【ガンダムSEED DESTINY】シン「フリーダムは敵じゃない」 (252)

デストロイを堕とさせるわけにはいかない。よりにもよって、あの少年にだけは。
ネオ・ロアノークは叫ぶ。

ネオ「やめろ坊主!その機体に乗っているのはステラだぞ!!」

シン「え…?」

接触回線によってコクピット内部に響く聞き覚えのある声。
そしてその声が紡いだ言葉に、シンは一瞬、思考を停止した。

シン「ステラ…!?」

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インパルスが切り裂いた装甲の隙間に視線を移し、カメラをズームさせていく。
聞き間違いであってくれと祈りながら。

シン「そんな…」

見間違えるはずがない。
モニターに映し出されたのは、シンが誰より守りたいと願った少女の姿。

自分は今、ステラを殺すところだったのか?
なぜ彼女がここに?もう戦わせないと、約束を交わしたはずなのに。
認めたくない事実に混乱し、立ち尽くす。

メイリン「シン!シン!どうしたの!?機体に不調が!?」

レイ「シン、どうした!なにをやってる!」

アスラン「シン、応答しろ!…くっ、なんでもいい、機体をくれ!俺が援護する!」

ミネルバからの通信も、耳を通り過ぎていく。

キラ「なにをやってるんだ!的になりたいのか!?」

聞き覚えのない少年の声がコクピットに響く。
直後、インパルスの横を蒼い翼を広げたMSがすり抜けていく。

ネオ「ステラには近づけさせんッ!」

デストロイを止めようと仕掛けるフリーダム、それを食い止めるべく反撃するネオのウィンダム。
目の前で繰り広げられる激しい攻防に、シンはようやく思考を回復させる。

シン「そうだ…今はとにかく、ステラを止める!」

シン「誰より戦いを恐れているあの子にこんなこと…させていいはずがない!」

操縦桿を握り直し、デストロイへと直進する。
フリーダムはネオのウィンダムが押さえている。
カオスはオーブ軍の機体に囲まれ、身動きがとれない。
自分とステラの間を阻むものはない、今が絶好のチャンスだ。

デストロイから放たれる光の奔流。
それは殺意というよりも、怯えきった少女の拒絶の意思。
ひたすらに掻い潜り、飛び込む。

シン「ステラーッ!!」

ステラ「いや…いやぁっ!」

シン「ステラ…!」

通信を全周波に切り替え、呼びかける。

シン「ステラ、俺だ!シンだよ!」

直後、インパルスのコクピットに警告音が鳴り響く。
翼を広げたフリーダムがライフルを構え、デストロイに狙いを定める。

シン「やめろっ!!」

モニターの端に、墜落していくネオの機体を確認しながら、インパルスを突進させる。

キラ「なっ!?」

シールドを構え、庇うように立ちはだかるインパルスを前に、キラはたじろぐ。

キラ「ザフトのMS!なにをやっているんだ!その機体を早く止めなければ…」

シン「黙れッ!なにも知らないくせに…!」

彼女は、望んでこんなことをしているわけじゃない。
ロゴスという巨悪に利用され、戦場に駆り出されただけの
死ぬのが怖いと泣いている、可哀想な少女なのだ。

ステラ「ネオ…!ネオッ!いやぁぁぁっ!!」

ネオが堕とされた、死んでしまった。
そしてその視界に、ムラサメに切り刻まれたカオスを確認する。
ネオもスティングもいなくなった。
アウルは?記憶を操作され、忘れかけていた少年を思い出す。
そうだ、アウルも死んでしまった。

死への恐怖から、仲間を失った悲しみから、涙が止めどなく溢れてくる。
恐怖と悲しみに支配された思考。
ステラ「やっつけなきゃ…」
『でないと、怖いものが来て、私たちを殺す』
ネオの言葉を思い出す。
そうだ、『怖いもの』が来て、みんな殺されてしまった。

ステラ「死ぬは、だめ…!」

全てを薙ぎ払うため、操縦桿に指を伸ばす。

シン「ステラ!」

だが、聞き覚えのある声に驚き、指をひっこめた。

シン「ステラ、大丈夫だ!君は死なない!」

ステラ「…!」

シン「君は俺が守る!絶対に!」

ステラ「まも…る…?」

ステラはおそるおそる瞼を上げる。
涙の滲んだその視界には、自分を庇うように白亜のMSが佇んでいる。

ステラ「シン…?」

なぜ忘れていたのだろう。
必ず守ると約束してくれた存在を。
あたたかい腕で抱きしめてくれた人を。

ステラ「シン!」

シン「ステラ!?」

視線はフリーダムに向けたまま、シンはステラに問いかける。

シン「ステラ…!思い出したのか!?」

ステラ「シン、会いに来た…?」

シン「…!ああ、そうだ!会いに来たんだ!」

ステラ「シン…」

ステラの瞳から、恐怖と死の色が消えていく。

シン「ステラ、君はそんなところにいちゃいけない!今助けるから!」

全周波で呼びかけていたシンの声は、フリーダムのコクピットにも届いていた。

キラ「これは…」

デストロイは既に全ての武装を降ろし、停止している。

キラ「それなら…」

フリーダムの武装を手放し、キラはインパルスへと呼びかける。

キラ「ザフトのMS!聞こえるか!」

シン「フリーダム…?」

キラ「救いたいんだろ?そのパイロットを!」

シン「!」

キラ「僕は…その人を殺すために来たわけじゃない。止めるために来たんだ」

キラ「だから早く!その機体はなにか危険な感じがするんだ!」

シン「あ、ああ!ステラ、こっちへ…」

インパルスが振り向くと同時に、デストロイの胸部に光が収束する。

シン「え…」

ステラ「シン!逃げてぇ!」

キラ「くっ…間に合えぇぇぇッ!!」

インパルスとデストロイの間に割って入り、殆ど反射に身を任せてシールドを構える。
直後、フリーダムを巨大な光線が包み込んだ。

キラ「なんて火力だ…!」

シン「庇うなフリーダム!このままじゃアンタが!」

キラ「駄目だ!僕は…!」

キラ「もう目の前で、助けられる命を諦めたりはしないッ!」

キラ「フレイ…!僕を守ってくれ…!」

フリーダムのシールドが焼け落ちようという正にそのときだった。

デストロイの砲門が光によって射抜かれ、その機能を停止する。

キラ「援軍…?」

シン「あれは…!」

アスラン「無事か!?シン!…キラ!」

ザフト軍の空戦用MS、バビ。
デストロイの砲撃を止めたのは、バビがその手に携えたライフルによるものだった。

キラ「いまのうちに、早く!」

シン「ステラっ!」

デストロイのコクピットハッチが開く。
泣きじゃくる少女を抱きしめる赤いパイロットスーツの少年。
キラはモニター越しにそれを見つめ、思考を巡らせる。

シン「ステラ…」

彼の腕の中にいる少女は、とても弱っているように見えた。
ただ戦いで疲弊しただけではない。
少女の様子を見て、キラは前大戦で対峙した相手を思い出す。
戦後になってから知ったことだが、自分たちが戦った地球連合軍のパイロットは
特殊な投薬と強化を受けてコーディネイターに匹敵する力を得る悪魔の研究の産物だと。
もしや、彼女も…?

アスラン「その子…どうするつもりだ、シン」

シン「それは…」

アスラン「連合軍はその子を人間扱いしていない」

アスラン「ザフト軍にしても…おまえが彼女を連合に引き渡したきっかけになってしまった」

アスラン「俺たちに、その子を救う手立ては…」

キラ「待ってくれないかな」

シン「!」

アスラン「キラ!?」

シン(こいつが…この人が、フリーダムのパイロット…)

キラ「ちょっと無神経な言い方をするけど…」

キラ「その子は、連合の強化人間…ってことでいいのかな」

シン「あ、ああ…」

キラ「それなら、助けられるかもしれない。心当たりが…」

シン「本当か!?」

キラ「うん。君が信じてくれるなら、この件、僕に預けてくれないか?」

シン「俺は…」

腕の中のステラへと視線を向ける。
その瞳は、不安そうに揺れていた。

アスラン「…シン。キラは人を騙すようなやつじゃないさ。俺が保証する」

シン「アスラン…」

シン「…わかった」

シン「俺、シン・アスカって言います。この子はステラ」

シン「ステラのこと…頼みます」

ステラ「シン…?」

シン「ごめん、ステラ…俺は、無力だ…!」

キラ「いや、それは違うよ」

シン「え…?」

キラ「その子を救うために、ずっと敵対してきた僕を信じると言える君は、強い人だと思う」

シン「アンタって人は…!」

キラ「あ、ごめん。名乗ってなかったね。キラ・ヤマトです」

シン「キラさん!」

キラ「それじゃ、この子のことは、責任をもって預かるから…」

キラ「君さえよければ、だけど…」

ステラ「…シン、ステラを守ってくれた」

ステラ「あなたは、シンを守ってくれた。だから、あなたは怖くない…」

キラ「よかった…」

アスラン「…話はまとまったな」

アスラン「キラ、おまえはその子を…ステラを連れて、早々に離脱した方がいい」

アスラン「ザフト軍がアークエンジェルに対してどう対応するのか…まだわからないからな」

キラ「…いいのかい?君はザフトの兵士なのに」

アスラン「キラ…!」

キラ「ごめん…少し強情になってた。素直に聞くことにするよ」

キラ「…ありがとう、アスラン」

アスラン「…ああ」

ステラ「シン!」

シン「ステラ!絶対、また会えるから!」

ステラ「うん、今度はステラがシンに会いに行く!」

キラ「ラクスが勝手に改造したコクピット、こんな形で役に立つなんて…」
自分も乗りたい、とラクスによって複座式にされてしまったフリーダムのコクピット
(キラが断固拒否したためその願いは叶わなかったが)
その後ろの座席にステラを乗せる。
そのあどけない顔を見て、キラは思考する。

キラ(あのとき…この子が故意に撃ったとは思えない。機体の暴走?或いは遠隔操作?)

考えてもわからないことだった。
直接聞こうと思ったが、弱っているこの少女に根ほり葉ほり聞くのも酷だろう。
キラは早々に思考を打ち切り、フリーダムを発進させた。

キラ「ありがとう、フレイ…」

シン「フリーダムのパイロット…想像していたより、ずっと穏やかな人だった…」

アスラン「意外だったか?」

シン「そりゃあそうですよ…ふらっと表れて、いきなり戦いを始めて!」

シン「でもきっと…あの人は、あの人の大切なものを守りたかっただけなんだ…」

アスラン「…実はな、シン」

アスラン「…俺は前の戦争で、あいつと本気で憎しみあって、戦ったことがあるんだ」

シン「え!?だって、あの人とは親友同士だって…」

アスラン「ああ。だが戦いのなかで互いに大事な人間の命を奪った」

アスラン「そして俺たちは憎しみに囚われて…」

アスラン「あれは戦争ですらなかった。ただの殺し合いだったよ」

シン「アスラン…」

アスラン「戦いは、人を狂わせる」

アスラン「あのときキラが、ステラを討つのではなく、おまえを守ることを選ぶ男でよかった」

アスラン「お前には、憎しみの促すままに戦ってほしくないからな」

シン「…あの人は、俺を強いと言ってくれた」

シン「その言葉を嘘にはしない…俺は強くなって、大事なもの全てを守れるようになりたい」

アスラン「そうか…いい目標だ。応援するよ」

シン「俺が守りたいものの中には、当然アスランも入ってますよ」

アスラン「頼もしいな。だが、人に頼ることも忘れるなよ?」

シン「わかってますよ。今回だって、アスランが来てくれて助かったんだから」

アスラン「ならいいんだ。議長期待のミネルバだ、応えてみせるぞ!」

シン「はい!」

一旦休憩いれてまた夜に再開しようと思います。
ご都合主義の連発で強引に話を進めていくと思います。

再開します。

ミネルバへと帰還したシンとアスラン。
二人を待っていたのは鬼の形相をしたレイとルナマリアだった。

レイ「シン!馬鹿かお前は!なぜあんな無茶をした!!」

シン「あ、あの機体にはステラが…」

レイ「そんなことはわかっている!通信で全て聞こえていた!」

アスラン「レ、レイ、少し落ち着け!」

ルナマリア「アスラン!あなたもあなたです!怪我も治らないうちに無茶をして!」

アスラン「ルナマリアまで…だがあの状況では…」

ルナマリア「いいわけは聞きません!」

タリア「ふたりとも、そのへんにしてあげなさい」

レイ「しかし…」

有無を言わせぬタリアの表情に、レイとルナマリアは渋々引き下がる。

タリア「本艦はこれから、戦力を補充するため、ジブラルタルへ向かいます」

タリア「ハイネを…ザクを、セイバーを失った今の状態では、まともに戦うことはできませんからね」

タリア「各員、しっかり身体を休めておくこと。いいわね」

タリア「それと、シンは体力が回復し次第、私のところに来るように」

シン「へ?」

タリア「お説教よ。自分がどれだけの無茶をしたのか、理解できてるわね?」

シン「結局そうなるのかよ…」

タリア「なにか?」

シン「い、いえ…了解ですっ!」

ジブリール「デストロイはおろか、その適正者を失うとはな」

ジブリール「この失態の責任…どうとるつもりだ?ロアノーク大佐」

ネオ「……」

ロード・ジブリール、この男こそ全ての元凶。
精神的に不安定なステラがパイロットとしての機能を停止することを見越し
その場合デストロイが自動で攻撃行動に移るよう仕組んだのもこの男だった。

ジブリール「ふん、返す言葉も無いか」

ジブリール「が…まあいい。ザフトの猿共が甘くて助かった」

ジブリール「デストロイそのものは接収されたが、その戦闘データは全てこちらに送信されている」

ジブリール「これさえあれば、出来損ないであろうと、デストロイのパーツとして最低限の機能は果たせるはず」

デストロイの操縦に適正を見出されたステラ。
その戦闘データを使い、パイロットの操縦をサポートするOSを構築する。
そうすることで、ステラほどの完成度に満たないエクステンデッドでも
デストロイを十全に扱うことが可能になる。
ジブリールにとって、ベルリンの街はデータ採取のための生贄でしかなかったのだ。

ジブリール「既にデストロイは量産体制に入っている…」

ジブリール「ザフトなど、もはや恐れるに足らず!フハハハハハ!」

ネオ(こいつは…悲劇を生み出す権化だ…!)

ネオは唇を噛み締める。
ベルリンでの混乱に乗じて姿を消してやろうかとも思ったが
スティングを置いて自分だけが地獄から抜け出そうとするほど、ネオは非情でもなかった。

ジブリール「もういい、失せろ。貴様に作戦指揮を執らせることは二度とないだろうがな」

ネオ「はっ…」

ネオ「約束…ふたつも反故にしちまったなぁ…」

ひとつは、もうステラを戦わせないという約束。
そしてもうひとつは、必ず帰るという約束。
帰るとは、誰の元へだったか?
ネオは、己の記憶に潜む違和感の正体を掴めぬまま、その場を後にした。

ミネルバがジブラルタル基地へ向かう途中のことだった。

メイリン「艦長、プラントから緊急メッセージです!」

タリア「繋いでちょうだい」

メイリンがモニターへ回線を繋ぐと、デスクに座したデュランダルの姿が映し出される。

メイリン「あらゆるメディアを通して、全世界に発信されてます!」

アーサー「ええ?」

タリア「……」

タリア「艦内に流して。全員、可能な限り聞くようにと」

デュランダルのメッセージ、それは先日のベルリンでの戦いについてだった。
モニターに映し出される、巨大MS、デストロイ。
そして、それに敢然と立ち向かうインパルスの姿。

アスランは、その映像を見ながら違和感を覚えていた。

アスラン(フリーダムが…いない…?)

ジブリール「なんだ、これはァッ!?」

ジブリールは通信機を手に取り、秘書に向かって喚いた。

ジブリール「こんな放送は止めさせろ!今すぐにィ!」

『どういうことだね、これは』

ジブリールの私室に配置されたマルチモニター
そこに映し出されたロゴスの面々が、冷たくジブリールを見下ろしている。

『これは、君の責任問題だよ』

ジブリール「クソ!クソォッ!」

悔しさと焦りから、思い切りデスクを殴りつける。
突然のゲリラ放送によって、自分たちの悪逆が明るみに出てしまうとは。

デュランダル『--よって、世界の真なる敵、ロゴス!』

デュランダル『これを討ち滅ぼすことを、此処に宣言致します!』

ジブリール「なっ…なにィーッ!?」

シン「ロゴス、か…」

ルナマリア「前にお会いしたとき、議長もおっしゃっていたのにね」

ルナマリア「ロゴスを討つのは、簡単なことじゃないって」

シン「ああ。でもやるんだ、議長は」

シン「俺、感動したよ。難しいって言ってたのに、諦めないんだ、あの人は!」

アスラン「……」

ルナマリア「アスラン?」

レイ「対ロゴス…あまり気が乗りませんか?アスランは」

アスラン「ああいや、そういうわけじゃないんだ。ただな…」

ロゴスを討つ、それ自体が間違ったことだとは思わないが。

アスラン「議長はこれまで、ナチュラルとの融和を掲げ、ゆっくりと…
それでいてしっかりと、着実に事を進めてこられた」

アスラン「だが、今回の件…今までの議長のやり方とは、違ったものを感じる、というか」

アスラン「あまりに事を急いている、そんな気がして、少し引っかかってな」

ルナマリア「あー、言われてみればそんな気も…」

シン「…それは多分、ベルリンでの一件があったせいです」

シンは苦しげに顔を歪める。
あの惨状は、地球連合軍の兵器が引き起こしたもの。
そして、そのパイロットたるステラを地球連合軍に返したのは自分。
そうでもしなければ、ステラはその亡骸すらも実験材料にされていた。
シンにとっては、他に選択肢は無かったも同然。
しかし、どうしようもない後ろめたさが、シンを苛んでいた。

アスラン「シン…」

レイ「融和、それは確かに大切です。議長もそれを諦めることはしないでしょう」

レイ「ただ…討つべきものは討つ。そうしなければ、この戦争はいつまでも終わらない」

レイ「戦争が長引けば、その犠牲者は増える一方です」

アスラン「そう、だな…」

レイの言うことは正しい。だが、なにか引っかかるのだ。
釈然としないまま、黙り込むしかなかった。

ジブラルタル基地に到着し、議長から呼び出しを受けたシンとアスランは
車両の後部座席に揺られていた。

シン「…議長の放送、話の内容には納得してますけど」

シン「少し、気になったこともあって」

アスラン「それは?」

シン「ベルリンでの戦いの映像の中で、フリーダムの姿が一度も映らなかった」

アスラン「お前も、おかしいと思ったか…」

シン「まあ、議長には議長の考えがあるんだとは思いますけどね」

アスラン「…そうだな…」

手間をかけてまでなぜ、あの戦いからフリーダムの存在を抹消するのか。
それだけではない。キラが言っていた、ラクスがコーディネイターの部隊に襲われたという話。
議長そのものへの懐疑の念、それがアスランの喉につかえていたものだった。

シン「気になることがあるなら、直接聞いてみたっていいじゃないですか」

アスラン「!」

キラとすれ違いを起こしたのは、対話を怠ったから。
そう、正面から話をしなければ、いつまでもわだかまりを残したままだ。

アスラン「…ああ、そうすることにするよ」

アスラン「ありがとな、シン」

シン「お礼を言われるようなことじゃないですよ」

シン「でも、人を頼ることを忘れるなって言った本人が、一人で抱え込んでちゃ良くないと思います」

アスラン「はは、これは一本取られたな」

シン「それとも、俺じゃ頼りになりませんか?」

アスラン「…いや、頼りにしてるさ」

アスラン「ミネルバのエースは、お前なんだからな。
そして何より、かけがえのない仲間だ」

シン「へへ…まあとにかく、俺でもレイでもタリア艦長でもいいから、
悩みがあるなら相談してくださいよ」

シン「あ、ルナマリアが一番喜ぶかも…」

アスラン「なぜルナマリアが?」

シン「え…わかんないんですか?」

アスラン「なにがだ?」

絶句し、頭を抱えるシンを見て、アスランは首をかしげるしかなかった。

短いですが今日はここまでで終わります。
MS戦とかもやりたいですが大分先になる予感。

原作との差異というかこのSS独自の設定

・アスラン
無闇に殴りつけたりはせず、言葉でシンを導いてきたため、
シンからの好感度は原作より高め。

・シン
アスランとは殆ど衝突もなく、関係も良好。
セイバーが撃墜された際にはオーブ軍と連合軍を蹴散らしながら早急にそれを回収、
無事にミネルバまで送り届けている。

・キラ
原作通りアスランと衝突し、セイバーを撃墜したが、
インパルスがセイバーを無事に回収するところまで見届けてから帰還している。
高山瑞穂氏の漫画版と同じ状況でムウを目の前で失っており、
(ムウ機がプロヴィデンスを羽交い絞めにし、それをキラが苦渋の決断で諸共撃つというもの)
ムウを助けられなかったことをずっと悔やみ続けている。

・レイ
自分がラウのようにならなかったのは、デュランダルという父のような存在や、
シンとルナマリアという友人に恵まれたおかげだと考え、彼らを心から大切に思っている。

・ネオ
原作ではベルリンでの戦闘後にAAに回収されたが、
このSSではスティングと共に地球連合軍に帰還している。

現時点で考えているのはこんなところです。

再開します。

デュランダル「やあ、久しいね。シン、アスラン」

アスラン「お久しぶりです、議長」

シン「お久しぶりです!先日のメッセージ、俺…感動しました!」

デュランダル「いや、ありがとう。私も、君たちの活躍は聞いているよ」

デュランダルは続ける。

デュランダル「あのメッセージを見てくれたのならもう知っていることとは思うが…
対ロゴスの作戦が開始されるまでもう間もなくだ」

デュランダル「そして…フフ、シンはもう先ほどから
そちらにばかり目が行ってしまっているようだが…」

格納庫のライトが点き、二体のMSの姿がはっきりと浮かび上がる

シン「これは…!」

デュランダル「ZGMF-X42S、デスティニー。ZGMF-X666S、レジェンド」

デュランダル「君たちの新しい機体だよ」

シン「え…!?」

アスラン「俺たちの…?」

目を輝かせ感嘆の息をつくシン。
デュランダルはそれを楽しげに見つめている。

シン「どんな機体なんですか!?」

デュランダル「詳細は後で目を通してもらうが…まずシンの機体であるデスティニー」

デュランダル「この機体は火力、防御力、機動力…
全てにおいてインパルスを凌駕する最強の機体だ」

デュランダル「インパルスが持つ三つのシルエットの力を一つに結集し、
且つそのポテンシャルを最大限にまで引き上げた機体といえば伝わるだろうか」

デュランダル「この機体は特に、強力な対艦刀とビーム砲を装備し、
地球連合軍のMAのような、強固な防御力を持つ相手との戦いを想定している」

デュランダル「ロゴス掃滅作戦において、間違いなく主役となる機体だよ」

シン「凄い…!」

デュランダル「そして、レジェンドだが…」

議長の視線の先には、巨大な円盤型のプラットフォームを背負った、暗いトリコロールの機体。

デュランダル「ドラグーンシステム、君ならば使いこなせると思うが…」

デュランダル「どうかな、アスラン?」

アスラン「え…?」

デュランダルが不思議そうにアスランの顔を覗き込む。

デュランダル「どうしたね、上の空ではないか。お気に召さなかったかな?」

アスラン「あ、いえ…」

シン「議長!アスランは議長にお話したいことがあるみたいで…」

デュランダル「私に?」

シン「自分は一足先に、新しい機体の慣熟訓練に入るであります!」

デュランダル「そうか…許可する。頼りにしているよ、シン」

シン「は!失礼するであります!」

アスラン(シンのやつ…気をつかってくれたのか…)

シンが立ち去ったのを確認すると、デュランダルはアスランの方へ向き直った。

デュランダル「で、話というのは…?」

シン「本当に凄い…!デスティニーの反応速度、信じられないレベルだ!」

シン「この機動性…インパルスどころか、フリーダムよりも上じゃないのか!?」

シュミレーターの中で夢中に機体を操るシンを、
けたたましく鳴り響く警告音が現実に引き戻した。

シン「なんだ!?」

レイ「シン、デスティニーを出せ!」

シン「レイ!一体なにが…」

今日受領したばかりの機体をいきなり発進させろとは、どういう事態なのだ?
面食らうシンに、レイが告げる。

レイ「敵の工作員が新型…レジェンドを奪って逃走した!」

シン「なんだって!?…アスランは!?」

レイ「敵はそのアスラン・ザラだ!!」

シン「え…!?」

一瞬、レイがなにを言っているのか理解できずに動きを止める。
しかし、レイがこんなタチの悪い冗談を言うような男ではないことを、
士官学校時代からの友人であるシンが一番理解していた。

シン「なにか…理由があるはずだ!」

確かめなければならない。
アスラン・ザラになにがあったのかを、そしてその真意を。

レジェンドのレーダーに友軍機の接近を確認。
モニターに映し出されるのはデスティニーと、それに追随するフォースインパルスの姿。

アスラン「デスティニー…シンか!インパルスには…?」

シン「アスラン!なにをやってんだよ、アンタは!?」

アスラン「済まないと思っている!だが、お前に相談しているだけの猶予はなかった!」

アスラン「俺は議長に用済みと判断され、消される寸前だった!」

シン「なっ…!?」

アスラン「不要になったものは排除する…それが彼の本性だ!"都合の悪い映像を消す"ように俺を!」

レイ「真に受けるな!裏切り者の戯言だ!」

アスラン(インパルスに乗っているのは…レイか!)

アスラン「聞けシン!議長の言葉は正しく、心地よく聞こえるかもしれない!」

アスラン「だが彼の言葉は"手段"だ!そこに誠意や信頼は無い!」

アスラン「彼の思い描く"平和な世界"は、俺たちが望むそれとはかけ離れたものだ!」

シン「え…?」

レイ「シン、聞くな!」

アスラン「人の適正ごとに役割が割り振られ、歯車として機能する世界!
人が人でなくなる世界…それが議長の作り出そうとしているものの正体だ!」

レイ「ええい、黙れッ!」

背中のビームサーベルを引き抜き、レジェンドに斬りかかるインパルス。

アスラン「レイ、やめろ!君を討ちたくなどない!」

迎え撃つレジェンドのビームジャベリンが、インパルスの右腕をサーベルごと斬り飛ばした。

レイ「速い…!ちぃっ!マシンポテンシャルが違いすぎるか…!」

シン「役割…歯車…?」

シン「そんなの…ステラに兵士の役割を押し付けた、ロゴスのやつらと同じじゃないか!」

レイ「シン、それは違う!議長は!」

アスラン「シン、お前も一緒に来るんだ!」

レイ「アスランは既に少し錯乱している!まともに言うことを聞くな!」

アスラン「俺は錯乱などしていない!シン、議長に踊らされては駄目だ!
お前のその力を、意思を、利用されるな!」

レイ「シンを惑わすな!裏切り者が…!」

左腕でライフルを構え、その引き金に指をかけるインパルス。

シン「レイ…ごめん、俺は…!」

レジェンドを庇うように、デスティニーが立ちふさがる。

レイ「シン…!?」

アスランの言葉にはなんの根拠もなかった。
だがシンにとって、それがアスランの言葉であるということだけで、信じるに値するものだった。

レイ「議長よりも…俺よりも、アスランを信じるというのか!お前はっ!!」

シン「そうじゃないよレイ…!俺は…!」

レイ「…くっ!」

構えていたライフルを降ろす。
インパルスでは、デスティニーとレジェンドの二機を押さえることなど到底不可能だと、レイは理解していた。

レイ「どこへなりとも行くがいい…」

シン「レイ…」

レイ「シン…俺はお前を許さない。絶対に…!」

恐ろしいほどに冷ややかな声が、デスティニーのコクピットにこだまする。

シン「っ…!」

その声の鋭さに、シンは背筋が凍るような感覚を覚える。
そしてそれ以上に、友人から発せられた明確な憎悪に、どうしようもない悲しみが込み上げてくる。

シン「ごめん…でも、俺は…」

飛び去って行くレジェンドとデスティニー。
その背中を、レイはモニター越しに睨み続けた。

レイ「…ミネルバに通達。シン・アスカ、アスラン・ザラの両名は…」

レイ「ザフトを…裏切った」

シン「アークエンジェルの元へ向かうんですか?」

アスラン「ああ」

シン「…向こうへ着いたら、詳しいことを説明してくださいよ」

アスラン「…すまん。お前にも、裏切り者の汚名を着せることになった」

アスラン「だが、これ以上…俺たちが議長に利用されるなんてことは、あっちゃいけない」

シン「…選んだのは俺自身です。あなたが謝ることじゃない」

シン「ただ…ルナ、ヨウラン、ヴィーノ…あいつらには、いつか謝る機会があるといいけど…」

シン「…レイにも」

デュランダルへの報告を済ませたレイは、基地内に用意された部屋ではなく、
ミネルバ艦内の私室へと戻ってきていた。
シンと共同で使用していた部屋。
まだシンの私物は撤去されていない。
ふと、デスクの上にピンク色の端末があるのに気が付いた。

レイ「これは…」

以前、妹の形見だと話していた、小さくて丸みを帯びた携帯電話。
アカデミー時代、シンはよくこれを他の生徒からかわれて、そのたびに喧嘩に発展していた。

レイ「あの馬鹿、こんな大事なものを…」

レイ「……」

いや、当然だ。
彼は、また此処に戻ってくるつもりで出撃したのだから。

レイ「なぜだ…」

『そんなの…ステラに兵士の役割を押し付けた、ロゴスのやつらと同じじゃないか!』

シンの悲痛な叫びが、脳裏に焼き付いて離れない。

レイ「違う…ギルの世界は…俺やステラのような人間が生み出されない世界なのに…」

レイ「戦争の無い世界…それはシン、お前が他の誰より望んでいたものじゃないのか…」

固く握りしめたその拳を、何処に振り下ろせばいいのか。
それすらもわからないまま、レイは立ち尽くすしかなかった。

今日はここまでです。
シンとアスランのエース二人に加えて新型二機も失った議長のライフはとっくに0よ。

>>84でレジェンドの色に触れてますが、電源落ちてるのにVPSの色がわかるわけないですね。
他にもいろいろミスってたら申し訳ない。
今日中に次の投下ができるかは怪しいです。

再開します。

連絡をとり、無事にアークエンジェルと合流したシンとアスラン。
シンとアークエンジェルクルーは互いに軽い自己紹介を済ませ、
現在の状況を確認する。

マルキオという名の人物が地球連合軍の技術に詳しく、
彼が持つ医療施設にステラは預けられたということ。
彼女の容態が回復次第、連絡をとることも可能ということ。

アスランの口から語られる脱走に至るまでの経緯。
シンが格納庫を去ったあと、デュランダルとの会話の中で、
ラクス・クラインの暗殺が彼の手引きであったことを確信したこと。

以前アスランがアークエンジェルクルーと密会していたときの写真を隠し撮りされており、
それを理由に罪状をでっちあげられて処分されるはずだったところを、
ミーア・キャンベルという少女のおかげで事前に危機を察知し、脱出できたこと。

自分が不要な駒として切り捨てられたことで、
彼の語った"平和な世界"に対する違和感の正体に気づいたこと。

腑に落ちた、といった表情のキラに対し、シンはショックを隠し切れずにいた。

シン「議長が…アスランを殺そうとしたなんて…」

シン「あんなに優しくて、穏やかな人が…そんな…」

デュランダルの裏の顔。
いや、邪魔者は容赦なく排除するその冷徹さこそが、彼の本性なのかもしれない。
シンは空恐ろしい感覚に身を震わせた。

アスラン「俺も、信じたかった…俺と父が道を誤ったザフトで、
再び名を呼んでくれたあの人を」

アスラン「だが…あの人が必要としたのは俺という人間じゃない。
その力だけだった」

カガリ「アスラン…」

アスラン「仮面をつけているんだ、議長は」

アスラン「人を信用させ、自分にとって都合のいい駒に仕立て上げるためのな」

アスラン「俺もまんまと騙されていた…彼の志は、自分と同じだと錯覚していた」

キラ「僕はあんなことがあったから、最初から疑っていたけどね」

シン「……」

キラ「…あ、ステラさんのことだけど、順調に回復に向かっているみたいだよ」

シン「良かった…でも、連合の技術を知ってるって…マルキオって人、何者なんです?」

キラ「うーん、とにかく物知りなんだよね。僕もときどき驚かされるんだけど…
まあ、マルキオ導師は信用できる人だから、安心してくれていいよ」

シン「キラさんがそういうなら…」

カガリがこっそりとキラに耳うちする。

カガリ「お前、ずいぶん信頼されてるんだな…」

キラ「そうかな?」

カガリ「いや、そうだろ…」

シン「なにコソコソ話してるんだよ、カガリは」

カガリ「なっ!?お、お前!キラはさん付けなのになぜ私は呼び捨てなんだ!?」

シン「別にいいじゃんか。年も同じぐらいだろ?」

カガリ「私はキラのお姉さんなんだぞ!」

シン「えっ」

カガリ「えっ」

口は半開きのまま、シンはキラに視線を向ける。

キラ「僕たち双子なんだよ。姉っていうのは、カガリの自称だけどね」

カガリ「私が姉といったら姉だ!」

キラ「あ、うん。僕もそれでいいよ」

カガリ「よし」

シン(キラさんの方が大人だ…)

アスラン「それで、俺たちはこれからどう動く?」

カガリ「ああ…私は、これからオーブ政府に戻るつもりだ」

カガリ「ロゴス幹部の中に、セイランと関わりのあるものがいたんだ。
ロゴスが世界の敵として認識された今、これを無視するわけにはいかない」

シン「ロゴスと!?」

カガリ「ああ。もう二度と、オーブを間違った道に進ませるわけにはいかない」

カガリ「そしてそれは、私たちも同じだ。アスラン、お前にも言われたけど、
あんなやり方で戦闘を止めようとするのは、無謀だったと思う」

アスラン「カガリ…」

カガリ「犠牲も多く出た。彼らに報いるためにも、私は戻らなきゃ」

アスラン「…そうだな。それがいい」

シン「変わったな、アンタは。もちろん、いい意味で」

カガリ「シン、お前…」

シン「俺の力が必要なら遠慮なく言ってくれ」

シン「なにかあったら、俺が絶対、アンタを守るから!」

カガリ「!?」

キラ「へえ…」

アスラン「む…」

シン「?」

カガリ「た、頼りにさせてもらう。…が、そういう台詞は一番大切な人に"だけ"言うべきだな!」

だけ、の部分を強調してカガリが言う。
シンは、そこでようやく自分の失言に気づき、顔を赤らめた。

キラ「そうそう。それにカガリを守るのは、アスランの役目だよね」

アスラン「お、おい…からかうなよ」

シン「え?二人ってそういう関係?ラクス・クラインと婚約してるんじゃ…」

アスラン「まあ…色々あってな。ラクスのことは、俺よりキラの方がよくわかってるよ」

キラ「僕たちはべつにそういう関係じゃないよ?」

カガリ「え?だって一緒に住んでたろ?」

キラ「僕はカガリとも一緒に住めるけど?それと一緒だよ」

カガリ「お前ってやつは…ラクスは苦労しそうだな…」

シン「あれ?でもラクス・クラインって今、議長と一緒にジブラルタル基地に…」

アスラン「彼女はラクスじゃない。ミーア・キャンベルだ」

アスラン「俺の…命の恩人だよ」

アスラン「本当は、彼女も此処に連れてきたかったんだが…」

シン「ええと…ラクスがミーアで…んん?」

アスラン「そういえば、ラクスは?姿が見えないが…」

キラ「本物のラクスなら、今宇宙にいるよ」

アスラン「なにしに宇宙へ?」

キラ「それは議長の--」

ミリアリア「ファクトリーより緊急通信!」

マリュー「繋いで!」

モニターに映し出されたのは、額から血を流した隻眼の男だった。

キラ「バルトフェルドさん!?一体なにが…!」

バルトフェルド『謎の部隊に襲撃を受けた…ラクスとエターナルは死守したが、
少し不味いことになってな…』

ファクトリーが正体不明の部隊に襲撃を受けてから数日後。
遂に、ザフト軍とロゴスから離反した地球連合の義勇軍からなる、
対ロゴス連合軍によるロゴス掃滅作戦『ラグナロク』が決行。
対するロゴス側は、ザフトからの降伏勧告を無視、奇襲をかける。
ロゴスの先制攻撃によって、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

先制攻撃を受け、対ロゴス連合軍は混乱。降下部隊による増援も全滅。
そしてよりにもよってロゴス側には、
ベルリンの街を蹂躙した悪夢の巨大兵器、デストロイの姿があった。

既に後方の地球連合軍は後退を始めている。
タリアは悟った。これはもう、事実上の敗北だと。

タリア「議長、一度撤退を!」

レイ『必要ありません』

タリア「レイ!?」

ブリッジに通信が入る、モニターに映し出されたレイの表情は、
いつもとなんら変わりない、冷静そのものだった。

レイ『艦長、発進許可を。すぐに終わらせます』

タリア「待って、今は!」

デュランダル「頼む」

耳を疑い、タリアは艦長席のデュランダルへ振り返る。

この混乱の中にあって、艦内にいる人間の中でただ一人、
デュランダルだけが落ち着き払い、
その顔にはうっすらと笑みすら浮かべているようにも見えた。

デュランダル「タリア、レイの言うとおりに」

表情こそ穏やかだが、その言葉には有無を言わせぬ力があった。

タリア「…了解、発進準備を!」

タリア(大丈夫なの、レイ…シンがいなくなって、
一番ショックを受けていたのはあなたなのに…)

レイ「レイ・ザ・バレル…発進するッ!」

ミネルバから飛び出したMS。その機体色は雪白に染め上がり、煌びやかな黄金色のフレームを輝かせる。

モニターに映る敵機の姿を確認し、ネオは驚愕した。

ネオ「あの機体は…!?アークエンジェルが、ザフトと組んだってのか!?」

まるで、審判を下す天使と錯覚するほどの冷厳さを放つその機体は、
巨大な翼を広げ、ロゴスのMS群に向けて飛翔した。

両腕に携えたビームライフルの銃口の先で、敵機が次々と爆炎に包まれる。
コクピットを的確に撃ちぬいていくレイ。
その射撃の正確さは、もはやスナイパーの狙撃の域にあった。

だが、ロゴスの物量は圧倒的。一機倒せば入れ替わるように、また別の機体が立ち塞がる。

レイ「数ばかり揃えたところで…この機体の前では無意味だ!」

レイの操る機体の腹部に、光が収束していく。

レイ「貴様らは議長の慈悲を踏みにじった…その罪、命で贖え!」

収束した光が弾け、巨大な熱の嵐となって眼前の敵を灼き尽くす。
それは遠方のデストロイまで届く程の、長大な一撃。

その射線上にあったものは、全てが消滅していた。
陽電子リフレクターを展開していたデストロイと、
その後ろに退避していたネオの機体を除いては。

スティング「おいおい…なんつー火力だよ」

スティング「けどなぁ…俺のかわいい"バケモノ"には通じねえよ!!」

ウィンダムの群れは掠っただけで火花を散らせ、爆散するほどの圧倒的火力。
それを物ともしない、愛機の堅牢さを誇るスティング。

レイ「ふん…」

しかし、それも想定通りだと言わんばかりに、レイは落ち着き払っていた。

レイ「ミネルバ、ソードシルエットの射出を。あの巨体には対艦刀が有効だ」

連結させたエクスカリバーを右手に、フラッシュエッジを左手に握り、
デストロイ目掛けて、一直線に突撃をかける。

スティング「流石のスピードじゃねえか、天使様よォ!ネオ、援護しろ!」

ネオ「くっ…!皆、俺に続け!あれを堕とすぞ!」

ネオの指揮の下、ウィンダム部隊が襲いかかる。

レイ「諦めの悪い…」

フラッシュエッジをウィンダムの群れに向けて解き放つ。数機がそのままビームの刃に切り刻まれて四散する。
避けた機体もエクスカリバーの間合いに誘い込まれ、瞬く間に両断された。

ネオ「ちぃっ!やってくれるな!」

レイ「残るは隊長機のみ…撃破する!」

ネオ「奪うだけ奪い、守るべきものも守れず、約束も破った!」

ネオ「それでもまだ俺は生きている!生き残っちまってる!」

ネオ「なら、せめてスティングだけは…守ってみせる!」

レイ「このプレッシャーは…不愉快だッ!」

距離を離そうとするレイ機を、ネオのウィンダムが猛追する。

ネオ「逃がさんッ!」

レイ「ええいっ…!」

ネオ「スティング!俺諸共でいい!撃てぇッ!!」

レイ「くっ…!?」

ネオ(あれ…前にもこんなこと、なかったか…?)

スティング「うおぉらぁぁぁぁッ!!」

強化され、その理性すら崩壊しかけているスティングは、
なんの躊躇いもなく引き金を引いた。

ムウ(そうだ…俺は…ネオ・ロアノークなんかじゃ…)

巨大な爆発が起き、スティングの瞳はその煌きに見惚れていた。

スティング「ヒャハハハハ!最高だ!俺のデストロイこそが最強なんだ!!」

炎を映し出していたモニターに一瞬白い光が差し込んだ。直後、映像がブツリと途切れる。
自分の体が、なにか巨大なものに引き裂かれていることに気が付くと同時に、
スティングは絶命していた。

レイ「今の俺にできるのは…君を眠らせてやることだけだ」

レイ「だが、必ず実現してみせる。俺や君のような存在が、二度と生み出されない世界を…」

レイ「許せ」

エクスカリバーをデストロイからゆっくりと引き抜き、機体を離脱させる。
三十メートルを超える漆黒の巨躯はゆっくりと崩れ落ち、
高々と炎を噴き上げ、基地施設を巻き込みながら爆散した。

それから戦闘終了までは、呆気ないものだった。
敵の巨大兵器は五機、その全てがレイの手によって葬られた。
それによって、対ロゴス連合は士気を取り戻し、逆にロゴスの部隊は戦意を喪失。
残されたウィンダムやユークリッドの部隊も、散り散りになり後退していった。

メイリン「入電です!敵軍司令部より白旗を確認、戦闘続行の意思無き模様!」

デュランダル「フッ…確認を急いでくれ!」

タリア「……嘘でしょう?」

タリアは、目の前で起きた事態が信じられずに、呆然としていた。
裏で戦争を操り、世界を混迷に陥れる死の商人『ロゴス』
その存在に終止符を打ったのは、たった一機のMSと一人の少年。

アーサー「あの状況を一人でひっくり返すなんて!これは凄いですよレイ!彼は英雄だ!!」

ザフト軍の手によってファクトリーから強奪された最新鋭MS、ストライクフリーダム。
その恐るべき性能は、レイ・ザ・バレルというパイロットによって最大限に発揮されたのだった。

今回はここまでになります。
レイくん頑張った。

短いですが投下します。

ミネルバへとストライクフリーダムを着艦させ、コクピットから降りるレイ。
英雄の凱旋を出迎えたのは、僚友たちの拍手と歓声だった。

メイリン「おかえりなさい!大活躍だったね!」

ヴィーノ「すげえ!すげえよレイ!」

ヨウラン「よっ!ミネルバのスーパーエース!」

レイ「ああ、ありがとう」

レイ「…ルナマリアの姿がないようだが?」

メイリン「あ、うん…またいつもの場所だと思う」

レイ「そうか…」

メイリン「お姉ちゃん、あの日からずっとあの調子で…心配になっちゃう」

レイ「少し様子を見てこよう」

艦内のシュミレータールームへと向かう。
ドアを開くと、バトルシュミレーターにかじりつくルナマリアの姿があった。

レイ「フッ…メイリンの言った通りだな」

ルナマリア「レイ…お疲れ様。討ったのね、ロゴスを」

レイ「ああ、呆気ないものだった。お前が出るまでもなかったな」

ルナマリア「ロゴスを討った。でも…」

レイ「ああ、まだ終わってはいない」

レイ「シンとアスランは、議長の理想を否定してザフトを抜けた。
そして、彼らが向かったのは間違いなく…」

ルナマリア「アークエンジェル…!」

レイ「そうだ。奴らとは、必ずぶつかることになる」

ルナマリア「…それまでに、新しい私の機体、必ずものにしてみせるわ」

ルナマリア「それで、あいつを…シンを一発ぶん殴って、
目を覚まさせて、連れて帰るのよ。ミネルバに」

レイ「ルナマリア…」

シンに裏切られたあの日、レイは絶望し、彼を許さないと誓った。
だが、目の前の彼女は言うのだ。彼を諦めないと。
自分達の正しさを示し、彼を取り戻すのだと。

レイ「フ…その意気だ、ルナマリア」

レイは、バトルシュミレーターの座席に腰を下ろし、
操縦桿を握る。

ルナマリア「レイ…?」

レイ「訓練、まだ続けるなら付き合おう。データが相手では歯ごたえがないだろう」

ルナマリア「え?でもさっき出撃したばかりじゃない。無理しないで休んで」

レイ「心配するな。言ったろう?呆気ないものだった、とな」

ルナマリア「もう…手加減なしだからね!」

レイ「当然だ。簡単にやられてくれるなよ?」

ルナマリア「その余裕、いつまでもつかしらっ!」

ミネルバに着任してすぐの頃、レイはデュランダルに、ある質問をした。

デュランダル『着任おめでとう、レイ。これで君も一人前のパイロットだな』

レイ『ギル…ひとつお聞きしてもよろしいですか?』

デュランダル『なんだね?』

レイ『なぜ、彼に…』

デュランダル『ああ…インパルスのことか』

デュランダル『彼の資質を見込んでの決定だよ』

デュランダル『真の平和を実現するためには、いずれ彼の力が必要となるはずだからね』

レイ(ギルの言うことは正しかった。再び起きた戦乱の中で、
シンは目覚ましい活躍を見せ、幾度もミネルバの窮地を救った)

レイ(芽生えた嫉妬心は、日に日に薄らいでいった。
あいつなら、世界を変えてくれる。本気でそう思った)

ルナマリア「あーっ!負けたー!もう一回お願い!」

レイ「ああ、気が済むまで付き合おう」

レイ(シン…俺はお前を許さない。そのことに変わりはない)

レイ(だが、お前にも見せてやりたいんだ。議長の下に築かれる、
平和な世界、戦争の無い世界、誰もが幸せを享受できる世界)

レイ(だから、シン。俺たちで、お前を取り戻す…!)

新たな決意と共に、レイは再び操縦桿を握りしめた。

オーブへと戻ったカガリとアークエンジェル。
ロゴスとの繋がりが明るみに出たセイラン家は、
五大氏族から追放、国家反逆罪で拘束され、
カガリは再び国家元首の座に就くこととなった。
その後、正式にオーブ所属艦となったアークエンジェルは、
カガリから黄金のMS"アカツキ"を託され、
宇宙へと上がり、エターナルと合流したのだった。

キラ「ラクス、バルトフェルドさん、無事でよかった…」

バルトフェルド「だが、虎の子の新型を奪われちまった」

ラクス「仕方ありませんわ…エターナルが守れただけでもよしといたしましょう」

シン(この人が本物のラクス・クライン…議長と一緒にいた人とは、随分雰囲気が違うな…)

ラクス「キラ、そちらの方は…?」

キラ「紹介するよ、僕たちの新しい仲間」

シン「シン・アスカです」

ラクス「ラクス・クラインですわ」

バルトフェルド「アンドリュー・バルトフェルドだ」

バルトフェルド「その制服、ザフトレッドか…なにか縁を感じるねえ」

シン「縁…?」

バルトフェルド「いやなに、こちらの話さ」

バルトフェルド(元地球連合の艦に、こうもザフトにいた人間が集まってくるというのは、
なんとも奇妙で、面白くもある…)

バルトフェルド「新しい仲間に、歓迎の一杯でも淹れてやりたいんだがね。
まずは状況を確認したい」

バルトフェルド「ファクトリーを襲撃した奴らの正体だが…
ザフト、或いはそれと繋がりのある組織の可能性が高い」

シン「え…」

バルトフェルド「ヘブンズベースで行われたロゴス討伐作戦、
偵察していたキサカから届いた映像で確認したが…」

バルトフェルド「ミネルバから発進したMS、あれは奪われた新型に間違いない」

キラ「やっぱり、議長…」

バルトフェルド「ニュースはもうひとつだ。
奪われたものは大きいが、収穫もあってな」

バルトフェルド「デュランダルの計画…その尻尾、ようやく掴めた」

シン「メンデルを調査していたんですよね?」

バルトフェルド「デュランダルは遺伝子研究のエキスパート。
ならば、メンデルとも関わりがあると考えたわけよ」

アスラン「コロニーメンデル…そこに一体なにが?」

ラクス「わたくしたちがメンデルで見つけたものは、この一冊のノートです」

ラクス「議長の、かつての同僚が記していたものと思われます」

アスランはノートを受け取り、ページをめくっていく。

アスラン「デスティニー・プラン…?」

ラクス「アスラン、なにか思い当たることは?」

アスラン「…ある。これは、議長は言っていたことと一致する内容だ」

アスラン「彼は言っていた…人間は自らの能力を知り、
その役割を果たして生きることこそが幸福なのだと」

アスラン「そんな世界なら、戦争は起こらないと」

マリュー「能力を知るというのは、やっぱり彼の専門分野である、
遺伝子で、ということかしら?」

アスラン「ええ、恐らくは」

アスラン「このデスティニー・プランが、そんな世界を実現する手段だということか…」

キラ「…できるから、その能力があるから、そう生きる」

キラ「それって、本当に幸せなのかな…?」

アスラン「俺はそうは思わない。だが…」

『私はラクスなの!ラクスがいい!』

ミーアの言葉が脳裏をよぎる。

アスラン「そう思う人間も、いるのかもしれない…」

シン「アスラン…?」

バルトフェルド「ヘブンズベースの陥落、ジブリールの拘束により、
ロゴスは事実上の解体…デュランダルの言う"世界の敵"はもういない」

バルトフェルド「奴め…これからどう動く?」

それから数日後、デュランダルはデスティニー・プランの導入実行を宣言。
その傍らには、ミーア・キャンベルの姿もあった。

シン「デスティニー・プラン…突然こんなこと言われたって、世界は困惑するだけなんじゃ…」

マリュー「いいえ、シンくん。それがそうとも限らないのよ」

シン「どういうことです?」

マリュー「地球の各国は、戦争とロゴス狩りの混乱による傷も癒えていない。
誰もが平穏な生活を渇望している…そんな中で、ロゴスを討ち、
今や世界のリーダーとなった議長が提唱する、平和のためのプラン…抗い難いでしょうね」

バルトフェルド「加えてラクス・クラインというカリスマにそれを支持させる…この上なく有効な戦略だ」

キラ「こっちが本物のラクスです、って名乗り上げれば早いんだろうけどね」

ラクス「それはできませんわ…今わたくしが表に出ては、
きっとミーアさんを傷つけることになってしまいます」

アスラン「ああ。そして議長は、そんなラクスの考えまで織り込み済みで、
臆面もなく彼女を表舞台に立たせているんだ…」

バルトフェルド「ふむ、やはりあの男…世界のリーダーを気取るには、
悪辣な手段をとりすぎる」

アスラン「ミーアのこと…無理矢理にでも連れてくるべきだった…」

アスラン「議長の元にいたのでは、いいように利用されるだけだ!」

シン「議長と直接、話ができればいいんですけどね…」

キラ「カガリが何度も会談の要請をしてるんだけど、拒否されてるみたい」

シン「そんな…話し合いの余地はないってことですか…?」

キラ「プランの導入、もし力押しでこられたら…」

シン「…戦闘になるかもしれないってことですよね。覚悟はできてます」

キラ「シン、無理に戦う必要はないよ。向こうには、君の知ってる人もたくさんいるんだろ?」

キラ「友達と戦う辛さは、僕にはよくわかるんだ、だから…」

シン「大丈夫ですよ。殺し合いをするんじゃない…」

シン「止めるための戦いです」

キラ「それは…」

シン「そうでしょ?キラさんの受け売りですけどね」

キラ「シン…」

アスラン「キラ、シンなら大丈夫さ」

アスラン「それに、ミネルバは強い。シンとデスティニーを欠いては、
止めることはできないかもしれない」

キラ「…そうだね。わかった」

キラ「頼りにさせてもらうよ、シン!」

シン「ええ、お互いに!」

今回はここまでです。
エンジェルダウン作戦もオーブ侵攻作戦も無いのであっという間に最終決戦目前です。

現時点でのキャラクターの状況まとめ

・シン
ステラが生存し、アスランとメイリンを討ってないので、精神的に安定。
レイやルナマリアに対して後ろめたさを感じてはいるが、彼らを止めるための戦いを決意。

・レイ
このSSではストライクフリーダムのパイロットに。
シンとアスランの脱走後に猛特訓し、パイロットとして大幅なレベルアップを遂げ、
ストライクフリーダムの性能を最大限にまで発揮させている。

・ルナマリア
シンのことは信じているものの、アスランに対しては、
彼がAAクルーと密会していたところを直接見ていたため、
最初からそのつもりだったのでは、と考えている。
レイと同様、猛特訓でメキメキと実力を伸ばしている。

・メイリン
アスランの脱走には関与せず、ミネルバに残留。
暇さえあればシュミレーターに向かうルナマリアを心配している。

・ムウ
描写ないですが生存。機体の爆発で海に投げ出され、そのまま泳いで戦闘区域から脱出。
ネオ・ロアノーク時代にしたことの贖罪を求め、徘徊中。

・アビー
原作ではメイリンの抜けた穴を埋めたが、
このSSで出番があるかは未定。

投下します。

デスティニー・プランの発表から程なくして、
オーブとスカンジナビア王国はこれを明確に拒否。
それに呼応し、地球連合軍のアルザッヘル基地が軍事行動に出る。
対するザフト側は、宇宙要塞メサイアを起動させ迎撃。
メサイアから放たれたネオ・ジェネシスの一撃によって、アルザッヘル基地は壊滅。
ネオ・ジェネシスの存在を放置できないと考えたオーブは、
これを排除すべく、アークエンジェルとエターナルを向かわせるのだった。

デュランダル「オーブめ…この期に及んでまだ争うことを止めぬとは」

デュランダル「私は言ったはずだがな。これは人類存亡を懸けた、最後の防衛策だと」

デュランダル「なのに敵対するというのなら、それは"世界の敵"ということだ…!」

キラ「ねえ、アスラン」

格納庫、フリーダムの機体調整を見直しつつ、
キラはアスランに向けて問いかける。

キラ「アスランの乗っていたあの機体って…」

アスラン「ああ、レジェンドのことか。あれが気になるのか?」

キラ「…うん。ヤキンの戦いで、ラウ・ル・クルーゼが乗っていた機体にそっくりだ」

アスラン「隊長…いや、クルーゼが…」

キラ「人は、滅ぶべくして滅ぶ…そう言った彼に、僕はこう返したんだ」

キラ「それでも、守りたい世界があるんだ…って」

アスラン「……」

キラ「でも僕は、フレイを失った悲しみの大きさに耐えられなくて、立ち止まってしまった」

アスラン「キラ…」

キラ「ラクスも、僕のために表舞台から姿を消して、傍にいてくれた。
それを、議長に利用されたんだ」

キラ「そしてラクスが殺されそうになって、僕はまたMSに乗った」

キラ「カガリが望まない相手と結婚させられそうになって、
そんなのは僕も嫌だって、カガリを連れて逃げて」

キラ「前の戦争のあと、僕はカガリのためになにもしてあげられていなかった。
だから、彼女のためにできることはないかって…僕は焦ったんだ」

キラ「そして、やり方を間違えた」

アスラン「……」

キラ「まだ、ちゃんと謝ってなかったよね。あのときのこと」

キラ「必死に止めようとしてくれていた君を、僕は…」

アスラン「…焦って、間違えたのは、俺も同じさ」

アスラン「オーブにいても、自分にできることは何もないんだと、
勝手に思い込んで、カガリにロクに相談もせずにプラントに行って…」

アスラン「あいつを…カガリを誰より追い詰めていたのは、きっと俺だ…」

キラ「アスラン…」

アスラン「キラ…俺たちは、これからも間違えると思う。
人間である以上、それは避けられないことだ」

キラ「うん…」

アスラン「それでも…恐れずに選ぶんだ。自分の道を。
きっとその先に、答えはある」

キラ「うん。もう立ち止まるわけにはいかない」

キラ「…議長も、僕たちと同じなのかもしれないね」

アスラン「彼もまた、焦っているのか…争い続ける世界に」

アスラン「ジェネシスを…あんな悪夢の兵器を、再び持ち出さなければならないほどに…」

キラ「…話そう、議長と。そして伝えよう、僕たちの思いを!」

アスラン「ああ!」

バルトフェルド「パーッと歓迎会でも催してやりたいところだが、状況が状況だからな。
代わりといってはなんだが、自慢のブレンドを振舞ってやる。来たまえ」

バルトフェルドの私室へ招かれたシンは、彼の淹れたコーヒーの芳香に、
戦いによって擦り減った心が安らいでいくのを感じていた。

バルトフェルド「さあ、飲んでみたまえ」

シン「それじゃあ、いただきます」

シン「…美味い!」

バルトフェルド「フッ…気に入ってもらえて、なによりだ」

バルトフェルド「少しばかり、肩に力が入りすぎているように見えたんでね。
この一杯でリラックスしてもらえればと思ったのさ」

シン「それは…ありがとうございます」

バルトフェルド「なに…目的の半分は、新調合のブレンドの実験がしたかっただけだ。礼には及ばんよ」

シン「実験!?」

バルトフェルド「はっはっは!」

面食らうシンを見て、バルトフェルドは楽しそうに笑った。

シン「まあ、こんなに美味いコーヒーが飲めるんなら、いくらでも付き合いますけどね」

バルトフェルド「ほう…嬉しいことを言ってくれるじゃないの」

バルトフェルド「この戦いが無事に終われば、実験抜きに好きなだけ淹れてやるさ」

シン「そういえば…バルトフェルドさんは、例の金色に乗るんですよね?」

バルトフェルド「うむ。だが、オーブの守護神たるアカツキ…
あの機体、乗り込むのが俺では、役者不足に思えるがねえ」

シン「たった一人でエターナルを守り抜いた人の言うセリフですか?」

バルトフェルド「腕の問題じゃあないのさ。あれはオーブを守るために、
ウズミがカガリへと遺したものだ」

シン「ウズミ…」

バルトフェルド「ああ、ウズミ・ナラ・アスハ。オーブの前国家元首さ」

シン「そのぐらいは知ってますよ」

バルトフェルド「まあ、知らない人間の方が珍しいか。こりゃ失礼」

シン「…俺、元々オーブの出身なんです」

バルトフェルド「ほう…それが、なぜプラントに?」

シン「前の戦争で、オノゴロが攻撃を受けて…家族を失ったんです」

シン「避難してる途中で、流れ弾を受けて、それで…
たまたま離れた場所にいた俺だけが生き残って」

バルトフェルド「そうか…」

シン「あのときオーブは、その理念を守り通したかもしれない。
だけど、俺の家族は守ってくれなかった」

シン「身寄りのない俺は、そのままプラントに行きました。
オーブには、戻りたくなかったから…」

バルトフェルド「…だが、君は戻ってきた。自らの意思で」

シン「キラさんやカガリと話して、思ったんです。
今のオーブならきっと、二度と国を灼いたりしない」

シン「そして…俺が絶対、そんなことにはさせない!」

バルトフェルド(…変わったのは、きっとオーブだけではないな)

バルトフェルド「無論だ。オーブは守り抜く、俺たちでな」

バルトフェルド「さて、そろそろ出撃だ」

シン「アカツキの操縦、やれそうですか?」

バルトフェルド「ああ…こんなときに、大人がいつまでも弱気ではいられまい」

バルトフェルド「任された以上は、やってみるさ!」

キラ「ラクス…本当に一緒に乗るつもり…?」

ラクス「ええ。元々そのためにお願いして、複座式にしていただいたんですもの」

ラクス「議長とは、わたくしも直接お話しなければなりません。
それにミーアさんとも一度、お話してみたいですわ」

キラ「でも…」

ラクス「大丈夫、キラのフリーダムは無敵ですもの」

キラ「…わかった。観念するよ」

キラ「一緒に議長を止めよう、ラクス!」

ラクス「はい!」

ダコスタ『ザフト軍第一防衛ラインまで、距離200!光学映像、出ます!』

エターナルからは、ミーティアと接続されたフリーダムとレジェンドが、
アークエンジェルからは、オオワシアカツキとデスティニーが、それぞれ発進する。
その後ろには、クサナギを旗艦とするオーブ艦隊が控えている。

二機のミーティアを先行させて道を作り、メサイアまで一直線に主力隊を向かわせ、
ネオ・ジェネシスを破壊し、議長を止める。
それがラクスにより発案されたミッションプランだった。

ラクス『我々はこれより、その無用な大量破壊兵器の排除を開始します!』

ラクス『その兵器は、人が守らねばならないものでも、
戦うために必要なものでもないはずです!道を空けてください!』

全周波の回線を通し、戦場に涼やかな声が響き渡る。
あくまでラクス・クラインの名は明かさぬまま、
彼女はザフトの将兵達に呼びかける。

ラクス『ザフトがその力と誇りを懸けて守るべきものは、
そんな兵器では断じてないはずです!』

彼女の呼びかけも虚しく、ザフトのMS達は銃を向ける。

キラ「…ラクス、駄目だ。簡単には通してくれそうにない」

ラクス「やはり、戦いは避けられないのですね…」

アスラン「ここで時間を食って、ジェネシスの二射目を討たせるわけにはいかない!」

アスラン「ミーティアを使うッ!!」

レジェンドに接続されたミーティアの砲門が一斉に開き、
アスランがトリガーを引くと同時に、数百もの炎の花が咲き乱れる。

しかし、それでケリがつくほど、ザフトの軍勢は甘くはない。

バルトフェルド「ミーティアの威力を目にしても、まだ向かってくるか…」

アスラン「ええい…!出てくるなッ!!」

再びアスランがトリガーに指を掛けた直後、レジェンドのコクピットに警告音が鳴り響く。

アスラン「くっ!?」

シン「アスラン!!」

アスランが反応するよりも速く、ミーティアは灼熱の光輝に撃ち抜かれ、炎を噴き上げながら爆散した。

アスラン「ミーティアを一撃で粉砕するほどの、圧倒的な火力…まさか!」

辛うじてミーティアをパージし、離脱したレジェンドのレーダー映し出されたのは、
急速に接近する二機のMS。その反応はエネミーを示している。

バルトフェルド「おいおいおい…こんなに早くラスボスのご登場かい?」

キラ「ストライクフリーダム…!それだけじゃない!」

ラクス「やはり、投入して来ましたわね…インフィニットジャスティス…!」

インフィニットジャスティス。
ストライクフリーダムと共に、ファクトリーから強奪されたもう一機が、
ついに戦場に姿を現した。

バルトフェルド「なるほどね…」

ミーティアの殲滅力を前に、ザフト軍が怯まないその理由を、
バルトフェルドはようやく理解するに至った。
フリーダムとジャスティス、前大戦の伝説たる二機が、自軍に味方している。
その事実が、将兵達の戦意を高揚させているのだ。

ルナマリア「お久しぶり。シン、アスラン…!」

アスラン「ジャスティスに乗っているのは…ルナマリアなのか!?」

レイ「ここから先へ通すわけにはいかない」

レイ「あと少しなんだ…あと少しで、新世界への扉が開く…」

シン「レイ…ルナ…!」

レイ「その邪魔は…させないッ!!」

人類の運命を懸けた戦いが今、始まる。

今回はここまでとなります。

状況の追記

・ジブリール
ヘブンズベース戦であっさり確保されている。
よってオーブ侵攻作戦もダイダロス基地戦もなし。

・レクイエムの存在
このSSでは無いものとして書いてます。

シン、キラ、アスラン
アークエンジェル視点では彼ら三人を主人公にしています。
シンはデスティニー、キラはフリーダム、アスランはレジェンドが乗機。
複座式に改造されたフリーダムの後部座席にはラクスが同乗。

・レイ
シン、キラ、アスランが組んだらもう止められるキャラおらんやん…
ということで大幅にパワーアップしてストフリまでゲットした、ザフト視点の主人公。

・ルナマリア
このSSではインフィニットジャスティスのパイロットに。
インジャの存在はここまでぼかして来ましたが、ストフリと同時にザフトに奪取されてます。
射撃が苦手な彼女にとって近接武装が充実したインジャは相性がいいような。
機体の色も赤系統だし。

・バルトフェルド
このSSではムウがAAに参入していないため、彼がアカツキのパイロットに。
ドラグーンが使えないため装備はオオワシとなっています。

今日中の投下は無理そうです。
3割ぐらい書けているので明日か明後日あたりになりそうです。

投下します。

レイ「まずは貴様からだ…裏切り者のアスラン・ザラッ!!」

ストライクフリーダムの翼から放たれた八基のドラグーンが、
一瞬のうちにレジェンドを取り囲み、その砲塔から光の矢を放つ。
光の矢は交差し、蜘蛛の巣の如く、搦めとるもの全てを斬り刻む死の網を形成する。

アスラン「ええいっ!」

ブースターを噴射させ、強引にそれを回避するレジェンド。
強烈なGがアスランの身体をシートに押し付け、打ちひしぐ。

アスラン「ぐうっ…!」

キラ「アスランッ!!」

尚も追撃をかけるレイを、キラのフリーダムが遮った。

レイ「邪魔をするか…キラ・ヤマト!!」

キラ「僕の名を知っている…!?」

レイ「だが…無駄だ」

レイ「"貴様のフリーダム"と"俺のフリーダム"…どちらが強いのか、知らないはずはないだろう?」

キラ「くっ…!」

嘲るように嗤うレイに、キラは歯噛みする。
インパルスやセイバーを凌ぐ性能を誇るフリーダムは、間違いなく強力な機体である。
だが目の前にいるのは、そのフリーダムですら足元にも及ばない、圧倒的な存在。
それは、ストライクフリーダムの開発に携わったキラ自身が、誰より理解していたことだった。

レジェンドが体制を整えたのを確認し、シンが呼びかける。

シン「ここは俺とアスランが引き受けます!キラさんとバルトフェルドさんは、
アークエンジェルとエターナルの援護に!」

キラ「シン!?」

アスラン「ああ!キラ達は、艦隊を率いてジェネシスに向かってくれ!」

バルトフェルド「……」

バルトフェルドは惟る。
ビーム兵器を反射することのできる装甲"ヤタノカガミ"を持つアカツキ。
この機体のデータは、まだ敵に知られてはいないはず。
ならば、自分が応戦した方が有利に立ち回れるのではないか?
いや、初見殺しが通用するほど、甘い相手ではなさそうだ。

それに、ストライクフリーダムにはアカツキを突破できる武装が積まれている。
腰に携えたレール砲と、翼のドラグーンに搭載されたビームソードがそれだ。
近接戦において無敵を誇るインフィニットジャスティスに至っては、
刃状に固定されたビームを防げないアカツキにとって、正に天敵と言ってもいい。
ヤタノカガミの特性を見抜かれれば、マシンの性能差に圧倒されるのがオチだろう。

バルトフェルド「…了解した!この場は彼らに任せるぞ、キラ!」

キラ「けど!」

ラクス「行きましょう、キラ。彼らなら大丈夫ですわ」

キラ「くっ…アスラン!シンも、どうか無事で!」

ルナマリア「いかせるかっ!」

レイ「いや、追わなくていい」

ルナマリア「レイ!?」

離脱する二機を追おうと前に出たルナマリアに、レイが待ったをかける。

レイ「俺たちの任務は、敵の主力…デスティニーとレジェンドを釘付けにすることだ。
後方にはミネルバやジュール隊も控えている。
敵の数もこちらに比べて遥かに少ない。問題は無い」

ルナマリア「…了解よ」

状況を静観していたザフト軍のMS達が、次々と距離取った。
デスティニー、レジェンド、ストライクフリーダム、インフィニットジャスティス。
最強の四機が集うこの場に、他者の入り込む余地が無いことは明白だった。

アスラン「レイ!ルナマリアも!…こんなやり方が、本当に正しいと思っているのか!?」

レイ「こんなやり方?お前達のやり方と、どう違う?」

ルナマリア「そうよ…私やあなた達の乗ってるMSとあの兵器に、どんな違いがあるっていうの!?」

アスラン「それは…!」

レイとルナマリアの言葉に、アスランは唇を噛み締めた。
デュランダルは、従わねば撃つと、ジェネシスの銃口を突きつける。
だが自分にしてもたった今、ミーティアの巨大な力で、ラクスの言葉に従わぬものを撃ったのだ。

シン「違うッ!!」

シン「MSには、人が乗ってるんだ!そこには…自分の手を汚してでも、何かを守ろうとする意志がある!」

シン「でもジェネシスは…あの兵器は、簡単に人の命を奪いすぎる…!」

シン「あれが生み出すのは平和じゃない!戦争よりも酷い、殺戮だ!!」

アスラン「シン…!」

デスティニー・プランを強行するためにジェネシスを突きつけるデュランダルと
それを止めるべく戦う自分達は違うものだと、真っ向から否定するシンを見て、アスランは闘志を取り戻す。
そうだ、何を迷うことがある。自らが選んだ道なら、今は進むしかないのだ。

レイ「ふん…だが所詮、それはお前達の理屈だよ」

レイ「それが正しいと言うのなら、俺達に勝ってみせることだッ!!」

アスラン「来るぞ、シン!」

シン「勝ってみせるさ…俺とデスティニーなら、やれる!!」

レイ「ルナマリア、お前はシンを止めろ!俺はアスランを討つ!!」

レイ「この裏切り者は、俺の手で叩き潰さなければ気が済まない!!」

アスラン「悪いが、そう簡単に堕とされる気はない…!」

再びドラグーンを射出するストライクフリーダム。
呼応するように、レジェンドもそれらを解き放つ。

十数基のビーム砲塔が、切り結ぶ二機の周囲を縦横無尽に駆け巡り、ビームを射交わす。
その度、暗いグレーに彩られたドラグーンが一基、また一基と数を減らしていく。

アスラン「くッ!ドラグーンの扱いにこうまで差が出るとは…!」

レイ「人にはそれぞれ、適正というものがある」

レイ「空間認識能力において、俺は貴様より優れている…それだけのこと!」

レイ「そしてデスティニー・プランは、そんな人の才能を見出し、
最大限に活かすことのできる場所を用意する、道標となる!」

アスラン「くうっ!」

ビームサーベルを引き抜き、斬りかかるストライクフリーダム。
レジェンドも、脚部のウェポンラックからビームジャベリンを取り出し、迎え撃つ。

レイ「議長を否定して、お前達は一体どうするつもりだ!混沌の闇へと沈む、この世界を!」

アスラン「俺達は知っている!人は間違えても、それを認めて、変わっていけることを!」

アスラン「レイ…!お前も、もっと人を信じてみろ!!」

レイ「裏切り者の言うことかッ!!」

肉薄した状態から、ストライクフリーダムの腰部レール砲が火を噴き、
レジェンドのコクピットを激甚な衝撃が襲う。

アスラン「ぐあぁっ!!」

レイ「変わる…信じる…実にくだらない、漠然とした回答だ!」

レイ「結局お前達は、結論も出さずに…ただ耳障りの良い言葉で、惑わせているだけではないのか!」

レイ「デスティニー・プランこそ、議長がこの世界に導きだした、完全な答えだ!!」

アスラン「たった一人の人間が導き出した答えが、完全なものだなどと!!」

レイ「ならば貴様らの理想で、世界はいつ変わる!?いつ平和になる!?」

レイ「十年後か!二十年後か!!」

レイ「俺は…一日でも早く平和が欲しいんだ!!」

それは、自らの運命を悟った少年の、悲痛な叫びだった。

ルナマリア「一対一の戦いでは、私のジャスティスが最強なのよ!!」

シン「くっ…!」

インフィニットジャスティス本体と、そこから分離した機動飛翔体"ファトゥム"による波状攻撃。
実質的に、デスティニーは二対一の状況に追い込まれていた。

ルナマリア「シン!早く目を覚まして、私達のところに戻って来てよ!
アスランがあなたを唆したんでしょ!?」

シン「違うよルナ!俺は俺の意思でここにいる!
ルナの方こそ、なんであんなものを守って戦うんだよ!?」

ルナマリア「私達は兵士なの!兵士が命令に従って戦うのは当たり前のことじゃない!
その兵士に、私もシンも望んでなったんじゃなかったの!?」

シン「役割を選んで、それで終わりなわけがないだろ!
人は何度だって選択を迫られる!その度に答えを選び続けなきゃならないんだ!」

ルナマリア「だったら…これが私の答え!」

インフィニットジャスティスのシールドに接続された、大型ビームサーベル"シャイニングエッジ"。
その刃が、運命を断ち切るべく光を放つ。

シン「ルナ…本気なのか…!?」

ルナマリア「あなたに勝つわ。そして終わらせる!」

ルナマリア「私の選んだ答えの方が正しいって言わせてみせる!」

シン「俺だって、半端な覚悟でここに立っているわけじゃない!」

シン「止めてみせる…ルナも、レイも、議長も!!」

デスティニーは、背部のウェポンラックから対艦刀"アロンダイト"を引き抜き、それを真正面に構える。
本来対MAを想定したその武装は、威力こそ凄まじいものの取り回しに難があり、MS同士の白兵戦には向かないものだった。
しかし今、この状況を打開できるとしたら、この武装しか無いのだとシンは確信していた。

ルナマリア「わからない?接近戦で私のジャスティスに勝てるMSなんていないのよ!」

シン「それでも…勝つッ!!」

デスティニーは光の翼を限界まで稼働させ、アロンダイトを構えたまま一直線に突っ込む。
小細工は一切無用。ミラージュコロイドによる幻惑効果など、今のルナマリアには通じまい。

ルナマリア「ヤケクソってわけ!?」

シン「ちゃんと考えてるさ!!この距離なら、リフターは使えないだろ!!」

肉薄し、振り下ろされるアロンダイト。
戦艦すらも一刀の下に葬り去るその一撃は、インフィニットジャスティスのビームシールドごと、その左腕を粉砕する。

ルナマリア「なんて破壊力なの…!?でも、甘いのよッ!」

インフィニットジャスティスの脛に、あらゆるものを切り裂く光刃が形成される。
この武装こそ、ルナマリアが自らの愛機を接近戦において最強と誇る所以だった。

シン「くっ!」

その脚が蹴り上げられるのと、デスティニーが身を翻したのは、ほぼ同時だった。

ルナマリア「今のを避けるの!?」

シン「そういう武器なら…こっちにもある!!」

デスティニーの掌から放たれる眩い光が、ルナマリアの視界を奪う。
その一瞬の隙が、勝負の分かれ目となった。

ルナマリアが視界を取り戻したとき、モニターにはデスティニーの姿は既になく、
もはや迎撃も回避も不可能な一撃が、インフィニットジャスティスの頭部を吹き飛ばす。
メインカメラを潰され、インフィニットジャスティスの動きは停滞、
制御を失ったファトゥムは、デスティニーの高エネルギー砲が放つ朱い槍に貫かれ、火花を散らしながら四散した。

シン「勝負あり、だな」

ルナマリア「……はぁ…」

ルナマリア「……降参よ」

ルナマリア「負けたんだ…私。こんなにアッサリと」

ルナマリア「あなた達がいなくなってから…私、必死に強くなろうとしたのに」

シン「ルナが本気だったら、どうなってたかわからないよ」

ルナマリア「私が手加減したって?ないない。本気も本気よ」

シン「でも一瞬、迷いがみえた。…本当は分かってたんだろ?議長のやり方は違うって」

ルナマリア「……ジェネシスを撃ったのは、ね。そりゃ反発されるなって」

ルナマリア「デスティニー・プランには、半分賛成。半分反対」

ルナマリア「遺伝子で未来が決まっちゃうのは少し怖いけど、
戦争を終わらせられるっていうんだから…絶対悪いって言いきれるものじゃないと思う」

シン「うん…」

ルナマリア「でもそれ以上に、意地になってた。私を置いて出て行った人達になんか、
絶対負けてたまるもんですか!…ってね」

ルナマリア「…レイもね、きっとそうだと思う。
大好きな人に否定されて、見捨てられたような気持ちになったのよ」

シン「ごめん…」

ルナマリア「…しょうがないな。そんな顔されたら、もう怒れないよ」

シン「ルナ…」

ルナマリア「でも、すっっっっっごく傷ついたんだからね!」

ルナマリア「目の前で裏切られたレイは、私よりもっと辛かったと思う。
すっごく怒ってるし、謝っても許してくれないかも」

シン「そう…だよな」

ルナマリア「それでも、行ってあげて。レイのところに」

ルナマリア「今のレイに言葉を届けられるのは、きっとシンだけだから」

シン「ああ…俺、いくよ。レイのところに。それで自分の気持ちを全部ぶつけて、
あいつの気持ちも全部受け止めて、一緒に帰るんだ…俺達の、本当の居場所へ!」

ルナマリア「うん。それでまた、三人で一緒に笑おう!」

シン「約束だ!」

自らの選択と、その結果を背負い、運命は再び飛翔する。
約束を果たし、望む明日をその掌に掴み取るために。

今回はここまでとなります。
最終決戦だからすぐ終わるだろうと思ったんですが、もうちょいかかりそうです。

投下します。

レジェンドのシグナルは既にロスト。
それでも、シンが動じることはなかった。
レイはアスランを殺さない。そこに根拠は無く、それでも確信していた。
やがて、デスティニーのモニターに映し出されたのは、黄金色のフレームを輝かせる、白き鋼鉄の天使。

レイ「来たか、シン」

シン「レイ…討ったのか?アスランを」

レイ「いいや」

レイ「奴には、認めさせる必要がある。議長の導き出した答えが正しく、自らの選択は誤りだったとな」

レイ「殺してしまっては、意味がない」

シン「…そっか」

レイ「お前こそ、ルナマリアに勝ったのか。強かったろ、彼女は」

シン「ああ…」

レイ「ルナマリアを強くしたのは、お前達だ。そして…強くなったのは彼女だけではない」

シン「わかってるさ…」

ストライクフリーダムに、損傷は一切見受けられない。
全MSの頂点に位置する鋼鉄の天使がその搭乗者にもたらすのは、完全なる勝利。
死の商人ロゴスの全戦力であろうと、英雄と讃えられたアスラン・ザラであろうと、
その機体に僅かな傷を負わせることすら叶わない。

だが、それでも勝たねばならないのだ。
揺るがぬ信念が、操縦桿を握るシンの指に力を込める。

シン「レイ!ここでお前を止める!俺とデスティニーで!!」

レイ「俺と"このフリーダム"の力で終わらせる…この腐りきった世界を!!」

デスティニーがウイングユニットを展開すると、内部のスラスターから褪紅色に煌く粒子が迸り、
兵器と呼ぶにはあまりに美しい"光の翼"が形を成す。
それと同時に、ストライクフリーダムのドラグーンが四方に射出され、
一瞬のうちにデスティニーを取り囲む。その先端から放たれた光の矢が真空の闇を裂き、奔った。

シン「当たるかっ!!」

驟雨のように浴びせられるビームの中を、デスティニーは稲妻の如きスピードで駆け巡り、回避する。

レイ「素早いっ…!」

ドラグーンによる一斉掃射は間断なく、次第に激しさを増していく。
それは、一向にデスティニーを捕らえきれない、レイの焦りの表れでもあった。
デスティニーは変幻自在の動きで躱して躱して躱し尽くし、
その左手に握ったビームライフルで、一基、また一基とドラグーンを撃ち堕としていく。

レイ「これは…!?」

その常軌を逸した光景に、レイはデュランダルの言葉を思い出していた。
人類を進化へと導く因子、"SEED"。それを目覚めさせたものは、
常人ならざる反射神経と智慧を獲得し、最強の戦士として君臨するのだと。
レイは確信する。目の前にいるシンがそれなのだ。
彼は今、SEEDを覚醒させ、最強のパイロットとしてレイの前に立ちはだかっている。
しかしその事実に、レイは怖気づくどころか、喜悦すらも感じていた。

レイ「やはり、ギルの眼に狂いはなかった…!!」

最後のドラグーンが堕とされたと同時、ストライクフリーダムの翼から蒼白い焔が噴き出し、
それは瞬く間に"光の翼"へと変貌する。

ストライクフリーダムのコクピットに警告音が鳴り響き、敵機の接近を告げる。
迫りくるデスティニーの右手には、インフィニットジャスティスから借り受けたシャニングエッジが握られている。

シン「はぁぁぁぁッ!!」

レイ「来いッ!!」

加速し、落雷の如く突撃をかけるデスティニー。それを、ストライクフリーダムは真っ向から受けて立つ。
激突した二機は、次の瞬間には距離を離し、呼応するように再び刃をぶつけ合う。
二度、三度とそれを繰り返し、吹き荒れる破壊的な力の奔流が、互いの装甲を削り取っていく。

シン「負けるかぁぁぁーッ!!」

レイ「いいぞシン!!もっとお前の力を見せてみろォッ!!」

マシンを介したからこそ可能となる、ジェット噴流でも帯びたかの如き超高速の剣戟は、
もはや両者とも、それを眼で追い切れてはいなかった。
戦いの中で培った感覚と本能を頼りに、ひたすらに刃を打ち据える。

デスティニーとストライクフリーダム、究極のMS同士による攻防は、
互いに一歩も譲らず、徐々に停滞していく。
決め手となる一撃を繰り出すために、両者は再び距離をとった。

シン「くっ…!」

レイ「ははは…素晴らしいぞ、シン!」

シン「レイ…?」

レイ「お前がその力を見せれば見せるほど、議長の…ギルの正しさが証明されていく!!」

レイ「ギルはお前に戦士としての才能を見出し、そしてインパルスとデスティニーを与えた!」

レイ「わかるだろう、この意味が!!」

シン「レイ…どうしてそこまでデスティニー・プランに拘るんだ!?」

レイ「俺は一日でも早く平和が欲しい…!デスティニー・プランが実行されれば、明日にでも平和が手に入る!」

シン「平和になるのは早い方がいいけど…だからって!」

レイ「……俺は、ある人間のクローンとして生み出された」

シン「え…?」

レイ「クローンの肉体は、人より早く老化する。俺の命も、そう遠くなく死に至る」

シン「……そんな、嘘だろ…!?」

レイ「…俺にはかつて、兄のような存在がいた。名を、ラウ・ル・クルーゼ。俺と同じクローンだ」

レイ「彼は、その運命を呪い…全てを壊そうと戦って…死んだ」

シン「……」

レイ「だが誰が悪い?…誰が悪かったんだ?」

レイ「悪いのは、不完全で不幸な…この世界だ!」

レイ「だから変える、全てを!俺の命が尽きぬうちに…!!」

シン「レイ……!」

レイ「さあ、俺に勝ってみせろッ!!そして証明するんだ…デスティニー・プランの有用性を!!」

シン「俺は……お前に勝つッ!!その上で、デスティニー・プランを否定する!!」

シン「お前が運命に囚われているっていうのなら、俺がそれを断ち切ってやる!!」

朱き翼の悪魔、熾火の如き輝きを放つその双眸の先には、蒼き翼の天使が、超然と佇んでいる。
神話の再演であるかのような闘いは、第二ラウンドへと突入した。

先に仕掛けたのは、デスティニー。
右手のシャイニングエッジと、肩部のビームブーメラン"フラッシュエッジ2"を連続して投げ放つ。
飛来する三つの刃を、ストライクフリーダムのビームサーベルが難なく打ち払う。
だが、レイがビームブーメランへの対応に意識を向けた一瞬のうちに、デスティニーはモニターからその姿を消していた。

レイ「ええいっ…!」

レーダーが補足するより早く、持ち前の空間認識能力を駆使し、デスティニーの位置を感じ取るレイ。

レイ「後ろかッ!!」

しかし既に、コズミック・イラ最速を誇る悪魔の掌が、天使の両翼を捕らえていた。

シン「うおぉぉぉぉッ!!」

"パルマ・フィオキーナ"。デスティニーの掌から放たれるその閃光が、
ストライクフリーダムのウイングユニットを一瞬のうちに焼き尽くす。

レイ「ぐっ…!!」

コクピットまで伝わる衝撃に、レイが呻く。
これが、二機の闘いにおける、初めての致命傷であった。

レイ「負けるのか…俺は…?」

機動力の要を奪われ、圧倒的不利に立たされたレイ。

レイ「そうか…俺は…!」

そこまで追い詰められて、彼はようやく自分の中に芽生えていた願望を自覚した。

レイ「申し訳ありません、ギル…!今このときだけ、俺はあなたを否定する!!」

ストライクフリーダムは、素早くその身を反転させ、体勢を立て直す。

レイ「俺は…シンに勝ちたいッ!!」

翼をもがれ、"ヒト"に顛落したにも関わらず、ストライクフリーダムから放たれる気迫は、俄然勢いを増していた。

シン「来いよレイ!!俺が、お前の全てを受け止める!!」

デスティニーは、その最大の武器であるアロンダイトを引き抜く。
それに応えるように、ストライクフリーダムはビームサーベルを連結させ、巨大なスピアを形成する。

両者は理解した。
きっとこれが、最後の一撃だと。

シン「絶対に!!」

レイ「俺はお前に!!」

シン・レイ「「勝つッ!!!」」

時を同じくして、ジュール隊の協力を得てジェネシスを破壊したキラとラクスは、メサイアの内部へと潜入。
バルトフェルドに警戒を任せ、最奥部でデュランダルと対峙していた。

デュランダル「やはり来たか…キラ・ヤマト、そしてラクス・クライン」

キラ「議長…!」

この男こそ、ギルバート・デュランダル。
プラント最高評議会議長にして、世界を影で動かしてきた存在。
その傍らには、ミーア・キャンベルが驚愕の表情を浮かべて立ち尽くしていた。

ミーア「ラクス…様…?」

ラクス「……」

デュランダル「初めまして…というべきなのかな?君達のデータは、山ほど見ているがね」

ラクス「デュランダル議長!何故こんなやり方で、プランを強行したのですか!」

デュランダル「世界平和の実現。そのために手段は選んでいられまい」

キラ「あなたのやろうとしていることは、世界平和の実現なんかじゃない!」

キラ「ただの世界征服だ!!」

デュランダル「フッ…それの何が悪い?何故悪い?」

デュランダル「この世界から戦争を無くす…それ以上に重要なことがあるのかね?」

キラ「議長…!」

デュランダル「私には、かつて友がいた…名を、ラウ・ル・クルーゼ」

キラ「クルーゼ…!?」

デュランダル「彼と私は、ある賭けをした。その賭けとは…」

デュランダル「この世界が平和になるか、ならないか」

キラ「そんな…」

デュランダル「彼がどんな人間か、君はよく知っているだろう?」

デュランダル「当然、彼は平和にならない方に賭けた」

ラクス「あなたは…世界を賭け事の道具にして、その賭けに勝つために偽りの平和を築こうというのですか!?」

デュランダル「私は、ラウのような人間を、二度と見たくないのだよ」

デュランダル「彼は一体何のために生まれ、なんのために生きたのだ?」

デュランダル「絶望しか知らず、憎しみのままに戦って死ぬなど……」

デュランダル「私はラウに勝つ。そして、この世界から絶望を根絶する」

デュランダル「……ほんの少しの、諦めと共にね」

デュランダル「そのために、デスティニー・プランが必要なのだ」

キラ「でも違う…!こんな…人の意思を無理矢理押さえつけるようなやり方!」

キラ「あなたは、焦りすぎているんだ!だから--」

デュランダル「焦るさ」

キラの言葉を遮り、デュランダルは冷ややかに言い放つ。

デュランダル「君達の理想を実現させるのは、決して簡単なことではない。膨大な労力と時間を要するはずだ」

デュランダル「その間にまた戦争が起き、多くの命が失われるかもしれない。君達は、それを肯定するのかね?」

キラ「それは…!」

ラクス「そうかもしれません」

キラ「ラクス!?」

ラクス「ですが、あなたのやり方で、本当に争いを無くせるとお思いですか?」

デュランダル「なにが言いたい…?」

ラクス「先程、キラが言った通りです。無理矢理押さえつけられれば、人はそれに抗うもの…
わたくし達以外にも、必ず反発する者達が出てくるはずです」

ラクス「あなたはそれを、全て討つとおっしゃるのですか?」

デュランダル「すぐに収まるさ。君達が私に力を貸してくれればね」

キラ「だったら…どうしてラクスを襲わせて、その命を奪おうとしたんだ!!」

キラ「あなたが必要としているのは、ラクスという人間じゃない!
自分にとって都合のいい駒だ!だから…」

そこまで言いかけて、キラは口を噤む。
デュランダルの隣で所在無げに瞳を彷徨わせるミーアが、あまりにも哀れに見えたからだった。

ラクス「ミーアさん」

ミーア「は、はい!?」

ラクス「戦後から今まで、プラントの人々を癒し、勇気づけてきたのは、わたくしではなく貴女なのです」

ラクス「名前と姿は、わたくしのものだったかもしれません。ですが、その思いは本物…
他の誰でもない、貴女自身のものだったはずでしょう?」

ラクス「胸を張ってよいのです。
わたくしは、自分の感情を素直に歌に乗せることができる貴女を、素敵だと思いますわ」

ミーア「ラクス…様…」

デュランダル「ミーア・キャンベルは、ラクス・クラインの代役という役割を演じた。
その結果、人々は癒され、彼女は人々に愛された」

ラクス「いいえ議長。彼女がただの操り人形であったなら、あれほど人々を惹きつけることなどできません」

デュランダル「人々を動かしたのは"ラクス"ではなく、"ミーア"の力だと?」

ラクス「あなたの心には、届いていないのですね。ミーアさんの歌が」

デュランダル「ならば彼女の才能を見出し、歌う役割を与えたのは私だ。
デスティニー・プランとはそういうものだよ」

キラ「役割だとか、誰かの代わりだとか…そんな風にしか人を見ていないから、人の心がわからなくなるんだ!
だからアスランも、シンも、あなたを否定した!」

ラクス「ジュール隊の皆さんも、わたくし達に力を貸してくださいました」

デュランダル「だが、私を信じて戦ってくれている者達もいる。今この戦闘を仕掛け、彼らを討ったのは君達だよ?」

キラ「……」

デュランダル「……もう、止めにしようか。こんな不毛なやり取りは」

キラとデュランダルは、どちらともなく銃を向け合う。

デュランダル「フッ…結局こうなるのだな。人間とは、つくづく悲しい生き物だ」

キラ「投降してください。もう、ジェネシスは堕ちました。あなたの負けです!」

デュランダルは答える代わりに、引き金にかけた指に力を込めた。

一発の銃声が響く。

デュランダル「くっ…!」

デュランダルの肩口に、赤黒い染みが広がっていく。

キラ「議長!」

倒れ込むデュランダルを、キラの身体が支えた。

デュランダル「正直、思っていなかったよ…君に、生身の人間を撃つ覚悟があるとはな」

キラ「…戦うと、決めましたから」

デュランダル「…そうか…」

ミーア「議長…」

ラクス「キラ、ミーアさんも、脱出を急ぎましょう。議長の傷の手当てもあります」

キラ「うん!」

戦闘の停止を告げる信号弾が次々と打ちあがり、まるで花火のように漆黒の闇を照らし出す。
フェイズシフトをダウンさせ、鉄灰色に静まった機体が二機、力なく宙に漂っていた。

シン「…デスティニーは、もう動きそうにないや」

レイ「…こちらもだ」

シン「…勝ったのって、どっちになるんだ?」

レイ「引き分け、だろう…」

シン「そっか…」

シン「ははっ…あれだけ大見得切って、引き分けかよ」

レイ「フッ…」

シン「……終わったんだな」

レイ「……ああ」

デュランダル「……ここは……」

タリア「目が覚めた?」

デュランダル「タリア…?では、此処はミネルバか?」

タリア「いいえ…アークエンジェルの医務室よ」

デュランダル「アーク…エンジェル…?」

デュランダル「そうか…負けたのだったな、私は…」

デュランダル「……レイは、どうなった?」

タリア「無事よ。呼んできましょうか?」

デュランダル「いや…無事ならそれでいい」

デュランダル「今の私には、彼に合わせる顔などないよ」

デュランダル「見せてやりたかった…あの子の命が尽きる前に…新しい世界を」

タリア「ギルバート…未来は、若い世代が作っていくものだわ」

タリア「私達大人はただ、それを手助けすればいいのよ」

デュランダル「だがレイには、時間がない」

タリア「大丈夫よ…あの子はもう、自分の運命を乗り越えたわ」

デュランダル「どういうことだ…?」

タリア「シンと戦って、負けなかったのよ、レイは」

タリア「引き分けだった、って…悔しそうな顔してね」

デュランダル「……!」

シン・アスカ。障害となるキラ・ヤマトを葬るために、デュランダルが見出した最強の戦士。SEEDを持つもの。
SEEDを持たぬレイが、それを相手に引き分けたというのか?

タリア「ふふ、なんて顔してるのよ」

デュランダル「……」

その時ドアが開き、シンとレイが姿を見せた。

レイ「ギル!」

デュランダル「レイ、無事でなによりだ。シン、久しぶりだね」

シン「議長…」

レイ「ギル、ごめんなさい…俺は…」

デュランダル「謝る必要はないよレイ。これで良かったんだ」

レイ「え…?」

デュランダル「君に教えられたよ。人の可能性は、遺伝子では測れぬということを」

デュランダル「ありがとう…よく頑張ったな、レイ」

レイ「ギル…!」

シン「……」

シンは、そっと部屋を出た。
あの三人は、きっと家族なのだろう。
そこに、血の繋がりなど無くとも。

コズミック・イラ74、プラントとオーブは終戦に向けて協議に入った。
ここに、ひとつの戦いが終わりを告げた。

シンは、オーブの慰霊碑の前に来ていた。

シン「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす…」

シンはポケットからピンク色の携帯を取り出した。
ミネルバにあったシンの私物は処分されてしまったが、
これだけはレイが取っておいてくれたのだ。

シン「それでも、俺は戦う。望む明日を手に入れるために」

シン「ステラが教えてくれた。人が人の役割を決めるなんてことは、あっちゃいけないってことを」

シン「レイが教えてくれた。人の可能性に、限界は無いってことを」

シン「アスランが教えてくれた。力は、自分が本当に正しいと思えることに使うべきだってことを」

シン「キラさんが教えてくれた。誰かを守るために戦う人は、強いってことを」

シン「だからマユ、父さん、母さん…俺はもう大丈夫だよ」

シンは、再びプラントへと戻ることに決めていた。
しばらく会いに来られないことを謝罪し、天国の家族へと祈りを捧げた。

『シーン!』

シン「あ……」

自分を呼ぶ声に振り返ると、そこには、
柔らかな金髪を揺らして、笑顔で走り寄ってくる少女の姿があった。

ステラ「ステラ、シンに会いに来た!」

シン「良かった…ステラ…!」

約束は、果たされた。
心から守りたいと思った少女を、もう一度この腕に抱きしめられる日が来たことに、シンは感謝した。

シン「マユ、父さん、母さん、見ていてくれ。俺は俺のやり方で、この世界を守っていくから…」

自分にはステラがいる。心強い仲間達がいる。一人ではない。
きっと、大丈夫だ。

少年は歩き出す。運命の、その先へ。

完結です。
色々穴だらけだったと思いますが、お付き合いいただきありがとうございました。
また何かガンダムのSS書けたらいいなあと思います。

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