とら「おい、人間」ぬ~べ~「なんだ、妖怪」 (134)

キーンコーンカーンコーン

ぬーべー「よし、じゃあ気を付けて帰れよ。天気も悪くなってきたからな」

広「なんか嫌な天気だなー、雨もそうだけど、雲が分厚くてもう夜みたいだ」

響子「大雨になりそうね……アンタこの前大雨の中サッカーやって風邪引いたんだから今日は真っ直ぐ帰りなさいよね!」

広「わ、わかってるよ!」

まこと「でも本当におかしな天気なのだ……ゴロゴロゴロゴロ言ってるのだ……」

ぬーべー(…………)

玉藻「鵺野先生」

ぬーべー「……玉藻か」

ガラガラ……ゴロゴロゴロゴロ……

ぬーべー「嫌な天気だな」

玉藻「ええ、本当に」

ぬーべー「……」

玉藻「これがただの自然現象だとは」

ぬーべー「……」

玉藻「……ふっ、思ってはいませんね、安心しました」

ぬーべー「お前が自分から俺の所に来るとはな。さすがに、平静は保っていられなかったか」

玉藻「それはあなたにも言えるのでは?いつもよりあなたの霊力は……そうですね、人間の言い回しで、“尖って”います」

ぬーべー「……」

ぬーべー「この感じはなんだと思う?」

玉藻「この感じと言うと?」

ぬーべー「確かに、今朝から何か禍々しい妖気がどこかで発生しているのは感じていたさ」

玉藻「ええ」

ぬーべー「しかし」

玉藻「……強まっている……ですね?」

ぬーべー「……ああ」

玉藻「この妖気……恐怖を煽るような……危険を感じさせるような、そう感じませんが?」

ぬーべー「……ああ」

玉藻「今は霊能力を持つ者か、妖怪にしか感じ取れないレベルですが、いずれ普通の人間もこの妖気に毒されるでしょう」

ぬーべー「すると、どうなる?」

玉藻「……白面の者」

ぬーべー「……!」

ぬーべー「白面の者……」

玉藻「人や妖怪の恐怖を吸い、吸い取った者の力の最大値を自らの力とする妖怪」

ぬーべー「……」

玉藻「……既に、感じています。恐怖を」

ぬーべー「……」

玉藻「私も。……そして」

玉藻「鵺野先生、あなたも」

ぬーべー「……俺だけじゃない」

玉藻「え?」

ぬーべー「こんな事は始めてだよ、玉藻」

玉藻「……」

ぬーべー「俺の左手の鬼も……そして、美奈子先生も……畏怖している。その、白面の者にな」

その頃、沖縄の空

「……」

ここは、どこだ。
何故、わしはこんな所にいる?
……そうか、わしはあの忌まわしい槍に張り付けられて……
……いや、違う。
それはもっと前のことだ。
それじゃあ今は一体……
思い出せん。
……まあ良い。
ただ一つわかることがある。
それは……

ふふ、ひひ、ひゃひゃひゃひゃひゃ……

長飛丸「ひゃひゃひゃひゃひゃー!!!自由だ!わしは自由だー!!!!はぁーっはっはっはー!!!」

ズギュウウウウン……

……
………

「おぎゃああああああ……」

ゆきめ「うう、鵺野先生……」

ゆきめ(この妖気……とても禍々しいわ……よくわからないけど、良くないことが起こりそう……早く鵺野先生に会いに行かないと……)

広「あれ?ゆきめさん!」

響子「ゆきめさん!こんにちわ!」

ゆきめ「あら、二人とも……」

広「ぬーべーに会いに行くの?ぬーべーなら……」

響子「……!?ひ、広!!」

広「え?」

ゆきめ「!!あ、危ない!!」

ビュオオオオ!!

ボトッ

広「う、うわあ!?なんだよこの魚みたいなやつ!?」

響子「き、気持ち悪い……」

ゆきめ(なんなの、この妖怪……こんなの見たことない……)

ぬーべー「……!?」

玉藻「鵺野先生、この妖気は……」

ぬーべー「気が付かなかった……小さいが、多いぞ!」

玉藻「くっ」

ジュバッ

ぬーべー「この程度なら、鬼の手を使うまでもない……!」

玉藻「……!鵺野先生!!」

グググググ……

ぬーべー「これは……」

玉藻「合体している……?」

婢妖「ぶぐぐぐぐぐ……」

ぬーべー「まずいぞ、どんどん巨大化している、玉藻!」

玉藻「ええ、わかっています」

ぬーべー「こいつら、一体一体は弱いが合体することでその力を高めて行くらしい……ならばその前に……!」

玉藻(鬼の手……ふっ……味方とあらば、相変わらず心強いものですね)

ぬーべー「はあああああぁぁ!!」

玉藻「はぁっ!!」

ズバァァァァッ

婢妖「ぐぉぉぉぉぉ……」

玉藻「……やったか……?」

「いや、まだだ」

ぬーべー「!!」

玉藻「誰だ!?」

ヒュッ

ぬーべー「!は、早い!!」

婢妖「な、なんだお前は……ぐおおおおおぉぉぉぉ!!」

「……教えろ」

婢妖「ぐおおぉ……」

「お前がいるということは、あれが復活したということか」

婢妖「……」

ぬーべー(‘あれ’……?)

婢妖「白面の御方あ……復活は近い……」

「そうか」

グチャ

婢妖「ギョワアアアアアアアアアアー!!!」

「まあ、わかってはいたけどな」

ぬーべー「たった一撃で……」

玉藻(こんな妖怪がいたとは……)

「……」ヒュッ

ぬーべー「……!待ってくれ、お前は……!?」

「……」

「白面は、恐怖を力にする」

玉藻「……」

「恐怖が広がる前に手を打たないとならない。……じゃあな」

ぬーべー「待て、まだ聞きたいことが……!」

ヒュンッ

玉藻(速い……)

ぬーべー「……」

「きゃー!!」ヒョオオオオオ

ぬーべー「!!ゆきめ!?」

玉藻「校庭の方からです!」

ぬーべー「またさっきの妖怪か……!」

タッタッタッタッ

ぬーべー「ゆきめ!」

広「な、なんだこいつ、凄い速さで突っ込んで来たと思ったら……」

ゆきめ「つ、つい氷漬けにしちゃった……」

ぬーべー「こ、これはさっきの……?」

「さ、寒い助けて……」

玉藻(強いんだか弱いんだかわかりませんねえ)

響子「と、とにかく氷を溶かさないと!!」

「ひーっ」ブルブルブルブル

ゆきめ「あなたが悪いのよ、突然目の前に飛んでくるんだもん」

「だからって氷漬けにすることはねぇだろうよ!」

ゆきめ「そ、それは……つい癖で……」

ぬーべー(癖っておい)

玉藻「まあ、お陰で謎を残さずに済みました。聞きたいことがありましたから」

「ケッ」

広「おいおい、なんか生意気なやつだなあ、助けてやったってのに」

「先にお前らがやったんだろうが!!」

玉藻「……それで、あなたは何者なのですか?」

「……お前、妖怪だな」

玉藻「ええ」

「それも地上にはいねぇタイプのヤロウか、じゃあ俺を知らなくても当然ってわけだ」

「オイラは今訳あって日本の妖怪をまとめてる長、イズナだ!」

広「お、長?長ってことはお前、妖怪で一番偉いやつなのか!?」

イズナ「おう!」

響子「こんなかわいいのに……」

イズナ「おい、雪女!」

ゆきめ「え?」

イズナ「お前はまだ年若いからオイラを知らなくて当然だけどよ、次氷漬けにしやがったら承知しねえからな!」

ゆきめ「……」ヒュオッ

イズナ「ひーっ!寒いー!!」

ぬーべー(ほ、本当にこの妖怪が長なのか……?)

玉藻(ですが、先程の戦闘は本物でしたからねえ……)

イズナ「おい、お前……」

ぬーべー「ん?俺か?」

ゆきめ「きー!鵺野先生に“お前”なんて!このチビ!」ビュオオオオ

イズナ「ひーっ!」

ぬーべー「こ、こらゆきめ!話の途中じゃないか!」

ゆきめ「ふんっ」

イズナ「全く……」ブルブルブルブル

ぬーべー「それで、俺に何か?」

イズナ「いや、よく見たら似てるなあと思ってよ」

ぬーべー「似てる?」

イズナ「そのぶってぇ眉毛。……へへ、オイラな、人間はあまり好きじゃないけどよ、そんな風にぶってぇ眉毛してる奴は、なんとなく信用出来るような気がするんだよなあ」

ぬーべー「……は、はぁ」

イズナ「……お前達二人が強い力を持ってるのはわかる。……けどよ、白面はただ強い力でどうにかなるってもんじゃねぇんだ」

玉藻「恐怖が力に……ですか」

イズナ「そういうことよ、既にオイラの力も、お前達の力も白面の力になってんだ。けど、まだ白面の脅威を感じ取っていない一般人や弱い妖怪は恐怖を食われていない。だからまだ手の付けようのない事態にはなってねぇんだ」

玉藻「しかし、それはまだ妖気を感じていないのと、そもそも白面の存在に気付いていないからであって、いざ知ってしまったら……」

イズナ「そうだ、白面の力は増すばかりになる」

広「おいおいよくわからないけどやべーなその妖怪!」

響子「でもぬーべーなら……」

ぬーべー「……白面の者……倒されたのは確か」

イズナ「15年前だ」

ぬーべー「……」

イズナ「……当然覚えてるよな、あれだけの惨状だったんだ」

ぬーべー「あぁ……」

ぬーべー(あの時……俺は何にも出来なかった。……ただ逃げるだけ、避難するだけだった)グッ

イズナ「仕方ねぇよ、15年前っつったらお前まだガキだったろう?どうしようもなかったさ」

玉藻「しかし、そんな妖怪が何故一度は倒されたのか、腑に落ちないですね」

イズナ「……ああ、オイラ達もそう思ってた」

玉藻「……」

イズナ「白面を倒したのは一人の人間と、一匹の化物だ」

玉藻「たった二体で?」

イズナ「ああ。信じられねぇか?」

玉藻「……ええ。全く話が見えませんからね」

イズナ「白面を倒すのにはな、槍が必要なんだ。どんな化物でも簡単に殺せちまう、感情を持たない妖怪器物……獣の槍」

ぬーべー「獣の槍……」

イズナ「その槍に選ばれた人間」

玉藻「それが二体の片割れですね」

イズナ「そして……唯一白面にダメージを与えられる妖怪。おいら達は“長飛丸”と呼んでるがよ」

イズナ「二体で一匹の最強の妖怪。そいつらが白面を倒したんだ」

広「だったらよー、今回もそいつらに任せればいいんじゃねぇのか?」

イズナ「……無理なんだよ」

響子「え?」

イズナ「長飛丸はその戦いで死んじまったし、槍も失われたんだ」

玉藻「槍がないということは」

イズナ「ああ、白面に対抗する武器もないってことだ」

イズナ「けどまだ希望はあってよぉ……そのためにオイラ人間の住むところまで来たんだけど……」

ガラガラッバリバリバリバリバリッ

イズナ「!?」

響子「か、雷!?」

ゆきめ「な、なんなのこの妖気は!?」

玉藻「鵺野先生!」

ぬーべー「ああ!」

長飛丸「ひゃひゃひゃひゃひゃー!!なんだおめぇ達ー!!!妖気と霊気をプンプンさせやがってよぉー!!!」

イズナ「な、長飛丸……!?」

長飛丸「狐……そして鬼……憑きの人間か、面白え顔触れじゃねぇか」

ぬーべー「ゆきめ!広!響子!逃げろ!この妖気……妖怪としての枠を遥かに超えている!」

玉藻「あり得ない……何故地上にこんな妖怪が……!?」

イズナ「な、長飛丸!!どうしたんだよ!記憶がなくなってんのか!?」

長飛丸「なんだお前……随分馴れ馴れしくわしを呼ぶじゃねえか。長飛丸……それがわしの名か?」

イズナ「コイツ……そうか、復活のショックで記憶が!」

長飛丸「とりあえずわしは腹が減っている……後ろにいるガキ二人は美味そうだ、頂くぞ」

響子「ひっ!?」

ぬーべー「はあっ!!」

長飛丸「……ほう」

ぬーべー「俺の生徒に手出しはさせない」

長飛丸「どうやってるのかは知らんが、封印した鬼を使役してるのか、まあ完璧じゃないようだが……少しは楽しませてくれそうだな」ビキビキ

ズンッ

ぬーべー「!玉藻!!」

玉藻「隙だらけですよ」

長飛丸「……」

玉藻「いかに強い妖気があろうとも、この不意打ちを食らうようでは……」

イズナ「バカ!油断すんな!長飛丸はそんなもんじゃ……」



ゴ ン ッ

玉藻「……………!…………」

ぬーべー「玉藻ー!!!!」

長飛丸「ひゃはははははは!!食らうようでは、だと!?食らってやったんだよバーカーめー!!」

玉藻「ぐっ……はぁっ…………」

長飛丸「ちぇったった一発でこれかよ、弱え弱え」

ぬーべー「許さんぞ貴様ー!!!」

長飛丸「おお?」

ズババババッ

ぬーべー「うおおおおお!!」

長飛丸「へぇ、こいつ人間のクセにやりやがる」

ぐるぐるっ

長飛丸「……ん?」

ぬーべー「はあっ!」

ビキビキビキビキッ

長飛丸「……!ぐおおおおお!?」

広「やった!捕まえた!」

響子「その調子よ!ぬーべー!」

長飛丸(ぐ……お……これは……知ってるぞ……この人間……法力を使いやがるのか)

ぬーべー(霊力に弱いようだな……それならばこのまま……!)

ピキイイインッ

ぬーべー「な、なに!?」

長飛丸「……へへ、悪りいな人間」

ぬーべー「……くっ!」

長飛丸「お前……確かに人間としては強い方だけどよ、わしはこーいうの慣れてんだわ」

ぬーべー「まだだ!」

ババババッ

長飛丸「あーやれやれ」

ぬーべー「ぬおおおおおおお!!!!」

長飛丸(……あれ、なんだ、これ……)

ぬーべー「はああああああああ!!!」

長飛丸(……)

長飛丸「……ちっ」

イズナ(長飛丸……何か思い出してんのか……?)

長飛丸(なんだっけな……よくわからんが、こうやって人間と戦ってると……人を食おうとすると……なんか不味いような気がする……)

長飛丸(それに、この人間……)

ぬーべー「もっとだ、もっと力を示してくれ……鬼の手よ……!!」

長飛丸(あのぶってぇ眉毛、うざってぇ目、何か思い出しそうになるぜ……ちっ良いんだか悪いんだかわからねぇけどよ)

長飛丸「……」

ふわっ

長飛丸「……なーんか、白けちまった」

ぬーべー「はあっ、はあっ……」

長飛丸「……」

イズナ「長飛丸……」

長飛丸「ケッもっと骨のある奴と戦ってやるわい!命拾いしたな!」

ひゅーん……

ぬーべー「ま、待て!まだ終わっては……!」

イズナ「追うな、勝てやしねぇさ」

ぬーべー「しかし……!」

イズナ「あれは、白面を倒した片割れなんだぜ?」

ぬーべー「……あの妖怪が……?」

イズナ「そうだ」

ぬーべー「しかしさっき、白面との戦いで死んだと言ってただろう」

イズナ「オイラも気がつかなかったよ」

ぬーべー「……」

イズナ「……そうだよな、白面が復活したってことは、長飛丸が復活するってことなんだ……」

ぬーべー「……どういうことだ……?」

イズナ「詳しくは後で話す。とりあえずそこの妖狐を手当てしねぇとな」

「くぉらー!!おかずに用意しといた沢庵食べたねー!!?」

「わー!お、俺じゃねぇよー!!」

「嘘をおいいかえ!!アンタじゃなかったら誰がこんなみみっちいことを!」

「き、決めつけんなって!俺ずっと絵描いてたってのに!……ん?」

「……ポリポリ」

「……」

「……あっ」サッ

「親父いぃぃぃぃー!!!」

麻子「全く!お義父さんも潮もなんでいつもいつもそう意地汚いのよ!」

潮「だ、だから俺は食ってねぇって……」

麻子「お黙りゃ!」カコーン

時雨「けっけっけっ」

麻子「お義父さんも!!」カコーン

潮「けっけっけっ」

須磨子「まあまあ、お味噌汁が冷めちゃいますよ、とりあえず夕御飯にしましょう」

潮「よっしゃー!腹減ったー!!」

麻子「潮!まだ話は終わってないの!」

時雨「息子よ……怖い嫁を持ったのう……」

潮「だから俺は食ってねーって……ん?」

紫暮「潮よ」

潮「わかってる」

雷信「潮様」

かがり「潮様、久しゅうございます」

須磨子「まあまあ」

麻子「かまいたちの二人……!」

潮「なんだ、二人とも久しぶりだなー、どうしたんだよわざわざ会いに来るなんて」

雷信「はい、時間がないため率直に申し上げます」

かがり「白面の者が……復活しました」

潮「……なんだって?」

須磨子「……」

雷信「ここまではまだ白面の手が回っていないようなので、やはりお気付きにはなられていませんか。今日の明朝、南の海の化物より使いが来たのです」

かがり「白面復活す、と……」

紫暮「……化物はいつか復活する……か」

麻子「で、でも、それを潮に伝えてどうするのよ!?獣の槍はもうないし、もしあったとしても潮はもう獣の槍は使えないわ!」

雷信「……」

麻子「それに……それに嫌よ!また潮がキズだらけになって……死にかけたりなんて、私は絶対嫌よ!」

雷信「わかっております」

麻子「……わかってるなら!」

かがり「わかっております、でも……でも……!」

雷信「それでも潮様なら、潮様であれば、なんとかして下さると……」

かがり「あの時みたいに……」

潮「よし、行こう」

麻子「潮!?」

時雨「……」

潮「大丈夫だよ、麻子。俺だってこの15年間なにもしてこなかった訳じゃない。法力僧の修行も積んで、今はキリオや親父とも対等に戦えるくらいにはなってる。死にはしないさ」

麻子「何言ってんのよ!白面の者はそれくらいで倒せるような相手じゃないでしょ!?」

潮「……そうだけどさ……」

麻子「それなら……」

潮「だけどさ、俺、こいつらには凄い助けられてるから」

麻子「……」

潮「それにさ」

潮「それに、白面の者が復活したってのに、逃げ回ったり、見て見ぬふりなんてしたらさ……あいつに笑われちまうよ」

麻子「あいつ……」

時雨(とら殿……か)

潮「ごめん、死なないからさ、麻子」

潮「麻子……」

麻子「……」

潮「親父……母さん、行ってくるよ」

紫暮「……愚息を頼みます、二人とも」

須磨子「行ってらっしゃい、潮」

雷信「はいっ」

かがり「……命に、換えてでも……!」

潮「行こうか、二人とも」

麻子「……潮!」

潮「お、おう?」
バシーン!!
潮「いってぇ!?」

麻子「全く!!次つまみ食いしたら承知しないんだからねー!?」
麻子「あとね!!今日のおかずのギョーザ!!これ腕によりをかけて作ったんだから!ちゃんと残しとくから帰ってきたら食べなさい!!」

潮「……」

麻子「行って来い!!」

潮「……麻子……」

潮「……へーんだ!行って来るよう!」

潮(けど……確かにな……)

潮(確かに麻子の言った通りだ……法力がいくら強くても、白面には勝てない。白面に対抗する為には白面を怖がらない唯一の化物器物……獣の槍が必要なんだ)

潮(けど、獣の槍は……ジエメイさんとギリョウさんは俺の魂と一緒になって、俺が化物になるのを抑えてくれている)

潮(もう、獣の槍には頼れないんだ)

潮(……ああ、こんな時にあいつがいてくれたらなあ……)

潮(とら……)

ぬーべー「つまり、あの長飛丸という妖怪は元は人間だったと言うことか?」

イズナ「そうだ」

ぬーべー「そうか……」

イズナ「意外とあっさり信じるのな」

ぬーべー「妖怪は人の心が生み出す。その白面の者も、そう生まれたというなら納得出来る」

イズナ「お前さん、法力僧でもないのに理解力があって助かるよ」

ぬーべー「……しかしどうする、白面の者に対抗する手立ては」

イズナ「なんとかしてくれそうな奴を、一人知ってんだ」

ぬーべー「なんとかしてくれそうな……?」

イズナ「ああ」

ぬーべー「しかし、獣の槍がなければ白面は倒せないんじゃないのか?」

イズナ「その、獣の槍を使ってた奴さ」

ぬーべー「獣の槍の使い手……」

イズナ「名は、蒼月潮と云う」

意識……

コレハ我ノ意識……

覚エテイル……
覚エテイルゾ……
我ハ負ケタ……
切リ裂カレ、突キ刺サレ……
ダガ、何故ダ……

何故、我ハ……




モハヤナニモ憎ンデイナイ……?

白面「……」

白面「ここは……」

白面「なんてすっきりとしておる。……なんと……爽やかで、明朗な意識じゃ」

白面「……あれは」

(見える……見えるぞ、海底に濁っておるのは、我…いや、“我であった物”……そうか、我は……我は分離したのだ……)

(ああまで憧れた陽の生……そうか、我は……)

おぎゃああああああああああああ!!

白面「……」

(なんと禍々しい……そうか、陽の我に意識があるように、陰の我にも意識が……)

憎い 憎い 憎い
憎い 憎い 憎い 憎い 憎い

白面「何とか醜悪で陰鬱な気じゃ」

白面「何と憐れな」

憎い 憎い 憎い 憎い 憎い
憎い 憎い
憎い
憎い 憎い 憎い 憎い

白面「……」

東京上空

長飛丸「けっ多分わしは何か忘れてんだな……あのチビ妖怪は何か知っているようだった。聞いておけば良かったか……」

長飛丸「……長飛丸……と言っていたか」

長飛丸「……けっ」

長飛丸(しっくりこねぇ。長飛丸……その名で呼ばれることが気に食わねぇみたいだ。中途半端に体が覚えてやがる)

長飛丸(人も随分食ってねえみてえだしよ……だが、人を食おうとしてひでぇ目にでも遭ったのか、それも体が拒否しやがる……)

長飛丸「……ちっ!」

長飛丸(不愉快ったらありゃしねぇぜ、くそったれが……)

潮「おー、迷い家。久しぶりだなー」

雷信「今は私とかがりが前の長、山ん本の後を継ぎここに住んでおります」

かがり「もっとも、あの戦いから化物はいい意味でも悪い意味でも増え、以前のようにしっかりと統べられている訳ではありませんが……」

雷信「私共の力不足もあり、人間達にも迷惑を掛けているようで……」

潮「あーあー良いんだよそんなことは!真面目だなー二人とも」

かがり「ですが潮様」

潮「そんなことより、今は白面をどうするかだろ?獣の槍がない今、前みたいに人間と妖怪が協力し合ってもうまく行くかどうかなぁ……」

雷信「はい」

潮「親父達も何かしら動きはするんだろうけどよ……」

雷信(決定力……)

かがり(獣の槍に代わる、何か対抗手段を見出さなくては……)

ぬーべー「しかしその獣の槍がなくては白面を倒すことは出来ない……中途半端な方法では恐らく封印することも出来ないのだろう。何しろ、この俺の左手の鬼、そして美奈子先生ですら恐怖を感じさせる妖怪だ」

イズナ「仕方ねぇさ、それに、奴はあの手この手でこちらに恐怖を煽ってくる。やり方もえげつねぇんだぜ」

玉藻「……うっ」

ぬーべー「おお、玉藻目が覚めたか」

玉藻「……私は」

イズナ「長飛丸にやられて死ななかっただけ大したもんだぜ。……なんか以前より強くなってる感じだったからな」

玉藻「……くっ」

ぬーべー「まだ動くな、完全に治ってはいないんだ」

玉藻「私はあの妖怪を倒します」

イズナ「お、おい!」

玉藻「やられっぱなしと云う訳には行きませんからね。それに、あのように狂暴な妖怪、野放しにしていては危険でしょう」

広「でも、あいつがいないと白面に対抗する手段が一つ減るんだろ?」

ぬーべー「そうだぞ、玉藻。……それに一人で奴に勝てるとは思わない」

玉藻「私は私で調べさせてもらいます。その白面との戦いで何があったのか。そしてあの金色の妖怪は何者なのか……鵺野先生でも白面はおろかあの妖怪に勝てなかった今、行動を共にする意味はありませんからね……」

ぬーべー「……玉藻…………」

イズナ「おい狐」

玉藻「なんでしょう?」

イズナ「お前は地獄から来てまだ日が浅いようだからこっちのことはよく知らねえんだろうけどよ……長の言うことはぜってぇなんだよ」

玉藻「ほう……と言うと?」

イズナ「白面はそんな個人行動で倒せる相手じゃねぇ。むしろ状況がこんがらがって迷惑だ。……そして、長飛丸はオイラたちの仲間なんだよ」

玉藻「……なら、どうすると言うのでしょうか」

イズナ「どうしても輪を乱すってんならよ……東の出身ではあるがよう、訳あって今、西の総大将をしているこのイズナを倒してから行きな!」

玉藻「……面白い……!!」

「ねぇ、本当にこの辺りで感じたの?」

「うん……自信はないけど、でもあの感じ、何も理由がないとは思えないの」

「ふーん……」

(まあ、そんなウソついたって意味ないもんね。それにそういう勘は強い人だし……何より、この感じ……どっち道何かが起こるような気がする)

「うふふ……ねぇ?」

「……え?うん、何?」

「こうして歩いてると、なんか昔を思い出すね?キリオくん」

キリオ「……そうだね、真由子さん」

真由子「うんっ」

ガシャアアアン……

キリオ「!」

真由子「!?」

キリオ「あの学校からだ!」

真由子「化物同士が戦ってる……?」

キリオ「そうみたいだね……一般人に被害が行くと良くない。行くよ!」

真由子「私も行く!」


イズナ「へへへ!なかなかやるじゃねえか!人間の皮被ってる分際でよ!」

玉藻「あなたこそ……やはり只者ではないようですね」

ぬーべー「おい、やめろ!今は仲間割れをしている場合ではない!」

響子「き、教室が……」

イズナ「おい人間、化物には化物よ筋の通し方ってもんがあるんだ。邪魔すんならお前も敵と見なすぜ」

ぬーべー「……何を言って……」

玉藻「お喋りをしている場合ではありませんよ!」

イズナ「おおっとぉ!」

イズナ「そーれい!イズナ様のお通りでい!」

シュババババッ

玉藻(くっ……この体格から来るスピード……そして力。流石は妖怪の長と言った所でしょうか)

玉藻「だが……!」

イズナ「!!」

ぬーべー(火輪尾の術か……)

玉藻「さすがのあなたも、この炎からは逃れられないでしょう」

イズナ「く……お……!!」

玉藻「さあ、そろそろ地獄へ堕として差し上げましょう。……地獄の業火はこんなものではありませんよ」

イズナ「……」

ぬーべー「やめろ!玉藻!!そこまでにしておけ!!」

玉藻「やれやれ……甘いですね、鵺野先生。本当に、あなたの甘さは、死んでも治らないかもしれませんね」

イズナ「……へへっ」

玉藻「!!」

イズナ「なんでえ……火遊びかよ……オイラ、こんな程度の炎なら、もおーっとあっちい炎を知ってんだ……」

玉藻「くぅっ!!」

ゴウッ

イズナ「へへっぬりぃぬりぃ」

玉藻(なんて妖怪だ……!)

(なんでわしがこのチビの心配をせにゃならんのだ)

ごぉー

(ひぃ!これこれー!!)

イズナ(まあ、火に強くなったワケは笑っちまうもうだけどよ……へへっ)

イズナ「終わりにしようぜ狐野郎!オイラもそんな暇じゃねえんだ!」

玉藻(来るか……!)

イズナ「喰ーらえーい!!」

玉藻「……!!」

キリオ「そこまでだよ!」

イズナ「!」

玉藻「!!」

キリオ「あーあ、学校こんな黒焦げにしちゃって……明日から授業どーすんの」

ぬーべー(この霊気……彼も只者ではないな……)

イズナ「あー!キリオじゃねぇか!!」

真由子「キリオくーん、速いよぉ……」タッタッタッ

イズナ「あ!お役目の女も!」

キリオ「あれー!?なんだ!長じゃん!」

真由子「イズナ君お久しぶり!」

イズナ「お前変わらんなー、妖怪なんじゃねぇのか?人間ってすぐ老けんのによぉ」

真由子「な、なに言ってんの!胸は大きくなったでしょ!ねえキリオくん!」

キリオ「え!?え、え、う、うん、うん……」

玉藻(やれやれ……この二人も……かなりの霊能力ですね。これはさすがに分が悪いか……)バッ

ぬーべー「!!玉藻!」

玉藻「私は私で考えがあります。単独で行動させてもらいますよ。アディオス!」

キリオ「追わなくて良いの?」
イズナ「……ああ」
ぬーべー「悪い奴ではないんだ。…ただああも簡単にあの金色の妖怪にやられたのが悔しかったんだろう。許してやってくれ」

イズナ「オイラも別に本気で殺そうと思った訳ではないさ。ただ……」

真由子「金色の……妖怪!?」

ぬーべー「!」

真由子「金色の妖怪って……ひょっとして……ひょっとしてこんな感じの!?」

全員「……」

キリオ「……お姉ちゃんその顔」

真由子「ふへ?」

キリオ「ひょっとして、とらの真似?」

真由子「そ、そうだけど……似てない?」

キリオ「……全然」

イズナ「はっはっはっは!!やっぱおめぇ変わらねぇなあ!はっはっはっは!!」

真由子「もー!そんなに笑わないでよぉ!」

キリオ「イズナも大概だけどね、長になっても良いノリしてるなあ」

イズナ「へへっオイラあんま偉ぶるの好きじゃなくてよ……ああ、そんで、長飛丸の話だな」

真由子「う、うん!」

イズナ「復活したよ」

キリオ「……」

真由子「……!!」

キリオ「真由子さん……?」

真由子「……」ポロポロ

イズナ「お、おい女……」

真由子「……ご、ごめん!」バッ

キリオ(……)

真由子(そっかぁ……そっかぁ……とらちゃん生き返ったんだ……生き返ったんだねぇ……良かった……良かったぁ……)

イズナ(そうか、こいつぁ長飛丸に……)

真由子「それで……とらちゃんは?今どこにいるの?」

キリオ「……さっきの化物と戦ったって言ってたけど」

イズナ「ああ……確かに蘇ったんだがよ……記憶を失ってるらしくてな、襲い掛かって来やがったんだ」

真由子「とらちゃんが……!?」

キリオ「……」

広「と、ところでさ……響子……」

響子「な、なに?」

広「俺たちもずっとここにいんのに、なんかすっげぇ、存在感なくないか……?」

響子「そ、そうね。だんだんぬーべーのセリフも減ってきたし……」

ぬーべー「ギクッ」

イズナ「けど、何か思い出しかけてたっぽいからな。あの分じゃ心配はいらねぇだろうよ」

真由子「そっか……」

イズナ「今どこほっつき歩いてんだかはわからねぇけどよ、なんとか記憶引っ張り返さねえとな。白面もいつ完全に復活するかわからねぇんだ」

キリオ「そうか……この感じ……やっぱり白面なんだね」

イズナ「気付いてたか」

真由子「白面の者……」

「わあー!なんだこりゃ!」

イズナ「!!」

ぬーべー「げげ、石川先生だ!」

広「や、やばいぜ!教室黒焦げだし!」

ゆきめ「ぬ、鵺野先生!」

イズナ「おい人間」

ぬーべー「!」

イズナ「オイラはもう行くけどよ、もし力を貸してくれるんだったら、“光覇明宗”を訪ねな。……多分お前さんの力も必要になる。……人間の力もな」

ぬーべー(光覇明宗……聞いたことがある)

イズナ「協力してくれんならまた会うだろうな!そんじゃ、またな!!」シュンッ

キリオ「僕達も行くよ!」

真由子「あ、キリオくん待って!」

石川「こっちから声が!犯人はお前たちかー!!」

ゆきめ「鵺野先生!早く!」

ぬーべー「……ああ」

白面「……」

白面「ただ一介の化物として存在して行くなど考えたこともないことだ」

白面「海底におる我のことも気になる。あの様ではいずれ以前のように……いや、既に恐怖を撒き、恐らくは食うておるのだろう」

白面「また、あれを繰り返すか、白面よ」

白面(……)

白面「もはや、我が白面を名乗るのは違うのかもしれんのう」

ふわっ

ワイワイガヤガヤ

白面「……」

人、人、人、人……

白面(おかしなものじゃ。清い者、醜い者、千差万別。化物も人間もさして変わらぬ)

白面(……そもそも、我も人間の憎しみから産まれたのであったな)

白面(こうして陽の生に転じた今も、やはり人間の性、おおよそ理解出来ぬ)

「おい、あれ……」

白面「……」

「うわ!すっげー可愛い……芸能人かな?」

「芸能人があんなところで一人いないだろ。ナンパ待ちじゃね?」

「だ、だったら俺行って来よかなー!」

白面(あれは我のことを話しておるのか。)

「行って来いよ!ふひひ!」

白面(下品なり、醜悪なり、心を読むにも足らず。そうか。我は以前から戯れに人間の化粧を纏いしときには女子を被っておったが、今もどうやらそうであるらしい)

「ねーねー、キレーな髪だね?これ、銀色?染めてるの?」

白面「……」

「緊張してんのかな?良かったら俺たちと呑まない?」

白面(調子に乗るな人間……陽の存在になったとは言え、この白面にそうやすやすと気をやらせるものかよ……!!)

ピキ

「おい!なにやってんだよ!」

「あ?」

潮「全く、世の中大変なことになるかもしれねぇってのにナンパかよお前らはよ!」

「あ?お前にはカンケーねぇだろ!」

潮「その子嫌がってんだろ?見りゃわかんだろうがよ!」

白面(……)

潮「けど君もこんな都会で一人でたらあぶねーぞ、誰か待ってんのか?」

白面(見覚えがある……この顔、声は……)

「なんだ、横取りする気かよてめー!」

雷信「……」シュンッ

かがり「……」シュパッ

「あら?」

「あらら??」

かがり「(よしっ)きゃー!!なんでこの人裸なのぉー!!」

キャーキャー
ウワーヘンタイダー

「ち、違うんだ服がいきなり!!」

潮「いやー悪いなー雷信、かがり」

雷信「いえ」

かがり「潮様に危害を加える者を私たちは許しません」

白面(……)

潮「わりーな、勢いで連れて来ちまったけど大丈夫だったか?」

白面(……)コクリ

潮「そっか。でももう時間も遅いしよ、家まで送って行くよ」

かがり「家はどこなの?」

白面(何故じゃ、何故我はこの者達にばれないよう、化物としての気を押さえ込んでおる。……特にあの人間。あの、我を倒した人間。何故、我は……)

白面(……)

雷信「潮様。もしかすると、この者、帰る家がないのでは……」

潮「……え?」

潮「……そうなのか?」

白面(……)コクリ

かがり「大丈夫よ、怖くないから……」

潮「自分の名前は言えるか?」

白面(名前……我の……名か。我……我が呼ばれたし名は……我は求めし名は……)

陽……陽の気……一つの濁りもなく、一片の崩れもなく、ただ陽、陽、陽……我は呼ばれたし名は、我が……我が……

白面「我……私の名は……」

潮「ああ」

白面「陽子……」

迷い家

潮「ほら、腹減ってるだろ?いっぱい食えよ」

陽子「う、うむ……」

かがり「ちゃんと人間界の材料を使って作った鍋よ。口に合うと思うわ」

潮「そうだぜ!かがりの飯は美味いんだぞー!」

陽子(暖かい……これは団欒と呼ぶものか。この我が、“暖かい”、か……)

潮「それにしても、雷信とかがりが妖怪だと知っても驚かないんだなーお前」

陽子「え?」

潮「もっとびっくりするかと思ったんだけどよ」

陽子「お、驚いては、おる……ぞ。うむ……」

潮「そうか?そんな風には見えねえけどなー」

雷信「潮様、恐らくはこの娘、記憶を失っているのです」

かがり「もしかすると、化物と何かしらの関わりがあり、それで我らを恐れぬのだと……」

陽子(……そういうことにしておこう)

真由子「……とらちゃん…………」

とらちゃん、とらちゃん、とらちゃん。

いつだって私を守ってくれた。
いつだって、私を助けてくれた。

とらちゃん。

あれから、もう15年も経つんだね。

一度だって、一日だって忘れたことはないし、むしろ忘れようと必死だったよ。

だって、そうじゃないと悲しくて、夜が来るのが怖くて。

……でも忘れなくて良かった。

…………生き返ったんだねぇ。
帰って来てくれたんだねぇ、とらちゃん……

真由子「とらちゃん……」

キリオ「……」

玉藻「……ふう」

玉藻(長飛丸……決定的な弱点はなし、ですか。これは付け入る隙が見つかりませんね)

玉藻「まさかあの鵺野先生ですら勝てないとは、ますます人間界に存在するには不釣り合いな妖怪だ」

玉藻(……)

玉藻「ところで、いつまでそこに隠れているのです?」

「……」

玉藻「やれやれ、無視ですか……」

キリオ(……)

キリオ「はあ、とら、か……」

キリオ「まあ、わかってはいるけどね。とらの記憶が戻ったって、どうにもならないんだろうけど」

キリオ(でもやっぱり面白くないなあ)

キリオ「ねえ」

キリオ「こう見えて、僕は今気が立ってるんだよ」

キリオ「だから、さっさと出てきたら?」

キリオ「白面の者の使い……」

憎くは、ないか……?

歯が立たない強さを持つ化物。

愛しき女を惑わす化物。

憎しみ
憎しみ
憎しみ

奴が蘇ったことで、崩れたのだ。
お前達の日常が、お前達の大切な物が。

憎むがよい。
憎しみが力になる。

憎しみの心があるのなら……

我はお前達に、力を貸してやろう……!

真由子「キリオくーん、朝だよー」

真由子「キリオくん?あれ……?」

真由子「おかしいな、早起きしてお寺に言っちゃったのかな?……あら?」

真由子「これ、エレザールの鎌……」

真由子「持たずに出掛けるなんて……どこに行っちゃったんだろう……」

ぬーべー「玉藻が……?」

「はい、今日大事な手術があるというのに、まだいらっしゃらなくて……」

ぬーべー「……すみませんが、俺もわかりません。探してはみますが……」

「お願いします、本当に、大事な手術なんです」

ガチャ

ぬーべー「玉藻……やはり、あの長飛丸という妖怪の所へ……」


長飛丸「……なんだぁ?お前達……」

玉藻「探しましたよ……」

キリオ「邪魔だからね、殺しに来たんだよ」

長飛丸「ほぉ……」

玉藻「昨日のようには行きませんよ」

キリオ「……」

長飛丸「おもしれぇじゃねぇか……退屈してた所だぜ…………!!」

ブワッ

長飛丸「な、なに!?」

真由子(とりあえず、潮君の所に行こう。とらちゃんが生き返ったってこと、もし知らなかったら教えてあげたいし……)

真由子「そういえば、最近会ってないなあ、潮君にも、麻子にも」

真由子「ふふっ相変わらず仲良しなのかな?あの二人」

(真由子……真由子…………)

真由子「!?」


潮「ジ……ジエメイ……さん……??」

(お久しぶりですね……うしお……)

潮「ど、どうしたんだよ……?ジエメイさんはギリョウさんと一緒に……」

ぬーべー「つまり玉藻は白面に操られていると?」

ジエメイ「そうです。そして彼を止められるのはあなたしかいないのです」

ぬーべー「玉藻は今どこに」

ジエメイ「あそこ……」

ぬーべー「……」

ジエメイ「あの山の麓で、今まさに、戦いが始まろうとしています……」

長飛丸「く、くそう……!!」

長飛丸(あのガキの結界……狐野郎の幻覚……それだけならそんなに苦労はしねえってのに……)

玉藻「隠れても無駄です!」

長飛丸「!ちぃっ!」

長飛丸(あの姿……そして、あの……)

キリオ「甘いよ!」

ザクッ

長飛丸「ぐおぉ!」

長飛丸(ちくしょう……なんだってんだよ……)

長飛丸(なんで、あの忌々しい槍が)

キリオ「……」ジャリッ

玉藻「……」チャッ

長飛丸(二本もありやがるんだ……)

潮「悪いな!威吹!」

威吹「お前には借りがある、気にするな」

潮「とら……とらが蘇ったなんてよ……信じられねえけど、そうだよな……白面が蘇ったんなら、とらだって……」

威吹「……」

潮(とら……記憶を失っちまってるなんてよ……けど、お前なら、お前ならきっとすぐに全部思い出してくれるよな……俺のことも、みんなのことも……)

潮「とらがいれば……きっと白面も……」

威吹「蒼月、もうすぐだ!」

潮「さっすが、速いな威吹!!」

玉藻「はあ、はあ……」

キリオ「はあはあ……」

長飛丸「へっなんだおめぇら、最初は驚いたけどよ……慣れちまえばどーってことねぇな。槍の使い方が全くなっちゃいねえ」

玉藻「まだ……まだです!!……はぁっ!!」

長飛丸「けっ」シュルッ

玉藻「なっ!?体毛で槍を……!?」

長飛丸「よーく見たら槍も偽物だしよ。まあ魂を吸い取って力を強めるのは同じみてえだが……」

キリオ「はあああああー!!!」

長飛丸「おおっとぉ!」

キリオ「!!」

長飛丸「おめぇもよぉ……なんかお前、その槍似合わねぇな、もっと別の使ってなかったか、確か……ん?別の……?」

長飛丸(ちっまたこの感じか。なんだってんだ……)

長飛丸「とにかくぜんっぜんダメだな、その槍使うにゃお前達ぜんっぜん向いてねぇよ、あの小僧みたいに……」

長飛丸(……ちっ、あの小僧?なんだよ、誰だよそいつはよ……)

バチバチッ

長飛丸(……!)

玉藻「うおおおお……」

キリオ「くぅ、はああああ……」

長飛丸「……へっ」

長飛丸(魂を吸い取られ過ぎたか……嫌に早えぇな、偽物使ってんのと、そもそも槍に選ばれるタマじゃねぇってのが祟りやがったか……)

玉藻「ぐおおおお……」

キリオ「ぐ……あぁ……」

長飛丸「……くそがあ!!」

ガキイイイィン……

長飛丸「ぐぉ……」

長飛丸(よし……上手く刺さりやがったな……後は……!!)

長飛丸「おら!早く手を離しやがれ!!」

ゲシッ

玉藻「!!」

キリオ「くぅっ!」

長飛丸「……へっ」

玉藻「……」

キリオ「……」

長飛丸「けっ、魂を奪われなかったんならさっさと消えな。どーせおめぇら……」

ゴスッ

長飛丸「ぐふっ……」

ガスッ

長飛丸「がっ……」

玉藻「憎い、憎い……」

キリオ「真由子さんは……真由子さんは渡さないよ……」

長飛丸「ちっこいつら……」

ボウッ

長飛丸「ぐうぅ……」

長飛丸(なんなんだこいつら……こっちが手加減してやってりゃあ図に乗りやがってよ……)

ゴスッガスッ

長飛丸「……」

長飛丸(なーんでわし、こうまでされて大人しくしてんのかね、全く……)

ーなんだ、、、風が止んだじゃねぇか……

ーあ?なんだって?

長飛丸(……)

ーおい、ナガレ……

長飛丸(……)

ーあばよ。

ーバケモン。

長飛丸(…………!!)

長飛丸(……あ……?)

長飛丸(なんだ……ここぁ……)

長飛丸(……そうか、わしは死んだのか。あいつらにやられてよ……)

長飛丸(ふん)

長飛丸(せっかく蘇ったってのによ……情けねえ。あんな奴らにやられるなんてよ)

長飛丸(……)

流「よう、とらよう」

長飛丸「!」

流「あー、そうかお前記憶なくしてんだっけな。化物のくせに相変わらずおもしれぇな。へっへっへ」

長飛丸「なんだ、おめぇ。わしを知ってるのか」

流「忘れたくても忘れられねぇっての。ああそれは俺だけじゃなくてな、お前に関わった全ての人間、全てよバケモンがな」

長飛丸「とら」

流「お?」

長飛丸「聞き覚えのある名だ」

流「そらそーだろうよ」

長飛丸「……」

流「まあいいや、俺ぁちょっと面白そうだと思って会いにきただけだからよ、この後のことはこのねーちゃんに任せるわ」

長飛丸(……)

流「……全部思い出したらよ」

流「うしおにも、よろしく頼むわ」

長飛丸「うしお……?」

真由子「とらちゃん!」

長飛丸「!」

真由子「うわぁー!とらちゃん!とらちゃん!とらちゃーん!!」

長飛丸「わわわ、な、なんだお前!いきなり抱きつくな!」

真由子「うえーん、会いたかったよぉ……」

長飛丸(ちょーし狂う奴だな……)

真由子「あ!そうだ!!」

長飛丸「?」

真由子「お腹空いてるでしょ?はう!ハンバーガー!」

長飛丸(……)ピク

長飛丸(……)もぐもぐぱくぱく

真由子「……へへーっ」ニコニコ

長飛丸(……)

真由子「ハンバーガーの食べ方はちゃんと覚えてるんだねぇ?とらちゃん!」

長飛丸「やっぱりわしは、何か忘れてるんだな」

真由子「そうだよ?」

長飛丸「……」

真由子「とらちゃんが早く来てくれなかったから、私はもうすぐおばちゃんになっちゃいます!」

長飛丸「……」

真由子「ねぇ、昔結婚しようねって、約束したんだよ?」スッ

長飛丸「あぁ!?……って、なんでぇそのクシは」

真由子「戻すの」

長飛丸「あ?」

真由子「わかってるよ?とらちゃんは人間には戻れない……だけどね?」スクッ

長飛丸「……」

真由子「でも、なんとなくね?この櫛で、とらちゃんの毛をとかしたら……」スクッ

長飛丸「……」

真由子「記憶が、戻るような気がして……」スクッ

とらちゃん、あんなに殴られても、ボロボロにされても、抵抗しなかったんだねぇ……
うしお君に聞いたの。
秋葉流さんとのこと……
そのことは、きっと心で覚えてたんだねぇ、とらちゃん……
えらいね……もう、絶対人を殺したりなんてしないって、とらちゃん、きっとそう決めてて、それを覚えてたんだよ。
うしお君もね、その時とらに酷いこと言っちゃったんだって、泣いてたよ。
でもね、とらちゃん……お願いだから、お願いだから……
もう、いなくならないで……?

長飛丸「……」

真由子「戻らない……かなあ?」

長飛丸「……」

真由子「ダメか……えへっ……でもね?でも、とらちゃんはとらちゃんだもんね……?これからまた、一緒に……」

長飛丸「おい」

長飛丸「ま」「ゆ」「こ」

真由子「え……?」

長飛丸「まゆこ」

真由子「……!」

バチバチバチバチッ

とら「へっ!わしが人間を喰わんだと!?殺さんだと!?」

とら「笑わせやがる!お前はわしが喰らうのよ!」

真由子「とらちゃん…!!」

とら「うしおのトロちんが!わしがこんないてぇ目にあってるってのにどこのたくってやがんだ!」

とら「おいまゆこ!うしおはどこにいやがる!?一発ぶんなぐって……」

ぎゅう

とら「げぇ!?」

真由子「とらちゃん……絶対……食べてね……?」

とら「……」

真由子「そして……」

とら「……」


白面を……やっつけて……

バチバチバチバチッ

玉藻「!!」

キリオ「!?」

とら「へっ……お前らちょっと調子に乗り過ぎだぜ……白面ごときに操られてる分際でよ……」

玉藻「……はぁ!」

とら「よおっとぉ!」

べしっ

キリオ「たあっ!!」

とら「ああもううざってぇ!」

げしっ

とら「お前らよー、白面の力借りて強くなった気でいるみてぇだけど、多分素の方がよっぽどめんどくせぇぞ。この槍もニセモンだし、そもそも扱えちゃいねぇ。やめちまえっての」

玉藻「くぅ……」

キリオ「まだ……まだ……」

とら「あーもうほんとうざってえなあ!!」

ぬーべー「やめろ!玉藻ー!!」

とら「お?鬼憑きの人間!」

ぬーべー「玉藻、お前は操られてるだけだ、そしてこの妖怪は悪い存在ではない。これ以上やるのであれば俺が相手になる……!」

とら「へぇー、なんかうしおみたいなやつだなぁ」

玉藻「どいて下さい鵺野先生。私は自分の意思でやっているのです。操られてなどいない!」バッ

ぬーべー「目を覚ませ!玉藻!!」

バババババッ

とら「……ふーん、あの人間変わった法力を使いやがるなー。糞坊主共とは多分りゅーはが違うんだなー」

とら(操られてるってことはよー、多分頭に婢妖が取り憑いていやがるな。ナガレの時とは様子が違うからな)

とら「おい人間!」

ぬーべー「!」

とら「頭だ!頭に妖怪が取り憑いてやがるんだ!法力でなんとかしやがれ!」

ぬーべー(頭に……妖怪だと?よし、それならば……!)

ぬーべー「南無大慈大悲救苦救難 降伏群魔 迎来曙光 ……」

ぬーべー「我が左手に封じられし鬼よ、今こそその力を示し、彼等に取り憑きし妖怪を倒したまえ!!」

とら(……へぇ)

ぬーべー「はあああああ!!」

玉藻「!!」

キリオ「!!!」

婢妖「ぐぎゃあああああー!!!」

ぬーべー「!!」

とら「へっ……やっぱりな……」

玉藻「……」

キリオ「……」

ドサッ

とら「ふん、気を失いやがったか」

ぬーべー「ああ……」

ぬーべー「お前」

とら「あん?」

ぬーべー「記憶を失ってもなお、この二人を殺そうとはしなかった。それも玉藻は妖怪で、殺しても別にそれが妖怪としての戦い方だったはずだ」

とら「……」

ぬーべー「お前は非常に冷酷で獰猛な妖怪であるとの伝承が多く残っている。一体何故だ?」

とら「……へっ、もうわしは、いっぱい食らったし、化物もいっぱいやっつけたのよ」

ぬーべー「……」

とら「それによ……」

「おーい!大丈夫かー!!」

とら「あぁもう、今更来やがったな、うしおめ。相変わらずノロマなやつよ」

うしお「ああ!キリオ……と妖怪??気を失ってるのか……って、ああ!?」

とら「……」

うしお「……」

ぬーべー(この人は……)

とら「……」

うしお「と、とらぁ……」

とら「……」

うしお「お前、記憶を失ってんだよな?……えっと、でも、こいつら殺さずに……」

とら「あーぁ、相変わらずしけたツラしてやがるなー、うしおよー」

うしお「え……?」

とら「いいから、さっさと白面ぶっちめるぞ、良いか?」

とら「あああああー!もうおうおうおうおう!!!」

うしお「とらぁ……」

真由子「とらちゃん!とらちゃん!!」

とら「うええええ!めんどくせええええ!!!おい鬼憑き!なんとかしろよぉ!」

ぬーべー「と、言われてもなあ……」

うしお「とらぁ……!とらぁぁ……!!」

真由子「とらちゃん!ハンバーガー!ハンバーガー買って来よ!?」

とら「えーいお前達!そんなことより白面は良いのかよ!」

真由子「とらちゃんとうしお君がいれば大丈夫!」

とら「でも、もう獣の槍はねぇんだろうが」

真由子「それは……」

うしお「……」

うしお「俺一人だったら、正直どうしようもねぇって思ってたよ」

とら「……」

うしお「でもお前が生き返ったって聞いてさ……」

うしお「獣の槍なんてなくても、俺とお前がいれば……」

キリオ「うーん……」

玉藻「くぅっ……」

ぬーべー「二人とも……気がついたのか?」

うしお「それによ……この人達も、そしてみんなもいる」

とら「……」

うしお「前だって、獣の槍だけで白面を倒した訳じゃねぇんだ……だからよ」

とら「………へーんだ!!!」

うしお「とら」

とら「あったりめーだろ!!あんな糞食らえな槍なんてなくてもな!白面なんて屁でもねぇぜ!……その……」

うしお「……」

とら「わしと……お前がいればな」

次の日

ぬーべー「うーむ」

広「ぬーべーどうしたんだよ?」

ぬーべー「いや、玉藻が使っていたこの槍をな」

美樹「これ槍?剣みたいにも見えるけど」

ぬーべー「まあそれもそうなんだけどな。人の魂を吸って使い手の能力を向上させる……どんな作りになっているのかを調べてたんだが、さっぱりわからなくてな」

響子「魂を吸うって……なんだか怖いわね」

ぬーべー「上手く使えれば強力な武器になると思ったんだけどな。まあ白面が作り出した物だし、そういう訳にもいかんか」

ぬーべー「そもそもどうすれば力が増すのかも……お!」

キィィン

広「!槍が……」

ぬーべー「なるほど……こうすれば……!!」

ズワッ

響子「ぬーべー!!」

広「ぬーべー!!って……」

ぬーべー「…………」

美樹「きゃはははははは!!なによそれ!なんで眉毛だけ伸びてんの!?あははははは!!」

響子「……ぷっ」

広「ぎゃはははは!」

ぬーべー「えーいうるさいうるさいお前達!!」

とら「その槍はやっぱり元の獣の槍とは違うみてぇだなー」

ぬーべー「!お前は………」

とら「まあ確かに魂も吸ってるが、その槍が一番必要としてるのはどうやら人間への卑しみらしい。けっ白面らしいや」

広「人間への卑しみ?」

とら「本来は髪の毛も全部伸びるはずなんだがな。お前、あんまそういう心がねぇんだなあ」

響子「良かったね、ぬーべープッ」

美樹「よっ聖人君子!プッ」

ぬーべー「笑うなあー!!!!」

蒼月家

うしお「ただいまー」

麻子「!!うしお!!!!」

うしお「おー麻子。帰ったぞー」

麻子「良かった!……怪我もないわね」

紫暮「とら殿が蘇ったそうだな」

うしお「ああ」

麻子「それで、とらくんは?」

うしお「ああ、久しぶりに街を見てくるってさ。後で戻ってくるよ」

陽子「……」

紫暮「ん?その子は?」

うしお「あ、ああ……」

麻子「……?」

うしお「成り行きでさ……この子記憶を泣無くしてるみたいで、帰る家がないんだ。化物とも関わりがあるみたいだし。だから、しばらくうちで預かれないかなって……」

陽子「……」

麻子「……」ジーッ

陽子「…………」

麻子「……」ジロッ

うしお「……うんっ?」

麻子「アンタ……」

うしお「お、おう」

麻子「アンタこの子に変なことしてないでしょうね!?こんな可愛い子……大丈夫?なにもされてない??」

うしお「お、おい麻子……」

陽子「だ、大丈夫じゃ、何もされてはおらぬ」

麻子「あら、随分と古風な喋り方する子ねー」

陽子「そうなのか」

麻子「うん、でも可愛いからOK!とりあえず服貸してあげよっか!その着物しかないんでしょ?着替えたら一緒に街に行こ!服か靴とか、買わないとね!」

麻子「じゃあ、行って来るわねー!」

陽子「行ってくるぞ」

うしお「ああ、気をつけろよー」

麻子「あ、冷蔵庫にギョーザ入ってるから、お腹空いたら食べなさいね!」

うしお「おお!やったあ!!」

麻子「じゃーねー」

紫暮「うしお」

うしお「わかってるよ」

紫暮「あの子からは生気が感じられぬ。かと言って妖気があるわけでもないな」

うしお「ああ」

紫暮「またやっかいなことにならなければいいけどなあ」

うしお「大丈夫だろ。別に嫌な雰囲気はないんだし」

紫暮「うむ……」

紫暮「では父は少し出掛けてくる」

うしお「なんだよ、息子が帰って来たってのによー」

紫暮「……まあすぐにわかるさ」

うしお「?」

紫暮「夕飯までには帰る」

うしお「ほーい」

うしお「……さーてギョーザ、ギョーザ!!」

“ごめんぴぃ”

うしお「……」

うしお「…………」



親父いいいいいいいいい!!

麻子「わー!陽子ちゃんその服似合う!」

陽子「そ、そうか?」

麻子「うん!それ買おう!じゃあ着合わせも考えないとなー、スカートとパンツどっちが好きなのかな?」

陽子「?」

麻子「あ、ああえっと、これとこれ、どっちが好き?」

陽子「……」

麻子「ん?」

陽子「うしおは」

麻子「え?」

陽子「うしおはどういうのを好む」

麻子「う、うしお?……そうねぇ、うしおはどちらかというとパンツの方が好きかなあ……」

陽子「ならばそのぱんつじゃ」

麻子「う、うん!了解!!」(懐かれてるなー、うしおめ!全く!!)

陽子(いつであったか)

陽子(あの海底の長い眠りの中で夢を見た)

陽子(我が地上へ出、陽とし在る夢を)

陽子(ああまで滅ぼし、破壊し、蹂躙したあの地上で)

陽子(光を受ける夢を見た)

陽子(叶わぬ夢と、くだらぬ妄想だと吐き捨てた)

陽子(目の前にいたあの女に地上のことを尋ねようとしたことすらある)

陽子(この我がだ)

陽子(そしてその我が)

陽子(今正に光を受けておるとは)

陽子(……)

陽子(それにしても)

陽子(今も海底に濁る我であった物……まだ覚醒しておらぬのか、動く気配が感じられぬ)

陽子(分かれたとは言え、あれも我の半身。いずれこの地に災いを及ぼすのであればその前に何か手を打たなければ)

陽子(しかし、今の我は特に力を増す方法は持っておらぬ)

陽子(奴は人の恐怖を己の力とし、今この瞬間もその力を増し続けておる。うしお達も動いておるようじゃが、かの時ような事態は免れられぬ)

麻子「そっか、陽子ちゃんそういえば下着もないんだ」

陽子「?」

麻子「ほら、こっち!可愛い下着買わないとねー」

陽子(それに、我はもう、この時を、失いたくない)

真由子「あ!麻子ー!!」

麻子「真由子!」

真由子「わー!久しぶり!……あれ?その子は??」

陽子(この娘は役目の)

麻子「この子は陽子ちゃんよ。記憶を失ってて……しばらくうちで預かるの」

真由子「そうなんだ?可愛いー!」

ぎゅう

陽子「ぐえ」

麻子「もーあんたもいい歳なんだから人目気にせず抱きしめるのやめなさいよー」

真由子「だって陽子ちゃん、本当に可愛いんだもん!」

麻子「ところで真由子は何してたの?」

真由子「私?これ!」

麻子「ああ、ハンバーガー……」

真由子「これ持って麻子ん家行こうと思って!」

麻子「じゃあ、一緒に行く?もうすぐこっちの買い物も終わるんだよね」

真由子「そっか、陽子ちゃんの服買ってたんだね!私も選びたい!!」

麻子「じゃあ、服をもう一着、真由子に選んでもらおっか、陽子ちゃん!」

陽子「頼む」

真由子「じゃあ私がいつも行ってる服屋さん行こっか!」

麻子(とらくんが生き返ったからかな、真由子、凄く元気。うしおも嬉しそうだったし……ほんと、良かったな……)

ぬーべーととら

ぬーべー「なあ妖怪」

とら「なんだ鬼憑き」

ぬーべー「お前いつまでここにいるんだ?あの人と久しぶりに会えたんだろ?」

とら「ふん。わしもあいつも今更そんなんでもないわ。……それ以上に、今はお前に興味があってな」

ぬーべー「興味?」

とら「お前のその左手」

ぬーべー「…….」

とら「言っちゃ悪いが、お前の力でその鬼を封印して、更に使役まで出来てるとはとても思えんのよ」

ぬーべー「……」

とら「それにお前は化物を倒す立場でありながら多くの化物を周りに置いているらしい……そんな人間、わしは知らんからな」

ぬーべー「お前みたいな妖怪も俺は知らんがな」

とら「ふん」

ぬーべー「まあ白面のことが片付いたらまた色々……」

とら「お!ソーセージ!これけっこーいけるんだよなー」もぐもぐ

ぬーべー「あぁ!?お前何をおぉぉ!?」

とら「こいつはちいずだな。これもなかなか……」

ぬーべー「あぁぁあー!!光覇明宗に行く途中で食べようと思ってたなけなしの食料があああああああー!?」

とら「お前食い物の好みうしおと似てんじゃねぇのか、眉毛も似てるしよー」

ぬーべー「許さん!除霊してやるああああー!!!」

とら「おわっとぉ!なんでい食い物食ったくらいでそんな怒るこたねぇだろーが!」

ぬーべー「俺にしてみたら死活問題なんだ!ああ……何も残ってない……」

ぬーべー「まさかあの人が光覇明宗の法力僧だったとは」

とら「おー前までただ獣の槍を振り回すだけのガキだったくせになー。まーた食いにくくなる力を身に付けやがったもんだぜ」

ぬーべー「しかし良いんだろうか、突然押し掛けてしまって」

とら「へっ構うもんかい、何やったところであのハナクソ以上に失礼な奴なんて……」

うしお「だ、れ、が、ハナクソだとぉー!?」

とら「げげ!うしお!!」

うしお「月輪かけてやるぁぁー!!」

とら「ひいいいい!!」

ぬーべー「ほ、本当にあいつが何千年も生きていた妖怪なんだろうか……」

麻子「ただいまー!うしお!帰ったよーん!って、あーあ、早速喧嘩してる……」

真由子「相変わらず仲良いねぇ!」

とら「ま、待て待てうしお!洒落にならん!洒落にならんぞ!その技は痛えんだ!」

うしお「うるせぇ!俺は糞親父にギョーザ食われて気が立ってんだ!」

とら「だからってわしに当たるんじゃねええええ!!」

麻子「おらー!!お客さんほっといて何してんの二人ともー!!」

陽子「……」

とら「……ん?」

陽子「……」

陽子「……」タッタッタッ

とら「あの娘……」

うしお「……ん?陽子、どうした?」

陽子「うしお、食べ物ならたくさん買って来ておる。だから怒るのはやめよ」

真由子「あらあら」

うしお「お、おう、ごめんな陽子」

陽子「うむ」

麻子「ぷっうしおったらあの子に頭上がらないでやんの」

うしお「聞こえてるぞ麻子ー!」

陽子「うしお」

うしお「は、はい」

陽子「ダメじゃ」

うしお「はい……」

とら(なんでぇあの化物、なんで人間のフリなんかしてんだ?普通の人間や化物なら騙せるだろうがよ……うしおも気付いてるだろうに何やってやがんだ)

ぬーべー「……」

とら「ふん、鬼憑きも気付いてやがるな」

うしお「とら」

とら「あぁ?」

うしお「お前が何考えてるかはわかってるよ……けど、今は口に出さないでくれ。頼む……先生も」

とら「……ふん」

ぬーべー「わかりました」

とら(相変わらず甘ぇな、うしお。鬼憑もそうだが、やっぱおめぇも変わってるぜ……)

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