にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」 (153)

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             < 凶 >


  ◆ 水難に注意されたし

  ◆ 体調不良の相あり



  ◇ 幸運のお守りは 傘 である



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  …――ばしゃっ!




ことり「ご、ごめんっ!!!大丈夫!?」

にこ「」ポタポタ…




希「あちゃー、早速当たってもうたなぁ~
   のんちゃんお手製のスピリチュアルおみくじ」




◇その日、にこちゃん、絵里ちゃん…そして真姫ちゃんは
  あまりご機嫌じゃありませんでした




バンッ!




凛「やったにゃあああ!!!行きつけのラーメン屋さんで
  『祝!100組目のお客様』ってサービス券貰ったにゃーーー!」


穂乃果「一緒に行った甲斐が会ったね!!」



◇希ちゃんのおみくじで大吉を引き当てた穂乃果ちゃんと凛ちゃんが
 帰ってきました

 仲の良いお友達と二人で行けば良い事があると書かれていた凛ちゃんは
 偶然近くに居た穂乃果ちゃんを連れて行ったみたいです





にこ「ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」ダンッ!!!

にこ「なんなのよアンタ達ぃ!!嫌味か!?嫌味かい!?」



◇あっ、さっきから良くない事続きのにこちゃんが怒りました…


ことり「にこちゃん…穂乃果ちゃん達に当たっても仕方ないよ?」


にこ「はぁ…分かってるわよぉ…でも、今日は朝からついてなさすぎで
   大声でも出さなきゃやってらんないわよ」



◇目覚まし時計が壊れてて早朝から遅刻しそうで…
 慌てて家を出ては打ち水をしてた近所のおばさんに水を掛けられたり

 今だって転びそうになったことりちゃんのアイスティーを頭から被って
 今日は碌な事が無いと嘆いています


凛「…にこちゃん、凛達はしゃぎ過ぎて…その、ごめんね?」

穂乃果「今度このサービス券で3人で食べに行こう?ね?」



にこ「うぅ…アンタ等の気遣いが余計に心にクるわよ…」



希「しっかし、アレやね~
   にこっち、エリチそれに真姫ちゃん、3人揃って同じ内容のくじ
   引くなんて…BiBiは仲良しさんやね!」




◇夏休みに入り、私達μ'sはラブライブ!に向けて日々練習をしていて
 昨日は息抜きで希ちゃんの持ってきたおみくじを引いたのですっ!


 …真姫ちゃんは終始納得がいかなかったみたいで
   イミワカンナイって言ってたけどね




ガチャ…





絵里「おはよう‥‥」ポタポタ

真姫「…」ポタポタ



ことり「おはよ――…って二人ともずぶ濡れだよ!一体何があったの?」



◇にこちゃんの髪をタオルで拭いてたことりちゃんが振り返ると
 入口にはずぶ濡れの真姫ちゃん絵里ちゃんが立っていました

 そして少し遅れてやってきた海未ちゃんが訳を説明します



海未「それが…なんというか二人とも不運に見舞われまして…
   階段を上っていた所、清掃用具を持った運動部の子が脚を滑らせ」




希「あ~、なんとなく読めた…
    つまり、こうやない?掃除用具を持った子が階段から
   たぶん、窓拭きだかモップだか知らないけど水入りのバケツを
   ひっくり返してもうて、それを二人が被ったとか?」


海未「…ご名答です」



◇【soldier game】…通称ソルゲ組、またの名は"クラッシーヴィ"ですが
 海未ちゃんだけは弓道部の子に呼び止められて、それで数歩後ろに居た
 だから難を逃れたそうです…



    にこ「へっくしょんっ!」ブルッ

    にこ「うぅ…風邪ひいたかも…」


穂乃果「にこちゃん達のくじ、体調不良に注意ってあったもんね」フキフキ
凛「大丈夫?」フキフキ

◇タオルでことりちゃんと一緒ににこちゃんを拭いてあげる2人
 そして、頬を膨らまして希ちゃんに

にこ「もうっ!希!!アンタ悪い気を追っ払うおまじない無いのっ!」


◇っと叫ぶにこちゃん、騒がしくて、時々笑いもあって涙もある
  そんな居心地の良いこの空間



◇ それが、私っ!小泉花陽の所属するアイドル研究部なのですっ!


~1day  厄除けはご利用的に ~



希「悪い気を追っ払うおまじない、ねぇ…」



東條希は人差し指を唇に当て、天井を眺めるように考え事をする
 彼女が知りうる限りのおまじない、ご利益のある神社のお守り

単なる気休めにしかならないだろうが、やたらとびしょ濡れになる
友人3人の為であった



病は気から、心の持ち方で人はどうとでも変わるとはよく言ったモノ


だからこそ"気休め"と言うモノも存外馬鹿にできるもんじゃないのだ




希「………‥ぁ」



長考の末、彼女は一つだけ思い当たる節があり声を出すが…



希「あるっちゃあるけど…これは、なぁ」



にこ「何々!?なんかあんの!?」ガバッ!


希「ちょっ、にこっち!近い近い!顔近いって!」




       ぎゃーぎゃー! わー! わー!




凛「今日も平和だにゃ~」

花陽「あはは…そうだね」


◇そんなやりとりを遠目に見つつ、私は凛ちゃんと一緒に
 あまーいアイスティーを頂いていました

ことり「美味しい?」


花陽「うんっ!美味しいよ!」パァ…!


ことり「ふふっ、良かったぁ!」




◇何気無い、そんないつも通りの日常風景
 私達9人は当たり前の日常を過ごしていました






◇そして、これから私がお話しするのはその"日常"からほんの少し


◇そう…


◇ほんの少しだけ"日常"からズレてしまうお話なのです…

――――
―――
――




海未「はいっ!今日は此処まで!」




穂乃果「ふぅー!今日も疲れちゃったねっ!」

凛「でも楽しかったねっ!」



花陽「はいっ!二人ともお疲れ様!」つ【タオル&お水】



穂乃果「花陽ちゃんっ!ありがとうっ!」ニコッ

凛「えへへっ!凛は優しいかよちんだーい好き!」ニコッ


花陽「わ、私も凛ちゃんと穂乃果ちゃんが好きだよっ」…カァ//


◇練習後の汗をかいた二人はお日様に負けないくらいの眩しい笑顔を
 花陽に向けて来ます…こう、爽やかっていうのかな?



◇…………なんていうか、うん…えへへっ!




真姫「なーに、嬉しそうに笑ってるのよ?」


花陽「あっ、真姫ちゃん!凛ちゃんと穂乃果ちゃんの笑顔
    素敵だな~って!」



真姫「…たしかに、あの二人の顔見てると元気が湧いてくるのよね」


◇くすっ、と柔らかく笑って真姫ちゃんも私の意見に頷いてくれます
 そのまま「本当、見ていて飽きないわよね」って二人を見つめてた…


花陽「あ、風邪とか大丈夫?にこちゃんはさっきくしゃみしてたけど…」


◇さっきお水を被っちゃったんだよね?大丈夫って私は訊いたんです




真姫「あ~……とんだ災難だったわね、日差しの下で練習してたから
    水気なんてもう飛んでったわよ…」


真姫「…ハァ、練習も終わりでしょ?
    この後、にこちゃんに付き合って絵里と希の"おまじない"を
     やらなきゃなんないのよ…」


花陽「今朝、部室で話してた奴?」


真姫「そうよ…にこちゃんがどうしてもって言うから
   絵里も私も付き合う事になったのよ…本当イミワカンナイ」ブツブツ


花陽「ふふっ、そう言っちゃうけど
   にこちゃん達だから付き合っちゃうんだよね」

真姫「は、はぁ!?…べ、別にそんなんじゃないし!」イミワカンナイ!


海未「それではこのまま各自、解散とします!」


◇手を叩いて、形だけの解散を宣言する海未ちゃん
 μ'sとしての練習はこれでお終いだけど、この後は皆で
 冷房の効いた部室でお喋りしたり…アイドルグッズを買ったり
 ラーメンを食べに行ったりです!


◇お友達同士の楽しい時間はまだまだ終わりませんっ!



穂乃果「海未ちゃーん!」ダキッ!
凛「海未ちゃーん!」ダキッ!



海未「ひゃ、ひゃぃんっ!?」



ことり「あっ、今の可愛い声だね」

花陽「そうだね」


◇お片付け中の私とことりちゃんはラーメン屋さんに行こうと誘われる
 海未ちゃんの声を聴いて素直な感想を漏らしました




海未「い、いけませんっ!カロリーの取り過ぎで…」




凛「えぇ…ダメなの?」ウルウル…

穂乃果「ぐすっ…海ちゃぁん…」ウルウル…



海未「」





花陽「あれは反則だね」
ことり「うん…」




◇凛ちゃんもホノカチャンもたまに小悪魔だよね、と二人で話し合いながら
 花陽もことりちゃんとこの後アイドルグッズを買いに秋葉原に行こうと
 お誘いをするのです、それがその日、私達9人の行動でした…






◇……………





◇穂乃果ちゃんと凛ちゃんは海未ちゃんを連れてラーメン屋さん


◇私とことりちゃんは秋葉原のアイドルグッズ専門店に向かって
  グッズ(時々ミナリンスキーの写真とか)を買いに…



◇じゃあ…
































◇・・・・・希ちゃん、絵里ちゃん、にこちゃん、真姫ちゃん








◇この4人はこの後、どうしたと思いますか?






◇今、私の話を聴いている皆さん







◇皆さんには分かりますか?










◇…先にも言いましたが、私はことちりゃんと秋葉原に行って
 そのままお買い物をして…そしてお喋りをしたりしてお家に帰りました




◇…だから、4人がその日、何をどうして過ごしたのか?



◇私は彼女達が何をしてたか知りません
 これからお話するのは他人から口頭で"こうだったよ"と聴いた話です…






     【1day】:【夜】【音ノ木坂学院】【屋上】





――日本の夏は暑い

地球上に居れば嫌でも四季というものは感じる、ただ国によっては
夏の暑さには違いと言うモノがある

喩えば南米の熱帯地域に属する密林の夏と大気が乾燥しきった砂漠の夏
同じ夏でも暑さが違うのだ


これは日本国内でも言える事だが、雨が全く降らない日が続いた日は
日差しが強くとも風通しが良ければ過ごしやすさを感じる
 逆に台風や強烈な通り雨の後は"蒸し暑さ"を感じるのではないか?




日差しも出ていない夜…昼間は見かけた入道雲は見当たらず
やけに星空が綺麗に見える、そんな暗がりの晩であった



にこ「…暑い」


希「なぁ、本当にやるん?」


にこ「当っ然!!!やるったらやるっ!!」ダンッ!

絵里「誰かさんの台詞みたいね…」

真姫「…早くやって帰りましょうよ…」



真夜中の学校の屋上、そこに色取り取りのチョークや蝋燭
他にも漆塗りのお皿…お彼岸に使われるようなお供え物…


そう…部室で今朝話していた"おまじない"とやらをやろうとしているのだ



絵里「真姫、震えてるけど、怖いの?」

真姫「なっ!そんな訳!…ないじゃないの」ゴニョゴニョ


夜の学校…と言うモノは如何せん気味の悪い所がある…


絵里「…まぁ、私もわかんなくないけどね…」ブルッ


お互いに早くやって早く帰りたい、そんな気持ちでいっぱいでした



希(…まぁ、噂で聞いた程度のデタラメなおまじないやけど…
       人間、気の持ち方一つで幸福にもなれる言うし…)

希「これもちょっとした人助けやな…」ボソ


にこ「?なんか言った?」

希「いや、何もいっとらんよ」




そう言って、東條希はその手にカラフルなチョークを持ち、先端を地面へ
滑らせる、本来であれば黒板の闇に文字を表すそれは
 瞬く間に人間が3人すっぽり入る程度の大きな円を描いていく…


希「此処をこうして…次にこの線を引いて…」ツ―ッ


描いた円には幾多もの線、直線状に重なるように曲線が敷かれ
それが段々と一つの模様となり傍から見ている3人には解せない文字を
次々と構築していく


絵里「…っ」ゴクッ…


彼女等3人は神学やオカルトの類には詳しくない
だが屋上の無機質な石畳の上に表れる文字はなんとなく何処かで
見たことがあるモノだった…


にこ「…ドラマに出て来る奴に似てるわね」ヒソヒソ

真姫「きゃっ!…に、にこちゃん!急に話しかけてこないでよ…」ヒソヒソ

にこ「あっれれ~?真姫ちゃんちょっと涙目にこ~?
              もしかして怖いのかなぁ~?」クスクス


真姫「ば、ばっかじゃないの!そんな訳が…」ガタガタ

にこ「はいはい…、可愛いにこね~♪」

絵里「にこ…あんまりからかうんじゃないの…静かにしてて」ボソ

にこ「はいはい…って、アンタ大丈夫?顔真っ青よ?」ヒソヒソ


絵里「…だ、大丈夫よ…ただ、ちょっと寒気がして‥」


余興でも楽しむような雰囲気のにことは裏腹に心底怖がる同級生と後輩
流石に矢澤にこも…

「…あー、ちょっとふざけすぎたかな…」

「にこの我儘でつき合わせたようなモンだし……謝っとこう…」

っと…二人に対して申し訳なく思い始めたのか、言動を慎んだ



今はただ3人とも黙って希の準備を見ているだけだった…






希「…」そーっ



 輪の中に描かれた模様とドラマの陰陽師なんかで見かけるような文字
ただの大きな『円』から『陣』に変わったソレの中で東條希は
マッチ棒を一本擦って火を起こす、小さな棒の先端でゆらゆらと蠢く灯は
蝋燭へとその命を分け与える…

彼女は役目を果たしたマッチ棒を口元に運び、ふっ…と一息で鎮火する


  …ポタ


           …ポタ


 そこから先は丁重に、火が移り灯った蝋を地面の至る所に垂らしていく
溶けた白い蝋は一定の間隔をあけて落とされ…

やがてはこの熱帯夜の空気の中で固まっていく



     希「…できた…」ふぅ…


額の汗を裾で拭い…彼女はソレを完成させた、させてしまった





 何か意味のある模様のようにも、良く分からない文字の羅列のようとも
どちらとも捉えられる『陣』、所々に蝋が垂らされて…
 その中央には漆塗りの皿、上にはお彼岸でお馴染み子供のお小遣いで
容易く用意可能なお供え物セットがちょこんっと乗せられていて
『陣』の外枠には蝋燭が数本立てられていて、万一強風や地震でも
簡単には倒れないようにその蝋燭自体も底を溶かした蝋で固定されていた





希「えりち~、にこっち~、真姫ちゃ~ん!できたで~」チョイチョイ



にこ「あっ、できた?」


希「そー、そー…いやぁ、思ったよりも良い出来だと思うんよ」


なはは!と軽快な笑いで友人に完成を報告する
そしてそんな友に絢瀬絵里は訊ねた



絵里「ね、ねぇ…これからやるおまじないってどんな奴なの?」



希「あー、それな、ウチ等がやるのは『口寄せ』の類や!」


真姫「く、口寄せ?」


希「そ!口寄せ…ほら、3人とも"イタコさん"とか聞いたことあらへん?」

にこ「あー、昔のジャンプ漫画でそんなのちょっと読んだっけ…
                "シャーマンキング"だったかしら?」


希「んー、まぁ大体そんなイメージでええかな
   それで簡単に説明すると、これはな神の霊や仏の霊…
   にこっち達を護ってくれる霊を呼び出して憑いててもらう奴や」


真姫「お、お化け…」ピクッ

絵里「…っ、そ、そう…良いお化けさんなのね」ブルブル


希「そうやね…口寄せにもいろんな種類があって…あっ!
   そうそう!『コックリさん』とかもその類に―――」



真姫「も、もう!良いでしょ!!さっさとやって帰りましょう!」



早く終わらせようと急かし、急かされ儀式は行われる
手招きして3人を『陣』の中へ入るように指示する希

一人はちょっとしたお遊び気分で『陣』へ
一人は真っ青な顔で…早く家に帰りたいと思いながら歩み
一人はお化けなんて非科学的なモノは居る訳ないと震えながらも入る




希「入った?なら中央のお供え物が入ったお皿を背にして?」


絵里「こ、こうかしら…」

真姫「……っ」キュッ

移してたか




希「ふむふむ、ええよ、そんな感じ」


 
[対象が複数の場合…その人数が入る大きさの陣を描きます]


① 『中心にお供え物を入れたお皿を置いて
     呼び出したい種類の霊に応じたモノを捧げます』



② 『対象となる人物はお皿を取り囲むように並び背を向けます』



にこ「なんか子供の頃幼稚園でやったお遊戯を思い出すわね!」

希「あ~、言われて見るとそやね!」


この状況をすっかり楽しんでいるお気楽な3年生とは裏腹に絵里と真姫は
お互いの顔を不安そうに見つめます


絵里「うぅ…真姫ぃ…」

真姫「そ、そんな目で見つめないでよ…」




――か~ごめ、かごめ♪

小さい頃のお遊戯で一人を中心に他の皆は手を繋いで輪になる


次の手順はまさしく、それを思い起こさせます



③ 『お皿を囲んで背を向けたなら…陣の中の人は手を繋ぎます
   もしも、対象者が一人の場合は手を組んで胸の前で祈るように…』



④ 『手を繋ぎ(手を組んで胸の前に持ってくる)終えたら
              目を瞑り、3回深呼吸をします…』



希「――3回深呼吸をします、これで体内の気を一度外に出す為」


希「で、次が確か…」



⑤ 『陣の外の人は外枠に立てた蝋燭の火を一本ずつ灯します』



希「…」スタスタ




   シュッ!!


再びマッチを擦り、希は目を瞑る3人を眺めながら火を灯していった…








⑥ 『これでいよいよ最後です…最後は――――』












   希「お出でさい…お出でさい、此処にお出でください…」





  「「「お出でさい…お出でさい…此処にお出でください…」」」








   希「此処にいる私達を、どうかどうか、お守んなさい…」



  「「「此処にいる私達を、どうかどうか…お守んなさい…」」」








   希「陽が沈む方角から、お出でなさい…お出でなさい」


  「「「陽が沈む方角から、お出でなさい…お出でなさい」」」









   希「私達をみていてください…厄からお守りください」

  「「「私達をみていてください…厄からお守りください」」」


















  希「…………っ!私はお出でくださった!おいでくださった!」

 「「「………私はおいでくださった!私はおいでくださった!」」」







――― お い で く だ さ い ま し た よ 





ビュウウウウウウウウ――――――――…





儀式に必要な最後の言葉

それを言い終えた直後の事である


真夏の夜風がゆらめく灯を掻き消したのは…っ!




「「きゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」




希「ちょ、お…落ち着きぃ!えりち!」

にこ「真姫ちゃん!ただの風よっ!」





絵里「うううう嘘よ!
   い、ぃま"おいでくださいましたよ"って聞こえた!!!」


希「あー、ごめん、それウチや」


真姫「希ぃぃぃ!!!」



希「いやぁ…ついからかいたくなって、うん…」


希「今度アイス奢るから、ね?」ヨシヨシ‥ナデナデ


真姫「ぅぅ‥馬鹿ぁ…怖かったんだからね」グスッ



にこ「しっかし、本当にすごい良いタイミングで強風が吹いたわね」



希の悪ふざけとほぼ同時に消えた蝋燭の火…
これは流石にビビります…

涙目でお互いにぎゅーっと抱き合う絵里と真姫
そんな二人には今度ちゃんと見合ったお返しをしてあげようと希とにこは
思うのでした…


――――
―――
――




絵里「…もう…おうち、かえるもん…」グスッ

にこ「はいはい、泣き止みなさい…」ナデナデ



希「ごめんね…」ナデナデ

真姫「アイス…ちゃんと奢ってよね…」グスッ




屋上の『陣』もセットも綺麗に片づけて
4人は学校から去っていきます…



水気を含んだ真夏の空気


蒸し暑さを感じる夜の空気



ある意味で
 この不快感を感じる蒸し暑さも【水難】に含まれるのでしょうか?








ばしゃ…!



希「あ」

にこ「」



今日の蒸し暑さの一因の一つ…



昼間の通り雨ですね


僅かな時間帯に降り注いだ、しかし猛烈な豪雨は
コンクリートとアスファルトに籠った熱で水蒸気と化し
天然物のサウナとなる







にこ「希ぃ…【水難】の厄除けじゃなかったのかしらぁ~?」




暗がりの道、生暖かい水溜りに見事片足突っ込んで新品の靴を見事
びしょ濡れにさせた矢澤にこが希を見つめる



希「あはは、まぁそんなモンやて、なっ!」






こうして少女達のおふざけは終わりを告げたのでした






【1day ~fin~】

































…ピチョ










――――ぱしゃ…っ!











だれもいない夜道に真新しい足跡ができます



アスファルトの上に足跡ができます



水溜りを踏んづけてから、乾いた地面に足跡をつけるように…



ぺたぺた…と…




靴を履いていない…素足の跡がくっきりと残りました









    ペタペタ……

            ペタペタ…  …ビチャビチャ

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


           今回は此処まで!



           [前にも書いた事]




 一周年記念① 怖くない ホラーと呼べない偽ホラー





















  おまじない

  漢字で書くと 「お呪い」

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祝ってやる

~ 這い寄る"水音"と"水温" ~



~2day~

花陽「おはようっ!」ニコッ


穂乃果「花陽ちゃんおはようっ!」ニコッ



◇朝、顔を洗って食卓で今日も一日元気に過ごすための栄養を取り入れて
 私は照り付けるお日様の下、学校へと向かいました



花陽「今日も暑いね…」

穂乃果「そだね~」あはは…




凛「あ~、かよちん!穂乃果ちゃん!」パタパタ!



◇通学路を歩いていた私は風呂敷に包まれた箱を持った穂乃果ちゃん
 そして、パタパタと駆け寄って来る凛ちゃんに会います



凛「か~よちんっ!」ギュッ


花陽「ぴゃぁ…///」


凛「ん~、今日も柔らかくて抱き心地が良いにゃ~…」


穂乃果「おおっ!二人とも朝からお熱いねぇ~♪」クスクス


花陽「そ、そんなんじゃないよぉ//」


穂乃果「ふっふっふ!良いの良いの!照れる事ないって♪」あはは!



◇穂乃果ちゃんは手を口元に運び、お熱いねぇ~、っと
 悪戯を思いついた子供のような微笑みを魅せます……うぅ、ダレカタスケテー



凛「穂乃果ちゃんも抱き付いてみるにゃ!かよちん柔らかくてふわふわ~
  って感じなんだよ!」


穂乃果「ほうほう…それは良い事聞きましたなぁ?」ニヤニヤ


花陽「ゃ、その…///」



穂乃果「それ~♪」バッ ギュウゥ

凛「え~い♪」ギュゥ






真姫「朝っぱらから何やってんのよ…アンタ達は…」ハァ…

◇呆れ顔の真姫ちゃんとも合流です



真姫「それにしても…こうも蒸し暑い日が続くとやんなっちゃうわね」


◇いつものように髪を弄りながら秋風が吹くのが待ち遠しいわ、と
 言いながら私達のすぐ隣に並んで歩く真姫ちゃんに私は訊ねました



花陽「眠そうだけど、どうしたの?曲作り?」


真姫「…単に昨日はあまり眠れなかったのよ」

真姫(…夜の学校なんて行くから怖かったのよ…全くにこちゃんは…)



◇それだけ言うと少しだけ不機嫌そうに希ちゃんやにこちゃんの名前を
 小声で出していましたね、後に希ちゃんから昨晩何があったのかを
 私は聴くことになるのですが…








…ピチョ





真姫「きゃっ!?」ビクッ




凛「にゃ?」

穂乃果「はれ?」


真姫「ッ~…」



凛「真姫ちゃん、変な声出たけど…どうしたの?」



真姫「今、襟首に水みたいなのが…ぅ~」



◇私達は上を見上げます…丁度真姫ちゃんの真上には
 雀さんの止まる電柱から延びる黒い電線が数本…多分ですけど
 電線から水滴が垂れて、それがピンポイントで歩いてた真姫ちゃんの
 背筋に落ちてきたんだと思います



真姫「…気持ち悪い…」



◇服の肩でも腕でもなく、ピンポイントに襟元…ううん首の後ろだもんね
 嫌そうな顔で真姫ちゃんは首の後ろに手を当ててます…



真姫「はぁ…朝からなんなのよ…」


穂乃果「真姫ちゃん、昨日のにこちゃんみたいな事言ってるよ…」


真姫「…今なら分かるわ…こういうのは分かりたくないけど」ハァ…


◇歩みを止めていた私達はそんな事を言い合っていました、そして…



           キィイイイイイイイイィィィィィィィ



穂乃果「わわっ!?」


◇私達が再び歩き始めて、通学路の十字路を通ろうとした所で
 大型トラックが勢いよく通り過ぎました…



穂乃果「危ないなぁ…アレ、絶対スピード違反だよ、もうっ!」プンプン


◇右も左もお家ばかりの住宅地です、確かに今のは一時停止も無しで
 危険な運転でした



凛「本当にゃ!全く、凛達が真姫ちゃんのさっきのドタバタで
  止まってなかったら危なかったにゃ!」



真姫「…」



穂乃果「おおっ!!じゃあ真姫ちゃんは命の恩人だねっ!」

凛「確かにっ!!」


真姫「えっ、ちょ、大袈裟よ…イミワカンナイ」



穂乃果「もうっ!照れないでよ~」

凛「そうそう!」


 あはは!  ちょっ、くっつかないで! 真姫ちゃ~ん  ヴェエエ!!


花陽「ふふっ、賑やかだね♪」










真姫(…首の後ろに雨水だか何だか知らないけど
     生暖かいのが垂れてきて…気持ち悪かったわ…)

真姫(でも、結果的にそのおかげで凛も花陽も穂乃果も…)

真姫(それに…私だって助かった)




真姫(…気持悪かったけど
       …まぁ、今のは良い事だったかしらね…!)フフッ



―災い転じて福となす…西木野真姫は今の難を"良い事"だったと
                そう思うようにしたのであった…

                           "この時は"…



  …ピチョッ

              …ピチョッ


にこ「はぁ~…クーラーの効いた部屋って良いわよね」

希「せやね、でもウチは暑い日にベランダで西瓜を食べる方がええかな」



◇私達4人が部室に荷物を置いて練習を午前の練習を終えた後の話です
 にこちゃんはいつもの特等席で希ちゃんとお喋り中でした



穂乃果「なら!これの出番だねっ!」スッ



花陽「そういえばその風呂敷包み今朝から持ってたね?」


穂乃果「お母さんが親戚の人に貰ったんだ、たくさんあっても
    食べれないから皆でどうぞって!」パカッ



海未「梨ですか…」


◇風呂敷に包まれた四角い箱は切り分けられた梨が入った容器でした
 遠目でも新鮮で瑞々しさがある事がよくわかります



しゃりっ!



◇早速、爪楊枝や銀のフォーク、竹串…皆それぞれにそれを頂いてみます
 


◇うんっ!噛んだ時に広がる果汁が甘味を広げます!
 午前の練習が終わるまで調理室の冷蔵庫を借りてたからひんやりしてて
 その涼がこの真夏日には最高の至福でしたね!


穂乃果「たっくさんあるからね~♪好きなだけ召し上がれ!」えへへっ!



希「にこっち~、食べ過ぎやない?」

にこ「良いのよ…こう暑いんだし、それにこんだけあんのよ」シャリッ


希「食べ過ぎてお腹壊しても知らへんよ?
  今日、妹さん達連れてウチと焼肉屋さん行くんやからな?」

真姫「焼肉屋さん?」


希「そーそー、福引でサービス券当たったんよ!
   行きつけのお店で、折角だしにこっちと妹さん達誘うってな」


真姫「ふ~ん…」シャリッ


希「あっ、真姫ちゃんも来たい?」


真姫「べ、別にそんなんじゃないし!」



凛「おかわりっ!」


穂乃果「はいは~い!」スッ


凛「あれ?そういえば絵里ちゃんとことりちゃんは?」シャリシャリッ!




穂乃果「あぁ、二人なら教室の方でアクセサリー作ってるよ」


◇衣装作りが好きなことりちゃんと
 アクセサリーを創るのが好きな絵里ちゃんっ!今度の衣装の案で
 可愛いくて綺麗なモノをたくさん作るんだって張り切ってたもんね



海未「二人とも練習が終わってすぐに作業に掛かりっきりですからね…」



穂乃果「ん~、…よしっ!決めた!」スッ


穂乃果「二人にも差し入れに行ってくる!」つ【梨】

花陽「あっ、それなら私もついてくよ」


◇丁度、ことりちゃんとお話したい事もあったもん



希「いってらっしゃーい」フリフリ


にこ(…本当に甘くておいしいわね
          こう…この瑞々しさも良いわ)シャリシャリッ


―――
――


ほのぱな「「歩こう♪歩こう♪今日も元気いっぱい!」」トテトテ


◇私と穂乃果ちゃんは梨を入れた容器を持って絵里ちゃん達の元へ
 歩いていきます



ガラッ



絵里「あら、花陽と穂乃果じゃない?」


穂乃果「二人とも頑張ってる?」

花陽「少し休憩にしませんか?」


ことり「その手に持ってるのは…梨?」



穂乃果「甘くてひんやりで美味しいよっ!」


絵里「ふふ、それじゃあ一旦手を休めましょうか?」

ことり「うんっ!」




◇机の上には針や紐…キラキラとした小物がたくさん置いてあって
 それがどんな飾りに変身するのか今の私達にはわかりません
 ただ、完成への大きな期待が胸の中で膨らんでいきます


ことり「それで海未ちゃんってばね―――」

穂乃果「あははっ!海未ちゃんらしいねっ!」

絵里「そんなことがあったのね…そうそうこの間―――」





ぴちゃ…





絵里「えっ」クルッ




花陽「どうかしたの?」



絵里「い、いえ…今」



◇私達が輪になってお喋りに花を咲かせていた時
 ふいに絵里ちゃんが後ろを向いたのです
 私はそれが気になって尋ねたのですが…



絵里「ううん、…何でもないわ」


穂乃果「えぇ~、なにそれ、気になるよ!」


絵里「…水を零したような音がしたと思ったけど…」チラッ



◇絵里ちゃんはもう一度後ろを見ます
 何でも、飲みかけのコップに入ったほんの僅かなお水をひっくり返して
 流し台に零したような音が聴こえた、そう言いました






◇…だけど



絵里「…気のせい、よね…」



◇私達4人の内、それが聴こえたのは絵里ちゃんだけで
 それに教室の床には水なんて一滴も落ちていませんでした




ことり「ん~、今日はもう作るの止めておく?午後からの練習もあるし
    もしかしたら絵里ちゃん疲れてるのかもしれないよ?」


絵里「…そう、ね」



絵里「無理は禁物よね、ことり!ありがとう」ニコッ


ことり「//…えへへっ」



◇程なくして正午を迎えた私達はお昼の練習へと励むのでした





…ぴちゃ

―――
――



◇私達の練習場所は屋上です、ただ…今日に至っては次のライブに向けて
 学校のグラウンドを使わせてもらっています


◇夏休み期間は運動部の子が多いのですが、今日は校外での特別練習で
 空いていたから使用許可を貰ったんです




海未「次は講堂や施設内ではなく屋外でのライブですからね
   今朝も説明した通り、午後からはそれを想定した練習を行います」


海未「ただし!他の運動部の方も居ます!迷惑を掛けないように!」




「おっ、気合入ってるじゃないか園田」


海未「山田先生…!」


◇穂乃果ちゃん達のクラスの担任、山田博子先生です
 気さくで面倒見の良い先生と皆からも慕われている先生ですねっ!



「こりゃあ…ウチの運動部も負けてらんないなぁ~」


「お前らも頑張れよ!」


穂乃果「はいっ!」

ことり「頑張りますっ!」

海未「ありがとうございますっ!」ペコリ



◇それにしても…こうしてみるとグラウンドには運動部顧問の先生や
 他にも誰かを見に来たのかたくさんの先生が居ますね…



◇遠目に見えるお話をしている3人の先生
 スーツの似合う笹原京子先生、その隣には深山聡子先生
 そんな二人と笑っている山内奈々子先生…



凛「かーよちん!何見てるの?」


花陽「あ、向こうでお話してる先生達をちょっとね…」


凛「あー、山内先生だにゃ~!
   かよちんと同じで眼鏡が似合うから凛あの先生好きっ!」ギューッ


花陽「はわわっ!?凛ちゃん///」


にこ「アンタ達!じゃれあってないで練習始めるわよっ!」



◇にこちゃんに言われて、凛ちゃんも一旦離れて
 練習を始められるようになりました
 あの3人も山田先生もこの学院の卒業生なんですって

◇学生時代からの友達同士で、それが大人になった今
 育った学び舎で一緒に先生をしてる…なんか良いよね、それって


◇珍しくグラウンドを使わせて貰えた事でか、はたまた熱中し過ぎたのか
 気が付けば私達9人は鴉が鳴いてしまう時間まで学校で
 踊り続けていたようです



ことり「あはは…張り切り過ぎちゃったね…」


海未「ええ…予定よりも長く学校に居ましたね…」


◇着替えてから私達9人は学校の門を抜けます
 この後は私は穂乃果ちゃんにアイドルグッズのおススメ店を
 紹介しようとしたんですけど





希「花陽ちゃん!」ポン

花陽「ふぇ!?希ちゃん…?」


希「これからにこっちと妹さん達連れて焼肉屋さん行くけど
   どう?無料サービス券はまだ一人分空きがあるんよ!」ピラッ





◇焼肉…



◇網の上で優しく寝かせて焼き上げたお肉に甘辛いタレ…それに合うご飯



◇夏の暑さを忘れるおいしさ、白いご飯


◇ご飯、白米…牛タンには麦ごはん


◇ご飯…飯に『ご』と書いてご飯、…白米っ!

◇麦ごはんよりは白米ですッ!!





穂乃果「お~い、花陽ちゃ~ん!」フリフリ


穂乃果「ねぇねぇ!約束通り、今日アイドルグッズの事詳しく教えて!」



花陽「」ボーッ



穂乃果「?…花陽ちゃん?」




――へんじがない

――背後から声を掛けても一向に反応の無い小泉花陽に首を傾げ

――高坂穂乃果は彼女の肩を掴み、顔を見てみると…



花陽「ご飯…ご飯…ブツブツ」ポケー


穂乃果「は、花陽ちゃん!?大丈夫ッ!?」


花陽「…ハッ!? ほ、穂乃果ちゃん!?どうしたの!?」


穂乃果「え、あ、うん…なんでもないよ…」


希「あ~、先約があったんやね」


穂乃果「?」キョトン


希「花陽ちゃんを焼肉屋さんに誘う思ったんやけど…」


穂乃果「…! あっ、そういう事なら大丈夫だよ!」


穂乃果「夏休みはまだ終わった訳じゃないんだし
     グッズのお店はいつでも行けるけど、その手に持ってる
    サービス券かな?それはどんな時でもって訳じゃないでしょ?」


穂乃果「部室で話してた通り今日、にこちゃんと行くんだもんね
     なら、今日しか行く機会は無いわけだし、ねっ!」クルッ



◇そういって振り向いて笑顔でウインクをしてくれる穂乃果ちゃんは
 ちょっぴりだけ花陽のお姉さんって感じがして…


花陽「あ、あの…でも、本当に良いの?」


◇希ちゃんやにこちゃんと食べてきて良いよ!、と言ってくれる
 優しさはすごく嬉しく思います、でも先に約束してたのにって思うと
 申し訳なくて…


◇おずおずと尋ねた私に何の迷いも無く
 『良いの!気にしない!気にしない!』って後押しもしてくれて
 希ちゃんも折角こう言ってるんやし此処は素直に甘えたら?って







◇二人がこうも言ってくれるのに、私はうまく切り出せなくて
 こういう時、優柔不断な私が少し恨めしく思うのです…




花陽「その…ごめんねっ!この埋め合わせは必ずするからっ!」


穂乃果「それじゃあ明日は今日の分までたーっぷり花陽ちゃんに
            教えてもらうからっ!覚悟しててよね~♪」


花陽「ぁ、ぁぅ…お手柔らかに///」





希「あははっ!花陽ちゃんってば顔真っ赤やん――ん?」


穂乃果「どうしたの?」


希「あぁ、ちょっとメールが…」pi


希「……」


希「…あちゃー…そか…」


希「ごめん、花陽ちゃん焼肉屋さん行けんようになったわ…」


花陽「えぇっ!?」
穂乃果「なんでっ!?」


希「あー、それがにこっちお腹すごく痛い言い出したらしくて
   家でおとなしくしてるって、ほら」スッ


◇希ちゃんが携帯メールの内容を私達に見せてくれます、そこには
  腹痛で蹲ったにこちゃんが希ちゃんにメールを出す前に
  こころちゃん達へ希ちゃんに連れって行ってもらうように電話した事


◇だけど、にこちゃんだけ置いていくのは嫌だから行くのは諦めると
 そんな通話内容になって、それで行けなくなった事までもが事細かく
 書かれていました



希「う~ん、流石にウチ一人って言うのも…また日を改めるかなぁ」




 東條希は自分の頬をかきながら、後輩達の顔を見る
此処で穂乃果と花陽を誘っても良いのだが、できるなら
矢澤家の育ち盛り達の為にも券はまだ持っておきたい


花陽「そういう事なら仕方ないよ」

希「そか…にこっち、あれだけ梨の食べ過ぎでお腹壊すな言うたのに…」


穂乃果「貰ったばっかりだから痛んで無かったと思うんだけど…う~ん」

希「あ~、気にせんでええよ、にこっちには悪いけど自業自得やし…」


希「それより、最初の予定通り花陽ちゃんと
         秋葉を回ってきたらええんやない?」



穂乃果「ハッ!それもそうだね!
         花陽ちゃんっ!」ガシッ


花陽「ひゃ、ひゃいっ!!」


穂乃果「希ちゃんっ!」ガシッ


希「えっ!?」



穂乃果「折角だもんっ!3人で一緒に行こうよっ!」


穂乃果「花陽ちゃんにアイドルの事教えてもらって
    それから希ちゃんと花陽ちゃんと3人でお喋りして遊んで!
    美味しい物食べてるんだよっ!」


穂乃果「そしてにこちゃんが喜ぶ物買ってお見舞いに行こうっ!」ニコッ


穂乃果「希ちゃんならにこちゃんが好きそうな物知ってそうだし
     花陽ちゃんとはアイドルグッズのお店にも行く」


穂乃果「にこちゃんのお見舞いの品もばっちりだよ!!」えへへ!


花陽「なるほど…」

希「…確かに付き合いは長いし、好きそうなモンは分かるかな…」


◇そんなこんなで私は穂乃果ちゃんに手を引かれて秋葉の街へと
 同じようにもう片方の手で掴まれた希ちゃんと一緒に駆けだしたのです









絵里「あら?希はもう先に帰ったの?」

海未「希でしたら花陽と共に穂乃果に連れられて行きましたよ?」

真姫「ええ、無駄に元気な叫び声だったわね」



いつだって元気よね、あの子
そうですね、そこが穂乃果の良い所です
なんでアンタが少し自慢気なのよ…イミワカンナイ


 なんて会話をしながらこの3人も
夕日に照らされるアスファルトの上を歩きだす
街路樹の幹やまだ活力に溢れ青々とした葉の影がまだ暑い日差しを遮る
 学校を出てすぐの信号機は青緑色で渡ろうと思えば渡れた横断歩道は
あえて渡らない、反対側の歩道は太陽の位置関係から斜陽が照り付けてる
少しでも避暑地ができる通りを通ろうという魂胆であった



海未「にこは凛と一足先に帰りましたからね…」

絵里「ええ、そうね…花陽も穂乃果も居ないし…」

真姫「この3人だけって言うのも珍しいかしら」



海未「心頭滅却すれば火もまた涼しとはいうものの…
     これは真面目に日傘を持ってくることを
         考えた方が良いかもしれませんね」



絵里「傘ね…」



ふと、親友のおみくじの内容を思い出す
確かラッキーアイテムは傘だったかしら?、と
そして家に帰る途中にあるホームセンターの看板が目に映る



絵里「二人とも私はちょっとだけ買い物に寄ってくから此処でお別れね」



真姫「そう?」

海未「ではまた明日」


絵里「ええ!」









絵里「さて、家にあった傘も古くなってたから買い換えなきゃって
    思ってたのよね…」


橙色のグラデーションの中、遠ざかっていく二人を背に絵里は
自動ドアの先へと進んでいく

―――
――


絵里「ただいま」ガチャ



亜里沙「お姉ちゃんっ!お帰り!」

雪穂「あっ、お邪魔してます!」


絵里「あら?遊びに来てたの?」

雪穂「はいっ!」

亜里沙「お姉ちゃん!お姉ちゃん!雪穂から
     羊羹を貰ったんだよ!後で食べよう!」

絵里「ふふっ!お茶を用意するわね」






「えー、次のニュースです」




絵里「~♪」つ【ロシアンティー】


雪穂「わぁ~いい香りですね!」

亜里沙「早く食べよう!」

絵里「こ~ら、慌てないの!」





「今日、東京都○○の焼肉店で火災があり…幸いにも
  すぐに消防も駆けつけた事で被害はそこまで大きくはなく――」



絵里「あら?このお店、希がよく行ってたお店じゃない…」


亜里沙「? そうなの」モグモグ


絵里「ええ、確か無料サービス券を貰ったから
       今度行こうとか言ってたかしらね」パクッ



「―ガス爆発など原因はまだ分かっておらず
        負傷者が居ない事が奇跡的だと――」



雪穂「怖いですよね…こういう事件って」モグモグ

絵里「そうね、テレビで流される報道とかを見る側は他人事でしょうけど
   実際に身近な人や自分が被害に遭うとね…」モグモグ


絵里「さて、と」

亜里沙「あれ?もう良いの?」


絵里「ええ、今日はことりと教室で創ってたアクセを完成させようと
   思ってるのよ、亜里沙と遊んであげてね?」フフッ

雪穂「はいっ」

―――
――






キュッ キュッ!  シャアアアアアアァァァァァ…





絵里「~♪」



蛇口をひねり、シャワーノズルから出て来る温水で頭についた泡を
洗い流す、その度に露わになる絵里の美しいブロンドの髪

人工的な温かい雨水は彼女の長い髪から首を…うなじを…そして肩や腕へ
まるで雨上がりや朝露に濡れた葉から雫が垂れていくように
絵里のしなやかな身体から浴室のタイルへと落ちていく


お湯が絵里の身体に当たっては湯船の湯気同様に鏡を曇らせ
浴室内を靄が掛かったようにしていく…

 通常よりも少しだけ熱めにしてるから尚更、それは濃くて…
少しだけ視界が悪いくらいだった





絵里「~♪」ゴシゴシ…



絵里「…?」ゴシゴシ…








絵里「…」







絵里「亜里沙?」



目元に掛かる濡れた髪を払い、声を掛ける…
蒸気でぼやけた視界の先に映る扉には誰も居ない、そして絵里の声に
反応してくれる人物もまた同じく…




絵里「…」キュッ キュッ


気のせいだったのかしら?そう思い、再び彼女は蛇口をひねり
身体についた泡を綺麗に流そうとお湯を出します…




絵里(…なんだか、気味が悪いわね…)ブルッ



真夏日の暑さからかいてしまった汗を流す為にわざと熱めにしたお湯
それに当たりながらも背筋に薄ら寒いモノを感じる…



 そんな事を考えたからか彼女の顔は心なしか不安げだった
曇った鏡には自身の顔は映らない為、絢瀬絵里は今どんな顔をしてるのか
自分ではわからないだろうが…

真姫がよく髪を弄るように…
普段の自分ならやらない肩に垂れさがる濡れた髪を指で梳くように
少しだけ弄って見る、気を紛らわす為だった…


櫛で髪を梳いた時と同じで指と指の間には綺麗な金の糸が数本…





絵里「…」



髪の長い人間なら抜け毛などというモノはさして珍しくもなんともなく
別格気に留めるような事は無かった






ただ…指と指の間に絡まった長い"黒髪"を見るまでは



絵里は震えた

背筋に感じた薄ら寒さは、それ以上の物となった

熱湯に当たっているはずなのに寒気が止まらなかった


――――
―――
――


~26day~


◇私達の夏休みも後、残す所一週間近くとなりました
 月日の流れは速いモノですよねっ!

◇…凛ちゃんは部室で穂乃果ちゃんと一緒に夏休みの課題に追われてます
 海未ちゃんが見張りについてるから終わりそうらしいですけど…あはは


◇それはさて置き、にこちゃん、真姫ちゃん…そして絵里ちゃんの様子が
 おかしいんです…


◇どうにも練習中に態勢を崩して転んだり、どこかフラフラしてて
 少しだけ窶れたようにも見えて…
 特に絵里ちゃん…この3週間近くで何あったんでしょうか…


海未「おはようございます、花陽」

花陽「あっ、海未ちゃん!おはようっ」ニコッ

海未「それにしても、あの暑い日々が嘘のようですね…」


◇日中は暑さに倒れてしまう人が多いと報道された気温も
 今では幾分か過ごしやすくなり天気予報では台風の事がよく言われて…

◇本当に、少し前までは酷暑が続く真夏日だと思ってたのに‥本当に…


◇本当に…





◇いつの間に秋風が吹いてたの…?、そう思ってしまう程でした

*********************************


          今回は此処まで!


*********************************

Rないほうでやってたやつか
気になってたからぜひ完結させて欲しい


◇海未ちゃんとおはようの挨拶をしてそれから私は凛ちゃんと話しました


凛「真姫ちゃん…なんだかすごく辛そうだったね…」

花陽「うん……にこちゃんもなんだよね…」


◇にこちゃんと新人アイドルさんの話題をしようとしたり
 元気の出るお話をいーっぱいしようとしたんだけど…


◇でも、にこちゃんは何処か上の空で私はそれが心配で堪りませんでした


海未「凛!そろそろ各ユニットでの練習を始めますよ?」

凛「あっ!今いくよーっ!」


◇今日はそれぞれのユニットメンバーでの練習です

◇凛ちゃんは希ちゃん、海未ちゃんと!私は【Printemps】として!




◇そして…




絵里「あっ…二人ともおはよう」

にこ「あ…うん」

真姫「…練習行きましょう…」トボトボ





花陽「…っ」


◇…【BiBi】




◇そうです、私だけじゃありません、他の子達が今一番心配してる3人

◇目に見えて窶れていて、練習中の怪我も多くて…心配しない訳ないです



穂乃果「花陽ちゃん…!」パタパタ

ことり「穂乃果ちゃ~ん!待ってよぉ!」


花陽「あっ、二人とも…」


穂乃果「…絵里ちゃん達見てたの?」

花陽「うん…やっぱり今日も元気無いみたいなの」


穂乃果「…どうしちゃったんだろうね…」シュン

ことり「う~ん…練習中もどこかソワソワしてて
          何かを探してたりする、かな?」


穂乃果「何か探してるって言うより…警戒してるようにも見えるよね…」


花陽「そうだよね…3週間くらい前だよね、ああなったの…」


ことり「うん…」


ガラガラ…ピシャッ


◇私達3人は一つの空き教室へ入ります

◇【lily white】は屋上での新しい振りつけやダンスの基礎

◇【BiBi】は音楽室で真姫ちゃんが中心に新曲に関して


◇そしてこの空き教室に来た私達3人は…




穂乃果「それにしても改めて見ると凄いよね、この段ボール全部に
    衣装が入ってるんだもんっ」

ことり「えっへん!ことり頑張っちゃいましたもんね♪」

花陽「昔の衣装とかを見て見たりそれで新しい何かを考えるんだよね」


ことり「うんっ!最新のファッション雑誌もあるんだよ?」ニコッ


穂乃果「可愛い系かクール系にするかだよね」パカッ


◇そう言いながら穂乃果ちゃんは早速昔の衣装が入ってた箱を開けて
 中身を取り出します


穂乃果「わぁ!!見て見てコレ!」

ことり「あっ!それ懐かしい!」

花陽「海未ちゃんが来た奴だね!!」


◇中から出てきたのはヒーローショー用の衣装です
 ことりちゃんの自信作で海未ちゃんは顔を赤らめながらもちゃーんと
 着てくれたんだよねっ!


穂乃果「おおっ!これは…!」


花陽「そっちは節分の時に来た鬼さんの衣装ですねっ!」

ことり「あの時の穂乃果ちゃん可愛かったなぁ…」ヤンヤン!


◇頬っぺたに両手を当てて首を左右に振ることりちゃん
 穂乃果ちゃんは「えっへへ!つけてみましたー!」と鬼の角を
 モチーフにしたカチューシャをつけます


◇なんだか本来の目的を忘れてすっかりお遊び気分になってるけど
 偶にはこんなのも良いよねっ!


ことり「わぁ~イースターの時の衣装!こんなところにあったんだぁ」

穂乃果「こっちには~っと!」ゴソゴソ



穂乃果「…! ねぇねぇ!花陽ちゃん!!こっちに来てよ!」


◇穂乃果ちゃんが手招きして私を呼びます、どうしたんだろう?


穂乃果「ふっふっふ!じゃじゃーん!こんなの見つけちゃったぁ!」


◇わぁ!ソレって前に花陽が来た探偵さんの衣装だね!!


穂乃果「ほらほら~!帽子も虫眼鏡もあるよっ!」



穂乃果「ねぇ!折角見つけたんだし花陽ちゃん着てみてよ!」


花陽「えぇ!?…そ、そんな急に言われても…ねぇことりちゃ――」チラッ






ことり「えっへん!私は婦警さんですっ!
      名探偵花陽ちゃんの活躍がみたいのですっ!」


◇…わぁ!ノリノリで婦警さん衣装着てるねっ!




◇ダレカタスケテー…!!


―――
――



穂乃果「おおっ!これならどんな怪事件も解決できちゃいそう!」

花陽「そ、そんな…お、大袈裟です///」

ことり「ふふっ!絵里ちゃんが此処に居たらこの怪盗さん衣装で
    お芝居もできるのにね!」



穂乃果「…絵里ちゃん」ピクッ




◇絵里ちゃんの名前を聴いて
 穂乃果ちゃんが唇に手を当てて考え込みます


穂乃果「…絵里ちゃん、にこちゃん
          …真姫ちゃん、お悩みバイバイ…」ウムム!



穂乃果「!! 閃いた!!」ピコンッ!


ことり「ほ、穂乃果ちゃん?」


穂乃果「ことりちゃんっ!花陽ちゃん!」ビシィ!!



ことぱな「「は、はいっ!!」」


◇目を小さな女の子みたいに爛々と輝かせて刑事ドラマに出て来る
 上司さん役の人みたいに左手を腰に、右手は私達二人の中間くらいを
 指差して穂乃果ちゃんは言うのです



穂乃果「穂乃果達で真姫ちゃん、にこちゃん、絵里ちゃんを助けよう!」



   穂乃果「名探偵花陽ちゃん率いる
          【Printemps探偵団】此処に誕生だよっ!」


        ことぱな「「…」」


  ことぱな「「…ええええええええぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」」



花陽「ま、まままま待ってくだひゃいっ!」


◇…うぅ、あまりにも突然だったので噛んでしまいました…


ことり「ほ、穂乃果ちゃぁん…もしかして
     昨日やってた刑事ドラマに影響されちゃったの?」


穂乃果「あはははは…やっぱりバレちゃった?」テヘッ


ことり「もうっ!突然そんなこと言いだすんだもんっ!吃驚だよ?」


穂乃果「ごめんごめん、でもね…
    にこちゃん達を助けてあげたいって言うのは本当なんだよ」


穂乃果「最近3人とも元気が無いでしょ?だからせめて悩みとかあるなら
    相談に乗ってあげたり、辛そうなら助けてあげるべきかなって」


穂乃果「前に希ちゃんが言ってたの!
    『μ'sは一人じゃない、誰かが困ったら誰かが手を貸す』って」






穂乃果「大切なお友だちが何だかよく分からないけど辛そうなんだよ…
     だから、役に立てるかわからないけどさ
    何もしないでそのままにはしたくないもん…っ!」


花陽「穂乃果ちゃん…」


◇凛ちゃんやにこちゃんと一緒に偶におふざけをしたり
 真姫ちゃん曰く、先輩なのにすごく子供っぽいって穂乃果ちゃんは
 皆から言われています

◇でも…私はそんな穂乃果ちゃんが何だかんだで
 一番"お姉さん"をしてるって分かるんです

◇偶に【穂むら】へ遊びに行ったときに見る雪穂ちゃんとのやり取りとか
 にこちゃんのお家での妹さん達とか…


◇それに…さりげなくメンバー皆の悩みや本質を何処かで見抜いてたり…




花陽「わ、私は…その…!
    と、突然、絵里ちゃん達を助けようって
        いきなりで吃驚しましたけど!でも!!その…っ!」







花陽「…私も大切なお友だちには元気になって欲しいです」


ことり「…二人とも…」


穂乃果「ことりちゃん…我儘だけど手伝ってほしいの…駄目か、な…?」


◇心配そうに穂乃果ちゃんはことりちゃんの顔を覗き込みます


ことり「ううんっ!私も真姫ちゃん達に元気になって欲しいよ!
    そりゃ…突然だし、私なんかに何ができるか分からないけど…
     でも、お友だちを助けたいっていうのは…一緒だよっ!」



穂乃果「本当っ!?わーいっ!!やったぁ!!」バンザーイ!


◇かくして唐突な始まりでしたが
 私達【Printemps探偵団】は結成されたのです



穂乃果「それじゃあリーダーは…んー?やっぱり花陽ちゃんかなぁ」

花陽「わ、わたしぃ!?」


穂乃果「ほら!"しゃーろっくほーむず"ってアニメあるでしょ!
    犬の名探偵さんが出る奴!」

穂乃果「あれだって刑事さんとか色んな人居るけど
    主人公は探偵さんなんだよっ!」


ことり(んー…穂乃果ちゃんはアニメから入った子かぁ…
     原作の小説も良いんだけどなぁ)クスッ


花陽「わ、私がり、リーダーなんてそんな…!
   そ、そうだよ!私よりも【Printems】のリーダーなんだから
    穂乃果ちゃんとかことりちゃんが――――」



ことり「ことりはほら!婦警さんだよっ!」クルッ


◇ことりちゃんはクルっと一回転して可愛らしくウインクします


ことり「名探偵ホームズにもレストレード刑事っていう脇役の刑事さんが
     出て来るでしょ?だから私は主役は別に良いかなーって♡」

花陽「ふぇぇ…!じゃ、じゃあ穂乃果ちゃん!!」


穂乃果「んー、どうしても嫌?ワトソンさんとか相棒役
     やってみたいんだけどなぁ」




ことり(…昨日やってた刑事ドラマ"相棒シリーズ"だったからね)

花陽(…あっ、そういえば昨日やってた刑事ドラマって確か…)



穂乃果「でも…やりたくないなら
     確かに強制は駄目だよね…ごめんなさい」


花陽「えっ!あ、…そ、その…じゃ、じゃんけんにしようっ!!」アセアセ


◇ちょっぴりだけ穂乃果ちゃんが雨の日に潤んだ瞳で
 見つめる子犬さんっぽく見えてつい口走ってしまいました・・・



◇私は「私が勝ったら穂乃果ちゃんがリーダー」と自分で勝手に約束を
 取り付け…その結果…





ことり「…それじゃあ花陽ちゃんがリーダーさんだねっ!」

花陽「あ、あははは…はい」



◇μ'sで希ちゃんに次ぐラッキーガールは伊達じゃありませんでした…

―――
――

 『数十分後:まだまだ太陽は明るいお昼』



穂乃果「よーしっ!早速絵里ちゃん達を助ける為に頑張ろうーっ!」


ことぱな「「おーっ!!」」イエーイ



◇…ふふ、数十分前はあんなだったのに、このノリの良さですっ!


◇なんだかんだで結構この状況を私も楽しんでるのかもしれません


◇あっ!無論大切なお友だちを助けたいって気持ちもありますよ?
 ただおふざけとかお遊び気分だけでやってるんじゃありませんっ!



穂乃果「花陽ちゃん!」


花陽「は、はいっ!?」


穂乃果「なんだか難しい顔してるよ?」ズイッ


花陽「ピャア!?」


◇わっ!ほ、穂乃果ちゃん…// あぅ…そんな顔近づけちゃ…//


穂乃果「ほーら!もっとリラックスしよっ!」むぎゅーっ


花陽「ひゃぅ…」


◇んむぅ!…穂乃果ちゃんに両手で頬っぺたをぷにぷにされます




ことり「あーーっ!穂乃果ちゃんずるい!ことりも!」むぎゅーっ


花陽「んみゃぅ…!」


◇穂乃果ちゃんとことりちゃんが左右から笑顔で頬っぺたに触れます

◇なんだか二人も新しいお姉ちゃんができたみたいで
 ちょっとだけ恥ずかしいかな…///



       ワイワイ!  カワイイー! ダレカタスケテー//













   海未「3人とも楽しそうですね
       その様子だと作業は順調に済んだようですね?」ニッコリ


      ほのぱなこと「「「 」」」

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 こうして私達『Printemps探偵団』は活動を始めましたっ!

 今のところ探偵さんらしい事はしてないし、まだごっこ遊びっぽいけど

 でもにこちゃん、真姫ちゃん、絵里ちゃんを助けたい気持ちは

 私も花陽ちゃんも穂乃果ちゃんも一緒です♪




 …海未ちゃんに怒られちゃったけど、でも私達はめげませんっ


 とりあえず、探偵さんなら探偵さんらしく聞き込み調査だよねって!

 穂乃果ちゃんが提案したので私達は周囲の皆から

 お話を聴く事にしました!



 とりあえず3週間前くらいから変わった事はないかなーって

 まずは【屋上】に居る『lily white』の皆に聴こうと思うの!

 
           以上!今回の書記係の 南ことり でしたっ♡
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乙んこにうむ

田中呼び捨てかよちんはよ



穂乃果「うぅ…海未ちゃんもあんな怒んなくても良いじゃん」


◇あの後、真面目に取り組んでくださいと(特に穂乃果ちゃんは)
 海未ちゃんに怒られてしまいました…


穂乃果「それにしてもことりちゃんと花陽ちゃんには甘くて
    穂乃果にだけ厳しいなんて…むぅ」


ことり「ま、まぁまぁ!
    海未ちゃんも穂乃果ちゃんの為を想って言ってるから、ね?」


◇ことりちゃんに宥められて納得いかなそうな、でも
 渋々と分かったよって穂乃果ちゃんが呟きます


◇私達3人は横一列に並んで廊下を歩いています
 目指す先はいつもの屋上、海未ちゃんは【BiBi】の様子も見て来ると
 言い残して去って行ったので屋上には希ちゃんと凛ちゃんが居る筈…







ガチャ‥!







凛「あー!かよちんだ!かーよちーん!」トテトテ!ギュッ!



◇わっ!わっ!扉を開けると丁度校舎に入ろうとしていた凛ちゃんが
 すぐそこに居て私はぎゅーっと抱きしめられます



凛「えっへへ~かよちん成分補給にゃ~」

花陽「り、凛ちゃんってば…」







穂乃果「おぉ…!いやぁ、ことりさん、ことりさん
    お昼からお熱い事ですねぇ~」ニヤニヤ

ことり「そうですなぁ、穂乃果さんや」ニヤニヤ

希「いやぁ、お二人さんの仲の良さにはもうねぇ~」ニヤニヤ





花陽「さ、三人共遊ばないでくだしゃいっ!///」


◇うぅ~!気恥ずかしさとか色んなので噛んじゃったよぉ…
 っていうか3人共そのキャラなんなんですか!




穂乃果「いやぁ、さっすが希ちゃんっ!ノリが良いね
     即興なのにこうもノッてくれるなんて」

希「そこがウチの良い所やん?」エッヘン

いけるやん!


希「さて、井戸端会議ごっこはこの辺にしといて…ウチ等に何か用事?」


ことり「うん…あのね、最近の【BiBi】の皆の事なんだけどね?」


希「ああ…にこっち達の事やね」


花陽「うん…真姫ちゃんも絵里ちゃんも皆、日に日に元気が無くなってて
    なんだって良いの、希ちゃん何か心当たり無い?」



◇私と凛ちゃんで何度か真姫ちゃんに聴こうとしたんだけど
  『ただ作曲が忙しくて寝不足なだけよ』とか…はぐらかされてて…



◇絵里ちゃん、にこちゃん、同じ3年生で交流の深い希ちゃんなら
  どうかと希望を胸に私達は訊ねました






凛「ねぇねぇ、希ちゃん…凛からもお願い、真姫ちゃんも辛そうだもん
   何か知ってたら教えて?助けてあげたいもん」

希「そやね…」



◇んー、と考え込むような仕草、人差し指を右の頬っぺたに当てて
  希ちゃんは此処数日の記憶を辿っているようでした…







希「………」


希「…ぁ」



希「いや、まさか、な…」






穂乃果「何々!?何かあったの!!」ズイッ


希「おわっ!!ちょ、ちょ!近い近い!近いで穂乃果ちゃん!!」アタフタ


穂乃果「あっ、ご、ごめん…つい…」



希「コホン…あー、随分前の事やけどウチのお手製おみくじ覚えとる?」


凛「もっちろんにゃー!!
   ラーメン屋さんで100組目記念の券を貰ったにゃ!」


ことり「あ、あはは…う、うん…覚えてるよ…その、私…にこちゃんに
     アイスティーをね、うん…」ボソボソ


希「そやね…【BiBi】の三人とも仲良く同じくじ引いたんやなぁ
   水難注意って書かれたの」



希「そんでにこっちが散々な目に遭っててウチに厄払いの"おまじない"は
  無いかて相談したんよ」

花陽「…あ、そういえば言ってたね」


◇三週間ほど前の和気藹々とした部室の光景を思い起こします
 頭からアイスティーを被ったにこちゃんとそれを拭いてあげる3人
 真夏日だったから冷房が効きすぎた部屋で肩を震わせるずぶ濡れの2人
 そんな二人に着替えを持って行ってあげた海未ちゃん




  希「それで、な……ウチと【BiBi】で夜中に学校の屋上に来たんよ」







ことり「よ、夜中の学校…」ビクッ
花陽「そ、それも真夏のですか…」ブルッ




◇【夏】【夜】【誰も居ない校舎】…これら3つのワードは揃えば自然と
 怖いモノを連想させます
 ただでさえ真夏日は"お盆帰り"という行事があって
 現世には無いモノを意識してしまう時期なのに…夜中の学校なんて…



◇それに音ノ木坂学院は古くから伝統と歴史のある学校で確か…
 明治時代くらいからあったとかで…世界大戦なんかも経験してて

◇…

◇よく学校の七不思議とかでもありますよね…それで亡くなった子供が
 その…"出て来る"って




穂乃果「へぇ…肝試しとか?」キョトン

凛「あーっ!希ちゃん達ずるいー!凛達も誘って欲しかったにゃー!」


   ワーワー! ニャー!  


ことり「私、偶に凛ちゃんと穂乃果ちゃんが羨ましくなるの…」クスッ
花陽「それは、まぁ…うん」クスッ


◇物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまいがちな私達とは違って
 凛ちゃん達は基本的にライトな方へと考えます
 それは決して悪い事ではありません…


◇むしろ今ある人生を一番謳歌できる素晴らしい人間で
 絵に描いたような"人間賛歌"なのだと何かの本で
 読んだのをことりちゃんと思い出します




穂乃果「ならさ!ならさ!今度此処に居る皆でやろうよ!ゴールには
     お菓子とか景品用意するのどう!?」


凛「良いねっ!良いねっ!
  希ちゃんもかよちんもことりちゃんも良いでしょ!」

◇煌びやかな満点の星空、あるいは一点の濁り無い蒼天を思わせる笑顔
 それを見つめて私達の震えは止まっていました

◇秋風よりも冷える薄ら寒さも忘れる温かさに笑みをこぼしていました


ことり「それじゃあ、ことりが甘いお菓子を用意してあげるねっ♡」クスッ


ほのりん「「わーい!やったー!!」」キャッキャッ!




ことり「花陽ちゃん…」チラッ

花陽「うんっ!」コクッ


◇臆病風を振り切った私達は早速手帳を取り出し事情を聴きだします


◇…あっ、今の、なんだか本当の探偵さんみたい!




『東條希の証言①
     【1day】:【夜】【音ノ木坂学院】【屋上】

~西木野真姫、矢澤にこ、絢瀬絵里
 以上3名(厳密に言えばにこ一人)の依頼により東條希は
 人伝に聴いた"おまじない"を学校の屋上で行使したとの事

 その時の状況等を的確に教えて貰った





希「―――以上やね、最後の強風にはウチも驚いたわ
   あれで蝋燭の火が書き消えたんやから」


ことり「ふむふむ…なるほど…!」カキカキ

穂乃果「……」

花陽「あれ?どうかしたの?」


◇探偵役の私、婦警さんのことりちゃんがボールペンで書記を務め
 私は何か考え事をしてる助手役の穂乃果ちゃんを見ます




穂乃果「えっとね…気になったんだけどさ
     その希ちゃんがやったおまじないって誰から教わったの?」


希「あー…それな、卒業した先輩から教わったんよ」


希「なんかその先輩も卒業した生徒に教わったらしくてな…
     あ、なんならやり方の手順とかメモ書き渡そうか?」


花陽「う~ん、一応貰っておこうかな?」


希「ほな…今、教室へ取りに行って――」



ガチャ



海未「ただいま戻りまし…どうしたんですか?三人共
   屋上に集まって?」


穂乃果「うぇ!?え、えっとあのそのですね」アタフタ

◇まさか探偵ごっこしてます!なんて怒られてまだ数時間経ってないのに
 言える訳がありません


穂乃果「ああっ!思い出した!そうそう!希ちゃんにね
     生徒会のお手伝いの事を少し聴こうとね!」

海未「希にですか?」チラッ


◇海未ちゃんは希ちゃんの方へと顔を向けます
 そして海未ちゃんの視界に入らなくなった穂乃果ちゃんは両手を合わせ
 希ちゃんに『話を合わせて!』と懇願します



希「あー、そうそう!ほら…海未ちゃんも最近えりち達の体調が悪いって
  分かるやろ?それが心配で【BiBi】の様子見てきたやん?
  穂乃果ちゃんも心配しててウチに聴きに来たんや」


海未「なんと!そうでしたか…!」


◇海未ちゃんが【Printemps】の様子を見に来たのは単純に私達が
 遊んでないかというのもありますが、【BiBi】の皆が心配だから
 というのがあります…

◇誰よりもμ'sの皆を心配してくれる優しい人だから…!
 言い方は悪いかもしれませんがそんな海未ちゃんの心情とかを
 上手く組み込んだ言い回しは上手いと思いました



海未「穂乃果…そういうことなら私に言ってくれれば良かったのに」ガシッ




穂乃果「ふえ?」



海未「さっ!生徒会室に行きましょう!
   実は私も山田先生にお聴きしたのですよ!
   卒業生のアルバムの整理が少しあるらしいですよ?
        さっ!力を合わせて手伝いましょうっ!!」キラキラ



◇わぁ!海未ちゃんすごく目が輝いてるねっ!




◇そのままズルズルとドナドナに出て来る子牛さんみたいに牽き吊られて
 穂乃果ちゃんは屋上を去っていきます


◇私はポケットからハンカチを取り出し目元を払いながら手を振ります!

◇助手さん…さようなら…っ!!また逢う日まで~!!






ことり「花陽ちゃんも結構ノリが良くなったよね」

希「うんうん!ええ傾向やね!」

凛「凛はこっちのかよちんも好きだにゃ~!」



◇その後、私達の屋上での聞き込み調査は終わりました…

◇結局、ただ希ちゃんが卒業生の先輩から聴いたおまじないをしたとか
 あまり手がかりになりそうお話は聴けませんでした

◇まぁ、最初はこんなモノだよね?

◇三人の体調不良の原因は何か?やっぱり病院とかに行ってるのか
 直接【BiBi】に聴くべきかな?とことりちゃんと話し合います

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 屋上で希ちゃん達と会ってお話をしてみましたけど

 やっぱりこれと言って有力な情報は掴めませんでした

 分かってはいたけど刑事ドラマに出てる刑事さんや探偵さんみたいに

 すぐには事件解決はできないよね

 希ちゃんに卒業した先輩から聴いたおまじないの方法を

 書いて貰ったメモ用紙を貰って私達は屋上を後にしますっ!


 穂乃果ちゃんは海未ちゃんに連れてかれてメンバーは
 一人減っちゃったけど…


 あっ!で、でもでも!その分、私はことりちゃんと頑張りますっ!

 頑張って調査報告を穂乃果ちゃんに説明すればいいんだよねっ!…多分

 次は【BiBi】の皆にさり気なく聴きだそうと思うんです



 真姫ちゃんは凛ちゃんとクラスで尋ねた時はぐらかされちゃったから

 …もしかしたらあんまり訊かれたくない事なのかもしれません


 だから…できる限りさり気なく、そうしたいと思います




 一日でも早くにこちゃんや絵里ちゃん
       真姫ちゃんが元気になってくれますように…


 
           以上!今回の書記係の 小泉花陽 ですっ!
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乙にゃー

>>7
>私はことちりゃんと

不意討ちだった



ことり「様子を見に来ちゃいました~!」

花陽「差し入れ持って来たよー」



◇私達は一度教室に戻り、放課後に配ろうと思っていた
 お菓子を持ち出しました



にこ「あ、あんた達ね…よかった」


◇音楽室の戸を開くと同時に中に居た3人の視線は一斉に集まりました
 初めに口を開いたのはにこちゃんで…何処か緊張した様子でした



◇それは練習に精を出していたとかそんな様子じゃなくて…




ことり「3人とも喉とか乾いていませんか?そんな時は!」スッ


◇「じゃーん!ことり特製のマドレーヌとジュースですっ」そう言って
  ことりちゃんは優しい笑顔を3人に向けます


◇教室に来た口実を創る為に持って来たというのは確かにあります
 でもソレを抜きにして頑張っている3人への気持ちを込めた
 差し入れと笑顔ですっ!やっぱりことりちゃんは優しいなぁ…



絵里「ことり…ありがとう」クスッ



◇そんなことりちゃんに笑いかけてくれるのは絵里ちゃんで
 …少しだけ疲れたような微笑みが少しだけ私達の心を痛めます



花陽「絵里ちゃん…!肩とか凝ってない?私!マッサージとかするよっ」


◇前に凛ちゃんにしてあげた時に元気が出たよって褒められたんだ
 ほんの些細な事で良いから元気付けてあげたいもの
 私はそう言って前に出ます


絵里「ありがとう、でも気持ちだけでも十分よ」


◇手を振って大丈夫だよ、気を遣わなくてもいいのよ
 絵里ちゃんはそう言うんだ、その直後で真姫ちゃんと目が逢って…



真姫「エリー…受けてあげたら?
   相手の厚意は受け取らない方が逆に失礼よ?」


絵里「んー・・・ そうかしら?」

にこ「そうよ、可愛い後輩の頼みを無碍にする気かしら?」


真姫「そうよ、エリーはにこちゃんと違って肩が凝りやすいんだから」

にこ「どぉいう意味よっ!?」


         ギャー!  ギャー!




絵里「うふふ…そうね、それじゃあお願いしちゃおうかしら?」



◇ありがとう、真姫ちゃん…


◇心の中で私は合わせてくれた真姫ちゃん達にお礼を言います





にこ「ぬわぁんですってぇ!?」

真姫「事実じゃないの」



ことり「まぁまぁ!二人とも!
     ほらあまーいお菓子でも食べて落ち着いて、ね?」



にこ「…フン!ことりのおやつに免じてこのくらいにしとくわ」



◇数日前の部室でよく見かけた光景です
 にこちゃんと真姫ちゃんが喧嘩してことりちゃん達が仲裁に入る
 経緯はどうあれ、自然な形でお話が聴けそうな環境になったのかな?






ことり(にこちゃん…合わせてくれてありがとうね?)ヒソヒソ

にこ(別に、可愛い後輩が珍しく積極的に行動してるんだから
   花陽は少し引っ込み思案だから切欠を創った方が良いのよ)ヒソヒソ



花陽「?」


◇二人が何か耳元で話し合ってますが
 私にはよく聴こえませんでした…



―――
――




ぽんぽんぽんぽん…!



花陽「どうかな?」ポンポン…!モミモミ…!


絵里「ありがとう…!
   亜里沙がよくやってくれる時みたいで気持ちいいわよ?」



◇目を瞑って、気持ちよさそうな絵里ちゃんを見て私は嬉しくなります



◇えへへっ…!こんな私でも誰かのお役に立てるんだもん




◇向こうを見れば真姫ちゃん、ことりちゃん、にこちゃんの3人も
 さっきまで喧嘩してたのが嘘のように会話の花を咲かせています


◇…これで3人の顔色が良ければ以前通りの光景なのに


花陽「よいしょっと…!絵里ちゃん、肩凝ってるね」

絵里「ん~、そうかしら?あっ、もう少しそこをお願い」

花陽「ちゃんとお家で休んでる?寝不足とか悩み事とか無い?
    もしあるなら私…相談に乗るよ?」





◇ピクリ、触れている絵里ちゃんの肩が微かに震えた気がしました



絵里「…それは…」


◇蚊が鳴いたようなか細い声が私の耳に届きます


花陽「…言いたくない事なら無理しなくても良いからね?」





絵里「…」




絵里「ねぇ、花陽…」


花陽「なにかな、絵里ちゃん」


◇私は震える絵里ちゃんの肩をほぐし続けます

◇絵里ちゃんがポツリポツリと声を漏らしていく毎に私は…


◇私は…気づけば手の動きが徐々に止まっていく事に気が付いたのです








          絵里「貴女は――――」

          花陽「ぇ…」







 真姫「エリー!!」
 にこ「絵里ッ!」


ことり「!」ビクッ



◇絵里ちゃんが何かを口にした瞬間遠目に見ていた真姫ちゃん達が
 一斉に声を上げるのです

◇ことりちゃんは何事かと竦み、私も跳ね上がりそうになりました



絵里「…」

絵里「ごめんなさい、今言った事は忘れて頂戴?」

花陽「えっ!…い、今のは、その!…あっ、ううん、なんでもない」



◇急に大声をあげてどうしたのか、ことりちゃんは二人に尋ねます
 それについて結局「実は皆を驚かすサプライズの事で悩んでる」とか
 どう考えても嘘にしか思えない内容ではぐらかされてしまいました





花陽「半ば追い出されるみたいに出てきちゃったね」トボトボ

ことり「うん…」トボトボ


◇やっぱり無理があったのかなぁ…


ことり「ねぇ、絵里ちゃんはなんて言おうとしたの?」

花陽「えっ…」



ことり「にこちゃん達が絵里ちゃんが何かを言おうとした瞬間に
    遮ろうとしたよね?それって…
    単純にサプライズとかそんなんじゃなくて―――」




◇ことりちゃんの言いたい事は分かります
 真姫ちゃん達の不調の原因、その根底がそこには詰まっていて
 遮ったりはぐらかすということ…つまり
 "他の人に知られたくない"事なんだよねって…





花陽「あのね…その」


ことり「花陽ちゃん?」



花陽「その…なんて言っていいのかな…正直、よく分かんないというか」


ことり「な、なんていったの?教えて…!」


◇ことりちゃんが私の肩を掴んで訪ねて来ます
 でも…あの時聴こえてきた小さな声の意図は本当に分かりません





花陽「あのね…絵里ちゃんが言った言葉はね――――」












        絵里『貴女は――――』






             ―――――貴方は"幽霊"を信じるかしら?










◇私の言葉を聴いて、ことりちゃんは口を開けて数秒固まっていました
 花陽は絵里ちゃんから聴いた言葉を一文字も違わずに復唱したのですが
 やっぱり…内容を飲み込むのに少しだけ時間が掛かったみたいです




ことり「…ゆ、ゆーれい?」ポカーン

花陽「う、うん…幽霊だよ?」




ことり「…」

花陽「…」




◇…幽霊…ゆーれい、ゆうれい…


◇別の言い方をするとお化けだね



ことり「……えっと、ちょっと整理させてね?」

花陽「うん…」


ことり「絵里ちゃんは花陽ちゃんに言おうとした言葉は
     お化けを信じるかって事?」


◇私は首を縦に振りました


ことり「……」

花陽「……」



◇絵里ちゃんが真っ暗とかホラー映画が嫌いな事は知ってました

◇大人っぽい絵里ちゃんの可愛らしい一面が見れた事で微笑ましい
 気持ちになったり…あっ、いえ、それは今はどうでも良くてですね…





ことり「…えっと、それだけ?」

花陽「…」コクコク



◇また黙って首を縦に振りました


◇よく、心霊写真とかで人魂が写ってるとか、お墓にお供え物のお花に
 人の頭部が生えてるとかあるけど…
 アレには赤外線の影響だとか、お花の隙間に遠くの人がそう見える様に
 写ってたとか色々と簡単に証明できるんだって


ことり「……絵里ちゃん、そんなに疲れてたなんて…っ」シュン


◇私とことりちゃんは海未ちゃんに【BiBi】の皆にしばらく練習を
 休ませるように提案しようと決意するのでした


◇今度のライブは少し大掛かりな予定だから気が張り詰めていても
 おかしくなったんだよね…たぶん


◇きっと相当参ってしまっていたんじゃないか、私とことりちゃんは
 そう結論をつけました


◇思い返せば絵里ちゃんは夜の学校でおまじないをしたって言うし
 帰り道に木の枝に引っかかったコンビニ袋とかを見て
 お化けと勘違いしちゃって寝不足になったとか…?








◇普段大人っぽいお姉さんだけど、お茶目な一面や可愛い所もあるし
 う~ん…可能性はゼロとも…あっ、でも…う~ん??




花陽「で、でも…それだと真姫ちゃんとにこちゃんが周りを気にするのは
   ちょっとおかしい気もするし…」


ことり「それはそうだけど…」



◇そこが最大の懸念なんです


◇その理由だと同じように二人が疲労してるのが分かりません





◇どちらにしても、このままじゃ絵里ちゃん達が
 いつか本当に倒れてしまいそうで…


◇結局、真相がなんなのか分からないままですが【BiBi】は
 体調不良から万全のコンディションになるまで
 お休みさせてあげた方が良い、その方針は変わりません



花陽「海未ちゃんは…さっき穂乃果ちゃんを連れて生徒会室に
   行っちゃったよね」

ことり「うん…!そろそろ終わってるかもしれないし
     穂乃果ちゃんにも伝えておこう」






―――
――




穂乃果「ふぇぇん…終わんないよぉ…」

海未「穂乃果!だらけないで手を動かしてください!
    頑張れば早く終わりますから!」

穂乃果「うわーん!海未ちゃんの鬼ぃ、悪代官~」

海未「誰が悪代官ですかっ!…全く」プンプン




穂乃果「ぶぅ…そんなに怒んなくてもいいじゃん……あれ?」パサッ


穂乃果「…卒業生のアルバムから写真が一枚落ちて…」スッ


穂乃果「…!これは…」


パラ…! パラ…!



海未(おや?穂乃果も真面目に仕事に取り組むようになりましたか?)チラ


海未(…ふふっ、全く…貴方はやればできる子なんですよ?
    日頃からそうやって頑張ってくれれば私よりも……)スタスタ…


海未(どれどれ…どのような取り組みを…)ソーッ





穂乃果「~♪」ペラッ



海未「…って、ただ鼻歌を歌いながらアルバムを
            眺めてるだけじゃないですかぁぁ!?」


穂乃果「うひゃぅ!?」ビクッ

海未「ほぉ~のぉ~かぁ~!!!!!」ドドドドド…!

穂乃果「ひぃぃぃっ!?ぅ海未ちゃん!?」



海未「少し目を離した隙におさぼりですか…?
              ちょっとでも見直した私が――」


穂乃果「わぁーーー!タンマタンマ!
        ほ、ほらコレ見てよほらほら!」アセアセ


海未「誤魔化さないでくださ―――…これは…お母様?」


穂乃果「う、うん…!ほら此処には理事長が写ってるよ!
    それにウチのお母さんも!」

海未「これは…!」ペラッ!ペラッ!



海未「…お母様…このような時もあったのですね…意外です」フム


穂乃果(…ふぅ…海未ちゃんが単純で助かった…)






海未「今、失礼な事を考えませんでしたか?後でお説教するのは
   忘れませんからね?」

穂乃果「た、助かってなかったぁ!!!」ガーン!!





ガチャ…!


ことり「海未ちゃーん!穂乃果ちゃーん!居るー?」
花陽「失礼します!」



海未「おや?二人ともどうしたのですか?」ぐいーっ


穂乃果「ひはい!ひはい!はんへいひへるってへはー!」
    (痛い!痛い!反省してるってばー!)



ことり「わわ!穂乃果ちゃん頬っぺたお餅みたい!」

花陽「や、やめてあげようよ?」


穂乃果「んー!」ジタバタ………バッ!


穂乃果「そうだよ~!」プンプン!


海未「元はと言えば貴女が…」


穂乃果「ぅ海未ちゃんだってお仕事の手を止めて
    お母さん達の若い頃の写真見てたじゃんっ!お相子だよっ!」



海未「う…それは…」


穂乃果「…頬っぺたまだ痛いし…」プイッ


海未「あっ…その……」シュン


ことり(海未ちゃん…また厳しくし過ぎちゃったんだね…
     穂乃果ちゃんが大好きだから
      つい厳しくしちゃうんだけどね…)クスッ



ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃんも悪気があった訳じゃないんだよ?
    ねっ?仲直りしようよ?」


穂乃果「…本当?」


ことり「…」チラッ


海未「ぁ、その…ご、ごめんな さ…ぃ」ボソボソ


ことり「ね?」

穂乃果「…」ジーッ


海未「…っ」シュン


穂乃果「…良いよ」

穂乃果「確かに海未ちゃんの言う通り私がサボってたのが悪かったし
    …ごめんなさい」


海未「い、いえ!!滅相もありません!私こそ!!…たまには人間
    息抜きも必要であって…その―――」オロオロ


ことり「はいはい!ならさ、お母さん達の若い頃の写真でも一緒に見て
    "息抜き"でもしよう?必要な事なんでしょ?」


海未「あっ…はい」


花陽(…流石ことりちゃん、すぐに仲直りさせちゃった)ポカーン


< ソノ、ホッペタ…アト トカ ノコッテマセンカ?

< ウウン!ダイジョウブダヨッ! ギュッ!

< ホ、ホノカ!///




ことり「わぁ!!お母さん…可愛い♡」

花陽「こうしてみるとことりちゃんに凄く似てるねっ!!」

ことり「えーそうかなぁ?お母さんの方が凄く可愛いと思うけど」ペラッ



< アレ? コレッテ マキチャンノオカアサン?

< アッ…ホントウデスネ…




ことり「あー!見て見て!お母さんと
    真姫ちゃんのお母さん同じクラスみたい!」

花陽「あっ!本当だ~!へぇ…人の縁ってすごいんだね!!」



ペラッ…!ペラッ…!



ことり「…あれ?私達此処へ何しに来たんだっけ?」ペラッ

花陽「えっ…そりゃあ海未ちゃんに…」








ことぱな「「…」」





    ほのうみことぱな「「「「あーーーーーーーーっ!!!!!」」」」






◇本来の用事を思い出し声を上げる私達のグループ…!


◇…と同時に向こうのグループも何故か声をあげ、4人分の声が
 一つのハーモニーとなって生徒会室に響きます





穂乃果「大変大変!!これ見て!凄い大発見だよーーっ!!!」

海未「なんと!!このような貴重な写真を見れるとはっ!!!!!」






ことり「ついうっかりして忘れてたああああ!?!?!?」

花陽「お、落ち着きましょう!!!べ、別に時間制限とか無かったし!」





ダンッ!!


穂乃果「ことりちゃん!!花陽ちゃん!!
      見て見て見てーっ!歴史的大発見だよっ!」

海未「それは大袈裟ですよ!」ビシッ







ダンッ!!



ことり「う、うう、んみちゃー!!!!聴いて!絵里ちゃんが
            すごく幽霊でお疲れなのーーーっ!!!」

花陽「ことりちゃん!!深呼吸してぇ!!」






◇一つの机を挟んで私達がお互いに声を上げます


◇目をキラキラさせて一冊の卒業生のアルバムを掲げながら
 何やら興奮気味な穂乃果ちゃん


◇大慌てで両腕を鳥さんの羽ばたきみたいにバタバタさせて
 早口で喋ることりちゃん



ことり「うぇ!?え…えっとぉ!?」


ことり「…」

ことり「…え、えぇっと…」ダラダラ…





ことり「…ほ」



ことり「穂乃果ちゃんから先に話して良いよ?」

花陽「サキニユズッチャウノォ!?」



海未(あぁ…ことりは昔から用件が被ったりこういう時は
    相手方に譲る人でしたからね…
    まぁ、そこが優しい彼女らしいのですが…)




穂乃果「あのね!あのね!これ見てこれ見て!」バッ!



◇一冊の卒業生のアルバム…その中にある一枚の写真を
  穂乃果ちゃんは指差します


花陽「…あれ、この人って…山田先生?」



海未「ええ、私達の担任…山田博子先生です」


◇いつもジャージ姿で運動部の顧問をしていて
 前に学校のグラウンドでライブ練習をしてた時も声を掛けてくれたよね



穂乃果「山田先生の学生時代の写真でしょ!しかも、ほらこの人達」


ことり「あっ!この人…笹原先生?」


◇いつもスーツ姿の先生…あの人の面影が見える私達と同じ年頃の女の子
 それが写真の中、写っていました


花陽「…少しだけそっぽ向いてて…なんていうか
     ちょっとだけ真姫ちゃんみたいな雰囲気かな」

海未「それでその隣に居る眼鏡の女性は…」


ことり「このやんわりとした笑顔…山内先生だよね」

穂乃果「それでその二人の間に入るように後ろから二人の首に手を回して
    抱き寄せてるのが深山先生でしょ?」



花陽「あー…確かに…」







穂乃果「ウチのお母さんもたまーに卒業アルバムとか見て
     仲の良かった友達とか思い出を振り返ってるんだよねー」



◇穂乃果ちゃんは目を瞑り、μ'sを結成する前の記憶を
 思い返しているようでした


◇後になって私達も聴いた事です


◇音ノ木坂学院が廃校になる知らせを受け
 何をすれば良いのか迷っていた時、丁度、アルバムを開いていた
 穂乃果ちゃんのお母さんを見て、より一層学校を護りたいと
 思ったんだって…


◇だから自分に力を貸してくれてありがとうって穂乃果ちゃんが
 言ってくれたのを私は覚えてます





花陽「……?あ、れ?」



ことり「…これ…」


穂乃果「ふっふっふ!気づいた!!そう!lこれこそが穂乃果の見つけた
    歴史的大発見だよっ!」

海未「だから大袈裟ですって」ハァ…





穂乃果「そう!…この写真!!!」





          ――――ダンッッッ!!!!



「くぉら!!!高坂ぁ!!!さっきから生徒会室で何を騒いでいる!!」



穂乃果「や、山田先生!?」


◇噂をすれば…と諺にあるように、ジャージ姿の先生は生徒会室に
 入ってきます



◇そう言えば、【屋上】で【lily white】に事情徴収してた時に
 海未ちゃんが『実は私も山田先生にお聴きしたのですよ!』って
 言ってたね…



◇仕事の進み具合を見に来てもおかしくないよね、うん




「全く…!!園田も一緒に居て…うん?」


海未「あ、あのこれは…」


「………これ、は…」



穂乃果「先生の若い頃ですよね!!それに先生が昔やってた部活動
     そうでしょ?」


「…あ、ああ…」


穂乃果「いやぁ…まさかウチの学校にこんな部があったなんて…
    今もあったらきっと希ちゃん入部してたかもなぁ…」ウンウン




「そ、そうだな……」

「…」


「なぁ、お前ら…後は私がやっておくからもう帰って良いぞ」


穂乃果「えっ…そうですか?」


「ああ…」



―――
――






◇その後、私達は生徒会室を後にして
 穂乃果ちゃん、海未ちゃんに絵里ちゃんが精神的に相当参っている
 しばらくはお休みをあげようという主旨を伝えました…


【放課後の帰り道】


穂乃果「そっか……そんなに絵里ちゃん、気が張ってたんだね…」トボトボ



穂乃果「…私、リーダーなのに気づいてあげれなかった…」

ことり「穂乃果ちゃん…それを言ったら私だってそうだよ」ギュッ



穂乃果「ことりちゃん…」

ことり「元気出して?…しばらく【BiBi】の皆はお休みだから
    それに伴って練習そのものもお休みにしたんだからさ
     甘い物でも食べに行こう?」


ことり「………また前みたいに一人で背負いすぎたりしないで…」ギュッ




◇手を繋いで、肩に寄り添うようにことりちゃんは歩きます


◇私の隣を歩く海未ちゃんから解散前に発表がありました
 歌詞と曲を担当している【BiBi】だけを休ませても
 次は大掛かりなライブを控えているだけあってメンバー内に
 練習の差をつけ過ぎてもいけないと


◇だから全員でお休みにした、と…










花陽「う~ん…」ムムムッ


海未「考え事ですか?花陽」


花陽「えっ…あ、うん、ちょっとね…」ウ~ン…





海未「…」










海未「花陽、今日は私と付き合いませんか?」




花陽「うん…」ウ~ン…

花陽「…」



花陽「…」


花陽「はいっ!?」バッ!



海未「あの…嫌ですか?」シュン


花陽「へ、あ、そ…つ、つきあ?」

◇海未ちゃんが上目遣いで花陽の事を見つめて来ます



◇…


◇あっ!なるほど突き合う!!


◇海未ちゃんのお家は道場もやってるからね!今から剣道で
 体力作り練習かぁ~!なぁんだ!納得納得!




海未「この前、穂乃果に美味しいクレープ屋さんを
   紹介して貰ったんですよ?」


海未「ベンチに座って夕日でも眺めながら如何ですか?」

花陽「」










海未「悩みを抱えているなら私に打ち明けてください」

海未「μ'sに先輩後輩はありませんが
    貴女より一年先に現世に生まれた身です
    三人寄れば文殊の知恵と言うように…一人よりも二人…
    多くの人間で考えれば打開策も開けます」



花陽「あっ、そういう意味で…」

海未「???…そうですが?」キョトン



海未「…私は少々自分を情けなく思っているのです
    仲間が苦しんでいたというのに
    それに気づく事すらできなかったことに」

海未「特に絵里と真姫とは同じ【クラッシーヴィ】だというのに…」グッ


◇【クラッシーヴィ】…通称ソルゲ組…


海未「これは…仲間の些細な変化にも気づけなかったそんな女の勝手な
    自己満足に過ぎません‥」

海未「ですが、そんな自己満足でもせめて誰かの役に立てればと
    思うのです…」



◇燃えるような夕日、海未ちゃんの綺麗な髪が一本一本煌めいていて
 思うべきじゃないんだろうけど、憂いを帯びた顔が
 とても似合ってて美しく思えました…


花陽「…海未ちゃん…」

花陽「ううんっ!!海未ちゃんの気持ちは自己満足なんかじゃないよっ!
    花陽が保証しますっ!」

海未「花陽…ありがとうございます」



◇私は海未ちゃんの手を握り、夕焼け色に染まる商店街を通ります


◇お仕事が終わったサラリーマンの人

◇家族の為に美味しいご飯を作ってあげようと買い物袋を提げるおばさん

◇塾帰りの小学生の子達



◇色んな人が一日が終わろうとする街の中を…今を歩いている


◇色んな人が色んな悩みを抱えて、色んな事を考えて





◇…それは今の花陽達と同じなんですよね



◇お友だちの為に『自分にできる事』を必死にやろうとする海未ちゃん

◇以前の留学の一件で前に辛い想いをさせてしまったことりちゃん

◇その一件で、周りに気づけなかった、今回も同じだと思う穂乃果ちゃん









◇皆が葛藤を抱えて、一分一秒を生きてるんだ…





海未「はい、どうぞ」つ【クレープ】

花陽「わぁ…!ありがとう!!」キラキラ


海未「ふふっ、やはり美味しそうに何かを食べてる時が花陽は
   一番可愛らしいですよ?」


花陽「えへへっ!」



◇私がさっきまで考えていた事はちっぽけで些細な事です





◇さっき穂乃果ちゃんが山田先生に聴こうとしてた事

◇海未ちゃんやことりちゃんも思ったかもしれない疑問を
 ただただ、今も気になってるだけなんだもん…




海未「ふぅ…色んな人が居ますね…おや?」

花陽「むぐっ…?どうしたの」モグモグ


海未「いえ…あそこに居るのは…」




海未「…にこ?」

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 こうして私達『Printemps探偵団』の調査は終わったのでした!


 って、この書き方だと完全解決して調査終わっちゃったみたいだね

 勘違いしちゃいそうだけど違うよ!まだ一日目が終わっただけだよ!



 結局ことりちゃんと花陽ちゃんが頑張ってくれてて…

 穂乃果は何にもしてないんだよね~…


 あはは…これじゃ早くも助手役クビになっちゃうかも…トホホ…


 で、でも穂乃果だって頑張ったんだよ!?

 海未ちゃんに捕まりそうだった時に生徒会のお仕事を手伝うんだって

 上手く誤魔化して二人の捜査時間を稼いだんだもんねっ!

 だからすっごく活躍したんだよ!(≧ω≦)b イエーイ


 ……


 うぅ、捜査全然してないから書く事が少ない…

 そうだ!生徒会のお仕事の事を少しだけ書くね?



 山田先生の若い頃の部活動の写真を見つけたんだ!

 深山先生、笹原先生、それに山内先生でしょ

 いつも仲良しの先生3人組って生徒の間で有名なんだけど

 その三人と山田先生同じ部活動だったんだ!

 それとあと一人…誰かわからないけど女の子が写ってて

 たぶん、同じ部活仲間かな?


 それで一番驚いたのが写真の横に書いてあった一文




 【 ○○年度 音ノ木坂学院第○○期生

               オカルト研究部 部長 山内博子 】
 


 凄いよねっ!!!山田先生ってジャージが似合う熱血体育会系先生だよ

 あの先生がオカルト研究部なんて、もうこれは歴史的大発見!!

 ウチの学院は明治時代からあるらしくてお母さんもお婆ちゃんも

 みーんな通ってたんだ…!


 その時からの校則かな【部活動の設立は最低でも5人】


 穂乃果達もアイドル研究部の事で大変だったんだよねぇ~…


 山田先生、笹原先生、深山先生、山内先生…そして写真の端の女の子

 …多分これで部員は全部かな?


 …思いのほかたくさん書いちゃったかも?

           以上!今回の書記係の 高坂穂乃果 だよっ♪
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

殺伐としたスレにかよちんが!

/|\__
|/’´ 、`ヽ
i  人ヽリ)
イw(´ヮ`ハ丶 < あっ、真姫ちゃん♪
/. .つ  と ヽ
| : : :_: : : :_: .
ヽ_:( )__( ):_/
 ̄   ̄

>>69

    _

  〃 /  `ヽ ,
  j{ {ノ|ノヽリ 
.  〈八ト゚ -゚ノ)〉 <ナニヨ?
    i{づと{|´
    くヒ士|>
      しU


◇私は海未ちゃんの視線の先を追います
 可愛らしいピンクのカーディガンに
 兎さんの耳みたいにぴょんぴょこ跳ねる長い黒髪のツインテール


◇我らがアイドル研究部の部長にこちゃんその人でした



海未「ふむ…おかしですね」

花陽「えっ…どうしたの?」


海未「いえ…あの恰好…
   私達より先に帰った筈のにこがまだ家に帰っていないようでして」

花陽「あぁ…言われて見れば」


海未「家に帰るにしてもわざわざ彼女の家から遠回りなこの商店街を
   通るのも何かおかしく思えます」


花陽「お母さんにおつかいを頼まれてるとか?」


海未「そうでしょうか…?」


◇海未ちゃんの目は険しい物へと変わって行きます

◇その理由は私でさえすぐにわかってしまうのでした…






◇時折振り返り、誰かが居ないか…一言で言えば挙動不審な動きです

◇そりゃあ、にこちゃんは普段からアイドルたるものスキャンダルは…
 って周囲を警戒したり、サングラスをかけてたりするけど





     海未「花陽、移動できますか?」


     花陽「えっ!あっ…えっと、うんっ!」



◇まだ食べきってないクレープを持つ私を見て海未ちゃんが問いかけます
 私は急いでそれを食べきって立ち上がろうとするのです




海未「考えたくはありませんが、私達もスクールアイドルとして
    それなりに知名度がある立場になりました…」



海未「にこが兼ねてより言っていたように"ストーカー被害"の一つや二つ
   無いとも言い切れません…」



花陽「ええぇっ!?にこちゃんストーカーに遭ってるの!?」

海未「絵里…はともかく置いといて、にこや真姫が最近、気を病んでいる
   原因の一つと考えれば辻褄としては合います」


海未「私は曲がりなりにも武道を心得ています…、守るくらいは…っ」


◇人一倍正義感の強い海未ちゃんは仲間を護る為に前へ進もうとします


◇にこちゃんは…薄暗い裏路地の方へと入っていきます


◇コンクリートとアスファルトで構築された迷宮を何かに注意するように
 足元、背後、曲がり角の先を見ながら…慎重にその歩みを進めていく




花陽「あ、危なかった…今、振り向かれた時は流石に後を
   こっそり追ってるのがバレたんじゃないかと…」





      海未「…おかしいですね」




花陽「ふえ?」





海未「背後や曲がり角の先はまぁ良いとして…
   執拗に足元を見る、あの動作が気になります」



◇確かににこちゃんは足元によく注意してた
 私はその辺は特に意識して無かったけど、言われるとそうなんだよね


◇普通、人って歩く時は足元を注意深く見ないモノだから
 ストーカー被害に遭ってると推定しても見るなら周囲であって
 足元を注意する理由がわからない


◇いくつもの路地、道を歩んで…そして…



にこ「…っ!」バッ!



海未「!」ガバッ


花陽(むぐっ!?)


◇遠目に見てにこちゃんが顔を顰めるのを私と海未ちゃんは見ました
 そこから先の海未ちゃんの行動は速いモノでした

◇間違っても声を漏らさないように私の口を塞いですぐ
 裏路地に置いてあるゴミ置き場の影に私を連れて隠れたのです



◇吃驚したけど…結果として、私と海未ちゃんは
 にこちゃんに気付かれなかった


にこ「…ここにも…!」ギリッ



◇身を屈めて隠れていた私達二人に気が付く事も無く
 脇目を振ることせずに元来た道を走り
 何度か素通りしてきた裏路地から大通りへと続く別れ道を出て行きます



海未「…行きましたか」

花陽「…ん、んぐぐ!」ジタバタ

海未「っと、すいませ!
   にこが顔を顰めた所で此方を振り返るのではと思ったもので」バッ



花陽「ぷわっ…!へ、平気です…」


◇口に蓋をしていた手が離れ
 私は二酸化炭素を吐き出して酸素を取り込む


◇平気と答えた私にもう一度頭を下げた後、海未ちゃんは視線を
 にこちゃんが本来なら進もうとしていた方へと向けます


海未「にこはあの曲がり角の先にある"何か"を見て引き返しましたね…」


花陽「う、海未ちゃん‥っ!」ギュッ


◇私達の頼り甲斐があってユーモアを忘れない先輩が逃げ出す切っ掛け
 それがこの先にある!海未ちゃんは私とは対照的に恐れずに
 その"何か"を調べる為に前へ歩もうとします


◇私はそんな彼女が心配で思わず右手を掴んでしまったのですが




海未「花陽、安心してください必ず戻りますから」ニコッ


花陽「う…うぅ」スッ



◇…あぁ、ここで誰かにそう言われたから
 そんな理由で簡単に手を離しちゃうのが私の弱さなのかもしれません



◇此処で待っていてくださいと言われても、海未ちゃんが心配なのも
 一人で待つだけなのが怖いのも相まって私は彼女の背に着いていきます


◇…どっちつかずなのも良くないのかもしれない…分かってたけど





海未「…!」スッ!


海未「…」

海未「…?」


花陽「だ、誰か居たの…」ブルブル




海未「…いえ、それが…」



◇曲がり角の先には何があったのか?
 顔だけを出して先を見た海未ちゃんは震えながら尋ねた私に
 困惑の表情を見せるのです





海未「……見て頂ければ分かると思いますが…
                    ………"何も無い"のです」




花陽「えっ…」



◇私は彼女の発言を聴いてすぐに…とは言い切れませんね
 恐る恐る、震える手で壁に触れながら向こう側を覗き込みます




花陽「あ、あれ…本当に何も無い」

海未「だから言ったでしょう?」



◇建物の壁から先に広がる光景は長い長い一本道
 この時間帯は日陰になっているのか、日光は殆ど降り注がず
 人工的に整地された道の先には空き缶やゴミが転がっているだけです


◇…隠れられそうな所は人一人の身体も隠しきれない電柱柱の並木
 大通りに出れる道は遠目に見てもかなり先で

◇もしも、さっきにこちゃんが誰かを見つけて逃げたのだとしても
 その誰かが視界から消えることはできない筈でした


◇喩え、人がさっきまで居たとしても
 かなり遠くに見える大通りへの横道までどれだけ早く走れても
 間に合わない…



◇どんな陸上選手でも間に合わない…
 私でさえ分かるくらいに距離が離れていましたから…




海未「…?にこは一体何を見て顔を顰めたのでしょうか…?」


◇ストーカー被害に遭っていて、誰かを警戒している

◇少なくとも私達二人はそういう認識でしたが…それはあっさりと
 覆されたかのようで…


花陽「…にこちゃん、本当にどうしたんだろう?」


◇胸に手を当てて、私はサンセット色の斜陽が入り込まない道を
 目を凝らしながら見渡しました

◇見落としているだけで、何か決定的な事があるんじゃないのか?
 脚を数歩進めながら何度も見渡すのですが



花陽(…やっぱり人影なんて何処にも無いよぉ…)



海未「花陽、水たまりを踏みますよ?」


花陽「え!…わっ!」


◇背後の海未ちゃんに言われて私は
 慌てて踏み下ろそうとした右足を慌てて引っ込めました


◇危ない所でした…ママに新品の靴を買ってもらったばかりなのに


花陽「ありがとう海未ちゃん…よく見てたね」

海未「ふふっ、どういたしまして
    お茶のお稽古で畳の縁を踏まないようになど…そういうのを
    長くやっていたから、気にし過ぎるだけかもしれませんがね」

◇そういってやんわりと笑ってくれる海未ちゃん!
 こういう時に魅せてくれる女性らしさが
 憧れの落ち着きあるお姉さんって感じだなぁっていつも思うんだよね



花陽「意識しないと結構気づかないモノなんだね…こういうの」



◇東京都内は建物が密集してる場所だとどうしても時間帯によっては
 日差しが入り込まず、洗濯物が渇きにくい場所も有ったりします


◇…水溜りが渇き切らずに残っている
 この裏通りも同じような場所なんでしょうね









◇ふと、私はアスファルト上の小さな水鏡を見たのです



◇真っ黒な色紙に硝子を重ねると鏡のようになるって
 凛ちゃんと小さい時、学校の授業で教わりました


◇真っ黒な道路上と水溜りの水が澄んでいた時、そういう時は
 自分の顔が映ってたりするんですよね










◇水鏡には…







◇"3人"の顔が映ってました







花陽「ひっ!」ビクッ



海未「花陽?」



◇いつも何度も、朝起きて顔を洗う度に見る顔と
 すぐそこに居る大切なお友だちの顔



◇そして…髪の長い女の人


◇怯えた顔をして情けない声を上げた私を見て海未ちゃんは眉を顰め
 私に近づきながら「どうしたのですか?」と尋ねるのですが…


花陽「い、いい、今!水溜りに!」


海未「? 水溜りが何か?」


◇…私が指差した水溜りにはもう"2人"しか顔が映っていませんでした


―――
――




花陽「はぁ…」ゴロン!


◇あの後、海未ちゃんに私の見たモノを正直に伝えたようかと
 思ったんだけど…



◇怖がりの私の見間違いってこともあるかもしれないから
 何でも無かったよって言って、そのまま家に帰ったんだ…


◇パジャマ姿でお布団の上を何かするでもなく転がる…




◇私の中で小さな歯車が転がるように回る…








  ‐絵里『貴女は
       ―――貴方は"幽霊"を信じるかしら? 』‐










花陽「…まさか」




◇転がって来た二つの歯車がカッチリと音を立ててはまっていく
 バラバラだったジグソーの端っこに一つ一つピースを入れてくように…



花陽「…」スッ



花陽「……」カチャ!




◇私は起き上がって勉強机に置いてあった眼鏡ケースを手に取ります
 明日は【BiBi】の件でμ'sメンバー全員お休み…

◇朝の練習も無いから夜更かしだって大丈夫です





花陽「…」パカッ! カチッ!


◇夜中の22時、勉強机の上に置いたPCに電源を入れ
 アクアグリーンの輝きが眼鏡のレンズに照らす…


◇マウスを動かして、PC画面に映る矢印マークをアルファベットのeに
 重ねて私は右手人差し指に二回力を加える


バサッ!

――――勉強机にまだ未使用の大学ノートを置く
         流行りのアイドル情報をまとめる為に買った物



花陽「たしか、明日は図書館開いてたよね」


◇1960年代からこの21世紀まで日進月歩で成長を続ける知識の海へと
 私は自身という名の船を漕ぎ始める




 ‐穂乃果『名探偵花陽ちゃん率いる
          【Printemps探偵団】此処に誕生だよっ!』‐


 ‐ことり『…それじゃあ花陽ちゃんがリーダーさんだねっ!』‐





◇私は物事をすぐ悪い方へと考えたり、人一倍諦めが速かったりで
 ネガティブな所はあるし、リーダーなんて柄じゃないかもしれないよ




カタカタ! カチ! カタンッ!





花陽「…東京都、不思議…お化け…体調不良…」カタカタ!




――――白紙の上にすらすらと目に止まった文面、記事のURL
     どんな小さな事でも良い、気に掛かった内容をインクで刻む





‐穂乃果『大切なお友だちが何だかよく分からないけど辛そうなんだよ…
     だから、役に立てるかわからないけどさ
      何もしないでそのままにはしたくないもん…っ!』‐

‐ことり『ううんっ!私も真姫ちゃん達に元気になって欲しいよ!
     そりゃ…突然だし、私なんかに何ができるか分からないけど…
      でも、お友だちを助けたいっていうのは…一緒だよっ!』‐




――――…二人の気持ちは私と同じだし、私の気持ちも二人と同じだった




花陽「私は…探偵なんて柄じゃないかもだけど…それでも…っ!」ボソッ



◇誰に言うでもなく口が動いていました
 ……ううん、多分"自分"に言い聞かせてたのかもしれない


◇この諦めやすくて、臆病な自分に…ほんのちょっとの勇気を、って


◇本当にほんのちょっとの勇気で良い、ほんのちょっとの頑張りで良い




◇だから…!もう少しだけ…、"探偵"さんになろう!



花陽(もっと状況を思い出さなきゃ!絵里ちゃん達の様子…!
    此処、数週間…それにあの水溜りに映っていた女の人)





◇あの髪の長い女の人…今にして思えば何処かで見たような気がするんだ


◇日本国内の総人口は約1億2500万近く、その中で東京都内は
 おおよそ1300万人…



◇常日頃、色んな人間が居て、色んな人が気づかずに
 意識することも無く顔を会わせている


◇だから他人の空似とか思い過ごしなんかもあるのかもしれません






◇でも、そうじゃない…!




◇あの顔は間違いなく、はっきりとつい最近何処かで見た筈なんです


◇直感的なモノなのかもしれない、それがきっと鍵になる


◇私にはそんな気がするんですっ!






ピピッ! 【メールを送信しました!】



花陽(…ことりちゃん、穂乃果ちゃん…!見てくれるかな…)



◇時計の針はもう、とっくに1時を過ぎていて
 もう皆寝てても仕方ない時間でした


◇焦ると肝心な所に目が行かなくなるのも花陽の悪い癖でしたね…
 アイドルの話しに熱中し過ぎた時に似てるかもしれない






花陽「ふぅ……喉まで出かかってるんだけどなぁ…
            もう…何処で見たんだっけ……」




◇明日は図書館にも行って調べモノをしよう、そう思いながら
 一度椅子から退いて背伸びして身体をほぐす


◇両手を上げて背伸び運動をしていた私は息抜きついでに
 台所へと向かいます


◇息抜きがてらに…そして頭が回るように糖分を摂取したかったから
 もう寝ているママ達が起きないようにこっそり、忍び足で台所へ…


―――
――


◇レモンフレーバー入りのドーナッツが入った袋に
 アイスココアの缶を持って私は自室へと戻ります


◇灯りを一切つけない暗がりの廊下から自室の戸を開け
 室内灯の光に包まれる時は安心感に包まれる瞬間でもあります



◇これは無意識に人が夜や闇を怖がっているからだと思う


◇江戸時代とか昔から人が焚火の灯りを囲んで、逆に動物が火を怖がる
 それとは全くの真逆…





◇夜目の効かない人間が夜を恐れ、輝きを愛し、焦れる…







◇なんて一文が海未ちゃんのポエム集にもありましたね




◇コホン…!それはさて置き
 再び椅子に座り切れかけの集中力を補給するために冷たい飲料の入った
 缶のプルタブに指を引っかけてソレを開けます


◇プルタブは引かれると「ぷしゅっ!」と音を立てる
 飲み口を唇へと運べばココアの"味"が味覚より先に嗅覚を刺激する




花陽「…んっ」ゴクッ





◇…甘い



◇表面に桜花が描かれた銀貨と京都の有名な建物が掛かれた銅貨数枚で
 買える安っぽい甘味飲料


◇糖分をひどく求める私の脳にとっては
 それが砂漠で飲む氷水のように思えた…アイドルの事ならともかく
  お化け話なんて慣れない調べものをしてるからかもしれない



花陽「えへへ…甘いや♪」


◇それから…5個入りのドーナツを摘まもうと右手の缶を机の上に
 置いた所ですぐ近くに飾られた写真立てに手の甲が触れたんです





◇これが私が探していた"ピース"だったんですよ


花陽「あっ…この写真」


   ◇何の本だったか忘れてしまいましたが…

   ◇人間は本当に些細な出来事やふとした閃きで真実への扉に触れる

   ◇アインシュタインやエジソン…名立たる偉人もそんな小さな事で

   ◇誰も気にも止めないちっぽけな事で大きな成功や正解に辿り着く




◇…ああ、思い返せば、あの時の海未ちゃんだって水溜りに気づいたから


◇もしも、あの時…花陽が……私が踏んでいたら?


◇波立たせた水面に人の顔が映らないようにさせてしまっていたら?



◇全ての出来事はそんなちっぽけな偶然から成り立ち
 そして…それは"奇跡"になるんじゃないか?そう思ったんです





花陽「がアイドル研究部の皆で写真撮ろうって
   それが切欠だったんだよね…」スッ




◇飲み物を置いた手が偶然触れたμ's皆での記念撮影



花陽(凛ちゃんが皆で写真撮ろう!って言って
    穂乃果ちゃんや希ちゃんがノリノリで便乗して…)フフッ!







花陽「……」

花陽「……っ!?」ガタッ!







‐穂乃果『ことりちゃん!!花陽ちゃん!!
      見て見て見てーっ!歴史的大発見だよっ!』‐

‐海未『それは大袈裟ですよ!』ビシッ ‐




‐海未『ええ、私達の担任…山田博子先生です』
‐ことり『あっ!この人…笹原先生?』‐
‐ことり『このやんわりとした笑顔…山内先生だよね』‐
‐穂乃果『それでその二人の間に入るように後ろから二人の首に
         手を回して 抱き寄せてるのが深山先生でしょ?』‐







花陽「……ぁ、ぁあああああああ!!!」


◇そう…あの女の人、何処かで見た事あると思ってたんですっ!!



―絵も柄も何も無い真っ白なジグソーパズル
  何の手がかりも一切無いそれは一見、完成が不可能なように見える…



―でもそれは"それこそが"大きな間違い




―左右上下両端の角…!どんな物にも基準点と呼べる
              絶対のスタートラインは在るッ!




―最初にできた両端から同じように端っこの方から一つ一つピースを
  当てはめていく…さすればいつの日にかは…全ての穴は埋まるのだ












‐穂乃果『先生の若い頃ですよね!!
       それに先生が昔やってた部活動そうでしょ?』‐

‐穂乃果『いやぁ…まさかウチの学校にこんな部があったなんて…
      今もあったらきっと希ちゃん入部してたかもなぁ…』‐




◇国立音ノ木坂学院は千代田区にある歴史と伝統の学院でした
 そんな古くからある学院の校則にこう書かれています




◇部活動の申請は最低でも部員は5名…μ's結成からにこちゃんに
 出会うまで…部活動の申請で一悶着あった私達にはよくわかってます





◇あの時の山田先生の学生時代…部活動の写真!!



◇そうです…確かにあの写真には…"5人"映ってたんだっ!!




◇山田先生、笹原先生、山内先生…深山先生!そして…!!





◇あの…水溜りに映った女の人の顔が…!あそこにはあった!!



【先生達の学生時代の部活】
【オカルト研究部】
【卒業生から伝わるおまじない】
【東條希の証言】
【にこ達が希に厄払いを頼んだ】
【約1か月前】



――――カチリ、カチリ…ジグソーは端から埋まり徐々に中央へ…!



◇一分一秒も惜しい、そう感じた私は今開いていたオカルトサイトを閉じ
 すぐにウェブページの検索エンジンに浮かんできた言葉を次々と
 入力しては調べ…目当てが出なければ違うワードで調べる事を繰り返す


◇呆然とする情報量からたった一つを探し出す

◇その呆然とする情報量が一気に絞られたんです


◇それだけで一体どれだけの成果があることか!




花陽「…っ!違う、これじゃない!!…これも違う!」



◇食べようと思ってた未開封のドーナツのビニール袋が床に落ちるのに
 気付くのさえ忘れて無我夢中だった



◇インターネット上の文面、画像に目を見張らせるのに夢中で
 缶に入っていた飲料が殆ど空になっていくのにさえ気づかなかった



花陽「…んっ!!…?あれ?」グイッ



花陽(…あ、あれ?いつの間にか全部飲んでた)



◇缶飲料がただの空き缶になったと気づいた時
 時計の針が4時近くに迫っていた事を知りました…
 

花陽「ぇ、う、嘘…もうこんな時間…」クラッ



花陽「あ、…なんかそう思ったら眠気が…」ウトウト


……ドサ!



◇私の悪い癖はお気に入りのアイドルDVDやアイドル誌を見つけると
 つい時間を忘れて寝落ちするまで没頭する事でした…



―――
――


チュンチュン…!

花陽「…ぅ、は、白米…」ウ~ン


花陽「……ん…」パチッ

花陽「はぇ…もぅ、あしゃにゃにょ…?」ポケー


◇寝ぼけ眼を擦り、呂律の回らない口をもごもごさせ晩の記憶を振り返る


花陽「……」ポケー


花陽「……」

花陽「…?!、い、今何時!」バッ!

◇硬い勉強机を枕に寝落ちしていた私が目にしたのは
           短針が9を過ぎていた時計だった



   \  ピ ャ ア ア ア ア ア ア ア !!  /





「花陽ちゃんっ!?どうしたの!?」


◇私の声を聴いてママが駆けつけて来る
 心配させてごめんね!でもそれどころじゃないの!




花陽「ち!遅刻!!遅刻!!!!!」バタバタ




―――
――






花陽「はぁっ‥!はぁっ…!」


◇大慌てで身支度を整えて、寝ぐせも…!治ってるよね…?
 お財布持って携帯も持って‥!


◇走ってる最中、携帯に2通のメールが来てたから
 走りながら私はメールボックスを開きました




◇そこには…私の助手さんと刑事さんからのメッセージk



◇今日の朝10時に図書館で逢いましょうって書いた
 私のメールへの返信でした






◇10時38分……大遅刻ですっ!




花陽「…!!」


  「あっ!も~!主役が遅れちゃ駄目だよ…!」プクー!

◇頬っぺたを膨らませてあんまり怖くない怒り方をする助手さん

  「まぁまぁ…!あんなに急いできたんだから、ね?」

◇いつも優しい微笑みを見せてくれる刑事さん




     ◇……来てくれたんだね、ありがとう…




ことり「花陽ちゃん、手がかり見つけたって本当?なら!」

穂乃果「探偵さんを私達が全力でサポートするよっ!」


◇『Printemps探偵団』…!活動再開ですっ!!

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


           今回は此処まで!

          もうすぐ引っ越し完了


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

こっちも引っ越ししてたんだ‼
応援してます‼
完結まで走りきって下さい!




『11時08分』



◇私の壮大なお寝坊さんで少々の遅れはあったものの…私は、いいえ!


◇私達!『Printemps探偵団』は国立図書館の一般ブースに集いました!





ガヤガヤ…


穂乃果「うんしょっ…!これで全部だよ!」


花陽「うん!ありがとう!」



ことり「古い新聞記事だよね…?」



花陽「」コクッ



◇私がまず図書館で調べるべきだと思ったのは…昔の新聞記事でした



花陽「二人にはこの年号を見て欲しいの…」スッ


ほのこと「「…」」


ことり「わぁ…すっごく古い奴だね!
     お母さんとかが子供くらいの時代だよ?」



穂乃果「…19××年…7月…」




◇…この記事は私達のお母さんや今居る学校の先生達が丁度
 私達と同じくらいの世代の頃の時代、そして…










◇7月の後半…から8月へ…そう、"夏が終わり"へと近づく時期です








花陽「…二人には探して欲しい案件があるの!」バサッ

◇たくさんある、当時の新聞、さまざまな出版社の新聞記事を手に取って




花陽「【女子高校生が水難事故に遭った】記事を探してくださいっ!」



穂乃果「女子高生が…」
ことり「水難事故、に…?」


◇私の発言に二人は顔を見合わせます
 見て分かるくらいに困惑の色が表情に出ていて…




花陽「はい…水難事故ですっ!」


花陽「例えばプールで溺れた事…海水浴中の遭難や…
          …その、お亡くなりになってしまった方の事…」


花陽「特に高校生のサークル
    部活、団体さんの旅行者でのそういった案件です」






―――
――



◇私が独自に調査した事です


◇調査したといっても…ほんのちょろっとだけで、しかも関係してそうな
 内容に行き着いた所で寝落ちしてしまい…
 踏み込んだ所までは調べ切れませんでしたけどね




◇国立音ノ木坂学院…古くからある伝統の学び舎の校則で

◇『部活動の申請には最低でも5人の部員が必要』と言うモノがあります



◇…これはわざわざ言う必要はありませんよね?



◇コホン…お話を続けますが、校則に基づいていてどの部活動にも部員は
 最低数5名は居たのです




◇その最低数を満たす部活動の中にある一つの部がありました





◇『オカルト研究部』…そこに所属する5名の内4名は
 私達がよく知る女性でした



◇当時、青春真っ只中の先生方が4名…
  "山田先生"、"笹原先生"、"山内先生"…"深山先生"同級生の4名です




穂乃果「…あっ!」

ことり「どうしたの穂乃果ちゃん」


穂乃果「この花陽ちゃんが渡してくれたこの新聞の年号ってさ」




穂乃果「なんか引っ掛かると思ったんだよね…
          つい最近見たような年代だったから」




穂乃果「これ、あの『オカルト研究部』の写真が
        撮られてから2年経った時期だよ!」



ことり「あっ!言われて見ればそうだねっ!…生徒会室で見た
     ○○年の写真から2年後だよね19××年って」



◇この部に居た最後の一人5人目の顔は今、話題に出ている例の写真で
  分かりました…ですが肝心の名前が分かりません



◇…それはひとまず、置いておきます




◇この部活動は…その写真が撮られた後の2年後に…








◇…【廃部】となりました




◇何故、廃部となったのか?事細かな詳細を調べていく内に一つだけ
 はっきりとした事があります


◇2点ありますが…まず、言ってしまえば単純に部員の最低数を下回り
 新入部員の見込みが全くと言っていい程に無く、生徒会が部の存続を
 難しいと判断した事




◇…たった一人で部を護り続ける部長を影ながら応援する副会長さんや
 厳しくも優しさのある生徒会長さん、そんな味方と呼べる人が
 オカルト研究部の人達に居なかったのはあるかもしれません



◇…いえ、もしかしたら当時の生徒会長さんは存続の危うい部でも
  庇護してくれる人だったのかもしれない





◇…どちらにしても意味など無かった筈です


◇理由の内のもう一点、それは…



花陽「…あった…」パサッ




     【真夏の悲劇、海水浴に来た高校生が溺死】




◇…当時の部員の方々が自ら廃部にして欲しいと申請したから


ことり「…ピィ!?」

穂乃果「この人って―――!」



◇私達3人はモノクロの新聞紙を凝視します


◇ことりちゃんは両手で口元を抑えて小さく悲鳴を上げて…

◇穂乃果ちゃんは目を見開いて、驚きを隠せないといった顔で…



◇…私は…








花陽「…やっぱり…なんだね」





◇多分…確信を持った瞳で古記事に載った顔写真を見つめました



◇その顔はつい最近見たばかりの顔、生徒会室で見たし
 私は昨日の水溜りの中に居る彼女も捉えた





◇……


◇そういうお名前なんですね…




花陽「…二人とも、行きましょう…これで一つピースがハッキリしたよ」


穂乃果「行くって…どこへ?」


花陽「…それは当然っ!」クルッ



◇歩き出す私の背中を穂乃果ちゃんの声が呼び止める
 私は行先を告げる為に振り返る






花陽「今回のお呪いを生み出した張本人さんの所だよっ!!」バッ!






◇まだ100%じゃないよ?でも私の中では99%答えが出てる


◇だから最後のピースを埋めたい、1%を埋めて推理という名のパズルを
 完成させたいんです


―――
――



『時刻 13時57分』



「いやぁ…それにしても急だったから私も驚いたよ?」コポコポ…


「あっ、緑茶だけど良い?」




花陽「いえいえ!全然大丈夫ですっ!
    それより突然の訪問で申し訳ありません!」ブンブン


「そんな謙遜しなくて良いって!
  お前たちはウチの学校のスーパースターだからさ!
  むしろ嬉しいくらいだよ!ほら熱いから気をつけなよ?」つ『茶』



ことり「山田先生、ありがとうございます♪」



「んっ!先生は嬉しいぞ!わざわざ休みの日に生徒が頼りに来たんだ
  教師冥利に尽きるってもんだ!」




◇そういって穂乃果ちゃん達の担任を務める山田博子先生はニカッと
 爽やかな笑みを浮かべてくれました




「それで?お前たち3人ともどうしたんだ?
  高坂のテストの成績が悪いから教えて欲しいとか…?」



穂乃果「うっ、い、痛い所を突かれるけど…
       そ、そんなんじゃありませんよ!」


「はっはっは!冗談だよ、それで?」ニヤニヤ



◇ジャージが似合う溌剌とした先生、うん…いつも通りだよねっ!






花陽「先生…これ、プリントアウトしたモノなんですが」スッ


「ん~、なんだいこの…――」



◇先生は…水難事故で無くなった
 先生の当時の同級生の顔を見て言葉を失いました









花陽「お尋ねします…
    先生達の作った『願い』を込めた"呪い"の事、教えてください」


~【花陽達が調査を開始する数日前】~




にこ「う~っ」



幸とは生あるモノ全てにあるモノである
 されど、良兆なるモノ、凶兆なるモノその全ては平等に非ず

2人の人間が居たとしよう、同じ道を同じ歩幅で同じ速さで歩いたとする

片方は何のトラブルも無く平穏に歩んでいける
しかし、もう一方は道端の石に躓き、そこからは"踏んだり蹴ったり"だ



喩えるならば100人が宝くじを買い『幸運』にも当たりを引き当て

10人が事故に遭い6人が【不運】にも怪我をするというのもまた運である








従って…友人が持って来た果実を食べ、9人中8人が無事で矢澤にこ一人が
腹痛を引き当てたのもまた運と呼べよう



にこ「…っ~、ぜんっぜん、寝れないじゃないの…!」ガバッ


にこ「…」チラッ




【23:51】




にこ(あ~ぁ、もう…お腹は壊すし、希のチケットで焼肉屋さんは中止)

にこ(一度、悪い事が起きるとドミノ倒しみたいに連鎖って言うし)



にこ(…ついてなさすぎでしょ)ハァ



 まだ暑さの残る8月の東京都内、長女の自室は文明の利器によって
涼を保たれていた、しかし快適な室温とは裏腹に彼女は再び微睡むに
沈んでいく気にはなれなかった

偏に胃腸で暴れる病魔と寝汗による湿った寝間着…その不快感が
それを良しとさせないのだ




にこ(…お手洗いに行こう)スッ


自身の腹部を手で摩るという何ら無意味な行為をしながらも彼女は
布団からゆっくりと出て、自室と廊下を隔てる戸へと歩む


全員が寝静まる我が家の戸を開け、入り込む湿り気ある粘着質な熱
そして出て行く冷えた空気

涼と暖の境界線を越え、涼と同じ進行方向へ彼女は出た


にこ(別に夏は嫌いじゃないけど…さ)


にこ(この肌に纏わりつく湿気が嫌なのよね)



水分の無いカラッとした気候ならば風が吹くだけで不快感を拭ってくれる
夏は夏の風物詩もあり、嫌いではない


が、先述の通りその条件があるならば、だ




雨上がりからのべた付いた空気は一層不快感が強まる
鬱蒼とした気分になるし、心なしか手入れをした髪だってベトベトになる
そんな気になるモノだ




ヒタヒタ…、お手洗いを終えて廊下を歩く…

眠る前に手を洗う為だ
ついでにきゅうりパックが崩れてないかも見ておこう、そう考えて
自室の戸を過ぎ去りそのまま洗面所へと向かう




ヒタヒタ…、床についての就寝真っ只中だった


だから彼女は当然靴下なんて履いてない

素足で廊下の床の上を歩く
湿った空気で床がべたつく感じが心なしかする…ヒタヒタ





















  べちゃ











にこ「――っ」ブルッ



靴下もスリッパも何も無い生足

裸足の裏に、ぬちゃっ、とした何かを踏んだ感触がする…

何を踏んだんだ!?、そう思って彼女は慌てて足の裏を確認する

この時期で踏んだのがベランダや玄関から
入り込んできた虫なら最悪である


偶に都内のビルや団地に蝉などが羽を広げて入り込むという事がある


可能性は低いが…考えたくないが、もし、今踏んだのが…













……―――今、この話を口頭でこうして伝えられている"あなた達"


   想像してみて欲しい、公園の樹木の根本から道路上のアスファルト

果ては…街中のコンビニエンスストアなど、光に集まって来た虫の死骸を




潰れて、"中身"の飛び出た虫の死骸

蝉や斑点模様のついたカミキリムシ…etc…





正直言って、にこは今のが気のせいだったら、と何度も否定したい

考えたくないが、素足の裏のぬちゃっとした粘り気…





…その考えたくない光景だったら今度こそ、眠気なんぞ吹っ飛ぶ






にこ「……っ!」バッ!





結論から言おう、気色悪い光景ではなかった



にこ「…も、もうっ!誰よ!!」


家族全員が寝静まっているが大声を挙げずには居られない

真っ黒な長い髪の毛の塊だ、水分をかなり含んだ


例えば、お風呂の浴槽、排水溝、洗濯機のフィルター掃除で出て来る
そんな髪の毛の詰まり


にこ(ったく!!ちゃんとティッシュで包んでゴミ箱に捨てるとかさ!!
    虫でも踏んだかと思ったじゃないの
          …これも十分気持ち悪いけど)

不快であることに違いないが、想像よりは易しいモノで一息つく


洗面所でティッシュペーパーを数枚むしり取るように手にして
 寝起きの…それも最悪なお目覚めの怒りを込めたダンクシュートでも
ゴミ箱にかましてやろうと彼女は洗面所へ入り、蛍光灯の灯りを点ける



足の裏も洗おう、ブツブツと明日誰なのか訊きだす事を呟きながら
洗面台の鑑へと向き合う



鏡を見て、キュウリパックの乱れも無ければ問題点は
ムスッとした表情くらいだな、と思いながら矢澤にこは
ステンレス製のバルブを捻った


ちょろちょろ、と出て来た水と石鹸で手を洗い、その後うがいをして
口の中をゆすぐ





にこ「…ふわぁ…」


にこ(結局…希のあのおまじないもご利益なんか無かったし…)

にこ(ぬわぁにが悪いモノから守ってくれる霊を呼び出すまじないよ)


似非関西弁の友人へ心中で悪態を吐き、最後に足の裏を拭いておく




そして、再び、手を洗おうと蛇口の水で両手を洗いながら鏡を見た


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                              : : : : : : : : : : .

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にこ「うぁああああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁっ!?」




そこに自分の顔は映らなかった、代わりに映ったのは自分じゃない
誰か知らない人の顔


思わず飛び退くように後方へ倒れ込む、情けない声をあげて尻餅をつく


だが、そんなことはどうだって良い…






べちょ…





倒れ込んで、両手に何か絡まってるのに気が付いた







それは…



















排水溝に詰まっていたんじゃないかと思うような、あの髪の毛の塊だった

























そこから先のことは一切覚えて居ない、ただ、気が付いたら
布団を被って自室で朝まで震えていた…それが彼女の後の証言である

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            引っ越し完全完了!


  山田先生たち→お分かりの通りスクフェスのレベルアップ要員

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ありがとう山田

引っ越し乙

~【にこが奇異と遭遇した同時日】~




ぱちり、寝苦しい夜半の夏に絵里は瞬いた

 冷房の効き過ぎは夏風邪の一因、寝付くまでの短い間だけ
稼働するようにとリモコンの切タイマーを2度細い指先で押した


そんな文明の利器が快適な空間を提供してくれたのは60分も前の話



 絢瀬絵里は微睡みの中へ溶け込めずに居た


 身体を寝具の上に預け遠い異国の地に居る祖母に小さく祈り
視界を閉ざしては日の入りが早くなりつつある朝日がカーテンの隙間から
射すのを待つ、たったそれだけであった



が、人というのは時として硝子細工よりも繊細なのだ


比喩を何かしら挙げるとするならば…


そう、例えば"舌"、普段眠りに就く時は何とも思わないだろう生物の器官
「夜眠るときに、舌を必ず動かしてはいけない」と一言、口にしたとする


するとどうだろう、人は"いつもは気にしない事柄"を妙に意識し出す



 心という土塊に不安と言う名の小さな球根を埋めておく
それは息を潜めながらもひっそりと芽吹き、漸く認識できる頃には
立派な蕾へと昇華しているのだ











件の"おまじない"の日から、あの入浴中の奇異…


自分のモノでも妹のモノでもない真っ黒な頭髪






    絢瀬姉妹以外の誰でもない他人の髪の毛…



まだ、…そう、まだ学院で部活中、もしくは御学友の誰かの抜け毛が
何かの拍子で絵里の身、私物に付着し巡り巡って
彼女の家の彼女の浴室で彼女が入浴中に偶然、偶々ついた


と天文学的な確率でそれが起きたと"言い訳"ができる




そうであってほしいのだ、彼女は祟りや霊というホラ話に滅法弱い

今件は彼女にとっての球根なのだから


 暑い夜に冷房が築いた魅惑の理想郷
寝苦しさから解放される世界に居ながらも泥のように眠れない理由だった



 両手で布団の裾を摘まむように持ち、口元を覆い隠すように引っ張る
1時間は長すぎたかもしれない、肌の温もり篭る布団で寒気を拭おう
そう思い、絵里はまだ冷たい室内で一人呟いた


閉め切った扉のほんの小さな隙間、窓枠と壁の僅かな間


水中で空気袋に爪楊枝で穴を空け、浸水させていくかのように…

 都内のマンションにある一室、小さなアイスボックスとなった
絢瀬宅の長女の部屋は短夜の外気に徐々に侵食される


まだ熱気に満たされない部屋から絵里は出て、台所へ向かう




何か飲みたい、渇きを潤したい



衝動の儘に部屋の戸を少しだけ開けたままにしてグラスを手に取った


戻る頃には程よい室温になるだろうと、公共料金の無駄遣いだったかな
今度はタイマー設定を短めにしましょう、なんてことをぼんやりと考え

冷蔵庫を開く




未開封のオレンジが描かれた紙パック、缶に入った炭酸飲料、etc…


 お昼の内に作っておいた麦茶をグラスに注ぐ
寝る前にまた歯を磨かなきゃと思いつつも唐茶色を乾いた喉へと流し込む





飲み終えた絵里は何となしに手にしていたグラスを見た



透明な硝子は夜が為す暗色と重なり、鏡のように映る者を見せる











"映る者"を見せる







自分の顔は当然映っていた、床に就く直前という事もあり
艶のある金糸雀の糸は束ねておらず、ストレートに流れる長髪

震える唇、2つのアイスブルーは見開き、すぐ横にある2つの瞳に当惑した



 絵里はすぐさま自分のすぐ後ろ隣へ目を配る
そこはただの空間で何者も存在していない、完全な虚であった

グラスと背後を交互に視る、後ろは居ない、しかし手元には居る






絵里「きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁー――っ!!」




 夜目に木霊する金切声
甲高い悲鳴が先か、絵里が地面に叩き付けて壊したグラスの破壊音が先か

それに亜里沙が駆けつけて来たのはすぐの事であった




亜里沙「お、お姉ちゃん!どうし――」

絵里「戻りなさいッ!来ちゃ駄目よ!!」



 愛する身内が部屋の灯りをつけた、絵里が彼女の姿を認識するや否や
姉として得体のしれない何かから妹を護るべく普段ならしないだろう
怒鳴りつけるような口調で亜里沙に自室へ戻れと叫ぶ


 優しい姉が決して自分には見せない形相とヒステリックな叫びに
ビクリ、と肩を震わせ立ち止まる



一歩先へ踏み出そうとした片脚を引っ込め、そこから怯えつつ尋ねた



亜里沙「ど、どうしたの…」フルフル



絵里「逃げなさいっ!ば、化け物が出たのよ!」





亜里沙「お、お姉ちゃん…?」



姉が何を言い出すかと思えば言うに事を欠いて「化け物が出た」である




亜里沙「…ふぅ、びっくりさせないでよぉ…」

亜里沙「よく見て?お化けなんて何処にもいないよ」キョロキョロ



絵里「…そんな、わけ…」



亜里沙「虫か何かが出て来たんだよね?夜だから勘違いとかはあるよ」

絵里「…違うの、本当に―――」



安堵の表情を浮かべ絵里の手を掴む亜里沙を見て、姉はそれ以上
口を開く事を止めた

―――
――


その晩から、絵里は視界に何も入れぬように目元すら布団で覆い
怯える夜を過ごすようになったという…

<○><○>

人一倍怖がりだしなぁ
かわいそう…

引っ越し乙

~【絵里が奇異と遭遇した同時日】~




 西木野真姫は青い海に居た


 照り付ける紫外線はビーチパラソルで遮り、潮風が麦わら帽子についた
ハイビスカスの花弁を揺らす

 折り畳み式のビーチベット、その傍らには氷の入った清涼飲料がある

黄色と白の縦縞模様のストロー、柑橘類の厚い外側を砂糖漬けにしたモノ
所謂"ピール"をつけたモノが書きかけの作曲ノートのすぐ横にあった


 さて、彼女のファンを名乗る者が居るならば彼女はトマトを
こよなく愛するとすぐに答えるだろう
 そして電子端末のプロフィール画面にみかんが嫌いと書いていることも



 グラスの縁に見栄えだけを気にして添えられた夏みかんのピールは
別に彼女が好き嫌いを克服したからという訳では無い



 だというにも関わらず聡明な彼女が態々自分の嫌いな食べ物を
猛暑日の砂浜で涼を取る為のお飾りとして注文<オーダー>したのにも
深い理由があった訳でも無いのだ











         此処は彼女の"夢"なのだから



     だから敢えて何らかの理由を付け加えろというのならば
食材の無駄遣いも何も考えることなく見栄えだけの為に添えただけだろう




μ'sメンバーとの思い出がある、あの別荘の浜辺

 新幹線で乗り継いで、線路の上を鉄の揺り籠に揺られ、都会の喧騒から
解放された彼女は夢の中で静かに寝息を立てていた




真姫「…んっ…ぁ」パチッ



 赤毛の少女は目を開く、サングラスの感覚に慣れていた彼女は
パラソルの色彩豊かな布地を見つめて2、3回、ぱちりぱちりと瞬きを行う


すぐ傍の作曲ノートの上にサングラスを置いた利き手を天に翳して
意味も無く空気を握る

ぐー、ぱー!と握って開いてを繰り返す、目線のずっと先にある
9つ色の傘布でも掴もうとするように


 明晰夢、とは違うだろう、味覚も無いし、本当は熱くも眩しくも無い

ただ、"夢"を見据える真姫の脳が、精神が、そう錯覚しているだけだ


カラリとした湿度を感じない非現実的な空間、アクアマリンの波打ち際


 美しい景色を見物にグラスを手に取り、少女…西木野真姫は
何か嫌な事から逃げ切ったような笑みで夢想の自分は微笑んでいた

まきちゃん




渚、陸と海の境界線


 波打ち際を満ち潮の刻がまた一つと近づく度にそれは白い砂の絨毯へと
乗り上げて、波の花を浜辺で座り込む者達によく見える様に近づけていく


波の花、…あの波打ち際にできるあの泡の事だ


海水に含まれるミネラルやプランクトンの死骸が泡の成分となっていると
真姫がいつだったか学んだことがあった




 微生物の死骸と聴くと美しいモノとなんだか綺麗なモノだと
思っていた物が途端に綺麗じゃないように感じてしまう



学ぶことの弊害だ、世の中知らないで居れば幸せなこともある



無知ゆえの知、…はたして知らぬが仏の幸福となりや、か?



 背もたれから上半身を起こし、西木野真姫は風に持って行かれそうな
麦わら帽子に手を乗せた、穏やか一時を過ごす彼女は泡沫を眺めるのも
程々にと、次の【BiBi】での新曲を書いたノートを開こうと手を伸ばす






夏をイメージした楽曲、溌剌とした


命が最も輝く時期




樹々にしがみつき、自分が生まれた事の讃美歌を謳う蝉の合唱


芽吹く草花の育み、入道雲、乱気流…移り変わる激しい天候の表情









そんな、力強さを見せる季節がいよいよ過ぎ去ってしまう風情を容にする




線香花火のような一瞬の輝き

散りゆく花の命

歌い終え、一夏で永久の眠りつく蝉




そんな儚さを醸し出す曲調…




真姫は我ながら良いものができたと思うそれを書き記したページを開く













   溺れて死んだ



溺れて死んだ、苦しい。



助けを呼ぼうと口を開けると水が入って来た、塩辛い、苦しい。








苦しい。苦しい。

苦しい。苦しい。

苦しい。苦しい。

苦しい。苦しい。

苦しい。苦しい。




  死にたくない


  嫌だ嫌だ


  死にたくない


  嫌だ嫌だ





嫌だ嫌だ嫌だ嫌



死にたくない  死にたくない





死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくな



よれよれのページに見える現象

聖剣3の幽霊船思い出した






















  真姫「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」ガバッ












真姫は目覚めた、自分の見慣れた寝室のベッドの上で





















真姫「はぁはぁ…!なんなの今の…夢…」ブルッ














何も無い、音も何も無い暗闇、沈黙の中での目覚めだった…




 翌日の朝、眼の下に寝不足のアイシャドーを塗った西木野真姫は食卓で
両親に今日は休んだらどうだ?と心配をされた


医療に携わる人間として、親として娘の体調を気遣った



だが、真姫は「大丈夫…パパ、ママ、ありがとう」と一言だけ告げた




正直な話、家でのベッドもう一眠りという気分ではなかった



 また目をつぶればマリンブルーの景色を背景に
悍ましい字面の楽譜を見てしまう

そんな確信めいた予感があった



根拠はないのに、絶対と思えるソレ


想像しただけで身震いする






「真姫…どうだろう、今度の休みの日に家族旅行であの別荘にでも――」




真姫「んぶっ!?」ゴホッ




咽た


飲んでた水が喉の変な所に入っていた


 西木野総合病院、院長は次の自分の休みの日、家内と愛娘を連れ
海へ行かないかと言い出したのだ



よりにもよってあの夢に見た、浜辺の別荘にである



「ま、真姫ちゃん大丈夫?」オロオロ



真姫「だだだ、だいじょうぶ、ちょっと突然だったから、うん」ゴホッ




色んな意味で大丈夫じゃない



流石にそれを自分の親御さん相手に口にする程ではなかったが



―――
――










トボトボ…



にこえりまき「「「あっ…」」」バッタリ










にこ「…」

絵里「…」

真姫「…」








にこ「ふ、ふったりともー♪どうしたにこー♪そんな顔して」


絵里「え、ええ…ちょっとね、それより真姫その顔は寝不足」


真姫「そ、そういう2人だって目の下が隈だらけじゃないの!」












にこ「…」

絵里「…」

真姫「…」









絵里「…変な事、言って良いかしら?」


にこ「あによ…」

真姫「…」





絵里「二人は…その…「やめて!聞きたくない!」

まきちゃん



 言葉を遮る黄色い声は赤毛の少女から発せられる
その一言は今まさに絵里が確認しようとした事を肯定する一言と呼べた


 苦虫を嚙み潰したよう顔で紅い目を虚無へと向ける同級生の姿も
またそうであると暗に示していた




蝉の鳴き声が聞こえる




鬱陶しい程の暑さ、湿り気を帯びた日本の夏特有の蒸し風呂地獄




そんな外気に晒されながらも
彼女達は背中に匙一杯分の氷粒を突っ込まれた気分だった





絵里「このまま、沈黙を続けていても埒が明かないでしょ」


真姫「そんなの、分かってる…っ!だけど!!」
にこ「絵里の言う通りよ」



日本には言霊という概念がある


 田舎のおばあちゃんやおじいちゃんが孫が遊びに来た時に
教えてくれないだろうか?


――その言葉を口にすると実現する、と


暑い暑いと言えば、暑さが増すだの

ため息を吐けば幸せが逃げていくだ

他人に「死ね」「死んじゃえ」なんて言葉を使えば、不幸が身内に返ると





真姫の言いたくない、その話題に触れたくないという気持ちは理解できる



だが、"停滞"することに何の意味がある



何の進展も無く、膠着状態を延々と続けて何が起こるというのだ






にこ「私は、このまんま怯えて過ごしたくないわ」


にこ「だから二人に力を貸してほしい、経験や分かった事を話して…」




真姫「……」チラッ

絵里「」コクッ



【水】…3人は怖れを、畏怖を、口々に声の波長を震わせながら発する

この場に居る者達で共通することは




怪異と遭遇する鍵<キー>となるモノは【水】なのではないか、と



浴槽の排水溝に溜まったようなべっちょりとヌメりっ気のある抜け毛の塊


液体の入った硝子コップに映る見えない人影


浜辺の夢に出て来る悍ましい内容、背筋に垂れる水滴と奇妙な偶然







心という土台に根を張り巡らせる不安の種、小さな小さな種粒はいつしか
球根のように多くの根を這わせてわガッシリと心をつかんで離さない




ゾッとさせる気分はいつだって水に揺らめく女の陰から始まる





頭の痛くなる問題だ

単純に取れる対処があるとすれば水の有る所を避ける事なのだが



生物、ひいては人間にとって水は生命線と呼べる

水分が枯渇していく夏の熱気、茹だる様な暑さで汗ばむ肌…



湯浴みにせよ、喉を潤すことでも水は必要不可欠だった




陽の高い内、人の多い所での水分補給

できることならば水の有る所を避ける日々…

特に雨の日は一睡もできずに目の下に隈ができるなんてざらだ



そうして彼女達はちっぽけな雨音でさえ身を竦ませる夏休みを過ごし…






     夕焼けの空に赤蜻蛉が舞い始める候―――


         ――――まだ仄かに蒸し暑さが残る残暑…



   しかしながら、秋風が吹き始める 夏の終わりへと続く入口…



        嗚呼、夏が終わってしまう……


~26day~




穂乃果「…そんなことが、本当にあるんだ、ね」



◇山田先生の家で一通りの事情を訊き終えた私達は揃って同じ想い――


◇…ええ、この結論に至った私自身も何処かでは眉唾だと思っていて


◇だからこそ、両脇の二人と同じよう表情なのです





◇ことりちゃんは小刻みに肩を震わせていて

◇上擦った声を発した穂乃果ちゃんも震えていました




◇…私の眼の前に居る先生も






◇にこちゃんも絵里ちゃんも真姫ちゃんもきっと私達以上に怯えてて

◇この一月近く、その苦悩は計り知れないモノだったんだって思う






◇…けど、これはなんてことの無いお話だった





◇ホラー映画だと思えば、実はホラーじゃない…種が割れれば
             まるで怖くもなんともない手品のような存在




◇中世の時代の人が誰でもできる手品を不要に悪魔の力と恐れた様に








◇これは初めから悲劇なんかじゃない、寧ろ喜劇、と呼ぶには失礼ですが







◇先入観とちょっとの勘違いから始まった悪霊騒動なんだって


◇だから…



 花陽「なら、呪いになった、お呪いから3人を解放してあげなきゃ…!」








8月、旧暦の暦は葉月、青葉は紅に染まりて夜長の空より出流、月の光に

 当てられて、ひらりひらりと晩夏の忘れ形見の上に葉は浮かぶ



 誰が乗る訳でも無い葉の小舟、去りぬ夏の瞳から零れ落ちる真珠の上に

        ひらりひらりと舞うのでしょう

















夏の終わりは目と鼻の先にある


片手の指を一夜明かす毎に折り曲げれば、それは夏の終わりを示すだろう

















―――
――




   「もしもし!あっ…にこちゃん?うんっ!私」


   「…お願い、明日あの砂浜にやって来て」

   「絵里ちゃんと真姫ちゃんにも伝わってる」



   「恐れないで来て欲しいの、明日には3人の悩みの種が」

   「お化けがいなくなっちゃうから…だから居なくなる前に」




 「夏が終わってしまうまえに、せめて伝えたいから…!じゃあね」Pi


  ツーッ ツーッ  ツーッ



    ~ 8月30日 18時51分 ~

すげえ


~『夏の終わる日 8月31日 正午過ぎ』~




にこ「いぃやぁぁだぁぁぁ!!」ズルズル


海未「にこ、歯医者さんで駄々を捏ねる子供じゃないんですから!」グッ



海未「真姫も絵里も駅前に来ていますよ?ほら…」


にこ「うぅぅ…」チラッ




真姫「…」ウツムキ

絵里「…」ドンヨリ





にこ「あからさまにあの子達も暗い顔してるじゃないのよぉぉぉぉ!」







ことり「あはは…にこちゃん凄く踏ん張ってるね」

穂乃果「うん…でも相手が海未ちゃんだし」


◇絵里ちゃんも真姫ちゃんもお家から連れて来るのに苦労しましたね…


◇…あ、にこちゃんがこっちを見―――す、すごく怖い顔です






にこ「~~っ!恨むわよ…!」グスッ


海未「こら、電話を掛けた彼女に恨み言を言っても仕方ないでしょう!」







凛「にこちゃんも往生際が悪いにゃ」トテトテ

希「真っすぐ『Printemps』の中からあの子だけ睨んどったなぁ涙目で」




◇必要な荷物を入れたフィットネスバックを持った凛ちゃんが

◇同じく大きな鞄を提げた希ちゃんがやってきます




凛「かーよちんっ!皆揃った?」


花陽「ちょっと待って、まだ――――」





「わりぃ、待たせたな」


花陽「あっ、大丈夫ですよ」





◇案の定と言うべきか、思った通りの反応です


◇私達の内、既に詳細を説明済みの6人はともかく
  【BiBi】の3人は声の主と歩いてくる4人の人影に首を傾げます





真姫「…?山田先生、それに―――」



◇ラフな格好で私達の前に姿を見せたのは音ノ木坂学院の先生方です


◇いつもの姿とは違った笹原先生や深山先生、それに山内先生に
 真姫ちゃんも驚きが隠せない様子で…山田先生だけはジャージ姿ですが



「あたしらは立会人みたいなモンだ気にしなくていいぞ」


絵里「ね、ねぇ希…これから何が始まるの?私達電話で助かるって」ボソ


希「ん?ああ、到着してから話すから」


絵里「は、はぁ…?」



◇駅の改札口を通って私達12名は鉄の揺り籠に乗車します




◇ぷしゅー、って音がして線路の上を私達の乗せた箱は走り出す


◇微睡を促すような心地よい揺れ、

◇凛ちゃんと穂乃果ちゃんは窓からの景色を楽しんで、

◇海未ちゃんとことりちゃん、希ちゃんはお喋りをしていて、

◇【BiBi】の三人は身を寄せ合うようにお互いの手を握りしめてて、

◇先生方は何処か遠くを見つめ思い出を懐かしむようで…憂いるように、



◇私は……




花陽「…」コクッ…コクッ…


花陽「んっ…眠い、です…」ゴシゴシ




◇…ここ数日間が放たれた矢みたいに目まぐるしい動きでした、ちょっと


◇眠り、たい、かも…。

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



     ほんの少しだけ日常からズレてしまうお話



  世界には理屈とか科学だとか、そんな言葉じゃあ証明できない

    不可思議がある、その入り口は案外近くにある




 それこそ小石や雑草みたいにごろごろと、見えてないフリをしてるだけ





   そんな世にも奇妙な物語、

         摩訶不思議な一夏も電車に揺られて終着駅、






    先入観に囚われては心労ばかりが溜るモノ…












――――夏の終わりは御盆参り…


――――もう二度と貴女には逢えなくなる


―――――もう一度、あと一度だけ逢えれば良いのに



 ため息を一つ、渚…

 繰り返されるのは懐かしい笑顔




 楽しくて、楽しくて、毎日が奇跡だった…あの日々


 もう一度だけ、会えれば良いのに、   無理ね…きっと





  終わる前に大切な気持ち、大好きな気持ち、届けて欲しい―――





    夏よ、終わらないで…




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

今日完結するのかと思ってた

完結しました(カントリーサイン)




――――ザザァァン

          ザァアァン…――







花陽「ふわぁ…」


凛「かよちんってば到着するまでずーっと眠ってたよねー」


花陽「えへへ…うたた寝したくなる揺れだったからついね?」




◇正午過ぎに東京都を発った私達は真姫ちゃんの別荘に来ています


◇…真姫ちゃん達は落ち着かない様子で終始辺りを見渡していましたが




◇何が起こるのか、これから何が起きるのか、不安の色を隠せない3人

◇その中で真姫ちゃんが痺れを切らし懸念を口にしました





真姫「いい加減教えてよ、どうして先生達も居るのか…海辺にいつまで」



◇そこまで言いかけて口を閉じました


◇眉間に手を当て、大袈裟にかぶりを振るってソファーに座り言葉を待つ




◇そんな真姫ちゃんの姿を見て、先生が口を開いたのです





「西木野、それに絢瀬も矢澤も混乱させてすまないね」

「時計を見てわかると思うけど、間もなく日没の時間よ…」

「お邪魔してごめんなさいね、西木野さん」




真姫「いえ、別にそれは良いんですけど…」



◇相手が先生であまり強くは言えないということもあると思います


◇それは良いと言いながらも太陽が沈む時刻に近づくまで
     此処に居る事に真姫ちゃんは不満があったと思うんです…



「貴女たちに色々いう事はあるわ、そうね…」

「あたしらはあんた達の周りで起きてるの真相を知ってる」


まだ続くよね?

夏、まだ終わりません

デレデレデェェェン

待ってる

これもしかして、夏季限定で創るやつではないか…?

もう夏真っ盛りだな



◇先生のその一言は、3人を竦み上がらせました


「少しだけ、昔話をしようか」


◇笹原先生が長い髪を掻き分けて海辺を見つめながら呟きました


「もう十数年も前になるな…私と、深山、山内、それに山田の学生時代」

「いやぁ、本当懐かしいねー…そう言われると歳ってのを実感するよ」

「山田、茶化すな…続きを言うぞ?私達はある部活動のメンバーだった



絵里「部活動、ですか…」



◇夜が近い、それもこんな【水辺】に居るのです

◇絵里ちゃんの顔色が優れないように見えるのはきっと気のせいじゃない






「私達が所属していた部…今はもう無い【オカルト研究部】だ」






◇ザザァン、と先生の声に「そうだね」と同調するかのように波が鳴った


「私達ね?凄く仲のいい5人組だったの…私と深山さんがじゃれ合って」

「ふふ、そうだったなぁ…笹原が呆れながら笑って、山田もからかって」

「ああ、いつでも部活動という名目で遊びに行ったっけなぁ…」





真姫「5人…?」



◇真姫ちゃんが当然のように怪訝な顔をします

◇此処にいる先生方4人が音ノ木坂のOBで同じ部活動なのはわかります


◇ですが、話題に出てくる5人の内の一人がこの場には居ません

◇話の脈絡、この集まりからして、何らかの関連があるのは明白なのに





「……」

「絢瀬、お前は…特に知っていると思うが、部活動設立の最低限の校則」


◇山内先生が目を伏せ、顔を曇らせ…笹原先生が絵里ちゃんに問いました




「部の設立には最低でも5人の申請が居る…これが"音ノ木坂の校則"だ」


絵里「…は、はい…それはご存知ですが」



◇知っていて当然と言えば、当然です




◇私達、μ'sがまだ9人揃う前…まだ絵里ちゃんが自分にも厳しかった頃


◇あの頃は、部の申請の件で一悶着があったのですから




「私達の部はお世辞にも…なんだ、その、マイナーって奴でな」

「そりゃオカルト研究なんて、年頃の女の子はしないでしょ普通」



◇深山先生が後ろ頭を掻きながら言葉を紡いでいく



「その普通じゃない変わり者が集まりウチの部は何やかんやで存続した」



「…ある年の夏に、ね?思い出作りをしようって言いだした子が居るの」

「全員でお小遣い出し合って、西瓜を買ってな…水着何着るだとか」

「あの年の夏は本当に輝いてたよ、青春真っ盛りってね!」

「んで、あたしも4人と一緒に海水浴に行ったのさ」






「…でも、それが私達が集まれる最後の夏になってしまったの」







◇…夕陽が、沈んだ

◇太陽はもう見えない、だけど水平線だけはまだ光が…"残光"があった



◇海洋の色と夜が混ざり合っていく


◇まだ辛うじて暖色の赤紫に暗色の絵の具を足して混ぜていく感じ






「あたしら、4人はその年に大事な仲間を一人失ったのさ…」


◇山田先生がジャージの上ポケットに両腕を入れて彼方を見つめた




「あの子は、本当に良い子だったの……今でも信じられないわ
  波に攫われて、そのまま、本当にそのまま死んでしまったなんて」



◇山内先生の目尻から涙が零れ落ちた、声には感情が籠っていて

◇あれは、きっと…夢か何かだったんだと、そう言いたそうでした



絵里「っ!も、申し訳ありません…」



「あー、良いんだ、こっちから話題振ったんだから謝る事ないって」


「…ここに」





◇笹原先生は一枚の古い写真を取り出しました




「ここに、アイツと私達4人で撮った記念写真があるんだ」

「丁度、近くに居た人にシャッター切ってもらうの頼んでね」




「絢瀬、矢澤、そして西木野…お前達に、まずこの写真を見て欲しい」









◇3人は、先生の手に握られていた一枚の写真を見ました















絵里「きゃああああああああああああああぁぁぁっっ!!!」ドサッ!!







◇最初に絶叫を上げたのは絵里ちゃんで、"ソレ"を覗き込んだ瞬間に
 飛び退く様に砂浜に尻餅をつきました…



◇ワンテンポ遅れてにこちゃんと真姫ちゃんも…




にこ「そそそ、その、その女の人は…」ガチガチ

真姫「ぃ、ぃゃ…」ガタガタ






「……そうだ、お前達をこの1ヶ月間苦しめて来た"お化け"だ」




真姫「いやぁあああああああ!ヤダヤダぁーーっ!」

凛「ま、真姫ちゃん!落ち着いて!大丈夫だから!」ガシッ

真姫「放してえぇぇ――――っ!!」



◇いつもクールで冷静な真姫ちゃんからは想像も着かない取り乱しで

◇それにいの一番に反応できたのは凛ちゃんでした


◇泣きじゃくる子供のように暴れる真姫ちゃんの腕を掴んで
  宥めようとするのに、海未ちゃんと穂乃果ちゃんも協力して


◇一方で、肩を震わせながらも辛うじて平然を保つ絵里ちゃんに希ちゃん


◇腰が抜けたようにペタリと、座り込んだにこちゃんをことりちゃんが
 それぞれ駆け寄っていきました…

◇かくいう私自身もにこちゃんの肩を持ち、立ち上がるのを手助けします



「お、落ち着いて!大丈夫だから!今日は3人を助ける為に来たの!」



◇山内先生の言葉が耳に入った3人は幾分かは落ち着きを取り戻します



◇自分達は得体の知れない恐怖から解放されるのだと

◇その事実が平常心を呼び戻したのです



真姫「ほ、本当なんですか…!?本当に私達呪い殺されたりしないの!」


◇途中から先生への敬語も忘れて問い詰めるように叫ぶ辺り
 この一か月、如何に精神的に擦り切れて来たかがよく分かります



「あ、ああ…ってか呪い殺すってお前なぁ」

「…まぁ、知らん人からしたらそれが普通なんだよ、うん
         アタシだってそんな現象と初遭遇したらそう思う」




真姫「…?」




「あー、何が何だか分からないという顔だな、私達オカルト研究部はな」


「仲が良かったあの子を失った事で私達はずっと鬱屈としてたの…」


「そそ、それで…私達はやったんだよなぁ」


「ああ、アタシ等もまさか本当にできるとは思っちゃいなかった…」



◇…先生方の誰が言ったのかは、覚えていません…でも聞き取れました





     『死んだ人間を現世に呼び出すなんて…』

もう更新しないの?

来年の夏まで待て

保守

――――
―――
――







      ある日、突然に


      ある日、何の前触れもなく


      ある日、唐突過ぎて理解できない程に








   大切な人を亡くしてしまったら、あなたは何を想うだろうか


   かけがえの無いものが欠けて、心にもぽっかりと穴が開いて


   そんな喪失感を埋められるのなら、取り戻せるのだとしたら






――
―――
――――



「昔から日本に限った話じゃないけど何処の国にもあるんだよ」


◇山田先生が誰かの呟きに続く様に切り出し始めて深山先生も頷いて…


「口寄せとか、言霊だとかお前達の世代だとあんまり聞かないか」



「現世の人が一日だけでもいいからあの人にもう一度逢いたい」

「お盆に一日だけ遊びに来てくれるって迷信も聞いたりするよね?」


◇笹原先生も山内先生も俯いて、声を紡ぎます



「夏休みに部活仲間でワイワイやるのが何よりも好きだったよ
  深山も山内も笹原も、亡くなったあの子もその気持ちは同じだった」



◇先生の声は震えていて、…私にも少しだけ気持ちが分かる気がしました

◇μ'sの皆と居られる日々がどれだけ大事か




◇そしてそんな当たり前の日常がある日、崩れ去ったら



◇…いつも隣で一緒に笑ったり泣いてくれる凛ちゃんがいなくなったら

◇自分がもしその立場だったら、で考えたら胸がきゅって締め付けられて

◇その苦しさから実質的な痛みは無いのに、痛くて涙が出そうで…



「もう会えないっていうのが苦しくて、4人ともずっと未練を持ったわ」



「ははっ、笑っちまうだろう?
  現世で生きてる奴が死者に未練を持つってな、普通は逆だろうに…」


「…山田が茶化した様に私自身滑稽だと思えるくらい認めたくなかった」

「それでオカルト研究部の総力を以て馬鹿な真似をしたってワケ」




希「…先生達の大切な人を取り戻す儀式、ですか?」




「そういうこと、自分達が自由帳に書いた妄想の魔法陣を浜辺に描いて」
「なんかそれっぽい道具をその辺のスーパーでお小遣い出して買って」
「みんなで、手を繋いで陣の中でお祈りなんかしたわね」
「ああ、あたし等が学生時代に流行ったコックリさんの真似事みたいに」



「現実逃避みたいな物だったよ、大事な人を失うと半身裂かれた気分で」

「ひょっとしたらあれは猛暑日に暑さで見てた悪夢だったんじゃないか」





「そう願ってやってたらな、…"出てきた"んだよ」





◇ゾワリ、空気が変わった気がした

◇彼岸花の色と同じ葉をつけた樹々を見かけるようになった今日この頃

◇まだ微かに残る残暑の熱が一気に下がった様に思えたのは



◇…私の気のせいじゃない



◇この一連の騒動の当事者である真姫ちゃん達は震えて

◇他の皆も、微動だにせず先生方の話に耳を傾けています

◇かくいう私も、唾を飲み込みました





「この世には科学とかそういうもんじゃ説明つかない現象が存在する」

「脳死状態や心肺停止回復の見込みが無い
  そう判断された植物人間が元気になり医者を驚かせたケースもある」

「同列に扱って良いか判断に困るけど人間の理解を越えた現象が起きた」



「強い風が吹いて、思わず目を閉じちゃって
       次に目を開けたら――――――死んだ筈の子が居た」



◇顔色は赤みなんて無くて、半透明で脚も膝から下がスゥーって消えてる

◇大昔の日本人の一体誰が歴史で最初に想像して世に言い広めたのやら

◇音に聞く通りの特徴をそのままの、お化けが出た、先生達はそう言った



「最初あたし等もマジにびびったよ、死んだ友達が化けて出たんだ」

「丁度そこの3人と同じような反応してたな、特に笹原」

「お、おい!深山ぁ!」


「ふふっ、今思い出してもあの時の京子ちゃん可愛かったわよ」

「内山までやめろ!それは忘れろ!!」



海未「あ、あの…先生?」



「うっ、いかんいかん話がまた脱線しかけたな」


「じゃあ話戻すけどさ、微動だにしないあの子に声を掛けたんだ」

「山田が勇気を振り絞って声を掛けてもあの子は何も言わない…いや」



希「喋れないんですね?」



◇先生達は希ちゃんの言葉に無言で頷いていた



「死人に口なしとはよく言った物だけど、それはマジだったんだなぁ」

「…本来の意味とはちょっと違うと思いますけどね」


「一般的なお化けのイメージが生きてる人を妬ましく思って
     相手を呪い殺してしまうなんてものかもしれないけどね」


「あぁ、それは誤解だった」


「お化けも地縛霊や背後霊、…『守護霊』って種類があるの知ってる?」


「あの晩から儀式をした私達以外にはあの子の姿は見えなくて」

「授業中も雨上がりのグラウンドにできた水溜りから見守ってくれてた」




「私達4人には視えてるのに、仲良かった他の子には全く、ね」



「彼女がどうして水と関わりがある場所に現れるのかは分からない
  死因が溺死だったからなのか、はたまた不浄霊が渇きを潤したり
 三途の川を求めて無意識で水気のある場所を目指していると言うのか」


「科学じゃ解明できない事なんだから
    こんな憶測の域でしかない理なんて述べるだけ無意味よね」



「ずっと一緒に居て分かったことは、水面に映った彼女の面影が
   いつも何処か心配そうに私達を見ていた時と同じだった事」


「そして事故に遭いそうになった時に
   超能力だか妖術だか何だか知らないが助けてくれた事だけだ」


「貴女達、ここ一月の間を振り返ってどう?彼女が現れるタイミングは」


◇心当たりはあるでしょう?内山先生が確認を取るように3人に尋ねた



真姫「…あります」


真姫「凛や穂乃果は覚えてるでしょ、私が交通事故に遭いそうだった日」


穂乃果「あぁ~、あったね!通学路の十字路を大型トラックが横切った」

凛「にこちゃんがお腹壊すくらい梨を食べてた日だから覚えてるにゃ」



にこ「アンタねぇ…どういう覚え方よ」





真姫「後ろ首に雨水が落ちてきて、最初は単に不運が重なったと思って」


◇段々、真姫ちゃんは後になる方につれて声が小さくなっていきました



真姫「今思えばあの時からだったんだな、って考える様になりました」





「先入観や勝手なイメージ、固定概念があると人は真実を見誤るんだ
  あたし等が最初、あの世から呼び出しちまった時に大騒ぎした様に」


「俗にいう守護霊で、実は危険から守るためにずっと傍に立ってくれて
   見守ってくれていた、そんなの何も知らない人に分かる訳がない」


「ええ、なんせ彼女は言葉を発せないのだから
       誤解を解くも何もできる筈が無かった」


「多分、絢瀬も矢澤も西木野も3人が気が付いてないだけでこの数日
  実は近くまで迫っていた危険から3人を遠ざけようとしていたんだ
 ただその事実を知る者や代弁する人物がいなかっただけで」





◇そこまで言うと、先生達は一区切りと言わんばかりに一呼吸置いて

◇複雑そうな顔でお互いの顔を覗いていた真姫ちゃん達に歩み寄って






「意図せずに起きた、偶然の発見だったとはいえこの儀式を創った…」

「ごめんな、私達が結果的にお前達を怖がらせちゃって」

「…代弁者というには烏滸がましいだろうが、彼女に悪気は無かった」

「代わりに謝らせて、ごめんなさいね」



◇思い思いに4人が…いえ、5人が怖がらせてごめんと頭を下げました


にこ「それは…その…」
絵里「…頭をあげてください」
真姫「ぁ、…っ」



「……お前達をそろそろ解放してやらないとな」

「ええ、長く憑かせてしまったのですもの…」



「星空、東條、用意してた物を」


凛「はいっ!」ゴソゴソ

希「わかりました」



◇今日、駅前で集合した時に凛ちゃんが持ってたフィットネスバック

◇そして希ちゃんが背負っていたリュックの中身が姿を現します




にこ「ろ、蝋燭ぅ~?しかもこんな大量に…」




「あぁ、これだけあればできるな」









「…学生時代、私達があの子を呼び出して、もう一度逢って遊びたい
        そんな願いを叶えてから暫くして考えるようになった」


「こうして現世にとどめておくことは彼女にとって幸せなのか
       これは私達の勝手な我儘でしかないんじゃないか」


「結論から言うと、深山も山内も、山田も皆同じことを考えていて
  話し合い末にやっぱり本来あるべき場所に帰した方が彼女の為だと」


「今から、あたし等がやったのと同じことをするだけさ」



「夏の終わりにふさわしい、…送り火って奴をね」




◇私が調べた結果と先生達から前もって聞いた話

◇この日、3人に守護霊として憑いてる人を黄泉の国にお帰り頂く為に

◇凛ちゃん、希ちゃんには準備を手伝ってもらいました




◇希ちゃんに至っては『ウチも騒動の一端を担いだようなもんやから」と




◇送り火、東京都内でもお盆の時期に五山送り火

◇大文字焼きの方が通じるでしょうか?お盆に還って来た人を帰す行事




◇それとは反対で迎え火という物も存在するらしいです

◇屋上で初めに希ちゃん達がやったお呪いでも蝋燭はキーアイテムでした



「よし、ざっとこんなもんだろう」


◇沈み切った御日様の忘れ物も徐々に水平線の向こう側に溶けて

◇暗くなってしまった浜辺に残された光源は蝋燭の先端で揺蕩う送り火



◇私は、いえ…先生方を除く皆は眼を見開いたことでしょう



◇なぜならハッキリと"視"えるのですから


ことり「し、写真と全く同じ顔のっ!」
穂乃果「…信じられない」










「…よう!久しぶり元気してたか?アタシ等は見ての通り教師やってる」


◇深山先生が旧知の友人に、気さくに話しかけるように目の前の人に語る

◇返事は来ない




「こうして夏の終わりに君の顔を見るか、同窓会でも開いたようだよ」


◇笹原先生がもう何年も会わなかった友達と昔を懐かしむ様に声を掛ける

◇返事は来ない




「ぐすっ、私達は大人になって…でも貴女だけは変わらないんだよね…」


◇内山先生が幼い頃からの知己の親友との再会を尊ぶ様に涙ながらに話す

◇返事は来ない





「その、悪かったな…あの世で安らかに寝てたのに、起こしちまってさ」


◇山田先生が青春時代を共にした仲間の眼を真っすぐに見つめて一言謝る

◇返事は来ない



「あの晩、あたし達の独り善がりで現世に留まらせてさ…
   そんなの勝手過ぎだって気づいて送り火で返したのにな」


「アタシ等【オカルト研究部】が作った儀式が書かれたノート
    アンタが無理矢理起こされたりしないように燃やすべきだった」



◇山田先生と深山先生がそう言ってから笹原先生が言葉を続ける


「だが、未練がましく残してしまってな…燃やす事で一時とはいえ
    掛け替えの無い友との再開の事実さえも無かった事にしそうで」


「だな、…アタシ等は、今度こそ何の因果か首の皮一枚で
   掴み取れた5人の繋がりが断ち消えることを怖がっちまったのさ」



◇思い思いに先生方は言葉を紡いでいく

◇それでもこの世に呼び出されてしまった彼女は返事を返さない

◇表情一つ変えない、変えれない、何故なら―――





◇呼んだ人を厄災から護ろうとするだけの『守護霊』でしかないから




◇そこに居ると分かるのに

◇夢でも幻でもないとこの場に立つ私達自身が証人として立証できるのに




◇今にも消えてなくなってしまいそうな程に存在が希薄で

◇やはり、真夏の熱に浮かされて見た何かではないかと考えそうで…



◇人の夢と書いて儚い



◇先生の感情の篭った声もただ夜の海に消えて行くだけの音にすら思える

◇見ていて、こっちまで胸がきゅっと締め付けられる









「…見苦しい所をお見せしましたね」

「ああ、大の大人が君たち子供の前ですまないな」


◇目を真っ赤に泣きはらした内山先生と沈んだ顔の笹原先生が私達に言う



「山田、名残惜しいけどさ、そろそろ…」

「わかってるよ…」



◇先生達は浜辺に円形状に並べた沢山の蝋燭の中心に3人を手招きする

◇『BiBi』の3人が事の発端となった日と同じ様に手を陣の中心に立った



◇その周りを囲む様に四方に先生方が立って言葉を紡ぎ出す

◇おかえりください、おかえりください…



◇そう告げた


ヒュゥゥ…


◇生温かい風が一陣吹いて、蝋燭の火が1つ、また1つと消えて行く

◇それは温暖化の影響で温度の上がった海水が近いからなのか

◇それだけで説明するには物足りない、肌に纏わりつく様な生温かい風で


◇蝋燭の火が消えて行く度に、目の前にいる『守護霊さん』は輝く

◇光源が消えて浜辺は闇に包まれる筈なのに、明りが消える毎に

◇その光を取り込む様に彼女の身体がポゥっと光っていた



◇…不謹慎ながら私はそれを見て『綺麗だ』と思ってしまいました



◇蛍の光が一か所に集まって複数の輝きがそこにあるように

◇彼女の身体が光っていく様を






にこ「あっ…」



◇少し離れて見ている私達も『BiBi』の三人も、そして先生達も…

◇おそらく先生達は二度目になると思う



◇消えて逝く前の彼女の顔が、とても安らかで見る人を安心させる微笑み

◇見方によってはどうとも捉えられる表情だった





◇現世にこれ以上縛られることが無くなって安堵を浮かべているとも

◇今日まで自分をまだ思い続けてくれた友人に再開できた喜びとも

◇消える間際の最後まで3人を見守る様な優しさとも

◇帰してくれたことへの感謝の笑みとも

◇別れ際だからこその微笑とも








◇夜刻、幽霊が佇まう刻限に彼女は帰っていった








◇その人の心情は語られないのであれば当人にしかわからない


◇最期に何を想ってあの顔だったのかも全ては客観的に見た人が唯々…

◇自分の感性で判断した事を、きっとああだった、こうだったんだろって

◇相手の感情はこうだった、と決めつけているだけに過ぎない


◇いなくなってしまった以上、答え合わせなどできない、真相は謎のまま




◇かくして、私達μ'sが遭遇した一夏の、ちょっと不思議で

◇怖くて…でも何処か温かくて優しい不思議体験は幕を閉じたのでした…

―――――――
―――――
――――
――



にこ「…。」グデーッ

絵里「なぁに机に突っ伏してるのよ」テクテク…



にこ「…っさいわね、頭いい奴にはにこの気持ちなんてわかんないわよ」

真姫「もう!日頃からテスト対策で勉強しないからそうなるのよ」ハァ…





にこ「……。」


にこ「なんか、こうしてると嘘みたいよね」



絵里「そう、ね…あんなに怯えてたのに」

真姫「主語がないわよ、主語が」



にこ「バッカねぇ、わざわざ何の話か言うまでもないでしょーが」

真姫「わかった上で言ったのよ、テストで赤点取ったにこちゃん」



にこ「一々引っ掛かる言い方をするわね…ったく」

にこ「…。」


にこ「あんなに怖がってた幽霊騒動が、あんなあっさりとした幕閉じ」

にこ「呆気なかったっていうか、さ…なんて言えばいいのかしらね」


にこ「ぽっかり穴が開いたような日々がただ過ぎて行ったっていうか」

絵里「何、にこってばもう少し憑りつかれて欲しかったわけ?」


にこ「んなワケあるかいっ!!」ビシッ


にこ「…ただ、その、怖かったし!嫌な思いしたのは確かだけど…その」




にこ「…なんだかんだで私達、知らない所で護られてた、ワケでしょ」




にこ「向こうからしたら、純粋な親切心(?)で助けてくれて」

にこ「なのに、過剰に私達が怖がってお礼も言わないで、さ…」



絵里「…。」
真姫「…。」


にこ「消える間際にあんな顔、見ちゃったら」

にこ「なんだか…申し訳なくなったっていうか」

にこ「あんな終わり方で本当に良かったのかなってモヤモヤすんのよ」



真姫「…優しいのね、にこちゃんは」

にこ「にこは100%優しさと可愛らしさで出来てるんだから当たり前よ」



絵里「悔いはなかったのか、そう問われれば…無いとは言い切れないわ」

絵里「物事なんて終わってみれば案外そんなものなのかもしれない」


絵里「今回の事にしたってそうよ」


絵里「真相を知るまで、どうにもできないしどうする事もできなかった」

絵里「呪い殺されるとか、お化けに対する勝手なイメージや先入観」

絵里「そういうのに邪魔されて冷静な判断ができなかったのは確かだわ」




真姫「冷静であったとしてもそんなの判りっこないわよ、仕方なかった」

真姫「そう思うしかないじゃないの」



にこ「そうだけどさぁ…」






絵里「…私、お化け話とかそういうの大っ嫌いだけど」

絵里「少しだけ、ほんの少しだけお化けが好きになったかもしれないわ」


真姫「同意よ、私もなんでもかんでも先入観で捉えちゃダメって」

真姫「いい教訓になったんだもの」


にこ「…私もよ、世の中には良いお化けも居るって知れたんですもの」


にこ「そういう意味じゃインチキくさいお呪いを持って来た希に感謝よ」





にこ「…ねぇ、二人共提案があるんだけどさ」


真姫/絵里「「…?」」


―――
――



◇あの騒動からしばらくが経って、私達は再びこの海岸に来ています

◇今でも色々な事を思い出しますね



◇まず希ちゃんが先生方にこってり絞られた後に例の儀式に関する書

◇あれを燃やそうとした時に被害者の3人が止めに入った事…


◇最初は私も凛ちゃんも、ことりちゃんや穂乃果ちゃんだって驚いて

◇目を丸くしたまま海未ちゃんが「何故ですか?」と聞きました


◇曰く、それは先生達の大切な青春時代の思い出でもあって

◇失ってから生き返らせてでも会いたいと願った大切な学友との繋がりで

◇それを燃やしてしまったら、あの晩の砂浜で独り言ちる様に呟いた通り


◇奇跡的に掴み取れた先生達とあの守護霊さんの、断ち消えてしまうから


◇ちょっとした騒動にはなった、でも"最悪"の事態では無かったからと

◇誰かが間違って呼び出さない様に注意書きの一つでも挟んで

◇それから誰にも見られない場所にしまっておけばいいんじゃないか、と



◇最期に笑顔で消えて行ったあの女の人を見て、どういった心変わりか

◇『BiBi』の3人は先生達に

◇彼女と先生達自身の繋がりを燃やさないであげてくださいと言いました




◇…私は、わかったつもりなのかもしれません

◇にこちゃんでも、真姫ちゃんでも、絵里ちゃんでもないからその気持ち

◇それを完璧に理解して代弁することはできませんけど…



◇でも、なんとなく3人がそう頼んだ気持ちがわかるような気がしました







「おっ、もうじき始まるのか?」

ことり「あっ、深山先生!はいっ!あと少しです!」


「深山…遅刻するなよと電話しただろうが…」ハァ

「ま、まぁまぁライブ前に間に合ったんですからいいじゃないですか」

「いんや、笹原の言う通りだって、偶にはガツンと言わなきゃ駄目」


◇内山先生の庇護も虚しく
   深山先生に言葉のダブルパンチが容赦なく炸裂します


「お前の事だ、どうせまた遅くまで麻雀でもしてたんじゃないのか?」

「ちょ、違うってば…ほら、アタシはこれ用意してたんだよ」スッ


「なるほどなぁあの子が好きだった花束なんて気が利くじゃないか…」

「…まぁ、そういうことなら遅刻の件も多目にみてやろう」



◇先生達のそんな談笑がされている中、今日の特別ステージが始まります





◇『BiBi』の皆から、『守護霊さん』への鎮魂歌



◇…というと少し語弊がありますね

◇『BiBi』からの気持ちや『先生達』の想いを唄に乗せようという企画


◇ライブ、とは違います

◇踊るワケではなく、ただ歌うだけなのですから…



◇一夏の、大切な人との思い出

◇掛け替えのない愛おしい親友と過ごした日々



◇平凡でどこにでもあって、だけど過ぎ去ってみればそんな毎日が本当に


◇心の底から唯々、愛おしい…あの夏に、あの時間にきっと恋をしていた




◇学生時代の先生方が将来どうなるかなんてまだ何も分からず

◇ずっと5人の友情も消えず、大人になっても生きて交流があると信じた


◇そんな当たり前のようで、当たり前じゃなくなった恋しい時間

◇まるで蜃気楼のような『愛』を、時の流れに感じていた





◇歌が、現世からあの世に届くかどうかなんてわかりません


◇メルヘンやファンタジーじゃないんですから

◇でも現実でファンタジックな体験をしたなら、1%の奇跡に縋ったって

◇いいじゃないですか、奇跡が1度起きたなら2度目や3度目を信じても!



<おいおい!あれってμ'sじゃないか!?
<本当だ!噂は本当だったんだ!
<なになに?新曲披露するんだって?

<ワイワイ、ガヤガヤ…




絵里「…。」スゥ…

絵里「本日は集まってくれてありがとうございます!」

にこ「今日はにこ達がこの浜辺で新曲を披露するわよ!」

真姫「それでは皆さん、聞いてください」
















        にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」






                           ~fin~

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 れんあいげぇむ一周年記念① 怖くない ホラーと呼べない偽ホラー


にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」 完




[夏終わらないで]
https://www.youtube.com/results?search_query=%E5%A4%8F%E7%B5%82%E3%82%8F%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A7

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完結お疲れ様でした

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