北川 真尋「ストライド・ステップス!」 (27)

※地の文込み・短めです

※独自事務所・複数P設定があります。苦手な人は回れ右。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494080223

*
~昼・とあるビュッフェ~

「おいしい!この料理、いくらでもいけるねっ!」

賑やかな店内で、目の前にある料理がどんどんと口に飛び込んでくる。

お肉、野菜、パスタ。色とりどりな料理。驚くほど多くの種類を見かけてしまって、私は世界を頬張っている気分だ。


「んーっ!アッツアツーっ!このから揚げ、サイコー♪」

「ヴリモン?よく食べるわね……。そんなに食べて、お仕事大丈夫なの?」

「平気平気! アイドルまひろは成長期だから! 千夏さんもひとつどう?」

対面で食べている千夏さん。
明日のファッションショーで共演する予定で、パッション部門のプロデューサーさんの提案を受けてテーブル席で食事をとっている。
前から度々お仕事で会っていたけれど、改めて話してみるとやっぱり素敵な人だと感じてしまう。

「ふふ、遠慮するわね、明日には仕事が控えてるし、私は落ち着いて少しずつ食べるのが好きだから……あいさんはいかが?」

「折角だから一つもらうよ。……ふむ、これは美味しい」

「でしょっ! どう? こっちもお勧めだよー!」

ふふ、と微笑んだもう一人、あいさん。
このあとに仕事もあったそうだけれど、今回は快く参加してくれたとクール部門のプロデューサーさんから聞いている。
以前、イベントでメインを勤めていたらしく、やっぱりというか食事の間に見せる仕草一つ一つがカッコよくて品があった。

「これ以上は遠慮しておくよ。幸せのおすそ分けをありがとう、真尋くん」

口にナプキンを当て、そのあとに空になった皿を目の前からどかす。再び千夏さんへ話をすることに躊躇いもなく、それだけの行為が私には到底真似できそうにないと感じる。

「なにせ、食べるほど食欲が出てしまうからね。……これはフランスの言葉だったかな、千夏さん?」

「あら、よく知っているわね。まさか知人からその言葉を聞くなんて思ってなかったわ」

「有名だろう? ラブレーの『ガルガンチュワ物語』。民間で浸透している、"欲望は満たせば満たすほどほどわいてくる"という旨の言葉だ」

「そうよ、流石ね。私も以前に読んだことはあったけれど……なかなか面白かったんじゃないかしら」

「あぁ、16世紀、ラブレの記した人生哲学。"汝の意志することを行え"――その発祥と発展の経緯には唸るものがあった」

「クローリー、法の書。セレマ思想については私も読んだ記憶があるわ。彼らを取り巻く議論は少し難しいけれど、なかなかに興味深いわよね」

以前から今回みたいな仕事を待ってたらしく、千夏さんのオシャレや振る舞いにも一層と力が入っている。
あいさんの言葉から広がる話題。皿を戻して話を聞いてみると、歴史についてや人の名前がいっぱいでてきて複雑だった。
冗談交じりに語る二人は楽しそうで私としても嬉しいと思う、けれど。

……ガルガンチュアって何だろう?

実のところ、話は難しくてわかってない。

話してる間にも料理は冷めていくから、私も食事の合間で楽しむ二人に負けないようにできたばかりの料理を口へ運んだ。

「――それにしても、あいさんはガルガンチュアだったの? 私はそういったものとは縁もない人だと思ってたのだけれど」

「私だって人間だからね、むしろ日々膨らんでいく情熱をどうするか悩んでいるものさ。ふふ、幻滅させてしまったかな?」

「そんなことはないわよ、いっそこっちは親近感がわいてきたわね。時間をつくって続きをカフェで話したいくらい」

「誉め言葉と受け取るよ、ありがとう。……しかし、せっかくの食事も冷めてしまうところだ、続きはまた今度にしたい」

「対面にいるお嬢様も幸せそうに食べている。私たちも笑顔に負けぬよう楽しんでいかないと、機会を作ってくれたプロデューサーに対して顔が立たないからね」

「えぇ。もとより、ここで話したいことも多くあるしね。……経験者さん、ご指導頼むわよ?」

「任せてくれたまえ。今日はおそらくそのために呼ばれたのだから」

「こちらは全力を以てご案内しよう。……真尋くんにも役立てば幸いだ」

「むぐっ!?……けほ、けほ、……よろしくお願いしますっ!」

突然の指名にむせたところで、イベントについて、あいさんのお話が始まった。

***

「はぁー……頭から煙が出そう」

結論から言うと、そのお話は勉強になった。けれど、やっぱり理論は苦手みたいで実践できることは多くなさそうだ。

「やれやれ、少しばかり詰め込みすぎたかな? なるべく真尋くんにもわかりやすいようにしたが……」

「人によってアプローチの仕方も違うものね。私は参考にできたけれど、説明するのはちょっと辛かったかしら?」

おなじ部門でユニットを組んでいるだけあるのか、千夏さんはすんなりと理解できたらしい。
傍らに皿を置いた二人の視線が私に向く。対して私は感謝の気持ちを素直に伝え、新しい皿で食べ物を取りに行った。

「へへっ! 大丈夫、ちょっとエネルギーを補給してくるだけだから!」

「走っちゃダメよ、飽くまでゆっくり、ね?」

「はーい! いってきますっ!」

止まっていると、そわそわしてくる、やっぱり留まることは向いてないらしい。

世界各地の料理を前にして、おとなしくしていた分が跳ね返ったよう、足取りは少しずつ早くなってった。

「あ、ドイツで食べたソーセージもあるっ! なっつかしー♪」

「このサラダも美味しそう、どんどん乗せてこー!」

色とりどりに彩って、お皿の上は賑やかになっていく。

「まだまだいける! モリモリとっ!」

さっきの話を振り返る。
あいさんがかみ砕いて教えてくれた大切なものは、"自分なりに精いっぱい楽しむこと"だった。
スペアリブに、ローストビーフ。両手いっぱいに持つようにして、だから私は元気いっぱいに胸を張る。

「人を魅了する方法だとか、美しさというものがどういうものなのかとか、やっぱり、経験した人は違うんだなぁ」

「うん、私も頑張ってアピールをしよう。私の表現できる"元気"と"カワイさ"で楽しんでっ!」

まずはたくさん食べて、力を貯めよう。そんなことを口に含んでみて、いつもよりもおおきな歩幅でテーブルに戻っていく。

「ただいまーっ! まだまだいけるからいっぱい持ってきた! スープとかも気になったけれど、それよりガッツリ行きたいかなって!」

山盛りになった皿を置いた後、元気な様子の私をみた二人は安心したように微笑んでいう。

「……やっぱり、私たちには勝てそうにないわよね」

「全くだ。どうやら、心配する道理もなかったようだしね……フフッ」

「美は揺るぎなきものから生まれるものだ、こちらも教えてばかりじゃいられない」

「今度は私たちの番のようだね。私たちは私たちらしく次のメニューを選ぶとしよう」

「いってらっしゃい!先におかわり食べてるね!」

空になった皿を持って席を立つ二人。見送ったあと、私は目の前の食事に箸を伸ばす。

考えるだけで心が弾む。やっぱり学ぶべきことはたくさんあるし、大変だけれど走り続けたい。

結局私がやろうとしたことには変わりがなくて、気づいてみると、二人の話は私を後押しするためのものだったように思えた。

「……ワクワクしてきた。食べ終わって休憩したら、ちょっと走ってこようかな!」

やりたいことは、遠慮したくない。私は私の得意なことで、いつも通りに勝負をキメる。

*

難しいことはいいじゃない。以上となります、お疲れ様でした。

イベントやカードを迎えて魅力に触れる人、増えてほしいなぁ!

おまけ

真尋「ふぅ……美味しすぎて、ついつい食べ過ぎちゃったなぁ」

あい「私も少しばかり食べ過ぎたな、これじゃあまたトレーナーさんに絞られてしまう」

あい「……しかし真尋くんの胃はどうなっているんだい? とてもじゃないが、信じられないのだが」チラリ

千夏「そうね、いったい、何皿食べたのかしら? 皿が、9枚は重なってるように思えるのだけれど……」ジッ

真尋「あはは……成長期だからかな。みんなで食べていると、ついついもっといけちゃう気がして……ね?」

千夏「……クール部門にいる、あまり食べてそうにない子に見習わせたいわね、いつか付き合ってもらおうかしら」

あい「そうだな。彼女は、流石にもうすこし食べたほうがいい」

真尋「……ええと、なんか意地悪い顔してるけれど、楽しそうだしいっかなー?」

あい「大丈夫だろう。……その時はよろしく頼むよ、真尋くん」フフッ

真尋「はーい。それじゃあ、そろそろ食べすぎた分……んっ」ノビー

真尋「……走るとしないっ?」

あい「それは魅力的だね。惜しいことには、こちらは仕事に行かないといけない」

あい「……千夏さん」ニコリ

千夏「ちょっとあいさん? まさか……」

あい「いい午後を。 ファッションショーの仕事、期待してるよ!」スッ

真尋「そっかー、もうそんな時間かー、いってらっしゃい!」フリフリ

真尋「そしたら、千夏さんっ!」ワクワク

千夏「アタンデ! 真尋ちゃん。流石に今は……!!」

おまけもおわり

モリモリ食べる姿は、きっとすべてを幸せにする。走ることは……どうかなぁ?

幸せそうに食べる北川真尋、自身を磨き続ける東郷あい、お茶目でオシャレな千夏さん。彼女らをどうかよろしくお願いいたします!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom