('A`)はベルリンの雨に打たれるようです (496)

《ベルリン放送、朝のニュースの時間がやって参りました。

深海棲艦の脅威が再び高まる中、大手旅行会社の株価が軒並み大幅に下落する事態が発生しており───》

《ZDFより新鮮な朝のニュースを放送します。

欧州大陸近海における深海棲艦側の小規模な襲撃はここ2週間で8件に上り、EU連合艦隊司令部では大規模攻勢に備えて大西洋上における戦力の増強を────》

《【Guten Morgen Deutschland】のお時間がやって参りました。司会のアンニー=スロムカがお届けします。

先日アメリカ、ロシア、日本の3カ国防共協定締結が正式に発表された件について、ヨコスカで第七艦隊提督の────》

《ドイチェ・ヴェレよりお知らせです。来月から開かれる欧州戦車道博覧会に先駆けて、毎朝5分【私の戦車道】のコーナーを───》

《アメリカのトソン=カーヴィル大統領は、東海岸防衛のためにも深海棲艦への対応をヨーロッパ諸国と連携し緊密に行っていくと声明を───》

《ダイオード=リーンウッド首相は、本日フランス大統領とロシアの東欧問題に関する対策を協議する予定で───》

《北ドイツ放送よりお知らせです。

ドイツ連邦刑事局は、ここ一年ほど北部地域にて活動を活発化させているバイカーギャング【デビル・ブレーメン】が、昨晩ノルデン方面へ大規模な移動をしていたという目撃証言があったと発表しました。

刑事局では【デビル・ブレーメン】と敵対組織による抗争が勃発する可能性を示唆し、住民になるべく外出を控えるよう勧告がでています》

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494212892

~('A`)はベルリンの雨に打たれるようです~






「当店は禁煙です」

('A`)「……あー、すまない」

何の気なしに取り出した煙草を、横から伸びてきた手がかすめ取る。
絶対零度の視線で口元にだけ笑みを貼り付けたウェイトレスに頭を下げると、彼女はツンッと顔を背けて足早にその場を去って行く。

('A`)「……Verdammt」

ウェイトレスが十分に離れた辺りで、聞こえないように小さく悪態をつく。仮にも軍人が情けない話だが、そもそも非が此方にある以上強く言えないのが現実だ。彼女はあくまで職務を全うしたに過ぎない。

('A`)「くたばれ禁煙法」

やり場のない怒りを、とりあえず10年前に施行された今世紀最悪の悪法にぶつけることにする。
まぁ10年前の段階では俺はまだ煙草のうまさを知らなかったわけだが、Marlboroがティーマスの次に掛け替えのない相棒となってしまった今は「喫煙者に対する人種差別」の深刻さを身を以て感じる日々だ。

('A`)「……朝飯食うか」

喫煙者の社会的地位を取り戻すにはどうすればよいか真剣に頭を悩ませつつ、厚焼きのベーコンをフォークに突き刺しスクランブルエッグに絡めつつ口に運ぶ。

ベルリン屈指の高級ホテル備え付けカフェだけあって、味は最高だった。


('A`)「………休暇、ですか?」

「ああ、明日から1週間だ」

それは、二日前の出来事。呼び出しを受けておっかなびっくり陸軍局へと出頭した俺に、眼鏡を掛けたいかにも頭が固そうな局員はそういって紙の入った封筒を突きつけてきた。

「アルカンタラマールでの大手柄への“報償”だよ。帰国から日が経ってしまい申し訳ないがね」

('A`)「また急な話ですね」

「君が大尉への昇進を素直に受けてりゃこの“急な話”を持ち出す必要も無かったさ」

嫌味を苦笑いでスルーし、封筒を開封。中に入っていた書類には休暇期間中も給与対象となること、加えて、休暇期間中の諸費用も陸軍から支給されることが書かれている。

('A`)「……こりゃ至れり尽くせりだ」

「2階級特進に見合う代替案だからね。ま、陸軍全体の話で言えばこっちの方が安上がりだから助かると言えば助かるさ」

局員はそう言って、受付の台に100ユーロ紙幣の束を三つ叩きつける。

「こっちはしめて二万ユーロの“休暇手当”だ。足りなくなった分は領収書を切っておけばそれも陸軍局から補填する。また使い切れなかった場合でも、手元に残った金の返済義務はない。こっちの一万ユーロは純粋なボーナスの方だな。これは休暇手当とは別だから、ここからの消費分は補填の範囲内だ。

何か質問は?」

('A`)「いや、特にない」

「ならその金持ってとっとと失せな。

よい休暇を、“英雄気取り”君」


さて、かくして俺は昇進を蹴り上層部に睨まれた見返りとして、1週間の素敵なバケーションを獲得した。

とは、いえ。

('A`)「……休暇は休暇で持て余すな」

彼女ナシ。
趣味ナシ。
友達ナシ……というほどではないが、休暇中に遊びに誘うような仲の奴はごく少数。

そのごく少数も、リスボンでの一件以降激増した深海棲艦襲撃の対応に逐われ激務の日々だ。貴重な休日を俺の退屈しのぎに付き合わせるような真似はしたくない。

結果、俺の手元には“特にすることがない10080分”という膨大な空白の時間だけが残った。

因みにこの内1440分は、割り当てられた部屋でルームサービスをつまみながらベットで寝転んでいたらいつの間にか消化されていた。

('A`)「……金はあるしな、うん。今日から適当にベルリンを回ってみるか」

('A`)

('A`)「ベルリンってどこ見りゃ良いんだ?」

休暇、マンドクセ。

「ベルリンの見所、でございますか」

('A`)「あぁ。多忙なところ申し訳ないんだが、頼む」

いちいち調べるのも億劫なので、年配のウェイターを一人呼び止めて尋ねることにする。相場より少し多めのチップを盆に置くと、目尻の皺をだらしなく緩めながら饒舌に答えてくれた。

「いつもならヨーロッパ・パークがやはり一番手に上がるのですが……ここ数日はあいにくの天気ですからな」

そう言ってテラスの外にちらりと視線をやる。今日も厚い雲が空を覆い、朝から盛んに雨水をアスファルトに叩きつけている。

「ブランデンブルク門など如何でしょう。今年で建設から326年になる歴史ある門ですが、雨の中のたたずまいもまた格別な趣がございます。

距離的にもここからそう遠くありません。タクシーなら2~3分、徒歩でも15分といったところですな」

('A`)「……なるほど、ね」

グランドスクールの頃に歴史学で最悪な成績を叩き出し続けていた俺にとって、そのブランデンブルク門とやらが積み重ねた326年の月日は“この天気に近づいたらさぞ土臭いだろうな”という感想を抱かせるだけだ。

此方の心情が伝わったらしく、ウェイターは「お気に召さないようですな」と言って苦笑いを浮かべた。

「確かに、今の若い人たちにはあまり愉快な場所とは言えないでしょうな。

しかし、同じドイツ人に紹介できるようなベルリンの見所というとなかなか思いつきませんなぁ」

('A`)「いや、そこは気にしないでくれ。元は田舎の出身だし、アビトゥーア(ドイツにおける高等教育受講の権利)を取得できず学園艦への乗船ができなかった落ちこぼれだ。

俺にとってはベルリンもニューヨークも変わらないよ、脳みそがラードでコテコテのアメリカ人に紹介する感じで大丈夫だ」

「なるほど。ではケンタッキーフライドチキンかステーキハウスが付近にあることは必須条件ですな。

……とまぁ冗談はさておきまして、今ならばパリ広場に行かれては?」

('A`)「パリ広場?」

どちらにせよブランデンブルク門も目にすることになりますがねと前置きした上で、ウェイターはどこからともなく一冊の手帳サイズの冊子を取り出し、机の上に置く。

表紙には“ドイツ戦車展覧会”と書かれ、やや装飾過多なその文字の下に突撃戦車A7V、ティーガーⅡ、レオパルト2の写真が並んでいる。

「来月の欧州道博覧会に先駆けて、ムンスター戦車博物館から借り出された保管車両がパリ広場に展示されているんですよ。

このドイツは戦車、そして戦車道と共に歩んできた国ですからね。ベルリン市の方でもかなり気合いを入れているみたいです。

なかなか壮観な光景でしたよ、ドイツ国内だけでなく欧州各国の戦車道ファンが朝から広場に詰めかけるぐらいの眺めですから」

そう言われ、今更ながらこのカフェが朝から大盛況な理由に合点がいった。
こいつらの大半はパリ広場に雁首揃えるドイツ戦車群が目的というわけか。

ぱらりと何の気なしに冊子を開けば、最初のページにはやたらと古くさくてでかい門──おそらくブラなんとか門──を背景に、その門に向かってずらっと2列縦隊で並ぶ戦車隊の写真が見開きで載っている。
なるほど、砲や機銃を斜め上に向けて整列する様は、王に仕える歴戦の騎士達が剣を掲げ忠誠の誓いを立てている姿を思い起こさせる。

例え戦車道に微塵も興味が無い人間でも、少なからず高揚を覚えそうな光景だ。

他にも、近くのホテルやショッピングモールでTBL───タンク・ブンデス・リーガの歴代優勝チームパネル展や強豪学園艦による戦車の実演操作イベント、近年国際試合でめざましい結果を上げつつある日本の戦車道特集、果てには陸軍で公式に利用される戦車シミュレーターの体験など催しはかなり充実している。
……シミュレーターまで借り出されてるって事は陸軍も一枚噛んでるのか。

世界に冠たるドイツ戦車道のアピールの場とあって、どうも戦車道連盟も鼻息が荒い。ここ数年海の女神にばかり賞賛が集まった結果、陸の女神の崇拝者達が欲求不満気味らしい。

('A`)(しかし、“パリ広場”ねぇ……)

ふと、アルカンタラマールで出会った巻き毛の戦車兵を思い出す。

アイツとはその後顔を合わせぬまま帰国となったが、今はどこで何をしているのだろうか。






ξ゚⊿゚)ξ「お話中にごめんなさい。私にもそのパリ広場?への行き方を教えてほしいのだけれど」

('A`)

「おや、マドモアゼル。戦車道に興味が?」

ξ゚⊿゚)ξ「興味というか関係者というか……ベルリンって大して見るところも無さそうだし、暇つぶしになるなら寄ってみようかなって」

('A`)

「はっはっはっ、これは手厳しい。ですが、戦車道と何らかの関わりがある方なら退屈しないことは保証させていただきます。

これを機に、ベルリンへの印象も変えていただければ幸いですが」

ξ゚⊿゚)ξ「善処はするけどそれは私次第ね、えぇ」

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「あら」

('A`)






ξ゚⊿゚)ξノ「よっす久しぶり、元気してた?」

('A`)「軽くね?」


《ヴェルヘルム=スハーフェン鎮守府にて行われた定例記者会見の中で、マモン元帥は海上防衛網の盤石性を強調。深海棲艦側はリスボン攻撃の失敗後勢いを欠いている状態だと説明し───》

《ポルトガル政府は本日、日本のミナミ首相に正式に艦娘の派遣を要請することを決定したと発表───》

《えー、駅構内の皆様にお知らせ致します。マリーエンハフェ~ノルデン間の列車は現在貨物車の脱線が原因で運休となっており───》

《此方レーベレヒト=マース、該当エリアの捜索を完了。未だに捕捉できない、引き続き───》

《台頭著しい日本の戦車道界で、一人の少女の活躍が脚光を浴びています。

国から廃艦を突きつけられた学園艦を救ったその少女は、まさしく現代のジャンヌ=ダルクと言っても過言ではなく───》

《あぁ、そうさ。あのどら息子は集会があるとかいって昨日の夜から家を空けてるさね!はっ、あいつは年がら年中遊び回ることしか考えてないからね!

どうせまたバイク仲間とそこらを走り回ってるだろうよ、電話にも一向に───》

《此方51号車、高速道路沿いで【デビル・ブレーメン】のメンバーと思われる男を一人確保した。

酷く錯乱している、応援と救急車を急ぎで寄越してくれ。

……女?女がいったいどうしたってんだ。それよりお前さん、バイクはどうした?他のメンバーはどこにいるんだ?》

ξ゚⊿゚)ξ「改めて、フランス陸軍のツン=デレよ。

階級は先日昇格して中尉になったわ。四日前からミュルハイムに配属されているの、よろしく」

('A`)「ドイツ連邦陸軍第11歩兵連隊所属のドク=マントイフェルだ、階級は少尉。

リスボンの時はアンタ達のおかげで助かった」

ξ゚⊿゚)ξ「それはこっちの台詞よ。貴方が声を掛けてくれなければ私は今頃2階級特進だったわね。

後、当然のことながらそちらのBismarck zewiにも感謝してる」

('A`)「もしも会う機会ができれば伝えるよ………しかし、ミュルハイムね」

多少フランス訛りがあるものの、非常に流暢なドイツ語に合点がいった。

ミュルハイムには欧州合同軍の一角であるドイツ・フランス合同旅団が駐屯している。
ドイツ語の取得も趣味や酔狂ではなく必要に駆られてのことだろう。

('A`)「それにしてもたった四日でそのレベルか、凄いな」

ξ゚⊿゚)ξ「あぁ、配属が四日前ってだけで辞令自体はもっと前から貰ってたのよ。ドイツ語の勉強も別件もあって二ヶ月前ぐらいから既に始めてたし」

ツンはコーヒーを飲み干しながらそう言って肩を竦める。
……いや、二ヶ月でもここまで完璧にできるか?ドイツ語って他の国の奴等からしたら難しいって聞いたことあるんだが。

ξ-⊿-)ξ「一応リスボンの時点で日常会話ぐらいならこなせはしたけど、あの急場だと表現のすれ違い一つでお陀仏の可能性もあったしね。

だからやりとりはより使い慣れている英語でやらせて貰ったの」

つまり英語も本来ならもうちょっと高いレベルで扱えると。なるほど、合同軍に派遣されるだけあってかなり優秀なようだ。

('A`)「………あー、ところで中尉殿」

ξ゚⊿゚)ξ「……急に他人行儀ね。何?」

('A`)「何故自然な形で相席を?」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

依然として俺の目の前の席に座りながら、ツンは何故か空になったコーヒーカップを口元に持っていき傾けた。

フランス式のテーブルマナーだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ「……ほら、あれよ。お店混んでるから、ね?見ず知らずの他人と相席になってもアレだし」

('A`)「……」

言われて店内を見回す。確かに朝の八時半にしては異例の人入りなのは確かだが、空席は皆無じゃない。窓際のカウンター席は寧ろ若干の余裕すらある。

ξ゚⊿゚)ξ「それに貴方と私の仲で挨拶無しって言うのも変だしほら助けて貰った御礼もしっかり言えてなかったし何より見知らぬ土地で見知った顔に会えたから少し安心したというかまぁそういうね深い意味はないのよ別に」

一時間弱同じ戦車に乗っていたことが“深い仲”と言えるかどうかは議論の余地があるだろ間違いなく。
しかしやけに早口だな、やはり取得期間が短かった分ドイツ語は慣れない面もあるのか。

ξ゚⊿゚)ξ、「その……相席が迷惑って事なら移動するけど」

('A`)「疑問に思っただけで別に迷惑じゃない。そっちが構わないなら俺はこのままでいい」

ξ*゚⊿゚)ξ「!」

ξ;*゚⊿゚)ξ「そ、そう!な、ならこのまま相席でいいわね!

別に私はどっちでもいいけど!どっちでもいいけど!!」

('A`;)「……そうか」

15分にも満たない時間の中で、俺は一つ学ぶ。

目の前のフランス人女性は、割と変な奴らしい。

秋口の空模様のように表情を安定させないツンを面食らって眺めつつコーヒーカップを持ち上げるが、いやに軽い。覗いてみるとカップにはなにも入っていなかった。

ドイツには空のコーヒーカップに口吻をする習慣はないので、通りすがったウエイトレスにお代わりを注文する。

ξ゚⊿゚)ξ「貴方、この後予定はないのね?」

そう尋ねつつもう一度カップを口元に持って行こうとしたツンは、一瞬眼を見開いてカップの中を覗き込んだ後「私にもお代わりを」とウェイトレスに手元のそれを差し出す。
……はて、ではさっきの動きはいったい何だったのだろうか。

('A`)「というか待て、何を根拠に決めつけてるんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「予定のある人間がウェイター呼び止めてわざわざベルリンの見所なんて聞くかしらね?」

('A`)「……」

ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、口にコーヒーと苦虫を含んで黙り込む。単に変な奴というわけではなく、存外鋭い。

('A`)「軍人やめて探偵でも始めたらどうだ?女エルキュール=ポワロになれるぜ」

ξ-⊿-)ξ「よく勘違いされるけど、ポワロはフランス語圏に住んでるだけでベルギー人よ。それに私、子供の頃あこがれたのはアルセーヌ=ルパンの方だし」

ああ言えばこう言う奴だ。

('A`)「仰るとおり、何も特に決めてないよ。というかドイツ人でありながらベルリンに来たこと自体数えるほどしかないな」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「あー………んっん。その、私はフランス広場の戦車道展に行こうと思ってるんだけど、良かったら貴方も一緒に来る?」

('A`)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「ほ、ほら。それなりに扱えるようになったとはいえやっぱり私のドイツ語なんて付け焼き刃だし?ベルリンも私は完全に初めてだし?その、もし行くところがないなら一緒に回ってくれないかしら……なんて……」

('A`)「別に構わんが、エスコートといえるような上質な案内はできなi」

ξ*゚⊿゚)ξ「そ、そう!!なら仕方ないから貴方にエスコートされてあげるわ!

別にどっちでも良かったけど!!どっちでも良かったけど!!」

('A`;)「……」

どっちでも良かったのなら、一人でさっさとフランス広場に行けばよかったんじゃないだろうか。



《何度も言うがこんなこと陸軍の連中にも上にも知られるわけにはいかんのだ!!類を見ない大失態だぞ!?何としても内々に処理を───》

《軍のヘリがやたらと飛んでるな……また深海棲艦か?

あぁいや、こっちの話だ。そろそろ家を出るから駅で待ち合わせを───》

《ドイツ中央は今日も厚い雲に覆われ、ベルリンを中心に強い雨が────》

《先年から続くウクライナ問題についてEU加盟各国は引き続きロシアに対応を要請していますが、ロシア政府は深海棲艦との戦闘激化を理由に返事を引き延ばし───》

《BFM-TVよりニュースです。フランス海軍は我が国唯一の艦娘であるコマンダン・テストの配備数が昨日丁度40隻目になったと発表。新たなコマンダン・テストは深海棲艦の本土上陸への備えとして内地に配備される予定で────》

《France 24から臨時ニュースをお伝えします。つい先ほど、フランス・ドイツ国境付近のA-320番道路にて大規模な陥没・崩落事故が発生した模様です。

死傷者についての情報はまだ入っておらず、フランス陸軍・消防・警察が急行中とのこと。

付近の住人の皆様は、決して現場に近づかないようにしてください》






あまり早く出過ぎてしまってもそれだけ雨に多く当たることになると考え、1時間ほどカフェテリアで潰してからホテルを後にする。

ぱらりと傘を開いて一歩外に踏み出す。大量の雨粒がナイロン生地の上で弾け、たくさんの子供が裸足で走り回っているようなバタバタという音が耳朶を打った。

フランス広場までの道中を、並んで歩きながら他愛のない会話で潰す。会話と言っても、ほとんどはツンが一方的に喋り俺は軽く相づちを打つ程度だが。

ξ゚⊿゚)ξ「にしても、このご時世によく軍属で一週間も休暇なんて取れたわね」

('A`)「そりゃドイツ陸軍上層部のありがたーーいご厚意………と言いたいところだが、世間体半分、もう半分はある種の嫌がらせだろうな」

深海棲艦の襲撃が続き、陸海空軍全てが厳戒態勢を維持している欧州にあって一人だけ優雅に一週間バカンス。特に最前線で命がけの日々を送る海軍並びに艦娘からしたら、深海棲艦より先に俺をぶち殺したくなるような案件だろう。

陸軍にしたって、決して良い気持ちがするものとは思えない。ジョルジュやビロードやミルナ中尉、ティーマスのように理解してくれている(と思いたい)面々はともかく、話だけを聞いた奴等からすれば俺は敵前逃亡した臆病者にしか見えない。
 _,
ξ゚⊿゚)ξ「……特に何もしてないのに罰を与えるの?ドイツって割と変な国ね」

ツンはそう言って首をひねったが、上層部の当たりが異様に悪い理由は察しがついている。

('A`)「広告塔がほしかった陸軍の期待に添わなかった結果だな」

艦娘の実装で深海棲艦が大西洋に叩き出されて以来、陸軍の存在感は海軍に比べてあからさまに薄くなった。ポルトガルでの一件は久しぶりのアピールの場だったが、それもBismarck zwei という“救世主”の登場にかっさらわれた。

人類の平和よりも自分たちの権力の方が大事らしい上層部は、「陸軍の功績」を大々的に発表するために俺に白羽の矢を立てたというわけだ。そんなものに参加させられたくなかったので断ったが。

小耳に挟んだ話だが、将軍の一人は「いっそ名誉の戦死を遂げていてくれていた方が好き勝手に脚色できたのに」とこぼしたらしい。


ξ゚⊿゚)ξ「……陸海軍の啀み合いはどこも同じってわけね」

('A`)「やっぱりフランスも酷いのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「貴方たちよりもね。

ウチの海軍が実装している艦娘はコマンダン・テストだけ、数もようやく40隻に過ぎない。それで艦娘の数を増やしたい海軍と、増やされたら困る陸軍が泥沼の主導権争いしてるわ」

ツンはそう言いながら、心底不快げに息を吐く。

ξ-⊿-)ξ「しかもその陸軍の中でも、海軍との協調も必要だとする穏健派とこれを機に陸軍の指導力を徹底的に強化しようとする強硬派が権力争いの真っ最中よ」

('A`)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「………私ね、所属する部隊の隊長に聞かれたのよ。君は“どっちの派閥に入る気だ”って。

今は国のために戦っているので、どっちにも入りませんって答えたら………」

('A`)「ジャガイモとソーセージの国に飛ばされた、と」

::ξ* ⊿ )ξ::「ゴフッ………そ、その通りだけど、人が真面目な話してるときに笑わせに来るのやめなさいよ」

……優秀さを買われての抜擢ではなく、中央から遠ざけるための左遷だったと。

われわれの真の国籍は人類である────確か、H.G.ウェールズの言葉だったか。

“深海棲艦”という共通の脅威を前にしても、【人類共和国】の設立は残念ながら難しいようだ。


ヤパーヌ製の高性能防水傘さえあまり役に立たない大雨の中で、しかしながらフランス広場は傘を広げた多くの人でごった返す。

('A`)「………おぉ」

そして、その人混みが納得できる程度には確かに“その眺め”は荘厳だった。

ブランデンブルク門へ向かって伸びる石畳の道路、その両脇にパンフレットと全く同じ構図で並ぶ歴代のドイツ軍戦車。

最も手前にはドイツ軍が世界に誇る、“最強の戦車”ケーニッヒ・ティーガーと第一次大戦時にの最初の戦車であるA7V。この二台を先頭に、優に30は越えるであろう戦車・軽戦車・自走砲が門へ向かって鎮座する。
最奥、門のすぐ手前では超重量戦車マウスとカール自走臼砲が巨躯を晒し、あえての演出なのか砲を広場へ入ってくる人々に向けていた。

門の上に鎮座する、おそらく大昔の王様と思われる馬車に乗った銅像の存在も併せれば、雨靄の中に悠然と佇む戦車群はまさに“精強な騎士団の整列”だった。

会場周囲は万一の車両の誤作動やテロを警戒してか、ドイツ陸軍の顔も知らぬ同僚達が一個小隊ほど警戒の任にあたっている。
とはいえ景観への配慮からか身につけているのは全員Reichswehr時代の軍服だ。邪魔になるどころか彼らの存在もまたこの眺めの重厚さを増すのに一役買っていた。

ξ*゚⊿゚)ξ「────Tr?s bien」

隣で、恍惚とした表情を浮かべてツンが呟く。

TBLの試合をニュースで追う程度の関心でしかない俺でもこの光景には圧倒されているのだから、実際に戦車と関わり愛着を持っている人間からすれば例え他国のものであっても相当な感動を受けるに違いない。

ξ*゚⊿゚)ξ「アーーー……アーーーっ!!

ドク、もうちょい近くで見るわよ!行くわよ!!」

('A`)「ぉK、落ち着け。この雨の中ですっ転んだら悲惨だぞ」

興奮状態のツンにほとんど引きずられるようにして、俺は門の方へと向かう。正直一緒に居るのが少し小っ恥ずかしくなるぐらいのはしゃぎようだが、幸いどいつもこいつも居並ぶ戦車達に釘付けだ。

まぁ、せっかく来たんだし少し見て回ろう。そう考え直し、顔を上げ────








─────眼が、合った。




('A`)「…………」

広場を埋め尽くす人混みの中で、

“それ”は。

“そいつ”は。

ただ一人、俺たちを見据えていた。

『…………』

土砂降りの中で傘も差さず、佇む影。

ブランデンブルク門の、丁度真下辺り。そこから向けられた赤い瞳は、間違いなく俺たちを───俺を見据えている。

(;'A`)「………」

一時期軍内でも話題になったバイカーギャングのエンブレムがついた革のジャケットを着ているせいで、一目見ただけではただの人間にしか見えない。実際周囲は大雨の中で傘を差さずにいるそいつを奇異の目線でちらりと見た後避けこそすれ、誰も騒ぎ立てはしない。

それでも、俺には解った。

漆喰で塗り固めたような白い肌。

対照的に、血のように紅い双眸。

“奴等”にしては滑らかで自然な笑みを浮かべた、口元。

ヤァ、マタ会ッタネ。

まるでそう言いたげな笑みを浮かべて、奴は────重巡リ級eliteは、挨拶するように左手をひょいと上げる。

腕周りに、艤装が展開された。

(;'A`)「────伏せろ!!」

ξ;゚⊿゚)ξそ「きゃあっ!?」

傘を投げ捨て、ツンに飛びつき、地面に転がる。





─────砲声。

轟音と共に、ブランデンブルク門が崩落した。

お昼休み中に書きため第1波。第二波は夜辺りに。

今回かつてない(私にしては)長丁場になる予定ですが、お付き合いいただければ幸いです

《あー……此方51号車。現場に到着したが酷い有様だ、死体がそこら中に───》

《此方43号車、デビル・ブレーメンのユニフォームを着てバイクで走行中の一団を捕捉。これより追せk

《42号車より43号車、状況を報告せよ!それと今の爆発音はなんだ!?おい、43号車───》

《プリンツ・オイゲンよりHQ、観測機が奴等を捕捉しました、24号道路です……タ、タ級elite2隻!?HQ、単艦での対処は困難、至急増援を────》

《ば、ば、ば、バイクに乗った女が突然ぶっ放してきたと思ったらパトカーが吹き飛んじまったんだよ!!ありゃイスラムのテロリストにちげえねぇ、早く来て────》

《元帥、陸軍局から問い合わせです!民間から深海棲艦が現れたという通報が入ったと────》

《誤情報だと言っておけ!何度も言うがこのことは奴等にバレては───》

《げ、元帥!!ベルリンに、ベルリンに深海棲艦が!!》

《……………何だと?》

《ラベ川よりハンブルクにル級4体の上陸が確認されました!民間から通報があった模様!》

《ハノーファー北部、七番道路にて陥没事故発生!無人偵察機が急行していますがおそらく深海棲艦による攻撃です!!》

《ヴンストルフ空軍基地に【Helm】による大規模な空襲を確認!!同基地よりグラーフ・ツェッペリンの出撃要請が出ています!!》

《ネルフェニッヒ航空基地からも要請が到着!ル級による砲撃も行われているとのこと!!》

《イェーファー空軍基地からも同様の要請あり!》

《何が、何が起きている……?》

《France 24より緊急放送です。A-320番道路にて、艦隊規模の深海棲艦の出現が確認されました。現在陸軍が迎撃を敢行すると同時に、警察と連携して避難誘導を各地で行っています。フランス東部の皆様は、誘導に従い速やかに避難してください》

《北ドイツ放送より北部住民に緊急放送をお送りします。複数地域に深海棲艦が出現したという通報が陸軍・海軍局に入りました。最低限の身の回りの物のみ持って迅速な行動を心がけて下さい》

《ZDFより特別報道を行います。

この映像が見えますでしょうか、ドイツ各地に深海棲艦の艦載機が襲来しております。街に容赦なく爆弾の雨が降り注いでいます。人が、建物が、次々となぎ倒されていきます》

《ドイツ海軍から、深海棲艦の本土上陸に関する公式のコメントは未だにありません。複数箇所で艦娘と海軍陸戦隊、陸軍が展開、深海棲艦への反撃と遅滞を行っている模様です》

《既に幾つかの地方支局と連絡が取れない状態になっており、ドイツ国内は混乱の極みに達しています》

《BBCから衝撃の映像をお届けします。ドイツ・フランス両国で深海棲艦の大規模な内陸侵攻が確認されました、ご覧下さい、ル級が砲撃を放ちながら道路を闊歩しています》

《オランダ政府は陸軍を国境線へ出撃させたと発表、同時に国民に、政府公式発表を絶対に聞き逃さないようにと注意喚起のコメントを添えています》

《CNNドイツ支局との連絡は途絶しており、フランス支局も混乱状態で正確な情報が入ってこない状況です。

ホワイトハウスは在独アメリカ人の保護と、友好国であるフランス・ドイツの救援に最大限力を尽くすと談話を発表。

大西洋上で深海棲艦の警戒に当たらせていた第六艦隊をイギリス海峡に派遣、ドイツ・フランス救援作戦を発動する模様です》


.




真下から門に向かって放たれた、重巡洋艦の主砲撃と同程度の威力を持つ一撃。積み重ねた300年の歴史とやらは、その前にはあまりにも無力だ。

門は上部中央を破砕され、両断状態となった支柱は音を立てて崩れていく。

そして────“真下からの砲撃”によって上空に撃ち上げられるかたちとなった門の残骸が、迫撃砲弾のような軌道で周辺へと降り注いだ。

「────えっ」

「……は?何?うs」

ツンを庇って地面に伏せる俺の周りで、事態を飲み込めぬまま石の弾丸に人間が叩きつぶされるしめった音がいくつも雨音をかき消して聞こえてくる。噎せ返るような血の臭いが、一瞬で広場に充満した。

ξ;゚⊿゚)ξ「……ドク、いったい何が」

(#'A`)「逃げるぞ!!立て!!」

ξ;゚⊿゚)ξそ「あ、えっ?」

瓦礫の飛翔が納まったのを確認し、まだ理解が追いついていないツンの腕を引いて立ち上がらせる。

走り出しながら背後を見やると、リ級eliteはニヤニヤとからかうように笑いながら此方に腕を向けていた。

(;'A`)「────皆、散れーーーーーーーーっ!!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「きゃあっ!?」

未だにボケッと突っ立っている広場の奴等に向かって絶叫しつつ、ツンを抱きかかえて先ほど落下してきていた瓦礫の影へと転がり込む。下敷きになっている紅い染みと白い脂肪、それから左手が眼に入ったが気にしている暇はない。

『♪』

熱と鉄の塊が、リ級eliteの右腕艤装から吐き出される。第4世代戦闘機の装甲をも引きちぎる威力と速度を誇る弾丸が、雨粒を切り裂いて先ほどまで俺たちが居た場所を駆け抜けていった。

「ふぁっ」

「ああああああああああえあっ!!!!?」

叫び声に反応した幾らかは、俺の後に続いて物陰に飛び込み避けられたようだ。だが、そうできなかった奴の方が遙かに多い。

ξ;゚⊿゚)ξ「っ」

射線上の人体が引き裂かれ、砕かれ、意思がある人間から物言わぬ肉塊へと姿を変えて路上に横たわる。響き渡る断末魔に腕の中でツンの身体がびくりと震えた。

「撃て、撃て!!」

「早く広場の外に逃げろ!!巻き込まれるぞ、急げ!!」

「此方フランス広場、敵襲を受けている!至急増援を派遣してくれ!!」

機銃掃射が納まると同時に、広場のあちこちで銃声が幾つも上がる。

先ほどの瓦礫の雨と掃射から生き残った警備担当のドイツ兵達が、H&K G36Cを構えリ級eliteに向けて引き金を引いていた。同時に、広場の外からも民間人に逃げるよう促しつつ20名あまりがなだれ込んでくる。

誰もが、死を覚悟した顔つきで。

('A`)「行くぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「……私たちも戦」

('A`)「俺たちがあっちに入っても意味はない」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

あえて、感情を殺して平坦な声で答える。

事実、俺たちが彼らに加わったところでできることはない。俺もツンも武器を持っていないし、もし持っていたとして「歩く重巡洋艦の装甲」を歩兵の携行火器ごときで抜けるはずもない。

そして彼らが生を捨ててまで稼げる時間も、あのリ級が最大限に「遊ぶ」であろう事を考慮に入れても15分あれば十分な“健闘”だ。

ならばせめて、彼らの意思を少しでも無駄にしないように選択する。

('A`)「急いでここから離れろ!!東だ、東へ向かえ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「もし怪我人が居たら手の空いてる人で運んで!押さないで、押し合うとかえって逃げ足が遅れるわよ!!」

ようやく現状を認識して会場出口に恐慌状態で殺到しようとする人の波を誘導し、パニックや怪我で動けない奴等を立たせ、促し、リ級から遠ざけていく。

('A`)「こっちだ、早く!!」

座り込んで泣き喚く子供を抱え上げ、その母親と思わしき女の背を押し進ませる。

一瞬、背後に視線を向けた。

「………」

警備隊の指揮官と目が合う。彼は微笑み、ありがとうとでも言いたげに此方に向かってサムズアップした。

「────Los, Los, Los!!」

突撃の号令、アサルトライフルを構えた兵士達が弾丸を放ちながらリ級との距離を詰めていく。俺は彼らに背を向け、母親の背中を先ほどより強く押す。

指揮官の右手薬指に輝いていた指輪の存在を、無理やり脳内から追い出す。

やがて、H&K G36Cのそれよりも遙かに重苦しい銃声が後ろで鳴り響いた。

「おい見ろ!陸軍の援軍だ!!」

「頼むぞ、あいつをやっつけてくれ!!」

広場を後にしてほんの数分。ベルリン大聖堂──“敬虔なる信徒”だった両親のおかげで、俺が唯一明確に認識しているベルリンの建造物──の前に差し掛かった辺りで、プーマ装甲戦闘車三両とすれ違う。
周囲の人々は安堵の息と共に彼らに歓声を送り、程なくして広場から機関砲の軽快な発射音が聞こえてくるとそれは更に大きくなった。

俺とツンを除いての話だが。

ξ゚⊿゚)ξ「さ、後は陸軍がきっとなんとかしてくれるわ!私たちは今のうちに逃げましょう!」

('A`)「ここなんてまだまだ奴の射程圏だ、流れ弾が飛んできたら元も子もないぞ!!」

彼らのおかげで恐慌が治まってくれたのは幸いなので、わざわざ事実は告げない。だが、相手は「歩く戦艦」だ。機関砲で障壁を抜ける相手ではない。

副兵装のスパイクLR対戦車ミサイルなら或いはダメージを与えられるかも知れないが、それも「当たれば」。

要は、時間稼ぎが「何分延ばせるか」の問題だ。

ξ゚⊿゚)ξ「……それで、どこに誘導する気?」

('A`)「………まずは東だ。あくまでも“見る限り”だが、他に安全な方角はない」

小声で問いかけてきたツンにそう返しながら、俺は改めて辺りを見回した。


('A`)「………クソッ」

───やはり、見直したところで黒煙が上がっている箇所がフランス広場だけではないという事実は変わらなかった。

西でも、北でも、南でも、まるで空の黒雲が地面から立ち上っているのではと錯覚するほどに。

太く黒い煙の柱が天へ昇っていく。

幾筋も、幾筋も、根本にオレンジ色の炎をちらつかせながら。

警察車両や救急車のサイレンが、或いは市民に避難を促す役所の放送が、風に乗って聞こえてくる。それらの幾つかが、爆発音の後に不自然に途切れた。

今、この街で何が起きているのか───グランド・スクールに入りたての子供でも解る簡単なクイズだ。

('A`)「黒煙が上がってないってのもそうだが、実際こっちはプーマが走ってきた方角でもある。少なくとも、陸軍がそれなりの規模で防衛線を展開しているはずだ」

ξ゚⊿゚)ξ「展開している“はず”、ね……」

そう、100%ではない。プーマが東からやってきた理由がたまたまである可能性も、俺たちが深海棲艦共によって罠に誘い込まれている可能性も十分にあり得る。

それでも、他に選択肢がないのも確かなことだ。

ξ-⊿-)ξ-3「ま、あんたの予想が当たることを神にでも祈りましょうか」

('A`)「あぁ、祈るのは勝手だがそいつに捧げるのはやめといた方が良いぞ」

ツンも、逃げ道が限定されていることは理解している。肩を竦めながら賛同してくれた彼女への感謝から、俺は一つだけ忠告しておくことにした。

('A`)「どんなに必死に祈っても、あいつらが応えてくれることなんて滅多にないさ。

お宅のところのジャンヌ=ダルクだって、最後には見捨てられただろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「………あんた、友達少なかったでしょ」

('A`)「何で過去形なんだ?現在進行形で少ないぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何で自慢気に胸張ってるのよ………」


.








レヒフェルト航空基地の滑走路に、次々とUH-1/D?イロコイが着陸していく。

機内から降り立つ兵士達も、それを迎える側も一様に表情は暗く険しい。彼らの多くはベルリンや、或いは自身の故郷が────即ち祖国ドイツが現在どのような状況下を正確に認識していた。更に言えば、この事態が半ば“人災である”という点にも、一部の兵士達は気づいていた。

(?゚д゚?)「…………やはり、そうか」

〈::゚-゚〉「あぁ、完全なヒューマン・エラーだよ」

早々に滑走路を後にし、ブリーフィングルームへ直行していたミルナ=コンツィもまた、“勘づいていた”内の一人だ。彼の予測は、廊下で一緒になった同僚からの申告によって“事実”にたった今変わった。

〈::゚-゚〉「警戒網をかいくぐったヒト型の深海棲艦複数体が沿岸部から国内に侵入していた可能性は、海軍は昨日の内に既に把握していたそうだ。

ただ、問題が発覚すれば自分のキャリアに傷がつくとマモン元帥が現場の艦娘と提督達に箝口令を敷いてね。極秘に見つけ出して始末するつもりだったようだが、結果はご覧の有様さ」

(?゚д゚?)「そこまで正確な情報が入ってるとなると、エラーはこっち側にも責がありそうだな」

〈::゚-゚〉「当然。私たちの上層部は、海軍が陸戦隊や艦娘を内陸に動かしていることに早い段階で気づいていた。ただ、彼らの愉快な思考回路はその光景を見て“国家と国民の危機”ではなく“海軍を追いおとすチャンス”だと考えた。

彼らは、海軍の失敗がより致命的なものになるまで泳がせておくことにした」

(?゚д゚?)「…………そして、陸海が予想してたよりも遙かに多くの深海棲艦が入り込んでいた結果、通報も民間への警報も戦力の編成も何もかも後手に回ってこのザマか」

ミルナは意図的に、深く深くため息をつく。そうして落ち着いておかないと、彼はまず部下達にコブレンツの陸軍指揮司令部への攻撃を命じかねなかったからだ。

( ゚д゚ )「それで、核爆弾の方は?」

〈::゚-゚〉「在独米軍が回収済みだ。ビューヒェルのB-61は全弾深海棲艦の襲撃前に移送を完了した」

ミルナの問いかけに、イッシ=ストーシュル陸軍少佐は即座に答えつつ皮肉な響きを声に含ませた。

〈::゚-゚〉「かの国の軍が我々ほどお花畑な脳みそは持ってなかったのは幸いだな。海軍の動きがおかしいことに気づいた時点で、米軍の上層部は緊急時に備え核の運搬用意をさせていたらしい。

ホントに、迅速な対応には感謝してもしきれない」

( ゚д゚ )「全くだ」

アメリカ軍の管理下、ドイツ国内で唯一核兵器が配備されているビューヒェル航空基地。
目と鼻の先であるネルフェニッヒが襲撃されたと聞いたとき、ドイツ軍の誰もが“最悪の事態”が頭を過ぎり顔色を無くした。

一国の軍事組織としては赤っ恥以外の何者でも無いが、恥か核爆発かを選択するならどんな内容であろうと前者一択だ。

( ゚д゚ )「戦力の再編状況は?」

〈::゚-゚〉「当たり前だが艦娘の集結はほとんどできていない。主要戦力は北部沿岸に居たわけだが、最早南北を繋ぐ交通網は壊滅状態だ。ヴェルヘルム=スハーフェンの司令府とは連絡こそついているが、機能はほぼ停止している。

艦娘どころの話じゃない、陸軍戦力さえ集結が完了したのはようやく30%だぞ。

本当に、上のアホ共が権力争いごっこに夢中になった挙げ句がこれだ」

ほとんど蹴破るようにして、イッシはブリーフィングルームの扉を開ける。途端廊下にはコンソールを叩く音や通信を試みるオペレーターの声が溢れかえるが、彼女はミルナを連れて脇目も振らずに奥の机へ直進した。

〈::゚-゚〉「大佐、戻りました」









(`∠´)「あぁ、待っていた」

その男の容姿を一言で言い表すなら、“南部戦線帰りのシャーロック=ホームズ”だろうか。

オールバックでまとまった黒髪に、細く鋭い眼光。肌はたたき上げの軍人らしく日に焼け、幾つもの小さな傷が刻まれている。
6フィートと少しの長身は一見すると細く頼りないが、軍服の下に鋼のような鍛え抜かれた筋肉が眠っていることが覗えた。

特に目につくのは鼻で、お伽話に出てくる魔女の顔にうってつけなほど見事な鉤鼻である。

足を組んで机に座るその男の姿を見て、ミルナは思わず襟を正す。

出世という物に興味が無く軍上層部の人物相関に疎いミルナでも、その男のことは知っていた。否、ドイツに住まう人間ならば、“知っていなければいけない”人物だ。

(`∠´)「初めましてミルナ=コンツィ中尉。ベル=ラインフェルトだ」

(?゚д゚?)「存じ上げています、ラインフェルト大佐。お目にかかれて光栄です」

差し出された手を握り返すとき、震えが走らないようにするのに苦労した。

ルール攻防戦、ラベ川封鎖作戦、アムステルダム救援戦など、艦娘のヨーロッパ配備前にドイツ軍が携わった主要な深海棲艦との“陸戦”。

そのほとんどに参戦し、内陸浸透の危機を幾度となく跳ね返した「21世紀のマンシュタイン」、それがベル=ラインフェルトだ。

同時に、艦娘の配備後に泥沼の権力闘争を繰り広げる陸海両上層部を痛烈に批判して形だけの昇格で閑職に追いやられた「問題児」でもあるが。

(?゚д゚?)「大佐が何故ここに?確か交流武官としてイタリアに派遣されていたはずでは」

(`∠´)「戦車道展での舞台挨拶を押しつけられてしまってな、たまたま帰国したところにこの騒動が起きたというわけだ。事態収拾のために、今から私が指揮を執る」

(?゚д゚?)「それは心強い。……しかし、状況が状況というのもありますがそれを差し引いてもよく上があっさりと許可しましたね」

〈::゚-゚〉「あぁ、上層部はこのことを知らない」

(?゚д゚?)「は?」

〈::゚-゚〉「いや、ほら。クソバカが現場に介入するとめちゃくtゲフンゲフン……んっん。何せ我々ドイツ軍の頭脳に当たる方々だからな、万一があったら多大な損失だ。

全員安眠の上、輸送ヘリに詰め込んでポーランドの方に飛ばしておいたよ」

(;゚д゚?)「………そうか」

ミルナは深く突っ込まないことにした。

(`∠´)「さて、挨拶はこのぐらいにして、仕事の話に移ろう。

コンツィ中尉、君のポルトガルでの活躍は聞いているよ。ストーシュル少佐の戦車隊も心強い限りだ。二人とも宜しく頼む」

( ゚д゚ )「はっ、恐縮です」

〈::゚-゚〉「ご期待に応えます」

(`∠´)「現状だが、単刀直入に言おう。絶望的だ。

北部は陸海空全ての主要な軍事拠点が深海棲艦の襲撃を受けて通信途絶或いは混乱状態、民間人の犠牲者も既にまともな把握が不可能な数までふくれあがっている。

リーンウッド首相を始めドイツ首脳も安否不明、深海棲艦の内陸侵攻という事態に伴い欧州の全空港は全便を緊急欠航。ドイツ・フランス全学園艦の退避受け入れによりイギリス、スウェーデン、ポーランドは海路の物流も滞った。経済損失もこの僅かな時間で既に数百億ユーロに上るだろうな。

だがそういう状況下にあってなお、我々は敵の正確な規模さえ把握できていない」

(;゚д゚ )「……」

〈::゚-゚〉「……」

(`∠´)「そしてつい10分前、もう一つ悪いニュースが飛び込んできた」

ベルはそう言って、二枚の紙を机の上に置く。ミルナとイッシは同時に手に取り、同時に眼を通し、

(ⅲ゚д゚)

〈ⅲ゚-゚〉

同時に、顔色を失った。

(`∠´)「海軍も我々同様、下の方は決して毒されていない。この情報は警備府の提督がリークしてきたものだ。

………ただ、この混乱の中で情報の到着が遅れた」

言いながら、ベルは二人の顔色を見て口元に笑みを浮かべる。

尤も、眼は微塵も笑っていなかったが。





「7時間前より、ルール地方の艦娘艤装製造工場からの定時連絡が途絶している。調査に向かった海軍陸戦隊も消息を絶った。

………おそらく、深海棲艦の手に落ちたとみていい」


《Россия?1より深海棲艦の欧州襲撃に関する続報です。

連邦政府は先ほどクレムリンより、モスクワ周辺に首都防衛機甲師団を展開したと正式に発表。同時に、防共協定に基づきアメリカ、日本にも相互連携の確認を電話で行い、政府は欧州の“失陥”も視野に入れた防衛計画を練っている模様です》

《ポーランド政府は先ほど、西部全住民に避難警報を正式に布告しました。陸軍が出動し、国境の防備を固めています》

《スヒップホル空港には海外への避難を望む人々が殺到し、港内は大変な混雑状況です。

また、南オランダでは恐慌状態となった民間人の一部が暴徒化し、陸軍と警察が鎮圧に動いています》

《ベルギー政府より国民の皆様にお知らせ致します。ドイツ・フランスへの深海棲艦襲撃に伴い、多くの流言が飛び交っている状態です。決して慌てないで下さい。基本的に、政府からの公式発表にのみ耳を傾けて下さい》

《ルクセンブルク市は無法地帯となっています!そこかしこのスーパーが襲われ民家に人々が押し入り………いや、やめて、放して───きゃあああああ!!?》

《イタリア海軍は陸軍との共同展開に備えて北部に一部艦娘戦力を転用、ドイツ・フランス両国への増援派兵も視野に連絡を試みていますが、どちらも混乱が続き連絡がつかない状態のようです。

また、ターラント海軍基地より艦娘のRome、Paula、Aquila、Libeccio、そして強襲揚陸艦ジュゼッペ・カリバルティを旗艦とした洋上打撃艦隊6隻を編成し地中海に展開。イタリア政府は深海棲艦の別方面からの襲撃に対応するための物だとして、近隣諸国に理解を求める声明を発表しました》

《スペイン政府はイタリアのこの迅速な対応を評価する一方、我々のジブラルタル海峡における警戒はリスボン沖の惨事以来徹底していると主張。イタリア海軍の地中海への展開を、“過剰な反応である”と批難しています。

また、スペイン国民の皆様にお知らせします。現在ドイツ・フランスにおける深海棲艦の襲撃によって、欧州全体に大きな動揺が広がっています。

決して不確かな情報に惑わされず、落ち着いた行動を心がけて下さい》

第2波ここまで。基本昼&夜の二回更新になると思われます。

ご静聴ありがとうございました








ベルリン大聖堂を通り過ぎてからの20分ほどの逃避行の中で、更に四台の装甲車と相次いですれ違う。
最初こそ上がっていた激励の歓声は回を追うごとに少なくなっていき、最後の一台の時には誰も顔すら上げなかった。

まぁ、当然だろう。一向に治まらないどころか、激しさを増していく戦闘音。黒煙が立ち上る数は増え、逆にパトカーや救急車、消防車のサイレンは次々と途切れていく。何より、これほどの騒ぎにも関わらずヘリや戦闘機は一機たりとも市の上空を飛んでいない。

どれだけ鈍くて楽観的な人間でも、ベルリンが置かれている状況がいかに悲惨かは見えてくる。

「押さないで、誘導に従うんだ!」

「深海棲艦は陸軍と警察が食い止めている!まだ来ない、安心して下さい!」

なので、予想(というより願望)通りに築かれていた陸軍とベルリン市警の共同防護陣地にたどり着いたときに、誰よりも安堵したのは俺とツンだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「正直、危なかったわね」

(;'A`)「全くだ」

深海棲艦に対する恐怖から暴動一歩手前だった避難民達の悪意は、明らかに東への逃走を先導した俺とツンに向けられていた。もし実際に彼らが暴徒化して俺たちの私刑(リンチ)を始めた場合、幾ら軍隊格闘の経験があってもこの人数を丸腰で抑えることは不可能だったに違いない。

ξ゚⊿゚)ξ「先ずはこの拠点の指揮官のところに行きましょう。武器も何もないわけだし」

('A`)「そうだな………あー、そこのあんた!あんたらの指揮官のところまで連れてってくれないか?」

「……は?」

たまたま傍に居た年若い歩哨に声をかけたところ、胡乱げな表情で生返事を返される。思わぬ反応に一瞬面食らうが、自分とツンの服装を思い出して合点がいった。

俺は灰色のトレンチコートに黒のスラックス、コートの中も白のポロシャツという服装。ツンが身につけているのは藍色を基調にしたジャケットにチェック柄のタイトスカート、ゆったりしたブラウス。

逆立ちしたって見た目で軍人と判別することはできない。しかもフランス広場での一件とその後の逃避行によって頭から足の先までずぶ濡れだからなおさらだ。

('A`)「いいとこベルリン旅行中に戦闘に巻き込まれたアベックってところか」

ξ;*゚⊿゚)ξ「あ、アベック!?私と、あんたが!?」

後ろで慌てふためくツンをひとまず無視し、身分証を鼻先に突きつける。歩哨は一瞬眼を見開いた後直立不動になり、すぐにどこかへと駆けていった。

ξ;*゚⊿゚)ξ「だだだだだ!誰が!!あんたなんかと!!!アベックに!!!!」

('A`;)「…………冗談だから落ち着けよ」

いくらなんでも嫌がりすぎじゃないかと、流石に少しヘコんだ。

この部隊の指揮官は案内された即席指揮所であるテントの中で、折りたたみ式の椅子にその瘦せぎすの身体を乗せて手元の地図を睨んでいた。
ほうぼうに好き勝手に撥ねるブロンズ色の短髪に子狐を思わせる少しとがり気味の横顔、鼻の頭にはそばかす。長身ではあるが力強さは微塵も感じられず、アサルトライフルよりはコミック雑誌でも持たせた方がおそらくよほど様になる。

俺とツンを先導した歩哨が、指揮官のすぐ傍まで行き耳打ちする。すると奴さんは此方を一瞥し、軽い調子で片手を上げた。

(=゚ω゚)ノ「イヨウ=ゲリッケだよぅ」

そう言って、奴は挨拶を終えた。……やや高い声といい若干幼い顔立ちといい、胸元に光る中佐の階級章と身長がなければ来年アビトゥーアを受ける予定の学生だと言われても信じてしまいそうだ。

(=゚ω゚)「ドク=マントイフェル少尉、並びにツン=デレフランス陸軍中尉。細かい話は抜きだ、とにかく人手が足りない。

君たちには早速前線で働いて貰うよぅ」

ξ;゚⊿゚)ξそ「ちょっ……いきなり!?というか、私のこと知って」

(=゚ω゚)「無駄話をしている暇はないよぅ。ベルリン東部一帯の掌握に成功したとはいえいつ全面崩壊が起きてもおかしくないよぅ。諸々の話は事態が収拾してから聞くよぅ」

ξ゚⊿゚)ξ「」

早口で語尾がやけにうわずった、いかにも神経質そうなしゃべり方でイヨウ中佐は捲し立てる。ツンは面食らった様子で黙り込んだ。

……まぁ、聞き心地のよい喋りとは世辞でも言えないが内容はド正論なので此方も合わせることにする。

('A`)「市内ドイツ軍・ベルリン市警の現在の稼働状況は?」

(=゚ω゚)「兵力だけで言えば凡そ一個師団相当、陸軍としての兵力は戦車道展の警備のために投入されていた2000名ほどだよぅ。ただし、この内組織的な戦闘を展開できている戦力はシュプレー川以東に展開している4000人ほどでしかないよぅ。

敵勢力に関しては現在把握される限りではフランス広場に重巡リ級elite、アムボス通りに戦艦ル級、タ級各一隻。それと、未確定ながら軽巡棲姫と思わしき存在と護衛のヒト型数隻がシュパンダウ方面で確認されているよぅ」

イヨウ中佐は地図の各所を矢継ぎ早に指さし、若干どもりながらも戦況を正確に述べていく。だが、地図には何も書かれておらず、報告書のようなものも辺りに見当たらない。

まさか、ベルリン市内の戦況全部記憶してるってのかこの人?

(=゚ω゚)「ベルヴュー宮殿、連邦首相府、国会議事堂は襲撃開始段階で通信途絶。ダイオード首相以下内閣議員も野党議員も安否不明。

ベルリン市外のドイツ三軍拠点とも……更に言えば欧州周辺国ともまともに通信ができない状況だよぅ。妨害されているのか、或いは単純に全滅したか。

どちらにせよ現段階では外部からの増援が期待できないよぅ。そもそも、さっき言った首相府一帯を始め市内ですら通信の乱れが見られるよぅ」

ξ゚⊿゚)ξ「一応聞きますけど、艦娘戦力は?」

(=゚ω゚)「あったらもっとまともな対処してるよぅ。

装甲戦力としては、プーマ歩兵戦闘車が残6両にレオパルト1戦車が8両、それからエノク(軽装甲車)が20両と少し」

('A`)「………レオパルト1って確か退役済のはずじゃ」

(=゚ω゚)「戦車道展における展示車両とほとんど兼任みたいな扱いで引っ張り出された代物だよぅ。深海棲艦の襲撃激化に伴い、たかがイベント警備のために前線からレオパルト2を引き抜くわけにはいかなかったようだよぅ」

つまり、今までの話を要約するとこうか。

ベルリンは現在孤立無援で連絡すらまともに取れず、深海棲艦の正確な規模は不明、かつ姫級を始め知能も戦闘力も高いヒト型が主力。
対抗する此方の戦力は、型落ちの戦車と旅団になるかならないか程度の数の歩兵、しかも主力は警官隊。加えて行方不明の国家首脳部の捜索と、逃げ惑う民間人の保護もおそらく併行することになる。

そして、艦娘はいない。航空支援もない。

('A`)「無理ゲーじゃね?」

(=゚ω゚)「だが、それが我々の役割だ」

('A`)「………」

その一言だけは、イヨウ中佐はどもりもしなければ語尾も上げず、力強い口調で言い切った。


(=゚ω゚)「とにかく、まずシュプレー川以東の防衛線は死守するよぅ。二人は避難してくる民間人の保護と合わせて、最激戦区になる可能性が高いフリードリッヒスハイン区の防衛指揮を─────」

元の口調に戻りながら、なおも指示を出していたイヨウ中佐。

('A`)「……………」

だが、それを遮るようにして何の前ぶれもなく。

ξ゚⊿゚)ξ「………」

外で、甲高いサイレンが鳴り響く。

('A`)「………中佐、一応聞きますが今のは」

(=゚ω゚)「空襲警報だよぅ」

正直違っていて欲しかったが、残念ながら予想は大当たりだった。

(=゚ω゚)「交通整理用の拡声器と音声テープを組み合わせた簡易な奴だったけど役に立って良かったよぅ。ま、そろそろ来ると思ってたよぅ」

「中佐!!」

テントを跳ね上げて歩哨が一人駆け込んでくる。
一瞬、不安げな人々のざわめきとこれを制止する兵士達の叫び声が入り交じったものがテントの中を満たす。

「高層警戒班より緊急連絡!!北西よりベルリンに向かって飛来する何かの“群体”を捕捉したとのこと!!

おそらく深海棲艦の戦闘機、到着予想時刻は6分後です!!」

(=゚ω゚)「展開中の全部隊に対空戦闘の準備を指示……それと君、余っている軍服とアサルトライフルを二人に。

あぁ、マントイフェル少尉、デレ中尉、1分で用意して外へ」

イヨウ中佐はそれだけ言うと、軍帽を被りテントから出て行く。

(=゚ω゚)「さぁ、“僕らの仕事”の時間だよぅ」


.


中佐の指示より10秒早く着替えを終えて、テントから飛び出す。隣の更衣スペースからツンが転がり出てきたのもほとんど同時だった。

('A`)「女の身支度は長くかかると聞いてたがな!」

ξ゚⊿゚)ξ「知らなかった?フランスのレディは余裕の笑みで男を待ってやるもんなのよ!」

相変わらずざざ降りの雨の中で軽口を交わしながらG36Cの安全装置を外す。自身の装備を簡単に確認した後、今一度周囲の地形を頭に叩き込むために辺りを見回した。

深海棲艦機が来るまであとたったの300秒。できることは限られているが、それでもやれるだけのことはやっておきたい。

相変わらずサイレンは鳴り続け、あえて人の不安を煽るよう作られた警戒音に急かされ避難民達が我先にと道路を駆けていく。兵士と警官が、ともすれば大氾濫を起こしかねない人間の濁流をぎりぎりのところで制御し、更に東へと送り出していく。

('A`)(……あと五分でこの人数が避難しきるのは間違いなく無理だな)

この密集状態に深海棲艦の空爆が直撃すれば大惨事もいいところだ。かといって、避難民の「自主性」に任せて分散避難をさせても間違いなくパニックが起きる。それに、部隊運用にも大きな制約がかかりかねない。

つまり間もなく行われる深海棲艦の爆撃から避難民達を護るには、攻撃を此方に可能な限り引きつけ、かつそもそも爆撃自体を抑制する必要があると言うことだ。

(;'A`)「やっぱ無理ゲーじゃねえか………!」

一週間も素敵な休暇を下さった、上層部のおかげでこのざまだ。

いつか、感謝と殺意と火薬が籠もった御礼を贈ると胸の内で誓う。


('A`#)「各区画、レオパルト1とプーマは避難民の列からなるべく離れろ!!随伴歩兵は戦車隊になるべく密着、対空警戒を厳となせ!!」

(=#゚ω゚)ノ《東部区画に展開する全ての陸軍並びに警察戦力は今の指示に従うんだよぅ!!

これより防衛線は全指揮権を今発言したドク=マントイフェル少尉に一任!僕から別途指示がなければ少尉に従うよぅ!!》

近くに止まっていたパトカーに駆け上がり、声を張り上げる。ざわめいた場は直後に飛んだイヨウ中佐の命令で静まり、すぐに全軍が指示に従って動き出した。

全権委任ってマンドクセッ!!でも仕事が早いのはありがたい!!

深海棲艦機が到着するまで後4分程。煙草でも吸って不安を紛らわせたいところだが、懐に入れていた煙草はびしょ濡れになり全滅済みだ。

クソッタレ。

(#'A`)「歩兵並びに警官隊は10名程度で一塊となり射線形成!分散射撃だとかえって隙間を奴等に潜り抜けられる、戦力を塊にすることで奴等を射線上に引きつけろ!!」

「し、しかし少尉!サブマシンガンやアサルトライフルが届く距離に敵が来るとは」

('A`#)「断言するが間違いなく来る!!

寧ろ自動小銃はHelm共に対抗する主兵装だ、射線には穴を開けるな!最低限半数以上は常に撃ち続ける状態を作れ!!」

兵力不足、火力不足、時間不足と無い無い尽くしの状態だが、打つ手は皆無じゃない。不幸中の幸いと言うべきか、天が俺たちに全力で味方をしてくれていた。

天と言っても断じて神のことではない。神はいない、いたとしても死ね!!


(=#゚ω゚)ノ《ベーデカー隊、マントイフェル少尉の直属指揮に!ディーツェル軍曹の隊はデレ中尉の指揮下に入るんだよぅ!!》

「「Jawohl!!」」

(#'A`)「ツン、レオパルト1の随伴に付け!!常に機銃の死角をカバーする形で射線を集中させろ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「了解!!」

残り3分。俺たちは、慌ただしく戦いの準備を終えていく。

ξ#゚⊿゚)ξ「機銃の射撃仰角もう少し上げて!それと一機一機狙う必要は無いわ、空にばらまく感じで撃ちなさい!!」

「や、Jawohl!!」

(=#゚ω゚)ノ《避難誘導班は持ち場を絶対に離れるな!!最後まで市民の導き手としての責務を全うするんだよぅ!!》

(#'A`)「エノクは各車機動防御態勢!なるべく敵艦載機の目につくように動き回ってくれ!歩兵並びにレオパルト1は釣られた敵機は特に重点的に撃墜しろ!!」

残り2分。サイレンに、録音された早鐘の音が加わった。意味など聞かなくても察しがつく。

真っ直ぐに向かってきているんだ。奴等が。

「押すんじゃねぇ!!」

「早く進めよ、深海棲艦が来てるんだぞ!!」

「子供が、子供がぁ!!」

「列を乱すとかえって動けなくなるぞ!!死にたくないならそれこそ誘導に従ってくれ!!」

恐怖から箍が外れかけている避難民達の怒鳴り声が響く。

俺たちは降りしきる雨の中でただ銃口を空に向け、敵を待つ。

────残り、1分。

「敵機、来襲!!!!」

(;'A`)「っ」

音が、聞こえてきた。

腹を空かせた獣が呻いているような、低い音。

ジェット戦闘機の全盛期にあって最早空から駆逐されたはずの、レシプロエンジンが奏でる重低音が、雨に混じり雲の中から聞こえてくる。

奴等は最大のものでも4フィートを越えない程度の大きさでしかない。そのため、まだまだその姿は見えない。

見えないが、音は確実に近づいてきている。

('A`;)「────!!」

エンジン音は、丁度俺たちの頭上に差し掛かったところで調子を変えた。

低いうなり声から、高い叫び声へ。

【Helm】が急降下爆撃の態勢に入ったときに鳴る、独特の風切り音。

ジェリコのラッパ───かつて、ドイツを護るためにソヴィエト赤軍の頭上で空の魔王によって吹き鳴らされていた音が、今はベルリンを破壊しドイツ人を殺すために迫ってくる。

なんとも、皮肉な巡り合わせだ。

('A`;)「合図があるまで撃つな!それから絶対にフォーメーションを崩すなよ!!」

音は次第に大きくなり、数を増やして降りてくる。周りに指示を出しながら、ともすれば震えそうになる照準を必死に抑える。

ベルリンの雨は、未だに止まない。


───やがて、“奴等”は来た。

「………ひっ」

厚い雲の隙間から、ぽつりとインクの染みのように小さな点が最初に一つ。刹那の間を置いて二つ、四つ、八つ………一瞬で、数えるのも馬鹿らしくなるほどの黒点が空を埋め尽くした。あまりの数に、誰かが小さく悲鳴を上げる。

西洋甲冑か、さもなきゃ競輪選手が被るヘルメットか。とにかく通称が本当によく似合う、細長く先鋭的な黒い機体。

少なく見積もっても1000は下らないHelmの群れが、“ジェリコのラッパ”を吹き鳴らしながら雨と共に降ってくる。

Helm達は街区に展開する戦車や装甲車、そして歩兵隊に向かって、降下速度を上げながら獰猛な猛禽類の如く突っ込んできた。



、、、 、、、、
完璧に、読み通りだ。

('A`#)「─────Feuer!!」

声を限りに叫び、H&K G36Cの引き金を引く。

無数の弾丸が、雨を切り裂いて空へと駆け上がった。

更新第3波完了。第4波深夜になります

ご静聴ありがとうございました

『────!!!?』

『!?』

『!?!!?』

市街地から撃ち上げられた何百条という火線。先陣を切っていた十何機かが真正面から貫かれて空中で爆散し、それを皮切りに群れをなして押し寄せてきたHelmが次々と対空射撃を受けて火を噴き、落ちていく。

爆弾の投擲音は、未だに一発も聞こえない。

「敵機撃墜、敵機撃墜!!」

「よし、一機落としたぞ!」

「口を動かす暇は一秒残らず手を動かす時間に費やせ馬鹿野郎!!撃て、撃て、撃て!!!」

400マイルで空を飛び回り、現代戦闘機の装甲でも十分貫ける威力の機銃を放ち、その小ささ故に空対空ミサイルによるロックオンはほぼ不可能。

“ワンショットライター”と揶揄される脆さを加味しても、本来なら人類が艦娘抜きで太刀打ちするのは難しい。

アルカンタラマールで迎撃ができたのも、向こうが“損耗を極端に嫌った”という戦略的要因があってこそだ。他に日本で近代戦闘機がHelmの大群体を完封した事例があるが、アレは練度の高い艦娘ありきの作戦になる。

故に、本来なら俺たちは高高度から一方的に爆弾と機銃掃射の雨に晒されるだけの「狩られる獲物」でしかなかった。

天候さえ、まともなら。

「リロードします!」

「弾幕絶やすな!常に撃ち続けろ!!」

《レオパルト、配置転換します!》

ξ゚⊿゚)ξ「解った、後続する!!」

深海棲艦機の“小ささ”は、決して利点ばかりを持っているわけではない。鹵獲された奴等の機体は非常に軽く、非武装の状態なら大人が片手で軽々と担げる。搭載される爆弾に至っては3~7インチとポケットに入れて持ち運べるお手軽サイズだ。

(=#゚ω゚)ノ《補充班、とにかく弾薬補給の手は止めるなよぅ!!要請があるまで動かないんじゃなく、自分たちで不足する場所を予測して運搬するんだよぅ!!》

軽く、小さく、そのくせ威力は従来の爆弾と遜色なし。オーバーテクノロジーの極みだが、故に奴等の航空攻撃は天候の影響を強烈に受ける。例えば今日のように強い風雨がある時は、まともに狙いを定めようとすれば必然的に高度をギリギリまで下げなければ狙った箇所に効果的な損害を与えることは難しくなる。

「弾が切れた!リロードする、カバーを!!」

「一機撃墜した!!」

「敵機の投弾、未だ見られず!!」

ではここで、奴等の爆撃経路がなるべく収束されるように───決まったコースにHelmが殺到するように戦力を展開すれば、どうなるか。

「撃墜四機目!!」

「当方損害、未だ無し!!」

(#'A`)「上空10時方向より新手来るぞ!射線合わせ!!」

その答えが、この光景。

(#'A`)「Feuer!!」

   ターキー・シュート
───七面鳥撃ちだ。

(#'A`)「状況知らせ!!」

「防衛線全域において未だ敵機の投弾・損害発生報告無し!」

「墜落機の直撃を受けて家屋が一部倒壊も影響ありません!敵航空隊、大損害を受けて攻勢が鈍化しています!」

雲霞のごとき大編隊に襲われているとは到底思えない、あまりにも順調な戦況推移。だが、そこで手放しで喜ぶような間抜けな真似はしない。

此方にとっての優勢は、敵にとっての苦境。俺たち人間がそうであるように、深海棲艦も「現状を覆すにはどうするべきか」を考えるはずだ。

('A`)「……っ」

深海棲艦の立場になって考える。上方からの攻撃は悪天候の影響もあってまんまと誘い込まれた形になり、対空射撃によって攻撃の体さえほとんど為していない。この状況をどう打破するか。

数を更に増やすか?いや、無意味とまではいかないが効果的じゃない。

そう、俺なら。

『────ォオオオオオオオオォオオオッ!!!!!』

「高層観測班より報告!!トレプトゥ=ケーペニック区で非ヒト型深海棲艦の出現を確認!!

艦種は軽巡ホ級が三体、内1体はflagshipです!!」

俺なら、攻撃面を一つ増やす。


深海棲艦の非ヒト型に共通する、あの耳障りな叫び声が聞こえてきた方向を振り向く。

立ち並ぶ建物の間に、巨体が屹立している。

砲台の中から這い出そうとしているような、或いは巨大な口に今にも食いちぎられそうになっているような、そんな何度見てもおぞましさを拭えない紛れもない“化け物”。

そんなただでさえ気色の悪い存在が、途方もない大きさで此方に迫ってきていた。BGMにアキラ=イフクベの音楽でも流せば、そのままモンスター映画の一幕として使える素材になるだろう。

非ヒト型のflagshipクラスは、平均して30Mという巨体を誇る。当然耐久力も通常種から跳ね上がっており、陸上戦力なら相応の火力が無ければ対抗することは難しい。

('A`)「プーマ戦闘車隊、ホ級flagshipを射程圏内におさめている車両は?」

《此方2号車、射程に捉えてます!!》

《5号車、射撃可能!いつでも撃てます!》

ただし。

('A`)「Go, Missile!!」

《《Jawohl!!》》

相応の火力が備わっている場合、ただのデカい的だが。

『───ア゛ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?』

プーマ二台の砲塔から放たれたスパイクLR対戦車ミサイルが、相次いでホ級flagshipの巨体に直撃する。
片方は頭、片方は砲塔。

轟音が響き、破片が飛び散り、ホ級は苦悶の声と共に着弾箇所をのたうちまわる。

指の隙間からは、血の代わりに凄まじい量の黒煙が吹き出した。

《だーんちゃーーーく!!どーだいこの威力!》

《落ち着け5号車!少尉、続けて撃ちます、いいですか?!》

('A`)「許可する!第ニ射は頭部集中、間髪入れずにトドメを刺せ!!」

《《Jawohl!!》》

深海棲艦は、艦娘同様“歩く戦艦”だ。例え第4世代戦車や最新鋭の歩兵戦闘車が雁首を揃えても、闇雲に攻撃をするだけなら駆逐イ級すら一隻仕留めるのに膨大な犠牲が必要となる。

ただ、同時に奴等は“生ける戦艦”でもある。生き物は、戦艦や戦車よりも“効率的に殺す手段”が圧倒的に多い。

《────弾着、今!!!》

『ア゛ッ………ア゛ァ゛ッ…………』

700mmという高い貫通能力を持つミサイルは、傷口を覆っていたホ級の手の甲を引きちぎり、その下の頭を抉り取る。

その傷口に2発目が飛び込み、炸裂し、吹き飛ばす。

頭を失ったホ級flagshipは、びくびくとニ、三度痙攣した後家屋を巻き込みながら地面に倒れ込んで“絶命”した。

「観測班より報告!ホ級通常種、此方への進行を停止!反転し後退していくとのことです!」

「おい見ろ!Helmの奴等が逃げていくぞ!!」

非ヒト型とはいえ、【flagship】の瞬殺は奴等にとって流石に少し想定外だったらしい。
それまで膨大な撃墜機を出してもどこぞの島国宜しくkamikazeを繰り返していた深海棲艦機が、潮が引くように空へと舞い戻っていく。

ホ級の進撃が止まったという報告が流れたこともあって、一瞬弛緩と安堵が入り交じった空気が流れた。だが、それはあくまで一瞬に過ぎない。

(=#゚ω゚)ノ《今のうちに各区画は物資を補給、それから戦力の再編を急ぐよぅ!!それと市民の避難を更に急がせるんだよぅ!!》

無線越しのイヨウ中佐の声に、弾かれたように全員が活動を再開する。避難誘導の声が今まで以上に大きく響き、負傷者の確認や弾薬の点検のための点呼が飛び交う。此方の影響下にあるベルリン東部以外で、通信が繋がらないかどうかを試みる声も聞こえてくる。

('A`)「………」

イヨウ中佐を初め、誰もが理解している。今の攻撃は跳ね返したが、それはとりもなおさず奴等に俺たちの力を見せつけたということだ。

奴等は俺たちが、艦娘がいなくても十分に抵抗し得る戦闘能力を持っていると理解した。理解した以上、もう“ターキー・シュート”は起こらない。

次の攻撃は、より本格的に此方を叩きつぶすために動いてくる。

ξ゚⊿゚)ξ「…………“無理ゲー”、まだまだ続きそうね」

('A`)「……あぁ」

いつの間にかそばに来ていたツンの呟きに、頷く。そもそもさっきの防衛にしても、圧倒的だったのは“たまたま俺の読みが全て当たったから”だ。もし深海棲艦戦闘機の動きが予測から外れていたら、もしホ級の出現に動揺して指示が遅れていたら、今頃俺は2階級特進の権利を手にしていた。

('A`)「…………マンドクセ」

一瞬、このまま敵の攻勢が止まってくれることを期待したが、下らない願望だとすぐに頭を振って追い出す。

あり得るはずがない。ここまで大規模な攻撃をかけてきた深海棲艦の攻めが、この程度で終わるなど。









(;'A`)「………」

何より、あのリ級eliteが。

この程度で“お楽しみ”をやめるはずが、ない。








かつてブランデンブルク門と呼ばれていた瓦礫の山の上に、二つの人影。血の臭い、焼けた人体の臭い、蒸発した油の臭いが充満して噎せ返るほどだが、二人はまるで気にする素振りを見せない。

片方は、腰に手を添え、朱い眼を細め、額に右手を当ててわざとらしく遠くを眺める素振りをする。先ほどまで着ていた黒の革ジャケットは脱ぎ捨てられ、今は水着のような露出の高い服装と蝋や漆喰のように白い肌、腕や足の艤装が剥き出しになっている。

もう片方は、瓦礫の上にあぐらをかき、ぱたぱたと足を上下させ、少し前のめりになってある方角に興味深げな視線を向けている。目深に被ったフードの奥から、めいっぱいに見開かれた金の双眸が垣間見えた。

彼女たちは、深海棲艦とは思えぬほどに自然で柔らかい、満面の笑みを浮かべていた。

“全の意思”を通じて、この戦いを指揮している“棲姫”の怒りの声が同胞達に届けられている。順調極まりなかった今回の入念な作戦にあって、小さいとはいえ敗北の傷がついたことは彼女の高いプライドに泥を塗ったらしい。
棲姫は艦載機を飛ばした空母達と、一撃でなぎ倒された軽巡を口汚く罵倒している。

だが、そんなことは瓦礫の上で佇むリ級ともう一人にとってはどうでもいいことであった。

リ級は、確信していた。今し方眼にした、東部での同胞達の敗北は、“あの男”によるものだと。さっきこの門を破壊したときに、多くの人間と共に見逃しておいた『あいつ』がやったのだと。

('A`)

彼女は満面の笑みを浮かべ、街の東を眺める。見えるはずがないと解っていても、あの陰気な顔つきの優男に向かって愛おしげに両手を広げる。

ヤッパリダ。

アノ時、君ヲ見テ思ッタ事ハ正シカッタ。

君ト遊ブノハ、心底楽シイ。

彼女の眼は、まるで恋人に出会った乙女のように輝いていた。


.

本当ニ、楽シソウダナ。

隣であぐらをかいている少女が、クツクツと肩を震わせる。

デモ、楽シイ奴ダロウ?

リ級eliteは、口元を緩ませながら紅い双眸を隣に向ける。

マァ、人間デモ強クテ賢イ奴ト戦ウノハ楽シイナ。

少女はその視線を受けて、頷く。

私ハソロソロイクケド、君ハドウスル?

─────ソウダナ。

少女は、リ級に続いて立ち上がる。

その笑みが、無邪気な殺意で歪む。

ソロソロ、私モ遊ボウカナ。

尻尾が、瓦礫を撥ねのけながら獲物を見定める蛇のように彼女の後ろで屹立する。

その先端から、魚雷と砲塔が飛び出した。

第4波投下完了。
ご静聴ありがとうございました。

《France?24よりお送りします。先ほどフランス政府より、東部における深海棲艦の封じ込めに失敗したと正式に発表がありました。

既に本土での深海棲艦の展開数は50を越えており、フランス軍は防衛線の後退と再構築を行っています。ナンシー市以東にお住まいの全国民は、速やかに避難を開始してください》

《ドイツ西部トリール近郊に出現した深海棲艦の大群が、一部ルクセンブルクに侵入しました。ルクセンブルク陸軍は全戦力でこれを迎撃していますが、戦況は絶望的です》

《国境線を突破した深海棲艦の大群はマルメディに向けて侵攻中です!ベルギー陸空軍による迎撃は全く効果がありません!!あぁ、神様!!》

《ヘルダーラント州の複数の都市において深海棲艦艦載機による空爆が行われ、民間人に多数の死傷者が出た模様です。

一部の暴徒はドイツは人類を裏切り深海棲艦を引き入れた主張して民衆を扇動。オランダ国内のドイツ関連企業や在オランダドイツ人が襲撃を受けています》

《深海棲艦のフランスにおける動向でSNSを中心に様々な情報が錯綜し、スペイン国内が動揺しています。。マドリードでは生活用品や食料品の買いだめをしようとスーパーや小売店に人々が殺到し、空港には海外避難を求め全便欠航にもかかわらず在留外国人や富俗層が詰めかけています》

《コペンハーゲンからのライブ中継です!皆様見えますでしょうか!?深海棲艦の戦闘機が、まるで黒雲のように───嗚呼、街が……街が……!!》

《オーストリア、スロバキア、チェコ、スロベニアなどドイツ付近の幾つかの国は深海棲艦の侵入が行われた場合のトルコへの国民亡命を打診していますが、トルコ政府は経済的・安全保障的観点から難色を示しています》

《BBCより、政府方針を国民の皆様にお伝えします。

先ほどイギリス政府により、英国全土に特別戒厳令が布告されました。解除されるまで、外出は緊急時を除き絶対に控えて下さい。

また、今時騒乱におけるSNS等を用いた不確かな情報の流布も法律により禁じられています。以後、無責任な情報のやりとりを全て停止し、政府発表のみを受け取るよう徹底して下さい》

現状報告1
ドイツ北部、並びに近郊での深海棲艦による襲撃状況

図1:襲撃前
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira136439.jpg

赤マーク:ドイツ空軍基地
黄☆:軍民共用或いは民間空港

図2:襲撃後
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira136440.jpg

×印:機能停止、壊滅
矢印:深海棲艦による近隣国への侵攻ルート
○:ミルナ、ベルら待機地点








何度か、「自分はいったい何者なのか」と考えたことがある。

私と同じ名を冠する存在は、現在ドイツ国内に29人いる。彼女たちは名前だけでなく、容姿も、髪型も、服装も、声も、身長も私と同じだ。まるで工場で作られたおもちゃの兵隊のように、“私”は規格に則って“生産”された。

私に個別の名前はなく、配備No.09が他の個体と区別するために付与された。私は母の胎内ではなく、艦娘の“核”を展開できる特殊な液体プールの中で目覚めた。

もし私が死んだとしても、多少貴重と言うだけで代わりがいないわけではない。

一方で、29人の「私」は全員が別々に喜怒哀楽を有し、別々のタイミングで感情を発露する。

好きなものも、嫌いなものも、嬉しいと感じることも、悲しいと感じることも、29人全員がそれぞれ違った形で持っている。

私たちは全ての個体が別々に、嬉しいと、ムカつくと、哀しいと、楽しいと感じる。

整備士と愛を育む“私”もいれば、提督と恋に落ちる“私”もきっといる。かく言う私は同じ鎮守府に勤めるビスマルクお姉様一すzゴホンッ、ゴホンッ!!

結局私たちは、
兵器なのか。
人間なのか。

夜寝ようとする時に、平穏な海をただ眺めるだけの退屈な哨戒任務の時に、無心でお昼ご飯を口に運んでいる時に、この哲学的な思考はしばしば私の思考の隙間に沸いて出た。当て所ない考察が脳内を埋め尽くし、最終的に結論の出ない堂々巡りへと落ち込んでいく。


この哲学的な迷宮に迷い込んだとき、私は大抵自分が“艦娘”だと定義して無理やり結論づける。

兵器でも人間でもない、その合間の存在。

ハーケンクロイツの下では果たせなかった「ドイツに住まう人々を護る」という使命を、もう一度与えられた存在。

人間でも兵器でもいい、私は“艦娘”としての使命を果たすだけだ。そう言い聞かせて、答えのない問いに蓋をする。

何より、それは私の本心でもあった。自身が「モノ」と「ヒト」の狭間に揺れる曖昧な存在であっても、課せられた使命が崇高であることは変わらない。

この使命のためなら、“兵器”として命を捨てることも厭わない。




────そう、本気で思っていたはずなのに。

  _
(#゚∀゚)「ユーロファイター部隊より通達!爆撃実行、なれど敵損害極めて軽微!敵は未だ強固な抵抗力を有するとのこと!!」

(#゚д゚?)「ハナから期待はしてないさ!!

プリンツ、レーベレヒト!市街地に突入するぞ、後続しろ!」

「Jawohl!!」

「っ、や、Jawohl!!」

今の私───Prinz Eugen-09の胸の内にあるのはそんな高尚な使命感ではなく。

「死にたくない」という、無様な願望だけだった。

第五波投下完了。時間遅れた上大変短くなりまして申し訳ありません。
本日深夜第六波投下予定です








その知らせは、確かに待ち望んだ内容だ。だから、故に俺たちはすぐには信じられなかった。

(=;゚ω゚)ノ「………増援?」

「はいっ、高層観測班よりの報告です!」

目を丸くして問いただすイヨウ中佐に、テントに駆け込んできた下士官は興奮気味に頷く。飛び込んできた当初は「ドイツ語でぉK」状態だったので、これでもまだ落ち着いている。

(;'A`)「誤報や見間違いじゃないのか?」

「いえ、間違いありません!V-22 オスプレイの編隊が、ベルリン南西の複数区画に降下中です!それから、ユーロf

台詞の末尾は、近づいてくる超高音にかき消される。

ジェリコのラッパなんて目じゃない、音速を悠々と超えていく最新鋭戦闘機のエンジンだけが奏でる甲高い雄叫び。

('A`)「っ」

テントから飛び出すのとほとんど同時に、南の方で連続的に幾つかの火柱が立ち上る。

頭上を、突風を地上に残しながらカナード・デルタの特徴的な機影が駆け抜けていった。

ユーロファイター・タイフーン。EUが世界に誇る、マルチロール戦闘機。

ドイツ空軍のものであれ他のEU加盟国のものであれ、確かに味方機であることは間違いない。

「味方だ!味方の戦闘機だ!!」

「援軍だ、助けが来たんだ!!やった、やったぁああああ!!!!」

周りでは、予期せぬ“白馬の王子様”の登場で誰もが歓声を上げている。感極まって泣き出している奴も少なくない。

空の方でも、俺たちの存在に気づいたらしい。わざとらしく旋回して俺たちの真上で宙返りをしてみせると、ユーロファイターは再び悠々と南へ戻っていった。

周りの奴等はその姿を見ながら、なおも歓声や指笛を贈っている。

『オオアアアアアアアアアアッ!!!』

そして、ユーロファイターが帰還した後も南での戦闘音は止まらない。砲声、爆発音、非ヒト型の咆哮や断末魔が途切れることなく上がり続け、大規模な攻防戦が発生していることを示唆した。

('A`)「………」

観測班の見間違いではない、どれほど少なく見積もっても連隊規模の味方増援軍がベルリン南に展開を開始している。

俺はそこまで確認すると、再びテントへと駆け戻った。


ξ゚⊿゚)ξ「どうだった?」

指揮所に戻るや否や問いかけてきたツンに、地図を取り出しながら頷いてみせる。

('A`)「そいつと観測班の報告内容は正しい。確かに味方の援軍だ、それも最低で連隊規模。南の方で大激戦の真っ最中らしい」

「………うわぁああ!!!」

俺の言葉を受けて、報告者の下士官はディズニー映画のキャラクターのように跳び上がって叫ぶ。同じくテントの中にいた通信兵や将校達も互いに抱き合ったり脱力して座り込んだり、思い思いのやり方で喜びと安堵を露わにした。

まぁ、孤立無援と思われたところに友軍、それも空軍まで生き残っていたことが判明したんだ。この喜びようは無理もない。

本当なら、俺だって手放しで歓喜の輪に加わりたいところだ。

俺はペンを握りながら下士官の肩を叩く。

('A`)「V-22の降下した区画はどこか解るか?」

「……は?こ、高層観測班からはテンペルホーフ=シェーネベルク区、それからノイケルン区と聞いていますが」

('A`)「降下していたV-22に対して攻撃は?」

「ほ、ほぼありませんでした。事前にユーロファイターによる爆撃が相当規模で行われていたので、おそらくそのせいかと」

('A`)「おっ、そうだな」

下士官の言葉に適当に相づちを打ち、報告内容にあった区画に印を付ける。次いで、そのままドイツ全体の地図をその上から広げた。

('A`)「イヨウ中佐、オスプレイの配備基地は?」

(=゚ω゚)「僕らドイツ軍が正式に配備している機体はないよぅ。ただ、深海棲艦との戦争に合わせて“借用”の名目で利用権利がある機体はビューヒェルとレヒフェルトにそれぞれ数十機ずつあるよぅ」

('A`)「………ビューヒェル、B-61弾頭の事も考えれば騒動初期段階で間違いなく南に全力で逃げてるな」

(=゚ω゚)「大隊規模の増援が出せる戦力の収容、かつユーロファイターが未だ投入可能となれば間違いなく増援は南から来てるよぅ」

('A`)「でしょうねっと」

地図上にペンを走らせ、ビューヒェルとレヒフェルト、そしてレヒフェルトとベルリンを線で結ぶ。

………あぁ、やっぱりか。

書き込みを終えた地図を見て、疑念は確信に変わる。

('A`)「罠だ」

ξ゚⊿゚)ξ「罠ね」

(=゚ω゚)「罠だよぅ」

「なっ……」

下士官が絶句し、他の面々も静まりかえる。

だが、俺とツン、そしてイヨウ中佐の見解は見事に一致してしまった。

(=゚ω゚)ノ「どう考えてもこの2区画に無抵抗に友軍の降下を許すのはあり得ないよぅ。特にノイケルン(Neuk?lln)区は」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira136501.png

ξ゚⊿゚)ξ「深海棲艦がこっち側へ攻め込む主要経路が横っ面を張られる形になるわね、下手したら奴等の前線が縦に分断されるわ」

加えて肝になるのは、降下した味方の数が“たかが大隊規模でしかない”という点だ。

('A`)「一応聞くがV-22に装甲戦力を空輸していた機体は?」

「………確認する限りでは、見られませんでした」

('A`)「となると、増援に間違いなく艦娘が含まれてるな」

南から増援を寄越した指揮官が脳みその代わりに牛糞が頭につまってでもいない限り、“たった1000人強の歩兵”を深海棲艦はびこる市街地に投入などただの集団自殺と変わらない事は理解できるだろう。

ただし、ベルリンがこの有様にも関わらず今までどこからも艦娘が来ていないことを考えると、ヴェルヘルム=スハーフェンの司令府を初め北部の主要な艦娘駐屯地は動きを封じられたか壊滅している。自然、南に逃げ延びて友軍と合流し、かつそのまま奪還作戦に参加できる艦娘となれば自然と数は大きく制約される。

('A`)「投入された艦娘は10隻あるかないか、しかも現段階ではこれが最大戦力と見て間違いないな」



ここまで考えれば、自ずと深海棲艦の狙いも見えてくる。

奴等は既に、ベルリンの“陥落後”を見据えている。

ξ゚⊿゚)ξ「首都防衛餌にして唯一の脅威である艦娘の残存部隊つり出して殲滅、しかる後各個撃破ってところかしら?

えげつない戦法とるわねあいつら」

('A`)「この作戦を考えた奴が相当性格悪いのは間違いないな、少なくとも」

だが、お生憎様だ。

(=゚ω゚)「────さて、それじゃ。敵の狙いも解ったことだし」

性格の悪さと狡賢さに関しては、年期が違う。

(=゚ω゚)ノ「そろそろ、ペイバックタイムとしゃれ込むよぅ」

ξ゚⊿゚)ξ「「了解!」」('A`)

さぁ、反撃開始だ。

第6波投下完了。
二波合わせて今までの1波くらいの長さになってしまいました。
明日から4連休なので、また長さも戻る予定です

ご静聴ありがとうございました。






雨と共に降り注いでくる敵の砲弾が、そこかしこに突き刺さって炸裂する。

火柱が吹き出し、建物が崩れ落ち、地面が揺れる。

街に立ちこめる、硝煙と土煙の匂い。

それらはとりもなおさず、今私が「戦場にいる」ということを実感させた。

(;><)「敵艦砲射撃、来たんです!!」

(#゚д゚ )「足を止めるな!!行け行け行け!!」

頭上をまた1発、砲弾が飛び去っていく。背後で上がった大きな爆発音に竦みかけた足を、歯を食いしばって無理やり動かす。

『オオアアアアアアアアアアッ!!!』

唐突に、150メートル程向こうで古びたアパートが一つ崩れ落ちた。瓦礫を踏みしめながら現れたのは、オタマジャクシの足に無理やり深海魚の身体をひっつけたような、黒光りする歪な化け物。

『アァアアアアアアアッ!!!』

駆逐イ級は、此方を見てサイズだけなら列車砲ほどもある大きな図体を震わし、威嚇するように咆哮した。

「っ」

その耳障りな声に、私の足は再び棒になる。

( <●><●>)「正面、駆逐イ級後期型1体。砲塔はまだ格納中」

(#゚д゚ )「出すまで待ってやる必要はない!パンツァーファウスト!!」

  _
(#゚∀゚)「Jawohl!!」

先頭を行く妙に目力が強い分隊長───ミルナ=コンツィ陸軍中尉の叫び声に応じて、対戦車携行砲を構えた二人が隊列から躍り出た。
  _
(#゚∀゚)「Feuer!!」

『ウォオオオオオオオンッ!!!?』

イ級の鼻っ面に、2発のロケット弾がほとんど同時に直撃。イ級はガラスを引っ掻いたような音の叫び声を上げて仰け反る。
  _
(#゚∀゚)「レーベ、行け!!」

「Jawohl!!」

怯んだイ級に向かって飛び出したのは、私と同じ警備府に所属するZ1───駆逐艦娘のレーベレヒト=マースだった。

彼女は12.7cm連装砲を胸の高さに構えつつ、姿勢を低くしてイ級に向けて弾丸のように突っ込んでいく。

「Feuer!!」

『ア゛ア゛!!?』

150メートルの距離を更に半分まで詰めての砲撃。私たち艦娘からすれば目をつぶってでも当てなきゃいけない超至近距離だ。砲弾は先ほどジョルジュ少尉達が攻撃した箇所に寸分違わず命中。

火花が散り、イ級の強固な外殻が砕けて白くぶよぶよした肉繊維が黒煙と共に露出した。

( <●><●>)「Los Los Los」

(#><)「Weiter Feuer!! Weiter Feuer!!」

『アアアァアア………』

大きな損傷を負ったイ級に、間髪を入れず今度はアサルトライフルによる弾幕射撃が浴びせられる。

勿論幾ら中破状態とはいえ、深海棲艦の装甲や耐久に対して歩兵の小銃でトドメを刺すなんて不可能だ。

ただし、火線は悉く眼の付近に集中し、イ級の視界を奪いにかかる。

『オォ、アァアアァァァ………』

ミルナ中尉達の巧みな連携に反撃すらままならないイ級は、どうやら“戦略的撤退”を試みたらしい。

遭遇当初の威勢の良さはどこに行ったのか、弱々しい鳴き声を上げて黒煙が吹き出す身体を引きずりながらきびすを返す。

当然、その動きは遅すぎる。

「───Feuer!!」

レーベは既に、ティーマス軍曹とビロード軍曹の牽制射撃の合間に、距離を残り10メートル足らずまで詰めている。彼女は右手の連装砲と、背負っている艤装の両端に備え付けられた10cm高角砲を同時に起動した。

『オァ゛ア゛ア゛ッ!!?』

間近から放たれた“艦砲射撃”。巨体が爆圧で浮き上がり、まるでクリケットのボールのように飛翔する。

ぐしゃりと音を立てて、道脇の家屋に叩きつけられる。

崩れ落ちた瓦礫の下敷きになったイ級は、そのまま二度と起き上がらなかった。

「っ!!」

敵の撃破に、歓声を上げる暇なんてない。レーベはすぐに表情を険しくすると、その場から後ろに飛び下がる。

先ほどまで彼女が立っていた位置に、巨大な拳が叩きつけられた。
  _
(;゚∀゚)「レーベ!!」

「大丈夫、避けました!!損傷ありません────っと!!」

今度は砲撃。再び彼女は跳び、爆風による衝撃を着地ざまに地面に転がって逃がす。

私たちの足下まで転がってきたレーベを、ティーマス軍曹が手早く助け起こした。

( <●><●>)「損傷状況を」

「深刻な損傷はない!まだ戦えます!」
  _
(#゚∀゚)「そいつぁ上等だ────お客さんのお出ましだぞ!!」

ジョルジュ少尉の注意喚起の声に応じるように、新たな敵は右手───さっきイ級が現れたのと反対方向の家屋を突き崩して私たちの前に立ち塞がる。

まず眼を引くのは、大きさも形もてんでんばらばらな三つの頭。首から下には胴体や足がなく、太くて白い、ぬらぬらと気持ちの悪い光沢を放つ図太い腕が二本伸びて頭部を地面から持ち上げている。
どの頭部にも眼はついておらず、代わりにおおよそ8メートルほどの高さから私たちをにらみ据えるのは頭頂に備え付けられた連装砲とあごの横に盛り上がった魚雷発射管だ。

『ウゥオオオオオ………』

出来損ないのケルベロスのような形をした深海棲艦、軽巡ト級は本当に犬が威嚇するように私たちに向かって低く唸る。

なんとなく、仲間のイ級が轟沈したことに対する、怒りと悲しみを露わにしているようにも見えた。

  _
(#゚∀゚)「Feuer!!」

『ォオオオォオオオ』

私たちを吹き飛ばすべく発射態勢に入った砲塔に、ジョルジュ少尉たちが放ったロケット弾が3発相次いで命中する。大きなダメージこそ与えられなかったようだけど、暴発や照準のぶれを嫌ったのかト級は砲撃を取りやめて爆発から逃れようとするように身をよじる。当然のことながら、その動きは大きな隙を生む。
  _
(#゚∀゚)「プリンツ!!」

「ふ、Feuer!!」

合図に合わせて艤装の上側、SKC 20.3cm連装砲2門を起動。ト級の中央頭部めがけて放つ。

『グォウッ!?』

「くっ……」

右舷の砲撃は外れ、すぐ傍の民家の屋根を吹き飛ばす。左舷の砲撃は命中し、奴は衝撃でよろめき蹈鞴を踏んだ。

だけど、明らかに浅い。損傷具合で言えば、小破に行くか行かないか。

( <●><●>)「ト級、損害有りもなお健在、未だ戦闘能力を有しているの解ってます」

(#゚д゚ )「ジョルジュ、もう1発お見舞いしてやれ!!」
  _
(#゚∀゚)「言われずとも!! Feuer!!」

(#><)「小銃一斉射、奴の腕に火線を集中!動きをせめて封じるんです!!」

『オオォオオオッ!!!』

三回目のロケット弾は向かって左手の頭部に命中。間を置かずアサルトライフルの弾丸もト級の腕で弾ける。ト級は鬱陶しげに頭を振りうなり声を上げるけれど、効いているようには見えない。

(;><)「ターゲット、効果的なダメージは見られず!行動抑制効果も薄いんです!!」
  _
(;゚∀゚)「やっぱ戦車がないとキツいかクソ………おぉっ!?」

『ガァアアアアアアッ!!?』

“真下”から撃ち上げられた砲撃が、突然ト級の頭部を跳ね上げる。完全に予想していなかった箇所から攻撃を受けたト級は、後ろに大きくよろめいた。バランスを崩し手をもつれさせて、家屋を巻き込みながら地響きと共に転倒する。


「よし、どうだ!!」
  _
(*゚∀゚)「ッヒュゥー!やるねぇレーベちゃあん!!」

前のめりに倒れ込んできたト級の巨体を避けながら、いつの間にか再び隊列から飛び出していたレーベは小さくガッツポーズをしている。手に持っている連装砲が小さく煙を上げているところを見ると、今の一撃はト級の懐に飛び込んだ彼女によるものなのだろう。

「プリンツ、今だ!!」

「う、うん!!」

レーベの合図に併せて全ての砲塔をト級に向ける。

至近距離、転倒して身動きがとっさに取れない相手、地上のため足場も安定。

これで外したら、私は恥ずかしさと情けなさのあまりBismarck姉様の胸に顔を押しつけて窒息死する事を選ぶ。

「Feuer!!」

『ガッ………』

4門、一斉射。砲撃は起き上がりかけていたト級の中央の頭を跡形もなく吹き飛ばし、両側ニ頭の凡そ半分ほどの面積を抉り取る。

ズンッ、と重い音を立てて再び崩れ落ちたト級は、そのまま完全に機能を停止した。

(;><)「敵艦の機能停止を確認───敵艦砲射撃、再び来るんです!!」

(;゚д゚ )「伏せろぉお!!」

……立て続けに2隻の敵艦を撃沈したっていうのに、深海棲艦の奴等は私たちに余韻に浸る僅かな暇すら与えてくれない。

ぬかるむ地面に身を伏せた私たちの前後、それぞれ20メートルも離れていない位置に飛翔音と共に砲弾が突き刺さる。

巨大な爆発。
降り注ぐ泥。
地面から身体に這い上ってくる震動。

………私の歯がやたらかちかち鳴っているのは、きっと地面が砲撃で揺れたせいだ、そうに違いない。

(#゚д゚ )「損害、損傷報告!!」

( <●><●>)「全員無事です。分隊に欠員なし」

「レーベレヒト=マース、損傷無し!」

「プリュ、プリ、プリンツ=オイゲン、損傷ありません!!」

(#゚д゚ )「HQに現状を報告したい!ジョルジュ、通信を繋げろ!」
  _
(#゚∀゚)「もう無理ですよ中尉!!既に五分ほど前からベルリン市外への通信は全部隊が通じていない模様です!深海棲艦の妨害区域に入ってます!!」

眉g、ジョルジュ少尉はそれだけいうと罵倒を吐き出しながら地面を蹴った。近くにいたレーベが、びくりと一瞬肩を震わせる。
  _
(#゚∀゚)「あのクソッタレの鷲鼻野郎!!何が“この区画に突入すれば事態が好転する”だよ!!このままだと全滅を待つだけだぞ!!」

(#゚д゚ )「落ち着けジョルジュ!!ラインフェルト大佐の命令はお考えがアッテのことだ!!」
  _
(#゚∀゚)「あぁそうだな!!21世紀のマンシュタイン様にはさぞや大層な深謀遠慮があるんだろうよ!!

ところでその深謀遠慮の結果俺たちは現在進行形で死にかけてるわけですがね中尉!!」

(;゚д゚ )「っ……」

……あまり学があるとは言えない私でも、ジョルジュ少尉が私とレーベをミルナ中尉の部隊に配属したあの鷲鼻の陸軍大佐の作戦に怒っているのは理解できた。

そして、はっきり言うと私も同じ気持ちだった。
  _
(#゚∀゚)「機甲師団なし、空軍の支援は効果希薄、東部に展開しているであろう友軍は正確な規模不明!!この上本部とは通信が繋がらねえ状況下で待ち伏せていた敵の十字砲火に晒されてると来た!どんな深謀遠慮だか、楽しみすぎて涙が出てくるよ!!」

深海棲艦の神出鬼没ぶりに対抗するためアメリカから大量に輸入されたという、最新鋭の高速輸送機に乗せられて私たちはベルリン南部に空から突入した。

戦力は、私とレーベを含め戦闘能力を残した状態で南に逃れることができた艦娘8人。そして、ミルナ中尉ら陸軍歩兵1200余名。

深海棲艦は、私たちが南部に完全に展開しきるのを待ち構えてから区画を包囲封鎖。前衛攻撃・足止めとして非ヒト型のホ級やイ級、ト級を投入しつつ周辺から壮絶な艦砲射撃を開始した。

“艦娘が八人”とは言っても、その中にはBismarckお姉様もグラーフさんも1隻もいない。重巡プリンツ=オイゲンですら、私一人だけ。

他の艦娘は、レーベレヒト=マースが3隻とマックス=シュルツが4隻。

ル級やタ級といった“戦艦”に包囲されている現状を打破するには、火力も数も足りない。

この状態が続けば、多分私たちはまともな反撃ができないまま1隻残らず全滅する。肉薄して至近での砲撃戦に持ち込もうにも、非ヒト型が間断なく投入されてくる現状だと仮にたどり着いたとして弾薬も燃料も残らない。

少なくとも私には、あの大佐さんが立てた“作戦”はただの手の込んだ自沈命令にしか見えなかった。

( <●><●>)「今は、言い争っている場合ではないことは解ってます」

今にもつかみ合いをはじめそうなミルナ中尉とジョルジュ少尉の間に、ティーマス軍曹がそっと割って入る。軍曹は二人を引きはがしながら、私の方をちらりと見た。

( <●><●>)「中尉、少尉。正直な話、貴方方が言い争いをしている間に敵の砲撃が私たちを吹き飛ばさなかったのは奇跡です。すぐに移動しましょう」

( ゚д゚ )「……そうだな。総員、一先ず西に移動しろ!敵に位置を把握されている可能性が高い、砲弾の飛翔音に気をつけろ!」

( <●><●>)「プリンツ=オイゲン、貴女が水偵を装備しているのは解ってます。退却であれ進撃であれ、敵の現状を確認しなければなりません。

可能ならば飛ばしていただけませんか?」

「あっ、はっ、はい!!」

ティーマス軍曹に声をかけられ、私は我に返る。ミルナ中尉達に小走りでついて行きながら、懐からAr-196改を取り出して左手の艤装に装着。【Helm】や【Ball】の機影がないことを確認して、空へと向ける。

「お仕事だよ、お願いね!」

機内の妖精さんに軽く声をかけ、機体を空へ放った。

「………あの、軍曹、お手数なんですけれどしばらく手を握って私を先導していただければと」

( <●><●>)「えぇ、かしこまりました」

「Danke、では────」

ティーマス軍曹に手を引かれながら目をつぶり、私の「意識」をAr-196に乗る妖精さんの「意識」に重ねる。

途端、瞼の裏しか見えない状態の筈の私の眼は、空へと駆け上がっていくAr-196のコックピットからの景色を映しだした。

(………やっぱり、酷い有様だ。街が、こんなに滅茶苦茶に)

空から見たベルリンは、“無事なところ”を探す方が遙かに難しかった。瓦礫の山と化した区画、無数の炎が飲み込んでいる区画、黒煙に包まれて何も見えない区画…………そして、たくさんの死体が積み重なっている区画。どこもかしこも、見られるのは深海棲艦による“破壊”の跡だけだ。

(………っんぷ)

一瞬こみ上げてきた吐き気を、無理やり喉から押し返す。

今は吐いている暇はない。まず敵の状態を偵察、逃げ道か打開策か、とにかく何か見つけないと────





.

「……………ミルナ中尉!!!!」

(;゚д゚ )そ「うおっ!?」
  _
(;゚∀゚)そ「わぁこっち見んな!?」

自分でもびっくりするほどの大声が、喉から迸った。私はティーマス軍曹から手を放すと、一目散にミルナ中尉の下に駆け寄……ろうとして、足がもつれて転び頭から水たまりに突っ込んだ。

………おかしいな、私巷じゃ船だった時代のせいもあって幸運艦なんて呼ばれてるんだけど。

「ちょっ、プリンツ大丈夫?」

思い切り鼻の頭をぶつけた痛みで立ち上がれない私に、ミルナ中尉とレーベが呆れた様子で駆け寄ってくる音が聞こえる。

( ゚д゚ )「……」

その足音は。

「………」

遠くから聞こえてきた“砲声”によって、止まった。
  _
( ゚∀゚)「………」

深海棲艦の、ル級やタ級が放つ“艦砲射撃”とは明らかに異質な、少し“軽い”と感じる響き。

(;><)「………」

キャタピラーが瓦礫を踏みしめながら道を進んでいく音を同時にこだまさせつつ、確実に此方へ近づいてくる幾つもの轟音。

「────中尉!!!」

ようやく鼻の痛みから復活できた私は、地面から身を起こして中尉の袖を掴み、叫ぶ。







「市街地東部にて大量の戦車隊を有する友軍部隊が突貫!!深海棲艦の包囲網に対して攻撃を開始しています!!」

第七波ここまで。
ご静聴ありがとうございました。





(`∠´)「士官学校時代の私は、とんだクソガキでね。

“連邦軍始まって以来の神童”なんて周りから煽てられた結果、鼻持ちならない自信家になって全ての人間を見下していた」

ベル=ラインフェルトは椅子に深く腰掛けながら、唐突にそんなことを語り出した。

彼の眼前には、北部の混乱からなんとか逃げ延びレヒフェルト基地に集った三軍の将校達が集まっている。

ベルの立案した「無謀な作戦」に物申すために司令室に詰めかけた彼らは、誰もが唖然として椅子に座り懐かしげに微笑む彼を見つめている。あまりに絶望的な状況にとうとう気が狂ったのではないかと、本気で訝しんでいる者も少なくない。

(`∠´)「そういえば、以前の同期達とは今すっかり会わなくなってしまったな。この騒動が終わった暁には、是非彼らと酒でも酌み交わして」

「大佐ァ!!」

あまりに場違いな物言いに、遂に一人が声を荒げて机を殴りつけた。ペン立てが震動でひっくり返り、中身をぶちまける。ベルはその光景に、小さく眉をひそめた。

(`∠´)「落ち着きたまえ君、物が壊れたらどうしてくれるんだ。

君もドイツ連邦陸軍の少佐として、もう少し思慮を深く持ちなさい」

「何を落ち着けと言うんですか!!」

食い気味に反駁した海軍少佐は、北方沿岸部の警備府で提督をやっていた。深海棲艦と前線で渡り合った経験もある若く有能な人材だったが、利権争いに明け暮れる上層部と衝突した結果辺境に左遷されたというなかなか激しい経歴の持ち主だ。

彼から見れば、今この瞬間目の前に悠然と座っている鷲鼻の陸軍大佐は何者よりも許しがたい悪徳に他ならない。

「市内に突入した友軍から、電波妨害圏内に入る直前深海棲艦による待ち伏せ攻撃を受けたとの報告がありました!!

現在強襲部隊は包囲下で全滅の危機にあると思われます!!一刻も早ぐ……う゛っ……」

提督の言葉は、後半涙に呑まれてまともな声にならずかき消える。

ドイツ領の端の端に勤務していた彼に部下として配備されていた艦娘は、Z3 マックス=シュルツただ1隻。苦楽を共にした彼女は今、ベルの命令により首都強襲部隊の一角に編入され深海棲艦による十字砲火の直中にいる。

ベルへの怒りと安否不明となった部下に対する思いは、最早彼の許容量を超えていた。

「大佐、何度も申し上げました通りやはりこの作戦は無謀だったのです」

机にすがりつくようにして泣く提督の後を、空軍中佐が引き継ぐ。彼はベルから聞かされた作戦概要を見たときに、最後まで強硬な反対を続けている。

「レヒフェルトからベルリンまでの凡そ500km、敵からの強襲がないわけがない。

仮に強襲・対空迎撃がなかったとすれば、それは間違いなく向こうの罠だ………正直、大佐ほどの方が解らないはずがないと信じていました」

彼の口調は静かだが、語尾に走る震えが内に秘めた怒りの大きさを表している。

「大佐……私は貴方の名声と実績を信じて最終的に作戦を託した2時間前の自分を射殺したい気持ちです」

(`∠´)「………」

「1200人の優秀な陸軍士官と8人の艦娘を、希望的観測ありきの死地に追いやる………これが、今の我々にとって、否、世界にとってどれほど背信的な行為かおわかりですか?」

50機近いV-22を動員した大規模空挺強襲……言葉だけを聞けば威勢が良いが、内実は1200人の歩兵を化け物に制圧された市街地に降下させたに過ぎない。

深海棲艦に対抗し得る戦力である“艦娘”にしても、僅か八人、しかも戦艦も空母もいない。

もし海の上ならば、駆逐艦と重巡にも魚雷攻撃という一撃必殺の切り札があった。だが、今回は内陸に敵の侵攻を許した上での陸上戦闘だ。主砲の火力差は、そのまま彼我の戦力差に直結する。

はっきり言って、道中で襲撃を受けて追い返されたり激烈な対空砲火によって市街地への着陸がならず帰投したという話になれば寧ろドイツ軍にとってマシだった。
少なくとも通信もままならない市内に引き込まれての包囲殲滅という考え得る限り最悪の、それも比較的容易に想像がつく事態よりはよほど収拾も立て直しも効く。

そして、ベルがそれらの不利を覆し作戦を強攻する理由として挙げたのは、根拠不明の「ベルリン市街地の残存友軍戦力の存在」だった。

「旅団規模の友軍が市街地東部を占拠し防衛線を展開している可能性が高く、おそらく機甲戦力も有しているこの友軍と連携すれば十二分にベルリンを奪還できる………こんな、こんな荒唐無稽な推測を“ベル=ラインフェルトが言うことだから”と最終的に真に受けた私がバカだった!!!」

最早空軍中佐も、感情の昂ぶりを抑えきれずに激昂する。

確かに、ベルリン以南への南下速度が極端に遅い理由を「中枢たるベルリンが未だ制圧できていないから」と考えること自体は論理的だ。戦車道博覧会の警備を行うために機甲戦力が駐屯しているのは事実なので、もしかしたら戦車や戦闘車両も生き残っているかも知れない。

だが、仮に警備隊や機甲戦力が生き残っていたとしてそれが“ベルが言うとおりの規模”だという確実な証拠はどこにもない。また万歩譲って旅団規模の味方とやらが奇跡的に生き残っていたとして、彼らが突入部隊と連携できるとも限らない。

何せ、ベルリンは敵の電子戦によって通信途絶中だ。援軍の存在すら事前に知らせていない中で、瞬時に状況を把握して即応できる人材がベルリンにいるとは到底思えなかった。

「大佐、今からでも遅くはありません。ユーロファイターを総動員して爆撃を敢行すれば、包囲網を崩すとまでは行かなくても強襲部隊への十字砲火を鈍化させることは十分に可能です!その間にV-22で再び彼らを回収すれば、最低限貴重な艦娘戦力の損失は避けられます!!」

空軍中佐は身を乗り出し、眼を見開いてベルに詰め寄る。

彼の視線には、軍の垣根を越えて一刻も早く死地にいる友軍を救いたいという強い思いしか宿っていなかった。

「大佐、首都を救いたいというお気持ちは解ります!!しかしこればかりはどうか、どうか今すぐに中止を!!」

(`∠´)「………」

形振り構わず、額が机に着きそうな勢いで中佐は頭を下げる。

ベルは、眼を細めて彼をしばらく見つめ………

「………っ!!」

机を開けると、爪切りを取り出して手の爪を削り始めた。

「大佐、大佐!!貴官……正気かお前はぁ!!!」

「落ち着け!!………大佐、今はふざけているときではないのです!いい加減友軍の救援を!!」

腰の拳銃に手をかけた提督を抑えながら、陸軍少佐がもう一度声を上げる。

提督を止めてはいたが、彼も最早我慢の限界が近いことは明白だ。彼の右手も今にも腰のホルスターに手を伸ばしかねない姿勢で痙攣しており、あと一つ何かきっかけがあればベル=ラインフェルト陸軍大佐は味方の「誤射」によって命を落とすことになるだろう。

(`∠´)「さっきの話に戻るが、私は士官学校時代完全な天狗だった。

図上演習では特に本当に敵無しでね。視察に来た将軍方をお相手したときは、わざわざ自軍に不利な場面設定をした上で叩きのめし面と向かって皮肉を浴びせてしまったほどだ」

だが、彼はそんな空気を意に介さずに昔話を再開した。
いよいよ激怒した将校達を眼で制しながら、訥々と語り続ける。


(`∠´)「そんな私を、一人だけ負かした奴がいてね。

いやぁ、アレは本当に苦い薬だったよ。何せ今私が将軍方に対して行った設定と同じ内容で、しかも私が優勢側で戦って負けたんだ。

手も足も出ない完封だった」

当時の悔しさを思い出したのか、ベルの視線がすっと細まる。

口元が不満げに尖っているのを見ると、未だに「苦味」は残っているようだ。

(`∠´)「その後何度も新しい作戦を考案し、何度もあらゆるシチュエーションで演習を挑んだ。だがその都度、私は手もなく捻られてね。

ふん、アイツのすました顔は今でもたまに悪夢に見るよ。今この瞬間も、奴さんは神経質な早口で部下に捲し立ててるんだろうさ」

「……ラインフェルト大佐、その話が今の我々の現状と何の関係が」

(`∠´)「その、唯一私の鼻っ柱をへし折った男は今、ベルリンにいる」

「………は?」

唐突に放たれた一言に、更に詰め寄ろうとした陸軍少佐の動きが止まる。

ベルは、机の上に一冊の冊子を置き、あるページを開いて指さした。

ベルリン戦車道博覧会のパンフレットの最後のページ。そこには、当日の会場警備を担当する陸軍将校の名が書かれている。

(`∠´)「君らの言っていることは、本来正論だ。

ベルリンに旅団規模の残存戦力がある、希望的観測だ。

東側は友軍が確保している、そんな保証はない。

我々の意図をくみ取り残存友軍は動いてくれる、作戦というのも烏滸がましい下らない言い草だ。

だが、彼がいるなら話は別だ」





(`∠´)「───イヨウ=ゲリッケが指揮を執っているなら、全ての事情が変わる。

間違いなく在ベルリンドイツ軍は私の予想通りの形で戦力を残し、間違いなく彼はこの罠の最中に飛び込んだ増援の意図を読み取って動く。

これは希望的観測でも楽天的妄想でもない、【イヨウ=ゲリッケ】という存在に基づいた明確な“事実”だ」

第八波ここまで。
第九波は深夜投稿予定






《パンコウ区、全部隊の再編成完了。

車両、全て問題なく稼働。いつでも戦闘に移れます》

《トレプトゥ=ケーペニック区、ポイントK-1より指揮車。戦闘編成を完了。迫撃砲も設置しました》

《リッテンベルグ、後方支援班。現在把握している避難市民の地下施設への収容を完了。ただし、依然ベルリン市外・ドイツ国外との通信は不能。市外への避難誘導は不可能です》

《高層観測班より前線指揮車、強襲部隊は引き続き深海棲艦の包囲下で十字砲火に晒されている。長くは持ちそうもない。

また、他の区画における非ヒト型に大きな動きなし。位置情報の更新はない、オーバー》

('A`)「前線指揮車より高所観測班。情報提供を感謝する。引き続き敵の動向を注視せよ、オーバー」

《了解、監視に戻る。アウト》

一連のやりとりを終えた俺は、エノク上部の機銃座でもう一度ベルリン市街の地図を広げる。

イヨウ中佐のように軍事キチガi明晰な頭脳を持っていない俺は、考えた作戦を丸ごと頭に入れるなんて人外行為はできない。たった20分の作戦会議の中で、地図はメモ書きと矢印で隙間無く埋め尽くされている。

('A`)「………本当に、無理ゲー三昧だな今日は」

味方増援部隊に向かって放たれる艦砲射撃の轟音を聞きながら、俺は今日何度目か解らない深いため息をついた。

………どうでもいいけど、ベルリン大聖堂はちゃんと破壊しろよあの深海魚共。

(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、現状を知らせるよぅ》

('A`)「指揮車よりCP、全区画攻勢部隊の編成を完了。また、当区画においても戦闘態勢は万端、後は作戦開始を待つのみです。戦車隊、状況は?」

ξ゚⊿゚)ξ《いつでもいけるわ。全車両、状況オールグリーン》

《プーマ戦闘車、1号車から6号車まで異常なし。システムオールグリーン、戦闘に支障ありません!》

入ってきた報告に、少しだけ、本当に小指の先ほどだが気持ちが軽くなった。

プーマとレオパルト1はどちらもこの作戦の肝であり、そうでなくとも俺たちが深海棲艦に損害を与えられる数少ない保有兵器の一つだ。機器の不調で一両が機能を落とすだけでも、とてつもない痛手になる。

こんな換算がクソの極みであることを理解した上であえて言うなら、歩兵と警官隊が1000人吹き飛ばされるよりもプーマが一両破壊される方が俺たちにとっては遙かに大きな痛手になる。

('A`)(………ウツダシノウ)

ξ゚⊿゚)ξ《…………あの、ドク?》

(;'A`)そ「ひやぅっ!?」

机の上でコマと数字を動かして戦争をした気になっている、上層部のクソ野郎共みたいな思考が過ぎった自分への自己嫌悪に思わず気分が沈み込む。
どの自決方法が一番苦しまずにすむかと真剣に考えてしまった結果、無線から飛び込んできたツンの問いかけに年端もいかない小娘のような悲鳴が喉から飛び出した。

「…………クップププ」

(*;'A`)「………あー、ツン、どうした?」

「あ痛っ!?」

赤面と共に無線を手に取りながら、運転席を蹴飛ばす。エノクの運転手が恨めしげに此方を睨んできたが、無視。上官侮辱罪じゃ上官侮辱罪。射殺されなかっただけありがたく思え。

('A`)「………まさかと思うけど故障が発覚したとかやめてくれよ。もしそうならすぐにも作戦の変更を」

ξ;゚⊿゚)ξ《そこは安心して頂戴、例え急ピッチのチェックでもフランス戦車道の名にかけてどんな異常も見逃さないから。

そうじゃなくて、戦車隊の指揮は本当に私でいいの?私フランス人なのよ?》

('A`)「は?……あぁ、なるほど」

一瞬質問の意味を理解しかねたが、ついさっきの作戦会議(といえるような内容は時間の問題でできていないが)の様子を思い出して納得する。

俺とイヨウ中佐はおろか、他の部隊指揮官やレオパルト1の乗組員達まで満場一致で戦車隊の指揮官代理を任されたことに戸惑っているようだ。まぁ、本来の指揮官まで手放しで喜びハグまでやってたのは俺も少し驚いたが。
それにしても、派閥争いの誘いを突っぱねて国外に飛ばされる程度には図太い神経のくせに変なところで気が小さいな。

思わず漏れた笑いが無線に入らないように、慌てて咳払いで誤魔化した。

(=゚ω゚)ノ《もっと自信を持って欲しいよぅ。これは君の実力を正当に評価した上での配置だから、誰も君のことを悪く思うことはあり得ないよぅ》

イヨウ中佐が、彼にしては静かな口調でツンを諭す。語尾が僅かに震えているのを聞くに、彼もツンの自己過小評価におかしみを覚えたのかも知れない。

(=゚ω゚)ノ《リスボンでの君の戦車乗りとしての手際は、マントイフェル少尉の作戦指揮同様僕たちの間でも高く評価されてるよぅ。

ましてや、ベルリンに配備されていたレオパルト隊はほとんどが新兵。寧ろ、君の深海棲艦との戦闘経験は戦車隊の運用に無くてはならないものだよぅ》

ξ゚⊿゚)ξ《……》

《そうですよ中尉!!もう少し自信を持って下さい!!》

ξ;゚⊿゚)ξ《わっ》

中佐の台詞の後に続いて、戦車隊の乗り手の一人が声を上げた。
そしてそれを皮切りに、彼女たちは次々にツンに向かって思いの丈をぶちまける。

《私たちはドイツ軍人ですけれど、同時に中尉と同じ戦車乗りでもあるんです!中尉が優れた戦車乗りであることを、私たちはよく知っています!》

《祖国を、戦友を、国民を護るためには下らないプライドなんか必要ないです!中尉、私たちを勝利に導いて下さい!》

《ドイツ戦車道の団結力をお見せ致しましょう!私たちは、皆中尉のいかなる命令にも従います!!》

ξ*゚⊿゚)ξ《……皆》

《例え抱かれろと命令されても、私たちは喜んd……謹んでお受け致します!!》

ξ゚⊿゚)ξ

………ん?

《おい1号車ふざけんな!お姉様と同じ車両だからって抜け駆けすんなや!!》

《はっはっはっざまぁwwww!ゲリッケ中佐に“一番練度が高い”って評価受けた結果だぜwwww!?文句は自分の腕前に言うんだなぁ!!》

《3号車より指揮車!1号車に砲撃許可を、砲撃許可をぉおおおおお!!!》

《ざっけんな3号車お姉様にも傷つくだろうが!!》

えっ、何思いの丈ってそういう方向?待て、この戦車隊って全員ソッチの趣味?

《ツンお姉様hshs!!ツンお姉様hshs!!》

《ツンLove!!ツンLove!!》

《私、この作戦で生き延びたらお姉様に抱いて貰うんだ………》

('A`)「これは酷い」

(=゚ω゚)ノ《これは酷い》

やだ………ドイツの戦車道終わってる………

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ《前線指揮車並びにCP、至急ツン=デレ中尉の配置転換を具申します》

('A`)「……クソッ、深海棲艦のジャミングか!?ツンの声がまるで聞こえないぞ!!」

(=゚ω゚)ノ《なんてことだ、レオパルト1の1号車だけ通信が途絶えたよぅ!!奴等なんて高度な電子戦を行うんだよぅ!!》

ξ;゚⊿゚)ξ《いやぁああああ!!!!》

………ツン、強く生きろ。

あと、安心しろ。だいたいの男はそういうの嫌いじゃないから。

《────高層観測班より指揮車並びにCP、深海棲艦主力部隊が南方の友軍増援部隊を完全に包囲!!敵主力艦隊の集中展開完了を確認!!》

('A`)「………!」

ξ;゚⊿゚)ξ《っ》

(=゚ω゚)ノ《………いよいよかよぅ》

和気藹々とした(約一名除く)、戦場に似つかわしくないやりとりがその報告を聞いて終わりを告げる。

敵主力部隊の展開。それは、俺たちの作戦が遂行されるための最後の材料が揃ったということだ。

空気が、張り詰める。眼前の味方を一刻も早く助けたいという信念と、死にたくないという生への執着。恐怖と勇気とがない交ぜになって、誰もが表情を硬くする。

(=゚ω゚)ノ《───Achtung!!》

張り詰めた空気の中で、イヨウ中佐の声が無線越しに響く。

(=゚ω゚)ノ《東街区に展開する、全ての部隊に伝達!これより我々は、友軍増援部隊の救援とベルリン市の奪還を目指して反転攻勢へと移る!

敵は強大であり、この作戦はきっと困難を極める、多くの犠牲者も出る!!そしてはっきり言って、成功するという確実な保証もない!》

中佐の声からは、再び震えもどもりも消えていた。決して大きな声ではないけれど、朗々と、はっきりとした口調で俺たちに語りかける。

(=゚ω゚)ノ《僕は、君たちに「死んでこい」と今から命じるクソ野郎だ!だが優秀な兵士であり、警官であり、人間である君たちは、クソ野郎な僕の命令に従う必要は微塵も無い!

名誉なんて必要ない、誇りなんてかなぐり捨てろ!そして何としても生き残り、僕に向かって中指を突き立てて眉間に風穴でも開けてやれ!!》

張り詰めた空気が熱される。語られる言葉に誰もが高揚し、武器を握る手に自然と力がこもる。

(=#゚ω゚)ノ《名誉の死も、英雄的な働きも、奇跡的な生存も、僕は君たちに求めない!!ただ君たちが、最後まで“人間”としての責務と生を全うすることだけを望む!!》

(=#゚ω゚)ノ《君たちの任務はただ一つ!!

化け物共に、目に物見せてやれ!!》

《《《Jawohl!!》》》

(=#゚ω゚)ノ《────Angriff!!》

イヨウ中佐の号令が、無線を通じて全ての部隊に伝わる。

それを、合図として。

ξ#゚⊿゚)ξ《Panzer vor!!》

(#'A`)「Los Los Los!!」

4000人の“人間”が、“化け物”に向かって攻撃を開始した。


《アルジャジーラの取材に対して中東主要国の外交部は、深海棲艦がヨーロッパから流入してくる可能性について国の枠組みを超えた対策が必要だと共通の認識を表明しています》

《イタリア政府は先ほど、ドイツ領南方のレヒフェルト空軍基地と連絡がついたと発表。現在艦娘戦力を含めた増援部隊の派遣に向けて軍の編成を開始しているとのことです》

《ロシア連邦政府は、ヨーロッパ全域の失陥を防ぐためには熱核攻撃も辞すべきではないと談話を発表。常任理事国のアメリカ、イギリスは反対の意と併せて強い不快感を示していますが、中国政府はロシアの地政学的な事情を考慮すべきだと二国を牽制しました》

《フランス政府首脳は深海棲艦のパリ到達を防げなかった場合に備えて、政府機能の移転先を模索中です。また、国土全域が陥落した場合の亡命先も選定を開始したとの噂がTwitterに流れ、フランス国内は各地で暴動と混乱が相次いでいます》

《現在デンマークはほぼ全土が深海棲艦の襲撃を受け、通信が完全に途絶した状態になっています》

《イギリス国防省は、ドイツ・フランスの失陥による深海棲艦の総攻撃に備えて近隣海域を封鎖したと発表しました。イギリス海峡には現在クイーン・エリザベスを旗艦とした空母機動艦隊と艦娘のウォースパイトが展開し、厳戒態勢を敷いています》

《茂名官房長官は先ほど緊急記者会見を開き、ヨーロッパにおける在留邦人の保護とポルトガル政府からの要請を理由とした欧州特派部隊の編成に入ったと発表しました。

この部隊は赤城、大和ら艦娘を中核とした戦力になる予定ですが、韓国、中国、北朝鮮は帝国主義の復活であると日本のこの動きに反発を見せています》

《ホワイトハウスより第六艦隊とヨーロッパ各空軍基地、更に艦娘サラトガによるドイツ本土への共同攻撃作戦を発動したと公式発表がありました。既にイギリス・レイクンヒース空軍基地よりF-15E並びにF-15C/Dが発進、間もなく北部ノルデンを中心に第一次攻撃が行われる模様です》

第九波投下完了。
第十波はお昼頃。

ようやく折り返しになります。

オットー大帝「乙じゃ」

フリードリヒ大王「大儀である」

ビスマルク首相「おつおつ」

テオドール・ホイス大統領「その調子」









《空中管制機【Angel-Ring】より全機、状況を報告せよ》

《Dragon-01よりAngel-Ring、当編隊は全機オールグリーン。戦闘に問題なし》

《此方Boxer-01、全機問題なく飛行中。腹に子供を抱えてるんでね、しっかりエスコートを頼むぜ》

《Witch-01よりBoxer-01、あんたのそれは妊婦じゃなくて悪性腫瘍だろ?》

《おい、口を慎めマーニー》

《慎むのは二人共だ、私語をやめろ。

Falcon-01よりAngel-Ring、全機異常なし》

《よし、Angel-Ringより全機に伝達。我々はこれより、ドイツ北部沿岸奪還作戦の一環としてルール地方への爆撃を敢行する。

我々の目標は、ドイツ連邦軍の管理下にあった艦娘艤装製造工場の破壊だ》

《BoxerよりAngel-Ring、そんな真似をしたらドイツだけじゃなくフランスやイギリスも黙ってないんじゃないか?ドイツの艤装製造技術は図抜けてる、コマンダン=テストやウォースパイトにも必須の筈だが》

《南方のドイツ残存軍司令から、イタリアを経由して既に正式に依頼が為されている。

通信途絶から10時間が経過し、最早製造工場は間違いなく占拠されている状態のようだ。敵になんらかの形で利用される可能性も否定できない以上、破壊するのが得策という判断らしい》

《ついでに言うと合衆国政府の判断とも一致している、と?》

《あぁ、既にトソン大統領は攻撃命令に署名済みだ。ジェントルマン諸君、人間様を嘗め腐った化け物共に存分に爆弾の雨をプレゼントしてやれ》

《《《Yes sir!!》》》

.

《大佐、第六艦隊より通信!サラトガ-05、サラトガ-07が艦載機隊を発艦、レイクンヒースの航空隊と連携してノルデン地方への攻撃を開始したとのことです!》

《サラトガ-06よりルール地方制空部隊が発艦、問題なく該当空域に侵入したとのことです。

深海棲艦艦載機と接敵、交戦中の模様》

《よし、これで深海棲艦の艦載機・護衛機はある程度抑え込める。全機、あと5分で作戦空域だ。心してかかれ》

《Dragon-01, Roger.

しかし深海棲艦の奴等、何が楽しくて陸なんかに上がってくるんだ?》

《Witch-01 Roger.

聞いた話だと、深海棲艦共は艦娘同様ヒト型は女を模した奴しか確認されていないらしい。セックスでもしに来たんじゃないのか?》

《Boxer-01, Roger.

はっ、海の中だが男日照りってか?なんなら俺のレミントンでヒーヒー言わせてやりたいぜ》

《Falcon-01, Roger.

………マーニー、ジェイムス、お前らがよく女に振られる理由が今よくわかったよ》

《おいFalcon-01、先にお前を撃ち落としてやろうか?》

《対地攻撃機で制空機にドッグファイト挑む気かバカ。あと四分だ、そろそろ見える頃か?》

《此方Dragon-01、目標地点を視認した────おい、Angel-Ring、本当に地点座標はここであってるのか?》

《………。そのはずだ》

《一体何だありゃ?黒い………あぁ、クソ、何て言えばいい?とりあえずろくでもない代物なのは確かだが》



《───要塞、か?》


《地表、物体周辺に膨大な数の非ヒト型深海棲艦を確認。また、ヒト型も多数展開している模様です。

少なくとも深海棲艦の拠点であることは間違いありません》

《通信途絶から10時間しか経ってないはずだよな!?一体何が起きたんだ!?》

《とにかく今は我々の仕事をこなすだけだ。全機、攻撃態勢を────》

《………おい、何か上がってきてるぞ?》

《黒い……鳥………?》

《────レーダーに反応!所属不明の機影が接近!迎げk

《!? Angel-Ring、応答しろ!Angel-Ring!!》

《Negative!! Angel-Ring down!! I repeat, Angel-Ring down!!》

《Enemy attack coming!! All unit, Break!! Break!!》

《クソッタレ、なんだこいつら!?》 《Ahhhhhhh!!?》
   《Doragon-3, one hit!!》
《Falcon-04、回り込め!援護しろ!》    《後ろに着かれた、振り切れない!》
  《Fox-2! FOX-2!》      《撃ってきやがった!!》
《Falcon-03 Lost!!》
  《Mayday Mayday Mayday》《何なんだよこいつら、速いぞ!!》
《八時方向から新手だ!!》《爆撃隊、退避しろ!!》
《Shit, Boxer-01 down!!》    《Falcon-01, Bogy behind you!! Break!! Break!!》
  《Help me…!!》





《Jesus………!!》



.








.








.







「生き残る種とは、

最も強いものではない。

最も知的なものでもない。

それは、変化に最もよく

適応したものである」

「チャールズ・ダーウィンの有名な言葉だ」

「これは、我々人類の歴史そのものを表した言葉と言っても過言ではない。

我々は常に進化と進歩を続け、他の種族に対して圧倒的優勢を作り出すことによって栄華を極めてきた」

「だが、進化とは人類の特権的な存在ではない。

全ての生物は、常に進化を続けている。人間は単に、その速度が少しだけ速かったに過ぎない」

「そう、“我々だけの特権”ではないのだ。

いつから錯覚していた?敵は進化をすることがないと。

いつから勘違いしていた?この戦争は代理戦争であり、標的は狩られるだけの存在でしかないと」





( ФωФ)「深海棲艦は進化している、我々人間との“生存戦争”に勝利するために。

このことにいち早く気づき、同じように“進化”を始めることができた国家だけが、この戦争に勝利するのである」

第十波投下完了。
次の投下は深夜に












OM642?270?6気筒ディーゼルエンジンが咆哮し、車体は身震いするように揺れ続ける。降りしきる雨が、猛スピードで疾走する車体を濡らし続ける。

狸(Enok)なんて可憐な相性とは裏腹な、獰猛極まりない排気音をまき散らしながら四台のLAPV軽装甲車は瓦礫だらけのベルリンの街を駆けていく。

(;'A`)「……っ」

優雅なドライブ……なんて言うにはほど遠い乗り心地だ。
上層部に半ば押しつけられたものとはいえ、バカンス中に味わいたいものではない。

いや、そもそもバカンス中とかは関係なく。

『────ォオオオオオオオオ!!!!』

(;'A`)「右手に非ヒト型確認!回避行動!!」

「Jawohl!!」

おぞましい化け物を相手取った命がけのカーチェイスなんて、いつどんなときだって御免被る。

ほんの100メートルほど先にこんもりと小山のように盛り上がった、黒い巨大な塊。立ち並ぶ家の隙間から赤い眼がぎょろりと此方を睨み、塊はおもむろに周りの建物を突き崩しながら身体を起こした。

角張った頭部にくっついている丸みを帯びた白い胴からは、用途不明のケーブルのようなものが伸びて尾まで繋がっている。見るからに怪物然とした巨躯とは不釣り合いな、ちょこんと張り付いた飾りのような脚がかえって奴の姿をより醜悪に仕立て上げる。

イ級と違って剥き出しの、僅かに端が上がった口はまるで俺たち人間を嘲笑っているかのようだ。

《駆逐ロ級後期型、eliteを視認!》

(#'A`)「そのまま走行を続けろ!射撃を開始する!!」

運転席に向かってそう叫びながら、銃座を回転させ照準を奴の鼻っ柱に向ける。

(#'A`)「Feuer!!」

引き金を引く。ラインメタルMG3が火を噴き、7.62mm?NATO弾が凄まじい勢いで銃口から吐き出された。

『オオオオオオンッ!!!』

毎秒19発という頻度で放たれる機銃弾の雨は、しかしながら生ける戦艦の皮膚を貫くには役者不足にも程がある。

表皮で弾ける火花は奴さんに痒みすら与えていないらしく、ロ級は無機質な眼で此方を見据えながら口を開いた。

主砲が、顔を覗かせる。

('A`#)「右に曲がれ!!」

《了解!!》

『ウオオオオンッ!!!』

俺の叫び声、エノクのタイヤが雨に濡れた路上を滑る音、ロ級の吠え声、そして主砲の発射音が順に響く。間一髪で右手の路地に飛び込んだ俺たちのほんの5メートル後ろで、砲弾が炸裂してコンクリート片が舞い上がった。

《うっひぃ、スリル満点!!》

そのまま路地を疾走する俺たちに向かって、2発、3発とロ級の追撃の砲火が降り注ぐ。そこかしこで炸裂して破片をまき散らす砲弾に、運転席からは恐怖と(理解しがたいことに)歓喜が入り交じった声が聞こえてきた。

《いいねぇいいねぇ滾ってくるねぇ!!人類を滅ぼそうとしてくる化け物達と、祖国の存亡を巡ったカーチェイス!最ッ高だね、まるでハリウッドの超大作映画だ!!あっひゃひゃひゃ!!!》

('A`;)「おい運転手!その神経の図太さは頼もしい限りだが興奮のあまりハンドル操作ミスなんて勘弁してくれよ!!よりによって指揮車両が作戦開始早々にアボンなんて洒落にならんぞ!!」

《おぅおぅ、だーれに物言ってんだい少尉殿!!このあたしがそんなヘマするわけないだろっての!!》

あからさまに箍が外れた口調での返答と共に、運転席から此方に向かって中指を立てた右手が突き出された。

ふざっけんなこの状況下で片手運転なんて冗談じゃねえぞ!!

(*゚∀゚)《ドイツ陸軍一の美少女走り屋、ツー=アハッツ様のハンドル捌きィ!!深海棲艦ごときに捉えられるかっての!!あひゃひゃひゃひゃぁ!!!》

(;'A`)「美少女まるで関係ない───うぉおおおっ!!?」

ツーがひときわ激しくハンドルを切り、雨に濡れた路上でエノクがコマのように一回転して進路を真逆に転換する。

予想進路に放たれていた何十発目かの砲弾がアスファルトに突き刺さり、爆発で車体が少し浮き上がった。

(*゚∀゚)《あっひゃひゃーーい!!》

《オオオオオォッ!!!》

そのままツーは再びアクセルを踏み込み、エノクは先ほどまでと逆方向に疾走する。此方の動きを予想していなかったらしいロ級は苛立たしげに叫んだ後、もう一度此方の予想進路へと照準を合わせ始めた。

完全に、隙だらけの動きだ。

('A`#)「停車!!総員展開!!」

(*゚∀゚)《あいあいさー!!!》

「「「Jawohl!!」」」

軽いドリフト共に急停車したエノクの車内から、同乗していた四人が転げ落ちるようにして路上に飛び出す。

彼らは素早く起き上がると、ロ級eliteに背負っていた筒を向けた。

('A`#)「Feuer!!」

『オア゛ッ!?』

4発のロケット弾がロ級めがけて飛翔し、間抜けに開らかれた大口にその内3発が飛び込む。

『ア゛

上がりかけた断末魔を掻き消し、閃光と轟音が迸る。

ロ級の巨躯が、内側から爆炎に貫かれて砕け散った。

「ロ級elite、轟沈を確認!!」

「よっしゃぁ!!ざまぁみろ深海魚野郎!!」

('A`)「喜んでる暇ないぞ、死にたくなかったら乗り込め!!」

今にもハイタッチでも始めそうな兵士達を、水を差す形にはなるがとっととエレクの中に引き戻す。

無論、俺も高揚を覚えていないわけではない。注意を引きつけられれば万々歳の攻撃だっただけに、内蔵弾薬への誘爆に伴う轟沈は“最高の計算外”だ。

だが、当然のことながらこの大戦果は、

《高層観測班より前線指揮車、其方に向かってホ級通常種三体と駆逐イ級通常種一体、elite二体、それからへ級一体が進撃中!!》

('A`;)「情報提供感謝、移動を急ぐ!」

良くも悪くも、奴等の目を引くことになる。

《総員搭乗完了!》

(;'A`)「よしツー、発進を………おっふ!?」

(*゚∀゚)《あっひょ!!》

左手20メートルほどのところに、砲弾が落下した。つーか運転席うるせぇ。何なの今の気が抜ける奇声。

『ウォオオオオオオンッ!!!』

('A`;)「お早いデリバリーだなクソがっ!!」

姿こそ立ち並ぶまだ無事な建物や瓦礫の山に隠れて見えないが、割と近くから例の胸くそ悪い咆哮が聞こえてくる。
単に俺たち人間に対する威嚇なのか或いは仲間がやられた怒りと悲しみなのか、まぁとりあえず俺たちにとってあまり喜ばしくないものが含まれていそうな響きだ。

爆発の小ささから考えて今の砲撃はイ級通常種だろうか。とにかく一秒でも早く移動した方がいい。

(#'A`)「予定通り作戦を続行する!このまま西進しろ!」

(*;゚∀゚)《あいよ、おおおおっとおおお!!?》

('A`;)「ウボァッ」

発進した直後に頭上から迫る車大の瓦礫塊。崩れてきた4階建ての小ビルから逃れるためにハンドルが左に切られ、俺の身体は不快なGに圧迫され潰れた蛙のような声を出す羽目になった。

『アアアアアアアアッ!!!』

(#;'A`)「っ、いい加減見飽きたぜてめえのツラはよぉ!!」

ビルの残骸を押しつぶしながら此方に迫る、軽巡ホ級。こみ上げてきた吐き気を無理やり嚥下し、頭部と砲塔に向かって機銃を掃射する。

『ヲォオオオオオオッ!!!』

ダメージはどうせ全くないだろうが、それでも砲塔への攻撃はあまり心地の良いものじゃなかったようだ。

ホ級は鬱陶しげに機銃掃射を左手で防ぎつつ、右手を握り込み俺たちに向かって振り下ろす。

(#'A`)「行け!!」

(*゚∀゚)《はいなぁ!!》

エンジンが唸り、車体が加速する。

迫る拳を潜り抜け、狸は再び駆けだした。

『オオォ────アアアァッ!!?』

走り出した此方に向かって、背中の砲を向けるホ級。だがその真上から、弧を描いて飛んできた砲弾が突き刺さる。

『ア゛ア゛ッ!?ア゛ア゛ア゛ッ!?』

砲撃は1発では終わらない。2発、3発、4発と途切れることなくホ級を襲う。砲塔、頭部、腕、また砲塔といった具合に、身体のあちこちが爆炎に焼かれる。

『オア゛ッ』

砲撃の飛来箇所を確かめようとでもしたのか、不用意に振り向いたホ級の左肩に120mm迫撃砲弾が突き刺さり、半ばまで埋まった後に炸裂する。

『グア゛ッ……』

腕が千切れ飛び、ぶよぶよとした肉片がそこら中に散乱した。ホ級は道路に投げ出されるようにして倒れ伏し、そのままぐったりと動かなくなった。

《迫撃砲陣地より前線指揮車、支援砲火を敢行した。効果の程を求む》

('A`)「前線指揮車より砲兵隊、敵艦は機能を停止したと思われる。支援を感謝する、引き続き前衛を援護されたし。オーバー」

《了解した、アウト》

('A`)「……さて」

最早二度と此方に砲を向けてくることはなくなったホ級の屍から眼を離し、南側の様子を伺う。

腹の底に響くような砲撃の嵐は、激しさを増し続けている。おそらく、増援部隊の展開区画は地獄の様相だろう。

一方イヨウ中佐達が展開する東側に対しては、全くといっていいほど攻撃は向けられていない。曲がりなりにも機甲戦力と火砲を保有している部隊なワケだが、深海棲艦はどうやら艦娘つぶしに全身全霊を傾ける腹づもりらしい。

それだけ、深海棲艦にとって艦娘とは脅威であり逆に人間はとるに足らない存在というわけだ。

('A`)(まだまだこっちを振り向いてくれないか、つれないね。

だがまぁ、それなら振り向いてくれるまでアプローチをするだけだ)

俺は、イヨウ中佐に通信を繋ぐ。




.
('A`)「前線指揮車よりCP、他の軽装甲車隊による陽動の進捗を伝えられたし」

(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、現在全車両が未だ健在。各区画にて非ヒト型深海棲艦の挑発誘導に成功しているよぅ》

イヨウ中佐の淡々とした戦況報告。それは俺たちの作戦が現状順調であるという何よりの証になる。

(=゚ω゚)ノ《我々東部軍への抑えとして展開していた非ヒト型は、続々と我々の対峙地点から引きはがされている状態だよぅ。

それと、君たちが撃破したものも含めて現時点で5隻の深海棲艦を撃沈、或いは戦闘能力喪失に追いやったよぅ》

('A`)「なるほど、現時点では中佐の読み通りに状況は推移していると」

(=゚ω゚)ノ《即ち、君の予想通りでもあるってことだよぅ》

………ミルナ中尉といいイヨウ中佐といい、過大評価はマンドクセェのでやめてほしいものだ。

('A`)「前線指揮車よりCP、此方は引き続き陽動にかかる。戦車隊の」

(*;゚∀゚)《────っ!!!》

('A`;)「機動攻勢準備を……うぅおおっ!?」

唐突に、ツーがハンドルを切る。車体が激しく右に流れ、振り落とされそうになった俺は慌てて銃座にしがみついた。

疾走する車体の真横を、機銃掃射が駆け抜けていく。

(;'A`)「っ!」

ハッとして空を見上げると、まさに俺たちの直上を風切り音を残して飛び去っていく影が三つ。

(;'A`)「避けろ!!」

(*;゚∀゚)《仰せのままにぃ!!》

三機の【Helm】は、猛り狂ったスズメバチのように下部の機銃を此方に向けながら猛然と降下してきた。

(*#゚∀゚)《せいっ!!》

火線が走った瞬間、ツーは急ブレーキを踏みながらエレクの車体を横に向ける。そのまま走っていれば運転席を貫くはずだった機銃掃射は、僅かに車体に届かない。

(#'A`)「逃がすかよ!!」

そのまま飛び去ろうとした編隊の背後に照準を重ね、MG3 ラインメタルの引き金を引く。

編隊最後尾の機体が火だるまになり、そのまま空中で四散した。

(=;゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、どうしたよぅ!?》

(#'A`)「前線指揮車よりCP、深海棲艦艦載機部隊の襲撃を受けている!!」

ツーが再びエレクを発進させる中、俺はなおも空に向かって弾幕を放つ。攻撃態勢に入っていた残りの2機は一度散開して射線を交わしつつも、方向を変えて再度此方に向かってくる。

いや、奴等だけじゃない。他に右手と正面からもレシプロエンジンの音が近づいてくる。少なく見積もっても20機ほどが、俺たちに狙いを定めているようだ。

(;'A`)「前線指揮車よりCP!」

奴等が迫ってくる音を聞きながら、俺は……

(;'∀`)「陽動作戦、着実に成功中!!」

俺は、口元が綻ぶのを抑えきれなかった。

(*゚∀゚)《笑顔キモっ》

(=゚ω゚)ノ《笑顔キモっ》

('A`)「ここでその反応はおかしいだろ」

あと中佐はなんで見えてんだよ。

(;'A`)「っと、ふさげてる場合じゃねえ!!九時方向から敵機、回避運動!!」

(*#゚∀゚)《Jawohl!!》

不快な摩擦音を残してタイヤが濡れた路上をスリップし、殺到してきたHelmの銃火を躱す。横っ面に反撃の対空射撃を食らわせると、蜂の巣にされた一機が錐揉みしながら墜落し道脇の一軒家に突っ込んだ。

(=゚ω゚)ノ《CPより前線指揮車、陽動作戦中のエレク各車両から同様の報告多数!深海棲艦による航空攻撃が陽動部隊に行われているよぅ!!》

(#'A`)「前線指揮車よりCP、了解!」

イヨウ中佐からの報告を聞いて、群がるHelmを弾幕で振り払いつつ俺の胸は更に高鳴った。

未だに、主力艦隊は増援のみに火力を割いており此方への本格的な攻撃はない。

しかしながら、序盤の空襲失敗で大損害を受けているはずの航空部隊を出さなければ無視が続けられない程度には、奴等は俺たちを意識し始めている。

(#'A`)「前線指揮車よりレオパルト1並びにプーマ全車2通達!!」

ならばそろそろ、強引に此方を振り向かせるときだ。






(#'A`)「作戦をフェイズ2に移行、全車両深海棲艦主力艦隊への総攻撃を開始しろ!!」

今回分ここまで。
次回投下は15:00~16:00ぐらいに

ご静聴ありがとうございました。
また、数多の乙いつもありがとうございます。


しかしなんだ前の話でも艦娘じゃなくて人類に手痛い攻撃をくらったのに深海棲艦はいまだ人類を舐めてるんだな
まあ舐められてるほうがドクオには都合が良いんだろうが

おつおつ
トリガーハッピーに続いて極限状態に適した人材がw
それにしても指揮官先頭で戦果も稼いでる英雄なのに、ツン以上に自己評価が低いよな…野郎にもてはやされるのはごめんだろうけどw

>>135
結局いつ・どこから・何を目的として、侵略者がどうやって仕掛けてくるか…ってのを人類側には未然に防げないからねえ
人類側も「いつも万全の状況で応戦できる」状態でなら互角以上に戦えても、無防備な所を完全な不意打ち・態勢の整わない状況で被害拡大…なんて事を繰り返せば深海側も成果があるわけだし

それに前回でも対応できなかった司令部に、前線を見捨てられて壊滅・戦力の消失により人類側の敗勢なんて局面すらあった訳だし(ドクの機転でギリギリ
結局「精強な軍隊」を持っていても「指揮する側」が無能だと持て余すどころか被害を増やすし、「有能な指揮官」が辣腕を振るっても「現場で動く側」が答えきれないと最良の結果にはならないし
そういう意味でも今の状況が奇跡的な上で、それでも後手に回ってる人類が絶望的でもある無理ゲーというw








“彼女”は、人間達に戦艦ル級という呼び名が付けられている種族の一人であった。

無論、そのことを彼女は知らない。そもそも彼女たちは個体はおろか種族を識別するような名前を持たず、また特に持つ必要も無かった。
彼女たちに“個人”が存在しないわけではない。だが彼女たちは、『全の意志』に全てを委ねることによってこの海の世に存在する全ての同胞達と解り合うことができた。そのため、“個”と“全”を区別する為のあらゆる事象を必要としなかったのである。

一応、『個の意志』を通して語ることで、特定の個体同士“のみ”での精神共有も可能ではあったが、そのような行為は彼女からすれば極めて非効率だった。

彼女が人間を殺すにあたっても、彼女自身には何の動機もない。
ただ、『全なる意志』が陸に上がる人間の廃滅を望んでいるためその意志に従事しているに過ぎない。そして、彼女自身はそうでなくても『全なる意志』は人間への強い憎悪を抱いていたため、自然彼女も人間を憎悪し、その抹殺を徹底する。

『全なる意志』がそれを望むのなら、彼女もまたそれを望み実行することが自然かつ効率的だからだ。


一方で、『全の意志』から離れた“彼女個人”の見解を述べるなら、彼女は人間に対して何の感情も抱いてはいない。

“彼女”にとって、そして彼女以外の全ての同胞にとって、『全の意志』が人間と呼び抹殺対象に選んだ種族は脆弱に過ぎた。下級個体以外にとって人間の武器は彼女たちの脅威とはなり得ず、今は同様に抹殺対象にカウントされている【艦娘】が出現するまで彼女たちは人類に対して圧倒的に優勢だった。

彼女たちが艦娘ではなく人類の兵器と戦うときの心境は、言うなれば虫けらを見たときの人間とよく似ている。

害にはならないが、見ていても不快だ。だから、叩きつぶす。それだけの話。







『…………』

────だから、人間が操る鉄の砲車が瓦礫を蹴散らして眼前に現れたときも。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

、、、、、、
その時点では。

彼女は単に、“全の意志”に基づく不快感と憎悪を露わにしただけだった。

現状報告2

ベルリンにおける彼我の戦力展開状況


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira136910.jpg

オレンジ太線:深海棲艦による増援部隊包囲陣

青線:在ベルリンドイツ残存戦力による防衛線

青矢印:ドクオ、ツンらの大まかな進撃路。北側がドクオ、南側がツン

赤矢印:深海棲艦側の攻撃方向





放たれた砲弾は、寸分違わぬ狙いでその“人影”に直撃する。105mm滑空砲によるAPFSDS(対装甲貫通弾)なんて普通の生身の人間が食らえば生々しい断裂音と共に飛散してしまう代物だが、響いてきたのは分厚い金属の板にぶち当たったような、生々しさとはほど遠い高い音。

そいつの周囲に張り巡らされた、戦艦丸ごと1隻とほぼ同級の耐久力を持つと言われる不可視の障壁に砲弾がはじき飛ばされる。

ξ゚⊿゚)ξ「………流石に固いわね、カルシウム取り過ぎじゃない?」

ゆっくりと此方を振り向く戦艦ル級に向けて、私は苦笑いと共にそう呟いて見せた。

長く滑らかだが、化学繊維のような不自然な光沢を放つ黒髪。顔立ちも人間基準で見て普通に“美人”といって差し支えないけれど、ピクリとも動きやしない口元やヒト型のこいつらに共通した蝋のように白い肌のせいで作り物のマネキンにしか見えない。
此方をじっと見つめる青い眼も、まるでガラス玉のように無機質で不気味だ。

ただしそのあまり人間性が感じられない雰囲気故に、身体にぴったりとフィットして線を浮き立たせた黒い服はかえって妙な艶めかしさを感じさせる。
 _,
ξ゚⊿゚)ξ

………おい待て何だあの胸の膨らみ。あれ私より明らかにあるんだけど。どれだけ低く見積もってもDはかたいぞ。
おい化け物がしていいパイオツじゃないぞふざけるなその肉塊私に寄越せ。

ξ;⊿;)ξ「フゥグッ!!!」

《隊長!?》

『!?』

25歳にしてAカップブラな自身の境遇に、思わず涙が吹き出る。

なんとなくだけど、ル級が少しだけ戸惑った気がした。

ξ#;⊿;)ξ「うぉおおお世界中の巨乳死ねぇえええええ!!!第二射ァあああ!!!」

『ッ!!』

八つ当たりの絶叫。レオパルト1の主砲が火を噴く。弾種は引き続きAPFSDS。

弾丸は再び障壁に弾かれ、まるで上から踏みつぶしたアルミ缶のようにぺしゃんこに潰れて地面に落下する。

大きなダメージを負った様子はないけれど、その攻撃で我に返ったように此方をにらみつけながら両腕の艤装を向けてくる。

ξ;゚⊿゚)ξ「全速後退!!」

《Jawohl!!》

水平射撃された砲弾が、斜め後ろに下がって射線を空けた私たちの眼前をすさまじい勢いで飛び過ぎる。

2、3キロほど彼方で、巨大な火柱が立ち上った。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

まさに「戦艦」の名にふさわしい圧倒的な攻撃力だが、ビビれば死ぬのは私たちだ。即座に砲塔を旋回させ、三発目を叩き込む。

ル級はこれを直立不動で平然と受けながら、再び艤装の狙いを定めてきた。

ξ;゚⊿゚)ξ「っ!!」

咄嗟に、機銃の引き金を引いて奴の顔面付近に弾幕を集中。戦車砲で貫けないものに7.62mm弾なんて撃ち込んだところで、当然ダメージなんて蚊に刺されたほども与えられないだろう。

『……!?』

だけど、障壁にぶち当たった弾幕は無数の火花を散らす。顔の周りに集中した射撃と激しくまき散らされる弾着の火花に視界を奪われたル級が、機銃掃射を避けるために艤装で射線を塞ぎにかかった。

ξ#゚⊿゚)ξ「前進!併せて砲撃!!」

《了解っと!

Feuer!!》

操縦手がアクセルを踏み込み、エンジンを唸らせながら私たちはル級に肉薄。20メートルもない至近距離から砲弾を叩き込む。

『────ッ!!』

ξ゚⊿゚)ξ凸「はっ、ようやくちょっといい顔したわね!」

ダメージ自体は大したことなくても、流石に超近距離から叩き込まれた戦車砲弾による衝撃は完全に殺しきれなかったらしい。

後ろに少しだけ仰け反ったル級は、態勢を立て直すと機銃座の私を睨んでくる。私は中指を突き立ててそれに応じた。

とはいえ、今姿勢を崩したのはあくまで着弾の衝撃によるもの。断じて効果的な損害を与えたわけではないだろうし、実際奴の動きには微塵もダメージは感じられない。

だけど、砲撃によるダメージは“極めて小さい”ものではあっても“皆無”じゃない。

APFSDSの貫通可能な装甲厚は、700mm。単純なスペック上の貫通能力だけで言えば、かの名高きバトルシップ・ヤマトの砲盾すら撃ち抜ける。

そう、実際にやろうとすればどれだけ気の遠くなるような時間がかかるとしても、私たちが“アンタ達を沈める力は持っている”。何発か攻撃受けて、あんたもその辺りは理解したでしょ?

流石に、カスダメとはいえ損害与えてくる相手がすぐ傍にいるのに悠長に援軍なんて相手にしてる場合じゃないわよね?



.

────さぁ。

『……………!!!』

《ル級、再び此方に照準!!》

ξ#゚⊿゚)ξ「発砲しつつ回避運動!

Feuer!!」

“艦娘”ばっかり気にかけてないで、たまには“人間”の方も見なさいな!!







(`∠´)「…………この報告は、間違いのないものか?」

「……………。あくまで、脅しの可能性はあります、100%とは言えません。

しかしながら、実際に政府談話も発表されている以上“可能性が極めて高い”と見るべき事象なのは確かです」

(`∠´)「…………」

「あの国が過激とはいえ、いくら何でもこんな馬鹿げた真似をするなんてあり得るか……!?

流石に信じられん、デマに決まっている!国際社会からも袋だたきに遭うぞ!絶対に、あり得ない!!」

(`∠´)「………あり得ないと言うことは、あり得ない」

「大佐……?」

(`∠´)「戦時において、“常識”、“秩序”、“良心”などという言葉は全て無意味だ。

そもそも考えて見たまえ、君たちは六年前のあの日まで、“海の底から現れた正体不明の化け物”と戦うことを一度でも想定したか?それこそ、六年前の君たちはそんなことを言われれば鼻で笑って肩を竦めたはずだ。

“常識的に考えてあり得ない”と」

「………」

(`∠´)「現在通信が繋がっている、国内外の全ての軍組織・政府組織に連絡を取れ。アメリカへのリーク許可は事後承諾で構わん、事は一刻を争う」

「はっ!内容は如何します!?」

(`∠´)「当然、一言一句違えずアメリカからの情報をそのまま、だ」






「『ロシア政府が、非公式にアメリカ合衆国へ以下の内容を通達した。

36時間以内に欧州における深海棲艦の制圧が為されない場合、ロシア軍は国家安全保障的観点からルール地方への戦略核兵器の使用を独断で実行する』とな」

投下完了。次はまた本日深夜~明日未明予定です






2011年10月、ソロモンアイランズ領ガダルカナル島近海で、オーストラリア海軍によって深海棲艦の【ヒト型】が初めて確認される。太平洋上で奴等と人類の本格的な「戦争」が始まってから、おおよそ二ヶ月が経過していた。

記録に残っている限りでは、彼らが遭遇したのは今日重巡リ級と呼ばれる存在2隻。何故文頭のような注釈が着くのかというと、報告到達から17分後に遭遇部隊は全艦船が通信途絶となり、交戦した敵艦隊の全容が判明しなかったためだ。

この重巡リ級の出現を皮切りに世界中の海洋で【ヒト型】が確認されるようになり、私たち人類は日本、アメリカ、イギリス、ロシアの4ヶ国を除いて一時的に世界規模で制海権を喪失した。全保有艦艇の95%が撃沈されたオーストラリア、空母遼寧を失った中国を筆頭に、文字通り海軍が「全滅」した国も決して少なくない。

《回避成功!車体運動に未だ支障なし!!》

ξ;゚⊿゚)ξ「とにかく砲撃は当て続けて! Feuer!!」

《Jawohl!! Feuer!!》

何故、これほどヒト型が人類を一方的に駆逐できたのか?

理由は当然幾つもある。単なる“潜水”だけなら戦艦や空母でも可能で、海とあればどこにでも出現することができる神出鬼没性。

イージス艦の薄い装甲など容易く粉砕する火力。

時として私たちの裏をかくこともある高い知力。

人間程度しかない大きさ故と、未だに正体が解析できていない特殊な電磁波の影響が相まってミサイルによるロックオンが不可能という技術的な事情。

主立ったものを数え上げていくだけでもこれだけのものが上げられる。

『ッ、ッッ!!』

《よし、直撃弾!!射線がぶれてます、ル級砲撃動作解除!!》

ξ#゚⊿゚)ξ「続けて撃て!! Feuer!!」

だけど、これらを備えた上でヒト型の最も厄介な点を述べるとすれば。

『…………』

《………ル級未だ健在》

ξ;゚⊿゚)ξ「……ほんっと、いやになるくらいタフねあんたたちって」

間違いなくそれは、戦艦と同等の【耐久力】だ。

非ヒト型が脅威じゃないとは言わないけれど、あいつらの場合【軽巡洋艦並み】、【駆逐艦並み】なのはあくまで火力と表皮硬度の話だ。第二次大戦当時の軽巡洋艦の装甲なんて、はっきりいって近現代からすれば陸上兵器にとっても紙のように薄く脆い。加えて、頭部或いはそれに準ずる機関を破壊すると絶命するという点は人間と全く変わらない。

そのため、状況によっては戦闘車両どころか歩兵の携行火器でも容易く撃破できてしまう。eliteやflagshipになれば流石に歩兵で太刀打ちするのは厳しくなってくるが、それでも第3世代戦車が2、3両もいれば用兵次第では完封できる。

ξ;゚⊿゚)ξ「装填手、残弾は!?」

《まだ全然余裕ですけど、流石にこのまま破壊できるほどの弾数かは判断つかないです!》

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫、私たちの目的は果たせてるわ!キツいけどもうちょい頑張って!!」

《了解っす!これが終わったらご褒美に抱いtξ゚⊿゚)ξ「お前を砲弾として撃ち出してやろうか?」

ただし、【ヒト型】の場合大きく事情が変わる。彼女たちは、周囲に張り巡らされた防護障壁それ自体が“戦艦の船体”の役割を果たしている。

『……!!!』

《くぅっ、涼しい顔で跳ね返しやがって!!》

ξ;゚⊿゚)ξ「とはいえ気は引けてる!

次は奴の左から回り込んで!とにかく照準を合わせさせないよう小刻みに動け!!」

《Jawohl!!》

要は、今私たちがやっていることは「ミズーリ級の船体に、何の計画性もなくただひたすら戦車砲を撃ち込んでいる」のと変わらない。

《……今ので丁度10発目です》

ξ;゚⊿゚)ξ「今のところ全弾命中ね。流石世界に誇るドイツ戦車道だわ」

『………』

こっちを睨み付けるル級の様子からは、私たちへのいらだちは垣間見えてもダメージなんてこれっぽっちも感じられない。流石に少しうんざりする。

《あちらさんからすりゃようやくちょっと腕の辺りに痒みが走ったくらいですかね》

ξ゚⊿゚)ξ「デコピンくらいは効いてると思いたいわね」

理論上は、装甲を貫通している以上撃沈が可能だ。少なくともレオパルト1の搭載可能弾数60発では必要量の何千分の一にも満たないだろうけれど。

私はル級の動きを注視しつつ、無線機を手に取る。

ξ゚⊿゚)ξ「レオパルト一号車より各車、応答せよ。損害、それから誘因状況を報告しなさい」

《此方二号車、タ級eliteと交戦中!敵火砲苛烈なれど、未だ誘引は継続できています!》

《六号車より一号車、ル級と交戦中。奴さんだいぶ怒ってますが、もうしばらく便所のハエの如く顔周りを飛び回ってやる所存です》

《七号車、ル級flagshipの足止めに成功中!お姉様、この戦果のご褒美に私たちwξ゚⊿゚)ξ「あ?」いえなんでもないです》

喜ばしくも驚くべきことに、全車両健在。ばかばかしい軽口を挟んで来る奴もいたけれど、それだけ彼女たちがこの一撃食らえば跡形もなく吹き飛ばされる“命がけのちょっかい”をリラックスして遂行している証左だ。

……この娘らがイベントに引っ張り出された練度不足の新兵っておかしくない?ドイツ軍の戦車道って変態と化け物育成するためにやられてんの?

今や、南街区への砲撃はほとんど止まっている。白兵戦力として投入されているであろう非ヒト型との戦闘音はそこかしこで続いているが、私はそれらの音が少しずつ近づいていることに気づいた。

ξ゚⊿゚)ξ「────全速後退!!」

ぴくりとル級の腕が反応したのを見て取り、指示を出す。力強くアスファルトを踏みしめながらレオパルト1が下がり、目の前を鉄の塊が突風を残して通過。

右手の古びたビルに砲弾が突き刺さり、一瞬で瓦礫の山になる。

よし、敵の動きもよく見えてる。

まだ、やれる。

ξ#゚⊿゚)ξ「Panzer vor!!」

奴等に一泡吹かせてやるまで、あと少しだ。


レオパルト1のエンジンが唸り、車体が雨を切り裂いてル級へと突っ込んでいく。

『─────!!!?』

それまである程度の距離をとって回避運動を繰り返しながら攻撃していた私たちの、予想外の動きにル級の眼が見開かれた。

慌てて艤装を構えるけど、その動作は酷く緩慢で私たちからすればスローモーションと変わらない。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

『!! ………ッ!?』

外す方が難しい肉薄射撃。砲弾は今まで通りル級の全身を覆う“不可視の戦艦”に激突して拉げたが。その後奴からの応射はない。

、、、 、、、、
距離が、近すぎる。

『~~~!!』

私たちと奴との距離は、今や3メートルもない。幾ら戦艦並みの耐久力があっても、“戦艦の砲撃並みの爆発”が至近距離で起きればただではすまなくなる。

こいつの圧倒的な火力は、この場にあっては寧ろ足枷だ。

ξ゚⊿゚)ξ「どうも、ごめんあそばせ」

『…………!』

勿論、ここまで近づいたところで私たちにできることもない。私たちでも接射は流石にダメージを避け得ないし、向こうの自爆と違ってダメージの比率が明らかに割に合わない。体当たりにしても、あの障壁強度を考えれば此方が壊れる確率の方が高い。

だけど、挨拶とプレゼントぐらいはくれてやれる。

ξ゚⊿゚)ξ「これ、“お近づきの印”に持って行きなさい!」

飛び下がって距離をとろうとしたル級の足下に、フラッシュバンを投げつけながら私自身は機銃座の中に伏せた。

『!!!!?!?!!!?』

炸裂する閃光、耳をつんざく破裂音。さっきの機銃掃射による目つぶしと同じで、砲弾は防げても強い光は防げない。ル級が声にならない悲鳴を上げて、眼を押さえてのたうち回る。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer Feuer Feuer!!」

即座に機銃の引き金を引きつつ、叫ぶ。レオパルト1が全速力で下がり距離をとりつつ、叫んだ数だけル級に向けて砲弾を放った。

一発目。ル級の身体が防壁越しに伝わる着弾の衝撃で仰け反る。

二発目。踏ん張りきれず、ル級は姿勢を崩して濡れた路面に足を滑らせる。

三発目。とうとう堪えきれず、ル級はばしゃりと水飛沫を立てて仰向けに地面に転がった。

ξ゚⊿゚)ξ「私たち、教科書に載るんじゃない?“世界で初めてル級を転ばせた戦車乗りたち”って」

《そいつぁ光栄ですね》

少なくとも、将来自分の子供に聞かせる寝物語としてはなかなかのネタだ。

そこまで、世界が滅びずにあってくれればの話だけど。


『─────────っっっっっ!!!!!』

《おぉ、激おこ》

ξ゚⊿゚)ξ「やべーわねあれ。完全に私らのこと縊り殺したい気持ちでいっぱいの目つきだわ」

転倒させたとは言っても、踏ん張りが利かない状態のところを突っ転ばせただけで何のダメージにもなりはしない。フラッシュバンの衝撃から立ち上がったル級は、すぐに起き上がって此方を見据える。

きっと彼女は、最早主力部隊への砲撃なんて眼中にない。海のように蒼い眼は怒りに燃えていて、両手の艤装はワナワナと小刻みに震えている。唇は心底悔しそうに噛みしめられ、もしや怒りのあまり泣き出す寸前の子供みたいな表情だ。

あのリ級以外にも、これだけ感情を露わにする深海棲艦がいるのかと少し意外に思う。

ξ゚⊿゚)ξ(ま、気持ちは解るるけどね)

私たちが眼前に立ち塞がった当初の、そして戦闘中のル級の表情を思い出す。

こいつ単体の思想なのか深海棲艦全てがそうなのかは知らないけれど、こいつら私たち人間をとるに足らない存在として見下していた。だけど、その“取るに足らない存在”に作戦を邪魔され、やかましく騒ぎ立てられ、挙げ句恥をかかされた。

きっと、腸が煮えくりかえってこめかみの辺りが熱くなって、とにかく私たちに無惨な死を与えたくて仕方ないはずだ。

ξ゚⊿゚)ξ(でもね、一つ教えて上げるわ。

こう手口ってね、あたしら人間の常套手段なのよ)

今のあんたの脳は、私たちをむごたらしく殺すことしか考えてない。

今のあんたの眼は、私たちしか見据えていない。

今のあんたの殺意は、私たちにしか向けられていない。

だから、あんたは。







「───プリンツ、僕が突っ込むから援護して!!」

「うん、任せて!………Feuer!!」

『………!!?』

一番の天敵が、すぐ傍まで来ている事に気づけない。

投下完了。

明日は更新一回の可能性が高いです。
完成していれば19:00頃に

私たちとル級が交戦する区画に飛び込んできた、二つの人影。後続している金髪の少女が、背負っていた艤装を駆動させ4門の砲を一時にル級めがけて放つ。姿勢が安定しきらないうちに放ったこともあってか、命中は一発にとどまる。

だが、一発でも戦車の滑空砲とは威力が段違いだ。“軍艦”による一撃を背後から浴び、ル級の姿勢が再び崩れた。

「食らえっ!!」

『ウッ……』

再び地面に転びかけながら、右手の艤装を杖代わりにしてなんとか堪えるル級。その横を全速力で駆け抜けながら、先行した銀髪の少n……少女が右手の連装砲を構えて追撃を加える。

『グゥッ……』

先ほどの金髪の子による一撃よりも、爆発は遙かに小さい。それでもダメージはあったらしく、ル級の表情が怒り以外の感情────苦痛によって歪んだ。

『ア゛ア゛ッ!!!』

「っと!」

崩れた体勢で主砲を放つことはかなわず、やむなく機銃掃射での反撃。銀髪の少女は横っ飛びで射線を躱し、そのまま路上で一回転。素早く身体を起こして、ル級の前方へと回り込む。

『…! ……ッ!!』

一瞬で、それも艦娘に挟撃の形を作られたル級が、初めて本気で動揺していた。

「そっちの戦車、在ベルリンドイツ軍の!?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、私はフランス人だけどね!」

「そうですか、間に合って良かった!!」

ボーイッシュな服装の銀髪の少女は、そう言って微笑みつつベレー帽を被り直す。

ちらりと、帽子に書かれた「Z1」の文字が見えた。

「ドイツ連邦海軍所属の艦娘、駆逐艦【Z1?Leberecht?Maa?】です!!

レヒフェルト空軍基地より、第1波増援軍として派遣されました!!以後、貴軍との連携戦闘に移ります!!」

ξ゚⊿゚)ξ「………っ!援軍感謝するわ、支援は任せて!!」

思わずこみ上げてきた熱い何かをなんとか堪えて、私はレーベレヒトからの言葉にそう答える。

作戦の直前、ドクが言っていた意味が少しだけ解った。

微笑みと共にかけられた言葉は、神の啓示よりもよっぽど優しくて。

『Feuer?!!』

圧倒的な力を持つ化け物に立ち向かう姿は、神様よりよっぽど頼もしい。

  _
(#゚∀゚)「Los, Los !!」

(#゚д゚ )「Allemann Feuerschutz !!」

レーベレヒトともう一人──私の記憶が正しければPrinz Eugen──に続いて小銃や対戦車砲を構えた。ドイツ兵の一団が区画に雪崩れ込んできた。さっきのレーベの言葉通りなら、彼らはさっきまで包囲下にあった増援部隊の一部だろう。

何人かは見覚えがある。異常に眼力の強い指揮官の人に、眉毛が突然変異した(頭が)軽そうな男性、それと実際に言葉を交わしたティーマス=ワーカー軍曹。

ポルトガルの地で、ドクの同僚や上官だった人たちだ。

( <●><●>)「私たちの武器はヒト型に対してまるで役に立たないことは解っています。

弾幕を防壁の艤装部分と顔面部分に集中、奴の動き、視界を制限せよ」

(#><)「グレネードは足下に!!震動と爆光は少なからず奴の牽制に繋がるはずなんです!!」

「「「Jawohl !!」」」

艦娘の影に隠れがちだけど、ドイツ陸軍の前線部隊は私達フランス軍と並んで深海棲艦との交戦経験が最も豊富だ。そのため彼らは、戦車や艦娘と連携して深海棲艦と戦うことに慣れている。

『ア゛ア゛、ゥア゛!?』

所詮は歩兵の携行火器、ほとんどはル級からすればレオパルト1よりも更に無力な存在だ。
だけど、迅速な部隊展開とその後に敷かれる猛烈な妨害射撃はル級一隻を縫い止めるには十分すぎる。

(#゚д゚ )「レーベ、プリンツ!!」

「了解、任せて中尉!!」

「確実に仕留めます!!

Feuer !!」

ξ#゚⊿゚)ξ「私達も撃って!!たとえ微かでもダメージに成るのなら撃たない理由はないわ!!」

《Ja!! Feuer!!》

『ウア゛ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?』

そこに更に、レーベレヒト、プリンツ、そして私達の砲撃が加わる。とはいえ、幾ら艦娘といっても駆逐艦と重巡洋艦。魚雷という必殺兵器が使える水上ならともかく、陸戦となれば流石にル級を轟沈させることはできない。

だけど、包囲され、身動きが取れず、反撃もままならず、ただ攻撃を受け続けるだけという現状では。

『ウ、ア゛、ア゛……ッ!!』

一気に死ねないというのは寧ろ、拷問と変わらない。

『ギぃッ!?』

鈍い金属音。

全方位から降り注ぐ砲火の中で、ル級が突然今までとは毛並みの違う呻き声を上げた。

《………砲撃が奴の艤装に当たった!!》

ル級が構える右腕の艤装、その中ほどから小さな黒煙が上がっている。それは今まさに、レーベレヒトの砲弾が防壁を貫いて“直撃”した箇所だった。

防壁の出力が弱まって、攻撃を防ぎきれなくなっている。

つまりは。

「───ル級、中破状態に移行!!」

(#゚д゚ )「ここで仕留めろ、絶対にだ!!」

プリンツの報告を受けて、ミルナ中尉が叫ぶ。レーベや他の兵士達も応えたようだけれど、全ての声は更に激しくなった砲声・銃声・爆音に飲み込まれて聞こえなくなる。

ベルリン市全てに響き渡るような、轟音の嵐。

《よし、追い詰めてるぞ!!》

《弾はまだある!いっそトドメはあたしらでいただいちまえ!!》

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

誰もが、ル級を「陸で」追い詰めていることに興奮している。一号車の搭乗員達も勝利を疑う素振りはなく、誰もがル級撃沈の瞬間を一秒でも早く迎えるために動き続ける。

ξ;゚⊿゚)ξ「─────全速後退!!」

《ひゃっ!?》

だから、私が“それ”に気づけたのは偶然以外の何物でもない。

『『────ォオオオオオオオオッ!!!』』

私の叫び声に驚いた操縦手が、車両を慌ててバックさせる。

直後、目の前の道路が盛り上がりアスファルトを突き破って私の目の前に巨大な何かが屹立した。


「……っ!? なっ!?」
  _
(;゚∀゚)「冗談だろ……!?“下から”だと!?」

『アアアアアアアッ!!!』

『オォオオオォォッ!!!』

映画【トレマーズ】の看板モンスター、グラボイズを思わせる演出で姿を現したのは、駆逐イ級、そしてハ級の二隻。

全く予想していなかった、「下から」の攻撃に私達全員の対処が遅れる。

『ゴォアッ!!』

「わっ!?」

(;<●><●>)「通常種なら十分対応は可能です!!パンツァーファウスト!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「砲塔旋回、目標正面イ級!!」

《り、了解!! Feuer?!!》

イ級の方が地面から這い出し、その足でレーベを踏みつぶしにかかる。私とティーマスが迎撃に移ったけれど、目標を急激に変えたため射線が定まらず攻撃は全て見当違いの方向に飛翔する。

そしてレーベも回避運動をとってしまったことで、包囲網の一角に巨大な隙が生まれてしまった。

『───ッ!!!』

「きゃあっ!?」

(;゚д゚?)「Hinlegen!」

全方位射撃の圧力による拘束から解放されたル級は、プリンツとミルナ中尉達に向けて機銃を掃射。彼女たちが怯んだ瞬間、よろめく身体を無理やり踏ん張って包囲網から離脱を計る。

「に、逃がさなi『ウォオオオオオオオッ!!!』あぁもう!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「砲手、ル級を狙える!?」

《無理です!あいつイ級達に射線を塞がせて……!》

ξ;゚⊿゚)ξ「Merde!!」

反撃に使われたのが機銃で、しかも足取りはまさに重傷者のそれだ。

おそらく奴の艤装はほとんど機能を停止していて、耐久面でも最早“大破”に突入している可能性が高い。下手をすれば、駆逐艦のレーベレヒトはおろかレオパルト1でトドメをさせる可能性すら0じゃない。

だけど、艦娘二人はイ級達に進路を封じられ、私達の射線も通らない。迅速な排除を行おうにも、流石に地下からの強襲に対してミルナ中尉達の混乱が収拾しきっていない。

ξ;゚⊿゚)ξ(っ、せめて、せめてル級の方の動きだけでも封じないと!このままじゃ、あいつに逃げられ────)





「────攻撃隊、出撃! Vorw?rts!」


低く、思わず背筋を伸ばしてしまうような、厳格な女の人の号令が聞こえた。

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

私達の頭上を、ミニチュアサイズの“航空機”が駆け抜けていく。
時代遅れのプロペラ式で、更に言えばBf109改───ナチス・ドイツ軍の【メッサー・シュミット】に酷似しているそれらが、手前のイ級に向けて一斉に機銃掃射を叩き込む。

「───ハイン、撃って!!」

『ヴァアッ、オアアッ!?』

『ガァッ!?』

苦悶の声を上げて仰け反るイ級の横っ面に、今度は砲弾が直撃する。

正確に、完璧に眼を射抜かれたイ級は更に声高に断末魔を上げて、ハ級を巻き込み転倒した。

『─────!?』

ξ;゚⊿゚)ξ「………!

レーベレヒト!!」

「解ってる、逃がすもんか!! Feuer!!」

一気に開ける視界、射線。イ級の妨害から解放されたレーベレヒトは、乱れた衣服を直すことすらせず街路に躍り出る。

遠ざかりつつ驚愕に眼を見開いているル級に向けて、彼女は艤装の引き金を引いた。

『ウァッ───!』

ル級は、最後の一瞬まで生を諦めてはいなかった。

彼女は此方に向かって身を翻すと、左手の艤装を盾のように構えつつ反撃を試みる。

『──────ア』

障壁を。
艤装を。
胸を。

レーベレヒトの放った弾丸が、貫く。

ル級は、ぎこちない動きで下を向く。

彼女は、一瞬自分の身体に空いた穴を見つめると、

『………ア、ァ────』

そのまま、糸が切れた操り人形のように。

雨に濡れながら、アスファルトの上に膝から崩れ落ちた。

その様子を見届けて、レーベレヒトはなおも艤装を構えつつ鋭い息を口から吐く。

「…………ル級、轟沈を確認しました!」

《ル級、撃沈………っ!!!》

《っしゃああああ!!!あたしらも!!艦娘もいたとはいえあたしら陸軍も深海棲艦のヒト型と互角に戦えたんだ!!》

ξ;゚⊿゚)ξ「喜んでる場合じゃないでしょ!!次は……イ級と……」

『ォオオオオオオオオ………』

ズシャッというしめった音で、私の言葉は遮られそのままかき消えた。目の前には全身をくまなく蜂の巣にされて息絶えたロ級とイ級の屍が転がっている。

上空を、20機あまりの小さなメッサー・シュミットが自らの勝利を顕示するように飛び回っていた。

「それにしてもエミ、お見事な指揮だったわね!どう、貴女このまま陸軍に入隊して私達のカメラードにならない?!」

「冗っ談じゃないわよ、一般人を戦争に巻き込むつもり?

それに、私は本当に口を出しただけよ。褒めるなら撃ったハインを褒めて頂戴」

「……お前、作戦行動中に勧誘行為って、何を考えてるんだ?」

「堅いこと言わないでよグラーフ!貴女だってエミの実力は道中で見たでしょ!?」

後ろから、女性同士がやり取りをする声を乗せてキャタピラーの走行音が近づいてくる。唖然としていた私は我に返って振り返り………また、ぽかんと大口を開けて思考を止める羽目になった。

ξ;゚⊿゚)ξ「ケーニッヒ・ティーガー………?」

第二次世界大戦時に最強を謳われた、伝説の戦車が止まっている。

「…………そこの車長、大丈夫か?どうも意識が混濁しているようだが」

ξ;゚⊿゚)ξそ「───へ!?あ、いえ!!」

次々と発生した事態に脳の処理が追いつかなくなっていた私の肩を、ティーガーに搭乗していた(正確には上に乗っていた)女性がポンッと叩く。

半分私に分けてくれてもバチは当たらねえんじゃねえかって思えるぐらいデカい胸と、白く透き通った、陶磁器のような肌が眼に飛び込んできて少しどぎまぎした。

それほど整ったスタイルなのに、彼女の服装は露出がほぼない。白いコートを肩からかけ、その下には黒のラインが入った軍服をビシッと着込んでいる。

………ただ、その服のサイズはなぜだか異様にぴっちりしており、艶めかしいボディラインははっきりと浮き出ている。背中や腕に艤装を付けているから、彼女もおそらく艦娘だろう。

因みにもう一人───ティーガーの上で何故か腰に手を当てて仁王立ちになっている女性は、灰色を基調とした軍服を着ているものの此方は肩がばっちり露出している。ついでに服の方はこれまたしっかりボディラインを協調するサイズに調整されていて、丈は短く素材は光沢を放つタイプと…………まぁ、言ってしまうなら艤装がないと「保護された痴女かな?」と首をかしげたくなる過激な服装だ。

今更ながら、何故艦娘達の多くはこうも扇情的な服装が多いのだろうか。

アレか、やっぱり極東のHENTAI大国日本発祥の技術だからこうなるのか。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

「………あら!」

思わず見つめてしまっていると、眼が合った。何故か、満面の笑みでふんぞり返っている。

「ふっ、ニホンで魅力に磨きをかけた結果、同じ“れでぃ”をも虜にしてしまうようになったのね。流石よね、私」

ξ゚⊿゚)ξ「何いってだお前」

「…………」

なんか残念な感じの艦娘()の足下で、ティーガーのキューポラから顔を出している車長と思わしき少女はどうやら生身の人間のようだ。

赤みがかったツインテールの髪に、ブラウンのぱっちりとした瞳。頬はうっすらとピンク色が入り、顔立ちは東洋の血が入っているのか少し幼く感じる。少し聞こえてきたやりとりを推察するに、エミというのが彼女の名前なのだろう。

女の子───エミは、仏頂面で戦車の上に頬杖を突き、黒煙が上がり続けるベルリン市街地を眺めていた。

この間に、しっかりとした方の艦娘────ドイツ連邦海軍空母、グラーフ・ツェッペリンは戦車を降りてミルナ中尉と握手を交わしている。

「よくこれだけの部隊が生き残ってくれていた。

マース、オイゲン、お前達も頑張ったな」

「あ、いえ。違うんですグラーフさん」

「私とレーベは、南に展開している残存部隊から派遣された増援なの。他に、レーベは後二隻、マックスも四隻来てるわ」

(?゚д゚?)「ドイツ全域で言えば、北部全土は事実上失陥したと言っても過言ではない。今、ドイツで組織的な抵抗が展開し得ている軍は南方と、それからベルリン市のシュプレー河以東だ」

ミルナ中尉はそう言って、グラーフさんとティーガーの上の艦娘()───相変わらずふんぞり返ったままのBismarck?zweiを交互に見た。

(?゚д゚?)「寧ろ、お前達こそよくここに来られたな。

ヴィルヘルム=スハーフェンですら通信途絶している状況下だ、奴等も戦艦と空母は徹底的に潰すと踏んでいたが」

「私とあのビスマルクは、大西洋警備の任に着いていたからな。かえってこの襲撃をうけることを回避できた。

我々はアメリカ第六艦隊と合流。極秘裏に海兵隊に同行する形でベルリン近郊に空挺降下し、作戦行動中に彼女たちを保護した」

グラーフさんはそう言って、ティーガーを親指で差す。

「戦車道展のイベントの関係で此方に来ていたところ、深海棲艦の襲撃をうけてホテルの地下に避難していたそうだ。全容は把握できていないが、ベルリンの西部や北部には彼女たち同様取り残された市民がまだ相当数いるぞ」

非常に中途半端な位置で申し訳ありませんがここで一度切ります。
次回投稿は本日夜頃予定

ξ゚⊿゚)ξ「───了解。えぇ、こっちも貴女たちと同じ状況よ。心配しないでいいわ。

あと抱かねえよぶち殺すぞ」

ミルナ中尉とグラーフさんが情報を共有している合間に、私は私で他の区画のレオパルト1と通信を繋げて戦況を確認する。

概ねのやりとりを終えて無線を一度切り、地図を広げ彼我の確認し得る現状を書き入れていく。

ξ;゚⊿゚)ξ「……ドン引きするぐらい完璧に作戦がハマってるわね」

深海棲艦側の致命的なミスは、ベルリン市東側───即ち私達が展開していた区域からの増援を防ぐために配置した深海棲艦をことごとく【非ヒト型】にしてしまった点にある。

勿論、私達の残戦力からすればたとえ駆逐や軽巡でも脅威だったことに変わりは無い。高所観測班の報告で判明していた隻数は20隻を越えていて、私達の保有する機甲戦力よりも数が多かった。レオパルト1は主砲の貫通能力こそ高いけれどレオパルト2に比べて砲口径が小さく、短時間で撃沈するには火力が足りない。

一応プーマ戦闘車のLRミサイルならば、弱点を正確に狙えればflagshipすら2、3発で沈められる。だが、こちらは残弾8発という数量的な制約がつきまとい、やはり封鎖艦隊を無傷で突破することは難しくなる。

向こうがそこまで此方の戦力事情を把握しての展開だったかは定かではないけれど、私達にとっては非ヒト型でも十分すぎる「壁」になっていた。


(=゚ω゚)ノ『じゃ、この壁を動かせばいいよぅ』

('A`)『ですね』

私は、作戦会議の時のドクとイヨウ中佐の様子を思い出す。

本当に、淡々と、何でも無いことのように。

彼らは敵の配置を見るなりこう言ってのけた。

('A`)『非ヒト型は、たとえflagshipであっても奴等の“知識階級”に比べて動きも思考も動物的です。単に釣るだけなら簡単極まりない』

(=゚ω゚)ノ『“壁”がこっちに釣られて動き出したら、その後ろから一気に機甲部隊を突入させればいいよぅ。レオパルトの走行速度は65km、奴等の陸上徒歩速度とは比べものにならないスピードだよう。

そして、主砲の貫通能力を考えれば、主力艦隊の増援部隊への手出しを止めるには十分な役者だよぅ』

('A`)『逆に非ヒト型は、eliteまでならパンツァーファウスト3と迫撃砲でも理論上はダメージを与えられます。

エノクで肉薄し攻撃をかけて何隻かに損傷を与えれば、“攻撃能力有り”と見なしてヒト型も陽動部隊の撃破を優先する可能性が高まるはずです』

(=゚ω゚)ノ『“壁”が移動を開始したら、プーマと警官隊並びに歩兵隊を市街地要所に迅速に展開。増援部隊と機甲部隊の合流まで深海棲艦の出戻りを防がせるよぅ。

ヒト型と交戦開始後のレオパルト1については………こんな言い方無責任かも知れないけれど、“各位の奮闘に期待する”としか言えないよぅ』

('A`)『そうですね、後は』

('∀`)『増援部隊が手練れ揃いであることを祈りましょう』

(=゚ω゚)ノ『笑顔キモっ』

('A`)

ξ;゚⊿゚)ξ(……ひっでぇ)

最後のやりとりは、ドクの名誉のために忘れてあげることにする。

未明の投下時にここまで上げる予定だったものを取り急ぎ。

続きは深夜になります。

地図に一通りの情報をまとめ終えると、今度は作戦経過を報告するためイヨウ中佐に無線を繋げる。

………自分で書き出しておいてなんだけど、これが「実際に上がった戦果」というのはちょっと信じられない。

ξ゚⊿゚)ξ「レオパルト一号車よりCP、経過報告です。

ミルナ中尉指揮下の増援部隊との合流並びに敵主力艦隊の撃退を完了。また、アメリカ軍の支援を受けて市内に突入していたBismarck zwei, Graf Zeppelin、それから彼女たちが保護していた民間人とも接触しました」

(=゚ω゚)ノ《ご苦労様だよぅ。~~~~》

応答したイヨウ中佐は、会話に入る前に一瞬だけ無線の向こう側で誰かとやりとりをする。

英語だったところを見ると、グラーフさんとビスマルクが同行していたアメリカ海兵隊が指揮所に到着したようだ。

(=゚ω゚)ノ《グラーフとビスマルクのことは此方でも聞いているよぅ。………欧州全体の状況はともかく、戦艦と空母の参加は僕たちにとっては僥倖だよぅ。

それと、マントイフェル少尉達の陽動機動部隊も無事全車帰還したよぅ》

ξ゚⊿゚)ξ「……そう、ですか」

………いや、いや。ホッとなんかしてないわよ?全然これっぽっちもしてないわよ?
仮にホッとしていたにしろ、それは戦友が無事だった事への安堵だから!!

ξ;*゚⊿゚)ξ「って!誰への言い訳だオラァああああああっ!!!!」

「!?」

(=;゚ω゚)ノ《えっ、何が?》

戦車の屋根をがつんとぶん殴りながら一人叫ぶ。隣で赤髪の子が驚いて此方を向き、無線越しにイヨウ中佐の困惑した声が聞こえてきた。

ξ;*゚⊿゚)ξ「何でもありません中佐!!何でもありません!!続けて戦果報告に移ります!!」

(=;゚ω゚)ノ《アッハイ》

(;゚д゚ )「……」

「……」

ξ;*゚⊿゚)ξ「こっち見んなぁああああ!!!」

(;゚д゚ )ゝ「Ja!!」

「や、Jawohl!!」

「全く、大声出しちゃダメじゃない。いつでもどこでも落ち着いてなきゃれでぃ失格よ?」

うるせーソードフィッシュぶつけるぞ!!

ξ;*゚⊿゚)ξ「せ、戦果報告!!交戦した敵主力艦隊は11隻、ヒト型8に非ヒト型3!非ヒト型3体は、2カ所でそれぞれ地下から出現!それで───」

ξ゚⊿゚)ξ「────敵に与えた損害としては、非ヒト型3体とル級通常型1体の撃沈。タ級通常型、ル級通常型とeliteが各1大破、タ級elite2隻、中破。ル級flagship、タ級flagship改、損害極めて軽微も形勢不利と見たか離脱」

「……Ich erschrecke」

顔に差していた血の気が少しずつ引き、うわずり早口だった口調が読み上げるにつれて自然と落ち着いていく。グラーフさんが私の報告を聞きながら、眼を丸くしてぽつりと呟いた。

そりゃ、確かに私はついさっきまでこの作戦に参加していた内の一人だ。
現に深海棲艦達は空からも陸からも兵を退き、こうして私達がほとんど無防備に休息をとっている状況下でも一向に再攻撃をかけてこない。立て直しが必要な大損害を与えたことも間違いないだろう。

それでも、読み上げている私自身が、こんな戦果信じられない。

ξ;゚⊿゚)ξ「彼我損害まとめ。深海棲艦側、撃沈4隻、戦闘力喪失3隻、戦闘力大きく低下2隻、健在2隻。

……当方損害、先見増援部隊の一部に死傷者。艦娘は全隻健在。また、レオパルト8両、プーマ6両、エノク軽装甲車22両、投入人員3048名に損害無し。

以上です」

非現実的な数字の羅列だった。もし私が全く無関係の第三者としてこの数字を聞いたなら、きっとそいつを鼻で笑って嘘か虚構と断じたに違いない。

それほどに一方的で、英雄的な数字だ。

だけど、この結果をもたらす采配を振るったはずの当人が返してきた反応は

(=゚ω゚)ノ《報告、ご苦労だよぅ》

その一言だけだった。

(=゚ω゚)ノ《喜ばしい結果なのは確かだけれど、深海棲艦の思考や狙い、特性、何よりマントイフェル少尉やデレ中尉をはじめ皆の力量を考えれば全て当然の帰結なんだよぅ。

君たちや増援軍への感謝こそあれ、いちいち感情を出すほどのことじゃないよぅ》

此方の驚きを察したのか、イヨウ中佐は淡々とした口調で付け加える。

……え、なんでこの人新兵と旧式戦車率いてのイベント警備担当なんて閑職に飛ばされてるの?軍の上の人たちってバカしか成れないようになってるの?

(=゚ω゚)ノ《深海棲艦は一時的に退却しただけで、彼我の物量差やドイツ北部全体の戦況を考えればベルリンの制圧を諦めるなんてあり得ないよぅ。……ま、制圧したがってる理由までは解らないけれど。

デレ中尉、避難民の人数、並びに構成を報告してくれよぅ》

ξ;゚⊿゚)ξ「了解!……あー、ねぇ、貴女?」

「………私?」

赤髪の女の子は、何が面白いのか厚い雲に覆われて水滴を降らせるばかりの空をぼうっと見上げていたが、私に声をかけられて此方を険のある目つきで睨んできた。

一瞬鼻白みかけるが、すぐに彼女が一般人であることを思い出す。それも、制服を着ている点や戦車道展のイベントに参加していたことから考えておそらく学生。深海棲艦の襲撃なんて事態が起きて……多分、彼女の周りでも、目の前でもたくさんの人が死んだ。ショックを受けて人に対する態度がつっけんどんになったとしても不思議じゃない。寧ろ、その程度で済んでいるなら彼女の精神はとても強い。

そういえば、と私は彼女が着ている服が初見ではないことを思い出す。TBLへのプロ選手も多数輩出しているドイツ屈指の名門学園艦の制服だ。国際交流でフランスの戦車道チームと何度か対戦していた学園艦なので、制服も番組を通じて何度か目にしていた。

「ねぇ、なんなの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ごめんなさい。えーと、エミ?でいいのかしら?」

「……えぇ。エミ=ナカスガ、教育グレードは11。戦車道履修者として学園艦【ジークフリート】への乗艦が許可されているわ。年齢は今年で17歳。

…………“一応”、ドイツ国民よ」

《おいおい、“一応”を強調しすぎだろ……オレはエミと同じドイツ人で、しかも同じ戦車に乗れて嬉しいぜ?》

「………ハインは黙ってて!!」

車内から聞こえた呆れたような声に対して、戦車の座席を蹴飛ばす音が響き声の主が小さな悲鳴を上げた。

エミの頬は、さっきよりももうちょっと紅くなっている。……何かしら、この胸にわき上がる親近感は。

「っ、それで!ここにいる民間人は私含めて今ケーニッヒ・ティーガーに搭乗している六人だけ。他のジークフリート生や同じホテルにいた人たちは………その、解らないわ」

ξ゚⊿゚)ξ「ああいや、無理もないから気にしないで。寧ろ、幾ら戦車があるとはいえあんな化け物達が跋扈して破壊されまくってる市街地を学生六人で────六人?」

おかしい。ケーニッヒ・ティーガーの搭乗員数は五人の筈だ。いや、勿論ジークフリート生で決まった戦車搭乗のメンバーが固まって逃げられるとは限らない。一人余分だったり足りなかったりしても何一つ不思議ではないけれど……

「あぁ、最初は私達五人だけだったけれど、ホテルの地下駐車場からこの戦車で瓦礫を吹っ飛ばして脱出した時に道路で気絶している人がいたから拾ったのよ。

それで────ちょっとっ!?」

突然、エミの隣でケーニッヒティーガーのもう一つの車上ハッチが開く。

中から、長く黒い髪を持った長身の女性が顔を出した。

「あんた何出てきてるのよ!」

「そうは言うが外の様子が見えないし、車内だとくぐもって君の声もろくに聞こえないんだ。少しは気を遣ってくれてもいいだろう。いい加減不安も限界だし………」



/ ゚、。 /「むっ。なんだこの状況は」


「あら、貴女がエミが助けた人?綺麗な髪ね!私もれでぃとして貴女みたいな髪質がほしいわ!」

/ ゚、。 /「髪についてはよく言われるな。

しかし君は……ビスマルクで間違いないのか?どうにも私が過去に会ったビスマルク達と君は似ても似つかないんだが」

ξ゚⊿゚)ξ
  _
( ゚∀゚)

「……あの人、確か」

「ふっ、当たり前じゃないの!!ヤーパンで新たな力を受け、数あるビスマルクの中でも最強の力を手に入れたBismarck zweiよ!!

流石よね、私!!」

( ><)

( <●><●>)

「お、お姉様!Bismarckお姉様!!お願いです、お願いですから少しお静かに!!」

/ ゚、。 /「なるほど、じゃあ君が今のドイツで一番強いBismarckなのか」

「その通り!!私こそが1人前のれでぃ!もっと褒めても構わないわよ!!頭が高い、控えおろう!!このハーケンクロイツが眼に入らぬかぁ!!」

「はぁ……どうでもいいけど、人の頭の上で騒がないで貰える?」

( ゚д゚ )「……」

「………ビス」

「えっ、なぁにグラーフ?

というか、皆静かね。どうしたの?」

「……頭が高いのは、お前だ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………あー、CP?」

(=゚ω゚)ノ《どうしたよぅ?いやに確認に時間がかかって────》

ξ゚⊿゚)ξ「おたくの首相拾ったわよ」

(=゚ω゚)ノ《…………》







 _,
(=゚ω゚)ノ《は?》

報告抜けてました、本日分ここまでです。
次回更新は少し幅がありますが17:00-22:00の間で行うと思います







       、、、、、
(’e’)「……何だこれは?」

セント=ジョーンズ合衆国海軍中将の困惑した声が、CICの中に響き渡る。彼のそんな声も、そしてこれほど漠然とした質問内容も、どちらも彼の部下達が今まで聞いたことがないものだった。

セントは、率直に言って優秀な軍人だ。アナポリス海軍学校を経由せず、グレナダ侵攻に始まり多くの戦場で合衆国に貢献してきた叩き上げの将軍である。

戦場に長らく身を置き深海棲艦との交戦経験も豊富な彼は、いかなる苦境、いかなる事態にも常に冷静さを保てる胆力と敵の思考を分析し的確な作戦を立案する明晰な頭脳を併せ持っていた。彼はこの戦争が始まってからも──それこそ深海棲艦という化け物が現れた直後でさえ、一度も取り乱す素振りを見せず常に黙々と任務に従事し続けてきた。

だが今のセントは、明らかに戸惑い、驚愕している。

彼は第六艦隊旗艦【マウント・ホイットニー】に送信されてきた航空写真を、ドイツ・ルール地方のある一角を映した写真を机の上に置き、額に手を置いて眺めている。

やがて彼は写真から視線を上げ、もう一度彼らしからぬ要領を得ない問いかけを口にした。

(’e’)「いったい、これは何だ?」

まるで、カーペットの上にひっくり返したインク壺の染みのような青黒く巨大な円。

深く暗い海の底を思わせる色合いのその“染み”は、ドイツ領ルール地方の一角に今現在広がっているものだ。

「つい先ほど、USEUCOM空軍司令部より共有があった画像です。

消息を絶つ直前、同地で任務にあたっていた空中管制機から送信がありました」

セントと十数年のつきあいになる海軍中佐が、硬い表情で捕捉する。彼からしても、このような事態は全くの未経験であり冷静に処理することに苦労していた。

「直径は、凡そ8キロから9キロ程度になると思われます。小さな街なら、まるごと一つすっぽりと覆えるほどの大きさです。

“染み”それ自体の成分や形状に関しては詳細全く不明。気体なのか、液体なのか、人工物なのか、自然物なのか、或いは単に地面が着色しているだけなのか、何も解らない状態です」

(’e’)「………衛星写真でより詳しい状況は確認できないのか?」

「この大規模侵攻の前後から、該当地域の周辺は映像の乱れが酷く衛星情報の収集は極めて困難になっています。

現段階では、Angel-Ringから送付されてきたこの情報が最新のものです」

(’e’)「グローバルホークによる偵察は?」

「二機を投入しましたがどちらも該当区域の遙か手前で撃墜されています。USEUCOMではプレデター編隊による威力偵察を行いましたが、此方も詳細確認はならず全滅しました」

(’e’)「……」

その報告自体には、セントは落胆のため息をついただけで特に強い反応は示さない。

無人航空機では、様々な面で有人の戦闘機に劣る。加えて相手はF-15のストライクパッケージ(戦爆連合)を殲滅した相手だ。

あわよくばの成功を期待していなかったと言えば嘘になるが、ただ機体を無駄に摩耗するだけだろうとは概ね予想していた。

寧ろ、問題は。

(’e’;)「……航空管制機による支援付きの第4世代戦闘機と真っ向勝負して、一方的に殲滅し得る航空戦力の存在だと?」

セントは、在欧アメリカ軍の司令部から送られてきている二枚目の写真に目をやる。それはAngel-Ringが撮影した画像の一部を拡大したもので、大地を覆う巨大な黒い染みの中に、少しだけ色合いの違う「何か」が混じっていた。

(’e’)「………鳥、か?」

青みがかった黒の中に、更に小さな漆黒の点が幾つかあった。丸みを帯び、鈍い光沢を放つその点は分かりやすいように白い線で縁取られている。

そして縁取りの形は、セントが言うとおり翼を広げ飛翔する猛禽類を思わせた。

「USEUCOM上層部では、その飛行物体による襲撃で攻撃隊は全滅したと見ているようです」

(’e’)「まあそうなるな。こいつは完全な新型だ」

Helmとも、Ballとも明らかに一致しない形状。加えて、ある程度の高度からとられたはずの映像で既に視認可能な大きさなら翼を含めた全幅は少なく見積もっても8メートルから10メートルになる。

そして、サイズ的に戦闘機からの視認・ロックオンは十分に可能だ。にもかかわらず、攻撃隊は極めて短時間で殲滅された。

考えられる可能性は三つ。
攻撃隊が思わぬ奇襲に動揺して対応できなかったか、この“染み”の影響で計器や兵装に異常が発生しまともな迎撃行動が取れなかったか。

或いは、ただ単に性能面で圧倒され手も足も出なかったか。

(’e’)「…………深海棲艦の進化、か」

(’e’;)

口に出してみて、セントは自身の言葉に背筋を冷やす。

確かに、深海棲艦のこの“進化”は必要事項ではあったかも知れない。艦娘の出現により「陸上活動ができる戦艦・空母」としてのアドバンテージが薄まり、従来の艦載機はポルトガルで人類側の陸上戦力に多数が撃墜された。太平洋においては、艦娘との連携によるものとはいえほぼ無力だったはずの人間の航空戦力が空対空戦闘において深海棲艦側を圧倒した。

だが、どちらも発生した時期としてはようやく一ヶ月経つか経たないかだ。

もし、深海棲艦が人類側の新戦術に対応してこの兵器を造り出してきたのだとしたら───あまりにも、早すぎる。

生物学的な、「進化」としてみても。

技術的な、「進歩」としてみても。

(’e’;)(………この件について考えるのは後だ。今は作戦に集中しよう)

首を振って迷宮に陥りかけた思考をCICまで戻す。

絶対に考察が必要な事項ではある。だが、それは今この瞬間ではない。

自分に与えられた任務は、深海棲艦に関する科学考証ではない。ドイツ・フランスを中心とした北欧の奪還と、ロシア連邦による核発射の阻止だ。

(’e’)「ドイツ北部、沿岸部強襲部隊の状況は?」

「流石に一方的勝利にはほど遠いですが、現状優勢です。各攻撃地点、アイオワやサラトガの支援もあり順調に強襲部隊が取りついています」

「ベルリン市強襲突入のために派遣した海兵隊並びにBismarck、Graf Zeppelinは何れも無事同市郊外に降下したと護衛の航空隊から報告がありました。

ベルリン市は通信が妨害されているため報告は受けられませんが、時間的には市内の残存戦力や南部からのドイツ軍増援部隊と合流している頃かと」

(’e’)「そうか……各ドイツ軍鎮守府との連絡も密に取れ。応答のある場所は優先的に救援する」

スクリーン上に映し出された、北欧における指揮下部隊の攻勢状況を見て少しだけ肩の力を抜いた。

深海棲艦の反撃は苛烈だが、広域の大規模攻勢は戦力を大きく分散させてしまったらしく報告に上がる敵兵力はどこも決して大きくない。ルール地方の制空戦失敗は衝撃的な知らせだったものの、全体として戦況を見直せば僅かずつだが挽回の目は見えつつある。

(’e’)(“ヒト型”の数が多いのは厄介だが、このまま行けばノルデン方面を中心に橋頭堡の確保は十分できる。

後は主力陸戦隊の上陸と空軍と連携した浸透作戦を行えば、ルール地方にも地続きで侵攻が可能か)

南方のベル=ラインフェルト大佐率いるドイツ軍とは連絡を取り合っているし、西ではフランス軍もなんとか体勢を立て直し防衛ラインを形成することに成功したらしい。ルクセンブルク、ベルギー、デンマークなど未だ危機的な地域が多いのも事実だが、これらに攻撃している深海棲艦は数的にも編成的にも枝葉の群体だ。

ドイツ・フランスの中核的な敵拠点を抑えれば、すぐに立ち枯れになる。なんとかオランダ軍に踏ん張って貰うしかない。



(’e’)(逆にノルデン、フランス、ベルリンさえ立て直せれば、南部のドイツ軍・イタリア軍と併せて四方からルール地方を逆包囲できる。

大方艤装工場を潰しつつ拠点にすることで内陸浸透を狙ったんだろうが、これなら………)

気がついたら、セントの視線は再び「染み」の写真に戻っていた。

「…………しかし、ルールの“これ”は本当になんなんだろうな、いったい」

「まぁ順当に行けば深海棲艦の前線基地だろうさ。さもなきゃ“巣”か」

部下達も写真を見ながら口々に意見を言い合っているが、最早それらはセントの耳に入らない。

(゜e゜;)

セントの脳内で、猛然と形作られていく仮説があった。

そうだ。何故基地と決めつけていた?奴らの知能は決して低くない。内陸浸透をしても、海中からの戦力補充を続けなければいつか物量で浸透軍は押しつぶされる。そして日本や自分たち米軍の存在がある以上、沿岸部から続く兵站線の維持などどう考えても不可能だ。

だが、仮定する。

もし深海棲艦による今回のヨーロッパ襲撃が、「ルール地方の制圧」こそが本命であり他の全てが欧州全体の動きを封じるための陽動だとしたら?

もし、生産拠点の「破壊」ではなく「確保」が目的だとしたら?

もし、深海棲艦が自然増殖やオカルト的な発生ではなく、“艦娘と類似した過程で生産される”存在だとしたら?

もし、今までの深海棲艦が「海底での製造」という、様々な制約が課せられる状況下であの物量を生み出していたとしたら?

もし、深海棲艦と艦娘の製造工程が似通っていて────その上で、奴らの方が精錬された技術力を擁していたとしたら?

(゜e゜;)「………工場だ」

「………は?」

(゜e゜;)「合衆国政府に、ノーフォークに至急連絡を取れ!!こんな兵力では到底足りない、ヨーロッパとアメリカの全兵力を動員して至急ルール地方を封鎖しないと間に合わん!!」

「ち、中将?何を……」

「よ、揚陸攻撃地点各所より緊急連絡!!」









「内陸部より膨大な数のヒト型、非ヒト型深海棲艦、並びに艦載機が襲来!!戦線維持が困難、救援を請うとのことです!!」


https://m.youtube.com/watch?v=STE_ugj7s2M

《Mayday Mayday Mayday!! Hotel-06 down!!》

《αビーチよりCIC、凄まじい砲撃を受けている!!沿岸部にル級が少なくとも10隻以上、非ヒト型は最早数え切れない!!全滅を待つだけだ、応援を寄越すかさもなきゃ退却を許可してくれ!!》

《サラトガ-05より旗艦【マウント・ホイットニー】、敵艦載機の数が多すぎます!!当方の投入可能機数の10倍、20倍……とにかく、レーダーが真っ赤よ!お願い、援護を!!》

《Eagle-01より【マウント・ホイットニー】、敵の数は膨大だ。奴らは地を埋め尽くしている。

爆撃が、意味を成さない。

あぁ……ダメだ……》

《CTF-60より【マウント・ホイットニー】、アイオワ-03が敵の砲撃により轟沈した。

I repeat, Iowa-03 down》

《CTF-61より旗艦、戦力の40%を損失しなお敵勢力は増加!最早継戦不可能、沿岸部を離脱する!!》

《USEUCOMより緊急連絡、フランス東部にも凄まじい数の深海棲艦が出現、一斉に西進を開始!!攻勢範囲が広すぎてフランス軍、ヨーロッパアメリカ空軍共に対応しきれません!!》

《CICよりCTF-62, 応答せよ!!CTF-62, 応答を………Oh my god………》

《France 24 より、全ての国民の皆様に緊急連絡をお知らせします。必ず、ご覧になって下さい。

政府は先ほど、東部防衛線の全面崩壊を正式発表、パリ以東全域の完全放棄を決定致しました。

皆様、可能な限り西へ、西へ逃げて下さい。西へ、逃げて下さい》

《これはヘンローの様子です、見えますでしょうか!!地平線を深海棲艦が埋め尽くしています!!何百という数の深海棲艦が、オランダ領内に侵入してきます!!

ヘンローの空は、敵の艦載機が飛び回っています!!もう、我々は助からないでしょう、皆様!さようなら、さようなら、さようなら!!》

《ルクセンブルク全土との通信が途絶した状態ですが、間もなくベルギーも同じ状況となるでしょう。

我々RTBFは、最後の瞬間まで深海棲艦による人類蹂躙の様をお届けし、一人でも多くの方にあの化け物達の恐ろしさをお伝えさせていただきます》

《スペイン政府は先ほど、東部に展開している全陸軍をフランスに派遣、共同防衛ラインの構築を決定し越境を開始しました。

また、スペイン全土の空港や港では国外への脱出を求める人々が殺到、多くの地域で暴動が発生し、陸軍と警官隊が鎮圧にあたっていますが効果は見られません》

《ここリスボン・ウンベルト・デルガード空港は大変なパニックになっています!!政府は全便の緊急欠航を通達していますが市民は一刻も早い避難を求めて空港に殺到、暴徒化した民間人が陸軍や警官隊と……あ、今陸軍が発砲しました!!》

《欧州脱出を求める避難民の大移動、そして暴動や略奪の波はチェコ、スロバキア、ポーランド、果てはこのイタリアにまで広がっています。イタリア国内では「艦娘の存在が深海棲艦を呼び寄せる」という情報がSNSで拡散、一部鎮守府を暴徒が襲撃し、海軍陸戦隊が発砲したとの情報も入っています》

《スイス政府は先ほど、特別国家戒厳令を布告。スイス国軍の他、全予備役に武装を命令、全戦力を持ってドイツ国境に展開しました》

《イギリス政府では、ヨーロッパにて発生した避難民の受け入れを自国民を除いて完全に拒否する意向を発表。空港、海港を軍と警察が封鎖しました。

また、既に避難受け入れをしていた一部国の学園艦をアメリカに「人道的観点から」避難させる動きも出ています》

《トルコ軍は全軍をイスタンブールに集結。また、イラク、イラン、シリア、エジプト各国もトルコ軍との連携を強化する旨を表明。国境線に陸軍を動員し有事に備える模様です》




《ロシア政府は先ほど、ヨーロッパにおける戦況の悪化に伴い事態解決のために戦略核を国連の審査を経ず強行する旨を正式に国内外に通達しました。

現刻より20時間後、深海棲艦の中心的な活動地点であるドイツ西部、フランス東部に大規模な核兵器投射を行うとのことです》



(?´∀`)《────えー、現在発生する欧州動乱に関して、在欧邦人の保護、欧州周辺国における、在邦人の安全の確保、並びに、人類全体における利益という点から見て、ロシア連邦による核弾頭の発射は我が日本国としては認められないものであります。

また、今時の状況は人類それ自体の危急存亡に直結する深刻な事態であり、深海棲艦に対する有効な攻撃能力を有する日本、並びに日本国内の鎮守府が対応することは、寧ろ国際貢献的な観点から、そして人類融和の観点から当然のことと言わざるを得ません。

よって、我が日本国は友好国たるポルトガルからの要請に応える意味合いでも、欧州救援艦隊の派遣は他国の同意や懸念を得ることを待たず、速やかに行うべきであると判断致しました。

現在既に、第1波として第一防空機動艦隊をインド洋まで派遣しており、ここから陸路を以て中東、そして欧州へと艦娘並びに陸海空各自衛隊特別外征統合部隊を展開。

欧州の混乱の収拾に、全力を尽くさせていただく所存であります》

今回分投下完了。
次回投下はまたお昼にでもできれば。

※このジャパンはフィクションです。実際の日本国の外交力、胆力、精神力と大きく異なる場合があります







(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊、第二海兵師団所属のサイ=ヨーク=ヴォーグルソンだ。階級は大尉。

以後、貴軍との連携行動に移る」

('A`)「ドイツ連邦陸軍所属、ドク=マントイフェル少尉です」

司令部テントの前に立っていた筋肉モリモリマッチョマンの変態が、名乗りと共に差し出してきた手を握り返す。中肉中背の、軍人としてはひ弱な体格の俺は190cmはかたいその巨体を自然と見上げる形になった。

某州知事を思わせる精悍な顔つきの右半分は火傷の跡で覆われ、黒い眼帯を身につけている。手は銃ダコと盛り上がった傷でごつごつした凹凸があり、まるで拳大の岩を握っているかのような感触だ。

(//‰ ゚)「……おいおい、まるでターミネーターに出くわしたみたいな表情はやめてくれ」

いかにも前線で戦い続けてきた男という風貌に少し気圧されていると、サイ大尉はフッと相好を崩した。

体格に見合った威圧感のある顔立ちは、笑うと存外愛嬌がある。

(//‰ ゚)「まぁ、このデカい図体にブルドックのクソを捏ね上げたみたいな不細工なツラだ、少しひくのも無理ないがな」

('A`)「大尉殿、失礼ながらその自虐は俺に刺さります」

(//‰ ゚)「お前さんこそ自虐が過ぎるな。実際なかなか男前だぜ。あ、でも笑顔キモそうだな」

その指摘いらねーだろこれだからヤンキー野郎は。

(//‰ ゚)「あぁ、それと俺は敬語が聞くのも使うのも苦手でな。部下にも言ってるんだが、“大尉(キャプテン)”さえ付けてくれるなら後は砕けた口調で構わない」

('A`)「しかし」

(//‰ ゚)「あー、国は違えど一応階級は俺の方が上と言うことで職権乱用だ。上官“希望”により、敬語をやめてくれ。

あくまでも希望なので聞き入れなくてもいいぞ」

('A`)「……そのやり方は卑怯じゃないか?大尉」

(//‰ ゚)「軍人にとって“卑怯”は褒め言葉さ少尉」

サイ大尉はそう言って、笑いながら俺の背中を叩く。

(//‰ ゚)「もっとも、“キャプテン”は譲れないがな。ジャック・スパロウが大好きなんだ」

('A`)「キャプテン違いじゃねーか」

船長に成りたいんなら海軍に行けよ。

('A`)「にしても、あんたもドイツ語が上手いな」

(//‰?゚)「母親が戦車道の関係者でね、11歳から3年間役員としての仕事の関係で親に着いてこっちに来ていた。

友達も多かった、俺にとってドイツは第二の故郷だ」

サイ大尉は、ふと視線を目の前の西から延びてくる人の列に向けた。

「急ぐな、急ぐな!今深海棲艦の攻撃は来ていない!ここから先は軍と警察の防衛ラインだ!既に艦娘も来ているし南から友軍の増援も到着しつつある!」

「俺たちはアメリカ海兵隊だ、外国も友邦ドイツを見捨ててない!今はとにかく東に逃げろ!まだ深海棲艦の手も及んでいない!

10km先にはドイツ警察と消防の生き残りが避難誘導の非常線も引いてる!車両による避難民移送も開始された!」

主力艦隊に大きな損害を受けた深海棲艦は、此方が艦娘戦力───それも、空母・戦艦を含む10隻と合流したこともあってか現在活動を沈静化している。

空爆も収まり逃げる隙ができた中で、西側で逃げ遅れていた人々が再び此方へ向かって避難を再開していた。ドイツ軍とベルリン市警に加えて、サイ大尉指揮下の海兵隊も避難誘導を手伝ってくれている。

西側からの避難者の中には生き残っていた陸軍や警察の残存部隊の姿もあり、彼らの中でまだ戦闘可能なものは戦力として各区画に再配置された。

「怪我人、病人、それから子供と老人はこっちに!向こうに移送用の車両が用意してある!」

「あくまで身体が弱っている者だけだ、健常者は悪いがこのまま東に歩いてくれ!さっきも言ったとおり10km先でも移送は行われている、慌てなくていい!」

東部や中央で乗り捨てられていた車両や破壊を免れた警察車両、それから輸送トラックなどを挑発して避難民の一部を移送するよう手配したこともあり、先ほどまでより民間人の避難は格段に順調にいっている。艦娘到着の噂が流れたことや実際にアメリカ軍が展開している事への安堵もあってか、避難民同士での諍いや特に懸念されていた車両移送の権利を奪い合うような事態も発生していない。

('A`)「………」

ただ、彼らの表情は一様に暗く、重く。

何よりも、今日ベルリンに詰めかけていたであろう人数からすると、その数はひどく少なかった。

明らかに車両移送の対象者なのに、兵士の誘導に気づかず虚空を見つめ虚ろな顔つきでふらふらと歩いて行く老人がいる。

警官に抱え上げられてトラックに乗せられながら、姿がない父と母を呼び泣き叫ぶ少女がいる。

かける言葉が見当たらず途方に暮れる海兵隊の隊員に縋り付き、どうしてもっと早く来てくれなかったのかと、怒りも悲しみもない淡々とした口調で問いかけ続ける中年の男がいる。

黒焦げの、かつて赤ん坊“だった”物体を胸に抱き、俯く夫の横で延々と子守唄を歌い続ける母親がいる。

それらの光景は、俺たちが「救った」人々よりも、「救えなかった」人々がどれほど多いかを突きつける。

('A`)「………」

作戦の成功によって胸の内に芽生えていた微かな高揚は、消えていた。

無論、出来うる限りの最善を尽くしたという自負はある。作戦成功に伴う南側の主力艦隊打撃がなければ、今ここに逃げてきている人々すら命を落としていたかも知れないのだと解ってはいる。

それでも、無い物ねだりだと解っていても。

例えば自分が艦娘のように単騎で深海棲艦と戦える力を持っていたとしたら、より多くの命を救えたのは事実だ。

(//‰ ゚)「奴らは、あの腐った深海魚共は俺の二つ目の故郷を灰にした。二つ目の祖国の友人達を殺した。その報いは必ず受けさせる」

俺の横で、サイ大尉のそんな呟きが聞こえてくる。巨大な掌は満身の力で握りしめられ、食い込む爪のせいで僅かに血がにじんでいた。

(//‰ ゚)「そろそろ行こうぜドク。奴らをぶちのめすための作戦会議だ」

(=゚ω゚)ノ「…………何度も言っているように、首相。その申し出は到底受け入れられませんよぅ」

サイ大尉と共に司令テントまで戻ると、既にツンや彼女が合流したミルナ中尉、大尉以外の米軍指揮官も集合していた。彼らに取り囲まれる形で、テントの中央には机を挟んでイヨウ中佐と───我が国の首相様、ダイオード=リーンウッドが向かい合っている。

彼女は、東欧で不穏な動きを見せることが多かったロシア連邦の対応を話し合うためにフランスへ向かう予定があった。深海棲艦による襲撃開始の折は丁度空港に向かう車の中にあり、難を免れたのだという。

中佐の口調は首相を前にしてもいつも通りだが、言葉の端々に幾らかの困惑と「険」が籠もっていた。

(=゚ω゚)ノ「ベルリン市の状況は確かに“今この瞬間は”沈静化していますが、深海棲艦の在ベルリン戦力は未だ強大です。我が方にも南方からの援軍やBismarckとGraf Zeppelin、アメリカ海兵隊が合流して幾らかその差は縮まりましたが、数的にも質的にも依然劣勢であることは変わりないのですよぅ。

はっきり申し上げまして、一分後、一秒後に敵の大規模攻勢が再開されても何の不思議もありませんよぅ」

/ ゚、。 /「しかしだね中佐、現在は戦時であり、戦時においては軍法上ドイツ軍の最高司令官は首相である私だ。最高司令官なら前線から離れるのはいかがなものか」

(=゚ω゚)ノ「最高司令官だからこそ後方に下がるんだよバカかお前鼻フックかますぞゴルァ」

/ ゚、。 /「あれ……私……首相……」

………仮にも国家首脳に吐いていい言動かどうかはノーコメントとして、イヨウ中佐の言葉は全面的な正論だ。

文民統制とやらの原則のために確かに多くの国が最高司令官に首相や大統領を添えているらしいが、結局のところ「民主主義」を守るための形式的な存在に過ぎない。

彼らは政治家であって軍人ではない、作戦指揮や用兵は当然専門外。はっきり言って、前線・現場に出しゃばられても邪魔になる。

(=゚ω゚)ノ「我々ドイツ国民にとって、首相だけでも生き延びて下さっていたのは奇跡に近い幸運なのですよぅ。

貴女に課せられた義務は現場で兵士達と命運を共にすることじゃない、崩壊した国を立て直し、惨事から生き延びた国民を導くことですよぅ。

この場は我々に任せて、一刻も早く避難して下さいよぅ」

/ ゚、。 /「………幸運、か」

イヨウ中佐の言葉に、首相は苦笑いを浮かべて俯く。

虚ろな、何も見ていない、外の避難者達と同じ瞳をしていた。

/ ゚、。 /「確かに、私は幸運だな。他の多くの者達の不幸と引き替えに、私は生き延びた」

ダイオード首相は、虚ろな眼を司令テントの出入り口に向ける。外から聞こえてくる、何千という避難民たちの足音に被せるように、彼女は言葉を吐き出す。

/ ゚、。 /「共に国政に携わっていた議員達も、私の周りを固めていたSP達も、皆死んだ。国民の命も、数え切れぬほど失われた。大統領閣下も安否不明だ。

海の底の化け物共に私達は国土を蹂躙され、今なおドイツ国民はその多くが危機にさらされている」

声の語尾が震え、彼女の視線がイヨウ中佐へと戻る。虚ろだった眼には、やりきれぬ怒りが込められていた。

/#゚、。 /「この上更にベルリン市民を、国民を見捨て、私に逃げろと!?無能で無力な私の代わりに奴らと戦う君たちを置いて、私に逃げろと言うのか!?」

(=゚ω゚)ノ「それが、首相の義務ですよぅ」

首相の視線を真っ向から受け止めながら、イヨウ中佐は言い放つ。

机の向こう側に身を乗り出し、負けず劣らずの怒りと決意を込めた視線を、首相にぶつける。

(=゚ω゚)ノ「そして我々軍人の義務は、“貴女たち”国民を、ドイツを、人類を害する敵に立ち向かうことです。

貴女の気持ちは解るが、ここは我々の仕事場だ」

/ ゚、。 /「………」

(=゚ω゚)ノ「首相」

イヨウ中佐は、椅子から立ち上がると首相に向けて陸軍式の敬礼を贈る。

(=゚ω゚)ゝ「ドイツを、ドイツ国民を、お願いします」








( ゚д゚ )「現在、ラインフェルト大佐指揮下の南部ドイツ軍はマンハイム・ニュルンベルクを絶対防衛ラインとした戦力展開を行っている。以北には俺たちの他、ドレスデンに混成一個旅団、さらにチェコ共和国軍からの増援部隊が展開しているはずだ」

ダイオード首相を車両移送のために送り出した後、俺たちはすぐに作戦会議に移る。

まずドイツ全域の状況を整理するため、南部から駆けつけたミルナ中尉、アメリカ軍として新たな情報を保持しているサイ大尉らがドイツ全土を記した地図を机の上に広げた。

( ゚д゚ )「それと、マンハイムを起点にフランクフルト方面にはイッシ=ストーシュル少佐指揮下の機甲部隊が攻勢に出ている。

とはいえ、あくまで陽動であって深海棲艦の撃滅は目的としていない。

……それと、フランス、ルクセンブルク、ベルギーは情報が入ってくる限りでは酷い有様だ。奴らにいいようにやられている」

(//‰ ゚)「一つ捕捉すると、西ヨーロッパへの深海棲艦の攻撃拠点はルール地方だ。奴らはこの地点を橋頭堡に、フランス方面を中心に大規模な攻勢を展開している」

サイ大尉は胸ポケットからボールペンを取り出し、地図上でルール地方の辺りをぐりぐりと塗りつぶした。

更に、オランダへと伸びる矢印を一本付け足す。

(//‰ ゚)「オランダの複数都市にも爆撃が行われたらしい。イタリア、ドイツと切り離されたことでコマンダン・テスト以外にまともな対深海棲艦戦力を持たない西ヨーロッパは防衛線すらまともに引けていない。デンマークも深海棲艦の攻撃により沈黙している。

暴動の拡大もとどまるところを知らない。このままいけばヨーロッパ全土が無政府状態に陥る時も近い。

あぁ、あと」

続けられたサイ大尉の言葉に、テントの中は静まり返った。

(//‰ ゚)「ミルナ中尉はもう聞いているかも知れんが、ロシア連邦は36時間以内にヨーロッパの混乱が治まらない場合戦略核の投射を非公式に示唆している。

それもこれは、あくまで“俺が聞いた時点で”の発表内容だ。もし正式発表を行っていたとすれば、あの気が短い大国は時間を繰り上げて発射するかも知れないな」

現状報告3

ドイツ、フランス等西ヨーロッパ諸国における人類側の展開状況

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira137288.jpg

赤線:人類側の防衛線
赤矢印:人類側の戦力展開
黒丸:ルール地方
黒矢印:深海棲艦側の攻勢展開

深夜続き投下予定。

この話に関してはここから最終章という感じです。今少し、お付き合いいただければ幸いです

体調的な問題から深夜更新を延期致します。お待たせして申し訳ありません

ξ;゚⊿゚)ξ「核………」

「そんな………」

サイ大尉の言葉に、ツンを初め何人かの士官が信じられないといった面持ちで呻き声を上げる。
  _
(#゚∀゚)「……っざけやがって」

(;-д- )「………」

そしてそれは、ミルナ中尉やジョルジュにも共通した表情だった。

('A`)「………中尉、一応聞きますがこの知らせは」

(;゚д- )「今初めて知った。知っていればラインフェルト大佐が黙っているはずがない。

おそらく俺たちがベルリン市に突入した後に入った情報だな」
  _
(#゚∀゚)「あのクソッタレのアル中国家め!したり顔の国家元首様共々脳みその代わりにウォッカでも詰め込んでるんじゃねえだろうな!?

他所の国だからって好き勝手やりやがる!!」

ジョルジュはやり場のない怒りを拳に込め、机に叩きつける。置かれていたボールペンや定規が撥ね、カタリと音を立てた。
  _
(#゚∀゚)「深海棲艦との戦争中に人間同士で争ってる場合かよ!!本気で何考えてやがんだあいつら!!」

(=゚ω゚)ノ「欧州の失陥は艦娘戦力に乏しいロシアにとって死活問題に直結するよぅ、先日アメリカや日本と防共協定を結んだ矢先にこれほど思い切った動きを見せているのは、それだけ彼らにとってこの“危機”が深刻である証拠だよぅ。

僕は、彼らの立場も理解するよぅ。国際協調も必要だけれど、“ロシア”という広大な土地に住まう国民を守るためには時に独善的とも取れる判断に走りざるを得ないこともあるよぅ」
  _
(;゚∀゚)「……っ」

イヨウ中佐は、淡々とそう述べながら一心に地図を見つめ続ける。咎めるでも同情するでもない、平坦な声にかえってジョルジュは気圧されているようだった。

(=゚ω゚)ノ「“国家間に真の友人はいない”───シャルル=ド=ゴールの言葉だよぅ。

ロシアとドイツは別に友人じゃない、ただの“共通の敵を持つ国家同士”だよぅ。正式には同盟すら結んでいないんだよぅ。

その共通の敵が、自分たちの国のすぐ傍で圧倒的な内地浸透能力を手に入れつつあるという現状で、“ただの他国”に配慮しろってのが無理な話だよぅ」

  _
(;゚∀゚)「───、ですが」

(=゚ω゚)ノ「ジョルジュ=オッペル陸軍少尉、お前はいつから国際政治の評論家になった?」

イヨウ中佐は突然顔を上げ、尋ねる。

独特の語尾もなく、少しドスの利いた、はっきりとした口調での「詰問」。さっき首相を説得していたときよりも更に険しい目つきで、加えて言えば頬も僅かに紅潮させて中佐はジョルジュを睨み付けていた。

俺はこの数時間で初めて、明確に「怒り」を露わにした中佐を目にした。

(=#゚ω゚)ノ「少尉、貴様の政治思想なんてどうだっていい。貴様がどこまでわめき散らしても、祖国に訪れる危機もロシア政府の決定も覆らない。

変わらない現実を嘆くのではなく、祖国と国民を守るために全ての力を注げ!それが貴様に、今課せられた仕事だ!!」
  _
( ゚∀゚)「…………」

一瞬の沈黙の後、ジョルジュはさっと背筋を伸ばして中佐に向かって敬礼した。
  _
( ゚∀゚)「Jawohl!!」

ジョルジュに限らず、中佐の檄に誰もが目の色を変えて地図に向き合い、各自が必死に頭を回転させる。

(;'A`)「………!」

本当はこの会議をしている時間さえ惜しいが、状況を見極めず闇雲に動いても事態は間違いなく悪化に繋がるだろう。逸る気持ちを抑えて、俺もまた身を乗り出してどこかに活路はないかと隅から隅まで地図を凝視する。

決定されたのは、あくまでも“36時間後の”核兵器の投射だ。サイ大尉が言うとおり繰り上げの可能性も否めない以上安心するわけにもいかないが、逆に言えば流石にロシアも国際的な批判を“完全無視”と決め込めるほど戦力に余裕はない。

特に、アメリカと日本がロシアの核兵器使用に沈黙しているとは思えない。

アイオワが実装されるまでは艦娘抜きで深海棲艦の攻撃をほぼ完全に退けてきた超大国と、二万隻越えとも言われる艦娘戦力を保有する【東洋の盾】との関係が決裂すれば、現段階では駆逐艦ヴェールヌイしか所持していないロシアは国防計画に致命的な傷を負うことになる。

加えて言えば肝心のヴェールヌイさえ、日本の駆逐艦響が改造されたものを一部転用して貰っている身の上だ。日本との関係が断絶すれば、今後ロシアは艦娘の補充も整備も遙かに劣る自国の技術で行わなければならない。

つまり、ロシアは核兵器を“即座に”使うことはあり得ない。アメリカへの非公式通知が大尉達が突入する前に布告されたものとなれば、まだ2時間も経過していない。国際社会に“我慢”としてアピールするには、流石に間がなさ過ぎる。

(;'A`)(……とはいえ、日本とアメリカだってヨーロッパが橋頭堡として完全に掌握されるのを防ぎたいのも同じなはずだ)

アメリカ軍が実際にドイツでの作戦を実行していることを考えても、ヨーロッパ全体の状況は良くない。現在の戦況によっては、アメリカは寧ろ積極的に核を投射したいとすら思っているかも知れない。

ロシアがわざわざ“汚れ役”を買って出てくれるのだ。「ロシア連邦の独断」という名目でいよいよとなれば核発射が黙認される可能性は低くない。

ロシア側の「言い訳」と、アメリカ側の「メンツ」が折り合う丁度良い時間は────

( ゚д゚ )「……20時間、ってところだな」

俺と同じ結論に至ったらしいミルナ中尉が、ぽつりと呟く。

ξ;゚⊿゚)ξ「核兵器の発射時刻ですか?それならさっきサイ大尉が36時間後って……」

( ゚д゚ )「ヨーロッパの状況は地図上に記されている時点からおそらく更に悪化している、少なくとも好転はあり得ない。

通信が繋がらずベルリン市外の状況は未だに確認できないが、逆に言えばそんな状態が今なお続いていることが形勢不利の証左だ。ロシアが国際社会に“最大限の我慢”をアピールしつつ核発射の時間を切り上げるとして、おそらく20時間が妥当なラインだ」

「そう言えば、僕たち以降南からの増援が全く来てないね」

ミルナ中尉の分隊に加わってベルリンに派遣されてきたレーベレヒト=マースも口を開いた。幼いのは外観だけで、ツンと交戦していたル級にトドメを刺したという武勲艦はかなり肝が据わっているらしい。

彼……ゲフン、彼女は指揮所の張り詰めた空気の中でも臆することなく声を張った。

「僕は陸軍のことをよく知らないけれど、あのラインフェルトっていう大佐がとても優秀な人であることはなんとなく解りました。

あの大佐なら、僕らの増援によって好転したであろうベルリンの状況を見逃すとは思えないです」

「更なる援軍でたたみ掛けるべきタイミングに、ドレスデンからさえ兵を動かさない……いや、動かせないということか」

グラーフの人差し指が、苛立たしげに机を叩く。

「おそらく、我々が聞いた時点よりもフランス方面の情勢が悪化していると見た方がいいな。ルール地方の敵勢力が相当増強されたか?」

(=゚ω゚)ノ「───“増強”というより、“生産”の方が近いよぅ」

「………生産?深海棲艦が何を造っているっていうの?」

(=゚ω゚)ノ「言うまでもない、“深海棲艦”に決まっているよぅ」

首をかしげて尋ねるビスマルクに答えながら、イヨウ中佐は黒く塗りつぶされたルール地方を指し示した。

(=゚ω゚)ノ「そもそも、深海棲艦が“ただの前線拠点”として使うにはルール地方は遠すぎるよぅ。この襲撃が始まった直後から電撃的に内地に兵力を送り込んでいたと仮定しても、サイ大尉達アメリカ軍が到達するまでに集結できる兵力はたかが知れてるよぅ。

ましてや、北も完全に抵抗が止んでいたわけじゃない。統率が取れていないとはいえ艦娘やドイツ軍の抵抗を受けてそれほどの戦力を南下させる余裕があったとは思えないよぅ」

中佐の指が、ノルデンの辺りとルール地方を行き来する。紙の地図上ではほんの2cmに過ぎないその“間”に、現実は200kmの距離が横たわる。

確かに、深海棲艦が他の地域へ大規模攻勢もかけられるような兵力を逐次投入できる距離ではない。

(=゚ω゚)ノ「深海棲艦の今回の目的は、おそらく最初からこのルール地方───更に言うならここにあった国営艤装工場。他の場所への攻撃は、ここから人類側の注意を背けるための陽動攻撃だよぅ」

(//‰ ゚;)「相当強固な拠点になっているとは思うが、流石に生産拠点というのは突拍子もなさ過ぎませんか?それに、生産拠点だったとしても奴らの自己増殖速度が常軌を逸している。前段階の拠点化速度も尋常じゃない」

(=゚ω゚)ノ「深海なんていう過酷な環境下にあって、物量面では常に人類を圧倒し続けている化け物共だよぅ?

“生ける軍艦”の製造技術は、間違いなく奴らに分がある」

サイ大尉の反論を、中佐は一蹴する。

(=゚ω゚)ノ「ルール地方は今や深海棲艦の一大製造拠点として機能していると見て間違いないよぅ。断言するけど今後、フランス方面並びにドイツ南部の戦況が好転することはない。

北沿岸のアメリカ軍に関しても、既に損害を受けて退却している可能性が高いよぅ」

ξ;゚⊿゚)ξ「……じゃあ、もう36時間以内の事態解決はおろか私達完全な孤立無援じゃないの。挽回のしようなんて」

(=゚ω゚)ノ「あるよぅ」

バサリと、二枚目の地図が───ベルリン市街地の地図が机の上に広げられる。

undefined

(=゚ω゚)ノ「物量面で我々が圧倒されているにしろ、向こうが損害を全く恐れないというわけではないよぅ。深海棲艦側にとっても、流石にelite以上の戦艦・空母や【姫・鬼】といった等級の損失は絶対に避けたいはずだよぅ。

現に、敵は未だに戦力再編と他地域からの戦力補充のために活動を停止している。

このベルリン市に来ている姫級────西側で確認された、“軽巡棲姫”の安全を確保するために奴らの増援が到着するまでは、今の防衛的な展開は続くよぅ」

中佐の掌がミッテ区に置かれ、そのまま左側へと滑る。

(=゚ω゚)ノ「同時に姫を割くということは、ベルリン攻撃は陽動ではあっても本気度は低くない。“重要攻勢地点で姫級が沈んだ”、この事実を深海棲艦に突きつけることが出来れば、ルール地方を含めたドイツ全域の深海棲艦の動きを確実に鈍化させられる。

同時にベルリンを解放することが出来れば、市外と通信を取ることで残存戦力と連携して北部全体での反撃にも繋がるよぅ」

拳を握りしめ、中佐は勢いよくそれを再びミッテ区の位置に叩きつけた。

その細身のどこにそんな力があったのか、机がミシリと少しいやな音を立てる。

(=#゚ω゚)ノ「戦力的劣勢は否めないどころの話じゃない。奴らはあくまで大事を取ったに過ぎず、未だ僕らは吹けば飛ぶような圧倒的劣勢だ!

だけどだからこそ、僕らはこれより総攻撃に出る!!どれほど微かでも、この好機にすがる!!

ヨーロッパ全土の劣勢を覆すには姫級を短時間で撃沈するという大戦果を上げるほかない!!」

喉の奥から、身体の底から、絞り出すような叫び声。

それはこの策が、中佐の全力をかけて練られたものであるという証。

(=#゚ω゚)ノ「作戦の最終目標はただ一つ、軽巡棲姫の撃滅とベルリンの奪還だ!各位、持てる力の全てを駆使し課せられた使命を遂行せよ!!」

「「「……Jawohl!!」」」

(=゚ω゚)ノ「……ヴォーグルソン大尉、申し訳ないけれど君の部隊にもデレ中尉同様有無を言わさず作戦に参加して貰うよぅ。今の僕らにとって、“最強の国”の兵士200人は必要不可欠な戦力だよぅ」

(//‰ ゚)「言われるまでもないことです、中佐」

中佐の言葉に、サイ大尉は少し芝居がかった笑みを浮かべ胸板を叩いてみせた。

(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊に、退却はありません」







「────Attention!!」

雨の中に佇む、「世界最強の部隊」の名に相応しい鍛え抜かれた体躯を持つ200人。彼らは副官の号令に従い、一斉に彼らの指揮官────サイ=ヨーク=ヴォーグルソンの方を向く。

(//‰ ゚)「────俺たちはこれより、在ベルリンドイツ軍の指揮下に入りこの街の奪還作戦に参加する!!」

何の前置きもない、いきなりの宣言。だが、誰も動揺は見せない。それは彼らの隊長の「いつもの姿」だからだ。

(//‰ ゚)「先に言っておく、俺たちの勝算は薄い!なぜなら敵は手強く、多く、そして賢い!!

俺たちの側には10人の艦娘が着いているが、奴らはその何倍か見当もつかん!!戦艦はただの一隻だ!!

俺たちは彼女らの盾となり、囮となり、そして死ぬために作戦に赴く!!

それも祖国の地じゃない!遠く離れたヨーロッパの、俺たちには縁もゆかりもない場所で、言葉を交わしたことすらない人々のために俺たちは死ぬ!!」

飾りもごまかしもない、厳しい任務の宣告。だが、誰も恐怖は見せない。それは彼らの部隊の「いつもの任務」だからだ。

(//‰ ゚)「だが、俺たちはアメリカ海兵隊だ!!

俺たちの任務は、“敵”を殺すことだ!!そして今、この街にいる深海棲艦の奴らは、間違いなく俺たちの敵だ!!」

サイは、真っ直ぐにベルリンの西側を指さす。

黒煙が濛々と上がる街並みを指し示しながら、彼の眼は怒りに燃えていた。

(//‰ ゚)「奴らに殺されたのは、顔も、名前も知らない人々だ!だが、同時に、生きていたとしたらどこかで俺たちのかけがえのない友になったかも知れない人々だ!」

(//‰ ゚)「任務に疲れた俺たちと、どこかの街角で美味いビールを酌み交わしていたかも知れない人々だ!!」

(//‰ ゚)「軍を退役した俺たちと、ポップコーンをかじりながらTBLの試合を見ていたかも知れない人々だ!!」

(//‰ ゚)「今日この日がなければ、明日も明後日も、1年後も10年後も、どこかで誰かと笑い合っていた人々だ!!」

(//‰ ゚)「あの化け物達が奪ったのは!顔も名前も知らぬ人々の、だが間違いなく存在した命だ!!」

理性も理論も無い、感情的な叫び。だが、誰も怒りの表情を隠さない。

全員が、サイと同じ気持ちだからだ。

(//‰ ゚)「俺はお前らに、合衆国への忠誠なんてくだらんものは求めん!!人類への貢献なんて吐き気を催すものは求めん!!

だが思い出せ!!俺たちはなんだ!!」

「「「We are United States Marine Corps!!」」」

(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊は!?」

「「「Retreat “No”!!」」」

(//‰ ゚)「海兵隊の心得は!?」

「「「Once a Marine, Always a Marine!!」」」

(//‰ ゚)「俺たちの任務は!!?」

「「「Kill the enemy!!」」」








(#//‰ ゚)「Ok, Let's Go guys!!」

「「「Sir yes Sir!!」」」

復活更新ここまで。ご心配おかけしました、体調無事回復しました。

あと誤爆本当に申し訳ありませんでした……









「ねえ、貴女は何のために戦っているの?」

「…………へ?」

避難民の警護役として駆逐艦の子たちと一緒に配置についていた私に、その問いは唐突に投げかけられた。

私の目の前には女の子が二人、東へ流れていく人混みから一歩外れた位置で立っている。

一人は見覚えがある。確かビスマルクお姉様と一緒に戦車に乗っていた子だ。お姉様はエミと呼んでいたかな?

エミは赤みがかった二の腕辺りまで伸びる髪をツインテールにまとめ、勝ち気そうなブラウン色の眼を僅かに細めて私を見つめてくる。顔立ちは少し幼い感じがして、なんとなく以前出会った日本の駆逐艦娘たちと似通った雰囲気がある。もしかしたら東洋人の血が混じっているのかも知れない。

从;゚∀从

隣に立っているもう一人の子は、髪型が真っ先に眼を引いた。美しい金色の髪を左側だけ極端に伸ばして、顔の半分を覆い隠している。肌は健康的に日に焼けていて、少しボーイッシュな印象だ。

そして……何というか、うん。首から下の“凹凸”がとてつもない。

多分、エミの発育だって彼女たちの世代にしてはいい方だと思う。ただ、彼女が隣に並んでしまうとまるで大人と子供のよう。

二人とも、世事に疎い私でも名前を知っている戦車道の強豪学園艦の制服に身を包んでいる。おそらく学友なのだろう。

「……貴女、艦娘のPrinz Eugenでしょう?」

「……ふぇっ!?あ、う、うん!!」

質問の意味を理解しかねてワケも無く二人を観察していた私に、エミはもう一度問いかけてきた。ビスマルクお姉様やデレ中尉にも向けられていた、少し険のある声音。じぃっと此方を見つめてくる一対の瞳に気圧されて、艦娘ともあろうものがたじろいでしまう。

「ええっと、さっき戦車に乗っていた子だよね?あー、もう間もなく私達の方で反撃作戦が始まるし、できれば早く避難して欲しいんだけれど……」

从;゚∀从「あーーっ!そうっすよね!!いや、本当に連れが任務中にご迷惑をおかけします!」

おそるおそる切り出した私の言葉に、被せるようにして金髪の子が応じる。彼女は申し訳なさそうに私の方に目配せしながら、エミの袖を引っ張った。

从;゚∀从「ほらエミ、とっとと逃げるぞ。それに仕事の邪魔しちゃまずいって」

「だったらハインだけ逃げて。私はこの質問が終わったら後から行くわ。ここは私を残して先に行きなさい」

从;゚∀从「ものすげぇテンプレな死亡フラグ屹立やめろよ……お前たまにとてつもなくベタだな……」

「うっ、うるっさい!!」

金髪───ハインと呼ばれた子の手をエミはふりほどく。そう力のこもった動きではなかったけれど、ハインは諦めたようにため息をついて一歩下がる。

「質問の答えを聞いたらすぐに避難するわ、それにどうしても答えたくないならそれで構わない。でも、もし答えられるのなら教えて。

貴女は何のために戦っているの?」

「………その前に一つ言わせてね。私ね、ベタにはベタの良さがあr痛ぁっ!?」

「今そのフォローはいらんわ別に!」

頭をひっぱたかれた。うー……指摘された辺りから顔が真っ赤だったから少し気を遣ったのに……

::从* ∀从::「ゴッ、グフッ、ヒーッヒーッヒーッ」

因みに横ではハインが腹抱えてメッチャ笑ってた。あ、エミが肘入れた。

痛そう。


「そっれっでっ、どうなのよ!?答えてくれるの?!くれないの!?」

「…………うん」

別に、答えても支障は無い。それで納得して素直に退くのなら、私は今すぐにでも彼女に求める答えを与えるべきだろう。

だけど私は、Prinz Eugen-09は、“答えられない”。

艦娘としてそう定められているから、私は今深海棲艦に立ち向かっている。目の前でドイツに住む人たちを死なせたくないという思いも抱いてはいる。

でもそれらは、私が“自分がどんな存在なのか”を考えないようにするための気休めだ。私は“艦娘”だから戦うんだと言い聞かせていれば、余計なことを考えずにすむからという逃避だ。

だとしたら、艦娘としての使命の下に戦っているわけでも人間としての矜持の下に戦っているわけでもない私は、結局のところ「何」になるのだろうか?

「………ちょっと、プリンツ?貴女大丈夫?」

「ふぇあっ!?」

ぐるぐるとまとまらない思考の波に呑まれた私の肩を、誰かが叩く。

ふり向くと、ビスマルクお姉様が立っていた。

「お、お姉様!?何でここに!?」

「貴女を呼びに来たのよ。ゲリッケから作戦配置につくよう指示があったわ。具合が悪いように見えたけど、そんな大声が出るなら大丈夫ね……あら、エミにハインじゃない」

お姉様はエミ達の姿を見て、少し目を丸くする。いつもニコニコしているこのお姉様にしては珍しく、少し眉間に皺を寄せる。

「貴女たち、こんなところにいないで早く避難しなさい。せっかく私とグラーフが守った命なんだもの、大切にして貰わなきゃ困るわ」

从;゚∀从「悪りい、オレはさんざん逃げるように言ってんだけどフロイラインが頑固でさ。エミ、いい加減にしようぜ」

「あんた人にテンプレだの何だの言っといて自分は思いっきり死語使ったわね……解ってるけど、本当にあと少しだけ待って。

───あのさ、ビス」

「ん、何かしら?」

おいちょっと待てビスって何だ愛称呼びってなんだ私のお姉様といつの間にこんな親しくなりやがったこの小娘おい待てゴルァ!!

「ビスは、何のために戦っているの?」

エミの問いかけに、ビスマルクお姉様は心底不思議そうに眼をパチクリさせた。可愛い。

「私が戦う理由って………そんなもの、貴女たちドイツ国民を、そして世界中の人間を深海棲艦から守るために決まっているわ。それ以上の理由なんて」

「でも、それを望んでいない人間も大勢いる」

お姉様の言葉を遮り、エミは少し強くなった口調で問い詰める。

「私とハインは、勿論ビスにもグラーフさんにも感謝してる。二人が、艦娘の皆がいてくれて良かったって思ってる。私の家族や周りの人たちも、皆貴女たち艦娘に感謝していた。

でも、貴女が守りたいと言ったドイツ人の中には、貴女たちのことを亡霊とか悪魔とか、兵器とか呼んで蔑んでいる奴も大勢いるわ」

視界の端、エミの後ろで、流れていく人混みの何割かがびくりと気まずげに身を震わせたように見える。

从;゚∀从「おい、エミ!!」

「………すっごく酷い質問をしてるって解ってる、ごめんなさい。だけど、知りたいのよ。認められず、蔑まれて、疎まれて、終わりは見えなくて、それでもなんで貴女は戦うの?なんで戦えるの?」

从;-∀从「………」

「お願い、時間が無いだろうけど───少しでいいの、教えて頂戴」

………エミは「酷いこと」と言ったけれど、彼女の指摘は完全な事実だ。

私やビスマルクお姉様や、世界中の艦娘達が「戦う船」として経験した、人類同士による大きな戦争。80年近く前に起きたその戦争から、私達は人の姿を得て蘇った。

深海棲艦という、強大な力を持つ敵から人々を守るために戦う日々。だけど、私たちに守られることを、私たちが「艦娘」として蘇ったことをよく思わない人々がいる。

平和と人道を叫び、「あの人」の名の下にハーケンクロイツを掲げていた時期のドイツを忌むべき時代だと論じるその人達。彼らは私やビスマルクお姉様、或いは日本の艦娘達を「第三帝国の亡者」と呼んで、出て行け、もう一度鉄屑に戻れと罵る。

その声は数が多いわけじゃない。けれど、決して少なくも小さくもない。

そして、日頃はその叫びに眉を顰めているような人々でも、実際に私達と出会うとその視線は淀んでそっぽを向く。

守ってくれるのは解っている。だけど、貴女は「恐ろしい兵器」だから。

深海棲艦と戦ってくれて感謝している。だけど、貴女は「忌まわしい記憶」だから。

いろいろな人たちが私達に向ける「感謝」は、多くの不純物が混じって粘ついて。

当然の反応と解っていても、私は胸に纏わり付いてくるような“不純な感謝”にますます迷いを深くする。

自分に向けられたモノでは無い問いに、それでも自然と私は俯いてしまった。

(……………でも、なんでそれを、今このタイミングで聞きたいんだろう?)

私にはなんだか、エミはその問いかけをエミ自身にも向けているような気がした。

「ええ、そうね。確かに私たちの事を嫌ったり、疎んだり、一刻も早く消えて欲しいって思っている人はいるわ。

それも何人、何十人なんてレベルじゃない、きっと何百万人。世界中に目を向けたら何億人かもね」

下を向いた私と違って、ビスマルクお姉様はエミの問いから、視線から逃げなかった。お姉様は微笑みながら、エミを真っ直ぐに見返す。

「自分が世界中から無条件に感謝されるヒーローだとは思ってないわよ最初から。でもね、それは私が戦いをやめる理由にはならないわ」

「……それは、なんで?」

「彼らもドイツ人で、人間で、艦娘である私が守らなきゃ行けない存在だからよ」

お姉様は、エミの後ろ────東へと逃れていく人々の姿に目を向ける。

「かつて私達が海の上に掲げて戦ったハーケンクロイツは、今のドイツにとっては思い出したくない記憶だと知ったときは、流石に私もショックだったわ。快く思わない人に罵詈雑言を受けて、傷ついたことだってある。……でもね、エミ。それは当然のことなのよ」

お姉様は優しい笑顔で、エミの肩を叩く。いつもと少し違う、諭すような口調で語りかける。

「人間は全員が違う考えを持っている。私達が船だった80年前だって、正義の旗印だった鍵十字を嫌い罵倒していた人たちはいたんだもの。たとえ私が完璧超人のヒーローだったとしても、きっと世界のどこかで私をよく思わない人はいるはずよ。

私がzweiへの改修を受けた日本では、あの国の軍人達は私なんかより遙かに酷い罵倒を受けていたわ。勿論浴びせてた人間はごく一部だけどね。

でもそれは、その人たちが生きているからこそ抱く感情なの。

私達艦娘は、そしてドイツ軍は、世界中のカメラードは、彼らが生きて、私達を罵倒する権利も守るために戦うのよ」

お姉様はエミの眼を真っ直ぐに見つめ、決意に満ちた声で告げる。

「それに、たとえ戴く旗が変わっても、ここはドイツ人が住まう地よ。

たとえ時代や意見が違っても、貴女たちは“あの人達”が80年前に守ろうとした国の国民よ。

だから私は、誰に認められるとか認められないとか関係ないわ。

私がBismarck zweiである限り、絶対にこの国を、この世界を、貴女たちを守ってみせる。

“あの時”できなかったことを、今度こそやり遂げたいの」

「………」

从 ゚∀从「………エミ、流石に本当にもう時間が無い。行くぞ」

「う、うん………ビス、その、仕事の邪魔してゴメン」

「あら、1人前のレディたる私は気にしないわよ。寧ろ、作戦開始前にリラックスできたわ」

あっけらんかんとした口調でそういって、お姉様はひらひらと手を振る。エミはハインに手を引かれ、私達に一度頭を下げると避難民の列に戻っていった。

私は日本の駆逐艦娘がやっていた、“お辞儀”という挨拶を思い出す。やはり、エミには日本人の血筋も流れているのかも知れない。

もしかしたら、そのせいで彼女も学園艦や生活の中で何かの形で差別を受けたのかも知れない。それが、あの唐突な私やお姉様への問いに繋がったのだろうか。

「………さ、ホントに時間も圧してきたわ。いきましょうプリンツ」

エミ達が人ごみに呑まれて見えなくなると、お姉様はそう言って私の背を叩く。

─────帽子を目深く被り、艤装を展開して西の空を睨むお姉様の眼光は、先程までと一転して凜々しく、鋭い。



「さぁ、80年前のリベンジよ」






《遅れてごめんなさい、Bismarck zwei、配置についたわ》

《Prinz Eugen-09、同じく!》

《なあにギリギリだが予定時刻には間に合ってるさ。俺たちニューヨーク・ヤンキースはいつでもプレイボールに対応可能だ》

《お生憎だなサイ大尉、ドイツ人はクリケットは嗜むが野球はあまりやらないんだ。迫撃砲隊、全砲稼働準備完了!》

《Graf ZeppelinよりCP並びに前線各隊に通達、全機の整備・発艦準備を完了した》

《コンツィ中尉、各分隊整列完了しました!》

《よし、CP、此方ノイケルン区。敵制圧区域への突入態勢を取りました》

《西街区から逃げ延びてきたレオパルトとプーマはどうした?》

《プーマは三両中二両を前線に新たに配置、一両は後衛に予備戦力として配置したわ。レオパルト1は私の指揮下に組み込んである》

《OK. 前線指揮車よりCP、全区画戦闘態勢ヨシ。繰り返す、全区画戦闘態勢ヨシ》

《CPより指揮車、了承したよぅ。────作戦を開始せよ》

「了解。

指揮車より、全部隊に通達」







(#'A`)「───────Angriff!!」

《《《《Jawohl!!》》》》

今更新ここまで。続きは夜辺りで。

ようやくKriegのお時間です

《アメリカ国防省は先程、ドイツ・フランス北部にて行われた深海棲艦への攻撃作戦が失敗したことを正式に発表しました。未だ正確な損害は判明していませんが、第六艦隊は少なくとも30%以上の戦力を損失したとみられ、艦娘に轟沈者が出ているとの情報もあります》

《フランス政府は政府機能をパリからル・マンに移転、領内に侵攻する深海棲艦に対し総力を挙げた徹底抗戦を宣言しています。しかしながら東部における戦況は絶望的で、国民の混乱と恐慌による暴徒化・治安悪化は歯止めがかかりません》

《NRKよりベルゲンから最悪の映像をお送りします!深海棲艦の攻撃が、遂にノルウェーに到達しました!激しい爆撃です!見たことも無い黒い戦闘機が街の上を飛び回っています!》

《ノルウェー政府は国内に残存する全ての陸海軍に厳戒態勢を命じると同時に、空軍機をスクランブルさせました。また、スウェーデン、フィンランドにも共同迎撃を要請しているとのことです》

《フィンランド政府は要請を受諾、待機中の全空軍にベルゲンへの出撃を通達しました》

《スウェーデン空軍はリドショーピング=ソーテネス飛行場の第7航空師団投入を決定。サーブ39が次々と基地から飛び立っていきます》

《イタリア各地に広がる艦娘排斥を目的としたデモと暴動の波は、遂にナポリで市民の大規模な武装蜂起に伴う市街戦に発展しました。

イタリア政府は、このナポリにおける騒乱は反艦娘を標榜する国際テロリストと、彼らを支援するマフィアが暴徒を煽り決起に繋げたものであるとして陸軍並びに警官に武力による鎮圧を許可しています。

また、一連の事件によってイタリア国内の指揮系統が混乱。ドイツ南部への増援部隊派兵が大きく遅れる見込みです》







シュプレー川を越えた瞬間に、降り注いでくる砲弾。完璧な統制で横一列に放たれたそれらは、雨の中に美しい放物線を描いて俺たちに迫る。

(*;゚∀゚)《掴まってなお客さん!!》

(;'A`)「おおっう!!?」

甲高いスリップ音を響かせて、エノクが道脇の家屋に車体を叩きつけるようにしてカーブ。本来俺たちが走り抜けるはずだった進路上で爆炎が立ち上り、車体が一瞬浮遊する。

(*゚∀゚)《よいしょっしょぉ!!》

そのまま、眼前に連続して突き刺さった砲撃の隙間を縫うように蛇行しつつ、ツーは一気に路上を駆け抜ける。

(#'A`)「後続車、損害報告!!」

《全車両健在!お宅のスーパードライバーが引きつけてくれたおかげです!》

(#'A`)「一つ注意だ、こいつはスーパードライバーの前に“美人”って形容詞を付けないと機嫌が悪くなる、気をつけろ!!

突入10秒前!総員展開用意!!」

《Jawohl!!》

《Yes sir!!》

整地時速96km/hの軍用車にとって、2kmを越えるかどうかの距離は1分少々で0にできる間合い。

俺達の車両を先頭に、三台のエノクが弾丸の如くフランス広場に飛び込んだ。

俺とツンがリ級に襲撃をうけた当初から、広場の様子はほとんど変わっていない。

庭石のようにそこかしこに突き刺さる瓦礫、積み重なった屍、潰れ拉げた戦車道展用のテント、吹き飛ばされ崩落したブランデンブルク門、そして動かす者がなく、雨と屍臭の中に虚しく放置された戦車達。

ほとんど全てがそのままだ。

かろうじて光景の変化を見いだすとすれば、雨に洗われて地面に広がっていた血の赤がなくなったことと───

『───ガアッ!!』

『『ォオアアアアッ!!!』』

門の前に佇む、3体の番犬が増えたことぐらいだ。

《イ級elite、それから随伴のハ級通常種。何れも後期型です!!》

(#'A`)「速やかに半包囲、射撃開始!!」

『ォオオアアッ!!!』

指示を出しつつ、中央に仁王立ちするイ級eliteに照準を合わせてラインメタルMG3の引き金を引く。弾丸が奴の装甲上で弾け、此方に注意を向けたイ級eliteが威嚇の咆哮をした。

「Los Los Los!!」

(#//‰ ゚)「Fire, fire!!」

その間に、車内から飛び出したサイ大尉たち歩兵の一団が一斉に広場に散開。瓦礫をバリケードにしながら、アサルトライフルで射撃しつつ奴らとの距離を詰めていく。

『グォオオッ!!』

『アァアアッ!!』

「Enemy shot!!」

(#//‰ ゚)「瓦礫で防げ!姿勢を低くしろ!!」

イ級達も下腹部や側頭部から艤装を展開。突き出された機銃が火を噴き、瓦礫やアスファルトを砕き削る。水ぶくれした死体が弾けて散らばり、はやくも腐乱しだしているぶよぶよした白い肉を鼻がねじ曲がるような匂いと共にまき散らした。

(#'A`)「迫撃砲隊、砲撃開始!目標、フランス広場!!」

《砲兵陣地了解、衝撃に備えよ!》

背後から響いてきたズンッ!という地鳴りのような砲声。程なくして、今度は味方の砲弾が曲線を描いて飛来する。

『ォオオオッ!?』

『ウォオオオ………』

立て続けに炸裂する、10発を越える120mm砲弾。通常種の装甲と耐久では為す術も無く、背面から黒煙と肉片を吹き出しながら二体のハ級は広場に横倒しとなって息絶えた。

『ヴヴァアっ……』

そしてeliteといえども所詮は駆逐艦。俺たちや海兵隊に気を取られていて回避や防御が出来ず全弾が直撃したことも有り、明らかに大きな損害を受けた様子でゆっくりと後退る。

当然、逃がさない。

('A`#)「────Graf!!」

《抜かりはない!!》

軽快なレシプロエンジン音を響かせて、頭上十数メートルの位置を駆ける4つの小さな影。

Fw 190───メッサーシュミット、スツーカと共に連合国を震え上がらせたナチス・ドイツの傑作機“フォッケウルフ”が、逃げるイ級の懐に飛び込む。

『グゥアアアアアアッ!!!???』

背中ギリギリ、ほんの30cmほどの距離を飛びつつ爆弾を投下。爆撃は全て、迫撃砲弾の命中跡に寸分の狂い無く叩き込まれる。

イ級eliteは激しくもだえ、断末魔の悲鳴を上げた後前のめりに崩れ落ちた。

(#'A`)「敵艦沈黙確認!後続部隊随時突入して前線を押し上げろ!!損害出るまでは先鋒がとにかく突貫する!!」

《Graf Zeppelinより前線指揮車、予定通りFW190を補給に下げる!!》

(#'A`)「あぁ、手はず通り頼む!!他の艦娘、並びに機甲師団も合図があるまでは
後衛待機だ!!」

《《《Jawohl!!》》》

とにかく、時間との勝負だ。向こうが完全に“お姫様”の周りを固めきるまでに、可能な限り此方の不利を消していく。

(#'A`)「いいか、非ヒト型による前段防御にはGraf Zeppelinの航空支援以外一切艦娘の手を借りない!!人間の兵器のみで全ての防衛線を突破する!!

足を止めるな、走り抜け!!」

深夜更新ここまで。原稿消滅で泣いた

明日というか今日というかの更新は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応します

ビスマルク、グラーフという艦隊決戦の要を手に入れたが、戦力はイヨウ中佐も言っていたとおり質量両面で此方が未だ圧倒的に劣る。

加えて俺たちは孤立しているため、艦娘艤装の燃料・弾薬を補給できないという深刻な事情がある。もし西側へバカ正直にビスマルク達を中核とした攻勢をかければ、枯渇は一瞬だ。

そのためこの作戦の厄介な点として、俺たちは前段防御をなるべく艦娘の火力を使わず、かつ迅速に打通しなければならない。……吝い話だが、正直最初のグラーフによる爆撃すら本当はケチりたかった程こちらには余裕がない。

《Graf Zeppelinより前線指揮車、電探に感あり!!》

そして、相手はヒト型の中でも秀でた存在である“姫”だ。

人間達がそうであるように、彼女もまた俺たちの策を予測し、動きを読み、手を打ってくる。

《ベルリン市西部より機影多数接近!!数は80前後!!》

《Prinz Eugenより前線指揮車、敵機種視認!Helm爆装型がほとんどですがBallらしき機影も10機ほど見えます!

Ar-196改、捕捉される前に一時離脱!》

(;'A`)「っ、随分仕事が早えーじゃねえか……!」

艦娘の航空戦力に対して凶悪な制空能力を持つBallだが、対空格闘能力と対地攻撃力を両立したフォッケウルフの存在を考慮に入れると10機はいくら何でも少ない。おそらく、“万一”此方がメッサーシュミットやフォッケウルフを出したときの保険だろう。

当然覚悟はしていたが、やはり此方の状況はお見通しらしい。

《Bismarckより前線指揮車、私達が出た方がいいかしら?》

('A`)「……いや、この程度なら艦載機を使わなくても簡単に対処できる。艦娘各位はミルナ中尉の指揮下で対空迎撃の用意を!

ただし、艤装は使うな!配布されているアサルトライフルで対処しろ!」

《はぁ!?》

《ず、Z3-26より前線指揮車、こんな小火器で戦闘機撃墜しろというの!?冗談でしょ!?》

('A`)「安心しろ、今の天候ならそれで十分撃ち落とせる!七面鳥より簡単にな!」

ここから先は、お互いの手の読み合いだ。ただしこっちの手札は恐ろしく悪い、奇策とはったりと我慢の連続になる。

………ああクソッ、面倒くせぇ!!

('A`)「先遣機動部隊2~5班の被害状況は!?」

(*゚∀゚)《各班からの損害報告無し、まだまだ行けそうだぁ!》

('A`)「よし、指揮車より機動部隊各班、後続待つな!突貫、突貫!!」

《《《Jawohl!!》》》

(*゚∀゚)《その言葉を待ってたぜお客さぁん!!アッヒャァーーー!!!》

ツーが歓喜の叫びを、6気筒ディーゼルエンジンが獰猛なうなり声をそれぞれ上げる。

雨水を蹴立てて急加速した三台のエノクが、引き絞り放たれた矢の如く広場から飛び出した。

('A`;)「……お早い到着だな」

突撃再開から30秒と経たないうちに、空から降ってくるレシプロエンジンの低い音。何十機分もが重なって響いてくるそれらの一部が、此方に近づいてくるにつれて様子を変えていく。

獲物を見つけた歓喜を現すように一瞬ひときわ大きな音をまき散らした後、甲高い風切り音を唸らせつつ“奴ら”は一斉に高度を下げ始める。

高度を下げるにつれて、音は更に悪魔の襲来を知らせるサイレンに、そして、俺たちに死への旅立ちを促すラッパの音に。

《敵機直上、数は5!!急降下きます!!》

(#'A`)「機銃仰角最大!全車対空射撃開始!!」

火を噴く三挺のラインメタル。“ジェリコのラッパ”を高らかに吹き鳴らしながら駆け下りてきた【Helm】の編隊に火線が突き刺さり、先頭を飛ぶ一機が火を噴いた。

だが、撃墜機を追い越す形で加速突出した別の一機が弾幕をかいくぐる。

('A`;)「散開回避!!」

懐に飛び込んできたHelmが両脇に抱える、二つの爆弾の片割れが切り離された。かつんという軽い音を立てて、爆弾はそのまま地面に突き刺さった。

(;'A`)「───っぐ!!」

(;*゚∀゚)《ひょおあっ!?》

轟音と閃光。視界が一瞬白く染まる。

手のひらサイズの物体が放つものとしては反則が過ぎる巨大な爆発。熱風が顔に吹き付け呼吸を阻害し、衝撃波に煽られた車両がコントロールを失いかけて激しく蛇行する。

(#*゚∀゚)《っ、落ち着きなさいなじゃじゃ馬タヌキちゃん!!》

危うく横転しかけたエノクを、巧みなハンドル捌きでツーがギリギリ立て直す。そのまま流れるような軌道で道脇に寄せると、ほんの1メートル横を後続機の機銃掃射が弾痕を残しながら通過した。

……助けて貰った立場でアレだが、馬と狸どっちだよ。

('A`;)「指揮車より2号車、3号車、被害状況知らせ!」

(;//‰ ゚)《此方2号車、損傷無し!》

《3号車、被弾免れました……っ、後方より敵機来ます!!》

(;'A`)「射撃、射撃、射撃!!弾幕まき散らせ!振り切れ、振り切れ!!」

追いすがってきた敵機に再度車列を組みながら一斉射撃。当てるための攻撃ではないが、爆撃・対地掃射の突入コースを塞がれた敵機は忌々しげに陣形を解いて上空に戻っていく。

(#//‰ ゚)《敵機後退、敵機後退!》

('A`)「前線指揮車より機動部隊各班、被害状況と敵機数知らせ!」

《此方2班、損害無し!襲撃敵機は8、内2を撃墜!》

《3班より指揮車、8号車の機銃手が負傷も軽傷につき影響なし!敵機5襲来、撃墜1、損傷1!》

《4班、損害無し!襲来敵機11、損傷3も撃墜に至らず!》

《5班より指揮車、襲来4機にBallが1含まれるも迎撃成功。敵機に損害無しも編隊は後退》

しめて33機。グラーフの報告から逆算すると、最低4割の戦力ならなかなかの「釣果」か。

そして、釣られた敵機は損害をほとんど受けていないにもかかわらず空域を離脱していく。

《………空母Graf Zeppelinより前線指揮車、あー、敵空襲部隊の迎撃を完了した》

つまり、別方面で「本命」の部隊が致命的な損害を受けたということだ。

《襲来敵機52、内撃墜39、損害10。撃墜にはBall4機を含む。

また、当方損害並びに艤装の弾薬消費、0………どういう手品だこれは》

《深海棲艦の艦載機を、通常兵器でこんなに一方的に撃墜できるなんて……》

《Bismarckより前線指揮車………えーと、ドックン=メンドイフェルだっけ!?貴方海軍に来ない?きっとエーリヒ=レーダーも真っ青の提督になれるわよ!!》

('A`)「過剰極まりない評価をいただき痛み入るが面倒臭いので断る、それと人を勧誘する前にまず名前を正確に覚えて貰えると嬉しいね」

ひとまず、此方の突貫に“何らかの意図”を感じとり戦力を分散させてくれたのは大いに助かった。ミルナ中尉達を救援する際に、エノク部隊による攪乱が大きな戦果を挙げていたことがここで生きた。

たとえ全ての艦載機が殺到していたとしても撃退は容易かっただろうが、50機と80機とではやはり難度が大きく変わる。艤装温存の目的も平行しなければいけない以上、後方に温存している主力部隊の負担は爪一枚分でも減らせるなら減らす。

《Prinz Eugen、水上偵察機再度上げます!》

('A`)「了解した、頼む。

高層観測班、敵の動きを報告しろ!」

前段防御第一陣の早すぎる壊滅、全く損害を与えられぬまま失敗した空襲。

加えて、LAPV軽装甲車隊による電撃的な後方浸透の可能性の示唆。

軽巡棲姫が警戒するに足る材料はばらまいた。後は向こうが更なる安全策として、ここで防衛線を下げてくれると最高の展開になるが───

《高層観測班より前線指揮車に通達!敵前段防御艦隊、第二陣が一斉に東進を開始!此方に向かってきます!

更に第三陣、第四陣で発砲煙を複数視認!砲撃きます!!》

('A`;)「そりゃそう楽な相手じゃねえよなクソ!!全車曲がれ!!」

(*゚∀゚)《っひゅうう!!》

女の悲鳴のようなスリップ音と共にドリフトカーブを決めたツーが脇道に飛び込み、後続二台もこれに続く。俺たちが本来直進する予定だった経路に瞬く間に砲弾が殺到し、泥とアスファルトが十数メートルにわたって舞い上がった。

更に、砲弾の一部は俺たちの傍に着弾せず、頭上を飛び越えてより東へと飛翔する。

地鳴りのような爆発音が連なり、空気が震えた。

(;'A`)「前線指揮車より後方全戦隊・全拠点、被害状況知らせ!!」

《高層観測班より前線指揮車、命中弾無し!損害ありません!》

ξ;゚⊿゚)ξ《レオパルト並びにプーマ、全車損害無し!予備戦力てして待機中のLAPVも全て健在!》

《迫撃砲隊、全部隊移動完了していたため無事です!》

《Graf Zeppelinより前線指揮車、展開中の全艦娘点呼完了!損傷艦無し、損傷艦無し!》
  _
(#゚∀゚)《此方ジョルジュ=オッペル、部隊損害無しもベルリン大聖堂に直撃弾!ベルリン大聖堂は崩落した!》

凸 ('A`) 凸「や っ た ぜ」
  _
(;゚∀゚)《何故!?》

ξ;゚⊿゚)ξ《今そんな場合じゃねえだろ!!》

損害報告がないどころか、最高のGoodニュース付きだ。これが喜ばずにいられるか。

………という冗談はさておいて。

('A`;)(大きな損害が出なかったのは幸いだがいきなり至近弾多数か……!)

おそらく、先程の特攻に近い空襲で此方の位置情報を艦載機の犠牲と引き替えに掴んだのだろう。本来なら向こうも弾着観測射撃の為に常時偵察機でも上げておきたいのだろうが、深海棲艦側で水偵や艦載機を用いた観測情報を円滑に全艦船に伝えられる“知能”の持ち主は限られている。

下手に軽巡棲姫や他のヒト型が観測機を飛ばせば、離陸箇所や滞空域から正確な位置を割り出されてそれこそ“事故”に繋がる可能性が高まる。

そのため軽巡棲姫は、位置特定を防ぐためにわざわざ市外から艦載機を呼び出して“威力偵察”によって此方の戦力展開を確認した。

('A`;)(………となると、向こうの航空戦力もまだ余裕あるなこれは。もしくは奴らの空母機動艦隊が到着しつつあるか)

少なくないもののなんとも中途半端な空襲部隊の規模や此方の動きに伴ってあっさりと分散した点は確かに不可思議だったが、これで合点がいった。最初から壊滅ありきの偵察編隊だったのならある程度情報を取得できる“数”さえ確保できればどう動かそうが問題ない。

………そもそも、恐ろしく脆いとはいえ80機の戦闘機が“中途半端な数”に見えてしまう辺り、どうも俺の感性も順当に奴らの物量に狂わされている。



とにかく、先程の航空戦力の特攻によって得た情報から“お姫様”は少しだけ踏み込んだ戦略方針を立てたようだ。

《前進中の敵艦、駆逐14、軽巡4、内elite・flagshipは各2ずつ!このままいけば先鋒部隊は五分以内に全班が接敵します!》

即ち、東部街区への浸透強襲による艦娘戦力の強制的な消耗。

('A`)「前線指揮車より高層観測班、敵防衛線第二陣は“全て”攻勢に出ているか?」

《はっ、展開していた全艦隊戦力が進撃中です!!》

('A`)「そうか」

全戦力投入。つまり、棲姫は第三陣以西に俺たち先鋒が突出する可能性は考慮していないか、していたとして容易く潰せる存在という評価を俺たちに下している。

(//‰ ゚)《ま、要は俺たちの突撃が“半ばハッタリ”だとバレたわけだな》

ざっくりと言ってしまえば、サイ大尉の台詞が全て。実際俺たちが後方浸透したところで、艦娘戦力を車内に隠しているわけでも超強力な秘密の火砲を装備しているわけでもない。生身の戦艦からすれば、そこらの蟻を踏みつぶすより簡単に処理できる存在。

そう。所詮俺たちの突撃はハッタリだ。

(#'A`)「先遣機動部隊各班、速やかに敵第二陣の予想進撃経路に展開!遅滞戦術を敢行し奴らの動きを鈍らせろ!!

第二陣、状況を報告せよ!」

《フランス広場より前線指揮車、シュプレー川の渡河と橋頭堡の建設、戦力集結を全てのポイントで完了。いつでも行けます》

ただし、あくまでも“半ば”だ。

(#'A`)「前線指揮車より第二陣────強襲打撃部隊各位に伝達、前進開始!!」





( <●><●>)《そろそろ、その指示が出ることは解っていました》

本日ここまで。大スランプに陥り欠けましたが書きため丸消しで何とかなりました。ただ、一日一更新が途絶えまして申し訳ありません。

第三陣以降による前衛艦隊への支援射撃はなおも続いている。俺たちの周囲に飛来する砲撃は散発的で、大半の砲弾は遙か頭上を飛び越えてベルリン東部に集中した。

味方の迫撃砲隊も果敢に撃ち返しているが、数十隻の「艦隊」と本格的な砲撃戦となれば手数も威力も圧倒的に足りない。

《トレプトゥ=ケーペニック区、敵の砲撃が激しさを増しています。120mm砲一門を直撃弾により損失しました》

《パンコゥ区、高層観測第6班待機所に敵艦砲射撃直撃!通信途絶!》

《プーマ六号車、至近弾多数!陣地転換急げ!!》

《フリードリヒスハイン区、敵艦砲射撃直撃により死傷者多数!衛生班を至急寄越してくれ!》

(;'A`)「……っ」

無線から次々と飛び込んでくる本格的な被害報告。だが、これはこっちにとって予想外でも異常なことでもない。

此方の優勢は、「艦娘戦力を早期に南から引きずり出したい」という向こうの思惑やそれを逆手に取った作戦、そして何よりもそれらが奇跡的にかみ合った運によって支えられてきたものだ。言うなれば、今までの極僅かな損害と優位な戦況こそ“異常”。

《第五高層観測班も敵艦砲射撃により沈黙!おそらく全滅!》

《視点が減ると戦況に支障が出るぞ!新手をビルに上がらせろ!!》

《機動警察の小隊待機地点に直撃弾!8名死亡、2名重体!!》

《こっちも二人やられた!一方的に撃たれている!》

今の状況は、深海棲艦と人間の本来の力関係に基づいた“正常”な光景だ。

《第2班より指揮車、敵前衛艦隊の一部を捕捉!これより攻撃を開始する!》

《第3班、交戦開始!!気をつけろ、ト級のflagship付きだ!!》

……そして、本当に、本当に吐き気がするような事実として。

《……Z1 Leberechtより前線指揮車、たくさん陸軍の人たちや警官隊が周りで、目の前でやられてる!僕らに援護射撃の許可を!!》

('A`;)「前線指揮車より艦隊各位に伝達、砲撃は許可できない」

俺の立場からすれば、シュプレー川の向こう岸で深海棲艦の砲撃で吹き飛び死んだ味方の存在を。

('A`#;)「現在、作戦は“順調に推移”している!Bismarck以下全艦引き続き弾薬の温存と敵砲撃の回避・防御に努めろ!繰り返す、全艦引き続き艤装の弾薬を温存せよ!」

《……そんn……っ、Jawohl!!》

敵が「計算通りの場所に食いついた証」として、喜ばなければならない。

本当なら、今し方自分が放った言葉の意味について激しい罵詈雑言を吐きつつ腕にナイフの一つも突き立ててやりたい。

だが、今は作戦中だ。俺に我を失い嘆き狂う“権利”はない。

《2ブロック西に艦影を捕捉!!》

(#//‰ ゚)《こっちでも確認した!!気を引くぞ、撃て撃て撃て!!》

('A`#)「奴らの進路を塞ぐ!ツー、艦隊の真横から追い抜けるか!?」

(#*゚∀゚)《お安い御用ってね!!》

少なくともelite以上の個体であることを示す10M強の巨体に機銃掃射を浴びせながら、三台のエノクは猛然と角を曲がり敵と同じ道路に入り込む。そのまま挑発するように三隻の非ヒト型の真横を駆け抜けると、水飛沫をぶち上げながら横並びに奴らの正面に展開する。

『ォオオオオオ………』

('A`#)「……さっきも言ったよな、てめえの顔は見飽きたって」

ホ級elite、脇にはイ級通常種二体。この、ホ級+イ級の組み合わせは海上・陸上を問わず深海棲艦の最も数多く見られる戦闘形態だ。実際リスボンの時にも、全部が通常種だったが顔ぶれの艦隊と交戦した。

誰かが言った。RPGやアクションなら、奴らは間違いなく最初のステージから現れ続ける典型的な雑魚キャラパーティーのような立ち位置だと。

当初はジョークとして笑い話の種になったそれは、何百隻葬ろうが常に戦場に顔を出し続けその圧倒的な数で人類の屍を積み重ねるその姿への憎しみと共に語られるようになる。

いつしか、奴らは八つ当たりに近い侮蔑と畏怖、そして必ず狩り尽くしてやるという決意と憎悪を込めて各国の兵士達の間でこう呼ばれるようになった。

('A`#)「とっととくたばれ!!

Feuer, Feuer!!」

“1-1艦隊”と。

『ギィヤァアアアアアッ!!!』

(#//‰ ゚)「Go go go go!!」

(#*゚∀゚)「イ級は眼をねらいな!視界を奪えば動きを制限できる!!」

機銃3挺と、15挺のアサルトライフルによる一斉射。今度はエノク各車の運転手も降りて、文字通り此方の全火力をつぎ込んでいる。

『ウォオオオオオオオッ!!!!』

「Target have No damage!!」

……まぁ、たとえ陸戦兵器でもある程度容易くなぎ倒せる耐久力とはいえ、流石に自動小銃と軽機関銃で軍艦の装甲にダメージを与えられるはずはない。

艦娘達にとってのクリボーは、今の俺たちからすれば立派なクッパ大王だ。

『オォアッ!!』

《Ups!?》

('A`;)「退避!!」

ホ級が艤装の一部を此方に向け、機銃掃射。他の二台に叫びつつ銃座から飛び出す。

主兵装である「5inch単装砲」による砲撃ではなかったことは幸いだが、7.62mm弾を食い止めるのがやっとのエノクの装甲で対空機銃の射撃は耐えられるはずもない。

車体が火花を散らしながら穴だらけになり、内一台がエンジン部分の辺りから小さな炎を吹き出した。

(;'A`)「───逃げろ!!」

(*;゚∀゚)「わわっ………あうっ!?」

弾かれたように立ち上がり、そこらの瓦礫や車の影へと転げ込む俺たち。背後で2号車が爆散し、一瞬反応が遅れたツーが爆風によって吹っ飛んでくる。

………俺の背中に向かって。

(*;x∀x)「あでっ!?」

(゚A゚)「ウボアッ!?」

衝撃が背中に走り、ツーのヘディングで俺は進路先の横転したトラックの影に無理やり押し込まれる。人体を幸運にもクッションとすることが出来たツーは、幸いにも大きな怪我を負わずに悶絶する俺の横に着地した。

(;*゚∀゚)「うっひぃ、死んだと思った………あんがとな少尉!」

::( A ;)::「ゴホッ…カヘッ……」
 _,
(*゚∀゚)「……おいおい、ドイツ陸軍屈指の美女に礼言われたんだからもうちょい嬉しくしろよ」

お前ちょっと黙ってろ。


('A`;)「……ッホ、ゴホッ!!被害報告!!」

「ベーデカー軍曹以下3号車、全員無事です!負傷者も無し!!」

(;//‰ ゚)「2号車1名負傷だがかすり傷だ!まだやれる!」

なおも機銃掃射がそこかしこのアスファルトを削る中、声を張り上げて互いの状況を確認。よし、欠員無しならまだ行ける。

(#'A`)「よし、ベーデカー!俺と共にエノクの残骸までもう一度前進だ!サイ大尉、グレネードをホ級の頭部と砲塔に撃ち込んで援護を!!」

「Jawohl!!」

(#//‰ ゚)「Received order!!」

('A`#)「ツー、バルテン、フラッシュバン投擲だ!!イ級二体の眼をくらませろ!!」

(*#゚∀゚)「Ja!! 」

「Jawohl!!」

二人が腰から閃光弾を外し、ピンを取って遮蔽物越しに道路に投げ込む。

『『ァアアッ!!?』』

『───!? ア゛ア゛ッ!?』

(#//‰ ゚)「Grenade fire!! Grenade fire!!」

何束かの爆竹にまとめて火を付けたような連続的な爆音と瞬く光。イ級二体が驚きと混乱でふらつき、事態を飲み込めずにいたホ級にはすかさず海兵隊のM203グレネードランチャーが火を噴く。

『オ゛ォ゛ッ、ア゛ア゛ァ゛ッ!!』

(#'A`)「Los Los Los!!」

「Feuer!! Feuer!!」

正規の迫撃砲弾ならともかく、アサルトライフルの下部に備え付けられている40mm擲弾の威力など深海棲艦の装甲からすればたかが知れている。だが、効果が無くとも奴らの弱点部位への爆発攻撃はほどよい挑発にはなったようだ。

『アアアァァッッ!!!!』

(;//‰ ゚)「っと、伏せろ!!」

(#'A`)「前進止めるな!姿勢低くして突っ込め!!」

更に俺たちからも放たれていた顔面に向けての火線を振り払うように右手を震った後、再び機銃掃射を俺たちと海兵隊に向けて放つ。

ホ級eliteの注意は、こっちに全て向けられていた。

「────Panzer faust, Feuer!!」

『ウ゛ア゛ア゛ッ!!?』

当然、側面から突如飛来した新たな攻撃に対応できるはずがない。

「パンツァーファウスト、ホ級eliteに全弾直撃!!」

( <●><●>)「ダメージがあるのは解ってます。総員、少尉達と合流しつつホ級砲塔部に集中砲火を。

また、イ級に関しては迅速に沈める必要があります。海兵隊も射撃を開始して下さい」

「「Jawohl!!」」

「「Yes sir!!」」

『アァアアッ!!!』

『ア゛ア゛ァっ、オァア゛ッ!!?』

ホ級の横っ面に叩き込まれた三発の対戦車ロケット弾。これを合図として、戦闘区画に飛び込んできた装甲車の一団から新たな部隊が路上に飛び出し次々と追撃を開始する。

即応警官隊───即ち“機動隊”が保有している装甲車だが、中に満載されていたのは増援のドイツ陸軍とアメリカ海兵隊の混成部隊。

それぞれ派遣に際し対深海棲艦の市街戦ということでパンツァーファウスト3、ジャベリン、ミラノ対戦車ミサイル、M72 LAW、果てには用途が変わりほとんど退役済に近かったはずのカールグスタフと、文字通りかき集められた重火力兵器が可能な限り配備されている素敵仕様部隊だ。

「Enemy Lock!! Fire!!」

『ォオオッ!!?』

「Go flank, Go flank!!」

ダイレクトアタックモード(直進軌道)で放たれたジャベリンミサイルがホ級の頭部に直撃する。怯んで機銃射撃が止んだ隙に、今度はLAWを構えた一団が俺たちの後ろを通って道の反対側へと駆け抜ける。

「Fire!!」

『ヴァッ────グァッ……!?』

四発の66mm HEAT弾が、向かって左側のイ級に突き刺さる。イ級の側面表皮が砕け散り、絶命こそしなかったが爆圧と激痛から苦悶の声を上げて路上に倒れ込んだ。

『オ゛オ゛ッ!!』

( <●><●>)「Los!!」

怒りの声を上げてホ級が艤装をアメリカ海兵隊の方に向けた隙に、ティーマスが数人のドイツ兵を率い俺達がいるエノクの残骸の影に滑り込む。奴さんが涼しい顔をして担ぐのは、カールグスタフM3。

('A`)「よぅ、そんな骨董品担いでどうしたよ。博物館にでも行く気かい?」

( <●><●>)「私なら少尉殿自体を持ち込みますね。そのお顔でしたら蘇った原人と伝えれば信じて貰えるはずです」

たまにはこっちから軽口をと思い突いてみたが、20倍で返される。

断言するが、俺がこいつに口で勝てることは永遠にない。

( <●><●>)「カールグスタフ撃ちます。音量注意です」

('A`)「あいよ、因みに後方の安全は確保されてるぞ」

( <●><●>)「ありがとうございます。

Feuer」

『ッアアオァァッッ!!!!?』

バックブラストの熱が頬を撫でる。砲撃はホ級の左肩に直撃し、奴は肩口を押さえながらふらふらと後退った。

『アァ………アァァ……』

『────……』

随伴のイ級達の内、向かって左手の個体はあのまま事切れたらしい。海兵隊のLAWになぎ倒された状態のままぴくりとも動かなくなっている。

右手のイ級も、猛烈な砲撃を三方から受けて虫の息だ。

「Feuer!!」

『オ゛ォ゛ア゛っ!?』

( <●><●>)「ターゲットにダメージ有り。

各位、砲撃に“間”が出来ないよう撃ち続けて下さい。特にホ級の艤装部分には集中攻撃を、我々に照準できないよう常に射線をぶれさせなさい」

軽巡ホ級に関しては、流石にeliteということもあってまだ抵抗の余力はありそうだ。ただ、ティーマスが周到に張り巡らした火線を間断なく全身に浴び続けており、その余力はみるみる削られていく。

「頭部と砲塔を狙い続けろ!奴に反撃の間を与えるな!!」

「イ級は通常種の上もう大破している、脅威じゃない!牽制射撃で十分だ、ホ級に重点的に火力を振れ!!」

もう一つのプラス要素として、南部から送られてきた増援部隊の全体的な質の高さがある。特にミルナ中尉を初めとする中核部隊は、リスボンで深海棲艦と実際に交戦した経験を持つ精鋭だ。

ティーマスの的確な指揮に加えて、自主的に弱点部位に狙いを集中させたり攻撃動作を妨害するタイミングで砲撃を行うためホ級は反撃を完全に封じ込められ一方的な攻撃に晒される。

( <●><●>)「Feuer」

『オッ……アァアアアアアッ!!!!?』

十何発目かのカールグスタフの着弾。ティーマスが狙ったのは、ホ級の両脇から突き出る連装砲の内右側の一門。

轟音とホ級の断末魔が不愉快に混ざり合う中で、黒煙と炎を吹きだして直撃を受けた連装砲がはじけ飛んだ。



( <●><●>)「追撃を………砲撃飛来!伏せなさい!!」

(*;゚∀゚)「ひゃあっ!?」

俺達が“1-1艦隊”と交戦する街角のT字路に、連続的に幾つかの砲弾が落下し炸裂する。2階建ての大手チェーン店レストランが崩落し、付近に止まっていた増援部隊の装甲車が一台押しつぶされた。

方角は西、深海棲艦のものだ。

('A`;)「損害報告!」

「装甲車一台が破壊されましたが死傷者は無しです!

───八時方向、またきます!!」

('A`;)「散開……あ?」

新手の砲撃は俺達の頭上を飛び越す。しかしながらイヨウ中佐達のいる方面に行くわけでもなく、俺達の交戦している地点から2ブロックほど先の、無人の十字路というなんとも感想に困る地点に着弾した。

違和感を覚えて耳を澄ませると、どうにも砲撃の統一性に乱れが感じられた。改めて冷静に周囲を見回すと、東側へと飛翔する砲弾の量が目に見えて減り、西部街区のあちこちに撃ち込まれる砲撃の割合が目に見えて増えている。

だが、その射線は統率の取れたものとは言い難い。放たれるタイミングがバラバラなら、着弾点も散らばっていていかにも狙いが定まっていない。

まるで、“急に現れた攻撃能力を持つ敵”に、慌てて無理やり照準を合わせ直そうとしているかのように。

('A`#)「─────迫撃砲隊、照準修整は終わっているか!?」
 、、、、 、、、、、
《手筈通り、ぬかりなく!!》

('A`#)「よし、残余全砲門敵前衛艦隊に集中!撃ち方ぁ始め!!」

《Jawohl!! Feuer, Feuer!!》

一瞬の間を置いて、東から美しい弧を描きながら幾十発にも及ぶ120mm砲弾が飛来する。

『オァア゛ッ、オォッ……アァアッ!!?』

頭部、砲塔、右腕、左腕、胴体………全身にくまなく叩き込まれる砲撃が、ホ級の装甲を砕き、艤装を貫き、肉を裂く。

左手が砲弾にもぎ取られ、腹の辺りに穴が空く。

『ア゛……ア゛ぁ゛………』

やがてホ級は、自身の艤装に押し潰されるような姿勢で前のめりに地面に倒れ込んだ。

お昼の部ここまでです。ご静聴ありがとうございます

本日リアルの仕事の都合で更新できません。

ここ数日亀更新が続き申し訳ありません

『オォアア───グァッ!?』

「Enemy down!! Enemy down!!」

「Los, Los!!」

最後の一隻となったイ級が戦場から逃れようとするが、既に大破しているその身体で逃げられるはずもない。踵を返そうとしたところに横っ面から数発のミサイルとロケット弾が叩き込まれ、断末魔と共に倒れる。すぐさまイ級達“1-1艦隊”の周囲に、ドイツ兵と海兵隊が小銃を構えて群がる。

生死を確かめるために、頭部や砲塔、眼など奴らが敏感に反応する箇所に弾丸が撃ち込まれた。

「轟沈を確認! Street Clear!!」

(#//‰ ゚) 「負傷者の確認急げ!!重傷者は速やかに後方に下げろ!!」

('A`)「ベーデカー軍曹、他の部隊の状況は!?」

「ニ班~四班も後続部隊との合流、戦力の再編を完了しています!」

('A`)「よし、各班に戦闘態勢を維持、指示があるまで待機するよう伝えろ!」

「Jawohl!!」

フランス広場を中心としたシュプレー川以西への橋頭堡の建設と戦力の集結は、深海棲艦側の主力艦隊もある程度は動きとして掴んでいたはずだ。しかしながら艦娘や戦車、プーマ戦闘車、迫撃砲などに動きがなく渡河したのはほぼ歩兵とまともな重火器を装備していない軽車両群とあって、奴らは案の定「即時の対処必要無し」とみなし此方の後衛に火力を集中させた。

結果、非ヒト型なら十分なダメージを与えうる対装甲火器が集中配備された打撃部隊をほぼ大きな損害無しで最前線まで引き込むことに成功している。

ここまでは、順調。作戦の第一段階はほぼ完全に成功した。

('A`)「………ツン、レオパルトとプーマ全車両の発進を準備させておいてくれ。

Prinz Eugen、水偵による上空警戒厳と為せ!ベルリン西部のあらゆる動きを見落とすな!」

ξ゚⊿゚)ξ《了解!》

《Jawohl!!》

問題は、ここからだ。

無線で後衛に指示を出しつつ、俺はちらりと西の空を見上げた。

('A`)(……やっぱりな)

脳裏を過ぎった違和感は気のせいではない。

軽巡棲姫は、状況打開のために次の手を打ってくる。

(//‰ ゚)「ドク、各隊は戦力の再編を終えてるぞ!」

サイ大尉が俺の元へ駆け寄ってきて声を荒げた。部隊の損害が軽微であるにも関わらず攻勢が止まったことに、疑問と軽い焦燥を感じているらしい。

(//‰ ゚)「とっとと強襲打撃部隊と連携して敵主力艦隊の元まで浸透を開始すべきだ!時間は奴らの利益にしかならない、それに艦砲射撃を一方的に食らうことになるぞ!!」

( <●><●>)「その艦砲射撃が、止んでいます」

(//‰ ゚)「………あ?」

ティーマスの指摘に、サイ大尉は一瞬呆けた表情を浮かべた後ハッとして空を見上げた。

完全に止んだわけではないが、ティーマスの言うとおり深海棲艦の砲撃は先程までに比べて極めて散発的なものに変わっている。着弾地点も分散しており、明らかに此方を撃破する意図が見られない。

( <●><●>)「シュプレー川以東の、本隊への砲火が再度増えた様子もありません。先程の強襲打撃部隊の突入時から混乱が尾を引いているという説も時間が経ちすぎていて考えづらい。

深海棲艦側の動きが不自然なのは解ってます」

優秀な相棒のおかげで、説明の手間が省けた。………ティーマスに少尉の地位譲って俺二等兵になっちゃダメかな、一先ずこの修羅場を生き延びたら上層部に提案してみよう。

( <●><●>)「………少尉、貴方がとても下らないことを考えているのは解ってます」

('A`)「ソ、ソンナコトナイヨー」

ホントに出来た部下兼昔馴染みで涙を禁じ得ない。

ともあれ、ティーマスが今説明したとおり、深海棲艦側が「何か」を考えているのは間違いないだろう。

《────Prinz Eugenよりマントイフェル少尉に通達!!》

当然奴らが、性悪の軽巡棲姫が考える「何か」が俺たちにとって愉快な内容であるはずがない。

《前線部隊展開ライン正面、5kmの地点で“道路の隆起”を複数確認!!時速30km程度で其方に向かっています!》

地面の隆起。

その言葉を聞いた瞬間思い出すのは、解囲作戦の折ツンたち機甲部隊を“地下から”襲撃した数隻の非ヒト型の存在。

どうやって地下に、何故水上と変わらない速度で移動できるのか、どこから現れたのか……沸いた疑問の数々は、頭がいい研究者の奴らに究明を任せることにする。

どんな理屈であれ、深海棲艦が「地下の移動」を可能とするなら対処するのが俺達の仕事だ。

(#'A`)「前線部隊各位、敵襲があと10分もせずに来るぞ!速やかに迎撃態勢に移れ!!」

( <●><●>)「パンツァーファウスト装備者は健在な建物の二階に上がって道路を撃ち下ろせるよう準備を。それから前方2ブロック先にC-4の設置もお願いします」

「「Jawohl!!」」

(//‰ ゚)「海兵隊総員射撃用意!!砲撃とC-4で焙り出された深海棲艦の身体を穴だらけにしてやれ!!」

「「Yes sir!!」」

指示が飛び交い、戦闘準備に移る各位。

だが、敵が打った手は一つではなかった。

《Graf Zeppelinより前線指揮車、新たな敵航空隊が北よりベルリン市空域に侵入!数は80~100、全機が前衛に向かっている!!》

(;'A`)「……っ」

食いしばった歯の隙間から、思わず呻き声が漏れた。航空攻撃との連携となれば迎撃の難易度が大きく上がる。

それにしても、度重なる空襲の撃退で優に200は越える敵機を撃墜しているはずだ。確かに「まだ余裕を持っている」とは思っていたが、さっきの今でこの数を出してこれる深海棲艦の物量には舌を巻きざるを得ない。

(;'A`)「三時方向、各位対空警戒!!前衛各部隊、残ったエノクは全て艦載機の迎撃に回すんだ!!

Prinz Eugen、敵航空隊の侵入軌道知らせ!!」

《Prinz Eugenより前線指揮車、敵編隊低空軌道でベルリン市に突入!其方への到達まで180秒!!》

深海棲艦側の到着が、距離と時速から計算して10分程度。同時攻撃にならないのは不幸中の幸いだが、本当に気休め程度の「幸い」だ。

('A`;)「屋上の奴らは下手に攻撃をかけず身を隠せ!それと、エノク機銃座に二人つけ!路上の部隊は車両の残骸、深海棲艦の死骸、瓦礫に側溝、どこでもいいから隠れろ!!」

俺自身も、アサルトライフルを小脇に抱えホ級の死体の傍に滑り込む。

(*゚∀゚)「よっと!」

('A`)「ブッフハ」

ツー、ティーマス、ベーデカー軍曹と他何人かのドイツ兵も俺の傍に身を隠す。ツーはスライディングの際に泥と雨水を盛大に俺の顔面にぶちまけてきた。

何か怨みでもあるのかてめぇは。

(*゚∀゚)「あひゃっ、悪いな少尉!」

('A`)「絶対悪いって思ってないよねその感じ。

………各班、来るぞ!!」

“ジェリコのラッパ”とはまた違った恐怖を掻き立てる、低く規則的なレシプロエンジンの回転音。凶暴な獣が群れ迫ってくるような威圧感に、小銃を構えつつ俺は僅かに息を呑む。

《───敵機射程内に捕捉!!》

《撃ち方、始め!!》

やがて、戦闘が始まった。

遠くから微かに、無線からははっきりと聞こえてくるアサルトライフルの射撃音。そしてそれらを掻き消すような、敵機の飛翔音と機銃掃射の弾着音。

《2名負傷、2名負傷!!》

《エノクが一台破壊されたぞ!!》

《第三班交戦開始……ぐぁっ!?》

《1名やられた!!》

《負傷者を物陰に運べ!!》

深海棲艦機の撃墜を示す爆発の音は疎らで、代わりに無線を通して伝わるのは呻き声、悲鳴、鉄の弾丸が肉を引き裂く音。

容易く想像できる“向こう側”の惨状。だが、それらが頭に浮かぶ間すらなく。

(#//‰ ゚)「Enemy incoming!!」

('A`#)「Allemann flakfeuer!」

敵機が、襲いかかってきた。

「Keep fire───ups……」

「伍長が撃たれました!!」

「手を止めるな!止めるな!!」

「足が!俺の足がぁ!!」

初回の襲撃時と先程の被害ありきの威力偵察のように、“七面鳥”として正面から射線に飛び込んできてくれた敵機とはワケが違う。

街並みを掠めるように600km/hで飛び去りながら行われる超低空からの対地掃射は、さながら鉄の暴風だった。

次々と撃ち倒されていく味方に対し、此方の弾幕は空を切っていく。頼みの綱だったエノクは、接敵から5秒で二台とも射手を撃たれて沈黙する。

('A`;)「……クソッ!!」

撃墜できる敵機はほとんどない。せいぜい片手で足りる程度。速度を重視してか爆装機が見られない以上、正直隠れてやり過ごした方がよほど此方の損害は少ない。

それでも、無傷で通過させるわけには行かない。同様の軌道で本隊にも突入されれば、今度は艦娘にも被害が出るかも知れない。

時間にして、20秒に満たない襲撃。

(;'A`)「被害報告!!」

「負傷者搬送手配急げ!」

その20秒で、辺りには血の臭いが充満した。

《此方ニ班、エノクは全車両完全に破壊されました!死亡6、負傷5、内重篤2!!》

《五班、エノク3両中2両を損失。死亡4、負傷10》

《墜落した機体の巻き添えを受けて屋上班が丸ごとやられた!代わりの隊いけ!早く!!》

ベルリン市の南北の幅は直線距離で30km程度、Helmの最高速度なら3分もあれば飛び過ぎることが出来る。この内俺達前線部隊の襲撃に裂いた時間は、おそらく1分もない。

(;'A`)(……で、その一分でこのざまかよ)

低空域での空襲。家々やビルが建ち並び入り組む街中を高速で飛び回ることになるため、当然深海棲艦側にとってもリスキーな戦術ではある。

だが、俺達人類側は頭上を高速で飛び去っていく1m行くか行かないかの機影を正確に狙い撃たなければならなくなり、その命中率は大きく落ちる。

現実に、前衛部隊が受けた損害は今までとは比べものにならない。投入していたエノクのほぼ全てを失逸し、死傷者も相当数が出た。
こっちの撃墜機数は、おそらく20機程度だろう。

唯一の好材料は、それでも敵機がそのまま市街地を迂回するような動きで西へと飛び去っていったこと。

ただ、それ以上に最悪なことに敵襲はまだ終わっていない。

《Prinz Eugenより前線部隊各位、“隆起”はなおも前進中!!後150秒で各部隊展開地点に到達します!!》

(;'A`)「負傷者収容の速度を上げろ!!それと射線の再構築だ、急げ!!」

徐々に聞こえてきた地響きと、ボコリと突然持ち上がり傾いた十数ブロック先のビルを見て、俺の背筋に冷たいものが走る。

当たり前の話だが、雨で冷えたせいじゃない。

('A`;)「敵艦影視認!!各部隊、戦闘準備急げ、次が来るぞ!!」

バキバキとアスファルトを割り、揺れと破壊を周囲にもたらしながら此方に突っ込んでくる“隆起”。道路上に乗り捨てられていた何台かの車やバイクがけたたましい音を立てて盛り上がった街路や道脇のショウウインドウに転がり込む。

('A`#)「────Feuer!!」

その隆起の先端がC-4爆弾が並べられている地点まで差し掛かった瞬間、俺は声高に叫ぶ。海兵隊の一人が起爆スイッチを押し、幾つかの建物の屋上でパンツァーファウスト3が火を噴いた。

『グォオオオオオオオオオッ!!!?』

火柱と、轟音。地面を突き破り、ハ級の縦長な頭部が姿を現す。

「Feuer Feuer Feuer!!」

「Kill the enemy!!」

ジャベリンが、パンツァーファウストが、LAWが、カールグスタフが、唸りを上げてハ級の巨体を滅多打ちにする。

『オァッ、ア゛ア゛ア゛ッ?!』

苦悶の声と共にのたうち、なんとか地面から這い出て此方に攻撃しようとするハ級。かなり数を減らしたとはいえ、未だ多数が健在の火砲の前ではそれは叶わぬ夢だ。

全方位から待ち伏せの末猛射撃を食らい、たちまち全身から黒煙と青色の体液をまき散らしだした。

圧倒的優勢。だがそれは、俺達の区画が比較的空襲による損害が軽かったために得られた局所的なもの。

《此方五班、敵艦に前衛火線の突破を許した!隊列が内部から食い破られている、損害大!!》

《三班よりCP、イ級の襲撃を止められません!火力が絶対的に不足しています!!》

('A`;)「………ウツダシノウ」

全体的な面で言えば、戦況は最悪の状態に移行しつつある。

('A`;)「………こうなりゃやむを得ねえか。前線指揮車よりGraf Zeppelin、第二次支援空爆を」

《ぷ、ぷ、Prinz Eugenより在ベルリン全部隊!!緊急連絡!!》

本当に、最悪の状態に。

《前方、ベルリン西60km程の地点に、深海棲艦艦載機の大編隊を“視認”!!おそらく目標は、ベルリン全域の空襲です!!》

  _
( ゚∀゚)《………ジョルジュ=オッペルよりPrinz Eugen-09、そんな遠距離の深海棲艦機を“視認”だと?冗談言うな、幾ら妖精の眼がいいからってんなことあり得ねえぞ》

《一機一機を視認したわけではありません、AR-196妖精の視界が捉えたのは深海棲艦機の“編隊”です!!》
  _
( ゚∀゚)《》

( ゚д゚ )《………何てことだ》

報告の意味に気づき、ジョルジュが絶句する。ミルナ中尉の、打ちのめされたような呆然とした呟きが無線から漏れる。

受け入れたくない悪夢のような現実を、プリンツは震える語尾を抑えながら俺達の鼻先に突きつけた。

《敵の編隊規模が多すぎて、西の空で巨大な黒雲のようになっています!数は解りません、どれほど少なく見積もっても2000機を優に超えるとしか答えようが………。

空が三分に敵が七分、空が三分に敵が七分!!》

('A`)「………」

( <●><●>)「………少尉、何か策を」

('A`)「…………今、考えてる、けど」

こちらの予想規模を圧倒的に上回る、まさに雲霞の如くとしか形容が出来ない艦載機の接近。深海棲艦が意図していることはすぐに解った。

爆撃や機銃の狙いが低空突入しなければ定められないのなら、狙う必要が無いほどの膨大な火力を投入して全てを焼き払えばいいというある意味で単純明快な理論。

即ち、絨毯爆撃。

('A`)(どうやって、北部はまだ完全に制圧されたわけじゃ、フランスやイギリスへの対処も、ベルリンの艦娘潰しが奴らにとってそれだけ、いや、理由はいい、策を、あぁ、でも)

見えない。

打開する策が、見えない。

狙いを定める必要が無い圧倒的な物量が押し寄せてきている以上、定点爆撃どころか低空域への突入自体おそらく敵機はしない。つまり、こちらのアサルトライフルによる対空射撃は届かない。レオパルトの主砲撃なら或いは高度に届くかも知れないが、僅か九両では焼け石に水だ。

艦娘による対空砲火とGraf Zeppelinの全艦載機を形振り構わず投入しても、流石にここまで規格外の物量相手には弾薬も燃料も持つはずがない。

無理やりこちらに都合良く考えて「この大編隊が敵艦隊の限界ギリギリの戦力であり、多大な損失は避けたい存在である」と仮定する。その場合なら、“幾らかの損害”を与えれば退かせることは出来るかも知れない。
だが、殲滅の必要が無いにしてもこの編隊が後退を決意するほどの損害となれば、どのみちビスマルクもグラーフもプリンツも、駆逐艦達も余力が残るとは思えない。機甲部隊にも大きな損害が出るはずだ。

そうなれば、今度は健在している第三陣以降の敵防衛線も、主力艦隊も突破は出来ない。残る道はベルリンの放棄か、玉砕上等の突撃かの二択。

('A`)(待て、決め付けるな。何か、何か策が)

ゲームなら、スタートボタンを押せばポーズ画面が現れて時が止まり、幾らでも考える時間が生まれる。しかし、今俺がいる場所は現実の戦況。

《敵機、間もなく市街地に到達!!後150秒ほどと思われます!!》

《Graf Zeppelinより前線ならびにCP、レーダーでも機影を捉えた!!ダミーじゃない、正真正銘敵の編隊だ!!……クソッ、いったい何機投入してきたんだ奴らは!?》

時間は、思考する間にも無情に過ぎ去っている。

('A`;)(何か、何か、何か………あぁ、クソッタレ!!)

空回り、混乱する思考の中で、妙に冷静な自分がぽつりと呟いた。






こりゃ、詰みだ。






頭上を、風切り音が駆け抜けていった。




.


('A`;)「───────!!?」

顔を、上げる。

《Prinz EugenよりCP、高速飛翔体が東部よりベルリン上空を通過、敵編隊に着弾!!》

一瞬の静寂を切り裂き、西から響いてきた爆発音と雷鳴のように瞬く閃光。プリンツの口調は明らかに混乱しており、上擦り震えてかなり聞き取りづらい。

無理もない、それをよく知る俺ですら、驚愕で思考がまとまらない。

それは、深海棲艦の砲撃や艦載機のものでも、艦娘の放ったそれらでもない。軍人として聞き慣れていたが、しかしこの場では聞こえるはずがないと思っていたもの。

我らがドイツの“忌むべき過去”がその先駆を生み出した、人類の知恵と技術の結晶である近代兵器。

《高速飛翔体、更に2発が着弾!!深海棲艦編隊、爆炎に包まれ被害甚大!!隊列大きく乱します!!》

空対空ミサイルの、飛翔音。

《敵編隊、ベルリン上空への侵入を中断し散開───きゃあっ!?》

息継ぐ間もなく、甲高いジェット音と共に今度は銀色の機影が音速で空を飛び去っていく。4つの銀影の内一つが、新たに1発のミサイルを西に向かって撃ち放った。

('A`)「………F-16」

《高層観測班より全在ベルリン軍に伝達!!》

呆然と空を見上げていた俺の耳朶に、絶叫が突き刺さった。驚愕と歓喜に溢れた声で、観測班の一人が狂ったように叫んでいる。







《友軍機がベルリン上空に飛来!!

増援は、ポーランド空軍機です!!!》

お待たせしました。更新再開です。今回分はここまで。






《敵群体にミサイル全弾命中!!効果絶大、撃墜多数!!》

(‘ L’)《続けて撃つぞ!!全機照準!!》

炸裂したミサイルの爆炎に焼かれ、巨大な黒い“群れ”が揺れ蠢く。

まるで、一つの巨大な生物が苦しみ悶えているような光景。フィレンクト=クフィアトコフスカ空軍中佐は、目の前の“巨獣”になおも照準を合わせつつ編隊の先陣を切る形で肉薄する。

(‘ L’)《Czarny-01, FOX-2!!》

《Czarny-02, FOX-2!!》

《Czarny-03, FOX-2 FOX-2》

《Czarny-04 FOX-2》

ほんの100M、空対空戦においては目と鼻の先に等しい至近距離からのミサイル攻撃。加えて数千体規模の密集とあれば、当然ロックオンなど必要ない。

4発のミサイルが炸裂し、火の玉が幾つも咲き乱れた。“巨獣”はますます激しく身もだえし、みるみるうちに身体の形が崩れていく。

《Engage!!

Niebieski-01, FOX-2!!》

《Niebieski-02, FOX-2!!》

反転・迂回するフィレンクト達とすれ違う形で、新たに空域に突入してくるF-16の編隊。

息を継がせぬ波状攻撃、背後で新たな爆光が煌めいた。

(‘ L’)《Czarny-01よりHQ、【アオガシマ式戦術】の効果は絶大!敵編隊に大きな打撃!!》

《HQよりCzarny-01、了解した。残弾が尽きるまでは他の編隊と連携し引き続き敵爆撃隊へ反復攻撃を続けろ。情報によれば後続編隊の存在も示唆されている、奴らを絶対にベルリン市空域に侵入させるな》

(‘ L’)《了解!!》

ぐいっと操縦桿を傾け、左旋回。全身にかかるGに歪む視界と軋む骨。

丹田に力を込めてこれらに耐え、再び深海棲艦機の大群体を視界におさめる。

立て続けに16発ものミサイルを叩き込まれれば相当な撃墜機が出たはずだが、群体は未だに発達した雷雲のように巨大だ。

元々攻撃を依頼した例のドイツ陸軍の大佐によれば、予測される編隊規模は日本で観測された過去最大のもの───2000機規模に匹敵するだろうとの話だった。だが、この様子を見るにおそらく記録は無事更新された。

(‘ L’)《3000……いや、それ以上いるか》

しかも、司令部曰く後続もまだまだ控えているのだという。尋常じゃない物量に、思わずフィレンクトはコックピットで舌を巻く。

(;‘ L’)《本当に……とんでもない奴らとの戦争になったものだ!!》

発射ボタンを押す。AIM-120空対空ミサイルが雨空を駆け抜け、眼前に広がる“漆黒”に直撃。オレンジ色の炎が、獣の身体から流れ出る血のように群体から突き出し空を焦がした。

(‘ L’)《HQ、地上部隊の現状を教えてくれ!!》

《HQよりCzarny-01、“騎兵隊”はベルリン市に随時突入中。まぁ電波妨害のせいで通信も続々途絶えてはいるが、レヒフェルトからの報告が正しければ問題なく在ベルリンドイツ軍並びにアメリカ海兵隊と合流しているはずだ》

(‘ L’)《それを聞いて安心したよ!!》

市内に展開しているドイツ陸軍の戦力の内、組織的な抵抗力を保持しているとされるのは凡そ2000程度。軍と連動して動いているベルリン市警や機動隊を数に入れても一個旅団を少し越えた程度の兵力にしかならない。加えて寄せられた情報によれば、機甲戦力は骨董品の第ニ世代戦車に雀の涙の装甲車だ。

艦娘が合流しているそうだが、戦艦、空母、重巡が各一隻ずつで残りは駆逐艦だという。

数も質も大きく上回り、しかもなお増え続けている深海棲艦を相手取れるような戦力ではない。というか、これでポーランド軍到着まで持ちこたえた時点でおそらくベルリンの防衛指揮官はとびきりの変態だとフィレンクト達は結論づけた。


(‘ L’)《Gun gun gun》

《Good kill Good kill》

腹に抱えていた最後の1発を撃ち込み、更に群体の鼻先まで飛び込んでM61A1バルカン砲をお見舞いする。砕かれ貫かれた敵機がぼとぼとと落下していく中、友軍機がすれ違いざまに賞賛の声を送ってくる。

(‘ L’)(……それにしても、妬けてくるな)

群体に突っ込む直前で反転しベルリン上空を駆け戻りながら、市街地を眼下におさめたフィレンクトはふとそんなことを思った。

欧州全域の現状を的確に分析するどころかイタリアの出撃が遅れることまで見越し、早い段階でポーランドへの増援要請を開始していたレヒフェルト基地の陸軍大佐。

国防体制を理由に渋る政府に対して、南部を経由して交渉の場に乱入し艦娘の存在を外交カードにほとんど身一つで増援の確約を取った連邦共和国首相。

そして、その首相を救助して市外に逃し、質も数も劣る戦力で深海棲艦を迎撃し続けた在ベルリンドイツ軍の面々。

優秀なだけでなく、その優秀な人材が全てを賭して祖国を守ろうとする姿に、フィレンクトは少なからぬ羨望と感銘を覚えている。

そして、同時に。

(‘ L’)《────我々も、負けていられないな!!》

そんな彼らと肩を並べて戦える自分が、軍人として誇らしくもあった。










便宜上【軽巡棲姫】と呼ばれている“彼女”は、初めて感じる得体の知れないものに戸惑っていた。

【全の意志】によって与えられる機械的な憎悪とは違う、「自分の身体の中」からせり上がってくるような奇妙な衝動。命令に忠実に、思い描いたとおりに人類に襲いかかる同胞達が、しかし彼女の思い描いた光景を造ることは出来ず跳ね返され、沈められていく様を目の当たりにしてわき上がってくる不快な感覚。

“彼女”は、脆弱なくせに頑強に抵抗する眼前の人間達の姿に、明らかに苛立っていた。

『………』

忌々シイ。

実際に言葉にこそしないが、眇められた彼女の眼がその“感情”を雄弁に語る。

言ってしまうなら非効率的な、しかし看過してしまうことが出来ない【個の意志】に基づく苛立ち。彼女は歯噛みし、地団駄を踏み、長く垂れた髪の奥から東の空を見上げる。

腹立タシイ。

無駄ナ足掻キヲ。

鬱陶シイ。

聞こえてくる同族のものでは無い砲声が、人間共が上げる歓喜と鼓舞の雄叫びが、空を飛び回る鉄の塊が。

全てが、“彼女”の精神を逆なでする。

彼女の張り巡らした策は、今のところ上手くいっていた。艦娘達の目をかいくぐり、人間共が住まう陸の奥深くに同胞達と共に入り込み、奴らが「クニ」と呼んでいる活動領域を内部から食い破った。

目的の場所に「核」も据え、“彼女”の同胞達は猛烈な勢いで数を増やしつつある。西に居た人間と艦娘達は一方的に蹂躙され、海からやってきた新手も叩きつぶした。ほくそ笑んでしまうほど美しく、“彼女”の策は上手くいっていたのだ。

だが、今はどうか。南に逃げた人間共は戦力をまとめ上げると同胞達の南下を完全に食い止め、より東へと進むはずだった“彼女”たちは半ば廃墟と化した街で立ち往生している。

ようやく抵抗の芽を摘めるかと思えば、人間側にも新手が現れて彼女が呼び寄せた艦載機を根こそぎ焼き払った。

『…………』

“彼女”は、戦闘能力こそ高いが種族の中で極端にプライドが高いというわけではない。とはいえ全くないわけでもないし、「脆弱で愚かで取るに足らない存在」である陸の猿に、良いようにあしらわれても傷つかないほど低くもない。

今の“彼女”の中には、人類をどのようにいたぶり叩きつぶしてやろうかというどす黒い悪意が、“彼女自身”が抱いた悪意が渦巻いている。

『……………』

『─────』

“彼女”は、背後の同胞に目で準備ハイイカ?と問いかける。

赤い眼をした同胞は、任セテヨとでもいいたげに妙に自然な笑みを浮かべ────








ドルンッ、と。

跨がるそれのエンジンを、鳴らして見せた。

今更新ここまで。ようやく終わりが見えてきた…








頭上で鳴り響く俺達への福音は、ミサイルと戦闘機だけでは終わらなかった。

《────前線各位、衝撃に備えろ!!

弾着、今!!》

観測班からのそんな声と共に、十何発もの砲弾が───迫撃砲などとは比べものにならない威力を誇る、152mm 36.6口径榴弾が豪快に唸りながら飛来する。

空気が、地面が、巨大な炸裂音と共に震えた。砲火を諸に受けた深海棲艦達の悲鳴や呻き声が一瞬響いたが、連続する爆発音に奴らの声すら飲み込まれていく。

《ケーペニック区よりCP並びに前線指揮車、ポーランド陸軍の自走砲隊が展開を完了!前線への支援砲撃を開始!!》

《こちらリヒテンバーグ区、レオパルト2PL並びにPT-91【トファルデ】が戦線に合流しました!このまま既存の装甲戦力との合流に移らせます!!》

《CPより前線各隊、攻撃ヘリ部隊が我々の上空を通過して其方に向かった。後数秒もせず攻撃が行われるはずだ、巻き込まれないよう注意しろ》

(;'A`)そ「おわっ!?」

(;//‰ ゚)「伏せろ、それと下がれ!! Go back!!」

オペレーターの台詞の途中から聞こえてきた、雷鳴を思わせるヘリコプター独特のローター回転音。低空を飛んできたポーランド軍保有のMi-24………所謂“ハインド”が滑るような動きで俺達の頭上に現れた。

『ォオオオオオオオオッ!!!?オォッ……オォォ………』

ホバリング飛行から放たれるチェーンガンと対戦車ミサイルによる猛攻。既に満身創痍になっている通常種の駆逐艦が耐えきれるはずもなく、ものの数秒の攻撃でハ級は息絶えぐたりと倒れて動きを止める。

「く、Clear!!」

海兵隊の一人が我に返って叫び、その声が俺達に「大規模な援軍の到着」という現実をようやく明確に認識させた。

「援軍………援軍だ!それも空軍や戦車まで!!」

「やった、やったぞ────!?」

歓声が上がりかけた瞬間を見計らったように、西側で上がる反撃の砲煙。戦闘ヘリの装甲が艦砲射撃に耐えられる道理はなく、直撃を受けたハインドが木っ端微塵になり、炎が発する熱が地上の俺達に吹き付けた。

('A`;)「逃げろぉ!!」

( <●><●>)「っ」

(*;゚∀゚)「ひゃあっ!?」

「Deckung!!」

ハインドの残骸が火の玉と化し、こちらへと墜落してきた。逃げ出した俺達の背後で残骸はホ級の屍に突き刺さり、一際巨大な爆発を起こす。

(;メ A )「コハッ────」

浮遊した身体が、近くの横倒しになった車に叩きつけられた。止まる呼吸と軋む骨、チカチカと視界に星が飛ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ《ドク!!貴方がいる区画でヘリが撃墜されたけど大丈夫!?応答してドク!!》

(メ;'A`)「ゴホッ……あー、何とか無事だ」

足下に転がった無線機ががなり立て、ツンの叫び声が朦朧とした意識を何とか繋ぎ止めてくれた。また気絶しようものならティーマスやジョルジュに何を言われていたか解ったものじゃない。

密かに感謝しながら腕に力を入れて身体を起こす。咳き込んだところ、何滴かの血が足下に飛散した。

ξ;゚⊿゚)ξ《無事なの!?本当に無事なのね!?》

(メ'A`)「繰り返すが無事だよ中尉殿。勿論最高の気分からはほど遠いがな」

ξ; ⊿ )ξ《そ、そう……Je suis soulage》

最後の方は何を言っているのか解らない。ドイツ語でぉK。

(メ'A`)(しかしなんでここまで心配されて……あぁ)

生じかけた疑問は、幸い根付く前に氷解した。

前線指揮官が戦死となれば指揮系統が混乱しかねない、そりゃあ最優先の安否確認は当たり前だな。

(メメ<●><●>)「おや少尉、悪運強く生き残っていたようで何よりです」

(メ'A`)「あぁ全くな。死んでた方が永久休暇で楽だったかも解らん」

駆け寄ってきたティーマスの手を取り立ち上がりながら、自身の身体の状態を確認する。……幸い致命傷はや動けなくなるような怪我は負っていないが、呼吸が苦しく腕に断続的な鈍い痛みがある。さっきツンにはああ言ったものの、実際に「無事」なのは命だけといったところか。

('A`メ)「ベーデカーとツーは無事か?」

(メメ<●><●>)「軍曹は気絶していましたが軽傷です。建物の残骸に運び入れて安全を確保しました。

アハッツ伍長は……」

(*メ゚∀゚)「無事だ!!」

Σ('A`メ;)「うおっ!?」

予期せぬ場所から出た声にびくりと震える。見れば、ティーマスの右手に小柄な軍服姿の人影が抱えられていた。

(メ;'A`)「まぁ無事なのは何よりだ……サイ大尉、他の奴らは!?」

(メ//‰ ゚)「少なくとも今の爆発では欠員がない!軽傷者数名といったところだ!!」

('A`)「なら何とかなるな。各位速やかに隊列組み直して戦線の維持を!!このまま次の敵襲が来たら一溜まりもないぞ!!」

「「Jawohl!!」」

「「Yes sir!!」」

(メ#'A`)「前衛各班、状況速やかに報告せよ!!」

《ニ班より指揮車、Mi-24の支援射撃によりイ級の撃沈を完了!戦力再編完了しました!》

《こちら三班、深海棲艦の撃沈に成功も支援に入ったMi-24は敵の対空砲火により撃墜されました。乗組員は全滅です》

《四班、何とか立て直しました。Mi-24も健在!》

《五班同じく!》

崩壊寸前だった戦線は何とか立ち直ったらしいが、投入された戦闘ヘリは早くも二機撃墜されている。

敵の反撃が予想以上に迅速で、かつ激しい。流石に国外からの、それも艦娘戦力を保有していない国家からの陸空の援軍は向こうにとっても巨大な計算外の筈だ。が、こうもすぐ態勢を建て直されると少し辟易する。

中途半端かつ短くて申し訳ないのですが、書きためが消えてしまったので一度切ります。
重ね重ね申し訳ありません

《Feind Artillerie! In Deckung!》

今度の砲煙は眼前───西側から一斉に上がった。数十発の砲弾が芸術的な弧を描き、唸りを上げて俺達の頭上を飛び過ぎる。

(=;゚ω゚)ノ《CPより各区、被害を報告せよ!!》

《トレプトウ=ケーペニック、第一砲兵隊展開地点に複数発が着弾!!120mm砲4門を失逸、死傷者多数!!》

《リヒテンバーグ区よりCP、突入してきたレオパルト2が今の砲撃で1両破壊!!また、ベルリン市警の狙撃班が通信途絶!!》

ξ;゚⊿゚)ξ《敵艦砲射撃を被弾しMi-24が一機墜落、巻き添えを食らってプーマ戦闘車を1両ロスト!

繰り返す、プーマ戦闘車ロスト!!》

悲劇的な報告が数多無線から流れる中、敵味方の砲撃は空中で激しさを増しながら入り乱れる。ベルリンの東西双方で幾つもの爆炎が上がり、建物の崩落音や深海棲艦の悲鳴、怒号がそこに重なった。

「敵艦砲射撃、来ます!」

('A`;)「伏せろ!!」

何発かの砲弾は、俺達が展開している地点の周囲にも着弾する。地面が震え、泥と砂利が飛び散り降りかかる。

……弾量はまだ大したことはないが、至近弾な上着弾地点が収束している。先の通信を聞く限り、後衛部隊にもかなり大きな損害が出た。やはり、敵前段艦隊は完全に混乱から立ち直っている。

(メメ<●><●>)「援軍到着で華麗に逆転開始、とはなりませんね。なかなか」

(メ'A`)「ま、小説や映画みたいに単純じゃないさ現実は」

ティーマスのぼやきにそう返しながら、俺の口元には思わず苦笑いが浮かんだ。

('A`)「たとえ映画だったとしても、俺達はそういう感動の場面を演出して貰える立場にはなれないだろうよ」

(メメ<●><●>)「そんなことありません。テネシャンスD辺りでボーカル勤めてそうですよ少尉」

('A`)「誰がジャック=ブラックだ」

だいたい体格的には真逆の系統だろ俺。

《パンコウ区オシエツキー通り、敵砲弾が直撃!機動警官隊と歩兵分隊に死傷者多数!!》

《高層観測班、既に拠点ビルの半数が崩落し通信途絶!!Prinz Eugen、水偵の高度は維持してくれ!!》

《Jawohl!!》

俺の容姿に関する諸々はともかくとして、援軍到着後も状況は引き続き芳しくない。第二陣まで殲滅されたとはいえ、前段艦隊の非ヒト型は未だ優に40隻を越える───最悪50隻に届く戦力を保有している。

加えて、後衛には軽巡棲姫ら中核艦隊も健在だ。大編隊による空襲も、F-16の波状攻撃で何とか防いでいるがいつまで持つかは解らない。

ただし、苦境であること自体は変わらないとしてもその「度合い」も不変というワケではない。

('A`#)「CP、ポーランド軍の自走砲隊に前段艦隊の展開地点からシュパンダウ区への砲撃目標変更を指示してくれ!!」

(=゚ω゚)ノ《CPよりフロントライン、シュパンダウ区のどの地点だよぅ!?》

(#'A`)「シュパンダウ区ならどこでもいい、ただなるべく自走砲は全車両での砲撃を行うよう手配を!!」

(=゚ω゚)ノ《解ったよぅ!!》

普通だとここで目標変更の理由付けや砲撃座標の明確な指定を求めてくるのだが、イヨウ中佐は二つ返事で引き受けてくれた。やはり、こういった急場で即断即決を下してくれる上官はありがたいものだとしみじみ実感する。

(=゚ω゚)ノ《~~~~。

砲撃開始10秒前!前線各位、衝撃に備えよ!!》

きっかり10秒後、とびきり巨大な風船を破裂させたような乾いた音が背後で幾つも響いた。

(=#゚ω゚)ノ《弾着まで10秒……5秒………弾着、今!!》

優に20発を越える榴弾は、前段艦隊すら遙かに飛び越えてベルリンの西端へ。中佐のカウントが終わると同時に、家々の隙間を縫って30km彼方より爆発音が連続的に聞こえてくる。

(;//‰ ゚)「……砲撃が!?」

そして束の間、前段艦隊による砲撃がピタリと止まった。

('A`#)「Bismarck、同区画に主砲射撃!!位置はどうでもいい、とにかく一発ぶち込め!!」

《Jawohl!!

Feuer!!》

瓦礫だらけのベルリンを、「戦艦」の砲声が震わせる。

SKC/34型 38cm連装砲。史実で【戦艦ビスマルク】の建造をわざわざ遅らせてまで搭載された巨砲の威力は、現代においても健在だった。

深海棲艦の軽巡・駆逐共が放ってきた砲弾や自走砲隊の榴弾とは一線を画した、桁違いの一撃。かえって「轟音」以外の比喩表現が見当たらない凄まじい弾着音の後に、着弾点付近の建物が崩れ去る耳障りな騒音が続く。

《Prinz EugenよりCP、Bismarck zewiによる艦砲射撃の弾着を確認。なお、敵艦隊への損害は不明!》

《ちょっとドックン、命令があったから撃ったけどあんなところを攻撃して何か意味があったの?》

('A`)「まずいい加減人の名前を覚えてくれるとありがたいなお嬢さん」

とはいえ、ビスマルクが言わんとすることは解る。シュパンダウ区は敵前段艦隊の展開地点から離れていて、地図で見た限り街区の面積も狭くはない。38cm砲の巻き起こした爆発も、区画全体から見れば決して大きくはない。

一応襲撃開始直後に軽巡棲姫と護衛艦隊が目撃された区画ではあるが、「シュパンダウ区の中程で見た」という漠然とした情報のみであり明確な展開地点は不明のまま。そも、敵中核艦隊が未だにシュパンダウ区に展開しているという保障もなかった。

中核艦隊を本気で撃沈しようとするのなら、艦娘と自走砲を総動員してシュパンダウ区全域を更地にするほどの砲幕を張る必要がある。

『『『────ォオオオオオォオオオオオッ!!!!』』』

《Prinz Eugenより市内各区画に通達!》

尤も、俺は最初からそんなもん狙っちゃいないが。

《敵前段艦隊、砲撃を続行しつつ一斉に進撃を開始!!全艦がこちらに向かってきます!!》

(=゚ω゚)ノ《釣り出し成功、お見事だよぅ少尉》

さっすが中佐は話がわかる。

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《えっ、ちょっと待ちなさいよ。釣り出しってどういう意味───きゃあっ!?》

無線越しに砲弾がアスファルトを砕く音と、とてもドイツ海軍最強の艦娘が上げたとは思えない高い悲鳴が耳に飛び込んできた。次いで、高層観測班から敵砲火がビスマルクの待機地点に集中している旨が焦燥剥き出しの声で知らされる。

戦艦の居場所を晒したのだから、優先して潰そうと思うのは当然か。ともあれ、わざわざ追加の「裏付け」までくれるとは親切な話だ。

('A`)「ビスマルク、損害状況知らせ!」

《数え切れないほどの至近弾に、駆逐艦のものと思われる砲弾が一発直撃!

とはいえ小破にすら至ってないわ、艤装運用に問題なし!》

('A`)「解った、はっきりした損傷を受ける前に一度後退しろ!!」

《Jawohl!!》

深海棲艦は陸上における進行速度は俺達と大きく変わらないが、非ヒト型はその巨体と馬力を活かして建物を崩しながら市街地を“直進”する。狙い通りのこととはいえ、前段艦隊の到着まで時間は潤沢とは言い難い。

打てる手は、同時進行で打つ。

(#'A`)「ティーマス!」

( <●><●>)「Ich verstehe.

前衛部隊各位、路上に再びC-4の設置を急いで下さい。……それと、街路両脇で3階建て以上の建物があればその最上階壁にも取り付けるように。アサルトライフル並びに携行砲のメンテナンスも───」

目配せしただけで飛ばされる的確な指示。しかもこちらが出す予定だった内容とほぼ変わらないときた。

階級譲渡が無理なら佐官への特進を進言しようかと半ば本気で検討しつつ、手元の無線をツンの下に繋げる。

('A`)「ツン、ポーランド軍機甲部隊との合流は!?」

ξ;゚⊿゚)ξ《第一波との合流は完了、割り振りも無線合わせも済んでるけど……貴方いったい何したの!?どうして深海棲艦が突然前進なんか───》

('A`)「解説は後だ!レオパルト1とプーマを一両ずつ指揮所の防衛に残して、自走砲以外の全装甲戦力を渡河させろ!」

ξ゚⊿゚)ξ《───了解!!》

('A`)「総員に伝達!!間もなく再編された主力機甲部隊が前線に到着する、各部隊は現戦線を固守し主力到着まで耐え抜け!!」

ここで一瞬、サイ大尉やミルナ中尉のように洒落た演説の一つでも飛ばせないかと言葉が途切れた。

まぁ、学がない上コールガールすら口説いた事が無い俺に、あんな演説が思いつくはずもない。

ついでに言えば時間も無かったので、俺はドイツ人のステレオタイプらしく「仕事」の内容だけを伝えることにした。

(#'A`)「これより、深海棲艦の前段艦隊との決戦に移る!!ベルリン奪回への分水嶺だ、全火力を動員して迅速に殲滅しろ!!

化け物共に、艦娘以外にも敵がいると言うことを……」

(#'A`)「俺達人間が、奴らの“敵”であるということを教えてやれ!!」

《「《「─────Jawohl!!!!」》」》

深海棲艦側にとって最も避けたい事態は、当然のことながら旗艦である軽巡棲姫の撃沈。当然前線への配備はあり得ず、周辺をヒト型で固めた上で後衛待機が基本線となる。

本来なら向こうはそもそもベルリン市から遠く離れた位置に中核艦隊を据えたいはずだが、ここで問題となってくるのが非ヒト型の統率だ。

《Mi-24、第二波が前線に突入する!航空攻撃に巻き込まれるなよ!》

《ZSU-23-4【シルカ】六両が新たに到着しました!!》

(#'A`)「三両は前線に回してくれ!残り三両は艦娘達の護衛に付けろ!」

《Jawohl!!》

姫や鬼の恐ろしさは戦闘能力もさることながら、特筆すべきは“非ヒト型”の統率能力。リ級やル級に代表されるヒト型種が5、6隻のコントロールを限界としているのに対し、姫級は少なくとも100隻以上の非ヒト型を操れるのではとの説もある。

ただし、ポルトガルでの例を見れば解るとおり無制限で100隻を自在にコントロールできるわけではない。アルカンタラマールで交戦した“1-1艦隊”が断熱シートを戦車に被せただけの欺瞞すら見抜けなかったとき、装甲空母姫は打撃艦隊への備えとして遙か外洋に展開していた。

『ォオオオオ……』

《高層観測班より通達、イ級1体が自走砲隊の砲撃により沈黙!おそらく撃沈と思われます!》

('A`#)「中佐、ポーランド軍に攻撃をやり過ぎないよう注意して下さい!前進を辞められたらせっかくの釣り出しが無意味になる!」

(=#゚ω゚)ノ《了解だよぅ!!》



姫級が非ヒト型を自在に操れる限界距離は、凡そ50kmされる。30km四方のベルリンに確実に指示を届かせかつ電波妨害まで行うとなれば、行動範囲は自然ベルリンに限られる。

後は具体的な位置をどうやって特定するかだが、ポーランド軍の到着がその問題を解決してくれた。

(#゚д゚ )《総員前進開始!!

Los Los Los!!》

《CPより前線、BM-21【グラート】が二十両新たに戦線に到達、砲撃準備完了!!》

('A`#)「ロケット砲は貴重だ、展開位置は分散しつつ合図があるまで待機!照準は敵前段艦隊に集中させるよう指示を!!」

152mm砲。口径のみで言えば第二次世界大戦時の軽巡洋艦主砲に匹敵し、射程と威力も申し分ない【戦場の女神】の一つ。無論“戦車砲よりは効果的”というだけでヒト型達からすれば大差の無い威力ではあるが、少なくとも20門以上が一斉に放たれれば威嚇効果としては決して低くない。

案の定、すぐ近くに飛んできた“脅威度が上がった攻撃”への動揺からか、前段艦隊への指揮が一瞬止まった。

《ポーランド陸軍、携行砲装備の歩兵隊が先行して其方に向かった!合流して防衛線の強化を急げ!!》

《高層観測班より前線各位、敵前段艦隊と接敵まで後30秒!!警戒を!!》

(#'A`)「総員構え、総員構え!!」

(#//‰ ゚)「気合い入れろ、敵は手強いぞ!!」

後は、ビスマルクによる正真正銘“一撃轟沈もあり得る攻撃”を加え、奴らの位置をこちらが把握していると教えてやればいい。

自然、“事故”を防ぐために奴らが取れる策は絞られる。

こちらの重火力部隊や艦娘の浸透を防ぎつつ、かつ向こうが艦娘の殲滅を狙うための手段、即ち。

『『ォオオオオォオオオオオオッ!!!!』』

「Enemy contact!!」

('A`#)「Feuer!!」

前段艦隊の集中運用による、決戦突撃。

今更新ここまで。いやもぅ大変お待たせしまして申し訳ありません。

正面の道路をひしめきながらこちらに進んでくる深海棲艦達。奴らとの戦闘の口火を切ったのは米海兵隊のLAWとティーマス指揮下部隊のカールグスタフだった。

『オォアアアアッ!!?』

唸りを上げて飛んでいった10発近い対戦車弾頭が、先陣を切っていたハ級の鼻先に直撃する。黒い表皮が裂けて砕け、火花と爆炎、青色の体液が雨に混じってまき散らされた。

『ァアアアアア───ア゛ア゛ッ!?』

(#//‰ ゚)「撃たせるかよこのディープワンめ!!

Keep fire!!」

「「「Yes sir!!」」」

隣で射撃体勢に移ったロ級に対しても、サイ大尉以下海兵隊のジャベリンミサイルが降り注ぐ。

猛烈な勢いで叩き込まれる火線に、先鋒二隻の足が止まった。

('A`#)「とにかく射撃間隔を開けるな!!奴らに砲撃の間を与えないようにしろ!!」

( <●><●>)「上部からの砲撃も有効に活用して下さい。非ヒト型は総じて下半身が小さくバランスが取りづらい、衝撃を与え続ければ射線をブレさせ攻撃の手を止めることが出来ます」

彼我の距離は700Mほど。1キロに満たない距離など“軍艦”からすれば目をつぶっても当てられる至近距離だ。

故に此方は、前段艦隊を殲滅するためになるべく“撃たせない”事が重要になる。

(#'A`)「前衛各位、残弾や余力は一切気にするな!!確実に、一匹残らず奴らを仕留めろ!!」

「《「《Jawohl!!》」》」

止まないどころか勢いを増す雨の中で、砲煙と火薬の匂いが街路に満ちていく。

『ウォオオオオ………』

「Enemy down!!」

('A`;)「よし、さい先が───うおっ!?」

(;//‰ ゚)「Ups?!」

既に自走砲隊の攻撃で十分な損害を受けていたのか、ハ級の方が早々に蹌踉めき道路に倒れ込む。

だが、喜ぶ間もなくその後から突き出された艤装が火を噴き、弾丸が低弾道で俺達の頭上スレスレを飛び過ぎた。

『キィアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

('A`;)「っ」

砲撃を食らった装甲車数両の爆発音を掻き消すようにして、その艦は声高に叫ぶ。他の非ヒト型よりも1オクターブ高い鳴き声は不快感も増しており、耳を抑える手を止められない。

( <●><●>)「………相変わらず奇っ怪な外観ですね」

声の主の姿を目にし、ティーマスがぼそりと呟いた。

軽巡級の個体であるそいつは、ホ級やト級と同様に頭部と思わしき位置には眼球がない。

のっぺりと頭を覆う白い表皮は被り物のようで、世界的に有名な某ホラー映画の殺人鬼を連想させた。先ほども言った通り眼球はないが、人ならば眼に当たる位置に切り抜いたような穴が空いていることも余計にマスクのような印象を与えてくる。

ホ級やト級に比べるとやや人間に近い体付きといえる。だが胸から下を覆う嘲笑を浮かべたような形の大顎と完全に艤装と融合した右手、何よりもその顎の最下部から突き出した地上を移動するための蜘蛛のような八本の足が明確に“奴”を化け物としてカテゴライズさせた。

『キィアアアアアアアアアアアッ!!!』

奴────軽巡ヘ級が、右腕を此方に向けながらもう一度雄叫びを上げる。

('A`;)「散開!!」

2発目の砲弾が、新たに何両かの装甲車を吹き飛ばした。

(;'A`)「点呼、負傷者がいたら報告しろ!!」

( <●><●>)「此方ティーマス、幸い負傷無し。他の兵も無事です」

(//‰ ゚)「アメリカ海兵隊をなめんなよ、あの程度なら避けられる!」

(*゚∀゚)「ツー=アハッツ、健在だぁ!!」

ベーデカー軍曹と共に瓦礫の影に飛び込みながら叫ぶと、幸いにして欠員が出た様子はなかった。なおも何発か砲弾が撃ち込まれる中ちらりと物陰から顔を出し、改めてヘ級を観察する。

全長は五メートル前後、隣のロ級と変わらない。

「……通常種で良かったですね」

('A`)「あぁ、本当にな」

ヘ級flagshipは他の非ヒト型に比べて一段高い戦闘能力を有しており、ヒト型を除くと軍内でも強くマークされる個体の一つだ。特に対潜能力は凶悪で、世界初となる艦娘の“轟沈”はヘ級flagshipと潜水艦娘が遭遇してしまったため発生している。

それも、質量共に他国を圧倒する日本の艦娘が犠牲になったため、当時は特に艦娘保有国を中心に世界中でヘ級の危険性が大々的に取り上げられることになった。

無論、あくまで“flagshipじゃない分マシ”という話であって“楽に片付けられる相手”には残念ながらならない。今の砲撃で隊列も乱され、攻撃は続いているものの敵の反撃も此方に届き始めている。

ましてや、今回の敵は二隻や三隻ではないから尚更厄介だ。

《Prinz Eugenより前衛各位、前段艦隊に動きあり!!

各班正面にて、敵艦隊は戦列を複縦陣に移行中!一斉砲撃を行おうとしている模様です!》

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ガラガラと建物がくずれていく音と、立ち上る土煙。それはヘ級達に後続していた、後続の深海棲艦が前に出つつある印。言うなれば「T字不利」が取られているに近い状況を打破するための軽巡棲姫の差し金だろう。

予想される前段艦隊の残余戦力は50隻程度。此方の前衛部隊が展開している5カ所の拠点に均等に戦力が割り振られたとして、俺達前衛部隊は各所が10隻前後の軍艦と生身で交戦している計算になる。

正念場だ。

(#'A`)「CP、Mi-24があれば敵前段艦隊への攻撃に回してくれ!!自走砲隊には同時にシュパンダウ区への砲撃要請を!!」

(=゚ω゚)ノ《了解だよぅ!ちょうどヘリ部隊の第三波が突入する、全機を攻撃に回す!!》

直後に頭上を飛び越す砲弾と、その後を追って飛来するMi-24。新たな編隊は榴弾がシュパンダウ区へ着弾する瞬間に合わせる形で、一斉に前段艦隊めがけて突入する。

『オォアッ!?………グゥアアアッ!!!?』

『ルァアッ!?』

非ヒト型といえど、上位種の命令があればそれに従うだけで個々の感情や自我を全く持たないわけではない。“自分たちの本陣”に派手な攻撃があれば反応するのは当たり前だし、知能が低い分その反応はより動物的になる。

砲撃に釣られたヘ級達はほぼ全艦が後方に気を取られ、陣形転換も不十分なままヘリ部隊の突入を無防備なまま受ける形となった。

『アォオオオ………』

『グア……』

次々と上空から襲いかかるAT-6 スパイラルミサイルに、既に中破まで行っていたロ級が瞬く間に動きを止める。ビルの向こう側でも何か大きな物が倒れ込む音が聞こえ、すぐに高層観測班からの「ト級沈黙!!」の報告が無線から飛び込んできた。

『キィアアアア────アアアアアアッ!!?』

('A`#)「Los, Los!!」

(#//‰ ゚)「Guys, Go attack!!」

しぶとく生き残るヘ級が艤装をヘリに向けようとするが、当然させるわけがない。

陣形を立て直した俺達から放たれる、ロケットとミサイル。ジャベリンは艤装に、パンツァーファウストは頭部に、カールグスタフは脚部にそれぞれ直撃しヘ級のグロテスクな身体を撃ち抜く。

『ギッ、ギィイイイ……ッ!!』

とはいえこの頃にはヘリ部隊の方が兵装をほとんど撃ち尽くしたらしく、4機編隊のハウンドは12.7mm弾を牽制としてまき散らしながらゆっくりと後退を開始した。

空襲の圧力から解放されたヘ級が、苦悶の声を上げながらも右手を此方に向ける。

尤も、時既に遅しという奴だが。

《CPより前線各位、弾着間もなく。衝撃に備えろ》

『ギッ……ガァアアアアアアッ!!?』

BM-21グラートによる、ロケット弾の一斉投射。

文字通り“豪雨のように降り注いで”きた122mmロケット弾に、ヘ級の身体は断末魔と爆音の中でバラバラに引き裂かれた。

('A`)「各班、状況を報告しろ!!」

《第二班、交戦中の敵艦の内イ級elite、ヘ級をそれぞれ1隻ずつ撃沈!また、ホ級が大破状態で後退を開始!》

《第四班より前線指揮車、Mi-24の空襲でロ級2隻が轟沈。また、今のロケット弾投射によりホ級1、ト級elite1が沈黙しました》

《第五班、敵前段艦隊3隻の排除を確認、残余7!》

《此方第三班、交戦中の敵艦隊9隻の内2隻が沈黙!また、ト級eliteが大破状態に移行!》

交戦開始から機甲部隊の到着を待たずに、11隻もの敵艦を沈めることに成功した。はっきりいって、即席の陽動がここまでハマるとは思っていなかったため喜びよりも先に戸惑いが来る。

だが、望外の結果だった故に思考が冷静なままでいれられるのは寧ろありがたい。

('A`)「ロケット砲は再装填に時間がかかる、今のような大砲撃をもう一度行うには間が空く!

各班突出は避けて引き続き敵艦隊の打撃に勤めろ、機甲部隊到着まで此方から攻勢には出るな!」

《《《Jawohl!!》》》

指示を出し終えたところで聞こえてきたのは、新たな車両のエンジン音。といっても、戦車や装甲車のそれより遙かに馬力が低いエンジンが奏でるものだ。それが十何個か重なって、水飛沫の音と共にこの区画に近づいてくる。

( ’ t ’ ;)「※※※、※※※※!!」

深海棲艦への攻撃を続ける俺たちのすぐ傍に、金髪の男が乗る物を先頭として4台の軍用バイクが軽くドリフトしながら停車した。すぐ後に軍用トラックが一台続き、荷台の上に乗っていた武装兵十数人が金髪の男の指示に従って一斉に路上に飛び出す。

ライフルグレネード付きのPMK-PGN-60をほぼ全員が構え、内半数ほどはRPG-7かカールグスタフを背負っている。更にトラックの荷台には、SPG-9まで三脚で備え付けてあった。

先程無線でCPが伝えてきた、ポーランド陸軍の携行砲装備部隊の到着。はっきり言って最高のタイミングに、はっきり言って指揮官と思わしき金髪の男にキスの一つもかましたくなる。

後半“ながら”だったので飛び飛びでしたが今更新ここまでです。誓って言いますがドク少尉はホモではありません

( ’ t ’ )<ポーランド陸軍一等准尉、カルリナ=ヴォジニャックです!>

バイクから降りた男……というより青年は、背負ったカールグスタフが通常より大きく見えるほど背が低く華奢だった。英語でカルリナと名乗ったそいつは、俺の下まで駆け寄ると砲声に呑まれないよう声を張り上げる。

( ’ t ’ )<ドク=マントイフェル少尉ですね?これより我が分隊は指揮下に入ります!!>

('A`)<増援感謝する!しかしよく一目で俺のことが解ったな!!>

( ’ t ’ ;)<イヨウ中佐が特徴的な顔立ちなのですぐ解るだろうと……あ、いえ!何でもないです!!>

('A`)

無事作戦が終わった暁にはあの中佐と少し話し合う必要がありそうだ。

というかお前もオブラートに包めやイケメンに言われると二重に抉られるわ。

('A`)<……まず前段艦隊を殲滅する、全火力を正面の敵艦隊に投射してくれ!>

( ’ t ’ )<了解!

※※※※!!」

台詞の後半はおそらくポーランド語での指示だったのだろう。兵士の一人がトラックの荷台に駆け上がり、SPG-9の操作に移る。

残りの面々も、一斉に背負っていた携行砲やアサルトライフルを構え前段艦隊の方に向けた。

( ’ t ’ #)「Strzelac!!」

号令一過、新たに24の銃口・砲口が火を吹く。路地を満たす硝煙の濃度が更に増し、ポーランド軍による弾幕が深海棲艦に真っ向から叩きつけられる。

『ヴォオオアアッ!!?』

カルリナ達の攻撃は、バラバラにされたヘ級の遺骸を踏み越えて前進してきたイ級に全て直撃。 多数の砲撃の勢いに圧されたイ級の頭部が跳ね上がり、そのままひっくり返るようにして背中から仰向けに路上に倒れ込んだ。

《────弾着、今!!》

『ギィアッ!!!?……アァ……ァァァ………』

剥き出しになった腹に、タイミング良く迫撃砲弾が立て続けに何発か突き刺さった。

イ級は起き上がれない亀のようにじたじたと足を動かしていたが、声も挙動も弱々しくなっていき最後の一発であっさりと絶命する。

「イ級通常種の沈黙を確認!正面敵残余艦数残り7!!」

《此方五班敵艦隊半数を撃沈。戦闘を続行する》

《四班、ホ級を制圧した!あと少しだぞ、踏ん張れ!!》

敵前段艦隊の損害は、間断ない火砲投射と幾度かの空襲によって今や五割に達しつつある。陽動以外で艦娘の力を使わない中で半数の敵艦を撃破となれば、自分で言ってしまう形になるがこれは奇跡的な大戦果と言える。

此方にも損害は出ているものの、深海棲艦の最大目標である艦娘への攻撃は全くといっていいほど許していない。あくまでベルリンに限った話でいえば、戦況は圧倒的優勢だ。

(#'A`)<カルリナ、もしC-4を持ってきていたら幾つか健在な建物の内壁に仕掛けてきてくれ!>

( ’ t ’ #)<了解!

※※、※※、~~~!!」

無論それは数字上の話であり、ここまでやってなお俺達の状況は微塵も予断を許さない。

('A`#)「ベーデカー、残余敵艦の内訳を報告しろ!!」

「ト級の通常種が一隻、それから“1-1艦隊”とヘ級、ロ級が二隻です!!

ト級以外は、全てelite!!ニ班~五班においても、残存戦力の主力はeliteです!!」

カーテンコールの訪れは、まだまだ遠い。

五つの防衛線を構築する敵前段艦隊は、最後の線である第5陣のほぼ全てをeliteで固めるというかなり慎重で防衛的な展開をしていた。そのため俺達が第1陣、第2陣を一方的に殲滅しつつも、敵艦隊は非ヒト型の上位種戦力を自然な形で温存している。

攻勢にあたっても敵艦隊は極力通常種を前衛に集め、自走砲による砲撃や打撃部隊への盾となるように陣形を組んだ。此方もなるべく優先して上級個体を狙いはしたが、ニ班と四班で撃沈、三班で大破艦が確認できた程度で未だ20隻を超えるeliteが戦闘能力を有して前線部隊と対峙する状態。

火力の差は歴然であり、軽巡棲姫からすればベストとまでは言えずともベターな戦力比に持ち込めている筈だ。

……尤も、それは此方にも言える話であって。

ξ#゚⊿゚)ξ「─────Panzer vor!!」

敵戦力を減らしつつの“時間稼ぎ”は、もう十分過ぎるほど終わっている。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

『ォオオオオオオアッ!!?』

ツンの叫びと共に、戦車隊の先陣を切っていたレオパルト1が105mm砲を撃ち鳴らす。ヒュンッ、という巨人の口笛のような飛翔音を残してAPFSDSが空間を駆け、最後の通常種であるト級の左頭部に突き刺さり装甲皮を貫く。

::(* A )::「ブフムッフフッ」

金髪巻き毛のフランス女がドイツ陸軍の戦車に乗って後方にポーランド軍の装甲部隊を率い、ドイツ語を叫びながら突入してくるというグローバル化の集大成のような光景に思わず変な笑いが口をついて飛び出した。

( <●><●>)「キモッ」

(*゚∀゚)「キモッ」

('A`)

ドイツ連邦陸軍少尉ですが部下が辛辣です。


眼から流れてきた汗(比喩表現)を袖口で拭き取り、改めて区画に突入してきた友軍戦力を確認する。

ツンのレオパルト1を先頭に、真後ろにプーマ戦闘車と、もう一両のレオパルト1。最後尾には自走対空砲ZSU-23-4【シルカ】が後続。左側に並ぶのは、ポーランド陸軍の戦車であるレオパルト2A4とPT-91【トファルデ】が二両ずつ。

更に軍用トラック一台分ほどのスペースを空けて、トファルデとレオパルト2A4各2両にハンヴィー4両からなる第2陣が続いた。

敵艦砲射撃による混乱や損害もあって若干歪な編成ではあるものの、合計16両という強力な装甲戦力の到着は頼もしい。

一方で、強襲打撃班の搭乗していた車両やカルリナ達の到着によってかなり兵力が密集した形だ。敵艦砲射撃が直撃すれば、命中位置次第では駆逐艦の砲弾でも甚大な損害に繋がる。

まずは、こちらから再度攻勢に動く。

(#'A`)「ツン、装甲車隊を一部右手1ブロック先から迂回させろ!敵艦隊の側面を突く!」

ξ#゚⊿゚)ξ「了解! ※※※!!!」

指示を受けたツンが無線に向かってカルリナと同じ響きの言語で何ごとか叫ぶ。ポーランド語まで習得済みとは本当に頼れる才女様だ。

('A`)<カルリナ、一部歩兵を戦車隊に随伴させてくれ!敵の空襲があった場合はアサルトライフルの射撃で援護を!>

( ’ t ’ )<了解!>

('A`#)「サイ大尉、ベーデカー、ティーマス、前進するぞ!奴らの攻撃目標を分散させる!」

「Jawohl!!」

(//‰ ゚)「Roger that!!」

( <●><●>)「Ich verstehe」

('A`#)「ツー、お前も後続しろ!!

Los Los Los!!」

指示を終えた俺は、物陰から路上に飛び出すとアサルトライフルを構えて前段艦隊に向けて駆けだした。

『ガァアッ!!!』

(*;゚∀゚)「………ひょおうっ!?」

道路に飛び出した瞬間、ト級が反撃の砲火を放つ。突風と熱を残して跳んできた砲弾に、ツーが奇声を上げながら身を竦めた。

爆発音。振り返れば、PGS-9が装備されていたトラックが燃えている。拉げた荷台の上では人の形をした何かが炎を纏い、やや離れた位置では今の攻撃に巻き込まれたらしいドイツ兵が上半身だけで転がっていた。

('A`;)「怯むな!いけ、いけ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「ドク達の援護を!!

Feuer!!」

『ウグアッ!?』

『ギイッ!!?……アアアッ!!!』

レオパルト1と、トファルデの主砲が立て続けに吠える。前者の弾丸は寸分違わぬ狙いで先程の着弾点をもう一度射抜き、後者の砲弾はその隣に進み出てきたロ級eliteに直撃する。

だがロ級の方は衝撃に踏みとどまり、艤装をゆっくりと此方に向けてきた。

「Fire!!」

『ガッ……!?』

その横っ面に、サイ大尉に後続していた海兵隊がLAWをぶち込む。踏ん張りきった直後で態勢が安定していないロ級の巨躯が揺れ、砲塔ががくりと下を向いた。

ξ#゚⊿゚)ξ「Go Missile!!」

《Jawohl!!》

『アゲァッ!?ア゛ア゛ッ……オォオ………』

ツンが叫び、プーマ戦闘車の砲塔からスパイクLR対戦車が二発連続で撃ち出される。

一発目が頭部を上から撃ち抜き、二発目は持ち上がり露わになったロ級の下あごを吹き飛ばし艤装に突き刺さる。

ロ級はぐらりぐらりと身体を揺らし、イ級の屍の上に折り重なるようにして倒れ込み息絶えた。

『ォオオオオッ!!!』

完全に左頭部を失ったト級の方は、しかしながらまだ生きていた。仲間の死に対する怒りからか一際高く咆哮すると、200mほど距離を詰めていた俺達に向かって機銃を放つ。

('A`#)「飛び込め!!」

(*゚∀゚)「うひぃっ!!」

咄嗟にツーの首根っこを掴みながら、陥没した道路の穴の中に飛び込む。アスファルトを弾丸が削り、すぐ傍を火線が走り抜けた。

道路はハ級による地下からの攻撃で、そこかしこがめくれ上がったり陥没している。幸い、隠れる場所には事欠かない。

敵を引きつけつつのゲリラ戦にはうってつけだ。

細々とした亀更新になってしまっていますがここで一度。
ご清聴ありがとうございました。明日はお休みなので一気に進めたいと思います

('A`)「ツー、行くぞ!」

(*゚∀゚)「あいよぉ!!」

『ォオオオッ!!!』

ツーと共に穴を駆け上がり、ト級に向けて銃撃。狙うはレオパルト1が穿った左頭部の貫通痕。

傷跡への攻撃はアサルトライフルの射撃でも幾らか効くのか、ト級は低い声で嫌がる素振りを見せるが身体の構造が祟って銃火を遮ることは出来ない。無理やり身体を捻って射線を躱そうとする。

「Fire!!」

『ォオアッ!?』

そこに撃ち込まれたのは海兵隊が構えるジャベリンミサイル。ただし、狙った先は頭部ではなく、ト級の腕。

ト級は胴体と足を持たず、陸上移動の際には中央頭部から直接生えた二本の大きな腕で「歩行」する。未発達で小ぶりな足しか持たない上に胴体の大きさに対して脚部の形状がアンバランスな駆逐艦よりマシだが、それでも地上での機動力は高くない。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

『ウ゛ア゛ア゛ッ……』

回避運動のためにもつれていた腕に直撃するミサイル。ぐらりと傾き戦車砲の射線に晒されるト級の頭部艤装。

4両の戦車による一斉射撃は、吸い込まれるようにして頭頂から生えた砲塔に直撃。

グワリと音が鳴り、艤装が爆散。弾薬の誘爆によってト級の中央頭部が火の玉と化し、数秒間の制止を経てそのままト級は腕を折り斃れる。

『キィアアアアッ!!!』

(;'A`)「止まるな!!」

そのまま足を止めず走り抜け、今度は路上に転がった黒焦げの市営バスの下へ。入れ替わりで前に出てきたヘ級eliteの機銃掃射が後ろから猛然と追いすがってくる。

命がけの鬼ごっこはかろうじて此方に軍配が上がり、ツーと俺が残骸の影に飛び込んだ直後弾丸が炭化した車体にめり込んだ。

『グェアッ!?』

『キィ………キィアアアアッ!!?』

同時に砲声。ヘ級の後ろで今度は単縦陣への移行運動をしていたイ級の横っ面で爆発が起きる。思わぬ方向からの一撃にふり向いたヘ級の腹にも、連続して二発の砲弾が突き刺さった。

『ウォオオッ!?』

『ゴォアッ!?』

ヘ級とイ級への砲火を皮切りに、奴らの右手から横殴りに叩き込まれる砲弾と銃弾の嵐。ホ級が砲塔を向けようとしたが即座に砲火が集中し、照準を絞る前に放たれた艦砲射撃はあらぬ方向へと飛翔する。

ξ#゚⊿゚)ξ「ドク、別働隊が敵艦隊側面に到達!攻撃を開始したわ!」

('A`#)「正面戦車隊並びに随伴歩兵隊、最大火力にて敵艦隊を打撃せよ!!とにかく撃って撃って撃ちまくれ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「Jawohl!!

※※※、※※※!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

弾幕射撃が更に勢いを増して俺達を追い越し、ヘ級達に猛烈な勢いで襲いかかる。無数のマズルフラッシュと爆発光が、雨の中で途切れることなく煌めく。

『ォオオオオォオオッ!!!』

(;'A`)「………っ!」

次々と深海棲艦達の巨躯に吸い込まれていく火線。だが、全身に銃火を纏いつつもヘ級が右手の艤装を強引に持ち上げツン達の方へ───はっきりと、ツンが乗るレオパルト1へ向ける。

ξ;゚⊿゚)ξ「……ヤバ」

(;'A`)「ツン────!」

砲声。

ξ;>⊿<)ξ「きゃあっ!?」

不幸中の幸いというべきかヘ級が放った砲弾は、苛烈な砲火の衝撃で軌道がぶれレオパルト1への直撃を免れる。

それでも、周囲を固めていた随伴歩兵の直中に飛び込んだ砲撃による損害は小さくない。海兵隊とドイツ兵それぞれ数人が武器を構えていた着弾箇所からは人影が消え、代わりに一掴みほど人体の残骸のみが残された。

(;'A`)「ツン、無事か!?」

ξ; ⊿゚)ξ「…っ、大丈夫!かすり傷すら負ってないわよ!

Feuer!!」

『イ゛ァ゛ッ?!』

こみ上げてきた何かを飲み下したような間が空いたあと、気丈な返事と共にすぐさま指揮を再開。

4両の戦車隊による一斉射撃。ヘ級の右手艤装が爆散し、艤装の破片が俺達の周りまで散らばってくる。

( <●><●>)「Feuer」

(//‰ ゚)「Fire!!」

『ギィッ───ヴガァアアアアッ!!!?』

傷口を抑えて蹲ったヘ級の胴体に、下から殴り上げるようにしてカールグスタフとパンツァーファウスト、そして最後の一門となったLAWが直撃。

無理やり起き上がらされた上半身を横合いから戦車隊と随伴歩兵隊の一斉砲火が殴りつける。下半身を覆う顎のような艤装が破砕され、肩口から引き裂かれた右腕がくるくると空に舞い上がり路上に落下した。

ξ#゚⊿゚)ξ「Feuer!!」

( ’ t ’ #)「Strzelac!!」

『ガッ、ギッ………』

カルリナとツンの号令は、同時。膨大な量の砲弾に加え、計ったようなタイミングで飛来した迫撃砲隊の支援射撃が加わりヘ級を滅多打ちにする。

爆圧によって脇のビルに押しつけられるような形になったヘ級はそのまま数秒にわたり無抵抗で撃たれ続け、やがて糸が切れた操り人形のように身体から力が抜け動かなくなった。

undefined

側面と正面の2方向から攻撃に晒される敵艦隊は、一方への反撃を計れば他方からの集中砲火でそれを妨害され今や反撃さえままならない状態となっている。

ただでさえ至近距離のところを更に肉薄し、背後から飛ぶ味方の射線にすら身を晒す形で実行した“釣り”。目の前をうろちょろと鬱陶しく動き回る俺達を潰すことに夢中になり、敵艦隊は側面への警戒を完全に怠った上ツン達正面戦車隊への攻撃すらろくに行えていない。

命懸けの餌役は無事狙い通りの釣果に繋がってくれた。もう一度やれと言われても死んでもゴメンだが。

(=#゚ω゚)ノ《前線衝撃に備えるよぅ!!

弾着、今!!》

遠くの方で榴弾の炸裂音がズンッと響き渡り、直後に何か重いものが地面に斃れる音が続く。俺達以外の前衛部隊も戦況は順調に推移しているらしく、無線からはなおも断続的に敵艦の撃沈や損害報告が流れてきている。

《CPより前線各位、敵前段艦隊の損耗率60%を突破。

また、敵爆撃編隊は未だ増強を継続もポーランド空軍の迎撃により打撃を受け続け前進には至っていない。市外から艦隊の増援が到着した様子も確認できず。

我々が優勢だ、オーバー》

勤めて平静を装いながらも、言葉の節々に驚愕と喜悦が浮かび上がったオペレーターの経過報告が耳に入った。まぁあの絶望的な状況から市街地中央まで戦線を押し返し、おまけに艦娘戦力はなおもほぼ完全な状態で健在と来ている。

確かに、俯瞰してみるとなかなか信じがたい巻き返しぶりだ。ポーランドからの増援といういい意味での計算外が発生したことも含めて、オペレーターの興奮は無理のないことかも知れない。

('A`)「………ツー」

だが、俺はまだオペレーターの歓喜に同調するつもりはない。

(*゚∀゚)「あん?」

('A`)「後退の用意しとけ。ティーマス達にもハンドサインで伝えろ」

作戦が終わっていないからと言うこともあるが、何よりも絶対に忘れるべきではないことが一つ。

“此方にとっての優勢は、敵にとっての苦境”だ。

(*;゚∀゚)「え、なんで?」

('A`)「いいからすぐに準備だ。合図があったら走れ」

《Graf Zeppelinより前線、レーダーに感あり!!》

向こうが、このまま無策で前段艦隊の壊滅を待つはずが無い。

《機影100余、ポーランド空軍と交戦中の主力部隊とは別に低空域で突入!

マントイフェル少尉、全機が貴方のところに向かっている!注意しろ!!》

グラーフからその報告が無線越しに伝えられた瞬間、俺はホ級elite等残った深海棲艦達に背を向けて走り出す。ツーが直ぐに続き、ティーマスやサイ大尉、ベーデカーも次々に物陰から立ち上がり踵を返す。

(;'A`)「ツン、援護を!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「任せなさい!!

Feuer!! Feuer!! Feuer!!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

『ギアガッ!?』

『ァアアァア……』

味方陣地へ疾走する俺達とすれ違い、砲弾が風を蒔いて敵艦隊を襲う。攻撃態勢に入ろうとしたロ級が側面と正面から同時に十数発の砲弾を受けて蜂の巣になった。

(=#゚ω゚)ノ《マントイフェル少尉、そっちに砲撃が行ったよう!!衝撃に備えて!!》

間髪を入れずCPからの報告。榴弾が雨空から降り注ぎ、炸裂。爆発音と着弾音、ホ級共が上げる断末魔が次々重なり、筆舌に尽くしがたい不協和音のオーケストラが開催される。

(;'A`)「っととと!?」

『アァ………ァァァァァ……』

十何発目かの弾着で引き起こされた揺れに足を取られ、俺は前のめりにすっ転びつつ味方部隊の展開地点まで何とかたどり着く。

背後では、弱々しい鳴き声と湿った地面に重い何かを横倒しにしたような音が響いた。

《イ級elite、沈黙!》

ξ#゚⊿゚)ξ「そのまま撃ち続けて!ドク、怪我は!?」

('A`)「おかげさまで五体満足だ!

ティーマス、欠員は!?」

( <●><●>)「ご安心を、全員無事なのは既に解っています」

('A`)「よし!間もなく敵機が来るぞ、総員対空警戒に移れ!!」

俺の叫びにまるで合わせたようなタイミングで、真正面……つまり西側から砲声に混じって微かに聞こえてくるレシプロエンジンの音。音源はぐんぐん近づいてきており、会敵が間もなくであることをご親切に俺達に教えてくれる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ドク、別働隊はどうする?!退避させるなら直ぐに動かすけど……」

('A`)「いや、退避は必要ない。それと正面戦車隊も深海棲艦への攻撃は続行!ただ機銃の仰角は調整しておいてくれ!」

ξ゚⊿゚)ξ「解った!各機銃手、対空戦闘用意!!」

絨毯爆撃によるベルリン全域の焦土化を狙ったことからも解るとおり、深海棲艦側は既に悪天候化の急降下攻撃は最早効果がないことを“学習”した。

そして、大物量による無差別攻撃が“国外からの増援”という彼我どちらも想定していなかった事態で頓挫した以上、空襲方法は自然と先程俺達に対して大きな成果を上げたもう一つの方法────低空域での平面飛行から対地掃射に限られる。

加えて言うなら、敵機は前線の中央に布陣する俺達に戦力の全てを注ぎ込んできた。おそらく戦況の推移や増援戦力の流入の仕方を観察した結果、軽巡棲姫はここが人類側前衛の中枢だと見抜いたのだろう。

《接敵30秒前!!》

急速に近づいてくる艦載機の飛翔音を聞きながら、俺はつくづく思う。

《敵機、来襲!!》


('A`)「C-4、爆破!!」

敵が予想通りの動きをしてくれたのは、本当に幸運だった。

道路両脇に立ち並ぶ、幾つかのビルや家、或いはその残骸。

特に三階建て以上のものに重点的に仕掛けられていたありったけのC-4爆弾が、海兵隊の起爆スイッチによって一斉に炸裂する。

同時に、ダイレクトアタックモードで待機していた虎の子のジャベリン数門も火を噴き、次々と建物に着弾した。

『『『!!?!??』』』

道路に面する側の壁が吹き飛び、窓ガラスが粉砕され、屋根の一部が飛び散る。

敵艦隊と俺達の間に横たわる、700Mの空間。艦載機隊の突入コースでもあったその空間は、C-4爆弾の起爆によって飛散した礫の散弾に覆い尽くされた。

『────!!?』

『!!!?』

『───………』

時速六百キロで低空通過する戦闘機など、人間の動体視力で捉えるには限界がある。だが、艦娘達が使う“三式弾”の要領で「敵機の軌道そのもの」を攻撃すれば話は別だ。

同高度で飛散した礫は突入してきた【Helm】達を真横から撃ち抜き、軌道を遮って激突させ、上から降り注いで押し潰す。少し大きめの“瓦礫”が落下した時など、一気に七、八機が上から押し潰される形で粉砕される。

艦載機達に届かない、更に下側の“散弾”も敵機の入射角を妨害する。何より厄介なことにこれらは意図的に狙って放たれる弾丸ではない。軌道も速度も大きさもすべてがランダムであり、密集して突入してきた敵編隊は回避も攻撃もままならず撃ち抜かれ羽虫のように堕とされてく。

('A`#)「Flak Feuer!!」

(#<●>∀<●>)「フゥハハハハハーーーーー!!!!人類の敵は消毒だぁあ!ーーーーー!!!」

(*;゚∀゚)「ヒェッ」

ξ#゚⊿゚)ξ「全車両一斉射!!撃てぇえええ!!!」

散弾の飛散空域から逃れるべく上昇する敵機は、統率も取れていなければ速度も大きく落ちている。200前後のアサルトライフルによる一斉射や戦車隊の機銃掃射、何よりも、【シルカ】の対空弾幕を切り抜けられるはずがない。

( <●><●>)「───【Helm】、最後の一機を撃墜」

ξ#゚⊿゚)ξ「視認できる後続の敵影無し!頭上安全確保!!」

敵航空隊は、全滅した。

『ォオォォォォ………───』

「Enemy down!!」

散弾攻撃の間も、側面部隊による攻撃と迫撃砲隊の支援は当然継続している。

数を減らし、航空支援も不発に終わったホ級達に最早抵抗の術が残されていなかった。

航空隊の殲滅劇が終わる頃、正面でもう1体のイ級eliteが火達磨になりながら息絶える。

残るは、ホ級とロ級の2隻のみ。

《敵前段艦隊、戦力稼働率20%切りました!》

(=#゚ω゚)ノ《Graf Zeppelin以外の全ての艦娘部隊に通達!!速やかに戦闘態勢!!

ドク=マントイフェル少尉からの合図があり次第突入せよ!!》

《Jawohl!!

ようやく真打ち登場なのね、本当に待ちくたびれたわよ!!》

《此方Graf Zeppelin、共に前衛で戦えないのは残念だが艦載機の用意は出来ている!指示があればいつでも飛ばせるぞ!!》

《Prinz Eugenより全戦隊、敵艦隊の増援未だ無し!戦況我々に極めて優勢です!!》

《CPより前線各位、Mi-24の第4波が突入開始!!

どうやら我々の奮戦が伝わっているらしい、過去に類を見ない大編隊だ!巻き込まれるなよ!!》

飛び交う通信は、今や活気に満ちあふれ誰もが力強い声でやりとりをしている。まだ中核艦隊が残っていることは皆理解しているだろうが、此方にもBismarck zweiを筆頭に艦娘はいるのだ。

極めて軽微な損害で前段艦隊を殲滅しつつあり、続々到着する援軍のおかげもあって質量共に充実した装甲戦力も合わせれば戦力比でも完全に敵艦隊を逆転している。油断は出来ないが、俺達は「勝機」と十分にいえるものを手にした。

────だと、言うのに。

(;'A`)「…………」

( <●><●>)「………少尉?」

俺の脳裏を過ぎったのは、何故か“奴”の満面の笑みで。

《Mi-24第4波、後五秒で─────!?》

その予感を裏付けるように。

数機の【ハインド】が、弾丸に貫かれて火の玉に変わる。

新たに空を照らす、四つの炎の華。交わされていた無線が一瞬完全に沈黙し、何人かの息を呑む音が伝わってきた。

《………!? ゆ、友軍機、次々と被弾撃墜!!》

《墜落してくる、散開しろ!》

まるで呆けたように空中で一斉に動きを止めてホバリング状態になっていたMi-24の編隊は、五機目の犠牲が出たところで我に返り慌てて散開運動を開始。

だが、乱れた隊列に容赦なくその正確無比な砲撃は叩き込まれる。六つ、七つと落下する火の玉が増えていき、街のあちこちに突き刺さる。

幾つかの悲鳴が、爆発音と共にぷっつりと途切れた。

(=;゚ω゚)ノ《CPよりマントイフェル少尉、今のは敵前段艦隊の砲火か!?》

('A`;)「いや、違う!!それより遙かに遠くだ!!ベルリンの西………シュパンダウ区からの砲撃と思われる!!」

(=;゚ω゚)ノ《シュパンダウ区………》

ξ;゚⊿゚)ξ「冗談でしょ?それってつまり───」

《前線各位、此方Prinz Eugen!!西部街区から“艦影”が急速に接近!!

敵艦数は6、全て“ヒト型”です!!》

プリンツの絶叫に近い報告が、俺達の鼻先に改めて“絶望”を突きつける。

《おそらく中核艦隊の構成艦と思われます、後数十秒で接敵───何よこれ、あいつらどこでこんなものを………》

混乱の極みに達したプリンツの無線越しの声は、途中で遮られて聞こえなくなった。

その方角から聞こえるはずのない、複数の“エンジン”が奏でる駆動音と。

艦砲射撃による、轟音で。

( A ;)「…………っっっ!!」

まるで、思い切り頭を殴りつけられたような衝撃。

僅か数メートル背後で巻き起こった大爆発が発する熱と音量、そして閃光が五感を麻痺させ一瞬俺の意識を現実から切り離す。

飛びかけた意識を繋ぎ止めたのは、皮肉にも火達磨で落下してきたPT-91【トファルデ】が地面に叩きつけられる二度目の轟音だった。

('A`;)「……クソッ、被害報こk」

俺の隣で、「ぐしゃっ」というトマトが潰れたような生々しい音が鳴る。

首から上がぐちゃぐちゃのグロテスクな肉塊に変わったベーデカー軍曹の胴体をそのまま踏みつぶして、騒々しいガスの排気音をまき散らしながら一台のドデカイバイクが飛び込んできた様が、まるでスローモーションのように俺の視界に映し出された。

どう考えても正規品ではない、例えばアーノルド=シュワルツェネッガーやジェイソン=ステイサムが乗っている方が様になる化け物じみたデカさのソレが、そのまま100Mほど前進した後ドリフトしながら俺達が展開するT字路の丁度真ん中辺りで停車する。

『~~~♪』

バイクに跨がっていた黒髪の女は、鼻歌交じりに右腕を近くのビルに向けた。

( ゚ t ゚ ;)「──────!!!?」

「艤装」が、腕周りに展開される。

「────重巡リ

主砲を向けられたドイツ兵の最後の叫びは、砲撃に飲み込まれ掻き消えた。

どうにかこうにか目標の場面まで……ようやく本当に「あと少し」のところまでたどり着きました。

今更新ここまで、今しばらくお付き合いいただければ幸いです

体調不良に付き更新お休みと致します。申し訳ございません。

素人目にも違法な改造がたっぷり施されていると解る、派手な塗装に規格外の図体を持った世紀末仕様のバイク。

その上からひらりと舞い降りて傍に立ったソイツの────リ級eliteの紅い二つの瞳が俺を真正面から見据えた。

(;'A`)

『────』

視線が交わったのは、刹那。瞬き一度分の間にすらならない。

当然言葉など発せられていないし、発していたとしてそれが意思疎通を可能とする「音」にするには時間が足りない。そもそも、奴らが人語を俺達に解る形で実際に喋ることが出来るのかも甚だ疑問だ。

だが、俺はその時、奴の感情を確かに「聞いた」。

奴の言葉を確かに「感じた」。












サァ、私ト遊ボウ。
.

(;'A`)「全歩兵隊、目標を重巡リ級eliteに変更しろ!!」

ざわりと肌が粟立ち、背中に先程の何十倍も強い寒気が走る。ほとんど反射的に叫びつつ、G36Cを俺自身もリ級eliteに向ける。

(;'A`)「戦車隊への攻撃を絶対に許すな!倒せなくてもいい、とにかく攻撃を集中して足だけでも止めろ!!」

「「「Jawohl!!」」」

当然歩兵の携行火器などどれだけ寄せ集めても効果が無いとは解っているが、撃たずにはいられない。指示を出さずにはいられない。

一応言葉にしたとおり、ツン達装甲車隊を破壊させないという理由もあるにはある。残りたった2隻とはいえ前段艦隊は全滅には至っていない。ここで戦車を潰されてホ級達の雪崩れ込みまで受ければ、俺達の区画は全滅も十分視野に入る。最低限正面の敵艦隊を完全に沈黙させるまでは、別働隊との連携を維持して戦車隊に働いて貰う必要がある。

それでなくても向こうが撃ってくるのは重巡の主砲撃だ。密集した状態で直撃を受ければ、それだけでも損害は甚大になる。

だが、そう言った理屈や理論は全て建前に過ぎない。

割合として最も大きく、かつ単純な理由は、恐怖。

奴の感情を知ることで唐突にわき出た恐怖と嫌悪が、俺を攻撃に突き動かした。

(;'A`)「────Feuer!!」

全身に靄のように纏わり付く恐怖を振り払おうとするように、俺は声を限りに叫ぶ。

幾十の砲撃が、幾百の銃撃が、全方位から“化け物”に殺到する。

『……………』

仮に非ヒト型であればflagshipですら一息に沈められそうな、まさに“弾幕はパワー”を地で行く猛射撃。

息を継ぐ間すらなく注ぎ込まれる弾丸の群れが自身を守る障壁の上で弾けて火花を散らす様を、リ級eliteは腰に手を当てて立ち尽くしながら見つめている。

………ツンがル級と遭遇した際には、ミルナ中尉等歩兵隊の攻撃もダメージを与えた様子は無いもののル級の動きを封じる役には立っていたという。eliteとはいえあくまで重巡、耐久力や装甲値、馬力などは戦艦に劣るはずだ。

それらを考慮すれば、「重巡リ級eliteは俺達の猛攻に動きを縫い止められている」というのが本来導き出される自然な結論。

だが、銃火と爆光の合間から見える奴の視線がそれを真っ向から否定した。

『…………?』

(;'A`)(………あの時と同じだ、おちょくってやがる!)

タホ川で俺達の攻撃をわざわざスレスレで回避しながら見せた、戯ける子供のような表情。小首を傾げ、もう片方の手をこめかみに当て、此方の動きを観察しているような視線の動き。

弾幕の中で相変わらず立ち続ける姿は街角でくつろぐティーンエイジャーのようで、少なくともアレを「凄まじい攻撃の圧力のせいで動けない」状態に見えたとしたら俺は精神異常者だ。

薄ら笑いと共に細められた眼が、口より遙かに雄弁に奴の「言葉」を物語る。

マサカ、コレデ終ワリジャナイダロウネ?

モウ少シ、オモシロイモノ見セテヨ。

('A`)「………なら、お望み通りにあっと驚かしてやるよ」

小銃の銃口を心持ち奴の眼の辺りに持っていきながら、一瞬近くにいた海兵隊の一人にハンドサインを送る。彼は即座に頷くと、さりげなく別の射撃を行っている兵士の影に隠れて腰に手をやり何かを取り外した。

ツンがル級と交戦した際に、“それ”は非常に大きな効果を発揮したという。考えてみれば当たり前のことだが、ヒト型の障壁は閃光や音といったものまで完全にシャットアウトしてくれるわけではないらしい。

別に、必ずしも攻撃だけが方法ではない。強烈な光と予期せぬ大音響は、時として銃口を突きつけるよりもよほど確実に敵の動きを止めてくれる。

「Flash Ban!!」

叫び声と共に投げられる閃光弾。正確なコントロールで飛ばされたそれは、ノーバウンドでリ級の足下まで到達する。

『────♪』

(;゚A゚)「………はっ!?」

かつん、かつんと、二回乾いた音がした。

地面を閃光弾が撥ねた音ではない。それは、リ級eliteがまるでブンデスリーガのような鮮やかな足捌きで閃光弾をトスし、そのまま背後に蹴り上げた音。

( ゜ t ゜ ;)「────!!?」

低いライナー性の弾道で更に飛距離を伸ばした閃光弾は、リ級eliteを背後から攻撃していた部隊────カルリナ達ポーランド兵とドイツ軍の混成部隊が敷く隊列の真っ只中で炸裂した。

(   t   ;)「……………ッッッ!!!」

「※※※※!?」

「※※※……※※……」

「な、何が………」

「クソッ、おいしっかりしろ!敵はまだ健在だぞ!!」

フラッシュと、殺傷力はほとんど無い爆発音が連なり鳴り響く。200メートル以上離れた此方にはほとんど影響がないが、問題は信じがたい奇襲でこれを至近距離から諸に受けたカルリナ達だ。

凡そ70名ほどの部隊は、前衛の約半数は完全に機能が停止していた。耳を抑えながら蹲るなどして咄嗟に回避したり閃光弾の効果が十分に行き届かない位置取りだった残りの半数も、味方の介抱や戦列の組み直しに追われて完全に攻撃の手が止まった。

途端、リ級が動く。

undefined

『─────!!!』

(;゚A゚)「伏せろ!!」

(;//‰ ゚)「Shit!!」

ξ;>⊿<)ξそ「きゃああ!?」

「※※※ッ!!?」

両手の艤装が同時に唸り、俺達と奴の右側面から攻撃をかけていた部隊に機銃掃射が襲いかかる。直ぐ後ろでホ級達への攻撃を継続していた戦車三両の装甲にも弾丸が降り注ぎ、レオパルト2A4の車上でポーランド兵が一人後頭部を撃ち抜かれてハッチの中に崩れ落ちた。

『─────!』

(;<●><●>)「リ級、後衛部隊に突貫!!」

珍しく動揺が露わになったティーマスの声を尻目に、少し芝居がかった動きでバイクを飛び越えながら疾走。砲撃する素振りは一切見せず、カルリナ達めがけて疾走していく。

「………なっ!?り、リ級接きn」

「総員白兵用i」

最初に気づいたドイツ兵二人が、進路を塞ごうと飛び出す。

振りかぶられる拳。生々しい破砕音と共に一人の頭がはじけ飛び、もう一人は動きの延長で繰り出された回し蹴りに四肢を飛散させながら胴体だけがビルの壁に叩きつけられた。

『───!!』

「く、来るな!!来るなぁ!!!?」

「※※※※※※※※!!!!」

何人かの後衛兵が半狂乱で小銃弾をばらまくが、当然そんなもの微塵の効果もない。

「ひっ」

『ッ!!』

上から抑え付けるようにして右手を振り下ろし、最前列にいた小太りの兵士が短い悲鳴を残して上からぐしゃりと潰される。

元は人間だった赤い肉塊を踏み越えて、リ級eliteは文字通り後衛部隊に“殴り込ん”だ。

(;*゚∀゚)「おいドク撃とうぜ!このままだと後衛が全滅だ、効かなくても気ぐらい引かねえと!!」

(;'A`)「バカか、あの乱戦状態にぶっ放したらいくら何でも味方撃ちは避けられねえぞ!!」

とはいえ、待っていたところで状況はどのみち悪化の一途だ。あの弾幕が動きの抑制効果すら得られていなかった以上どのみち限りなく絶望的であるにしろ、座して全滅を待ってやれるほど此方は潔い人間性ではない。

それに、同僚だけではなく核をぶっ放されるかもしれない国に外から増援に来てくれた奴らも“遊ばれて”いるのを見殺しにできるほど、【有能な軍人】でもない。

(#'A`)「ツン!戦車の稼働状況とホ級共の状態を!」

ξ;゚⊿゚)ξ「別働隊は全車両健在、私達も損失はさっき破壊されたトファルデのみ!機銃手が一人やられたけど継戦には問題ないわ!」

(#'A`)「引き続き前段艦隊への攻撃を続行、それと後続の“バイク”に気をつけろ!!

────総員、目標重巡リ級elite!

Los Los Los!!」

今更新ここまで。今月中頃には終わるかなといったところです。
ご静聴ありがとうございます

幾らかの随伴歩兵を戦車隊の周りに残して、響く砲声を背に後衛に向かって走る。

( ’ t ’ ;)「※※※、※※!!」

『………』

リ級は、更に前へ。何とかフラッシュバンの衝撃から立ち直ったカルリナ達が至近距離から弾幕を浴びせるが、それをものともせずに踏み込むと、低い姿勢から拳を固めて振り上げた。

「プヘッ」

ブチュリ。筋繊維と血管がまとめて引きちぎられる音がここまで聞こえてきて、拳を受けたポーランド兵の首が千切れて天に舞い上がる。

「お゛ぁっ!?」

やけくそに近い形で別方向から飛びかかった兵士の腹には、肘打ちが(まさしく)突き刺さった。血と内蔵が破れた肉の隙間からぼたぼたとこぼれ落ち、奴の腕を伝って足下に生臭い水溜まりができる。

(#'A`)「狙え、撃て!!」

( <●><●>)「Allemann sperrfeuer!!」

リ級が乗ってきたバイクを踏み越え蹴倒しつつ、暴れくるうリ級に背後から肉薄。残り50メートル程まで詰めたところで、俺とティーマスを含めた20人ばかりがリ級への射撃を再開した。

『─────』

「Oh !?」

リ級の反応は早かった。首無しポーランド兵の肩の辺りを鷲掴みにし、振り向き様に俺達の方へ投げつける。

全盛期ボリス=ベッカーの全力サーブを彷彿とさせる勢いでそれは飛来した。俺達に後続してきた海兵隊の一人に屍体の砲弾が直撃し、彼は低い呻き声と共に吹き飛ばされた。

『♪』

(*;゚∀゚)「来たぞおい!!」

(;'A`)「畜生が!!」

(;<●><●>)「っ」

そのまま、タックルをかますレスリング選手のような姿勢で突進してくるリ級elite。当然銃弾で止められる筈はなかったので、隣のティーマスを咄嗟に蹴り飛ばしつつ自身も真横に転がる。

俺とティーマスが直前まで立っていた場所に叩き込まれる拳。殴られた箇所を中心に、およそ1メートル四方の地面がひび割れ陥没した。

undefined

(;'A`)「【Astro Boy】かっての!!」

直ぐに地面から飛び起きてもう一度リ級に射撃を加えつつ頭を過ぎったのは、ガキの頃にちらりと目にした日本の古いアニメーション。そのアニメの主人公である少年型の高性能ロボットは、テレビ画面の中で10万馬力のパワーを振るい悪役達を次々とぺしゃんこにしていたのを覚えている。

ただし、世界的に有名なコミック・アーティストが生み出したそのロボットは正義の味方であり、決して人間に拳を振りかぶることはない。

『────♪♪♪』

…………それに俺の記憶が正しければ、悪役をぶちのめすときにしてもこれほど獰猛で凶悪な笑みを浮かべて武力を行使してはいなかったはずだ。

『────!!!』

(;'A`)「っ………ぐぁっ!?」

ほとんど零距離射撃だったはずだがやはり微塵も影響はない。拳を地面から引き抜くや否や飛びかかってきたリ級は、今度はぐるりと体を捻り回し蹴りをかましてくる。

身をかがめて躱すが、風圧だけでも首がもぎ取られるのでは無いかというほど凄まじい衝撃が走る。堪えきれず、そのままごろごろと数メートルにわたって水浸しの路上を転がる。

「※※※※!!」

『────』

俺が離れた隙を突いて、ポーランド軍のハンヴィーが機銃掃射をかける。が、リ級は其方を見向きすらせずに艤装だけ構え、砲撃。火柱が上がり、銃声が止まった。

「少尉、離脱を……がっ!?」

「Ah………」

今度は海兵隊とドイツ兵が数人ずつ、両側から挟み込むように展開して牽制射撃。リ級は両腕の機銃を同時に放って彼らをなぎ倒しながら、なおも俺を追撃する。

( A ;)「うぁっ────!?」

『~~♪』

ようやく起き上がりかけていた俺に、奴の拳が迫る。咄嗟に横に転がって直撃こそ免れたが、先程より遙かに近くで感じた拳圧は爆風のそれと大差が無い。

゚∴・( A ;)「ゴアハッ……!」

衝撃で再び身体が浮遊し、叩きつけられた場所はさっき俺が蹴倒した奴のバイク。呼吸が止まり、背中と脇腹の辺りでビキリといやな音がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「ドク!!!」

(;<●><●>)「少尉!!」

ティーマスとツンの叫び声に続いて、四方でアサルトライフルや機関銃の乾いた発射音が重なる。幾十の銃火が障壁上で爆ぜるが、それらを意に介す素振りすら見せずリ級は満面の笑みを浮かべながらゆっくりと俺に向かって歩いてくる。


『~~~~♪』

(; A )「………」

バイクの上で仰向けになったまま、銃声に混じって朦朧となっている意識に微かに聞こえるリズム。

それは、確かにリ級の歩みに従って近づいてきている。

(;'A )「……鼻歌なんぞ歌いやがって」

明確に奴の「声」だと決まったわけではないし、仮にリ級が音の主だとしてもそれがどこから出されたものかも解らない。更にいえば、例えばその音が他の深海棲艦への通信波のようなものである可能性も捨てきれない。

だが、なんとなく俺は確信していた。その独特のリズムで奏でられるなんとも形容しがたい不可思議な音は、間違いなくリ級eliteの発する“鼻歌”だ。

(;'A )「……っ」

たいそう上機嫌で近づいてくるリ級eliteから逃れようと、僅かに自由が利く手で下のバイクを押して身体を動かそうとする。酷く緩慢な動作で数ミリずつずれていく俺の様子を見て、奴の笑みが一段深くなった気がした。

(#<●><●>)「───────ぁああああああああああああっ!!!!!」

(;'A`)そ「はっ!?」

『!?』

悠然と歩み寄るリ級に、雄叫びと共に“人影”が衝突した。姿勢を低くして突っ込んできたティーマスが、弾丸のような勢いでリ級eliteの腰辺りに組み付いた。

華奢とはいえ軍人として鍛えた成人一人分の全力の体当たり。流石に転倒したりはなかったものの、リ級eliteの身体が一瞬衝撃で揺れて歩行が止まる。

(#<●><●>)「ツーさん!!」

(*#゚∀゚)「あらほらさっさー!!」

(;'A`)「おおお!?」

ぐいっと肩口が引っ張られ、“自称美人女性兵”が俺の身体をバイクから引きずり下ろしそのまま物陰へ一直線に引っ張っていく。

ちょ待て待て待て待て背中摩ってるいでででででで!!!!

『────!!!』

(;< >< >)「カハッ……!」

(;'A`)「ティーマス!!」

リ級は忌々しげに纏わり付いてくるティーマスを睨んだ後、その手をふりほどいた後軍服を掴んで放り投げる。一瞬脳裏を過ぎった強烈な違和感は、正体を追求する前にその光景によって消し飛んだ。

派手な音を立ててティーマスの身体が瓦礫に叩きつけられた。リ級の姿勢が十分に立て直されていなかったこともあり勢いは今までに比べて弱いが、それでも負った傷が小さいとは思えない。

(;'A`)「ツー放せ!ティーマスを……!」

(*#゚∀゚)「その身体で相棒を心配できる心意気は買うけどじっとしてなお馬鹿さん!あんたその身体で何する気だよ!!」

『───……!!?』

俺を怒鳴りつけつつ、なおも一人で引きずっていくツー。追おうとしたリ級の足下に、フラッシュバンが一発投げ込まれる。

『ッッッッ!!!!』

(#//‰ ゚)「Shoot, Shoot!!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

今度はしっかりと至近距離で炸裂した閃光と爆音。仰け反るリ級に向けてサイ大尉指揮下の海兵隊が弾幕を張り、完全に態勢を立て直したカルリナ達も射撃に加わった。

リ級の足が止まる間に、俺はツーによって再び戦車隊の近くまで来て崩れ落ちた建物の影に引き込まれる。

(*;゚∀゚)「ぷぇー…あっぶね!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ドク、ドク!!ねぇ、ドクは無事なの!?」

(*゚∀゚)「安心しねぇフロイライン!我らが少尉殿は生きてるよ!」

ξ; ⊿ )ξ「………っ!別に心配してないけど、心配かけないでよバカ!!」

('A`;)「どっちだよ……」

ツッコミつつも、視界の端でティーマスも海兵隊に回収されていたことに僅かに安堵の息が漏れた。

『ォオオオオオオ………』

俺が救出されてからほとんど間を置かず、戦車隊の向こう側で上がった呻き声。地面に重い何かが倒れ込み、レオパルト2A4の戦車兵が拙い発音の英語で「エネミーだうん!!」と叫んだ。

('A`)「ツン!!前段艦隊の状況は!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「今し方ホ級eliteが完全に沈黙したわ!ロ級は既に倒してあるから、これで私達の正面は完全に殲滅よ!

……ってかあんたね」
??_,
(*゚∀゚)「今し方大ダメージ食らって運び込まれたのにもう戦況の確認とは恐れ入ったね。佐官になったらあたしの昇進もついでに頼むよ」

('A`;)「冗談抜かせ、これ以上階級上がったら面倒くさくて仕方ねえだろうが」

……ツンやツー以外に、随伴していたポーランド軍や海兵隊、連邦共和国の同胞諸君からまでじとっとした視線が突き刺さった。その目つきやめてイタイイタイ、ついでにいうと肋も痛い。

('A`;)「あー……ツー、リ級の様子は?」

(;*゚∀゚)「とりあえずサイ大尉達とカルリナ准尉達が止めてくれてるけど、あんなんだから直ぐに立ち直るだろうし………うぉおおおっ!!?」

『…………ッ!!!』

数十人分のアサルトライフルを束にしてもかなわない、凄まじい銃撃音が区画に鳴り響く。更に間髪を入れず、上空から飛来した対戦車ミサイルが数発連続してリ級の障壁に着弾し爆炎をまき散らす。

「Air sport incoming!!」

先程敵艦隊に追い散らされた編隊の生き残りなのか、或いは新手なのかは判別が着かない。とにかく上空に三度現れたMi-24ヘリが、リ級に向けて猛然と攻撃を開始した。

「友軍機対地掃射、リ級eliteに全弾集中!!」

「リ級elite動きません!攻撃を受け続けています!!」

「やれやれやっちまえ!そのままぶっ殺せ!!」

戦車隊に随伴していた面々はやんやの歓声を上げ、その声援に応えるようにMi-24による空襲は一段と激しさを増した。ロケット弾とミサイルの雨にチェーンガンの猛射も加わり、リ級の障壁上から爆光が途切れる様子はない。

先程は奇襲砲火によって一方的に撃墜されたが、本来戦闘ヘリの火力は“ヒト型”にとってもある程度高い脅威度を誇る。少なくともこうも一方的に受け続けていいものではないはずで、俺達陸の人間をわざわざ格闘戦でいたぶるのとはワケが違う。

そのため、艤装による反撃の素振りも見せず攻撃を受け身動きをしないリ級の姿は、確かに周りから見れば“攻撃すらできない”ように見えるのだろう。

────だが俺は、遠目にもかかわらず奴の「眼」に気づいてしまった。

苦痛というよりは不機嫌…………例えるなら最高に楽しい遊びを邪魔された子供のような、幼くも獰猛で残忍な光を宿した「眼」が。

(;'A`)「………逃げろ!!逃げろ!!」

『───────!!!』

聞こえないと解っていても、声を限りに叫ぶ。同時にリ級は、おもむろに足下から何かを持ち上げそれをMi-24めがけて無造作に投げ上げた。

グシャリ─────その音は、Mi-24のコックピットが叩きつけられた大型バイクによって潰されたことによって発せられたもの。

(*;゚∀゚)「…冗談じゃねえぞ!!!」

('A`;)「逃げろ!!退避、退避!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「戦車隊全速前進!!」

コントロールを失ったMi-24【ハインド】が、激しく回転しながら此方に向かって墜落してきた。ほとんど反射的に痛む身体を堪えて立ち上がり、物陰から飛び出して疾走する。

「※※※※!!?」

先程ホ級の撃破を報告した兵士の乗るレオパルト2A4のスタートが、計器のトラブルか動き出しが遅れる。

「~~~~~~っ」

無情にもその車両に向かって、Mi-24は堕ちていき────




  _
(#゚∀゚)「Leberecht!!」

「Jawohl!! Feuer!!」

12.7cm連装砲の砲撃によって、衝突の直前に空中で爆散した。

さわりまで行きたい(行けるとはいってない)

本日ここまでです、いつもとほとんど変わらない長さになってしまい申し訳ありません。いい加減れっきゅんや軽巡棲姫出さないと……

「続けて撃ちます!! Feuer!!」

『………!』

更に二回、右手に構えられたレーベレヒトの連装砲が火を噴いた。今度の砲弾は立て続けにリ級に着弾し、障壁がチカチカと明滅する。

駆逐艦とはいえ艦娘の攻撃。流石に勝手が違うようで、僅かだが明確な“焦り”の色を浮かべて奴はレーベレヒト達から距離を取った。

『────!!』

「わっ!?」

リ級の艤装が起動し、反撃の砲火。横っ飛びで躱したレーベレヒトの背後で、既に半壊状態だったビルが直撃弾によって消滅する。

戦車や護衛艦でもほぼ一撃で粉砕される通常兵器より遙かにマシとはいえ、艦種がもたらす火力差はあまりにも大きい。まともに食らえば一発で中大破の大打撃を被る可能性も十分だ。

('A`#)「ツン、戦車隊全車両の火力をリ級に集中!効かなくてもいいから機銃もぶち込め、とにかく奴への攻撃を絶やすな!」

ξ#゚⊿゚)ξ「解った────Feuer!!」

『……ッ』

反転を終えたツン達を含め、7両の戦車隊による砲撃。レーベレヒトの存在にリ級が気を取られていたことも有り、この内五発が甲高い金属音を立ててリ級に命中した。

『────』

《うわっ!?》

反撃の砲火は狙いを急に変えたせいか照準が定まっておらず、頭上を飛び越えて数キロ先で炸裂する。乗り捨てられた自動車でも巻き込まれたのか、何か大きな鉄の塊が地面に叩きつけられたような音がここまで届く。

「Feuer!!」

『ッッッ!!?』

すかさず、態勢を立て直したレーベレヒトが全ての艤装を稼働させ一斉射をリ級に浴びせかける。

真正面から斉射を受けたリ級の身体が衝撃で僅かに浮き上がり、艤装と障壁からバチバチと火花が飛んだ。

undefined

  _
(#゚∀゚)「クソッタレ、【ハインド】が堕とされたのが痛ぇ!

レーベは戦車隊と連携してリ級に攻撃続行、俺も援護に回る!ビロード、負傷者の救援と残存兵力の回収を急げ!!」

「解った!」

(;><)「了解なんです!!」
  _
(#゚∀゚)「Allemann vorwarts!」

「「「Jawohl!!」」」

ポーランド軍と合流する形で進み出てきたジョルジュの部隊が、半円形の隊列でリ級を包囲して弾幕射撃に移行する。携行砲や手榴弾も総動員しての猛攻だが、今度はここにレーベレヒトの“軍艦の火力”と戦車砲の砲撃が加わっている。

『グゥッ…………!』

膨大な至近弾が巻き上げる泥に視界を遮られ、全方位から襲い来る火線の爆圧に動きを封じられるリ級。轟音渦巻く中で微かに漏らされた奴の苦悶の声を、俺は確かに耳にした。

(*゚∀゚)「おっほー、艦娘の到着かよ!」

戦車隊の砲撃音にさえ負けない歓声を張り上げながら、横でツーが嬉しそうに手を叩く。

(*゚∀゚)「温存してたZ1達を出してきたってことは、いよいよこっちの反攻ってことか!?こっからがーーーっと向こうの大将首を取りに行くんだろ!?な、そうだろドク!?」

('A`;)「お前のいうとおりだったらさぞや素敵なんだがな……!」

さっきの今でその考えにたどり着けるお気楽思考は羨ましい限りだが、プリンツの報告によれば突入してきた敵艦隊は全てヒト型───つまり基本的には重巡洋艦以上の艦種になる。

軽巡と駆逐しか居なかった前段艦隊との攻防でもあれだけ青息吐息だったのに、通常兵器のみで食い止めきれるわけがない。このリ級eliteのように敵艦隊が全て“遊び”に走ったとしても、もって10分あるかないかといったところだろう。

即ち前線へレーベレヒトが突入したのは、温存する“必要”がなくなったからではなく“余裕”がなくなったからと考える方が遙かに自然だ。

それでも僅かにツーの予想通りにならないかと叶わぬ思いを抱きつつ、イヨウ中佐に無線を繋げる。

(;'A`)「前線よりCP、Z1 レーベレヒト=マース並びに増援部隊と合流を完了した!以後の指示を請う!」

(=;゚ω゚)ノ《CPより前線、無事で何よりだよぅ!早速、合流した部隊と交戦中のヒト型を牽制しつつ速やかに後退を開始してくれよぅ!》

果たして帰ってきた返事は、予想を最悪の形で裏付けた。

(=;゚ω゚)ノ《君達以外の前線部隊は壊滅、敵中核艦隊はシュプレー川を渡河したよう!

トレプトゥ=ケーペニックとパンコウで遅滞戦を展開してるけど、戦況は圧倒的に不利だよぅ!》

(;'A`)「……前線よりCP、侵入した敵艦隊の概要を教えてくれ」

(=;゚ω゚)ノ《右翼、パンコウ区防衛線正面にリ級通常型2、ル級flagship1、タ級flagship1!

また左翼トレプトゥ=ケーペニック防衛線正面に、敵艦影1!》

(;'A`)「1……?」

中央の俺達と交戦するこのリ級もそうだが、あまりに戦力が偏りすぎている。無論ヒト型である以上一隻でも通常兵器相手には十分だろうが、それなりの損耗は強いられるはずだ。

(=;゚ω゚)ノ《………左翼の一隻は、過去に世界中のどの戦線でも確認されていない新型艦だよぅ》

俺の疑問を敏感に感じ取って、中佐は直ぐに補足を入れる。

(=;゚ω゚)ノ《詳細は一切不明だよぅ。身長は此方のZ1やZ3と同じ程度という点と、艤装が巨大な尾のような形をしているという点以外交戦している部隊の混乱が酷くて入ってこない。

コンツィ中尉が戦線の指揮を執っているけれど、左翼の損害拡大は右翼の何倍も早い。ポーランドから派遣されてくる陸軍部隊もピストン投入しているけれど、まるで止められる気配がないよぅ》

(ノA`)「………」

あまりにも絶望的な情報ばかりを突きつけられて、急速に痛み始めた頭を抑える。

例え新型艦であったとしても、ミルナ中尉の経験と指揮能力なら本来十分に対応ができるはずだ。少なくとも、損害を最小限に抑えつつの漸減戦闘程度はわけなくこなせる力があの人にはある。

それが適わぬほどの戦況ということは、“新型”とやらが尋常ではない、まさに規格外の戦闘能力を持っていることの証左。

('A`)「………………」

(*;゚∀゚)「………ドク?どうしたきめー顔して」

('A`)「元からだよ。というかせめて恐い顔にしてくんない?」

同時に、もう一つ気づきざるを得ない事実がある。敵艦隊にそこまで押し込まれているのなら、レーベレヒトだけではなく最早ビスマルクやグラーフも温存する余裕はないはずだ。にもかかわらず、両翼に展開するのはポーランドとドイツの陸軍部隊のみ。

つまりこれは、“艦娘が受ける損害”を最小限に抑えるためのいわば時間稼ぎ。

対深海棲艦兵器として最も有用な存在を確実に逃がすための、“必要な出血”。

('A`)「………ビスマルクとグラーフは、よく納得しましたね」

(=゚ω゚)ノ《……………君ほどの力を持つ尉官と戦えたことを、僕は誇りに思うよぅ》

ベルリン放棄の、下準備。

戦車砲と艦砲射撃の音、銃声が壮絶に混ざりあい辺りを満たす。だが、俺の耳にはそれらの騒音より遙かに重く、大きく、イヨウ中佐の淡々とした語りが響く。

(=゚ω゚)ノ《言いたくないけれど、最早大勢は決したよぅ。ベルリン放棄と聞いてGraf ZeppelinはともかくBismarckは烈火の如く怒っていたけれど、彼女にも戦況の詳細を話してなんとか納得して貰ったよぅ……まさか戦艦がバイクで乗り込んでくるなんて、ヴァルハラへの土産話には丁度いいよぅ》

中佐はそう言って、自嘲気味に乾いた笑い声を上げた。

(=゚ω゚)ノ《艦娘の回収手配は完了している。ポーランド陸軍にオーデル川での防衛線へ一時的に参加させることを条件として艦娘の移送を手伝わせるようにした。君達の後退が完了次第、遅滞部隊も順次退却を開始する。

とはいえさっきも言ったとおり遅滞部隊は到底長くは持たない、そっちもリ級eliteの存在がある以上難しいとは思うけれど、何とか退却して欲しいよぅ》

('A`)「………その口ぶりですと、どうも中佐は脱出するつもりがないようですが」

(=゚ω゚)ノ《無謀な作戦でたくさんの兵士を死なせた責任は僕自身が取らなきゃ行けないよぅ。

それにこう見えて僕は日本通でね。カツナガ=モウリというサムライが大好きなんだよぅ》

学のない俺にはまるで馴染みのない名前だが、口ぶりから“どんなことをした人間か”は概ね想像がつく。

黙り込んだ俺に、中佐は更に言葉を重ねた。

(=゚ω゚)ノ《これは命令だよぅ少尉。

────そして、これが現段階で可能な次善の手だ》

('A`)「っ」

そうだ。そんなことは言われなくても解っている。

中核艦隊に奥深くまで食い破られたことによって、“軽巡棲姫のみに艦娘の全火力を集中する”という【最善の手】は最早打てない。

軽巡棲姫の撃沈が限りなく不可能に近い状態になった今、俺達がベルリンでこれ以上交戦することはほとんど無意味。次に為すべきことは、Bismarck zweiを初めとする貴重な戦力を可能な限り温存して逃げ延びること。

そして、退却の態勢が整うまでの遅滞部隊の犠牲も、艦娘という“貴重な戦力”を確実に逃がすために囮となるイヨウ中佐の犠牲も、この戦争に少しでも希望を残すための必要経費だと。

そんなことは、俺にだって解っている。

('A`)「────ツン」

ξ;゚⊿゚)ξ「何よ!リ級の奴ならすこしずつダメージは蓄積してるけど」

('A`)「退却の指揮は任せた」

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう!解っt………」

でも、解っていることだからこそ。

ξ゚⊿゚)ξ「………は?」

(*;゚∀゚)「………あー、ドク?お前何するつもりなんだ?」

('A`)「あぁ、別に何って程のことじゃない」








('A`)「ちょっとした悪あがきだ」

それが心底、気にくわないんだよ。

今更新ここまでです

脇腹の鈍い痛みを堪え、レオパルト1の影から飛び出す。包囲下でリ級への攻撃を続ける兵士達の後ろを駈け抜けて、一直線に向かった先はロ級の砲撃で吹き飛ばされた輸送トラックの傍。

(;//‰ ゚)「ドク!?」

(=;゚ω゚)ノ《少尉!一刻も早く退却を開始しろ、聞いているのかよぅ!?》

ξ;゚⊿゚)ξ「あんたいったい何する気なの!?ドク、ちょっ……止まりなさいよぉ!!」

無線や後ろから聞こえる声を完全に無視して、俺はトラックの脇に倒れている目的の物────カルリナ達が乗ってきていた、軍用バイクを引き起こす。

(;'A`)「………」

他の三台は砲撃に巻き込まれたのか滅茶苦茶に壊れており、まともに原形を保っているのはこの一台だけだ。そしてこの一台だって、外観に傷がないだけで内部回路や機関も無事とは限らない。

祈るような気持ちでエンジンを捻る。

(;'A`)

(;'∀`)

ドルンッと音が鳴り、排気口が煙を吹き出す。

揺れる車体に薄らと刻まれた、「KAWASAKI」の文字。俺は苦笑いを浮かべて8文字のアルファベットを眺めた。

(;'∀`)「っはは……流石だなものつくり大国は……!」

これで、逃げられなくなった。

逃げる必要が、無くなった。

('A`)「……中佐」

(=#゚ω゚)ノ《マントイフェル少尉、繰り返すが命令だ!!速やかに部隊を纏めて帰還を───》

('A`)「30分だけ時間を下さい。

30分過ぎて敵艦隊に変化がなければ、“中佐の指揮で”オーデル川まで退却を」

(=;゚ω゚)ノ《………っ!》

バイクに跨がり、エンジンの回転数を上げながら空を見上げる。もう数え切れないほどの反復攻撃を続けているF-16の編隊が、バルカンを放ちながら通り過ぎた。

('A`)「………マンドクセ」

思わず、本音が漏れる。

俺は別に英雄願望も出世欲もないし、愛国心だって皆無じゃないが潤沢に持ち合わせているとは言い難い。

本当なら、今すぐ踵を返して逃げ出したいぐらいだ。幸いにしてイヨウ中佐から撤退の“命令”は既に下されている、仮にベルリンを捨てたとしても、軍法会議にかけられるようなことにはならないはずだ。………そもそも、軍法会議を開く上層部が生き残っているのかどうかも疑わしいしな。

俺達は十分に戦った。逃げる権利はあるし、艦娘や機甲戦力が損失する前に退却することは戦略的にも間違っていない。何よりも、中佐の言うとおりにした方が楽だ。死ぬ確率も、当然俺が今からやろうとしていることよりは遙かに低いだろう。

────だけど。

('A`#)「ジョルジュ、ティーマスとツン達を頼んだ!!」
  _
(#゚∀゚)「飲み代一ヶ月おごりな!!」

('A`#)「死ねクソ眉毛!!」

こんな結末は、きっと誰も望んじゃいない。

リ級に立ち向かったフランス広場の警備隊も。

規格外の化け物と戦わされたベルリン市警も。

退役済の戦車で逃げずに深海棲艦に立ち向かった戦車隊の奴らも。

遠く離れたドイツの土地で死ぬことになった海兵隊も。

核が降り注ぐかも知れない国に飛び込んできたポーランド軍も。

今まさに侍のまねごとをしようとしているドイツ陸軍の中佐殿も。

もう一度ベルリンが灰になる様を見せつけられている艦娘達も。

死んでいった奴も、生きている奴も、こんな結末のために戦っていたわけじゃない。

ξ; ⊿ )ξ「────ドk」

('A`)「ドイツ陸軍少尉、ドク=マントイフェルよりベルリン市内の全戦力並びにCPに通達!!」

これは俺の自己犠牲精神でも、愛国心でも、偽善ですらない。ただの自己中心的な責任放棄だ。

国を守るために死んでいった戦友だの、政治の壁を乗り越えて救いに来てくれた友軍だの、首筋が痒くなるような肩書きの奴らの「無念」を背負って生きる方が。

('A`#)「これより俺は、敵旗艦【軽巡棲姫】の撃沈に向かう!!総員、何としても現戦線を維持しイヨウ=ゲリッケ中佐の指揮下で反攻に備えよ!!」

“これ”よりも遙かに、マンドクセェ。

(#'A`)「───Los!!」

叫び、地を蹴り、絞っていたエンジンを解放する。

Kawasaki KLX250が、一声吠えた後西へと疾走を開始した。





─────ヤッパリ、君ハ面白イ人間ダ。

【彼女】は、砲火の中で一人笑う。紅の瞳を細め、真っ白な肌に僅かに血の気を差し、口元を自然に綻ばせ、笑う。

凄まじい砲弾と銃撃の中でも聞こえてきた、“あの人間”の叫び声。後に続いた、乗り物のエンジン音。

それらを耳にした瞬間、彼が“何をしようとしているのか”を正確に理解した【彼女】の身体は、心は、歓喜に震えた。

────ソウダ。コレダカラ私ハ君ヲ見テイタインダ。

頭がキレて、圧倒的に不利な中でも考えることをやめず。

脆弱な存在のくせに戦い続け、いつの間にか戦況を互角以上に引き上げて。

何度絶望を突きつけても、直ぐに新たな策で立ち向かってくる。

あの痩せぎすな“人間”との戦いは、スリリングで、変化に満ち、この上なく楽しい。

艦娘なんかとの戦いよりも、ずっとずっと。

  _
(#゚∀゚)「あのクソバカもやし野郎の背中を守れ!!何としてもコイツをここで沈めろ!!」

ξ# ⊿ )ξ「Feuer, Feuer, Feuer!!

アイツの指示を聞いたでしょ!?アイツがあそこまで言うってことは、絶対に何かが起きる!!その“何か”が起きるまで、死に物狂いでここを守りなさい!!」

「「「Jawohl!!」」」

他の人間達と駆逐艦と思わしき艦娘は、更に激しい攻撃を【彼女】に加える。障壁の出力が弱まり、四肢に装備される艤装から次々と火花や黒煙が吹き出し始めた。

「リ級elite、状態中破に移行!!」

(#><)「トドメを刺すんです!!絶対に火線を絶やすな!!!」

(#//‰ ゚)「ディープワン共を深海に叩き返せ!!」

自身の身体に浮かぶ損傷、周りの人間達の怒号、そして入り交じる火線。その直中で、恍惚とした表情すら浮かべて【彼女】は呟く。







ダカラ私ハ、君ガ愛オシイ。

両腕の艤装が起動する。逆巻く砲火の中で、【彼女】の両腕がさながら通せんぼをするような形で左右に開かれた。

( ゜ t ゜ ;)「※※※※!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「こ、後退────きゃああっ!?」

2門の主砲が火を噴く。左手で直撃を食らった戦車が吹き飛び、金髪巻き毛の女が乗る車両も爆風に煽られて横転。右手ではバズーカやアサルトライフルで攻撃をかけていた一団が、凡そ半分ほど肉塊になる。

「この────え!?」

正面にいた艦娘が改めて艤装を構えたときには、【彼女】の足は既にその眼前まで踏み込んでいた。

驚きに見開かれた鮮やかな青色の眼に向かって微笑んでやりながら、右拳を振るう。

「────ゥゲホッ!?」

衝撃で歪む皮膚と、ぐちゅりと伸縮する内蔵の感触が伝わってきた。その小柄な艦娘が吐き出した体液がまき散らされる様に僅かに眉を顰めつつ、拳を振り抜く。

「っあ………」
  _
(;゚∀゚)「レーベ!?」

(;><)「救護班、彼女を回収するんです!!携行砲所有者、残弾全て奴に叩き込み足止めを!!」

(;//‰ ゚)「おら紳士共、夢にまで見たか弱い女を守るシチュエーションの到来だ!!

Go go go!!」

気を失ったらしい艦娘は、吹き飛ばされた先に転がっていた戦車の残骸に叩きつけられズルズルと地面に崩れ落ちた。それを守るためか、人間の兵士達が進み出て【彼女】と艦娘の間に立ち塞がる。

健気に効きもしない小銃で弾幕を張ってきた彼らの勇気に応えるべく、彼女は舌なめずりと共にその懐に飛び込み内一人の顔に手を伸ばす。

「ォウァ」

悲鳴ともなんとも判別がつかない奇声を残して、彼の頭が握りつぶされた。

「………No, no, n」

無造作に腕を振り、直ぐ隣にいたもう一人の頭を粉砕しながら【彼女】は軽くため息をつく。

やはり、“アノ人間”がいなくなると退屈だ。他の個体は勇敢だし数も多いが、とてつもなく脆い上に“アノ人間”に比べて機転が利かない。ただ立ち向かってくるだけの獲物を潰す“作業”は、特に【全の意志】の憎しみに興味が無い【彼女】からすれば趣向に合わないのだ。

────マァ、仕方ナイカ。

「わぁっ!?」
  _
(;゚∀゚)「クソッ……!怯むな!撃て!!」

【彼女】は軽くため息をつくような素振りを見せ、無造作に右手の主砲を放つ。また一つ戦車が燃え上がり、周囲にいた兵士達の射線が乱れた。

遊ぶことに夢中になって艦娘の突入を察知できなかった点や、その結果あらゆる火力を投入した集中砲火によって身動きが取れず中破まで押し込まれた点は彼女のミスだ。結果、策を思いついた“アノ人間”は動きを縫い止められている彼女を尻目に西へと向かった。

更に言うと、乗ってきたバイクを含めて他に“足”となり得る存在を破壊してしまったのは他ならぬ彼女自身でもある。

「り、リ級、此方に向かってきます!!」
  _
(;゚∀゚)「退避、退避しろ!!」

姿勢を低くし、眉毛が濃い人間が率いる部隊に向かって突っ込んでいく。一人をひっつかんで遙か上空に投げ飛ばしつつ、彼女は再び深いため息をついた。

今から【姫】の元に向かったとて、“アノ人間”の策が成るにしろ成らないにしろほぼ確実に間に合わない。それに万一策が成った場合、いくら何でも川を渡った“同胞”達を孤立させるのもまずい。

セイゼイ、スグ全部潰サナイヨウ気ヲツケテ遊ボウ。

そう心に決めて、【彼女】は更にもう一人を蹴り砕く。

ふと、遙か東にも“凄い人間”がいるという話を思い出した。



《BBCより緊急報道です。先程ノルウェー政府より公式発表が有り、ベルゲン上空の制空権失陥を公式に発表しました。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧3ヶ国連合空軍は壊滅的な打撃を受けた模様です》

《トルコ政府はTRTの取材に対し、中東諸国と共同で日本に艦娘の派遣・国外鎮守府の設置要請も視野に入れた要請を出す用意があると回答しました》

《ドイツ・ベルリンへの正式な軍事介入を発表したポーランド政府ですが、これにルール地方への核攻撃を準備しているロシア政府は強い不快感を示しています》

《現在スペイン空軍はヨーロッパアメリカ軍、フランス軍と共同で深海棲艦への攻撃を敢行していますが、敵の大規模な侵攻を食い止めきれていません。また、フランスの許可を得て越境した一部陸軍はフランス西部の主要都市に戦力の配備を開始しているとのことです》

《キューバ政府は、欧州・大西洋の危機的な状況に過去のしがらみを捨ててアメリカ、EUに全面協力をすると表明。大西洋に艦隊を派遣しました》

《ロシア政府による核発射宣言から3時間が経過しましたが、未だ西ヨーロッパにおける混迷は治まる気配を見せません》

《CCTVより、スポーツニュースの時間です。我が中華人民共和国の卓球界にニューヒーローが誕生しました。広東出身の劉?厳がスーパーリーグで大金星です》

《ルール地方には未だ1万人を越える生存者が逃げ遅れているという情報も有り、ロシアが核を発射した場合国際的な批判・孤立は免れないと見られています。茂名官房長官も、先日3ヶ国協定を結んだばかりのロシアの動きには非常に強い批判を浴びせています。

NBSではCM後も引き続き、ヨーロッパ戦線の情報をお伝えしていきます》

《あの名作アクションゲームが、オープンワールドになって帰ってきた!!

今度の舞台はまさに、中国全土!!雪原を、平原を、山あいを駆け抜け敵を薙ぎ倒せ!!

今度の無双は、1000人じゃあおさまらない!!

一万人をぶっ飛ばす爽快感!!真・三○無双8、今冬発売予定!!

先行予約で、程普ドイツ軍コスチュームがあたる!!》

今回ここまでと致します。

本日を1日目とカウントし、三日以内に最終章を投稿させていただきます。

体調の方が安定せず、最終更新開始を明日に延期します。
本当にお待たせしまして申し訳ありません。原稿自体はほぼ完成しているので、明日回復次第投稿を開始させていただきます。
お待たせして申し訳ありません






かつて、カルタゴの名将・ハンニバルはこういった。

視点を変えれば、不可能が可能になる、と。

実際、彼は自身の言葉通り常に斬新な視点から様々な戦略を練り上げ、アルプス越えやカンナエでの勝利など数々の【不可能】を【可能】に変えてきた。その変幻自在にして大胆不敵な戦術は彼の死後2000年以上経った今なお研究の対象であり、ドイツ学園艦の戦車道教育や艦娘達の座学にも用いられる。

尤も、当然の話になるがハンニバルの相手は同じ“人間”───つまり、人知の枠の中に収まった存在だった。

例えば大津波。
例えば大地震。
例えば大嵐。
例えば大噴火。

そういった“人知を超越した厄災”に対するとき、人間は驚くほど無力になる。
どれだけ視点を変えようとも、どれだけ策を練ろうとも、被害を軽くすることはできても厄災そのものに打ち勝つことはできない。



────そして。

「ヘリが一機やられた!!」

「負傷者下げろ、負傷者下げろ!」

《此方19号車、現地に到ちゃ

「増援の市警装甲車が破壊されました!!」

《レオパルト五号車よりCP、T-72が3両撃破された!プーマ戦闘車も沈黙、更なる機甲戦力の増強を求む!!》

(;゚д゚ )「Allemann zuruck!

次のブロックまで退却しろ、機甲師団と擲弾装備兵でしんがりだ!」

『────www』

ミルナ=コンツィの前に現れたソレは、まさしく立ち向かうことが不可能な“厄災”そのものだった。

頭上を、ポーランド軍の戦闘装甲車であるKTO-ロマソクが飛び越えていく。16トンの重量を感じさせぬ軽やかさで飛翔してきたそれは、ベルリン市警のパトカーを一台真上から叩きつぶした。

因みに砲撃で吹き飛ばされきたものではない、此方めがけて“投げ飛ばされた”ものだ。

(;゚д゚ )「道路両脇の家屋を爆破しろ、瓦礫の山で奴の進路を封鎖するんだ!」

《Jawohl!! Feuer!!》

数両の戦車が一斉に砲弾を放つ横を、ミルナは負傷した味方兵を引きずりながら駆け抜ける。背後でコンクリートの塊が崩れ落ちる音が聞こえ、足下から震動が伝わってきた。

《目標破壊、進路を封s

(; д⊂ )「うおっ!?」

爆風が吹き付け、握り拳大の礫が頬を掠める。

バランスを崩してつんのめるミルナの横を、火達磨のレオパルト1が地面をバウンドしながら通り過ぎる。立ちこめる爆炎と土煙の向こう側へ機銃を放つエノクが、2発目の砲撃で吹き飛ぶ。

(メ゚д゚;)「っ、誰か援護してくれ!負傷者の回収を………」

引きずろうとした兵士の身体があまりにも軽い。違和感を覚えてふり向くと、腰から下がなくなっていた。

一瞬悔しげに表情を歪めた後、ミルナは屍体を打ち捨てる。“敵”は、彼に部下の死をまともに弔う暇さえ与えようとしない。

「エノク、破壊されました!PT-91【トファルデ】、レオパルト1もロスト!!

尚、瓦礫によるバリケードは崩壊、妨害効果無し!!」

「砲兵隊より連絡、正面新型艦の艦砲射撃が展開地点に直撃!迫撃砲多数と操作人員を失逸、支援攻撃困難とのことです!」

(メ;゚д゚)「砲兵隊は市街地からの離脱を許可!CPも間違いなく同じ判断だ、万一咎められたら全責任は俺が取る!」

「バルシュミーデ少尉の携行砲部隊、敵艦への側面奇襲失敗!通信途絶!」

(゚д゚メ;)「第二波、第三波奇襲部隊に攻撃中止を通達!後方部隊と合流して防衛線の構築に参加するよう伝えろ!」

入ってくる報告も、眼前に広がる状況も、どちらも地獄の様相。それは最早“戦闘行動”といえるような有様ではなかった。

それでも、ミルナは指揮をやめない。彼自身混乱と恐怖から思考が停止しかけているのを強靱な精神力で辛うじて耐えている。

もし彼以外の誰かがこの場を指揮していれば、おそらく疾うの昔に正気ではなくなっていただろう。

「中尉、いったいアレは………奴は何なんですか!?」

「幾ら新種のヒト型とはいえ戦闘能力が今までの個体と違いすぎる、戦車も携行砲もまるで効果がない!!」

(メ゚д゚;)「考察は後だ!とにかく今は退却と次のブロックでの防衛線を────」

頭の上で妙な“気配”を感じて、ミルナたちは視線を其方に向ける。

「ヒッ…………」

まるで、獲物を狩る直前に鎌首をもたげた蛇のように。

路地の一角で漂う土煙を突き抜けて、巨大な“尻尾”が屹立していた。

先端に着いたウツボの頭部を象ったような艤装────そこから突き出した四つの砲は、全てミルナ達をにらみ据えている。

(;゚д゚#)「…………走れ!!」

砲弾が、降り注ぐ。


( д メ)「ぅぐあっ……………!!?」

背中に感じる、強烈な圧力と熱。衝撃が身体を突き上げ、足が地面から離れて空を掻く。

砲弾の破片や飛び散った瓦礫が背面のあちこちに突き刺さり、皮膚を破り肉を裂く。迸る血液が、吹き飛ばされるミルナの軌道に併せて中空に紅い線を描いた。

(メ д ;)「ガフッ……」

そのまま、砲撃で拉げたレオパルト1の残骸に全身を叩きつけられる。想像を絶する激痛はかえって意識を手放すことを許さず、悲鳴の代わりに口から漏れたのは血の臭いが混じった弱々しい呼気。

それでも、手や足の感触は確かに存在した。痛みがもたらす痙攣のせいで今は自由が利かないが、神経が繋がっている感覚もある。機能を取り戻し始めた耳には、周りで部下達が上げるうめき声も薄らと聞こえてきた。

“艦砲射撃”に巻き込まれたにもかかわらず、大きなダメージは受けたが致命傷を免れ四肢の欠損もない。
それは本来奇跡に近い幸運。

::(メ д #)::「……………ッッ!!!」

だが、ミルナ=コンツィが感じたのは幸運に対する安堵ではなく、脳の奥を焼き焦がすような激しい怒り。

唇が、苦痛を耐えるためではなく悪態が飛び出すのを防ぐために噛みしめられる。

砲弾や爆風より速く走れる人間は存在しない。攻撃が行われたのは頭上5メートルにも満たない至近距離からである点を考えれば、狙いが定まらなかったということも考えづらい。

要は、あの状況からはどれほど自分たちが幸運だったとしても助かる可能性などあり得ない。

向こうが、“故意に爆心地をずらす”ような真似でもしない限り。

(メ д゚#)「く、そっ、がぁっ!」

ミルナ=コンツィは、明確に理解した。

自分たちは、遊ばれている。

人間の子供が面白半分に蟻の巣を踏み散らしているように。

猫がネズミや虫を前足で執拗にいたぶるように。

脳漿や血液が沸騰しているのではないかと錯覚してしまう激烈な怒り。体内でアドレナリンの濃度が一気に跳ね上がり、痛覚が遮断され身体の自由を一時的に取り戻したミルナは脇に転がるG36Cを掴んで立ち上がった。

(#゚д゚メ)「携行砲保有部隊と装甲戦隊は全火力をあの艤装に集中、牽制攻撃をかけろ!付近残存部隊は目標のブロックまで負傷者を回収しつつ後退急げ!!」

《レオパルト六号車よりコンツィ中尉、お言葉だけど先ず貴方が後退するべきです!あんな砲撃を受けて中尉の身体が大丈夫なはずが……》

(#゚д゚メ)「俺に構うな!行け!!」

《………Jawohl!!》

無線に向けて叫びつつ、“尻尾”に手榴弾をピンを引き抜き投げつける。手榴弾は防壁に当たってカンッと小さく乾いた音を立てて跳ね上がり、丁度真上の辺りで爆発する。

《総員、全車両、攻撃開始!》

《中尉を援護しろ、Feuer!!》

その爆発が合図だったかのように、何十もの砲声が重なり徹甲弾や対戦車ミサイルが尻尾にあらゆる方向から殺到した。5メートルを超えようかという巨体が爆光に全身を包まれて見えなくなる………が、直ぐに応戦の砲火がその中から放たれ街の一角で炸裂した。

《此方カンナビヒ少尉、部隊待機地点に艦砲射撃着弾!死傷者数名!》

《デーベライナー隊より各部隊に通達、敵艦艤装に損傷見られず。繰り返す、敵新型艦未だダメージ無し。

……Verdammt!!》

《Fuck!!》

《Kurwa!!》

損害無しの報告が流れた瞬間、デーベライナー軍曹と同時にポーランド兵とアメリカ兵も異口同音に毒づく。

ミルナも思い切り罵倒の言葉を並べ立ててやりたいという気持ちは同じだが、その光景は彼が半ば───どころか九割方予想していたものでもある。だから落胆はしないし、思考を止める理由にもならない。

(;゚д゚メ)「前衛の負傷者回収がまだ終わっていない、後衛部隊は引き続き火線を展開しろ!陣地転換をこまめに行い反撃による損害はなるべく抑え────うおっ!?」

横っ飛びでその位置から動いた直後、機銃弾がレオパルト1の残骸にぶち当たり火花を散らす。射角にそって視線を動かすと、口元から細い煙を吐き出す“尻尾”の姿がそこにあった。

笑っているように半開きになった口内から顔を覗かせるのは、連装式の対空機銃。

無線通信での指示をわざわざ大声で放していたのが聞こえたのだろう。指揮官は優先して潰した方が良いという判断か、イキのいい玩具と遊びたいという嗜好か、或いはその両方か。

どちらにせよ、周囲で負傷者の回収を続ける救護班にも散発的に砲撃を加えてくる後衛部隊にも射線は向けられていない。ミルナにとってはその事実さえあれば、理由などどうでもよかった。

(#メ゚д゚)「捕まえてみろ化け物!!」

叫び、G36Cを構え、引き金を引く。弾丸が障壁の表面で小さく火花を散らす様を見届けると、そのまま踵を返し全速力で前衛部隊とは別方向に走る。

『………♪♪』

その後ろを、機銃掃射の火線と艦砲射撃の爆発が追いかけていく。

────ミルナ=コンツィドイツ陸軍中尉は、怒りを覚えていたが怒り“狂って”はいなかった。彼の脳内に残る冷静な部分は、彼我の戦力差を的確に把握している。

《此方救護班、前衛の負傷者・生存者の回収を完了!》

《ポーランド軍のMi-24、敵艦“本体”の対空射撃によって撃墜されました!》

(メ゚д゚;)「CPにヘリ部隊の突入は今後控えるよう通達しろ!………っくぉ!?」

バイカーギャング仕様のバイクを乗り回して突然こちらに飛び込んできたあの“新型”は、おそらく過去に確認されてきた深海棲艦の中でも格段に高い戦闘能力を誇る。現に単艦である上にこれだけあからさまに“遊んで”いるにもかかわらず、ミルナ達の方面は右翼のパンコウ区よりも遙かに深く押し込まれた。

右翼でも此方の損失は甚大ながら、通常種のリ級2隻に小破の損害まで与えていることを考えればあまりにも状況差がありすぎる。

《中尉!?いったい何があったんですか!?》

( ゚д゚メ)「機銃が掠めただけだ、心配ない!この歳で鬼ごっこなんてやる羽目になるとはな!」

さっきの喩えを繰り返すが、要はあの“新型”は【人間の軍隊】にとってほとんど天災と変わらないとミルナは結論づける。大津波や大嵐に人間が立ち向かったところで、少なくとも“今の科学”では打ち勝つことはできない。できることと言えばせいぜい被害をなるべく受けないよう被災範囲から遠くに逃げることと、後は収まってくれと神に祈ることぐらいだ。

(=#゚ω゚)ノ《CPよりトレプトゥ=ケーペニック区防衛ライン、新型の状況を教えるよぅ!!》

( ゚д゚メ)「防衛ライン前衛よりCP、敵のお嬢さんは俺の抹殺に大層御執心……!」

自身の無力さへの口惜しさこそあれ、ミルナは役目を見失わない。

敵が天災に等しい存在である以上、立ち向かうことは自分たちの領分から外れる。

今の彼に課せられているのは、部隊の被る損害を可能な限り減らし、厄災から逃れ────

(#゚д゚メ)「攻撃を開始するなら、今だ!!」

(=#゚ω゚)ノ《此方CP、状況を確認した!!

全駆逐艦隊に通達、目標敵新型艦!攻撃を開始せよ!!》

────残る全てを、味方の“女神”に託すことだ。









《《Z1, Feuer!!》》

《《《Z3, Feuer!!》》》

ミルナ=コンツィ中尉をしつこく追い回していたであろう“尻尾”が、12.7cm連装砲の弾丸で動きを止める。

障壁の上で弾けた爆炎は、決して大きな物ではない。だけど“尻尾”の主にも、今の砲撃が私達艦娘によるものだと十分に理解できたのだろう。混乱というほどのものでもないけれど、訝しむようにぐるりと────“5箇所から飛来した”砲撃の出所を確かめようとしたのか艤装をもたげて辺りを見回す。

『…………!』

そこに、肉薄するのは、二台のパトカー。

ただし屋根の上に、私とビスマルクお姉様を乗せてだ。

「Prinz、続けて撃ちなさい!!

Feuer!!」

「了解ですお姉様!

Feuer!!」

猛スピードで“尻尾”に接近していくパトカー。その屋根の上で跪くような姿勢を取り、私はお姉様に続いてSKC20.3cmを撃つ。砲撃の反動で浮き上がりひっくり返りかけた車体を、つま先をめり込ませ両手に全身の力を込めることで抑え付けた。

『ィアアアアアアッ!?』

戦艦と重巡洋艦の主砲、4基8門の一斉射撃。

流石にその威力は絶大で、向こうも効果無しとはいかなかったらしい。先端の艤装から火花をまき散らしながら、“尻尾”が苦悶とも怒りとも着かない声で鳴きながら身を捩らせる。

『ウァア………!』

そのまま“尻尾”は一瞬此方に先端を向けて低いうなり声を上げると、笛で操られる蛇みたいな動きでシュルシュルと立ちこめる煙の中に戻っていった。

《よし、現地に到着!

お嬢さん方、武運長久をお祈りするよ!》

《ニ号車、十号車、移送任務完了につき後退します!頼むよ艦娘さん、あいつら化け物をやっつけてくれ!!》

「ええ、任せてちょうだい!きっとこの国を、貴方たちの街を守ってみせるわ!

─────さて、と」

私達を“尻尾”が引っ込んでいった区画から直線距離200M程度の位置まで運んだ二台のパトカーは、屋根から降りた私達に激励の言葉を残してUターンする。

お姉様はサムズアップと満面の笑みでその声援に応えた後、一転して厳しい表情で正面───さっき、“尻尾”が引っ込んでいった辺りを睨んだ。

「Bismarck zwei、敵新型の正面───と、思われる場所に到着したわ。黒煙の噴出が未だに激しくて艦影を視認できない」

( ゚д゚メ)《ミルナ=コンツィよりBismarck zwei、負傷者や生存者は近くに残っているか?》

「……。

いいえ、見当たらないわ」

( ゚д゚メ)《確認感謝だ。

…………すまんが、“奴”に対して俺達陸軍ができることはない。お前達に全て任せる》

「あら、誰に物を言ってるのよ。このBismarck zweiに何もかも任せなさい!」

( ゚д゚メ)《俺達はこのまま右翼のパンコウ区に戦闘可能な部隊で転進、防衛線に参加する。

………艦娘部隊の、武運を祈る!》

………無線越しでも解るほどとても悔しそうなミルナ中尉の声だったけれど、判断はとても冷静で的確だ。

中央の増援に向かったレーベみたいに砲火力がそこまで高くない駆逐艦ならともかく、私やビスマルクお姉様のように重巡以上の等級になると主砲火力が高い故に友軍を巻き込む危険性が跳ね上がる。広く間隔が取れる海上ならいざ知らず、市街戦で陸軍と共闘する場合、敵の配置や攻勢によっては通常兵器の支援部隊の存在は寧ろありがた迷惑になることも多い。

だから、中尉が後退した部隊をそのままパンコウ区に転用してくれることはとてもありがたい。

ましてや、今回は相手が相手だ。

「Prinz EugenよりCP、全艦隊戦力の敵新型艦包囲完了。ミルナ中尉以下陸戦隊も後退、離脱済みです。

………本当に、グラーフさん以外の全戦力を此方に回して良かったんですか?」

(=゚ω゚)ノ《問題ないよぅ。その代わり、Graf Zeppelinの艦載機による航空支援とポーランド軍の後続戦力は以後全てパンコウ区、フリードリヒ=スハイン区に回して右翼艦隊、中央のリ級eliteを打撃するよぅ。

寧ろ君達は正真正銘左翼に投入できる最大にして最後の防衛戦力だ。油断はしないで欲しいよぅ》

「できるわけないじゃないでしゅかぁ……」

………内心に渦巻く不安から台詞が口の中でひっかかり、なんとも奇妙な口調になってしまった。

私達艦娘を運用するにあたって、国際社会は公式・非公式を問わず様々な規則や条約を設けた。アイザック=アシモフの提唱したロボット三原則より発想を得た「艦娘三原則」や国家間での艦娘の奪い合いを避けるために設けられた「艦娘保有制限条約」のように正式に国際連合で会議を持って締結された物から、“資源確保や偵察任務に潜水艦娘を酷使するのはやめるべき……でち”という提唱者不明の怪文書(因みに誰も実行していない)まで数千を軽く超える。

その中の一つである、「同一種の艦娘を同艦隊内で運用してはならない」という規則は、法・条約的拘束力こそないもののある理由から全世界の海軍教本にも記載される基本中の基本だ。

“新型”を包囲する形で区内の離れた位置にレーベ達とマックス達は配置されているけれど、通信は連携を迅速に取るため各個が直接行っている。作戦後何の影響もないかどうかはかなりギリギリなように思う。

イヨウ中佐ほど優秀な人が、この教範を知らないということはあり得ない。にもかかわらず、多少の対策こそとられているとはいえ事実上その禁を犯してまで投入し得る戦力を全てトレプトゥ区に注ぎ込んだ。

「………………ッ」

つまり、さっきまでミルナ中尉たちが戦っていた敵の新型艦が「そこまでしなければいけない」とイヨウ中佐に判断させるほどの敵と言うこと。しかも私達は勝つ必要が無く、ドク少尉が無線で宣言した30分という時間が稼げれば十分であるにも関わらず。

……お姉様の前でみっともない姿を見せたくはないけれど、私は生唾を飲み下す音を止められなかった。

心底、恐い。だけど、私達は艦娘だ。

やるしか、ない。

「………Bismarck zweiより包囲網各艦並びに護衛部隊、其方は異常ないかしら?」

《Z1-23、状況クリア!敵影ありません!》

《Z3-04、周辺に異常なし》

《Z3-08同じく》

《Z1-02、何もないよ》

《こちらZ3-11、穏やかなものだわ。

………不謹慎だったかしら》

お姉様が、レーベ達に連絡を取る。時間にして中佐達とのやりとりも含めてせいぜい2、3分しか経過していないはずだけど、しかし私にはその時間が何十倍も長く感じられた。

右翼と中央から聞こえてくる砲声や銃声、頭上を飛び交う戦闘機のエンジン音が市街地に木霊する中で、この辺りだけ奇妙な沈黙に包まれる。

「────!」

…………それまで何かに纏わり付いているかのような不自然な動きで一定の位置に渦巻いていた黒煙が、ブワリと揺れる。

「お姉s」

全て言い切る前に、私の視界は大きく開かれた口とその中に並ぶぎらぎらした鋭い歯に埋め尽くされた。

「─────Prinz, 下がりなさい!」

「きゃあっ!?」

『─────ア゛ア゛ッ!!』

ぐいっと首筋を猫のように引っ張られ、(また)情けない悲鳴を上げながら仰向けに地面に倒れて尻餅をつく。さっきまで私の顔があった位置で、巨大な顎がガチリと空を噛んだ。

「ふっ!!」

『ゴォアッ!?』

顎………いや、煙の中から伸ばされた尻尾の先を、お姉様は力一杯フックの要領で殴りつける。艤装の一部が鈍い音を立てて砕け、尻尾は呻き声を上げた後凄いスピードで再び煙の中に引っ込む。

─────だけど、今度はこれで終わらなかった。

「お姉様!?」

「っ、大丈夫よ!じっとしてなさい!!」

鳴り響く轟音。煙を切り裂いて次々と飛来した砲弾から庇うようにして、ビスマルクお姉様が私の上に覆い被さった。

一発が至近で炸裂して泥を巻き上げ、もう一発が背後からお姉様を射抜く。

「うっ………」

幸い、かつて大英帝国を震え上がらせた戦艦の装甲は伊達ではない。障壁はお姉様の身体を爆風から完全に守り切った。

でも、全くの無傷というわけにもいかない。艤装から火花が飛び、お姉様を覆う障壁が一瞬黄色く明滅する。

(一撃で、小破まで……)

《Z1-23よりビスマルクさん!何が起きたの!》

《Z3-11より旗艦、攻撃準備はできてるわ!いつでも言って!》

「Prinz Eugenより各艦、座標同一で速やかに支援砲撃の再開を!私とBismarckが攻撃を受けて………!?」

指示を出す暇なんてなかった。お姉様が咄嗟に私を更に後ろまで投げ飛ばし、そこに新しく四発の砲弾が飛来する。

内一発が、直撃。当たり所が良かったのか障壁の色は黄色から変わらないものの、背負う艤装の端で機銃が小さく爆発して根本から吹き飛んだ。

「Feuer!!」

衝撃を何とか踏みとどまって耐えたお姉様が、主砲を放ち反撃する。

───けれど、38cm砲が炸裂するよりも僅かに早く、煙の中から飛び出してくる“人影”があった。

背後で爆炎をまき散らすお姉様の38cm砲弾など気にとめる様子すら無く、その影は小柄な体躯を更に小さく丸めて弾丸のようにお姉様めがけて突進する。

『────♪♪♪』

「あ゛うっ!?」

速い。反撃も、回避も、防御もままならずに跳躍と共に振り切られた尻尾がお姉様の腹部を殴打する。凄まじい打撃で浮き上がった身体は、着地と共に二、三歩後退って横倒しになった戦車の残骸にぶつかりようやく止まった。

「…………この!!」

なおもお姉様に肉薄しようとした“影”に向かって、膝立ちの状態から20.3cm連装砲を連射。迫る四発の砲弾を、“影”はバレリーナみたいに軽やかな動きで後ろに飛んで回避する。

そして、元々そうするつもりだったような迷いのない動きで今度は私に向かって突進してきた。

「なっ────きゃあっ!?」

慌てて機銃と副砲を放ち動きを止めようとしたけれど、驚くほど低い姿勢から弾丸のように飛び込んでくる動きに対応できない。“影”ほんの数歩で私との距離を零にして、そのまま大きな動作で尻尾を振りかぶる。

「うぁっ………!?」

顔スレスレを薙いだ尻尾の一撃を避けて崩れた体勢。予想だにしなかった白兵戦に混乱する頭はめまぐるしい動作に追いつけず、続けて放たれた回し蹴りが私の胸板を殴打した。

「けほっ────がっ、ゴホッ!?」

激痛と圧迫感に口から息が漏れる。後ろに流れた身体に、今度は背中から尻尾の一撃。無理やり引き起こされたところで、肘打ちが顔に、更に尾の追撃が脇腹に突き刺さる。

「………ブフッ」

口の中に広がる鉄の味と、生ぬるい液体の感触。こみ上げてくる吐き気と激痛が合わさって視界が激しく揺らぎ、脳が揺すられて立っていられない。

(何……なの……この、戦い方………)

ぐらりと前のめりに倒れかけながら、ぐちゃぐゃになった思考が脳内でぐるぐると回る。

陸であれ海であれ、砲雷撃戦で深海棲艦と戦うための教育と訓練を受けてきた私達。反艦娘団体の暴動に備えた対人戦の手ほどきも多少は受けているが、“同等の戦闘能力を持つ相手”との格闘戦など想定していない。

予想が全くつかない動きの数々に、対応がまるでできない。一方的に、嬲られる。

「痛っ…………」

膝を突いた私の頬に、拳がめり込む。血の味が更に濃くなるのを感じて、私の身体は裏拳によって地面に横倒しにされた。

『…………wwww』

降りしきる雨の中で、敵の尻尾がなんとも禍々しいシルエットを浮かび上がらせながら振り上げられるのが眼に映った。

動けない私の頭を噛み砕こうと、大口を開けた牙だらけの顎が迫ってくる。


……………響いたのは、私の頭が噛み潰される咀嚼音、ではなかった。

『─────!?』

何か巨大なものが空を切る音。常軌を逸した大きさの打撃音と、堅い何かが砕ける鈍い音が間を置かず続く。逃れる術がなかったはずの痛みも死も訪れないことに訝しみ、恐る恐る眼を開けた。

「…………プリンツ、大丈夫かしら?」

荒い息で、それでも私に向かって背中越しに微笑みながら、ビスマルクお姉様が立っていた。手に何か棒状の、太く大きな物を持って構えている。

それが、へし折られた戦車の残骸の主砲だと気づくのに幾らかの時間を要した。

『────!!』

「…………っふ!!」

『ギァッ………』

距離を取っていた“影”が、再び自らの尾を伸ばしてくる。が、お姉様が手に構えた筒で跳ね上げるようにして下顎を殴打すると、形容しがたい不快な鳴き声を残して尾は自らの主の元に舞い戻る。

「Feuer!!」

『………』

流れるような動きで艤装を展開し、射撃。これは躱されたが、若干の警戒心を抱いたのか向こうは反撃せずに私達から僅かに距離を取った。

「それで?まだ戦える?プリンツ」

「………あ!はい!まだ何とか!

あの、お姉様………そんな戦い方、いったいどこで」

「zweiへの改装を受けるために日本に行ったときに、ちょっとね」

立ち上がろうとする私への射線を塞ぐ位置取りで筒を構え直しながら、お姉様はそういって肩を竦めた。

「なんとかっていう映画スターみたいなすっごい筋肉身につけたAdmiralから、色々教わったのよ。

……ま、まさか役に立つとは思わなかったけどね」

ぎゃー予定位置までまにあわなかった……でも流石に寝ないと行けないので今回ここまでの更新です

「日本ですか………」

私がまだただの軍艦だった頃に、当時ハーケンクロイツを掲げていた祖国が同盟を結んだ海の向こうの国というのはなんとなく知っている。ただ、私は所謂【実装艦】とは違いドイツの国営工場で建造されたので実際に行った経験はない。

そのため、持っている知識は例えば“なぜか潜水艦娘達に倒錯した性的嗜好が覗える指定制服を着せるHENTAIの国”という断片的かつ真偽も微妙なものばかりだ。

………まぁお姉様のこの急激な変化(というより悪化)の具合を見る限り、ろくでもない一面がある国なのは間違いないと確信した。勿論歴史も民族性も完全無欠な国家なんてこの世に存在しないことは理解しているけれど、それにしてもこのかつての血盟者は瑕疵の方向性が一般的な国家と随分違う気がする。

などと、私が東洋の端っこに浮かぶ島国についてなんともいえない思いを抱えていると。

「来るわよ!!」

「えっ?」

“影”が、再び動いた。

「Artillerie!!」

「うんにゃあーーーっ!!?」

尻尾の先端で艤装が稼働し、此方に向けられた砲口。雷鳴みたいな音を響かせて向かってきた熱と鉄と火薬の塊を、私とお姉様は左右に飛んで避ける。

「ぶぎゅっ!?」

こういうとなんとも鮮やかに回避したようだけど、実情はだいぶ違う。最小限かつ的確な身のこなしで素早く射線から外れたお姉様と対照的に、私は低俗なコメディ・コミックの登場人物みたいな慌ただしさでバタバタと地面を這いつくばって爆心地から逃れた。

結果大いにバランスが不安定になっていた私は、爆風で押されたことによって再度水溜まりに頭から突んだ。

次の攻撃が来る前にと慌てて泥を吐き出しながら立ち上がろうとした私は、後ろの───さっきまで私達が立っていた辺りの光景を目にして思わず悲鳴を上げた。

(なにこれ………一発の砲弾でこんな………)

巨人がスプーンでその一角をくり抜いたみたいに、ぽっかりと口を開ける穴。直系7~8メートルはあるそれが先程敵艦が放った砲撃によるものだと理解した瞬間、全身に雨粒よりずっと冷たい汗が噴き出た。

こんな威力……私やお姉様でもまともに食らったら一溜まりもない。一撃大破だって十二分にあり得る。

「突入するわ。プリンツ、援護して!」

「ふぇっ!?や、Ja!」

新型の攻撃の威力はお姉様も十分に理解しているはずなのに、彼女は何の躊躇もなく戦車砲を(打撃武器として)構えて前傾姿勢で突貫する。私の顔からは更に血の気が飛んでいったが、同時にその気高く勇敢な姿に恐怖も私の身体から抜けた。

ドイツ海軍重巡洋艦Prinz Eugenともあろうものが、お姉様一人だけを戦わせるなどあってなるものか。

「Beginnen Feuerschutz!!」

『!!』

幸い、さっきの回避行動でお姉様の身体は射線から外れている。攻撃には直ぐに移れた。

僅かに角度を調整し、主砲2基4門を同時に射撃。

距離にして300Mに満たない、至近距離からの射撃だ。こっちが外す道理も、向こうが回避する暇もない。

───筈なのに。

『────!!!』

「くぅっ……!」

「嘘でしょ!?」

あり得ない反応速度で振られた尻尾に、砲撃が下から跳ね上げられる。打撃された場所が先端ではないため信管が作動せず、起爆しないまま私の砲弾はあらぬ方向へと舞い上がる。

そのまま咄嗟にガードの姿勢を取ったお姉様に蹴りが突き出され、これを筒で受けたお姉様の突進が衝撃で止まる。ほぼ同時に、ふっ飛ばされた砲弾がどこか遠くで立て続けに炸裂した。

《Z3-11よりBismarck並びにPrinz Eugen、当艦付近に至近弾4!そっちの敵艦の砲撃なの!?》

「………うん!そんなところ!!」

胸にちくちくと突き刺さる罪悪感を勤めて無視しながら、水偵射出のカタパルトを構えAr-196改を空に撃ち上げる。

「Prinz Eugenより包囲網構成艦各員に通達!水偵を上空に上げた、感覚をリンクし弾着観測射撃にて敵艦に全火力を集中して!!」

《《《Jawohl!!》》》

基本的に艦種を問わず、艦載機はそれを出撃させた母艦以外で指示や収容、補給などを行うことはできない。ただし水偵や水戦、或いは日本の【サイウン】等の偵察機は、母艦以外───更に言えば駆逐艦や未改装の潜水艦のように本来艦載機を搭載できない艦種の子たちでも【視界共有】ができる。

勿論映像が安定しないなど母艦に比べると制限はかかるし、多数の艦娘と視界をリンクさせることは妖精さんにも大きな負担を強いる。

けれど、弾着観測射撃ができるとできないとでは攻撃効率に大きな違いが生じる。ここはもう一頑張りして貰うしかない。

「お姉様、水偵を発艦させてレーベ達とリンクさせました!駆逐艦隊による支援射撃可能です!」

「Ja! ありがとうプリンツ、貴女みたいなKameradin持てて幸せね!!」

『ッ!!』

私の報告に、あのまま白兵戦に突入していたお姉様は“影”と激しく打ち合いながらにやりと大きく口元を歪める。

……私に向けてのお褒めの言葉を伴った、大好きなお姉様の笑顔。

「……」

なのに、目にした瞬間、なぜか私の肩には小さな震えが走る。

そのまま、“尻尾”の艤装に覆われた部分とお姉様が構える戦車砲が空中で何度か凄まじい速度で衝突する。

艦娘と深海棲艦の“白兵戦”、しかも片方は戦車の残骸を引き抜いたものが得物───見方によってはシュールとも、タチの悪いジョークとも取れる光景。

だけど相手もお姉様も、その動きは見とれてしまうほど洗練されて無駄がなく、そして激しかった。

「はぁっ!!!」

『ッッッッ!!!』

攻防の中で生じた一瞬の隙。お姉様が大きく腰を落とし、図太い戦車砲を勢いよく槍のように突き出す。

“影”はこれを尾の艤装部分で受け止めたが、衝撃までは殺しきれなかったのか身体が浮き上がり2,3メートル後ろにはね飛ばされた。

「「Feuer!!」」

『………!!』

機を逃さず、私とお姉様の艤装───15.5cm連装副砲が同時に火を噴く。流石に主砲を撃てるような距離ではないけれど、副兵装での射撃ならば威力的にこちらが巻き込まれる心配はない。

勿論威あの敵艦に大きなダメージは与えられない。でも、副砲とはいえはね飛ばされた矢先に砲撃を受ければ踏ん張りは利かないだろう。

転んで隙を作ることを嫌ったか、“影”は着弾の衝撃に身を任せて更に10メートル近く後方へと跳んだ。

「─────全艦、一斉射撃!!」

『!!!?』

その着地点に、連なり炸裂する五発の砲弾。やはりダメージは小さいけれど、予想外のタイミングに加えて上からの攻撃。おまけにAr-196改を用いた弾着観測射撃。

動きが完全に縫い止められる。

────そして、今度は彼我の距離も十分だ。

「「Feuer!!」」

38cm連装砲。

SKC34-20.3cm連装砲。

全門が一斉に火を噴き、砲弾が放たれる。

火柱が、天を焦がす。

絶望的な状況下に置かれていた友軍を救援した後の包囲戦。完璧な誘導で敵艦の動きを制限したところへ戦艦と重巡による主砲射撃。

ど派手な爆発と、敵の姿を覆い隠す爆炎。

ハリウッド映画辺りなら、派手な演出や勿体ぶったBGMを施されて“実は健在だった敵艦”が観客の悲鳴やスクリーンに投げつけられるポップコーンと共に颯爽と再登場するのだろう。

《…………冗談でしょ》

現実にはそんな演出は存在しない。渦巻く焔と煙を尾で切り裂き悠然と“影”は再び現れた。水偵から妖精さんの眼を通してその様子を見た駆逐艦の一人が呆然とした口調で呻く。

影の………【彼女】の周囲を守る障壁が、火柱から出てくる直前オレンジ色に一瞬明滅する。流石に重巡洋艦と戦艦の一斉砲撃をまともに受けて損害を抑えることは難しかったようで、少なくとも中破レベルの大きなダメージは受けているらしい。

『─────♪』

なのに、【彼女】は笑っていた。

目深に被っていたフードを脱ぎ捨て。

先端の艤装部分から小さく火花を上げ続ける尾をゆらゆらと小刻みに震わせ。

人間や艦娘だったら“美少女”に分類されるだろう、幼さが残るけれど整った顔立ちに狂気を、狂喜を滲ませて。

【彼女】は、心底嬉しそうに満面の笑みで私達を見つめる。

少しだけ長く伸ばされた白い頭髪の隙間から覗く、玩具を見つけた子供みたいにきらきらと輝く眼が、真っ直ぐに私とお姉様を見つめる。何かを呟くようにして、青白い唇が動く。

………きっと、偶然だ。深海棲艦が人語を発したという話は、一度も聞いたことがない。

だけど私には、【彼女】の唇がこう言ったように見えた。


───アイツノイッタトオリダヨ。

深海棲艦が作る表情としては、あまりにも“血が通っている”微笑み。

本当に人間や私達のものと遜色がない自然さなのに、溢れ出る狂気。

「────あぁ、やっぱり貴女も“此方側”なのね」

そして………私の隣に肩を並べるビスマルクお姉様も、【彼女】と同質の笑みを浮かべていた。

「あのAdmiralから、彼のKameradinのアオバから、貴女たちの存在は聞いている。戦い方を見て、薄々そうだと気づいていたわ」

「お姉様………?」

興奮気味に、お姉様は【彼女】を見つめながら捲し立てる。その口調は徐々に速度を増し、今や熱にうなされた重病患者のように夢見心地なものになっていた。

「ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない。私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!」

台詞の最後は、ほとんど叫ぶようにして放たれる。お姉様は………Bismarck zweiは、どこか箍の外れた笑みと共に【彼女】に向かって手招きをする。






「Bismarckの戦い、見せてあげるわ!

さぁ、かかってきなさい!!」





(`・ω・´)「…………以上が国防省の見解です、大統領」

(゚、゚トソン「………そう、ですか」

(`・ω・´)「南部ドイツ全域やライプツィヒ、ドレスデンなど主にドイツ国内で極局所的にはある程度優勢の地域も見られます。

しかしながら、現状よほど劇的な“何か”が起きない限り最早オーベル川以西のヨーロッパ失陥は確定したも同然です」

爪'ー`)「既にフランス・ドイツ・北欧の戦況は、“敵の攻勢をどの辺りで食い止められるのか”に重点を置く段階まで悪化しています。

特にフランスはコマンダン=テストのみとはいえ艦娘保有国。彼女らの損失は第二の防波堤である英国、はては合衆国の国防それ自体にも影響します」

(゚、゚トソン「………」

ハハ ロ -ロ)ハ「大統領閣下。本来なら我々も、“最後の手段”に打って出ることを本格的に検討しなければいけない立場です。

────ロシアが汚れ役を買って出てくれるというのなら、渡りに船だと私は考えます」

(-、-トソン「……………」

(`・ω・´)「大統領閣下、ご決断を」

(゚、゚トソン「…………在ロシア大使館に連絡を。それから、日本のミナミにもアポイントを取って下さい。

不測の事態に対する保険として、【海軍】出撃の手配をしておきましょう」

(`・ω・´)「かしこまりました、では」

(゚、゚トソン

( 、 トソン「…………この悪の帝国のどこが、世界の警察なのかしらね」





《先程アメリカホワイトハウスでフォックス=カーペンター国務長官が記者会見を開き、ロシアの核兵器使用の意志を覆すことはできなかったと談話を発表しました。

この発表は事実上ロシア連邦のドイツに対する核兵器投射を黙認するという前倒しの宣言とみられ、先に同様の意思表明を行っていたイギリス、フランス、元々肯定的な立場だった中国も含めてこれで常任理事国は全てロシアの核兵器使用を認めた形になります。

これに対し日本、インド、台湾などアジア諸国からは非難声明が続出し────》

今更新ここまで。……本当は前回更新時にここまで行きたかった(叶わぬ願い)







段差を踏み越えてジャンプした車体が、10メートルあまりの浮遊を経て着地する。ズンッと身体の芯に響いた震動を、歯を食いしばって耐える。

(;'A`)「チッ、ここもか!」

ちらりと前方の状態を確認し、舌打ちと共にハンドルを右へ。本来進むはずだった道路は隆起と砲撃によるクレーターで悲惨な有様になっていて、バイクのスリムさを考慮に入れても到底走れる代物ではなかった。

元々深海棲艦の爆撃や砲撃で道路事情が最悪であることを考慮に入れてのバイクチョイスではあったし、軍用のオフロード仕様なのである程度の荒れ地はツーの運転するエノクを下回る乗り心地にさえ目をつぶれば走破できる。

(;'A`)「……また!」

とはいえ、ベルリンの道路網は俺が想像していたよりもずっと「最悪」だった。ビルが崩れ落ちて隙間なく塞がれてる場所やさっきのように隆起やクレーターが多すぎて流石に走行できない場所が大通りから裏路地まで至るところに見受けられ、その都度“目標地点”への移動は遠回りになっていった。

(;'A`)「ここ───またか………!」

本来バイクの速度を考えれば大した距離ではない、多少経路が膨らんだところで増える時間は5分か10分かのレベルだ。

だが、ロシアの核兵器発射時刻やヨーロッパ全体の戦況、そして何より後方でリ級達に遅滞戦術を強いているだろうイヨウ中佐達の事を考えればその僅かな時間が身を焦がすほどにもどかしい。

幾つかの角を曲がり、幾つかの道路の状態に苛立ちを募らせ、それでも少しずつ西へ西へと進む。

ツン、ジョルジュたちと別れてからおそらくまだ5分と経っていない。だが俺には、もう1時間は経ってしまったんじゃないかと錯覚するほど時の流れが早く感じられた。

(;'A`)(クソッ、こうなりゃ多少の悪路でも道自体があるなら強行するしかない……!慎重になってても時間が経ちすぎたら元も子もない────)

(;゚A゚)そ「うぉおおっ!?」

砲声。放置停車されていたものが吹き飛ばされたのか、火達磨のスポーツカーが一台眼前の十字路左手から現れる。

咄嗟にバイクにピタリと身を伏せながら僅かに車体を傾け回避。背中に熱を感じつつ、その十字路を駆け抜けた。

(;'A`)「……っ、あぁそうだよな!」

背後で、更に何台かの車が吹き飛ばされていく音が重なる。そしてその中に混じってなおはっきり聞こえる、異常に大きなガスの排気音。バイクや車にちっとも詳しくない俺だが、その音だけは聞き覚えがあった。

(;'A`)「そりゃあ完全放置とはいかないよな!!」

重巡リ級たちが此方に突入してくるときに使っていた、あのバカでかいギャング仕様のバイクが奏でていたものと同じだ。

『─────!!』

(;'A`)「っと!!」

背後から追ってくる“艦影”二つ。その片方が、左手の艤装を起動し弾丸を放つ。

再び身を伏せた俺の周囲で、無数の機銃弾が火花を散らした。

『『────』』

('A`;)「………随分近未来的な造形だなオイ」

背後から追走してくる敵艦の外観を一言で表すなら、“より人間に近づいた軽巡ヘ級”だろうか。

両腕はヘ級同様完全に艤装と融合していて、後方から追撃してくる二隻はどちらも左手が機銃で右手が単装砲だ。頭部にマスクのようなものが被せられているという点も共通するが、此方は上半分のみの装着。鼻から下は装着物がなく、青白く血の気を微塵も感じさせないマネキンみたいな口元が剥き出しになっている。仮面の左側、眼の位置に穴は穴が開けられその中から覗く眼が青く光を放つ。

服装?はル級とリ級を足して二で割ったような組み合わせで、一昔前のセパレート水着のような形状の胸当てが肋骨の辺りまでをぴったりと胸部のラインを浮き上がらせながら覆う。少し縮れ気味の首筋辺りまでの長さになる髪が、雨の中で靡いていた。

ヒト型深海棲艦の一種、雷巡チ級。本来はヒト型と違って足を持たず、海上移動に極端に特化した機械ユニットが腰から下に直接装着されている。そのため過去確認されたチ級は、eliteやflagshipといった上位種でも出現箇所が海上に限定されており、人類や艦娘の間でもチ級は【雷巡】という艦種の特性も相まって海上限定の敵艦という認識だ。

………で、何の悪夢なのか今俺の後ろから追撃してくるチ級は、下半身を海上ユニットではなくバイクと結合させベルリン市街地の真っ只中を推定時速100kmオーバーで疾走している。

('A`;)「マイケル=ベイの映画かっての!!」

愚痴を飛ばしながら腰のホルスターからピストルを抜き、背中越しに当てずっぽうで引き金を引く。

『────!』

たまたま命中したらしく乾いた音が聞こえてきたが、チ級は他のヒト型同様障壁を持つ。当たり前だが、効果はない。


『───! ───!!』

(;'A`)「……っ!」

右手後方で“気配”を感じ、ハンドルを握る手に力を入れる。俺が車体を左に寄せたのと、二度の砲声は同時だった。

本来進路上だった箇所で上がる二つの爆炎。ぱらぱらとコンクリート片が降り注ぐ。

『─────!』

(;'A`)そ「危ねぇっ!?」

すぐさま、真後ろに着いたもう一台から機銃掃射が放たれる。此方もハンドルを即座に右に切り、射線から逃れる。

(;゚A゚)「───どわぁっ!?」

がつんっと前輪に衝撃が走り、ひっくり返って転がっていた軽自動車を踏み台に再びバイクが宙を舞う。胃がひっくり返りそうな浮遊感をたっぷり一秒ほど味わった後、縮み上がった“タマ”を突き上げるようにして車体が地面を踏みしめた。

(; A`)「────っの!」

悶絶したくなるような痛みだったが、聞こえてきた打撃音がそれを許さない。

エンジンのギアを上げて加速する。猛スピードで路を駆けるバイクの直ぐ後ろ、ほんの1メートルほどの位置にさっき俺がジャンプ台にした赤い軽自動車が突き刺さった。

また車体を左へ。道路脇の家屋に砲弾が直撃し、飛んできた瓦礫も回避するため一瞬歩道に乗り上げる。放置された露店の木箱数個を踏みつぶし、道路に戻る際に台を足に引っかけて蹴倒す。

道路に散らばった幾つかのくだものを踏みつぶして、チ級達はなおも追ってくる。……違法改造バイクがベースになっているためか、どうも基本速度は向こうが上のようで差が詰まり気味だ。

(;'A`)(このまま肉薄され続けたら回避が間に合わなくなる………なら!)

意を決し、俺は次の十字路が眼に入った瞬間にハンドルを切り左に曲がった。

通りに入った瞬間、今までと“質”が違う揺れを感じた。つんのめる形で後輪が浮き上がり、一瞬逆ウィリーのような状態になって数メートル走行する。

(;'A`)「おぉっとぉ……!?」

転倒しかけた車体をなんとか立て直し、そのまま前へ。

俺が突入した通りは、今までは走行を回避していたレベルの量の砲撃痕や隆起、陥没、放置車両などがある荒れ果てた道路。当然、移動の難易度は今までの比ではない。

バイクが浮き、揺らぎ、滑り、そこら中にぶつかる。車体のありとあらゆる装置やパーツが悲鳴を上げて、途切れない揺れが俺の肋骨を軋ませた。

(; A )「がぁっ!?」

突き出していた自動車のパイプにひっかかり、足の軍服が破れ脹ら脛の皮膚を裂く。鋭い痛み、だが視線を切ればたちまち大事故待ったなしだ。

『『────!!』』

当然、チ級も俺を追って通りに入る。乗用車を殴り飛ばし、水溜まりを蹴立て、速度を落とすことなく俺へと迫る。

『────!?』

『ア゛ア゛ッ!?!!!!?!』

そして、内一隻が悲鳴と共に空に舞い上がった。

おそらく、雨水が溜まっていた砲撃痕に気づかず前輪を引っかけたのだろう。僅かに背後を振り返ると、まるで前転しようとしているかのように後輪を上に向けて飛翔するチ級の内一隻の姿が見えた。

『ギァアアアアッ!!?』

自身が意図しない形で跳躍してしまったチ級は態勢を立て直せず、そのまま道路脇のビルの一つへと突っ込む。横向きで支柱に衝突した際に「車体」がへし折れ、後ろ半分が脱落する。

『グアッ……アァッ……アァァ………』

前輪だけになった下半身では到底まともな着地などできず、転倒したチ級の身体は数メートルにわたり地面を転がった後街灯に腹をぶつけて止まった。

気絶したのか、或いは完全に撃沈できたのかをしっかりと確認する暇はない。ただ、あれだけ完全に移動手段が破壊されれば追撃はできない。

(;'A`)「よしっ!」

狙い以上の結果が生まれ思わず拳を握りしめる。

チ級の艤装がもしリ級達が乗っていたバイクと同系統のものであるとすれば、此方が乗るミリタリータイプと違って極端な荒れ地の走行は考慮に入れられていない可能性が高くなる。バイカーギャングの目的は基本的に示威行為であり、改造は自然速度を出すためのものに限定されるはずだ。人が殆ど通らない荒れ地を走るための対策が施されているとは考えづらい。

そのため此方の軍用オートバイでも走行が困難な地形におびき寄せられれば破壊とまではいかずとも距離を大きく開けるチャンスができると踏んでいたが、一隻が早々に完全脱落といい意味で計算が外れてくれた。

まぁ、最高の結果が生まれたとはいえ危機が去ったわけではない。

『─────ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

(;'A`)「っ、お盛んなことだな!」

過去に交戦した深海棲艦の行動パターンからある程度解ってきたことだが、あいつらは(特定の個体を除いて)“同族”の死や損傷に強い反応を示す場合が多い。後ろのチ級もどうやらその類いのようで、単装砲と機銃による攻撃の勢いが今までより更に増した。車や瓦礫が転がっていても、お構いなしにそれらも砲撃で吹き飛ばしながら追ってくる。

────あっという間に距離が詰められるが、今の俺にとっては寧ろありがたい。

('A`)「………」

一つだけ持ってきていた手榴弾を腰のベルトから取り外して、ピンを抜く。タイミングを計り、後ろに転がす。

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

………チ級の沈黙の時に、解ったことは三つ。

一つ、上半身は例の障壁によって通常兵器ではダメージが与えられないが、下半身のバイク部分は何らかの理由で障壁の効果が及んでいない。

二つ、バイク部分については耐久力も高くない。

三つ、チ級は特に地上戦に不慣れなためか、不測の事態に弱い。

故に。

『ア゛ア゛ア゛───ヴアッ!!?』

('A`)「Fahr zur Holle」

冷静さを欠いた状態のもう一隻を破壊することは、これら三点を考慮すれば簡単だ。

ご丁寧に直進してきてくれたチ級の前輪が手榴弾の起爆によって吹き飛び、残った後輪部分に火が回った状態でチ級が転倒する様を一瞬だけ確認する。此方としては足さえ奪えれば十分なので、直ぐに視線を戻す。

『グア゛』

ただ、背後でもう一つ大きめの爆発が起きたのだけは音で理解できたが。

(;'A`)「……撃破できたとはいえまた時間食ったなクソッタレ。いい加減“目的地”について欲しいもんだ」

(; A )「がっ──────!?」

呼吸が止まるほどの、信じがたい衝撃。さっきまでのチ級の砲撃が子供のお遊びになってしまうような、巨大な火柱が俺の左右で上がる。

高々と飛んだバイクは、奇跡的に転倒せずまた地面を走り出した。

(;゚A゚)(艦砲射撃………少なくとも戦艦クラス………正面から………!!)

ブレーキに伸びかけた手を引っ込めて、前方に目をこらす。

彼方で、微かに光が見えた。

(; A )「っつぅ………!!?」

今度は前方数メートルほどの位置で砲弾が炸裂する。揺れと土砂でハンドルを取られバランスを崩しかけるが、ギリギリのところで持ちこたえる。

(;'A`)「うぉあああああっ!!?」

三たびの砲撃。これは両側のビルに直撃した。崩れ落ちてきた瓦礫を、ワケのわからない叫び声を上げてギリギリのところで躱す。

────そして、見えた。

立ちこめる土煙の向こう側に。

俺が進んでいる、真っ直ぐな道の彼方に。

三つの、影が見えた。

まだ、顔が判別できるような位置ではない。見えるのはあくまでも人影だ。

だが俺は、確信を持って誰にともなく叫ぶ。

(#'A`)「────軽巡棲姫、捕捉!!」

今更新ここまでです。

次回、最終更新(予定)

三つの光が、彼方で瞬く。

(; A`)「……っぐ……おぉっ………!!?」

押し寄せてきたそれは、鉄と火薬の暴風だった。

『『『─────!!』』』

軍艦3隻分の、機銃の一斉掃射。雨音が完全に掻き消され、アスファルトを弾丸が削り、火花がそこら中で飛び散る。道の脇に転がっていた車が蜂の巣にされて火達磨になる。背負っていたG36Cを一発が僅かに掠め、高い金属音が鳴った。

奴らの攻撃は“砲撃”を含まない。にもかかわらず、機銃掃射の衝撃のみで地面が揺れている。

(;'A`)「………っ、嘗めんな!!」

弾幕。まさにそれ以外の表現が思いつかない、膨大な数の火線が混ざり合う。

その真っ只中で、俺はバイクの速度を最大まで上げた。

(; A )「うおっ────!」

空気抵抗を、そして被弾面積を減らすため、限界まで運転席に身を伏せる。ハンドルを握る手と前方を見つめる両眼に全神経を集中し、張り巡らされる火線の隙間を縫うようにして駆ける。

『『!!!』』

(;'A゚)そ「ひっ……!」

迫る三つの艦影。両脇の二つが、砲声を伴う一際大きな光を放った。

ほとんど水平射撃で放たれた、二発の艦砲射撃。砲弾が炸裂する直前、ギリギリのタイミングで着弾点の傍を走り抜ける。

背中に吹き付けた爆熱に、情けない悲鳴が喉から漏れた。脳裏を走馬燈のような映像が駆け回り……その、ズボンが雨でびしょ濡れになっていることを死ぬほど感謝した。

それでも、ハンドルを放さない。速度を落とさない。

『………ッ!!』

奴らとの距離が、この間にも更に詰まる。比例して、火線も濃密さを増していく。

────彼我の距離、目測凡そ200M。ただの小さな点に過ぎなかった三つの艦影を、朧気ながらはっきり人間の形として視角が、脳が、認識する。

このタイミングだ。

(#'A`)「─────ぅおらぁあっ!!!!」

ハンドルを放す。車体から身体を起こす。背中のG36Cに手を伸ばしながら、KLX-250を前に蹴り出すかのような動きで座席から飛ぶ。

『───────!!!?』

物理法則に基づいた当然の帰結として、俺の身体はバイクから離れ宙を舞った。

(;゚A`)「ぶっ───ぉ」

一瞬の浮遊感を経て襲ってくる、全身をバカでかいハンマーでぶん殴られたような衝撃。息がつまり、チカチカと眼の奥で星が飛ぶ。

知覚の限界を超えた激痛にブラックアウトしかけた意識を繋ぎ止めたのは、なんとも皮肉なことに直ぐ後に続いた別の痛み。

(;゚A゚)そ「あづあああいでででででででで!!!??!」

慣性に従って路上を滑り出す身体。雨によって幾らか摩擦が減り、前後に防弾板を縫い込んだ最新式の軍服を着ているとはいえ気休めにもなりはしない。

すさまじい速度で擦れる背中の皮膚が破れ、血が滲み、摩擦熱が軍服を通して背骨を炙る。落下直後に味わった瞬間的な痛みに程度では及ばないものの、継続して襲ってくる激痛に精神が焼き切れそうになる。

(;メ'A )「………ッ、おぉっ!!」

歯を食いしばり、銃を構え、引き金を引く。狙う先は、運転手を失った後も走り続けるKLX-250───そのエンジン部分。

乾いた銃声が響く。此方に向けて放たれる無数の銃火の中で、ただ一筋、細い火線が逆方向に伸びた。

……これがアクション映画の一場面の光景だったなら、弾丸は見事に狙いの位置を貫いていたのだろう。だが、残念ながら俺はトニー=ジャーでも、ジェイソン=ステイサムでも、ジョシュ=デュアメルでもない。

(;メ'A`)「───クソッタレ!!」

放った弾丸はエンジンどころかバイクの車体にすら数発当たった程度で、残りの殆どは射線がばらけ見当違いの方向へと飛んでいく。

銃撃を受けてバランスを崩したKLX-250は横転し、50M程その状態のまま滑走した後カラカラと虚しい音を立てて奴らの足下で停止した。

『…………』

あれだけ激しかった銃撃が、まるで指揮者の合図を受けたオーケストラの演奏みたいにピタリと止まった。真ん中の“艦影”はおもむろに脚を持ち上げ、力なく地面に転がるKLX-250をそっと踏みしめた。

(メ; A`)「ゴホッ………ゲホッ……」

バイクから一拍遅れて滑走が止まった俺は、咳き込み、背中の激痛に耐えながらその光景を眺めている。

俺と奴らの距離は、あと150Mといったところだろうか。両側に立つ戦艦ル級二隻と、真ん中のヒト型が俺自身は初めて見る艦影────おそらく軽巡棲姫の姿形は解るが、この距離では流石に表情などを窺い知ることはできない。

『─────フッ』

(メ;'A`)「………Verdammt」

だが、俺は感じた。

奴は、俺のことを………いや、ベルリンでの人類の抵抗自体を嘲笑っている。

(メ; A`)(はっ………さっきまでのお返しってか)

そもそも、さっきの“派手だが当てる気はない”機銃掃射や艦砲射撃の時点で薄々勘づいていたことだ。空を高速で飛び回る戦闘機を追い払い撃墜するために張り巡らされる弾幕に、時速100kmにも満たないバイクが飛び込んだところで普通なら一瞬でスクラップになって終わる。

俺が単騎で飛び出したことは、リ級達の報告か空でポーランド軍に迎撃されている爆撃隊からの監視か、とにかく何らかの方法で旗艦である軽巡棲姫のところにも届いていたのだろう。

そして、これを俺達の「最後の攻撃」と見た(事実そうなのだが)軽巡棲姫は、シュパンダウ区からここまで出てきて俺を待ち構えていた。

散々に翻弄されて痛くプライドを傷つけられた報いを受けさせるために。

自らの手で、俺達の「最後の手段」を叩き潰してやるために。

死に物狂いでここまで来た俺に、最大限の絶望を突きつけるために。

思えば、チ級による追撃すら──あの二体が破壊されたことは予想外だったとしても──奴が俺をここに連れてくるための誘導だったのかも知れない。それだけ奴には俺が自分を狙っているという確信も、そして俺達の策を粉砕できる自信もあったのだろう。

『──────♪』

そして奴は今、その通りになったことで勝ち誇っている。散々手こずらせてきた俺達の、最後の希望を打ち砕いてやったと嘲笑っている。








(メ A )「……………ッ!」

────それが、“自分の中でそのつもりになっているだけ”だとは気づかなかったようだが。

(メ#゚A゚)「ああああああああああああああああああっ!!!!!」

喉を振り絞って絶叫し、全身の力を込めて立ち上がる。骨が軋み、傷から血が滲み、焼け付くような痛みが脳を震わせるが、その全てを無視して足を踏み出す。

ヒーローでもスーパーマンでも何でもない、痩せぎすで満身創痍の軍人の全力疾走。自分で俯瞰する余裕はないけれど、きっと無様で滑稽なフォームになっているとは予想がつく。

『……………!?』

それでも………なおも迫ってくる俺の姿に、軽巡棲姫が少しだけ後退ったように見えた。

構えたG36Cが、鉛のように重い。一歩踏み出す毎にのたうち回りたくなるような痛みに視界が霞む。

(#メ A )「あぁああああああああああああっ!!!!」

それらを耐え、誤魔化すために叫び続ける。声を出すことを止めれば、途端に意識が途切れてしまいそうだ。

前へ。前へ。前へ。

叫び、敵影だけを見つめ、走る。蹌踉めき、躓き、水溜まりに滑り、それでもとにかく進み続ける。

『…………』

彼我の距離、120M。

最初は戸惑い気圧された軽巡棲姫も、大声はただのハッタリでこの突貫を破れかぶれの特攻と踏んだらしい。動揺は直ぐに消え、此方に左手を向けた。

軽巡ト級を思わせる、巨大な顎を象った艤装が展開される。口の直ぐ上には4連装の魚雷発射管が、更にその上には単装砲と2門の対空機銃がごてごてとどこか不格好に突き出している。

どの艤装が使われるにしろ、生身に近い俺が食らえば跡形も残るまい。おまけに両サイドのル級も砲をこちらに向けていて、回避は難しい。

上等だ。こっちも、回避するつもりは毛頭ない。

(メ# A`)「っ!!!」

G36C、一連射。弾倉一つが空になるまで引き金を離さず撃ち放つ。銃から伝わってくる振動すら痛みに変わるが、歯を食いしばって耐える。

『……………?』

ただし火線は、棲姫にも両脇のル級にも向いていない。三隻の足下───KLX-250、その燃料タンクが、狙いだ。

『『『────!!?』』』

爆炎が、奴らの足下を焦がす。

彼我の距離、100M。

基本軍用車は燃えにくいディーゼルエンジンを主流にしているが、偵察を主な任務として足回りが重視されるオートバイに関しては殆どの場合ガソリンエンジンが採用される。無論ポーランド軍が同様の考えだとは限らないので一抹の不安はあったが、あの爆発、景気の良い燃えっぷりを見る限り杞憂に終わってくれたようだ。

『………ッ、…………!!』

無論、それなりの爆発とはいえ所詮バイク一台分。“軍艦”に大きなダメージを与えられるような規模にはどう考えてもなりっこない。だからこそ軽巡棲姫も、仮に俺の策が成功したとしても“撃沈はない”と踏み、前に出てきたといえる。

だが、至近距離で炸裂した爆光は、周囲でちらつく焔は、例えダメージにならなくても“動きを抑え、射線を遮る”目眩ましとしてはあまりに十分すぎる。

『『…………!!』』

軽巡棲姫からの指示か、ル級が機銃を放ち始める。だが、炎越しに放たれた弾幕は次々とあらぬ方向で火花を散らし、俺の周りにすらまともに飛んでこない。

(メ#'A`)「─────」

身体を丸め、姿勢を低くし、足を止めずに突っ込む。

彼我の距離、80M。

『…………!!!』

(#メ'A`)「っと!!」

『ッ?!』

ようやくル級の内一隻が態勢を立て直し、勢いを弱めていく炎の向こうで艤装を構える。───が、俺が左手に立ち並ぶビルの一つに銃口を向けると、其方に釣られて自ら射撃の機会を手放した。

(メ#'A`)凸「はっ、バーーーカッ!!!ゲホッ、ゴホッ!!」

さっきのバイクの件が頭にあったのだろうが、これはただのハッタリだ。間抜けに虚空を警戒するル級に中指を突き立ててやりながら、前へ進む。

互いの距離は、60M程になっていた。

『ギィッ………!』

ここにきて、目の前の三隻も焦燥を露わにした。俺の前進が「やけくそのkamikaze」なんかじゃないことに、「KLX-250による自爆攻撃」が二重の目眩ましであることに、ようやく奴らも気づいたのだろう。

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

あからさまに苛立った声で、軽巡棲姫は俺に再度艤装を向ける。

(メ#'A`)「はっ、不機嫌だなお姫様!!」

軽巡棲姫は目元をゴーグルのようなもので覆っており、他のヒト型に輪を掛けて表情が読みにくい。だが、上げられた声には苛立ちと、俺への殺意が溢れていた。

そりゃそうだ。奴らはあれだけはっきりと人類を見下している。艦娘に比べて、少なくとも陸の俺達は恐れるに足らない存在だと蔑んでいる。

そして、その自分たちに遙かに劣るはずの存在に翻弄され、幾度も策を破られ、同族を殺され、今また自らの思惑さえ逆手に取られて追い詰められている。

苛立たないはずがない。焦らないはずがない。

軽巡棲姫にしてみれば、この行為は憂さ晴らしなのだろう。何らかの策を弄そうとするこざかしい陸の猿を、自らの一撃で吹き飛ばしてやろうという八つ当たり。

─────だが。

(#メ'A`)「遅えよ」

全ては、賭けだった。

もしも軽巡棲姫が、中核艦隊を引きずり出されたことに対する苛立ちを抱いていなければ。

もしも俺達の策を自ら潰す方向に動かなければ。

そしてなにより、もしも俺が軽巡棲姫ののど元までたどり着けなければ。

一つでもズレれば、何かもが瓦解した分が悪いどころではない危険な賭け。

だが、俺達はその賭に勝った。

(#メ'A`)「チェックメイトだ化け物ぉおおおお!!!!!」

叫び、全身を躍動させ、腰から取り出した【切り札】を──────フラッシュバンを奴らの足下に投げつける。

彼我の距離は、50M。

『『『────アアアアッ!!!?』』』

閃光と、爆音。

三隻の動きが、再び止まった。

(#メ゚A゚)「ぅおあああああああああああっ!!!!!」

最初で、最後のチャンスだ。ル級だろうが軽巡棲姫だろうが、とにかく一隻でも衝撃から立ち直ればもうこっちに手立てはない。攻撃された瞬間に、ドク=マントイフェルという存在は木っ端微塵でゲームオーバーだ。

叫び、走る。全身の力を一滴残らず絞り出しながら、駆ける。

彼我の距離は、40M。

(; A )「クッ、ソッ、がァあああああああああ!!!!」

全身が悲鳴を上げている。脳が苦痛を、限界を認識しないようにと叫び続けるが、その叫びがまた体力を削る。

距離、30M。

(;メ A )「     !!!」

視界が揺れる。耳が機能を失い、自分が何を叫んでいるのかすら解らない。

それでも、脚だけは前へと進み続ける。

距離、20M。

(;メ A )

脚の感覚が消える。揺れる視界と、フラッシュバンの衝撃から立ち直ろうと蹲り頭を振る軽巡棲姫の姿が近づいていくことだけが自分がまだ前に進んでいると教えてくれる。

残り、10M。

『    !!!』

軽巡棲姫の上半身が起き上がった。よろめき、長い髪を振り乱し、それでも左手の艤装を持ち直し、ソレを身体の手前まで持ち上げる。

『     !?』

5M。艤装を構えようと此方に向き直った棲姫の口元が何かに怯えるように引きつった。

1M。脚がもつれ、地面に倒れ込みかけた身体を、伸ばした手が何かに引っかかってギリギリのところで支える。妙にひやりとした感触に、僅かな心地よささえ覚えつつ身体を前へと投げ出す。

もう、視界にも何も映らない。ただ、自分が何かを抱擁していることだけ理解する。

0M。

俺の耳元で、誰かが叫ぶ。

『──────コナクテイイノニ……ナンデクルノヨ…………クルナ、来るなぁああああ!!!』




(メ'A`メ)「断る」







─────俺は手元のナイフを、ソイツの首筋に突き立てた。








ξメ;゚⊿゚)ξ《此方フリードリッヒスハイン=クロイツベルク区よりCP、重巡リ級eliteが戦線を離脱!繰り返す、リ級eliteが突如戦闘行動を中止し戦線を離脱!》
  _
(メ;゚∀゚)《レーベの様態を確認しろ!かなり手酷くやられたぞ!》

(;メ><)《防壁状態赤色、大破状態ですが脈拍有り!少なくとも処置を行えば十分回復できるんです!》

(;メ//‰ ゚)《部隊損害が大きすぎて追撃は不可能!これより艦娘を含めた負傷者を回収し後退を開始する!》

(;゚д゚メ)《右翼、パンコウより全部隊に通達!敵艦隊、後退を開始!!》

《高層観測班よりCP、敵の爆撃編隊が退いていきます!また、近隣ですが市外の複数区域残存部隊との通信が取れました!通信妨害が消滅!!》

《少尉だ、マントイフェル少尉がやってくれたんだ!!》

《Hurra!! Hurraaaaaaa!!!!》

無線で、歓喜の雄叫びと情報伝達の声が飛び交い混ざり合う。砲声も銃声も止まないけれど、それらすら興奮を抑えきれない人々の声でしばしば掻き消されている。

私でも、それらが示す事実は直ぐに気がつき胸が激しく高鳴った。

敵の旗艦が────軽巡棲姫が、あの通信を入れてきた少尉の手で撃沈されたんだ。

「お姉様、市内中央、右翼の敵艦隊並びに航空隊が離脱を開始!敵旗艦軽巡棲姫が撃沈された模様です!」

「ええ、私にも聞こえたわ…………さて、見知らぬ敵艦さん」

『─────』

お姉様は、手元の戦車砲を一度振りかぶって目の前の“新型”に突き出す。

「中央と右翼の貴女のお友達は退いたみたいだし、爆撃隊も尻尾を巻いて逃げていく……。このままだと、空からも陸からもここにわんさか援軍が来ちゃうわよ?

私とプリンツもまだまだ余裕はあるし、流石の貴女もマズいんじゃないかしら?」

………お姉様はこう言うけれど、これはほとんど虚勢に近い。

“新型”の……【彼女】の現在の損傷状態は、相変わらず橙色───即ち中破。対して此方は、私が小破でお姉様が中破。

状況だけを見れば互角だけど、その実向こうはあの不意打ち以降まともに損害を受けていない。着実にダメージが蓄積されている私たちは、明らかに押されている───どころか圧倒的に不利だ。

おまけに、周囲に展開しているレーベ達支援部隊の残弾も心許ない。向こうの高すぎる戦闘力を考えると、たとえ援軍がやってきたとしてそれらごと薙ぎ払われる可能性すらある。

「さぁ、どうするの?」

『………………wwww』

一歩踏み出して問いかけるお姉様を見つめ、【彼女】は突然今までのものとは毛並みが違う笑顔………“狂気”が抜けた、まるで遊び疲れた子供みたいな邪気のない笑顔を浮かべた。

「っ!!」

「きゃあっ!?」

ズンッ、と地面が揺れて、辺りに煙が立ちこめる。それは、【彼女】が足下に砲撃を行ったために発生したもの。

『♪』

ジャアネとでも言うように手を上げて。

煙の向こうに、【彼女】の姿が消えていった。

………しばらく奇襲を警戒して身構えるが、10秒、20秒と時間が過ぎても何も起こらない。

息が詰まるような、何時間にも感じられる数十秒が過ぎ去った。

「────Bismarck zweiより支援艦隊各位に通達。敵新型艦の離脱を確認。状況を一時終了せよ」

《《《Jawohl!!》》》

「────ぷはっ」

お姉様のその声を聞いて私は、ようやく肩の力を抜くことができた。…………肩だけじゃなくて腰まで抜けてしまい、泥濘の地面にお尻をビタンと着いてしまったのはご愛敬ということにしておきたい。

「Prinz? ちょっとばかりそれはドイツの“れでぃ”として端なさ過ぎるんじゃないかしら?」

「あ、あはは………」

お姉様に窘められて、照れ隠しに頬を掻きながらもう一度立ち上がる。

「すみませんお姉様、思わず安心してしまって」

「……ま、その点は無理もないわ。私もアイツの強さには驚かされたもの」

視線の先は、煙の向こうに…………【彼女 】が消えた先に向けられる。

お姉様の表情からは既に安堵が消えていた。

「アイツとは間違いなくまた戦うことになるわ………次は負けないわよ。何てたって、この私だもの!」

「………はい!」

自信に満ちあふれたその言葉に「いつも通り」の雰囲気を感じ取り頷きつつも、私の脳裏にはふと、別の疑問が張り付いた。

<ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない>

お姉様が【彼女】と砲火を本格的に交える前に叫んだ、あの言葉。

<私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!>

あれはいったい、どういう意味だったのだろう……?






(メメ A )

傷だらけで倒れる一人の男。その傍に【少女】は立っていた。

身長は、130cmあるかどうかといったところ。極東の島国をどことなく想起させる、古めかしい衣服────人類間では“着物”と呼ばれる服に身を包む。【少女】の同族達に共通する、人工的な艶やかさを持つ頭髪を右側に垂らし、錨を連想させる髪留めでまとめている。

全体的に黒を基調とした衣服故に、彼女のとびきり白い肌と、着物の所々を纏める白い襷がよく映えた。

『…………』

【少女】は、眠り続ける男の顔を、どこか楽しそうに覗き込む。つんつんと指先で突いたり、頭髪を手で梳いてみたり、力なく伸ばされる腕に組み付いてみたり。

そんな、眠る恋人を眺める女子のような他愛のない動作を、降りしきる雨を気にとめる様子も無いまま続ける。

『………♪』

一通りそれらの動きを堪能した後、【少女】はゆっくりと名残惜しそうに立ち上がった。

その場を立ち去ろうとした【少女】は、はたと何かに気づいて踵を返す。男の耳元まで唇を近づけ、彼女は小さな声でささやく。

次ハ、私トモ。

ふわりと袴の裾を翻し、【少女】は雨の中を今度こそ男の傍から立ち去っていく。

(メメ A )

後には、雨に打たれる一人の男と、うなじに深深とナイフが突き刺さった一つの屍体。


そして、頭部を吹き飛ばされた二つの屍体が転がっていた。








(=#゚ω゚)ノ「どういうことだよぅ!!!!」

絶叫が、テントの中に響き渡る。

(=#゚ω゚)ノ「もう一度言えHQ!!同じことを、もう一度、僕にはっきり聞こえるように言ってみろよぅ!!」

先程まで市内の他の部隊同様歓喜に沸いていた面影は、最早微塵も見られない。雨音を押し潰して聞こえてくる外の歓声とは対照的に、イヨウ以外の全員は呆けたような表情で立ち尽くしている。

深海棲艦からのベルリン奪還────誰もが不可能だと考えていた事象を、彼らは成し遂げた。払われた犠牲は決して小さくなかったが、圧倒的に劣る戦力での軽巡棲姫撃沈という大戦果も上げての勝利。

それはドイツはおろかヨーロッパ全土の苦境を救う勝利であると誰もが信じていたし、実際状況はそうなるはずだった。

《………イヨウ、現場を見ていない私が、お前の気持ちを“理解する”等とは口が裂けても言えない。そして実際私も、お前達にこの命令を下すことは心底から辛い。

何より私自身が、ベルリンの奪還によって戦況を打開できると信じていたからだ》

だが、南部の暫定総司令部と連絡がついた彼らに、一番最初に総司令官が突きつけた命令は。

(;`∠´)《しかし、今は状況が変わったんだ………!》

ドレスデン以北のドイツ領全域の───ベルリンの放棄撤退だった。

疑問なんですが、なぜ軽巡棲姫の体にナイフが刺さるんでしょうか? 機関銃やミサイルが通用しないほど障壁の防御力は高いはずでは?
もしナイフが刺さるほど体が柔らかくて、かつ死ぬなら、拳銃が当たっても死ぬのでは?
そうなると普通の人間と変わらないんじゃないですかね……


>>448
今後の展開のネタバレになっちゃうのでくわしくは書けないんですが、ただ中途に発生したリ級との格闘戦でヒントは出てますね

(;`∠´)《お前ほどの男だ、おそらくルール地方の……艦娘艤装工場を中核とした区域の惨状はとっくの昔に予測済みだろう!

それと同様の事態が!!コペンハーゲンで発生している!!!》

(=;゚ω゚)ノ「………っ」

ベル=ラインフェルトのここまで悲壮な声を、イヨウ=ゲリッケは長い付き合いの中で初めて聞いた。そしてその声によって、彼はようやく“それ”を現実として受け入れた。

(=;゚ω゚)ノ「………南部への退却の経路は」

(`∠´)《……まずオーデル川でポーランド軍と合流、共同防衛線で深海棲艦の侵攻部隊に備えてくれ。ポーランドが崩壊すればドイツ・イタリアは完全に孤立しヨーロッパの全土失陥が決定的になる。逆に、奴らはポーランド軍が健在である限り横やりを恐れてドレスデン以南への侵攻は鈍化するはずだ。

既にリーンウッド首相が渡りを付けてポーランド以外にチェコ、イタリア、スイス、オーストリア、クロアチアとの連合軍結成が確定している》

(=゚ω゚)ノ「………やるねぇ、あの首相」

何よりも大きいのはスイスの連合軍参加だ。戦力的な面と言うよりは、“永世中立国が禁を破って戦線に参加した”という点が大きい。各国と連携を取るに当たって、足並みを揃える際の大きな材料となる。

(=゚ω゚)ノ「なかなかの腹芸だ、日本のミナミやアメリカのトソンとタメはれそうだよぅ」

(`∠´)《その辣腕ぶりを見届けるためには、何としてもドイツを国家として残す必要があるがな》

(=゚ω゚)ノ「全くだ。…………」

長い沈黙が、二人の間に横たわる。

(=゚ω゚)ノ「………勝てるかね、この戦争」

(`∠´)《さぁな》

イヨウの問いは、彼のものとは思えぬほど不安げなもので。

ベルの答えは、彼のものとは思えぬほど投げやりなものだった。









(`∠´)《私には解らんよ》





【棲姫】は怒り狂っていた。

結果として、彼女の策は成功した。だがその内容は、“完璧”にはほど遠い。

予想を遙かに超える数の同胞が、ある街で屍となった。

強い力を持つ同胞が、その街ではよりによって“人間”に殺された。

彼女にとって、別段同胞が幾ら死のうが知ったことではないし、“全の意志”がどれほど彼女に賞賛を送ろうが関係がない。

ただ、彼女の完璧を乱されたことが。

彼女の誇りを傷つけられたことが。

彼女を怒り狂わせている。

イツカ、報イヲウケサセル。

【棲姫】──────人類からは“空母棲姫”と呼ばれているその個体は、暗い怒りを胸に宿しつつ眼前の同胞達に進撃を命じる。

優に千を越える“群れ”が、かつてデンマークと呼ばれた国の境から溢れ出た。







《CNNより緊急報道です。先程ロシア軍が、ルール地方に戦略核兵器を発射したと正式に発表致しました》

《ロシア政府は予定より三時間早い核兵器使用の決断について、国防上絶対に必要なことだったと談話を出しています》

《ファルジャジーラの取材に対し、ロシア外交部は「必要な措置だった」の一点張りです》

《ルール地方には多くの生存者が取り残されていたとみられ、国際的な非難は免れないでしょう》

《東欧の親ロシア政権国でも今回の件については難色を示す国が多く、国際的な孤立も危ぶまれています》

《日本、アメリカの両国はこの件について沈黙を守っており、先日締結した3ヶ国協定への影響を考え様子見の姿勢を貫くようです》

《イギリス政府はロシアの処置に対して“我が国としてはロシアの立場にも共感できる面がある”と一定の理解を示しています》

《戦車道博覧会への需要を見越してヨーロッパに投資していた戦車道関連企業の株が軒並み暴落し、ニューヨーク市場は大混乱の様相を呈しています》

《5000万人を越えるとも言われる避難民の受け入れ先をどうするかなど、フランス・ドイツを始めヨーロッパ諸国は大きな問題を抱えることになるでしょう》

《デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは連絡が全土で完全に途絶えた状態であり、米軍の増援作戦も失敗した今生存者の安否が気遣われます》





.

《事件発生から四日と2時間が経過しましたが、事態沈静の見通しは全く立っていません》

《ロシアの核兵器投射後も深海棲艦の進軍速度に変化はなく、フランス・ドイツにおける深海棲艦の展開量は10000を越えるとみられています》

《フランス政府はパリの完全陥落を受け、オルレアンに総司令部を置いた最終防衛ラインを策定。スペイン陸軍と共同で全戦力をこのラインに集結しました》

《ヴィルヘルム=スハーフェン鎮守府を始め北部鎮守府との連絡は全て途絶しており、ドイツ軍は全保有艦娘の約80%を損失したとみられます》

《行方不明となっているマモン元帥が深海棲艦の侵入を隠蔽していた可能性が浮上、ドイツ海軍に国際的な批難が集中しています》

《ドレスデン以南のドイツ領は深海棲艦の侵入をベル=ラインフェルト陸軍大佐の指揮下なんとか食い止め、壊滅を免れています》

《ドイツ、イタリア、スイス、オーストリア、ポーランド、チェコ、クロアチアからなる東ヨーロッパ連合軍はドイツ陸軍のベル=ラインフェルト大佐を陸軍総司令官に、イタリアのデレ=フェデレ海軍中佐を海軍統合提督に指名しました。この陸海両軍の異例の大抜擢は、年功や階級ではなく実力を重視した人選であり連合軍がヨーロッパの奪還を諦めていないという意志の表れでしょう》

《ロシア国内では先日の核兵器使用を追求する抗議デモや集会が連日のように行われていますが、徐々にこれらは過激さを増しており、警官隊、陸軍との衝突による死傷者も出ています》

(゚、゚トソン《欧州の失陥は人類の甚大な損失であり、我々は何としてもこれを奪還しなければなりません。インド洋に到着した我がアメリカ軍と自衛隊の合同艦隊も含めて、まさに人類の力を結集する必要があります》

(#^Д^)《南政権はアメリカに追従しヨーロッパに自衛隊と艦娘を送り出しましたが、これは帝国主義の復活です!!南政権は、皆さんの危機を煽り、また、大日本帝国を造ろうとしています!!》

(゚、゚トソン《今回ヨーロッパにおいて、深海棲艦は人類側の警戒網をすり抜け、明確に我々の裏を掻く形で電撃的に侵攻してきました。彼らの動きは知性的であり、極めて危険なものです》

(#^Д^)《深海棲艦には高い知能がある個体もいるそうです!なら話し合いができるじゃないか!それをしないのは、政権の怠慢だ!!!》

(゚、゚トソン《ベルリンとパリは敵の手に落ちました。ストックホルム、マドリードも時間の問題です。そして彼らの侵攻はワルシャワ、ロンドン、モスクワ、ニューヨーク、北京、東京へと続いていきます》

(#^Д^)《だいたい遠い遠いヨーロッパは我々に関係ない!何のために行くのか!!ただ戦争がしたいだけじゃないのか!!》

(゚、゚トソン《最早、深海棲艦の脅威は過去のものではありません》

(#^Д^)《深海棲艦に脅威なんか無い!皆皆与党の嘘だ!!》


(゚、゚トソン《明らかに、全世界が戦時下にあります》

(#^Д^)《戦争をもう一回起こさないように、皆で声を上げていこうじゃありませんか!!!!》







「…………君の名前は、よく知っているよ。正直、君ほどの戦車乗りが志願してくれるなら、これほどありがたいことはない」

「そして、君は年齢その他の条件も満たしている。本来私に、君が軍に入隊することを止める権利はない。

否、寧ろ歓迎しなければならないのだろうな」

「なら、早く手続きを終えてちょうだい。私は拉致されたり銃で脅されたりして、無理やりここに来たわけじゃない。明確に私の意志でここに居るわ」

「…………」

「なんなら、国歌でも歌って見せる?」

「……………君は、まだ若い。未来がある。戦争なんかに身を投じるべきじゃない」

「………」

「それに、こんなことは言いたくないが君はあのチームで差別されていたとも聞く。六年前、制海権・制空権が世界規模で一時的に喪失される前にこの地に来たばかりに、日本に帰ることができなかった、とも」

「…………」

「君がもし、君を差別した人々を見返すために志願したというのなら、私は君の志願書を破り捨てなければならない。私の役目は軍を勝たせることではあっても、若者を死に急がせることではないからね」

「………貴方の言うとおり、見返してやりたいという気持ちが無いと言えば嘘になる。差別してきた奴らが憎くないなんて、絶対に言えない」

「でも、私にバカなことをしてきたのは“そいつら”であってドイツそのものじゃない。ハインみたいに理解してくれた奴も、一緒に肩を並べて“私の戦車道”に付き合ってくれた子たちも居る」

「何より、私よりもっともっと酷いことを言われても、もっともっと深くこの国を愛して、守ろうとしている人たちが居る。実際に私を守ってくれた人たちが居る」

「だから私は、逃げたくない。ここで、この国のために戦いたい」

「………これほど残酷な言い方もないが、君の血は半分が日本人だ」

「ええ、でももう半分はドイツ人よ」

「…………はぁ」








(`∠´)「────東欧連合軍にようこそ。歓迎するよ、エミ=ナカスガ2等義勇戦車兵」

「……Jawohl!!」

まだ完結はしてないんですが一度仮眠取ります申し訳ない









北欧が人類の領土ではなくなってから、今日で十日目になる。

ワチャワチャと内輪揉めが大好きな人類にしては珍しいことに、ドイツ・イタリア・ポーランドを主力とした【東欧連合軍】は極めて迅速に設立された。また抽出された防衛戦力は瞬く間に最前線に展開し深海棲艦の津波のような攻勢を何とか押しとどめている。

ドイツ軍の残存艦娘戦力が僅か18隻という致命的な損害を被っていたため絶望的な戦況が予想されたが、イタリアが自軍艦娘の他国派遣に全く“渋り”を見せなかったことやオーベル川におけるポーランド軍の頑強な抵抗、米軍・スペイン軍の全面的な協力によってフランス戦線がギリギリのところで踏みとどまったことなどが相互に影響し最悪の結末を免れていた。

(=゚ω゚)ノ「────とはいえ、絶望的なんて言葉すら生ぬるい状況であることには変わりないよぅ」

机の上に広がったヨーロッパ全域の地図を指さしながら、イヨウ中佐は断言する。

(=゚ω゚)ノ「我々ドイツは艦娘の大半を北部戦線で損失し、頼みの綱のイタリアは練度はともかく数の面で決して潤沢とは言い難い。対し、深海棲艦側は展開数だけで優に10000隻超という途方もない戦力が欧州に展開しつつある。コペンハーゲンとルールに築かれた奴らの橋頭堡───【泊地】を攻略しない限り、我々に勝ち目はない」

〈::゚-゚〉「ですが、我々の保有戦力ではどれだけつぎ込んだとしても敵制圧区域への浸透は不可能です。火力、数、場合によっては機動力においてすら我々は上回られかねません」

(=゚ω゚)ノ「無論、我々の戦力のみで攻勢に移れるとはベル達上層部もこれっぽっちも考えちゃ居ないよぅ」

イッシ=ストーシュル少佐の問いに、イヨウ中佐の指がイタリアへと伸びる赤い矢印を指し示す。


(=゚ω゚)ノ「日本、アメリカを中心に、現在世界各国でヨーロッパ反攻作戦に向けた国際的な統合軍設立の動きが高まっているよぅ。実際日本からは、既にインドを経由して空母機動艦隊と先遣編成された艦娘部隊がイタリアに向かっている。

また、太平洋を通してアメリカ東海岸にも空母艦娘が集結しつつある。カナダやブラジルも協力を表明した。

日米海軍を中核とした、【人類連合軍】の集結完了。そこまで現戦線を何としても維持し続けることが、今後の僕らの任務だよぅ」

ξ;゚⊿-)ξ「……気の遠くなりそうな話ね」
  _
(;゚∀゚)「長丁場とかそういうレベルじゃねえなこれ。何ヶ月どころか、下手したら年越すぜ」

ジョルジュとツンが、中佐の言葉に呻き声を上げる。特に陸海空路全てが機能せずフランスへの帰国の術を失っているツンからすれば、その解決が遠い先とはなかなかハードな現実だろうな。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

('A`)「……?」

ξ*゚⊿゚)ξ「…………んっん!」

眼が合った。赤面された。咳払いされた。

え?何?ズボンのチャックでも開いてたか?
  _
( ゚∀゚)「死ね」

('A`)「えっ」
  _
( ゚∀゚)「死ね」

やだ……同僚が凄く恐い……。

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イヨウ中佐は、現ドイツ軍の最前線をなぞる。口調は砕けたものだが、その眼差しは刃のように鋭かった。

(=゚ω゚)ノ「我々機動迎撃大隊の役割は、ドイツ戦線における敵艦隊への臨機応変な対処。ま、有り体に言っちまうなら便利屋だよぅ。

深海棲艦の攻勢に対し、常に不利な地点を補強し、戦況を互角以上に持っていく………とりあえず、休暇申請が絶望的に降りないことだけは確かだよぅ」

('A`)「……休暇なんざない方がマシですよ。うっかり休もうものなら病室で一週間の素敵なバカンスをプレゼントされかねない」

(=゚ω゚)ノ「それもそうだよぅ」

ブリーフィングルームの中が笑い声に満ちたが、俺からすれば割と本気で笑い事じゃない。

つーかあんな怪我だったのによく1週間で戦線復帰できたな俺。アレか、ドイツの技術力はって奴か。

(=゚ω゚)ノ「とはいえ、我々の手元にはリスボンやベルリンを生き抜いた歴戦の精鋭部隊と貴重な戦車、機動車両が相当数配備されている。

加えて、アメリカ軍の命令で一時的に東欧連合軍に身を置くことになったサイ大尉の部隊も後日合流予定だよぅ」

( ゚д゚ )「例の新設部隊の件はどうなりました?ほら、対ヒト型に特化した白兵部隊の編成は?」

(=゚ω゚)ノ「残念ながらアレは白紙化したよぅ。フランス軍が身を以て無謀さを示してくれたからね」

(;'A`)「…………」

別段俺に責任のあるものではないし、イヨウ中佐もそんな意味で口にしたわけではないだろう。それでも、なんとも言えない罪悪感に居心地が悪くなる。

俺が軽巡棲姫を文字通りの白兵戦で仕留めたという話は、ベルリン放棄が決定したその日の内にヨーロッパ全土を駆け巡る。

砲弾や銃弾は完全に防ぐが人間の身体は障壁を透過できる、そして障壁下の体表硬度は人間のそれとかわらず、急所も共通している───もたらされたこれらの情報は、原理の追求もそこそこに巨大な衝撃を軍部に与える。

そして、それに窮地の極みにあったフランス軍が飛びついた。

膨大な数の深海棲艦によって全方面の防衛線が崩壊し錯乱状態にあったフランス軍は、あろうことか即席の銃剣突撃隊を編制して戦艦タ級flagshipを旗艦としたパリ侵攻部隊に突撃させちまった。

……結果については“パリが人肉のミンチでまみれた”とだけ伝えておく。

俺のあの軽巡棲姫に対する一撃は、心理の隙を突き、油断を突き、はったりをかまして辛うじて加えたものだ。いわば搦め手につぐ搦め手と運の産物であり、正攻法からはほど遠い。

そもそも、針鼠のように武装した軍艦に肉弾突撃をかけたとてたどり着く前に圧倒的な火力で殲滅されるのがオチだ。加えて深海棲艦は膂力でも人間を凌駕しているため、肉薄に成功してもなお対処される可能性も十分にあり得る。

結局のところ、よほど完璧に奇襲をこなすか、向こうがまともに身動きが取れない地形におびき寄せて多少の犠牲に目をつむり強襲するか、或いは尋常ならざる手練れの兵士が肉薄に成功するか、まぁどれも現実味のない話だ。

(=゚ω゚)ノ「……さて。このように、我が部隊は今後深海棲艦と戦うにおいて非常に優秀な戦力が揃っている。ストーシュル少佐とデレ中尉指揮下の戦車隊、コンツィ中尉指揮下の機動車両部隊、そしてヴォーグルソン大尉指揮下のアメリカ海兵隊………僕の稚拙な指揮を補ってあまりある、最高のメンバーと言っても過言ではない部隊だ」

(ⅲд )「」

中佐の言葉を聞いて、ミルナ中尉の顔に青い線が降りる。

……あの人真面目だからなぁ。大方、中佐が拙いなら自分の指揮はどうなんだと本気で反省してしまっているのだろう。

(=゚ω゚)ノ「しかしながら、敵は何せ地上を闊歩する軍艦だ、しかも今や数においても我々に対して優勢となっている。人員がどれほど優秀であっても、対処できるレベルには限りがある。

そのため────我々は根本的な“火力”も補わなければならない」

('A`)「………え?」

ここで何故か、イヨウ中佐は俺に視線を転じた。

とてつもなく、イヤな予感がする。

それこそ、リ級がバイクで突っ込んでくる直前とどっこいどっこいの、イヤな予感が。

(=゚ω゚)ノ「諸君、喜ぶよぅ。

我々は、世界で初めて艦娘・陸軍の正式な混合部隊として設立することになった」

 
……扉を開けてブリーフィングルームに入ってきたそいつは、ずかずかとホワイトボードの前まで進み出て腰に手を当て仁王立ちになる。

肩が露出し、身体にピタリと張り付いた“HENTAI”仕様の軍服。目深に被るアイゼンクロイツを付けた軍帽の下から、見るからにやる気に満ちあふれた両眼が俺達を見つめていた。

(=゚ω゚)ノ「彼女は我が隊で最も部隊運用が高い者に───ドク=マントイフェル少尉の指揮下に入って貰う。上層部、本人ともに許可は取っているよぅ。なお、君に拒否権はない」

(ノA`)「」

ξ;゚⊿゚)ξ「」

恐れていた事態、恐れていた中佐の言葉に額を抑えた。何故かツンも身体を強張らせていたが、その理由を考える余裕がないほど強烈な目眩が俺を襲う。

提督のまねごとってだけでも割と勘弁願いたいのに、よりによって「こいつ」か。

俺の気持ちを知ってか知らずか、かつて戦艦フッドを海の藻屑に変えた“ドイツ海軍最強の艦娘”は満面の笑みで俺に右手を差し出した。

「Bismarck zweiよ。

これからはKameradじゃなくてAdmiralと呼んだ方がいいかしら?」

('A`)「勘弁してくれ………」

絶望的な気分で差し出された手を握り返しながら、俺は深く深くため息をついた。






('A`)「昇進なんてまっぴらゴメンだよ。休暇の次にな」

…………心の底から、マンドクセぇ。

~('A`)はベルリンの雨に打たれるようです~

完!こr






.






.







( T)「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『パラノーマル・アクティビティ』を代表とした、あえてドキュメンタリー風に撮られた映画を『モキュメンタリー』と言う」

よう、俺だ。何やってるかって?
趣味でやってる俺の映画論の授業だ。受講者はクソ映画四天王しかいない
教科書は主に荒木飛呂彦大先生の著書を使用している。ええ事書いてんやでこれ……

( T)「武器人間もこの手法で撮られた映画で……と、時間か」

不知火「構いません。続きを」

( T)「いやお前らこの後五十鈴と対潜訓練あるだろシバき回されるぞ。俺が」

不満顔なお三方には悪いが、五十鈴は本当に俺のことシバき回しかねないので中途半端ではあるが授業を切り上げる
天龍は多少遅れても甘いのにあいつはマジで色々と厳しい。サマーシーズンは水着でうろついてる癖に

( T)「では来週も受けてくれるかな?」

\いいともー/

( T)「はい、お疲れ様でした」

毎度お決まりのやりとりで締め、三人は談笑しながら教室を出る
その背中を見送った後、黒板消しを手に取り板書を消そうとすると

叢雲「司令官」

入れ替わりに、いつも以上に厳しい顔をした我らが初期艦にして副司令艦の叢雲が声を掛けてきた
あれ……?俺なんか怒られるような事したっけ……?

(;T)「す……すいません……」

叢雲「何が?」

とりあえず謝っといたが、どうやら叱りに来たようではないらしい

(?T)「怖い顔して入ってくるからだろ……笑えよベジータ」

叢雲「誰がM字ハゲよ」

(?T)「サイヤ人の王子に対する酷え風評被害。どうしたよ」

叢雲「海軍本部から連絡よ」

(?T)「シカトしとけ」

叢雲「アホか。ロマさんからなんだけど」

持ってた黒板消しが手から滑り落ち、膝に白粉を粧す
嘘だろ……クソめんどくせえ……

(;T)「クソめんどくせえ……」

叢雲「出てる出てる本音出てる。着歴見てみたら?」

ポケットに突っ込んでいたスマホを確認してみると、三件の着信履歴が表示される
このまま無視してFGOの種火集めに興じたい所だが、更に面倒になるので嫌々掛け直す他ない
そもそも叢雲が伝えに来た段階であの野郎はこいつに直接電話をしたんだろう
人の弱みに付け込みやがって。三日三晩耳元で羽虫が飛び回ればいいと思った

(?T)「やだぁ……めんどい……」

叢雲「ガキか。早く掛けなさい緊急の用かもしれないでしょ?」

(?T)「時雨に受け答えさせたい……」

叢雲「ロマさんの知能レベルがあのバカと同じになるじゃない。いいから早く!!」

(?T)「ハァ……」

着歴を無視して時雨に電話を掛ける

時雨《死ね》

(?T)「お前が死ね」

コール一回もしないうちに、スピーカーから罵倒が返ってくる。何なのこいつ

(?T)「M-1教室、ダッシュで来い」

時雨《お前が来い》

(?T)「叢雲が怒ってるぞ」

叢雲「ちょっと」

通話が切れ、慌ただしい足音が近づいてくる
これだからバカは扱いやすくて助かる

時雨「ごめんなさい!!」

叢雲「アンタと同じ反応じゃない」

(?T)「お前が怖いのが悪い」

叢雲「さっさとロマさんに掛けなさい。次はキレるわよ」

時雨「お、怒ってるんじゃないの?」

叢雲「怒ってないわようるさいわね。三つ編み毟り取るわよ?」

時雨「やっぱり怒ってるじゃないか!!」

これ以上のおふざけは許されなさそうだ。観念して着歴を押す
数回のコールの後、うんざりするほど耳にした聞き覚えのある低音ボイスが返ってくる

(?T)「死ね。俺だ」

《なんだ貴様第一声から。てめえが死ね》

時雨「誰に電話してるの?なんで僕呼ばれたの?」

叢雲「ロマさんよ」

時雨「なんであの野郎への電話で僕が呼び出されなきゃいけないのさ……」

叢雲「嫌がらせじゃない?」

時雨「僕に対する?あいつに対する?」

叢雲「両方」

(?T)「おう、おう……いや、暇だけど……おう、今その辺ヤバいんだってな」

(?T)「えっ、えっ?はっ?ええ……急過ぎへん……?」

時雨「またサプライズ出撃かな?」

叢雲「ロシア」

時雨「へっ?」

叢雲「ロシア正規軍への助っ人として駆り出されるわ」

時雨「……遠くない?」

叢雲「サバンナちほーの時よりマシでしょ」

時雨「どうして知ってるのさ?」

叢雲「真っ先に私に電話が掛かって来て一切合切説明されたから」

時雨「提督って最高責任者だよね?」

叢雲「その筈よねぇ」

(?T)「ハーーーーーーーーーー……拒否権ないんだろどうせ……クソが……すぐにヤンジャン読めねえだろ……」

(?T)「いや我が輩も辛いって知らねーよお前はそれが本業だろうが」

叢雲「アンタもそれが本業よ」

(?T)「黙ってろ叢雲。わーったよクソが行けばいいんだろ行けば」

(?T)「ちなみに俺も戦……ですよね知ってました椅子に座り過ぎていぼ痔になれ」

(?T)「装備そっちで用意しとけよ俺なんも持ってかねえからな。は?余裕ですし?深海棲艦なんて素手で余裕ですし?」

( T)「……はい、はい、ああ、うん、解った。ああ、そんじゃあ現地で」

( T)「ああ待て!!ちょっと電話代わるから!!」

電話を切ろうとした奴を止め、スマホを時雨に渡す

( T)「ロマだ。嫌がらせしろ」

時雨「任せろ。もしもしいぼ痔マン?時雨だy切ったよあの野郎」

( T)「連れねえな……」

時雨「白露型一の美少女にこの仕打ちは無いんじゃないかな?」

( T)「やかましい」

叢雲「ロマさんもアンタらのお遊びに付き合うほど暇じゃないんでしょ」

電話の相手は、海上自衛隊一等海尉にして『海軍』准将
百隻の深海棲艦を相手取り、犠牲者0で快勝した『イツクシマ作戦』の立役者にして
かつて戦場を共にした旧知の仲であり、キングダム初期の軍師になる前の河了貂萌えのド変態クソ野郎

( ФωФ)

杉浦六真である
勝手見知った仲からは、『ロマ』と呼ばれている

( T)「ロシアかぁ~~~~……またややこしい場所でよォ~~~~……」

叢雲「ウチが駆り出されるって事はよっぽど切羽詰まってるようね」

( T)「リスボン沖以来どこもかしこもガタガタになってんからなぁ……」

そろそろかとは予感していたが、実際指令が来ると気持ち的にしんどい
無駄に数だけは多いクソザコ深海ナメクジの癖に俺を煩わせないでほしい。無条件で死んでほしい

( T)「ハァ~~~~~~……時雨」

時雨「ヤダ」

( T)「ピロシキ食いに行くぞ」

時雨「絶対ヤダ」

( T)「行くぞ」

とは言え、これも仕事だ

( T)「叢雲、六人ほど見繕ってくれ。派手な戦だ。とびきりイカれた連中を連れて行く」

叢雲「既に。はい」

叢雲は小脇に抱えていたタブレット端末を差し出す
こいつの仕事の早さには毎回舌を巻く。俺いらんのとちゃうか?

( T)「ハハァ、ご機嫌なメンバーだ。お相手が可哀想にならぁ」

叢雲「とっくに収集掛けて会議室で待機させてるわ。さっきすれ違った不知火も今し方」

( T)「よし、ブリーフィングが済み次第状況開始だ」

時雨「本当に僕も行くの?」

( T)「行くぞ」

時雨「おやつは何百円まで?」

( T)「遊びに行くんじゃねえんだぞ。だが、まぁ……」

( T)「千円まで許可する」

~('A`)はベルリンの雨に打たれるようです~

完!これ

というわけで、ほぼほぼ二ヶ月にわたる激闘、皆様のおかげで無事完走させていただきました。更新の合間合間に入る支援レスの数々、本当に心の底から嬉しく励みになりました。

特にスランプで更新が出来ない日が続いたときなどは、読んでくれる人、待っていてくれる人がいるということは本当に嬉しいことでした。

でもマッ鎮の人にムカデ人間にされそうなんです助けて

で、通知事項としては見ての通りあの「地獄の血みどろマッスル鎮守府」とシェアワールドをさせていただけることとなりました。正直お話を持ちかけられたときの驚きは例えようがないもので、本当に嬉しい限りです。マッ鎮さんあらためてありがとうございます。

でも人肉饅頭とムカデとピンクフラミンゴは勘弁して下さい。

ではまた次回、マッ鎮とのシェア作品か(,,゚Д゚)(*゚ー゚)の日常回か、どちらかでお会いできればと思います。

ご静聴、ご助言、支援、誠にありがとうございました。

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この作品は、地獄の血みどろマッスル鎮守府、鬱田ドクオ、ss速報vip、シン・ゴジラの提供でお送りしました
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      ( T)        r‐‐、

     _,;ト - イ、      ∧('A`)∧  
    (⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l  
    |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)  
   │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|  
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   |  irー-、 ー ,} |    /     i
   | /   `X´ ヽ    /   入  |

では、HTML申請して参ります

大切なことを書き忘れていたので追記

>>475-477はマッスルさんご本人に寄稿いただきました。重ね重ねありがとうございます

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