【ミリマス】舞浜歩は考える (16)

舞浜歩は考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

歩きながら考える。事務所に向かいながら考える。

ダンスは抜群。アメリカに留学したこともある。ダンスは抜群。

そして何より――ダンスが抜群なのだ。

ダンスが上手い人にドジな人はいない。

菊地真。北上麗花。我那覇ひ――島原エレナ。

ダンスが上手い人はみんな何でもそつなくこなすイメージがある。

何故自分はこんなにもドジなのか。

そんなことを考えながら、道端に落ちているバナナの皮で滑り思いっきり腰を強打した。

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舞浜歩は考える。腰をさすりながら考える。バナナの皮をゴミ箱に入れながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故道端にバナナの皮が落ちていたのか。その理由を考える。

おかしい。何故バナナの皮が道端に落ちているのだ。家で食べればいいじゃんか。家まで待てなかったのか。

そして、どうして自分はバナナの皮を踏んでしまうのか。普通は先に気づくだろう。

いや、これは考え事をしていたのが悪い。事務所に向かう途中、することがなくて暇なのだ。

つまり、暇が悪い。そう、アタシがドジなのは暇のせいだ!

……あれ、何か違うぞ?

そんな違和感を抱きながら舞浜歩は電信柱にヘディングをきめた。

舞浜歩は考える。おでこをさすりながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故電信柱にぶつかるのか。その理由を考える。

電信柱にぶつかるのはドジで済まされるのか。周りが見えていなさすぎるだろう。

だが、確かにダンスレッスン中もよく言われる。もっと周りを見ろと。

つまり、自分がドジなのは周りが見えていないからだ。

これならバナナの皮で滑った理由も説明できるし、電信柱にぶつかった理由も説明できる。

これだ!

舞浜歩は気づいた。自分に足りなかったのは視野の広さだろうと。

もっと周りを見よう。

そう思い、顔を上げた瞬間、後ろから三輪車に追突された。

舞浜歩は考える。足をさすりながら考える。三輪車の可愛い運転手さんに気にするなってと励ましの言葉をかけながら考える。ありがとうおばちゃんって言われてショックを受けながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故三輪車に追突されたのか。その理由を考える。

三輪車については自分は悪くない。これはドジの範疇ではない。舞浜歩はそう考えた。

だがしかし、これまでの経験が彼女を引き止める。

本当にそうか。本当に自分に非はないのか。

舞浜歩は考えた。自分に非はないか考えた。

そして、思った。自分の影が薄いからではないか。

……しかし、この結論に彼女は納得できない。

おかしい。自分は仮にもアイドルだ。影が薄いなんてことがあっていいわけがない。

それに、彼女は自分の影が薄くないと言い張れる絶対の根拠があった。

そう――髪の毛がピンクなのである。

こんな目立つ髪色をしていて影が薄いはずがない!

そう結論付けた瞬間、転がっていた野球ボールを思い切り踏みつけ舞浜歩は転倒した。

舞浜歩は考える。お尻をさすりながら考える。涙目になりながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故野球ボールが転がっていたのか。その理由を考える。

野球ボール。それは野球に欠かせない道具であり、時には凶器にもなる昴の友達。

舞浜歩は考えた。何故野球ボールが転がっていたのか考えた。

これは昴の呪いだ。舞浜歩はティンときた。

昨日、昴のプリンを誤って食べた呪いだと。

あれはしょうがなかった。舞浜歩は言い訳をする。

まさか昴の物だとは思わなかったのだ。いつもの早い者勝ちの差し入れだと思ったのだ。

だって名前が書かれていなかったから。事務所の冷蔵庫に私物を入れる場合には名前を書けと言われているのに。アタシだってワサビにちゃんと名前を書いているのに! 誰が見ても絶対アタシのだって分かるはずなのに!

舞浜歩は抗議した。一生懸命抗議した。ちょっと泣きながら抗議した。

しかし、昴の許しを得ることは叶わなかった。なぜなら、昴はきちんと名前を書いていたのだ。黒マジックで。でかでかと。カラメルソースのところに。

見づらい……っ! あまりにも……っ!

何故わざわざカラメルソースのところに書いたのか。追求したい欲求に駆られた舞浜歩だったが、生来のヘタレが災いし聞くことは出来なかった。

結局、同じプリンを買ってくることで決着はついた。

だが、ここでも舞浜歩はドジを犯した。自分が食べたプリンを忘れたのである。

仕方なく一番高いプリンを買ってきた。これなら文句を言われることはないだろうと。逆にちょっと喜ばれるのではないかと少しウキウキしながら事務所に戻った。

しかし、昴は激怒した。ちょっとニヤニヤしてた顔が一瞬で真顔になった。

そう、舞浜歩は重大なミスを犯したのだ。

舞浜歩の買ったきたプリンはプッチンができなかったのである。

昴にとってプリンの価値はプッチンできるか否かで決まる。ただそれだけが重要なのだ。

これには舞浜歩もショックを受けた。

アタシ……プッチンしてない……

そう、舞浜歩はプッチンプリンをプッチンせず食べたのである。

何たる愚行……っ! 何たるドジ……っ!

舞浜歩は考える。後悔しながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故プッチンしなかったのか。その理由を考える。

プッチンプリンをプッチンしないのは神への反逆といってもいいくらいに重罪である。

そんな自分のドジさにほとほと呆れる。

しかし、呆れていては何も始まらない。舞浜歩は考える。

……やはり、注意力不足が原因だろう。そう、思考の果てに行き着いた。

パッケージを見ていたら普通は分かるはずだ。しかし、目の前のプリンに集中していて他のことが目に入らなかったのである。

これからはどんなときでも注意していこう。

これがドジを治す一番の手段だ。

まず、周りの状況を把握しよう。舞浜歩はそう考えた。

今歩いているのは寂れた住宅街の一角。人通りも少なく、おかげで舞浜歩のドジを見たものはいない。

そして、道には電信柱。舞浜歩のおでこを傷つけた憎き電信柱が並んでいる。

空は快晴。雲ひとつない見事な青空である。

ふと、舞浜歩は気づいた。電線に鳥が止まっている。何だか嫌な予感がした舞浜歩はその場をさっと飛び退いた!

その刹那、さっきまで舞浜歩がいた場所に糞が落ちてきたのだ!

今までの舞浜歩なら確実に餌食になっていただろう。しかし、人は一秒一秒進化しているのだ! 舞浜歩はえもいわれぬ達成感を片足をどぶにはめながら得ていた。

舞浜歩は考える。右足を拭きながら考える。若干悟りを開きながら考える。

どうして自分はこんなにもドジなのか。

そして、何故自分は上手くいかないのか。その理由を考える。

今回は完璧だと思った。遂にドジを脱却したと思った。

しかし、現実は非情である。もうここまできたら人智を超えた何かがあるのだろう。

舞浜歩は諦めることにした。ドジを治すのを諦めたのだ。

ドジだって別に悪いことではない。現に、物凄くドジなトップアイドルだっているのだ。

舞浜歩は考えることにした。このドジとの向き合い方を。

そして、見つけた。素晴らしい向き合い方を――

見慣れた事務所が見える。

聞き慣れた声がする。

開け慣れたドアを開ける。

「おはようございまーす!」

「おはようあゆ――ってえぇ!? どうしたの歩! おでこが真っ赤だよ!?」

「あぁこれ? 考え事してたら電信柱とごっつんこしちゃってさ」

「あはは、さすがあゆあゆ! おもしろーい!」

「いやー、今日は散々だよ。三輪車にも追突されるしさ」

「凄いネっ!? 中々そんなこと体験できないヨ~。湿布でも取ってこようか?」

「ありがとエレナ! 頼んでもいい?」

「任せてヨっ♪」

「歩、その足はどうしたんだ? 随分汚れてるけど」

「ああこれ? どぶにはまっちゃったんだ」

「まったく、歩はドジだな~。自分は完璧だからそんなドジは絶対にしないぞ!」

「あれ? 響ちゃん、服に値札がついてるよ?」

「ええっ!? うぎゃー! 春香取ってくれー!!」

「はいはい♪ しょうがないなぁ」

「……というか春香もついてるぞ」

「……ペアルック!」

「何だその言い訳!?」

「……なぁ、歩。どうやったらそんだけドジができるんだ?」

「うーん、アタシにも分かんない!」

「ふふっ、なんだよそれ」

「あっ、昴笑ったな! じゃあこれで仲直りね!」

「あはは、意味わかんねーよ」

「ほら、ちゃんとプリンも買ってきたから! 二人分!」

「そうか。じゃあ一緒に食おーぜ」

「うん!」

どれだけドジなアタシでも受け入れくれる仲間がいる。

ドジをしても支えてくれる仲間がいる。

どんなドジでも笑ってくれる仲間がいる。

ドジだって別に悪いことばかりじゃない。

舞浜歩はそう最後に結論付けた。

自分の弱みを受け入れる。

舞浜歩は少しだけ成長した。

だが、この一歩。たまたま踏み出したこの一歩がトップアイドルへの第一歩となるかもしれない。

「……あれ? 歩、スプーンは?」

「へ? 入ってない?」

「入ってねぇよ。どうやってプリンを食べる気だ?」

「……素手?」

「食えるわけねーだろ!」

「ああもう! やっぱりドジなんて大っ嫌いだー!!!!」

…………舞浜歩が自分を受け入れる日はまだまだ先かもしれない。

END

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

お目汚し失礼しました。

マイハマンいいよね。

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