【モバマスSS】シンデレラ (20)

…今回は書きためありです。一気に更新していきます。


 あるところに一人の少女――シノブがいました。


 彼女の夢は、アイドルになってシンデレラになることです。その為日夜――


サナエ「シノブ!さっさと皿洗い!その後は、部屋の掃除よ!」


サキ「それが終わったら、画材を買ってきてほしいっす!絵具36色セット!」


コハル「その後はー。ヒョウくんのおやつを買ってきてほしいですー」


 シノブは4人姉妹の下から2番目。ですが、このように姉妹から良いように扱われてしまいます。


 その理由は、『彼女には才能がない』ということです。


 長女サナエのように、セクシーさがあるわけでもなく、次女サキみたいなアーティスティックなひらめきがあるわけでもなく、末っ子のコハルのように動物と以心伝心な力があるわけでもありません。


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シノブ「最後のは少し、いらないかな?」


 それでもシノブは、毎日毎日姉妹からのパシリにもきちんと行うのです。


シノブ「サナエお姉さま!終わりました!」


サナエ「……」


 シノブの掃除の腕は一流です。どんな汚れだって見逃さず、イチコロです。


 ですが、それを気に食わないサナエは袖の下に隠した生卵をわざと床に落とします。


サナエ「シノブ!なんなのこの汚れは!」


シノブ「いや、お姉さまが普通に落としてできた汚れだよ……」


サナエ「おだまり!綺麗にしておきなさい!――それにここも!ここもよ!」


 サナエはもっていたゴミや、食べかす、しまいには動物の死骸などを床に置いてシノブに掃除をさせます。それでもシノブは黙々と掃除を再開します。

サキ「遅かったっすね……」


シノブ「ごめんなさい。サナエお姉さまの掃除に――」


 シノブが謝るのを遮るように、サキは壁ドンで彼女の退路を断ちます。


サキ「そういうの良いっすから。で、買ってきてくれるんすよね?」


 サキの瞳はとても冷たく、まるでトキコ様のような目でシノブを見下します。


シノブ「う、うん……。買ってくるね……」


 シノブの頬をサキの右手が襲い掛かります。パン。と乾いた音が響きます。


サキ「『買ってきます。』っすよね?お姉さまにはキッチリしてて、あたしの時はタメ語っすか?」


シノブ「ごめんなさい……」


サキ「まあ、あたしは家事も出来るわけじゃないっすから。はやく絵具。買って来い」

 シノブは逃げ出すように家を飛び出して街にあるお店で、サキの絵具を購入します。


店員「やあ、シノブちゃん。サキちゃんのお使いかい?」


 店員の言葉に、シノブは黙って頷きます。


店員「たまには自分で買いに来ればいいのにね」


シノブ「良いんです。あたしが好きでやっていることですから……」


 そう言って代金を払い、絵の具セットを購入します。


店員「そう言えば、『アレ』どうなった?」


 店員の言うアレとは、オーディションである。新人アイドル発掘オーディション。アイドルを目指す人間の登竜門です。

シノブ「あー。送る日にずたずたの応募書類が……」


 シノブの言葉に店員も肩を落とします。


店員「本格的に家を出た方が――」


シノブ「あ!そろそろ戻るね!」


 シノブは絵具を持って、慌てて店を後にしていきました。


サキ「遅いっす!」


 シノブが帰ってきて早足でサキの部屋に戻ったところで待っていたのは、彼女の一喝でした。


シノブ「ごめんなさい……」


サキ「絵具一つにどれだけ時間かけたらすむんすか!」


 サキの説教は延々と続きました。その時ドアをノックする音が聞こえ、入ってきたのはサナエでした。


サナエ「どうしたのサキちゃん?こっちにまで大きな声が聞こえたわよ」

サキ「ああ…。すいません。シノブが予想以上に遅いのでそれで怒っていたっす」


サナエ「シノブがドジなのは今に始まったことじゃないでしょ」


 サナエはサキの方に助け船を出して、シノブをいじめます。


サキ「まあ、絵の具を買ってきてもらえたので、今日はこの辺にしておくっす」


サナエ「良かったわねー。サキちゃん今日はご機嫌で」


 サナエは嫌味のある言い方で、シノブの方を叩いて部屋を出ていきました。


サキ「あ、もう用はないっすから、でていってもらえるっすか?」


 追い出されるように部屋を追い出されたシノブは、自分の部屋に戻ろうとしました。


コハル「あ、シノブお姉さん……」


 廊下で出会ったのは末っ子のコハルです。いつも抱いているイグアナはヒョウくんといいます。彼女とヒョウくんはいつも一緒です。

コハル「早く立ち去ってください。あなたがいるとヒョウくんの御機嫌が悪くなるんです……」


シノブ「あ、ごめんね……」


 忍は本当に申し訳なさそうに足早に立ち去って自分の部屋に向かいます。


 シノブの部屋は、屋根裏の狭くて薄暗い部屋です。申し訳程度のまでが一つと、屋根裏だから天井高もなく、立って歩くことが出来ません。他の人たちは普通のこの部屋よりも倍はあるくらい広いお部屋を使っています。


 シノブが三人の姉妹から嫌われている理由は、シノブだけが異父だからです。彼女はそれに負けじと家族の一員になるべく努力をしていますが、他の三人はそれを拒絶してしまいます。


 ――今日もダメ、だったな……。


 何とかベッドと呼ばれるものに倒れ込んでため息をつきます。何とか家族の一員に認めてもらうためにいろんなこと――シンデレラになろうとしていますが、どこから嗅ぎつけたのかシノブの応募書類を見つけて、ずたずたにして応募できなくさせてしまうのです。

 そして今回も、シンデレラの応募選考があると聞いて、シノブは服の下に火冷ませていたのです。


 今回の選考は王城での実技試験。審査員が直に参加者と踊り、最も優れた者が選ばれるというものです。


 今回は、サナエたち姉妹も参加するということで、シノブは細心の注意を払って応募書類を守ってきた。


 机の引き出しの中。底を軽く押すと浮き上がるのでそれを掴んで上げ底を引き上げます。そこには一枚の紙きれ――応募書類が置いてありました。それを見て


シノブはほっと安堵の溜息をつきました。


シノブ「良かった。まだ残ってた……」


 忍は大事そうに書類を抱えて、それが終わると再び元の場所にしまい、上げ底で隠しました。


 誰も見ていないな。と引き出しを閉めてベッドに横なり、程なくしてシノブは整った寝息をたてはじめました。


 しかし、ドアではその様子をつぶさに見ていた二つの目がありました。

 そして審査会当日。


 朝からシノブは三人にこき使われ、ようやく解放されたのが夕方すぎてのことでした。しかし、すぐに夕食の片付けに入るため本当にわずかな一人の時間です。


 部屋に戻り引き出しを開けます。一目見てシノブの表情に焦りが噴出しました。


シノブ「……ない。応募書類がない!」


 昨日の夜まではあった書類が無くなっているのです。すぐに机の引き出しを探しましたが、見つかりません。


シノブ「うそ、うそよね……」


 今度は部屋中を物を出して紛れ込んでいないかをチェックしますが、それでも見つかりません。


サナエ「ちょっとシノブ!何やってるのよ!」


 夕食を終えたサナエが、いつまでも片付けに来ないシノブを見かねて怒鳴り込んできました。

サナエ「アンタそんな事して何やってるの?」


シノブ「それは……」


 シノブはすんでのところで言葉を飲み込みました。シンデレラになるための応募書類が無くなった。と言えば、たちまちバカにされるだけです。


サナエ「気でも触れたかもしれないけど、片付けはちゃんとやってよね。それじゃおやすみ~」


 気楽に手を振ってその場を立ち去ったサナエ。希望を失くしたシノブはとぼとぼと部屋を出て、食べ散らかった食器たちを片付けます。


シノブ「うう……。うう……」


 シノブは声を極力殺しながら泣きます。食器を洗いながらなので両手は塞がってしまい、涙は食器の中に消えていきます。


シノブ「どうして、どうしてあたしばっかり……」

シノブは物音で我に返りました。


シノブ「誰!?」


 そこにいたのは黒いローブを羽織った人物。そこから見える顔はなぜか笑顔でした。


???「あなたがシノブさん?私は魔法使いのアイコです!」


 アイコは会釈をすると自己紹介をしました。


シノブ「その魔法使いのアイコさんが何か用ですか?」


アイコ「あなたを魔法のお城にご招待するよう、主より言付かっております」


シノブ「主?誰それ?もしかして、あたしを騙そうと……」


アイコ「うーん。信じてもらえませんか?」


シノブ「あたしは、少なくとも今は他人を信用できない……」


 忍はそう言って、布団を頭からかぶりました。


アイコ「あなたはシンデレラになれる器なんですよ。それをたった一度や二度の挫折で――」

シノブ「一度や二度だけじゃない!何度も、何度もあいつらに邪魔されてきたの!そして今度こそと思ってたのに……」


 忍は起きだして怒鳴りだしたかと思いきや、大粒の涙を流し始めました。


アイコ「…想像以上につらい生活を送ってきたわけですね。私を信じてくださいね」


 そう言うと魔法使いのアイコはステッキを取り出して、呪文を唱え始めます。


アイコ「我が力を、汝に開放せよ!シンデレラ!」


 呪文を唱え、杖をシノブの方に向けました。すると光がシノブを包み込みました。


シノブ「な、なにが起きているの?」


アイコ「それはもうすぐわかります♪」


 光が徐々におさまっていき、完全に光が消えると、なんということでしょう!つぎはぎだらけだったシノブの服は、白を基調とした綺麗なドレスに変わりました。


 変化はそれだけじゃありません。髪も綺麗になってみたこともない髪飾りも付けています。

シノブ「すごい……。これがアタシ……」


アイコ「私の魔法は、その人の持つ力で服装や装飾品が変わっていくけど、ここまで大きく変わった人は初めて……」


シノブ「これってすごいこと、なのかな?」


アイコ「すごいですよ!あなたなら、大丈夫。日ごろの努力と芯の強さもあなたならシンデレラになれます」


 そのままアイコが続けます。


アイコ「ただし、十二時までには人目のつかないところに消えてください」


シノブ「え?どういうこと?」


アイコ「私の魔法は十二時と同時に解けてしまいます。なので、それまでに戻ってきてくださいね」


シノブ「ありがとう。アイコさん」


アイコ「さあ!急いで!」

 シノブはドレスを着たまま、会場に向かいました。


 会場であるお城には大勢の女性が開場を待っていました。各々の勝負服に身を包んでいます。そしてみんなの表情は本気です。


 開場の声が聞こえると、参加者たちは我先にとお城の中に消えていきます。中には他の参加者を押しのけて入ろうとするため、所々で罵声のような声が聞こえ
てきます。


シノブ「――みんな、本気。なんだね……」


 その気迫に押されながらも、シノブはアイコに言われた言葉を胸に秘めてお城の中に入っていきます。


 入って長い通路を通り抜けるとそこは広いダンスホールのような部屋に出てきました。上にはそこから貴賓席が一つあるだけです。


マナミ「参加者の諸君。ようこそ。私は今回の審査委員長であるマナミだ」


アイ「同じく審査委員のアイだ。よろしく」


 マナミとアイは男装の麗人のような中性的な見目の女性です。それを見て魅了された女性も少なくありません。


マナミ「それでは一次試験と二次試験を同時に行う」


 マナミの話に参加者がざわつきます。

アイ「なあに、簡単なこと。大多数の人は曲に合わせて踊り、ごく一部の参加者には面接も行うだけ」


アイ「まずは試験番号1から面接を始める1から10番まで面接室まで待機していてくれ」


マナミ「それ以外の参加者はここで待機しているように。すぐに音楽をかける」


 マナミの言葉通り、すぐに音楽がかかり参加者は踊りを始めます。


 シノブもすぐに踊りを始めます。踊りは日ごろから隙を見て練習をしているのでよどみなく踊っています。


 上ではマナミが参加者の様子を見て、その様子をなにやら紙に書いています。


 その内容を気にしつつ、シノブは自分の踊りをマナミに見てもらえるように踊ります。


アイ「次に11番から20番。面接室まで来なさい」

 アイの言葉で次の人たちが消え、終わった人たちがすぐに踊りを開始します。


 シノブはそこで気が付きました。彼女は番号を貰っていなかったのです。次々と番号が呼ばれていますが、果たしてどこで行けばいいのでしょうか。


マナミ「最後、呼ばれて入ないものたち来なさい」


 マナミの言葉にシノブは待ってましたと言わんばかりに面接室へ向かう。そして一番後ろに並びます。


マナミ「次。入りなさい」


シノブ「し、失礼します」


 そしてシノブの番です。緊張のあまり上ずった声が出てしまいます。


 中に入り、マナミがシノブを一瞥します。


マナミ「君か」


シノブ「え?あたしを知っているんですか?」


マナミ「魔法使いアイコを遣わしたのは私だからな」


シノブ「どうして私を?」


マナミ「君は中々の素質を持っている。しかし、なぜ今まで数ある試験を受けてこなかったのか。それが気になってね」


シノブ「それは……」


 シノブはマナミに事情を話しました。

マナミ「なるほどね。そういうことだったのか……」


 シノブはマナミの奥にかかっている時計に目をやります。十一時五十五分。間もなく約束されていた十二時を迎えてしまいます。


シノブ「すいません!これで失礼します!」


マナミ「こら!待ちたまえ!」


 シノブは席を飛び出して、部屋を抜け出して走ってお城を出ていきます。


サナエ「今走って行った子、誰かに似てなかった?」


 参加していたサナエが、サキとコハルに話しかけます。


サキ「知らない子っすね。見間違いじゃないっすか?」


コハル「コハルもしらないですー」


 シノブは呼吸を忘れて、全力疾走を続けます。誰かに見られてしまったら、元のみすぼらしい服装を見られてしまいます。

シノブ「ここだったら、大丈夫かな?」


 シノブが身をひそめたのは、木々が生い茂る茂み。もちろん人の気配もありません。


シノブ「もうすぐ、十二時……」


 シノブは切れた息を整えながら、十二時になるのを待っていました。が、いつまで経っても魔法が解ける様子がありません。


 シノブ「あ、あれ?どうして?」


???「それは君が本当のシンデレラだからだよ」


 茂みから声が聞こえ、シノブは身構えます。そこから出てきたのは、アイ、マナミ、そしてアイコでした。


シノブ「あたしが、シンデレラ?」


アイ「そうだ。君が本当にここに来る気があるのかを試していたんだ」


シノブ「あたしは、合格なんですか?」


マナミ「ああ。君のことはある程度知っていたんだが、直に見てみたかったのでね」


シノブ「知っていた?どういうことですか?」


 話の内容が掴めないシノブはどういうことなのかを聞きます。

マナミ「それは『彼』が見ていたんだ」


 真奈美のそばからひょっこり現れたのは、コハルが肌身離さずいたイグアナのヒョウくんです。


シノブ「それは小春ちゃんが飼っていた……」


アイコ「これは私が魔法で作りだしたものなんです」


シノブ「そうだったんですか……」


アイ「試した真似をしたことは申し訳なかった。だが、新しいシンデレラは君だ」


シノブ「ありがとうございます!」


アイ「手を取ってくれるかな?今日は新しいシンデレラの披露宴だ」


シノブ「はい!」


 こうしてシンデレラとなったシノブはマナミとアイの住むお城で幸せに暮らしましたとさ。おしまい。

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