二宮飛鳥「無数の流星と小さな勇気と」 (42)

二宮飛鳥ちゃんのSSです

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はぁ、と小さく息を吐いて空を見上げる。

空はボクの心を現すかのごとく分厚い雲が覆っており、ボクの憂鬱な気持ちを増幅させるのだった。

今日も考えるのは担当プロデューサーである彼のことだ。

彼のおかげもあってボクの人気はあがっている。いわゆる中二病なボクのようなキャラクターが受け入れられるのかと思っていたけど、彼の手腕かそれとも奇特な人が多いのかボクは受け入れられている。

また、同じ中二病という繋がりからか神崎蘭子というアイドルと共に露出することもあり、彼女がいかにもお姫様なものだからボクが彼女と組むときはよく『飛鳥王子』、なんて呼ばれていたりする。

人気が出るのはやぶさかではないのだけど、ボクはこれでも女の子なわけでやっぱり王子と言われるよりもお姫様には憧れるものだったりして。

そんなボクの気持ちを知ってかしらでか、プロデューサーはよくボクのことを王子と呼んだりしてからかってくる。

もっともそれは蘭子と仕事をした後だったり、蘭子と一緒にする仕事の説明をする時なので分かりやすいからまあ仕方ないかと諦めの気持ちを抱いている。

一応、前に一度プロデューサーに「王子というものばかりなのはちょっと」と言ったことはある。

けれどプロデューサーは「分かってるけど需要があるから……ごめんな」と謝ってきたのだった。

そう言われてしまうとボクにはもうなにも言い返せなかった。

『王子』と呼ばれるのを甘んじて受け入れたボクだったけれど、やはり身近な男性、まあプロデューサーなんだけれど、には女の子として見て欲しいし、欲を言えばボクがずっと想っていることも気付いて欲しいわけで。

ずーっと片想いしているのにプロデューサーは素知らぬ振り。

感謝もしているし好きだけれど、そこだけは恨めしい。

そう、片想いに気付いて欲しいと言っているけど、そこらの小娘みたいになにも行動せずとも想いに気付いてほしいなんてわけではない。

事務所の大人の方々、事務のちひろさんだったり、文香さんだったり、美波さんやあいさんにアドバイスを貰って慣れない香水を付けてアピールしてみたり、少し露出度の高い服装をしてみたり手作りのお菓子を差し入れしたのにまーったく気付いてくれない。

彼はおかしいのではないだろうかと思う時もある。

彼と共にいる時は一緒に居られる嬉しさから余計ことは考えずに済むのに、こうして彼と別れた後に一人になるとこうして考えてしまう。

こうした考えから逃れるため、というわけじゃないけどラジオの電源を入れる。

ザザッと一瞬のノイズの後、ラジオからパーソナリティの女性の声が流れてくる。

「………はい、それでは次のお便りです。
東京都にお住みのラジオネーム、恋する乙女さんからです。あら、17歳なんですね。
私は今、歳上の彼に片想いをしています。しかし、彼は私のことを異性として見てはいないようで色々なアプローチをしても気付かれません。
また、私はよく王子様と呼ばれたりしている上、彼の周りには私以外にも女性が多く、同性の私から見ても魅力的な女性ばかりなので彼の興味は私より彼女たちに向いているのか不安になってしまいます。
一体どうすれば良いでしょうか。とのことですね」

流れてきた言葉にはっとする。
ボクとよく似た状況だった。思わず身を乗り出して耳を傾ける。

「王子様ってことはボーイッシュな子なんでしょうか。
それなら思い切って今までと違った服装をしてみたり、お弁当やお菓子を差し入れして女子力をアピールするのもいいかもしれませんね。
もし既にそういったことをしているのであれば……うーん、思い切ってデートに誘ってみるのはどうでしょう。デートの最中に、彼がドキッとするようなことを言ってみればきっと気付いてくれますよ! 頑張ってくださいね!


……さて、それでは次の曲に行きましょう」

彼女の助言を聞き終え、ふむ、と手元を見るといつの間にメモしたのか先程のアドバイスが記されていた紙があった。
試してみるのもいいかもしれない。幸いにもボクの場合はアイドル一人につき、プロデューサーが一人というスタイルだから焦っているわけではないけどこれはいいかもしれない。

そうと決まれば早速どう誘うか考えなければ。ふんふんと鼻歌を奏でながら夜は更けていった。

○ ○ ○


眠い。凄く眠い。

結局あのままプロデューサーをどう誘うかを考えていたらそのまま寝落ちしてしまい、ロクに寝られぬまま次の日へとなってしまったため、デートに誘う良い文句は思いついていない。

まあ、彼を前にすればきっとなにか言えるだろう。

そんなことを思ったら事務所へと着いた。

「おはようございます」

「おはよう、飛鳥」

「やあ、いい天気だね、プロデューサー」

「いい天気すぎて暑くなりそうだけどなぁ。急に暑くなったけど飛鳥は体調とか大丈夫か?」

「ふっ、ぬかりはないよ。耐えられないと思ったら素直に文明の利器に頼る。痩せ我慢をするほどボクは頑固ではないよ」

「もう冷房付けてるのか……? いや、まあ体調を崩されるよりかはいいんだが……」

「キミは天気予報を見ないのかい? 日本では既に夏日になっている地域もあるらしい。ならもうエアコンさんに稼働してもらうのは別におかしなことじゃないだろう?」

「まあ、それもそうか……」

朝の挨拶を終え仕事へと戻るプロデューサーを見つめる。

毎朝こうしているのに気付かないのはよっぽど鈍感なのかそれとも仕事に集中し過ぎているのかどっちなのだろう。後者であることを願いたい。



○ ○ ○


「お疲れ様、プロデューサー」

「飛鳥もお疲れ、あんまり暗くならないうちに……ってまあ残るか」

「駄目かい?」

「駄目って言っても残るくせに。いつものことだし別にいいよ」

「そんな優しいキミにはボクから差し入れの珈琲をプレゼントしよう。どうせまだ一時間くらいかかるんだろう?」

「はは、流石によく分かってるな。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせるからそこら辺で待っててくれ」


了解、と返してぽすんとソファへと沈み込む。

夜の事務所にはボクとプロデューサー以外には誰もいない。

思案の海へと溺れるには丁度良かった。頭に思い浮かぶのは昼間、移動中の車内でプロデューサーと聞いたラジオでのある話題だった。曰く、もうすぐなんたら流星群が見れるとのことらしい。

普段は神様なんてものは信じないボクだけど、今回ばかりはこんな大チャンスをくれたとして感謝を述べたくなる。

心の中で『ありがとう神様、しばらくは貴方に感謝するよ』なんて白々しく考えていると、ずっと聞こえていたキーボードを叩く音が聞こえなくなったことに気付いた。

仕事が終わったのだろうかと彼へと顔を向けると、丁度デスクから立ち上がるところだった。

「仕事は終わった?」

「ああ。今日やらなきゃいけない分は終わらせたよ」

「もうお別れか。少し寂しいね」

「まだ寮まで送る時間一緒にいられるし、また明日も会えるから我慢しなさい。飛鳥が帰る時間が遅れると怒られるのは俺なんだから」

「ふふ、二人で仲良く怒られるのもいいものかもよ」

「それは勘弁願いたいなっと、よし、帰ろう」

「あぁ」




○ ○ ○

「流石に夜にもなると暑さは和らいで過ごしやすいもんだな」

「……あぁ、そうだね」

プロデューサーがなにやら話しかけてくれているが今のボクはプロデューサーをデートに誘うことで頭がいっぱいになっていた。

「飛鳥?」

「…………」

「おーい?」

「…………」

「飛鳥ー? 飛鳥さーん?」

「…………」

「あすあすー?」

「……わぁっ!?」

突然プロデューサーの顔が視界一面に広がり素っ頓狂な声をあげてしまった。

いきなりだったので女の子らしくないはしたない声を上げてしまったことと、プロデューサーの顔が余りにも近くにあったこととで顔が一気に赤くなる。


「……どうした?」

「あ、いや、その……プロデューサーは流星群に興味なんてあるかな」

言ってしまった。もっと自然な流れで聞こうと思っていたのに焦りでいきなり聞いてしまった。

「流星群かぁ。そういえば昼間そんなことを言ってたっけ。飛鳥もやっぱりそういうのが気になるんだな」

「まぁ……そうだけど……」
きっと真っ赤になっているであろう顔をぷいっと逸らしながら答える。

「流星群なぁ。えーっと……その日はお昼過ぎまで仕事、か」

「……その後予定はあるのかい?」

「うーん、残念ながらないな」

「本当かい! じゃあその、よければ……」

「一緒に見に行く?」

「うっ……やっぱり分かってたか、参ったね……」

「むしろなんであれで分からないと……」

「一人で見るのも悪くないけどそれはどうかと思ったからね。助かったよ、プロデューサー」

「蘭子ちゃんとかじゃなくて俺でいいのか?」

「もちろん、むしろプロデューサーの方が……」

「そ、そうか……」

「ああ、ふふっ」




○ ○ ○


「んーっ。お疲れ、飛鳥」

「あぁ、お疲れ様。えっと、それでこの後……」

「流星群見るんだろ? 夜までまだ時間あるけど早めに出るか」

「え……まだ15時を回ったところじゃないか。どこに行く気だい?」

「どこって、飛鳥こそどこで見ようと思ってたんだ……」

「事務所の屋上……とか?」

「……一応言っておくと、今日の事務所の屋上は賑やかだと思うぞ。俺たちみたいに流星群を見ようって考えてる人が多いだろうな」

「あっ……」

「気付いたようだな。まあそんなことだろうと思って事前に綺麗に見えるだろう場所を探しておいたから行こう。そこそこ遠いけどまあいいだろ?」

「流石プロデューサーだね」

ボクが褒めると「フフ-ン!!」とまるで先輩アイドルの某輿水さんよろしくドヤ顔していたのが妙に面白く、くすりと笑ってしまった。

「似てただろ? さ、行こう」

「うん」




○ ○ ○


「……なぁ」

「どうしたんだい、プロデューサー」

プロデューサーに連られて着いた場所は事務所から暫く離れた場所にあった小高い山だった。

プロデューサーが言うには私有地だが特別に許可を貰っただとかで内緒だと笑いかけてきたのが印象的だった。

何の変哲もない場所だけれど空を見上げるには丁度よく、また都市部からもそこそこ離れているので流星群を見るのには絶好の場所だろう。

そんな場所で、来る途中で買い込んだ軽食を食べ終え、後は流星群を待つだけとなった時にプロデューサーに問いかけられた。

「飛鳥はさ、アイドルをやってきてやめたいなー、なんて思ったことないか?」

「……なんでそんなことを?」

「……飛鳥はまだ14歳だろ? それなのにこんなに売れっ子になって忙しい。俺からアイドルにならないかと誘ってあれだけど、他のアイドルみたいな仕事じゃないことをさせているなと思ってな」

「ボクはそんなことを思ったことはないね。確かに仕事は忙しいし、アイドルらしいきゃぴきゃぴしたようなことをしているわけでもない。でもボクは望んでこうしているんだし、キミに出会った時に言ったように、キミと歩む未来が見たいんだ。
……それに、もっともっと大きな理由があるからね。そんなことを考えることなんて思いつきもしなかったさ」

「もっと大きな理由?」

「あぁ。まあ……時期がきたら言うよ、きっとね」

「そうか、楽しみにしていよう」



プロデューサー、キミと共に歩み続けたいからだ。という言葉をぐっと飲み込んで夜空を見上げる。
それを言うことができる勇気があれば、なんて滑稽な思いは心の奥へと沈めて。




○ ○ ○

夜空はあの日とは違ってとても澄んでいた。

雲など欠片もなく絶好の流星群日和というものがあればこんな夜空を指すのだろう。

夜空に一筋の光が奔る。それを筆頭に次々といくつもの光が雨のように降り注ぎ、思わず感嘆の吐息が漏れる。

煌めきながら夜空を駆けるいくつもの星々。
そんな単純な現象に人々は魅了される。

最初は一条の細い光だったものが時を経つにつれていくつもの束になる。それはまるで時を経つに膨らんでいくボクの恋心のようだった。


「……ねぇ、プロデューサー」

「どうした?」

「さっきのボクがアイドルを続ける理由、教えてあげるよ」


空を見上げていた顔を横にいたプロデューサーへと向ける。

ボクがプロデューサーが好きだということ。きっと彼は気付いているだろう。
この先へと行くにはボクから動くしかない。アイドルとプロデューサーという関係から恋人という関係へ。

行動するには勇気がいる。ボクにはそれがない。

けど、今なら。今ならこの流星がボクに勇気を与えてくれる。流れ星キセキなんて言葉が浮かんでつい笑ってしまう。

深く、深く呼吸する。

夜空では今も星々が降り続いている。

その星たちに手を引かれるれるようにボクは口を開いた。

「好きだから。どうしようもないくらい、好きだから。プロデューサー、キミのことが……どんなことよりも、なによりも、好きだから」

「……飛鳥……」


遂に言ってしまった。せめて、せめてシンデレラになるまでは秘めていようと思っていたのに。

後悔しても遅い。覆水盆に返らず、なんて言葉が今のボクにはお似合いだろう。


見上げた夜空には星のシャワーが降り注ぐ。

さっきまではボクを支えるように思えたそれが今ではまるでボクを突き刺すいくつもの槍のように見えてくる。

力が抜けていく。その場へと崩れ落ちる。

なんて愚かなんだろう。こんなことを言っても詮無いことなのに。

どんなことになろうと絶対に泣くまいと思っていたのに涙が溢れてくる。

必死に涙を流すまいと目を押さえるもボクの意識とは関係なしにそれらは流れ続ける。


「ごめん……ごめん……っ……!」

ただ隣にいたかった。いつか来る、ガラスの靴を履くその時まで一緒に笑いあって邁進していたかったのに。

望むべきではなかったことを望んでしまったから。まだまだこの手にあると思っていたものが失われてしまう。

「飛鳥……」

「……プロデューサー……」

言葉が出てこない。取り繕うとしたのに、言葉は言葉にならず嗚咽となって口から漏れる。

すると、ひしっと温かいものに覆われるような感触がボクにやってきた。


「飛鳥……ごめん……」

抱きしめられて囁かれる。謝るのはボクなのに。謝らなければいけないのはボクなのに。

「飛鳥……俺だって……好きだった。プロデューサーがアイドルに恋するなんていけないって言っていたけど……好きだったんだ」

「駄目だって。飛鳥の邪魔をしちゃいけないって思って駄目だと言い聞かせていたけど……好きだ、飛鳥」

「……プロデューサー…!」


顔をあげる。泣きそうな顔でボクを見つめるプロデューサーと目が合う。そんな顔じゃあかっこ悪いよと言おうと思うも言葉にならない。

見つめ合ううちにどちらともなく顔が近付く。思わず目を閉じると唇に柔らかい感触。

心地よい暖かさを感じながらそっと顔を離す。

じっとこちらを見るプロデューサーににこりと微笑むと今度はボクから、そっと唇を重ねた。




○ ○ ○
快晴の空を見上げる。

あの日、あの時行動しなかったら今ボクはどうしていたんだろう。

こうして空を見上げることはなかったのかもしれないし、もしくはどこかて勇気を振り絞ってこうしていることになるのだろうか。

「飛鳥?」

心配そうにボクを気遣う声に現実へと戻される。

「あぁ、すまない。少し感傷に耽っていたよ」

「おいおい、それはもうちょっと後にしてくれよ」

「ふふっ、そうだね。今は……」

見上げていた顔を正面へと向ける。そこには着飾ったかつてのアイドル仲間や彼のプロデューサー仲間たち。
みんなボクらを祝福するように笑みを浮かべている。

ああ、なんて……幸せなんだろう。
きっと、ボクはこのことを忘れないだろう。そして、あのことも。

あの時、勇気を出したボクと、大好きなプロデューサーと、大切な仲間たちに精一杯の『ありがとう』を込めて手に持ったブーケを投げる。

ブーケは大きく放物線を描いて飛んでいき、みんなの視線がそちらへと向けられるのを確認すると隣にいる彼にキスをする。
驚いてこちらを見る彼にボクは告げた。


「愛しているよ、ボクの大好きな────」

以上です。
読んでくださりありがとうございました。


飛鳥の土踏まずで塩分補給したい。

まこりん・・・

>>41
正直まこりんには申し訳ないと思ってる…

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