後輩「せーんぱいっ」男「…………」(157)

後輩「せんぱい?」

男「…………」

後輩「……む」

後輩「ていっ」サワッ

男「おうふっ!? お、おまっ、なにやって!」

後輩「あはっ、先輩のここ敏感なんですね。ちょっと触っただけでこんなに……」

後輩「女の子に触られると感じちゃうんですか?」サワサワ

男「あっ……うっ!」ビクッ

後輩「ほれほれ~」サワサワ

男「い、いいかげんに……しろっ!」

ごちんっ

後輩「い、いったーい! なんでグーで殴るんですかぁ。ひどいですよぉ」

男「おまえが調子に乗ったからだ」

後輩「ちょっと脇腹をくすぐっただけじゃないですかぁ」

後輩「うぅぅ……頭がおバカになったら先輩に一生面倒みてもらいますからね」

男「安心しろ。おまえはすでにバカだ」

後輩「え、そんな……わたしまだ心の準備ができてないのに」

男「……は?」

後輩「これはプロポーズと受け取っても構わないですね」

男「いやいやいやいや。なんでそうなるんだよ」

後輩「嘘なんですか! ひどいっ! 先輩を殺してわたしも死ぬぅー!」

男「情緒不安定すぎだろー!!」

ガラララッ

先生「あなたたちねぇ、外まで声が聞こえてるわよ」

後輩「あ、先生」

先生「なんか殺すとかどうとか物騒な単語が聞こえてきたんだけど……」

後輩「いやぁ、恋愛には障害がつきものでして」

先生「そ、そう……命がけの恋愛なのね」

男「誤解させるようなこというなよ。先生も納得しないでくださいよ」

先生「まぁ、恋愛するにしても節度をもってね。特に学生のうちは」

先生「寄り道せずに帰るのよ。じゃあね」

後輩「はーい」

男(結局誤解されたままかよ……)

後輩「顔真っ赤ですよ?」

男「おまえのせいだろっ」

後輩「あははっ、先輩かわいい」

男「バカにされてるようにしか聞こえないんだが」

後輩「褒めてるんですよぉ」

男「嬉しくないなぁ……」

後輩「なんならほんとに付き合っちゃいます?」

男「お断りだ」

後輩「えー、もっとよく考えてくださいよぉ」

後輩「モテない先輩がこんなウルトラ超絶美少女に告白されるなんてこと、人生でもう二度とないですよ」

男「あのなぁ……自分で言ってて恥ずかしくないのかよ」


男「…………」

男(黙ってればそれなりにかわいいんだよなぁ。黙ってれば)

後輩「せんぱい?」

男「と、とにかく!」

男「おまえと付き合う気なんてこれっぽっちもないからな!」

後輩「えー後悔してもしらないですよー?」

男「しつこいぞ」

後輩「そっかー残念。先輩にフラれた傷心のわたしは一人寂しく帰ることにしますね」

後輩「うわーん、先輩にフラれたあああああ! 今夜は涙が枯れ果てるまで枕をぬらしてやるううううう!」

男「かえれっ!」

後輩「あははっ、さよならですせんぱい」

男「はーーーー。つかれたー。なんなんだよあいつはー」

男(完全にあいつのペースに乗せられっぱなしだったな俺)

男(もし俺が付き合うって言ったらどうなったんだろう)

男(いつものように冗談で受け流すのか。それとも……)

男「…………」

男(ないない。そもそもあいつは俺の反応を見て面白がってるだけで)

男(俺なんて最初から眼中に入ってないんだから)

男「帰るか」

後輩「せーんぱいっ」

男「はぁ……」

後輩「どうしたんですか? 物憂げに溜息なんかついちゃって」

男「おまえっていつも元気だよな」

後輩「先輩から毎日愛のパワーをもらってますから。てれてれ」

男「ぶはっ! い、いきなり恥ずかしいこというなよな」

後輩「あははー。でも実際のところ元気だけがわたしの取り柄ですからね」

男「悩み事とかなさそうだもんなー」

後輩「むっ、失礼ですね。わたしにも悩み事のひとつやふたつぐらい……」

後輩「…………」

後輩「ありましたっけ?」

男「お、俺に聞かれても……」

後輩「あーーー! 思い出しました! テストですよ期末テスト!」

男「みんな考えることはいっしょなんだな」

後輩「ということは先輩も?」

男「あぁ。今回は赤点回避しないとな」

後輩「赤点組は夏休みに補習があるんでしたっけ? 先輩ってバカそうですもんねー」

男「うるせーよバカ」

後輩「でもわたしは先輩のそんな抜けてるところも好きですよ。きゃっ、言っちゃったっ」

男「全然フォローになってねーよバカ」

後輩「もぅ。バカバカ言わないでくださいよぉ」

男「バーカバーカ」

後輩「うぅぅ……好きな子にはいじわるしたくなる年頃ですかぁ?」

男「この前振ったばかりだろうが」

後輩「というわけでいっしょにテスト勉強しましょう!」

後輩「わたし、文系科目には自信があるんですよ」

男「そもそも学年が違うわけなんだが」

後輩「そこはアレですよ。ほら、根性でなんとかなりますよ」

男「いや無理だと思う」

後輩「もー! いいから図書室にレッツゴーですよ!」

男「おい、ちょ、引っ張るなって」

後輩「さすがに人が多いですねー」

男「まぁ来週からテスト期間だしな。クーラーも効いてるし最適な勉強スポットなんだろ」

後輩「こんなに人が多かったら先輩とおしゃべりできないですね」

男「勉強に集中しろよ」

後輩「他の人の迷惑になりますし出ましょうか」

男「で、これからどうするよ?」

後輩「うーん……」

男「クソ暑い教室の中で勉強するのもなぁ。いまいち乗り気がしねえなぁ」

後輩「…………」ギュッ

後輩「先輩。あのですね、もしよかったらなんですけどその……」

男「ん?」

男(なんだ? コイツ妙に落ち着きがないな)

男「便所か?」

後輩「わたしのh……はい?」

男「便所行きたいのか?」

つねっ

男「いつっ、な、なにすんだよ!」

後輩「…………」ムスッ

男「な、なんだよ」

後輩「しりませんっ」プイッ

男「おい、どこ行くんだよ。そっちは便所じゃないぞ」

後輩「先輩のバーーーーカ! あっかんべー!」タッタッタ

男「ガキかよ」

男「…………」

男(あいつ、いつもはヘラヘラしてるけど)

男(あんな拗ねたような表情もするんだな)

男「ってか、テスト勉強どうすんだよ。あいつ、どっか行っちゃったし」

男(メールでも送ってみっか)ピッ

男『どこいるんだよ』

ブーッブーッ

男「うおっ、返信はええな。今送ったばっかだぞ。どれどれ」

後輩『ヽ(`Д´#)ノ 』

男(なんだこのふざけた顔文字)

男『テスト勉強どうすんだよ』

後輩『ヽ(`Д´#)ノ 』

男(どうやら相当へそを曲げてるらしいな)

男『なに怒ってんだよ』

後輩『ヽ(`Д´#)ノ 』

男『いいかげん機嫌なおせよ』

後輩『ヽ(`Д´#)ノ 』

男『へんな顔文字だな』

後輩『ヽ(`Д´#)ノヽ(`Д´#)ノヽ(`Д´#)ノ』

男『先帰るからな』

後輩『|ω・`)』

男「め、めんどくせぇ」

男(でも……)

男(あいつが不安そうな表情で今も携帯の画面をのぞきこんでいるんだと思うと)

男(今になってふつふつと罪悪感が……)

男「……っ」

男「あーーーくそっ!! 今回だけだからな!」

男『俺が悪かっただからごめん』

後輩『こちらこそごめんなさい』

男『教室で待ってるからはやくこい』

後輩『はい!(*^▽^*)』

男(やばい、ちょっとかわいいかも)

男「…………」

男(って、なに考えてんだよ俺は!!)

男(で、急きょ勉強会のために後輩の家に行くことになったわけだけど……)

後輩「ふんふんふーん♪」

男「さっきから気持ち悪いぐらいに上機嫌だな」

後輩「だって今日はレアな先輩が拝めたんですもん。上機嫌にもなりますよー」

男「レア?」

後輩「ですです。素直に謝る先輩なんて激レアじゃないですかぁ」

後輩「はぁ~~~あれは最高にかわいかったです」

男「ま、まさか……」

後輩「さっきのメール、うっかり消さないように保護しちゃいました。永久保存です!」

男「ふざけんなー今すぐ消せー」

後輩「いやですよぉ。もったいない」

男「殺してでもうばいとる」

後輩「きゃ~~~襲われる~~~」

男(前言撤回。こいつを一瞬でもかわいいと思った俺がバカだった)

ガチャコン

後輩「どうぞ入ってください」

男「わりとふつうの部屋なんだな」

後輩「もぅ。もっと他に感想ないんですかぁ。せっかく学校一の美少女の部屋に入れたんですよ?」

男「だれが学校一の美少女だ。クラスのトップ10に入れるかどうかも怪しいだろ」

後輩「またまたー先輩ったら素直じゃないんだから」

男「いってろ」

男(本棚に本がぎっしり詰まってる)

男「家族に読書家がいるのか?」

後輩「なにいってるんですかぁ先輩。これ全部わたしのですよ」

男「おまえがぁ!?」

後輩「そんなに意外かなぁ。こうみえて文学少女なんですよわたし」

男(本×後輩。ダメだどんな絵面になるのか想像できねえ……)

男「うっ、頭が……」

後輩「おおっ、これは。熱を出した先輩をわたしがラブラブ看病する展開ですね!」

男「ねーよバカ」

後輩「飲み物はアイスティーでいいですか?」

男「なんでもいいよ」

後輩「下着は下から二番目の引き出しですよ」ボソッ

男「漁らねーよ!?」

後輩「あははっ、適当にくつろいでてくださいね」

パタンッ

男「まったく……」

男「…………」

男(下着よりも気になるのは部屋の隅にあるダンボール箱)

『開封厳禁!!』

男(こんなことが書いてあったら開けたくなるのが人間の性だよなぁ)

男(マゼランしかり、コロンブスしかり、冒険者は常に未知との遭遇を求めていた)

男(俺にも冒険者の血が流れているのかもしれない……)

男「…………」

男(ちょっとだけ)

ガサゴソ

男「なんだこれ。恋愛小説……か?」

男(いかにも女の子ーって感じの表紙だ)

男「へー、あいつもこんなの読むんだ。わざわざ隠すことでもないだろうに」

男「本棚に入りきらなかったからこっちに移したのか?」

ペラペラ

男「うおっ、大胆すぎだろ。濡れ場っていうんだっけこういうの」

男「ませてやがんなー」

ガチャーン

男「あ」

後輩「…………」

男(し、しまったーーー!! こいつの存在忘れてたーーーー!!)

後輩「…………」

男「これはその……なんつーかあれだよあれ」

後輩「…………」

男「出来心……みたいな?」

後輩「……ってるんですか」

男「へ?」

後輩「なにやってるんですかぁ~~~~!!」

男「う、うわああああああああああ!?」

後輩「うぅぅぅ……開けるなって書いてあるのになんで開けるんですかぁ」

男「ぱ、パンドラの箱があったら開けたくなるだろ?」

後輩「変なこといってごまかさないでください!」

ブンブンッ

男「あぶねっ」

後輩「先輩は何回わたしを怒らせれば気がすむんですかー!」

男「お、おおお落ち着け。平和裏に話し合いで解決しよう。なっ!」

後輩「問答無用です!」

男「争いからは悲劇しか生まれない!! それでもいいのかっ!?」

後輩「なんでごめんなさいがいえないんですかー!」

男「ごめんなさいっ!」

後輩「許しません!!」

男「理不尽だーーーーー!!」

男「俺が悪かった。俺が悪かったから。だから……」

後輩「先輩のばか~~~っ!!」

男「ぬわーーっっ!!」

男(こんな状況ではまともにテスト勉強なんてできるはずもなく)

男(こぼれたお茶の始末をしたり、後輩の機嫌をなおすのにほとんどの時間を費やしてしまった)

男(本格的なテスト勉強は明日からになりそうだ)

男(そして始まったテスト勉強一日目)

男(今後の方針を決めるために、お互いに前回のテストの結果を見せあった)

男「数学以外の科目は平均点以上か。しかも国語は90点越えかよ」

男「おまえけっこう頭いいんだな」

後輩「やったー! もっとほめてほめて~」

男「ただし数学はずばぬけて悪いな。一桁って……」

後輩「えへへ、もっといじめてください~」

男「なにいわれても喜ぶのな。どうなってんだおまえの思考回路」

後輩「先輩のご要望次第でいろんな女の子になります。ゲットするなら今がチャンスですよぉ?」

男「いらない」

後輩「即答ーっ!?」

後輩「先輩の成績は……うわぁ」

男「うわぁってなんだようわぁって」

後輩「なんというか……絶望的な状況ですねぇ」

男「わるかったな、数学以外赤点で」

後輩「いいえいいえ! たとえ絶望的な状況だとしてもですよ、最後まで諦めちゃダメです」

後輩「わたしたちの愛ならどんな高い壁だって乗り越えていけますよ!」

後輩「って、先輩のばかばかー! 恥ずかしいこと言わせないでくださいよぉ!」

男「おまえが勝手に語りだしたんだろうが」

男「でもそうだな。今回重要なのはチームワークか」

男(お互いの弱点を補いあえばなんとかなるのかな)

男「目標は全教科赤点回避だな」

後輩「えーーーそれじゃ簡単すぎてつまんないですよぉ」

後輩「目標は全教科平均点以上です!」

男「はあ?」

後輩「二人でがんばれば絶対に達成できますよ!」

男「本気で言ってんのかよ……」

後輩「わたしはいつだって本気ですよ?」

男「無理無理。ぜったい無理」

後輩「愛は不可能を可能にしますよ?」

男「いーや無理だね。俺はダメなほうに1万ペソかける。それぐらい自信がある」

後輩「むむむ」

男「なにがむむむだ」

後輩「じゃあ、こうしましょう」

後輩「全教科平均点を越えたらわたしの勝ち。越えなかったら先輩の勝ち」

後輩「負けたほうは勝ったほうのいうことをなんでも聞くこと」

後輩「おーけー?」

男「おーけー?じゃねえよ!」

男「くだらねえ。俺はやらねえからなそんなこと」

後輩「逃げるんですか?」

男「……なに?」

後輩「女の子にここまで言わせておいて、男の先輩は尻尾をまいて逃げるんですか?」

男「て、てめえ……言わせておけば」ギリッ

後輩「どうなんです?」

男「上等だコラア! やってやろうじゃねえか!」

後輩「手はぬいちゃダメですよ?」

男「おうよ! 数学のことなら俺に任せろやぁ!」

後輩「あはっ、頼もしいですね。それじゃ勉強はじめましょうか」

男「おう!」

男(あれ?)

男(待てよ。冷静になって考えてみるとこの状況)

男(やつの思惑にまんまとのせられている……?)

男(勉強をがんばればがんばるほど俺は不利になっていく一方なんじゃ?)

後輩「せんぱい。この問題なんですけど」

男「え、あー……この国の環境問題は深刻だなー」

後輩「もー全然集中してないじゃないですかぁ」

男「わりぃわりぃ。それでどの問題だっけ?」

男(とにかく今は勉強に集中するか)

後輩「あ、もうこんな時間なんですね」

男「今日は解散にするか」

後輩「家でも勉強しないとダメですよ」

男「はいはい」

後輩「むぅ。なーんか怪しいなぁ」

男「信じてくれないのか?」

後輩「あ、そんな捨てられた子犬のような目でみつめられたら……」

後輩「お持ち帰りしたくなっちゃいます~!」

男「だー! うざいからまとわりつくなー!」

男「信じてくれるな?」

後輩「はいっ、先輩のこと信じてますね!」

男「ぐっ……」ズキッ

後輩「ぐ?」

男「……きり腰になったみたいだ」

後輩「へ?」

男「いや、なんでもない」

後輩「じーーーっ」

男「お願いだから信じてくれよー」

男「ふぅ……なんとか危機を脱することができたぜ」

男(いくらあいつでも俺の部屋までは監視できまい。今のままじゃハンデが大きすぎるからな)

男(これも勝負に勝つためだ許せ!)

TV「なんでやねーん」

男「ぎゃはははは!」

母「いいかげん勉強しなさい!」

男「…………」

男「一つ質問なんだけど」

後輩「はいっ」

男「なにこれ?」

後輩「なにって小テストですよぉ」

男「頼んでないぞ?」

後輩「えへへ、先輩のために精一杯愛情をこめて作ってみました」

後輩「先輩も愛をもって受け止めてくださいねっ」

男「重い愛だなぁ……身も心も押しつぶされそうだ」

後輩「だいじょうぶ! 昨日のやったところを復習したらちゃんと解ける問題になってますから」

男「く、くそぉ~」

男(おわった……完全におわった)

後輩「先輩のうそつき~~~~!! 全然ダメじゃないですか~~~!!」  

男「うっさい。耳元で叫ぶな」

後輩「うぅぅ……サボらないっていったのにぃ。これは明らかにルール違反ですよ」

男「大体なぁそのルールからしておかしいだろ。こっちが圧倒的に不利じゃねえか」

男「第一そこまでして勝ちたい理由はなんだよ」

男「勝って俺にいうことを聞かせたいのか?」

後輩「はい。いろいろ考えてあるんですよー」

後輩「先輩と恋人繋ぎをして校内一周とか~」

男「むぐっ」

後輩「恋人ストローでジュースを飲むとか~」

男「むぐぐぐぐぐぐ」

後輩「晴れの日に相合傘とか~」

男「ぐあっ。俺を精神的に抹殺するつもりかー!」

後輩「あはは、顔赤いですよ~せんぱい?」

後輩「まぁそれは冗談として。もっと違うものを用意してますから」

男「なんだ冗談か」

後輩「あれ~なんか残念そうですね~」

後輩「先輩がどうしてもっていうならやってあげてもいいですよぉ?」

男「全力で断るっ!!」

後輩「まぁ悪いようにはしませんから。期待しててください」

男(とてつもなく不安だ……)

後輩「小テストは毎日行いますからね」

男「うげぇっ」

後輩「それと明日から方針を変更することにします」

後輩「先輩にはわたしの監視が必要だってことがわかりましたから。じろり」

男(ぐっ、なにも言い返せねえ)

後輩「楽しみにしててくださいねっ」

男「はぁ……もう好きにしてくれ」

キーンコーンカーンコーン

コツンッ

男「いてっ」

先生「こーらっ。いつまでも寝てるんじゃないの」

男「先生。おはようございます」

先生「おはよう。テスト前なのに余裕ね」

男「はは、よくいわれます」

先生「はぁ……わたしの授業ってそんなにつまらないのかしら」

男「面白いですよ?」

先生「へ~~~じゃあ次の授業から真面目に受けてくれるのね。期待してるわよ男くん」

男「……善処します」

男「友ー購買いこうぜー」

友「今日はなににするの?」

男「ふっ、愚問だな。カレーパンに決まってるだろ」

友「またそれ。飽きないねー」

男「ああ? カレーパンバカにしてんのか? 俺にカレーパンを語らせたら長いぞ」

友「聞いてないって……」

後輩「こんにちはー!」

友「後輩ちゃん、おはよー」

後輩「友さん、先輩借りますねー」

グイッ

男「おい、放せバカ。俺には待ちパンが」

後輩「かわいい後輩ちゃんが最優先です!」

男「自分でいうかふつう!」

ずるずるずるずる

友「…………」

友(仲いいなぁ)

男(後輩に引っ張られるまま校舎裏のベンチまでやってきた)

男「なぁ、俺すっげー腹減ってんだけど」

後輩「ふっふっふ」

男「なんだよ。今度は一体なにを企んでやがるんだ?」

後輩「せいぜい驚くがいいです」

後輩「じゃーーーーんっ!!」

男「これは……!」

後輩「驚いたでしょ~?」

男「嘘だろ?」

後輩「信じられないですよね~」

男「馬鹿な……まさか……ありえんっ!」

後輩「手作り弁当ですよ~」

男「なにぃ!?」

後輩「欲しいですか~。女の子の手作り弁当食べたいですか~?」チラッチラッ

男「ぐっ。い、いらない」

後輩「……え?」

後輩「そんな……せっかく朝はやく起きて一生懸命作ったのに」

後輩「先輩の栄養のことも考えて……ぐすっ」

男(あれ、もしかして泣いてる?)

後輩「ひどいですよぉ……」

男「うわーちがうちがう。これはいつものノリで」

男「あー! なんか急に弁当がくいたくなってきたなー!」

後輩「…………」

後輩「よかった~~~」ケロリ

男(こいつ策士かーーー!!)

後輩「今日のメニューはイワシの蒲焼きです」

後輩「イワシに含まれるDHAは脳の活性化に効果があるんですよ~」

男「へー。見た目はふつうだな」

後輩「味もおいしいですよ。どうぞどうぞ~」 

男「なに笑顔で箸構えてるんだおい」

後輩「あ~んしてあげます」

男「えええええええ!?」

男「ちょっとまて! ほんとに……ほんとにするのかよ!?」

後輩「ほら~おとなしく観念してください」

後輩「はいあ~んっ」

男「あ、あーん」

モグモグ

男「…………」

後輩「おいしいですか?」

男(今はそれどころじゃねーよ!)

男(顔がくそ熱い)

後輩「はい、先輩のお箸です」

男「あるんなら最初からだせよっ!」

後輩「いや~一度やってみたかったんですよこういうの」

後輩「インコにエサをあげてるみたいで楽しかったです!」

男「俺はおまえのペットかよ……」

後輩「先輩ならペットにしてあげてもいいですよ?」

後輩「首輪をつけて放し飼いしてあげましょうか。そういうのが好きなんですよね?」

男「変態かっ! 俺にそんな特殊な趣味はねーよ!」

後輩「エサはドッグフードがいいですか?」

男「だからちがうっつーの!!」

コポポポポ

後輩「はいどうぞ」

男「なんでコーヒー」

後輩「眠気対策です。先生からききましたよ?」

後輩「先輩が授業中に寝てばっかりで困るって」

男「ははははは」

男(まぁコーヒーは嫌いじゃないしいいか)

男「ごちそうさま」

後輩「おそまつさまでした」

男(すげーうまかったけどな)

男「弁当ありがとな。じゃあ俺は教室に……」

後輩「帰しませんよ」

男「なんで!?」

後輩「予鈴が鳴るまでいっしょに勉強しましょう。今日は英語です。はい!」

男「プリント?」

後輩「本だとかさばるじゃないですか。これなら持ち運びに便利ですよ」

男(テスト範囲の英文法や英単語が一枚のプリントにまとめられている)

男(重要な箇所には線が引いてあったり、イラストが入っていてわかりやすい)

男「これおまえが作ったのか?」

後輩「ですです」

男「仕事がこまかいな」

後輩「ふふっ、惚れ直したでしょ~」

男「それはない」

後輩「ガーーーン!!」

キーンコーンカーンコーン

男(コーヒーのおかげですっかり目が覚めたなぁ)

男「ふーつかれた」

友「男、勉強しよう」

男「は?」

友「だから勉強しようって」

男「いやいやいやいや。なんでそうなるんだよ」

友「頼まれたんだよ」

男「だれに?」

友「後輩ちゃん」

男「…………」

友「『友さん、時間の空いてるときは先輩と勉強してもらってもいいですか?』」

友「『昼休み以外はわたし行けないから』って」

友「断るわけにはいかないでしょ」

男「なんでだよっ」

友「だって彼女いい子だよ」

男「……わるいやつではないな」

友「素直じゃないなぁ」

男「うるせー」

友「というわけだ。勉強しよう」

男「わかったよ」

男「どうだあああああ! うわっはっはっは!」

男「小テストで6割とってやったぜ!」

後輩「ダメダメです」

男「なにぃっ!?」

後輩「基本問題なんですからふつうは全問正解、悪くても8割とれて当たり前です」

後輩「テストではこれプラス応用問題があるんですよ?」

男「うへぇ……」

後輩「愛のムチでびしびししごいていきますからね~。覚悟しててください」

男「やめてくれ~」

後輩「素直に嬉しいっていったらどうです?」

後輩「先輩は年下の女の子にいじめられて喜ぶ変態なんですから」

男「俺はドMじゃねえ! ドSだ!」

後輩「気になったんですけどSとMの中間ってなんなんでしょう?」

男「恐ろしくどうでもいいよ……」

後輩「先輩ってわたしのこと『おい』とか『おまえ』って呼びますけど」

男「うん」

後輩「名前で呼んでくれたことって一度もないですよね?」

男「そうか?」

後輩「そうですよぉ」

後輩「…………」

後輩「聞きたいなぁ~」

男「断る」

後輩「ダメですか?」

男「ダメだ」

後輩「一回だけ!」

男「むりだな」

後輩「そこをなんとか!」

男「しつこいぞ」

後輩「やだ~聞きたい聞きたい~~~!!」

男「駄々っ子かおまえは!」

後輩「うぅぅ……なんでそんなにガンコなんですかぁ」

男「それはこっちのセリフだよ……」

後輩「テストが終わったら絶対に名前を呼んでもらいますからねっ」

男「まだ俺の負けが決まったわけじゃねえっ!」

後輩「楽しみにしてますからね~」

男「聞けよ!」

男(それからの日々は流れるように過ぎていった)





男「水平リーベ僕の舟、七曲りシップスクラークか」

男「シップスクラークさん、どんだけ曲がってんだよ」

友「しらないよ……」





後輩「今日はデザートを用意してきました!」

後輩「甘いものを食べると記憶力がUPするんですよ~」

男「へー」





男(もうこんな時間か。中途半端に終わっちゃったな)

男(うしっ、きりのいいところまでがんばってみるか)

男(ひとつのことにこんなに一生懸命になったのは久しぶりだ)

男(慌ただしくて疲れたけど充実した時間だった)

男(後輩は俺のために毎日小テストや暗記プリント、そして手作り弁当を用意してくれた)

男(不思議なやつだ。あいつの体力はどうやら底なしらしい)

男(一体どこからそんな元気がわいてくるんだか……)

男(気づいたらテストは三日前に迫っていた)

男「おい、おいったら」

後輩「……へ?」

男「へ?じゃないって。なにぼーっとしてしてんだよ」

後輩「女の子にはいろいろあるんですよ」

男「いろいろってなんだよ」

後輩「なんでしょうねー」

男「ふーん」

後輩「ごちそうさまでした」

男「もういいのか?」

後輩「ダイエットしてるんです最近」

男「必要ないと思うけどな」

後輩「あはは、ありがとうございます」

男「別に」

男「おまえ、ちょっと顔赤くないか?」

後輩「えっ!?」

男「そ、そこまで驚くことでもないだろ……」

後輩「いや~先輩が隣にいるから照れちゃうな~。なんつって」

後輩「教室にもどりますね」

男「おいおい。勉強はいいのかよ」

後輩「今日は各自自習です。ではでは~」

男「…………」

男(なんだろ。この違和感)

男(なんとなく会話にキレがないというか)

男(気にしすぎか)

ブーッブーッ

後輩『ごめんなさい! 急用ができたので先に帰ってもらっていいですか?』

男『テスト勉強は?』

後輩『今日は中止で! 本当にごめんなさい! この埋め合わせは必ずします(>_<)』

友「どうしたの?」

男「あいつ今日はこないってさ」

友「じゃあ今日は僕と勉強する?」

男「おう」

友「それ後輩ちゃんのプリント?」

男「うん、おまえに見せるの初めてだっけ?」

友「前から気になってはいたんだけどね。見せてもらってもいい?」

男「どうぞどうぞ」

友「ふーん」

男「なにか言いたげな顔してんな」

友「よくできてるなぁって感心しただけだよ」

友「すごく手間がかかったんじゃないかな」

男「教科書や参考書の内容を写すだけじゃないのか?」

友「ちがうと思うなぁ。解説もなるべくわかりやすい言葉で書いてあるし」

友「見る人のことをちゃんと考えて作ってある」

友「内容をある程度理解してないと無理なんじゃないかな」

男「…………」

友「このプリント一枚作るのにどれくらいの時間がかかったんだろう?」

男(成績がいいとはいっても、平均よりやや上というレベルの後輩)

男(一学年上の勉強をして、プリントも作りつつ、俺の弁当も用意して)

男(さらには自分のテスト勉強もしていたっていうのか?)

男(一日のどこにそんな時間があるんだよ)

男(……ちゃんと睡眠はとっていたのか?)

男(思い返してみれば今日の後輩はどこか調子がおかしかった)

男(あいつも俺と同じ人間だ。疲れているのはあいつも同じで)

男(なんでもないかのようにヘラヘラ笑っていて)

男(俺の前では疲れを見せようとしなかった)

男(だがそれも今日でボロが出た)

男(限界だったんだ)

ガタッ

男「すまん、用事思い出した」

友「え、勉強は?」

男「中止だ」

友「ええええっ!?」

タッタッタッ

男「はあっ、はあっ!」

男(バカかよ! 俺はっ!)

男(一番近くにいたのは俺なのに)

男(なんでもっとはやく気づいてやれなかった)

男(サインは、いくつもあっただろ……!)

男「くそっ!!」

男(C組の教室はここか!)

ガララララ

男(放課後の教室。談笑をしていた生徒たちのはるか後ろ)

男(一人の女生徒が机にうつぶせになって座っていた)

男(はたから見れば眠っているようにみえる)

男「後輩っ!」

男(何人かの生徒が俺にいぶかしげな視線を向けてくる)

男(だけど今はそんなことにいちいち構っていられない)

後輩「せんぱい……?」

男「ちょっとおでこ貸してみろ」

ピタッ

男(熱い)

男「やっぱり熱があるじゃねえか」

男「なんでだよ。なんでこんな」

後輩「せんぱい……」

後輩「ごめんなさい」

男「……っ」

男(また同じことを繰り返すのかよ俺は……!)

先生「体温を測ってみましょう」

男「はい……」

男(怒り、不安、後悔、焦燥、『なぜ?』という疑問)

男(頭の中でさまざまな感情がうずまいている)

男(なにに対する怒りだ? 体調が悪いのに平気なふりをしていた後輩に対して?)

男(違う。後輩の異変に気づけなかった俺自身の不甲斐なさに対する怒りだ)

ピピピピピ

先生「38.5℃か。ちょっと高いわね」

先生「今日咳が出たりとか吐き気はなかった?」

後輩「えっと……特には」

先生「他に症状は?」

後輩「ちょっと頭痛がしたかも」

先生「昨日は何時に寝たの?」

後輩「あ、あははは~」

先生「テスト前だから夜更かししたくなる気持ちはわかるけど。本番で体調を崩したら元も子もないでしょ?」

先生「自分の体をもっと大切にしなさい」
 
後輩「ごめんなさい……」

先生「うーん、疲労による発熱かしらね」

男「だいじょうぶなんですか?」

先生「今日は様子をみましょう。明日になっても熱が下がらないようなら病院に行ったほうがいいわね」

男「はい……」

先生「男くんは帰りなさい。後輩さんはわたしが家まで送っていくわ」

男「家知ってるんですか?」

先生「ええ、いろいろ事情があってね」

男「よかった」

男(言葉とは裏腹に胸の奥がちりっと痛んだ)

男(今でも俺はガキのままだ)

男(目の前のことに精一杯で、周りに目を向ける余裕がなくて)

『ごめんなさい』

男(……いつも、取返しがつかなくなってから後悔するんだ)

クイッ

男「!」

後輩「…………」キュッ

男「…………」

先生「後輩さん? 服をつかんでたら男くんが帰れないわよ」

後輩「あっ」

パッ

男「後輩……」

後輩「あはは、そんな顔しないでくださいよ」

後輩「先輩は心配性だな~。わたしならだいじょうぶですって」

男(だけど……)

男(今の俺は、助けを求める手に気づかないほど)

男(無神経なガキじゃないっ!)

先生「男くん? もう帰っていいわよ。あとは先生が……」

男「先生」

先生「え?」

男「俺が後輩を家まで送ります」

男(タクシーを使って後輩の家まで帰ってきた)

男「これから買い物行ってくるけど、なにか欲しいもんあるか?」

後輩「え、と……」

男「とりあえずいろいろ買ってくるわ。後輩はその間にパジャマに着替えてろ」

後輩「あとでお金返しますね」

男「いらん、病人が余計な気を遣うな」

男「ちゃんとおとなしくしとけよ」

男「いろいろ買ってきたけど。いま食欲あるか?」

後輩「…………」フルフル

男「そっか。冷蔵庫にいれとくから好きなときに食えよ」

男「つーわけでさっさと寝ろ。なおるもんもなおらねーぞ」

後輩「…………」

男「どした?」

後輩「……いなくならないですか」

後輩「わたしが眠っているあいだに、先輩はいなくならないですか?」

男「…………」

後輩「いなくなるんだ」

男「そりゃずっとはむりだろ。テスト前なのに泊りっていったら親がうるせーし」

男「家族の人は?」

後輩「今日は10時まで帰ってこられないって」

男「じゃあ、その時間まではここにいるから」

男「それで妥協しろよ」

後輩「……はい」

男(後輩はゆっくり目を閉じた)

男(俺に見せる初めての弱みなのかもしれない)

男(こいつはいつも笑顔で、突拍子もない冗談で俺を困らせて)

男(ときどき拗ねた表情をする)

男(それが当たり前なんだって思ってた)

男(今までの忙しない日々が嘘だったかのように、時間がゆっくり流れていく)

男(そのあいだにいろいろ考え事をすることができた)

男(過去のこと、今のこと)

男(そして、明日からのことも)

後輩「いやぁ~失敗失敗! 多少は無茶してもだいじょうぶかなーって思ったんですけどね~」

後輩「まさか熱を出して倒れるなんて。たはは……お恥ずかしい限りです」

男「ほんとだよ」

ペタッ

男「熱もだいぶ下がったみたいだな」

後輩「はい。一度寝たら楽になりました」

後輩「…………」

後輩「先輩には本当にご迷惑をおかけしました」ペコリ

後輩「一日むだにさせちゃいましたね……テスト期間なのにごめんなさい」

男「気にすんな。あと二日あるじゃねーか」

後輩「そうですね! わたしも明日から気合を入れなおします!」

後輩「今日の分を取り返しますよ~~~。えいえいおーーーっ」

男「…………」

男「期待を裏切るようで悪いけど」

男「勉強会は今日で終わりだ」

後輩「本気ですか?」

男「冗談でこんなことをいうと思うか?」

男「どうせ思いつきで始めたことだ。思いつきで終わっても別にいいだろ」

後輩「先輩はそれでいいんですか?」

男「俺は赤点さえ回避できればそれでいいんだ。最初からそういってたろ」

男「今の状態なら、平均点までとはいかなくてもそこそこの点数がとれる」

男「無理していい点をとる必要はない」

後輩「……ウソですよ」

男「なに?」

後輩「そんなのウソですよっ!」

後輩「だって、先輩あんなにがんばってたじゃないですか!」

後輩「友さんから聞きました。最近の先輩は授業を真面目に受けるようになったって」

後輩「休み時間もずっと参考書をながめてるって」

後輩「小テストだって最近は8割とれるようになってきて」

後輩「それがぜんぶウソだったっていうんですかっ!」

男「そんなのいくらだって言い逃れできるじゃねえか」

男「あのときの俺はどうかしてたんだよ。おまえにうまいこと勝負にのせられて」

男「俺も調子にのってバカみたいに熱くなって」

男「それで頭が冷えて冷静になったら、今やってることが途端にアホらしくなってきて」

男「ただそれだけのことだよ」

男「今後後輩からはなにも受け取らないし」

男「勉強にも一切付き合わない」

男「テスト勉強なんてもうウンザリなんだよ」

男「だから俺のために弁当を作ったって、プリントを用意したって」

男「全部むだになるだけだぞ」

男「わかったか?」

後輩「…………」

後輩「なんで……なんでそんなひどいこというんですか」

後輩「今まで二人でいっしょに頑張ってきたじゃないですか」

後輩「それなのに……」グスッ

男「ぐっ……」

後輩「先輩はわたしのこと嫌いになったんですか?」

後輩「わたしが熱があるのを隠してたから怒ってそれで……」

男「はあっ!?」

後輩「だってそうじゃないですか! わたしのことが嫌いだから!」

後輩「迷惑だって思うからそうやって!」

男「そんなわけあるかっ!」

男「嫌いだったらこんな時間まで付きっきりで看病なんかしねーよ」

男「後輩が俺のためにいろいろやってくれるのは正直嬉しかったけど」

男「だれも体調を崩してまでやってくれなんて頼んでねーよ」

後輩「せんぱい……」

男「なんでそこまで必死になるのかわかんねーよ」

男「テストなんてこれから何度だってあるじゃねーか」

男「そのときにまた頑張ればいいだけの話だろ?」

後輩「それじゃダメなんです」

後輩「だって……」

後輩「夏休みになったら先輩に会えなくなるじゃないですかぁ!」

男「…………」

男「……は?」

男「会えなくなるって……」

後輩「夏休みになったら先輩に会えなくなるから」

後輩「だから……わたしは今回のテストに全力を注がないといけないんですよ」

男「ちょい待ちちょい待ち!」

後輩「なんです?」

男「おかしいだろ!」

後輩「おかしくないですよぉ……」

男「いやいやいやいや。いろいろとおかしいって!」

男「テスト関係なくね?」

後輩「関係ありますよ。勝ったほうのお願いを聞くって言ったじゃないですかぁ」

男「ああ、そういやそんなのあったっけ」

男「で、後輩はなにに決めたんだ?」

後輩「……っ」カアァーッ

男「うおっ、だいじょうぶか。顔赤いけど熱がぶり返したのか?」

後輩「~~~~!!」フルフルフルフルッ

男「そんな勢いよく首を振らんでも……」

モゾモゾ

男(あっ、布団にもぐった)

後輩「…………」

男「…………」

後輩「……あの」

男「ん?」

後輩「笑わないですか?」

男「ぷっ」

後輩「……先輩のバカ。もういいです」

男「わーちがうちがう。布団がしゃべってるみたいで面白かったから、つい」

男「だから今のはノーカンだ!」

後輩「二度目はないですよ?」

男「気をつける……」

後輩「わたしのお願い」

後輩「お願いなんですけどその……」

男「うん」

後輩「夏休みに先輩と遊びに行きたいなぁって」

後輩「いっしょにいろんなところ行きたいなぁって」

男「遊びにって……たったそれだけのためにこんなことを?」

後輩「ひどいなぁ。これでも真剣なんですよ?」

後輩「本当はもっと罰ゲームっぽく『おまえがやれー』みたいに言うつもりだったんですけどね」

後輩「予定くるっちゃいました。あはは、失敗失敗」

後輩「真剣だからこそ自分の気持ちにウソをつきたくなかったのかも」

後輩「冗談ですませたくなかったのかも」

後輩「あはは、自分で逃げ道ふさいじゃいましたね」

男「後輩……」

後輩「今の先輩ってどんな顔してるんだろう」

後輩「呆れた顔で笑ってるのかな?」

後輩「でも、もしも……先輩ならそんなことしないって信じてるけど」

後輩「もしも拒絶されたらって考えると」

ギュッ

後輩「こわいよ」

後輩「こわいよぉ……!」

男(思えばアプローチはいつも後輩のほうからだった)

男(俺はあいつがくるのをじっと待っているだけで)

男(後輩が内心不安に思っているのに気づかずに)

男(現状に甘えていたんだと思う)

男(でも今なら俺も素直になれる気がする)

男(自分から一歩踏み出せるような気がする)

ナデナデ

後輩「せんぱい……?」

男(俺が頭をなでると、後輩は布団から顔を半分のぞかせた)

男(その目は涙でうるんでいた)

男「ごめん。不安にさせてごめん」

男「夏休みの予定空けとけよ。俺がいろんなところに連れて行ってやるからな」

男「だからお願いはもっと別のことのためにとっとけ」

後輩「いいんですか?」

男「いいもなにも。遊ぶのに理由なんか必要ないだろ」

男「それに家に行った仲じゃねえか」

後輩「あれは勉強っていう口実があったから……」

男(ど、どんだけ不器用なんだ……)

男(って、俺も人のことは悪く言えないか)


男「さっきは勉強なんてウンザリだなんて言ったけど」

男「本当は勝負とか関係なく、今回のテストは本気でいい点をとってみたいんだ」

男「だから、もう俺のことは心配しなくていいから。後輩は自分のことだけを考えろ」

男「俺も俺にできることをがんばるから」

後輩「せんぱい……」

男「明日は大事をとって一日休むんだぞ」

男「その代わり、最後の一日で今までの分を取り返す」

男「勉強会を再開するぞ」

後輩「…………」

後輩「はいっ!」

男「昨日は急に帰ってすまんかった」

友「ん? いいよいいよ。大事な用事だったんでしょ」

男「まあいろいろとな」

友「その様子じゃ解決したみたいだね」

男「聞かないのか?」

友「だって後輩ちゃんがらみでしょ?」

男「なんでわかるんだよ。エスパーかよ」

友「男はわかりやすいからね」

友(妬けるなぁ)



キーンコーンカーンコーン

男「先生」

先生「あ、男くん。昨日はごめんね。きみに後輩さんをおしつけた形になっちゃって」

男「いや、わがままをいったのは俺のほうですから」

先生「でも、昨日のうちに熱がひいたって聞いて安心したわ」

先生「後輩さんも無事にテスト当日を迎えられそうね」

男「はい」

男「授業でわからなかったところがあるんですけど」

先生「質問? いいわよなんでも聞いて」

男「ここなんですけど」

・・・・

先生「ふーん」ニコニコ

男「なんですか?」

先生「男くん、最近変わったなぁって思って」

男「そうかな?」

先生「うん、変わった変わった」

男「ははは……」

テスト期間最終日

男「ふぁ~つかれた」

男「後輩?」

後輩「ん……みゅ……」

男「おーい、寝るなら布団で寝ろー。おいったら」

ユサユサ

後輩「ん、んう……」

男「ダメだ、起きやしねえ」

男「風邪ひいてもしらねえぞ?」

男(後輩のやつ、今日はいつも以上に張り切ってたな)

男(不器用で、臆病なくせに、誰よりも一生懸命で、一度こうだと決めたら絶対に曲げないやつ)

男(俺はこの二週間で変われたんだろうか。それはわからないけど)

男(起爆剤というか。なにかを変えるきっかけってのは見つかったと思う)

男(後輩の隣だから俺も見つけられたんだ)

男「明日のテストがんばろうな」

男(寝息を立てている後輩の肩に毛布をかける)

男(外はもう真っ暗になっていた)

男(あとは本番で実力を発揮するだけだ)

後輩「ドキドキドキドキ」

男「いいかげん落ち着けって」

後輩「む、無理ですよぉ」

男「ほんと怖がりだな」

後輩「今日テストが返ってくるんですよ」

後輩「先輩はどうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」

男「やれるだけのことはやったんだ」

男「いまさら慌てたってしょうがないだろ?」

後輩「はぁ……そこまで割り切れるなら苦労しませんよぉ」

男(後輩が初めて涙を見せたあの日)

男(あれから、俺たちの関係は少しずつ変わっていった)

男(例えば……)

後輩「じーーーっ」

男「ん?」

後輩「!」ビクッ

男「…………」

後輩「」チラッ

男(なにかを期待するような眼差し。俺はこの視線に弱い)

男(ものをねだる子どものように後輩が上目遣いで俺をみつめてくる)

男(こういうときは俺のほうから察してやらないといけない)

男「なにをしてほしいんだ?」

男「だいじょうぶだから。遠慮せずに言ってみろ」

後輩「………っ! う、うんっ。あの、あのね」

後輩「先輩が頭なでてくれたら……こわくなくなるかも」カアァー

男「そ、それは今じゃないとダメなのか?」

後輩「今がいい」

男「でもなぁ……」

後輩「ナデナデするって言った」

後輩「言ったぁ~」

男「あーわかったわかったから!」

男「しょうがねえな」ナデナデ

後輩「えへへ……せんぱいの手おっきい」

男「はいおわりー」

後輩「って、早っ!」

男「満足だろ?」

後輩「ぜんぜん足りませんっ。これは国際問題ですよ。ナデナデタイム継続を要求します!」

男「あーなんだっけ。おまえあれに似てるわ」

男「犬」

後輩「誤魔化さないでください~!」

男「じゃあ趣向を変えてだな。楽しいことを考えよっか」

男「お願いはなににするか決めたのか?」

後輩「……うん」コクリ

男「教えてくれよ」

後輩「え~どうしようかな~」ニヤニヤ

男「またかよ。今度はなにを企んでやがるんだ」

男(呆れつつも内心この状況を楽しんでる自分がいることに気づく)

男(今年の夏はいつも以上に騒がしくなりそうだ)


後輩「それは……」


後輩「秘密ですっ」

テスト勉強おわり

ここまで読んでくれてありがとう
次から夏休み編投下していく

後輩「突然ですが!」

後輩「夏といえばなにを連想しますか?」

男「スイカ」

後輩「おお~定番ですね! 他には?」

男「かき氷」

後輩「暑いときに食べる冷たいかき氷は最高ですよね! 他には?」

男「焼きそば」

後輩「屋台の焼きそばっていいですよね! 特別おいしいわけでもないのになぜか食べたくなる……」

後輩「って、そろそろ食べ物からはなれてください~!」

後輩「問題ですっ」

ババンッ!

後輩「7月17日は何の日でしょう?」

男「そんなの、黒船来航にきまってるじゃねえか」

後輩「ぶぶーっ! せんせんちが~うっ!」

後輩「も~マジメに答えてくださいよぉ~」

男「ああ? おまえしらないのかよ」

男「黒船来航といえば、日本が開国に踏み切るきっかけとなった重大な事件だぞ」

後輩「この前のテスト範囲の知識自慢したいだけじゃないですかぁ……」

後輩「もぅっ。先輩さっきからわざとやってるでしょ~」

後輩「問題ですっ」

ババンッ!

後輩「7月17日は何の日でしょう?」

男「そんなの、黒船来航にきまってるじゃねえか」

後輩「ぶぶーっ! ぜんぜんちが~うっ!」

後輩「も~マジメに答えてくださいよぉ~」

男「ああ? おまえしらないのかよ」

男「黒船来航といえば、日本が開国に踏み切るきっかけとなった重大な事件だぞ」

後輩「この前のテスト範囲の知識自慢したいだけじゃないですかぁ……」

後輩「もぅっ。先輩さっきからわざとやってるでしょ~」

後輩「7月17日は海の日ですよ」

男「海かぁ」

後輩「あ~もしかしてぇ~。好きな女の子の水着姿とか想像しちゃってます~?」ニヤニヤ

男「ちげーよ」

後輩「先輩ったら照れちゃってかわいい~」

後輩「しょうがないな~。彼女がいない先輩のために、かわいい後輩ちゃんが海水浴場までついて行ってあげるとしますか」

男「へいへい」

後輩「というわけで、れっつごーですよ!」

男「って、今からかよっ!」

後輩「思い立ったら即行動がわたしの原則ですっ」

男「ちょっとは立ち止まって考えろ!」

男「水着はあるのか?」

後輩「…………」

後輩「あはは、実はなかったりして」

男「おいおい」

ごめんなさい
>>145はなしで

男「~~~~」ソワソワ

男「落ち着かないな……」

男(ここは某ショッピングモール内の水着売り場)

男(俺は後輩が着替え終わるのを待ってるのだが)

男(やたらと女性客が多い)

<せんぱ~いっ

男「おわったのか?」

後輩「これなんてどうですか~」シャッ

男「どれどれ……って、なんじゃこりゃあっ!?」

後輩「ふっふーん。どうですぅ? びっくりしたでしょ~」

男「いろんな意味でびっくりだよ! なんだよそのド派手な水着は!」

後輩「ふっふっふ、わたしのせくすぃ~なボディで先輩を悩殺してあげます」

後輩「ほ~らぁ。こうやって胸をよせて谷間なんか作ったりして~」

男「あのなぁ、そもそもよせる胸がないだろうが」

後輩「えっ」

男「あっ」

後輩「…………」ションボリ

男(わりとマジで落ち込んでるーーー!?)

男「き、気にすんなって! 今は貧乳でもこれから成長していけばいいじゃねえか!」

後輩「貧乳、なんだ……」

男「うえぇっ!? いやぁ~あの、これは口が滑ったというかなんというか」

後輩「なーんて!」ニコッ

男「えっ?」

後輩「次の水着に着替えますから待っててくださいね!」

後輩「のぞいちゃダメですよっ」

シャッ

男「お、おう……」

男「結局どれにしたんだよ」

後輩「それは当日までのお楽しみです!」

男「やれやれ」

男(あのあと何着か試着して後輩はレジに向かった)

男(胸元が大きく開いた水着は結局最初の一着だけだった)

後輩「わくわくしますね~。ドキドキして眠れないかも」

男「遠足前の小学生かよ」

後輩「しつもんでーす。バナナはおやつに入りますか?」

男「どうせならもっと夏らしいものにしようぜ」

後輩「例えば?」

男「カレーパンとか」

後輩「はいぃぃ!? それさらに遠ざかってませんか!?」

男「わかってねえなぁ。真夏のクソ暑い日に食べるアツアツのカレーパンってのが最高なんじゃねえか」

後輩「わかってないのは先輩のほうですよぉ……」

男「しっかり睡眠はとっとけよ。朝早く出ることになりそうだからな」

後輩「らじゃーですっ」

男(どこに行くにせよ電車を乗り継いでいくことになりそうだ)

男(当日は晴れるといいけど)

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