海未「二つの光に導かれて」 (290)

ピピピピ!

海未「ん……」

海未「…あ、朝ですか……」

海未「…支度をしないといけませんね」

ガチャッ

スタスタスタ

「おはようございます」

海未「おはようございます、お母さま」

「お母さま?」

海未「…あっすいません…寝ぼけてたみたいで…」

海未「そうですよね、ここは…」


海未「私の家じゃないんですもんね」




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「………」

海未「朝ごはんはもう出来てますか?」

「え、ええ出来てるわよ」

海未「そうですか、分かりました、では食べてからすぐに行きますね」

海未「それでは」

「え、ええ…」

「…」

おばさん「あの子も可哀想よね」

「…え?あ、そ、そうですね……」

おばさん「親が事故にあって一生独り…あの歳でそんなことあったらああなるわよ」

「あの子…いつも学校から帰ったら何してるんですか?」

おばさん「ずっと自室で勉強したり本読んだりしてますよ、他の子…ましてや同級生でさえ関りがないくらいで…」

「そ、そうなんですか…」

「今日で何日目でしたっけ」

「…あの子がここにきて」

おばさん「三日くらいじゃないかしら、無口でやるべきことはしっかりやってただ規則正しい生活を送ってるだけって感じ」

「…そうですか」

おばさん「生きてて楽しくないでしょうね」

「…それは分かりません」

「そういえばあの子の名前って…」

おばさん「あの子の名前は…」



海未「……はぁ」

海未(私の名前は園田海未、高校二年生にして既に私の人生は佳境を迎えようしている)

海未「……開けたくないです」

海未(私は親を亡くした、交通事故で私以外の家族は全員死んだ)

海未(友達なんていませんでした、ただお母さまとお父さまの愛だけをもらって生きてきました)

海未(…そしてここは児童保護施設、親が死んでからはここで暮らしています)

海未「すう…はあ…」

ガチャッ

海未「お、おはようございます…」

海未(私の声だけが虚しく響く、返事なんて返ってこなかった)

海未(ここには私以外の人だってたくさんいる、そんな人達とここで一緒にをすること、私はとてもじゃないけど普通にしてはいられません)

海未(…私と同じ境遇にあってる故に相手も私と同じ考えなのでしょう)

海未(この時間が、人といる時間が嫌いなのでしょう)

海未「………」パクパク

海未(そんな嫌々な日々を続けて三日、日々の願いが届いたのか、私の人生の転機はすぐにやってきた)

おばさん「海未さん、ちょっといいですか?」

海未「あ、はい分かりました」ガタッ

おばさん「海未さんとお話したい人が来てて、応接室にいるからいってらっしゃい」

海未「分かりました」

海未(私と話をしたい人…?誰でしょう…)

スタスタスタ

トントン ガチャッ

海未「失礼します」

「待ってたわ」

海未「…あの」

「まぁとりあえずそちらのほうに座ってください」

海未「は、はい…」ストンッ

海未「そ、それでどんなご用件で…?」

海未(そこいたのはさっき私がお母さまと間違えた人、ここにはよく顔を出しているので面識がないわけじゃない)

「ちょっと遺産のお話をと思って」

海未「遺産…?」

「はい、これ」

海未「これは……」


「遺書、だそうよ」

海未「………」ペラペラ

海未「……!!」

「そこに書いてある通り遺産の方は全て海未さんが相続する、と書いてあるので遺産の全ては海未さんに渡ります」

「そしてごめんなさい、私は海未さんに説明するために先に事情を聞いちゃってて…」

海未「い、いえ大丈夫です」

「まぁとりあえず海未さんの家庭は相当裕福な家庭だったそうで額の方も相当な桁があると思います、少なくとも当分は働かずに暮らしていけるくらいの額はあるでしょう

海未「…そうでしたか」

「しかしそのまま現金を渡す、というわけにはいかなくてね」

「とりあえず詳しい話はまた…という感じになるのだけどこれだけは聞きたいと思って」

海未「?」


「遺産の使い道でご希望はありますか?例えば将来のために使うとか自分のためでも人のためでも結構です」


海未「………」

海未(もしもお金で命が買えたなら私はきっと死んだ親の命を買っていたと思います、例え全額失おうとも私の気持ちは揺るがないでしょう)

海未「…なんでもいいんですか?」

「買えるものだというのならば」

海未「………」

海未(欲しいものと聞いて私の心は一つしか欲していませんでした、これからを生きていく…というのならば私に絶対に必要なもの)

海未「買える…かはわかりませんが」


海未「家族が欲しいです」


「…!」

海未「私を引き取ってくれる家族に遺産の全てをお渡しします」

「しょ、正気ですか?!」

海未「偽りでもいいから欲しいんです…!独りじゃないって思える場所が…隣にいてくれる人が欲しいんです…!」

「……」

海未「お願いします…私は家族が欲しいです…」

「…とりあえず分かりました、続きは引き取り手が見つかった時、或いは探しても見つからなかった時にしましょう」

海未「…ありがとうございます」

「少しここの人ともお話があるので私はもう少しここにいますので、お先にどうぞ」

海未「分かりました、よろしくお願いします」ペコリ

「…もう一回聞くけど本気なの?」

海未「本気です、お金なんて元々私にはいりませんから」

「…そうですか、分かりました」

海未「では」

ガチャッ

海未「……はぁ」

海未(偽りでもいいから欲しかった)

海未(愛が、私の心に空いた穴を埋めてくれる愛情が欲しかった)

海未(学校もつまらなかった、私は何のために生きているんだろうと親が死んでからの三日という短い時間で何回も思った)

海未(何回も思いながら出ない答え、考えては出ない答えが私の頭の中をクルクルとループしてる)

海未「…行ってきます」

海未(そして淡い愛情を欲して今日も絶望を歩く)

ザーザーザー

海未「………」

海未(雨が降ってたから傘を差した)

海未(傘はこんなに広いのにどうして傘の下には私だけしかいないんだろう、分かっていながらも疑問に思う)

ポロポロ

海未(傘をさしてるのに私の傘の下では小雨が降り出した)

海未「私も…私も…!」

海未(私も死にたかった、私一人だけ残していなくなるなんてなんて無責任な親だ、愛をくれた親に八つ当たりする)

海未(私もみんなと一緒に逝きたかった、でも私に死ぬ勇気なんてない)

海未(この冷めた身体を誰か温めてくれないかな、そんな願いも思うだけで虚しく散った)

海未(知っていますか?夢は叶わないから夢なんです)


海未(誰がなんと願おうと夢は叶わない、叶わない存在だから夢なんです)


海未「朝…なのでしょうか……?」

海未(朝なのにとても空が暗かった、街灯の明かりがつくほどで少しの光でも眩しく感じるほどだった)

キラキラキラ

海未(だから私のネガティブな考えとは違うものをすぐに感じたんです、前が眩しくなるほどの光を)

海未(前が眩んでどこにいるのか分からないほどの光を)


海未(希望への光を)


キラキラキラ…



ピピピピ!

海未「…朝ですか」

海未(朝が来た、支度をして今日もイヤな空気が漂う食堂へ向かう)

海未(でも今日はどこかが違った)

ガチャッ

「海未さん」

海未「!」

「おはようございます」

海未「お、おはようございます…」

海未(私に声をかけたのは昨日遺産のことをお話してくれた人、これは昨日知ったことだけどこの人は私の通ってる学校の理事長らしい)

海未(…まぁ特に関係ないですけど)

「今日は海未さんにお話があります、食堂に行く前に少しお話をしましょう」

海未「は、はい…?」

「海未さんのお部屋、お邪魔してもいいですか?」

海未「え、ええどうぞ…」

「じゃあお邪魔します」

海未「…」

海未「あの話って…」

「…家族が欲しいって言ってたわよね」

海未「…はい」

「もう一度聞くけど形になるけどどうして家族が欲しいの?」

海未「…寂しいからです」

海未「独りは…イヤなんです…」

海未「ウソでもいいから…私の遺産目当てでもいいから…愛してもらいたいんです」

「…そう」

海未「…どうしてその話を?」

「海未さんの話を聞いてあの後どうしようかと思ったの」

「今言ってもらった通り海未さんが偽りでもいいから愛してもらいたいって言ってたけど私からしたらまったくよくないのよ」

海未「…」

「だからね」


「私が海未さんのお願いを解決することにしたの」


海未「…?」

「私が海未さんの通ってる高校の理事長ってことは知ってる?」

海未「ええ」

「実は私の友達の娘さんもその学校に通っててね、だから頼んでみたの」

海未「頼んだ?」

「海未さんを引き取ってくれないかって」

海未「!?」

「そしたらね、みんな口を揃えてこう言ったわよ」


「もちろん!ってね」


海未「………」

「全部で四組あるの」

海未「四組?」

「海未さんにも選択肢があるということよ」

海未「…意味が分からないのですが」

「海未さんを引き取ってくれる家族が四組、いるということよ」

「みんな娘さん持ちでね、もちろん海未さんの行ってる学校に通ってるわ」


「それに四組とも姉妹なのよ?」


海未「そうなんですか…」

「はい、これ」

海未「これは…?」

「四組、それぞれのお家の地図よ」

「行きたいところから行きなさい、みんないつでも待ってるって言ってたから」

「一日そこで過ごしたら別の家に行ってきなさい、それで一番いいと思ったところに住みなさい」

「親御さんはみんな私の友達で悪い人じゃないから安心して行ってきなさい、大丈夫だから」

「それに、みんな遺産のことは知らないから愛してもらったならそれは本当の愛よ?」

ポロポロ…

海未(嬉しすぎて涙が出てきた)

海未「ありがとう…ありがとうございます…!」


海未「行ってきます!」


海未(朝ごはんを食べて支度をして勢いよく外へ飛び出した)

海未(雨上がり、虹がかかった空はまるで私の心情を表してるかのようだった)

海未(今日は淡い愛情を欲さず、確かにある本物の愛情を求めて走ってた)


海未(希望の光を感じながら…)


~その後、夕方

海未「…えっと」

海未「この辺でしょうか…」

海未(丁寧に描かれてる地図を見ながら目的地を探した)

海未「和菓子屋…どこでしょう…」

スタスタスタ

海未「!」

ピタッ

海未「穂むら…ここでしょうか…?」

海未「………」

ドクンッ

海未(なんだかすごく緊張してた、ここから先に私の求めるものがあるかもしれないのだから)

スタ…スタ…スタ…

海未(ゆっくりと足を動かしそーっと扉に手を当てた)

海未「すー…はー…」

海未「……よしっ」

ガララ

「いらっしゃいませー!」

海未「え、あ…え、えっと…」

「ん?どうしたの?」

海未「え、えっとわた…そのっ…私はそ、園田うみゅ…う、うみっうみ…」

「あー!!!もしかして海未ちゃん?!」

海未「え、は、はい!」

「おーい!凛ちゃーん!!海未ちゃんが来たよー!!!!」

「ほんとー?!ちょっと待っててー!」

海未「あ、え…えっと…」

「えへへごめん、ちょっと待っててね」

海未「は、はい!」

海未(ドアの先は新天地でした)

海未(目が合った瞬間とびっきりの眩しい笑顔で迎えてくれた)

海未(私はそれだけで全身が火照るほどの温かみを感じた)

「あ、ごめん自己紹介がまだだったね」


穂乃果「私は高坂穂乃果!話は色々聞いてるよ!よろしくね!」


海未「あ、えっと…」

「はーい!お待たせー!」

穂乃果「お、ちょうどきたね!」


穂乃果「この子が私の一つ下の妹!凛ちゃんだよっ!」


凛「よろしくね!」ニコッ

海未「え、えっとそ…園田海未と申します!よろしくお願いします!」ペコリ!

穂乃果「ぶーっ!」

海未「…え?」

穂乃果「園田海未じゃなくて高坂海未!」


穂乃果「海未ちゃんは“家族”でしょ?」


海未「…!」ウルッ

海未「はいっ!」

海未(私が求めていたものはこれだった)

海未(私の心を満たしてくれる存在がそこにはあった)

穂乃果「じゃあ早速だけど色々案内するね!」

凛「凛もいくいく!」

ギュッ ギュッ

海未「!」ドキッ

海未(強引に触れられた二つの手は顔が焼けてしまうほどに熱かった)

ドタドタドタ

穂乃果「私と凛ちゃんと海未ちゃんのお部屋を紹介するね!」

海未「は、はい!」

ガチャッ

穂乃果「じゃじゃーん!!」

穂乃果「ここが私たちのお部屋でーす!」

海未「…ぅえっと」

凛「ほらー散らかってるからドン引きしてるじゃーん!」

穂乃果「えぇ?!ここは凛ちゃんの部屋でもあるんだからお姉ちゃんである私にだけ押し付けはないよー!」

凛「お姉ちゃん関係ないような…」

穂乃果「えへへとりあえず散らかっててごめんね」

凛「ごめんね?」

海未「い、いえ…」

穂乃果「まぁとりあえず入って入って!」グイグイッ

海未「わわわっ」

海未(脱いだ服が散らかっててテーブルの上も置きたいものを置いてるようでした)

海未(二段ベットには一階にも二階にもゲーム機が散乱してて漫画は読んだきりで巻数はバラバラ、脱いだ服とついでにハンガーなんかも地面に転がってました)

海未(そこから読み取れる印象としてはすごく元気だけどだらしがない人たちだなと思いました)

穂乃果「ほらほら凛ちゃん片付けるよ!」

凛「ラジャー!」ビシッ

穂乃果「ほっほっほっほっ!」

海未「あの」

穂乃果「ん?なーに?」

海未「わ、私も手伝いましょうか?」

穂乃果「ううん!大丈夫だから適当に座ってて!」

海未「そ、そうですか…」

凛「出来たよ!」

穂乃果「よーし!これでおっけーだね!」

海未「………」

海未(真ん中に転がってたものをただ端に移しただけ、それだけでこの姉妹がどんな感じなのかが分かります)

海未「…ふふふっ」クスッ

穂乃果「?」

海未「やっぱり私も手伝います」

海未(ただそんな似たような二人を見てたらなんだか楽しくなってきてしまいました)

凛「え?もうおわ」

海未「終わってませんよ、ちゃんと片付けないと今後不便になってしまいます」

穂乃果「…う、うん?」


海未「この本はちゃんと巻数を並べましょう」

海未「その服は洗濯物に入れましょう」

海未「テーブルの上に綺麗にしましょう、それはそこにおいてください」


凛「う、うん!」

海未(緊張がほぐれたのか口と体が勝手に動いてた)


海未(まるでこの二人をお世話するかのように…)


~その後

穂乃果「終わった~…」グッタリ

凛「ふぁー…」

海未「お疲れ様でした」

穂乃果「も~しっかり者すぎだよ海未ちゃんは~」

海未「す、すいません…なんだかこういうのを見ると片付けたくなるもので…」

凛「ううん大丈夫だよっ」

穂乃果「そうそう!私たちあまりしっかりしてないから海未ちゃんみたいな人がいてくれた方が安心だよね!」

凛「うん!」

海未「そ、そうですか…ありがとうございます…」テレッ

海未「あ、親御さんに挨拶を…」

穂乃果「あぁそういうのはご飯の時やればいいよ!今は今!なんかしようよ!」

凛「うんうん!」

海未「分かりました…ですが何を…?」

穂乃果「うーん…」

凛「じゃあゲームでもする?」

穂乃果「お、いいね!」

海未「げ、ゲームですか?」

穂乃果「うん!ほらっ!コントローラーも丁度三つあるから三人で出来るよ!」

海未「しかし私ゲームはやったことなくて…」

凛「大丈夫大丈夫!凛たちが教えるから!」

海未「じゃ、じゃあお願いします」

穂乃果「はい、コントローラーだよ」

海未「ありがとうございます」

海未「えっと…」

穂乃果「こう持つんだよ?」

海未「あ、ありがとうございます」

海未(手に持つコントローラーと同じものが三つあるだけで今私は独りじゃないって感じれた、横を見れば起動の準備をする二人の姿があって毎日毎時毎秒心の中で自問自答をしてた私ではもうないんだ、そう強く感じれた)


海未「えぇ?!そ、そんな反則ですよ!」ピコピコ

穂乃果「海未ちゃん、これは戦いなんだよ!手段なんて選んでられないんだよ!」カチャカチャ

凛「食らえ食らえ!」カチャカチャ!

海未「え、あ、ちょっまっ…」

海未「あーもう!酷いです!私はまだ初心者なんですよ?!」

穂乃果「えへへ!」

海未「えへへじゃないですよ!」

凛「じゃあ次はチーム戦にしよ!コンピューターいれれば三人チームで戦えるよ!」

海未「チーム戦があるなら最初からそうしてくださいよ!」

穂乃果「えへへごめんね」テヘッ

海未「はぁ…」

海未(二人はすごく明るくフレンドリーで笑顔を絶やさない言うなればそう…)


海未(私にとって太陽のような存在でした)


海未(そういうのもあってすごく馴染みやすくてホントに家族が出来たかのような感覚をすぐ覚えていました)

海未(弱虫で控えめな私の手を強引にでも引っ張って見えない先へ連れてってくれる、この人たちといればきっとこれからどんなに楽しく過ごせるんだろう、想像もできないくらいにこの二人は眩しかった)

海未「そういえば…」

穂乃果「ん?」

海未「今日の宿題をやっていません、そろそろやらなければ…」

穂乃果「え”っ…」

凛「え…」

海未「…?宿題やらないんですか?」

穂乃果「いやー…えっとぉ…あはは…」

海未「まさか…」ジトッ

凛「あーえっとゲームの続きを」

海未「先に宿題です!」

ほのりん「うぇー?!」

~30分後

海未「ここは―――――…」

穂乃果「あーもう分かんない!」

海未「だからそれを教えてるんですよ!」

海未「凛さんもここをこうやればほら、簡単に答えが出てくるじゃないですか」

凛「おー!なるほど!」

凛「じゃあここはこうやればいいのかな?」カキカキ

海未「そうです、やればできるじゃないですか」ナデナデ

凛「んにゃ~!」スリスリ

穂乃果「むぅ…海未ちゃんここはー?」

海未「ここはこうやって…こうするとはい、答えが出てきました」

穂乃果「え?これだけでいいの?」

海未「はい、これだけでいいんです」

穂乃果「なんだ簡単じゃん!」カキカキ

海未「仕組みさえわかれば簡単なんですよ、この調子で頑張ってください」

穂乃果「うん!ありがと海未ちゃん!」ギューッ

海未「わぁ…まったく…」

「穂乃果ー!凛ー!ご飯よー!」

穂乃果「あ、はーい!!」

海未「あ、えっと…」

凛「いこっ!」

穂乃果「大丈夫!私たちのお母さんとお父さんは優しいから!お母さんはケチだけど…」

凛「お小遣い全然くれないもんねー…」

海未「………」

海未(この家に来て数時間は経ってるけど未だに親の方に挨拶はしてないし不真面目な人って思われないのでしょうか…そんな思いもあって親の方に会うのがすごく不安だった)

海未(自分で言うのも難ですけど私は小さい時から清く正しい生活してきたつもりだ、だからイヤな目で見られることに慣れてない)

海未(この二人が家族として認めてくれても結局私は居候だ)

海未(優しいとはいってもどんなこと思われてるかなんて知れたことじゃない)

海未(だから…不安で胸が張り裂けそうだった)

ギュッ

海未「!」

穂乃果「色々思うことあるかもだけど大丈夫、ホントに優しいから」

凛「困ったら凛たちに言ってくれればなんでもするよ!」

海未「…はい!いきましょう!」

穂乃果「うん!」

凛「いっくにゃー!」

海未「にゃー…?」

凛「えへへ…子供の時からのくせで…」

海未「可愛いですね」クスッ

凛「べ、別に凛は可愛くない!」

凛「ほらいこっ!」グイッ

海未「わ、わぁ!」

ドタドタドタ

穂乃果「お待たせ!」

凛「やっほー!」

高坂ママ「待ってたわ、今日は一人多いからはりきってご飯作ってきちゃった」

穂乃果「!」

穂乃果「なんで知ってるの?!」

高坂ママ「そりゃ知ってるわよ、家族が一人増えた喜びで店番をほったらかししてたからね~」ニコニコ

穂乃果「あ、えっと…その…すいませんでしたぁ!」

高坂ママ「…まぁいいわよ、今日は特別だし」

穂乃果「やったぁ!」

高坂ママ「反省してる…?」

穂乃果「してる!」

海未「………」

高坂「ウチのバカ二人がごめんなさいね?」

海未「い、いえ!」

穂乃果「あ、お母さんひどーい!!」

凛「そうだそうだ!」

高坂ママ「酷いって思うなら勉強頑張りなさい、まったく…」

穂乃果「うっ…それはちょっと…」

凛「うぇ~…」

高坂ママ「とにかくもしここに住むっていうならいつでも来ていいからね、この二人も、そして私も…今キッチンの方にいるけどお父さんも待ってるから」

海未「…はい!」

穂乃果「ほら!早く座ろ座ろ!」

海未「は、はい!」

穂乃果「いただきます!」

凛「いただきまーす!」

海未「あ、い…いただきます!」

海未(これからの人生で家族で食卓を囲むなんてことがあるなんて思わなかった)

海未(“その人たち”は私を家族として認めてくれた)

海未(笑顔があって会話があって私がずっと夢見てた瞬間だった)

凛「それでそれでさ~」

高坂ママ「ふふふっそうなの?」

穂乃果「海未ちゃんってばすっごく頭が良くてね!勉強教えてもらったんだ!」

高坂ママ「あらまぁ…海未ちゃんがいたらそこの二人も安心ね~」

穂乃果「うんうん!もうこのまま高坂海未でいいよ!」

凛「そうだよ!」

高坂ママ「こらっダメよそういうこと言っちゃ」

高坂ママ「とりあえず行くところ全部行ってからゆっくり決めなさい」

穂乃果「うぅ~私は海未ちゃんといたいー!」

高坂ママ「我が儘はよしなさいみっともない!」

穂乃果「うぅ~…」

海未「………」

海未(そうです、明日のこの時間はもうここにはいない)

海未(明日のこの時間には二つ目の家にいるはずです、いずれ私は決めないといけません)


海未(それは四つの家の内一つしか選べないということです)


海未(いずれにせよ私は必ず一回はこれから会う人と“家族”として過ごすはずです)

海未(だからこそ、私は選べそうにないんです)

海未(私は弱虫だから…私は控えめだから…)


海未(誰かの愛情を切り捨てるなんてことは出来ないんです、ここでたっぷりの愛情をもらったとしてこの先同じくらいの愛情をもらったら私は…)

海未(私はどうすればいいのかわかりません…)

海未「……」ギュッ

海未(……その時の私では答えが見つからずただ力強く拳を握ることしかできませんでした)

高坂ママ「はいはい、今そういう話はやめにしましょう?」

高坂ママ「せっかくの時間なんだからもっと楽しく!」

高坂ママ「ね?海未ちゃん」

海未「は、はい!そうですね!」


高坂ママ「よーし!まだご飯残ってるんだからぱあーっとやりましょうぱあーっと!」


~その後、ほのうみりん部屋

海未「………」

凛「外なんか見てどうしたの?」

海未「あ、いえ…えっと…穂乃果さんがなんだか暗い顔をしてたので…」

凛「うん、そうだね…」

凛「…ちなみになんで暗い顔してたのか知ってる?」

海未「…?いえ…分かりません…」

モギューッ

海未「わっ…え、えっと凛さん…?」

凛「凛たち…家族なんでしょ?」

海未「は、はい」

凛「その“凛さん”って呼び方、凛好きじゃないんだけど」

凛「家族なのになんでさん付けなの?」

海未「そ、それは…」

凛「…まぁそれは置いといて海未ちゃんを家族として迎え入れるかって話になった時まず一番に賛成したのが穂乃果ちゃんだったんだよ」

海未「…!」

凛「家族が一人増えるってなった時すっごく喜んでてね」

凛「凛もね、お姉ちゃんがもう一人出来るって聞いてすっごく嬉しかった」

凛「また一段と賑やかになるし穂乃果ちゃんがいない時も海未ちゃんがいれば暇しないし」

凛「それに実際会ってみると海未ちゃんすごくしっかり者で勉強も出来てこれから一緒にいてくれれば凛と穂乃果ちゃんだって困らないなって思ってね、海未ちゃん頼り甲斐があるからさ」

海未「そう、なんですか…」

凛「だからさ…えっと…」

海未「…?」


凛「一度、全部の家を回ったら凛たちのところへ帰ってきてくれないかな…?」


海未「…え?」

凛「凛たちのことを選んでくれないかな…?」

凛「凛ね、お姉ちゃんが増えるって聞いた時嬉しかったっていったけど不安もあったよ」

凛「知らない人が家に来るんだもん、穂乃果ちゃんはすごく喜んでたけど凛はちょっと怖くてね」

海未「………」

凛「でもそんなの杞憂だった、海未ちゃんってば凛たちをいい方向に引っ張ってくれてそれに優しくてそれに一緒にいてすごく楽しかった、穂乃果ちゃんとはまた違った感じのお姉ちゃんでまだ海未ちゃんと会ってから一日も経ってないのにずっと一緒にいたいって思ったんだ」

凛「でも聞くところによれば海未ちゃんは明日、別の家にいくんでしょ?」

海未「…はい」

凛「だから不安なんだ…」



凛「これで海未ちゃんと会うのが、一緒に暮らせるのが最後だったらって思うと…」



海未「!!」

凛「…えへへずるいよね?これからいくつか別の家に行くっていうのにこんなこといって……」

海未「い、いえ…」

凛「穂乃果ちゃんもきっと同じ気持ちなんだ、凛たちにとって海未ちゃんっていう存在が眩しく感じたからさ…」

海未「………」

海未(衝撃の一言でした)

海未(私がそんな大きな存在だったなんて…)

海未(もしこの二人と一緒に過ごすことになったらきっと私たちはお互いを支え合う本当にバランスのいい家族になるのでしょう)

海未(互いが互いを眩しく感じ自身が必要なものは相手が持つからこそ相手求める依存的関係が生まれる)

海未(私の“四つの内のどれか”という迷いはもう一軒目にしてすでに決着がつきそうなくらいでした)

海未(…ですがそういうわけにもいきません)

海未「…ごめんなさい、まだ分かりません」

凛「そう…だよね」

海未「すいません…」

凛「謝らないで?悪いのは凛だから…」

海未「………」

ギューッ

海未(私は何も言わず凛さんを強く抱き返した)

凛「まだ…まだ分からなくていいからじゃあ凛、って呼び捨てで呼んでほしいな」エヘヘ

海未「…凛」

凛「ふふふ…なーに?」

海未「……すいません」

凛「謝るのはなし!」

海未「わ、分かりました」

ガチャッ!

穂乃果「おーい!お風呂入るよー!!」

海未「わぁ!」パッ

海未(今まで抱き合っていましたがすぐさま凛から離れました)

凛「おー!じゃあ入ろっ!」

海未「は、はぁ?一緒にですか?」

穂乃果「もちろん!ほらほら!」グイグイッ

海未「ちょ、ちょっと待ってください!一緒になんて」

穂乃果「いやだ!入るの!ほらいくよ!」

凛「ごーごー!」

海未「い、いやぁ…!破廉恥ですぅ…!」ズルズル



穂乃果「どう?痛くない?」ゴシゴシ

海未「は、はい大丈夫ですよ」

凛「ふぅ~…」チャプン

海未「…二人はいつも一緒にお風呂に入ってるのですか?」

穂乃果「うん!」

海未「それは…仲がいいのですね」

穂乃果「凛ちゃんと私の中なら当然だよね!」

凛「ねー!」

海未「そう…なんですか」

穂乃果「でもこれから海未ちゃんも仲間入りでしょ?」

海未「え、ええ…?」

穂乃果「もー知ってるよそのくらい!明日にはもういないってことくらい!だからノってよ!そこは!」

海未「す、すいません…」

穂乃果「謝るのは無し!家族なんだから」

海未「すいま…わ、わかりました」

穂乃果「…明日はどこいくの?」

海未「どこ、とは?」

穂乃果「お家だよ、どこのお家にいくのか」

海未「それは私にもよく…場所しか教えてもらってないので…」

穂乃果「そっかー」

穂乃果「もし他のところで満足できなかったら私たちの来てよね?!」


穂乃果「絶対に!」


凛「そうそう!来てよね!」

海未「は、はい」

穂乃果「よーし!ささっと上がってゲームしよ!凛ちゃん洗うの手伝って!」

凛「ほいさっさ!」


海未「ちょ、あ、あまり変なところは触らないでくださいー!!!」


~その後

穂乃果「海未ちゃーん、ゲームの準備出来たよー」

海未「分かりました」

海未「ところで…」

穂乃果「ん?」

海未「漫画がすごい数ですけどお二人はこういうの好きなんですか?」

穂乃果「そうだよ!」

凛「お小遣いで必死に集めたもんね!」

海未「硝子の花園…ずるいよMagnetic today…好きですが好きですか…」ペラペラ

海未(色んな本をすらーっと読んでみたけど私にはよく分からなかった、恋とかなんだとか)

穂乃果「海未ちゃんもそういうの好きなの?」

海未「いえ…まったく読まないものでよく分からなくて…」

穂乃果「じゃあさじゃあさこれ見てよ!」ポイッ

海未「おっと」キャッチ

海未「ん…?あねもとはーと…?」

海未「ふむ…」ペラペラ

海未「………」ペラペラ

穂乃果「…?そんな難しい顔してどうしたの?」

海未「いや…恋愛ものはよくわからなくて…」

穂乃果「うーんそっか」

穂乃果「あ、じゃあさ!これだけでも聞かせてよ!」

海未「?」

穂乃果「その物語ってね!二人の女の子が一人の男の子を取り合う物語なんだ!」

海未「はあ」

穂乃果「一人目はとっても可愛くてしすっごく優しい、趣味がお菓子作りとか手芸で女の子の憧れって思われるような子なんだけどね、愛が重いんだ、すごくモテるのにその男の子しか求めてないからね、一途なだけに振られた時のことは想像したくないよね…」

穂乃果「二人目はね清く正しい大和撫子のような子で頭もいいし運動も出来る、女の子だけどすっごくカッコよくて学校内でファンが出来るような子なんだけど弱気すぎて全然自分の想いを言うことが出来ないんだ、ずっと好きなのに…だから絶対に報われてほしいよね」

穂乃果「男の子から見て二人はどっちも幼馴染なんだけどどっちが結ばれるべきかな?」

凛「凛はやっぱりひなちゃん派だなー!」

穂乃果「えー?!なんでさ!絶対うみみちゃんだよ!」

海未「ひな?うみみ?」

穂乃果「あ、えっとその二人の名前だよ」

海未「なるほど」

穂乃果「海未ちゃんはどっち?」

凛「ひなちゃんだよね?!」

穂乃果「いやうみみちゃんでしょ!」

海未「えっと……」


海未「…どっちも…じゃダメなんですか?」


ほのりん「…え?」

海未「どっちも…結ばれるべきだと思います」

穂乃果「うーん確かにそうなんだけどー…あはは…」

凛「そうなればいいんだけどねー…えへへ…」

海未「…?」

海未(やはり恋愛というのはよくわかりません、ですがもし私ならきっと相手に譲っていたと思います)

海未(…もし好きな人がいたとしても私には自分の想いを伝えるなんてこと、できませんから)フフッ

穂乃果「ま、いっか!じゃあゲームやろ!」

海未「はい」

凛「よーし!やるぞー!」

ピッ



穂乃果「あー今日ももう終わりかー」

凛「凛の中だとまだ一時間も経ってないよー」

海未「…今日はありがとうございました」

穂乃果「もーそういうのはやめてよ!今は家族なんだから!」

海未「す、すいません…」

穂乃果「謝るのもなしってさっきいったじゃん!」

海未「ついクセで…」

穂乃果「どういうクセなのそれ…」

海未「…というか今日はもう寝るんですか?」

穂乃果「ううん、今日はまだまだ起きてるよー!」

海未「まだまだ…?」チラッ

『23:47』

海未「明日学校ですよ…?」

凛「海未ちゃんがいるんだからこんな早く寝ちゃもったいないよ!」

穂乃果「うんうん!」

海未「ですがもう寝ないと…」

凛「海未ちゃんは凛たちと居たくないの…?」ウルウル

海未「い、いえそういうわけじゃ…」オロオロ

凛「じゃあいいじゃん!今日は徹夜だー!」

穂乃果「おー!」

海未「え、え…おー…?」

~その後

凛「すぅ…すぅ…zzz」

穂乃果「凛ちゃん、寝ちゃったね」

海未「…そうですね」

穂乃果「じゃあ私たちも寝よっか」

『3:45』

海未「こんな遅くまで…」

穂乃果「えへへこんなに白熱したのは久しぶりだったよ」

海未『あーもう!それどうやるんですか?!』

穂乃果『こうこう!』

海未『どうですか!ちゃんと説明してください!』

穂乃果「教えてほしかったら私に勝ってみなよ!』

海未『むぅ…言いましたね?』

海未『凛!ちょっと倒すの手伝ってください!』

凛『了解!』

穂乃果『えぇ?!二体一?!というか凛って何?!いつの間にそんな仲に?!』

凛『へっへーん!穂乃果ちゃんがいない時に色々してたんですよーっと!』カチャカチャ!

穂乃果『ずるーい!さっきの教えてあげるから私も呼び捨てで呼んでよ!』

凛『えぇ?!』

穂乃果『早く!早く!』

海未『あ、えっと…』


穂乃果『はやくぅ~!』


穂乃果「あはは…ごめんね?色々迷惑かけちゃって」

海未「いえ…大丈夫ですよ」

海未「ちなみに私はどこで寝れば…?」

穂乃果「…あ、考えてなかった」

海未「え?」

穂乃果「…一緒に寝よっか?」

海未「はい?」

穂乃果「用意してなかったから海未ちゃんの寝る場所がないの!だから一緒に寝よ?」

海未「だ、大丈夫なのですか?」

穂乃果「何が?」

海未「私となんか寝て…」

穂乃果「全然いいよ!ほらほら早く布団入って入って!」フリフリ

海未「は、はい」スッ

穂乃果「…寂しいな、明日になれば海未ちゃんは…この家にいないんだもんね」

海未「すいません…」

穂乃果「謝らないでっていったじゃん」

海未「………」

穂乃果「…ねぇお話しようよ」

海未「…何の話ですか?」

穂乃果「海未ちゃんが来るって聞いた時の私たちのお話」

海未「……分かりました」

ギュッ

海未「!」

海未(布団の中で優しく手を握られた)

海未(だから私も優しく握り返した)

穂乃果「えへへ、ありがとう」

海未「いえ…」

穂乃果「始まりはね、私たちの通う学校の理事長先生が来た時なの」

海未「ええ…ある程度は聞いていました」

穂乃果「そっか」

穂乃果「海未ちゃんが来るってなった時はすっごく嬉しかった、絶対に楽しくなるって…絶対がつくほどの確信があった」

穂乃果「…どうしてだと思う?」

海未「…分かりません」

穂乃果「少しは考えてよ、もう」

海未「すいま…あっ…」

穂乃果「ふふふっ」クスッ

穂乃果「理事長先生が海未ちゃんはすごく優しくて勉強や運動が出来る子だってすごい高い評価をしててね、色々教えてもらおうって思ったんだ」

海未「あの人が…そんなに…?」

穂乃果「うん!」

穂乃果「それで実際会って思ったんだ、海未ちゃんは優しいし出来る人だって」

穂乃果「だって私たちに勉強を教えたり片付けをしてくれたりして私たちが出来ないことをやってくれるから…私たちを引っ張ってくれるから…」


穂乃果「こんなに頼り甲斐がある人離したく…ないよ」


ギュッ

海未「………」

海未(上を向いてたから顔は見てませんが穂乃果の声はすっごく震えてた)

海未(握られた手は一度ほどけ再び握られた、思いっきり強く握られその握られ具合が今の穂乃果の必死さなのかもしれない)

海未(そして穂乃果の手を繋いでない片方の手が私のお腹の辺りに乗りかかった)

穂乃果「行かないでよ…」

穂乃果「私たちの傍にいてよ…ずっと…」

海未「……」

海未(やはり姉妹というだけあって思考回路はそっくりでした)

海未(今日で“行かないで”の言葉を二回も言われた)

海未(二人曰く私は頼り甲斐のある人、というが私にとって二人は太陽のような存在です)


海未(もし私を引き取ってくれる家がここしかなかったらどんなに幸せなんだろう、私はそう思いました)


海未(だって考える必要がなかったのですから)

海未(今ここで“ずっと一緒ですよ”の言葉を穂乃果にかけてあげることが出来たのに)

海未(私は…決めなければならない)

海未(穂乃果や凛が私にくれた愛情もそうですけどそれと同じくらい私を引き取ってくれる善意を無に帰すようなことは出来ない)

海未(一度全部行って公平に決める、それが私にとって一番の方法なんです)

海未(だから…)

海未「…ごめんなさい、穂乃果」

海未「まだ…私にはわかりません」

穂乃果「…謝らないでよ」

海未「……ごめんなさい」

穂乃果「………」

穂乃果「海未ちゃんの意地悪…」

モギュッ

穂乃果「起きるまで私の抱き枕になるっていうなら許してあげる」

海未「だ、抱き枕?」

穂乃果「海未ちゃんはずっと私に抱かれてればいいの!」ギュギュッ

海未「うっ…苦しいですよ」

穂乃果「いいのっ!」

海未(吹っ切れたように穂乃果は私に抱き着いてきた)

海未(なんだかすごく温かくてすぐに眠くなった)


穂乃果「…待ってるから、海未ちゃん」


海未(微かに聞こえた穂乃果の声を最後に私の目は閉じられた)

~次の日、学校

穂乃果「えへへ海未ちゃんと私クラス一緒だね!」

海未「は、はい!」

凛「ねー!?凛はー?!?!」

穂乃果「これは先に産まれた特権だよ我が妹よ」フフッ

凛「何が特権だー!」シャー

海未「すいません…凛…」

凛「じゃあナデナデしてー!」

海未「ナデナデ…?分かりました」ナデナデ

凛「ふにゃ~…」

穂乃果「あぁーずるいずるい!私も!」

海未「…?そんなにいいのですかこれ…」ナデナデ

穂乃果「くぅ~ん…」

海未(次の日、私たちは穂乃果と凛に強引に連れられて超早く学校に辿りついた)

海未(朝起きてからというもの二人はとても騒がしく私にとっては“うるさい妹”が二人出来たような感覚でした)

海未(早く支度をするにも身だしなみが整ってないし準備を私よりも先終わられても忘れ物をしそうになるし改めて思うのは私がいないと全然出来てないような人たちです)



海未(…だからほっとけないんです、この人たちを)



穂乃果「はーあ、ちょっと早く来過ぎたね、やることないや」

海未「だからいったのでしょう、あんなに早起きしても何の得もないと」

穂乃果「えへへ…はりきりすぎちゃって…」

凛「いつもは寝坊してるんだよ?」

穂乃果「うん今日は頑張った!」

海未「そういう問題じゃない気が…」

穂乃果「宿題もやっちゃったしやることないな~あっはは」

海未「それでいいんです!」

穂乃果「うん!海未ちゃんのおかげだよ」

凛「ありがとう!」

海未「い、いえ」

凛「じゃあここで凛と海未ちゃんはお別れだね…」

海未「…はい」

凛「…じゃあ!」

海未「はい、また」

スタスタスタ

穂乃果「じゃあ私たちもいこっか」

海未「ええ」

海未(その後は隣に穂乃果がいること以外ごく普通の時間でした)

海未(お昼もあの二人と一緒に食べました、穂乃果と凛のお母さんが作ってくれたお弁当で盛り上がりそんな時間が終われば肌に触れる風が冷たく感じた)

海未(まるで今まで温かった心が急激に冷たくなって触れるもの全てが冷たく感じる感覚でした)

海未(…それは放課後になればお別れだから、ただ住むところが別になるだけなのに一生のお別れのように感じたから)


海未(あの二人の優しさに触れてしまっては他が冷たく感じるから…)




キーンコーンカーンコーン

海未「…あっ」

穂乃果「えへへ…一緒に帰ろって言いたいところだけどもう行っちゃうんでしょ?」

海未「…はい」

穂乃果「…あ、校門まで一緒に帰ろ?」

海未「はい!」

スタスタスタ

穂乃果「おーい!凛ちゃーん!」

凛「あ、穂乃果ちゃーん!海未ちゃーん!」

海未「校門まで一緒に帰りましょうか」

凛「うん!」

海未(刻々と終わりの時間は近づいていました)

海未(静かに声が木霊するような儚く力のない光が二つ、その儚さに感傷する弱くて小さい光が一つ)

海未「………」スタスタスタ

穂乃果「………」スタスタスタ

凛「………」スタスタスタ

凛「…あ、凛下駄箱あっちだから靴はいたら待っててね!」

穂乃果「はーい」

海未「分かりました」

海未「………」ウルッ

穂乃果「…もうそんな悲しくならないでいくよ!」グイッ

海未「わぁ!」

穂乃果「ほらほら早く!」

海未「待ってください!まだ靴をはいてません!」

穂乃果「いいからいいから!」グイグイッ

海未「わー!!」ズルズル

凛「ちょ、ちょっと待ってよー!」

穂乃果「よっと!」

海未「もう…靴下が汚れました」

穂乃果「気にしない気にしない!」

凛「あはは…ごめんね?」

海未「いえ…大丈夫ですよ」

穂乃果「じゃあ校門まできょうそ」

「あなたが園田海未さん?」

ほのうみりん「!!」

海未「あ、は、はい」

「ビンゴ!やっと会えたね」

海未「え、えっとあなたは?」

「私は…」


絵里「海未さんのお世話をする東條絵里、という者よ」


希「同じく東條希!よろしくね!」


海未「あ、え、えっと…?」

絵里「ん?あ、ごめんなさい言い方が悪かったわ、正確にはまだ一日だけよ」

絵里「一日だけお世話をするわ」

海未「は、はい!」

希「いやー休み時間会いに行こうかと思ったんだけど友達がいつもついてたから行きづらくてな」

希「帰り会えばいっかってことになったんやけど」

海未「分かりました」

海未「…すいません、穂乃果、凛」


海未「ここでお別れのようです」


穂乃果「…うん!」

海未「すいません、これお弁当の…」

ほのりん「謝らない」

海未「………すいません」

絵里「…じゃあいきましょっか?」

海未「はい」

希「ふふふーいっぱいお話聞かせてな?」

海未「は、はい!」

スタスタスタ

穂乃果「………」

凛「………」

海未(きっとあの二人の瞳には私の寂しい後ろ姿が見えてたのでしょう)

海未(実際、寂しいオーラをまとった視線を感じました)

海未(…あなたたちは最後の最後までずるい人達です)

海未(悪あがきですか…?仕方ありませんね…)


海未「穂乃果、凛」


ほのりん「!」


海未「…また今度」ニコッ


海未(もし“次”があるならまたゲームしましょうね)

海未(私の悪あがきです)

穂乃果「…うん!」

凛「また今度会おうね!!」

海未「はい!」

穂乃果「ばいばーい!!」

凛「絶対また今度だよー!!」

海未「はいっ!また今度っ!」

一度中断します
次の更新は遅かれ早かれ必ずします

スタスタスタ

希「友達?」

海未「…なんていったらいいんでしょう」

海未(微妙な一線でした、家族ではないけど友達というほど他人性もない)

海未(言葉が見つかりませんでした)

絵里「…あ、分かった」

絵里「昨日海未さんのお世話をしてたところの娘さんでしょ?」

海未「…!は、はい!」

絵里「ふっふ~ん!エリチカかしこ~い!」

希「いや賢くないやんな…」

海未「ふふふっ」クスッ

希「あの子たちと引き離したんじゃ悪いことしちゃったかな…」

海未「い、いえ大丈夫ですよ、校門を超えたらお別れの予定でしたので」

希「そっか、ならよかったよ」

絵里「改めてだけど私は東條絵里、で、こっちが東條希」

希「改めてよろしくね!」

海未「よろしくお願いします」ペコリ

希「うんうん礼儀が正しいなぁ」

絵里「私たちは今家族なんだからもっとアットホームな感じでいいのよ?」

海未「い、いえ…なんだかそういうのは慣れてなくて…」

希「まぁじきに慣れていけばいいよ」ナデナデ

海未「うっ…?」

希「ありゃ?ナデナデは嫌い?」

海未「いえ…こういうのされるのは初めてで…」

希「へぇ~…じゃあいっぱいしてあげようか?」ナデナデ

海未「い、いいです!やめてください!」

希「あぁ~んもう酷いな~」

海未「あ、す、すいません…」

絵里「真に受けなくていいのよ?」フフッ

絵里「むしろ喜んでる方だから」

海未「よ、喜ぶ?」

絵里「希はツンツンされるのが好きなのよ?」

希「や、やめてやそんな勘違いさせるのは!」

絵里「だって実際そうでしょ?」フフフッ

希「違う違う!成長を感じれる時が嬉しいんよ」

海未「成長を感じれる時?」

希「ウチに思ったことを言ってくれたんだからウチにとってこんなに嬉しいことはないやん?」

希「最終的にウチらは家族なんやし、家族らしくしていこうや!」

絵里「ええそうね」

海未「は、はい!」

海未「…そういえばお二人はどういう…?」

絵里「ん?どういう?」

希「どういう家柄なのかってことじゃない?」

海未「はい」

絵里「あー私と希は歳は同じだけど希が方が早産まれだから私が妹で希が姉になるの」

絵里「あ、こう見えても私たちあそこの学校の生徒会長と副生徒会長なのよ?」フフンッ

海未「へ、へぇー…すごい…」

絵里「お母さまとお父さまは今は遠くの方に住んでて私と希の二人暮らしなの」

海未「お、親がいないのですか?」

絵里「ええ、仕送りとバイトのお金だけでやりくりしてる状態なの」

海未「そ、そんな生活が苦しい状態でなぜ私を…」

希「ううん、別に苦しくなんかないよ?むしろかなり余裕があるくらいでね」

希「ウチ的に海未ちゃんが来るって聞いて可愛い可愛い妹が出来るって思ってすごい嬉しかったんよ?」

海未「そ、そうなんですか」

絵里「まぁそんな感じなんだけど家もマンションだからあまり豪勢なことは出来ないけどごめんなさいね?」

海未「いえ…全然問題ないです」

絵里「もし分からないこととかあったら何でもいってね?お姉さんたち頑張っちゃうから」フフッ

希「そっちのお姉さんは頼りないからウチを頼りなよ?」

絵里「ちょっとそれどういう意味よ!」

希「おっちょこちょいが効きすぎて頼りないやもーん、むしろ海未ちゃんの方が頼りになると思うよ?」

絵里「そ、そんなことないわよ!」

絵里「ね、海未もそう思うでしょ?!」

海未「え、あ、そ、そうですね…?」

希「海未ちゃんの縋るのはカッコ悪いで?」ニシシ

絵里「うわ~ん海未がいるんだからしっかりしてるところくらい出させてよ~!」

海未「ふふふ」クスクス

海未(この二人は前の二人とまったく違う、そうそれは正反対の位置にいてもおかしくない人達でした)

海未(絵里さんはからかわれてるがしっかりしてるところくらいは私にでも分かる、希さんは言うまでもなくしっかりしてそうなのでこの人たちは“頼りになって優しくてしっかりしたお姉さんたち”というのが正解かもしれません)

絵里「そ、そうよ!こう見えても私が生徒会長なのよ!!成績も希よりもダントツで上!!どう?!」

海未「ど、どう…?」

希「ほら海未ちゃん困惑してるやん、みっともないからやめなよ?」

絵里「うぅ…」

海未「だ、大丈夫ですよ!しっかりしてることは生徒会長って聞くだけでもわかりますし!」

絵里「そ、そうよね!ありがと海未ぃ…!」ギューッ

海未「わぁ…あはは…」

希「何気にウチもえりちも海未ちゃんとか海未って呼びたい感じで呼んじゃってるけど大丈夫かな?」

海未「は、はい大丈夫ですよ、希さんと絵里さんの好きな呼び方で結構です」

希「えーウチらはそのかしこまった言い方好きじゃないんやけどな~」ニッ

海未「で、ですがなんと呼べば…」

希「じゃあのんたん先輩って呼んでほしいな~」ニヤニヤ

海未「は、はあ?!」

絵里「私はエリーとか絵里お姉さんとかでいいわよ?」フフッ

海未「ちょっと待ってくださいよ!そ、そんな呼び方私は…」

希「いいやんいいやんほら早く!」

海未「いやです!」

希「もーつれないなー」

海未「当たり前です!」

絵里「じゃあ呼び捨てで呼べばいいじゃない、それなら海未でも大丈夫でしょ?」

海未「で、ですが目上の人にそのような態度は…」

希「礼儀正しいのもいいけど度がすぎるとただ堅苦しいだけやで?」

海未「そ、そうなんですか?」

希「当たり前やん、家族なのにそんなかしこまりすぎやん、家族なのに」

海未「で、ではのぞ……うぅ…」

希「ん?なになに?聞こえなかったな~」ニヤニヤ

海未「の、希!!」

希「はい、よくできました~」ナデナデ

海未「うむぅ…」

絵里「私も!私も呼び捨てで呼んで!」

海未「え、えっとえ、え…り…うっ…む、無理ですぅ!やっぱり呼び捨てでなんて!」

絵里「えぇ?!なんで私だけ?!」

希「そりゃあえりちがお姉ちゃんらしくないからやね」ニシシ

絵里「そ、それは希もでしょ!」

希「ウチは呼び捨てで呼んでもらったもーん」

絵里「うぅ…うみぃ…」ウルウル

海未「す、すいません…」

海未(その二人は優しすぎてとても怒るような姿が想像できませんでした)

海未(どんなにざらつきのある砂も触っていて気持ちいい砂に変わるほどの包容力と母性を感じお姉さん、いうよりかは“お母さん”に近い何かなのかな、と思ってしまうほどでした)

~その後、東條家

海未「おじゃまします」

希「のーのーのんのん」

海未「?」

希「おじゃましますじゃなくてただいま、やろ?」

希「ここは海未ちゃんのお家なんだから」

海未「…!は、はい!」

海未「ただいま帰りました」

絵里「ただいま帰りました…?いつもそんなこといってたの?」

海未「はい」

絵里「それはすごいわね…」

希「帰ったばっかだけど早速夕ご飯の準備しよっか、夜たーっぷり時間空けてたーっぷりあそぼ?」

絵里「ええ、そうしましょう」

海未「分かりました」

海未(その二人の家はマンションの一室で小物や装飾品が飾られていてところどころに生活術が合い間見えるような場所でした)

海未(必要なものが揃っていて何がどこにあるのかすごくわかりやすい部屋設計でした)

海未「……」キョロキョロ

絵里「そんなキョロキョロしてどうしたの?」

海未「あ、えっと…すごく片付いてるなって思って…」

希「当たり前やん、汚い部屋では過ごせないやん?」

海未「そ、そうですね」アハハ

海未(“前の二人”に聞かせてあげたいセリフだったなと少し苦笑いが出ました)

海未(でも、ホントに部屋は整ってて私の出る幕が無くて何か出来ることはないのかと探してた)

希「えりちー今日カレーにするから食材取ってー」

絵里「はーい、待ってなさい」

海未「あの…」

希「ん?どうしたん?」

海未「私に出来ることは…ないでしょうか?」

希「んーじゃあにんじんの皮とか剥けるかな?」

海未「は、はい!」

絵里「私がやることは」

希「ない」

絵里「え?」

希「海未ちゃんで充分やから」

絵里「えぇ?!酷いわよのぞみぃ!」

絵里「そ、そうよじゃがいもの皮むきがあるじゃない!」

希「それは後でウチが」

絵里「いいわ!私がやるから!」

希「ふふふっ…強引やなぁ」

海未「あはは…」

海未(二人と私では身長に結構な差があって左右囲まれる形になるとなんだかお父さまとお母さまが隣にいるような感じがした)

海未「こ、こんな感じでどうですか?」

希「うーんこの辺とかまだ皮が残ってるからこことかここ、もうちょっと剥いて剥いて」

海未「す、すいません…不器用なもので…」

希「ふふふっそんなこと言ったら向こうの人は超不器用やん」

海未「えっ…」チラッ

絵里「の、希!じゃがいもの皮剥くのってこんなに難しいの?!」

希「ふふっえりちにはまだ早いよー」クスクス

絵里「早いってじゃあいつになったら私は皮むきできるのよ!」

希「…ま、あの人があんな感じだから気にしなくていいよ」

海未「あ、ありがとうございます」

海未(希さんはすごく優しかった、絵里さんは距離感を感じさせないくらいに人が良かった)

海未(しっかり生活してきたつもりの私が足を引っ張るくらいにしっかりした家庭で定期的に触れられる二人の優しさが温かすぎてここならイヤなこと全てを忘れさせてくれそうだった)

海未「いただきます」

絵里「いただきます」

希「いただきまーす」

希「どう?」

海未「すごくおいしいです!」

希「そっか、ならよかったよ」

絵里「ご飯食べ終わったら何する?」

海未「私は宿題をしようかと…」

希「そうやね、宿題しよっか」

絵里「分かったわ」

海未「…そういえばお二人は生徒会長と副生徒会長なんですよね?」

絵里「そうよ」

海未「何のために生徒会に?」

絵里「それは…お母さまの母校がここだから」

海未「母校?」

絵里「ええ、お母さまが通ってたあの学校をもっとよくしたくて」

希「立候補したもんなー」

絵里「ええ」

海未「す、すごいですね…」

絵里「自分で言うのもなんだけど私たち、ちゃんと勉強してたから頭はいいのよ、だから生徒会長にもなれたし」

希「ウチも副生徒会長になれた」

絵里「今も少しでも過ごしやすいように色々生徒会でやってるのよ」

海未「さ、流石ですね…」

希「こんなポンコツさんでも意外にしっかりしてるよね~」ニコニコ

絵里「ポンコツは余計よ、私は常にしっかりしてるんだから!」フンスッ

海未(きっとこの人たちと暮らすことになればイヤなことを全て忘れさせてくれる安寧の場所がそこには出来上がるのでしょう)

海未(それは“前の二人”とは違う明るいとか元気みたいなモノはなく優しいとか綺麗みたいな家庭が出来るのだと思う)

海未「……」カキカキ

希「海未ちゃんそこ違うよ」

海未「え?」

希「ここはね、これが答えなんよ、海未ちゃんのやり方はちょっと違うんよ」

海未「そ、そうなんですか…教えてくれてありがとうございます」

希「ううん大丈夫だよ」

絵里「…さて私は終わったわ」

海未「早い…さっき始めたばっかなのに…」

絵里「このくらいなら簡単よ、そっちは大丈夫?」

希「んーウチはもうすぐ終わるから大丈夫だよ」

絵里「先に自分のを終わらせなさい、希の出る幕はないわ」


絵里「海未に勉強を教えるのは私の役目よ?」フフンッ


希「くぅ…なんか悔しい…」

絵里「ふっ…残念だったわね!」

希「う、ウチも早く終わらせないと!」カキカキ!

絵里「じゃあ今から私が見るわ、よろしくね」

海未「よろしくお願いします」

海未(二人はしっかりしすぎてた、この二人が横にいるだけでとてつもないほどの安心感があった)

海未(一応私も勉強は出来る方だと自負してましたけどそれでも足りないところをこの二人は補ってくれる、前回は私が支える側でしたけど今回は支えられる側でした)

海未「ふぅ…終わりました」

絵里「おめでとう、よく頑張ったわね!」ナデナデ

希「海未ちゃんにナデナデした感想は?」

絵里「ハラショー!最高よ!」

海未「はらしょー?」

希「えりちがむかーしロシアに一瞬だけ興味を持って覚えたロシア語だよ」

絵里「ちょ、ちょっと一瞬はいいすぎよ!」

希「一瞬やん、すーぐに飽きちゃったやん」

絵里「だ、だって意味わからないもの…」

希「ハラショーっていうのはな、日本でいう素晴らしい!みたいな意味なんやって」

絵里「あ、それ私が言うはずのセリフなんだけど!」

海未「なるほど…」

絵里「にしても海未はしっかりしてるのに勉強も出来るし字も綺麗だわ、おまけに礼儀も正しいし」

海未「いえ…お二人に比べれば全然…」

希「もー家族なんだからそういうのはいいんやけどなー…」アハハ

海未「すいません…」

絵里「まぁまぁいいじゃない、さてこれからどうする?」

希「やっぱりお風呂やね」

海未「で、ではお先にどうぞ」


希「ん?何いってるん?一緒に入るんやで?」


海未「…え?」


~お風呂

海未「………」ブクブク

絵里「ほらー海未こっちにきなさーい?」

希「洗ってあげるから」フリフリ

海未「はぁ…分かりました」

海未(どうしてこう…一緒にお風呂に入りたがる人が多いのでしょうか…)

海未(私にはよくわかりません…)

希「なんか三人でここのお風呂はせまいね」

海未「だからお先にどうぞっていったじゃないですかぁ…」

絵里「いいじゃない、あ、海未痛くない?」

海未「大丈夫ですよ」

希「…ふふふ」

絵里「何よ急に笑って気持ち悪い」

希「なんだか微笑ましくてね」

絵里「微笑ましい?」

希「だってそうやん、人の背中を洗うなんてウチらしないよ?でも海未ちゃんがいるだけで色々変わってきて」

希「なんだか微笑ましいなって」クスッ

絵里「そうね」フフッ

海未「…そうですか?」

希「そうやで!」

絵里「そうね!」

海未「…そうなんですか」ハァ

希「…お風呂から出たら何しよっか」ゴシゴシ

海未「なんでもいいですよ」

絵里「なんでもいいの?!」

海未「…変なことはイヤですよ」

絵里「まだ何も言ってないじゃない!」

希「えりちはそういう目で見られてるんよきっと」クスッ

絵里「えっそうなの海未ぃ?!」

海未「い、いえそういうわけじゃ…」

絵里「そ、そうよね!そんなはずないわよね!」

希「…ちなみに何されると思ったん?」ボソッ

海未「…分かりませんけどなんかイヤな予感がしたので……」ボソッ

希「ふふふっえりちも可哀想やね」クスッ

~その後

ガッシャーン!!

海未「きゃーっ?!?!のぞみぃー!早く来てくださいー!!!」ペチペチ

希「待って待って先行き過ぎやって」カチャカチャ

絵里「早く逃げなさい海未!そして早く行きなさい希!」

海未「む、難しくないですかこのゲーム?!」プワプワ…

希『じゃ、これやろっか、二人プレイだけど』

海未『なんですかそれ?』

絵里『出たわね、それ』

希『これをやれば海未ちゃんもビックリ!』


希『バイオハザードやで?』


海未『バイオハザード?』


プワプワ…

海未「う、うひぃ!虫が気持ち悪いですよー!!」

希「ちょ、ちょっと海未ちゃんどこいくん?!」

海未「あ、ちょっ…なんか捕まってしまいましたこれどうすればいいんですか?!!?!」カチャカチャ!

海未「…あ」

絵里「あっ…」

希「やられちゃったねー」アハハ

海未「す、すいません…下手なもので…」

希「全然いいよ、難しいもんねーこのゲーム」

絵里「大丈夫よ海未、私もこのゲーム全然出来ないから!」

希「それは威張ることじゃないような…」

希「…でもやっぱりみんなでやるゲームは楽しいなぁ」

海未「そうですね」

希「えりちは一緒にやってくれないからなぁ、怖がってね」

絵里「だ、だってそのゲーム怖いじゃない!」

希「怖いのがいいやん、面白くないなぁ」

絵里「そ、それだったらあの戦うゲームがいいわよ!」

希「スマブラ?」

絵里「そうそれよ!」

希「じゃあそれしよっか」

絵里「いいわよ?これなら私負けないわよ!」

海未「す、スマブラ…?」

希「どんなゲームかはやればわかるよ!」


希「よーし!今夜は長いでー!!!」




海未「ふう…ゲームで疲れるなんて…」

希「海未ちゃん、真面目にやりすぎやもん」クスクス

絵里「ええほんとにね…」


海未『なんですかその動きは!』

希『小ジャンプ空前やで?ボタンをハーフ入力しながらCスティックを前に傾けるだけやで』

海未『ふむ…なるほど…』

海未『……』

海未『食らってください!ほらほらっ!』

絵里『えっ?!ちょっと覚えたての技を私に向けないで!』

海未『逃げるなんて武士の恥ですよ!』

絵里『私は武士じゃないわよ!』

海未『絶対に勝ちます!!』カチャカチャカチャ!


希「ウチのしてることを必死に覚えようとしてるんだから疲れるよそりゃあ」

海未「す、すいません勝ちたくて…」

絵里「もう…その勝利の貪欲さで私が犠牲になったんだから」プクー

海未「すいません…」

『2:39』

希「もうこんな時間やね」

絵里「仕方ないわね、そろそろ寝ましょっか」

海未「はい」

希「ウチらはそれぞれえりちの部屋、ウチの部屋があってベットもそれぞれあるから一人で寝るんやけど」

海未「はい」


希「海未ちゃんの布団とかなくて…だからウチと一緒に寝るかえりちと一緒に寝るのどっちかになるけどどっちがいい?」


海未「…は?」

絵里「私よね!」

希「いやいやウチでしょ?」

絵里「私よね?!」

希「ウチでしょ?!」

海未「いやあの…えっと…」




海未「…苦しいです」

希「一つのベットで三人は苦しいからえりち出てって~」

絵里「なんでよ!希が出ていきなさい!」

ギュギュギュッ

絵里「ちょ、ちょっと希押さないでよ落ちちゃうでしょ」

希「仕方ないやん狭いんやから」

海未「こ、こんなんで寝れるんでしょうか…」

絵里「そこは気合で寝るのよ!」

希「なんやねん気合って…」

海未(一日にすることをした後に少し遊んだだけで終わりの時間はすぐに来てしまいました)

海未(二人がくれる愛情は優しすぎた、何の冷たさも痛さも感じない快感のような“やさしさ”だった)

海未(…そう、ここはまるで蝶と花びらが舞いいつまでも虹と晴れを見せてくれる花園のような場所でした)

海未(この優しさにこのまま触れ続けてたらきっと私はその優しさ無しでは生きていけないと思う、それだけ心地のいい場所なんです、ここは)

海未「…おやすみなさい」

絵里「おやすみなさい」

希「おやすみ」

ギュッ

海未(最後に思ったことは寝る時も両の手を握られるのは、悪くないということでした)

スヤァ…

~次の日、生徒会室

希「はい、これ終わったよ」

絵里「そこに置いといて」

希「ほーい」

海未「これはどうすれば?」

絵里「それはねーそこにまとめといてくれる?」

海未「分かりました」

希「いやーごめんな?生徒会でもないのにお仕事させて」

海未「いいんですよ、私から始めたことですから」

希「にしても海未ちゃんはやっぱり出来る子やね、生徒会の仕事も難なくこなすやん」

海未「簡単な仕事を任せられてるからですよ、絵里のやってることじゃきっと私は出来ません」

絵里「謙遜もいきすぎるとただの嫌味よ?ホントに海未は出来る子なんだから」エッヘン

希「なんでえりちが胸張ってるん…」

絵里「はい、こっち終わったわ、海未がいてくれたから早く終わったわね」

海未「…褒めても何も出ませんよ?」

絵里「ホントのことをいったまでよ?」

希「こっちも終わったよーこの三人ならすぐ終わっちゃうねー」

海未「…とりあえず役に立ててよかったです」

海未(次の日、朝何事もなく起きて朝ごはんを食べ忘れ物の確認などホントに優等生らしい朝を体験しました)

海未(学校に来てからは生徒会の仕事を手伝いました、お姉さんというのはこういうものなのかなと少し思いました)

キーンコーンカーンコーン

希「もーそんな時間かー」

絵里「私たちは三年生だから…ここで少しの間お別れね…」シュンッ

海未「…はい」

絵里「次はお昼ね、お昼にいくわね!」

希「それまで我慢しといてよ?」

海未「もちろんです、それではまたお昼に」

海未(二人は三年生です、私とは違う学年なのでお昼までお別れでした)

海未(一人で歩く廊下はすごく寂しくて心に穴は空かずとも凍えるような風が吹き始めていました)

海未(教室では穂乃果がいてくれたのでその時は穂乃果が私の心を温めてくれました)


海未(…やはり私は一人では何もできません)



海未(きっと私の心は家族という存在に依存しきっているのでしょう、二軒目にして禁断症状)


海未(私は…誰を求めてるのでしょうか)

~昼

絵里「海未!」

海未「あ、絵里」

海未「すいません穂乃果、では行ってきます」

穂乃果「あ、うん!」

スタスタスタ

海未「お待たせしました」

絵里「希は先に待ってるから行きましょう」

海未「待ってる?」

絵里「私たちの特等席よ?」フフッ

海未「特等席…?」



コンコン

希「どうぞー」

絵里「失礼しま~す」

海未「ここは…」

絵里「生徒会室、生徒会でそれも生徒会長なんだからこの部屋を独り占め~♪」

海未「そ、それは大丈夫なのですか?」

絵里「全然大丈夫よ、そんなことより早く食べましょう?」

希「二人ともここに座って座って」

海未「は、はい」

希「はい、お弁当」

海未「これは…」

希「ふふっ知ってる?デコレーション弁当っていうんやで?」

海未「これは…すごいですね…」

絵里「希はそういうの好きよね」

希「こういうのをあげるのが好きなんよ」

絵里「それはまた変わってるわね…」

希「まぁそれだけ愛情を表現しやすいやん?」

絵里「まぁね」クスッ

海未「……」パクパク

希「どう?」

海未「おいしいです!」

希「ならよかった」

海未(昼、希が作ってくれたお弁当を食べながら話をしてた)

海未(二人とも色々話題を乗っけてくるので会話がすごく弾みお昼の時間なんてすぐに過ぎてしまった)

キーンコーンカーンコーン

海未「…あっ」

希「終わっちゃったかー」

絵里「…そうね」

海未(お昼休み終了のチャイムは酷く冷たく暗く感じた)

海未(終わりを感じさせる寂しい声が三回続いた)

海未(実質私と二人はここでお別れ、HRが終われば私は三軒目に向かうだけ)

海未(学年の違う私たちは穂乃果のように立て続けに一緒を感じることは出来ない)

海未(だから、終わりの合図はホントに儚かった)

海未「ふう」

海未(そしてHRが終わった)

海未(持ち帰るものを鞄に入れて廊下を歩いてた)

海未(窓から見える花びらが私の想像で膨らませたあの二人の家/花園を連想させた)

海未(そんな時だった)

希「海未ちゃん!」

海未「!」クルッ

ギューッ

海未「!!!」

希「行かないで!!!」

海未「希…?」

希「昼休みにお別れをしたけどやっぱりお別れなんてしたくないんよ…」

希「だってこんなに可愛い妹を手放すなんて…そんな一生後悔するようなことしたくないやん……?」

海未「の、希…」

希「だからお願いだから行かないで…!ウチには…ウチらには海未ちゃんが必要なんよ…!」

絵里「希」

希「えりちもそうでしょ…?海未ちゃんを、今日から海未ちゃんを東條海未として育ていこうよ…?」

絵里「…今の希は間違ってるわ」

希「どうして?!えりちは海未ちゃんと過ごしたくないん?!」

海未(あの穏やかな希が、あの穏やかで優しかった希が荒げた声をあげた)

海未(私は驚きを隠せなかった)

絵里「違うわよ、私たちだけの都合で海未の行く先を決めちゃいけないのよ」

希「そんなの知ってるよ!知ってるけど…知ってるけどウチは海未ちゃんを手放しくないんよ!!!」

ギューッ

海未「…っ」

海未(更に強く、抱きしめられた…というよりかは締め付けられた、というのが正しいのかもしれない)

海未(それだけ希の必死さが伝わってきた)

絵里「…全ては海未の決めることなのよ、希、あなたは海未より年上なのよ?」


絵里「もうちょっと年上らしいことをしなさい」


希「年上なんかじゃなくてもいい!ウチは絶対に海未ちゃんを放さない!」

絵里「………」スタスタスタ

パチンッ!

海未「!!」

海未(絵里が希にビンタをした、乾いた音が誰もいない廊下に響き締め付けられた私の体が自由になった、またその光景が私の心の中にまで響いてきた)

絵里「バカ言わないで!!!」

絵里「私だって海未をお持ち帰りできるならそうしたいわよ!!」

絵里「でも海未にも未来があるの!そんな未来を希が汚すの?!希が海未の未来を縛り付けるの?!」

希「う、ウチはそんなこと…」

絵里「そういうことなの!!」

希「うっ…」

絵里「…ごめんなさい海未、最後の最後にこんなもの見させて」

海未「いえ…」

海未(希はしっかりしすぎていました、ですがそれはあくまでも表の姿だったのかもしれません)

海未(ホントは我が儘な人なのかもしれません、ですが私は別になんとも思いませんでした)

海未(むしろ少し変なところがあって安心したくらいでした)

海未(そして絵里はやはりいざというときにしっかりしてる人なのですね、やはりすごい人達です)

海未(暗いシーンのはずなのに私にはどうしても微笑ましいシーンに見えました)

海未(だから私は)

海未「希」

希「…何?」

ギューッ

海未「まだ希のところに行くかはわかりません、ですがもし行くことになったら…」


海未「いっぱい…可愛がってください」


希「…!」

絵里「………ふふっ」

希「も、もちろんやん!」

希「仕方ないなぁきょ、今日はこのくらいで勘弁してあげるから絶対に次は離さないよ?」

海未「…はい」

希「も、もー時間も無くなっちゃうから行ってきな!ほらっ早く!早くッ!」

海未「は、はい!」

タッタッタッ

希「次は絶対に離さないからー!!」

シーン…

希「………」

絵里「海未が私たちのところへ来てくれるのを、待ちましょう?」

希「……うん」

一応のぞえりが終わってやめるのにキリのいいところまで来たのですがまだ時間に大分余裕があるのでやれるところまでやります



海未「……私も酷い人間ですね」

海未(最終的には一つの家にしかお世話になれないのに、希のところにいく確証なんてないのに)

海未(その場凌ぎでしかない言葉をなげかけるなんて、私は最低な人間です…)

スタスタスタ

海未「………」

海未(季節の音ではなくて公道を走る車の音が耳に残る、私の隣を走ってるから、私の隣には昨日あの二人がいたから)

海未「ここを曲がって…えっと…次は…」

海未「…っここ…?」

海未(結構な道を歩いてたどり着いた場所、そこは大きな庭に大きな家、一目見てお金持ちの家だっていうのが分かった)

海未(私の家も道場があるので結構大きな家ですがそれでも比べものにならない大きさで唖然でした)

海未「え、えっと…」

海未(インターホンを押そうするも何故か躊躇ってしまった、私の想像ではお金持ちってすごくスパルタで世間知らずなイメージがあるんです)

海未(ピアノ教室に子供のころから行かせて成績をトップにするために塾に行かせて欲しいものはすぐに買ってくれるからお金の使い方を熟知していない、という私の中での固定概念が私の行動を拒んでいた)

海未「…すー…はー…」

海未「…よし」

海未(押しましょう…)

スッ

「私の家の前で何してんのよ」

海未「!」ビクウッ!

海未「あ、え、えっと…その…」

「…?」

海未「わ、私はえっと…今日一日だけ…過ごすことになってるえっと…そのだ」

「あーそうだったわね、いいわ入って」

海未「え?あ…え?」

「何ぼーっとしてるのほら入りなさいよ、そんなところにいたら風邪ひくでしょ、春風だって決してないわけじゃないんだから」

海未「あ、す、すいません…」

スタスタスタ

海未「………」

「…何か言いなさいよ」

海未「…あ、ごめんなさい」

「別に謝らなくてもいいわよ…」

海未「…大きなお家ですね」

「まぁね、もし住むっていうなら金銭的な問題は困らないと思うわよ」

海未「…そうなんですか?」

「…どうせあなたって私の家を見て悪徳面を想像してたでしょ」

海未「べ、別にそんな」

「じゃあなんで私の家まで冷や汗流して止まってたの?」

海未「うっ…それは…」

「…別にそう思われるのは構わないのよ、その人の感性だもの」

海未「…え?」

「なんでもない」

「私のお母さんって末期的に甘いのよ、買いたいものはすぐ買ってくれるし世話焼きの鬼なのよ」

海未「そう…なんですか…」

海未(次から次へと話を進めていく人でした、赤髪でつり目、口調は尖った感じが残りますが話の内容的にはすごく優しそうな感じがしました)

ガチャッ

「話は後、先入りましょう、上がって」

海未「分かりました」

「向かいの右のリビングにいて、入ったらとりあえず適当に座って待ってて、お茶持ってくるから」

「…あ、トマトジュースもあるけど」

海未「トマトジュース…?」

「お茶とトマトジュースどっちがいい?」

海未「あ、え…お、お茶で…」

「分かったわ」

スタスタスタ

海未「…はぁ」

海未「………」ソワソワ

海未(ここがリビングなのでしょうがものすごい広くてなんだか落ち着きません、大きなテレビにいくつもあるイス、それだけで落ち着きません)

「何ソワソワしてるのよ」

海未「す、すいません…」

「まぁ別にいいけど…」

「はい、お茶」

海未「あ、ありがとうございます」

「ふう」ストンッ

「自己紹介が遅れたわね」


真姫「私は矢澤真姫、よろしくね」


海未「園田海未です、よろしくお願いします」ペコリ

真姫「そんなにかしこまらなくてもいいんだけど…」

海未「す、すいません…」

真姫「はぁ…謝らなくてもいいっていったのに困った人ね」

海未「すいま…あっ…」

真姫「ふふふっ」クスッ

真姫「まぁこういうところ、好きじゃないかもしれないけどもし気に入ったら住んでもいいわよ」

真姫「さっき言った通り金銭面では困らないし」

海未「は、はい」

真姫「とりあえず家の中を案内するわね」

海未「分かりました」

海未(三軒目の家はどこかぎこちない感じがしました)

海未(前の家ほど賑やかではないし家庭感があまりない)

海未(家もホントに静かでした)

スタスタスタ

海未「…家には誰もいないのですか?」

真姫「ええ、パパもママも仕事で忙しいの、多分今日は帰ってこないんじゃないかしら」


「にこちゃんはきっとアイドル頑張ってるし」


海未「にこちゃん?アイドル?」

真姫「私の姉よ、三年生で今アイドルをやってるのよ」

海未「へえー…アイドル…ですか」

真姫「…まぁアイドルっていっても全然だけどね」

海未「といいますと?」

真姫「地道に下積みから頑張ってるのよ、結論から言えばあまり売れてないけど」

海未「そうですか…」

海未「…ん?ではいつも家では一人なんですか?」

真姫「ええ、にこちゃんがたまーに一緒帰ってくれるけど大体は一人、パパもママもいつも忙しいからこの時間は滅多にいないわ」

海未「親の方は何を…」

真姫「パパは医者、ママは看護婦よ」

海未「あぁなるほど…」

真姫「というかね、私のパパが病院を経営してるのよ、矢澤総合病院って聞いたことない?」

海未「あー昔お世話になったことがあります」

真姫「そう、まぁそこにパパとママがいるのよ」

海未「なるほど…それは大変ですね…」

真姫「ここがあなたのお部屋、とりあえず必要なものだけ揃えておいたから自由に使って」

海未「わ、分かりました」

海未(初めて…いや久々だった)

海未(前の二軒とは違って個部屋だった)

海未(一人用のベットがあって勉強机があって他にも色々あってこれだけで前の二軒とか大きく違うことがわかった)

真姫「ごめんなさい、私はやることがあるから行くわね、私の部屋はすぐ隣だから何かあったら呼んでちょうだい」

海未「分かりました」

真姫「それじゃ」

ガチャッ

海未「………」

海未(正直に言えば、ここは全然愛がもらえない気がした)

海未(私の心を満たすにはほど遠い存在だと思った)

海未(一人寂しく勉強するのはあの空っぽな三日間と何も変わらない)

海未(鉛筆を削る音と空しさが響く)

カキカキ

海未「…ここはっ…て今はいないんでしたね」

海未(きっとここに穂乃果と凛がいたら穂乃果と凛の回答を確認をしてたでしょう)

海未(きっとここに希と絵里がいたら私の回答があってるか確認をしてもらってたでしょう)

海未(ここには…誰もいません)

ガランッ

海未「…?」 

海未(寂しさを感じたそんな時でした)

海未(隣の部屋から何かの物音が聞こえた)

~~~♪    ~~~♪



    ~~♪



 ~~♪         ~♪

海未「…?」

海未「ピアノ…でしょうか…」

海未(隣の部屋、つまり真姫さんの部屋から聞こえてきました)

海未「…元気な曲調ですね」

海未(真姫さんの弾いてる曲はクールとかエレガントとかそういうものではなくて聞いてて元気の出るような曲調でした)

ガチャッ

海未(廊下に出てもっと近くで聞きたくなった)

海未(目を瞑り壁に寄りかかって音だけに集中しました)

海未「………」

海未(終わりでしょうか)

海未(真姫さんの部屋から音が聞こえなくなった)

ガチャッ

海未「!」ピクッ

真姫「私のピアノ…聞いてた?」

海未「あ、は、はい…ダメだったでしょうか?」

真姫「いやいいのよ、ただどんな感じだったか聞きたくて…」

海未「どんな感じ…ですか…」

海未「すごく…元気になるような曲調だった、と思います」

真姫「なるほど…ありがとう」

海未「あ、あの!」

真姫「ん?何?」

海未「真姫さんの…部屋で勉強してもいいですか?」

海未(やっぱり一人は寂しいんです)

海未(だからすぐに行動に移してた)

~真姫のお部屋

真姫「む……」ジッ

海未「楽譜ですか?」

真姫「ええ、さっきの歌あったでしょ?」

海未「はい」

真姫「あれはにこちゃんが歌う歌なのよ、歌詞はまだないけど」

海未「えっ…にこさんの歌は真姫さんが作ってるのですか?!」

真姫「そうよ、小さいころからピアノをやっててね」

海未「ピアノですか…」

海未(私の予想は完璧に当たってました、やはりお金持ちの人はピアノを習ってるんですよ)フフンッ

真姫「そう、にこちゃんがアイドル始める時に頼まれたのよ、私の作った曲でアイドルをしたいって言われたから」

海未「なるほど…」

真姫「…でも上手くいかないものよね」

真姫「どうしてかしら…にこちゃんも精一杯やってるし私だって最高って思える曲を作ってるのに…」

海未「………」

海未(きっとここは慰めの言葉をかけるべき場面だったと思います、ただ分かりませんでした)


海未(この人になんて言葉をかけていいのかが)

真姫「なんか…やっぱり上手くいかないと上手くいかない時があるのよ…」

真姫「……それが今でね、どんな曲作ればいいんだかよくわからなくて…」

海未「そう…なんですか…」

海未(真姫さんが言葉を放った後は毎回時を刻む音だけが私の耳に伝った)

海未(真姫さんの言葉はすごく歯切れが悪かった)

海未「じゃああの歌は…」

真姫「あの歌はまぁ…なんなの?にこちゃんらしい歌を作りたかったんだけどなんかよくわからなくて…」

海未「にこちゃんらしい歌?」

真姫「元気でみんなが笑顔になってくれるような曲にしたくて…」

海未「それはまた…難しいですね…」

真姫「…ええ、ほんとにね」

ガチャンッ

「ただいまー」

真姫「あ、にこちゃんが帰ってきた、えっと海未も一緒に来て」

海未「は、はい」

ガチャッ

真姫「…何気なく呼び捨てで呼んじゃったけど大丈夫だった?」

海未「はい、むしろその方が嬉しいですから」

真姫「そ、そう…ならよかったわ」

スタスタスタ

真姫「おかえり、にこちゃん」

にこ「あぁただいま…ってあれ?」

海未「ど、どうも今日一日お世話になります、園田海未ですよろしくお願いします」

にこ「矢澤にこ、よろしくね」

海未「はい、よろしくお願いします」ペコリ

にこ「今日は家族として過ごすんでしょ?かしこまったりするのあまり好きじゃないんだけど」

海未「す、すいません…」

にこ「謝るのも無しよ、それで二人は何してたの?」

真姫「私は曲作り、海未は勉強よね?」

海未「はい」

真姫「そんなところよ」

にこ「そう、これからはどうするの?」

真姫「私は曲作り、海未は?」

海未「まだ勉強が終わってないので勉強の続きをします」

にこ「じゃあ私も混ざっていい?」

真姫「もちろん」

海未「大丈夫です」

にこ「じゃあ宿題持ってから行くわね」

真姫「分かったわ、私の部屋よ」

にこ「分かってるわよ」

にこ「それじゃ後で」

真姫「ええ」

スタスタスタ

真姫「あれがにこちゃん、身体は小さいけどすごくしっかりしてるのよ」

海未「はい、確かにすごくしっかりしてそうでした」

海未「しかし、あの方がアイドルを…?」

真姫「そうよ、こう見えてもにこちゃんってすごい頑張り屋さんで親の力は最低限しか借りたくないって言って支援を拒んでるのよ」

海未「どういうことですか?」

真姫「お金の力があれば多少の人気は簡単に獲得できるのよ」

海未「なるほど…」

真姫「別に私はにこちゃんが多少強くてニューゲームって感じでもよかったんだけどにこちゃんのプライドが許さないから」

海未「すごい方なのですね…欲に溺れないというか…」

真姫「そうね、すごい人だわ」

ガチャッ

海未(微妙な距離感を感じながらも会話が無いわけではありませんでした、姉であるにこさんもすごく優しそうだし真姫さんの話を聞けばすごく信念の強い人でした)

海未(それにきっと家族ってこういうものなんだと私は思います、程々の会話をして過ごす、きっと前の二軒で感覚が麻痺してるんだと思います)

~真姫の部屋

にこ「そういえば真姫ちゃん、曲は出来た?」

真姫「まだ、今作ってるんだけどあんまり上手くいかなくて…」

にこ「そう…まぁゆっくりのんびり作りなさいよ、別に急ぐ必要なんてないんだから」

にこ「焦って出来が悪くなっちゃうのが最悪のパターンだし」

真姫「え、ええ」

海未「………」カキカキ

海未(二人のアイドル事情を聞いてるとやはりあまりいい調子ではなさそうでした)

海未(私には関係ないですしあまり人には知られたくない会話だと思うのでなるべき耳を遠退けてるのですが…それでもちょっと気になってしまいます)

真姫「はーあ、疲れたわ」

真姫「ごめんなさい、かなり早いけど先お風呂入るわね」

にこ「分かったわ」

海未「分かりました」

真姫「それじゃ」

ガチャンッ

にこ「………」カキカキ

海未「………」カキカキ

にこ「…ねえ」

海未「な、なんでしょう」

にこ「すごい…言いにくいんだけどさ…」

海未「はい」

にこ「ここのところが分からなくて…えっと…海未分からないかしら?」

海未「ふむ…ちょっと待ってください」

海未「えっとここは…こうすれば正解だと思います」

にこ「そ、そうなの?」

海未「はい」

にこ「じゃ、じゃあ申し訳ないんだけどこことここも分からない?」

海未「はい、分かりますよ、ここはこうして…こっちはこうすれば大丈夫です」

にこ「あ、ありがとう…私勉強はあまり出来なくて…」

海未「大丈夫ですよ」

にこ「ほ、ほんとに申し訳ないわね…」

海未「いえいえ」

海未「…あ、じゃあ一つお聞きしてもいいですか?」

にこ「ん?何?」

海未「……アイドルってどんな感じなんですか?」

にこ「んー大変だけどやってる私はとても楽しいわよ」

海未「楽しい…ですか?」

にこ「ええ、そりゃあ人気だってあんまりないけど少しでもみんなが笑顔になればそれでいいかなって」

海未「笑顔…ですか」


にこ「にっこにっこにー!!」


海未「?!」

にこ「あなたのハートににこにこにー!」

にこ「笑顔届ける矢澤にこにこ!」

にこ「にこにーって覚えてにこっ!」

海未「…ぷっうふふふふなんですかそれ」クスッ

にこ「はーやって笑顔になったわね」

海未「え?」

にこ「だって海未、私とあってからずっと真顔か悲しい顔しかしないもの」

にこ「少しくらい笑顔見せなさいっての」

海未「す、すいません…笑うのが下手なもので…」

にこ「だあ!もうその顔をしない!あんたはずっと笑顔の方がいいのよ、可愛いんだから」

海未「か、可愛い?!」カアアア

にこ「何照れてんのよ…まさかあんたそれで自分が可愛くないとか思ってるわけ?」

海未「あ、当たり前ですよ!可愛いなんて思ってるわけ…」

にこ「はあああ?!なんなのよそれ!!こんないいスタイルと顔して自分に自信のないの?!」

にこ「ふざけんじゃないわよ!」

海未「す、すいません…」

にこ「謝るなっての!」

ゴロンッ

海未(不機嫌そうな顔をして真姫さんのベットにダイブしてた)

にこ「んーっ!はー今日も今日とて疲れたわ」

海未「何かしたのですか?」

にこ「私だってアイドルだもの、予定の話し合いくらいはするわよ」

海未「なるほど…日程調整ですか」

にこ「むむ…なんか賢そうな言葉使ってると腹立つわね…」

海未「えぇ?!」

にこ「私には持ってないもの持ってるくせに何も使わないなんてこのっ!このこのっ!」コチョコチョ

海未「ちょっあははっひゃひゃやめてくださあはははっはは!!」


にこ「ほらほらっ!笑顔になれなれ!」


海未「そんはあひっ!そんなわらはせかたないですってっあひゃひゃひゃ!」

~その後、海未の部屋

海未「うー…」

真姫「はしゃぎすぎよ、よだれまで垂らして汗びっしょりってどんだけ長い間騒いでたのよ」

海未「すべてにこのせいでー…」

真姫「あーはいはい、分かった分かった」

海未「なんで私まで悪いみたいな流れになってるんですかー…」

真姫「少し経ったらお風呂に入りなさい、そんなんでご飯とかキモチワルイからやめてよね」

海未「酷いです…」グッタリ

海未「あの…にこは…」

真姫「自分の部屋でグッタリしてるわよ、はしゃぎすぎたって後悔してるくらいよ」

海未「はぁ…」

真姫「溜め息を吐くのは私よまったく…」ハァ

真姫「動けるようになったらお風呂に入ること、私は隣にいるから分からないことがあったら私にききに来なさい」

海未「わ、わかりました」

真姫「じゃあね」

ガチャンッ

海未「すー…はー…」

海未(あの後ずっとコチョコチョ乱闘で今ある体力すべてを持っていかれました)

海未(でもそんな乱闘のおかげでにこと仲良くなれました)

海未(こんな散々な結果に終わりましたがにこと仲良くなれたのはとても嬉しく思います)

海未「はー…」

~~~~♪~~~~~~♪

海未「この歌は…」

海未(今日の夕方聞いたあの曲でした)

海未「……♪」

海未(自然と鼻歌を歌っていました、そうしていくうちにここはこういう歌詞ならいいだろうなんてインスピレーションがどんどん浮かんできてなんとなくその閃きを紙に書いていました)

海未「…あ、ここはこうした方がにこらしいですよね」フフッ

海未「……って私は何をしているのでしょう…」

海未(こんなことして何になるのでしょう、これを渡すのでしょうか?)

海未「……」フルフル

海未(恥ずかしすぎます!そんなことできません!)

海未「もういいです!さっさとお風呂に入ります!」

ガチャンッ!

「真姫-!お風呂入りますねー!」

~その後

にこ「ほい!にこちゃん特製のハンバーグよ!」

海未「…案外家庭的なんですね」

真姫「当たり前でしょ、逆にどんなもの想像したのよ」

海未「キャビアとか…フカヒレとか…」

にこ「それは偏見の持ち過ぎよ…」

海未「そ、そうなのですか?」

にこ「ええそうよ」

海未「…ま、まぁとりあえずいただきます」

真姫「いただきます」

にこ「どう?にこの特製ハンバーグは」

海未「おいしいですよ」

にこ「当たり前よ!なんせこのにこが作ったのだから!」

海未「この料理術はどこで?」

にこ「本とか見て学んだのよ、良い女っていうのは料理が出来る女なのよ!」

海未「は、はあ」

真姫「………」フッ

にこ「二人ともその冷めた反応はやめなさいよぉ!」

真姫「まぁともあれこのハンバーグは満点をあげてもいいわ、素直においしいもの」

海未「はい」

にこ「あったりまえでしょ!にこちゃ」

真姫「はいはい」

にこ「最後まで言わせなさいよぉ!!」

海未「ぷっふふふふ」クスクス

海未(私はここらでこの二人のこと、やっと理解出来たような気がしました)

海未(微妙な距離感があったんじゃなくて近づきすぎずとも遠すぎず、バランスが取れた距離感がこの二人にはあるんです)

海未(私を慕ってくれる妹とか私を可愛がってくれる姉とかじゃなくてお互い迷惑をかけたり協力したり歳の差はあれど平等な位置で歩むのがこの二人なんだと思います)

海未(ここは笑いはあれど涙あり、怒りはあれど楽しさあり、まるで物語の1シーンが繰り広げられてるような場所です)

海未(そうだと分かった途端、私の心はまた充分すぎるほどに満たされてこの二人の魅力、知れば知るほど美しく見えました)

海未「ごちそうさまでした」

にこ「お皿とかは洗面所の入れ物にいれといて」

海未「分かりました」

真姫「これからどうするの?」

海未「どうしましょう、勉強は終わったので正直やること無しです」

海未「…っあ」

にこ「ん?」

海未「…ちょっとやることを思いついたので私の部屋に行きますね」

真姫「わ、分かったわ」

海未「それでは」

スタスタスタ

海未「…はぁ」

海未(どうしてあんなこと言ったんでしょう、言った傍から後悔した)

海未(自分の部屋にいって見つめるのはノートに途中まで書かれてた詩)

海未「………」

海未(ここまで来たんだから完成させたい、なーんて自己満足のために体が動き出す)

海未(途中までやって途中でやめる中途半端な感じは私大嫌いなので再び筆を動かしました)

海未「…~~♪」

海未(時々あの歌を口ずさんで頭の中にある詩を整理しました、この歌…真姫やにこに聞かれていないか不安ですね…)


~~♪    ~~~♪


   ~~♪



~~~♪     ~~♪

海未「!」

海未(そして聞こえてきたのは真姫の演奏)

海未「…こんなに夜遅くに弾いて大丈夫なのでしょうか」

海未(ここは豪邸ですし音が漏れてないことはくらいはどこかで分かっていましたがそれでも私は心配に思う)

~~♪  ~♪

~~~♪

ガーン!

海未「!!?」

海未(綺麗な音色から突然一つの不協和音が鳴りそれ以降何も聞こえなくなった)

海未「真姫……」

海未(言葉は交わさずともなんとなく原因は分かってました)


海未(曲作りが上手くいかない)


海未(イライラしてもっと上手くいかない、上手くいかないと曲が作れない、曲が作れないとイライラするの悪循環)

海未(きっと真姫は今そのサイクルから抜け出せないのでしょう)

海未「……よしっ」

ガチャッ

トントン

海未「真姫、入っていいですか?」

真姫「……いいわよ」

海未「失礼します」

ガチャッ

海未「って…何してるんですか…」

真姫「曲作りに疲れたから横になってるだけよ」ムスッ

海未「はぁ…」

真姫「溜め息を吐くのはこっちよ」ハァ

海未「真姫」

真姫「何よ」ムッ

海未「歌詞…を書いてきました、事足らずかもしれませんがよかったらこれを参考に作ってみてください」

真姫「歌詞…?」

真姫「!」

海未「にこの歌なんですよね?だからにこを意識して書いたんです」

海未「私も少しくらいアイドル事情に参加させてください」


海未「今日は私だって矢澤家の一員なんですから…真姫の為に…にこの為に役に立ちたいんです」

真姫「…海未」

海未「はい」

真姫「ありがとう…正直もう引け目を感じてたの…」

海未「曲作りに、ですか?」

真姫「ええ」

真姫「でも…もうちょっとだけ頑張ってみるわ」

真姫「この歌詞、参考にさせてもらうわね」ニコッ

海未「…!」パアアア

海未「はいっ!」

海未(三軒目だったからでしょうか、この時点で既に私の心は家族の一員のつもりでした)

海未(少し出過ぎた行動だったかもしれませんが結果的に成功したのでよかったです)

海未(…最初は“なんかな”と思いましたが、ここも悪くありませんね)フフッ

ガチャンッ

にこ「…やるじゃない、あんた」

海未「…役にたてたならよかったです」エヘッ

にこ「それにしても歌詞なんてよくかけたわね」

海未「小さい時は詩が好きだったんですよ」

海未「ただまさかこんなにも書けるとは思いませんでしたが…」

にこ「あぁ確かにあんたすごく頭良さそうだもの、実際いいし」

にこ「納得だわ」

にこ「というか私を意識した歌詞ってどんなのよ?」

海未「そういわれましても…」

にこ「まさか変な歌にしてないでしょうね?」

海未「そ、それはありません!真姫が認めてくれたんですよ」

にこ「そ、そうよね…」

海未「…まぁ後は真姫に任せましょう」

にこ「そうね」

海未(その後は特に何もありませんでした、なので今日は早く横になりました)

海未「…ふう」

海未(一人で寝るのは二日ぶりでした、一人の時はどうしても青白い月の光を感じやすくなってしまうんです)

海未「…綺麗です」

海未(ただあの時とは違う、一人で寝てるはずなのに寂しくなかった)

海未(今はあの二人がいるから、今ここにあの二人がいなくても…いなくても私の近くにいるって思うだけで…)


海未(寂しさなんて忘れてしまうんです)


海未「おやすみなさい」

海未(最後に一人呟いて今日を終えた)

~次の日、学校

海未「そういえば私たち…」

真姫「違う学年だからお昼までずっと離れ離れね」

にこ「そう…まぁ仕方ないわね」

真姫「それじゃ、お昼に」

にこ「あーい」

海未「は、はい」

スタスタスタ



海未(この二人は良くも悪くもドライです、冷たいわけでもありませんが温かいわけでもありません)


海未(私たち三人はべたべたくっつくということもせず別れる時はすんなり別れるスッキリした関係でした)

海未(前回の二人みたいに濃いことをした感じはしませんでしたがあの二人の役にたてただけでも心は充分に満たされました)

海未「……~♪」

海未(昨日聞いた歌を口ずさんでた、気分は天にも昇るほどの晴れ模様、誰かがいるだけでもこんなに違うんですね)

キーンコーンカーンコーン

~昼、屋上

ガチャッ

海未「あ、もういたのですか、早いですね」

にこ「あんたが遅いだけよ」

真姫「そうね」

海未「すいません…授業が長引いてたもので…」

にこ「分かった分かった、あんたはいい加減謝り癖直した方がいいわよ」

海未「こ、こればっかりはつい…」

にこ「はぁ…困った人ねぇ…」

にこ「まぁここ座りなさいよ、さっさと食べちゃいましょ」

海未「はい」スタスタ

にこ「はい、お弁当」

海未「ありがとうございます」パカッ

海未「これは…また随分と家庭的ですね…」

にこ「当たり前でしょ、こう見えても私たち高級食材なんて食べたことないのよ」

海未「え?」

真姫「せいぜい食べても蟹くらいまでかしら、キャビアとかその辺は食べたことないのよ」

海未「そ、そうなんですか?!」

真姫「当たり前でしょ」

真姫「…それに私はどこかの高級レストランで何かを食べるよりにこちゃんが作ってくれたご飯の方がおいしいから」

にこ「あったりまえでしょ!私の腕は超一流なのよ!」

海未「す、すごいのですね…」

真姫「確かに私たちは一般の家庭より遥かにお金を持ってるけどやってることは一般と何の変わりもないのよ、私たちが思うのはお金なんかに頼りたくないってこと」

真姫「愛情のこもってない高級料理よりか愛情のこもった一般料理の方がおいしいの、私たちはそれに気付いてるつもりだから」

海未「…なるほど」

海未(この二人はすごい賢かった、自分の持つ力に溺れない自分を巧みに知ってる二人だった)

海未(私にとっては愛、というよりかは尊敬の意が強かった、この二人はすごい、そう思うばかりでこの二人と歩む道はとても山があっても谷があっても難なく超えられるような気がした)

海未(ただ、そんな思いも今日で一度途切れてしまうことを私は知っている)

海未(時刻は放課後、この時間はいつも切ないばかりだった)

~放課後

キーンコーンカーンコーン

真姫「海未」

海未「!」

海未「真姫、どうしたのですか?」

真姫「ちょっときてよ」グイッ

海未「わぁ?!」

海未「ちょ、ちょっとどうしたんですか?」ズルズル

真姫「いいから」

スタスタスタ

真姫「はい、ここ入って」

海未「音楽室…?」

ガララッ

にこ「やっときたわね」

海未「にこ…?」

真姫「はい、そこ座って」

海未「は、はい」

真姫「昨日、歌詞くれたわよね」

海未「はい」

真姫「曲…完成したからまず海未に聞かせたくて…」テレッ

海未「…!」

海未(その時、私の心から何かがこみ上げてきた)

海未(心が何かで満たされた)

海未「…分かりました、ではいつでもどうぞ」ニコッ

真姫「ええ!にこちゃん!」

にこ「準備おーけーよ!」

真姫「いくわよ!」

海未「はい!」

にこ「ええ!」


~~~~♪   ~♪



  ~~♪
 


~♪   ~~♪



「とっど~け!魔法~!」


「笑顔の魔法!みんなを幸せに~♪」


「にっこりの魔法!笑顔の魔法!」

「涙さ~よならっ!」

「にっこにこにこにこ~だよ~」

「ほら楽しくなれ~♪」


「にこっ!」


海未(ホントに最高の一言でした)

海未(この切なさが訪れる時にこんな笑顔にしてくれるってなんて素敵な方たちなのでしょう)

海未(やはりこの人たちにはこの人たちにしかない良さがあります)

海未(今日、この身をもって体感しました)

真姫「終わっちゃったわね…」

海未「はい…」

真姫「…もしよかったらこのまま私たちの家に帰らない?」

海未「え?」

真姫「なんて冗談よ」フフッ

真姫「もし私たちのところに帰ってきてくれるなら、また歌詞書いてね」

にこ「私は海未以外認めないわよ!」

真姫「ちょっと私の歌詞は?!」

にこ「真姫ちゃんのもいいけど海未のがいいかな~って」ニコプリ

真姫「は?」

にこ「えへへ~」テヘッ

真姫「はぁ…まぁそういうことよ」


真姫「…待ってるから」


にこ「絶対に帰ってきなさいよね!!」


海未「…まだ何も言えませんが……」


海未「もし三人一緒に暮らすことになったらたくさん曲を作りましょうね!」


真姫「もちろんよ!」

にこ「期待してるからね!」

海未「それでは!」ダッ

真姫「ええ!」

にこ「待ってるわよ!」

海未「また!」

タッタッタッ

海未(初めてだった、こんなに気分爽快に帰り道を走れるなんて)

海未(やっぱりあの人たちはすごい、それしか言葉がでませんでした)

海未(だから走る私の気持ちの中には“あの二人となら全て上手くいきそう気がする”なんてメルヘンな気持ちで覆われて)


海未(一つの家しか選べないという大切なことを忘れていた)


海未(いい意味でも悪い意味でも呑気だった)

ここで一旦中断します
気が向いたらまたすぐに更新するかもです

~~~

タッタッタッ

海未「…!」ピタッ

海未「…ここでしょうか」

海未(地図を見て四軒目で合ってるかどうかを確認をした)

海未「すー…はー…」

ピンポーン

海未「………」

「はーい」

ガチャッ

海未「あ、ど、どうもえっと今日一日お世話になる予定の園田海未、と申します」ペコリ

海未(こうして挨拶をして感じるのは一軒目と比べて挨拶に慣れ過ぎてた)

海未(やはり私は既に依存してる、みんなのくれる愛情に依存してるのが分かる)

「あ、は、はい!ど、どうぞ!!」

海未「お、お邪魔します」

「は、話は聞いてます!今日はよろしゅ…あっ…噛んじゃった…」

海未「ふふふっよろしくお願いしますね」クスッ

「よ、よろしくお願いします!」

「あ、え、えっと…」

海未「?」


花陽「南花陽…って言います、えっと…自己紹介が遅れてすいません…」


海未「いえいえ大丈夫ですよ」ニコッ

花陽「!」パアアア

海未(迎えてくれた人はおそらく高校生でしょうがすごく気弱でおそらく私と同じかそれ以上の子でした)

花陽「えっと、ここがリビングです」

花陽「お姉ちゃん、海未さんが来たよ」

「えっ?!ご、ごめんなさい!そんなに重要な人が来てたなんて…」オロオロ

海未「い、いえ…」

「えっと、おかえりなさい♪」

海未「た、ただいま帰りました…?」

「はいっ♪」


ことり「あ、私は南ことりです♪海未ちゃんって呼んでもいいかな?」


海未「は、はい!」

ことり「ふふっじゃあよろしくね、海未ちゃん♪」

海未(もう一人はとても優しそうな人でした)

海未(コンディションはしっかり整えるようにも見えますし手芸をしてたようなのでまさに女の子、という感じがしました)

花陽「あ、お茶持ってきますね!」

ことり「ううんいいよ、ことりが持ってくからかよちゃんは好きなことやってていいよ」

花陽「う、うんごめんねお姉ちゃん」

ことり「大丈夫♪」

花陽「勉強終わったらまたくるから」

ことり「はーい」

海未「ま、また」

花陽「はいっ!」

スタスタスタ

ことり「改めておかえり、海未ちゃん」

海未「ただいま…です?」

ことり「お母さんから話は聞いてるよ、今日はよろしくね♪」

海未「はいっ」

ことり「んー海未ちゃんって家に帰ってから何するの?」

海未「家ではまず宿題をしますよ」

ことり「そっか、じゃあ宿題しよっか♪」

海未「大丈夫なのですか?」

ことり「ん?何が?」

海未「何か作ってるようでしたが…」

ことり「うん!別に大丈夫だよ、急いでるわけじゃないし」

海未「分かりました、じゃあやりましょうか」

ことり「うん!あ、どうせならかよちゃんも呼んでいいかな?」

海未「はいっ」

ことり「おーい!かよちゃーん!」

ガチャッドタドタドタ

花陽「は、はいぃ!」

ことり「そ、そんなに急がなくても大丈夫だよ?」

花陽「ご、ごめんなさい」

ことり「別に謝らなくても…」

海未「ふふふ…」クスクスッ

ことり「ん?どうしたの?」

海未「いえ、なんだか私と花陽さんってすごく似てるなって」

花陽「私と海未さんが…?」

海未「はい、気弱な感じですぐ謝ってしまうところがそっくりでつい…」

ことり「海未ちゃんもそんな感じなの?」

海未「はい、人と接するのは得意ではないので…」

ことり「そうなんだ、なんかそんな風には見えなかったな」

海未「人は見た目だけじゃわかりませんよ」

ことり「うん、その通りだねっ」

ことり「あ、そうそうかよちゃん」

花陽「はい」

ことり「今から海未ちゃんとお勉強するんだけどかよちゃんも一緒にしない?」

花陽「じゃ、じゃあ一緒にやるね」

花陽「ちょっと待ってて、筆記用具とか持ってくるから」

ことり「うん♪」

海未「じゃあ私たちも準備しましょうか」

ことり「はーい」

ことり「あ、飲み物は何がいい?」

海未「なんでもいいですよ」

ことり「もーそう返されるのが一番困るんですっ」

海未「す、すいません…」

ことり「そうやって謝られるのも困るんですよっ」

ことり「そういう時はお茶でもいいからお茶っていってください」

ことり「頼まれる側としてはその人に一番の飲み物を持っていきたいですから♪」

海未「じゃ、じゃあお茶でお願いします」

海未(何の話でしょう、と思いながら筆記用具に手を伸ばした)

海未(ここの二人はすごく一般的な人だと思った、そりゃあ最初に行った二軒も一般的でしたがここは特にそんな感じだと思います)

海未(…まぁ三軒目はちょっと一般的ではないですけど)

花陽「お待たせしました、えっとここ座りますね」

海未「はい」

ことり「かよちゃん勉強大丈夫?分かる?」

花陽「先生の話とかちゃんと聞いてるから…大丈夫だと思う」

ことり「そっか、ならいいけど」

ことり「はい、お茶♪」

海未「あ、ありがとうございます」

ことり「知ってる?私と海未ちゃんって同じクラスなんだよ?」

海未「そ、そうなんですか?」

ことり「あ、ひどーい…ことりのこと気付いてもくれてなかったんですか?」プンプン

海未「す、すいません…」

ことり「とりあえずここに住まないってことになっても学校の方でもよろしくね♪」

海未「よろしくお願いします」

ことり「あ、私も筆記用具とか持ってくるね」スタスタ

海未「ふー…」

花陽「あの…ごめんなさい」

海未「ん?何がですか?」

花陽「お姉ちゃんって嬉しいとあんな感じにお節介な人になっちゃって…色々めんどくさいと思うんです」

花陽「で、でも!すごく優しくて色々してくれて…頼りになるお姉ちゃんなんです!」

海未「だ、大丈夫ですよそのくらい分かってますから」

花陽「そうですか…よかった…」ホッ

海未(花陽さんはすごく姉思いでいい人だなと思いました、きっとそう慕ってくれる秘密がことりさんにはあるのでしょう)

海未「………」カキカキ

花陽「………」カキカキ

ことり「もー二人とも真剣すぎだよ、もっとお話しながら勉強しよ?」

海未「ですがそれだと集中できな」

ことり「今日くらいは勉強を二の次三の次にしても問題ありませんっ」

ことり「大事なのは楽しむことだよ、海未ちゃんかよちゃん」

海未「は、はあ」

花陽「う、うん」

ことり「海未ちゃんもかよちゃんも頭いいんだから別に急がなくたって大丈夫でしょ?」

海未「急ぐ必要がないっていうのはまぁ…」

花陽「でも早く終わらせた方が楽だよ?」

ことり「もーじゃあ早く勉強終わらせよ?」

ことり「かよちゃんも海未ちゃんも分からないところない?」

海未「私は特に…」

花陽「私も…」

ことり「じゃあ早く終わらせてよ?ことりもすぐ終わらせるから」カキカキカキ!

海未(ことりさんはとてもわがままな人でした)

海未(見た目ではとてもわがままな人には思えなかっただけになんか意外でした)

海未(そして勉強が終わると這い寄るように私の元へきてお話を始めました)

ことり「海未ちゃんってメイドカフェとかいくの?」

海未「い、いえそのような場所には…」

ことり「うーんカラオケとかは?ゲームセンターは?」

海未「全然…」

ことり「そっかー」

ギュッ

海未「?!」

ことり「丁度いいや!私と一緒にきてよ!!」

海未「あえぇ??!!ちょ、ちょっとどこにいくんですか?!」

ことり「あ、そうだ、準備とかしてかないと」ピタッ

パッ

ことり「ちょっと待ってて!」ダッ

海未「…あのっ」チラッ

花陽「あ、えっと…私にはよく…」

海未「ことりさんってあんな感じなんですか?」

花陽「いえ…いつもはもっとおとなしくて穏やかな感じなんですけど…」

花陽「テンション上がるとあんな感じになってしまって…」

海未「変わった人ですね…」

花陽「お姉ちゃんはなんでもかんでも溜め込むタイプだから…えっと…そういうのもあるんだと思います」

海未「…そうなんですか」

海未(きっとことりさんは私と同じタイプなんだと思う、なんでもかんでも溜め込んで…何かで発散する)

海未(ただ私と違うところもある、ことりさんは何かで吐けるけど私は吐き出すことが出来ない)

海未(そういうところは見るとことりさんがものすごく羨ましく感じた)


海未(眩しく感じた)


ことり「ほらほらいくよー!」グイッ

ギュッ

海未「ま、待ってくださいよー!」

タッタッタッ…


海未(ことりさんが握ってくれた手は穂乃果や希とまったく同じ温かさと心地よさがあった)



海未「……あの」

ことり「ん?なーに?」

海未「この格好は…」

ことり「メイド服だよ?」

海未「なんで私はこんな服を…?」

ことり「ここはメイド喫茶だよ?メイド服じゃないとおかしいじゃん」

海未「わ、私はメイドをするなんて一言も…というか勝手に連れられてここに来たんですよ!!」

ことり「まぁまぁここでメイドをして悪いことはないよ?」

海未「それはことりさんだけでしょう!」

ことり「ここではことりさんじゃなくてミナリンスキーって呼んで?それに普段でもことりさんじゃなくてことり、とか呼び捨ての方が嬉しいな♪」

海未「み、ミナリンスキー?」

ことり「ここでの私の名前だよ、本名は公開してないんだからね?」

海未「そ、そうなんですか…」

海未「ってそうじゃなくて私はメイドなんてやらな」

ことり「海未ちゃん、おねがぁい…!」ウルウル

海未「うっ…」

海未(なんですかその声と目は…)

海未「…な、何をすればいいんですか?」

ことり「やってくれるの?!ありがと~!」

ギューッ

海未「うっ…」

海未(可愛い顔して悪魔のような誘惑をする人でした、そのわがままっぷりはあの穂乃果を凌ぐほどで私の思った感じだと“甘えぼうな妹”が出来たような感じでした)

「ミナリンスキーさーん!」

ことり「はーい、今いきまーす」

海未「い、いってらっしゃい…」

ことり「何いってるの?海未ちゃんもいくんだよ?」

海未「は?」

ことり「海未ちゃんも今はメイドさんなんだから行くのは当たり前だよ?」

海未「いやでも呼ばれたのはこと」

ことり「ミナリンスキー」

海未「…ミナリンスキーさんが呼ばれたわけであって私は呼ばれてないじゃないですか」

ことり「この呼び出しは応援の呼び出しだよ、手が足りないから来てってこと」

ことり「だから海未ちゃんもいこ?」

ギュッ

海未「!」


ことり「大丈夫、ことりがリードするから♪」


海未「…分かりましたよ」ハァ

ことり「うん♪じゃあいこっか♪」

スタスタスタ

「キャー!ミナリンスキー!」

海未「?!」

ことり「皆さまおかえりなさいませ♪」

ことり「私ミナリンスキーもこれから皆さんのご奉仕させていただきますのでよろしくお願いします♪」

「わー!!!!」

海未「な、なんですかこれ…」ボソボソッ

ことり「こう見えても私、秋葉で伝説のメイドって言われてるんだよ?」ボソボソッ

海未「伝説のメイド…?!」

ことり「まあとりあえず海未ちゃんは私の手を離さないで?」

海未「は、はい」

スタスタスタ

ことり「おかえりなさいませ♪ご主人様♪」

ことり「ほら、海未ちゃんも」ボソッ

海未「え、え?!」

ことり「おかえりなさいませってほら!」

海未「お、おかえりなさいませ!ごしゅじゅ…」

海未「~~~~~っ!」カアアア

ことり「ふふふっこちらは私の大切な人、もとい今日一日限定の海未ちゃんです♪」


海未「あ、え、えっと…よろしくお願いします!」

~その後

海未「はー…」

ことり「海未ちゃんお疲れ様♪」

海未「疲れました…」

ことり「海未ちゃん大人気だったね♪」

海未「ことりさんのせいですよ…」


ことり「こ・と・り!」


ことり「私はことりさんじゃないよ?」

海未「…ことりのせいですよ」

ことり「私のせいじゃないよ?海未ちゃん自身が招いた人気だよ?」


ことり「クールだけどすっごい弱気でかぁわいいメイドさん♪ミナリンスキーのライバルかも?なーんて呼ばれて」ウフフ


海未「なんですかその矛盾は…」ハァ

ことり「みんな海未ちゃんが今日一日限定のメイドさんって聞いた時お客さん驚いてたじゃん、幻のメイドなんて言われちゃって」クスクス

海未「悪目立ちですねそりゃあ…」

ことり「これからも一緒にメイドさんしてくれるとうれしいなぁ♪」

海未「それは…また険しいですね…」

ことり「うーんそっか…あ、でもメイドさん楽しくなかった?」

海未「…あまり」

ことり「………」ウルウル

海未「あ、あー!楽しかったですよ!はい!とても楽しかったです!」

ことり「うふふ、海未ちゃんは優しいね」

海未「はぇ…?」

ことり「私が涙目になった瞬間すぐに感想変えて」クスクス

ことり「焦る海未ちゃんも可愛いね♪」

海未「なっ…私をからかわないでくださいよ!」

ことり「えへへごめんねっ」テヘッ

海未「…で、でもまぁ楽しかったですよ」

海未「大変でしたけど…」

ことり「そっか、ならよかったよ」

ことり「海未ちゃんって自分からは何もしなさそうだったからこうやって思い切って無理矢理連れてきた方が絶対にいいなって思ったの」

ことり「私自身お母さんから色々海未ちゃんのこと聞いて私が海未ちゃんを引っ張っていきたいなって思ってね…」

ことり「………」ウルッ

海未「…?」

ことり「……はい、海未ちゃんお茶だよ」

海未「あ、ありがとうございます」

海未(さっきまでずっと笑顔だったことりさんが突然顔を曇らせた)

海未「あつっ…」

海未(貰ったお茶はものすごく熱かった、今は春、熱いお茶より冷たいお茶の季節なのに)

ことり「…ことり、これでもずっとお姉ちゃんやってきたけど未だにことりがお姉ちゃんだ思えたこと、あまりないんだ」

海未「…どうして?」

ことり「だって…かよちゃん…振り向いてくれないんだもん」

海未「振り向いてくれない?」

ことり「かよちゃんに楽しんでもらうために色々やった、いろんな場所を巡ったしかよちゃん用の可愛い服とかたくさん作ったけどかよちゃん、ずっと同じ態度なんだもん」


ことり「小さい時はあんなに甘えてくれたのに…」


ことり「家ではご飯の知らせとか何かを借りに来る時だけしか喋らなくて…なんか業務連絡してるみたいで…」

ことり「今日海未ちゃんを無理矢理引っ張ってみたけど海未ちゃんもあまり楽しそうじゃなくて…なんだか気を遣わせちゃったみたいで…」


ことり「ことり…かよちゃんのお姉ちゃんにも海未ちゃんを引っ張る先導者にも向いてないのかな…?」ウルッ


海未「そんなことありませんよ」


ギューッ

ことり「うみちゃっ…」

海未「花陽さんもことりさんのこと慕ってくれてますよ、ただ私と同じでそれを口にして言わないだけです」

海未「今日花陽さん言ってましたよ、ことりさんはすごく優しくて頼りになるお姉ちゃんだって」

海未「それに今日のメイド、結構楽しかったですよ、ホントに」

海未「流れ的に気を遣わせちゃったみたいに感じたかもですがウソではありませんよ」

海未「“またの機会”があればまたやりましょう、メイド」

ことり「…!」パアアア

ことり「うん!」

海未「そろそろ帰りましょうか、もうここでお仕事はないんですよね?」

ことり「うん!」

ことり「あ、そういえばまたことりさんって言ってたよね?私の名前は」

ことり「こ・と・り!」

海未「わ、分かってますよ…」

ことり「分かってないからいってるのっ!」

ことり「ほら、もういくよっ」グイッ

海未「わ、わぁまだお茶飲んでませんって!」

ことり「行こうって言ったのは海未ちゃんでしょ!」

海未「そ、それは言葉の綾ですよ!」

ことり「もういいから、それ片付けるからね!」

海未「あぁ…もったいない…」

ことり「じゃあ帰ります!お疲れ様でした!」

<お疲れ様でした-!

ことり「ほらいこっ!」

海未「分かりましたよ…」ハァ

海未(今、ことりを抱きしめてあげれたのは私自身の“強さ”だったのでしょうか)

海未(きっとここが一軒目だったら私はきっとことりに何も言ってあげることが出来ない、そんな気がした)


海未(そろそろ気付き始めてた)


海未(大切なモノを、大切なコトを)


海未(だけど答えはいつまでも見つからなかった)

~南家

ことり「ただいま」

ことり「ほら海未ちゃんも」

海未「た、ただいま戻りました」

花陽「おかえりなさい、お姉ちゃん海未さん」

「おかえりなさい」

海未「!あなたは…」

「ごめんなさい、驚かせようと思ったのだけどあまり驚けるような展開じゃなかったわね」フフッ

海未「え、えっと…」

海未(出てきたのは三日前、私の引き取り先を見つけてくれた学校の理事長でした)

ことり「あれ?知り合い?」

理事長「色々あってちょっとだけね」

ことり「そうなんだ」

海未「あ、あなたがここにいるってことは…」

理事長「そう、私がことりと花陽の母よ?」

海未「やはり…」

海未(よくよく考えればことりと理事長は髪型がまったく同じ…花陽さんはどういうわけか違うけど似てることにまったく気付けませんでした…)

理事長「どこ行ってたの?」

海未「えっとメイ」

ことり「あ、ちょっと色々回ってたの!ゲームセンターとか!」

理事長「そうなの」ウフフッ

理事長「じゃあ楽しかったでしょうに、ご飯出来てるから手洗ってらっしゃい」

ことり「うん!分かった」

海未「わ、分かりました」

理事長「じゃあまたリビングで」

スタスタスタ

ことり「ふう…」

海未「あ、あのどうしてあんなウソを?」

ことり「お母さんにはメイドしてること内緒なの」

海未「どうして?」

ことり「メイド喫茶は私の隠れ場所だから♪」

海未「ふ、ふむ?」

ことり「まぁそういうことだよ」

海未「えぇ?!それ何の説明にもなってないですよ!」

ことり「いいからいいから♪」

海未「も、もういい加減ですね…」

スタスタスタ



海未「これはまた豪勢で…」

理事長「奮闘して色々作っちゃって…食べきれなかったら残しても構わないわよ」

海未「は、はい」

海未「あのそれで…」

理事長「はい?」

海未「なんか花陽さんだけご飯の量多くないですか?」

ことり「花陽ちゃんは」


花陽「当たり前です!!日本人たるものご飯抜きでは過ごしていけません!むしろ皆さんの量が少ないんですよ!」


海未「うぇ…えっ…?」

理事長「んんっ」

花陽「はっ…!」

ことり「あはは…花陽ちゃん、お米のことになると性格変わるから…」

海未「へ、へえ…」

海未(花陽さんも変わった人ですね…)

理事長「まぁとりあえず食べてちょうだい」

ことり「はーい、いただきます」

海未「いただきます」

花陽「いただきます!」

海未(この家族で囲む食卓はすごく和やかだった)

海未(会話はよくあるけど一軒目のように騒がしいわけではなく緩くお話をしながら食べる、それがここでした)

海未(なんだかここが一番家庭感があって落ち着ける場所だなと思いました)

海未(ふわふわしてて甘ったるく羽毛のように柔らかい、何を言ってるか分かりませんがそんなような場所でした)

海未「ふう、ごちそうさまでした」

理事長「はい、食器は私が片付けるからそこに置いといてもらって結構よ」

海未「は、はい」

理事長「それと私は海未さんと大事なお話があるからことりと花陽は食べ終わったら一度自分の部屋に行きなさい」

ことり「はーい」

花陽「う、うん分かった」パクパク!

花陽「ご、ごちそうさま!」

理事長「そ、そんなに急がなくても大丈夫よ?」

花陽「ううんじゃ、じゃあいくね!」

タッタッタッ!

理事長「あ、ちょっと!」

理事長「はぁ…まったくあの子は…」

海未「あの…花陽さんって…」

理事長「ああいう子なのよ、迷惑かけるのがイヤだからなんでもかんでも自分のいいように済ませちゃって」

理事長「ことりもそうだけど普段は落ち着きがあるけど何か起こるとよそよそちゃって困ったものよ」

ことり「ちょっとお母さんどういうこと!!」

理事長「ふふふ、可愛らしいって意味よ」

ことり「絶対違うでしょそれっ!」

海未「そうなんですか…」

ことり「はー…ごちそうさま、じゃあことりもいくね」

ことり「お話終わったら来てね海未ちゃん、ことりのお部屋は二階だからね」

海未「分かりました」

スタスタスタ ガチャンッ

理事長「…じゃあ短いですが少しお話をしましょうか」

海未「はい」

理事長「今日で四軒目よね?」

海未「はい」

理事長「五軒目はないから明日は海未さんの住みたいところの家に行きなさい」



理事長「海未さんはそこで暮らすのよ」



海未「…はい」

理事長「はい、じゃあお話終わり」

海未「はい…あ、え?」

理事長「長いと思った?ホントに少しよ、だって私もめんどくさい話とか好きじゃないし分かりやすく本件だけ伝えれば大丈夫でしょ?」

海未「そ、そうですがなんというか…サッパリしてますね…」

理事長「ふふふ、まぁそういうことよ」

海未「わ、分かりました」

海未「では」

理事長「はーい」

ガチャンッ

海未「…ふーっ」

ことり「お話早かったね」

海未「!」ピクッ

ことり「えへへ、やっぱり気になっちゃって」

海未「…聞いてたのですか?」ジトッ

ことり「ま、まさか誤解だよ」

ことり「私は海未ちゃんを待ってただけ」

海未「そ、そうですか…」

ことり「どうせこの後暇でしょ?」

海未「ま、まぁ…」

ことり「なら私の部屋にきてよ、したいことがあるんだ♪」

海未「したいこと?」

ことり「うん♪」

~その後

ことり「海未ちゃんこれとかどう?」ニコニコ

海未「あの…もうやめません…?」

ことり「えーことりはまだ堪能してないんだけどー」

海未「私の意見ガン無視に始めたのでそろそろ私の意見を尊重しません?」


ことり「このチャイナ服着てくれたらね♪」


海未「はぁ…」

海未「そういえばこの大量の服はどこから…?」

ことり「全部私が作ったんだよ?」

海未「こ、これをですか?!」

ことり「うん♪」

海未「す、すごい…」

海未(あの後私はことりの着せ替え人形をさせられました)

海未(ことりの部屋のクローゼットやタンスからぞろぞろと出てきたコスプレ衣装のようなものを着せられています…)

ことり「ありがとう海未ちゃん♪海未ちゃんのおかげで写真フォルダが潤ったよぉ~♪」

海未「そ、そうですか…よくわかりませんけど私が役にたてたならよかったです」

海未「わ、私の部屋は隣でしたっけ?」

ことり「そうだよ、何もないけどね」

海未「構いませんよ、それでは」

ことり「うんっ」

ガチャッ

海未(それからは何もありませんでした、ことりがところどころ私の部屋に入ってりは出たりをしてちょっかいを出したりして大変でしたがそれでも特徴的なことはなく気付いたら深夜になっていました)


『12:13』


海未「…もうそんな時間ですか」

海未(ベットで横になって時計を確認した)

海未(これ以上起きててもいいことはないので寝ようと思った時でした)

コンッコンッ

海未「!!」

海未(突然真横の壁から音がきこえました)

コンッコンッ

海未「こっちの壁は…花陽さんですか…?」

コンッコンッ

海未「………」

コンコンッ

海未(私もなんとなく壁を優しく叩いてみる)

コンッコンッコンッ

コンコンコンッ

コンッコンッコンッコンッ

コンコンコンコンッ

海未「…ふふふっ」

海未(この壁の叩き合いは2分ほど続きました)

海未(そして2分するとまったく鳴らなくなり飽きたのかなと思い目を瞑りました)

トンットンッ

海未「!!」


「入ってもいいですか?」

海未「ど、どうぞ」

ガチャッ

花陽「えへへ…」

海未「どうかしましたか?」

花陽「一緒に…寝てもいいですか?」

海未「…!」

海未(可愛らしいパジャマで入ってきたのは花陽さんでした)

海未「はい、いいですよ」フフッ

花陽「!」パアアア

花陽「は、はいりますね」

海未「はい」

バサッ

花陽「………」

海未「………」

花陽「手…握ってもいいですか?」

海未「いいですよ」

ギュッ

花陽「温かい…」

海未「…急にどうしたんですか?」

花陽「最初に会って優しくしてもらった時から…一度だけでも甘えたいなって…」デレデレ

海未「…ふふっそうでしたか」クスッ

花陽「わ、笑わないでください!」

海未「す、すいません…つい…」クスクス

花陽「も、もう…」

海未「…ことりには甘えないんですか?」

花陽「お姉ちゃんは…もう散々甘えちゃってもう甘えれないから…こんな歳だし…」

海未「そうですか、でもことりもきっと花陽さんが甘えてくれたら喜びますよ、今日花陽さんが振り向いてくれないってことりがいってましたもの」

花陽「そ、そうなんですか?!」

海未「はい、ことりはただ鈍感だったみたいですね」クスクス

花陽「もう…お姉ちゃんそんなこといって…」

花陽「…後、花陽さんじゃなくて花陽って呼んでくれませんか?」

海未「…分かりました」

花陽「……」ニコニコ

海未「…?なんですか?」

花陽「言ってくれないんですか?」

海未「あ、あーすいません、花陽」

花陽「はいっ♪」

海未「………」

海未(この姉妹はあんまり似てないって思ってましたがそれはどうやら勘違いだったようです)


海未(ものすごい似てる…!)


花陽「えへへ…海未お姉ちゃん♪」ギュギュッ

海未「く、苦しいですよ」

花陽「ごめんなさい、でも私はこっちがいいから…」

海未「は、はぁ…」

海未(とても強引なやりかたでしたがこれがあの二人の特徴なのでしょう)

海未(…この二人はすごく強い人たちですが見方を変えればとても弱い人です)


ことり『私…お姉ちゃんにも海未ちゃんを引っ張る先導者にも向いてないのかな…?』ウルッ

理事長『ああいう子なのよ、迷惑かけるのがイヤだからなんでもかんでも自分のいいように済ませちゃって』


海未(そうですね…だからこの二人はつい守ってあげたくなる二人なのかもしれません)

海未(私が守れるかは別の話ですけど…)

花陽「おやすみ、海未お姉ちゃん」ギュッ

海未「はい、おやすみなさい」ナデナデ

~次の日、学校

ことり「……」プクー

海未「あ、あのことり」

ことり「もーことり一人残してかよちゃんと寝るなんて…」ムスッ

海未「す、すいません…花陽が一緒に寝ようといってきたもので…」

ことり「ことりは海未ちゃんが迷惑かなと思って海未ちゃんの部屋に行かなかったのに…いいならいってよ!」

海未「す、すいません…」

穂乃果「海未ちゃん海未ちゃーん!」

ギューッ

海未「わぁ?!」

ドサッ

海未「うっいったぁ…」

穂乃果「あはは…ごめんね」

海未「なんですか穂乃果…」


穂乃果「なんですかじゃないよ!誰のところにいくの?!」


ことり「!」


ことり「そ、そうだよ海未ちゃん!誰のところにいくの?!」

穂乃果「ん?」

ことり「ん?」


ことほの「海未ちゃんこの子は?」



海未「お、お世話になったところの娘さんですよ…」


ことり「そうなんだ、南ことりですっよろしくね♪」

穂乃果「高坂穂乃果だよっ!よろしくね!」

海未「…じゃあいきましょうか」


穂乃果「いやいやまだ話は終わってないよ!」グイーッ


海未「うわぁ?!」ズイッ

穂乃果「誰のところにいくの!」

ことり「そうだよ!」

海未「それは……」

穂乃果「それは?」

ことり「それは…?」

海未「まだ…決めてません…」

ことほの「えー…」

海未「し、仕方ないじゃないですか!」

海未「とにかくこの話はタブーです、今後やめてくださいよ?」

穂乃果「なにそれ…」

ことり「…」コクコク

キーンコーンカーンコーン

海未「ほら早く席につく!」

穂乃果「はーい…」

ことり「…まぁ最後まで分からないほうがいいよねっ」ボソッ

ことり(その方が選ばれなくても少しの間はまだがっかりしないで済むから…)

海未「………」

海未(私は迷っていました)

海未(本当の最初、つまり一軒目を終えた時は絶対に穂乃果と凛のところに行こうと思ってました)





海未(ですが私が巡り合った二人組には色々な想いがありました)



凛『凛たちのことを選んでくれないかな…?』

穂乃果『行かないでよ…』

穂乃果『私たちの傍にいてよ…ずっと…』


海未(私を傍においておきたい人たち)

希『年上なんかじゃなくてもいい!ウチは絶対に海未ちゃんを放なさい!』

絵里『私だって海未をお持ち帰りできるならそうしたいわよ!!』

絵里『でも海未にも未来があるの!そんな未来を希が汚すの?!希が海未の未来を縛り付けるの?!』


海未(私を放したくない人たち)

真姫『もし私たちのところに帰ってきてくれるなら、また歌詞書いてね』

にこ『絶対に帰ってきなさいよね!!』


海未(私を必要としてる人たち)

ことり『ありがとう海未ちゃん♪海未ちゃんのおかげで写真フォルダが潤ったよぉ~♪』

花陽『最初に会って優しくしてもらった時から…一度だけでも甘えたいなって…』


海未(私に甘えたい人たち)

海未(そんなそれぞれの想いを受け取ってたら穂乃果と凛のところにーなんて言ってる場合じゃなく誰のところにいけばいいのか分からなくなってしまいました)

海未(誰を選んでも誰かが傷つくこと、私は知ってたはずなのに…知らないふりをしてたんです)

海未(だから…この確かな時を刻む時間が恋しかったから…)


海未(今日という今日がとても早かった)

~昼

希「うーみちゃんっ♪お昼作ったから一緒に食べよー?」

にこ「はいはいストーップ、海未は私たちと食べる?分かった?」

希「なんでや!ウチらの方が早くきたやん!」

にこ「海未は私たちと食べたがってるの、それが分かったらさっさと帰りなさい」シッシッ

希「分からないから帰らないもんねー」ベー

にこ「ぬぁにをぉ?!」

海未「あはは…」

海未(昼はみんな私のところへ来てくれました)

海未(こんなにも私と仲良くしてくれて…でもそれはみんな同じで…)

海未(みんな同じように私と仲良くしてくれるから…余計に誰のところに行けばいいのか分からなくて…)

凛「海未ちゃんそのおにぎりどう?具は凛の大好きなラーメン!」

海未「お、美味しいですよ!」モグモグ

絵里「希に色々教えてもらってペリメニっていうロシア料理作ったの!どうかしら?」

海未「お、おいひいでふ!」モグモグ

真姫「ほら口に食べ物が溜まってるじゃない、仕方ないからこの私が作ったトマトから出来上がったトマトジュースでも飲みなさい」

海未「ふみまふぇん…」ゴクゴク

花陽「まったくおにぎりの中にラーメンなんておこがましすぎます!」

花陽「ここは私の作った愛情たっぷりのおにぎりを食べてください!」

海未「ふぇ…ふえ~…」

海未(堂々巡りをしてるうちに“ここにいる九人全員が家族だったらいいのに”なんていう夢物語を奏でてた)

海未(みんながくれるこの愛情のうち八つ中六つを捨てなければならないなんて残酷すぎて何も答えが見つからなかった)

海未(こんなにもみんな明るく振舞ってくれてるのに、私はこんなにも暗い考えをしてた)


海未(そしてそれは時間が解決してくれる問題じゃなかった)

キーンコーンカーンコーン

先生「〇〇が〇〇で~」

海未「……」ボーッ

海未(午後はほとんど授業に集中できませんでした)

海未(中身が空っぽな想像を膨らまして、散々絵空事を育てて)


海未(その時の私に答えを探してる様子はどこにもなかった)


キーンコーンカーンコーン

海未「!!!」

海未(そして気付けば時刻はもう放課後の時間でした)

穂乃果「海未ちゃーん!一緒にかーえろっ!」

ことり「ことりもことりも!」

海未「す、すいません今日は放課後やることがあるのでまた明日でお願いします」

穂乃果「そ、そっか!分かった!じゃあ“また明日”ね!」

ことり「“また明日”♪」

海未「はい、“また明日”」

スタスタスタ

海未「…はぁ」

海未(穂乃果とことりが放った“また明日”の言葉、神経質な私はこの言葉を深く読み取ってしまった)


海未(私が来ないと分かっていたからまた明日と言ったのでしょうか)


海未(…もし違ってたら私は本当に大馬鹿者ですね)ウルッ

海未「………」

チクタクチクタク

海未(時を刻む音がする)

海未(このまま時間が止まればいいのに、そしたら私は考えずに済むのに)


海未(幸せなようで不幸な時間が来ることなんてないのに)


海未(…最初は、ことりのお母さんに家族が欲しいって言った時はダメ元でのお願いでした)

海未(引き取り手がいてもやっぱり遺産目当てで愛なんてくれないんだろうって思ってた)

海未(だけど結果は違った)

海未「はぁ…」


海未(その結果を超えて今や引く手あまたな私がそこにはいた)


海未(全員が充分すぎるほどの愛をくれた)

海未「空…暗いですね…」

海未「帰りたくないです…」


海未「……どこに帰るのでしょう…?」


海未「……ッ」

海未(そんなこんなで時刻はもう正門を閉める頃でした、それまで私は片肘をつきながら外をずっと見てた)

「あら、まだいたの?」

海未「!!」

理事長「うふふ、こんばんは」

海未「こ、こんばんは…」

理事長「もうほとんどの生徒は帰ったわよ?早く帰らないと」

海未「………」

理事長「…その様子だとどこに帰ればいいか分からない感じかしら?」

海未「は、はい…」

理事長「なるほど…」



理事長「…あの四日間、どうだった?」


海未「すごく…幸せでした」

海未「あの人たちといるだけでぽっかり空いた心が愛で満たされてこの人たちと一緒ならすごく楽しめるって思いました」

海未「…でもそれは今まで回った四組すべてに言えることだから…決められないんです…」

理事長「ふむ…」

海未「それに…」

理事長「それに?」

海未「私がどこかに帰ったとして喜べるのは帰った先の人たちだけなんですよ、他のみんなは…」

理事長「……そういうこと」

海未「…そういうことです」

理事長「…案外、みんなサッパリしてるかもよ?」

海未「サッパリ?」

理事長「そりゃあ海未さんが帰ってきてくれたら嬉しいけど帰ってこなくてもそれを受け止める心は持ってると思うわよ?」

海未「どうして…そう思うのですか?」

理事長「だってことりが言ってたもの」


理事長「海未ちゃんと家族になれたら最高だけど友達のままでもすごく嬉しいって」


理事長「悲しいなんて一言も言ってなかったわよ?」

理事長「…まぁ強がってたのかもしれないけど」

海未「ことりが…ですか」

海未(絶対に強がってる、そう思いました)

海未(やはり行かなかったら悲しむんだ、私の中ではそういう絶対的な考えが浮かび上がった)

理事長「まぁみんながことりみたいな気持ちを持ってるわけじゃないと思うけど、多少のことは振り切っていかないと帰る場所、一生見つからないと思うの」

理事長「みんな、海未さんを家族として迎え入れたいからって色々なことしてくれたでしょ?」

海未「…はい」

理事長「要は海未さんの行きたいところの行けばいいの、誰が悲しむとか関係なしに海未さんが一番行きたいところへ行けばいいと思うの」

海未「一番行きたいところ…」

理事長「みんな海未さんのこと愛してくれたんだから、背中を押してくれたんだから海未さんも誰かに応えてあげなきゃ」

海未「誰かに…」

理事長「そう、もう下校時間は過ぎてるのよ?とりあえず考えるなら正門を出てから考えなさい」

理事長「きっとすぐに答えが見つかるから」

海未「どういうことですか?」

理事長「いいから出る出る」

理事長「帰りの挨拶、はいっさようなら」

海未「さ、さようなら」

海未(納得と理解はあまり出来ないものの理事長の言われる通り正門を抜けて学校外に出ました)

スタスタスタ

海未「……分からない」

海未(やっぱりわからなかった、答えなんて見つからなかった)

海未「………」タッ

タッ…タッタッタッ!

海未(行き先も考えずに夜道を走った)

タッタッタッ…タッ…タッ………

海未(でもすぐに走るのをやめた)

海未(行き先もなく走るなんて意味のない行為が自分の首を絞めていることに気付いたから)

海未「………」スタスタスタ

海未(私は今どこへ向かってるのでしょう)

海未(街灯が並ぶ道を歩きながら思う)

海未(道端でわざとらしく輝きを放つ光が綺麗だった)

海未(電光掲示板、小さなイルミネーション、街灯)


海未(車のヘッドライトが眩しかった)

スタスタスタ


海未「あまーいふるーつだんすっだんだんりずーむかーわるっ…♪」

海未「ひーみつのぶーらんこあーなたとゆれながらいーまー…♪」

海未「ずるいよ…ずるいよ…ほんねをかーくしてーるー…♪」

海未「すきだからー…すきですとー…いうだけじゃーたりないのー…♪」


海未「…何の歌でしょう、これ」

海未(無意識のうちに歌ってた、歌)

海未(聞いたこともない謎の歌)

海未(歌を歌いながらも私の足はどこかへ向かってた―――――――行き先もないのに)


海未(そんな時だった)

ピコンッ♪

海未「!」

『穂乃果』

海未「穂乃果…?」

海未(穂乃果からメールがきた、通知を見た私は恐る恐るメッセージを開いてみた)

『こんばんは、もう誰かのお家にいるのかな?
もー酷いよ海未ちゃーん、凛ちゃん泣いてたよ?私も泣いちゃったし…









なんてね、冗談だよ
海未ちゃんが私たちを選んでくれなかったのはすごく残念だけど私も凛ちゃんも我慢したから大丈夫
凛ちゃんなんて海未ちゃんの家に遊びにいくって張り切ってるんだよ?
だから今度お泊りさせてね!
そしてありがとう!さいっこうに楽しかったよ、あの時間

また泊まってね、海未ちゃん

待ってるから!』

http://i.imgur.com/YxQB5cn.jpg

ピコンッ♪

海未「!!」

『希』

海未(穂乃果のメッセージを読み終えた途端、次に希からメールが来ました)

海未(だからまた恐る恐るメッセージを開きました)

『こんばんは海未ちゃん
今頃ご飯を食べてる時間かな?
あーあーとうとうウチらのところに来なかったなー
待ってたんだけどなーなんて(笑)ウチらは海未ちゃんが幸せならそれでいいんだけどね!
えりちがなー私たちの愛を超えるやつがどんなやつが見たいんだってさー

…………つまりは今度お泊りさせてってこと♪

海未ちゃんがいないのは寂しいけど、学校でいっぱい可愛がってあがるから覚悟しとき?
えりちも可愛がる気満々だからね(笑)

最後にあの最高の時間をありがとう、ウチものすごい幸せだった

だからまた泊まりに来てね?

希、えりちより』

http://i.imgur.com/cOs5Olx.jpg

海未「………」ウルウル

ピコンッ♪

海未「!!!」

『真姫』

海未「真姫…」

ピッ

『こんばんは、真姫です

まずは最初に報告です
なんと海未が書いてくれた歌詞で作った歌がライブで超盛り上がってます!
お客さんもすごいノリノリでちょっとだけ知名度が上がったみたい
ありがとう海未、あなたのおかげでまだ音楽続けられそうだわ

そして次に私から個人的なメッセージです
海未がここに来てくれなかったのはすごく悲しい、でも海未が私たちに置いてきてくれたものがあるから私たちは大丈夫
にこちゃん、海未が来なくて泣いてたけど今は元気にしてるわ
余計なお世話かもだけど海未ってとても真面目だから行かなかったところの人たちのこと気にしてるんじゃないかと思って送ったの
だからもう一度言うけど私たちは大丈夫、元気です

そして最後に
あの時の時間、一生忘れないわ
これはきっと私とにこちゃんにとって始まりの時だったから、
この時間を絶対に忘れない

ありがとう、海未

P.S. にこちゃんがまた歌詞を書いてだそうです
もし暇だったら書いてあげてね、強制はしないから』

http://i.imgur.com/HJL573M.jpg

海未「…ひっく…ぐすっ…」

ピコンッ♪

『ことり』

ピッ

『こんばんは♪ミナリンスキーこと南ことりです♪

ことりは今、服を作っています
何の服だと思います??

ちゃんと考えてから下にスクロールしてよ?



答えはメイド服でした~♪

え?なんでメイド服かって?
だって海未ちゃんともう一度メイドさんしたいから♪
昨日はお店のでやったけど今度はことり特製のメイド服でやろう?

絶対だからね?

それから海未ちゃん、来なかったね
花陽ちゃんもことりもすごく寂しいけど学校で海未ちゃんと会えるなら全然大丈夫♪
また私が引っ張ってあげるから待っててよね(・8・)ピヨピヨ

後、また私たちの家に泊まりに来てよね
お母さんも待ってるから♪

ことりより』

http://i.imgur.com/eFJ0MYq.jpg

ポロ…ポロ…

海未「ひぐっ…う、うわああああああああああああ…」ポロポロ

海未(こんなところでもみんなの優しさを感じて思わず涙が出た)

海未(ことりのお母さんの言ってたこと、これだったのかもしれない)

海未(みんな受け入れてくれてた、私だけがズルズルと引きずってた)

タッ…タッ…タッタッタッ!

海未(そうと分かった途端私はどこかへ走り出してた)

海未(その足は止まらなかった)


海未(この動き出した足は行く先が決まってる足だった)


海未「はっ…はっはっはっは…!」

海未(ひたすら目の前の光を追いかけた)

海未(瞳に宿した二つの光、それずっと追い続けてた)

海未「もうすぐ…もうすぐ…!」

海未(走ってる勢いで髪がずっと靡いてた)

海未(夜だから、外が暗かったからすぐに分かった)

海未(私を照らしてくれる光を)


海未(希望の光を)


キラキラキラ…

海未「ここ……」

海未(その足は見覚えのある家の地についた)

海未「すー…はー…」

海未「…よし」

海未(覚悟を決めた私は、そのドアを開けた)




海未「ただいま!」



「…!!」



「お、おかえり!」






海未「今日から…よろしくお願いします!」


海未(帰った先にいた二人は輝いてた、とびっきりの笑顔で私にとって眩しすぎる光を放ってた)

海未(そう、だから私はここに来たんだ)

海未(この…)

海未(二人の魅力に誘われて)


海未(二つの笑顔に魅せられて)





海未(二つの光に導かれて――――――――)





END

ということで終わりです
ここまで見てくれたから本当にありがとうございました。
次回もまたよろしくお願いします
http://i.imgur.com/llvbrTZ.jpg

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