島村卯月「シンデレラクエスト」 (164)


―――346王国 城


王様「よくぞ来た、勇者ウヅキよ」

卯月「……はい?」

卯月(え、なんですかこれ? 気が付いたら目の前に王様みたいな人がいるんですが……)

王様「お主も知っての通り、今世界は魔王の復活によって滅亡の危機に瀕している……」

卯月「魔王!? あの、私そんなの知りませ―――」

王様「世界を救えるのは、勇者であるお主だけだ!」

卯月「そもそも私、勇者なんかじゃないですよ!?」

王様「勇者はみなそう言うのだ!」

卯月「そうなんですか!?」

王様「どいつもこいつもやれ『私は勇者なんかじゃない』『身に覚えがない』『弁護士を呼べ』などと抜かしおって……もっと自分の運命を自覚せよ! そういうとこだぞ!」

卯月「うぇぇ!?」

王様「とにかく頼んだぞ、勇者ウヅキよ! なんかこう上手いこと魔王を倒して、世界に平和をもたらすのだ!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494338600


―――346王国 城下町


卯月「うぅ、どうしてこんなことに……私、勇者じゃなくてアイドルなのに……」

卯月(あのまま流されるような形で送り出されちゃったけど……そもそもここって一体? 世界観からして違うし……まるでゲームの世界みたい)

卯月「ゲーム……あ、もしかしてこれ……夢かな? じゃあほっぺたをつねれば」ムニッ

卯月「……いたたたたっ!? え、夢じゃないの!? じゃ、じゃあ私、異世界に来ちゃったってこと!?」

ちひろ「その通りです」

卯月「うぇ!? ち、ちひろさん!?……なんか小さいし、空飛んでるぅ―――っ!?」

ちひろ「ええ、手のひらサイズですし、空だって飛びますよ。私はちひろではなく、導きの妖精ちっひですから」

卯月「妖精!? ちっひ!?」

ちひろ「あ、でも呼び方変えるのも面倒でしょうから、ちひろのままで結構です」

卯月「あ、それはありがたいです」


ちひろ「卯月ちゃん。あなたはこの世界を救うために、元の世界から事後承諾で転移させられました」

卯月「せめて承諾取ってからにしてくれません!?」

ちひろ「元の世界に戻る方法はたった一つ、魔王を倒すことのみです」

卯月「そんな!? む、無理ですよ、そんなの!」

ちひろ「大丈夫です。何度死んでも教会で復活できますから」

卯月「あ、やっぱりゲームみたいなシステムなんですね」

ちひろ「まあ死ぬ度に超絶痛みを感じますが」

卯月「今すぐ元の世界に返してください! 痛いの嫌です!」

ちひろ「我慢してください」

卯月「対応が冷たいっ!」

ちひろ「それと、私も旅に同行し適度に横からアドバイスをしますが、戦闘能力は皆無なのでその辺は期待しないようにお願いします」

卯月「ほ、本当に魔王倒さなきゃ駄目なんですか?」

ちひろ「駄目です。大丈夫、なんとかなりますよ」

卯月「なんとかなる根拠を教えてほしいです……」

ちひろ「ではまずは酒場に行って仲間を増やしましょう。まず間違いなく卯月ちゃんだけでは瞬殺されますし」

卯月「勇者なのに滅茶苦茶弱いんですね、私!」


―――楓の酒場


楓「いらっしゃいませ」

卯月「楓さん!? ど、どうして楓さんが?」

ちひろ「卯月ちゃんだけではなく、346プロのアイドルのほとんどがこちらの世界に転移しているんですよ」

卯月「みんな来てるんですか!?」

ちひろ「ただ転移にちょっと失敗して、みんなこの世界のあちこちにバラバラに跳ばされちゃったんですが」

卯月「それみんな無事なんですか!?」

ちひろ「命の心配はありませんよ。……なんかさっきからいちいちリアクションがうるさいですね」

卯月「そんなこと言われても! この状況で驚かないなんて無理ですよ!」

ちひろ「慣れてください」

卯月「慣れたくないです……。で、でもどうして楓さんは酒場をしているんですか?」

楓「酒場で働けば、お酒が飲み放題だからよ」

卯月「そんな理由なんですか!? ていうか商品飲んじゃ駄目ですよ!」


楓「まあまあ。それより卯月ちゃん、酒場には何か用があって来たんじゃないの?」

卯月「あ、はい。実はかくかくしかじかで……」

楓「なるほど、仲間を探しに来たのね。ならちょうどいい子が―――」

未央「楓さん、ビール追加で!」

卯月「未央ちゃん!?」

未央「……しまむー? わ、しまむーだ! 会いたかったよ、しまむー!」

卯月「み、未央ちゃんも酒場で働いてたんだね」

未央「うん。楓さんに一緒に酒場で働かないかって誘われたんだ。私の力を貸してほしいって言われて」

楓「未央ちゃん、あなたはクビよ」

未央「唐突すぎる解雇通告!? な、なんでですか楓さん!? 私何もミスしてないですよ!? もう要らなくなったんですか私の力!?」

楓「そうじゃないわ。卯月ちゃんが魔王退治の旅の仲間を探しているそうなの。だから未央ちゃん、一緒に付いて行ってあげて」

未央「え、しまむー、魔王倒そうとしてるの?」

卯月「そうしないと元の世界に帰れないらしくて……」

未央「なるほど、帰るためには魔王倒せばよかったんだね。そういうことなら任せて! この未央ちゃんが力になるよ!」

卯月「ありがとう、未央ちゃん!」

ちひろ「未央ちゃんが仲間になりました」


―――ソノヘンノ森


未央「さあ冒険の始まりだよ、しまむー」

卯月「勢いで旅立っちゃったけど……私たち、本当に魔王なんて倒せるのかな?」

未央「大丈夫だって。どうせらんらんが魔王だとかいうオチだよ」

ちひろ「それはないですね。蘭子ちゃんはこの世界に転移していませんので」

卯月「え? でもさっき、みんな転移してきているって言っていましたよね?」

ちひろ「ほとんどと言ったはずですよ。蘭子ちゃんはこっちに来たら面倒なことになりそうなので、呼びませんでした」

未央「面倒って言い方はあんまりじゃない?」

ちひろ「蘭子ちゃんがこっちに来たら、自ら魔王を自称して近隣の町の傭兵に討伐されてしまうかもしれないんですよ?」

卯月「……お空に上がった時にそんな感じだったので、否定できないです」

未央「……それだと、確かに呼ばない方がいいかもね」


『きゅぴー』

卯月「きゅぴ?……な、何かいます!?」

未央「こいつは……魔物だよ!」

ちひろ「それはスライムですね。ザコなので、とっとと倒しちゃってください」

卯月「とっととって言われても……」

ちひろ「その腰に付けている剣で、ザシュッとやっちゃえばいいんですよ」

未央「これくらいの敵なら、しまむーだけでも倒せるよ。やっちゃえ!」

卯月「う、うん……」

スライム『きゅぴー』

卯月「ざ、ザシュッと…………」

スライム『きゅぴぃ~』

卯月「…………」

スライム『きゅぴぃ~……!』

卯月「無理です! 私には出来ませんっ!」

未央「なんで!? そいつ多分一撃で倒せるよ!?」


卯月「たとえ魔物でも、剣で斬るなんて残酷なこと……私には無理です!」

未央「え、えぇー……それを言ったらもうどうしようもないよ? 旅ここで終了だよ? まだ旅立ってから30分も経ってないのに」

ちひろ「大丈夫ですよ、卯月ちゃん。卯月ちゃんたちの武器には特別な魔法がかけられているので、魔物を傷つけることはありません」

卯月「特別な魔法?」

ちひろ「その武器で攻撃して魔物の体力が無くなると、魔物は魔界に送還されるんです。殺したりすることはありませんので、思いっきりやっちゃって大丈夫ですよ」

未央「だってさ、しまむー。随分都合がいい設定だけど、これなら戦えるよね?」

卯月「そ、そういうことなら……えいっ!」ザシュッ

スライム『きゅぴっ!?』シュワァァ

未央「あ、ホントだ。光に包まれて消えてくよ」


ちひろ「テレレレッテッテッテー♪」

未央「レベルアップ音!?」

ちひろ「今の戦闘で、卯月ちゃんのレベルが2に上がりました」

卯月「この世界観、本当にゲームなんですね……」

ちひろ「ちなみに、未央ちゃんは今レベル5です。酒場で働いていたおかげですね」

未央「戦闘以外でも経験値貰えるんだ」

ちひろ「そして、今の戦闘でチュートリアルは終了となります」

卯月「ここまでチュートリアルだったんですか!?」

ちひろ「ここからは本格的な冒険が始まります。元の世界に帰るために、頑張って魔王を倒してくださいね」

卯月「……で、出来るだけ、頑張ります」

大魔王だと…!?何川ちひろなんだ…!?

書き溜め無しでテキトーに書いていきます

なので旅の途中で唐突に魔王戦に突入する可能性がありますが、ご了承ください

魔王は紅か蒼の乙女じゃないですかね?

『ふわぁ~……』

黒井社長か玲音じゃないの

魔王なんて悪い存在ちひろ以外に居るわけ無いだろjk

>>14
ageんな[ピーーー]

>>16
こういう奴は減らないよな何様よ

ちっひは禍ツ神だから魔王は部下も同然じゃん
あれ?何で窓から緑色の光g(いjのjbcえqじょえんqんかふじこhqvwぢいおqjdくぇぴjcw

Paは強い人多そう茜ちんとかニンジャとか


―――ヒトツメノ村


ちひろ「無事、最初の村に辿り着けましたね」

卯月「無事……って言えるんでしょうか、これは」



未央(どく)「…………」



ちひろ「死んではいないので、広義の意味では無事です」

卯月「まさかどく状態を与えてくる魔物が出るなんて……」

未央(どく)「……しまむー、私もうここから動けないから。あと一歩でも動いたらHP0になるから。お願い、急いでどくけし草手に入れてきて!」

卯月「わ、分かった!」


―――道具屋


卯月「すみません、どくけし草を―――」

亜子「売り切れでーす」

卯月「え、そんな―――って、亜子ちゃん!?」

亜子「あ、卯月ちゃん。こんなとこで何してるの?」

卯月「こっちの台詞だよ!? 亜子ちゃん、どうして道具屋やってるの!?」

亜子「儲かるからに決まってるじゃん」

卯月「単純明快!」

ちひろ「どうやら、こちらに転移してきた子たちはそれぞれたくましく生きているようですね」

亜子「で、どくけし草だっけ? 悪いけど今ないよ」

卯月「そ、そんな……未央ちゃんがどく状態になってるの! 早く治してあげないと……!」

亜子「え、今そんな危ない状況なの? でも無いものは無いし……あ、そういえばこの村には天才魔導士が住んでるんだよ」

卯月「天才魔導士?」

亜子「アタシは会ったことないけど、その人ならどくを消す魔法くらい使えるんじゃない? 家の場所は知ってるから教えてあげる」

卯月「あ、ありがとう!」


―――天才魔導士の家 前


卯月「ここが……すみませーん! 天才魔導士さん、いらっしゃいませんか!? お願いがあるんです!」

『はいはい、今行きますから』

卯月「……? 今の声どこかで聞いたような……」


《ガチャ―――》


ありす「この天才魔導士クールタチバナに何かご用―――」

卯月「……ありすちゃん?」

ありす「……」


《―――バタンッ!》


卯月「どうしてドア閉めるの!? ありすちゃん! ありすちゃんったら!」


ありす『あ、ありす? 人違いじゃないですか? 私はクールタチバナですよ?』

卯月「いや、ありすちゃんだよね!? お願い! 未央ちゃんがどく状態になっちゃって今にも死にそうなの! ありすちゃんの力を貸して!」

ありす『未央さんが?……仕方ないですね』


《ガチャ―――》


ありす「ありすではないですが、力を貸しましょう」

卯月「ありがとう!」

ちひろ「未央ちゃんのことを知ってる時点で、ありすちゃんと認めたもののような気がしますが……」

ありす「タチバナですっ!」


―――ヒトツメノ村 入口


未央(どく)「え、ありすちゃん?」

ありす「違います。私は天才魔導士のタチバナです。あなたのどくを治しに来てあげました」

未央(どく)「おぉ! 上から目線なのが若干気になるけど、治してもらえるならいいや! 早く治して!」

ありす「はいはい。では……クリアー!」シャーンッ

未央(どく)「これは……!? 体が光に包まれてく……!」

ありす「これでもう大丈夫です」

未央(どく)「ありがとう、ありすちゃん! これでようやく動けるよ!」

卯月「……あれ? 未央ちゃん、まだどくの表示が消えて―――」

未央(どく)「じゃあ私も村を見て回ろっかなー」《HP1→0》



棺桶「」チーン


卯月「未央ちゃん!?」

ちひろ「死にましたね」

卯月「ありすちゃん、未央ちゃん死んじゃったよ!?」

ありす「……あ、MPが切れてました」

卯月「『あ』じゃないよ!? うぅ……未央ちゃあーんっ!」

ちひろ「大丈夫ですよ。教会で生き返らせましょう」

ありす「そ、そうですそうです。すぐに生き返らせられますよ、これくらい」

卯月「……ゲームの世界観って、死の扱いこんなに軽いの?」


―――教会


クラリス「教会へようこそ」

卯月「これは予想出来てました」

ありす「クラリスさん。未央さんが死んでしまったので、生き返らせてください」

クラリス「はい、分かりました。……では、未央さんはレベル5ですから、500マニーの寄付をお願いいたします」

卯月「マニー?」

ちひろ「この世界の通貨です。卯月ちゃん、ポケットにICカードが入っているはずですよ」

卯月「ICカード?……あ、本当に入ってました」

ちひろ「魔物を倒したり物を売ったりすると、そのICカードに自動的にマニーが加算されます」

卯月「世界観にそぐわない近未来的なアイテムですね……というかクラリスさん、お金取るんですか!?」

クラリス「お金を取るわけではありませんよ。ただ、心ばかりの寄付を頂けたらと」

卯月「……もし寄付しなかったらどうなるんですか?」

クラリス「どうもしません。ただ、私も何もしないだけです」

卯月「やっぱりお金取ってますよね!?」


ありす「まあここは私が払いますよ。私にも少し責任がありますので」

卯月「……少し?」

ありす「どうぞ、500マニーです」

クラリス「善意の寄付をありがとうございます。では……未央さんカムバック!」


《ポンッ》


未央「……ふぇ?」

卯月「未央ちゃん! い、生き返って良かった……!」

未央「え、生き返ってって……まさか私死んでたの!? ちょっとありすちゃん!?」

ありす「未央さん、無事で何よりです」

未央「いや無事じゃなかったんだよね!? 死んでたんでしょ!?」


ありす「今、未央さんは生きている。それでいいじゃないですか」

未央「良くないよ! 思い出したけど、死んだ時体中に超絶痛みが襲ってきたんだからね!?」

卯月「ち、ちひろさんが前に言っていたこと、ホントだったんだ……」

ちひろ「HPが減ってもそれほど痛みを感じない代わりに、死んだ時は超絶痛みを感じるようになっているんです。まあ、仕様ですね」

卯月「嫌な仕様ですね!」

未央「ありすちゃんったら!」

ありす「過ぎたことをネチネチと……分かりました。お詫びに私も未央さんたちの旅に同行しますよ」

卯月「え、本当に?」

ありす「そろそろ元の世界に帰りたかったので、ちょうどいいです」

未央「……でもその前に私に言うことがあるよね?」

ありす「……すみませんでした」

未央「よろしい」

ちひろ「ありすちゃんが仲間になりました」


―――ソコイラの森


ありす「この天才魔導士クールタチバナが仲間になったからには、魔物なんて敵じゃないです」

卯月「うん、頼りにしてるね」

ありす「ところで、未央さんの武器はどんなものなんですか?」

未央「私? 私はこれだよ」

ありす「じ、銃ですか、それ?」

未央「そう。しまむーの剣と同じで、お空に上がった時のやつだね。これで魔物をバンバン撃っちゃうよー!」

『きゅぴー』

卯月「きゅぴ?……ま、またスライムです!」

未央「なんかスライムばっかりと遭遇してる気がするなぁ……まあいいや、ばきゅーんっ!」バキュン

『きゅぴ?』

未央「え、効いてない!?」


ちひろ「そのスライムはただのスライムではなく、物理攻撃が効かないタイプのやつですね。魔法しか通用しませんよ」

未央「こんな序盤でそんな面倒なの出てくるの!?」

卯月「魔法なら……ありすちゃん、お願い!」

ありす「やれやれ、もう出番ですか。では見せてあげましょう。……天才魔導士の力を!」

未央「あ、ありすちゃんの周囲に、魔力が集まって……!」

ちひろ「……あ、なんかまずそうなので離れたほうがいいですよ」

卯月「へ?」

ありす「迸れ、数多の雷よ!」



ありす「スパーキングサンダーノヴァ!」


《ズガガガガッ、ズガ―――――――――――ンッ!》


卯月・未央・スライム『きゃぁああああああああああああっ!?(ぴぎいっ!?)』


ありす「……ふぅ、片付きましたね。どうですか、お2人とも? これが私の実力で―――」

棺桶×2「」チーン

ありす「す……」

ちひろ「2人とも巻き添えで死にましたよ」

ありす「……ちょっとやりすぎました」

ちひろ「仕方ないので、さっきの村の教会まで戻りましょう。ありすちゃん、天才魔導士なんですから、瞬間移動の魔法くらい使えますよね?」

ありす「使えますが……もうMPないです」

ちひろ「え、一回魔法使っただけでですか?」

ありす「私、天才なのでほとんどの魔法は使えるんですが……MPは魔法を一回使えるくらいしかなくて」

ちひろ「とんだ天才魔導士ですね……。では、教会まで歩いて戻りましょう。棺桶2つ、頑張って運んでくださいね」

ありす「うぅ、重そうです……」

しっかりしてくれよ橘さん……

ポテンシャル高いと信じる! ④
http://imepic.jp/20170517/772340

>>34
はえーすごい

しのーじおひさ

>>34
妖精というか妖怪みたいなのがいますね

>>34
素晴らしいイラストを描いてくださり、ありがとうございます
心の底からメチャクチャ嬉しいです

ただ、話の内容のハードル、跳ね上がったような……きっと気のせいですね
前にも書いた通り、これからもテキトーに書いていきます

それとここからは、描写しやすいのでちょっとだけ地の文を書いてこうと思います
ちなみに地の文を入れたからといってシリアスな展開を期待されても、残念ながらその期待には応えられないと思います


―――フタツメノ村


ソコイラの森を抜けて、私たちはフタツメノ村に到着しました。


ありす「無事、フタツメノ村に到着できましたね」

未央「私としまむー、一回死んでるけどね」


未央ちゃんがそれこそ死んだような目で、そう呟きます。


卯月「そ、そのことはもう忘れよう? 思い出したくもないし……」

ちひろ「卯月ちゃんの言うとおりですよ。過去は振り返らずに、未来のことだけを考えて行きましょう」


未央「未来かー……魔王倒すまでに、あと何回死ぬことになるのかな?」

卯月「ネガティブ! み、未央ちゃん、いつものポジティブパッションはどうしたの!」

未央「この短期間に2回も死んだら、そりゃネガティブにもなると思うよ!?」

ありす「も、もうやめましょう、そんな暗い話は。それよりも、やっと村についたんです。まずは宿屋にでも行って休みませんか?」

卯月「そ、そうだね。未央ちゃん、きっと疲れてるんだよ。ゆっくり休も?」

未央「……うん、そーする」


―――宿屋


宿屋の一室にて。
もうベッドでは、未央ちゃんが幸せそうな顔をして眠っています。


未央「……むにゃ……まだ食べられるよ……」

卯月「部屋に着いた途端に眠っちゃった」

ありす「やっぱり大分疲れていたんですね」

ちひろ「ここまでの魔物との戦闘……少し未央ちゃんに頼りすぎていたかもしれませんね」


ちひろさんのその言葉は、確かに的を射ていました。
この村に来るまでの戦闘で魔物と戦っていたのは、ほとんど未央ちゃんだったからです。


卯月「……そうかもしれません」

ありす「私は一回魔法使ったら、お荷物ですし……」

ちひろ「未央ちゃんは一番レベルが高いですから、仕方ない所もありますが」

卯月「いえ、仕方なくなんてないです……」


そうやって頼り切っていたせいで、未央ちゃんはこんなにも消耗してしまったのだから。
……ごめんね、未央ちゃん。


卯月「ありすちゃん、これからは未央ちゃんの負担を減らすために、私たちももっと前に出て戦おう?」

ありす「はい、分かりました。魔法を使えなくなっても、杖でえいっと叩くくらいはやってみせます」

ちひろ「その意気です。旅は助け合いが大事ですよ」


じゃあさっそく、未央ちゃんの負担を減らすために行動を。


卯月「ねぇ、ありすちゃん。未央ちゃんが寝てる間に、私たちで魔王に関する情報を集めようよ」

ありす「了解です。村の人に聞き込みですね」


―――翌日


未央「んー、ぐっすり寝たーっ!」

卯月「おはよう、未央ちゃん」

ありす「疲れは取れましたか?」

未央「うん、バッチシ!」

ちひろ「元気満タンみたいですね。それでこそ未央ちゃんです」


一晩ぐっすりと眠って、未央ちゃんはもうすっかり元気になったみたいです。


卯月「未央ちゃん。私たち昨日、この村で魔王に関する情報を集めたんだ」

未央「え、しまむーたちだけで?」

ありす「未央さんはぐっすり寝ていたので、起こすのもどうかと思いまして」

未央「そういうことなら、起こしてくれて良かったのに……。ありがとね、2人とも」

卯月「ううん、こっちこそ。ありがとう、未央ちゃん」

ありす「ありがとうございます、未央さん」

未央「ほぇ? 私はお礼を言われるようなこと、何もしてないよ?」


未央ちゃんが不思議そうな顔をしています。


もちろん、今のはこれまでの戦闘へのお礼だったんですが……それを言うのは、私もありすちゃんも、ちょっぴり照れくさくて。


ちひろ「いいじゃないですか、未央ちゃん。感謝の言葉は、ありがたく受け取っておくものですよ」


私たちの気持ちを察してくれたのか、ちひろさんがフォローしてくれました。


未央「そ、そうかなぁ。じゃあ……どういたしまして?」

ありす「それでいいです。ありがたく受け取っておいてください」

未央「ありすちゃん、ちょいちょい上から目線になるね!」


卯月「ふふっ」


2人のやりとりを見ていたら、なんだかおかしくなっちゃいました。
つい、私の顔が綻びます。


未央「しまむーも、なんで笑ってるの?」

卯月「あはは、ごめんね」

未央「もう……それで、魔王の情報は集まったの?」

卯月「あ、うん」

ありす「村の人の話によると……この村の近くに、魔王の配下が支配している砦があるそうです」


―――砦


フタツメノ村近くの砦。その、ある一室において。


??「―――勇者がこの辺りに来てる? それで、この砦に来る可能性が高いんだ? ふーん……だいじょぶだいじょぶ、勇者なんてちょちょいのちょいにゃ」


―――砦前


私たちはフタツメノ村を出て、話に聞いた砦へとやって来ました。

……正確に言うと、砦が見えるくらいの位置にある茂みの中にいます。
隠れていないと、魔物に見つかってしまうので。


未央「いかにも、中ボスがいそうな砦だね」

ありす「その言い方はどうなんでしょうか」

卯月「どうやって中に入ればいいんでしょうか……やっぱり正面から?」

ちひろ「卯月ちゃん、そんな正々堂々と行く必要はないと思いますよ」


卯月「ちひろさん、何か考えがあるんですか?」


私が訊ねると、ちひろさんは妖精らしい素敵な笑顔で―――



ちひろ「どうせ相手は魔王の配下なんです。こっそりと忍び込んで闇討ちしましょう♪」



―――魔王もびっくりの作戦を唆してきました。


未央「きたなっ!?」

ありす「とても勇者のすることじゃないですね」


卯月「ち、ちひろさん、それは流石に……」


いくら相手が魔王の配下でも、その作戦は良心が咎めるというか……。


ちひろ「では正面から行って、わらわらと出てくる魔物と休む間もなく戦うんですか? 卯月ちゃんたちがそれでいいならいいですけど……多分、全滅すると思いますよ」

卯月・未央・ありす『…………』

ちひろ「どうするんですか?」


―――砦内


良心は生存本能には勝てませんでした。


あの後、私たちは砦の周囲をくまなく探索。

しかし忍び込めそうな場所が見つからず……ちひろさんの指示で、砦の壁をツルハシのように剣で掘削。
そして破壊。

壁に空いた大穴から、砦の中へと侵入しました。


ちひろ「みなさん、物音は立てないでくださいね。こっそりと、抜き足差し足忍び足、ですよ」

未央「……やってること、まるで盗賊だよね」

ありす「……平和のためです」

卯月「……でもすごい、罪悪感が」

ちひろ「無駄話はしないでください。魔物に見つかってもいいんですか?」

卯月・未央・ありす『……はーい』


ちひろさんに注意され、無言になる私たち。


ですが、ふと気になったことがあるので、私はちひろさんに話しかけました。


卯月「でもちひろさん、魔王の配下のいる場所、分かるんですか?」

ちひろ「どうせ砦の最深部にいますよ。中ボスなんですから」

未央「身もふたもないことを」

ちひろ「そして中ボスの所まで行ったら、気付かれないように後ろから全員で総攻撃です」
 
ありす「ゲスの極みですね」


さっきから、とても妖精とは思えない発言が続きます。
もしかして魔王って、ちひろさんなんじゃ……そ、そんなわけないですよね。



そんなおそらく見当違いなことを考えていると―――



『……れ、か……』



小さな声が、私の耳に入ってきました。


卯月「? 未央ちゃん、今何か言った?」

未央「何も言ってないよ?」

卯月「でも今、何か聞こえたような……ありすちゃん?」

ありす「私も何も言ってないです」


気のせいでしょうか……?

試しに目を閉じて、耳を澄ませてみます。


すると―――



『誰か……助けて…………っ!』



卯月「! 今、助けてって声が聞こえた!」

未央「え、ホント!?」

卯月「あっちから!」


私は、声のした方向へと駈け出しました。


声を追って辿り着いた先は……牢屋。


そして、その中に居たのは―――



卯月「……加蓮ちゃん?」

加蓮「……卯月、なの?」


中ボスがチョロそう…
チュートリアル並みにあっさり倒せそう…

ありすちゃん・・・どこの頭のおかしい爆裂魔法少女だよ


私が加蓮ちゃんの元に辿り着くと、すぐに後ろから未央ちゃんたちが追いついてきました。


未央「しまむー、助けてっていったい―――かれん!?」

加蓮「未央? それにありすちゃんに……ちひろさん小さっ!」

ありす「加蓮さん、どうしてこんな所に?」

ちひろ「もしかして、中ボスに捕まったんですか?」

加蓮「中ボス?」

卯月「ま、魔王の配下に捕まったの?」

加蓮「あ、うん、そうなの。みんな、お願い。その辺に鍵あると思うから、それで牢屋から出してくれない?」

未央「オッケー、任せといて!」


私たちはその辺を探して鍵を発見し、加蓮ちゃんを牢屋から解放しました。


加蓮「やっと出れたよ……」

卯月「加蓮ちゃん、どうしてこんな所に捕まってたの?」

加蓮「こっちの世界に来てすぐ、魔王の配下と出くわしちゃってさ。そのまま捕まって、ずっとここに閉じ込められてたの」

未央「そうだったんだ。ツイてないね、かれん」

加蓮「ホントだよ」

卯月「でも、無事で良かった」

ありす「加蓮さん。それでその中ボスって、どんな奴なんですか?」

加蓮「どんな奴って言うか……」


―――砦 最深部 扉前


加蓮「あんなみく」


みく『勇者め、来るなら来るにゃ! にゃーにゃっにゃっにゃっにゃ!』


扉をちょっと開いて中を覗くと、みくちゃんが悪い顔で高笑いしていました。


未央「みくにゃんじゃん!」

ありす「え、魔王の配下ってみくさんなんですか!?」

加蓮「そうなんだよ……」

卯月「ど、どういうことですか、ちひろさん! なんでみくちゃんが魔王の配下に!?」

ちひろ「ちょ、ちょっと待ってください……ちひろアイ!」

未央「何それ!?」


ちひろ「説明しましょう。ちひろアイとは、妖精ちっひだけが持つスペシャルなスキル。これを使って相手を見ると、その相手のステータスがまるっとお見通しなんです」

加蓮「え、そんなスキルあるんだ」

ちひろ「これのおかげで、卯月ちゃんたちのレベルが今どれくらいなのかも把握できるんですよ」

ありす「それのおかげだったんですね」

ちひろ「これを使ってみくちゃんを見れば…………あ、みくちゃん、魔王に操られてますね」

卯月「えぇ!?」

ちひろ「そのせいで、完全に魔王の配下になってるみたいです」

未央「ど、どうするの!? 相手がみくにゃんじゃ戦えないよ!」

ちひろ「いえ、みくちゃんを魔王の支配から解放するには、みくちゃんを倒すしかありません」

卯月「た、倒すって、そんなの……」

ちひろ「安心してください。みくちゃんを傷つけることはないですから」

卯月「え?」


ちひろ「卯月ちゃんたちの武器には、特別な魔法がかけられていると前に言ったでしょう? あれは魔物に対してだけではないんです。その武器で人を攻撃して体力を0にした場合、その相手は深い眠りにつくんですよ」

ありす「眠るだけ、ですか?」

ちひろ「はい」

未央「でもちひろさん。私としまむー、ありすちゃんの魔法で死んでるんだけど」

ちひろ「残念なことに、パーティ内には適用されない仕様なので」

未央「むしろそこに適用されるべきじゃないの!?」

ちひろ「こほん。それで卯月ちゃんたちの攻撃によって深い眠りにつきますと……目が覚めた時には全ての状態異常が回復、HPは全快になっているんです」

ありす「ポケ○ンみたいですね」

ちひろ「ここで重要なのは、状態異常が回復するということです。言うなれば、魔王の支配も状態異常のようなもの。なので、眠れば元のみくちゃんに戻るでしょう。……多分」

未央「小声で多分って付け足したし!」

卯月「ほ、本当ですね、ちひろさん? 信じていいんですね?」

ちひろ「もちろんです。導きの妖精ちっひを信じてください」

未央「しまむー。果てしなく怪しいとこだけど、ここは信じるしかないよ」

ありす「そうですね。限りなく疑わしいですが、それしかないなら」

ちひろ「私の信用随分と低いですね!?」

卯月「……分かりました。みくちゃんと、戦いましょう!」


―――砦 最深部


その頃みくは、中々やって来ない勇者に待ちくたびれていた。


みく「……遅いなー。勇者なんて全然来ないにゃ。あの話、眉唾なんじゃないの?」


《バキュンッ》


みく「にゃ!? な、何、今の!? なんか鈍い音が聞こえたと思ったら、体がチクってしたにゃ!」


《バキュンッ、バキュンッ》


みく「にゃにゃ!? 何!? 何なの!?」


―――砦 最深部 扉前


加蓮「……ねえ。これはあまりにも……あんまりじゃない?」

ちひろ「仕方ないじゃないですか。みくちゃんがこの扉の方を向いているせいで、こっそり侵入して闇討ちすることが出来ないんです」

加蓮「まずその作戦からして、あんまりな気がするんだけど」

ちひろ「さあ未央ちゃん、もっとです。……扉の隙間から、みくちゃんを撃って撃って撃ちまくってください!」

未央「……はーい」


《バキュンッ、バキュンッ》


未央ちゃんが感情のない声で答え、みくちゃんに向かって銃を撃ち続けます。


みくちゃんと戦うにあたって、ちひろさんが立てた作戦。

それは―――みくちゃんにバレないように部屋の扉を少しだけ開き、その隙間からみくちゃんを銃で狙い撃つという姑息な手でした。


ちひろ「この世界ではみくちゃんたちの痛覚は大分鈍くなってますから、まだ銃で撃たれていることにすら気付いていないでしょう。このままみくちゃんの体力が無くなるまでこれを続ければ、戦闘に入らずにみくちゃんを倒せますよ♪」

ありす「よく笑顔でそんなエグいこと言えますね」

加蓮「確かめたいんだけど……卯月たち、勇者なんだよね? 魔王の配下じゃないよね?」

卯月「違うよ! そんな疑いの眼差しで見ないで、加蓮ちゃん!」

ちひろ「あ、卯月ちゃん、しっ!」


みく『今の声は何にゃ!?』


卯月「あ」

未央「やばっ!? みくにゃんこっち来る!」


《バァ―――ンッ!》


勢いよく扉が開かれ、私たちとみくちゃんの目が合いました。


みく「…………」

卯月たち『…………』



みく「こんなとこで何してるにゃあ―――――――――――――――――――――っ!?」



卯月「そ、それはそのぉ……」

みく「さっきからチクチクすると思ったら、未央チャンがここから銃で撃ってたの!?……あ、みくのHPメッチャ減ってるにゃ!? 姑息にもほどがあるよ!」

ありす「返す言葉もないです」

ちひろ「まずいですね……もうこうなったら、ちゃんと戦うしかありません」

未央「それが普通だと思うよ!?」

みく「卯月チャンたち、みくに何の用!? こんなことするなんて、この世界で暗殺者にでもなったの!?」

卯月「あ、暗殺者じゃなくて勇者だよ!」

みく「え、勇者? 卯月チャンたちが?」

卯月「う、うん、一応」

加蓮「そうらしいよ」

みく「あ、加蓮チャン! 牢屋から出てきたの!?」

加蓮「卯月たちに出してもらったんだ。みく、これまでのお返しをしに来たよ!」

みく「むむっ、生意気なことを!」

加蓮「じゃ、そういうわけで……みんな、私の分も頑張って!」

卯月・未央・ありす『……えっ?』


加蓮「私はその辺に隠れてるね。……ファイトっ!」


そう言うと、加蓮ちゃんは驚きの速さでこの場から逃げていきます。


未央「ちょっとかれん!?」

ありす「一緒に戦ってくれるんじゃないんですか!?」

加蓮「だって私、戦うのとか無理だから―――っ!」

卯月「そんな!?」

ちひろ「……行っちゃいましたね」

みく「あーあ、加蓮チャンも魔王様の元に連れてって、心を支配してもらうつもりだったのに」

卯月「そ、そんなことを考えてたの?」

未央「みくにゃん、正気に戻ってよ! みくにゃんはそんなことする子じゃないでしょ!」

ありす「優しいみくさんに戻ってください!」

みく「うるさいにゃ! みくは魔王様の忠実なるしもべなり!」

ちひろ「完全に操られていますね……」


みく「魔王様の命に従い、みくがこの辺り一帯を支配した暁には―――」



みく「全ての人間どもに、猫耳を付けさせるのにゃ!」



卯月たち『…………』

みく「ふっ……恐ろしくて言葉も出ないにゃ?」

未央「呆れて言葉も出ないよ」

ありす「くだらないことを……」

卯月「ちひろさん、魔王ってそんなことを企んでいるんですか?」

ちひろ「支配した後のことはみくちゃんの独断でしょう。心を操られていても、元の人格の影響があるようですね」

みく「勇者である卯月チャンたちを倒せば、猫耳ワールドにまた一歩近づくにゃ! さあ、かかってくるにゃ!」


ちひろ「いよいよ中ボス戦です! みなさん、頑張ってください!」

卯月「は、はいっ!」

未央「ありすちゃんは切り札だから、下がってて! いよいよヤバそうになったら、魔法お願い!」

ありす「分かりました!」

卯月「いきますっ!」


先手必勝とばかりに、私は手に持った剣を振りかぶり、みくちゃんの体を斬りつけます。


みく「その程度の攻撃で!……こう、げき……で……」


どうしたことか、みくちゃんはだんだんと弱弱しい声になっていきながら……その場にゆっくりと倒れました。


卯月「? み、みくちゃん?」

みく「……ぐぅ」

未央「ぐぅ?」

ありす「……寝てます」

ちひろ「勝ちましたね」

卯月・未央・ありす『もう!?』


ちひろ「さっきの未央ちゃんの銃撃で、みくちゃんのHPは風前の灯火でしたから。やはり私の作戦が功を奏しましたね」

未央「えぇー……」

ありす「なんでしょう……勝ったのに、すごく虚しいんですが」

ちひろ「その通り。戦いとはいつも虚しいものです」

卯月「意味が違う気がします……」


私たちが微妙な気分になっていると―――


加蓮「あ、終わったー?」


加蓮ちゃんが、ひょっこり戻ってきました。


卯月「うん、終わったよ。加蓮ちゃん」

未央「かれん、一人だけ安全なとこ行ってー!」

加蓮「ごめんごめん」

ありす「まあ私も何もしてませんが」

加蓮「にしても、随分早く終わったよね。やっぱりさっきのあんまりな作戦のせい?」

ちひろ「巧妙な作戦と言ってください」

未央「どこが?」

加蓮「あ、ホントにみく寝ちゃってるし」

みく「……もう食べられないにゃ……」

加蓮「幸せそうな顔しちゃって。まったく、みくったら……」





加蓮「こんな簡単にやられないでよ」





ありす「……え」

未央「か、かれん……?」

加蓮「ホントはこのまま当分、卯月たちにくっついてくつもりだったんだけどなー。でも、みくは不甲斐ないし……それにちひろアイだっけ? そんなのあったら、どうせすぐ気付かれちゃうよね」

卯月「そ、それ、どういう……」

ちひろ「加蓮ちゃん、まさかあなた……!」

加蓮「ご自慢のちひろアイで見てみれば?」

ちひろ「……な!? か、加蓮ちゃんも……魔王に操られています!」

未央「嘘!?」

ありす「みくさんだけじゃなかったんですか!?」

卯月「か、加蓮ちゃんまで……?」

加蓮「ふふっ、それでさみんな。これじゃ不完全燃焼でしょ? だから……次は、私が相手をしてあげるね」

卯月「っ!」

加蓮「あ、せっかくだし、改めて自己紹介しとこうかな」



加蓮「一応、魔王様の側近をしてる―――魔導将、北条加蓮だよ。よろしくね♪」


一体魔王は何者なんだー

魔王の側近の片割れは誰なんだ…ちひろは卑劣様か何か
卯月一行が外道過ぎて笑う、みくの目的しょぼすぎて草

加連は魔導将(物理かな)何人かいるんだよな

みくにゃん弱くてワロタww 加蓮強そう。
ドラクエだけど特撮系女幹部っぽいキャラも似合ってるな~

加蓮の相方はちょろいに違いない

姑息の使い方間違ってるよ
アイドル自身が誤用してるって設定でもいいけど

>>79
指摘ありがとうございます
今更修正出来ないのでそういう設定でお願いします


加蓮ちゃんの告白に、私たちは驚きを隠せませんでした。


加蓮「実は魔王様に、勇者が旅立ったらしいから、どの程度のものか見極めてきてって頼まれてさ。それでかよわいヒロイン枠で勇者パーティに潜り込み、じっくりと見極めるというナイスなアイデアを思いついたの」

未央「自分でかよわい言うんだ!」

加蓮「で、みくにも協力してもらって一芝居打ったんだけど……ちひろアイなんてのがあるなんてね。それ知ってたら、こんな回りくどいことしなかったのに」

ありす「ちひろアイが無ければ、危うくずっと騙され続ける所だったんですね」

ちひろ「さすが私。我ながら自分のスペックが恐ろしいです」

卯月「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

加蓮「そう、お喋りはそろそろ終わり。……ここからは、ボス戦の始まりだよ」


未央「かれん、ホントにやる気なの!?」

卯月「加蓮ちゃん、さっき魔王の側近って言ってたけど……それが本当なら、相当な強敵なんじゃ―――」

ちひろ「ありすちゃん、瞬間移動の魔法です! 逃げますよ!」

ありす「え!? に、逃げるんですか!?」

ちひろ「早く!」

加蓮「ふふっ、ちひろさん少し落ち着いたら? 屋内じゃ瞬間移動の魔法は使えないよ?」

ちひろ「あ!」

加蓮「ていうか、ちひろさん余計なことしすぎじゃないかな。ちょっと黙ってて。バインド」


加蓮ちゃんが唱えると、掌から小さな魔方陣が浮かび上がります。


ちひろ「むぐっ!?」

卯月「ちひろさん!?」


ちひろさんの小さな体が、光る縄のようなもので縛られました。
当然、羽も動かせなくなり、地面へと落下。


未央「大丈夫!?」

ちひろ「むぐ、むぐぅ」

加蓮「邪魔だったから、口を塞ぐついでに動けなくしただけだって」

ありす「つ、杖も持たずに魔法を……?」

加蓮「ん? だって杖重いんだもん」

ありす「そんな理由ですか!?」

加蓮「ふふっ、それよりさ……自分たちの心配をした方がいいんじゃない?」



加蓮「言っとくけど私、すごく強いよ」



―――瞬間。

加蓮ちゃんから凄まじいほどの闘気が、私たちに向かって放たれました。


卯月「っ!」

ありす「な、なんですか……この、プレッシャーは……」

未央「び、ビビっちゃ駄目! 相手は1人、こっち3人! 全然勝機はあるよ!」

ありす「そ、そうですよね。……やるしかないです!」

卯月「……加蓮ちゃんを、魔王から救い出さないと!」

加蓮「そうそう、それでこそ勇者だよね。……じゃ、始めよっか!」


―――戦闘、開始ですっ。


未央「ありすちゃん、さっきと同じ! まずは下がってて、やばそうになったら魔法お願い!」

ありす「分かりました!」

未央「いくよ、しまむー!」

卯月「うん!」


私と未央ちゃんが、真っ直ぐに加蓮ちゃんへと突っ込みます。
まずは、未央ちゃんの銃撃から。


未央「いくよ、かれん!」


未央ちゃんが引き金を引き、加蓮ちゃんに向かって何発もの銃弾が放たれました。


それに対して、加蓮ちゃんは右腕を前に出し―――


加蓮「フレア」


そう唱えました。

浮かび上がる魔方陣。
そして、加蓮ちゃんの掌から球状の小さな炎が生まれ―――銃弾はそれに飲み込まれます。


未央「な!?」

加蓮「こんなもの?」


未央「くっ、しまむー!」

卯月「いきますっ!」

加蓮「次は卯月か」

卯月「やぁっ!」


私は振りかぶった剣を加蓮ちゃんへと―――


加蓮「アイス」


加蓮ちゃんが唱えた瞬間、方形の氷が形成されます。
その氷はまるで盾のように―――今まさに、私が剣を振り下ろそうとしていた位置に。


卯月「え!?」


キィンという音とともに、振り下ろした剣は氷によって防がれました。


加蓮「もう、これぐらい砕いてみせてよ」

卯月「っ!」


未央「引いちゃ駄目! しまむー、攻撃し続けて!」

卯月「うん!」


私が繰り出す、斬撃、斬撃、斬撃。

そして未央ちゃんが撃ち出す、銃撃、銃撃、銃撃。

連続で、次は交互に、また連続。
息つかせる暇をなくす勢いで、私と未央ちゃんは、加蓮ちゃんに攻撃を仕掛け続けます。



―――しかし、その全てを、加蓮ちゃんは魔法で防ぎきりました。


加蓮「もう終わり?」

卯月「ぜ、全然、効いてない……」

未央「嘘でしょ……?」

加蓮「うーん……やっぱり弱いね。これくらいじゃ魔王様には―――」



ありす「卯月さん、未央さん、離れてください!」



卯月「! 分かった!」

未央「任せたよ、ありすちゃん!」

加蓮「今度はありすちゃん? さて、一体何をしてくれ―――」


ありすちゃんが魔力を集中。
周囲にバチバチと青い稲妻が走り始めます。


加蓮「!? これ、まさか……!」

ありす「迸れ、数多の雷よ!」

加蓮「っ! 焼き尽くせ、灼熱の炎よ!」



ありす「スパーキングサンダーノヴァ!」

加蓮「ブレイジングフレアノヴァ!」



ありすちゃんに続いて、加蓮ちゃんも呪文を唱えました。


かたや、生み出されたのは青き稲妻。
かたや、生み出されたのは赤き烈火。


強大な2つのエネルギーは、地を這うように真っ直ぐ、向かい合う相手の元へと。

そして―――雷撃と炎撃は、直線上でぶつかり合いました。


《ドゴォオオオオオンッ!》


激突の余波が、辺りに衝撃となって伝わります。


卯月「きゃっ!」

ありす「ど、どうです……!」

未央「やったか!?」

ありす「どうして余計なフラグを!?」


私たちの視線の先に―――


加蓮「い、今のは……本気で焦った……」


まだ、加蓮ちゃんは立っていました。


ありす「ほら未央さんのせいで倒せなかったじゃないですか!」

未央「わ、私のせい!?」

卯月「多分、未央ちゃんは関係ないと思うよ!?」

加蓮「まさかありすちゃんがノヴァ系……最上級魔法を使えるなんて。すごいね、ありすちゃん。さあ、もっともっと撃ってきなよ!」

ありす「え。あ、そ、そのぅ……」

加蓮「? どうしたの?」

ありす「……」

加蓮「まさか……もうMPないとか?」

ありす「ぎくぅ!?」

未央「もうちょい隠せない!?」

加蓮「……なんだ。じゃあ3人とも、今ので全部出し切っちゃった感じ?」

ありす「そ、それは……」

未央「私たちの攻撃は、全然通用しないし……」

卯月「これ以上、どうしようも……」


私たちの様子を見て、加蓮ちゃんは小さくため息をつきました。


加蓮「もうちょいやれると思ったんだけどなぁ。じゃあもう、これ以上やっても仕方ないし……そろそろ全滅しとく?」

卯月「っ!」

加蓮「まずはやっぱり、勇者の卯月からかな。……フレアレイ」


加蓮ちゃんの右手の前に浮かび上がる魔法陣。
そこから生み出されたのは、一条の炎の光線。


一筋の炎は、まっすぐに、私へと迫って―――


未央「しまむー、危ない!」

卯月「未央ちゃん!?」


未央ちゃんが声を上げた次の瞬間、私は未央ちゃんに勢いよく突き飛ばされました。

倒れ行く私の視線の先では……炎の光線が、未央ちゃんを貫こうと―――



そんなの、させない。



私はまるで砕こうとするかのように、地面を強く踏みつける。

踏みとどまる。

そして踏み出す、未央ちゃんの前へと。


未央「しまむー!?」


決めたはず。
未央ちゃんに頼りきるのは、もうやめるって。

だから……!


卯月「私が!」


……感じる。

今、自分の中に新しい力が生まれた。


それを―――引き出す!



卯月「ティンクルスター!」



叫ぶと同時、手に持つ剣の切っ先に光が収束していく。

―――炎が目の前に迫る。

今だ。
これに突き刺す!


そして―――切り裂くっ!


加蓮「フレアレイを!?」

未央「斬っちゃった!?」

ありす「すごいです……!」


まだ。
このまま突っ込んで―――決める。


卯月「たぁっ!」

加蓮「しまっ!?」


そして―――私の剣が、加蓮ちゃんの体を貫いた。


加蓮「……やるじゃん、卯月」

卯月「加蓮、ちゃん」



加蓮「でも、この程度じゃ私は倒せないよ」



加蓮ちゃんがそう告げた瞬間、私は加蓮ちゃんに両手で突き飛ばされました。


卯月「わっ!?」


当然、加蓮ちゃんを貫いていた剣は、加蓮ちゃんの体から引き抜かれます。


加蓮「さて、じゃあ今のお返しに最上級魔法を―――」

卯月「!?」

未央「しまむー!」

ありす「逃げてください!」



加蓮「なーんてね♪ 今日はもうおしまいでいいや」



卯月・未央・ありす『……へ?』

加蓮「いやー、3人とも思ってたよりもやるね。さすが勇者パーティ」

ありす「な、何を急に……」

卯月「おしまいって……?」

加蓮「だから、もう戦闘はおしまいだって。卯月たちの力は十分見せてもらったし、これ以上やる必要ないもん。だって、全滅させてもどうせ生き返っちゃうでしょ?」

ありす「そ、それは……そういえばそうですね」


未央「じゃあかれん、逃げるって言うの?」

加蓮「逃げる?……その言い方はなんか気になるなぁ。3人とも、ちょっと離れてて」

卯月「え?」

加蓮「あ、死にたいんなら別にいいけど」

未央「しまむー、早く!」

ありす「よく分かりませんが、離れましょう!」

卯月「う、うん!」


私たちは急いで、加蓮ちゃんから離れました。


加蓮「ま、それくらい離れれば大丈夫でしょ。じゃ……」


加蓮ちゃんの周りに、膨大な魔力が収束していきます。


ありす「な、何を……」

加蓮「出口作るだけだよ、ありすちゃん」

ありす「で、出口?」

加蓮「天さえもかき消す無垢なる光よ……ヴァニシングライトレイ!」


加蓮ちゃんが呪文を唱えた瞬間、今までに見たことがないほど大きな魔方陣が、宙に浮かび上がりました。

そしてそこから―――凄まじい量の光の奔流が、天へと向かって昇っていきます。


卯月・未央・ありす『うぇえええええええええええええ!?』


その光景に、絶叫するしかない私たち。


ちひろ「むぐぅ、むぐぅ」


未だに拘束が解けないちひろさん。


みく「……魚は……魚だけは勘弁して……っ」


未だに寝ているみくちゃん。


そして気付くと―――砦の天井が完全に消滅していました。


卯月「えぇええええええええええええええ!?」

未央「天井なくなったぁあああああああああああああ!?」

加蓮「こうすれば、瞬間移動の魔法使えるからね」

ありす「加蓮さん、なんですか今の魔法!? チートじゃないですか、あれ!?」

加蓮「普通の魔法だよ。最上級魔法の上の、超級魔法だけど」

ありす「そんなのあったんですか!?」


加蓮「ありすちゃんもいつか使えるようになるかもね。じゃ、私もう行くけど……あ、その前にありすちゃんにスタドリあげる」


加蓮ちゃんはどこから取り出したのか、スタドリをありすちゃんに向かって優しく投げました。


ありす「え、あ、どうも」

加蓮「それ飲めばMP回復するから。そうすれば、瞬間移動の魔法で近くの村まで飛んで行けるよね?」

未央「何その優しさ!」

加蓮「友達なんだから当然でしょ。じゃ、またねー。……テレポラ!」


瞬間移動の呪文を唱え―――加蓮ちゃんは、その場から姿を消しました。


ありす「……行っちゃいましたね」

卯月「加蓮ちゃん、本当に魔王に操られてるのかな……?」

未央「うーん……さっきまでは戦ってたわけだし、微妙なとこだよね……」

ちひろ「むぐぅ、むぐぅ」

未央「あ! かれん、ちひろさんの拘束解き忘れてる!」

卯月「ど、どうしよう、剣で斬れるかな!?」

ありす「ちひろさんごとザックリいってしまうかもですが、その時はその時でしょう」

ちひろ「むぐ!?」

みく「……うん、たい焼きなら大丈夫にゃ……」


―――フタツメノ村 宿屋


あの後、私たちはありすちゃんの魔法で近くの村に戻ってきました。


みく「……尻尾にあんこは、入ってない方が……」

未央「みくにゃん、いつまで寝てるんだろ」

ちひろ「それにしても、加蓮ちゃんが引いてくれて良かったですね」


ちひろさんの拘束は、あの後無事に解けました。


ありす「そうですね、まだあんな魔法を撃てたなんて」

ちひろ「それだけじゃありませんよ。加蓮ちゃんのレベル、いくつだったと思います?」

卯月「レベル?」

未央「あ、そっか。ちひろアイで見えたんだね」

ありす「私が今11ですから……多めに見積もって、30くらいじゃないですか?」



ちひろ「いえ、70です」



卯月・未央・ありす『70!?』


未央「そこまで差があったの!?」

卯月「どうりでこっちの攻撃が通用しないと……」

ありす「メチャクチャ手加減されていたわけですか……」

ちひろ「でしょうね。やはり魔王の側近を名乗るだけはあるということです」


私たちが、その事実に驚愕していると―――


みく「……にゃ?」


みくちゃんが、目を覚ましました。


卯月「あ、みくちゃん。大丈夫?」

みく「卯月チャン? みく、一体どうして……」

ちひろ「良かった。今見てみましたが、魔王の支配はきちんと解けているようです」


みく「魔王?……あ! ごめん、みんな!」

未央「え?」

みく「みく、みんなに……あ、つい謝ったけど、特に何もしてなかったにゃ」

ありす「一撃で戦闘終わりましたからね」

卯月「みくちゃん、魔王に操られていた時の記憶があるの?」

みく「うん、うっすらと」

未央「じゃあ、魔王のことも覚えてる? どんなやつなの?」

みく「うーん……ごめん。記憶にもやみたいのがかかってて、思い出せない」

卯月「そっか……」

未央「魔王……一体何者なんだろ?」


―――魔王城 玉座の間


卯月たちとの戦闘の後、加蓮は魔王城へと帰還していた。


加蓮「ただいまー」


玉座の間には、加蓮以外に2人の人影が。

一人は、加蓮と同じく魔王の側近を務めている将―――魔戦将。
そして、残る一人は当然―――魔王である。


魔王「おかえり、加蓮」

魔戦将「それで、勇者はどうだったんだ?」

加蓮「卯月だった」

魔戦将「へー、卯月か。……卯月!?」

魔王「……え、本当に?」


加蓮「ホントだって。それに未央とありすちゃんも一緒」

魔戦将「うわー……」

魔王「……どうしよう。戦い難いよ、それじゃ」

加蓮「そうなんだよねー……」

魔戦将「うーん……あっ!」

加蓮「どうしたの?」

魔戦将「あー、その……ち、ちょっと用事思い出してさ。あたし、もう行っていい?」

魔王「何言ってるの? 今は大事な話の最中だよ」

魔戦将「そ、それは分かってるんだけど……」


加蓮「……そういえばもうすぐ、アニメ始まる時間なんじゃない?」

魔戦将「!? そ、そんな、アニメ見たいから部屋戻りたいなんて、一言も言ってないだろ!」

加蓮「今言ったけどね」

魔戦将「あぅっ!?」

魔王「はぁ……いいよ、好きにしなよ」

魔戦将「え、いいのか? じ、じゃあお言葉に甘えて……あっ、でもアニメ見るわけじゃないからな!」

加蓮「分かったからもう行きなって」

魔戦将「わ、分かればいいけどさ。……やたっ♪」


最後の言葉だけは2人に聞こえないように小さく呟き、魔戦将は玉座の間をウキウキ気分で後にしていった。


加蓮「なんでこっちの世界でアニメとか放送してるんだろ……?」

魔王「知らないよ……とにかく、卯月たちのことはしばらく加蓮に任せるから。どうにかして旅を諦めさせてみて」

加蓮「りょーかい、魔王様」


―――フタツメノ村 宿屋


みく「―――そっか。卯月ちゃんたちは、魔王を倒すために旅をしてるんだね」

ありす「はい」

卯月「それに、加蓮ちゃんも魔王の支配から解放しないと」

ちひろ「……いえ、加蓮ちゃんだけではないかもしれません」

未央「どういう意味?」

ちひろ「もしかしたら、他にも魔王に操られている子がいるかもしれないということです」

卯月「え!?」

ありす「確かにみくさん、加蓮さんと2人も操られているわけですから……その可能性はありますね」

卯月「そんな……」


未央「大丈夫! もしそうでも、みくにゃんだって助けられたんだし、同じように助けられるよ!」

卯月「未央ちゃん……うん、そうだよね!」

ありす「私たちなら、きっと出来ます」

みく「……じゃあ、みくの力も貸してあげるね」

未央「え、いいの?」

みく「もちろんにゃ! 友達が魔王に操られてるのを、放っておけないよ!」

卯月「ありがとう、みくちゃん!」

ちひろ「みくちゃんが仲間になりました」

みく「ふふん、このみくが仲間になったからには、大船に乗ったつもりで―――」


話している途中で、みくちゃんが唐突に消えました。


卯月・未央・ありす『え!?』


―――楓の酒場


みく「―――いるといいにゃ!」

楓「……みくちゃん?」

みく「にゃ?……楓さん!? え、なんでにゃ!? ここ、どこ!?」

楓「ちょうど良かったわ。今、人手が足りなかったの。手伝ってくれる?」

みく「え、え、え!?」


―――フタツメノ村 宿屋


未央「みくにゃんどこ行ったの!?」

ありす「消えちゃいましたよ!?」

ちひろ「大丈夫です。ただの仕様ですよ」

卯月「仕様!?」

ちひろ「パーティに編成できるのは、3人までですから。それ以上の仲間が増えると、自動的に楓さんの酒場に転送されるんです」

卯月「て、転送って……」

ありす「みくさんもさぞ驚いているでしょうね」

ちひろ「みくちゃんを編成したい時は、一旦楓さんの酒場まで戻ってください」

未央「面倒くさっ!」

ちひろ「ありすちゃんの魔法を使えば、一瞬で飛べますよ」

ありす「その度にMP回復しなければいけないわけですが……」

卯月「と、当分、この3人でいいかな」

未央「だね」

ありす「みくさんには悪いですが、そうしましょう」


―――楓の酒場


みく「酷くない!?」

楓「みくちゃん、どうしたの?」

みく「なんか、急にツッコまなきゃいけない気がして」

楓「? とにかく次、このビールをあちらのお客様にお願いね」

みく「あ、はい。……お待たせしましたにゃー!」

呪文名はテキトーに決めてます

魔王とその側近…一体何プリムスなんだ…

魔王と側近は正体が分かりやすい
魔戦将さん楽しそうですね

>魔戦将「へー、卯月か。……卯月!?」

これでわかった

魔戦将さんはカラテ(格闘技)で戦いそう今季の中の人繋がりで


―――ソノアタリノ森


それは突然のこと。


???「曲者っ!」


その声が聞こえたと思った次の瞬間、どこかから手裏剣が飛んできました。


未央「危なぁっ!?」

卯月「大丈夫、未央ちゃん!?」

ありす「え、なんですか急に!?」



あやめ「避けましたか……さすがにやりますね」



卯月「あやめちゃん!?」


木の陰から姿を現したのは、あやめちゃんでした。
その装いは、まるで忍者のようです。


ちひろ「ちひろアイ!……あやめちゃんは魔王に操られているようです!」

卯月「えぇ!?」

あやめ「その通り! わたくしは、魔王様の忠実なるしも―――忍び!」

未央「しもべを忍びに言い直した!」

ありす「やはり操られていても、元の人格が残っていますね」

あやめ「我が忍術、とくとご覧あれ! 水遁の術!」

ありす「来ます!」

あやめ「そぉれっ」


かけ声を出すとともに、あやめちゃんが扇子を取り出したと思ったら―――。



なんと! 扇子から、ちょろちょろと水が出てきました!



卯月「す、すごいです!」

ありす「……えっ? すごいですか、これ?」

あやめ「水遁ですよ水遁! これぞまさに忍術ではないですか! はっ! せやっ!」

卯月「わぁ……!」

ありす「水……遁……?」


扇子から次々と水が出てきます。
私は思わず、ぱちぱちと拍手を送りました。


未央「いやそれ、ただの水芸じゃ……」

ちひろ「しっ! 未央ちゃん、それは言わないのが優しさですよ」

未央「……そだね」

あやめ「むむ。卯月殿以外、驚きもしないとは……さすがは勇者ご一行ですね!」

未央「勇者関係ないと思う」


あやめ「では次は―――火遁の術です!」

ありす「来ます!」

あやめ「いざっ!」


あやめちゃんが何か飲み物のようなものを口に含みます。
そして手に持ったライターの火を点け、それに向かって口に含んだものを噴き出しました。



すると、ライターの炎が大きく膨れ上がり、まるであやめちゃんが火を吐いたように!



卯月「す、すごいです! こんなの見たことありません!」


私は惜しみない拍手をあやめちゃんへと送ります。


ありす「いや、どこかで見たような……」

未央「大道芸の火吹き芸じゃ……」

ちひろ「しっ! だから言っちゃ駄目です!」

あやめ「ば、馬鹿な……これすらも驚くに値しないというのですか……?」

ありす「ある意味物凄く驚いてます」

あやめ「ならこれはどうです! 木遁の―――」

未央「ばきゅん」

あやめ「ぐはっ!?」


未央ちゃんが、あやめちゃんを銃で撃ちました。

その場にバタリと倒れるあやめちゃん。
どうやら体力が0になり、眠ってしまったようです。


卯月「何するの、未央ちゃん!?」

未央「あ、ごめん、つい」

ありす「気持ちは分かります」

ちひろ「せっかくの異世界なのに、出てきたものが全て、元の世界にあった芸でしたからね」

卯月「……見たかったなぁ」


あやめちゃんが起きたら木遁の術を見せてもらおう。
そう心に決めた私でした。


あやめ「……ニンッ」


―――ミッツメノ村


卯月「ここがミッツメノ村だね」

未央「なんだか、随分静かじゃない?」

ありす「確かに……」

ちひろ「活気を感じませんね」


村を行き交う人たちは、あまり元気があるようには見えません。

それに、何か……。


卯月「何か、違和感があるような……」

未央「違和感?」

ありす「私も、何か足りない気がします」

ちひろ「とりあえず、村を回ってみましょう。何か分かるかもしれません」

卯月「そうですね」


―――宿屋


それから、ぐるりと村を一回りした私たち。
今は宿屋の一室に集まっています。


卯月「やっぱり、何か足りない気がする」

未央「うん、私もそんな気がしてきた」

ありす「……私、何が足りないのか分かりました」

ちひろ「え、本当ですか?」

卯月「ありすちゃん、それって?」



ありす「この村には―――子供が1人もいないんです」


子供・・・カリスマ・・・うっ、頭が


卯月「子供……あ、そっか!」

未央「それだ! 村の中、小さい子が1人もいなかったもん!」

ちひろ「どういうことでしょうか……?」

ありす「もしや、魔王の配下が関係しているのでは?」

未央「まさか、事務所の誰かが子供をさらってたり?」

卯月「でも、そんなことする人―――」


《ドタドタドタッ!》


その時。突然、宿屋の階段を勢いよく駆け上がってくる足音が聞こえました。


卯月「な、何?」

ありす「どんどん、この部屋に近づいてきます」

未央「まさか、魔王の配下なんじゃ……!」


私たちが警戒を強めると―――ついに、部屋の扉が開きました。


《ガチャ―――》



美嘉「ちっちゃい子いるってこの部屋!?」



卯月・未央・ありす・ちひろ『美嘉ちゃん(美嘉ねー・美嘉さん)!?』

美嘉「え? あ、卯月に未央! それに……ありすちゃん!」

ありす「え!?」


美嘉ちゃんはありすちゃんを見つけた途端、ありすちゃんに抱きつきました。


美嘉「良かった! 良かったよ、ありすちゃん!」

ありす「ひぃっ!? た、助けてください! このままじゃさらわれます!」


卯月「美嘉ちゃん、正気に戻って!」

未央「美嘉ねー、すぐに魔王の支配から解放してあげるからね!」


私と未央ちゃんが、武器を構えて美嘉ちゃんに狙いをつけます。


美嘉「え?……なんで武器こっちに向けてるの!? 危ないでしょ、やめてよ!」

未央「消え去れ、魔王の支配―――っ!」

卯月「少しだけ我慢して、美嘉ちゃんっ!」

美嘉「いやぁああああああああああああああああああっ!?」

ちひろ「……ん? 美嘉ちゃん、魔王に操られていませんよ」

卯月・未央・ありす『……え?』


―――数分後。


美嘉「……アンタたち、アタシに何か言うことがあるんじゃない?」

卯月・未央・ありす『勘違いしてすみませんでしたっ!』

美嘉「まったくもう……」

未央「で、でも美嘉ねー、なんでありすちゃんに抱きついたりしたの?」

美嘉「ありすちゃんの無事が嬉しくて、つい抱きついちゃったの。この辺りの子供、みんな魔王の配下に攫われたらしくて」

卯月「魔王の配下に……やっぱり」

美嘉「アタシ、こっちの世界来てから莉嘉を探して旅してるの。で、子供がさらわれてるって噂を聞いて……もしかしたら、莉嘉もって思って。その魔王の配下の居場所を調査してたんだ」

未央「そうだったんだ」

ありす「それで、魔王の配下の居所は判明したんですか?」

美嘉「ううん。それが、どんな奴なのかすら分からなくて。子供たちは、みんな一人になった時にさらわれたらしいの」

ちひろ「中々用心深いようですね」

ありす「それなら……囮作戦というのはどうですか?」


―――ミッツメノ村 はずれ


ありす「る、るんるんっ♪ おさんぽおさんぽ楽しいなー♪」


―――そこから少し離れた位置


卯月・未央・美嘉・ちひろ(ありすちゃん可愛い)

未央「―――はっ!? いやいや、ほっこりしてる場合じゃないよ!」

卯月「あ! そ、そうだよね!」

美嘉「ありすちゃんが自分から囮役を買って出てくれたんだもん。気を抜いちゃまずいよね」

ちひろ「ありすちゃんがわざとさらわれて、私たちがその後を尾けていけば、きっと魔王の配下のもとに辿り着けるはずです」


―――ありすside

ありす「るんるんるんっ♪」

ありす(だ、大分精神がきつくなってきました……早く来てください魔王の配下!)



??「見ーつけたっ☆」



ありす(!? 後ろから声が!?)


―――卯月side


ちひろ「あれは!?」

未央「来たの!?」

ちひろ「見てください! あそこにメタリックなスライムが!」

メタスラ『ぴぎ?』

美嘉「魔王の配下じゃないじゃん!」

ちひろ「そんなの後回しです! あいつを倒せば一気にレベルを上げられますよ! 逃げられる前に倒してください!」

卯月「確かに、そんな美味しい獲物を逃がすのは勿体ないかも……」

未央「うん、急いでやっちゃおう!」

美嘉「アンタたち正気!?」


―――ありすside


ありす「え!? あなたは―――」

??「スリプル」

ありす(睡眠の呪文……!? しまった、眠気が……みなさん、後はお願いしますっ!)


―――卯月side


私は剣で目の前の敵を切り裂きます。


卯月「やあっ!」

メタスラ『ぴぎ?』

卯月「き、効いてる気がしませんっ」

ちひろ「狙うは会心の一撃です!」

未央「オッケー!」

美嘉「早いとこ倒さないと……っ!」


美嘉ちゃんの振るったムチが、会心の一撃に!


メタスラ『びぎ!?』


メタリックなスライムを倒しました!


ちひろ「やりましたね! 経験値フィーバーです!」

未央「これでこの先の戦闘が楽になるよ!」

卯月「良かったね!」

美嘉「まったく…………ん?」

未央「どうしたの、美嘉ねー?」

美嘉「…………ねえ。ありすちゃん、いなくなってるんだけど」

卯月・未央・ちひろ『……えっ?』


―――???


ありす「う、ん……」

??「あ、やっと起きた?」

ありす「っ!?……魔王の配下が、あなただったなんて」



莉嘉「ありすちゃん、リカちゃんランドへようこそっ☆」



 ***


莉嘉によって作られた幼女のための一大テーマパーク、リカちゃんランド。

その中央にそびえ立つ城―――リカデレラ城の城内を、ありすはひた走っていた。


ありす「あーもうっ、卯月さんたちは何をしているんですかっ! このままじゃ……!」


走りながら後ろを振り返るありす。そこには―――


みりあ「待ってよ、ありすちゃーんっ!」

薫「いっしょにあそぼー!」


随分と見慣れた顔たちが、ありすのことを追いかけて来ていた。


ありす「本当に遊ぶだけなら構わないんですけどね……っ!」


しかし、残念ながらそれはありえない。なぜなら、彼女たちの精神は魔王に支配されているのだから。

ありすは莉嘉によってここに連れ去られた。そして目覚めてすぐ、莉嘉にこう告げられたのだ。


莉嘉『ありすちゃんもアタシたちの仲間になってよ☆』

ありす『お断りです』


即答だった。当たり前だ。遊び仲間ならともかく、魔王の仲間になどなるわけがない。



だが、その答えを聞いた莉嘉は、強引にありすを仲間に引き込もうとした。

すでに仲間に引き込んだプロダクションメンバーたち(全員幼女)を、ありすにけしかけてきたのだ。

しかしそこは逃げ足の速さに定評のある勇者パーティの一員。

自らの身が危ないとコンマ1秒で察したありすは戦略的撤退を即座に決断し、その場を一目散に離脱。そして……今に至る。


ありす(転移魔法で逃げようにも、空が見える場所じゃないと使えないし……どうすればどうすればどうすれば!)


この場を切り抜けるため、必死に考えを巡らすありす。

そして、導かれた結論は一つだった。


ありす「どうするも何も、どうにかして外に出るしかないっ!」


目指すは、未だ見えぬ出口。


 *


ありすは一旦、通りかかった部屋へと身を隠した。


みりあ『ありすちゃん、どこー?』

薫『もしかして、かくれんぼー?』


緊張感に欠ける声が部屋の外から聞こえてくる。そして、その声はだんだんと小さくなっていった。


ありす「……とりあえず、一息つけそう」


ほっと息を吐くありす。


ありす(いくらなんでも、あの数を相手にするのは無理……というか、一回しか魔法が使えない以上、相手が2人より多かったらほぼ詰みなんだけど)


つまり今の状態はほぼチェックメイトをかけられているのだ。あくまで、戦うとしたらの話だが。


ありす(ここは逃げの一手しかない……どうにかして外への出口を見つけないと)


窓から出ようかとも考えたが、どこの窓も、開閉できない不親切設計になっている。

外に出るには、きちんとした出口から抜け出すしかない。


ありす(でも出口の場所は分からないし……都合よく地図でもあればいいのに……ん?)


そこで、ありすは部屋のテーブルに置いてある紙に目を止めた。


【リカデレラ城 見取り図】


ありす「都合よすぎないですか!?」



ツッコミつつも、思わずそれを手に取るありす。

ここまで走ってきた道のりと照らし合わせてみると、どうやら本物の地図のようだ。

しっかりと、出口の場所も記されている。


ありす(ここまで行ければ……! いや、でも罠かも……あまりにあからさますぎるし……)


ありすはしばし逡巡する。

だが、ここで悩んでいても状況が好転しないのは分かりきっていた。なぜか卯月たちは来る気配が欠片もないし。


ありす(……やるしかない。誰にも見つからずに、出口までたどり着く……そう、これはまさにスニーキングミッション!)


題して、ありすギアソリッド!

幼女たちから発見されずに、出口へと向かえ!


 *


ありすは扉を少しだけ開き、外の様子を窺う。

そして誰もいないことを確認すると、俊敏な動きで部屋から飛び出し、一番近い遮蔽物である幼女の銅像の後ろに身を隠した。


ありす(とりあえず、誰の気配もない……でも、油断は禁物)


ス○ークと違い、ありすはCQCで敵を制圧することは出来ない。そして見つかったら一発ゲームオーバー。当然、コンティニューもなしだ。


ありす(……慎重に行かないと)


気を引き締めるありす。その瞳は真剣そのものである。

だが、ゲームのような今の状況を若干楽しみ始めてもいた。その証拠に、少しだけ口角が上がっている。まあそれを指摘出来る者は、今は周りに誰もいなかったが。

幼女がいないか確認するため、ありすは銅像の脇から向こう側をのぞき込んだ。


ありす(! 誰か来た!)


一人の幼女がこちらに歩いてくるのが見え、ありすは素早く銅像の後ろに身を隠し、息をひそめる。



とてとてと近づいてくる幼女の足音。それがもうすぐ、横を通過する。

ありすの緊張が高まっていく。

それに比例し、速まる胸の鼓動。頬を流れ落ちる、一筋の汗。『今の私、すごく○ネークっぽいかも』と気づき、さらに上がる口角。

そして―――


桃華「……いませんわね。いったい橘さん、どこへ行ったんですの?」


―――その台詞とともに、櫻井桃華はありすの真横を通過していった。


桃華が見えなくなったのを確認すると、ありすは緩みそうになった気を慌てて引き締め、銅像の陰から出た。


ありす「よし、この調子で出口まで……!」


抜き足、差し足、忍び足。

出来うる限りの素人スニーキングスキルを駆使して、ありすは城の出口へと歩みを進めるのだった。

生きてるかー?

忙しさと暑さにやられそうですが、かろうじて生きてます
エタる気はないです

キリのいいとこまで書いてから投下したいので、もうちょいかかります
でもちょっとだけ投下しようと思います


 *


何度か危ない場面はあったが、ダンボール箱に身を隠したりしてギリギリ回避。

ありすは城の出口が目前に迫る位置まで到達していた。


ありす(思ったより危なげなく来れた……もしかして私、潜入工作員の才能があるんじゃ? どうしよう、私アイドルだからそっちの道には進めないのに)


そして、ここまで到達出来たことで大分うぬぼれてもいた。どう考えてもいらぬ心配である。

ありすはしばしの間うんうんと無駄に悩んでいたが、現在置かれている状況をハッと思い出し、とりあえずその進路のことは頭の片隅に置いておくことにした。

そして隠れているダンボール箱の穴から、慎重に出口の方を窺う。


ありす(出口にいるのは晴さん一人だけ。これならいける……!)


ありすの手に握られているのは、途中の部屋で見つけ、何かに使えるかもと思いパクっておいたガラスのコップ。

ありすはそれを、出口とは反対の方向へ放り投げた。


ガシャーンッと、ガラスの割れる音が辺りに響く。


晴『なんだ今の音?』


当然、その音に気付く晴。そして音の正体を確認するため、こちらに歩いてくる。が、晴は不自然に置いてあるダンボール箱を不自然と思わず、そのままスルー。

ありすの横を通りすぎていき、砕け散ったガラスに目を留めた。


ありす(今だっ!)


晴の隙をつき、ありすはダンボールから抜け出し出口へと駆けた。


晴『ありす!? しまった!』


後ろから晴の驚愕する声が聞こえるも、もう遅い。既にありすは出口へと辿り着いていた。見上げれば、そこには青い空が広がっている。

ありすは視線を晴へと向け、叫んだ。


ありす「今日の所は引き上げますが、勘違いしないでくださいね! あくまで戦略的撤退ですから! 莉嘉さんにもそう伝えておいてください!」

晴「なんだその言い訳がましい台詞!」



晴のツッコミを意に介さず、ありすは杖を掲げ、転移の呪文を唱える。


ありす「テレポ――」

千枝「あーんっ」

ありす「むぐっ!?」


突如現れた千枝が、今まさに呪文を唱えていたありすの口に何かを押し入れた。

瞬間、ありすの口の中に広がったのは、つぶつぶ食感。そして。ありすの味覚にクリティカルヒットする、甘味と酸味のほどよいバランス。

そう、それはまさに!


ありす「イチゴだぁ……!」


そのこの世で最も美味である(と、ありすが個人的に信じる)禁断の果実に、ありすは脳みそまでとろけきった。


千枝「美味しい?」

ありす「はい!」


ありすが答えると、千枝はイチゴの詰まった小箱をありすに差し出した。


千枝「もっとあるから、好きなだけ食べていいよ」

ありす「いいんですか!? いただきます!」


『いいんですか?』と聞いたわりに、コンマ1秒も間を空けず『いただきます!』と宣言。

ありすはイチゴを次々に咀嚼していく。

もぐもぐ。

もぐもぐもぐ。

もぐもぐもぐもぐ――――



ありす「………………………………じゃなかった!?」


とろけきった脳が再構築されるまでにかかった時間、およそ5分。ついでに言うと、食べたイチゴ29個。小箱は空。


莉嘉「ありすちゃん、ごちそーさま?」

ありす「莉嘉さん!?」


気付くと、ありすの前には莉嘉が。

それどころか、場内に散らばっていたみりあたちも勢揃いし、周りを囲まれていた。


ありす「な……な……」


自らの現在置かれている状況を理解し、ありすはただ一言だけ、発する。


ありす「なんて、狡猾なトラップを……!」

晴「いやお前がアホなだけだよ」


魔王に操られているせいで、晴が事実にそぐわない辛辣な言葉を浴びせてきた。――と、ありすは自分に都合よく解釈した。



莉嘉「さ、ありすちゃん、もう逃げられないよ」

ありす「くっ……!」


この状況では転移呪文を唱えようにも、先ほどのように詠唱途中で確実に邪魔される。

同じ理由で他の呪文も唱えられず、戦っても勝ち目は無い。杖で叩くくらいしかできない。限りなく意味ない。

もう、手詰まりである。


莉嘉「ありすちゃんも一緒に、アタシたちの魔王様を――」



美嘉「莉嘉ぁーーーーーーーーーーーーっ!」



莉嘉・ありす『うぇ!?』


突然のその声に、ありすと莉嘉が同時にすっとんきょうな声を上げる。


そしてその場の全員が、その聞き覚えのある声がした方を振り向く――までもなく、声の主は莉嘉に勢いよく抱きついてきた。


美嘉「莉嘉っ!」

莉嘉「お姉ちゃん!?」

美嘉「やっと会えた! 良かった無事で! ホントに良かった!」

莉嘉「お、おね……ぐる、じ……」


肋骨を折ろうとしているかの如く、最愛の妹を強く強く抱きしめる姉。感動のあまり、妹のHPが着実に0へと近づいていることには気付いていない。


ありす「美嘉さんが来た……ということは!」


ハッと気付き、ありすは美嘉のやってきた方へと視線を移す。

そして視線の先の――ようやく来てくれた仲間たちに向けて、思いっきり文句を垂れた。



ありす「みなさん、遅いですよ!」

卯月「ごめん、ありすちゃんっ!」

未央「お待たせ!」

ちひろ「無事で何よりです」

※卯月が到着したので次からは卯月視点に戻ります


 *


卯月「良かった……ありすちゃんの元に辿り着けて」


ありすちゃんの姿を見つけて、私は安堵からほっと息を吐いた。

正直、ありすちゃんを見失った時はもう駄目かと思ったけど……。


ちひろ「どうです、私のちひろレーダーの性能は。ちゃんとありすちゃんの所まで来られたでしょう?」

卯月「はい。ありがとうございます、ちひろさん」


 *


―――数刻前


不覚にも隙をつかれて、ありすちゃんをさらわれてしまった私たち。

探そうにも手がかりが何も無く、美嘉ちゃんからお説教を受けていた。正座で。


美嘉「だから言ったでしょーが! 普通あのタイミングでありすちゃんから目を離す!? メタスラ倒して経験値ウッハウハとか考える!? アンタたち経験値とありすちゃんどっちが大事なの!?」

卯月「うぅ……ありすちゃんです」

未央「でも美嘉ねーだって、なんだかんだ言いつつも一緒にメタスラと戦ってたくせに……」

美嘉「うっ……そ、それは……」


未央ちゃんの指摘を受け、気まずそうにサッと視線を逸らす美嘉ちゃん。



未央「ほら自分でも後ろめたさ感じてるんじゃん!」

美嘉「う、うっさいよ! そ、そんなことより、どうにかしてありすちゃんを助けないとでしょ! さあ、みんなで方法を考えよー★」

未央「誤魔化した」

卯月「誤魔化したね」

ちひろ「誤魔化しましたね」


私たちはジト目で美嘉ちゃんを見つめる。よく考えたら美嘉ちゃんに、私たちに説教する権利は無かったんじゃ……。


美嘉「い、いいから良い方法考えて!」

卯月「と、言われても……」

未央「もうどうしようもないような……」

美嘉「いや諦め早すぎでしょ!」



ちひろ「どうやら、ここは導きの妖精ちっひの出番のようですね」

未央「ろくに導いてもらってない気がするけど」

卯月「ちひろさん、何か思いついたんですか?」

ちひろ「実はですね、さっきメタスラを倒して得た経験値で私はレベルアップし、新たなスキルを覚えたんですよ」

未央「経験値ってちひろさんにも入るの!?」

ちひろ「入りますよ。別枠で」

卯月「別枠って……ま、まあいいです。それで、その新しいスキルというのは?」

ちひろ「探索スキル、ちひろレーダーです!」

『ちひろレーダー?』


ちひろさんの口にした単語を、私たちはそのまま声に出した。



ちひろ「これは、どんなに離れていてもパーティメンバーの位置が分かるスキルなんです」

美嘉「それじゃ、ありすちゃんの居場所も?」

ちひろ「当然、分かります」

未央「そんな便利なのあるんだったら、もっと早く言ってよ!」

ちひろ「……別に忘れてたわけではないですよ?」


まるでさっきの美嘉ちゃんのように、ちひろさんがサッと視線を逸らした。


卯月「忘れてたんですね」

ちひろ「ちひろレーダー、スキャン開始!」

卯月「急に!?」

未央「無理矢理誤魔化した!」

美嘉「ホントに大丈夫なの……?」


 *

―――現在 リカデレラ城 城門前


ちひろレーダーの精度に若干の不安はあったものの、私たちはありすちゃんの元へと辿り着くことが出来た。……の、だけれど。


卯月「えっと、これどういう状況?」

未央「ありすちゃんだけじゃなくて、りかちーたちまでいるけど……みんなも、魔王の配下にさらわれたってこと?」


私たちが状況を把握できずにいると、なぜか莉嘉ちゃんたちに囲まれているありすちゃんが、大声で叫ぶ。


ありす「全員、魔王に操られてるんです! そして子供をさらっていたのは、他でもない莉嘉さんです!」

卯月・未央・美嘉『えぇ!?』


ありすちゃんの台詞に私と未央ちゃん、そして現在進行形で莉嘉ちゃんを抱きしめていた美嘉ちゃんが驚きの声を上げた。



ちひろ「……どうやら、確かにそのようですね」


ちひろさんも、ちひろアイで確認したらしい。


未央「うっそ、りかちーが……?」

卯月「一体どうして子供を……って、美嘉ちゃん抱きしめてないで離れて!」

美嘉「はっ!?」


私の声に従い、美嘉ちゃんは莉嘉ちゃんから体を離し、少し距離を取った。

そして困惑の表情で莉嘉ちゃんを見つめる。


美嘉「莉嘉、アンタ……い、今の話、本当なの?」

莉嘉「ぐ、ぐるじがった……。……ふ、ふふふっ、あははははっ! その通りだよ、お姉ちゃん☆」


莉嘉ちゃんは魔王に操られる前と変わらない、明るい笑みを私たちに向け――――衝撃の告白を言い放った。



莉嘉「アタシは魔王軍第3部隊【ちっちゃいちっちゃい幼女ちゃんたち(リトルシスターズ)】隊長! 城ヶ崎莉嘉☆」



そのあまりに衝撃的な告白に、私たちは、何も言葉を発することが出来なかった……。



驚愕のあまり――では、ない。少なくとも私は。そして多分、他のみんなも。

いや、その、驚いたからというのも、もちろんあるにはあるんだけど……なんだろう、ものすごくおかしな単語が聞こえた気がする。

微妙な空気の中、私たちを代表して莉嘉ちゃんの姉である美嘉ちゃんが、結んでいた口を開いた。


美嘉「……えっと、あのさ、莉嘉。ごめん、何の隊長って言った?」

莉嘉「だーかーらっ、魔王軍第3部隊!」

美嘉「あ、うん、そこは聞こえた。そこから先、聞かせてくれる?」

莉嘉「ちっちゃいちっちゃい幼女ちゃんたち(リトルシスターズ)!」

『何それ!?』


私たちは声を揃えて疑問をぶつけた。



莉嘉「ほら見て! ここにいるみんなが、アタシの部隊のメンバー!」


莉嘉ちゃんが指差すのは、今もありすちゃんを取り囲んでいる、346プロの小学生アイドルたち。


莉嘉「みりあちゃんも薫ちゃんも桃華ちゃんも――――みんなみんな、ちっちゃくてかわいいよ☆ ふひひ☆」


さっきの明るい笑みとは似ても似つかない醜悪な笑みを浮かべる莉嘉ちゃん。

うわぁ……。


美嘉「いやぁああああああああああああ莉嘉がキモチワルイぃいいいいいいいいいいい!」


変わり果てた妹の姿を目にし、美嘉ちゃんが悲しみの果てにむせび泣いている。

でもどうしてか、私は軽いデジャヴに襲われていた。今の莉嘉ちゃんの台詞、オリジナルの発言者が他にいたような……気のせいかな。

そして、そんなことを考えていた私の横で、未央ちゃんが姉妹に視線を巡らせたのちに呟いた。


未央「……妹は姉を見て育つ、か」

美嘉「それどういう意味!?」

はいはい作者投げた!

申し訳ありません。
エタる気はないとか調子こいたこと言いましたが、元々テキトーに書き始めたため、いくら考えても展開が思い浮かばない状況です。
ですが、これ以上放置するのもどうかと思うので、中途半端にはなりますが、ここでこのスレは終わりにしようと思います。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年08月20日 (日) 12:45:22   ID: IPjHunIs

中途半端でやめるゴミ野郎がSSなんて書いてんじゃねぇぞ?せめて最後までやり遂げろや雑魚が!

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