【オリジナル】「サキュバスといっしょ」【SS】 (100)



神殿


(――最近は魔物が活発になっているので十分気をつけて、たまにはちゃんと休みをとってね、っと)カキカキ

「これでいいかな」

「それでは神父様、ちょっと手紙出してきますね」

「何かおつかいはありますか?」

神父「いえ、大丈夫ですよ。エリーさんが毎日良く働いてくれていますからね」

エリー「そんな……えへへ。それじゃ行ってきますね」



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漁村

エリー「―これでよしっと」カタンッ

エリー「お父さんもお母さんもたまには休んで山から下りてくればいいのに」

エリー「ま、今は魔物も多いし仕方ないか」

エリー「さてと、新しい本でも買って帰ろうかなぁ……あれ?」



「いよーしっ! 準備おっけい!」



エリー「アリサちゃん? どうしたの、そのかっこう」

アリサ「あっエリーお姉ちゃん! 何って海賊だよ海賊!」

アリサ「そうそう、この本返すね。すっごく面白かったよ!」

エリー「よかった。喜んでもらえて私も嬉しいよ」

エリー「あっ、この本海賊の話だったっけ。そうかそれで……」

エリー(アリサちゃん本当に影響受けやすいなぁ)



アリサ「海賊ってかっこいいね! あたしもまだ見ぬ世界の神秘、秘密の財宝を探す旅に出たいなぁ」キラキラ

アリサ「という訳で早速旅に出るよっ!お土産待っててね!」

エリー「ええっ!? や、やめなよ。今は魔物も多いんだし危ないよ」

アリサ「冒険に危険は付き物だよ!」

エリー(これはまずい……!)

エリー「それにほら! 海賊なら船が必要でしょ? アリサちゃんが乗って行っちゃったらおじさん困るんじゃないかな?」

アリサ「漁に使う船は借りないよ。お仕事できなくなっちゃうからね」

エリー「そうだよね。でもここには漁に使う船しかないし、残念だけど海賊は諦めた方がいいかなーって」

アリサ「ふっふっふ。抜かりはないよ!ここにはなくてもすぐ南に造船所もある港町があるじゃない」

アリサ「陸路スタートなのは微妙だけど、大冒険に必要なのはスタートの綺麗さじゃないよねっ♪」

エリー(どうしよう、すごく行き当たりばったりだよ……!)

エリー「と、とにかく危ないからダメ! お姉ちゃん許しません!」

アリサ「好奇心を止めることは誰にも出来ないよ! それじゃ、いってきまーす!」ズダダダダ

エリー「アリサちゃん!? ……行っちゃった。どうしよう……」

エリー(アリサちゃん足遅いし追いかける? でも私の力じゃ止められないし……)

エリー(おじさんになんて言おう……。いや、南の港町までは魔物も少ないし、まだ帰ってくる可能性も十分にある……はず)

エリー「……帰ろ」トボトボ




神殿


エリー(……礼拝堂のお掃除にも身が入らない)

エリー(貸した本がまずかったかなぁ。でも面白い本だったし)

エリー(ちょい役だったけど、私は勇者さんが特に好きだったな)

エリー(攻めてくる隣国、人々を苦しめ世界の支配を目論む魔王との戦いに挑み―)

エリー(―海賊となってしまった友の母国を守り続ける)

エリー(かっこいいなぁ。私もそんな風に人々を苦しめる魔物と戦ったりしちゃったりなんかして)

エリー「えいっ! たあっ!」ブンブン

エリー「えへへ。なんてね」

エリー「そりゃっ!……あ」ブン

ゴトン

エリー「ああっ! 女神像倒しちゃった……!」

エリー「どうしよ……いや、まずは起こさないと……!」

エリー「よい、しょっと」グッ…

エリー「ふう……壊れてなくてよかったぁ」

エリー「けが人もなし。誰もいなくてよかったよ~」ホッ

????「あいたたたたたた……」

エリー「えっ……誰かいらっしゃいましたか!?」




破廉恥な美女「ちょおっと~……起こし方乱暴じゃない~?」

エリー「ご、ごめんなさい! 寝ている方がいるとは気づかなくて! お怪我はありませんか!? すぐ手当てしますから!」

破廉恥な美女「まあそれは大丈夫なんだけど」

破廉恥な美女「うふふ♪ 心配してくれてありがと。あなた良い子ね」

破廉恥な美女「ホント……女の子に優しくしてもらったのなんて始めてかも。なんだか泣けてきちゃう。ふあ~」

エリー(あくび……)

エリー「えと……お怪我がないようで何よりです」

エリー(この人……どこにいたんだろう?)

エリー(綺麗な人……。女神像にそっくり……というより瓜二つ?)

エリー「あの……」

破廉恥な美女「ところであなた見ない顔だけど今日来たのかしら?」

エリー「ええっ!? いえ、もう十年ほど住み込みで働いていますが……」

破廉恥な美女「あらやだ、ここ新築よ。面白い子ね」

エリー(この神殿は500年も前に建てられたはずなんだけど……)

エリー(これはまさか……眠っていた神様が起きた的な展開!?)

エリー(そんな小説みたいなこと……でも、確かめてみたい)

エリー「あの、もしかして神様ですか?」

破廉恥な美女「それにしてもよく寝たわ~。あら?今って春だったかしら。ああ、これが小春日和……」

エリー(返事がない……違うのかな?)

エリー(となるとあの角と翼は……はっ)

エリー「さては魔物!?」

破廉恥な美女「とんでもない。わたし神様よ? サキュバス神オリアナ」




神父「魔物ですと!?」ガチャッ

オリアナ「だから神様だって」




エリー「すみません。お伺いしたのですが反応がなかったので……」

オリアナ「気にしないで。ちょっと寝起きでぼーっとしてたわ」

オリアナ「それにしても、ちょっと寝るつもりが500年も経っていたなんて……」ズーン

エリー「あの、その……元気出して下さい」

エリー(そっか、知ってる人がもうみんないないんだよね。オリアナ様、かわいそう)

オリアナ「ま、気にしてもしょうがないか。あ~あ」

エリー(……以外と大丈夫そう? ううん、きっと無理してるんだ)

エリー「オリアナ様、私でよければ何でも仰って下さいねっ」



神父「しかし、このような時にオリアナ様が目覚められるとは……運命じみた物を感じてしまいますな」

エリー「500年前、悪事の限りを尽くす魔物達を討伐し、人の世に平和をもたらし人々の信仰を集め精霊化したサキュバスなんですよね」

神父「ええ。そうしてオリアナ様を崇めるためこの神殿が建てられたのですが、当のオリアナ様は姿を消してしまい……」

神父「永く平和な時が続いた所為もあるでしょう。すっかり参拝者も減ってしまって……聖水作りだけではままならず……」

エリー「今ではすっかり漁師ですね、神父様」キャッキャッ

神父「はっはっは。今日はマグロですよ」

エリー「やった。私お寿司握りますね」ワーイ

オリアナ「……何かその、ごめんなさいね。楽しそうでなによりだけど」




オリアナ「それで……運命?また何か悪さする奴でも出たの?」

神父「はい。十数年ほど前に大陸の西海岸より強大な魔物が現れ、付近の町や村を全て破壊してしまったのです」

神父「抗戦し、辛うじて生き残った兵によると、その魔物の下に無数の魔物が集い軍隊となっており、その魔物は『魔王』と呼ばれていたとか」

神父「その後、魔王軍は大陸を二つに分ける大山脈まで進行し、そこに城を建て現在は沈黙を守っています」

神父「国の動きとしては大山脈東側すぐの町付近に砦が建て、守りを固めているといったところです。首都より何度か軍も出ております」

神父「魔王軍自体に動きは見られないのですが、どうも魔王出現以来魔物による被害が多く、中には本来一匹で行動するような魔物も徒党を組んで人を襲いだしたとか」

オリアナ「ふんふん」


村人「魔物だーっ!魔物が出たぞー!」


エリー「! 神父様!」

神父「大陸の北東にあるこの村にも遂に魔物が出ましたか……」

オリアナ「なかなか大変なことになっているみたいね。いいわ、わたしに任せなさい。案内して」

エリー「あ、はい!」


・・・





漁村


魔物「ぐまー」

魔物「ぐままー」

オリアナ「……なにあの生物」

エリー「何って魔物ですよ?スパークリングパンダ」

スパークリングパンダ「ぐまー」バリボリ

村人「やめろ! おらの大根食うなっ!」

オリアナ「……あれが?」

エリー「あ、そっか……500年の間に現れた新種なんですよ。草食で比較的温厚なんですけどたまに畑を荒らしているみたいです」

村人「うひゃひゃひゃひゃひゃ! 脇は! 脇は弱いんじゃ!」

エリー「あと、人の体液が好きみたいでたまに旅人がペロペロされます」

オリアナ「そう……」

オリアナ「とにかくペットってわけじゃないのね。じゃ、蹴散らすわね~」

スパークリングパンダ「ぐま?」

バチバチバチバチバチ!!!




スパークリングパンダ「ぐまぁ……」シュゥゥー…

エリー「すごい……!みんな一瞬で……」

オリアナ「ん~ちょっと鈍っちゃったかしら?」

エリー「あの威力で鈍っただなんて……!オリアナ様すごいです!」

オリアナ「うふふ♪ もっと褒めていいのよ」

エリー「オリアナ様ばんざーい!」

村人たち「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」

オリアナ「うふふふふふ♪ やっぱりいいわぁこういうの」ニコニコ




神殿


神父「いやはやお見事でしたオリアナ様」

オリアナ「まあわたしにかかればこんなものよ」

オリアナ「この調子で魔王とやらもサクッとやってくるわ」

エリー「オリアナ様頼もしいです」

オリアナ「悪党は見過ごせないし、わたしを祀っている神殿で貧乏暮らしをさせるのもなんだしね。信仰集めも兼ねて世直しの旅にいくわよ!わたしたちに任せなさい♪」

エリー「さすがですオリアナ様!……たち?」

オリアナ「一緒に行ってくれるわよね、エリーちゃん♪」

エリー「ええっ!? 私ですか!?」

エリー「無理です! 私戦ったことなんてないですよ?!」

エリー「そりゃ多少魔法の心得はありますけど家事ぐらいにしか使ったことないし……」

エリー「それにオリアナ様は一人でもあんなに強かったじゃないですか!私のサポートなんていりませんよ」

オリアナ「それなんだけどねぇ……信仰があんまりなかったせいかしら、魔力残量が全然ないのよ」

オリアナ「実体化もしんどいし、このままいくとすぐ枯渇しちゃうわねぇ。下手すると消滅しちゃうかも」

エリー「そんな、消滅!?」

オリアナ「精霊化の弊害ねぇ。無限の力と命の引き換えに信仰が必要だなんて」

オリアナ「ま、崇められるのは最高なんだけど♪ 神様になって正解だったわねぇ」

オリアナ「という訳で今は戦うべきじゃないのよねぇ」

オリアナ「そこでわたしは考えました。わたしのサキュバスである力を契約により移譲して代わりに戦ってもらって、わたしはサポートに徹するの」

エリー「私が戦う方ですか!? 無茶です無理です無謀です!」

オリアナ「なんでも言ってって言った~」

エリー「うっ……!で、でもでも」

神父「いえ……いいかもしれませんね」

エリー「神父様!?」



神父「大山脈。大陸の半分までとはいえ世界を見てくることはいい経験になるでしょう」

神父「常々考えておりました。今後の神殿のこと……」

神父「私も随分と年を取りました。いずれはこの神殿を誰かにお任せしなくてはならなくなる……」

神父「この神殿には私とエリーさんしかいません。しかしエリーさんのことは本来お忙しいご両親からお預かりしているにすぎません」

神父「そんな貴女にこの寂れた神殿をお任せしなくてはならないかもしれないこと……忍びない思いでした」

エリー「そんな、神父様!ここはもう私の家も同然です!」

神父「ありがとうございます、エリーさん。しかし、やはり貴女には責任感ではなく自分のやりたいことで将来を決めて頂きたい」

神父「世界を回り、見聞を広めて頂きたいのです」

神父「オリアナ様のご助力があれば戦闘も可能でしょう。貴女の魔法には非凡なものを感じます」

神父「元々女性の方が魔法の資質があるとはいえ師である私をあっという間に抜いたことには正直驚きました」

神父「もちろん、見聞を広めた上で選んでくださるというのならば喜んでこの神殿をお任せしましょう」

エリー「神父様……」

オリアナ(……目の前でこんな話されちゃうあたり本当にわたしって信仰がないのね……)

オリアナ「まかせてエリーちゃん!わたしが誰が継いでも御布施だけで生活できちゃうくらいの活躍させちゃうんだから!」

エリー「オリアナ様……」

エリー「……分かりました。魔王討伐の旅路、お供しますオリアナ様!」

オリアナ「! ええ、よろしくねエリーちゃん」

神父「心許無いでしょうがアイテムを用意しましょう。少々出てきます」

ガチャ バタン



オリアナ「それじゃ、今のうちに契約済ませちゃいましょうか」

エリー「あ、はい。どうするんですか?」

オリアナ「とりあえず落ち着いた所に行きましょうか。エリーちゃんの自室に案内してくれる?」

エリー「私の部屋ですね。こちらです」


ガチャ

エリー「ここですよ。それでどうす―」




(割愛)



・・・

エリー「うう……こんな目にあうなんて」

オリアナ「まあまあ。それでサキュバスの力を説明するとねっ……」カァ…

エリー「オリアナ様が紅くならないで下さいよ!」

オリアナ「わたしにだって羞恥心くらいあるわよっ」

オリアナ「その……女の子相手は始めてだったし……」ゴニョゴニョ

エリー「もう……それで、今のでオリアナ様の力を私も使えるようになったと」

オリアナ「ええ。えっとね、どういう感じかっていうと~―」ペラペラ


ペラペラ


エリー「ふむふむ」


ペラペラ


エリー(食肉植物……)

オリアナ「今なんか失礼なこと考えた?」

エリー「い、いいえ・・・?!」


ペラペラ ペラペラペラ


・・・



・・・


オリアナ「とりあえずこんなところね。転落とか事故死に気をつければほぼ不死身だから気楽にかまえなさい」

エリー「エッチなことするのに気楽になんて無理です……」

オリアナ「そんなこと言ってぇ~エッチなこと好きでしょ?さっきだって――」

エリー「い、いい、いいです!ようは負けなければいいんです!」

神父「戻りました。エリーさん、少ないですがこちらをどうぞ」

エリー「ありがとうございます神父様、それでは行ってまいります。ほら行きますよオリアナ様!」グイッ

オリアナ「ちょ、ちょっと!」

ズダダダダ…

神父「おやおや、もうあんなに仲良く……。頑張ってくださいね、エリーさん」



小道


エリー「ふう……急いで出てきちゃった」

オリアナ「照れなくていいのに……わたしとエリーちゃんの仲なんだから」キャッ

エリー「でもどうしよう……私戦ったことなんてないし」

オリアナ「無視しないでよ~エリーちゃん。お姉さん泣いちゃうわよ~」

エリー「もう……いいですよ、オリアナ様。私もごめんなさい」

エリー「あと私のことはエリーでいいです。……それから、よろしければ私に戦い方を教えてください」

オリアナ「エリー……!いいわ、お姉さんに任せて!」

オリアナ「チュートリアルバトルいくわよ!」



(割愛)



オリアナ「ところで、これからの予定は決まってる?」

エリー「そうですねぇ、漠然と西に向かおうとは考えているのですが……」

エリー「あ、少し前に村を飛び出したアリサちゃんって女の子のことを探したいです。一人旅はやはり危ないと思うので」

エリー「南の港町に行くと言っていたのでまずはそこまでですね」

オリアナ「ふむふむ。地形とか変わって無ければ後は首都を通って西に向かって一本道のコースでもあるしいいんじゃないかしら」

オリアナ「あっ!でもちょっと寄り道させて」

エリー「どうされました?」

オリアナ「この近くに吸血鬼の集落があったんだけど、そこによらせてほしいの」

オリアナ「サキュバスが人の精力を糧とするように吸血鬼は人の血を糧として生きる存在」

オリアナ「人の窮地とあらばさすがに手助けしてくれると思うのよねぇ。どう?エリー1人じゃ不安そうだし万が一襲いかかってきたらわたしが蹴散らしてあげるから試しに」

エリー「ああ、それいいですね。行ってみましょうか」

オリアナ「え……即決?」

エリー「はい? いい考えだと思いますよ」

オリアナ「剛胆ねぇ……元魔物のわたしが言うのもなんだけど吸血鬼よ?」

エリー「ああ、そういうことですか。大丈夫ですよ。今吸血鬼と人は同じ社会で生きていますから」

オリアナ「……はいぃ?」


エリー「オリアナ様がきっかけですよ。人に味方した貴女がいたからお互いに歩み寄ることができたんです」

エリー「吸血鬼は人の血を必要としますから、先に滅びるか良くても人と共倒れする道しかなかったんです」

エリー「でも寄生するような生き方では衝突は避けられない。かねてから共生の道を模索していたみたいですよ?」

エリー「人としても強力な吸血鬼との戦闘は避けたかった。そんな中でオリアナ様が信仰され精霊化しましたからね」

エリー「人と魔物との共存に前例ができたことにより二つの種族は今日の共存へと至ることができた……私はそう習いました」

オリアナ「へえ~何となくそんな気配はあったけどうまく行ったんだ」

エリー「今では主に俊敏性の高さや飛行能力を活かして夜間の間に国中に物を届ける物流の面で社会に貢献していますよ」

エリー「たぶんオリアナ様が行かれようとしている所はこうもりマークのヴァンパイア急便の本社があるところですね」

オリアナ「なじみ過ぎでしょ」

オリアナ「まあ、心配がないみたいだし行ってみましょ? わたしの顔見知りがいれば話も通しやすいだろうし、港町までの街道からそんなに離れてはないから時間は取らないわ」

エリー「はい。行ってみましょう」



・・・

テクテク…

エリー「あの……オリアナ様はどうしてそのような拘束具を着ているんですか? もしかして脱げないとか……はずしましょうか?」

オリアナ「大丈夫よ。自分で着けてるし一人で脱げるしね」

オリアナ「どう? 身動きできない女……そそらない?」

エリー「ししし知りませんそんなこと!」

オリアナ「いいものよ。気持ちいいことから逃げられない……どんなに感じてもやめてもらえない。自分の全てを支配される悦び……やだ、ちょっと興奮してきちゃった」

エリー「なに言ってるんですか!? やめてください!」

オリアナ「もうエリーったらかーわーいーいー♪」


・・・


・・・

オリアナ「エリーって修道服着てるけどシスターじゃないのよね?」

エリー「はい、いそがしい両親の代わりに神父様に面倒を見てもらっていただけなのでシスターっぽいなにか、ですね」

オリアナ「ぽいって」

オリアナ「いえね、シスターは神様と結婚するっていうところもあるらしいから、もしかしてエリーは私の奥さんなのかなって」

エリー「奥さんって、ええ!?そんなわけないじゃないですか!」

オリアナ「全力で否定しなくても……あ、むしろわたしのこと奥さんにしちゃう?」

エリー「~!もう!からかわないで下さい!」


・・・


・・・

オリアナ「エリーのご両親ってなにをされているの?山に籠られているとか言ってたけど」

エリー「二人とも錬金術師です。綺麗な水が必要だとかで、こんな時代ですからずっとエリクサーを作っているそうですよ」

オリアナ「へえ~エリクサー……エリクサー!?」

エリー「市場に出ているものはほとんど二人が生成したものだそうです。えへへ、家族の作ったものが世の中に出るってなんかいいですよね」

オリアナ「そんなレベルの話じゃ……しかも市場って、流通させられるほどの量を?ありえない……時代が違いすぎる……」

・・・



エリー「ふう……けっこう歩きましたね」

オリアナ「そろそろ終わりが見えてくるころかしら?」

エリー「はい。あ、オリアナ様。村が見えてきましたよ」

オリアナ「ようやくね。でも吸血鬼は夜行性だし良い頃合いではあるわね」

エリー「えへへ、途中魔物も倒したりしたし、さすがにお腹空いてきちゃいました」

オリアナ「……人間向けの食べ物あるのかしら?」

エリー「ええっ!?」

オリアナ「パンダ……仕留める?」

エリー「……それはちょっと」

・・・



吸血鬼村


エリー「やっと着いた……けど、お腹空いたなぁ……」

オリアナ「結局小道では食べ物見つからなかったわね。ほら、服装直して。埃も落とす。これからあいさつに行くんだから」パタパタ

エリー「お腹空いたぁ……食べる物がないかと思うと余計に」

エリー「よく考えれば神父様が釣ったマグロ食べ損ねたことを考えると余計に――」シクシク

オリアナ「ストップストーップ! 食べ物くらいあるわよ。大丈夫」

オリアナ(……たぶん)


吸血鬼「おや?人間のお客さんとは珍しい。ようこそ。ここは吸血鬼村だよ」

オリアナ「あらこんばんは。ねぇ、どこか食事がとれる場所ってないかしら」

吸血鬼「ん?ああ、それなら村長の家に行くといい。あそこなら人間の食べ物もあるはずだよ。正面の館だ」

オリアナ「ありがとう。さ、行くわよエリー。すぐそこだから頑張って、ね?」

エリー「は~い……」

トボトボ…



吸血鬼「あの女性、オリアナ様にそっくりだったな」

吸血鬼「……しかしなんて破廉恥な格好なんだ」

吸血鬼「……久しぶりに妻を抱くか」



・・・


エリー「はぐはぐ。もぐもぐ」モッモッ

エリー「おいし~!これ本当においひいでふよホヒハナはま」

オリアナ「ちょっとエリー!食べながら喋らないの!ごめんなさいね、この子ったら何も食べてなかったものだから」オホホ

村長「はっはっは、かまいませんぞ。若者は元気であるのが一番」

村長「むしろオリアナ様をお迎えしたというのに大したおもてなしもできず申し訳ない思いです……」

村長「人と吸血鬼の共存。我らの繁栄は貴女様あってのこと。だというのに信仰も足らず、貴女様にこのような苦労をさせることになり何と言って――」

オリアナ「はいはい気にしない気にしない。それよりどうかしら?聞くところによると物流で幅利かせているみたいだし、消耗品とか安く手に入らないかしら」

村長「それでしたらお任せ下され。宿代等旅の費用は私どもで負担致しましょう。消耗品、装備品については共に原価にてお買い求められますように手配するに留まりますが……」

オリアナ「十分よ。ありがとう」

村長「勿体ないお言葉です。腕の立つ者をお供にお貸ししたいところではありますが、何分我らは夜しか動くことができません故」

村長「人との間の子ならば太陽をものともせず活動できますが、こちらは幼子しかおらず――」



気品のある少女「おじい様。私も既に成人しております。いい加減子供扱いはおやめ下さい」

村長「何を言うかヴィクトリア。たかだか十数年、わしの二十分の一程度しか生きておらぬお前はまだまだ子供じゃ」

ヴィクトリア「300年生きていらっしゃるおじい様と比べないで下さい……」

オリアナ「この子がその?」

村長「ええ、私の娘の子、ヴィクトリアにございます」

ヴィクトリア「お会いできて光栄にございます、オリアナ様」

ヴィクトリア「エリーさん、おかわりをお持ちいたしました」ニコッ

エリー「ありがとうございます!もうどの料理も本当に美味しくて」

ヴィクトリア「うふふ、エリーさんは健啖家でいらっしゃるのですね」

エリー「あ……やだ私ったら、はしたなくて……すみません」

オリアナ「そうよ、もう」




ヴィクトリア「いいえ。それほどお気に召して頂けたのなら腕によりをかけた甲斐があったというものです」

ヴィクトリア「こういった食事はこの村では父と私しかとらないものですから、こうして振る舞うことができ私自身も喜ばしい想いでいっぱいです」

村長「本当に良き時代となりました。娘は婿殿と結ばれ子を授かり、ヴィクトリアも偏見や迫害を受けることなく過ごせている」

ヴィクトリア「吸血鬼と人の間に生まれたことに苦労などありませんでした。人と吸血鬼の絆はもはや盤石のもの。私自身がその証明」

ヴィクトリア「二つの血は私の誇りです」ニコッ

エリー「ヴィクトリアさん……なんて立派!」

オリアナ「眩しくて直視できない……!」

ヴィクトリア「あ、あの……」オロ…




エリー「ふう、ごちそうさまでした」

ヴィクトリア「ふふ、お粗末さまでした」

エリー「とっても美味しかったですヴィクトリアさん」

エリー「今度は私が御馳走しちゃいます。お寿司に舟盛り、海鮮丼は得意なんです!」

ヴィクトリア「まあ♪ 楽しみにしておりますわ」

オリアナ「さ、もう遅いわ。休みなさい、エリー」

ヴィクトリア「湯浴みの用意は出来ております。エリーさん、こちらへ」

エリー「はい。オリアナ様は?」

オリアナ「わたしはまだ起きてるわ。先に寝ちゃいなさい」

エリー「は~い」



ガラッ

エリー「わぁ、ひろ~い!」

ヴィクトリア「父が無類のお風呂好きでして……温泉まで掘ってしまい……」

エリー「こんなお風呂一人で入るなんてもったいないです!一緒に入りましょうヴィクトリアさん!」

ヴィクトリア「エリーさん? あのっ……」

・・・


カポーン

エリー「ああ、いい湯♪」ザブーン

ヴィクトリア「そうですね。んーっ。わたくしも日に何度も入ってしまったりしてしまいます……♪」ザブーン

エリー「あはは、こんなお風呂なら私もそうなっちゃいそう」

ヴィクトリア「お父様ったらこの上露天風呂まで作ろうとして……」

エリー「それは楽しみですね、ヴィクトリアさん」

ヴィクトリア「……ええ。うふふ♪」

エリー「ヴィクトリアさんの髪キレイだなぁ・・・銀髪」ポケー

ヴィクトリア「そんな・・・エリーさんの髪、ポニーテールを解くと私より長いのですね。よく手入れされて綺麗です。スタイルも……」テレッ・・・

エリー「えっ、い、いや~そんな……えへへ」テレテレ


ヴィクトリア「あの、エリーさんはどうしてオリアナ様のお供に?」

エリー「そうですねぇ……迂闊に何でも言って下さいって言っちゃったりだとか、私自身が世の中を見てくるためだとか理由はあるんですけど」

エリー「オリアナ様、漁村に魔物が現れた時すぐ私に任せろって言ってくれたんです」

エリー「すごいですよね。私達人間は500年前にオリアナ様に助けてもらってからほとんど何も返せてないのに……」

エリー「まあ、そんなオリアナ様のために何かしてあげられないかなって……」

ヴィクトリア「エリーさんはお優しいのですね」

エリー「そんな、私なんてまだまだ……ヴィクトリアさんこそ、私より年下なのにすごくしっかりしてて」

エリー「見てるとなんだか自分が恥ずかしくなってきちゃいます」

ヴィクトリア「言うのとやるのでは重さが違います。実際に魔物と戦うエリーさんは十分素敵な女性だと私は思います」

エリー「あ、あはは……なんだかヴィクトリアさんに褒められるとすごく恥ずかしいです」

ヴィクトリア「お食事もとても豪快に――」

エリー「そ、それは忘れてください!」

ヴィクトリア「うふふ♪」

エリー「……えへへ♪」

・・・


・・・


オリアナ「――ありがとう。おかげでだいぶこの時代のことが分かったわ」

オリアナ「さすが大陸中を駆けていると情報量が違うわね」

村長「これからの旅の御助けとなれば幸いです」

オリアナ「でも悪いわね。エリーが寝てからの方が長いんじゃないかしら? もう夜が明けそう」

村長「そうですな。私も少々話し疲れてしまいました」

オリアナ「……一番驚いたわ。貴方程年老いた吸血鬼がたかだか300年しか生きていないなんて」

村長「人間との共存により我々は平穏と安定した生活を手にしました」

村長「しかし、人が死なぬ程度の吸血に抑えるため数が多ければ一人当たりが得られる血液量も限られてくる」

村長「それはそのまま老化、寿命にも影響してきます。随分と吸血鬼の寿命も短くなったものです。平均は上がっているのですが」

村長「ですが、これで良かったのでしょう。私も随分と前に人の友人達が逝くのを見送りました……」

村長「同じ時を過ごすことができないのは、とても寂しいことですからのう……」

オリアナ「……そうね」

一旦ここまで


※実はこんな同人ゲーム作れたらなぁと書き始めたのでパラメータとかの設定もあったりします・・・

・エリー

ゆるふわロングをポニーテールにした修道服の女の子
背はそこそこでスタイルはけっこういい方
主に魔法の弾丸を飛ばして戦う。瞬時にMPを全快させられる特技がある。

HP75
MP114
攻撃翌力69
防御力72
魔法攻撃114
魔法防御100
俊敏性104
属性・闇


・アリサ

金髪ストレートで今は自作の海賊服を着ている活発な女の子。エリーの年下の幼馴染。
背は低いがスタイルはなかなか。
使用武器は双剣。

HP70
MP65
攻撃翌力149
防御力140
魔法攻撃0
魔法防御100
俊敏性75
属性・光


・ヴィクトリア

銀色の美しく長い髪を肩から前に流している吸血鬼と人間のハーフ。
背丈は並みでスタイルもつつましい。ワンピースと肩にはストールを羽織っている。
魔法と爪で戦い身体能力が高い。

HP76
MP104
攻撃翌力104
防御力71
魔法攻撃104
魔法防御71
俊敏性108
属性・メタル


・オリアナ

かつて多くの魔物から人々を救い神となったサキュバス
肩までのボブ。頭にある角と背の翼はしまえる。
スタイルはとっても大人で、女性も見惚れる美貌。すごく破廉恥な格好をしている。
普段は霊体となってエリーのそばにいる。実体化するととても疲れる。



こんな感じです


ドォオオォン

オリアナ「! なにかしら」

ヴィクトリア「おじい様、何やら外が騒がしく……!」ガチャッ

オリアナ「ヴィクトリア、エリーを起こしてきてもらえるかしら」

ヴィクトリア「はい!」タッ

オリアナ「さて、一足先に行きますか」


ガチャッ

ヴィクトリア「エリーさん! エリーさん起きてください!」ユサユサ

エリー「ん~……はえ? もう朝ですか……? ヴィクトリアさん」フワー

ヴィクトリア「何やら不穏な気配がするのです。すぐオリアナ様のもとへ」

エリー「え……は、はい!」スクッ



エリー「オリアナ様、いったい何が……?」

オリアナ「早かったわね。外が騒がしいの。見に行くわよ」


ガシャ・・・ ガシャ…

兵士?「グオオオオオオオー!」

ブォン!  ドガァン!  ガシャ・・・ ガシャ…

ゾロゾロ……

エリー「兵士が暴れている!? 数も多い……!」

オリアナ「いえ、あれはゾンビね。意思がない」

ヴィクトリア「そんな……! ゾンビというともう理性もないはずなのに、生物のように群れることだなんて……!」



ゾンビ兵士「グオオオオオオオオオー!」

ブォン ガキィン!

吸血鬼A「くそ、コイツ!」グググ…

吸血鬼B「! 下がれ!」グイッ

ジュ・・・!

吸血鬼A「!? くっ、もう朝日が……!」ヒリヒリ・・・



ゾンビ兵士「……」


ガシャ・・・ ガシャ…

ゾロゾロ……


吸血鬼B「なんだ?……一部の奴らを除いて襲いかかってこない?」



ゾンビ兵士「グオオオオオオオオー!」



ダァン! ダァン! ガララララ!



吸血鬼A「建物を破壊している……! ひ、日陰を無くす気なんだ!」

吸血鬼B「天幕を張れ! そこから魔法で攻撃しろ!」




オリアナ「統率がとれてる……誰かが操っているってところかしら」

オリアナ「朝日も出てきた……先にこっちを片付けた方がよさそうね。エリー!」

エリー「はい! 皆さんは下がっていてください!」

ヴィクトリア「エリーさん!」

ヴィクトリア「私も援護いたします」

エリー「ヴィクトリアさん」

ヴィクトリア「私なら太陽光を受けても問題ありありません」

エリー「ヴィクトリアさん……はい、お願いします!」

ゾンビ兵士「グオオオオオオオオオー!」

ヴィクトリア「! 来ます!」

エリー「交戦します!」チャキ タッーン


・・・


タッーン タタタタタ ガシャコン タタタタタ

ザシュッ ザシュッ 



・・・



エリー「ふう、全部倒しましたね」

オリアナ「だいぶ日も出てきた。三人だけで黒幕を追うのは難しいわね」

エリー「私壊れた壁を塞ぐの手伝ってきます」

ヴィクトリア「私も行きます」




・・・




オリアナ「何人か人間の兵士を送ってもらった方が良さそうよ」

村長「……そうですな。我々は昼間自由に動くことができませんからのう」

ガチャッ

エリー「戻りました」

オリアナ「お疲れ様」

ヴィクトリア「オリアナ様、エリーさん。この度は本当にありがとうございました」

エリー「そんな、当然のことをしたまでです」

オリアナ「魔王の出現にそれ以降の事変……確かに世界に異変が起きているのかもしれないわね」

エリー「先を急いだ方がいいかもしれませんね」


ヴィクトリア「……少しよろしいでしょうか」

エリー「ヴィクトリアさん?」

ヴィクトリア「私をお二人の旅路に同行させて頂きたいのです」

エリー「ええっ!? でも……」

ヴィクトリア「世界に不穏な動きがあることは事実でしょう。そしてそれは人と吸血鬼の共通の脅威。私もお二人の力となりたいのです」

ヴィクトリア「両親には既に話しました。後はお二人とおじい様だけです」




村長「ふむ……いいじゃろう。お前にとっても良き経験となる。行ってお二人を手助けしてさしあげなさい」

オリアナ「わたしはいいわよ?」

ヴィクトリア「私もヴィクトリアさんと一緒に行けるのは嬉しいです! よろしくお願いします、ヴィクトリアさん」

ヴィクトリア「はい、こちらこそよろしくお願いします。エリーさん、オリアナ様」



オリアナ「さて、出発の前にヴィクトリアとも契約しておいた方がいいわね」

エリー「あれをヴィクトリアさんにするんですか!?」

ヴィクトリア「オリアナ様の持つ不死性の習得ですね。よろしくお願いします」

エリー「いや、あれはそんなもんじゃ……!」

オリアナ「じゃあちゃっちゃと済ませちゃうわね。はい、ほっぺにチュッ♡」チュッ

ヴィクトリア「まあ」

エリー「ちょ、オリアナ様! いくら誰もいないからって外でなんて……!」

オリアナ「契約は完了よ。能力の詳細は道中で話すわ」

エリー「今ので!?」

エリー「オリアナ様! 私にしたのはいったいなんだったんですか!」プンスカ

オリアナ「え、それはあれよ。こらから経験することだし慣れておかないとって……それに契約完了と言っても――」

エリー「オリアナ様! ちょっとお話があります!」チャキ

オリアナ「話をできる精神状態じゃないじゃない……!」

オリアナ「仕方ないわね……幸い誰もいないし落ち着くまで逃げようかしら」ビュン

エリー「どこへ行くんですか! 待ちなさいオリアナ様!」タァーン


ヴィクトリア「あ……行ってしまわれました」

ヴィクトリア「仕方ありません。村の入り口でお待ちいたしましょうか」



・・・


ヴィクトリア「はぁ……はぁ……」


ヴィクトリア(どうしたのでしょうか……脈が早くなり……呼吸も荒く……)

ヴィクトリア(身体も……熱い……)フゥ……


パカラッ パカラッ ガラガラガラ……


行商人「ふう……漁村までもう少しかな」

行商人「これからきっと魔王との戦いは激しくなる……武具だけじゃなく聖水もそろえておかないと」

行商人「でもさすがに疲れたな。一旦馬も休ませたいけど……」

行商人「失敗したな……吸血鬼村は朝の方が誰もいないんだっけ。宿も開いてないだろうし……」

行商人「仕方ない、荷車に布団敷いて――おや? 人がいる……」


ヴィクトリア「はぁ……はぁ……」

行商人「! どうかされましたか!?」

ヴィクトリア「あ……それが……」ハァ ハァ

行商人「ちょっと失礼します」ピトッ

ヴィクトリア「ひゃ……っ」ドキッ

行商人(足元がおぼつかず額も熱い……顔も紅潮して、瞳も潤んで……美しい――じゃなくて! 風邪かな?)

行商人「困ったな、吸血鬼村の医者が朝から起きているとは思えないし……」

行商人「荷車なら日陰だし少しはましか……さ、少し休んでいってください」




行商人「布団よし。さ、横になっていてください。水を汲んできます」バサッ

ヴィクトリア「はい……ありがとう、ございます……」フゥ…

ヴィクトリア(熱い……優しいお方……)

ヴィクトリア(どうしてしまったのでしょう……触れられた途端、ドクンとして……いっそう熱くなって……)


行商人「お待たせしました。もうちょっとの辛抱です」

ヴィクトリア(声を聞いているだけで胸が高鳴って……熱くて蕩けてしまいそう)ポー

ヴィクトリア(熱い……熱い……!)ハァ ハァ

ガサゴソ

行商人「これがいいかな? て、そうだ。僕は行商人です。薬も取り扱っていますからもう大丈夫――うわっ」ドンッ

行商人「あ、あの……?」

ヴィクトリア「はぁ……! はぁ……!」ジッ キィィン

行商人(潤んだ、熱い瞳……そらせない……)ボゥ……



ヴィクトリア(ああっ……! このまま、この方と……! どうにかなってしまいたい……!)



ガバッ…!



・・・





(割愛)



・・・



エリー「ヴィクトリアさん!?」ザッ


ヴィクトリア「……」ボー……

行商人「……」グッタリ


オリアナ「あちゃ~。でもいい男」

エリー「何言ってるんですか! 二人とも正気に戻った時に大変なことになりますよ!」

エリー「というかする前に契約直後は発情すると一言ですね……!」

オリアナ「お説教はもう勘弁して……今は二人を、ね?」

エリー「そ、そうでした! そっちの男性をお願いします!」




ヴィクトリア「うああ……」

エリー「ヴィクトリアさん?」

ヴィクトリア「嘘です……こんなの、私が殿方を……襲うなんて……」

ヴィクトリア「いやあああぁぁぁぁぁ!」ダッ…

エリー「ヴィクトリアさん!?」

オリアナ「まさに脱兎。何となくデジャヴ」

エリー「とにかく追いましょう!」




行商人「――はっ」

行商人「? あれ、何時の間に寝てたんだろ? 身体もだるいし……気絶してたのかな?」

行商人「えっと……何してたんだっけ……?」


・・・


エリー「ヴィクトリアさん!」

ヴィクトリア「……エリーさん。申し訳ありません。少々取り乱してしまいました……」

ヴィクトリア「どうか、はしたない女と思わないで下さい……」

エリー「そんな……! 私だって同じですから平気ですよ! 仕方のないことだったんです!」

ヴィクトリア「エリーさん……ありがとうございます」

オリアナ(……行商人だしまた会うかも、とは言わないでおこうかしら)

オリアナ「まあ綺麗に収まったわね。さ、街道を通って港町まで行くわよ」

エリー「オリアナ様はちょっとお説教です」

オリアナ「まだあるの!?」




・・・



ヴィクトリア「さて、港町へと参りましょう。アリサさんに追いつけると良いですね」

エリー「この街道を行けば港町ですね」

ヴィクトリア「吸血鬼村を襲った残党がいるかもしれません。注意して進みましょう」



・・・


オリアナ「ヴァンパイア急便だとか、吸血鬼も随分人間社会に馴染んでるのね」

ヴィクトリア「ええ。そうして得たお金で血液を購入させて頂いております」

オリアナ「それならまあやっていけるわね」

ヴィクトリア「はい。ですが、やはり血液を売ってくださる方は貧困層が多く、健康面が心配で……」

ヴィクトリア「生活レベルを向上させるべく就職支援、教会への寄付、医療技術の研究、人口増加率の調査やそれに合わせて開発される前に農地を購入、冷害に強い作物の研究などにも着手し――」ペラペラ

オリアナ「――」

ヴィクトリア「――ですから私もこの旅でまだ他に出来ることを見つけたく……オリアナ様?」

オリアナ「いや……なんか……すごいわね」

エリー「人間より人間のこと考えてますね」


ヴィクトリア「エリーさん。アリサさんはどのような方なのですか?」

エリー「アリサちゃんはですね~・・・・・・ヴィクトリアさんよりもちょっとだけ小さな女の子で、純粋で影響されやすくて……」

エリー「……私が貸した本に影響されて世界の神秘と宝探しをするって出て行っちゃったんです……」ズーン

オリアナ「だ、大丈夫よ! きっと無事に見つかるから」

ヴィクトリア「申し訳ありません。エリーさんのお気持ちも知らず――」

エリー「そんな、ヴィクトリアさんは何も悪くありません!」

エリー「おかげで大切なことを思い出しました。先を急ぎましょう」

オリアナ「これから行く港町って今どんな風になってるの?」

エリー「交易が盛んな商業都市です。東の国々の珍しい工芸品なんかは大抵手に入るようなところですよ」

エリー「あとは造船所があって、首都にまで続く国道が整備されてるんです」

オリアナ「へぇー」

※失敬、RPG用に考えてたから戦闘パートが丸々なかったという致命的欠陥よ・・・

これからも更新は遅いよ、ごめんね



・・・


エリー「やっ!」タァーン

ゾンビ兵士「グオオオ・・・」バタッ…

ヴィクトリア「滅しなさい!」ピカッ

ゾンビ兵士「オオオ・・・!」バタッ・・・


バタッ… バタッ…


エリー「ふう……やっぱりいましたね、ゾンビばっかりがこんなに」

ヴィクトリア「はい。特に統率の取れた動きはしていないようですね……操っていた存在はいないのでしょうか……?」

エリー「そうみたいですね……あっ、見えてきましたね、港町」

エリー「アリサちゃん……見つけたらただじゃおかないんだから」

ヴィクトリア「心配なさらなくてもきっとご無事ですよ」

オリアナ「! その前にやることが出来ちゃったみたいね」



ガシャッ… ガシャッ・・・



ガシャッ… ガシャッ・・・


ゾンビ傭兵「……」コォオオォ…


ヴィクトリア「……吸血鬼村を襲ったものより強力な個体の様ですね」

エリー「あれが港町に行ったら……アリサちゃん……!」

エリー「交戦します!」


カキィン カキィン ガキィン!


グググ…! バッ ザシュッ


キィイイィン…! カッ バリバリバリ!


エリー「とどめです! ヒートショットォッ!」ダァーン!


ヴィクトリア「影よ! シャドウスラッシュ!」ザシュッ!


エリー「ヴィクトリアさん!」キィイイィン…

ヴィクトリア「はい!」キィイイィン…


「「ユニゾン・スパーク!」」


ピカッ ダァアアァン!




ゾンビ傭兵「オ、オオオ・・・」グラッ…


ガシャリ……


エリー「やったー! かったー!」ワーイ

ヴィクトリア「お見事ですわ、エリーさん」クスッ

ヴィクトリア「一先ず安心ですね」

ヴィクトリア「さ、アリサさんを探しに参りましょう」

エリー「はい!」


・・・



ヴィクトリア「ここが港町……! とても賑やかなところなのですね。お祭りの様」

オリアナ「あら、ヴィクトリアも初めてだったの?」

ヴィクトリア「はい……お恥ずかしながらあまり村から出たことがなく……」

エリー「私何度か来たことがありますから後で案内しますね」

エリー「さあ、アリサちゃんを漁村まで送り返して旅を再開させましょう!」


女警備兵「失礼します。オリアナ様御一行ですね。吸血鬼村村長よりお話は伺っております」



オリアナ「あら、お出迎え? わざわざありがとう」

女警備兵「勿体なきお言葉。既に宿、商店には話を通しております。ご自由にご利用下さいませ」

女警備兵「首都への連絡も済んでおります。同様の支援を受けられるかと」

女警備兵「御一行様の武者修行も兼ねているとのことでしたので馬車の用意はしておりませんが、必要とあらば何なりと」

オリアナ「十分よ。ありがとう」

女警備兵「それから……二つ程お願いしたきことがあるのですが……」

オリアナ「何かしら? 大抵のお願いは聞いちゃうわよ♪」




女警備兵「町にいる間はですね……こちらの外套を着て頂けると」

バサッ

エリー「? ただのマントのようですが……?」

女警備兵「風紀ですとかその……あまり破廉恥な格好ですと子どもなどへの悪影響が考えられますので……」

エリー(なんという痴女扱い……! 事実だけど!)

ヴィクトリア(私たち、今どのような目で見られているのでしょう……)

女警備兵「回復や力を得るための、その……殿方との、というのも……白昼堂々というのは避けて頂けると……」

エリー(さすがに常識はありますよね、オリアナ様!?)

ヴィクトリア(それだけは是が非でも止めさせて頂きます……!)

オリアナ「……心配しなくても大丈夫よ。お勤め御苦労様」

女警備兵「はっ。では失礼いたします」




オリアナ「……行きましょうか」

エリー「……はい」

ヴィクトリア「ええ……」


オリアナ(……信仰が欲しい)グスン


・・・




エリー「ま、まずはどこかお店に入りましょうか! すみませーん!」

カランコロンカラーン

店員悪魔「いらっしゃいませ~♪」

オリアナ「悪魔!? 二人とも下がりなさい!」

エリー「ちょ、落ち着いてくださいオリアナ様! どうしたんですか?」

オリアナ「どうしたって、何で悪魔なんかがこんなところにいるのよ!」

店員悪魔「ここの従業員なんですが~」

オリアナ「働いてんの!? 悪魔が!?」

ヴィクトリア「吸血鬼と同様に悪魔も人間社会で共存しているのです」




ヴィクトリア「堕落した魂を糧とする悪魔。ですがただ人を堕落させては敵対されてしまう……」

エリー「だから誰かを楽させる代わりに働いて、その分だけ魂をもらうという感じですね」

オリアナ「……ヒモに貢ぐ女」

店員悪魔「あ、オリアナ様御一行ですね~お話は伺ってま~す。全て原価にて販売させて頂きますね~」

店員悪魔「でも起きたら婚期過ぎてたとかマジうける~♪」

オリアナ「……なんですって?」



エリー「だ、だからけんか腰にならないで下さい! どうしたんですかオリアナ様」

ヴィクトリア「……いえ、こうなることは必然だったのでしょう」

エリー「ヴィクトリアさん?」

ヴィクトリア「方や信仰を必要とする神。方や人を怠惰させその分の魂を糧とする悪魔……お二方は相容れない競合関係にあるのです」

オリアナ「――魔王の次はアンタたちよ。覚悟しておきなさい」

店員悪魔「え~おばあちゃんと喧嘩とかそんなひどいことできないってゆ~か~」

オリアナ「おばっ!?」

店員悪魔「あれしちゃダメ、こう生きろとかうるさすぎ。そのくせちょっとしたことで怒り狂って暴れたり、勝手な考えで個人に肩入れしたり逆に誰かからなんか奪ったりとかどっちが悪党なんだか」

店員悪魔「その点あたしたちはぁ、ちゃあんと人間の社会を壊さないようにするようになったしぃ?」




店員悪魔「ホント、どっちが人間の害なんだか。自分達が正しいって疑いもしねぇでとんでもないことしでかすし、宗教戦争とか起きた時だって何もしやがらねぇし……あはっ♪ 本気でイラッ☆とする。死ね♪」

店長「悪魔ちゃん? なにかあった?」ガチャッ

店員悪魔「あ! なんでもないですよ店長♪ ちょおっとお客様と話し込んじゃって~♥」

店長「そう? じゃあ僕はその間に在庫のチェックを――」

店員悪魔「だ~め♪ それもあたしがやるの♪ さ、休んで休んで♪」グイグイ

店長「あ、ちょ――」


バタンッ


エリー「……行っちゃいましたね」

ヴィクトリア「出直しましょうか」

オリアナ「……次こそは」

エリー「不穏なこと言わない!」




・・・


エリー「一通り見て回りましたけど、見つかりませんでしたね……もう先に行っちゃったのかな……アリサちゃん」

ヴィクトリア「きっと大丈夫ですから。まずは気丈に、ね。お姉さんでしょう?」

エリー「ヴィクトリアさん……」

ヴィクトリア「広い上に人も多いですからすぐに見つからないだけですよ」

ヴィクトリア「恐らくアリサさんはまだこの港町にいます」




ヴィクトリア「アリサさんの目的は冒険ですが、その過程で船の入手を考えています」

ヴィクトリア「交易が盛んであり造船所もあるここ以上に船の入手が容易な場所は他にないでしょう。このまま首都に進んだということは考えられません」

ヴィクトリア「そして船を入手したということも考えられません。一個人で購入でき操舵できるような小型船は見られませんでしたから」

ヴィクトリア「二手に分かれて聞き込みをしましょう。港にせよ造船所にせよ、何らかの行動をしていたはずです」

エリー「……やっぱりヴィクトリアさんはすごいです。私全然冷静になれなくて……」

ヴィクトリア「アリサさんをとても大切に思っているからですよ。私は素敵なことだと思います」




ヴィクトリア「アリサさんの目的は冒険ですが、その過程で船の入手を考えています」

ヴィクトリア「交易が盛んであり造船所もあるここ以上に船の入手が容易な場所は他にないでしょう。このまま首都に進んだということは考えられません」

ヴィクトリア「そして船を入手したということも考えられません。一個人で購入でき操舵できるような小型船は見られませんでしたから」

ヴィクトリア「二手に分かれて聞き込みをしましょう。港にせよ造船所にせよ、何らかの行動をしていたはずです」

エリー「……やっぱりヴィクトリアさんはすごいです。私全然冷静になれなくて……」

ヴィクトリア「アリサさんをとても大切に思っているからですよ。私は素敵なことだと思います」




エリー「……私の方がお姉ちゃんなのになぁ」

オリアナ「ヴィクトリアの言った通りそれだけ心配ってことよ。変に気張る必要はないわ」

オリアナ「わたしを見なさい。若干空気な上に慰めるとかいいとこ見せる役持ってかれちゃったわよ、神様なのに」

エリー「自分で言わないで下さいよ、もう……あはは」

オリアナ「世界は自分だけで回しているわけじゃないし誰のためにも回っているもの。想定外のことが起こることもそれに対応できないことも当然のことよ。神様だってそうなんだから」

オリアナ「大切なことは今から何をするか、ね?」

エリー「――はいっ」




オリアナ「じゃ、まずは造船所ね。調査に行くわよ」

エリー「はい。……あっ」

オリアナ「?」

エリー「ありがとうございます。オリアナ様とお話したらもっと元気が出ました! 若干空気でも、オリアナ様はいい神様だと思います!」タッ


オリアナ「……なによ、ちょっとときめくじゃない」

オリアナ「一言多いけど……うふふ♪」


オリアナ「待ちなさいエリー! 空気ってなによ!」

エリー「オリアナ様が自分で言ったんじゃないですかー。あはははは♪」


・・・



造船所従業員「その女の子なら来たよ。さすがにおこずかいで船は買えなかったけどね」

エリー「その子、その後どうしてましたか?」

造船所従業員「どうだったかな……昼に来て……」

造船所従業員「そうだ。落ち込んで帰ったかと思ったらたまたま遊びに来てた社長の坊っちゃん達と話してて、またどこかに走っていったんだ」

造船所従業員「なんだか嬉しそうだったし船の充てでも聞いたのかな? 社長の家ならこの裏だよ」

エリー「そうですか……ありがとうございました」

造船所従業員「見つかるといいね」

オリアナ「とりあえず、ここまでは無事に来てたみたいね」

エリー「一安心です。次は社長さんの家に行ってみましょう」




エリー「あの……オリアナ様? この格好は一体……」

オリアナ「豪邸にメイドは付き物よ。なによりかわいい!」

エリー「聞き込みには関係ないですよね!?」

エリー「他の方にすれ違う度『……お客様? だよね?』って目で見られるし……そもそもどこから持って来たんですか?」

オリアナ(でも着てくれたのよねぇ……)


オリアナ「あの子たちじゃない?」



兄「弟なら兄ちゃんの言うことを聞け!」

弟「一緒に行くくらいいいじゃん!」

エリー「ストップストーップ! 喧嘩なんて良くないよ?」

エリー「何があったかお姉さんに話してみて?」



弟「あ、あの……!この前、船を探してるってお姉さんがいて……」

エリー(アリサちゃんだ……!)

兄「その……! 僕たち幽霊船のことだと思って話したんです」

エリー「幽霊船?」

兄「夜になると南の海岸に誰も乗っているように見えない火のついた古い船が通るって噂があるんです」

弟「その話をしたらお姉さん『見たい! 乗りたい!』ってどこか行っちゃって……」

エリー「……アリサちゃ~ん」



兄「その後探したけど全然見つからなくて……!」

弟「きっと幽霊に捕まっちゃったんだ……!」

兄「それで僕、夜に行って助けてこようと思ったんだけど、弟がついて来るって聞かなくて……!」

弟「兄ちゃんだけじゃあぶないよ!」

兄「いいから聞け、そんなの分かってる! でも旅のお姉さんのことなんて誰も気にしないし大人は幽霊を信じてない……!」

兄「僕たちしかお姉さんを助けられない……! でも、まだ手はある」

兄「僕がいなくなれば少なくとも屋敷の人は動いてくれる。お前がみんなを連れて来るんだ」

兄「こんな大役、お前にしか任せられないんだよ。それに、全部終わった後一番怒られる役は兄ちゃんがやらないと、な?」

弟「兄ちゃん……! うん、僕頑張るよ!」

エリー「いや、ダメだよ? そんな心配かけることしちゃダメ」



兄「けど……!」

エリー「うん、ありがとう。あのお姉さんのこと心配してくれて。二人とも優しくてカッコいいよ」

エリー「けど! あのお姉さんみたいに周りに心配をかけるのは、めっ」

エリー「二人のこと大切に思ってる人、きっと悲しくなっちゃうから」

弟「うん……」

エリー「よろしい♪ あとはこのお姉さんに任せなさい。なんと! お姉さんは魔法使いなのです」エッヘン

弟「魔法使い……! すげー!」

兄「……分かりました。けど! お姉さんも戻ってこなかったらさっきのやるからね!?」


・・・


エリー「まったくアリサちゃんは……」

オリアナ「そろそろお昼ね。戻りましょうか」


・・・



ヴィクトリア(ここしばらく他国への船の出航はないようですね)

ヴィクトリア(今ある船も数日前に来たばかりの貿易船で当分出航の予定なし……)

ヴィクトリア(貿易船に乗せてもらう、ないし忍び込む可能性も否定できませんでしたから安心いたしました)

ヴィクトリア(ですが目撃情報もないとは……造船所で有力な情報を得られているとよいのですが……)

ヴィクトリア(これからどうしましょうか。お昼までは……まだ時間がありますね……あら?)



行商人「――」



ヴィクトリア(!? あの時の行商人様!? なぜここに!?)

行商人「――おや?」

ヴィクトリア(! み、見つかってしまいました……! なにを惚けていたのでしょう、しかし今から逃げるのも……ああああぁぁぁぁぁぁ)

行商人「見ていかれますか? ちょうど貴重な異国の品を仕入れたところなんです」

ヴィクトリア「え、ええ……よろしければ……」

ヴィクトリア(憶えて、いない……? 覚えていらっしゃらないのですね!? ――ああ、よかった……!)





ヴィクトリア「今時行商とは珍しいですね。ヴァンパイア急便がありますから、わざわざ運ばずとも遠くにものを売れますのに」

行商人「あはは、そうですね。だいぶシェアは取られてしまっています。でも、行商でしか出来ないこともあるんですよ? 例えば……このリンゴ! ちょっと食べてみてください」

ヴィクトリア「はあ……? では、頂きます……――!」カプ

ヴィクトリア「このリンゴ、とっても甘いです! 瑞々しくて、蜜が滴りそう……!」

行商人「僕も驚きました。そのリンゴ、ここから北東の漁村で仕入れたんです」

ヴィクトリア「漁村で、ですか……? それは――」

行商人「ちょっと以外ですよね。元漁師のおじいさんが細々と営んでいたのを仕入れたんです」



行商人「自分で巡って名産物や知られざる逸品を仕入れ遠くの人に売れる。行商の一番の魅力はこれじゃないでしょうか」

行商人「ヴァンパイア急便は確かに便利です。注文の手紙を送ることや準備を含めても三日もあればどこからでも商品を取り寄せられますから。でも、それだと自分の知っているものしか手に入れられない」

行商人「海の向こうのものから何でも、知られていない逸品を見つけて紹介しその人の世界を広げる……なんて言うとちょっとかっこつけすぎですね、あはははは」

ヴィクトリア「いえ、素敵だと思いますわ――とても……♪」ホゥ…

行商人「そ、そうですか? そう言って頂けると……あはは」テレッ

ヴィクトリア「うふふ♪」

・・・



行商人「そ、そうだ! 今東の国の服があるんです。それもちょっと着てみませんか? きっと似合うと思うんです!」

ヴィクトリア「そんな、よろしいのですか?」

行商人「大丈夫です! 貴女が着ているのを見たい――じゃなくて、ほらせ、宣伝にもなるし!」

ヴィクトリア「そういうことでしたら……よろこんで」




ヴィクトリア「どう……でしょうか?」


行商人「――――――綺麗だ」

ヴィクトリア「えっ……!?」

行商人「その服、貰ってくれませんか? 貴女に着ていてほしい」

ヴィクトリア「は……はぃ…………!」




・・・



行商人「――――いつか、ヴァンパイア急便と共同事業をしたいですね。各地の逸品をカタログにまとめて知らなかったものでも迅速に買える仕組み……名付けて通信販売とか」

ヴィクトリア「! それは素晴らしいと思いますわ!――あ……私も、応援致します……」

行商人「はい! ヴィクトリアさんに応援してもらえるなら、その……もっと頑張れそうです」

行商人「も、もうお昼ですね! 待ち合わせは大丈夫ですか?」

ヴィクトリア「あ……そうですね……もう、行かないと」

ヴィクトリア「行商人様はこれからのご予定は……?」

行商人「僕はこれから首都に向かいます。そこから西に向かって対魔王軍最前線の砦まで」

ヴィクトリア「!? 戦地へ行かれるのですか!?」



行商人「はい。薬とか武具とか、一日だって待っていられない所へ頼まれる前に物資を届けるのも僕らの仕事です」

ヴィクトリア「そんな……! 危険ですわ」

行商人「誰かがやらないといけないことですから。といっても砦手前までは安全ですし、それにまだ大きな動きはないからしばらくは首都と港町を往復して資金と物資の調達ですね」

行商人「ありがとうございます。心配されるのは……やっぱり嬉しいですね。それがヴィクトリアさんならなおさら――」

ヴィクトリア「――――!」

行商人「ぼ、僕もそろそろ出ます!ヴィクトリアさんとも、旅をしていればまた会えるかもしれませんね! ではまた!」


ヒヒーン パカラッ パカラッ ガラガラガラ・・・




ヴィクトリア「……行商人様、どうかご無事で…………」





・・・


エリー「あ、ヴィクトリアさーん……ん?」

ヴィクトリア「お待たせいたしました……エリーさん? その格好は……?」

エリー「これは、その……オリアナ様に無理やり……! ヴィクトリアさんこそ!」

ヴィクトリア「あ……た、たまたま通りかかった商店で宣伝替わりに着てほしいと頂きまして……!」

エリー「そ、そうですか……あはは」

ヴィクトリア「ええそうです……うふふ……!」

オリアナ「はいはい、情報を合わせるわよ」




・・・


ヴィクトリア「――幽霊船を探しに、ですか」

エリー「本当にもう、アリサちゃんったら……」

オリアナ「港から船にも乗ってないならそのまま南海岸に行ったんでしょうね。まだ昼だけど行く?」

ヴィクトリア「明るいうちなら痕跡も見つけやすいでしょうし、よろしいかと」

エリー「はい。まずは南門へ行きましょう」




・・・


サムライ「もう半歩踏み込むと良いでござる」

弟子「はい、師匠!」

オリアナ「変わった格好ねぇ」

ヴィクトリア「あれはおそらく、東のまた東にある島国の『武士』……この国における騎士の格好ですね」

エリー「知っているんですかヴィクトリアさん」

ヴィクトリア「あ……き、聞き込みの最中に耳にしまして……!」

ヴィクトリア「貿易船で来られたのでしょう。誰かに稽古をつけているようですが……?」



弟子アリサ「奥義! 剣聖の一斬!」ズバッ

サムライ「はっはっは。それはアリサ殿にはまだ早いでござるよ」

エリー「アリサちゃん!?」

アリサ「えっ? あ、エリーお姉ちゃん!?」



アリサ「どうしたの? こんなところまで……!」

エリー「どうしたじゃないでしょ! 魔物も出るのに一人でここまで来て! 捜しに来たに決まってるじゃない!」

アリサ「で、でもここまで何ともなってないよ……? それにあたしの方がエリーちゃんより強い――」

エリー「言い訳しない!」

エリー「本当に、もう……! どれだけ心配したと思ったのよぉ……ばかぁ……」グスッ

アリサ「ご、ごめんね? 泣かないでお姉ちゃん……」


・・・




オリアナ「落ち着いた?」

エリー「――ぐすん。はい……」

ヴィクトリア「良かったですね、エリーさん」

ヴィクトリア「それで、あの――」

サムライ「――ん? ああ、拙者は遥か東の島国のサムライ……この国でいう騎士でござる」

サムライ「武者修行のためこの国来たところ、意気揚々と町を出て行くアリサ殿を見かけ――」


・・・
・・




アリサ「幽霊船かぁ……! どんなのだろ!」

アリサ「悪霊も退治、宝と船をゲット!なんて一石三鳥……!」

騎士ゾンビ「グオオ……」

アリサ「ひっ魔物……! って怯んでる場合じゃない……!」

アリサ「あたしの冒険はここから始まるんだから。漁村最強の実力、見せてあげる!」

ザシュッ

騎士ゾンビ「グオオオオオオ!」

アリサ「――って全然効いてない! しかも怒っちゃった! きゃー!?」

サムライ「――――ふっ!」

ザンッ!

騎士ゾンビ「グオオオオォォ……」

アリサ「すごい……倒しちゃった……!」

サムライ「無事でござるか? 一人で外に出るのは危険でござるよ」

アリサ「あ、ありがとう……ございます」

サムライ「うむ。さ、ここは危ない。港町まで送らせて頂こう」

アリサ「! ま、待って! あたし冒険に出たの! なにも達成してないうちには帰らないんだから!」

サムライ「ふむ。しかし魔物一匹にも苦戦する様子。このまま進んでも先は見えているでござる。それを知っていながら行かせる程拙者は脳無しではござらぬ」

アリサ「けど……っ!」



サムライ「……何やら訳があるようでござるな。拙者に話してはもらえぬだろうか。生憎剣しか人並なものはござらんが、案外どうにかなるものでござる」

アリサ「……お姉ちゃんを安心させたいの」

サムライ「姉君を……」

アリサ「……あたしのお姉ちゃんバカなの。掃除したら物壊すことよくあるし、料理は火を使えば絶対焦がすし力仕事できないし、っていうかあたしより弱いし、なのにお姉さんぶって面倒事背負うし、泣き虫で、心配症で――」

サムライ(けちょんけちょんでござる)

アリサ「――でもすっごく優しくて、大好きなの。……あたし、今年成人したのにまだ子供扱いされて……何をするのも心配されて……」

アリサ「だからあたし一人で冒険に出たの! 珍しいもの見て! お宝手に入れて! 困難を乗り越えて! それで――」

アリサ「それで、全部お姉ちゃんに話すの……あたしにかかれば世界なんて大したことなかったって! もう一人で何でもできるって!」

アリサ「……だから、安心してって」

サムライ「……」

アリサ「やだよぉ……! こんなところで諦められないよぉ……!」

サムライ「……あい分かった」

アリサ「……?」

サムライ「拙者に任せるでござる。力が無ければつけるだけのこと」

サムライ「弟子となり、剣の修業をするのでござる。拙者でよければ指南致そう」

サムライ「世界の一つや二つ、乗り越えさせてみせようではないか」

アリサ「あ……! うん! お願いします!」

サムライ「うむ」




・・・


サムライ「……見かけ――剣の腕に光るものを感じ、更なる高みへと至る手助けになればと稽古を申し出たのでござる」

アリサ(ありがと師匠……言わないでくれて)

サムライ(うむ)

エリー「そうでしたか……引きとめて頂きありがとうございます」

エリー「さ! もう十分冒険したでしょ! 帰るよアリサちゃん!」

アリサ「や、やだ! あたし、まだ――」

サムライ「少しよろしいか」

サムライ「拙者からもお頼み申す。アリサ殿が旅を続けることをお許し頂きたい」

エリー「でも……!」

サムライ「拙者の国には『かわいい子には旅をさせよ』という言葉がある。愛しく思う我が子であるがこそ、苦難を乗り越えさせ逞しく生きてほしいという意味でござる」

サムライ「アリサ殿は自ら苦難の道を選ばれた……実に誇りあるおなごでござる。アリサ殿の成長を思えばこそ、信じ、送り出してあげるべきではなかろうか」

エリー「う~でもでもでも……!」

サムライ「それではどうだろう。アリサ殿の旅にエリー殿達も加わるというのは」

エリー「アリサちゃんの旅に、ですか……!?」



アリサ「ちょ、師匠! お姉ちゃんはへぽっこなんだよ!? 危ないよ!」

エリー「へっぽこ!?」

サムライ(この姉にしてこの妹ではござらんか……)

サムライ「まあ聞くでござるよ。アリサ殿は旅がしたくエリー殿はそれが心配。然らば共に行くことが双方にとって最善であることは自明の理。少し考えてみるでござる」

サムライ「ここで連れ戻して、果たしてアリサ殿は諦めるでござろうか? 再び追うことになる方が危険でござろう」

エリー「うっ……!」

サムライ「ここで振り切ったとして、果たしてエリー殿は諦めるでござろうか? アリサ殿が挑む困難に追ってきたエリー殿が――」

アリサ「そんなのダメ!」

アリサ「ぐぅ~……分かった。一緒に旅しよ、エリーちゃん」

エリー「むぅ~……そう、だね。よろしくね、アリサちゃん」

サムライ(共に旅する中で成長ぶりを見せる機会が来るでござろうよ、アリサ殿)

アリサ(うん! 師匠、あたし頑張る!)

サムライ((――とは言ったものの……))



サムライ((実際このおなご達を行かせてよいものか……))

サムライ((アリサ殿には天賦の才がある。基本と型は既に教えた。残りの剣技は鍛練により一人でも会得することが出来るでござろう))

サムライ((しかしこの大陸では今魔物の動きが活発になっているとも聞く……残りのおなご達の実力は未知……ここはひとつ――))

サムライ「ではアリサ殿、卒業試験を行うでござる」

アリサ「! ……卒業試験」

サムライ「うむ。そなた達にこれより先に進む力が備わっているか――試させて頂く」

サムライ「同時で構わぬ。四人がかりで拙者に勝て。それがこの先に進む条件でござる」

サムライ「準備をするといい。ここで待っているでござる」


・・・



ヴィクトリア「エリーさん。ちょっと」

エリー「はい? なんでしょうか」

ヴィクトリア「魔王討伐のこと――アリサさんには伏せていた方がよろしいでしょうか?」

エリー「! そうですね。冒険に満足してくれればアリアちゃんも帰ってくれるでしょう」

ヴィクトリア「……オリアナ様の力については、どういたしましょう?」

エリー「そ、う、で、す、ね~……あれば死ぬ可能性は大いに減りますが……う~ん……」

アリサ「ヴィクトリアさん? エリーちゃん? どうしたの?」

ヴィクトリア「いえ、アイテムの確認を少々。人数が増えましたから今ある分で足りるかと……」

エリー「う、うん! お侍さん強そうだしね!」

アリサ「そっか! 師匠は強いよ! 闇属性だからあたしと同じ光属性以外半減しちゃうんだから! それにいろんな属性の剣技が使えるしね」

ヴィクトリア「闇属性……それは大変有意義な情報です」

オリアナ「アリサがエリーより強いってそういう……」

エリー「まあ、はい……」

アリサ「もう師匠の所に行くよ! 準備はしっかりね!」
 



・・・


サムライ「――来たか」

アリサ「……師匠」

サムライ「既に言った通りでござる。先に進みたくば拙者に勝つことでござる」

アリサ「うん……! よろしくお願いします!」

サムライ「いざ尋常に――勝負!」



う・ち・き・り


お読みいただきありがとうございました。

プロットを見直しましたが、やはりここから先は18禁展開は避けられないのでここではここまでです

物語はまだ始まったばかり、冒険を楽しむ4人がやがて人とサキュバスとの愛と友情、そして魔物の苦難を知ることになります

ではいずれまた、どこかで

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