【掌編】魔法使いの願い事 (5)

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「とうとう運が向いて来たぞ」

 薄暗くかび臭い秘密の地下室で、魔法陣を前にした男が言った。

 彼は貧乏な魔法使い。

 その日の食べ物にさえ困るような暮らしをしていたが、この魔法が無事に成功すれば、
 途方もない富を得ることができるハズだった。

 呪文を呟き、部屋の中におどろおどろしい空気が立ち込める。

「悪魔だ!」

 男は自身が魔法陣の中に召喚した者の姿を見て、嬉しさの余り声を上げた。

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「悪魔、悪魔よ! お前は俺との契約により、願い事を何でも一つ叶えねばならん!」

「さよう。その為に呼び出したのだろう? では、願いを言え」

「もちろんだとも! 俺を今すぐ救ってくれ! もうこんな貧乏は嫌だ。
 腹を減らしたまま床につくのも、先の無い未来に不安を抱えて暮らすのもまっぴらだ!」

「よかろう。では、貴様の望みを叶えてやる」


 刹那。地下室に雷鳴のような轟音が轟き、辺りは闇の霧で包まれた。

 それからしばらく、ようやく霧が晴れた地下室には、誰の姿も無かったと言う。

 男は消え、悪魔も消えた。

 文字通り、男は解放されたのだ。


 ……この愚かな魔法使いの話を聞いた時、私は思わず笑ってしまった。

 私ならそんな失敗はしない。
 呼び出す相手はちゃんと選ぶ。

 魔法陣の前でほくそ笑み、私は呪文を呟いた。

 神々しく現れた者の姿を見て「天使だ!」私は嬉しさの余り声を上げた。


「天使、天使よ! 私を今すぐ救ってくれ!」

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以上、おしまい。

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