真姫「ねえ、凛。……ちょっとこっちに来ない?」 (9)

ある日の午後。

珍しく凛と二人きりの部室で、暇を持て余した私はあることを思いつく。


凛「いいよー。ちょっと待つにゃ」


そう言って、凛はとてとてとこちらに近寄ってくる。

本人は自覚が無いようだが、時折見せるこうした仕草はとても可愛らしい。

思わず抱きしめたくなるほどに。……そう、思わずだ。

だからこれから私のすることは、私の意志とは少し異なる。

あくまで「思わずそうしたくなっただけ」――と、頭の中で誰にしているのかもわからない言い訳をした。

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真姫「ごめん、もうちょっとこっちに来てくれる?」


そう言って私は凛を近くに手招く。もうちょっと、もうちょっとだけ――えいっ。


凛「ちょ……ちょっと、真姫ちゃん!?///」

真姫「フフ……何かしら」


私は、手の届く距離までやってきた凛の頭を優しく抱き寄せ、髪を撫でる。

恥ずかしがって抵抗されるかと思ったが、凛は大人しく撫でられるままにしてくれた。

そうして髪を撫で続けていると、凛が顔を上げる。

凛は照れたような、困ったような顔で私の顔を見つめた。

どうすればいいかいまいちわかっていないような、少し不安そうな顔。

それがまた愛おしくて……また、髪を撫でた。

緩やかな時間が流れる。


部室は窓から入る日の光と凛の温もりが相まって温かく、思わずうとうとしてしまいそうになる。

廊下に聞こえる足音。時計が針を刻む音。部活動に精を出す人たちの声。

それらが遠い喧騒に聞こえ、意識がぼやける。

ただ、ぼやけた意識の中で一つだけ「幸せだなぁ」という想いだけははっきりしていた。

ふと腕の中を見ると、凛もうつらうつらしていた。

寝ている間にバランスを崩さないよう、私は腰の方に腕を移動する。

凛が寝惚け眼のまま、優しく私を抱きしめ返した。

「このまま下校時間までこうしていたい」って言ったら……凛はどう思うだろうか。

凛も私と同じ気持ちだったらいいのに……。

なんて、贅沢かしらね。



終わり

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