【ヒロアカ】緑谷「クリムゾンの」 麗家「迷宮」 (44)

肌に触れる空気は蒸し暑く、ねっとりしていた。


時折吹く風が額に涼を運んでくる。


こちらは水分を含んで、ひんやりと冷たい。


鼻孔に湿った土の匂いを感じた。


そうか、これは雨音か...。混沌とした意識の中でようやくそんな思考が形造られた。


雨が降っているらしい。


緑谷は体を動かそうとして異変に気付いた。体に馴染んだハウスアライアンスのベッドではない。


ごつごつとした異物感、地べたに寝ているのだ。


緑谷(どこだ、ここは)



トレーニングを行い疲れ果てて翌朝、昨晩起こったことがどうしても思い出せないことはある。


しかし、自分の居場所が分からないというのは初めてだった。



緑谷はゆっくり目を開け、上体を起こそうとした。


酷い立ちくらみに襲われる。視野が周囲からじわりと迫り、完全に溶暗してしまった。


しばらく目を閉じて、血の巡りが回復するのを待つ。


緑谷(おかしい、おかしいぞ。一体どうなったんだ)


パニックに似た感情が襲ってきた。体に力は入らない。


口の中はカラカラで、唇も乾いてひび割れがかっている。


無理に唾を飲み込んだらセンブリの様な酷い味がした。


緑谷(これは変だ。尋常の状態じゃない。何か起きた。何かとんでもないことが起きているに違いない)


おそるおそるもう一度目を開けてみた。


うっすら霞む視界に映ったのは、雨にぬれ、一面が鮮やかな深紅色に染まった異様な世界だった。


緑谷(何だ.....これは)


緑谷(どこだ、ここは。何で僕はこんな所にいる...)


そこは、両側を岩山で囲まれた峡谷のような場所であった。


緑谷(岩の屋根...)









SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496736721

緑谷(そうか、これが雨から僕を守って)


峡谷を取り巻いているのは、一度も見たことがない、


それどころか、地球上に存在することさえ疑わしいような風景だった。


不規則な丸みを帯びた岩が、寄り添うように並んでいる。


単なる無機質な岩の集合というより、キノコかホヤのような生き物の集合の様だった。


緑谷(それ以上に不思議なのは、色彩と模様だ)


緑谷(見渡す限り全ての岩山に同じ横縞がある、これは偶然...?)





全体の色は雨につやつや光る深紅で、その上に黒や白の帯がかかり複雑な模様を形成していた。


緑谷(そもそも僕の頭がおかしくなってしまっただけなのだろうか)


しかし緑谷はそうとは思えなかった。幻覚にしては余りにリアルすぎる。


突然、緑谷は強烈な喉の渇きを覚えた。


ふらつく足で立ち上がり、すぐにバランスを崩して地面に手を着いたとき、指先が何かに触れた。


緑谷(これは、水筒?)


緑谷(袋の中にはランチボックスだ)


緑谷(それに銀のポーチバッグ)



今まで気づかずにいたのが不思議だった。


緑谷は水筒を持ち上げると勢いよく飲み込んだ。


ランチボックスの中にはカロリーメイトが詰まっていた。


一本、一本とてを伸ばすうちに、気づくと1ダース分食べきっていた。


緑谷(食料は、大切にしておいた方がいい、気がする)


緑谷(もうちょっと食べたいけど...我慢だ)



緑谷(...)


緑谷(僕は、ここに来る前、どこにいたのだろう)


今でも鮮明に思い出せる、オールマイトとの出会い。


四月から雄栄に入学して、USJ、体育祭、職場体験、林間合宿


そしてオールマイトの引退。


生徒たちは寮で生活するようになって。


生徒...そうだ他の皆は?


僕一人だけ?ここはどこ?授業の一環?先生は?説明は?


緑谷(僕はこの状況を合理的に解釈することが出来なかった)


緑谷(記憶を消されて、誰かにここへ運ばれたというのが妥当な所だろうか)










緑谷(だとしたら、誰が、何のために)


緑谷(死柄木弔...トガさん...??)


緑谷(いや無理だ、あんな厳重体制の中、そんなこと出来る訳ない)


緑谷(とすると一体何で...)




緑谷はうつむき腕を組みながら考えた。食料と一緒に置いてあった銀色のポーチが目に留まった。


拾い上げ開いてみると、中にはタブレット端末が入っていた。


電源をオンにすると、安っぽいファンファーレと共に文章が写し出される




   火星の迷宮へようこそ

緑谷「なんだ、これ」


僕は思わずそう呟いた。火星、火星、火星?


そういわれてみるとこの場所には確かに火星を思わせる物がある。


深紅の景色。奇妙な横縞の入った岩石


しかし、ここが火星などということは到底信じられない。


緑谷(でも...)


緑谷(でも一つの事は明らかだ。おそらくこのタブレットは僕に向けてのメッセージ)


緑谷(現在の状況に至る、全ての事情と経緯を知る人物からの...)


緑谷は再びタブレットを見る。先の文章の下に「進む」と表示されており、そこをタップする。




【ゲームは開始された。無事に迷宮を出てゴールを果たした者は、約束通りの額の賞金を受け取って、地球に帰還する事ができる】



緑谷(ゲーム?僕はもうそれに巻き込まれているのか?)


緑谷(約束通り...一通りの説明は受けている?)


緑谷(じゃあ何で僕は覚えていない...やっぱり記憶を失っている?)


再び、画面をタップする。



【プレイヤーはチェックポイントにおいて、進路に関する選択肢を与えられる。選択は100%、各々の裁量に任せられる。また、生存に役立つアイテムが得ら


れる場合もある。ただし、選択肢によっては、生死に関わることもあるので注意。なお、各プレイヤーは、お互いに協力するも敵対するも任意である。】



緑谷(各プレイヤー...?)


緑谷(このゲームに参加しているのは僕だけじゃない)


もう一度押すと、最後の文章が現れた。




【ここからスタート地点でもある第一CPへの道順は、以下の通り。


北へ2500メートル、東北東へ1350メートル。東へ230メートル】




緑谷(cp...チェックポイントのことかな)


緑谷(それより、道の説明が大雑把すぎる。どうやって道を知ればいいんだ?)




緑谷は峡谷を見回した。両側には岩山が続き、歩いて進めるのは左右のどちらかしかない。


緑谷(左右のどちらかが北ということ?)


緑谷(明日の朝になれば日ノ出の方角からどちらが北かはっきりするはずだ!)


緑谷(今動いても、途中で日が暮れるかもしれないし...)


僕は明朝出発することに決めた。





緑谷は、焚火に細かい枯草を投げ込む手を休め、夜の岩山に目をやった。


昼間の深紅色とは打って変わって青い月光に照らされて、赤紫色に染まっている。


景色に見とれていた時、岩の欠片同士が擦れ合う音が、谷底に響き渡った。


緑谷(誰かいる)


緑谷(相手は僕がここにいるのを知っている。誰だ誰だ?連中の仲間?)


緑谷は息を殺しながら、闇を透かして見た。


そこには人の姿があった。


身長は僕より10センチほど低いだろうか。


顔は影になって見えないが、片方の目が、月の光を反射して、一瞬異様に光った。


僕は意を決してゆっくり近づいた。


緑谷「う、麗日さん?」


麗日「で、デクくん」


目の前にいたのは僕の同級生の麗日おちゃ子さんだった。


でも表情が依然とちょっと違うことに気が付き、僕はその原因が彼女の目にあることが分かった。


麗日「え?どうしたの?」


緑谷「え?」


麗日「さっきからウチの顔凝視しとるよ?何かあったん?」


緑谷「あ、いや、別にその...こんな不気味な所でも麗日さんはやっぱり麗らかだなあって」


麗日「ふふふ、何それ」


緑谷「で、麗日さん」


麗日「ん?」



緑谷「麗日さんは、ここで何を?」


麗日「わかんない...と言うか多分デク君と一緒じゃないかな。気づくと一面真っ赤のとこにいた」


緑谷「じゃあ麗日さんも記憶を失っているの?」


緑谷「ここへ来る前の事は?これは、何かのゲームらしいんだけど心当たりはない?あ、もしかして、ここがどこか、わかるかな?多分南半球のどこかだと思う


んだけど...」


麗日「ち、ちょっと待ってよ。いっぺんにそんなに答えられないよ」


緑谷「あ、ごめん」


麗日「さっきも言ったけどウチも多分知ってることはデク君と大差ないと思うよ」


麗日「ゲーム?んなもん巻き込まれる覚えないし、場所も全然検討つかへん。携帯も持ってないし」


緑谷(携帯...GPSを使えば...ってあれ?僕のもない)


麗日「さっき拾った奴には火星がどうとか書いてあったけど薄気味悪くなっちゃって」


緑谷「いまそれは?」


麗日「驚いた弾みで落としてしまって...」


麗日が差し出したそれに、本来の役目は果たせそうにない。


ボディが真っ二つに割れて基板のICが露出していた


緑谷「それはもう...使い物にならないね」


麗日「うん。でもこの先、これがないと困るかもしれない」


緑谷「どうして?」


麗日「私、思うんだけど、あんな何行かの文章を見るだけだったら態々こんなもの用意しなくていいよね?


多分、この後のゲームの展開で、これが必要になってくる気がする」


麗日「はー、どうしよう」


緑谷「僕ので良かったら一緒に見ない?」


麗日「え、いいの?」


緑谷「うん、もちろん。こんな訳分からない状態なんだ。みんなで助け合わないと」


僕たちは焚火の所まで戻った





僕は麗日さんに自分のタブレットに入ってる情報を見せた。


麗日さんにとって一回目のメッセージ以外は初めてみるものだった。


麗日「デクくん」


麗日「これって本当の出来事なのかな」


麗日「気づいたらよくわからんとこに放り出されてて」


麗日「ようわからんゲームとか、生き死にがどうのこうのって」


麗日「父ちゃん...母ちゃん...」ポロポロ


緑谷「麗日さん...」


麗日「手」


麗日「手握って」


緑谷「うん」


麗日「うう...怖い」ブルブル


緑谷(麗日さんの手...冷たい)


緑谷「大丈夫」


麗日「え?」


緑谷「大丈夫だよ」ニコッ


麗日「デク君、怖くないの?」


緑谷「そりゃ怖いけど、でもオールマイトが言ってたんだ。つらい時、怖い時ほど笑っちまえって」


緑谷「だから、大丈夫」ニコッ


麗日「ふふ、デク君らしいね」


麗日「私も大丈夫そう。ありがとね」ニコッ


麗日(デク君...ごめんね)


そのまま夜は更けていった。

フォント変更のやり方教えて下さい。
文字を太くしたい部分があるんです。

瞼(まぶた)越しにまばゆい光を感じて目を覚ます。


光は僕の真後ろから射し入れて正面の岩山を照らす。


麗日さんは既に起きていた。


僕と目が合うと恥ずかし気にそっぽを向かれた。


「おはよう」と言って。


昨日手をつなぎあって寝たんだ。僕もちょっと恥じらいながら


「おはよう」と返す。


緑谷「....やっぱり、正面が西か。ということは右手が北だね」


麗日「道順は、タブレットでわかるでしょ?いつ出発するん?」


緑谷「熱くならない内にしよう。朝飯を食べて、すぐに出よう」


麗日「うん!」


緑谷「...」


麗日「ん?どうしたんデク君?」


緑谷「あ、いや麗日さん。何かこれだと僕が指示してるみたいで」


緑谷「なんか申し訳ないというか...」


麗日「うんうん、大丈夫!」


麗日「うちはこれまでデク君のすごいとことかいっぱい見てきたし」


麗日「それに元々うちが端末壊さなきゃ,,,」


麗日「と、とにかくデク君の事は信頼してるから!そのままでダイジョブ!」


緑谷「麗日さん...」


緑谷(し、信頼!?)





【ここからスタート地点でもある第一CPへの道順は、以下の通り。


北へ2500メートル、東北東へ1350メートル。東へ230メートル】



僕たちは一歩の長さを計り、それに歩数をかけることにした。


二人でそれぞれ歩数を数えながら出発した。







麗日「デク君、今どのくらい迄来た?」


緑谷「3291歩だから、大体1645mくらいかな」


麗日「うん、私もそのくらい」




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緑谷「よし、そろそろ休憩やめて進もうか」


麗日「」


緑谷「あれ?麗日さん?」
 

麗日「デク君、ちょっと来て」


麗日「この岩。どうしてこんな縞模様なのかと思って。それぞれ色の違う層が順番に積み重なっている」


麗日「そして、白い層はこんなに脆い」


麗日さんの指がめり込むと、ぼろぼろと崩れ剥落する。


緑谷「つ、つまり?」


麗日「つまり、この岩山を登ったりするのは自殺行為ってこと」


緑谷「白い層には要注意か。他は?」


麗日「うん。例えばあの赤い層なんかも中まで全部赤い訳じゃない。表面にコーティングがあるだけ」


麗日「だからもし登ろうとしたら、どの部分だっていきなり崩壊する可能性があるよ」


緑谷「....まさか、この景色は全部人為的に作られたんじゃ...」


麗日「でも、どうみてもすごい古そうだし、」


麗日「全然、人工的ってか、それっぽくないよ」





最後の直線はわずか300メートル。


急に視界が開け、岩山に囲まれた平野のような所に出た。


真正面に数人の人間が輪になっているのが見える。


『緑谷くん』  『麗日くん』


向こうから僕たちを呼ぶ声がした。この声は









緑谷「飯田君!」


緑谷「飯田君も巻き込まれていたんだね!」


飯田「ああ、俺自身もよく分からないんだが」


飯田「まあ、ほかの皆もそう言っている」


轟「よう」


切島「緑谷、麗日、無事でよかったぜ!」


緑谷「え、a組の皆??ってことはやっぱり授業??」


爆豪「んなわけねーだろ![ピーーー]ぞカス!!」


飯田「なんとも皆その辺りの記憶があいまいでね」


飯田「今それについて話し合ってたところだったんだ」


八百万「でもこれでやっと9人そろいましたわね」


緑谷「9人?」


八百万「轟さん、爆豪さん、切島さん、飯田、上鳴、梅雨ちゃん、麗日さんに私とあなたを入れて9名です」


爆豪「けっ、てめえらがおせえから」


緑谷「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ」


緑谷「九人?クラス全員じゃないの?何?どういう集まりなのここは?」


爆豪「いっぺんに話すんじゃねーよ!」


飯田「みんなで話し合ったことをまとめよう」


飯田「まず我々は何者かによってここに連れて来られたと思われる」


飯田「みんな着いた前後の事を覚えていないんだ」


飯田「そしてここは少なくとも日本ではない」


麗日「何で?」


飯田「水の回転とか夜空の様子で判断したんだ」


飯田「恐らく南半球のどこかだと思われる」


飯田「そして主催者側は僕らに何らかのゲームを要求している」


飯田「悪質極まりない、ふざけてる」


飯田「そして最後に


飯田「僕らは今個性を使うことが出来ない、使えないんだ」

緑谷「え?個性?」


飯田「少なくともこの七人は...」


飯田「二人まだ確認していないのかい?」


僕と麗日さんは顔を見合わせる。


麗日「そういえば、岩を浮かそうと思ったとき浮かへんかった...」


緑谷「僕はまだ..」


緑谷(全身に力を行き渡らせるイメージで)


緑谷(フルカウル)


緑谷「あれ?」


飯田「やはり君たちもか」


飯田「どういうわけだか分からないが個性が使えない以上、暫くは指示に従うしかないだろう」


八百万「お待ちください」


八百万「私たちをこんな目に合わせた得体の知れない連中です」


八百万「そんなことをしたら連中の思う壺ですわ」


飯田「そんなこと言ったって」


飯田「今の状況じゃそうするしかないだろ?」


飯田「確かに個性があれば君は食料を出し続ける事が出来るし、僕は走って助けを呼びに行けるかも知れない」


蛙吹「確かに飯田ちゃんの言うとおりね」


蛙吹「八百万ちゃん、ここは一先ず指示に従いましょう」


八百万「ええ...」


【各プレイヤーは、お互いに協力するも敵対するも任意である。】


飯田「協力し合って、必ずここから脱出しよう」






飯田「所で二人はタブレットは受け取ったかい?」


緑谷「これのこと?あ、でも麗日さんは途中で壊しちゃったみたいで」


麗日「そうなんよ。うっかりしとって」






飯田「それは、少々まずいかもしれない」


飯田「主催者からのメッセージは、第一cpでのみ九つに分割されているんだ」


飯田「だから一人の端末が使えないとなると、全員がその分のメッセージを受け取れないことになる」


爆豪「本当に壊れたのか?隠してるんじゃねーだろうな」


緑谷「嘘じゃないよ。壊れたのは、僕も確認した」


飯田「とにかく緑谷君のだけでも見せてもらおう」


飯田「これは僕のだ。それほど重要な情報はないみたいだ」


飯田が緑谷にタブレットを手渡した。






①各CPでは、すべてのプレイヤーに対し同一の指示が与えられる。
 ただし、ここ第一CPのみ、重要な情報が各プレイヤーに分割されている。
 したがって、全員が、全てのメッセージを確認してから出発することを、強く推奨する。
 これはスタートにおける不公平をなくすための措置である。


②端末を使ってメッセージを得る方法は、このメッセージを得た場合と全く同じである。


③この端末は充電式であり、動作時間は約10時間である。
 万一充電が切れた場合は、モバイルバッテリーをアイテムとして獲得すれば、ゲームを継続することが出来る。

緑谷(やっぱり、麗日さんの言った通りだ)


緑谷(「スタートにおける不公平を無くすための措置」ってことは)


緑谷(このゲームは協調ではなく、競争が前提になっている…)


切島「次は俺だな」


僕は切島君の端末上の文字を見た。


そこにはゲームに関する5つの注意事項が載っていた。


犯した者には重大なペナルティが課されるとも。


緑谷「重大なペナルティって何だろう?」


飯田「具体的な説明は、どこにもないな」


飯田「…でも僕は、最悪、殺されることまで想定しておいた方がいいと思う」


上鳴「まじかよ…」


八百万「飯田さん、それはいくらなんでも…」


飯田「相手は莫大な金と労力をかけて、これだけの事をやる連中なんだ」


飯田「誰かが外部に救助を求めることで、それまでの努力が台無しになると考えれば、」


飯田「今さら連中が殺人を躊躇うとは思えない」




上鳴「確かに…」


飯田くんの言葉を受けて、空気中に緊張感が漂う。


上鳴「じゃあこれは?この焚き火同士を近付けてはいけないっていうのはなんなんだよ」


八百万「…恐らくですが」


八百万「それが救援を求めるサインに成りうるからかと」


上鳴「え?」


八百万「聞いたことがありますの」


八百万「遭難者は三角状に信煙をあげそれをsosに見立てると」


上鳴「…じゃあ何か」


上鳴「俺達は逃げることも助けを求めることも出来ねーっうのか」


上鳴「クソッ、ふざけやがって」


爆豪「アホ面の言うとおりだ」


爆豪「何もこんな脅しに一々踊らされることねぇ」


爆豪『いいかよく見とけよ!どこの誰だか知らねーがな、俺をこんな目に合わせてただで済むと思うな!ぜってえてめえらの思い通りにはならねえ!次はてめえらの番だ!覚悟しとけよ』


梅雨「ちょ、爆豪ちゃん」


爆豪「」ケッ

八百万「私の機械の指示は、もう用済みなのですが...」

八百万さんがタブレットを手渡す。


【第1CPで獲得できるアイテムは、CPから南に35mの位置の、スピ二フェックスの草むらにある】
つゆ

飯田「ここにあるのが、さっき回収してきたそのアイテムだ」

飯田「後でみんなに公平に分配しようと思ってる」

緑谷(...色々ある。主に食べ物か)

蛙吹「こっちはほとんど説明がなかったのよ」


【北のルート:北へ5520m。西へ2660m。南南西へ520m】


上鳴「俺も、同じだな」

上鳴君の端末には南のルートが、轟君の端末には東のルートがそれぞれ記されていた。

飯田「次は、爆豪君だ。西のルート」

爆豪「おい」

爆豪「丸顔のがまだなんだが」

飯田「だから麗日君はさっき無く...爆轟「てめえは黙ってろ

爆豪「麗日、本当だろうなそれ」

麗日「う...うん」

爆豪「ならいいが...仮にこいつが嘘を付いててどこかに隠し持っていた場合、俺らは損することになる」

爆豪「俺たちが知らないことをあいつだけが知ってるんだからな」

麗日「爆豪君!」

麗日「ウチ、そんなこと絶対しない!ほんとに壊れちゃったの」

切島「お、おいおい。やめろよ二人とも」

爆豪「いや、確認しときたかっただけだ」

勝っちゃんは仏頂面で歩いてくると画面を見せた。


八百万「これで七人分、全部ですわね」

飯田「俺たちは、東西南北のルートをそれぞれ選ばなきゃならないらしい」

飯田「しかし、今の所判断材料が何一つない」

飯田「緑谷君たちのには期待してたんだが...」

轟「最初にどっちに行くかは偶然に任せる...そういうことじゃねえのか?」

飯田「...かもしれない。すると、緑谷君のメッセージにはもっと別の重要な情報が含まれていることになる...麗日君のもだが」

麗日さんが気まずそうに顔をそむける。

飯田「とにかく、見てみよう」

飯田「ここが第一チェックポイントだ。見つけるのに、相当苦労したが」

よく見ると、赤い岩の一点に小さな光の点があった。

緑谷(レーザー光線...?)

飯田「その光に当ててみてくれ」


前と同じファンファーレが鳴った。続いて、文字が現れる。


【サバイバルのアイテムを求める者は東へ、護身用のアイテムは西へ、食料を求める者は南へ、情報を求める者は北へ進め】




飯田「そういうことか...」

タブレットを回すと徐々にざわめきは広がった。

切島「お、おい。護身用って、一体何から守れってんだよ」

上鳴「へ、蛇とか?」

蛙吹「明らかに私たちを分断させようとしてるわね」

轟「...」

八百万「食料...食料は限られている?」

麗日「デク君...」

緑谷「大丈夫」ギュッ

飯田「みんな、静かに、落ち着いて」

飯田「とにかく、今俺たちに出来る最善の策は何か考えよう」

飯田「とにかくこれで、ルートに、それぞれ意味があることが分かったんだから、あとは、人数をどう割り振るか決めないか?」

蛙吹「飯田ちゃん、割り振るって?」

飯田「ああ、全員が一つか二つのルートに集中するのは危険すぎる。正解が分からない以上、保険をかける意味でも、我々は全てのルートを試すべきだと思うの
   だが。その上で、いったんここに戻って...」

麗日「ちょ、待ってよ。飯田君、先走りしすぎ」

蛙吹「なんだか変ね、飯田ちゃん」

上鳴「おい梅雨ちゃん、飯田はいっつもああだぜ」

蛙吹「いえ、いつも変なのは知ってるんだけど、今日はなんというか...」

上鳴「え、あの飯田がいつも以上に変だって言うのか?」

飯田「そこ!本人の目の前で陰口を言うのはやめたまえ」

轟「飯田」

轟「お前はもう全員『ゲーム』をやるって前提で話を進めてるが、俺はまだ賛成出来ない」

切島「そうだ」

切島「さっきの爆豪じゃねーけど、いきなり連れて来られて、姿も見せない連中からあーだこーだ言われて」

切島「それに従ってたんじゃ、男らしくねーぜ」

飯田「...じゃあ、どうすべきだと思うんだい」

切島「決まってんだろ」

切島「奴等をぶっ潰すんだよ!」

轟「個性も使えないのにか?」

切島「ダーそうだった。ってかそこからしてまずおかしいんだよな。どうなってんだこれ」

切島「まず個性をどうにかすんのが先じゃねーのか?」

緑谷「...もしかしたらだけど」

切島「ん?」

緑谷「アメリカでは個性を強化する薬が密売されてるって聞いたことがある」

緑谷「強化できるってことはつまり

八百万「逆も然り...確かに可能性としてはありますわね」

八百万「しかし既に丸一日続いている...」

八百万「薬にしては強力過ぎますわ」

飯田「それに関してはおそらく一長一短で分かることじゃないだろう」

飯田「ともかく今どうするか決めねば、決めねばなのだよ!」



麗日「あ、あの、」

麗日「ここから逃げるっていうのは…どうかなあ」

蛙炊「それも現実的ではないわね」

切島「そうだぜ。逃げるなんて男らしくね…飯田「時期尚早だと思うね」

飯田「大体、ここがどこなのか、俺達がこんな場所に集められた意図は何なのか、まだ何一つ分かってないんだ」

爆豪「…じゃああんたはどうしろっつうんだよ


飯田「取り敢えは、指示に従ってみるしかないだろう。その上で、ここからの脱出ルートについて、情報を集める」

八百万「…そう、ですわね」

蛙炊「ええ」

緑谷「確かに、それが最善かもしれない」

上鳴「おいおい」

上鳴「皆、それでいいのかよ?」

緑谷「ああ、仮にこの示されてる以外のルートに行ったとして、そこに水や食べ物があるかは分からないと思うんだ。もしかしたら、危険な動物がいるかもしれないし…」

八百万「最も、指示通り進めば助かると言う保証もないのですけれど」

轟「あの、いいか」

轟「ここへ来る前のことを何か覚えていないか、もう一度考えた方がいいと思うんだが…」

爆豪「ああ?それはもう散々やったろうが?」

轟「そうだが、段々思い出した奴もいるかもしれねえ…」

爆豪「ああ!そうやって蒸し返す奴がいるから先に進まねーんだよ!」







爆豪「要は行って戻ってくりゃいいんだろ?」

切島「おい、待てって!」ダッ


八百万「...行ってしまいましたね」

飯田「ああ、俺たちも行かねば。取り合えず、俺と八百万君は別々のルートにすべきだと思うのだが」

八百万「ですわね。それと、女性だけで編成するのも危険ですので...」

飯田「ああ、梅雨ちゃん君、今すぐ爆豪君たちに合流してくれないか?」

蛙吹「ケロっ、分かったわ」ダッ

飯田「では残りは...」

麗日「あの!」

麗日「私とデク君、北に行きます!」

緑谷「う、麗日さん?」

飯田「うむ」

飯田「戦闘能力の高い轟君は八百万君に着いたほうがいいだろう」

轟「分かった」

飯田「ではみんな、またここで会おう!」

緑谷麗日轟八百万「「「「「おう!」」」」」


....

上鳴「あの...俺は?」

緑谷「もう、そろそろじゃないかな?」

僕は手にした万歩計を見ながら言った。

麗日「次は、西へ2660mか...あ!多分この道だよ」

緑谷「ええ、本当に?」

見たところ幅は5、60センチしかない。これじゃ隘路(アイロ)というより、単なる岩壁の隙間だ。

麗日「うん、だって磁石が...それに他に見つからんし」

万歩計をリセットして体を横にし、隙間から入っていく。

麗日「結構狭いね。突っかからんようにせんと」

緑谷(突っかかる...ハッ‼」

緑谷「////」

麗日「?」


少し行ったところで道幅は広くなっていた。どうやらこの道で正解らいい。


緑谷「麗日さん」

緑谷「これは、白蟻の巣じゃないかな?」

麗日「そうなん?」

緑谷(白蟻がこんなに巨大な巣を作るというのは、どこだろう?熱帯であることは間違いないが、やっぱりアフリカなんだろうか)ブツブツ

麗日「」クスッ

緑谷「へ?ごめん麗日さん。つい癖で...」

麗日「いや、ええよ。やっぱデク君はデク君なんだなあって...ちょっと安心した」ニコッ

緑谷「は、ははは」


ーーーーー -----

緑谷「ねえ、麗日さん」

麗日「なに?」

緑谷「何で、その...北を選んだの?」

麗日「え、変やった?」

緑谷「いや、どこに行っても結局はまた第一CPに戻るでしょ?だったら方角は余り関係ない気がして...」

麗日「うーん」

麗日「暑かったから、かな」

緑谷「は?」

麗日「ほら、ここってよう分からんけど熱いじゃん。それで北に行けば少しでも涼めるかなー

麗日「なんて...」

緑谷「フフッ」

麗日「あ!今笑ったでしょ!うちの事アホやなーって!」

緑谷「いやいや、そんなつもりじゃ」

緑谷「ただ麗日さんも麗日さんらしいなって」

麗日「もう、何それ」///

緑谷「ふふ」

麗日「///」






しえん



麗日「デク君、私たちってパートナーだよね?」

緑谷「??」

緑谷「どうして?」

麗日「もし、何か思い出したりしたら、正直に言って欲しい。それが呼び水になって、うちの記憶も蘇るかもしれんし...」

緑谷「そんな、当然言うに決まってるよ」

麗日「うん、デク君なら大丈夫やと思うけど...」

麗日「うち、他の七人の内、半分くらいはほんとのことを言ってへん気がする。...もしかすると、このゲームの正体なんかも知ってるかもしれないし...」

緑谷「ち、ちょっと待ってよ。クラスの皆を疑うの?」

麗日「素振りというか、何となくやけど...」

麗日「デク君は感じへんかった?」

緑谷「いや、僕は別に...」

麗日「そう...ならええんやけど...」

麗日「ごめんね、急に変なこと言っちゃって。気にせんといて」

麗日さんはまるで軽口を叩いたかのようにそう言った。

でも僕には彼女が何かをごまかそうとしているように感じられた。

この時の僕の違和感は、後々まで尾を引くことになる。



麗日「やった!デク君、チェックポイントだよ」

緑谷「うん」

僕は専用の端末をポーチから出し、赤外線ポートに光を当てた。


【北のルート第二CPへようこそ。
 ここでは情報が与えられる】


続けて画面をタップする。


【①ゲームの舞台は元々火星に設定されている。だが実際に諸君がいるのは地球上で、正確な位置は南緯17度...】


【②地理的な区分で言うと、ここはオーストラリア大陸北西部、西オーストラリア州キンバリー地区のバングル・バングル国立公園の中である】


緑谷(オーストラリア...。やっぱり南半球だったんだ)

緑谷(それにしても、いつの間に、どうやって連れて来られたんだろう...)

麗日「バングル・バングル?デク君、知っとる?」

緑谷「いや、聞いたこともない」

画面には次々とバングル・バングルについての情報が提示されていく。


【⑥...この公園は、毎年、一月から三月までの雨期には閉園される。...この間は、レジャーも公園内には駐在していない。,,,最も近い町まで300キロ以上離れている。したがって、ゲームを中途で放棄するのは、自殺行為でしかない】


麗日「これって...」

緑谷「うん、見え透いた脅しだ。大体、僕らにこんな事をしてくる連中なんだ。間に受けることないよ」

緑谷(...でも、はったりを言って向こうに何の得がある...?)


【⑧第2CPのアイテムは、ここから南へ40メートル進んだ場所にある】


画面を触っても、これ以上のメッセージは出ないようだった。

緑谷「これで終わり...たったこれだけ?」

その時僕は、ある疑惑にぶつかった。

南へ行けば食糧、東なら、サバイバルの為の道具が手に入る。

皆、それを第1CPまで持ち帰ってくるだろう。

その時僕らは、何を持ち帰ればいいのだろう?

僕らが得た情報は果たして、皆の目にどう映るだろうか。

少なくとも、魅力的には見えないだろう。

他のアイテムに比べて、「価値」が低いのではないだろうか。

緑谷(いや...)







緑谷(僕は何を考えているんだ)

緑谷(これじゃまるで、皆を信用してないみたいじゃないか!)


飯田『皆で協力し合おう!』


緑谷(そうだ、そもそもこんな事考える方が皆に失礼じゃないか)


麗日「...デク君?」

麗日「大丈夫?何か顔色悪いよ?」

緑谷「え?...ああ!大丈夫大丈夫、いつもの癖でちょっと考え事を...」

麗日「そう...ならええんやけど」

緑谷(...)

緑谷(そう言えば、元はと言えば北に行こうと言い出したのは麗日さんだ)

緑谷(あの時の麗日さん...どこか変じゃなかったか...?)

緑谷(いや、僕の考え過ぎか)



麗日「はー!でも、ほんとこれだけ?って感じだよね」

麗日「いやー、参った参った」

緑谷「ははは、でも大事なことも分かったんじゃないかな?」

麗日「大事なこと?」

緑谷「ここがオーストラリアってこと!」

緑谷「だから、もうライオンの心配はしなくていいし、どんな動物がいるかも、大体検討がつく」

緑谷「つまり、コアラとカンガルーに気を付けていれば...麗日「...」

緑谷(ウッ...冷たい視線が...何を言ってるんだ僕は)




僕は、もう一度メッセージを読み直すことにした。

何か、重大な情報が隠されているかも知れない。


緑谷(...)

緑谷(駄目だ、これ以上のことは分からないか)

でも僕の中で、一つの文章が意識に引っかかった。



【ゲームの舞台は元々火星に設定されている。】

緑谷(この『元々』とは一体...?)

緑谷(主催者側がそういう設定で考えただけかもしれない)

緑谷(でも...そうでない場合は?)

緑谷(主催者からのメッセージは計算し尽されているのでは)ブツブツ

麗日「デク君!」

緑谷「へ?」

麗日「また考え事?」

緑谷「う、うん。ちょっとね」

麗日「...あんま無理しないでね。こんな状況なんやし、考えても分からんことってあるだろうし」

麗日「それに、さっきうち等パートナーって言ったよね?」

麗日「デク君、うちにも相談していいんよ?」

麗日「まあ、そんな頼りないかもしれんけど...」

緑谷「麗日さん...」

緑谷(そうだ、僕は馬鹿だ。僕が何気なく取ってる態度で相手を不安にさせて...)

緑谷「うん、ごめん」

麗日「ううん...それより、⑧に書いてあったアイテムを取って来ようよ」

緑谷「あ、ああ。そうだね」



---

緑谷「そうか、やっぱり情報はあれだけじゃなかったんだ!」

第二CPからはビニールの袋に包まれて小さなカードが出てきた。恐らくこれを端末に差し込めばいいのだろう。


カードを差し込み、電源を入れなおす。

軽快で能天気な曲と同時に、画面にはキャラクターが写し出される。


『やあ!俺はダックビリー・プラティ君だ。よろしくな!』


麗日「これって...ドナルド・ダッ「麗日さん!?」


画面にはド***・ダックそっくりのキャラクターが登場した。



『食い物や道具に目が眩まずに俺を選んだのは上出来だ!偉いぞ!勿論、武器なんぞは論外だがな...


『まずはそうだな、プラティ君の、相性診断!』


プラティ君は機関銃の様に長台詞を吐き出した。画面をタップする必要はないらしい。


『このコーナーは、情報を選んだ諸君と、他の奴等との相性を教えてやろうというものだ』


『まずは、サバイバルの為のアイテムを選んだ連中だ。こいつらは現実主義者だな。行動は合理的だ。ある程度は話せば分かるはずだし、出来るだけ仲良くしといたほうがいいかもしれん』


『次は、護身用のアイテムを選んだ手合い。こいつらは、ゲーム序盤の協調がまやかしであることに気付いて、最後は戦いになると予測している。要注意だぞ。どっちかというと距離を置いておいたほうが無難かもな』


『だけど、なんといっても恐ろしいのは、食料を取りに行った奴等だ。ちょっと意外だろ?警告しておこう。

『最初はいいが、後半は絶対奴等には近づくな。なぜかって?悪いな。それはまだ、教えられない』

【サバイバルのアイテムを求める者は東へ、護身用のアイテムは西へ、食料を求める者は南へ、情報を求める者は北へ進め】


情報(北)→緑谷、麗日


サバイバル(東)→飯田、上鳴


護身用(西)→轟、八百万


食糧(南)→爆豪、切島、蛙吹




このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年06月07日 (水) 20:30:27   ID: 4PoKJdqe

ヒロアカもののssて中々ないから~

今後盛り上がって欲しい。

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