提督「ラブレターの日だから、吹雪に手紙でも書くか」吹雪「ちょっと」 (39)

提督「吹雪へ。普段言えないことも、手紙ならば言葉にすることが出来るかもしれないと思い、筆を取りました」カリカリ

吹雪「あの」

提督「いつもありがとう。戦闘でも、秘書官業務でも、休日につきあってもらうことも、本当に感謝しています」カリカリ

吹雪「司令官?」

提督「思えば、最初に着任してくれたあの頃から、きみにはお世話になってばかりでした」サラサラ

吹雪「もしもし?」


※出てくる艦娘は好きなこを並べただけです

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提督「右も左もわからない私に、吹雪は優しく仕事の手順を教えてくれた」サラサラ

吹雪「私、ここにいるんですけど?」

提督「そして、出撃となれば勇ましく先陣を切り、深海棲艦を沈めていく姿は何よりも私にとっては頼りになるものだった」サラサラ

吹雪「いますよね。私、ここに存在してますよね?」

提督「今は大勢の艦娘がこの鎮守府に着任しているけれど、私が吹雪を頼りにしていることには変わりません」サラサラ

吹雪「司令官、いつもは一人称『俺』ですよね」

提督「自分はそんな吹雪とつりあいが取れる提督であれているか、いつも不安です」カツカツ

吹雪「司令官、いつも私に向かって、すごくぞんざいなしゃべり方してますよね」

提督「もし、少しでも吹雪が私を認めてくれているならば、とても嬉しく思います。もしそうでないなら……申し訳ない。これからの自分を見ていてほしい」カツカツ

吹雪「司令官、いつも私の前で、昼間からお酒を飲んだり居眠りしたりしてますよね」

提督「これからも、常に自分を高め、理想の提督であるための努力は惜しまないつもりです」カツカツ

吹雪「司令官、いつも私が注意すると、んなもんテキトーでいいんだよとか、チッうるせーなとかですよね」

提督「そんな吹雪に、改めて伝えたいことがあります」スラスラ

吹雪「全然改まっていないですけど、なんですか」

提督「それは……この手紙を読んでもらえればわかると思います」スラスラ

吹雪「全然わかんないんですけど……。司令官の頭がおかしくなったとかですか」

提督「返事はいつでも大丈夫です」スラスラ

吹雪「さっきからすごく返事してると思うんですけど、いつでもっていつですか」

提督「最後にもう一度。いつもありがとう、吹雪」スラスラ

吹雪「ちょっと」

提督「あ? なんだ、いたのかよ吹雪」

吹雪「あっ、いつもの司令官が帰ってきた」

提督「俺はどこにも行ってねーだろ、頭の中が煤で汚れてんじゃねえのか。煙突掃除でも雇え」

吹雪「帰ってこなくてもよかったのに」

提督「何わけのわかんねーこと言ってんだ。まあいいや、ほら、これやるよ」ペラッ

吹雪「わっとっと」パシッ

提督「お前のためにわざわざ手紙を書いてやったぞ、ありがたく思え」

吹雪「何をえばってるんですか。っていうか、内容全部知ってますし。わざわざ封筒にまで入れて……」

提督「うるせー。とっとと部屋に戻って読め」

吹雪「なんなんですか、もう……」

提督「ほら出てけ出てけ、シッシッ」

吹雪「はいはい、失礼しますよ。変な悪ふざけばっかり思いついて……」ブツブツ

バタン

提督「…………やれやれ」

陽炎「…………」(実はずっといた)

初月「…………」(実はずっといた)

陽炎「ああいう風にしかできないのかしら、あの人。相当にアレよね」

初月「こっちがやれやれだ。かわいそうなことだな、アレに付き合わされる吹雪は」

提督「聞こえてるぞ、てめーら」

陽炎「聞かせてるのよ」

初月「よく聞いて反省しろ」

バタン

吹雪「まったく……呼び出されたと思ったら、本当に何だったんだろ」

初雪「あ……お帰り……吹雪……」

叢雲「ん、なにそれ。その手に持ってるの」

初雪「手紙……は、はー……ん……」

叢雲「なに? わかったわけ、初雪」

初雪「今日は……ラブレターの日……つまり……」

叢雲「ああ、なるほどね、はいはいはい、そういうこと」

吹雪「な、何がそういうことなの、もう」

初雪「吹雪……早く読んで」

叢雲「そうそう、すぐにでも開けて読んだほうがいいわ」

吹雪「べ、別に声に出して読んだりはしないから。それに、もう内容はわかってるし……」

初雪「わかってる? ほう……そっか……もはや、読むまでもないと……」

叢雲「吹雪はアイツとも長い付き合いだもんねー。内容なんか読まなくても察しがつくってものよね」

吹雪「そういうのじゃないからっ。……何考えてるのかわかんないけど、私の目の前で音読しながら書いてたの」

初雪「へー……それはそれは……」

叢雲「なかなか珍しいタイプののろけじゃない」

吹雪「ただの悪ふざけだってば……まったく……」

吹雪「(ぼそぼそ)…………でも、本当にあんなふうに思ってくれてたなら……」

初雪「……なに……? なんか言った……?」

吹雪「な、なんでもないっ。じゃ、じゃあ私こっちで読むから、覗いたりしないでね」

叢雲「内容がわかってるのに結局読むのね」

初雪「きっと……何度でも読み返したい……そんな内容……」

吹雪「もう、好き勝手言って……」

吹雪(どきどき)ペリッ カサカサ

吹雪「……」

吹雪「…………?」

吹雪「………………!?」

吹雪「………………!??!?!」

「吹雪へ。手紙なら言いにくかったことも言い放題だと思って書いたぜ」

「お前が着任してすぐの時、自分の羊羹がなくなったって騒いでたよな。あれ、喰ったの実は俺なんだわ。悪いな」

「それから、休日に急に出撃を入れた日。あれ、俺が急にキャバクラに行きたくなっちまったんだよ。お前がいるとうるさいからな。ついつい魔が差した」

「あと、蓄積してた資材が急になくなったこともあったよな。俺は書類ミスだって言い張ったけど、実はお前の推測通りだ。使っちまった」

「なんか急に開発やりたい気分だったんだよなー。あん時は苦労かけた。マジすまん。でも、もう時効だろ。許してやってくれ、俺を」

「お前とも長い付き合いだから、そろそろこうして言えなかったことを言うのもアリかと思ったわけよ。隠し事はナシってやつだ。嬉しいだろ?」

「そういうわけだ。そういうわけだから、好きにしろ。じゃあな。いつもありがとよ」

吹雪「………………」プルプルプル

初雪「何か……吹雪が変……ふるえてる」

叢雲「感極まって泣いてるとか」

吹雪「あ、の、人は……!」グシャッ

叢雲「違ったみたいね」

吹雪「上等です! 返事はいつでもいい? なら今すぐしてあげようじゃない! 私の12.7cm砲と61cm魚雷がどれだけ雄弁か、身をもって理解させちゃうんだから!」グシャグシャ ポイッ

初雪「あっ、手紙……捨てられちゃった。どれどれ……」ガサガサ

叢雲「なになに? えーと、『手紙なら言いにくかったことも……』…………うわー。アイツも本当に残念な男ね」

初雪「ほんとにそう……ん、でもこれ……」ペラッ

吹雪「殺す……泣いても喚いても許さない……」ガチッ ガチャン ガチャン

初雪「ぷっ……くっ、ふふふっ……これ……ふふふふ……」

叢雲「ふ、ふふ、はは、あはははは! これはまさに傑作ってものね!」

吹雪「……二人とも、そんなにおかしい? そうだよね、バカな姉が嘲笑われるのは楽しいよね、ほんとうにね……」ガシャン

初雪「あ……違うから……砲口をこっちに向けるの……やめて……」

叢雲「吹雪、これこれ。手紙の裏側」ペラッ

吹雪「裏ぁ……?」ジッ

吹雪「……えっ……これって……まさか?」バッ

吹雪「……あれ? この封筒何か堅いものも入ってる。これ……、ええええ!?」

吹雪「あ、あの……あの人は……あの人はああああああ! もう! もう! もうもうもおーっ!」ダダダダ

バタン ダダダダダダダ

初雪「吹雪……うしみたいになって……かわいそうな子……」

叢雲「一体あの司令のどのへんがいいのかしら」

初雪「余人には……計り知れない“キズナ”ってもの……」

叢雲「初雪、すごい笑ってるわよ。……あんまり羨ましくはないけど、ま、幸せならいいことよね」

提督「…………」ウロウロ ウロウロ ウロウロ

陽炎「散歩してもらえない犬みたいに歩き回ってないで座りなさいよ」

初月「自分であんなことをしておいて、何をそんなに不安がっているんだ」

提督「う、うるせえ! 元々は、お前らが言い出したんだろうが!」

初月「僕たちはお前の相談に乗っただけだ」

陽炎「しかも、手紙で素直な気持ちを伝えなさいって言ったのに……ひねくれちゃってまあ」

提督「す、素直に俺の気持ちを書いただろうが」

陽炎「あの文面はない」

初月「遺書に似ていたな。自殺同然という意味で」

提督「ぐ……。……ふん、お前らに聞いた俺がバカだったんだ。失敗したらお前らのせいだからな」

陽炎「ひゅー、クズ司令ー」

初月「(ひそひそ)……陽炎、どう思う。今度こそ吹雪は愛想を尽かしたんじゃないか」

陽炎「(ひそひそ)多分それはないと思う」

初月「(ひそひそ)なぜだ」

陽炎「(ひそひそ)あの子、ちょろいから」

初月「…………そうか」


つづく(完)

あの衝撃のラストから19時間! 続き編です



ドドドドドド……ドーン ギイイ……ガゴン ゴトン

陽炎「あ、扉が……」

初月「吹雪……」

吹雪「司令官、お話があります」

提督「お……おう」

陽炎「じゃあ、私らはこれで。行くよ初月」

初月「なに? おい、ひっぱるな……(ひそひそ)大丈夫なのか吹雪は」

陽炎「(ひそひそ)問答無用で殺すようだったら止めようと思ったけど、会話ができるなら大丈夫よ……じゃ、失礼しまーす」

スタスタ……

提督「あ、あいつら逃げやがったな……」

吹雪「司令官」ズイッ

提督「お、おわっ」

吹雪「コレはなんですか」ピラッ

提督「お、お前に渡した手紙だ」

吹雪「その裏……この、特別結婚許可申請書って」

提督「あーいやー、それはー」

吹雪「そして、この封筒に入っていたリング状の金属片は」

提督「そ、それはそのまんまリングだろ」

吹雪「どういう意味ですか、これは」

提督「あー、そうだな。いや、これはちょっとした」

吹雪(胸倉を掴んで砲口を突きつける)

提督「よせ! 撃つな! やめろ! 落ち着け!」

吹雪「次に冗談を言ったら頭を吹き飛ばします」

提督「…………わかった」

吹雪「で、これらはなんですか。装填、既に完了済」ジャキッ

提督「やめろ! ……その、だな……そのー」

吹雪「照準あわせ」ギャリギャリギャリ

提督「あのな! お前とも長い付き合いだから、そろそろいいかと思ってよ!」

吹雪「そろそろいいか、とは」

提督「次のステップに進める、的なアレだよ」

吹雪「アレとは。発砲準備完了」グリグリ

提督「結婚だよ結婚!」

吹雪「……誰と誰が」

提督「お、お前と……俺が」

吹雪「…………」

提督「あー、だから……なんか上手く言い出す方法はないかってよ」

吹雪「ふむ」

提督「さっきの二人に相談したら、手紙を渡すのがいいんじゃないかって言われてな」

吹雪「続けて」

提督「だから、手紙を書いてみたんだが、ちとガラにも無く照れくさくなっちまって……」

吹雪「それで」

提督「だから書類に、ああいう文面にして、その……いや、だから俺は悪くないんだ! 悪いのはあの二人が」

吹雪(砲塔を口に突っ込む)

提督「ふいまへん、ぜんふわういのは俺れふ、ごへんなはい」

吹雪(砲塔を抜いてあごをしゃくる)

提督「ふう…………。でまあ、単に渡すとなんかアレだから、ああいう風に楽しい演出を添えて……(グリッ)いや、悪い。ごめん」

吹雪「それから?」

提督「そ、それからも何も、もうこれで全部だよ……。何かあるなら聞いてくれ」

吹雪「そうですね。“楽しい演出”のことですけど。あれは本音ですか」

提督「……うっ……そうだよ」

吹雪「その割にはいつもだらしない姿でしたけど」

提督「それはなんつーか……吹雪の前で、今更なんかカッコつけるのも逆にカッコ悪くねーかなってよ」

吹雪「ふうん」

提督「もう言っちまうけども、わざとそうしてたところはある……バカだな俺」

吹雪「ふうううん」

提督「で……もう俺のほうからは何も言うことはないぞ」

吹雪「ふうううーん、ふうううーん」

提督「……あのな」

吹雪「ふううーん、ふううううーん、へえー、ほほお、なるほど?」

提督「なにニヤニヤしてるんだ」

吹雪「なんでもないです。フフフ」

提督「……で、だ。お前はどうなんだ」

吹雪「どうとは」

提督「だから……その気はあるのかってことだ」

吹雪「その気、ってなんでしたっけ、ねえ司令官?」ジャキ

提督「くそ……これが砲艦外交というものか。まさか実地で体験することになるとは……結婚だよ結婚。する気はあるのかって話だ」

吹雪「うーんそうですねー、どうしよっかなー、吹雪迷っちゃうなー」

提督「なんだその態度は……俺はマジメに聞いてるんだぞ」

吹雪「散々ふざけたくせに……。っていうかうーんそもそもの話なんですけど」

提督「そもそも?」

吹雪「司令官みたいなぐーたらで不真面目でそのくせ艦娘をからかうことだけには血道をあげるような人に、どうして私が結婚してあげようなんてチラリとでも思うと考えたのか、その思考回路がエニグマすぎますよね。ちょっと自意識過剰が過ぎるんじゃないかなあって……冗談ですよ、そんな傷ついた顔しないでください。めんどくさい人だなあ」

提督「お、お前な……」

吹雪「司令官。何か大事なことを忘れてるんじゃないですか」

提督「だ、大事なこと?」

吹雪「そうです、まだ言うことが残っていますよね」

提督「何だ……?」

吹雪「……本当にわからないんですか?」

提督「マ、マジでわからん……もう俺が手紙に書くことなにひとつ残ってない」

吹雪「ふう……。本当にわからないんですか」

提督「なんなんだ? 教えてくれ、吹雪……」

吹雪「それじゃ、私から言ってあげますよ、司令官――!」


おわり

大淀「あー、えっと……この書類、提出するんですか?」

提督「な、なんだ。不備でもあったか?」

吹雪「すぐに直しますから、言ってください!」

大淀「ほ、本当にわからないんですか?」

提督「そういうクイズはもういいっての……」

吹雪「もういいってなんですか」

提督「別にそういう意味じゃねーよ」

吹雪「どうだか……ひょっとして、冗談を真に受けられて困ってるんじゃないですか」

提督「お、お前! めんどくさいのはどっちだ! 大体な……!」

大淀「おほんおほん」

提督「はっ。いや、これは……」

吹雪「ご、ごめんなさい大淀さん」

大淀「いえ……。それで、この書類なんですけど」

提督「お、おお」

吹雪「はい」

大淀「裏側に、こんな文章が……」ペラッ

提督・吹雪「「あ」」

提督「…………」

吹雪「…………」

提督「すまん、吹雪。新しいものを本部からもう一度送ってもらうまで待ってくれ……」

吹雪「…………バカ!」



劇終

作者のことば

ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。
陽炎は初月と文面を見た上で賭けをしており、成功に賭けていたため初月から2万円をせしめました。初月はものすごく納得しがたいという顔をしました。

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