兄「妹と付き合いたい」 妹「!?」 (76)



友「まじで言ってんのかお前」

兄「まじで言ってるよ俺」

友「まじでか……」


妹「…………」


妹(どうも、妹です)

妹(兄は同じ高校の2つ上です)

妹(兄がお弁当を忘れたので、面倒ですが教室まで届けにきてあげました)

妹(入口付近に座っている兄と友さんの会話が聞こえたと思ったら、突如信じられない言葉を耳にしてしまいました…)


妹(えっ? いやいやさすがに聞き間違いだよね?)


兄「で、どうやったら妹と付き合えると思う?」

友「それはクラス1の学力を持つ俺の頭脳をもってしてもすぐには答えられない命題だわ」


妹(聞き間違ってなかった!!)





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妹(なんで!? お兄ちゃん、今まで別にそんなそぶり全くなかったよね?)

妹(特別仲良いわけでもないし、むしろ仲悪いし)

妹(悪いっていうか私が一方的に嫌ってる感じだけど…)


友「お前んとこ、そこまで兄妹仲良かったっけ?」

兄「いや普通」

友「じゃあなんで急にそんなこと言い出したんだよ」

兄「なんでだろう… 最近急に成長してきたからかな。見る目が変わった気がする」

友「まあ育ち盛りだしなぁ」


妹(せ、成長って、たしかに高校入ってから急に……胸が大きくなってきたけど。ブラもどんどんサイズ上がってるし)


兄「下着とかすぐ着れなくなって頻繁に買い換えてるって母さんが言ってた」


妹「ぶっふう!!!」




妹(お母さんっ!! お兄ちゃんにそんなこと話してんの!? 信じらんない!)


友「じゃあなにか? お前は自分の妹に欲情してるってのか?」

兄「さすがにそこまでは言ってない」

兄「ただまあ、近頃女の子らしくなってきて……魅力的だとは思う」

友「お、おう」

兄「つーか尋常じゃなく可愛い。いや可愛いのは最初からだけど、可愛すぎていろいろ手出ししたい」

友「欲情してんじゃねーか!」

兄「ばかやろう、純粋にぎゅっと抱きしめたり頭撫でたり、あわよくばあの柔らかそうな頬をプニプニしたりペロペロしたいだけだ!」

友「もうダメだお前」

兄「あああーー付き合えたらなぁーー独占して何でもできる気がするんだけどなぁーー」

友「最後の一線を越えそうになったら言えよ、すぐさま通報してやる」


妹(な、ななな何言ってんのあのバカ兄は!?)

妹(ありえない! 付き合うとか……手出すとか……き、キモいし……)




妹(てか変な会話してるせいでめちゃくちゃ入りにくいんだけど……休み時間に出直そうかな)

女「ん? どうしたの1年生?」

妹「わわっ!」

女「何か用? って、君はたしか兄の…」

妹「あっはい、妹です。えっとお弁当を…」

女「はあーなるほどね」

女「おーい兄ー、愛しの妹ちゃんが愛妻弁当持ってきたぞーー」

妹「あいさいっ!?」

兄「ん?」

友「愛妻弁当だってヨカッタネ」

兄「弁当か。そういや朝カバンに入れ忘れたな」




妹「……はいこれ」スッ

兄「ごめんなわざわざ」

妹「別に」

兄「てかなに? 愛妻なの?」

妹「はあああ!? 違うし!」

兄「なんだ、てっきりお前が真心込めて作ってくれたのかと」

妹「作ったのお母さんだし! キモい! バーカ! 死ねっ!」

兄「おお……ま、とにかくサンキュー」

妹「ふんっ」


スタスタ


友「すげぇ言われようだったな」

女「ツンデレ子?」

兄「デレはいつも無しだけど……今日はいつにも増して口悪かったな。生理かな」

友「お前それ面と向かって言ってみろ、夢途絶えるぞ」




兄「ん? それとこれとは関係なくないか?」

友「関係以前にデリカシー無い男はまず嫌われるだろ」

女「ねぇ、夢ってなに?」

友「さっきこいつが語ってた絵空事」

兄「いやいや絵空事じゃないから。叶えるために相談してるんだよ」

友「やっぱまじなのか……妹となんて付き合えるわけないだろ」

女「えっ? えっ? なにそれ詳しく」

友「そのまんまだよ。こいつが自分の妹と付き合いたいんだと」

女「えええー! そうなの!? 本気なの!?」

兄「俺は本気だ」

友「冗談であってほしかった。女からもちゃんと言ってやってくれよ」

女「そっかあ。いやあ、うん……いいと思う!」

友「ファッ!?」





女「だって兄妹だよ? こういうのってありそうで実際全然無いじゃん」

女「許されぬ恋、禁断の関係……うはっもえる!」

友「こいつもダメか」

女「兄×友も捗るけど、兄×妹かぁ。なるほどそれもいいなぁ」

友「アーアー聞こえなかった俺は何も聞かなかった」

兄「応援してくれるのか?」

女「もちのろん! 恋愛の女神であるこの私が直々に相談に乗ってしんぜよう!」

兄「そうか! ありがとう、恩に着る!」ガシッ

女「男が気安く触んな」

兄「アッハイ」




兄「じゃあ早速、実の妹に付き合ってもらうにはどうすればいいと思う?」

女「決まってるじゃない。告白してOKもらう。以上」

友「雑すぎて草」

兄「そのOKをもらうためにどうするかの相談なのですが…」

女「はあ? 何年も一緒に暮らしてきて、今さらちょこちょこ手を回したところで効果あるわけないでしょ」

兄「ええーもはや相談する余地無いじゃん」

女「バカね、何もしないのが正解って結論を出してあげたのよ」

兄「と言われても今のままじゃなあ。世間的にも環境的にもアレなような」

女「そんなの気にするくらいなら最初から諦めなさい。重要なのは本人の気持ちだけよ」

兄「……そんなもん?」

女「そ。そんなもん」




友「でも肝心な妹ちゃんからの好感度は微妙なんだろ?」

兄「そうでもないぞ。一緒にいるときは少なくとも嫌われてるって感じはしない」

友「避けられたりしてないのか? 俺も中学の妹いるけど家だとガン無視だぞ」

兄「いや全然。むしろ向こうから近よってくる」

女「…それは普通に好かれてるんじゃない?」

兄「別に俺だけにじゃない。父さんや母さんにもパパーママーって甘えてるし」

友「えっ、なんか意外。なら家だとお前にも『お兄ちゃ~ん』って感じ?」

兄「うわっ声真似キモいな」

友「うるせぇよ! そこだけ拾うなよ!」

兄「俺のことは『にいに』って呼んでるかな」

友「マ!?!?」

女「デレッデレじゃない」




友「にいにっておま……ええ? うちの妹はもはや『おい』とか『ちょっと』とかしか呼ばないのに」

兄「中学生なんかと比べてどうすんだよ」

友「反抗期だから仕方ないってか? だとしてもお前んとこやっぱすげぇよ」

兄「いや反抗期とかの問題では…」

女「ともかく、そんな感じなら全く問題ないんじゃない? こりゃもうアタックするしかないと思う」

兄「まじでそう思う? 当たって砕けない?」

女「砕けたならそれまでよ。あれこれ悩む前に行動したほうが喪失感も少ないし」

兄「まあねぇ…」

女「それに一度ダメだったからって終わりじゃないでしょ。逆に告白されてから始まる恋だってあるんだし」

友「『好きって言われて、そしたらなんか意識しちゃって、気がついたら私も彼のことが……っ』」

友「的なやつか」

兄・女「……」

友「今のは俺もキモいと思ったごめん」





兄「でもまあ、そうだな。鉄は熱いうちに打てだ。俺自身の情熱が冷める前に、今日告白しようと思う」

女「ふふっ、その意気よ!」

兄「最悪冗談で済ませばいいし」

女「だめだめ。告白する前から保険を考えてちゃ本気度が伝わらないわよ」

兄「……それもそうだな。ありったけの本気でぶつかってみるわ!」

友(目がマジだよこいつら)

友「今さら止めはしねーけどさ、もし仮にうまく行っちゃっても線引きはしっかりしろよな」

兄「ん?」

友「だからほら……アレよ」

友「近親相姦とかで問題起こすとシャレにならないだろ」

兄「…………友が性犯罪者予備軍なのがよく分かった」

友「ちげぇし!! なんだよその目は!? 真面目に心配してやってんのに!」

兄「だから純粋に愛でたいだけなんだって。えっちぃことは考えたこともない」

友「それならいいけどよ…」

兄「安心しろ、お前が自分の妹をそういう目で見てることは黙っててやるから」ポン

友「だから違うっつってんだろ!!」

女「あ、そろそろ準備しなきゃ。兄、結果報告よろしくね~」

兄「あいよ。サンキューな」




授業中


妹(はああ……今日の授業まるで頭に入ってこない)

妹(それもこれもぜんぶあのバカ兄のせいだ)

妹(妹と……つ、付き合いたいとか。ほんとバカじゃないの?)

教師「では次のフレーズ、妹さん読んでくれますか?」

妹(そんなのダメに決まってるじゃん。義理ならまだしも、実の兄妹なんだから)

妹友(妹ちゃん?)

教師「妹さん? 聞いてますかー?」

妹「へっ? は、はいっ!」

妹(あれあれ、今どこだっけ…)ペラペラ

妹友「150ページの5行目、Annyのセリフだよ」ヒソヒソ

妹「ん」

妹「ええと、『If I were your stepbrother……』」




キーンコーン


妹「妹友ちゃん、教えてくれてありがと」

妹友「いえいえー。どしたの? 妹ちゃんが授業中にうわの空なんて珍しいね」

妹「ちょっとね」

妹友「なにかお悩み…? 話聞こうか?」

妹「う、ううん! そんな話すようなことでもない感じのやつだから」

妹友「ほんと? ならいいんだけど」

妹「ぜんぜん大丈夫」

妹友「もし困ってたらいつでも相談してね?」

妹「うん、ありがと。次体育だよね、着替えに行こっ」

妹友「うん!」




体育館


妹「あれ、なんでセンターネット張ってあるんだろ」

妹友「急に雨降ってきて、3年生のクラスがバレーで隣使うんだって」

妹「そうなんだ。せっかく今日うちバスケなのに」

妹友「妹ちゃん中学バスケ部だったもんね。でもみんなは喜んでたよ」

妹「ええーなんで? コート減っちゃったら試合数が…」


キャアアアアーー!!


妹「!? なにごと!?」


モブ1「やばーい! かっこいいー!!」

モブ2「見てー! こっち見てー!!」

モブ3「雨でよかった……視力あがる…」


妹「な、なんじゃありゃ。うちの学校って嵐でもいるの?」

妹友「何言ってるの妹ちゃん? 知ってるくせにー」

妹「へ? 何を?」

妹友「えっ、だってみんなが見てるのって…」


モブ1「せんぱーい!! 兄せんぱーーーい!!」

モブ2「きゃあああああああ目線!! いま目線合った!!」

モブ3「私いまので近視治ったかも…」


妹「」




妹「は? え? どゆこと?」

妹友「妹ちゃんのお兄さんでしょ? 兄先輩って」

妹「そうだけど、あんなアイドルみたいな扱いされてるやつを私は知らない」

妹友「妹ちゃんほんとに知らないんだ… 兄先輩、ファンクラブあるくらい人気なんだよ?」

妹「うえええ!? た、たしかに昔モテてる的な噂は聞いた気もするけど…」

妹友「特に年下からの人気がすごいよ。かっこいいのはもちろんだけど、包容力っていうのかな? あの大人な感じが良いんだと思う」

妹「そうなんだ……そのわりに高校入って誰からもお兄ちゃんについて聞かれたことないような」

妹友「みんな兄先輩がお兄さんってこと知らないのかもねー。おな中って私と妹ちゃん含めても何人かしかいないし」


モブ1「はあ、幸せ…」

モブ2「後光射してるよね…」

モブ3「今度は逆に失明しそう」


妹(そこまで言うか)




妹友「そのこと知ったら絶対みんな羨ましがるよー」

妹「そんなに良いかなぁ。家じゃ基本ぐうたらだし、性格もどっちかといえば暗いし」

妹(それに……い、妹と恋愛しようとしてる変態だし……)

妹友「妹ちゃんは兄先輩のことどう思ってるの?」

妹「へあっ!?」

妹友「好きじゃないの?」

妹「な、ななな何言ってんの!? 兄妹だよ!? 血繋がってるんだよ!? す、好きとか付き合うとかそんなの…っ」

妹友「……ふつうに兄妹として仲良いのって意味なんだけど」

妹「えっ!? あ、なんだ、だよね、うん。もちろん分かってるよ」

妹友(わー顔まっかだー)

妹「こほん。仲はよくないっていうか、嫌い………だったけど」

妹「今はまあ、普通かな」




妹友「そうなんだ。兄先輩が私のお兄さんだったら毎日幸せだなぁ」

妹「いないからそう思うんだよ。実際いたらうざいだけだって」

妹友「そうかなー? 絶対甘えちゃう自信あるよ」

妹「うえーー考えられない」

妹友「うっかりしたら好きになりそう。いっそ彼氏にしたい!」

妹「ぶふっ!?」

妹友「い、妹ちゃん? 大丈夫?」

妹「げほっげほっ……か、彼氏って妹友ちゃん、さすがにそういう関係は無理があるって」

妹友「え? 無理かなぁ」

妹「どう考えても無理でしょ…」




妹友「妹ちゃんはそういう気持ちにはなったりしないの?」

妹「ならないならない! ありえない!」

妹友「そっかぁー。幻想なのかな」

妹(そげぶだよ妹友ちゃん。あんなのと付き合うなんて絶対……)

妹(……でも、お兄ちゃんはそれを望んでるんだよね)

妹友「あ! また兄先輩決めた! ほんとすごいなぁー」

妹「……」


妹「ね、妹友ちゃん」

妹友「うん?」

妹「変じゃないと思う? そういうの」

妹友「そういうの?」

妹「だからその、兄妹で……好きになるとか、付き合うとか付き合わないとかっていう」

妹友「……妹ちゃん!!?」パァー

妹「ちょっ、違うから! あくまで一般的! 一般的にだからっ!」

妹友「うん、うん!分かってる! 一般ぴーぽー的にね!」

妹「キラキラした目やめて!? 絶対誤解してる!!」




妹友「兄妹で恋人かぁ。そうだねー、やっぱり常識的にはちょっとどうかなってなるよね」

妹(よかったそこはちゃんと認識あった)

妹友「結婚だってできないし。二頭身? までだっけ?」

妹「それはドラえもんだよ。頭身じゃなくて親等、あと二じゃなくて三」

妹友「さすが妹ちゃん!」

妹(次のテスト勉強も見てあげなきゃなぁ)

妹友「けどね、私はそういうの関係ないと思う」

妹「えっ?」

妹友「法律とか、常識とか、自分でどうにもできないものはどうにもしなくて良いよねって」

妹友「妹がお兄さんを好きで、そのお兄さんが妹を好きで。きっとそれだけで十分だよ」





妹友「付き合うのに必要なものなんてほんとにそれだけじゃない?」

妹友「これしたら付き合ってるとか、付き合ってるからこうするとかそんなのも無いし。恋愛の形なんて人それぞれだし」

妹友「それが兄妹だっていうのはちょっとだけ特別だけど…」

妹「妹友ちゃん…」

妹友「でもね、変なんかじゃないよ。おかしいなんて私は思わない」

妹(兄と妹でも……変じゃないのかな)

妹友「女の子なんていろんな人好きになるじゃん! その1人がたまたまお兄さんってだけだよ!」

妹友「そりゃ結婚できないし、えっちなこともダメかも知れないし、お父さんお母さんも心配しちゃうと思うけど」

妹友「ほんとに好きなら、その気持ちをずっと閉じ込めておくのは……すごくもったいないよ…?」

妹「…………」




妹(今まで考えたこともなかった。お兄ちゃんとそういう関係になるなんて)

妹(別に私からそうなりたいなんて思ったことない。これは本当)

妹(でも……もしお兄ちゃんが本気で私のことが好きで、本気で私に想いをぶつけてきたら?)

妹友「えへへ、まあおバカな私の意見だしね」

妹「……」

妹(私はお兄ちゃんに……なんて返事するんだろ)


妹友「妹ちゃん?」

妹「ううん」

妹「あれだね。妹友ちゃんはおバカだから、嘘がつけないところが良いと思う」

妹友「……あれ? それ私褒められてる?」

妹「ほら試合だよ。私と同じチームでしょ」

妹友「あ、待ってよー!」


オチだけ思いついて書き始めると本当ろくなことにならない
明日中には終わらせます!



昼休み


妹「やー、体育の後はお腹すくからお昼がウマい」モグモグ

妹友「妹ちゃんいつにも増して量多いね。お弁当プラス購買って」

妹「お弁当箱小さいだけだよ。普通普通」

妹友(カツサンド、メロンパン……それにプリンまで。私ならその追加分だけでお腹いっぱいな気がする)

妹「幸せだ~~」モグモグ

妹友「その栄養がどこに行ってるかなんて見れば分かりますけどねーーー……はぁ」

妹「? 妹友ちゃんどしたの?」

妹友「なんでもなーい」

妹(な、なんか不機嫌?)


ザワザワ…


妹「ん?」




モブ1「嘘だ! 私は信じないっ!」

モブ2「でもでも、もしかしたらうちらの誰かかもだしぃ」

モブ3「涙で前が見えねェ」


妹「なんか、さっきからクラスざわついてない?」

妹友「んー? あっ!そうだ! 妹ちゃんに聞こうと思ってたんだった」

妹「え、なに?」

妹友「体育のときに3年生の女の先輩が部活の後輩に流した情報っぽいんだけど」

妹友「……ちょっと耳貸して」

妹「うん?」

妹友「えっと…」コソコソ


妹友「兄先輩、付き合いたい人がいるってほんと?」

妹「っぶ!!?」




妹「うえっほ! げほげほっ!!」

妹友「妹ちゃん!? 今日よくむせるね…」

妹「ご、ごめんちょっとお茶飲む」

妹(付き合いたい人って、きっと朝のあの話……だよね)

妹友「で、心当たりない? なんでもその先輩が言うにはうちのクラスらしいんだけど!」ヒソヒソ

妹「え、ええー? さあーー、そんな話しないし?」

妹友「そっかぁ。まあそうだよね」

妹「それでクラスざわついてるんだ……あ、相手が誰とかは誰も知らないんだよね?」

妹友「うん。だから妹ちゃんに聞いたんだけど」

妹「あははー、なるほどなるほどー。誰なんだろーねあっはっはっ」

妹友「しかもね、なにやら今日の放課後に告白するんだって!」

妹「はあああああああああっ!!?」

妹友「ひいっ!?」




妹「あ、いや」

妹友「びっくりした……」

妹「ごめん私も驚いて……放課後って、え? 学校で?」

妹友「詳しくは知らないけど、そうなんじゃないかな?」

妹「ふ、ふうん。そっか」

妹友「もしかしてやっぱり心当たりあるの!?」

妹「ないないない! 1ミリも心当たらない!」

妹友「なんだぁー。じゃあもう放課後までもんもんと過ごすしかないなぁ」

妹「なんで妹友ちゃんがもんもんするのさ」

妹友「だって兄先輩が告白だよ? 気にならないほうがおかしいよ!」

妹友「しかもうちのクラスかもだなんて……ああーほんと誰なんだろう!?」

妹(うう、ちょっと罪悪感が……けど本当のことなんて言えるわけないよ)




キーンコーン


妹(ついに放課後になってしまった…)

妹友『兄先輩のこと、もし分かったら絶対教えてね!』

妹(って妹友ちゃんは部活に行っちゃったし)

妹「……」


妹(てか、私なにを待ってるんだ!?)

妹(鵜呑みにしちゃってたけど噂はあくまで噂なわけだし!)

妹(さすがに学校で、妹に告白とか? しないでしょまとも考えて!)

妹(あ、実の妹と付き合いたいとか暴露してる時点でまともじゃなかった)


妹(うん……でも待ってる意味もないよね、別に頼まれたわけじゃない)

妹(そもそも告白するのが本当だとして、相手が私とは限んないじゃん。他に普通に好きな子がいるのかもだし)


妹(お兄ちゃんが……他の子に告白……)モヤ


妹「!?」




妹(なに今の!? モヤってなに、モヤって!!)

妹(意味分かんない、別にモヤモヤなんかする必要ないのに)

妹(あんなやつが誰に告白しようが勝手だし…)

妹「……」

妹「連絡こないし…」


ピロン♪


妹「っ!!」

妹(お、お兄ちゃんからだ!)

兄『もう帰った?』

妹「……」ピロン

妹『まだ』

妹「……えっと」

妹『なんで? なんか用?』

妹(ちょっと素っ気ないかな……っていつもこんなじゃん! 何を気にしてるんだろ私)




兄『教室?』

妹(おい、質問に答えろ)

妹『うん。それが何』

兄『まだしばらく帰らない?』

妹(だから質問無視すんなっ!)

妹「はあもう…なんなのさ」

妹『もう帰るとこ』

兄『了解。1人だよな?』

妹「っ!」

妹『そうですけど? 友達いないって言いたいの?』

兄『いやいや。ならおーけー』

妹(お、おーけー? 何がおーけー!?)

妹(1人か確認したってことはやっぱり、これから私をどこかに呼び出すつもりじゃ…)


妹(………やば、急に緊張してきたんだけど!)


妹(どこだろう、どこか人気のないところだよね)

妹(屋上とか? 体育館裏とか? 誰も居なくなった教室とか……?)


ピロン♪


兄『昇降口で待ってるわ』

妹「昇降口ぃぃ!!?」





妹「アホか!? アホなのかあの兄は!?」

妹「昇降口って、よりにもよって最も知り合いが通る可能性大の場所じゃん!! 何考えてんの!?」

妹「ふうー、ふうー…」

妹(お、思わず叫んでしまった。周り誰もいなかったよね? 聞かれてないよね?)キョロキョロ

妹「……」

妹(………ま、とにかく行くしかないか)

妹『わかった』

妹「よし…」

妹(平常心、平常心。いつも通りの私で何も問題ない)


妹「……」

妹(髪だけ整えとこ…)




昇降口


兄(雨よく降るなぁ。朝はあんだけ晴れてたのに)

兄(それにしても今日は廊下でやたら視線感じたけどなんだったんだろう)

兄(というか今もチラホラ見られてるのは気のせいか…)


妹(うげ、ほんとに居る)

妹(って当たり前か。待ってるって言ったんだし)

妹「……」スーー ハーー


スタスタ


兄「お、来たな」

妹「……うん」

兄「よしじゃあ…」

妹「ま、待って!」




兄「なんだ?」

妹「ほ、ほんとにここでよかったの?」

兄「そりゃあここが一番手っ取り早いし」

妹「手っ取り早いって……もっと他に考えることあるでしょ……」

兄「はい?」

妹「お兄ちゃんはここでもいいのかもしんないよ? でも私の気持ちとかさ」

兄「あー、やっぱ見られるの嫌か」

妹「あ、当たり前じゃん。もっといっぱいあるよね、人来ない場所」

兄「それはごめん。でもどのみち途中で誰かには見られるからいいかなって」

妹「はあ!? なんで人に見られるの前提なわけ?」

兄「そりゃ学校は人いっぱいいるし、誰にも見られないほうが難しいんじゃ…」

妹「じゃあ学校じゃなくてもいいじゃん!」

兄「え?」





妹「だから別に学校じゃなくても、どこか行ったりすればいいじゃん」

兄「待ってお前、なんの話してる?」

妹「なんのってそりゃ……えっ? お兄ちゃんはなんの話してるの?」

兄「いや俺はただ…」バサッ

妹「へ? 傘?」

兄「お前、どうせ傘持ってきてないだろ? 天気予報じゃ雨って言ってなかったし」

妹(あ……そういえば急に雨降ってきたんだっけ)

兄「困ってるんじゃないかと」

妹「……」

兄「まあでも、高校生にもなって兄妹で下校なんて知り合いに見られるのは嫌だよな」

妹(あ、あれぇー?)




妹「ええと……もしかして、一緒に傘入れるために待っててくれただけ?」

兄「いかにも」

妹「へ、へーー」

妹「ちなみにお兄ちゃん、放課後他に誰かと会ったりした?」

兄「いや? 特別誰かとってことはなかったけど」

妹(ちょっと妹友さん!? 告白とやらはどこへ行った……?)

兄「なんでそんなこと聞くんだ?」

妹「えっ!? べ、別になんとなく」

兄「まあいいや。それでどうする?」

妹「ん?」

兄「帰り。一緒に入ろうかと思ったけど、アレならこの傘渡すぞ」




妹「あーえっと、じゃあ借りようかな…」

兄「了解。じゃあはい傘」

妹「あれ? 待って、そしたらお兄ちゃんは?」

兄「俺は家までダッシュするよ。多少濡れたところでこの季節ならそんな寒くもないし」

妹「ええっ!? ダメだよ風邪引くよ」

兄「走ればたかだか15分くらいだろ。体冷える前にシャワー浴びれば問題ない」

妹「でもそんなの可哀そ…じゃなくて私が悪者みたいじゃん。やっぱ一緒に入る!」

兄「そんなの誰も気にしないって」

妹「いいから! 私が気にするの!」

兄「そう? まあお前がそれでいいなら…」

妹「いいよもう。ほら帰ろ」

兄「おう」




ザーー…

兄「こんな風に帰るのも久々だなぁ。中学のとき以来か」

妹「覚えてない」

兄「あの頃は同じくらいの背だった気がするけど、今はだいぶ差あるな。お前縮んだ?」

妹「縮むか!! お兄ちゃんが伸びすぎなだけ。いま何センチあんのさ」

兄「180…182くらい? 去年で止まったよ」

妹(くっ、余裕で20センチ以上離れてる)

妹「ま、私も女の子としてはこのくらいの身長で十分だと思ってるし」

兄「そうか」

妹「それに、今でもどんどん大きくなってるし?」

妹(……別のところが、だけど)

兄「へぇ、あんま分かんないな」

妹「う、嘘だ……変な目で見てるくせに」

兄「?」




妹「しかもお母さんに…聞いたんでしょ」

兄「母さんに? 何を?」

妹「い、言わせる気っ!? バカ! 変態! キモい!」

兄(理不尽な罵倒が俺を襲う!)

妹(うー、お兄ちゃんだけ澄ました顔して)

妹(なんか仕返しを………そうだ)

妹「てかさ、雨かかるんだけど」

兄「まあ身長差もあるからなぁ。腰落として歩こうか? 昔バレーの練習でよくやったんだ」

妹「しなくていい! ってかすんな。そうじゃなくてもっと近づくだけ」

兄「これ以上は無理だろ。俺限界まで脇締めてるぞ」

妹「じゃあ……一瞬緩めて」

兄「ん? なんで?」

妹「こうする」


ギュ




兄「ええ……」

妹「……」ギュー

兄(妹を傘に入れたら腕に抱きついてきたんだけど、これなんてエロゲ?)

妹(どうだこのやろう。妹の成長を肌で感じやがれ)

兄(俗に言う『当ててんのよ』状態なんだけど、これなんてエロゲ?)

妹「な、なんかないの、感想とか」

兄「これなんてエロゲ?」

妹「……リアルなんてクソゲーだって言いたいわけ?」

兄「まさか。セーブもリセットもできないからこそリアル人生ゲームは素晴らしいって言いたい派だよ俺は」

妹「あっそ…」

妹(むむう、あんまり効いてないっぽい)




妹(こ、恋人みたいだねーとか言ってみる?)

妹(いやいや! そんなの絶対私のほうが耐えられない!)

妹(忘れてたけどお兄ちゃん、私のこと好きなんだよね…? こんなことされてもドキドキしないのかな?)

兄「……」

妹「……」ドキドキ

妹(ていうかあれ!? 私のほうがドキドキしてるんじゃ……!?)

妹(違う違う! そんなんじゃない! これはカップルに間違えられることに対する恐怖的なやつであって)

妹(断じて恋愛感情によるものでは……)


妹(ってこの言い訳がすでにツンデレみたいで嫌なんだけど!!)

妹(お兄ちゃんは平気そうだし。くそう、なんだろうこの敗北感)


兄(勃起しそう)




テクテク


兄「お、完全に雨止んだかな」

妹「だね」

兄「傘閉じるから離れてくれる?」

妹「あ……うん」スッ

妹(……ちょっと名残惜しいかも)

妹(結局お兄ちゃんは何にも反応ないし。なんか私だけ空回りしてたみたい)

兄「16時半か。母さんのパートが終わる頃だな」

妹「今日パートの日だっけ」

兄「ああ。幼稚園の迎えのあと夕飯の買い物するって昼に連絡あったから、俺らのほうが早そうだ」

妹「ふーん」

妹(今思えば、朝のも何かの勘違いだったのかも。会話の一部分だけ聞くと意味が変わるやつとかよくあるじゃん)

妹(あれもそんな感じだったのかな……期待して損した気分)


妹(えっ…………期待……?)




妹「うそ…」

兄「どうかした?」

妹(私……期待してた? お兄ちゃんに告白されるのを…!?)

妹(そ、そんなわけない! 今までそんなことなかったし、むしろ嫌ってたはず……)

兄「おーい」

妹(でも、じゃあなに? この感じ)

妹(胸の中で積み重ねてきた何かが……崩れて無くなっていくような…)ズキ

兄「ちょっ、まじで大丈夫か?」

妹「お兄ちゃん…」

兄「ん?」

妹(お兄ちゃん……そうだ、私のお兄ちゃん……)



妹(そうだよ…そうだった。なんで忘れてたんだろう)

妹(なんで…忘れようとしてたんだろう)



妹(私の…………)





兄「具合でも悪いのか?」

妹「う、ううん。大丈夫」

兄「どう見ても大丈夫じゃなさそうだったぞ。なんなら家までおぶるか」

妹「……いいの?」

兄「なんて冗談……えっ?」

妹「……」

兄「……」

妹「歩くの疲れたなぁー」

兄「ま、まじで?」

妹「……先に言ったのお兄ちゃんじゃん」

兄「そうだけど……じゃあ、はい」スッ

妹「ふふん」ノシ

兄「ごめん、傘だけ持ってて」

妹「ん」




妹「お、重たくない?」

兄「軽くはない」

妹「そこはウソでも軽いって言え。途中でギブとかやめてよ? 傷つくから」

兄「まあもうそんなに距離ないし、いけると思う」

妹「あっそう」

兄「こんなのも昔思い出すなぁ。近所で遊んでて、転んで泣いてるお前をよく家まで運んだもんだ」

妹「ええー、いつの話それ」

兄「お前が幼稚園のときかな。ずーっとくっついて回ってきてたんだぞ」

妹「あの頃はお母さんも会社で働いてたし、ほかに誰もいなかったし…仕方なく……」

兄「にいにのお嫁さんになるぅーとかほざいてたな」

妹「し、知らない! 覚えてない! 捏造!」

兄「たしかホームビデオに残ってたっけか」

妹「抹消しろそんなもん!!」




兄「昔は可愛かったのになぁ」

妹「い、今だって可愛いし…」

兄「性格の話だよ。特に俺が高校入ってからの扱いひどくね?」

妹「別に、年頃の女の子なんてみんなそんなもんだから」

兄「自分で言うなよ。まあ、確かにこの歳で大好きーとかお嫁さんになるぅーとか言ってるのもおかしいか」

妹「……」

妹「おかしく…ないんじゃない」ボソ

兄「えっ?」

妹「だ、だから! そういうのも、ありえるかもって」

妹「……兄妹でも……け、結婚はできないかもだけど」

妹「お互いが好きなら、それでいいかなって……妹友ちゃんも言ってたし…」

兄「……えーっと?」

妹「聞いちゃったの!!」

兄「へっ」




兄「聞いたって…?」

妹「今日の朝……お弁当、届けに行った時」

兄「ああ、あの時の」

兄(ってまさか、聞かれてたのか!?)

妹「付き合いたいって言ってた…」

妹「か、可愛いってすごい言ってた。手出したい…とか」

兄「Oh……」

妹「それに、体育のあと噂で、今日の放課後告白するみたいなのも聞いた」

兄(うわぁ筒抜けじゃないっすか……放課後ってのはちょっと違うけど)

兄(なるほどなぁ。午後からやたら視線浴びた気がしたのはその噂が原因か)

妹「あれ、本気なんだよね…?」

兄「……まあ」

妹「ふ、ふうん。そっか……ふうん」




兄「あー……引いた?」

妹「超引いた。実の妹にとか、なに考えてんのって」

兄「で、ですよねぇ」

妹「でも………ありえなくはないかもって思った」

兄「え」

妹「本気なんでしょ? 本気なら、ちゃんと伝えたほうが良いと思う」

妹「も、もしかしたらね。万が一、天文学的な確率で、相手もその……同じ気持ちかもしんないし…?」

兄「……」

妹「っ、てか陰で変態っぽいこと考えてるほうがキモい! いっそ全部ぶちまけてくれたほうがマシ!」


妹「………って思ってるかもだし?」

兄「はは…」




兄「お前がそんな風に励ましてくれるとは思わなかった」

妹「べっ別に、励ましたわけじゃないし」

兄「俺は本気だ」

妹「っ!」ドキ

兄「さっきさ、本気ならちゃんと伝えたほうがいいって言っただろ」

兄「今日クラスのやつにも似たようなことを言われたんだ。重要なのは本人の気持ちだーって」

妹「…ふうん?」

兄「血の繋がりは変えられない。周りの目もあるだろうさ」

兄「でもそんなもん吹っ飛ばして、自分の気持ちに正直になっていいんだって、そう言われた気がしたよ」

兄「まさかお前からも言われるとは夢にも思わなかったけどな」

妹「う、うっさい。そこまで言ってない」

兄「だから改めて決意が固まった」


兄「俺は……今日告白する。本気で、自分の想いを伝える」

妹「っ!!」




妹「それって……いつ? もしや今………?」

兄「まさか。家に帰ってからさ」

妹「そ、そうなんだ。分かった」

兄「一世一代の大勝負なんだ。面と向かって直接言いたい」

妹「………うん」


妹「……」


妹(う、うわあああああなにこれなにこれ!!?)


妹(やっぱ告白っていうのは本当だったんだ……ええええやばいんだけど、めちゃくちゃドキドキするんだけど!!)

妹(心臓がぎゅんぎゅんする……大丈夫かな、背中越しにバレてないかな?)

妹(家に着いたら、お兄ちゃんと、こ、恋人に…? どうしようどうしよう、また混乱してきた!)

妹「ふうー、ふうー…」

兄「お、おいなんか息荒いぞ? 酔ったか?」

妹「だだだ、大丈夫だ、問題ない」

兄(装備が甘かったか? 暖かいからって油断した、早めに歩こう)

妹(お兄ちゃんの背中、お兄ちゃんのうなじ、お兄ちゃんの匂い……)

妹(はあああやばい、意識し出したら止まらない…)


妹(やっぱ………好きだ。お兄ちゃん、好きだよ……)





ジャーー…


妹(どうも、妹です)

妹(兄はリビングに、一方私はお風呂にいます)

妹(別にえっちなことをする前準備とかじゃありません。単に雨で濡れたのでシャワーで温まってるだけです)

妹(兄のほうはなにやら坐禅を組んで精神統一してるみたいです。何のためといえばお分かりかと思いますが)


妹(そう、告白するためです………………実の妹に)

妹「……」


妹(お風呂から出たら……)


妹(お兄ちゃん………)





キィ…


兄「…………」

妹「……」

妹「…あ、上がったよ?」

兄「ん」

妹「うん」

兄「…………」

妹「……あの」

兄「うん?」

妹「その、精神統一? いつまで続けるの?」

兄「もちろんその時が来るまでだ」

妹「あ、そう…」




兄「…………」

妹「ちなみにその時って、いつ来るの?」

兄「もうすぐだと思うけど」

妹「思うって……そろそろお母さんたち帰ってくるよ?」

兄「だからそれを待ってるんだろ」

妹「ええっ!? み、皆がいるところでするつもりだったの!?」

兄「まあな。それくらいの覚悟がなきゃ本気じゃない」

妹「え、えーー……」

兄「嫌なら別に部屋にいていいぞ」

妹「う、ううん………いい……ここで待つ」

兄「そうか。了解」




兄「…………」

妹(お兄ちゃん、すごい集中してる……)

兄「…………」

妹「そろそろ…かな?」

兄「そうだな。てかお前、メイクしてる?」

妹「えっ? してるけど」

兄「風呂入ったのになんでまた」

妹「そりゃあ………だ、だって、大事な時だし」

兄「そっか。ありがとうな、わざわざ」

妹「ん……」



ガチャッ バタン


母「ただいま~」

妹(幼)「たっだいまぁー!!」


兄・妹「!!!」




妹「か、帰ってきた」

兄「……ああ、いよいよだ」


母「ごめんねー少し遅くなっちゃって。今お夕飯の支度するから」

妹(幼)「きょうはカレー! カレーなの!」

母「まず手洗いするのよー。どっちか洗面所に連れてってくれる?」

妹「あ、うん……」チラ

兄「行ってくれ」

妹「ん」

兄「……」

母「お昼頃雨降ったせいか道路混んでてねー……ってどうしたの? ピシッと正座なんかして」

兄「母さん、ちょっとだけ時間をくれないか」

母「え?」




母「なに改まって。ご飯のときじゃダメなの?」

兄「今がいいんだ。先延ばしにしてしまったら言えなくなるかもしれないから」

母「はあ。まあ少しだけなら」

兄「長くはかからない。そこに座っててくれ」

妹「あっこら、走らないの!」

妹(幼)「きゃははっ、てーぴっかぴかー!」

妹「もー、転んだらまた手汚れるでしょっ……って重っ! こんなに重かったっけ!?」ヒョイ

母「伸び盛りだもの。幼稚園の組でもかなり大きいほうよ」

兄「お前も、そこに座ってくれ」

妹「っ……う、うん」スッ

妹(幼)「ねえねのひざのうえー」




母「それで、話ってなにかしら?」

兄「ああ、それなんだけど」

兄(さすがに緊張するな……父さんがいないだけまだマシか)

妹「……」ドキドキ

兄「最初に言っておこう。今からするのは恋の話だ」

母「コイ? え、コイって魚の?」

兄「いや、恋愛のほうのコイだ」

妹(幼)「こい?」キョトン

母「えーー!? どうしたのよ突然! そんな話今まで家族でしてこなかったのに」

兄「そりゃあ今までは無かったからな。けど今回は本気で付き合いたいと思う人ができたんだ」

妹「っ……!!」

母「へぇーー?」




母「……で、で!? 誰なの? 同級生の子!?」

妹(お母さんめっちゃ興味津々だ!?)

兄「いや違う。もっと身近にいる」

母「同級生よりも身近って……じゃあ、お隣の?」

兄「……それよりも近しい」

母「えっ?」

妹「……」

母「それって……えっ?」

兄「……」

兄「分かってるんだ、これがアブノーマルだってことくらい」

兄「普通ならそういう感情は芽生えない、芽生えちゃいけないってのは分かってるんだ」




兄「頭では分かってる。理解してるんだ。だからこそ真剣に考えた」

兄「クラスの友人にも相談したよ。否定もされた。けど、背中を押してくれるやつもいた」

妹「……」

兄「これはただの勢いなのかも、気の迷いなのかもしれない。明日になったら、何考えてんだって布団にくるまって絶叫するのかもしれない」

兄「でも少なくとも、今この瞬間に俺が抱いてる想いは本物だ。本気で本気なんだ!」

兄「だから俺は決めた。俺は言う」

兄「今日、いま、する。この場所で………告白を……!!」

母「!!」


母「この場でって………まさか……!?」

兄「そうだよ、俺が本気で好きになったのは…」


妹「っ……!!」ドキドキドキドキ




母「お母さん!!?」

兄「たわけ!!」

妹「」ズルッ




母「なーんだ……違うの?」

妹(め、めっちゃ水挿してきおったこの母ーーっ!!!)

兄「違います」

妹(違うよね! よかった! ああもうびっくりした…)

母「不覚にもドキッとしちゃったわ。でもこの場でってことはやっぱり家族なのかしら?」

兄「ああ」

妹(実の息子にドキッとするなし……って人のこと言えないけど)

兄「この気持ちがいつからかなのかは分からない。ただ最近のようで、ずっと昔からだったのかもしれない」

兄「思えば生まれてからずっとだったような気さえさる」

兄「こいつは俺が守ろうって、まだガキのくせしてそんな使命めいたものを感じてたんだと思う」




兄「人の気持ちってのはどうにも、いろんな形に変化する」

兄「守る対象だと思ってずっとそばにいたら、いつの間にか自分のほうがそいつに近づきたいと思うようになってるし」

兄「近づきたいって思って近づいてたら、今度はもっと知りたい、もっと触れたいって思うようになってたんだ」

妹(お兄ちゃん…)


兄「好きなものは独り占めしたくなるもんでさ」

兄「自分のものに、自分の好きにできるっていう名分が欲しかったんだ」

兄「家族ってだけじゃ満足できなくなったんだ。それ以上の特別が欲しくなってしまったんだ」




兄「だからってできることは大して変わらないのかもしれない。関係の肩書きが変わるだけで、それ以外はこれまでと一緒かもしれない」

兄「詰まるところ、これはただの自己満足なんだ」

兄「俺のわがままを相手に押し付けてるだけ。たぶん、そう言ったほうが自然に聞こえる関係になるだけなんだよ」

兄「でも……それでもいいと思った」

母「……」

兄「形がどうであれ、周囲にどう思われるのであれ、俺の本気に嘘はない。それで相手に拒絶されても後悔なんてしない」

兄「それで、もしもお互いが認め合えたんなら……後生にも及ぶ覚悟を持って俺は向き合うつもりだ」

兄「だからこの瞬間に、俺は全霊を賭して言う」

妹「っ………!!」




兄「……」


母「……」

妹「……」ドキドキドキドキ

妹(か、顔から火が出そう……まともにお兄ちゃんの顔見れない……!!)ギュッ


兄「こほん」



兄「お前の……………全部が好きだ」


妹「っーーー!!!!」ドクン!


兄「あどけない顔も、サラサラの髪も、伸び盛りの体も」

兄「無邪気に笑うところも、泣きたい時に泣ける素直さも」

兄「言いたいことをはっきり言う性格も、時々甘えてくる愛らしさも」

兄「全部まるごと俺のものにしたい。自分のものとして、純粋に愛でていきたい」

妹(あうあうあうあう)




兄「だから、俺と………」


妹「……」


妹(バカだと思った……ありえないと思った…)

妹(実の妹と付き合いたいだなんて、そんなお兄ちゃんなんて、キモいだけだって)


妹(知らなかったなぁ……)


妹(誰かに求められるのが、好きだって言われるのが……こんなに胸がときめくことなんだってこと……)




兄「俺と………付き合ってくださいっ!!!」




妹(たとえそれが、血の繋がったお兄ちゃんだとしても…)





妹(やばっ……なんか…涙出てきた)


兄「…………」

妹「へへ、えへへ…」グス


妹(もう泣いててもいいや)

妹(返事くらい、ちゃんと目を見てしなきゃだよね)



妹「はい………こちらこそよろしくーーー」



母「…………」


兄「…………」






妹(幼)「うぇ??」







妹「…………………………うぇ?」






妹「………え?………え?」





兄「お願いします!!」ギュッ


妹(幼)「にいにのておっきぃー」ギュッ


兄(届け、俺の想い…………っ!!!)ギュッ


妹(幼)「?」キョトン



母「????」




妹「????????」






妹「…………ああ」ポン






妹「って『妹』ってそっちかよ!!!!!!!????」




おわり


これがやりたかっただけです…
読んでくれた人ほんとありがとう

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