【けものフレンズ】アライさん物語 (30)

≪このSSは一部残酷な描写が含まれます≫
≪動物には罪はありません、動物はただ生きているだけです≫

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ある日、僕は森で小さなアライさんを見つけた
「お腹が空いたのだ…」
アライさんはうずくまって震えていた
とてもお腹が空いているようだった
アライさんは害獣だから、見つけたらすぐに殺さなきゃいけないんだってお父さんは言っていた
でも、怯えるようにこちらを見つめてくるアライさんを見ていたらとても害獣だなんて思えない
周りを見ても、親のアライさんはいないようだった
捨てられたのか、それとももう死んでしまったのか
最近はアライさん対策の罠も多いって聞くから、それに捕まってしまったのかもしれない
とにかく、このアライさんは一匹ぼっちだった
「うわっ、何をするのだ、離すのだ、アライさんをどこに連れて行くのだ」
だから僕は、いけないことだってわかってはいたけどアライさんを抱き上げて家に連れて帰ったんだ

「美味しいのだ!美味しいのだ」
僕の部屋で、アライさんは夢中でご飯を食べている
僕の晩御飯を、お母さんに部屋で食べると言って持ってきたものだ
少し前まではお母さんは食卓を一緒に囲むことに強いこだわりがあったんだけど、最近は
「むぐっ…ぐぐぐぐ…」
うわっ、アライさんがパンを喉に詰まらせた!
背中を、こう叩いて叩いて
「ゲホッ、ゲホゲホ、ううっ、助かったのだ、お前は命の恩人なのだ」
…うーん、基本偉そうなのは少しうざいかもしれない

「zzz…」
アライさんは眠っている
きっと疲れているんだろう
よく見ると体にはいくつも傷があるし、頬もこけている
僕が拾うまでの暮らしは、きっと楽なものではなかったんだろう
守ってくれる親がいない子供のけものが今までどうやって生き延びてきたのか
それを思うと少し胸が傷んだ
害獣がどうとかなんて関係ない
これからは僕が親代わりになってアライさんを育ててあげよう
僕はそう思ったんだ

それからの日々は、楽しかった
「ふはははは、アライさんは三輪車の操縦が上手なのだ」
親に見つかったら大変なことになりそうだから、部屋からはあまり出してはあげられなかったけど
「ううっ、わたあめを洗ったら消えてしまったのだ」
生き物を飼う、それは新しい発見の連続だった
「一緒のお布団は暖かいのだ」
僕とアライさんは、一緒に遊び、一緒に御飯を食べて、一緒に眠った
「アライさんにおまかせなのだー」
時々うざかったけど、それでもアライさんはよくなついてくれたし、僕たちは最高のフレンズだったんだ
…あの日までは

その日、僕はお使いで隣の町まで買い物に行っていた
「退屈なのだ、アライさんも連れて行くのだ」
アライさんはそう言っていたけど、他人にアライさんを目撃させる訳にはいかない
みんなアライさんを害獣だと思ってる
そんなことないって言ってもきっと信じてはもらえない
悲しいけど、僕はまだ子供だから周りの大人を説得するのは難しい
アライさんを一匹で待たせてしまうのはかわいそうだから、僕は早めに用事を済ませて急いで家に帰ったんだ
…うん、わかってる
僕が間違ってたんだって
なんでアライさんが害獣って言われてるのかを、考えようともしてなかったんだって

「キャアアアアアアアアッ」
玄関のドアを開けようとした瞬間、お母さんの声が、ううん、悲鳴が聞こえた
びっくりして一瞬固まって、そして急いでドアを開けて家に飛び込んだ
そこで僕は見てしまったんだ
泣き叫ぶお母さんと、お母さんに抱えられた血まみれの赤ん坊
「なんなのだ、アライさんの食事を邪魔するななのだ」
そして、口の周りを血に染めたアライさんを
「あっ、やっと帰ってきたのだ、お腹が減ったからこれを食べていたのだ」
アライさんは、悪びれる風もなくお母さんに抱かれた瀕死の赤ん坊を、アライさんを拾う少し前に生まれた僕の妹を指差して言った
僕がその時アライさんに何を言ったか、もう思い出せない
だけど
「アライさんがその女にご飯を盗られたのだ、アライさんは悪くないのだ」
アライさんがお母さんを睨みながらそういったことだけは覚えている

その後は色々あった気もするし、大したことはなかった気もする
もう記憶が曖昧だけど、部屋は台風が過ぎたような状況になり、気づけばアライさんは姿を消していた
窓が割れていたから、きっとそこから逃げたんだと思う
そしてそれからの事は、その時思ったことはよく覚えている
僕がアライさんをこっそり部屋で飼っていたことは、当たり前だけどすぐにバレた
お父さんはこれまで見たことがないくらいに怒って僕を散々に叩いた
僕を大馬鹿者だって、クソ野郎だって顔が腫れ上がるまで殴った
…うん、本当にそう思う
僕だって出来るものなら数週間前に戻って自分を殴りたい、いや殺したい
害獣がどうとかなんて関係ないだって?
そんなわけないじゃないか
馬鹿は死ななきゃ治らないって言うくらいだ
アライさんをこっそり保護しようだなんて考えた僕は、あの時点で死んでおくべきだったじゃないか

酷い障害は残ったけれど、それでも妹は一命を取り留めた
それだけはまぁ、この一件における唯一の救いではあったと思う
それしか救いがないって時点で救いようのない話だけど
だからせめて、こんなことを少しでもこれから起こさないようにするために、あれからの俺は色々なことを学んだ
先達に教えを請い、やるべきことを淡々とこなしながら今を生きている
「」
今日も罠にかかったアライさんを速やかにガスで殺処分した
最近は更に数が増えたようだ
殺しても殺しても次々に湧いてくる
でも、やらなきゃもっとひどいことになる
俺はため息を一つつき、違う罠へと足を進めた
そこで、俺は

「ううー、捕まってしまったのだ…」
ああ…このうざい口調は…
「ああっ、お前はあの時の人間なのだ」
少し、驚いた
まさか向こうも覚えているとは思わなかった
「助かったのだ、早くここから出すのだ」
更に驚いた、こいつは俺が自分を助けるものだと信じて疑ってないらしい
「どうしたのだ、早くするのだ、それと何か食べ物があったらよこすのだ」
言葉は通じているが、心が通じているわけではない
そんなことはとっくに思い知っていたつもりだったがまだまだ認識が甘かったようだ
もう、これ以上の会話に意味はない
俺は密閉とガスの準備を始めた

「な、なんなのだ、冗談はやめるのだ」
ようやく俺が何をしに現れたのかを理解したらしい
初めてアライさんは怯えたような表情を見せた
いや、初めてじゃないな
子供の頃に最初に出会った時に浮かべていたのと同じ表情だ
それに俺が身勝手な解釈をしてしまったからあんなことが…
「やめるのだ! やめてほしいのだ!」
アライさんが暴れる
無駄だ、昨今のアライさんの被害拡大に伴い最近の罠はアライさんの牙や爪では決して破れないように改良が進められている
俺は作業を続ける
罠ごと密封し、ガスボンベを取り付ける

「助けてほしいのだ! アライさんは死ぬわけにはいかないのだ!」
アライさんが必死に訴える
「子どもたちが待ってるのだ! ご飯を持って帰らなきゃいけないのだ」
アライさんが泣き叫ぶ
「たす…」
ガスを、噴出した
そして声も悲鳴も消えなくなった
…子供が出来てたのか
じゃぁ、そいつらも見つけ次第殺処分しなきゃな
俺は歩き出した

エピローグ

ご飯を探してくると言って出ていったママが帰ってこない
お兄ちゃんもお姉ちゃんも、気づいたらいなくなってしまった
どうしよう、お腹が空いて、寂しくて、あたまがくらくらする
お腹が空いたのに、ここにはご飯がない
こんなに寂しいのに、ママは帰ってこない
だからボクは、最後の力を振り絞って外に出た

初めて見た外の世界は、とても大きくてとても広かった
端っこが見えない場所があるなんて知らなかった
とても広くて広くて広いのに、食べられそうなものは何も見つからなかった
ああ、もうダメだ
歩き疲れて転んだら、もう立てなかった
お腹が空いて、もう動けなかった




「うわっ、アライさんだ」
「腹、減ってんのかな?」
「害獣って話だけど、なんかかわいいな」
「な、お前、家で飼ってやるよ、腹減ってるだろ」

fin

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