高橋礼子「こどもプロデューサー」 (45)

P「盛況ですね。ディナーショー」

礼子「こういうお仕事は好きよ。パーティーの雰囲気が、私には合っているわ」

P「本当はもっとライブ的な営業も入れたいんですが、これだけ盛り上がると嬉しいですね」

礼子「私の喜びは、貴方の喜び……というわけかしら? P君」

P「俺の喜びは、貴女の成功ですよ。礼子さん。アイドルとして輝く貴女を、俺が支えている……その手応えですね」

礼子「ふふっ。ところで……一番前のテーブル席、子供が座ってるわよね」

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P「ああ。あの子ですか。どうやら、大口食品の御曹司らしいです」

礼子「大口って、あの業界大手の? じゃああの子の隣にいるのが……」

P「大口社ち……いや、今は会長か。ま、相手がどこの誰でも、礼子さんは気にしないでしょうけど」

礼子「それはそうよ。私を観に来てくれたお客様に、区別はしないわ。ただ、子供が私のショーとか観て楽しいのかしら?」

P「それこそ、余計な区別は必要ありませんよ」

礼子「え?」

P「とても熱心に、礼子さんを観てましたよ」

礼子「そう。……嬉しいわ。子供の純真な目から見ても、私が魅力的に映るなら光栄だわ」

P「さ、じゃあ礼子さん。最後の出番ですよ。よろしく」

礼子「ええ……いくわよ!」

高橋礼子(31)
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礼子「~♪ ふう。皆様、今夜はどうもありがとうございます。私も、皆様の歓声で体がアツくなってきたわよ。ふふっ。あら?」

少年「あ、あの。こ、これ……」

礼子「あら、お花? ふふっ、ありがとうね」

ギュッ

少年「!?」

礼子「また……私の歌を、聞いてね。今度は昼間のライブとかに来てね。夜更かしはダメよ?」

少年「……////」

礼子「今夜は最高の夜です。ありがとう、皆様」

――翌日 事務所――


若林智香「た、たたた、大変ですよ礼子さんっ!」

礼子「あら、おはよう……え? なに?」

千川ちひろ「昨日、ディナーショーのお仕事でしたよね?」

礼子「? ええ」

智香「なにがあったんですかっ!?」

礼子「なにが、って。別に……いいショーだったわよ」

ちひろ「そのショーに、子供が来ていませんでしたか?」

礼子「? 来てたわよ。可愛いボクが」

智香「やっぱり……」

礼子「あのボクちゃんがどうかしたの?」

子供「ボクちゃんじゃない!」

礼子「え? あれ? あなたは……」

子供「ボクは礼子さんのプロデューサーだぞ!」

礼子「え?」

子供「今日からボクが、礼子さんのプロデューサーだ!」

礼子「えええええええ!?」

礼子「なにがいったいどうなってるの!?」

ちひろ「それが……今朝一番に大口食品から電話があって、あの子にここでプロデューサーみたいなことをさせて欲しい、って」

礼子「プロデューサーみたいな、って……子供にできるわけないじゃないの」

ちひろ「それはそうなんですけど、大口さんはウチの上の方にも話を通したみたいで、上も『万事相手方の要望に沿うように』って」

礼子「なんですって? それでP君はなんて?」

智香「それが……その……大笑いをされて……」

礼子「はあ!?」

ちひろ「その後で『抱擁だけで男の子を1人トリコにするとは、流石は礼子さんだ』っておっしゃって……」

礼子「まあ、それは……」

智香「これもファンサービスの一環だと思って、がんばってくれ……って」

礼子「P君!!!」

ちひろ「何か問題が発生したら、呼ばれればすぐに助けに行く、とも」

礼子「要はほったらかされたわけね! なによ……子供とはいえ、他の男に私がプロデュースされてもいいのかしら……P君は……」

智香「え?」

礼子「いいわ。P君がその気なら、プロデュースしてもらうわよ。あの子に!」

~レッスン場~

礼子「それで? 今日はどんなレッスンをするのかしら?」

子供「レッスン?」

礼子「稽古よ。練習というか本番に備えての、準備」

子供「礼子さんにそんなものひつようないよ」

礼子「え?」

子供「礼子さんは、とってもきれいなんだもん! それだけでいいんだ」

礼子「そ、いや……ええと……」

双葉杏「ねえ、あの子。杏のプロデューサーやってくれないかな」

ちひろ「杏ちゃん? 杏ちゃんは、ちゃんとレッスン受けてくださいね」

礼子「れ、レッスンしないでいいなんて……どうするのよP君……!」

子供「礼子さんはきれいだなあ……はあ……」

~ブーブーエス~


礼子「これから歌番組の収録だけど……大丈夫なの?」

子供「礼子さんはきれいなんだから、いつもどおり歌っておどればいいんだよ」

礼子「いえ……あのね、他の出演者の方たちとの衣装の兼ね合いとか歌う歌とのマッチングとかあるのよ」

子供「そんなのほかの人が、礼子さんにあわせればいいんだ!」

礼子「そ、そんなわけにはいかないのよ」

子供「いいんだ!!」

礼子(ど、どうすればいいのよ……)

~事務所~


ちひろ「お疲れさまでした礼子さん……って、本当にお疲れみたいですね」

礼子「もー……なんなのよ、この子……挨拶から衣装選びに打ち合わせまで、全部私がやるなんてー……」

ちひろ「あ、あはは。さすがにグッタリしてますね」

礼子「普段ならP君が全部やってくれてるから、私は控え室でのんびりしてればいいのに……」

ちひろ「……プロデューサーさん、礼子さんには特に献身的ですから」

礼子「……思い知ったわよ。いかに今まで甘えていたか」

ちひろ「あら。でもプロデューサーさんはいつだって、少しも嫌そうじゃありませんよ? むしろ……」

礼子「え?」

ちひろ「うふふ。早く戻ってきてくれるといいですね、プロデューサーさん」

礼子「え、そ、そうね。この子じゃあ……」

子供「……むにゃむにゃ」

ちひろ「疲れて礼子さんの膝の上で寝ちゃうなんて、すごいプロデューサーさんですね。ふふっ」

礼子「もう。笑い事じゃないわよ……」

子供「おかあさん……」ギュッ

礼子「……え?」

ちひろ「ちょっと調べてみたんですけど。この子のお母さん、お亡くなりになってるみたいなんです」

礼子「そう……」

子供「……おかあさん」

礼子「……」

~事務所 屋上~


P「こんな所にいたんですか、礼子さん。寒くないですか?」

礼子「ようやく帰ってきたわね。まったく、どういうつもり?」

P「別に他意はありませんよ。大口さんは大事なスポンサーですし、その意向に従ったまでです」

礼子「言うわね。こっちは大変だったんだから」

P「礼子さんなら、大丈夫だと信じてましたから」

礼子「しれっと、そういうこと言うのね」

P「礼子さんこそ。もっと怒っているかと思っていましたけど?」

礼子「大事な事に気づいたのよ」

P「? なんですか?」

礼子「……いつも、ありがとう」

P「……大変だと思ったことは、一度もありませんよ」

礼子「でも、ありがとう」

P「どういたしまして」

礼子「……あの子のお陰で、わかったことがもうひとつあるわ」

P「なんですか?」

礼子「あなた、嬉しかったんでしょう? あの子がプロデューサーをやらせろ、って言ってきて」

P「……ええ。泣きたくなるぐらいにね」

礼子「あら」

P「アイツ……いや、あの子は礼子さんを自分だけのものにしろとは言ってこなかった。あの子は、自分を俺の代わりにプロデューサーにしろと言ってきた」

礼子「そうだったわね」

P「俺の礼子さんを、俺の仕事を、認めてもらえた気かしましたよ。あの子は、礼子さんの『プロデューサー』にならせろと言ってきた。そして、俺を邪魔だと言ってきた。……嬉しかったですね」

礼子「……やっぱり、少し寒いわね。ねえ、そっちに行ってもいい?」

P「? それはかまいませんが……あ」

礼子「こうすると、暖かいでしょ? 2人とも」

P「……誰かに見られたらどうするんですか?」

礼子「こんな深夜に、誰も来やしないわよ。あの子も……ね」

P「……それもそうですね」

礼子「時々、不安になるわ。いつまでアイドルを続けられるか。明日も今の私を維持する、その難しさを日々痛感しているわ」

P「それを支えるのが、俺ですよ」

礼子「私も、あの子みたいな子供がいてもおかしくない歳なのよね」

P「それでも礼子さんがアイドルを続けている。それだけで夢や希望を、与えている存在でしたよね」

礼子「いつまで……支えていてくれるの?」

P「……いつまででも」

礼子「この事務所は、終身雇用の制度があったかしら?」

P「この事務所ではなく、俺が礼子さんを、という事です」

礼子「……」

P「……」

礼子P「「……」」

~翌日 ブーブーエス~


礼子「打ち合わせと曲が違う!?」

スタッフ「事前に今日は、ピンク・ダンサーでお願いしたいとお伝えしたはずですが」

礼子「どうなってるの?」

子供「べつに、どのきょくでもいいでしょ? 礼子さんなら……」

礼子「そういうわけにはいかないの!」

子供「え?」

礼子「他の人との兼ね合いもあるって、言ったでしょ!? それに衣装だって曲に合わせて用意してるのよ」

スタッフ「あの、ディレクターが『どうなってるんだ』とカンカンで……それに今日はスポンサーのお偉いさんも見学にいらしてて、ですね」

子供「しょうがないな。ボクが、おとうさんにたのんで……」

礼子「そんな事、通じるわけないでしょ」

子供「え?」

礼子「この世界は、実力と信用の世界よ。それにそもそも……間に合わないわ」

子供「じゃ、じゃあどうしたら……」オロオロ

礼子「君!」

子供「!!」ビクッ

礼子「君が考えて。君は私の、プロデューサーなんでしょ」

子供「え? ぼ、ボク……」

礼子「私のピンチに、どうすればいいのか考えるのも、君の仕事なのよ?」

子供「ボク……」

スタッフ「あの、どうしましょうか?」

子供「……わ、わかった」

~ ? ~


P「はい。もしもし?」

子供「お、おまえにボクを、てつだわせてやる!」

P「……なにかあったな?」

子供「うちあわせときょくがちがうねっていわれて……そ、それで……た、たすけ……お、おまえにたすけさせてやるから、すぐにこい!」

P「今日の予定は確か……今、ブーブーエスだな? わかった、30分まってろ」

礼子「君、ちょっと代わって。もしもし? P君? 今どこにいるの?」

P「大洗です」

礼子「……それって茨城の?」

P「ええ。次のイベントの打ち合わせで」

礼子「間に合うわけないじゃない! 本番まで1時間もないのよ?」

P「礼子さんのためなら俺は、どこにいようとすっ飛んで行きますよ。屋上で待っててください」

礼子「屋上? ブーブーエスの屋上って……」

~ブーブーエス 屋上~


P「お待たせしました。さっきの電話から32分……まあ許容内ですか」

礼子「驚いたわね。本当に飛んで来るなんて」

P「タネをあかせば、いつでも駆けつけられるような場所にだけいるつもりでした。大洗には、比たち野ヘリポートがあるのを知ってましたし、ブーブーエスは屋上がヘリポートになってますし」

礼子「……やるわね」

P「プロデューサーとしての責務ですよ。いや、それに対してはこれからか。ヘリの中で状況は確認しました」

子供「あ、あの……」

P「後は任せろ」

P「失礼しました。曲は事前打ち合わせ通りで。ええ。ですが、歌詞を差し替えます。尺は変わりませんから。はい、大丈夫です」

P「衣装ですが、最初の提示とは違う事になりますけど、色をそちら様の衣装に合わせたいと思いまして。いえいえ、お互い様ですから。今回はそちら様をメインに……ええ」

P「どうもいつもお世話になります。高橋ですが、後ほどご挨拶を。サインですか? それはもちろん……はい。20枚ですね。ええ、ありがとうございます」

礼子「いつもながら、あざやかなものね」

P「いえ。少々無理をしてもらいますよ、礼子さん」

礼子「この窮地に、贅沢も我が儘も言えないわ。それで?」

P「まずこの色紙にサインをしながら聞いてください」

礼子「ええ」

P「端にキスマークを」

礼子「え?」

P「特別サービスです。ひとつだけでいいですから」

礼子「こういうの安売りはしたくないけど……特別よ」

P「同感です。だから特別です」

礼子「はい……それで?」

P「曲はピンク・ダンサーで」

礼子「レッスンしてないわよ?」

P「歌詞をトチりそうになったら、ラララで歌ってください」

礼子「いいの? それで」

P「その代わり、バックコーラスはナシです」

礼子「えっ?」

P「ラララで歌うのに、バックコーラスが歌詞を補助歌唱したら変ですから」

礼子「じゃあ完全にソロで歌うのね」

P「ダンスもわからなかったら、止めを多くしてポージングしてください」

礼子「いいわ」

P「衣装は局から借りました」

礼子「それ、サイズは合ってるの?」

P「いざという時の為、以前から見繕っておきました」

礼子「そう。ならいいわ」

P「ただし、サイズは一回り小さいです」

礼子「合ってないんじゃない!」

P「胸が強調されますから」

礼子「それが目的ね……もう、そういうアピール今日だけよ」

P「わかってます、俺も安売りするつもりはないですから」

礼子「……わかったわ。贅沢言える立場じゃないもの」

P「では、準備を」

子供「……」

ディレクター「いやあ。今日の礼子さん、いつもと違った趣向でスポンサーさんも喜んでおられましたよ」

P「恐れ入ります。また高橋を呼んでやってください」

礼子「ふう。なんとかなったわね」

P「お疲れさまです。途中からノッてるのが、ソデから見ててもわかりましたよ」

礼子「でも疲れたわよ。緊張したしクタクタよ」

P「だと思いまして、近くのエステの予約を取ってます」

礼子「気が利くわね。でも、祝杯はあげなくていいの?」

P「それはまた、夜にでも。エステの間、次の打ち合わせをしておきます」

礼子「そう。じゃあまた、後でね……あ、そうそう」

子供「……」

礼子「君、こっちへ来なさい」

子供「あ、あの……」

P「礼なら必要ないぞ」

子供「その……」

P「どうする? まだやるか? 礼子さんのプロデューサー」

子供「……」

礼子「もうわかったんじゃないの? プロデューサーがどれほど大変か、って」

子供「……」

P「まあまあ、礼子さん。どうする? 自分から『やる』と言ってきたんだろ? 進退は自分で決めろ」

子供「しんたい?」

P「自分の身の処し方……いや、そうだな……ケジメのつけ方、だ」

子供「……」

P「やるのか? やめるのか?」

礼子「ちょ、ちょっとP君。子供にそんな言い方……」

子供「じゅ」

P「ん?」

子供「10ねんだ!」

礼子「え?」

P「……」

子供「10ねんで、おまえにおいついてやる! いまからいっしょうけんめいべんきょうして、10ねんでおまえにおいついて……いいや、おまえよりすごいプロデューサーになってやるからな!! おぼえてろよ、ばーかばーか!!!」

礼子「ちょ、ちよっと君……い、行っちゃった……」

P「……ふっ……くくく……あはははははは!! 10年で俺を追い越すときたか」

礼子「笑い事じゃないでしょ。もう……今日の私を明日また維持するのに、私がどれだけ苦労してると思ってるのよ……」

P「……」

礼子「10年なんて……」

P「……」

礼子「とんでもない目標が、できちゃったじゃないの」

P「おやおや。いや、さすがは礼子さんだ」

礼子「期待されてるなら、応えないとね」

P「ふふっ。当然、俺の目標もその礼子さんを支えること……ですね」

礼子「色々、苦労させるわよ?」

P「よろこんで」

礼子「色々、待たせることになるかも知れないわよ……」

P「至福の時間ですよ」

礼子「……安心したわ」

P「心配なんて、させませんよ。礼子さん」

礼子「……」

P「……」

礼子P「「……」」


お わ り 

P「おやおや。いや、さすがは礼子さんだ」

礼子「期待されてるなら、応えないとね」

P「ふふっ。当然、俺の目標もその礼子さんを支えること……ですね」

礼子「色々、苦労させるわよ?」

P「よろこんで」

礼子「色々、待たせることになるかも知れないわよ……」

P「至福の時間ですよ」

礼子「……安心したわ」

P「心配なんて、させませんよ。礼子さん」

礼子「……」

P「……」

礼子P「「……」」


お わ り 

以上で終わりです。おつき合いいただき、ありがとうございました。
礼子さんの誕生日祝いのつもりでしたが……まあ、同月内はセーフということで、誕生日おめでとうございます。高橋礼子さん。

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