ガヴリールドロップアウト (22)

ガヴリール×サターニャ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496214573

これは天使と悪魔の不器用な恋の物語である。

001

ありえないことが起きた。
一体なにがあったのかを説明する前に、まず簡単に、申し訳程度に自己紹介をさせてほしい。
そうすることで多少は私も冷静になれるだろう、言わば核心に触れる前のワンクッションというやつだ。
早速だけど、私は一応“天使”をやっている。
名前は天真=ガヴリール=ホワイト。
立場上、人間を幸せにするという大義を背負わされ地上にやってきた。
当初はそんな自分の使命に誇りを持っていたはずだったんだけど。
しかし地上の娯楽の楽しさに気付いてしまった私は、それまでの“優秀な天使”というなんとも退屈で面倒な肩書きを自ら捨てて、現在は好きなことをしながらダラダラと幸せな日々を送っていた。
まあ本来の使命をないがしろにしている影響は天界からの仕送り、つまり金銭面にジワジワと影響を与えていたため、地上での生活費を稼ぐために仕方なく喫茶店のバイトなんかも始めてみたり。
そしてまがいなりにも、色々と道を間違ってしまったなりにも、それでも私は現在進行形で天使なわけで。
だから本格的に堕天しないようにちゃんと学校にも通っている。
苦行とも言える早朝の通学や、嫌がらせに等しい宿題なんかもこなしながら。
自分って偉いなあ、とか思いながら。
そんな駄天使にも幸いなことに友達はいた。

私がかろうじて天使という体裁を保っていられるのはきっと、彼女達のおかげだろう。
悪魔なのに真面目で世話好きなヴィーネ。
私と同じ天使で、退屈を何より嫌うラフィエル。
そして、この物語に大きく関わっていて、むしろこの物語の核心そのものでもある、自称大悪魔。
胡桃沢=サタニキア=マクドウェル。
私は彼女のことをサターニャと呼んでいる。
サターニャは何故か最初から私のことを勝手にライバル視してて、何かと理由をつけては私に謎の勝負を挑んでくる。
はっきり言って、かなりうざい。
控えめに言っても、面倒くさい悪魔。
当初は彼女に対してそんな印象が七割くらいを占めていた。
これから先、そのイメージが根本的に覆されることなどありえないと、私は思っていたのだ。
結論から言うと、それは大きな間違いだった。
まさか天使である自分が、悪魔に恋愛感情を抱くなんて、夢にも思わなかった。
いや、もしかしたら今でも夢を見ているのかもしれない、なんて流石にちょっとバカみたいか。
ともあれ、夢にしろ現実にしろ私はかなり困惑していた。
何しろ生まれてこのかた誰かに恋愛感情を抱いたことなんて一度もなかったのだから。
初恋の相手が悪魔でしたとか、もしも何かの間違いでこの事実が天界に知れ渡りでもしたら、いよいよ終わりの始まりではあるが。
その時はいっそ開き直って、ラッパでも吹いてから世界の果てにでも逃げよう。
冗談はさておき、そもそも私がなんでサターニャを好きになったのか、その辺りについて語っていこうと思う。

002

あれは確か、学校で体力測定があった日だった。
体力ゲージがおちょこ一杯分くらいしかない私は、当然のようにサボろうと決心していたんだけど、我が親しき悪魔ヴィーネの口車に乗せられてしまい、不本意ながらも参加することにした。
焼肉ってワードの持つ魔力は尋常じゃない。
その日は例の如くサターニャが勝負を挑んできたが、もちろん私は断った。
一人でやってろ、と。
サターニャは運動が得意だからか、ここぞとばかりにテンションが高く、正直うっとうしい。
かくしてなんとか最終項目の持久走を完走した私は、しかし走り終わると同時に地面に倒れてしまった。
いわゆる熱中症というやつだ。
普段の運動不足に加え、その日はかなり日差しも強く、こまめに水分補給をしていたつもりでも身体は保たなかったらしい。
吐く息が熱く、朦朧とする意識の中で、突如私の身体が宙に浮いたように軽くなる。
誰だろう、担任の先生?
いくら小柄な私でも、ここから抱えて保健室まで運ぶなんてかなり大変だろう。
しかもお姫様抱っこで。

そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
そこには、さっきまで邪険にしまくっていたサターニャが、必死な表情で私を保健室に運ぶまでの一部始終が鮮明に映し出されていた。
私はこの時、不覚にも彼女に、ときめいてしまったのだ。
今まで経験したことがない不思議な感覚。
得体の知れない恥ずかしさと、強烈なまでの心地良さが同時に身体の中に湧き起こる。
心臓が一定のリズムで力強く脈打ち、その音が次第に大きくなっていくのがわかった。
このまま外に飛び出してしまうんじゃないかと思うほどに。
きっかけといえば、やはりこれがそうなんだろう。
この日から私はサターニャのことを意識するようになった。
彼女は実に表情豊かで、現代には珍しいくらいの純情で、目で追えば追うほどに惹かれ、彼女の一挙手一投足がとても尊く感じるようになったころにはすでに、私の頭の中はサターニャで占領されていた。
そんな私の気持ちに気付くそぶりもなくサターニャは以前と変わらず、今日も元気な様子で。

「ガヴリール!私とババ抜きで勝負しなさい!」

「ババ抜き?」

「そう、ただし負けたら相手の言うことに一つ従うという悪魔的なババ抜きよ!」

飽きもせず、懲りもせず、挨拶みたいな気軽さで、私にけったいな勝負を持ちかけてくるのだが。

「うーん、まあ……たまには勝負も悪くないかもな」

いつもなら第二宇宙速度くらいの速さでお断りするんだけど、今の私は以前とは少し違う。
例の件でサターニャには借りがある手前、ババ抜き程度の勝負に付き合うくらい私とて吝かじゃない。それにたかがババ抜きだろ。
そんな風に自分で言い訳を考えながら。
私の返事が意外だったらしく、サターニャは鳩が豆鉄砲を食ったような間の抜けた表情を見せるが、変に理由を追求してくることもなく、いつもの調子に戻ると早速トランプを配り始めた。

「うふふ、罰ゲームありのババ抜きなんて見ている側もなんだか緊張しますね」

いつの間にかギャラリーと化していたラフィエルが自ら審判役を買って出た。
この天使、実にノリノリである。
わりとどうでもいいか。
ヴィーネは傍で勝負の行方を静かに見守るスタンスらしい。
天使と悪魔に見守られながら、サターニャとの真剣勝負が始まった。

003

結果から言えば、ババ抜き対決は私の負け。
まあ二人対戦だから最後は二分の一の戦いになるので、どちらが勝っても別に驚きはしないけど。
しかしサターニャはまるで子供のように両手を上げて無邪気に喜んでいた。
こいつのリアクション、ほんと尊いな畜生。

「くっく、さて、ガヴリールに一体何をさせようかしら」

「まあ一応ルールだからな、私にできることならなんでも言ってみろ」

私の言葉を聞き、不敵に笑うサターニャ。
一体、私に何をさせる気だろう。
負けるまであんまり深く考えていなかったので、かなり不安になってきた。
しかし、その不安は見当違いで。

「それじゃあガヴリール!明日、私と映画館に行くの付き合って」

サターニャの要求はかなり予想外だった。
思わず私は彼女のことを凝視してしまう。
私の視線に対して何かを感じたのか、サターニャは目が合うとすぐに顔をそむけてしまった。
今の反応、ひょっとして、照れてた?
いや……まさかな。

「さ、サターニャさんとガヴちゃんが……二人きりで映画館デートだなんて!いつからそんなに仲良しになられたんですか!?」

案の定、ラフィエルは驚きを隠せない様子で狼狽える。
ヴィーネに至っては驚きすぎて半分石化していた。

「ガヴが私じゃなくてサターニャと映画館に……私じゃなくてサターニャと」

うわ、なんか小声で呟いてる。
そんなにショックだったのかよ。
ともあれ、サターニャの意図は掴めないが、ごく自然な流れでデートのアポが取れたのは僥倖と言える。
ここだけの話、私が勝負に勝ったら似たようなことを要求する気だった。
もちろんその際は恥ずかしいからヴィーネとラフィエルがいないときに、と思ったのだが、サターニャはそこら辺お構いなしという感じだ。
いや……案外そうでもないか。
気のせいかサターニャの耳は、自身の髪の色と同じくらい朱く染まっているように見えた。

004

デート、と言っていいのかわからないけど、それでも二人きりで映画館に行くというのだから、デートと捉えても問題はない気がする。
サターニャに指定された待ち合わせ場所は市街地の一端、そこは雑誌などでデートスポットによく取り上げられるエリアだった。
ここを指定してきたってことは、向こうもデートだと認識している?
だとしたら、サターニャは私のこと……。
いやいや、冷静になれ私。
今まで本気じゃないにしろサターニャに対してはおよそ悪態ばかりついてきた。
そんな私のことを、サターニャが好意的に思うはずがあるだろうか。
答えは明確だった。
だからきっと、これは私になにか屈辱を与えるための作戦なのだろう。
腐っても私は天使で、サターニャはれっきとした悪魔なんだから。
私としたことが、予想外の出来事に浮かれてしまっていた。

体力測定のあったあの日に、私はサターニャに対する見方を変えた。
それまで邪険にしていた態度も改め、それ以降はサターニャに極力優しく接するように心がけてもいた。
しかし、私がサターニャに与えてきたものはきっとその程度の気持ちの変化で償えるようなものではないだろう。
だから今日は、サターニャにどんなことをされようと、それを甘んじて受け入れるつもりでいる。
私はまるで天界にいた頃を思い出したみたいに、精一杯身だしなみを整えてから、行ってきますと呟いて家を出た。

005

「あら、遅かったわねガヴリール」

待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでにサターニャがドヤ顔で待ち伏せていた。
私は不意に驚いてしまう。
それはサターニャが自分より先に待ち合わせ場所に着いていたことではなく、サターニャの格好に対しての驚きだった。

「サターニャ……その格好」

「格好?ああ、適当に雑誌に載ってたのを選んで買っただけなんだけど、それがどうかしたの」

「いや、まあ、良く似合ってるなって」

「ぅえ、そんなの……と、当然でしょ!」

なんだろう、あんまりファッションのことよく知らないけど、なんかモデルさんみたい。
足とか細いし、私とはスタイルの良さが全然違う。
まあみんなで海に遊びに行ったときに気付いてはいたんだけど。
ていうか心なしサターニャの顔が赤い気がする。
バレないように見栄を張ってるけど内心喜んでるのかな。

「それじゃあ行くわよガヴリール!いざ映画館に!」

「おー」

いつにも増してテンションが高いサターニャと一緒に、少し歩いた場所にある映画館へ向かう。
その際の会話で得た情報によると、サターニャは地上に来てから映画館で一度も映画を観たことがないため、誰かと一緒に映画が見たかったのだと。

「ガヴリールは映画館に行ったことあるの?」

「いや、そうえば私も初めてだな」

「ふぅん、なら私がガヴリールの初めてを奪うことになるわね!」

「ちょ、声がでかい!誤解されたらどうするんだよ」

「え、誤解ってなにが?」

自分の発言のリスクを全く把握していないようにサターニャはキョトンとする。
たく、こいつは本当に純粋だ。
悪魔なのに、誰よりも汚れを知らない。
だから尊くて、たまらないのだ。

「で、どれを観るつもりなんだ?」

「うーん、どれにしようかしら」

「おい、決めてなかったのかよ!」

「ぅえ、ち、ちゃんと決めてあるに決まってるじゃない!?えっと……ほらこの“天使と悪魔”ってやつ!まさに私たちが観るにふさわしいタイトルだと思わない?」

「ん、じゃあそれで」

映画館でチケットを買う際に、私の分のお金をサターニャが出そうとしてきた。

「いや、自分のチケット代くらい自分で払うよ」

「ふん、どうせアンタ課金とかで金欠なんでしょ、今月魔界からの仕送りが少し多かったからこれくらいの出費痛くもかゆくもないわ、それに」

「それに?」

「あぅ、その、ガヴリールの休日を私の都合で潰してるわけだし、このぐらいはさせなさいっ」

「え、じ、じゃあ……その、ありがとなサターニャ」

「お安いご用よ!」

サターニャが突然胸キュンなことを言ってくるから、普通に照れてしまった。
本当に恋人同士みたいだ。
そう思うと自然に口角が上がってしまう。
それにしても今日のサターニャは、なんていうか、いつもみたいに変なことを企んでいる感じが全くない。
ただ純粋に私と過ごしている時間を楽しんでいる、ように見える。
サターニャは一体、何を考えて私を映画館に付き合わせているのだろう。
サターニャは、私のことをどう思っているんだろう。
それは以前から気になっていたことだ。
知りたいけど、知ってしまったら取り返しがつかない気がして、私が無意識に考えないようにしていたことだ。
だけど、こんなに優しくされたら心のどこかで期待してしまうじゃないか。
こんな私でも、願ってしまうじゃないか。

006

時刻は16時52分。
映画館を出たあと、お腹が空いたので適当に近くのファミレスに入ることにした。

「天使と悪魔ってR15だったんだな」

「私もまさかあんなに過激な映画だとは思わなかったわ……」

お互いに作品についての感想を述べ合う。
内容はぶっちゃけ、ただの官能映画だった。
しかもよりによって地上で暮らす天使と悪魔の女の子が終始いちゃつくだけという、まるで私達へ何か注意喚起を訴えかけるようなお話。
上映中、何回サターニャと目が合っただろうか。
なかなか気まずかった。
腹ごしらえを済ませファミレスを出る。
私達は駅前にある広場のベンチに座りながら少し雑談してから帰ることにした。

「今日は付き合ってくれてありがとう、アンタと二人きりで遊ぶのもまあ、悪くなかったわ」

「そりゃどうも。私も……けっこう楽しかった」

「っ、ほ、ほんとに?」

「ああ、ほんとに」

「じゃあ、もしガヴリールが……嫌じゃなければ、また私と遊んでくれる?」

「べ、別にいいけど……次はもう少し作品調べてから行こうな」

「ふ、安心してガヴリール!次はもっと面白いの探しておくから!」

サターニャの横顔が夕日に照らされて、なんかすごく綺麗だ。
結局、普通にデートを楽しんだだけだったな。
私が変に勘ぐりすぎた。

「サターニャ、なんで体力測定のとき、私のこと助けてくれたの?私、てっきりおまえに嫌われてるかと」

不意にあの日のことを聞いてみる。
それは私の意思とは無関係に物事の核心に迫る質問だと、言った後で気付いた。

「さあ、なんでかしらね。気付いたら身体が勝手に動いてたのよ」

サターニャは自分の考えを整理しているように、少し沈黙する。
それから何かを決意したみたいに私の方をまっすぐ見つめながら、続けた。

「私、アンタのこと、ガヴリールのことが好きなの」

世界中のあらゆる時計の針が静止した。
もちろん実際は静止してなんていない。
ただ彼女の言葉はそれくらい衝撃的で、驚愕的で、そして享楽的だった。

「ふぇっ?」

思わず私の口から間抜けな音が漏れる。
今、サターニャはなんて?
好き?好きって、誰が?
頭の中が真っ白になった。
わけがわからない。
サターニャが私に告白するなんて。
目の前で私の顔を真剣に見つめる悪魔の顔は、どこか不安そうに、しかしそれを悟られないように凛とした眼光を放っていた。
私はその顔から目が離すことができない、いや、目を離してしまえばきっと何もかも夢になってしまいそうだった。
だから、ちゃんとこの瞬間を瞳に焼き付けながら、長い沈黙のあと私はやっと返事をした。

「ヴィーネとラフィエルには、恥ずかしいから内緒だぞ」

007

後日談として、その日から私達は正式に恋人同士になった。
ヴィーネとラフィエルにはまだ秘密にしてあるけど、まあ長くは隠せないだろう。
しかし自分から報告するのは恥ずかしいので、自然に発覚するのを待つことにした。
それにしても、まさかサターニャと付き合うことになるとは。
これが天界にバレたら、堕天確定かな?
まあ、そんなことどうでもいいけど。
あとから判明したことだが、サターニャが私によく勝負を仕掛けてくる理由は、彼女なりのアプローチのつもりだったんだと。
いつだったか廊下ですれ違ったときに、一目見た瞬間、私に特別な興味を持ったらしい。
聞いた話によると、いわゆる一目惚れというやつに近いのかもしれない。
しかし鈍感なサターニャは初め、自分の中で湧き起こる気持ちの正体がなんなのかわからず、とても困惑したそうだ。
その結果、不器用に、愚直に私にちょっかいをかけることで、徐々に私に対する気持ちの輪郭が見えるようになったと、彼女は言っていた。
そして体力測定の日に、私がサターニャに特別な感情を抱いたあの日に、奇しくも同じタイミングで彼女は自分の気持ちの正体が“恋心”だとようやく思い至ったらしい。

これがこの物語の真相で、真実。
なんてことはない、どこにでもある、どこにでもいる学生の至って平凡な恋物語だ。
事実は小説よりも奇なりというなら、まあ天使と悪魔の恋愛も確かに“奇”と言えないこともないが、これはそんなに難しい話なんかじゃない。
とある日曜日。
私はいつか映画館に行ったあの日のように、なんならあの日以上に、サターニャに負けないように精一杯のオシャレをしたりなんかして、家を出る。
今日はサターニャと一緒に水族館に行くのだ。
どうやら今回は私の方が早かったらしく、あとから待ち合わせ場所にやってきたサターニャは私を見つけると少し悔しそうな顔をする。
そんな彼女に向けて、私は言った。

「ん遅かったなサターニャ」

まるでいつかの意趣返しをするみたいに、お互いに私達は続ける。

「ガヴリール……その格好」

「ん、雑誌で見たやつ真似しただけだよ」

「まあ、なんていうか……なかなか可愛いじゃない、天使みたいで」

「おいおい、これでも私は現役の天使なんだぞ悪魔様」

「悪魔じゃなくて大悪魔よ!」

「はいはい、大悪魔様~」

「棒読みじゃないー!」

これは天使と悪魔の不器用な恋の物語である。

最後にそんな風にまとめながら、私達はお互いの歩幅を合わせて、ゆっくりと歩き出したのだった。

☆END☆

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom