サムエル「二千年後まで、さようなら」(30)



もし、この世界が一つの物語だったなら。
俺は、巨人を見上げる民衆の一人になりたかったなと。

解散式の夜、エレン.イェーガーはそう云った。



【858年】


ズーン……パラパラパラ……

ガラガラガラ


衛生兵A「輸血の用意を!それと、ガーゼが足りません!!早く補給してください!!」

サムエル「了解!」ガサゴソ

ズゥゥーン……

サムエル「……っと、と」グラッ

衛生兵B「班長!補給終わったら、傷口の縫合お願いします!!」アセアセ

サムエル「お前でやれ!訓練兵団で習っただろ!?」

衛生兵B「でっ、できません!習ってません!!」ブンブン

サムエル「できないじゃない、やれ!!繕いものと同じだ!!
     ……ああくそっ、片足の人間をこき使いやがって!!」バタバタ


俺が怒鳴りながら指示を出す間も、次から次へと負傷した兵士が運びこまれてくる。
この野戦病院は、さながら小さな地獄だ。

バターンッ


衛生兵D「ヤクソン班長!!」

サムエル「次はなんだ!!」

衛生兵D「マーレのっ…マーレの先遣隊が突撃してきました!」

サムエル「防衛班はどうした!」

衛生兵D「それがっ…敵の勢いが強く、押されています!このままじゃ、シガンシナ区が…!」


調査兵団がなんてザマだ。リヴァイ兵長が現役だったら削がれてんぞ。
これだから、立体起動が必修じゃなくなったゆとり世代は……。


サムエル「俺の対人用立体起動を持ってこい」

衛生兵D「危険です!それに、班長にもしものことがあったら…」

サムエル「黙れ!ここの防衛は衛生班の仕事だ!!お前はさっさと俺の班を集合させろ!!」ゴスッ


尻を蹴飛ばすと、若い衛生兵は半泣きで駆けていく。
俺はそのあいだに、散弾銃を装備した立体起動装置をつけて、
義足がすっぽ抜けないようベルトをギリギリと締め上げる。


衛生兵D「救命衛生第一班、集合しました!!」ビシッ

サムエル「よし、全員立体起動に移れ!マーレ先遣隊の背後に回りこむぞ!!」バシュッ!

全員  「「「「了解!!」」」」


塹壕から走り出た俺たちは、星空の下を飛んでいく。

バシュッ、ゴオオ…

サムエル(……マーレ人はエルディア人に比べて骨が弱い。だから、立体起動装置は
     俺たちエルディア人しか使えない)パシュッ

サムエル(これも、壁の外に出てから知ったことの一つだ)ギュルルル


バアンッ!

ワイヤーを巻きとって接近する俺に、岩場のすきまから銃弾が飛んできた。


サムエル 「いたぞ、先遣隊だ!総員、戦闘に入れ!」ガッ


俺は撃った敵兵のヘルメットにアンカーを突き刺して、体を回転させる。

敵兵A 「ぐっ……」バタンッ

チュインッ、チリッ

そのまま散弾銃を構えた俺の頬とワイヤーを、銃弾がかすめる。


敵兵B 「自由の翼……エルディアの調査兵団だ!」

敵兵C 「ひるむな!撃てぇ!!ワイヤーを狙え!!」

ガガガガガッ!!


衛生兵A「うおおおおお!!」ギュルルル

ザクッ!

衛生兵A「よっしゃあ、討伐数10!」グッ

衛生兵B「おいおい、俺の補佐も忘れんじゃねえぞ!」ギャハハ

敵兵B 「くそ、撤退だ!てった……」ザクッ

衛生兵B「死ね、マーレの二等民が!!エルディアの力を思い知「やめろ!」班長……」シュン


こいつ、エルディア至上主義者だったのか。
マリア奪還後からこういううるさい奴が増えたな…。


サムエル「お前らに聞きたいことがある。レベリオとの通信が途絶えているのはどういう事だ?
     戦闘はどうなった?」

敵兵C 「ひっ…」ガタガタ

サムエル「軍用鳩が還ってこない。だからお前らから聞くしかないんだ。答えろ」

敵兵D 「あ、悪魔の末裔め……俺たちマーレは屈しないぞ、最後の一人になるま」ザシュッ!


ギュルルル…ストンッ


衛生兵C「ヤクソン班長、ご無事ですか!」ポタポタ

サムエル「……俺は平気だ、それより索敵の報告を」

衛生兵C「周囲に敵の隊はありませんでした!」

サムエル「よし、帰還するぞ」

衛生兵C「はっ!」ビシィッ

サムエル(あーあ……これなら、巨人と闘ってりゃよかった時代の兵士の方が、気が楽だったろうなあ)

【二日後】


バタバタバタ…バンッ


衛生兵A「ヤクソン班長、精鋭部隊が到着したとのことです!」

サムエル「やっとか……レベリオ収容区の解放は無事に終わったのか?」

衛生兵A「ええ。"超大型"がやってくれたそうで。マーレ軍の飛行艦をグシャーッ!って!!
     いやあ、僕も見たかったなあ」キラキラ

サムエル「……そうか」(アルミン……)


カツーンッカツーンッ


衛生兵A「そういえばヤクソン班長って、あの"104期"なんですよね」

サムエル「ああ、生き残ってるのはもう俺を含めて5、6人しかいないけどな」

衛生兵A「じゃあ今日は、久しぶりの同窓会ですか?」

サムエル「バカ言うな、この非常事態に」ガチャッ


俺が入ると、整列していた衛生兵たちがザッと敬礼する。
その中で、ひときわ美しい黒髪をなびかせた彼女と目が合った。

ミカサ 「ひさしぶり、サムエル」

アルミン「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」

サムエル「気にするな。お前らが無事で何よりだよ。ミカサ、アルミン」

ミカサ 「…ふふっ、サシャじゃなくてがっかりした?」

サムエル「何を期待してんだ首席様」

ミカサ 「サシャは無事。一足先にトロスト区へ帰った」

サムエル「よかった……」ホッ

アルミン「……」ゴホン

ミカサ 「……あ、いけない。またアルミンにお説教されてしまう。
     ええと…"エルディア軍調査兵団戦闘分隊長、ミカサ.アッカーマン以下15名、
     ウォール.マリアシガンシナ基地へ帰還いたしました!"」ビシッ

ミカサ 「……これで、合ってる?」オズオズ

サムエル「……」

アルミン「……」

サムエル「……ぷっ!…あっはっはっは!!」

ミカサ 「!?」

アルミン「はははっ……ミカサ、君って本当に……いや、ごめ…あはははは!」

ミカサ 「わ、笑わないで!私は、真剣に……」


◆◆◆◆


サムエル「なあミカサ、悪かったって。別にバカにしたわけじゃないんだから」

ミカサ 「……」むすー

サムエル「えーと、その……俺たち、同期だろ。だから堅っ苦しいのやられると
     なんか変な感じするっつーか、だから」

ミカサ 「……それならそうと、言えばいい」

サムエル「はい、ごめんなさい」ニコニコ

ミカサ 「許す」


俺たちは連れ立って、シガンシナ基地の中を歩いていた。
(アルミンはハンジ団長に会いに行った)

そういえば、訓練兵団の頃も、エレンとは仲良くやってたけど…ミカサとは班も違ったし、
こうして二人で話すのは初めてな気がする。

ミカサ 「……ウォール.マリアを奪還してから、色々なことがあった」

サムエル「……そうだな」

ミカサ 「まさか、巨人が同じ人間だったなんて……考えたこともなかった。
     心の整理がつかないまま、調査兵団はエルディア軍として再編されて……
     4年後に、マーレとの戦争が始まった」

サムエル「半年目にパラディ島を制圧……さらに大陸まで侵攻した俺たちエルディア人は、
     ついにレベリオ収容区を解放して、同胞たちと感涙の再会……ってか。
     胸クソ悪くなる話だよな」

ミカサ 「でも、そうしなきゃエルディア人が滅ぼされてしまう。
     よくないことだけど、やらなくちゃいけない」

サムエル「……」

ミカサ 「……」


俺たちはしばらく、黙って花壇を眺めていた。

ミカサ 「サムエル、実はもう一つ、悪い知らせがあるの」

サムエル「……なんだ?」

ミカサ 「エレンが、もうすぐ死ぬ」




サムエル「……はっ?」

ミカサ 「私と一緒に来てほしい。そこでエレンが待ってる。
     仲間たちへ最期の言葉を伝えるために」

ミカサ 「お願い、サムエル。あなたも一緒に、エレンの命が消えるのを見届けてほしい」


ざあっと風が吹いて、舞い上がった花びらがミカサの顔を覆い隠す。
だから俺に分かったのは、手をとったミカサの声が震えていることだけだった。

【現在公開可能な情報】


サムエル.リンケ=ヤクソン

23歳。調査兵団戦闘支援分隊、救命衛生第一班班長。
従軍医師は厳密には兵士ではないため、赤い十字マークの腕章をつける決まりになっている。
サシャは大恩人。上位10名以外の104期生唯一の生き残り。


調査兵団

エルディア人たちの軍隊として、憲兵団と合体し再編される。
一方、駐屯兵団は独立を保っており、居住地区の最終防衛ラインを担当している。
訓練兵団も存続。しかし、現在は対巨人より対人のための訓練を主とする。


立体起動装置

現在は、軽量化と共にマシンガンの装備された対人用が主流。
ワイヤーは銃撃でもなかなか壊れず、また、マーレ人の骨格では使いこなせない。
しかし、エルディアは大型兵器の進歩に乏しいため、
立体起動をもってしても、戦況は五分五分といったところである。


>>1に書き忘れた


※サムエルでリプ来たので書いた

※設定とかだいぶ自己流

【数日後】


レベリオでの勝利は、確実にエルディア軍の士気を上げている。
このまま一気にマーレを攻め落とすのも不可能ではないだろう。


ガタガタ…


ハンジ 「だからこそ、ここでエレンに死なれちゃ困るんだけどね。ほんとは」

サムエル「は、はあ」

ハンジ 「エレンはやっぱり、エルディア人たちの英雄なわけだよ。
     あ、"進撃の巨人"はね。マリア奪還からパラディ制圧まで、よく闘ってくれたかおおっとお!!」グラッ

ハンジ 「いやあ、石畳って馬車には優しくないね。で、どこまで話したっけ?
     ああ、エレンの死が及ぼす影響についてだね」

サムエル「俺は巨人に疎いのですが……心配はいらないのでは?その、巨人の力は、継承できるんでしたよね」

ハンジ 「うん。あ、もしかして継承のやり方も知ってる感じ?」

俺がうなずくと、ハンジ団長は「そっか」と目を伏せた。

サムエル「……もう、進撃の巨人の継承者は決まってるんですか?」

ハンジ 「それについては、本人から聞いた方がいいと思うよ。
     エレンも、最後は友達と過ごしたいって希望していたからね」

ガタンッ…


ハンジ 「さあ、着いたよ。降りて」

サムエル「ここは……」


きっと王都の地下あたりだろうという予想に反して、
連れてこられたのは白壁の立派な城だった。広々とした庭園や、青いとんがり屋根は、
まるで童話から抜け出たみたいな風情だ。


ハンジ 「旧調査兵団本部。懐かしいなあ、エレンは初めての壁画調査に行く前も、ここにいてさ。
     よく訪ねて行ったもんだよ」

サムエル「ここがエレンの終の棲家ですか」

ハンジ 「いいとこでしょ?ちょっと中は暗いけど」ギィィ…

カツーン…カツーン…


サムエル「あの、団長」

ハンジ 「んー?」

サムエル「さっきからだいぶ階段を下りている気がするのですが。なぜエレンはこんな場所に?」

ハンジ 「まあ、念のため……ね」ガチャッ

連れてこられたのは、地下牢のような場所だった。
といっても、檻は取り外されて、なかなか快適そうだ。

エレン 「サムエル!来てくれたんだな!」ガタッ

サムエル「エレン……」

エレン 「何しみったれた顔してんだよ、俺はこのとおりまだ元気だぜ!」バシバシ

俺の背中を叩く手は、全然痛くなかった。
エレンの顔には血管が浮き出ていて、血色も悪い。
もう長くはない、というのは本当らしい。


エレン 「しっかし、お前が生き残るとは思わなかったなあ」

サムエル「俺もな。座っていいか?」

エレン 「おう。久しぶりに会ったんだし、昔話としゃれこもうぜ」

ハンジ 「んじゃ、私はちょっと上で用事があるから。ゆっくりしていってね」


カンカンカン…

団長の足音が完全に聞こえなくなると、エレンは「フーッ」と息を吐く。


エレン 「なんつーか、いざこうやって向き合ってみるとさ。何喋っていいのか
     分かんねえな」

サムエル「そうだな。まあ、ジャンたちもすぐ来るからよ。それまでテキトーに
     ヒマつぶそうぜ。つーかエレン、お前よく俺のこと覚えてたな」

エレン 「忘れるわけないだろ!同じ固定砲整備班だったし、仲良くやってたじゃねーか!
     ……あの後、20人ちょい生き残ったのは知ってたけど、ビックリしたぜ。
     名簿見たらお前しかいねえんだもんな」

サムエル「まあ、俺は前衛に出ないからな、なんたって従軍医師だし」

エレン 「医師?」

サムエル「あ、そういやエレンは医者の息子だっけ」

エレン 「そうだけど。??なんでお前……」

サムエル「ああ、サシャが俺の足にアンカー突き刺して助けてくれたのは覚えてるか?」

エレン 「ありゃ強烈だった。一生忘れねえ光景だよ」

サムエル「そのあと兵団病院に運びこまれたんだけどな、怪我人が多すぎたもんだから、俺は
     後回しにされたんだ。ごった返してる中で消毒も忘れられて、そのうち足がグジョグジョに膿んできて」

エレン 「げっ…聞いてるだけで痛くなってきた」

サムエル「結局、切り落とすことになって」カポッ


エレン 「あー!見せんな、見せんな!」

サムエル「……で、当然兵士には戻れないってことだったんだけど、やっぱサシャに助けてもらった
     恩は返したいって思ってな。エルミハ区の王立医学校を出て、ちょうど再編されたばっかの
     調査兵団に潜りこんで、今に至る……ってわけだ」カポッ

エレン 「……お前も、苦労したんだな」

サムエル「よせよ。お前に比べれば楽だ」

エレン 「……いや、改めて気づかされた感じだ。皆、俺の知らない所でそれぞれの闘いをしてたんだな」


ガチャッ…カンカンカンカン


サシャ 「エレーーン!ケーキ持ってきましたよー!!」

ジャン 「よおエレン、死んでないかと思ってヒヤヒヤしてたぜ」ニタッ

ミカサ 「ジャン……悪気がないのは分かるけど、さすがに今日は」

ジャン 「わ、悪かったよ。ただ…予定変わって会えなかったら、どうしよう……って」モゴモゴ

ミカサ 「ならいい」

エレン 「お前ら…」

ミカサ 「それはそうと、サムエル、来てくれてありがとう」

サムエル「約束したからな」

ミカサ 「でも……大丈夫?シガンシナはあなた以外に医師がいないんでしょう?」

サムエル「今日一日くらいは、ヒヨッコ衛生兵で回せるさ」

サシャ 「あ、サムエルも来てたんですか!?前に会ったのがたしか、医学校いたころだから……
     ごめんなさい!手紙も全然出せなくて……」アワアワ

サムエル「いや、仕方ないだろ。バタバタしてたし」

サシャ 「それはそうと…」ダラァ


大きなケーキを抱えたサシャは、もう食べたそうにヨダレを垂らしてる。
それを見たジャンは「エレン、皿出してやれよ」とあきらめた。

エレン 「ヒストリアは?」

サシャ 「ちょっと……出られないそうです」

エレン 「そっか。大変だもんな、女王様は」

サシャ 「……何か、伝えておいてほしいこと、ありませんか?」

エレン 「じゃあ……"元気でな。それと、ありがとう"って」

ミカサ 「分かった。絶対に伝える。シャンパンを注ごう。サシャが飢えた奇行種みたいになってる」



エレン 「美味そうなケーキだなあ!サシャが焼いたのか?」

サシャ 「私とミカサの力作です!エレンの大好きなプラリネ入りですよ!」ガツガツ

ジャン 「がっつくな!俺らの分がなくなるだろーが!」

サシャ 「大丈夫です!大きめに焼きましたから!」

サムエル「ほんとだ、どう見ても10人前はあるぞこのケーキ」モグモグ

ミカサ 「ちなみにプラリネは私の自信作」モグモグ

エレン 「ミカサ、俺が好きだって言ったの覚えてたのか?」

ミカサ 「家族だから、当然」ゴックン


しばらくおしゃべりしながらのティータイムを楽しむ。
ふいに、エレンがフォークを置いて呟いた。


エレン 「……訓練兵の頃はさ、こんなでっかいケーキ食えるなんて想像もしてなかったな」

ジャン 「砂糖もバターも、貴重品だったからな」グビッ「……ふう。このカルバドスも、昔はお貴族サマの専売品だったしな」

エレン 「……マーレとの戦争に勝ったおかげで、今……こんな美味いケーキが食えるのか」

サムエル「つまり、お前のおかげだ。ありがとな、エレン」

エレン 「……」

じっとケーキを見つめて、エレンは少し悲しそうな顔をした。


ジャン 「おい、何しみったれた顔してんだよ。俺らは感謝してんだぞ」

サシャ 「そうですよ!エレンが闘ってくれなきゃ私、飢え死にしてたかもしれません!」

サムエル「壁の外に行けるようになったのも、お前のおかげだぞ。お前が、自分の夢をエルディア人
     みんなに分けてやったんだ」

ジャン 「砂の平原、氷の大地、炎の山……全部、お前のおかげで見れた。すげえよ、お前は」

ミカサ 「そう。あなたは英雄。私たちにとっても、エルディア人にとっても。
     マーレ人がいくらあなたを恨んでも、私たちは誇りに思う」

ミカサ 「きっと……あの三人も、そうだった」

エレン 「……!」

エレン 「そう……か。そう…だよな。お前らがそう言ってくれるなら、俺……
     死んでも、幸せかもしれねえな」

ガチャッ

リヴァイ「エレン……時間だ」


その言葉に、俺たちの背筋が自然と伸びる。
エレンはフォークを置くと、「じゃあ、行くか」と風呂にでも行くみたいな
軽口で立ち上がった。


ジャン 「向こう行ったら、マルコによろしくな。コニーには……"マリア防衛戦では、助けらんなくて悪かった"って」

エレン 「コニーは…お前のこと恨んだりはしねえよ。あいつ、バカだけどいい奴だからな。
     そっか。マルコにも久々に会えるのか……楽しみだな」シンミリ

サシャ 「ミーナに伝えておいてください、"貸してもらった髪留め、なくしちゃってごめんなさい"って」

エレン 「それはお前が自分で言えよ」デコピンッ

サムエル「トーマスとナックと、あとミリウスにも。俺たちは元気でやってるって言っといてくれよ。
     バカ夫婦は思いっきりからかってやれ」ハハハ

エレン 「ああ」グッ

カツーン…カツーン…

地下牢を出て、長い廊下を歩く。
その間、俺たちもエレンも無言で、前を歩くリヴァイ兵長の背中を見つめていた。


エレン 「今、思い出してんだけどさ。解散式の夜に、俺……こんなこと言っただろ」

エレン 「もし……もし、この世界が一つの物語だったんなら……
     俺は英雄じゃなくて、巨人を見上げる民衆の一人に、なりたかったな……って」

ミカサ 「エレン……」

エレン 「やっと、その夢が叶うんだ。俺は、ただのエレン.イェーガーに戻れる。
     ……人間として、死ねる」

カツンッ


俺たちは、鉄で出来た重い扉の前で止まった。
このために取りつけたものらしく、壁に比べて扉だけ新しい。


リヴァイ「……おい、別れは済ませたか?」

ミカサ 「私は、最後まで一緒に」

ジャン 「俺もだ」

サシャ 「私も行きます」

リヴァイ「……お前は?」

サムエル「……」

サムエル「当然。仲間だからな」


ギィィ…


元は大広間だったそこに、一人の小さな女の子が立っている。
その背後に立ってたうすらヒゲのおっさんが進み出て、エレンの首に十字架をかけた。

エレン 「……じゃあな、皆」

ミカサ 「……エレン」

エレン 「生まれ変わったら、また会いに行くよ」


それだけ言うと、エレンはくるっと背中を向ける。


サムエル「生まれ変わったら……また」

跪いたエレンを見下ろして、もう一度呟く。


サムエル(お前にまた会えるその日が、待ち遠しい)



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