提督「やっぱり犯人は俺だけど、安価でなんとか逃げ切ってみせる」 (99)

提督「……みんなそろったな」

木曾「……」

比叡「……」

青葉「……」

暁「……」

吹雪「……」

提督「じゃあぼちぼち、議論を始めるか」

提督「テーマは一つ」

提督「この事件の犯人は一体、誰なのか?」

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前作↓

提督「この事件の犯人は俺だけど、安価でなんとしても逃げおおせる」

繋がりなんてないよ。読んでもいいし読まなくてもいい

提督(星を見に行きましょうと誰かが言いだした)

提督(次に誰かが、だったらみんなで山に行こう。隠れ家的な別荘を見つけたんだと言った)

提督(とんとん拍子で話はすすみ、俺たちは山の中にとある別荘に来ていた)

提督(真っ暗な山道を、星明りを道標にして進む)

提督(頭上に広がる満天の星。いつも見ているはずの星空はとても綺麗で眩しくて)

提督(人間というものは何もないところにこそ、何かあることに気づくものなんだろう)

提督(あの星は六十光年くらい離れてるんだ。六十年前の光が幾星霜を経てここに戻ってきてるんだ)

提督(六十年の旅路から帰ってきた光が今の俺たちを見たらなんていうかな)

提督(決まってますよ。あのごてごてした軍艦がなんでこんなかわいい女の子になっているんだ? ですよ!)

提督(はっはっは、違いない。と初日はそれっぽい会話を楽しむ)

提督(今回この別荘を選んだのは俺のとある計画のためだ)

提督(ここはいろいろと都合がいい)

提督(なにせ山には徒歩で入るしかない上、道が複雑でわかりにくい。地図がないと迷う)

提督(だから仮に地図がなくなったとしたら、みんな帰れなくなる)

提督(鎮守府に連絡するにしても、何日かはこの別荘に閉じ込められることになる)

提督(おあつらえ向きのクローズドサークルの完成だ)

提督(条件が整ったら後は簡単だ)

提督(事件が発覚した後、小芝居をする。『地図が無くなっちまった。きっと犯人の仕業だ』と)

提督(背負い慣れない荷物のせいで、登山は骨が折れたが仕方がない)

提督(入念に計画は練った。後はみんなを出し抜くだけだ)

提督(俺は絶対に捕まりたくない)

提督(なんとしても逃げ切ってみせる!)

↓2 事件の内容

ちょっとトリック考えてくる

(……)

提督「つまりこういうことか? お前さんたちが風呂に入っていたら誰かに覗かれた。その上、下着まで盗まれた」

吹雪「そうですよ! 許せませんよ!」

暁「そうよ! レディの入浴を覗くなんてサイテーよ! し、しかも、し、下着まで盗むなんて……」グヌヌ

提督「……おかしいな」

木曾「……? 何がだ?」

提督「このメンバーの中で暁と吹雪の風呂を覗く動機があるのは俺しかいない。他の奴等は別に覗かなくても一緒に入ればいいわけだしな」

青葉「それはそうですけど、えらく正直ですね」

提督「でも俺には↓2というアリバイがある。じゃあ一体誰が何の目的で覗いたんだ?」

青葉と一緒にいた

青葉「司令官は青葉と一緒にいましたしね! 無実ですよ!」

提督「そうだ。俺には犯行はできない。でもだとしたら誰がやった?」

比叡「確かに司令が犯人じゃないとすると犯人の動機がよくわかりませんね」

提督「だろう? 犯人の目的は一体何なんだ?」

青葉「そういえば暁ちゃんと吹雪ちゃんは犯人の姿は見なかったんですか?」

暁「うん。一瞬だったから顔もよく見えなかったの」

木曾「下着が盗まれてたってのは、脱衣場に着替えを持っていってたのか?」

吹雪「はい。バッグを持っていってたんですけど下着が一枚、無くなってました」

提督「そっか。うーん。まだよくわからないな」

提督「……このまま考えていても仕方がない。今日はもう遅いし、寝よう」

木曾「それは別にいいが、この事件のことはどうするんだ?」

提督「一晩寝て、それで明日の朝にみんなで話し合うっていうのはどうだ?」

比叡「ええ、賛成です。少し時間を置いたほうがいいと思いますしね」

提督「みんなもそれでいいか?」

吹雪「……はい」

暁「……ええ」

青葉「いいと思いますよ!」

提督「じゃあ、また明日。お休み」

提督「……」

提督「あーそうだ。比叡。ちょっといいか?」チョイチョイ

比叡「……?」

(……)

提督「悪いけど、今日は暁と吹雪についてやっててくれないか? それでさりげなく元気付けてやってほしい」

比叡「それは全然かまわないですけど。司令はいいんですか?」

提督「あんな事件が起こった後だ。男の俺よりも最年長のお前さんの方が適任だ」

比叡「……わかりました。吹雪ちゃんと暁ちゃんは任せてください!」

提督「ありがとう。助かるよ」

比叡「それにしても二人を気遣うなんて、司令にしては珍しく気が利いてるじゃないですか」

提督「俺だってたまには提督らしいこともする」

比叡「見直しましたよ。司令」

提督「……お休み比叡。また明日」

比叡「ええ、おやすみなさい」

(……)

提督(……)

提督(サイコロジカル・ミスディレクションという言葉がある)

提督(マジックでよく使われている、観客の判断力や注意力を誤った方向にずらすテクニックだ)

提督(要するにマジシャンが今からマジックをやりますよ、という時にはもう準備も仕込みも終わっているというわけだ)

提督(今回の事件のトリックはこれを使った)

提督(つまり俺が吹雪と暁の下着を盗んだのは、この別荘に来てからじゃなく)

提督(俺たちが山に行くもっと前。鎮守府にいる時だ)

提督(この大仰なクローズドサークルの舞台も、わざわざ入浴を覗いた理由も)

提督(全ては、犯行がこの別荘で起こったと思わせるため)

提督(どんなに議論を重ねようと、現場を調査しようと)

提督(この別荘では何も見つからない)

提督(この山には何もない)

提督(すべての証拠は鎮守府に置いてきた)

提督(俺の計画は)

提督(完璧だ)

一日目・終わり

二日目から本格的に安価をとる予定。お疲れ様でした。

(……)

提督「……おはようみんな。よく眠れたか?」

木曾「……」

比叡「……」

青葉「……」

暁「……」

吹雪「……」

提督「じゃあぼちぼち、議論を始めるか」

提督「テーマは一つ」

提督「この事件の犯人は一体、誰なのか?」

提督「さて、何から始めるか」

木曾「まずは事件の内容を整理しといたほうがいいんじゃないか」

提督「確かにそのとおりだ。辛いだろうが二人とも話してくれないか?」

吹雪「ええ、わかりました! たしか九時位だったと思います。私たちは着替えが入ってるバッグをもって温泉に行きました」

吹雪「温泉に入ってから十五分くらいしたときでしょうか。脱衣場のほうから視線を感じたんですよ」

暁「あ! 気のせいかもしれないけど頭を洗ってるときにも、背後から視線を感じたわ!」

提督「それは百パーセント気のせいだ。それで?」

吹雪「それで暁ちゃんと一緒に脱衣場のほうに向かったら、ドタドタって誰かが逃げ出したような音がして。一応荷物を確認してみたら、着替え用に持ってきたパンツが無くなっていたんです!」

暁「そうよ! 許せないわ!」

提督「なるほど。その逃げ出したやつが犯人と考えて間違いなさそうだな」

吹雪「ええ! そうに決まってます!」

木曾「……。ひとつ聞いておきたいんだが、盗まれたのは着替え用に持ってきたパンツ一枚だけか?」

吹雪「はい」

木曾「暁もそうか?」

暁「うん」

木曾「……妙だな」

提督「何がだ?」

木曾「何で犯人はわざわざ着替え用のパンツを盗んだんだ? すぐそばに脱いだばかりのパンツがあるっていうのに」

青葉「あ! そういえばそうですね! 脱ぎたてのパンツには目もくれず! 履いていないパンツを盗む! これは明らかに矛盾してますよ!」

比叡「何か理由があるんでしょうか?」

提督「いやまて、↓2と考えれば辻褄は合うんじゃないか?」

提督「犯人の性癖だと考えれば辻褄は合うんじゃないか?」

青葉「は?」

提督「つまり犯人はただの変態じゃなく、きれい好きの変態だった」

木曾「どういうことだ?」

提督「パンツは欲しい。でも他人の履いたものは少し抵抗がある。だからわざわざ洗っているものを選んだ。次善の策だ」

吹雪「もうちょっとましな策はなかったんでしょうか」

比叡「ただ犯人が急いでたから、吟味する時間がなかったってだけじゃないですか?」

提督「いや、それは違う。もしそうだとしたらおかしなところがある」

木曾「おかしなところだと?」

提督「吹雪はさっき視線を感じたから脱衣場を見に行った、と言ったな」

吹雪「はい。それが何か?」

提督「じゃあ犯人は吹雪が視線に気づく前から脱衣場にいたのだろう」

木曾「まあ、そうだろうな」

提督「だとしたら犯人はパンツを吟味する時間は十分にあった。じゃあ何故犯人は履いてないパンツを盗んだ?」

吹雪「そ、それは……」

提督「決まっている。性癖だ。犯人は自分の意思で履いてないパンツを盗んだんだ」

青葉「わーお……」

暁「な、なるほど……」

提督「つまり、犯人は綺麗好きな変態だ」

比叡「少し納得いきませんが、筋は通ってますね」

提督「そしてそう考えることで、犯人の動機も説明できる。犯人の目的は、二人の入浴を覗くことじゃなくパンツを盗むことだったんだ」

木曾「……なるほどな。もし動機がパンツを盗むことだとしたら俺たちの誰が犯人でもおかしくない」

青葉「覗くのと違って、一緒に入るってわけにもいかないですしね!」

提督「だがここでひとつおかしなことがある。どうして犯人はあえて覗きなんてしたんだ?」

吹雪「そういえば、どうしてでしょうか?」

提督「簡単だ。↓2だからだ」

提督「簡単だ。お前らが好きだからだ」

暁「……え?」

提督「犯人は暁と吹雪が好きだ。だから自分が犯人だとばれて嫌われたくない」

青葉「はあ」

提督「そのためにわざとお前らに見つかった」

木曾「……!! そういうことか」

提督「そうだ」

暁「なになに!? どういうこと?」

提督「もしこの事件が起こって、俺にアリバイがなかったらまず間違いなく俺が犯人だと思わないか?」

比叡「そう思うでしょうね。でも司令にはアリバイがある」

提督「その通り。ただパンツを盗むだけだったら怪しまれるかもしれない。だからあえて見つかった」

提督「事件が起こったら真っ先に疑われそうな人物。男の俺に罪を着せるためにな」

比叡「……でも、だとしたら」

提督「ああ。もしも、外部犯の仕業ならそんなことをする意味がない。見つかるリスクのほうが高いはずだ」

吹雪「……そ、それって」

暁「……」

青葉「……」

木曾「つまり、お前はこういいたいのか?」

木曾「ここにいる俺たち艦娘の誰かが犯人だと」

一日目読み返してみるとめちゃくちゃ読みにくいな。

今日は終わります。お疲れ様でした

誤字を見つけたので訂正します。

>>3

×提督(とんとん拍子で話はすすみ、俺たちは山の中にとある別荘に来ていた)

○提督(とんとん拍子で話はすすみ、俺たちは山の中のとある別荘に来ていた)

>>13

×提督「そうだ。俺には犯行はできない。でもだとしたら誰がやった?」

○提督「そうだ。俺には犯行は無理だ。でもだとしたら誰がやった?」

提督「その可能性もあるってだけだ。まだまだ話し合うことはある」

木曾「……」

提督「次はみんなのアリバイを聞いておこうか。事件が起こった九時から九時十五分までの間、みんなは何をしてたんだ?」

青葉「私は司令官と一緒にいましたよ!」

比叡「私は自分の部屋にいました」

木曾「俺も部屋にいた。次に風呂に入ろうと思って準備をしてた」

提督「そのとき誰かに会ったりしなかったか?」

比叡「しませんでしたね」

木曾「俺も特に」

提督「……なるほど」

提督「みんなのアリバイはわかった。……しかし弱ったな」

比叡「そーですねー。このままですと私か木曾さんのどちらかが犯人ってことになっちゃいますしね」

暁「え? なんで?」

比叡「だって司令と青葉さんはアリバイがありますし、暁ちゃんと吹雪ちゃんは被害者です」

吹雪「……あ」

比叡「だから普通に考えたら犯人は私か木曾さんのどちらかってことになります」

木曾「そうなるだろうな。俺は違うが」

比叡「私だって違いますよ」

吹雪「で、でもお二人が犯人だなんて思えません!」

暁「そうよそうよ!」

木曾「さあ、どうかな。お前はどう思う? 俺たちが犯人だと思うか?」

提督「……↓2」

提督「……まだなんともいえないな」

木曾「なんだ? 俺たちのことを信頼してないのか?」

提督「信頼してるさ。だからこそ、容易に言い切るべきじゃない。あらゆる可能性を考えるべきだ」

青葉「可能性って言うとたとえば何ですか?」

提督「そうだな。挙げるとすれば、吹雪と暁の狂言あるいは俺と青葉の共犯も有り得る」

吹雪「なっ! 狂言だなんて、私たちに何の得があるって言うんですか!?」

提督「だから可能性の話だ。動機なんて犯人にしかわからない」

比叡「……確かに。否定はできませんね」

提督「今言えることは、誰が犯人でもおかしくないってことだけだ」

暁「でもさっきは私たち艦娘の誰かが犯人だって」

提督「さっきの話だって、裏の裏をかいて俺が仕組んだトリックかもしれないだろ?」

比叡「でもそんなことを言い出すときりがありませんよ」

提督「そうだ。俺たちの推理には根拠がない。だからどうしても憶測の域を出ない」

木曾「根拠か……」

提督「さて、今日のところはこれで終わりにしよう。証拠が何もない以上進展はないだろう」

比叡「そうですね。明日はどうします? 証拠が出なければ明日の議論も意味がないんじゃないですか?」

提督「いや、それでも集まって話し合うべきだ。時間がたてば新しい発見があるかもしれない。どうせ時間はある」

青葉「ですね! どうせ暇ですしね!」

暁「はー、疲れた。頭痛いー」

吹雪「久しぶりに頭を使いました。甘いものが食べたーい」

提督「ああ、だったら冷凍庫にアイスが入ってるから食べるといい」

暁「え? ほんとに? ありがとう司令官!」

青葉「私も疲れましたー。比叡さん、木曾さんお風呂行きませんか?」

比叡「ええ、かまいませんよ」

木曾「悪いな。俺はパスだ。もうちょっと一人で考えたい」

提督「……」

(……)

提督(……何とかやり過ごせたみたいだな)

提督(俺にアリバイがある以上、あいつらは俺を疑えない)

提督(このままいけば、まず大丈夫だろうが)

提督(問題は……)

「……」コンコン

提督「入ってくれ」

「……」ガチャ

提督「それじゃあ報告を聞かせてくれ。木曾」

木曾「……ああ」

提督(共犯のこいつをどう言いくるめるか、か)

提督「部屋に入るところを誰かに見られたりしなかったか?」

木曾「……青葉はリビングにいた。比叡は知らん」

提督「昨日、駆逐艦についているように頼んでおいたから比叡は心配ない。今日も面倒を見てるだろうよ」

木曾「……」

提督「それじゃあ報告を聞かせてくれ。どうだった?」

木曾「シロだ。比叡も青葉も特にあやしいところはなかった」

提督「よかった。これで主力部隊は全員シロか。協力感謝するよ木曾」

木曾「……」

提督「どうした?」

木曾「この鎮守府に深海棲艦のスパイがいるかもしれない」

木曾「スパイは腹に奇妙な痣があるらしい」

木曾「だから主力部隊をどこかに連れ出しすから、痣があるかどうかこっそり確かめてみてくれ」

木曾「そうお前は言ったな」

提督「ああ、言った」

木曾「だから俺は、吹雪が星を見に行きましょうと言い出したとき、だったらみんなで山に行こう。隠れ家的な別荘を見つけたんだと言った。これはお前が見つけた別荘だったな」

提督「ああ」

木曾「それから俺は暁と吹雪が風呂に入ったところを見計らって、覗いた。腹に痣がないことを確認して俺は帰った」

木曾「するとどうだ? 何の偶然か二人のパンツが盗まれたらしい。まいったな。これじゃ俺が覗いたと知られたら、疑われてしまう」

提督「その話は昨日聞いた。……何が言いたいんだ?」

木曾「ただ、気に食わないだけだ。偶然にせよ必然にせよ。俺を共犯に仕立て上げた犯人がな」

提督「……」

木曾「なあ。ひとつ聞かせてくれ。さっきの議論、どうしてお前は覗いた奴が犯人という方向に誘導したんだ? 俺を陥れるためか?」

提督「↓2」

提督「悪かったよ。話の流れ上ああするしかなかった。あの場で下着泥と覗きが別々の犯行だと言うのは不自然だろ?」

木曾「……確かにな。俺とお前の関係を言えない以上、そうするしかないな」

提督「だろう?」

木曾「じゃあもうひとつ聞かせてくれ。お前と青葉は一緒にいたと言っていたが何をしてたんだ?」

提督「何をしてたってわけじゃない。ただ他愛のない話をしてただけだ」

木曾「どんな話をしてたか覚えているか?」

提督「さあ、なんだっけな。本当にくだらない話だよ。昨日見たドラマの話だっけな」

木曾「……さっき青葉に同じことを聞いてきた。青葉は映画の話をしたと言っていた」

提督「ああ、そんな話もしたっけな」

木曾「……」

提督「……」

木曾「……嘘はついてないようだな」

提督「何だ。カマをかけたのか?」

木曾「青葉に聞いたってのは本当だ。映画の話をしたといってたのも本当だ」

提督「それで疑いが晴れたのか?」

木曾「もしお前と青葉が共犯で、アリバイ工作をしたというなら話した内容くらい示し合わせるはずだ。不自然なほどに完璧にな。だから本当のことを言ってると思った」

提督「……俺の性格をよく知ってるじゃないか」

木曾「わかった。信じるよ。お前は犯人じゃない」

提督「ああ。俺もお前さんを信じてる。お前さんは犯人じゃない」

木曾「これから先はお前を信頼して話すが、さっきの議論でみんなに言ってないことがある」

提督「聞かせてくれ」

木曾「比叡は犯人じゃない。多分な」

提督「……なんでだ?」

木曾「俺は覗きに行く前、比叡の様子をこっそり見に行った。もし偶然見つかったらまずいと思ってな」

提督「何だと!?」

木曾「確かに比叡は自分の部屋にいた。俺が覗きに行ったのは九時五分過ぎ。パンツが盗まれたのが俺が覗きに行く前だとしたら、どう考えてもパンツを盗んで部屋に帰るには時間が足りない。比叡には盗めない」

木曾「青葉はお前と一緒にいた。青葉にも盗めない」

木曾「吹雪と暁は被害者だ。狂言だとも考えにくい。そしてもちろん俺も違う」

木曾「おかしいな。じゃあいったい誰がパンツを盗めた?」

提督「……無理だな」

木曾「そうだ。誰にも犯行は不可能だ」

提督「馬鹿な。そんなはずはない。それじゃあ、まるで……」

木曾「……悔しいが犯人の計画は完璧だ。これは紛れもなく不可能犯罪だよ」

提督「……」

木曾「だからこそおかしい。不可能なことが起こるはずがない。俺たちは何かを間違えている」

木曾「何を間違えている? 場所か? 時間か? 人物か? 証拠か? それとも、アリバイか?」

木曾「犯人はいったいどんなトリックを使ったんだ?」

木曾「……お前の意見が聞きたい。お前はこの事件どう思ってる?」

提督「↓1」

提督(……こいつはやっかいだな)

提督(この事件、煙に巻いてうやむやにさせて逃げ切ろうと思っていたが)

提督(恐らくこいつは事件が解決するまで、真実を追い続ける)

提督(だったら……)

提督「簡単だ。俺たちの誰にも犯行は不可能なら、俺たちの中に犯人はいないってことだ」

木曾「何を馬鹿いってるんだ。吹雪と暁のパンツがひとりでに消えたとでもいうのか?」

提督「違う。この別荘に俺たち以外の『誰か』がいるとしたら?」

木曾「……なるほどな。もし『誰か』がいてそいつが犯人だとすれば辻褄は合う、か」

提督「さっきの議論のときも言ったが、根拠のない推理に説得力はない。だがもし、俺たち以外の『誰か』が犯人だとしたら、証拠は絶対に出るはずだ」

木曾「……」

提督「明日から本格的に調査をする。大丈夫だ。必ず犯人を暴き出してみせる。パンツも取り返す。それでいいだろ?」

木曾「……ああ」

提督「もう、今日は寝ろ。お前さんも疲れたろ」

木曾「ああ、遅くまで悪いな。いい夢見ろよ」

パタン

提督「おやすみ、また明日」

提督(……)

提督(いいだろう。木曾)

提督(この事件が迷宮入りするのが気に入らないっていうなら、俺が幕をおろしてやるよ)

提督(証拠をでっち上げて、みんなを丸め込み)

提督(こじつけの推理で、真実を捻じ曲げて)

提督(俺が事件を偽りの解決に導いてやる)

提督(それでこの事件の幕は閉じる。俺は完全に逃げ切れる)

提督(俺のパンツは、あらわれない)

二日目・終わり

今日は終わり。お疲れ様でした。

提督「……」

提督「……」

提督「……終わったか?」

比叡「ええ。終わりましたよ」

提督「どうだった?」

青葉「みーんなシロです。誰もおかしなものは持ってませんでした」

提督「そりゃそうだよな。持ち物検査なんて誰だって思い付く。盗んだものを持ったままなんてやつはいるわけないよな」

暁「もーっ! 私たちのパンツはいったいどこに行ったのよ!」

提督「心配するな。そのうちきっとあらわれるさ」

提督「しかし次はどうするかな」

青葉「そりゃあ現場捜査ですよ! 事件現場にこそ重要な証拠が隠されているもんです!」

吹雪「現場百篇っていいますしね!」

提督「現場っていうと風呂場と脱衣場か? 誰も調べてないのか?」

比叡「だって私はずっと吹雪ちゃんと暁ちゃんと一緒にいましたし」

提督「木曾も? 青葉も?」

木曾「ああ」

青葉「ええ、まあ」

木曾「俺はともかく、青葉は絶対現場を調べてると思ったがな」

青葉「だ、だって怖いじゃないですか」

暁「怖い?」

青葉「ほら! よく推理もので先走ったジャーナリストが重要な証拠を見つけてしまって犯人に殺されるっていうパターンがあるじゃないですか! あれですよ!」

提督「あぁ……。そういうことか」

吹雪「そういう司令官だって、調べてないんですか?」

提督「ああ、俺は……」

提督(木曾と密会してて調べる時間がなかったとは言えないな)

提督(適当にごまかすか)

↓1 適当にごまかせ

提督「別荘周辺を探索してたんだ」

比叡「探索? どうしてまた」

提督「もしも何かあったときのために、地図なしでも下山できるルートでもないかと思ってな」

青葉「あったんですか?」

提督「残念ながらなかったよ」

吹雪「うーん。やっぱりですか……」

提督「だが後二日か三日もしたら鎮守府から迎えが来る。それまでの辛抱だ」

暁「うん。それまでに事件が解決していたらいいんだけど」

提督「さて、ここでぐだぐだしてても仕方ない。現場を調べに行こうか」

木曾「待ってくれ。その前にひとついいか?」

提督「……? 急にどうした?」

木曾「言おうか言うまいかずっと悩んでいたが、やっと決心がついた。お前らを信じて言うことにするよ」

比叡「何ですか。もったいぶって」

木曾「事件の晩、暁と吹雪が聞いたのは俺の足音だ」

吹雪「……え?」

木曾「視線の主も俺だ」

暁「……は?」

木曾「入浴中の暁と吹雪を覗いたのは、俺だ」

比叡「え」

青葉「えええええええ!?」

提督(……そう来たか)

吹雪「そ、そんな……。木曾さんが犯人だったんですか?」

木曾「覗いたのは、な。でもパンツを盗んだのは俺じゃない」

暁「え? どういうこと?」

木曾「俺はあの日、風呂に入ろうと思って脱衣場に行った。そうしたら風呂場のほうから声が聞こえたから誰か入ってるかと思って覗いてみたんだ」

比叡「……それだけですか?」

木曾「そうだ。俺がやったのはそれだけだ」

青葉「……二人が脱衣場のほうに向かうと逃げたのは?」

木曾「タオルを忘れたから部屋に取りに帰ったんだ」

提督「それを証明できるものはあるか?」

木曾「ないな。だから信じてもらうしかない。パンツを盗んだ犯人は俺じゃない」

暁「……」

吹雪「……」

青葉「……」

比叡「……」

提督「……」

提督(こいつはいったい何を考えているんだ?)

提督(ここで、覗いたことをみんなにばらす意味があるのか?)

提督(盗んでないと言っても、言葉で言っただけじゃ怪しまれるだけだ)

提督(それとも、俺がこの場でどう出るかを見ているのか?)

提督(どうする?)

↓1 どうする?

提督「わかった。信じるよ」

木曾「……本当か?」

青葉「当たり前ですよ! 何年の付き合いだと思ってるんですか!」

吹雪「私は最初から木曾さんを疑ってなんていませんよ!」

暁「とーぜんよ! あの木曾さんがパンツを盗むなんて卑劣なまねをするわけがないわ!」

比叡「私も信じますよ。ずっと一緒に戦ってきた仲間です」

木曾「……悪いな」

比叡「それにもし木曾さんが犯人だったらここで、覗いたってことを言う意味なんてありませんしね」

提督「同感だ」

比叡「でもこれで、犯人の最有力候補は私ってことになりましたね」

木曾「それはない。比叡のアリバイは俺が証明する」

提督「……比叡をどこかで見たのか?」

木曾「ああ、風呂に行く前に比叡を誘おうと思って部屋に行ったんだ。本を読んでたから、結局声はかけなかったけどな」

比叡「いつの間にか部屋に来てたんですか? 全然気付きませんでした」

吹雪「あれ? いやでもおかしくないですか? 比叡さんも木曾さんも犯人じゃないってことは……」

提督「普通に考えたら、この中の誰にも犯行は不可能ってことになるだろうな」

暁「え? え? だったらいったい誰がパンツを盗んだの?」

木曾「……それがわからない」

木曾「正直に言おう。あいつは誰にも犯行は不可能といったが、唯一俺だけは可能だ。何せ脱衣場に行ったときに盗めもうと思えば盗める」

吹雪「でも!」

木曾「でも俺は犯人じゃない。それは俺自身が一番よく知っている」

青葉「……」

木曾「……俺はどうしてもこの事件の真相を突き止めたい。だからみんな力を貸してくれ。頼む」

青葉「……お安い御用ですよ! 海の上ではいつも力を貸してもらってますから!」

吹雪「なんだ。強大な敵にみんなで立ち向かう! いつもどおりじゃないですか!」

提督「当然だ。俺たちはお前さんを信じると決めた」

暁「でもどうするの? 結局は何もわからないってことじゃない」

提督「だったら徹底的に調べる。わからないことがあったら調べる。基本だ」

吹雪「はい! 絶対に事件を解決しましょう! 司令官!」

(……)

青葉「んー。どうですか? 何かありましたかー?」

吹雪「こっちは何もないですー」

木曾「こっちもない」

提督(そりゃ、何もあるわけがない)

提督(さて、そろそろ俺が持ってきた証拠を出すか)

提督「……ん? なんだこれは? ここになんか落ちてる」

比叡「これは……、↓1ですか?」

比叡「帽子ですか?」

提督「ああ、目立たないところにあった。だから誰も気が付かなかったんだろう」

暁「でも、この帽子初めて見るわね。私のでも木曾さんのでもないみたいだし」

吹雪「こういうのはどうでしょう? 犯人が顔を隠すために帽子を被っていて、落とした」

提督「どうだろうな」

木曾「帽子、か」

暁「あれ? 司令官! ここにもなにかある!」

提督(俺がこっそり置いたからな)

提督「なんだこれ?」

提督「↓1か?」

↓1 見つけたもの

提督「ひょっとこ? っていうのかこれ」

吹雪「犯人の変装グッズでしょうか?」

提督「犯人は帽子とひょっとこを被って、パンツを盗んだのか?」

暁「へ、変態だー!」

木曾「変態だな」

比叡「変態ですね」

比叡「そういえば、司令。ほら、私も見つけましたよ」

提督(もちろん俺が置いた)

提督「どれどれ」

提督「↓1のようだな」

↓1 見つけたもの

提督「針金のようだな」

吹雪「やっとそれらしい証拠が出てきましたね!」

提督「犯人は帽子とひょっとこを被りながら針金を使ってパンツを盗んだのか?」

比叡「針金を使う意味はあるんでしょうか?」

提督「犯人はきれい好きだから素手で触りたくなかったから、とか」

暁「失礼ね!」プンスカ

提督「……もう何も無さそうだな」

吹雪「帽子とひょっとこと針金ですか。なんなんでしょうこれ?」

提督「わからん。一晩じっくり考えてみることにするよ」

木曾「……」

提督「そんな顔をするな木曾。任せておけ。俺がこの事件を解決に導いてやる」

木曾「ああ、信じてるよ」

(……)

提督(……)

提督(うまくいったな)

提督(木曾が覗きをばらしたときはヒヤリとしたが、終わってみれば望ましい展開になってくれた)

提督(みんなで事件を解決しようとしているあいつらは、気付きもしないだろうが)

提督(あいつらが今、求めているのは事件の真相じゃない)

提督(誰もが幸せになれるハッピーエンドだ)

提督(だったら簡単だ。捏造した証拠を使って、この中に犯人はいないという推理を組み立てる)

提督(あいつらは喜んでそれに飛びつく)

提督(やっぱり私たちの仲間の中に犯人なんていなかったんだ。と信じ込む)

提督(真相は闇の中だ。鎮守府の証拠も時間とともに消え行く)

提督(俺のパンツは、あらわれない)

三日目・終わり

次は解決編です。安価をとるかどうかはわからん

針金とひょっとこと帽子でどうやって推理を組み立てるか全然思いつかんけど、明日の俺に任せて寝よ

お疲れ様でした

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