【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」 (40)

人情物。
ほんのりカニバ要素あり。

剣士はでてくる。


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読み切り 
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【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」

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二宮飛鳥は、羅生門の上にすむ怪であった。

もとは人であったものが変化した。

といっても1人ではなく、

水子の霊が集まって形を成していた。

ものを食べるようになる前に死んだからか、

飛鳥の食欲は旺盛だった。

たびたび人を襲っては肉を喰らい、臓腑を啜る。

住民達は飛鳥を、

“門上の悪鬼”と呼んで、ひどく恐れた。

その悪名が広まると、

「僕はアスカ。二宮飛鳥。

ボクはキミの事を知らないけど、

キミはボクを知っているのかい?」

このような台詞を吐いて、

飛鳥はさらに人を襲うようになった。

その精神は捩くれていた。

だが飛鳥は怪であったため、殺されなかった。

高名な剣豪とやらが

やってきたこともあったが、逆に食ってやった。

また、数多の霊が集まっているからか、

供養も祈祷も意味を成さなかった。

飛鳥が大人しくなったのは、都を大飢饉が襲った頃。

毎日夥しい餓死者が出て、

その死体は羅生門の上に捨てられた。

飛鳥は、わざわざ人を襲う必要がなくなった。

日がなごろごろして、

死体が運ばれてくるのを待つ。

気分はまるで殿様である。

いや、もしくは乳飲み子か。

そう自分で思って、飛鳥は苦笑した。

乳の味など、知らなかったから。

退屈しつつも、腹はふくれる毎日を過ごしていると、

ある時、薄幸そうな女がやってきた。

髪の色は、青みがかった黒。目尻がすこし尖っている。

顔立ちは美人だが、

こちらが気後れするような鋭敏さが感じられる。

「やあやあ初めまして。

 狭いし散らかっているが、くつろいでくれ給えよ」

満腹でやることもなかった飛鳥は、女に言った。

暇つぶしのつもりだった。

「あなたが門上の悪鬼…」

女は、飛鳥の方をじろじろ見た。

「せっかく会いにきてくれたのに、

こんな格好で申し訳ないね」

飛鳥は肩をすくめた。

飛鳥が身にまとっているのは、

死体からはぎとった襤褸である。

“生まれて”からずっと、それを着ている。

「突っ立ってないでかけなよ。

腐った死体って、

けっこう柔らかくて心地いいんだ」

飛鳥は積み重なった死体の上で跳ねた。

汁っぽい音がして、

死体の口から百足が這い出してきた。

それを見て女は眉をひそめたが、

物怖じせず飛鳥に言った。

「お願いがあるの」

まさか、日々の死体は貢物で、

自分は神だと勘違いされているのか。

飛鳥は苦笑した。

人間達は生きているくせに、目が腐っているのか。

「こんなボクに御利益がありそうに見えるなら、

まあ言ってみたまえよ」

飛鳥はそう皮肉を飛ばした。

まこと、まわりくどい話し方をする怪である。

女は一息すいこんで、願いを言った。

「私を食べてほしいの」

「はあ」

気怠げに飛鳥は返した。今は満腹である。

くわえ、人間の方からどうぞ

食べてくださいましと言われるのは、なんだか興冷めだった。

そこで飛鳥は退屈しのぎに、ある提案をした。

「1日1話、何か話して。

 それが100話になったら、

 キミを食べてあげる」

二宮飛鳥と和久井留美の関係は、

こうやって始まった。

飛鳥はまず、和久井に

食われたがる理由を尋ねた。

聞いてほしかったのか、

和久井はよく喋った。

結婚を約束した許婚がいて、

身体まで許したのに、捨てられたのだという。

でも自殺すると、本気になっていたと相手に

知られるから、嫌。だから食べて欲しいのだと。

阿呆な女だ。

飛鳥は思った。

食うに困って餓死するものが多いのに、

贅沢なのは格好だけではないのか。

和久井の服装は、

藤色の立派な着物で、裕福な武家の娘だと分かる。

「キミ、いままで苦労したことなかったんだね」

飛鳥ははっきりと伝えた。

和久井は、うぐ、と呻いた。

飛鳥は、和久井から外の世界の話を聞いた。

それによると、

他所にも自分とおなじような怪がいるらしい。

一目会ってみたいと思ったが、それはできなかった。

飛鳥を構築する水子たちは羅生門に憑ついていて、

そこを離れると、形を保っていられなくなる。

2度も死ぬのはごめんだった。

和久井は、飛鳥によくお土産を持ってきてくれた。

酒と菓子。

酒の方はにがくって駄目だったが、

菓子の方は甘くほろほろ溶ける。

飛鳥の口は人肉で脂っこくなっていたから、

こういう感触は新鮮であった。

腹にはたまらないが、舌が喜んだ。

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