文香「春のずきみか漫才」 あずき「元気よくいくよー!」 (29)

文香「皆さんこんにちは。鷺沢文香です」

あずき「桃井あずきだよ! よろしくお願いしまーす!」

文香「こうして皆さんの前でおしゃべりするのは、二度目ですかね」

あずき「意外だよねえ。あずき、こういうお仕事はもうしないと思ってたけど」

文香「前回、あずきさんが不謹慎な話題を口にしただけに尚更ですね」

あずき「なに相方に押し付けてるの!? ほとんど文香さんから言い出してたよね!?」

文香「あれは秘書がやったことなので……」

あずき「そのネタは前回で使ったよ!?」

文香「環境に配慮して、漫才のネタもリサイクルを」

あずき「それただの手抜き! 開幕からこんな調子でどうするのさ!」

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文香「そんな前回でしたが、ここで早速お便りの紹介です」

あずき「えっ? なんか始まってる?」

文香「どうやら、以前の漫才でそれなりに反響があったようですよ。ありがたいことですし、これを機に紹介しようかと」

あずき「おーなるほどー。まあ、ちょっとくらいはいっか」

文香「……えー、『文香ちゃん、あずきちゃん、こんにちは。』」

あずき「こんにちはーっ。……で、いいのかな」

文香「『前回の漫才、楽しく見させていただきました。』」

あずき「おぉ~~。やっぱり感想もらえると嬉しいね♪」

文香「『文香ちゃんもあずさちゃんも、とても面白くて可愛かったです。』」

あずき「あずきの名前間違われてるんだけど!?」

文香「他にもありますね。『鷲沢文香さん、桃井あずきさん、こんにちは。』」

あずき「今度は名字が違うよ!」

文香「『ツッコミの子ばクビにして、アイドル界で一番面白い上田鈴帆ちゃんを起用すべきたい。』」

あずき「鈴帆ちゃんってツッコミじゃなくてボケだからね!?」

文香「『ボケの子をクビにして、アイドル界で一番おもろい難波笑美ちゃんを起用すべきやと思う。』」

あずき「もうこの二人で漫才したらいいんじゃないかな?」

文香「『音声だけで聞くと、大作戦って言わないあずきちゃんは喜多見柚ちゃんとの違いが分からない。』」

あずき「切実にキツいやつ来ちゃった!!!」

文香「これらを見るに、どうやら私たちには皆さんへのアピールが足りなかったようですね……」

あずき「えー? そんなの納得できないよー」

文香「台本の都合としても、アピールが足りなかったということにしておきたいですね」

あずき「そこぶっちゃけちゃうの?」

文香「……アピールが足りなかったということに、してくださいませんかね?」

あずき「そんな下手に出ないでよ。変な小技使わなくっていいから……」

文香「というわけで、今回は漫才ついでに自己紹介の勉強をしていこうかと思います」

あずき「んー、文香さん。ついでって言い方はよくないんじゃないかなぁ」

文香「では、自己紹介の勉強ついでに漫才をしていこうかと思います」

あずき「そういう意味で言ったんじゃないよ!?」

文香「早速、あずきさんの自己紹介セリフをここで見てみましょう。プロデューサーさんに出会い、アイドルデビューする直前の言葉とでも言いましょうか」

あずき「ええっ? なんだか緊張するなぁ……」

文香「音流しますよー。スタッフさん準備OKですかー?」



<オッケーデス



あずき「打ち合わせちゃんとしとこうよ!」

文香「茶番はこれくらいにして……」

あずき「それ自分で言っちゃう?」

文香「あずきさんの自己紹介です……どんっ」





「あずきのアイドルデビュー大作戦! 名付けてプロジェクトA!

 …ねぇプロデューサーさん、この作戦名どう?

 なんか大ウケしそうな気がするでしょ! え? ダメ? なんでー?」





文香「カスのような自己紹介ですね」

あずき「辛辣すぎない!?」

文香「この自己紹介、何がダメって『あずき』の部分からもうダメダメですね」

あずき「ぅぅ~……。そこからなの……?」

文香「そもそも論として、名前がよくありませんね。『桃井あずき』の文字列自体が呪われているようなものかと……」

あずき「もはやいちゃもんレベルだよ!」

文香「いちゃもんでは、ありませんっ。実は、事前にあずきさんの名で姓名判断した結果が用意してあるのです」

あずき「! ほ、本当に?」

文香「本当ですよ。その結果が……こちらです、どんっ」



http://i.imgur.com/THLCC4r.jpg



あずき「予想以上にひどかった!!!」

あずき「むー……。あずきはともかく、文香さんの名前はどうだったのさ」

文香「もちろん調べてあります。私の場合、人間関係や富と名声などに恵まれます」

あずき「ええー。文香さんだけいいなー」

文香「……ですが、総合的に見ると波乱や自滅を招く運勢にあると」

あずき「このコンビろくな結果にならないじゃん!!」

文香「ふふふ、いかにもそうですけれど……ねぇ?」

あずき「なんでそこでドヤるの!?」

文香「そういった不運にも負けないよう、アイドルとして重要な自己アピール術を身に付けるのが重要だとは思いませんか?」

あずき「おぉっ。なんか、思ったよりうまくまとめてきたね!」

文香「話をあずきさんの自己紹介に戻しまして」

あずき「うん」

文香「自分のことについて、何も言っていないのがよくないですね。年齢や経歴、やってみたい仕事、長所や短所、住所と電話番号、初恋の時期や好みのタイプといった自分の内面をアピールしていきませんと……」

あずき「後ろの方おかしいの混ざってたよ!?」

文香「ちなみに私のタイプは……」

あずき「!」

文香「……好きなアイドルのCDを100枚くらい購入してくれるような、包容力のある方です」

あずき「下心を隠す気ないの!?」

文香「ともあれ、これでは、相手に謎のミッションを押し付ける残念な大作戦娘と思われても仕方ありません」

あずき「うぅ……。プロデューサーに初めて会ったときのことだし、少しは大目に見てよぅ」

文香「まあ、あずきさんが残念な大作戦娘だというのは周知の事実ですけど……」

あずき「そうだったの!?」

文香「次にあなたは、『あずきは残念な大作戦娘じゃないよ!』と言う!」

あずき「言わないよそんなの!」

文香「そ、そんなっ……!」

あずき「驚きすぎだよ!」

文香「残念なあずきさんなら、必ず私の予想通りに動いてくれると思ったのに……」

あずき「しつこいってば!」


文香「では、ここで他のアイドルの自己紹介を見てみましょうか。まずは、お向かいの事務所にいる子からです」





「春日未来14歳。アイドルになるために部活をやめてきました!

 とってもと~っても頑張るので、プロデューサーさん、私をアイドルにしてくださいっ!」





文香「自分の名前、年齢という基本情報に加えて、アイドルになるために部活をやめてきたという猪突猛進な面や、旺盛なやる気とが前面に表れたいい自己紹介になっていますね」

あずき「『とってもと~っても頑張る』って言い方も、子供っぽさや可愛い所が出てていい感じだね」

文香「バカっぽさなら、あずきさんも春日さんに負けてませんし大丈夫ですよ」

あずき「それあずきにも未来ちゃんにもすごく失礼だよ!!?」

文香「続いてはお隣の事務所、315プロのアイドルの自己紹介がこちら」





「天道輝、28歳だ。

 いやー、この年でアイドルってのもちょっと恥ずかしいな。

 ま、迷惑かけねぇ程度に頑張るからよろしく頼むぜ、プロデューサー」





文香「先ほどの春日さんと同じく、名前と年齢を最初に述べています。アイドル業への若干の羞恥心を示唆しつつ、仕事はこなすつもりだというアピールをしていますね」

あずき「なるほどねー」

文香「……他に言うことはありません」

あずき「思いつかなかったの!? 自分で取り上げたんだしなんか言おうよ!」

文香「ぇ~……あの~……。…………ぅぅっ」

あずき「うんわかった。もう無理しないでいいから、うん」

文香「春日さんも天道さんも、ファンへのアピールとなると別のセリフがありますが……」

あずき「プロデューサーへの自己紹介の方が、本人の性格が出るし大事だってこと?」

文香「…………っ」

あずき「……?」

文香「……えー、残念なあずきさんにセリフを取られるというまさかの事態が起きてしまいましたが……」

あずき「残念ネタはもういいってばっ」

文香「これを踏まえて、私なりに自己紹介を考えてきたのでお聞きしてほしいと思います」

あずき「いきなりだなぁ……。ていうか、今までのネタってこのための前フリだったの?」

文香「なきにしもあらず、です。それより本題ですが」

あずき「あ、うん。文香さんの自己紹介だったね」

文香「忌憚のない意見を聞かせてくださいね。……では、いきます」

あずき「うん!」

文香「鷺沢文香19歳。アイドルになるために学校をやめてきました!」





あずき「ちょっと待ったーーーー!!!」

あずき「ちょっとちょっと文香さん! 言いたいことは色々あるけど……」

文香「はて、なんでしょう。春日さんからの許可はいただいてませんが……」

あずき「許可を貰ってすらないの!? いやそれもだけど、文香さん的には、学校ってそんな簡単にやめていいものだったのかなって」

文香「恥ずかしながら、部活動には所属しておりませんので部活をやめることは出来ず……」

あずき「でも、大学ならサークル? とかあるんじゃ……」

文香「……はぁ。まったく、あずきさんは分かっていないですね」

あずき「むっ。何が分かってないのさ」

文香「サークルやめるくらいじゃ、恰好つかないじゃないですか」

あずき「すっごくしょうもないね! そんなの分からない方がずっとよかったよ!」

文香「了解です。では、少し改変して……できました!」

あずき「今度は大丈夫だよね?」

文香「自信作なので、ぜひ聞いてください。いきますよ……」

文香「鷺沢文香19歳。アイドルになるために事務所をやめてきました!」





あずき「ストーーーーップ!!!」

文香「??? どこがおかしかったですか?」

あずき「どこもおかしいよ! 名前と、年齢の箇所以外何もかも変だから!」

文香「はっ! ……となると…………」

あずき「うん?」

文香「もしかして、後半部分がおかしかったということですか!?」

あずき「なんでそんなに驚いてるのさ! 今文香さんの自己紹介聞いた人、みんな後半部分がおかしいって思ってたよ!」

文香「本当に? 10人中の10人がおかしいと思ってたんですか?」

あずき「そうだよ。絶対10人中、いや100人中100人はおかしいと思ったよ!」

文香「本当の本当に? 何時何分何秒? 地球が何回まわった後?」

あずき「子供の言い争いみたいなこと言わないの!」

文香「…………はぁー」

あずき「? どうしたの、文香さん」

文香「……ここまで結構しゃべったので、少々息継ぎをと」

あずき「堂々とサボらないでよ! 漫才中にサボる人なんて見たことないよ!」

文香「本当に見たことありませんか? 嘘ついてません?」

あずき「言っとくけど、さっきと同じ流れには付き合わないからねっ」

文香「……もうっ。あずきさんはいけずです……!」

あずき「古臭い悪口だー」

文香「四条貴音さんをリスペクトしました」

あずき「どうでもいいよ!」

文香「ですが、少し疲れているのは本当なので。オーディエンスの皆さんには悪いですけれど、あずきさんもちょっとだけ休まれてはいかがですか?」

あずき「いやいや……そういうのって、よくないんじゃないかなぁ」

文香「まだ時間もありますし、何度か深呼吸をするくらいの間でもいいので」

あずき「……もー、しょうがないなぁ」

文香「ありがとうございます……」

あずき「ちょっとだけだよ? ちょっとだけ休んだらまた再開……」





文香「スタッフさんジュース! よく冷えたオレンジ持ってきてくださーい!」





あずき「変わり身早すぎない!?」

文香「っか~……! この一杯のために生きてるぅ……」

あずき「おじさんみたいなこと言っちゃダメでしょ! アイドルだよ!?」

文香「ぇ~っとぉ……。ふみかちゃん、100パーセントのオレンジジュース飲まないとゲンキ出なくってぇ~」

あずき「ベッタベタな演技だね!」

文香「尊敬する人はぁ、765プロの水瀬伊織ちゃんですっ♪」

あずき「まだ続けるの!?」

文香「さっきの自己紹介もそうですけど、こういう部分で少しずつ他事務所とのコネクションを築いていくのが大事ですから」

あずき「腹黒いなぁ!」

文香「台本とはいえ、私のキャラに合わないことをたくさん言わされてますので……。そのくらいの甘い汁を吸わないと、やってられま」

あずき「ストップストップ! そこから先は台本だとしても危ないよ!」

文香「えっ、台本……?」

あずき「……え?」

文香「…………あ、そうなんです! 今のも台本の一部ですからね、台本台本!」



文香「というわけで、関係者各位はご安心ください。全部台本ですから」



あずき「腹黒どころか真っ黒だね!!」

文香「最悪ここで辞めさせられても、今までの実績と今日新しく築いたコネを使えば」

あずき「どんどんイヤな話に移ってるよー……。そろそろ、話を戻した方がいいんじゃない?」

文香「ぇと……なんの話でしたっけ?」

あずき「文香さんが振ったんでしょ。ほら、アピールとか自己紹介とかって」

文香「ああ、そうそう。あずきさんは残念な大作戦娘だ、というのが本題でしたね」

あずき「違うよ! 自己紹介の方が本筋だよ!!」

文香「そうでしたね。……私の自己紹介がおかしいとかなんとか、あずきさんに散々に言われた記憶があります」

あずき「えぇ~。あずき、そんな言い方してたかなぁ……」

文香「プライドをズタズタにされた記憶があります」

あずき「そ、そこまで!?」

文香「プライドも、無口キャラのアイデンティティも、事務所の信頼も失った私……」

あずき「信頼失った自覚あったんだ……」

文香「あ、すみません。無口キャラじゃなくて寡黙キャラです」

あずき「細かいよ! そんなところ訂正しなくていいから!」

文香「では、気を取り直して……」

あずき「あずき、そろそろツッコむ気力が尽きそうなんだけど」

文香「事務所の信頼を失った私……でも、一度トップアイドルを目指したからには、アイドルをやめるわけにはいきません」

あずき「うん」

文香「頭を下げて事務所に戻ったとしても、そこに待ち受けているのは皆さんからの冷たい視線でしょう……」

あずき「そんな意地悪な事務所じゃないよ!? 誤解されるようなこと言わないで!」

文香「しかし、賢い私はこんなこともあろうかと、秘策を用意してありました」

あずき「賢い人ならこんな事態を起こさないよね? 自業自得だよね???」

文香「秘策。それは、この漫才でモノにしたコネを使って他事務所にてアイドルを続けること!」

あずき「もうツッコむ気にもなれないよぉ!」

あずき「というか、コネなんてできてるの? 315さんと765さんだって、さっき話題に出したくらいだし……」

文香「…………」

あずき「……?」

文香「……こ、この前コラボした876さんとか行けませんかね?」

あずき「自信なくなるの早くない!? 秘策だったんでしょ!?」

文香「でもまあ、大丈夫でしょう。今の私には、移籍を可能とする魔法の言葉がありますからね」

あずき「魔法の言葉?」

文香「はい。この漫才の最中でも必死に考えた、どんな事務所も私を欲しくなるような魔法の自己紹介です!」

あずき「自己紹介…………ってまさか……!」

文香「鷺沢文香19歳。アイドルになるために事務所をやめてきました!」





あずき「言うと思った!! もういいよ!!!」









文香「ありがとうございました」

あずき「ありがとうございましたーっ」

おわり なんか申し訳ないですが、文香には無茶ぶりが似合う気がして変なことを言わせたくなってしまいます

読んでいただきありがとうございました

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