動きだな」


アイオワ「へ、ヘイ! なんで人のcallをto copyしたの!?」

金剛「アナタ提督相手にお父さんなんて言う歳じゃないですよネー!?」

ウォースパイト「だって……だって私……もうどうしていいか解らなくなって……」



翔鶴「……辛いですね」

赤城「ええ。コールとは提督を呼び寄せる心の叫び。山風のようなイレギュラーを除いては、万全なメンタルでなければ結果は出ません。しかし今回ばかりは……」

霧島「はい……。山風のパパコールはあまりにもセンセーショナル過ぎました。彼女のコールに自信を打ち砕かれたコーリストは、この会場にまだまだ居ると思いますよ……」

蒼龍「さっきの何かで見た気しない?」

飛龍「……あーダースベイダーの」

大和「3点です。胸中は理解しますが、コーリストならば自分のコールで勝負して欲しかったです」

長門「2点だな。狼狽えたのもわかる。藁にもすがりたい思いだったのもわかる。しかしだからこそ、そこを踏ん張って耐えて欲しかった」

瑞鶴「3点ね。優れたコールを真似るのが悪いこととは思わないわ。でもそれがあまりに杜撰。工夫を見せて欲しい所でした」

加賀「6点です」

大和「えっ」

加賀「確かに彼女はコーリストでありながら自己を見失い、あろうことか他者のコールを――それが自分には致命的に合わないにも関わらず――使用してしまいました。非常に軽薄、そして愚昧な行為です」

加賀「でも……、それでもコールゾーンに立った勇気。私はただ、それだけは6点の評価に値すると考えています」

瑞鶴「……うん、そうね」

加賀「山風のパパコールを目の当たりにしながらも、なお屈せずその歩みを止めなかったのは、ただ提督を呼びたいという魂の衝動。コーリストとしての血であったと、私は思っています」

加賀「私はそんな彼女の本当のコールを聞きたい。彼女に再びコールゾーンに戻ってきて欲しい。……そういう願いを込めての、6点です」

長門「見事な採点だ、加賀」


ウォースパイト 14点


ウォースパイト「……」

金剛「へ、ヘイ! そんなに落ち込まないで欲しいネー!」

アイオワ「そ、そうよ! Next yearがあるじゃない!」

ウォースパイト「……いえ、私にはもう……My Admiralをcallする資格なんて……」

叢雲「いえ、あるわよ」

ウォースパイト「……叢雲。だって私は……私は……人のcallを……!」

叢雲「そんなの関係ないわよっ!」

ウォースパイト「!!」

叢雲「……だってあんた、立ったじゃない。立ててじゃない。あの山風の後のコールゾーンに、その両足で……!」

叢雲「並のコーリストじゃ絶対立てない。立ちたくないわよ。もし私だったら逃げ出していたかもしれないってのに。……でも、あんたは立った」

叢雲「……最っ高にカッコよかったわよ」

ウォースパイト「……っぐ……ひっぐ……叢……雲さん……叢雲さぁん!」

叢雲「ウォースパイト、一緒に頑張りましょう。来年を目指して、勝利を信じて……一緒に山風のパパコールを越えるのよっ!」

ウォースパイト「ひっぐ……Yes……Yes! Never Give Up……Never Surrender! ハイ! 一緒に勝ちましょう……山風のパパコールに!」

山風「言ってない……! あたしそんな事言ってないから……!」



長門「……すまん。どうにも目頭が熱くてな。誰かハンカチ持っていないか?」

大和「……ごめんなさい。一枚しかないの」

加賀「……ふふ。これまでこの大会には本当に様々な人間模様を見させてもらってきたけど……どれも眩く輝くものばかりだったわね」

瑞鶴「うん……ほんと、これだから辞められないわ。コールって……」


蒼龍「……あれ、もう出場者はいないのかな?」

飛龍「もう優勝決まってるようなもんだからね」

翔鶴「……無理もありませんね」

赤城「はい。歴代でもトップタイとなる39点。挑むにしてはあまりにも高すぎる壁です。今年のベストコールは山風さんで間違いないでしょう」

霧島「ですね。そしてこれから向こう何年かは彼女のパパコールが猛威を奮うことになりそうです。本当に衝撃的な年でした」

長門「ふむ。ではそろそろ表彰式に……」

瑞鶴「ね、ねぇ。その前にちょっとあれ……あそこ見てよ。ほら、正門の所」

長門「ん?」


港湾棲姫「……」

北方棲姫「……」


長門「むっ、深海棲艦か……」

大和「なんでこんな所にいるのかしら?」

加賀「参ったわね。いま攻撃されたら表彰式どころではなくなってしまうわ」

瑞鶴「追い払っちゃえば?」

長門「艦砲の轟音を大会の締めともしたくはないな。見たところ襲ってくる気もなさそうだし、どれ、私が少し話しに行ってみるか」

加賀「気をつけるのよ」

大和「何かあったらすぐ呼んでね」


長門「やーやー、お前たち。そこで何をしている」

港湾棲姫「ア、ドウモ……」

北方棲姫「……」

長門「偵察か奇襲か強襲揚陸か知らんが今は勘弁してもらいたい。大事な大会の最中なんだ」

港湾棲姫「ハ、ハイ。存ジテオリマス……」

長門「ん? お前たち、提督呼び大会を知っているのか?」

港湾棲姫「ハイ……貴女タチガ海二撒イタチラシヲ偶然見テ……」

長門「ほう……、では観客としてここに?」

港湾棲姫「……イエ、ソノ……私タチモ、提督サン二オ会イシタイト思イマシテ……」

長門「……深海棲艦が? うちの提督に用事でもあるのか?」

港湾棲姫「…………無理デショウカ? コノ子ダケデモドウニカ……」

北方棲姫「……」

長門「……何か事情があるようだな」


瑞鶴「で、OKしちゃったと」

長門「ああ」

加賀「不用心ね……」

長門「仕方あるまい。提督呼び大会の為に遠路遥々ここまできたそうだ。無下にはできんさ」

大和「んー、敵を鎮守府の敷地に入れるなんてあってはならない事だけど。攻撃してくる気もないみたいだし、今日くらいはいいんじゃないかしら」

加賀「……まぁそうね。それに見学ではなく出場しにきたとなれば、例え深海棲艦であってもそれはすでにコーリスト。コールさせずに帰したとあっては大会の権威に傷をつけることになるわ」

瑞鶴「しっかし深海棲艦のコーリストだなんて、なんかいきなりワールドワイドな競技になっちゃったわね」

加賀「ええ、まったく。でも正直、深海棲艦がどんなコールを見せてくれるのか、私は楽しみよ」



港湾棲姫「ア、アノ……呼ンデモイイノデショウカ……」

北方棲姫「……」



大和「はーい、オッケーでーす。コール開始してくださーい」

長門「どれ、お手並み拝見とするか」

瑞鶴「さてさて、深海棲艦のコールどの程度のものか……見せてごらんなさい」

加賀「……」


港湾棲姫「……ゴメンクダサイ。ゴメンクダサーイ」

北方棲姫「……」

港湾棲姫「スミマセーン。ゴメンクダサーイ」

北方棲姫「……」



大和「……聞いたことのないタイプのコールね」

加賀「ええ。本当にただ訪問してきたというだけのコール……私達にとっては新しいわ」

瑞鶴「あのちっちゃい方無口ね」

長門「菱餅を取られたことをまだ根に持っているのかもしれないな」



港湾棲姫「スミマセーン。ゴメンクダサーイ」

北方棲姫「……」

港湾棲姫「ゴメンクダサーイ。……スミマセーン。……ゴメンクダサーイ」

北方棲姫「……」



長門「……いつまで続ける気だ」

大和「もう5分を回ってるわよ? こんなタイムじゃちょっと……」

瑞鶴「提督も気づかないのかな。それなりに大きなコールだけど」

加賀「……いえ、提督は気づいているわ」


長門「何……?」

加賀「足音がしていたわ。ドアの前までは来ているはずよ」

瑞鶴「じゃあ何で出てこないのよ」

加賀「何か、出てこれない理由があるのかもしれないわね」

大和「……あの深海棲艦、瞳が潤んできてるわ」

長門「……むぅ」



港湾棲姫「スミマセーン。ゴメンクダサーイ。……ウウ、ゴメンクダサーイ」

北方棲姫「……ママ、ナイテルノ? ダイジョウブ?」

港湾棲姫「……ホッポ、ママハ大丈夫ヨ。ホッポノ為ナラ、コンナノ、ナンデモナイワ……」

北方棲姫「……ホッポ、ママガ泣クノヤダ」

港湾棲姫「ホッポ……」

北方棲姫「ママ、オウチ帰ロ?」

港湾棲姫「デ、デモ……コンナチャンスハ滅多ニ無イノヨ? 次ハイツニナルカ……」

北方棲姫「ママ、悲シソウ。ホッポ、ヤダ。悲シソウナママ、ヤダ!」

港湾棲姫「ホッポ……ウウ、ゴメン。ゴメンナサイネ……ホッポ……ホッポ……!」


提督「……」ガチャ


港湾棲姫「!!」



大和「7分12秒63。……逆の方向に新記録よこれ」

長門「……確かにタイムは散々だ。だが……これは……」

瑞鶴「うん……。なんだろう、ゾクゾクしている私がいる。こんなコール見たことない。新しすぎる……」

加賀「常識破りの超ロングコール……トークタイムに全てを賭ける布石だとでも言うの? 嘘……深海棲艦がそんな高度なコールを……そんな、馬鹿な……」


港湾棲姫「ア、アナタ……! アナタ!」

提督「……なぜここに来た」

港湾棲姫「今日ハ……アナタニ会エル大会ガアルッテ聞イテ……ソレデ私達……太平洋ヲズット泳イデ……」

提督「もう会わないと言っただろう」

港湾棲姫「デ、デモ……ホッポヲ……アナタニ一度ダケデモ会ワセタクテ……」

北方棲姫「……」

提督「……認知はしない約束だったはずだ」

港湾棲姫「デモ……デモ……!」

提督「養育費は出す。……帰ってくれ」

港湾棲姫「ア、アナタ……」

提督「帰ってくれ!」

港湾棲姫「…………ハイ。ホッポ……行キマショウ」

北方棲姫「…………………パパ」

提督「っ……」

港湾棲姫「ホッポ……!」

北方棲姫「……パパ……パパ……! ホッポノ……オ父サン……!」

港湾棲姫「ホッポ……! アナタホッポガ……アナタノコトパパッテ……オ父サンッテ……!」

提督「っ……すまない。二度とここへは来るな」バタンッ

北方棲姫「パパ……パパァァァーーーーーーーーーァァァ!!!」

港湾棲姫「アナタァァァーーーーーーーーァァァ!!!」


翔鶴「……っぐ……えぐ……ひっぐ……」

赤城「……すみません。彼女たちのコールについて何か語ろうとしても、言葉ではなく涙しか出てこないです。本当にすみません……」

霧島「……なんてコール。あれは心の底から提督に会いたいと思っていた者しか出せない、あらゆる意味で真のコールです……」

蒼龍「……え、じゃあ私達って提督の娘さんから菱餅奪ってたの?」

飛龍「ありゃー、参ったねこりゃ」

大和「……10点。10点です。こう言っていいのかわからないけれど……素晴らしいコールでした。タイムなんてどうでも良いほどに。スコアカードが涙でグチャグチャになるほどに。本当に素晴らしかったです」

長門「10点だ。うん、それしかない。本当にそれしかない。こんなにも胸を締め付けられるコール、私は初めて聞いたよ。ありがとう。全てに感謝する」

瑞鶴「10点。もしかしたら……私が審査員席で涙を流すのはこれが初めてかもしれない。彼女たちのコール、私が海底の闇の中に身を横たえるその時まで、決して忘れはしないわ」

加賀「10点です」

大和「加賀……」

加賀「……私は井底の蛙でした。そしてどうしようもないほどに矮小な女。だって彼女たちがコールゾーンに立った時、心の何処かでは『深海棲艦のコールなんて』と思っていたのですから」

加賀「でも……でも、そんな事はなかった。彼女たちのコールは、私が今まで聞いてきた数々のコールの中でも、一際の輝きを放っていた」

加賀「コールとは提督を呼び寄せる心の叫び。魂の咆哮。感情の濁流。そして……『愛』なのだと、彼女たちのコールはあらためて気づかせてくれました」

瑞鶴「うん……! そうね、うん……!」

加賀「例え報われなくとも、許されなくとも、彼女たちの一途な愛はそのコールに乗って、私の凝り固まった頭や心臓を揺さぶり、……一筋の涙を流すまでに至らせてくれました」

加賀「……完敗です。10点。これ以外にありません」

長門「……そうだな。その通りだ加賀!」


深海棲艦の親子 40点


北方棲姫「パパ……パパァァァーーーー………」

港湾棲姫「……アナタ……アナタ……ウ、ウウウ……」


叢雲「……ナイスコール」


北方棲姫「……………エ?」


叢雲「ナイスコールって言ってんのよ。……完敗よ、まったく」

吹雪「うん……ナイスコール! 本当にナイスコールです!」

ウォースパイト「ハイ……、私……Sorry……涙が止まりません。笑顔でCongratulationsと言いたいのに……伝えたいのに……涙が止まりません」

深雪「へ……へへ、本当に最高のコールだったぜ! いけねぇ、また涙が出てきちまうよ……」

白雪「私は第一回大会から見てきましたが、こんなにも胸を打たれたコールは初めてです……。ありがとうございます、ナイスコール」


港湾棲姫「ナイスコール……? 艦娘ノミナサン……ア、アノ……ドウイウ事デスカ……」


夕立「っぐ……ひっぐ……ナイス……ナイスコールっぽい! 夕立、感服したっぽい!」

時雨「うん……! 彼女たちが、彼女たちこそが今年のベストコールだ!」

山風「えぇ……と、その……おめ、おめでとぅ。あたしも、感動した。だから元気……出して?」

金剛「イエス! ウィナーは笑顔で栄光を掴むもの、泣き顔はノーなんだからネー!」

アイオワ「ふふ。そうね、Winnerには笑顔でいて欲しいわ。Championの勇姿に感涙するのは、私達 Audienceの仕事よ」


港湾棲姫「……ナ、何デスカ……? ウィナー? 何ノコトデスカ……」

北方棲姫「デモ、ママ……ミンナ、ウレシソウ」

港湾棲姫「エ? エ、エエ……ソレハソウダケド……」

北方棲姫「ミンナ、ウレシイト、ホッポモ、ウレシイ。ホッポモ、タノシイ!」

港湾棲姫「ホッポ……辛クハナイノ?」

北方棲姫「……ウン!」



蒼龍「強い子だね」

飛龍「実際めっちゃ強いからね」

長門「雨の後は上天気、というやつか。ふふ、幼子にはいつも笑顔であって欲しいものだ」

大和「ええ……。そしていつの日か、何の憚りもなくお父さんとコール出来る日が来ると良いわね」

加賀「そうね……。あの子からは涙ではなく、笑顔になれるコールを聞きたいものだわ」

瑞鶴「でも、私達と深海棲艦があんなに楽しそうな顔で一緒に居られるなんてね。ほんと、この大会って何があるかわからない。しみじみ思っちゃうわ」

長門「うむ。まったく不思議なものだ。昨日までは血で血を洗う争いをしていた仲だというのにな」

加賀「今日だけは艦娘も、深海棲艦もない。みなコーリストとしてこの場にいる。提督呼び大会はそういう日になったのね」

大和「敵味方関係なく、提督を呼ぶ日か。ふふ。夢みたいな話だけど、それが目の前で起こってるのよね」

長門「……っと、こうして見とれているわけにもいかないな。もう表彰式に移る頃合いだろう」

大和「ええ。じゃ、準備を始めましょうか」

瑞鶴「誉れ高きコーリストたちを讃えないとね」

_________
____
_


青葉「えー、それでは皆さん! 今年の提督呼び大会、表彰式を始めたいと思います!」

青葉「今年の大会はなんと! 大会初となる最高評価のベストコールが選出された記念すべき大会でもありますねー!」

青葉「そんな大会を戦い抜き、栄えある表彰台に登る四名を発表させて頂きます!」

青葉「第三位! 31得点! 叢雲選手!」


叢雲「……ふん」


深雪「いよっ! 叢雲ー!」

吹雪「叢雲ちゃん! 笑顔笑顔!」

初雪「んん、ブスーっとしている。悔しそう」

浦波「叢雲ちゃんならまた必ず一位に返り咲けますよ。絶対に」

磯波「そうですねぇ。来年にはまた一つ成長した叢雲ちゃんが見れると思うと、なんだか楽しみです」

白雪「転んでもただでは起きない子ですから。きっと来年はやってくれますよ」


青葉「第二位! 39得点! 山風選手!」


山風「うぁ……や、やだ……前にでないといけないの?」

夕立「当たり前っぽい! さ、特型の一段上に立ってくるっぽい!」

時雨「思ったんだけどさ。パパコール被ってるから来年はお兄ちゃんコールなんてどうかな」

村雨「んー、ちょっと安直じゃない? ここは先生で行くべきだと村雨は思うなぁ」

海風「……領主様、とかどうですか」

時雨「うん……えっ」

村雨「ちょっとハイレベルすぎないかな」

山風「どれも言わない……あたし言わないからねっ!」


青葉「そしてぇー…ベストコール! 40得点! 深海棲艦の親子選手!」


港湾棲姫「……アノ……良クワカラナイノデスガ……」

飛龍「謙遜なんてしなくていいって! みんなのヒーローがそんな暗い顔してちゃダメだよ?」

港湾棲姫「ソ、ソウデスカ……」

蒼龍「そーそー、さ! ホッポちゃんも表彰台登ろうね?」

北方棲姫「……ア、オマエ菱餅モッテッタ奴ダ」

蒼龍「ありゃー」

飛龍「参ったねこりゃ」


青葉「では皆様! この四名にぃー! 盛大な拍手をお願いしまーす!」



山風「……まだ? まだ降りちゃダメなの……?」

叢雲「……いいから黙って立ってなさい」

港湾棲姫「……」

北方棲姫「……」



江風「いよーっ! 今年も最高の大会だったぜー!」パチパチパチ

朝霜「楽しませてもらったぞー!」パチパチパチ

陽炎「いーなぁ表彰台。うちからも誰か出したくない?」パチパチパチ

不知火「そうですね。浜風あたりなら強豪とも良い勝負が出来るんじゃないでしょうか」パチパチ

黒潮「いーや、ウチは親潮か初風を押すで」パチパチ

ウォースパイト「Next yearこそは、私もあそこに登ってみせます。Support、頼みますね」パチパチパチ

金剛「イエース! 任せて欲しいネー!」パチパチパチ

アイオワ「一緒に掴むわよ、VICTORYを!」パチパチパチ

伊勢「航空戦艦からも出てほしいけど、駆逐勢強いからねー」パチパチパチ

日向「伊勢も挑戦してみたらいいんじゃないか?」パチパチパチ

伊勢「えー、無理無理! 日向が出なよー」パチパチパチ



港湾棲姫「……ナンダカ、大変ナ所ニキチャッタミタイネ……」

北方棲姫「……デモ見テ、ママ。ミンナ、笑顔。笑顔、イッパイ」

港湾棲姫「……ソウネ。鎮守府……不思議ナ所。艦娘……不思議ナ人タチ」


青葉「えーでは! 最後に、今大会を審査して頂いた審査員の方々から一言お願いします!」


大和「はい、では私から。提督呼び大会、審査員長を務めさせて頂きました。大和です」

大和「提督を呼ぶ。ただそれだけの大会。にも関わらず、年々その規模を拡大させて継続してこれたのは、単に皆様の厚いご支持と、それ以上に熱いコーリストたちの切磋琢磨があったからこそと、身に染みる思いです」

大和「今年は大会史上初となる最高評価ベストコール、しかもそれを生み出したのが深海棲艦の方々と、提督呼び大会の歴史の中でも特に異彩を放つ衝撃的な年となりました」

大和「来年。再来年。明明後年。この大会がどのように変遷し、それと共にどのような名コールが産声をあげるのか。この大和、皆様とともに最後まで見届けていく所存です」

大和「本日は本当にありがとうございました。これからも大会とコーリストたちへの応援のほど、よろしくお願いします」


江風「毎年なげーぞー!」パチパチパチ

朝霜「もうちょい端折れよなー!」パチパチパチ

陸奥「生真面目ねぇ」パチパチパチ

武蔵「根はそういう奴だからな」パチパチパチ


長門「どうも諸君、長門だ。私がなぜ審査員をやっているのか。それはお前たちのコールが聞きたいからだ」

長門「今年も熱いコールを数多く聞かせてもらった。審査員冥利に尽きる。ありがとう」


秋雲「ヒュー!」パチパチパチ

清霜「長門さーん! カッコいー!」パチパチパチ

武蔵「お前の所は少しカッコつけすぎじゃないか?」パチパチパチ

陸奥「あれ素よ……」パチパチパチ


瑞鶴「次は私か。んー……そうね。今年はとにかく驚くことが多かったわね」

瑞鶴「これがベストコールだ!ってのがひっくり返ったり、誰かいる!ってのが深海棲艦だったり、しかもベストコール取っちゃったりね」

瑞鶴「……うん。一言で言えば、とても楽しかったわ。みんなのコールを聞くのが本当に楽しくて、嬉しくて、もっと聞かせて欲しいなって思いました」

瑞鶴「……だから来年も頼むわね! 以上、私からは終わりっ!」


翔鶴「……いいですね」パチパチパチ

赤城「はい。軽やかに心地よく、照れは隠しつつも素直な性根。瑞鶴さんらしいです」パチパチパチ

翔鶴「……はい、いいですよね」パチパチパチ

霧島「ええ。彼女が時折見せる天真爛漫な笑顔に魅せられた者は、この会場にもまだまだいると思いますよ……」パチパチパチ

翔鶴「……ええ。いいですよね。いい……」パチパチパチ


加賀「どうも、加賀です」

加賀「……そうね。私がコーリストの一線を退いて審査員となり、どのくらい経ったか……ちょっと思い出せないのだけれど」

加賀「私が審査員席に座って、あなた達のコールを聞く時……心はコールゾーンの中。コーリストたちと共にあるように感じます」

加賀「あなた達のコールが私の耳を突き抜ける時に。私もかつてはあそこに立ったものだな、と、ふと昔の自分を重ねてしまうの」

加賀「……私は大したコーリストではありませんでした。コールは平凡だし、トークも続かない。表彰台なんて一度も立ったことのない、本当に凡庸なコーリストでした」

加賀「……だから自分のコールが、自分の提督を呼びたいという気持ちが評価され、比較される気持ち。痛いほどわかる……」

加賀「……あなた達のコールが終わった時、気がつくと私はいつも10点のスコアカードを握りしめている。大きなコールにも、小さなコールにも、誰のどんなコールに対しても……」

加賀「それでも評価しなければならない。優劣をつけねばならない。これは本当に辛いことです。私にとっても、コーリストたちにとっても、辛いことです」

加賀「……なので、大会を終えた今だけは、言わせてもらいます」

加賀「今年、ベストコールに輝けなかったコーリスト。表彰台に立てなかったコーリスト。そして強豪のコールを前に、諦めてしまったコーリスト」

加賀「あなた達のコールは、何者にも負けてはいないわ。この一航戦、加賀が保証します。あなたたちは皆、全員、最高のコーリストよ」

加賀「……自信を持って。そしてまた来年、私にあなた達の提督を呼ぶ声を、聞かせてちょうだい。……ありがとうございました」


叢雲「……っく……えぐ……」パチパチパチ

ウォースパイト「……っぐ……ひっぐ……加賀……」パチパチパチ

吹雪「加賀さん……ひっく……加賀さぁん……!」パチパチパチ

大和「……ふふ、もう。加賀には負けるわね」パチパチパチ

長門「ああ。まったく、外見とは裏腹にどこまでも熱い女だ……」パチパチパチ

瑞鶴「皆が最高のコーリスト……。うん、そうね。本当にそう。艦娘も、深海棲艦も。提督を呼ぶ気持ちさえあれば皆誰でも、最高のコーリストよ……」パチパチパチ


_
____
_________

_________
____
_


鎮守府 埠頭


港湾棲姫「今日ハ、色々トアリガトウゴザイマシタ……」

北方棲姫「アリガト、ゴザマシタ」

長門「なに、有難うと言いたいのはこちらのほうだ。本当に素晴らしいコールだった」

瑞鶴「今日という日に、審査員として立ち会えたことを神に感謝するわ。ほんとありがとね」

港湾棲姫「ハ、ハイ……アノ、不躾デスガ……一ツオ願イシテモ、ヨロシイデショウカ……」

大和「なに? 作戦や戦略を教えてほしいっていうのは無理だけど」

港湾棲姫「イエ、アノ……私トアノ人……提督サントノ関係ハ、モウゴ存ジデスヨネ……?」

加賀「ええ。何があったのかは知らないけれど、子をなす関係だったのでしょう?」

港湾棲姫「……ソノ、ドウカ提督サンヲ、責メナイデアゲテ欲シインデス……」

瑞鶴「責める? なんで?」

港湾棲姫「……エ? ダ、ダッテ……私ハ深海棲艦デスシ……艦娘サン達ガイルトイウノニ、敵トソノヨウナ関係ニアッテハ……」

瑞鶴「……あー提督が内通者なんじゃないかって、私達が疑うってこと?」

長門「なるほど、そういう見方もできるのか。これは一本取られたな」

港湾棲姫「エ、エエ……?」

加賀「安心して。提督が内通者だろうと、深海棲艦との間に子がいようと。私達はあなた達を捻り潰す。それは変わらないわ」

港湾棲姫「……エ? イエ、ソウデハナク……艦娘サン達ハ、提督サンヲ呼ブ事ヲ競イ合ウホドニ、提督サンノ事ヲ想ッテイルノニ、深海棲艦トノ間ニ子供ガイルナンテ……」

瑞鶴「……ん? んーまー確かに、提督が深海棲艦と子供を作ってるのは正直びっくりはしたけど、そこは提督のプライベートなんじゃないの?」

加賀「私はむしろ、深海棲艦と人間の間に子供が出来る事の方に驚いたわ」

長門「別に提督に深海棲艦の妾や子供がいても私達は構わず戦うし、提督を呼べなくなるわけでもないからな」

大和「ええ。あなたが何の心配をしているのか、よくわからないわね……。深海棲艦って難しいわ……」

港湾棲姫「……ソ、ソウデスカ……」


加賀「……それよりも。今日は提督呼び大会があって、あなたはコーリストとしてここに来た。だから私達は今、こうして話している」

加賀「でも、それは今日だけ。明日になれば私達はコールを愛する同志ではなく、また敵同士。それはわかっているわね?」

港湾棲姫「……ハイ」

加賀「私達は深海棲艦を殺すことについては一切手を抜かないわ。それもわかっているわね?」

港湾棲姫「…………ハイ」

加賀「私達はあなたの首をはね、そっちの幼子の四肢を引き裂き、二つ合わせて肉団子にしてフカがシャチの餌するような事も顔色を変えずに平気でやる。それも知っているわね?」

港湾棲姫「………………ハ、ハイ」

加賀「……そう。ならば、……よく聞いてちょうだい」

加賀「……二人とも、何があっても絶対に生き延びなさい。そしてまた来年、ここに来なさい」

港湾棲姫「……………エ」

長門「そうだな。私はお前たちのコールをまた聞きたい」

大和「もちろん私もよ。あなた達のコール、今でも胸の中でリフレインしているの。それほどまでに私はあなた達に胸を打たれたわ」

瑞鶴「あんなにも提督を恋い焦がれたコール、あなた達にしか出せないわよ。まーもちろん、来年は私達も負けてはいないだろうけどね!」

港湾棲姫「……デ、デモ……提督サンハ……アノ人ハ……モウ二度ト来ルナト……」

長門「……そんなこと気にするな、提督を呼ぶ。提督に会う。ただそれだけだ。なにを憚ることがある」

港湾棲姫「ダッテ……! 私ハアノ人ニ……迷惑ヲカケタクハ……!」

長門「お前たちのコールは、提督を呼びたいという気持ちは、そんなもので止められるほど軟な物ではないだろう!」

港湾棲姫「!!」

長門「否定するか? もう諦めた会う気はないと今その口でいうか? 信じられるか! 私はお前たちのあのコールを聞いたんだぞ!」

長門「冷たくあしらわれようとも、追い返されようとも、お前たちは今でも提督に会いたいのだろう!! 違うか!」

港湾棲姫「……ハ、ハイ……! ウウ……会イタイ……会イタイデス……!!」

北方棲姫「ママ……ホッポモ、会イタイ。パパニ、会イタイ!」

港湾棲姫「ウウ……ホッポ! ソウネ……! 私モ、会イタイ……!」

長門「その気持ちを止めるな。そしてまた来年、コールに乗せて私達に聞かせてくれ。……待っているぞ」

港湾棲姫「ハイ……! 必ズ……必ズ、マタ来マス!」

北方棲姫「ウン! ホッポモ、マタ来ル! パパト、オ前達ニ、会イニ来ル!」

長門「ああ! 私達は本気で攻撃するが、絶対に死ぬなよ!」

大和「また来年、今みたいに元気な笑顔を見せてね」

加賀「そして、今度は私達もあなたのような笑顔になれるコールを聞かせてほしいわ」

瑞鶴「来年も審査員席で待ってるから、必ず来るのよ!」

北方棲姫「ウン!」

_________
____
_


加賀「……行きましたね」

長門「ああ。深海棲艦にもあんなに気持ちのいい連中がいるんだな。まったく、今日は驚かされる事ばかりだ」

大和「おみやげに烈風持たせちゃったけどいいの?」

瑞鶴「いーのいーの、どうせ余ってるんだし」

加賀「それに向こうのほうが艦載機の性能は良いのですし、使ってきてくれるのならありがたいくらいだわ」

長門「そうか。……ふむ、しかし今年も終わってしまったな……」

加賀「ええ……。楽しくもあり、悲しくもあり、そして美しくもあり……今大会も素晴らしいコールの数々でした」

大和「……はぁー、何だか気が抜けちゃった。大会の後っていつもこんな気分になるわよね」

長門「祭りの後の物悲しさも、またひとつの風情だろう。うん、私は好きだな」

瑞鶴「……んー、私は嫌! なんかこう胸がもしゃもしゃしてくるのよね。はやく来年にならないかな」

加賀「まったく。あなたも審査の腕は上がってきたけれど、中身はまだまだ子供ね」

大和「……でも、このまま寂しい気分でいたくもないし……ねぇ、久々にさ。私達もコールやってみない?」

瑞鶴「お、いーじゃん! 大声を出せば少しは気も紛れそうだし!」

加賀「庁舎までいくの? 提督はもう執務室にいないかもしれないわよ」

長門「私達の気晴らしに提督を付き合わせるわけにもいかない。ここはひとつ、目の前の夕日に向かって……というのはどうだ?」

大和「っぷ。なにそれ、スポ根ドラマみたいじゃない」

加賀「そういうの好きよね、あなた」

瑞鶴「よし、やるわよ! さ、みんな立って立って!」

長門「どれ、久々に咆えてみるか」

加賀「……何年ぶりかしらね。なんだか懐かしい気分になってきたわ」

大和「じゃあみんな合わせて。せーのっ、すぅーー…………………」





         『提督ーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!』







                       おわり



以上です

ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年08月05日 (土) 08:13:42   ID: UpQL7B10

面白い。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom