【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」 (38)

「かな子を馬鹿にしすぎ」という批判を受けたので。
 ほんのりえっちい。百合。

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【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」

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緒方智絵里は、

千間通りの前にある遊郭の遊女であった。

幼い頃、食うに困った両親が彼女を売った。

智絵里は醜女ではなかったが痩せっぽっちで、

いつも自信がなさそうな顔をしている。

抱かれている時もその顔なので、客はとんと付かない。

金が稼げない遊女に遊郭は冷たく、

智絵里の食事はよくはじかれた。

なので、智絵里は痩せっぽっちのままだった。

ある時、ふくよかで健康的な

武士が智絵里を買った。

女色は武士の文化であるから、別に誰も咎めない。

名前は三村かな子。

金がなかったから、一番安い女を買ったのだという。

三村は智絵里に優しかった。

着物を乱暴に剥ぎ取ったりせず、

しゅるしゅると脱がしてくれた。

はじめに三村は、浮き出た肋骨に接吻をした。

智絵里は、ひゃっとくすぐったい声をあげた。

こんなことをされたのは初めてだった。

肌を合わせると、

三村の肉はむっちりとしていて気持ちがよかった。

ゆったりとした営みであったから、

智絵里はそれを十分に堪能した。

しあわせ。

智絵里はこの日、女としても、

人としても、初めて悦びを覚えた。

行為が終わると、

三村は小倉饅頭を智絵里に勧めた。

別段高価なものではなかったが、それは美味かった。

口に含むとふっと酒のよい香りがして、

餡子の甘みが舌に沁みる。

甘味は長引かないですっと引くから、

口の塩梅も悪くならない。

また1つ、もう1つと食べ続けられる味。

智絵里は、5個の饅頭を平らげた。

こんなに美味しいものを、

心ゆくまで食べたのも、

この日が初めてのことだった。

三村は智絵里を温かい目で見守っていた。

それから智絵里は、三村に指名され続けた。

そして毎度毎度と菓子を貰っていたから、

智絵里に少しずつ肉がついた。

また、幸福な表情を浮かべる女は

三村以外の人間も惹きつけた。

次第に智絵里を選ぶ客が増えていった。

無論智絵里の値段も上がっていき、

三村の財布に見合う女ではなくなった。

だが、智絵里は以前と同じ金で三村と会った。

周囲も三村の優しさを知っているから、

2人の関係を邪魔しなかった。

三村が遊郭の前の千間通りに現れると、

「三村様がやってきたぞ」と

智絵里に教えてくれた。

給金の増えた智絵里は、

今度は自分が菓子を買って

三村を待つようになった。

春は桜餅。

夏は水羊羹。

秋は栗きんとん。

冬は雪うさぎ。

どれも上等で、三村は喜んでくれた。

本当に、美味しそうに菓子を食べてくれた。

けれど、三村がいっとう気に入っていたのは、

あの小倉饅頭だった。

「貧乏武士だから、舌も貧乏なの」

三村はそう笑った。

その笑顔も、智絵里は大好きだった。

肌も合わせず一緒に菓子を食べたり、

話したりしているだけでも、智絵里は幸福だった。

幸福すぎて、なんだか申し訳ない気分さえした。

だがある時、三村が難しい顔をしてやってきた。

この時、町では攘夷を訴える浪士と、

それを抑えつける藩が対立していた。

三村は藩側の人間であった。

だから斬り合いに巻き込まれ、命を落とすかもしれない。

三村はぽつりと、そう言った。

引き止めたかった。

しかし藩命であるし、

刀の勝負は武士の誉である。

智絵里は何も言えなかった。


三村は智絵里に、四葉の飾りがついた簪を贈った。

智絵里の幸福を願っていると。

自分ではない、誰かのそばでも幸福でいてほしいと。

この日久しぶりに、三村は智絵里を抱いてくれた。

智絵里は、まず三村の脇腹に接吻した。

三村はくすぐったい声を出した。

それから2人は、以前よりもゆっくりと、

まるでお互いが溶け合うように交わった。

この時間が永遠に続けばいいと、智絵里は思った。

疲れた智絵里が眠ってしまって、

彼女が目を覚ました頃には、

三村はいなくなっていた。

布団に、2人の甘い汗の香りが残っていて、

智絵里はそれを胸いっぱいに吸い込んだ。

すると、涙が溢れてきた。

それから三村は遊郭にも、千間通りにも現れなくなった。

こんこんこんと、町に雪が降り積もる。

その銀景色を、浪士と藩士の血が彩る。

町では、毎日おびただしい量の死者が出た。

智絵里の見知り合いの遊女も、

斬り合いに巻き込まれて命を落とした。

どうか、どうか三村様。

智絵里は簪を弱々しく握りしめて、三村の無事を願った。

ある夜、智絵里は庭の燈籠をぼんやり眺めていた。

ちろりちろりと、日が頼りなく揺れている。

それは智絵里の心だった。

三村が、三村がいなければ、智絵里はいつまでも、

痩せっぽっちで自信のない女のまま。

菓子の味、笑い方、

女として、人間としての悦び。

幸福の在り処。

それらを教えてくれたのは、三村だった。

三村がいなければ、智絵里の世界はまっくらで、

彼女はいつまでも、ひどく心細く蹲っているだけだった。

ふっと、灯篭の火が消える。

智絵里はぞおっとして、戸を閉めた。

早朝。

一匹の雀がちよちよと鳴いている。

智絵里は、仲間の遊女に起こされた。

「……三村様がいらっしゃった」

三村様が、と智絵里は立ち上がった。

箱いっぱいの小倉饅頭がこぼれるのも構わず、

智絵里は入り口まで駆けた。


果たして、三村はいた。

ひどい刀傷をおって、倒れていた。

「三村様!」

智絵里が近づくと、

三村がゆっくり顔を上げた。

「智絵里ちゃん…」

智絵里は、三村を抱きかかえた。

夥しい量の血が、粘った音を立てた。

「お腹、空いちゃった…」

三村は力なく笑った。

腹から、腸が飛び出していた。

智絵里は三村の口に、小倉饅頭をひとつ含ませた。

「おいしいね。…本当に、おいしい…」

三村の口から、饅頭がこぼれた。

智絵里は新しい饅頭を、三村の口に運んだ。

だが、三村はもう動かなくなっていた。

「三村様…まだ、饅頭がいっぱい残っております…
 
 だから、だから…食べてくださいまし」

冷たくなった武士の口に

饅頭を押し当てる女を見て、

遊郭の人間らも、静かに涙を流した。

おしまい。

官能表現の手習い。

全年齢のレベルで。

参考にするので、コメント下さい。

読み切りだから別次元なのか
そろそろ本編の方の続きも読みたい……

>>35

まだ2日くらいしか経ってないYO!

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