大沼くるみ「貴女の手のひら」 (27)

くるみ(たとえば手を差し伸べてくれた時)

くるみ(たとえば別れ際にバイバイとしてくれた時)

くるみ(たとえばお胸を揉まれている時でさえ)

くるみ(貴女の手のひらがこっちを向いている、ただそれだけで)

くるみ(安心しちゃうくるみがいるの)

くるみ(何でかなぁ?)

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愛海「映画?」

くるみ「う、うん。ぷろでゅーしゃーがね、余ってるからってチケット2枚くれたのぉ。それで、愛海ちゃんと一緒に行きたいなあって」

愛海「いいの?行く行く!」

くるみ「……ほっ」

愛海「あ、でもそれプロデューサーに貰ったんだよね?ならもっとチケット貰って他の皆も誘う?」

くるみ「だ、ダメでしゅっ!」

愛海「駄目なの!?」

くるみ「えっと、このチケットは……とってもレアで…手に入ったのはこの2枚だけって…言ってたから、その」

くるみ(う、ウソついちゃった。愛海ちゃん変に思うかなあ)

愛海「そんなすごいチケットを!?貰えるくるみちゃんもくるみちゃんだけど、あげちゃうプロデューサーもプロデューサーだね。流石あたしのお山同志!」

くるみ(信じちゃった!?でもお山どうしってなんだろう?)

愛海「ようし、じゃあ今度の休みに二人だけで楽しんじゃおうか」

くるみ「うん!」

くるみ(愛海ちゃんと二人で。で、デートみたい)

当日

くるみ「うう、ぐすっ……」

くるみ(くるみのバカバカ!服えらぶのに悩んで、待ち合わせに遅れるなんてぇ!)

くるみ「ううう……愛海ちゃんぜったい怒ってるよぉ……」

愛海「あ、くるみちゃん。おはよー」

くるみ「愛海ちゃん、ごめんなしゃああああい!」

愛海「え、な、何が?」

くるみ「くるみ、遅れちゃって。待たせて、ふぇええ」

愛海「遅れたって、5分ぐらいじゃん。全然待ってないって」

くるみ「でも……ぐすっ」

愛海「泣かなくていいのに。それより今日のくるみちゃんの服可愛いよね」

くるみ「……!か、可愛い?今日のくるみ?」

愛海「うん。とっても可愛いよ。お山を露出させず清楚さを保ちながら、それでいて存在感をアピールしていて。もともと素養はあったけれど、今日の服は一段とお山の魅力を」

くるみ「よくわからないけど、えへへ。かわいいって言ってもらえて嬉しいよぉ」

愛海「カワイイ!カワイイ!くるみちゃんとってもカワイイ!」

くるみ「……!?う、うう……ぐすっ……」

愛海(あ、やば)

くるみ「ぐすっ、ふえええん!恥じゅかしいよおお!」

愛海「ご、ごめん!やりすぎた。泣き止んで。涙拭いて」

くるみ「うう……」

愛海「あ、お詫びにこっちはあたしが拭いてあげる」モニュ

くるみ「ふえぇっ!?」

愛海「さて、くるみちゃんも落ち着いたとこだしそろそろ行こうか」

くるみ「うん。あの、遅れてごめんなしゃい」

愛海「いいって。本当に気にしてないんだから。あたし人を待つの好きだし」

くるみ「そうなのぉ?」

愛海「うん。待ってる間も、道行く人のお山を眺めてイメトレしてたらあっという間に時間が過ぎて」

くるみ「次は遅れないから」

愛海「え?いや、だから気にしなくても」

くるみ「遅れないもん」

愛海「あ、うん。頑張って」

くるみ「頑張りゅ」

愛海(どこからその強い決意が?)

愛海「今日は映画楽しみだね。ところで聞いてなかったけど、どんな映画なの?」

ティッシュマン「お願いしまーす」

くるみ「あの、前に小梅しゃん達が学校で撮影してた」スッ

愛海「あー、あのゾンビもの。ってくるみちゃんホラー大丈夫だっけ?」

ティッシュマン「どうぞー」

くるみ「怖いのはにがて、でも出てくりゅの知ってる人ばかりだし、にぎやかで楽しい映画だって聞いたから」スッ

愛海「そういえば撮影も面白かったらしいし、けっこうコメディ系なのかな」

ティッシュマン「貰ってくださーい」

くるみ「楽しみでしゅね~」スッ

愛海「くるみちゃんバッグがティッシュだらけだけど、これから行くのって感動系映画だっけ?」

くるみ「え?ホラー映画でしゅよ?」

愛海「うん。だよね」

くるみ「?」←趣味:ティッシュ収集

映画館

愛海「そういえばあたし映画館でポップコーン買ったことないなあ」

くるみ「今もドリンクだけだよねぇ。ポップコーン嫌いなの?」

愛海「手が汚れるからあんまり好きじゃないかも。公共の場では手は綺麗な状態にしておきたいんだ」

くるみ「きれい好きなんだねぇ」

愛海「外はいつ山登りのチャンスがあるかわからないし、そんな時に汚れた手で山に登るわけにはいかないからね!」

くるみ「……」

愛海「あれ?今あたし良いこと言ったのに、なぜそんな冷たい目で見られてるの?」

映画上映中

『キャアアア!!』

愛海(あ、これ結構怖いやつだ)

くるみ「……ひぃ!?」ビクビク

愛海(くるみちゃん大丈夫かな?もうすでに限界っぽいけど)

くるみ「ああ……沙織しゃんが死んじゃったあ……」

愛海(沙織さん昨日事務所で本読んでたけどね)

『ギャギャギャギャギャ!!』

愛海(ホラー映画かぁ。友達とよく上映会したなあ)

愛海(怖がって隣の子に抱き着く、っていう手口は何度もお世話になったよ)

愛海(ホラー映画鑑賞会に出過ぎて、ホラー好きと勘違いされたりもした)

愛海(ずいぶんホラー慣れしちゃったんだなあ、あたし)


くるみ「ひぐっ……ううっ……」

愛海(……今度くるみちゃんのこの反応を演技に取り入れよう。ホラー好きな人達のお山に登れるかも)

くるみ「あ……うわぁ……ひぃ……」

愛海(くるみちゃん怖がり過ぎかも。大丈夫かな?手を握って安心させてあげよう)

愛海(……いや、やっぱりここは安心させるために、一番ハートに近い)

愛海「ここ」モニュ

くるみ「ひゃあああっ!?」

上映終了

くるみ「~っ!!」ポカポカ

愛海「ごめん!ごめんて!」

くるみ「うう……あんまり怖くない、明るい映画だって聞いたのにぃ」

愛海「ガチホラーだったね。あたしは楽しめたけど。ちなみにそれ誰に聞いたの?」

くるみ「小梅しゃんでしゅ」

愛海「主演に聞いちゃったの!?」

くるみ「老若男女その他も楽しめる、一度は見てほしい人気映画ってオススメもしてくれてぇ」

愛海「その他」

くるみ「生きてるうちに一度は見たかった映画って、みんなも言ってたってぇ」

愛海「みんなって、どのみんなだろうね」

ショッピング

愛海「くるみちゃんにはこれかな?」

くるみ「メガネ?くるみ、目は悪くないよぉ」

愛海「これは変装用だよ。今はまだだけど、あたし達もいつかは変装して街を歩くことになるでしょ」

くるみ「あ、そっか。有名になったら、変装しなきゃいけないんだぁ。くるみもそうなるのかなぁ」

愛海「なるよ、きっとすぐにね。くるみちゃんは可愛いし」

くるみ「ま、また可愛いって……!」

愛海「こんなに素敵なお山も持ってるんだから!」モニュン

くるみ「ぴゃぁ!?」

愛海「あ、でもそしたら変装中はこのお山も隠さなきゃバレちゃうかな。でも体型隠す服はもったいないし」モニュモニュ

くるみ「あ……あの……」

愛海「そうだ!くるみちゃんが外出する時はあたしがこうやって手で隠すのはどうかな?」モニュモニュモニュ

くるみ「それより手を離してぇ!」

愛海「あたしもメガネ探そう。新しいの欲しかったんだよね」

くるみ「愛海ちゃんメガネ持ってるの?やっぱり変装用?」

愛海「うん。いくつか持ってるよ。メガネとか帽子とか」

くるみ「すごいねえ。くるみ、アイドルだけどまだあんまり有名じゃないから、変装のことなんて全然考えてなかったのに」

愛海「まあね」

愛海(お山揉んだ人達に見つからないための変装だとは、流石に言えないね)

愛海「次どこ行こうか」

くるみ「あ、だったらくるみ行ってみたいとこが」

女子1「あれ、くるみちゃん?」

くるみ「え?」

女子2「え!?もしかして隣にいるのは棟方愛海ちゃん!すごい本物だ!」

愛海「へ?」

くるみ「あ、愛海ちゃん。この人達は」

女子1「初めまして愛海ちゃん。私たち、くるみちゃんのクラスメイトで友達です」

女子2「あ、あの、ファンです!いつも応援してます!」

愛海「そうなんだ。うひひ、ありがとう」

くるみ「うう……」

女子1「今日はお仕事なんですか?」

愛海「ううん、今日はオフで遊びに来てるんだ」

女子2「くるみちゃん、愛海ちゃんと遊んだりするんだ。すごい……!」

くるみ「う、うん……」

女子1「あ、あのよかったら私たちと一緒に遊びませんか?」

くるみ「……!」

女子2「愛海ちゃん、私のお山登ってください!」

くるみ「……!!」

くるみ(ど、どうしよう。このままだと、二人きりじゃなくなっちゃう……)

くるみ(でも、ここで断るのも……)

愛海「ゴメンね。今日はくるみちゃんとデートだから。他の子に手は出せないんだ。行こう、くるみちゃん」

くるみ「え、あ、うん。さ、さようなら」

女子1「で、デート!?」

女子2「お山登ってもらえなかった……」

ファンシーショップ

愛海「うわあ、このぬいぐるみ可愛い!そして柔らかい!くるみちゃん素敵なお店知ってるんだね!」

くるみ「う、うん」

くるみ(愛海ちゃんが好きそうなお店調べといてよかったぁ)

愛海「あー、そうだ。さっきはごめんね。友達の誘い勝手に断っちゃって」

くるみ「え、ううん。それはいいんだけど、でもデートって」

愛海「咄嗟に出た言い訳がそれだったからね。まあ、アイドルっぽい冗談だとまわりも思ってくれるよ」

くるみ「う、うん」

くるみ(冗談だったんだぁ……)

愛海「でも、まあ実際デートみたいなもんだよね」

くるみ「ええっ!?そ、そ、そうかなぁ。そうかなぁ」

愛海「うん。休日に二人きりでお出かけ。これはもうデートだよ!」

くるみ「そ、そうなんでしゅか!?」

愛海「そう!だから、恋人らしくお山登らせて?」

くるみ「嫌でしゅ」

帰り道

愛海「今日は楽しかったね」

くるみ「うん!とっても楽しかったよぉ」

愛海「……あ。あたしの家こっちだから、ここで」

くるみ「あ、うん。今日はありがとぉ」

愛海「こっちこそ。じゃあ、バイバイ」

くるみ「あ」

くるみ(咄嗟に、本当に無意識で、愛海ちゃんの手を掴んでいた)

くるみ(離れたくなかったから。愛海ちゃんの手に触れたかったから)

くるみ(それとも、別れ際の愛海ちゃんの笑顔が寂しそうだったから?)

愛海「……くるみちゃん?」

くるみ「あ、あの……その……」

愛海「予定変更。くるみちゃんの家まで歩こうか」

くるみ「え、でも、そんな悪いよぉ」

愛海「いいって。今日はデートなんだから」

くるみ「……!」

くるみ(そう笑って、愛海ちゃんは家までくるみの手を繋いで送ってくれた)

くるみ(温かくて、柔らかくて、優しい手だった)

くるみ(アイドルになってから)

くるみ(『やーい、泣き虫くるみ』とからかってきた男子が)

くるみ(『実は俺、本当はくるみのこと可愛いと思ってて』と校舎裏で告白してくれた)

くるみ(『男子ってば子供よね』と遠巻きに見ていただけの女子が)

くるみ(『前から仲良くなりたかったの』と話しかけてくれるようになった)

くるみ(それは嬉しい。優しくしてもらえるようになったんだから、たぶん良いことだと思う。でも)

くるみ(アイドルになっただけで手のひらを返す男子が、女子が、クラスメイトが)

くるみ(人が、少し怖くなった)

くるみ(今くるみに笑顔を向けてくれる皆も、もしくるみがアイドルじゃなくなったら、また手のひらを返すんじゃないかって)

くるみ(そんな不安に心が塗り潰されそうになる時、頭に浮かぶのは)

『わきわき……っと、ごめん!いいお山だったから思わず』

『え、貴女もアイドルなの?ならあたしの後輩だね!これからよろしく、くるみちゃん』

『……ところで、お近づきの印にもうちょっと触れ合わない?』

くるみ(……愛海ちゃんは、きっと変わらない)

くるみ(もしくるみがアイドルでなくても、アイドルになっても、アイドルでなくなっても。愛海ちゃんが手のひらの向きを変えることはない)

くるみ(そう信じられるのが、嬉しい)

くるみ(そう信じられる愛海ちゃんのことが……好き)

夜 自室

くるみ「今日は楽しかったなぁ」

くるみ(あ、でも今日のくるみって)

くるみ(遅刻するし、泣くし、映画は怖がるし、友達に誘われたのも断れないで)

くるみ(カッコ悪いとこばかり)ズーン

くるみ「愛海ちゃん、また遊んでくれりゅかなぁ……」

ピロリン

くるみ「あ、スマホ。愛海ちゃんから……?」

『今日はありがとう!また遊ぼうね!』

くるみ「えへへ。『うん!また二人でどこかいこうね』っと」

くるみ(次はカッコいいくるみを見せたいなぁ。強くて頼りになって、自分の意見をしっかり言えるカッコいいくるみを)

『それと今度はもっとたくさんお山に登らせてね』

くるみ「『嫌です』」

くるみ(いつかそんなくるみになれたら、その時は愛海ちゃんに……)

くるみ「えへへ」

おしまい!

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