茄子「I am Kako」 (20)

初投稿です。
よろしくお願いします。
総選挙お疲れ様でした。

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「 」

留学しよう。そう決めたのがいつだったかは覚えていない。
強烈なきっかけがあったのではなく、ただいきたいからという理由で漠然とそう決め、両親からの了解も得て大学の審査も通った。準備は滞りなく進んだ。期間は半年。

飛行機を降りるとホームステイでお世話になる陽気そうな4人家族がホワイトボードいっぱいに「KAKO」と書いて笑顔で掲げていた。

一通り挨拶と自己紹介を済まし、車で半年間お世話になる家へ案内された。

とても大きい家で、さぞお金持ちなのだろうと聞くと、この辺では普通のサイズだという。

部屋へ案内される。これだけ大きな家に4人なのだから一部屋いただけるのかななんて思っていたが、ベッドが2つの相部屋だった。どうももう1人ホームステイがいるらしい。

本人は今大学へ行っていてもうすぐ帰ってくるからそれまで部屋でゆっくりしてて、と言われ、言われた通りにしていると、程なくして部屋のドアが開いた。

その瞬間のことを、私は忘れることはないだろう。

「お~アナタが噂のジャパニーズさんか~うんどことなく日本の匂いがする!気がする!」

ノックもなしに扉を開けた途端に飛びついてきて、日本語を話しながら首筋あたりの匂いを嗅がれた。

これが私と一ノ瀬志季のファーストコンタクトだった。

その後すぐにウェルカムパーティーとしてバーベキューをしてもらった。

そこで、人の匂いを嗅いだと思ったらいつの間にかいなくなったりと自由なルームメイトを、本人に代わり家族のみなさんから紹介してもらった。

一ノ瀬志季17歳。日本人で、こちらで飛び級で大学生をやっているらしい。大学では天才と呼ばれ特別扱いされ、まるで教授のようにすでに自分で好きな研究をさせてもらっているという。

可愛いだろ?自慢の娘なんだ。と自慢げに笑うお父さんに苦笑いしかできなかった。この時、愛されているはずの彼女に同情というべきなのかなんと表現すべきなのかわからない、哀れみの感情を持ったを覚えている。

留学スタートは順調だった。志季ちゃんとは同じ大学ではあったが学部が違い、大学で会うことはほとんどなかったが、英語力には自信があったし、人当たりも悪くはないと自負している。友達もたくさんできた。講義も大変ではあったけれども、十分ついていけた。

1ヶ月ほど経ったある日、友達からホームパーティーに招待された。食事とおしゃべり楽しんでいると、唐突にビンゴ大会が始まった。

アメリカではお金をかけるギャンブルとして定着していると聞いていたが、このビンゴは1列ビンゴした人から用意された景品をゲットできる日本でよく見る方式。

後から聞いた話だが、アメリカのビンゴに楽しさを見出せなかった志季ちゃんが自分で景品を全て用意してこの方式でビンゴ大会を始め、気軽にできると評判になり、以降この大学の中ではShiki Styleと呼ばれ、主流になったそうだ。ちなみに、この時の景品は全てに何かしら罠が仕掛けてあり、それは酷いものだったらしい。

正直乗り気でなかったが、カードとビンゴカードに印をつけるためのスタンプを手渡され、仕方なく受け取った。

適当にごまかそうかとも思ったが、仲のいい友達が近くに来て見せ合いながらになったので、それもできなかった。

結局、私は5番目の数字をコールされたとき、ビンゴとなった。

最速とはいかなかったが、我ながらありえないスピードである。当然、主催の人も何回も確認してたし、見せ合っていた友人も唖然としていた。

主催の人は確認を終えると、カードを掲げて、こちらを見て叫んだ。

「You are lucky girl !!!」

胸が、少し痛んだ。

このときはまだその日だけで済んだが、友達と交流していく中で当然運を試す機会がないわけがなく、次第に私はlucky girlとして認知され、lucky girlと呼称されるようになった。

結局、アメリカでも「私=幸運」だった。

ふとそう思ったとき、私は初めて留学に行きたかった理由が「私=幸運」から解放されたかったからだと知った。

私は幸運として見られている。鷹富士茄子として見られていない。そう感じてしまっていた。

そう思ってから、私は幸運であり続けた。運の絡む勝負には自ら参戦し、確実に勝つ。それが友達に求められている私の全てだと思っていた。

そんなある日、熱を出した。

ただの風邪で、さほど重いわけでもなく2日で熱は引いたものの、1度休んだ途端に大学に行く気が失せてしまった。

どうも顔色も良くなかったらしく、様子を見に来たお母さんにもう1日休みなさいと言われ、3日目の自主休講を選んだ。

前日までは体調の悪さでよく寝れていたものの、この日は風邪自体はほぼ治っていて、寝れるわけもなく、ひたすら暇だった。

夕方になって騒がしい足音が迫ってくると、相変わらずノックもなしに扉が開かれ、そのままの勢いで志希ちゃんがベッドに飛び込んで来た。

元気いっぱいだった。自由奔放だった。天才と呼ばれ、他の人間から特別視されている人間が、私と同じようなしがらみを感じていそうな立場の人間がこのように生きているのが、私は不思議でならなかった。

いつもは笑って適当に付き合っていたのだが、この時は心が疲れていたからか、気がつくと口にしていた。

「志希ちゃんは天才扱いされるの嫌じゃないんですか?」

志希ちゃんは少し拍子抜けたような顔をしてから笑顔で言った。

「別に?だってあたし、天才だも~ん!」

「でも、その人が志希ちゃんのことを才能としてしか見てないってことですよ?」

言い過ぎたかな、と気づく頃には言いきっていた。

しかし、志希ちゃんはにゃはは~と笑い

「かもね~。でもそれでもいいかなって。茄子さんみたいに私を見てくれる人も少しはいるだろうし、私を見せたい人には私を見ろ~って押し付けてるつもりだよ?」

それにね、と続けた。

「才能は武器なんだ。私に与えられた武器。なら使わなきゃ損だと思うんだ~自分が楽しむために!」

与えられた武器。ハッとした。今まで幸運は自分にとって足枷でしかなかった。

それに、私は私を幸運としか見ない人に私を見せていただろうか?私は見せることをせずに、相手から見てもらおうとしか考えていなかったのではないか。

そしてなにより、今、自分は楽しくない。

なんとなく事情を察したらしい志希ちゃんは、ベッドの傍に椅子を持ってくると座っていつもより少しだけ真剣な声音で話し始めた。

「あたしね、来週日本に帰るんだ。なんでか分かる?」

私が首を横に振ると、にゃはっと笑って

「飽きちゃったんだ!アメリカの生活に楽しさが減ってきちゃった。だから帰る。

今度は日本で楽しいことを見つけるんだ~この武器も使ってね!」

だからさ、志希ちゃんがまた顔を寄せてきて言った。

「茄子さんももっと楽しくやっていいと思うよ?幸運だって立派な茄子さんの構成要素だよ?幸運に茄子さんが振り回されるんじゃなくて茄子さんが幸運を振り回せばいいんだよ。見てもらえないなら見せつけてこ~!それでもダメな人は気にしな~い」

私を、明確に変えた一言だった。

その1週間後、志希ちゃんは本当に日本へ帰った。

大学側は止めたかったらしく、直前まで家に教授が来ていたが、志希ちゃんの意思は変わらなかった。

志希ちゃんが帰ってから、私は鷹富士茄子として生きようとした。

幸運も使う。でも幸運だけじゃないぞ、と自分を見せつけていく。その結果、私を鷹富士茄子として、普通の女の子として見てくれる人は明らかに増えた。気がした。

久しぶりに、心から友達と思える人がたくさん増えた。

気の持ちようかも知れないけれど、私がそう思えたのだからそれでいいのだと思う。

その後、期間を終えて帰国。翌年20歳になってすぐ、おみくじで大凶を引いて躓いていた人に出会い、スカウトされてアイドルとなり現在に至る。ご存知の通り、志希ちゃんと同じ事務所で。

以上が私です。私は幸運にも志希ちゃんと出会い、幸運にもスカウトされてアイドルに挑戦できています。

私はアイドル鷹富士茄子としてこの幸運をみなさんにお裾分けしたい、みなさんを幸せにしたいと思っています。そのために一生懸命頑張りますので、これからも鷹富士茄子の応援をよろしくお願いします♪

鷹富士茄子

モバP「………………」

茄子「だめ、でした?」

モバP「いやそんなことはないよ。ただ事務所のファンクラブ誌に載せるから自由にエッセイ書いてきてってオーダーでまさか俺も聞いたことなかったこんな話がくるとは……」

茄子「頑張っちゃいました♪」

モバP「確認だけど茄子さんはいいの?これ、ファンのみなさんが読むんだけど」

茄子「はい。これも私を見せつけることの1つですから♪」

モバP「……なら、よし!じゃあこれであとは編集さんの方に……」

茄子「あ、ちょっと待ってください。まだ1つだけ相談したいところが」

モバP「え?どこ?」

茄子「タイトルです。このエッセイのタイトル、いいのが思いつかなくって」

モバP「あ~プロの方に任せるでもいいけど、なんか案ある?」

茄子「茄子の過去、とか?カコだけに♪」

モバP「確かに過去の話だけど……なんか内容との落差が」

ガチャ

志希「おはようございまーすそして朝のスーハーターイム!」ガバッ

モバP「おま、朝から匂い嗅ぐのやめろヘンタイ!」

志希「よいではないかよいではないか~!あ、茄子さんおはよ!」ハスハス

茄子「おはようございます♪」

モバP「ったく……あ、そうだ。茄子さん志希に決めてもらうのはどう?」

茄子「えっ?それはちょっと恥ずかしいというか……志希ちゃんに目の前で読まれるのはちょっと……」

志希「おや?茄子さんなにか書いたの?そう言われると読みたくなっちゃうな~見して!」

モバP「だーめ。茄子さんのエッセイなんだから茄子さんがダメって言ったらダメに決まってるだろ」

志希「はーい。レッスン行ってきまーす」

モバP「ん?お前があっさり引き下がるなんて珍しいな」

志希「だって~あたしは志希ちゃんだよ?そしてあたしは天才だから空気くらい読めるのだ~」

ガチャ

モバP「ほんと嵐みたいなやつだな……で、茄子さんどうする?プロに投げる?」

茄子「……いえ、決めました……これにします♪」カチャカチャ

モバP「……わかった。じゃあそれで。出しとくわ。今日はレッスンだけだからな。レッスン頑張って」

茄子「はいっ♪」


終わり

以上です。ありがとうございました。
名前ミス申し訳ない

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