モバP「アイドルはいいぞ!」桐野アヤ「ああ?」 (35)

ランニングしてたらアイドルになった。

突拍子もない言い方だけど、アタシがどうしてアイドルになったのか、思い返せばそういうことだ。

「君、そういうの好きなのか?」

「ん?」

通りがかった家電屋さんの表のテレビで、アタシの好きなボクシングの試合をやってて。足を止めて観ているところだった。

ランニングで火照った体のまま試合に熱中していたアタシは、急に男の人に声をかけられたことに驚くより、そうそうアタシ格闘技好きなんだっいい試合だよな!アンタも好きかっ?くらいに思って、実際、そんな風に返した。

「ああ!アンタも好きなのか?」

「そっか。うん。好きだよ」

「そっか。へへ」

そのまま、こっちの選手は前の試合のケガに苦労してるみたいでさー、アタシは応援してるんだけどアンタはどっちを応援してるんだ?なんて続けようと、いや実際続けたのか、よく覚えていないけど、その男が、アタシの顔を見て頷いてから、こう言ったのはよく覚えてる。

「じゃあ、君もなってみないか。アイドル」

「は?」

しばらく固まったあと、アタシが観ていたテレビの横の、別のテレビから、アイドルの甘い歌声が耳に入った。

「アイドルはいいぞ」

「……。……、は、ああ?アイドル!?」

こうしてアタシはアイドルになってしまったのである。

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・・・・・

桐野アヤ「ただいまー」

P「行ってきました」

千川ちひろ「お疲れ様です。どうでしたか?」

P「ええ。まあ……」

ちひろ「?」

工藤忍「アヤさん、お疲れ様。どうだった?打ち合わせ」

アヤ「ダメだったー」

忍「ダメだったって。そんなバッサリ」

アヤ「あーダメだったよーダメだったんだよ忍ー。助けてくれーアタシには無理だー」

忍「えええ」

ちひろ「ダメだったんですか?」コソ

P「いや、別に駄目だったというわけでもないんですが」

南条光「とうっ。アヤさん、あなたから困っている音がするぞ!」ババーン

アヤ「どんな音だそれ」

光「大丈夫だっここにヒーローがいる!困っているなら、いつでもアタシを呼んでくれ!」

アヤ「上がタンクトップ一枚のアンタの方こそ困ってないか?」

杉坂海「こら光、破いたこれ、ウチが縫い終わるまでおとなしくしてるって約束、忘れたのかい?」

光「ああ、海さん、す、すまない。すまないから直してくれ」

アヤ「ヒーローは行方不明みたいだな」

P「今度やる握手会の打ち合わせだったんですが」

ちひろ「ええ」

P「衣装が可愛すぎて、それに見合った、可愛い台詞とか、振る舞いとかできないって」

ちひろ「そうなんですか?」

アヤ「また破いたのか、光。今度はなにしたんだ?」

光「ま、またというほどよくやってるわけでは」ワタワタ

海「子どもが飛ばしちゃった風船を取ってあげようとして、木の枝にひっかけたんだって」

アヤ「へえ」

光「名誉の負傷だ!」

アヤ「へー」

海「ほー」

光「あああごめんなさいごめんなさい、だから海さん、ヒーローマークの代わりにかわいいアップリケを付けようとするのはやめてくれ……」アタフタ

海「どうしよっかなー」

アヤ「ははは。ほら、風邪引くから、アタシのでよければパーカー羽織りな」

光「あ、ありがとう。……はっ助けるつもりが助けられてしまったぞ!?」

アヤ「あははは」

ちひろ「ああ……」

ちひろ「ふふ。アヤちゃん、もちろん可愛いですけど、カッコいいところもありますからねぇ」

P「まあ、そうなんですかね」

P「アヤはちょっと考えすぎるところがある気がします」

ちひろ「ええ」

槙原志保「お疲れさまです、アヤちゃん。はいっ」

アヤ「あむ」

アヤ「お疲れさふぁ」モゴモゴ

志保「疲れたときには甘いもの♪定番ですよー」

アヤ「……」ゴクン

アヤ「まあ、それはそうだけど、いきなり入れるな」

忍「アヤさん、志保さんにはそれいってもむららふぉ」モゴゴ

アヤ「す、すごいことになってるな」

志保「忍ちゃん、お勉強は頭を使って、糖が不足します!だからよく甘いものを補給しないと♪」

忍「もごご」

アヤ「それ、勉強の邪魔になってないか?大丈夫か?」

P「もうちょっとほかのみんなを見習って気楽にやってくれるといいかなと思うんですが」

ちひろ「それはそれでゆるすぎる気も……」

志保「はいっプロデューサーさんもお疲れさまです♪」

P「おつふぁれふぁま。あいふぁとう」モゴフ

ちひろ(やっぱりゆるすぎ)

忍「けぷ」

忍「大丈夫。最近は志保さんにいろいろ甘いものをもらうことも計算して、間食の量、調整してるから」

アヤ「お、おお……。さすがだな」

アヤ「……さすがだなぁ」ハァ

忍「な、なんで二回も言ったの?」

海「じゃーん」

光「ああっ。かわいいのにするのはやめてくれって言ったのにー!かわいい!これかわいいぞ海さんっ」

志保「あ、私が作ったパフェのアップリケだね」

海「へへ。志保のこれ、可愛くてさっ。さっそく使わせてもらったよ」

光「うわーん」

アヤ「楽しそうだな」

忍「そうだね」

アヤ「いや、ほら、なあ。忍はアイドルに真剣で、真面目で、さすがだなあってなあ……」

忍「いや、別に……それはまあ真剣だけど」

忍「アヤさんだって、真剣でしょ?」

アヤ「っと、それはもちろんだぜ!」

忍「まあ“だぜ”はアタシが思うアイドルの言葉遣いではないけど」

アヤ「ぐふぅ」

海「なーんてっ。じゃーん」

光「おおお!パフェがわれて新しいヒーローマークが……!へ、変身だ、変身かこれは海さんー!」

志保「ぱ、パフェー」

アヤ「人が悩んでる横で楽しそうだな……」ホント

忍「そうだね」クス

アヤ「そうそう、そういうところなんだよ……」

忍「ん?」

アヤ「教えてくれ。忍。アタシはどうしたらもっと可愛らしい、アイドルらしいアイドルになれるんだ」

忍「いや、アヤさんはそのままでいいんじゃ」

アヤ「そういうのは聞き飽きたんだよーなあなあ教えてくれー」

忍「わあわあ」

P「こらアヤ。忍をいじめるな」

アヤ「いじめてねーよ!」

忍「きゅう」

アヤ「あ、やべ強く揺すりすぎた」

P「いじめ反対ー」

アヤ「いじめてねーって!」ゲシ

P「ぐふぅ」

忍「か弱い少女の演技でしたー。へへっ」

アヤ「可愛いちくしょう」

光「ぷ、プロデューサー!」

海「藪蛇だね」

P「ひどい……あ、志保さん志保さん、ちょっといまほんとに痛がってるからパフェ食べさせようとするのやめてそれ万能薬とかじゃないから」モガモガ

・・・・・

アヤ「…………」

P「お疲れ様」

アヤ「あ……。おう」

P「表情固いぞ」

アヤ「お、おう」

P「緊張してるって顔だな。握手会だぞ。もっとリラックスしないと、ファンが怯えちゃうぞ」

アヤ「う、うるせえ」

P「せっかく事務所のみんなも参加してくれることになったんだからさ。いつも通りでいいんだ」

アヤ「お、おう」

アヤ「…………」

光「今日はありがとう!えへへ。ヒーローなのに会いに来てもらっちゃったな……。今度はきっと、アタシが助けに行く番だね!」

忍「へへっ応援ありがとう。わ、この間がアタシがモデルのお仕事で着た服!着てくれたんだね。嬉しいな」

海「ん、お姉ちゃんにプレゼント……?わあ、かわいいリボン。お揃いかー。アリガトねっ。どうっ似合うかな?」

志保「いらっしゃいませ♪……あっ、違いましたね。あはは……。え?違わない?そうですかっ?じゃあもう一度!いらっしゃいませー……え、えへへ。あらためてやると、なんだか恥ずかしいですね……ふふ♪」

アヤ(だからよけい緊張してるんだけどな!)

P「?」

アヤ(あー……みんなすごいな。かわいいぜ。アイドルしてるぜ)

アヤ(それに比べてアタシは)ハァ

P「おーい。表情。また固くなってる」

アヤ「あーい」

P「……」

P「なあ、さっきも言ったけど。せっかくみんなも来てくれてるんだ。ほら、アヤも光たちみたいに――」

アヤ「……」ムッ


アヤ(光たちみたいに、可愛くって?)

アヤ「どうせアタシはそんな風じゃないって……」ボソ

P「ん?何か言ったか?」

アヤ「なんでもねえよ」

アヤ「……悪い。ちょっと早いけど、休憩行かせてくれ。外の空気吸ってくる」

P「え。あ、おい」

忍「ふう」

光「お疲れさまっ。大盛り上がりだな!」

海「だね。ファンのみんなの熱気がすごくて、楽しいし、まだまだバテてられないなー」

志保「あれ?そういえば、アヤちゃんとプロデューサーさんはいませんね……なにかあったのかな……」

光「おお。そういえば。助けが必要かな!?」

忍「……」ゴクゴク

忍「ぷは。うん。大丈夫じゃないかな。早めに休憩取るって言ってた気がするし」

志保「わ。忍ちゃんは周りをよく見ていて、さすがですね」

忍「ううん、そんなことは」

海「忍の言う通りだと思う。ね」

忍「うん」

光「ヒーローの出番ではなかったか……」

忍「あ、ほら光ちゃん。ファンがいっぱい待ってるよ。出番出番」

光「おおっしまったー。ありがとうっ忍さん!今行くぞみんな!」

海「あははっ。光は可愛いね。アタシたちも行こっか」

志保「はいっ」

海「アヤのことはプロデューサーに任せておけば大丈夫だね。きっと」

忍「うん」

忍「アタシたちがやるべきことは、目の前のファンのみんなに向き合うこと、だね」

海「おー」

海「へへっ。やっぱり忍はさすがだね。さすが、ウチらのリーダー」

忍「えっ」

海「や、ほら」

志保「いらっしゃいませー!あっまた間違えちゃった!?こ、こんにちは!何名様でっ……あれ?」

海「最年長はあんな感じだし」

忍「あ、うん」クス

光「なっ。それはアタシも持ってない限定のベルト……ち、ちょっと触らせてくれないか?」

海「光は光だし」

忍「光だねー」

海「もう一人の最年長は、最高に可愛いから、みんなに可愛がられる枠であってリーダーではないってね」

忍「……」

忍「ふふ。そうだね」

海「うんうん」

忍「……じゃあ海さんは?」

海「ウチはもう弟たちとファンのみんなで手一杯だからなーし♪」

忍「あ、ずるい」

海「へへ」

忍「もー」

忍「……分かったよー。はい、じゃあリーダー命令。うちの最高に可愛いアヤさんが戻ってくるまで、一緒に頑張る!」

海「了解っ」

・・・・・

アヤ「…………」トボトボ

アヤ「はあ」

ワアアアア

アヤ「?」

アヤ「お、なんか試合やってる」ワクワク

ワアアアア

アヤ(楽しい)

アヤ「……」

アヤ「やっぱアタシにはアイドルなんて向いてないのかな……」

P「なんだ。ちゃんと笑えるんじゃないか」

アヤ「?」

アヤ「プロデューサー」

P「そういえば、初めて会ったときも、こういう家電屋さんの前だったな」

アヤ「……ああ」

アヤ「うん。そうだったな」

P「うん」

アヤ「……うん」

アヤ「ま、あのとき……ホントはアタシが観てたのは、今やってるような格闘技の試合なんだけどな」

P「うん。知ってる」

アヤ「……は?」

アヤ「知って……か、カマかけたのか」

P「うん」

アヤ「な、なんで」

P「そりゃウェア着て明らかにトレーニング中の子が、アイドルが出てる番組とボクシングの試合のどっちを観てるかって考えたら」

アヤ「そっちじゃなくてさ!」

P「可愛かったから。アイドルをやって欲しいって思った」

アヤ「はあ!?」

P「初めて会ったときにも言ったろ」

アヤ「……覚えてない」

P「ひどいな」

アヤ「いや、いやいやいやいきなりアイドルになってみろって言われたらテンパってそれどころじゃねーだろ」

P「そうか?」

アヤ「そうだよ!」

P「他のみんなはわりとすぐに乗り気だったけどなあ」

アヤ「待て、あいつらと比べるのは待て」

アヤ「……そうだよ」ハァ

P「ん?」

アヤ「アタシは、あいつらみたいに可愛くないし。今日だってなんのつもりか知らねーけど」

アヤ「……いや。分かってっけど……。プロデューサーは分かってないよ。やっぱアタシ、あいつらみたいにはなれねー」

P「……なにか勘違いしてないか」

アヤ「あ?」

P「分かってないのはお前の方だ」ヒュッ

アヤ「ああ?おっと」

P「よけるなよ」

アヤ「よけるだろ!」

P「今のは大人しく受ける流れだ。とう」

アヤ「へぷ。な、なにすんだ」

P「光も海も、志保も、忍も、みんな」

P「別にアイドルをやってるんじゃない。知らないのか?自分の好きなことを、最高に楽しくしていれば、女の子はみんなアイドルなんだ」

アヤ「…………」

P「俺が、可愛い、アイドルになって欲しいって思ったアヤは、ボクシングの試合を楽しそうに観ているアヤだよ」

P「だから、アヤはアヤのままでいい」

アヤ「さっき言ったのと矛盾してねーか」

P「してない」

アヤ「してる」

P「してない」

アヤ「しーてーる」

アヤ「……あーもーどっちでもいいや」

P「そうそう」

アヤ「……なんだよぅ」ハァ

アヤ「……アタシはアタシのままで……アイドル、か」

アヤ「……」

アヤ「へへ。プロデューサー、アンタおかしいんじゃないの」

P「まあな」

アヤ「だよな。へへ」

アヤ「あーあ。分かったよ。じゃあその熱意に免じて、もうちょっとだけアイドルってヤツ、やってみるよ」

P「ありがとう」

アヤ「どういたしまして」

アヤ「へへ。あーあ、なんか遠回りしちゃったのかな、アタシ」

P「そんなことないさ」

アヤ「?」

P「真面目に、真剣に悩んで、間違ってても、今までだってアヤなりのアイドルを目指してたんだ」

P「アヤのそういうストイックなところが俺は好きだよ。魅力だと思う」

アヤ「…………」スキ…

アヤ「な、なに言って……バカヤロウ!」

P「ほら、忍もよくアヤさんまたフリフリの衣装とにらめっこして悶えてる可愛いって言ってたぞ」

アヤ「バカヤロウ?!」

アヤ「絶対あとでシメる」シノブノヤツメ…

P「はは。ほら、そろそろ戻るぞ」

アヤ「あ、待ちやがれ。プロデューサー、アンタにも一発入れさせろ!」

P「うわ逃げろ」

アヤ「逃げんな!」

アヤ「……ん?あ、おいプロデューサー、ちょっと待て」

P「この流れで待てって言われて待つやついないだろー」

アヤ「遠っ。逃げるの早ッ」

アヤ「違う違う。ちょっと財布出せ」

P「カツアゲはごめんだ」

アヤ「違うっつーの!」

・・・・・

忍「あ」

P「お、お疲れ。遅くなったな」

忍「ううん。おかえりなさい。プロデューサーさんこそ……な、なんかお疲れだね?」

P「ま、まあな。忍も気をつけろ」ボロボロ

忍「は、はあ」

アヤ「ただいま!悪い、ずいぶん穴開けちまった」ガサ

忍「ううん。おかえり、アヤさん」

アヤ「おう!」

志保「なにか買って来たんですか?」

アヤ「おう。ふふーん。秘密兵器だ」

光「秘密兵器!」キュピーン

アヤ「そういうのとは違う」ガサ

ドンッ

アヤ「見ろっ。アタシは実はこういうドールが好きなんだ!」

光「おおっ。かわいいな」

アヤ「だろだろ!?可愛いよなーこれ。前から気になってたんだけど」

アヤ「へへ。今日はアタシの大好きなコイツも、一緒にアイドルだ!」

忍「……いや、うん。まあ」

海「ウチらは知ってたけどな」

アヤ「あれっ」

志保「アヤちゃん、よくスマホでお店のホームページとか見てますもんね」

アヤ「志保にまで?」

志保「はい!はい?」

光「変身するやつだこれ!すごい!」

アヤ「着せ替えな」

アヤ「今日はコイツも一緒に握手会だ!」

忍「おー。なるほど」

海「へへっいいね。じゃあはい、アヤ行こう」

アヤ「よし待て、いきなり先頭に立たせるのは待て。心の準備をする」

海「今さらなに言ってんの。おーいリーダー」ナー

忍「はーい。アヤさんはしばらくいなかったし、ここから一番頑張ってもらわないとね♪アタシたちは休憩しよっか?」ネー

アヤ「ちょ」

光「ヒーローは遅れてやってくる、だね!いいなー。けどアヤさん、しょうがないから今日はゆずるっ」

アヤ「いやゆずらなくていいから」

志保「一名様ご案内でーす♪」

アヤ「五名様だ!」

P「わりと意味不明なツッコミだな」

アヤ「笑ってねえで助けろ!」

P「今のアヤいい顔してるぞ」

アヤ「知るか!」

P「なあ、アヤ。アイドルっていいぞ。いいだろ?」

アヤ「…………」

アヤ「あー。ああ。うん、そうだな」

P「うん。よかった」

アヤ「うん!」



・・・・・おしまい

あやのん可愛すぎ問題
お読みいただき、ありがとうございましたー

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