タプリス「変わらない挨拶、失われた返事」 (24)

「それじゃあ…」


「いってきますね、──」


それは、家を出る時彼女が毎日言っているセリフ

ひとり暮らしの彼女が、毎日玄関に置いてある『それ』に向かって放つセリフだった





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家を出た彼女はある人の家へと向かう

その理由は単純で、ある人に呼び出されていたからだ

だがその呼び出され方はどこか普通ではなくて…


~~~~

「最近あんまりみんなで集まったりしてなかったしさ、4日の〇時にみんなで集まろうと思うんだけど…来てくれるよな?」

~~~~

という感じのもの


どこか適当で、来ることを強制されてるかのような言い方で呼ばれていた

だが彼女を呼び出したその人は、彼女にとって尊敬に値する人物で

断る理由も特になかったのでその呼び出しを了承したのだった

そして今、その人の家に向かっているというわけだ

ふと、今日は『あの日』であることを思い出す

(もしかして……)

なんて疑問が頭によぎる

そんな予想に近い疑問をかき消すように、彼女は頭を振ったのだった



――――――――――


先程浮かんだ疑問を頭の中でかき消しているうちに、彼女は目的地である家までたどり着いていた

インターホンを鳴らすと「待ってました!」と言わんばかりに扉が開く

「よう、久しぶりだな」

ドアを開けて挨拶をしてきた人物は『ボサボサの金髪で小柄の少女』だった

この彼女より少なくとも一回りは小さい『ボサボサの金髪で小柄の少女』こそが、今回彼女を呼び出したその人本人である

「まぁ、とりあえずあがってくれよ」

「はい、お邪魔しますね!」

こうして彼女は家の中へと招かれたのだった



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招かれた彼女が部屋のドアを開け、部屋に入ろうとすると隣から大きな音がした

それが合図になるように部屋の中からも大きな音が鳴り響く

隣にいた『ボサボサの金髪で小柄な』の手元を見ると、そこにはいつの間にか用意されたクラッカーが握られていた

そして彼女が部屋の中をおそるおそる覗き見ると……






「「「「お誕生日おめでとう!」」」」




彼女に向かって一斉に言葉がかけられる

そう、今日は彼女の誕生日だった

実は彼女がここへ向かう時に頭によぎった疑問の『あの日』とは『今日は自分の誕生日』というもので

『(もしかして……)』というのは、祝ってもらえるのでは?というものだった

つまり彼女の疑問は現実となったものといえる

「わわ、みなさん私の誕生日を覚えててくれたんですか!?」

彼女は祝ってくれた皆に対して驚きが混ざりながらも嬉しそうな声でそう返す

「当たり前じゃない!貴女は私達の大事な後輩なんだから!」

「まぁ?アンタは倒すべき相手だけどぉ?今日ぐらいは休戦というか?えっとその……」

「素直じゃないですねー」

「うるさいわね!」

彼女を祝う皆、もとい4人は賑やかな会話を繰り広げる



そのせいで、気づかない

──彼女が、悲しそうな目をしていたことに


だが4人のうちの1人、賑やかな会話に参加してない『ボサボサの金髪で小柄の少女』だけが彼女の悲しそうな目に気づいた

「……まだ、立ち直れないのか?」

『ボサボサの金髪で小柄の少女』が小声でそう問いかける

「……バレて、しまいましたか」

彼女は小声でそう返す


「……まあ、これくらいはね、長い付き合いなんだしさ」




悲しそうな目をしていたから、なんて思っても言わなかったのは『ボサボサの金髪で小柄の少女』なりの優しさだった



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あの後何事もなく誕生日祝いは終わり、解散したあとのこと

彼女は帰り道、とても浮かない顔をしていた

彼女は自分の誕生日だというのに
というよりは自分の誕生日を祝ってもらったばかりだというのに

とても、切なそうな表情をしていた



──それはまるで、自分の誕生日とは関係の無い『別の何か』を思い出しているような、そんな表情だった


思い出すタイミングを察するに、自分の誕生日に関することであることには違いないのだろうが……



――――――――――


彼女は自分の家にたどり着き、家の扉を開けて自分の家へと入っていく

そして今日も彼女は毎日口に出してる言葉を『それ』に放つ

「ただいまです、──」

玄関に置かれた『それ』

既にここにはいない人、彼女にとって大切だった人が写った写真


──『それ』に向かって


彼女は今日も、挨拶をした



おわり

『いつの日も、どんな日も』変わらない挨拶
『もう帰っては来ない』失われた返事

タプリス誕生日おめでとう

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