マリオ「最近、テニスやパーティーにゴルフばかりで…何かを忘れているような」 (452)

昼下がりの午後キノコ王国のカフェにて

マリオ「なんだろうな…ひどく大事なことだったと思うのに」


ルイージ「思い出せないならたいしたことじゃないんじゃあ無いかな?」

ルイージ「それより、さ? 早いとこ注文しようよ」

マリオ「あ、ああ」

マリオ(…本当に、そう…だったっけ?)


キノピオ「お客様、ご注文はお決まりですか?」


ルイージ「カメカメティーとカラカラパスタのスパゲッティで」

マリオ「俺もそれで」

キノピオ「お時間少々頂きますが宜しいですか?」

ルイージ「構いませんよ」

キノピオ「では…」

スタスタ…

ルイージ「この店は何が良いって品揃えの良さがウリなんだよね」

ルイージ「カラカラパスタやサムイサムイ村産のさむイモのグラタン」

ルイージ「果てはマメーリア王国の料理やドルピック島風サラダもある」

マリオ「ああ」

ルイージ「毎日テニスやゴルフにお呼ばれされてばかり…」



ルイージ「僕らも もうイイ齢なんだしさ

たまには なーーんにも無い日を のんびりしようじゃないか!」

マリオ(……思い出せない)


マリオ「なぁ、ここの勘定は」

ルイージ「やだなぁ兄さん、来る時に言ったじゃん
     ここは僕持ちだって」


マリオ「…」






マリオ「払うのは構わないが…払えるのか?」

マリオ(俺達は"しがない配管工"…そんなに収入は無かっ…た?
    気がするんだが)


ルイージ「この前のゴルフ大会での賞金があるじゃないか!」

マリオ「ルイージ」


ルイージ「なんだい兄さん」






マリオ「前にも似たような事を言わなかったか? 三日前ぐらいに」


マリオ「この前はピーチ姫やヨッシーを誘っての登山だったが
    その時も代金はお前持ちだった、その前やもっと前だって…」


マリオ「俺はここ最近"配管工としての仕事"をしてない気がするんだ
    賞金があっても流石におかしいと思うんだ
    そんな収入どこにあったんだ?」


ルイージ「あー、実は兄さんには黙ってたんだけど前に宝くじが
     大当たりしちゃってそれでコインに困ってないんだよ」

マリオ「そうなのか?」

ルイージ「そうだよ」



コトっ


キノピオ「此方、ご注文のメニューになります」


ルイージ「さ、パスタも来たみたいだし、冷めないうちに頂こう」

マリオ(…)



―――
――




カランカラン

キノピオ「またのお越しを」

ルイージ「そうそう、兄さん!実はさぁ今度また新しいテニス大会が
     開かれるんだよ、しかも賞金はなんと500コイン!」

ルイージ「こりゃ出るっきゃないっしょ!」

マリオ「…ん?ああ」


ルイージ「…ふぅ、上の空だね?」

マリオ「すまんな、こうして暇人の俺を誘ってくれたのに」

ルイージ「イイってイイって、我等が英雄スーパーマリオ様を
     お連れして歩いてるんだぜ
     僕だって街の若いお嬢さん方からキャーキャー言われたいさ」

ルイージ「僕は兄さんを利用してる、だからこれでトントンだ
     悪く思う必要性なんて何処にもないね」



マリオ(…えい…ゆう?)



マリオ「なぁ、弟よ」

ルイージ「はいはい?」




マリオ「俺って、さ…いつから英雄になったんだっけ?」




ルイージ「うーん? そんなの決まってんじゃん
     テニスやゴルフで数々のメダルやトロフィーの獲得
     王国に蔓延したウイルスの感染者を治した名医
     あ、あと街で評判のクッキー屋さんも営んでたじゃあないか」


マリオ「…"それだけ"だったか?」


ルイージ「そだよ、そんだけだね!」


「マリオさーん」


マリオ「ん?」

ヨッシー「いやぁ、お久しぶりですねぇ!」

ルイージ「うおっヨッシー!ヨッシーじゃないか!」

ヨッシー「いやぁ、どうもどうも、久しぶりに実家からキノコ王国へ
     遊びに来ましてね、あっ、これお土産のクッキーです」

ルイージ「おぉ、タイムリー! そしてヨッシー、今更だけど僕だけ
     名前呼ばないとかひどいんでない?」

ヨッシー「あっすいません、その、茂みの色と似てて、なんていうか
     マリオさんの姿しか…」

ルイージ「へぇへぇ、僕は緑の人ですよ」

ヨッシー「そういえばルイージさん!新しいカートの発注「ヨッシー!」


マリオ「カートの発注?なんだソレは」

ルイージ「え? あ、あー、実はテニスとは別で
     レーシング大会があるんだよ」


マリオ「それは参加自由なのか?」

ルイージ「まぁ、ね」チラ


ヨッシー「あ、はい…参加はできますよ」


マリオ「俺には黙ってたのか?」

ルイージ「ごめん、僕さ、ホラ、兄さんと比べると影も薄いしさ
     何やっても勝てないからね…たまには人気者になりたいって
     それで兄さんに黙ってたんだよ」

マリオ「お前にはお前でいい所もあるし、お前のファンだっているだろ」

ルイージ「うん、ごめん兄さん」

マリオ「構わんさ、ところで、そのレーシングなんだが


     その…俺も参加しちゃ駄目か?」


ヨッシー ルイージ「えっ!」


マリオ「いや、お前の考えも分からんでもない、嫌なら良いんだ」


マリオ(レーシング大会、それに"出てたような気がする"
    それはすごく刺激的でまるで**してた頃を…)




マリオ(…?
           "**"してた頃? 何をしてたんだ?)


ルイージ「…」

マリオ「駄目か?」


ルイージ「…いーよ、はぁー、僕のカッコいい姿でファンを獲得しよう
     作戦もオジャンか」


マリオ「さっき、カートの発注って言ってたが
    カートは各自で用意するのか?」

ルイージ「うん、手続きとかは城の方でやってるよ」

マリオ「行ってみても良いか?」

ルイージ「どうぞどうぞ!兄さんがやりたいなら僕は止めないからね」

マリオ「すまない」ダッ







ヨッシー「行っちゃいましたね」

ルイージ「ああ、行っちまったな…」


ヨッシー「ごめんなさいルイージさん、僕が軽率な発言したから」

ルイージ「いいさ、遅かれ早かれ、こうなったさ」



ルイージ「…たまには忘れさせてあげたかったなぁ」


キノコ王国城門前にて


キノじい「おお!これはこれはマリオ殿!

マリオ「どうもキノじい」

キノじい「本日はどのようなご用件で?」

マリオ「近々カートによるレーシングが行われるらしいじゃないか
    それの手続きが城でできると聞いてな」


キノじい「…左様ですか、ええ、承っております、案内いたしましょう」



コツコツ…

マリオ(…)

マリオ「なぁ、キノじい」

キノじい「はい?」


マリオ「この城って改装したりってしたか?」

キノじい「ほっほっほ、お分かりですか!」

マリオ「ああ、…なんだか前に来た時と内装が違う気がするんだ」

マリオ(それも"何度も変わった"ような気がする)


キノじい「この城も古くからある城ですからな
     人も建築物も同じですじゃ、時が経てば老いてやがては
     脆くなるのです」


マリオ「そうか」

キノじい「そうです」


ガチャ  ギィ…


キノじい「此方で手続きは行えます、ささ…どうぞ、机とペンを
     お使いくだされ」


マリオ「ああ」


ガチャ   バタン



キノじい「ふぅ…」


「じい…どうでしたか?」


キノじい「いえ、まだ思い出されてはいないようです姫」


ピーチ「そうですか…」

キノじい「また新しい大会やパーティーを企画しましょうか?」

ピーチ「お願いします」

ピーチ「あと、クッパ城にも使いの者を遣わせましょう」

―――
――



カラン…!カラン…!


ヨッシー「すいませんねぇ奢ってもらっちゃって」チュー

ルイージ「ん、構やしないさ」



ヨッシー「…あれから、もう随分長い時間が経ったものですよね」

ルイージ「ああ、そうだね」







ヨッシー「今でも信じられませんよ
     マリオさんが身体を鍛えるトレーニング中に事故で
     頭を打ったなんて…」


ルイージ「…」





ルイージ「なぁ、ヨッシー
            "僕達は人間だ"」



ルイージ「スーパードラゴンの君やキノピオ達は長生きするだろう?」

ヨッシー「…はい」

ルイージ「でもね? 僕達は違うんだ」

ルイージ「普通に生まれてきて、普通に生きて、そして、老いていく…」


ルイージ「僕達は周りの人よりも生まれつき才能があったさ
     それこそ金メダリストも吃驚なヤツがさ」

ルイージ「テニスやゴルフ、果てはカートが大破するような
     過酷なレースでも堂々トップで
     未知のウイルスを撃退できるカプセルを出せる名医にもなり」

ルイージ「誰からも賞賛されたさ」


ヨッシー「…」


ルイージ「でもね、…やっぱり"人はどこまで行っても人でしかない"
     老いには勝つことができないのさ」

ルイージ「現に兄さんは『俺は以前に比べて衰えた』そう言ってたんだ」

ヨッシー「ええ、それは聴いています、昔は水中に何時間潜水してても
     高い所から落ちても平気だったけど、最近は辛くなったって」


ルイージ「そうだね…確か、"ピーチ姫が絵の中に閉じ込められた時"かな
     あの時ぐらいから兄さんは身体能力が落ちたかもって…」

ルイージ「脳みそにせよ、身体の筋肉にせよ、人体は使わなければ
     廃れていく」





ルイージ「いつしか兄さんは四六時中にトレーニングに励むようになった
     それこそ、碌な食事も睡眠も一切取らないで…」


ルイージ「酷い時は地面に倒れててさ
     顔も蒼白で目の焦点も丸っきり合っちゃいない」

ルイージ「なんで、そこまでするのかも訊いた
     そしたらなんて答えたと思う?」


ヨッシー「『俺がいなくなったら誰が姫を救うんだ?』ですか?」


ルイージ「うん、正確には国民…いや困ってる人なら誰でもだね」




ルイージ「根っからの正義漢だよ、それも頭に馬鹿を幾つ付けたって
     足りっこない、真性の馬鹿だよ」

ヨッシー「オマケに冒険野郎?」


ルイージ「そー、そー、人助けもあるけど、過酷な冒険にチャレンジして
     己の限界を確かめたいor超えたいって考えもあるのさ
     ギネスブックも裸足で逃げ出すレベルの挑戦者だよ」




ルイージ「それでいて致命的なまでに"鈍感"な人だ」


ヨッシー「ええ、分かります」

ヨッシー「僕もルイージさんもキノじい、ピーチ姫…
     皆がマリオさんを心から心配しているというのに」

ルイージ「身近な人…好意を抱いてる人、同じ血を分けた身内
     誰もが英雄を心配してるのに気付かないで
     ひたすら無限の可能性を追い続ける……」

ルイージ「本当にどうしようもないくらい"鈍感"な人だよ」




ルイージ「僕はね、正直言って頭打った兄さんが
     冒険の事をケロッと忘れちゃった事を喜んでるのさ」

ヨッシー「それは、多分ピーチ姫も同じでしょうね」


ルイージ「きっと思い出せば、また無茶をする…
     だから僕に限らず皆が兄さんを休ませたいんだ」

ヨッシー「連日のように多額の賞金付きのスポーツ大会やパーティー
     すごい額の国家予算が使われているんですよね?」

ルイージ「ああ、ピーチ姫には頭が上がらないね、あっ、ウェイターさん
     スッキリドリンクとキノコケーキ追加で」


ルイージ「たった一人の人間の為だけに国家予算がガバガバ使われて
     でも市民は怒りさえしない」

ヨッシー「それだけマリオさんは皆に愛される英雄<ヒーロー>なんですよ」


ルイージ「…弟として鼻が高いよ」


ヨッシー「はっはっは、確かにルイージさん達は
     言葉通り鼻が高いですものね!」

ルイージ「ちょっ、うまいこと言ったつもりかい!?
     もうこれ以上、奢らないよ!?」


―――
――



ゴボゴボ…っ ゴボゴボ…っ


キノピオ「…ふぅ、相変わらず此処は暑いなぁ」



ノコノコ「止まれっ!この先はクッパ大王様の居城であらせられるぞ!」

クリボー「この先を征くは偉大なる帝王に謁見を許されし者のみっ!」

テレサ「ヌシのような下々の者を帝の前にお連れするなど不敬そのものっ
    煮え滾る地獄の業火に身を焼かれたく無ければ早々に
    立ち去るが良いっ!」


       バァーン!





キノピオ「…」

ノコノコ「…」
クリボー「…」
テレサ「…」フフン





キノピオ「…えー、今日もピーチ姫からのお手紙をお届けに来ました」

ノコノコ「あっ、ども、お疲れさんです」

テレサ「ふっ、隣国の遣いよ、よくぞ業火の道を潜りぬけたな
    褒めてつかわそうぞ」
  訳(私達のお城はマグマの中心に建設されてますからね
    辛い暑さの中、遠くから来ていただきありがとうございます!)

クリボー「大した持て成しはできませんが冷水でも飲んできませんか?
     あっ、ウチの実家で取れた くりくりマロン食べます?」


キノピオ「ははは、ありがとうございます
     …あの口上は必ず言わなきゃ駄目なんですか?」



ノコノコ「あー、私共の方も仕事ですからね…」」

クリボー「誰か来るたびにあの長ったらしい台詞言わなきゃならないのは
     辛いッスよねー」


テレサ「我等が主が下した役割、故に真っ当する事こそ生きがいなり」
   (クッパ様が直々に下さったお仕事ですし
    私は特に不満はありませんよ? 今の仕事にやりがいがあって
    誇りも持っていますからね!)


キノピオ「では、此方がピーチ姫からのお手紙になります」


ノコノコ「あいよ、しっかり受け取ったよ」

クリボー「マグマに落としたりしないようにちゃんと届けるよ」

テレサ「天駆ける身を持つ我が行くとしよう、同胞よ!ここで待て」
   (空を飛べる私が届けておきますので、先輩達は引き続き
    門番のお仕事をしててください!)


【クッパ城:城主の間】


「むぅ…」

「クッパ様、おやつをお持ちしました!」

クッパ「そこに置いておけ」

カメック「ははぁっ」


ぺらっ ぺらっ


カメック「あのう、クッパ様」

クッパ「なんだ」

カメック「失礼ですが、ここ最近トレーニングをなされておりませんが
     宜しいのですか?」

クッパ「構わん」

カメック「はぁ…現在、キノコ王国とは協定を結んでおります
     今、この瞬間にも身体を鍛えておけばマリオにも――」


      ガ シ ャ ン !


クッパ「その必要は無い!」

カメック「は、はい、申し訳ありませんでしたっ
      失礼致します!」


どたどたどた…バタン


クッパ「…」


クッパ「フン、今の内に身体を鍛えろだと?」

クッパ「マリオが本調子で無い、この間に差をつけろだと?」

クッパ「バカモノめ…っ! ワガハイはクッパ大王だぞ
    誇り高きカメ一族の王だぞ!」



クッパ「…」



クッパ「それでマリオに勝利しても得られるものは栄光ではないのだ」

クッパ「残るものは虚しさだけではないか…」


トントン

クッパ「入れ!」


テレサ「主よ!隣国からの文をお持ちした!」
   (キノコ王国からのお手紙を持ってきました、どうぞ)

クッパ「うむ!確かに受け取った」

クッパ(・・・ふむ、カートレースが予定より早く開催される・・・か)

クッパ「ご苦労だった、戻っても良いぞ」

テレサ「お言葉に甘え戻らせて頂く!主よ
    あまり職務に気を張詰めぬよう懇願いたす」
   (失礼致します、クッパ様、最近、顔色があまり優れませんよ?
    お仕事も大事かもしれませんが無理はなさらないでくださいね)


「クッパ様、クッパ様!」トントン

クッパ「入れ!」


ノコヤン「ははぁ!」

クッパ「ノコヤンか…例の件か?」

ノコヤン「はっ!そうであります!」

クッパ「…今は、誰もおらん、話せ」

ノコヤン「では…兼ねてよりクッパ様が懸念なされていた事態ことですが
     場内に一部、現状に満足しない者達がいます」

ノコヤン「マリオが戦えない今こそ、クッパ軍団が先手を取るべきだと
     主張する過激派が少なからずいる事は間違いありません!」

クッパ「やれやれ、情けないことだ!」

ノコヤン「…かつて我軍の者は皆クッパ様へ
     絶対の忠義を誓っておりました
     ですが、最近の若者は如何せん忠義の足らん者もおり…」

クッパ「そういう事を聴きたいのではない
    ワガハイは今度開催予定のレースでソイツ等が邪魔をしないか
    聴きたいのだ!」

ノコヤン「それは、まだ判りません…クッパ様、恐れながら進言致します
     過激派の一部は顔が割れています
     今からでも罰すべきではないでしょうか?」




クッパ「断る」



クッパ「例え、裏切りを考えようと部下であることに変わりは無い」

ノコヤン「…ふふ、野暮な事をお尋ねしましたな
     このノコヤン、クッパ様へのご理解が足りなかったようです」

クッパ「構わん、それよりも引き続き調査を続けるのだぞ」

ノコヤン「はっ!」

ガチャ…バタン


クッパ「…ふぅ」


クッパ(…部下を纏める事が出来んとはワガハイも衰えたのかもしれんな
        互いに齢は取りたくないものだな、マリオよ!)




―――
――



キノピオ「やっぱりドルピック島のピンナパークで遊んだ事が
     一番の思い出ですかね」

クリボー「自分は家族旅行でゴロツキタウンに行ったことッスよ
     おっかないのに絡まれて、忘れられない思い出だったッス…」

ノコノコ「暗いなぁ、あっ私はマメーリア王国に遊びに行った時ですわ」

テレサ「同胞よ、戻ったぞ…隣国の遣いと何を語り合っているか!」
    (ただいま戻りました~、あれ?皆さん何を話してるんですか)


キノピオ「あっテレサさん、おかえりなさい」

クリボー「おう、今、皆で思い出に残る旅行について語り合ってたんだ」

ノコノコ「有給取れたら、何処かに行ってみようと思うし
     皆の話を参考にしようって事で」

テレサ「旅の思い出語りか、フッ我も僅かならが力添えさせて貰おうか」
   (あっ!それ良いですねぇ~、私もお話して良いでしょうか
    参考になるか分かりませんが)


キノピオ「どうぞ、どうぞ」

テレサ「我の印象に残る景色、それは天高き、雲海の王国也
    宿の寝具は言葉のままに天にも昇る夢心地よ!
    ソナタ等を極楽浄土へ誘う事も違いないだろう」
   (一番、思い出深いのはマシュマロ王国ですね
    あそこの名物は夢枕じゃないでしょうか?
    寝心地も良いですし、おススメですよ)


クリボー「ああ、それ良いかもなぁ」

ノコノコ「ゆったりとした眠りには就きたいですからな」

キノピオ「そうですねぇ、あっ、僕はそろそろ帰りますね」


クリボー「おう、お疲れさん、土産にいくつか饅頭でも持ってきなよ」

キノピオ「何から何まで、すいません」

クリボー「良いってことよ」

テレサ「遣いの者よ、せめてもの情けだ我が道中、付き添おうぞ!」
   (あのう、宜しければ見送り致しましょうか?)

キノピオ「あははは、ありがとうございますテレサさん
     でも大丈夫ですよ、これでもお城勤めですからね
     女の子に送ってもらうなんて悪いですよ」

テレサ「そうか、ならば致し方あるまい」
   (あぅ…、そうですか、道中気をつけてくださいね…)


キノピオ「それでは、さようなら!」




クリボー「おう、また来いよ!」
ノコノコ「お達者で!」

テレサ「…」ショボン



クリボー「しっかし、平和だよなぁ」

ノコノコ「基本、ピーチ姫攫わなきゃ私共も争いなんてしませんからね」


クリボー「…なぁ、不謹慎かもしんねぇけど、その」


クリボー「やっぱ、ルイージさん達にゃあ悪いけどよォ
     マリオさんの記憶は戻らねぇ方が良いんじゃねぇッスか?」

ノコノコ「このまま協定が続くからか?」

クリボー「そりゃあ、闘いは俺達クッパ軍団の"生きがい"だし
     なにより"誇り"でもある」

クリボー「けど、今のままってのも悪くねぇかなって思うんッスよ」

ノコノコ「…私には なんとも言えませんね」


ノコノコ「君の主張も分からなくは無い」

ノコノコ「だが私は断然、マリオ殿には記憶を取り戻して欲しいと思う」

クリボー「…そうッスか」

ノコノコ「君も私も…無論クッパ様も
      皆、マリオ殿とは数年来の付き合いだ」

ノコノコ「何度も、拳を交えたからな何となく分かるのだ」

クリボー「拳を交えたって言うか、俺らが一方的に踏みつけられただけ
     だったッスけどね」

ノコノコ「水は射さんでください、…まぁ、マリオ殿は"無限の可能性"を
     求める挑戦者です、クッパ様はクッパ様でそんなマリオ殿を
      ご自分のお力で倒したいとお考えのお方」

クリボー「根っからの武人って奴ッスか」

ノコノコ「私も堂々と正面から闘いたい"好敵手"
     そういう認識である事に変わりはありません」


ノコノコ(ただ…
        だからこそ"英雄"には英気を養って貰いたい
      クッパ様ならそう、お考えになる筈だ)


クリボー「ハァ、お前はマリオさんが記憶を戻す事に"肯定派"なのな」

ノコノコ「君は"否定派"のようですね…勘違いして欲しくありませんが
     私は別に平和が嫌いという訳ではありませんよ?
     マリオ殿の記憶が戻るまではこの平和を楽しみたいソレに
     変わりはありません」

クリボー「ふぅん」









テレサ「隣国の遣いよ…大丈夫なのだろうな」
   (キノピオさん…大丈夫かなぁ)








クリボー「俺、この協定が終わったらキノコを殴ってやろうと思うんだ」

ノコノコ「奇遇ですね、それについては全力で同意します」



―――
――



ヨッシー「ルイージさん、僕は一旦
     カートの調整もありますし島に帰りますね」

ルイージ「うん、船で往復四時間だろ、君も大変だなぁ」

ヨッシー「はっはっは、慣れっこですよ!慣れっこ!」

ルイージ「気をつけて帰るんだよ」

ヨッシー「はい!」

*********************************


            今回は此処まで!


        機を見計らって徐々に引っ越し予定


*********************************


ルイージ(僕もカートの調整にでも行くかなぁ…ん?)スタスタ…


キノピオ「あっ、ルイージさん!こんにちは」トテトテ

ルイージ「おや、そういう君はよくクッパ城に遣いに行く
     キノピオじゃあないか」

キノピオ「分かりますか! 嬉しいですね、僕達って皆
     似たような顔だから区別が付かないって言われるので」


ルイージ(本当に嬉しそうだね…)


キノピオ「ルイージさん達以外で僕の違いが判るのなんて
     クリボーさん達くらいで」

ルイージ「ああ、クッパ城の門番の人達だね、確かノコノコ君
     それにテレサさんだっけ?」

キノピオ「ええ、…今でも嘘の様に思えますよ、一年近く前まで
     争ってたのに、こうして協定を組んで
     皆で笑いあって…」


ルイージ「そうだねぇ」



ルイージ(兄さんが…"英雄が戦えなくなった事で平和になる"、か
     皮肉っちゃ皮肉だよなぁ)



「…ん   …さん   ……ルイージさん!」


ルイージ「ん!? なんだい?」


キノピオ「どうしたんですか?眉を八の字にして俯いてましたよ?」

ルイージ「あー、あー、あー、ちょっと考え事をしていたんだよ
     そんなことより、盛り上がる話でもしようじゃあないか!」

キノピオ「盛り上がるような話題ですか?」

ルイージ「そ、そ、例えば…そうだな、女の子、女の子の話とかどう!」

キノピオ「女の人ですか? 僕、そういう話題は疎いですし…」

ルイージ「あっはっは、何を馬鹿な事を!
     君、結構モテモテだって噂は聴いてるぞ!
     いやぁ、もう憎いね~このこの!」

キノピオ「ご冗談を!僕みたいな背の小さい奴を好きになる人なんて
     居るわけないじゃないですか!」アハハ


ルイージ「…結構街で働き者だってご婦人の皆様から評判だよ?」

キノピオ「僕なんかより働き者は沢山いますよ?
     たまたま僕が噂の中心になっただけじゃないですか」

ルイージ「此間、若いお嬢さんにお手紙貰ってなかったっけ?
     ハートのシール付きの奴」

キノピオ「ええ、僕みたいなチンチクリンになんて
     罰ゲームは関心しませんよね…」


ルイージ「…クッパ城のテレサさんは?」


キノピオ「…? なんで其処でテレサさんの名前が出るんですか?」

ルイージ「あー、なんかもういいや」


ルイージ(やれやれ…
     君は、もう少し人の考えを読めるようになると良いけどね)

コツコツ…


キノピオ「ここでお別れですね」

ルイージ「うん…そういえば、君はレース大会に出る予定かい?
     テニスには出るらしいけど」


キノピオ「はい!一応キノピオ代表選手として出る事になりました!
      選出方法はくじ引きでしたけどね…」

ルイージ「経緯はともあれ、そうなれば当日はライバル同士って事だね
     お互いにベストを尽くそうじゃあないか!」

キノピオ「もちろんです!」

ルイージ「良い返事だね!それじゃ、僕は元気なライバル達を倒せるよう
     特製のカートの調整に行かせて貰うよ、またね!」

キノピオ「はい!」


コツコツ…


ルイージ(さぁてと…博士に会いに行かなきゃなぁ…)


―――
――


オヤ・マー「来たかね、ルイージくん」


ルイージ「どうも博士、頼んでいたカートの調子はどうですか?」

オヤ・マー「フェッ、フェッ、フェッ!うむ、実に良い出来じゃぞ
      かつて君も使ったオバキュームと同じ動力を
      使っておるでのぅ」

ルイージ「懐かしいですね
     あの時はお化け屋敷とも知らずに
     豪邸が当たったと浮かれたもんですからね」

ルイージ「最終的に、あの時の財宝で念願の豪邸を購入できましたが」

オヤ・マー「しっかし、その屋敷も売り払ってしまったんじゃろう?
      ちと、勿体無い気もするがのう?」

ルイージ「まぁ、別荘はあっても使わなければ
     何の意味もありませんからね」


オヤ・マー「あの豪邸を売り払った金で
      お兄さん達を楽させとるんじゃろう?」

ルイージ「兄さんの為に国家予算が使われるのは嬉しい反面
     申し訳なさもありますからね
     元々、あって無いような別荘です」

ルイージ「有効に活用できた、そう考えれば良いんですよ」

オヤ・マー「確か、登山じゃったり、ちょっとした旅行だったかのう」

ルイージ「ええ、兄さんにはゴルフ大会の賞金だとか宝くじが当たったと
     言ってあるので」

オヤ・マー「ふむ、そうか」


オヤ・マー「さて、時にルイージくん、君はお兄さんの記憶が戻る事を
      快くは思っていないのだったね?」

ルイージ「僕に限ったことじゃあありませんよ、大半の人がそうです」


オヤ・マー「"大半"…つまりは少なからず戻ったほうが良いと考える者も
      おるのじゃろうなぁ」


ルイージ「…」

オヤ・マー「のう、ルイージくん、君の一番好きな事はなんじゃ?」

ルイージ「どうしたんですか?突然」


オヤ・マー「わしは当然、お化けの研究や発明じゃな、コレがあってこそ
      わしはわしといえるからのう」フェッ、フェッ




オヤ・マー「…君やピーチ姫達はマリオくんが冒険を
      忘れたままにして、平穏な日々を過ごさせる事が善い…
      そう考えておる」

オヤ・マー「じゃがのう、自分の"生きがい"や"誇り"を忘れて過ごす一生
      果たしてソレは"幸せ"な日々と呼べるか?」




ルイージ「…」




オヤ・マー「君等は"善い"と思う事でもそれが"相手にとっての善い"とは
      限らんのだよ」

オヤ・マー「本当の意味で彼を理解しておるのは
      案外"好敵手"なのかもしれぬ」


ルイージ「…はぁ、クッパですか」


オヤ・マー「わしがお化けや発明を追い求めるのと同じじゃよ
      マリオくんは己の限界を突き破る事を…
      クッパは信念を持ち、マリオくんの打倒を夢見る」

オヤ・マー「老人のお節介かもしれんがのう
      姫様にお伝えなさい、『過保護はあまり良くない』との」

ルイージ「えぇ、伝えときますよ」


オヤ・マー「それと、じゃ」

ルイージ「まだ、何かあるんですか?」


オヤ・マー「さっき、マリオくんの記憶が戻る事を望んでいる者と
      望まぬ者が居ると言ったのう」

オヤ・マー「薄々感付いておるじゃろう、どちらの側にも良からぬ考えの
      者が居る」

ルイージ「今の兄さんは戦えない…それが切欠で協定が結ばれ一時的な
     平和になっている」



オヤ・マー「うむ、"記憶が戻らん間に事を起こそう"と思う者
      逆にこの"平和を永遠に続かせたいと手段を選ばん者"
      …ちと、面倒な話を小耳に挟む、十分に気をつけるのじゃ」

―――
――


ルイージ(『過保護はあまり良くない』、か…)


ルイージ(僕らやピーチ姫が間違ってるのかな?)






「ガッハッハ!随分としけた面してるじゃあねーか、ルイージ!」





 オヤ・マー博士のラボからの帰り道
豪快な笑い声と共に名を呼ばれ振り向けば、そこには…


ルイージ「暇そうだね…ワリオ」ハァ

ワリオ「オイオイ、俺様の何処見て暇だと思うんだ!」

ルイージ「…じゃ、訊くけどさ、ここで何をしてるんだい?」

ワリオ「アァ~?何ってしてるって? 金儲けだよ!」

ルイージ「両手に持ってるスコップと肥料でかい?」


ワリオ「おおともよ! いいか?今、俺様は非っ常に機嫌が良いからな
    特別教えてやろう」

ワリオ「これはある情報筋から仕入れたんだがよォ!世界のどっかに
    光る地面があんだよ
    そこに金を埋めりゃあ金のなる木ができんだぜ!」



ルイージ(うわぁ、すごくガセっぽい…)


ルイージ「そ、そう、それはすごいねー」

ワリオ「おう!んでよォ、俺様がその情報屋から買い取った地図によれば
    この辺りの筈なんだがよ」

ルイージ「あのさ、他人のやり方に口を挟むのは良かないと思うけど
     言わせて貰って良い?
     そんな事より、真面目に働いたほうが良いと思うよ、僕は…」

ワリオ「ハァ~?何言ってんだ!タダ金を地面に埋めるだけで億万長者だ
    額に汗して働くなんざぁ、やってらんねぇだろォ!」


ルイージ「あー、うん、そうだね、じゃあ僕帰るから、頑張ってね」


ワリオ「待て待て、此処で出会ったのもなんかの縁じゃあないの
    ちょっと手伝ってくんねぇか?
    成功報酬はちゃんと払うからよォ!(儲けの9分の1ぐらい)」

ルイージ「ワルイージでも誘いなよ、僕も忙しいから」



ワリオ「…ケッ、なぁ~にが忙しいだ!
      どうせお兄ちゃんのお世話だろうがよォ!」


ルイージ「…悪いかい?」


ワリオ「俺に言わせりゃあなぁ…
    てめぇ等のやり方なんざぁ"独善"よッ!気にいらねぇぜ!」


ワリオ「あー、どっこいしょっと」ドスッ

ワリオ「ずっと荷物持って歩いてたからな、腰が痛くて堪んねぇぜ」

ルイージ「君の言い方は気に入らないよ
     僕やピーチ姫のやっている事が"独善"だって?」


ワリオ「おう!そうだぜ、つーか独善じゃなきゃ、なんだってんだい?」



ルイージ「僕達は兄さんの為にやってるんだよ!
      今のは訂正してよ、流石の僕だって怒るよ!」







ワリオ「ソレだよ!ソレ! そこんとこが"独善"だっつってんのよ」






ルイージ「どういう意味さ?」


ワリオ「…」ゴソゴソ   キュポンッ

ワリオ「作業の途中で飲もうと思ってた酒だ、ちょいと早いが
    積もる話もするわけだぁ、まっ一杯やろうじゃねーか」トクトクッ

ワリオ「ホレ、結構良い酒だぜ、飲めよ」

ルイージ「僕はお酒は飲まないよ…」

ワリオ「んだよ、つれねー奴だなぁ」グイッ


ルイージ「それで…今のはどういう意味なんだい?」


ワリオ「お前よォ、『兄さんの為にやってるんだよ!』って言ったが
    それは"マリオ本人がお願いしたのか?"」

ワリオ「アイツが事故って頭空っぽになりました、それはわぁってらぁ
    んで、身内のお前やピーチが心配すんのも百歩譲って理解しよう


      だがな、アイツに何も教えず、ただ庇護するってだけなのは
     気に食わねぇな!」

ルイージ「君も『過保護はあまり良くない』って事を言いたいのかい?」

ワリオ「…ヒック、まぁ大雑把にいやぁ、そだな」


ワリオ「お前、…いや、お前だけじゃあねぇな
     ピーチもヨッシーもだ、ドイツもコイツも今のアイツの目を
    よぉーく見てんのか?あぁん?」







ワリオ「あんな…、あんな"死んじまったような目ぇ"したマリオは
     マリオなんかじゃあねぇよ」ヒック


ルイージ「…」


ワリオ「てめぇ等が良かれと思ってやってることは
    マリオ自身の尊厳が無ぇんだよ」

ワリオ「本気でアイツの為を思ってんならよォ、何を忘れているかとか
    それを説明して、その上でアイツがどうしたいのかを訊いてだ
     …まずはそれからだろうがよォ」グビッ


ルイージ「…君の意見は参考までにさせて貰うよ、じゃあね」


ワリオ「おうおう、話はまだ終わってねぇぞ、大体だ、お前はなぁヒック
    いつもオドオドしやがってヒック 周りばっかヒック」



枯れ木に向かって説教するワリオを置いてルイージは帰宅した…
    



―――
――



ルイージ「ただいま、兄さん」

マリオ「ああ」ペラッ


ルイージ「お、今日の朝刊じゃないか!」

マリオ「郵便受けに入っていた、今日はまだ見てなかったからな」

ルイージ「面白そうな記事はあったかい?」


マリオ「んー」



・遭難した考古学者のチャールズ氏、遺跡研究チームのクリスチーヌ氏に
 救助される


・大富豪ブッキー氏がマルガリータ夫人との結婚記念を祝して
 メリー・マリー村で盛大なパーティーを開く模様


・海賊ブラックシュガー団、脱獄!?国内に衝撃走る


・サラサ・ランドのデイジー姫、マメーリア王国へ緊急訪問
 警備体制の強化に付き交通機関に遅れが…?




マリオ「これといって面白そうな記事は無い、な…」

ルイージ「そっかぁ」


マリオ「…」

ルイージ「…」


マリオ「ルイージ、何かあったのか?」


ルイージ「へっ!?」

マリオ「いつもより口数が少ないじゃないか、…どうした?」


ルイージ「あ、あー、今日は少し疲れちゃったかなぁって
     レース用のカートのエンジンの調整が予想以上に大変でさぁ」


マリオ「そうか」ペラッ


ルイージ「そうそう」


マリオ「…」ペラッ

ルイージ「…」

ルイージ「…」チラッ

マリオ「…俺に何か言いたいのか?」

ルイージ「…いや、別にそういうんじゃあないよ」

マリオ「お前が何を思っているかは解らん、だが言いたい事は正直に
    言うべきだと思うぞ」





ルイージ「…その、さ
        兄さんは今の生活ってどう思ってるの」




マリオ「…? 今の生活だと?」


ルイージ「普通に暮らして、たまに配管工としての依頼があって
     そんでその賃金で生活してく今の生活だよ…」


マリオ「別段何も思わないさ、収入は少ないがそれなりに
    充実した毎日だと俺は思う」

マリオ「ただ…」

ルイージ「ただ?」

マリオ「…去年ぐらいか、俺が"下水管の修理中に頭を打った、らしいな"
    その頃からずっと違和感がある」


マリオ「ずっと"大切な物を忘れてる"ような感覚でな
     特にそれが最近強くてな」





マリオ「寝ても覚めて、ソレばかり考えてしまって他の事が頭に入らない
    お前やピーチ姫、ヨッシーと遊びに行ったり
    美味い物を食べたりしてる時だってそうだった」


マリオ「最近、何をやっても満たされない
     何をしても面白いとか楽しいって思えないんだ…」


ルイージ「…」

マリオ「どう言えば良いんだろうな…抜け殻みたいに生きてるような
         "生きてて楽しくない"っていうかな…」


ルイージ「兄さん、それは言いっこ無しだ
      生きてる事をつまらないとか言わないでくれ
     僕やヨッシー、それに姫だって哀しむ」

マリオ「…ああ、すまんな」

*********************************


          今回は此処まで!



         [以前書いた事]


    ルイージ達はマリオが記憶を失ったのは

    配管修理中のトラブルが原因と嘘をついています





  当然、ながらマリオは自分がトレーニングをしていた事

  "何のために自身の肉体を鍛えていた"のかも、本当の原因も




 知らずに日々(他者はマリオが楽しんでくれてる、っと勝手に思い込んでる)
     【無意味な人生】を 送り続けてます





      "幸せの価値観"は人それぞれなのです…





  ほんとうの しあわせは そのひとにしか りかいできない 。



*********************************


ルイージ「…兄さん、あのさ
            兄さんは――」


ルイージ「…」


ルイージ「…ごめん、やっぱさ、なんでもないや」


マリオ「…?」


ルイージ「ちょっと外でラケットの素振りでもやってくるよ!
      テニス大会は明後日だしね!」


マリオ「もう、陽も落ちてしまうぞ」

ルイージ「いいの、いいの!そうでもしなきゃ
     我等がスーパーマリオ様にはとても敵わないからね」ドタドタ


マリオ「…ふぅ、忙しないなぁ…」

マリオ「…」

マリオ(今の生活…、か)

マリオ(どうして、"楽しくない"って感じるのだろうな
    決して悪い物では無い筈なのに)

マリオ(…俺の思い過ごしか? 以前よりルイージやヨッシー、姫達が
    何処か遠くに感じるような気がする)

マリオ(何か、俺に"隠し事"でもしてるような、他所他所しさを感じる)


マリオ(…、いや、止そう
     身内を疑うなんてな、俺も疲れてるのかな?)













       ‐ 僕はどうしたいんだろうか?  —

ルイージ「…」


『君等は"善い"と思う事でもそれが
 "相手にとっての善い"とは限らんのだよ』

『てめぇ等のやり方なんざぁ"独善"よッ!気にいらねぇぜ!』

『あんな"死んじまったような目ぇ"したマリオは
   マリオなんかじゃあねぇよ』




ルイージ(僕達のやり方は兄さんの尊厳を無視している…か)

ルイージ(家族として知らせない方が"正しい"僕はそう思ってた)

ルイージ(でも実際は違うのだろうか…)



ルイージ(…)



ルイージ(…決めた、テニス大会だ、大会に日にピーチ姫に相談しよう
       ヨッシーも他の皆も来る筈だ、もう一度皆で話し合おう!)

―――
――


ザアァ… ザアァ…

「ンン~!いいねぇ、この波の音…やっぱ俺達は海に出てこそよ」
「ははは、同感だぜ!」
「おい、静かにしろい、キャプテンが来るぞ・・・!」


「此処だ、此処で良いから降ろしてくれ」

「あら、此処でイイの?」

「構わねぇさ、それより迎えの日は分かってるよな」

「ええ、確かに"明後日"、此処で"あんた等"を迎えに来ればいいのね」

「そうだ…、俺の荷物を寄越してくれ」

「はいはい、お前達、お客さんが下船するよ! 荷物をお返し!」



「…へっへっへ、ありがとよキャプテン・シロップ」


シロップ「にしても、"あんた等"も変な奴等だね、こんな雪山で
     降ろして欲しいだなんてさ、オマケに…
     なんだい、その荷物は?

       アタシにゃ唯の"枕"にしか見えないけどねぇ」


「"枕"が変わるとイイ夢見れないんでね…俺達は」

シロップ「ふぅ~ん、まぁなんでもイイんだけどね」

「"明後日"はちゃんと迎えに来いよ」

シロップ「もちろんさ、"あんた等"を雪山まで送迎する、それっぽっちの
     お駄賃でアタシ等は豚小屋から出れたんだ、喜んでやるわよ」

「何事も、世の中助け合いだからなぁ、ギブ&テイクさ」

シロップ「助け合いねぇ~、これからデカイ事やろうって奴が
     よく言うもんだ」

「はっはっは、じゃあな船長、また明後日に会おうぜ!」



「やっとあの連中ともオサラバですわ」
「キャプテン、これからどうしやすかい?」


シロップ「そうだねぇ、デンプーのランプを探す前に近場の民間船でも
     襲って酒盛りと行こうじゃあないの」ジュルリ


「おおー!流石キャプテン」
「最高ッスよ!」
「酒だ酒だ!」
「金目のモンを奪い盗ってやろうぜ!」


シロップ「うふふ、選り取り見取りと行こうか」


シロップ(ランプを手に入れたら、あのギザヒゲにリベンジを挑むのも
     悪くないわねぇ)





シロップ(にしても…物騒な連中だったわねぇ)

シロップ(アタシ等も人の事言えた義理じゃあないけど、さぁ…)





































シロップ(   流石は"クッパ軍団"と言った所ね

        協定を組んで平和、平和と謳っておきながら

      影で本格的な戦争に向けて再軍備をしてるなんてねぇ)





























ザザァン……っ
          ザザァァン…っ



 小さな波風に揺られ、海賊船【ティーカップ号】は錨<イカリ>をあげる…
穏やかな磯の香りをその身に受け、乗組員は大海原へと還っていく


"穏やか"と言う言葉とは全く以って不釣り合いな客人を下ろして…



 テニス大会当日、…TVじゃ降水確率は7割強と報道されたが
気象予報士の予測に反して空は今だに曇り空なだけであった



       スパンッ!



「ゲームセット!勝者【ルイージ選手】」

  ワァー ワァー カッコイイ マリオサーン! キャールイージサーン! エッマリオジャナイノ!?

ルイージ「イエーイ!皆さん、ご声援ありがとうございますっ!」

マリオ「ようルイージ…次で決勝進出だな」

ルイージ「そうだね!しっかし、僕は運がイイねぇ~
      なんてったってくじ引きの結果此処まで兄さんと1戦も
     当たらなかったんだから
     こりゃあ"流れ"が僕に来てますよ」

マリオ「ちっと大袈裟に喜び過ぎじゃないか?」

ルイージ「チッチッチ、僕にとって今大会最大の強敵は
     スーパーマリオって訳でね、大袈裟でもなんでもないさ!」



ルイージ「決勝で叩きのめしてやるから覚悟しなよ…っ!」グッ

マリオ「ふっ…無論だ!俺もハナっから本気で行かせて貰う」




スタスタ…
           スタスタ…





ルイージ「…はぁ~」ドスン

ルイージ「あんな事言ったけど、自身無いねこりゃ…」


ヨッシー「地べたに座り込んでどうしたんですか?」


ルイージ「いやね、これはアレだよアレ、ちょっと床に座って精神統一を
     してるだけなのさ」

ヨッシー「はいはい」

ヨッシー「それで、最近"流れ"が来てらっしゃるルイージさん
     僕に何の御用ですか?」

ルイージ「なんだい、聴いてたのか」

ヨッシー「チラッとですけどね」


ルイージ「…」


ルイージ「今の兄さんの顔、君には"どんな風に見えた"」


ヨッシー「マリオさんの顔ですか…?」

ヨッシー「……そう、ですね」


ヨッシー「すごく、生き生きとした顔、でしたね」


ヨッシー「まるで冒険してた頃のような
     どんな逆境も勇敢に立ち向かっていく…そんな意思が見える」


ルイージ「…」


ルイージ「そ、か…やっぱ、そう見えちゃうのか…」ポリポリ



ルイージ「ちょっと前にワリオや色んな人に言われた事があってね
     僕は、さ…色々と考えたんだ」

ルイージ「何が兄さんの幸せなのかって事を
     この先、どうしてくのがベストなのかを」

ルイージ「さっきの顔、決勝戦で僕と戦うって時に見せた顔は
     君の言う通りだ、長く見せてくれなかった生き生きとした顔」

ルイージ「きっと、本能みたいなモンなんだろうね
     強敵と闘う感覚…記憶に無くても身体はソレを覚えている」



ルイージ「僕は、…この大会終わったら姫達に相談するんだ
       兄さんに真実を打ち明けるべきなのかもしれないって」



ヨッシー「ルイージさん…」











ヨッシー「自分で自分の事"強敵"とか言っちゃうのはどうかと思います」

ルイージ「ちょ!? そこぉ!? 今、僕シリアスだったよね!?
     思いっきしシリアスな話してたよねぇ!?」


ヨッシー「冗談はさておきルイージさんは
     マリオさんに真実を打ち明けたいんですね?」

ルイージ「あの人は…何時だって僕の目標だった、超えるべき壁だった
     身内として家族には死んで欲しくないって気持ちとは別に
     目標に消えてもらいたくないって考えが少なからずあったさ」

ルイージ「いつかは、日陰者でも永遠の2番手でもない
     本当の意味で追いつきたい追い越したい気持ちがある」


ルイージ「そう考えてたら、なんとなく
      …うん、単に解った気になっただけかもしれないけど
     クッパ達の気持ちが少しだけ分かった気がするんだよ」


ヨッシー「…」

ルイージ「身内だから守りたい、家族だから助けたい」

ルイージ「そう言いつつも、僕は心のどっかじゃあ
     そんな自分勝手なエゴで兄さんを庇護してたんだって思った」


ルイージ「嫌な人間だろう?」


ヨッシー「僕にはなんとも言えませんね」

ヨッシー「人間は感情の生き物です」

ヨッシー「純粋な善意もあればそういう利己的な面のある少し歪な善意も
     あります、"人間ならあって当然"なんですよルイージさん」

ヨッシー「僕は別にルイージさんを軽蔑したりしませんよ?
     むしろ真っ当な人間らしさを見て安心してますもの」

ルイージ「そうかい?」

ヨッシー「そうですよ!ルイージさんは少しネガティブ過ぎるんですよ」


ルイージ「ふふ、君に励まされるとはね」

ヨッシー「ルイージさんが落ち込み過ぎるとネガティブゾーンが
     発動しますからねぇ、皆、ふっとびますよ」

ルイージ「え、酷くね?」

ヨッシー「はっはっは、冗句ですよ冗句!」

ヨッシー「それよりも、もうすぐ試合始まっちゃいますよ?
     行かなくて良いんですか?」

ルイージ「へ?……うおっ!?本当だ!」ダッ


ヨッシー(頑張ってくださいよルイージさん…)




ルイージ「ヨッシー!」クルッ


ヨッシー「?」


ルイージ「そのさ!本当にありがとうね!」クルッ ダッ


ヨッシー(…)

ヨッシー「ふふ、私は外の出店でも回りますかねぇ」トテトテ


―――
――



マリオ「…来たか、ルイージ」

ルイージ「もちのろんだね!あー、あー、おほん
      観客席の皆様ーっ!皆のスーパースタールイージさんの
     ご登場です!!さぁ、さぁ熱いご声援をお掛けくださいィ!」


 ウォー ワァー  ルイ-ジ! ルイージ! ミドリノヒゲ! ルイージ!


ルイージ「ん~!良いね、このファンの声援を受けて僕が兄さんを倒す!
     そして、此処に新たなNEWヒーロー誕生ッ!みたいな感じに
     なっちゃう訳だ、燃えるねぇ~!」

マリオ「おっと、悪いがそういう訳にはいかんぞ?
     俺にも兄としてのプライドがあるんでな、お前には負けんさ」


      ゴゴゴゴゴ…

                ドドドドド…


ルイージ「たまには弟に勝ちを譲ってくれても良いんだぜ?」

マリオ「俺は大人気ないんだよ、諦めろ」


 二人はテニスコートに立つ、丁度ぽつぽつと小さな水滴も濁り空から
 落ち始めましたが、試合をする上での問題は一切ありませんでした


ルイージ(超えるべき人…僕の目標…っ!)

ルイージ「兄さん!勝たせてもらうよ!」

マリオ「来いッ!」

           スパンッッ!!

―――
――


ワアァァァーーー  


ヨッシー「おや? 会場が盛り上がりましたねぇ、始まりましたか」パク

ヨッシー「あ、店員さん、この人形焼おみやげにもう一箱くださいな」

ヘイホー「イイヨー」つ【人形焼ヘイホー(カスタードクリーム)】

ヨッシー「はい、御代です」

ヘイホー「マイドー」

ヨッシー「いやぁ、本当に美味しいですねぇ、粒餡もいいですが
     クリームも美味!ヘイホーそっくりな見た目も
     食欲をそそられますねぇ!」ジュルリ

ヘイホー「ナニ コノ オキャク コワイヨー」ガタガタ

ヨッシー「ん?あれは…」










テレサ「フハハハハ!隣国の遣いよ!中々の健闘ぶりであったぞ!」
   (試合見てましたよキノピオさん!お疲れ様です)


キノピオ「ははは…一回戦目でルイージさんと当たっちゃって
     負けちゃいましたけどね…やっぱり情けないですよね」


テレサ「結果に拘るなどと具の骨頂…結果を求めたという過程こそが
    至高の心理であろう」
    (ううん!そんなことありません!キノピオさんは頑張りました
     勝ち負けなんかより、一生懸命戦った事が大事ですよ)

キノピオ「そういって貰えると嬉しいですね…」

テレサ「時に隣国の遣いよ…」
   (あのう…キノピオさん)

テレサ「我、自らの魔力を以ってして、命への捧げ物を作ったのだが
    今だ、誰の体内へも捧げておらぬ、毒見をする勇気はあるか?
    …無理強いはせぬがな!」
   (今日、お弁当を作ってきたんですけど
    その…私が味見しただけで、誰も食べてないんです
    他人の感想が欲しいので食べてもらえませんか?
    あっ…無理ならいいです!)


キノピオ「へぇ、テレサさん、お弁当を作ったんですか?
     僕なんかで良ければ喜んで食べますよ」ニコ


テレサ「う、うむ!そうか!」
   (あ、あう…///)










【物陰】
 クリボー「裏山死ねッ!!!」




ヨッシー「君は何をやっているんですか?」


クリボー「うおおお!?」ビクゥ

ヨッシー「いやいや、そんな露骨に驚かなくてもいいじゃないですかー」

クリボー「あ、いや、なんつーか俺は基本的にアンタさんには
     良い思い出が無いッスからね・・・」

ヨッシー「大丈夫、大丈夫、食べたりなんてしませんよ!
      ヨッシー ウソ ツカナイ」パクパク

クリボー「ヘイホーにくりそつな人形焼
     食いながら言われても説得力無いッス」

ヨッシー「時にクリボー君はどうして此処に来てるんですか?」

クリボー「ああ、テニス大会の出店の手伝いッスね!
     この辺の屋台なんかはうち等クッパ軍団が経営してるんで」

ヨッシー「おお!そうでしたかぁ!ご馳走様でした!」

クリボー「…その様子だと
     もう何軒か屋台の物を全部食い尽くしたっぽいッスね」

ヨッシー「ボム兵さんトコのたこ焼きやジュゲムさんのわたあめ
     あっ、無論、ハンマーブロスのチョコバナナも頂きました」

クリボー「売れ残りは無さそうッスね!」

ヨッシー「はっはっは、次はパックンフラワーさんトコの…おや?」

クリボー「? どうかしたんですかい?」


ヨッシー「あー、いえね、そういえばクッパ軍団の皆さんって全員此処に
     来てるんですか?」

クリボー「あー、その"予定"でしたわ…」

ヨッシー「"予定"…?」

クリボー「なんか、数名、屋台の手伝いに来れない連中が居るらしくて」

ヨッシー「"来れない"というのは何故ですか?」

クリボー「さぁ? 有給使って旅行って奴や体調不良で来てないのが
     多いって聴いてるッス、俺もサボりてーッス」

ヨッシー「ふぅむ、どうりで屋台の数が少ないと思いましたよ…
      クッパ軍団を全軍総動員させれば飲食店も
     この倍、いや3倍になった筈…ぐぬぬ」

クリボー「食うことしか無いんスか?」

ヨッシー「まぁ、いいでしょう私は引き続き
      出店のはしごをするとしましょう」

クリボー「飲食店以外も見て行って欲しいッス!」

ヨッシー「…ふぅ、仕方ありませんね…」

ヨッシー「ではワンワンのケーキ早食いショーでも観ましょうか?」

クリボー「ワンワンからケーキを取り上げないようにお願いします!」










―――
――


「やっと、掘り当てたな」
「ああ、後は氷を溶かすだけだ」
「お楽しみはこれからだなぁ…ハッハッハ!」


「傷つけん様に気をつけて運べよ?"コイツ等"は大事な戦力になるんだ」

「「了解です!」」




「さて、お前達、よくぞワシについて来てくれた!」

「…かつてワシ等には誇りがあった、栄光のクッパ軍団の一員として
 また、武を重んずる戦士としての誇りがあった!」

「闘いこそが全て、勝利の余韻、戦士を称える名声こそが
 ワシ等の人生そのものと呼べた!」


「…だが、それは過去の話よ!ワシ等の主君クッパ様にはかつての覇気は
 無く、ただ堕ちたとしか言いようが無い!」

「諸君!
  故にこれは決して主君への謀反に非ず!
   かつての…クッパ軍団の輝かしき黄金時代を取り戻す為の行為!」

「我等が主にあるべき姿に戻っていただく為の行為であるッッ!」




「「「「うおおぉぉぉぉっ!」」」」





「全ては主君の為! 全てはクッパ軍団の輝かしき栄光と覇権の為!」


「その為ならば、ワシのような"老兵"であろうと
  この身を粉にしてでも…最後まで闘い抜く事を宣言するッッッ!!」


「クッパ軍団、万歳! クッパ軍団に栄光あれッ!」


ウォー!    ウォー!  ウォー! バンザーイ!


「諸君!、あの忘れえぬ日々を取り戻す為に!
    今一度、諸君の力を貸していただきたい!」




ウオオオォォォォォー!   ウオオオォォォォォー!   ウオオオォォォォォー!



(…これで、ワシの長きに渡る"夢"を取り戻せる…っ!)


(これは決して謀反では無い、ワシの行動は全て名誉の為
  全ては絶対の忠義から来る物、今一度…
 クッパ軍団の力を知らしめて見せましょうぞ!)




―――
――


マリオ「はぁッ!」smash!


      スパンッ!


ルイージ「ぐっ!?」


「ゲームセット!勝者【マリオ選手】」


ルイージ(…っ!負けたか!)


ルイージ「兄さん…!イイ試合だったよ!」

マリオ「それは俺の台詞だ
    さっきのショットは打ち返されたらどうしようと考えた程だ」

ルイージ「そう言って貰えるとは光栄かな、さて…
     あとは表彰式でカメラマンの前でピースして終わりだね!」

マリオ「そうだな」

ルイージ「はは、まだ時間もあるし、僕はちょっと水でも飲んでくるよ
     喉カラカラじゃあ、インタビューの時に僕の美声を
     聴かせらんないからねぇ!」

マリオ「はっはっは、相変わらずだな!」

ルイージ「そんじゃ僕はちょっと失礼しちゃうよ~!」スタスタ




ルイージ(…)スタスタ

ルイージ(…はぁ、やっぱり遠く及ばないなぁ)トボトボ


ヨッシー「イイ試合でしたね~」サクサク


ルイージ「やぁ、ヨッシー…負けた僕を励ましにでも来たのかい?」

ヨッシー「まぁ、そんなトコですね、あっ、パックンサブレ食べます?」

ルイージ「はは…一枚貰おうかな」サクッ

ヨッシー「どうぞどうぞ」サクサク


ヨッシー「で、どうです?」

ルイージ「え?突然、何?」


ヨッシー「マリオさんですよ、マリオさん
     やっぱり、活き活きとしてましたか?」

ルイージ「ああ、あんな感じで誰かと競ったりしてる時が一番
     輝いて見えるよ、自宅でのんびりしてる時よりも
     姫達と遊びに行くときよりも一番、ね」

ヨッシー「何が正しいかなんて、誰にも分からない
     良かれと思ってやった事が失敗だったり
     やらない事が失敗に繋がりもします」

ヨッシー「"自分が"正しいと思う事が正解なんですよ
     さっきの試合で本来のマリオさんの生き方に戻す方が良しと
     感じたならそれで"正解"なんですよ」

ルイージ「…そうだね

       …弟として心から家族を心配している、できるなら
     また命に関わる無茶させないのがベストだと考えたさ」

ルイージ「でも…ワリオが言う通りなのかもしれないな
      今の兄さんは本当の意味で生きてないのかもって」



ルイージ「僕が間違ってたのかもしれないってさ」





ヨッシー「…間違ったなら直していけば良いんですよ」

ヨッシー「"違ったなら直す"それが人間ですもの」


ルイージ「やれやれ…なんだか最近、君には色々と愚痴を零したり
     悩みを相談してばかりな気がするよ」

ヨッシー「同じ緑色のよしみって奴ですよ!
     まぁ、そこら辺の茂みの色と同化してしまう程
     緑が似合う、ルイージさんには適いませんけど」

ルイージ「ちょ!それ褒めてるんだよねぇ!?
     貶めてるんじゃなくて!?」

ヨッシー「ルイージさん、そろそろ表彰式じゃないですか?
     こんな床で油なんか売ってて良いんですか?」

ルイージ「へ?あっ、もうこんな時間じゃん!」

ルイージ「なんか釈然としないけど僕は失礼させてもらうよ!」ダッ



ヨッシー「ふぅ…忙しないですねぇ」

ヨッシー「おや?」



チャールズ「――」



ヨッシー「つかぬ事をお伺いしますが考古学者のチャールズさんですか」

チャールズ「うん?そうですが君は…えっと誰でしたかな?」

ヨッシー「初対面で失礼します
     僕はヨースター島から来たヨッシーです」

ヨッシー「マリオさんと面識があるお方と聴いていたものでして
     お声を掛けた次第です」

チャールズ「ああ、そうでしたか」

ヨッシー「チャールズさんもテニス観戦でしょうか?」

チャールズ「ええ、以前雪山で酷い目に遭いましてな
      気分転換も兼ねてのテニス観戦です」

ヨッシー「酷い目?」


チャールズ「はい、私はご存知かもしれませんが考古学を専門としており
      雪山を探索中に遭難してしまったのです」

チャールズ「私はどうにか、ゴロツキタウンから来た遺跡研究チームに
      救助され事なきを得ましたが…いやはや」

ヨッシー「それは災難でしたねぇ…」

チャールズ「はぁ、気分転換も兼ねて大会を見に来たのですが
      どうにも運が無いというか…私が行った食べ物の出店が
      全て売り切れていたり、踏んだり蹴ったりですな」

ヨッシー「それは災難ですね」


チャールズ「この分じゃ、雪山の埋蔵物も誰かに
      発見されてるかもしれません…」

ヨッシー「…?雪山の埋蔵物ですか?」



チャールズ「ええ、科学の進歩と言いますか
      少し前にあの雪山の地中深くに金属が埋まってると
      判明したんですよ」


ヨッシー「金属が埋まっている…というとお宝があるという事ですかね」


チャールズ「それを調べるのが私の仕事ですよ!」キラキラ


ヨッシー「は、はぁ、すごく目を輝かせますね?」

チャールズ「ロマンが埋まってるのです!夢が埋まっているのですよ?」

チャールズ「年甲斐も無く興奮してしまいますよ!」


チャールズ「まぁ、発掘できませんでしたが…」

ヨッシー「ま、まぁまぁ、それで埋まってるお宝が何かとか解ったり
     するんでしょうか?」


チャールズ「…そうですな、調べた情報を元にすると
      山に大昔の王様が埋蔵金を埋めたと言う情報はありませんが
      何十年だか前に空から何かが降ってきたという話があると」


ヨッシー「"何か"ですか?」

チャールズ「ええ、あの雪山はあまり人が寄らない所でして詳しくは
      解りませんが、情報を整理すると宇宙からの鉱物が
      あるのでは言う見方もあります、ロマンに溢れてますな!」

ヨッシー「そ、そうですねぇ」

チャールズ「そう、そうロマンと言えば―――」


      クドクド   アレガ アアデ   スバラシイ ト

ヨッシー(…な、長い!)


チャールズ「という訳です!」


ヨッシー「そ、そうですねぇ~、では僕はこの辺で―」
チャールズ「あー、言い忘れてました!」


ヨッシー「ま、まだあるんですかぁ?」

チャールズ「ええ、これを語らずして何が考古学者と言えましょうか!」

チャールズ「そんな訳で、マリオくんが私にくれたグツグツ火山の―」


ヨッシー(ダレカタスケテェー)


―――
――



「船に発掘した物を積み込む作業完了いたしました!」

シロップ「はぁ…大したもんだよアンタ等」

「キャプテン・シロップもう出航しても構わんよ」

シロップ「アタシ等の船にこんなモン乗せて欲しくは無いんだけどね
     まぁ、良いわ…お前達、船をお出し!」




(ワシ等が発掘した"コイツ等"…以前クッパ城で見たのと同じじゃ
  コイツ等の脅威はワシも知っておる…存分に働いて貰おうか!)






          氷から発掘された"彼等"…

    彼等は"昔"キノコ王国へやって来た事がありました…

"彼等"は災厄でした、"彼等"と"彼等の指導者"は遥か彼方から来たのです

ですが"昔"の英雄<ヒーロー>と"今"の英雄<ヒーロー>の"4人"が災厄から国を救い

      キノコ王国に平和が訪れたと思われました




         これは【過去からの忘れ物】…




"彼等の指導者"を倒し、"鎮魂歌を奏でる姉"をも絶ち、最後は"涙の雨"で

       全てを洗い流し、終わらせた筈でした…



              しかし



まだ、終わってはいなかったのです、"彼等"はまだ"残って"いたのです

     "彼等"は隕石のように地表へ墜ちていきました

  日の光も当たらない凍てつく大地に埋もれるように墜ちました

   洗い流すための"涙の雨"も氷に埋もれた"彼等"までは届かず

          "彼等"は生き永らえたのでした


  そして、時は流れた今、氷に覆われ動けずにいた"彼等"は動き出す

       再び、この国に災厄をばら撒く為に!


      そう、これは【過去からの贈り物】です




    今、災厄達は再びキノコ王国に彼等は姿を現すのでした!


*********************************


           今回は此処まで!


*********************************


「キャプテン、次はこの地点に向かってくれ」

シロップ「んー?、なんだい此処は昔の合戦所じゃないか」

「ああ、此処にはワシ等の"忘れ物"があるんでなソレを取りに行きたい」

シロップ「…言っとくけどこの船にはこれ以上荷物は乗せらんないよ」

「構わん、アレはデカ過ぎて船に乗り切らんさ」

シロップ「まぁ良いわ…地図を見た限り、早くて二日は掛かる良いね?」

「応、ワシ等はちと早いが眠りに就かせてもらうぞ」


ガチャ…ギィ


(さて、今日も良い夢が見れるかのう?この"枕"は手放せんわい)


―――
――



ルイージ「――以上が僕の意見です」


ピーチ「…」
キノじい「…」

ヨッシー「最終的な判断はピーチ姫がお決めになることです
     現状維持か、それとも話してしまうのか」


ピーチ「…」

ピーチ「私に、少しだけ時間をください」

ルイージ「…どうぞ」

ピーチ「ありがとうございます」


ヨッシー「僕とルイージさんは部屋の外でお待ちします
     答えがお決まりになりましたら呼んで下さい」ガチャ




ピーチ「…キノじい」

キノじい「はい」


ピーチ「私は…酷く高慢な女性なのでしょうね」

ピーチ「今まで、マリオを苦しめたくない、そんな私情で国の財を使い」

ピーチ「あまつさえ彼を苦しめていた事にも気付いていなかった」

ピーチ「国の代表ともあろう者がこれでは――」


キノじい「姫」


キノじい「お言葉ですが言わせて頂きます
     姫が今しがた仰る通り、確かに姫の行いは民を導く者として
     善いとは言い難いものです」

ピーチ「そう、ですよね…」

キノじい「国の英雄<ヒーロー>の為、国税を使った
     一見聞こえは良いでしょうが…言い換えれば
     "一人の異性の為に民の血税を使った"とも言えましょう…
     それでは暴君君主と同じ振る舞いです」



ピーチ「…はい」


キノじい「…」


キノじい「姫様、今から言う事は老人の戯言ですじゃ
     聞き流してくれても構いませぬ」

ピーチ「…?」


キノじい「私は姫が生まれた時よりお世話をさせて頂きました」

キノじい「姫は覚えておいででしょうか?その昔、キノコ王国に
     "ゲドンコ"達がやってきた事を?」


ピーチ「ええ」


キノじい「…あれはまるで…悪い夢を見ているようで…
     老いた今でも鮮明に思い出せますぞ」

キノじい「あの時は民は無論、私自身も何度ここまでか…と諦めかけたか
     分かりませぬ、ですが…
     姫だけはこの身に代えてもお守りしようと誓っておりました」



キノじい「妻子を持たない私にとって
     姫は目に入れても痛くない我が娘同然の存在でしたからな」



ピーチ「じい…」


キノじい「姫の行いは確かに国のトップとしてあってはならぬ事
     それを承知の上で私は今日まで黙認致しました…」

キノじい「この国の代表であられる以前に姫は一人の人間…いえ女性です
     ならばこのキノじいに姫の想いを否定できましょうか?」

キノじい「確かに間違ったかもしれませぬ、ならば
     ここからは間違わなければ良いのです」

キノじい「国民も英雄たるマリオ殿を愛し、また姫の事も同じく愛して
     おられます、故に国税が使われる事にも異を唱えませぬ」


キノじい「国民が納得した上での政策ならば、それは暴君の政に非ず
     姫が自身を高慢な女性と思うのは早計ではありませぬかな?」



ピーチ「…ごめんなさい」ポロポロ



キノじい「…涙をお拭きなされ、姫には笑顔が似合います」

ピーチ「…っ、…っ、はい…はい…」ポロポロ



キノじい「ルイージ殿、ヨッシー殿、どうぞ、お入りください!」


ガチャ…っ!


ルイージ「はい」
ヨッシー「お心はお決まりですか?」

ピーチ「…はい」



ピーチ「今度のレース大会終了直後…最後に…
      最後に盛大なパーティーを開き
            …マリオに真実を打ち明けます」


ルイージ「ピーチ姫…申し訳ありませんでした」
ヨッシー「辛い苦悩の末、ご決断感謝いたします…」


ピーチ「マリオは…今マリオはどちらに?」

ルイージ「兄さんは先に家に帰らせています」


ピーチ「そうですか…じい」

キノじい「はい」

ピーチ「テニス大会の後処理があるのは分かります、ですがパーティーの
    手配の方をお願いします」


キノじい「ええ、英雄<ヒーロー>の為…最後の休息
      壮大なパーティーに仕立て上げようではありませんか!」





 この日、マリオを除く殆どのキノコ王国国民にパーティーの話
   知らされるのは直ぐの事でした…多くのキノピオ達は
          準備のために大忙しです

 "キノコ王国がクッパ軍団と協定を組んで続いたこの一年近くの平和"

     その最後を締めくくるのは壮大なパーティーです


  英雄<ヒーロー>が全てを思い出せば、再び戦いは始まるのでしょう…
          だからこそのパーティーです


マリオもクッパも キノピオもクリボー達も…ヨッシーやヘイホーだって
皆そうです、"敵味方なんて関係ない"のです

        誰も彼もが争いなんてしない世界
   皆が手を繋いで、笑いあって同じ空間に存在していられる…

     【英雄<マリオ>が大事な事を忘れてしまった世界】

【テニスやゴルフにパーティーばかりで大切な何かを忘れていた世界】

でも…きっと、そう…そんな世界も決して悪いものでは無かったでしょう

 たとえ明日には互いに争いあう世界だとしても
この時間はかけがえの無いものに変わりは無いはずです

 "冒険を思い出す"前に壮大なパーティーにしようではありませんか!

  フィナーレを飾るまで…! 時計の針が0時を過ぎるまでの間…!

 誰一人として笑顔を絶やさない、そんな素敵な魔法の時間を紡ごう!


=================================


キノピオ「というわけで来ていただけますか?」

テレサ「闇を統べる我を誘おうとはな!良かろう!
    同胞達と共に貴様等の宴に参加してやろうではないか!」
    (は、はい、こんな私なんかで良ければパーティーに
     駆けつけます、先輩達も行きますよね?)

クリボー「イイッスね!(この機に俺も彼女作りたい!)」

ノコノコ「ふむ、有給はまだ残ってましたかな…」ウーム


キノピオ「あっ、そういえば皆さん、この辺で良い音楽家に
     心辺りはありませんか?」


クリボー「ん?なんで」


キノピオ「パーティーの準備にあたって最高の音楽家をご招待しようと
     決まりまして」


ノコノコ「最高の音楽家ですか…私はそういうのは疎いものでして」

クリボー「なんかこう、バンドとか良いんじゃないッスか?こうエレキ
     とかドラムでドジャ~ンっ!みたいな?」

テレサ「我は英知を司る仙人の住まう湖にて悩める作曲家を
    推させてもらおうか!彼奴ならば納得のいく音色を奏でる筈」
   (そうですねぇ、ケロケロ湖のキノコフスキー先生なんてどうです
    オーケストラー調の音楽とか雰囲気が出て良いかなーって)




「ガッハッハ、なんだか金の匂いがするじゃねーか!」





「「「「あっ!」」」」


ワリオ「俺だよ!ワリオだよ!」

クリボー「ワリオさんじゃねーッスか」

キノピオ「どうしたんですか?手にスコップと肥料なんか持って?」


ワリオ「…あー、気にすんな、これはちょっと事業に失敗しただけだ」

キノピオ「…?はぁ、分かりました…」

ワリオ「んな事よりよォ、お前等良いバンドメンバー探してんだって?」

ワリオ「実はよ、知ってんだぜ…安い料金でかなりの質の高い公演を
    やってくれるメンバーをよォ!」

キノピオ「えっ、本当ですか!?」


ワリオ「おうおう!本当本当!んでよ、紹介してやっても良いんだが
    紹介料を払って欲しいのよ分かる?」

キノピオ「え、…えぇ、はい、音楽家の方を雇うのに500コインまで
     使って良いと…」

ワリオ「よォ~しなら、話は早い紹介料で50コイン、更に俺がソイツ等に
    話付けてやろう!交渉、その他諸々でプラス300コインだぜ!」

ノコノコ「それは横暴ではないか?」


ワリオ「オイオイ、言っとくがこいつぁかなり良心的な金額だぜ!
    合計350コイン、この国じゃ何処探しても400コインが良いとこ
    こォ~んな最高の取引は早々ねぇぞ!」

キノピオ「う~ん、分かりました…何だかんだでワリオさん人を見る目は
     ありそうですし」

ワリオ「へへ、毎度!」コイーン








ピポパ…とぅるるるるん、とぅるるるるん!


ガチャ

ワリオ「あっ、もしもし、俺俺、俺だよワリオだよ!」

ワリオ「実はいい話があんだよ…」

―――
――




ワリオ「という訳で、この日にパーティーあるからな
    おたくらに来て貰いたいって訳だ」

ワリオ「『ボンゴ』『エレキギター』『サキソホン』『トロンボーン』
    それに『トライアングル』…おたくらのバンドなら最高に舞台を
    盛り上げられるだろ?」

ワリオ「んん?報酬?心配すんなってちゃんと
    良質なバナナ用意しとくから、じゃあな!」



    こうしてパーティーの準備は着々と進んでいくのでした


 誰もが笑い合える世界、魔法の時間が始まるのはもうすぐの事でした





           そしてパーティーの前日…
       つまり、カートレースが開催される一日前



クッパ「全軍!明日一日お前達に暇を出す、城の事は良い
    存分に明日と言う日を楽しめ!」

ノコノコ「ほっ、有給を使わずにパーティーに行けそうですね」

テレサ「…♪」フフーン
   (こっちのリボンをつけて行こうかなぁ)




ワリオ「さぁて、出店はどうすっかなぁ…」

ヨッシー「食べれるお店なら何でもいいですよ!」




ルイージ「兄さん」

マリオ「ああ、エンジンの調整に行くとしようか」

ルイージ(…明日…全部、明日なんだな)




ピーチ(………マリオ)

キノじい「姫様、夜風にあまり当たるの…」


   皆がそれぞれの想いを持ち明日を迎えようとしていたのでした

  夢のような時間…もしかしたら最後かもしれない夢になるかも、と


「…明日だ、ワシ等の悲願達成の為に…!」

「ゲヒャ…」






ゲドンコ星人「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…ッ!」


    …願わくば、最後に見る夢は悪夢でない事を祈りましょう

*   *  *  *  *  *  *  *  *  *   *

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

*   *  *  *  *  *  *  *  *  *   *



ジュゲム「さぁ皆様!ついにレース大会の日がやって参りましたぁ!」


ジュゲム「実況は私、カメラマン兼司会進行を勤めさせていただく
     ジュゲムでございます!いやぁ、久々のレース実況で
     なにやら気分が高潮する次第です!」


ジュゲム「レース会場周辺の観客席はほぼ満席外には着々と出店の屋台が
     立っていきます!」




カメック「おーい!そっちの機材はこっちだ!」

ハンマーブロスs「「「「うぃーっす!」」」」


   ワッセ ホイサ   ワッセ ホイサ


            エッサ  ホイサ   エッサ ホイサ


       ヘイホー  ヘイホー




ジュゲム「いやぁ、活気に満ちていますねぇ~
     さて、もうじき選手達が来る頃です!
     インタビューの方へ移りましょう!」


―――
――




   「――さて、もうじき選手達が来る頃です!
     インタビューの方へ移りましょう!」




「ねぇねぇ、もうすぐ始まるってよ?」

「僕達も会場の方に行かないの?」

「慌てる出ないわ!…バンドメンバーは最後と決まっておろう!」



「もう…頑固だなぁ、クランキーは」


クランキー・コング「フン、おぬし等若いもんはまるで分かっとらん!」

クランキー「良いか!昔から締めの"おおとり"は
      遅れてやってくるもんじゃ」


「うわぁ、クランキーの長そうな話が始まるよ」ボソボソ

「に、逃げよっか?」ボソボソ



クランキー「これッ!聴いとるのか!馬鹿ザル共!」


「うへっ!やっべぇ…オイラ、こんなトコまで来てお説教は嫌だよ」

「クランキー!ほら、バナナ食べようよ…!船旅で疲れたしさ!」


クランキー「誤魔化すでないわ!…と言いたい所じゃが
      確かに、我々は長旅で疲れとる」


クランキー「今日のライブの為、英気を存分に養うのも良かろう!」



「イエーーーーーイ!」
「やったね!」



クランキー「今夜はこの国の住人をモンキーラップの虜に
      してやろうではないか」


「あっ、クランキー、テレビの音量上げてよ、選手入場が始まるみたい」

クランキー「年寄りにやらせるでないわ!」ピッ

「そう言いつつ、やってくれるクランキー優しいぃっ!」





ジュゲム「えー、画面をご覧の皆様、選手入場です!」


ジュゲム「まず一番手は、クッパ軍団よりドッスン選手です!
     自分の重みに耐えられる専用マシンを使用しており――」

―――
――




【ふるぅつ じゅぅす 屋さん】


ヨッシー「ん~!トロピカルですねぇ」

ワリオ「おい!味わうのは良いけどよ!ちゃんとジュースにしろよ!」

ヨッシー「分かってますよ~もぅっ!」


ワリオ「ったく…」


ヨッシー「ワリオさんは出場しないんですか?」

ワリオ「あぁん?」


ヨッシー「賞金でるんですよ!賞金!」

ワリオ「…けっ!あぁ~んな端金なんぞより、ここでフルーツジュースを
    売った方がコイン稼げると思ったんだよォ!」

ワリオ「最近、暑ぃしよォ、現に客の入りだって良い方だろ」



ヨッシー「この戦いに水を差したくないとかですかね?」



ワリオ「ハァ?」

ヨッシー「今日は、あのルイージを初め
     多くの人がマリオさんに真実を教えようとしている」

ヨッシー「今日くらいは無粋な事せず、純粋に見守りたいとか?」


ワリオ「…」


ワリオ「…ケッ」


ワリオ「マリオの野郎共がどうなろうと俺の知ったこっちゃあねぇよ!」

ワリオ「…」


ワリオ「ただ、周りの人間が一人の野郎中心にアレやこれや
    理由つけて、依存したり…自堕落的だったりよォ」

ワリオ「そういうのは好かねぇんだよ俺は…」

ワリオ「この国の頭、お花畑な住人がどんだけ意識改革できんのか
    見てやろうって気もあんのよ」



ヨッシー「…ふぅ、不っ器用ですねぇ」



ワリオ「あぁ!?」

ヨッシー「ワリオさん、そういうの巷で"つんでれ"って言うんですよ」


ワリオ「ケッ!てめーは食えねぇ野郎だぜ!」


ヨッシー「はっはっは!確かに僕は食べれませんよ!
     むしろ、僕は食べる側ですからねぇ!!」


ワリオ「うるせえ!上手い事言ったつもりか!」



「すいませーん、ドルピック島風トロピカルジュースくださーい!」


ワリオ「あっ、はい!ただいま」ニコニコ


ヨッシー「商売人の鑑だなぁ…」ジュース ジャー



―――
――



【クッパ城…の玉座】


     シーン…


クッパ「…」



クッパ「この城、誰もいないと静かなモノだな…」


 部下は全員、今日のお祭り事へ行かせるため
 門番から…自分のちょっとしたお世話係、小間使い、経理担当から
 次期クッパ軍の長になるであろうクッパJrもカメックババに頼み
 祭りへ行かせた…

 今、誰一人いない城内でクッパは座りなれた椅子に座り

 テレビ中継を通しレース大会の中継を見ていた…


クッパ「…フン、偶には独りも良きもの、か」

 誇り高き城主はただ独り…好敵手<トモ>の姿を見るだけであった…


ジュゲム「――以上を持ちまして開会式を終了とします」


ジュゲム「それでは選手の皆様行きますよ!!!!!」





               3






「ねぇ、クランキーはやっぱり、マリオが勝つと思う?」

クランキー「そうじゃのう、断言はできんが有力候補じゃろうて」

「TVで見るのも良いけど、オイラは会場に直接行って見たかったなぁ
 …ディクシーを誘ってデートみたいな感じでさ」ボソ








               2






ヨッシー「お、走り出しますねぇ!」

ワリオ「…」


ヨッシー「ワリオさ「ラジオの音量デカくしたけりゃ勝手にしな!」


ヨッシー「なんだかんだで、ワリオさんも興味あるんじゃないですかー」

ワリオ「ケッ!」







              1








クッパ「…」




クッパ「どんな事であろうとお前を倒すのは我輩だ
             ……敗北は許さんぞ、マリオ!」




             GO!!


轟音…っ!


ランプから発せられる光がグリーンからレッドへと移り変わる


           刹那の瞬間ッ!


各選手は各々の愛機に火を点す!
ある者は勝利の栄冠を獲るために、ある者は己の生き様の為
そして、ある者は超えるべき目標を超すために…エンジンに火を点す!

胸の内にある情熱と変わらぬ熱を…っ!

執念の炎を…っ!


乗り手の熱意をそのまま注ぎ込むように選手達は機体のフットペダルと
強く踏み込み、ハンドルを切る

その刻から"唯の無機質な鉄塊"であるマシン達は
"無機質な鉄塊"ではなくなるのだ、情熱と言う名の火は

          愛機へと燃え移るのだから…っ!





 ワアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!


ジュゲム「スタートです!
         各選手、一斉にスタートいたしましたァ―ー!」


彼らの熱が会場に伝染する
観客は無論、司会兼進行係であるジュゲムでさえも熱に浮かされるのだ




  BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !

―表向きキノコ王国とクッパ軍の協定を記念したレースキノカメ杯…―
―今大会は国が用意したレースを3週した者が栄冠を掴むという到って―
 ―シンプルな大会、道中に選手の行く手を阻む障害があるものの―
―そのどれもが、過去に行われたレースのように機体が大破するような―
―過酷な物ではない、従って【選手の安全は絶対に保障された大会】だ―



ルイージ(なんとか、スタートダッシュは切れたけど…)


ルイージ(…"やっぱり"としか言いようがないね!)キッ!



―サイドミラーを見てルイージは思う、後続には数十台の車両の群れ…―
 ―スタートダッシュ時に一気に群れから飛び出せなかった集団だ―
―レース用の車道故にそれなりに横幅はあるものの、流石に何十台と―
―機体があれば、我先に我先にと道の奪い合い、先に行かせないように―
  ―ワザと後続車両の道を塞ぐような蛇行運転を図る者など…―

―ハッキリ言って、醜い争いの渦中であり、初めの一歩で如何にして―
 ―この集団を抜けられるか…この時点でも勝敗が大きく別れるのだ―





マリオ「…」



  ―サイドミラーではなく、前方を見据える、"やっぱり"居た…―



―ある意味で予想通り、"壁"は…"超えるべき者"は
               ルイージの前を独走するッ!―


ジュゲム「会場の皆様、モニターをご覧ください!」


ピッ!


ジュゲム「えー、現在の上位5位ですがトップは…
     マリオ選手!マリオ選手です!続いてキャサリン選手の機体と
     ワルイージ選手の機体です、丁度並行して走行しておりますが
     僅かにキャサリン選手がリードしております!」


ジュゲム「そして4位は何と以外ッ!!キノピオ選手だァー!」




クリボー「おおぅ!やるじゃねーッスか!」

ノコノコ「ふむ、彼の機体は確か、極限まで邪魔なパーツを取っ払って
     加速性を高めた物でしたね…」

クリボー「あーでも、それって結構ヤバイんじゃね?
      重量が無い分、カーブとか減速しなきゃ事故っちまうかも
     それに、カロンみたいにスッカスッカな骨マシーンなんて
     他の選手に追突でもされたら…なぁ?」







テレサ「フッ!音速の貴公子を極める為には必要な犠牲よ!奴もそれを
    承知した上で奔るのだからな!
    我等は奴の生還を黙って見届ける、ただソレだけよッ!」

   (はわわわ、!た、確かに加速性を高める為には多少の危険は
    あるってキノピオさんも言ってましたけど…
    『僕は絶対に大丈夫だ』っていってました!
    信じましょう!…私達にできるのはそれだけです!)




クリボー「おめぇは一体、何処の味方なんだよ…」(リア充もげろ!)


ノコノコ「愛の力ですなぁ」しみじみ



ジュゲム「上位5名は依然変わらず速度を上げており、後続の集団から
     ますます距離を離して行きます!
     まるでキノコによるブーストでも掛かっているかの如し
     驚きの速度です!」





ピーチ「…」ギュッ

キノじい「…姫、不安なお気持ちは分かりますが今大会は
     マシンが大破するような障害物は無く
     万が一の為にも各地に医療スタッフが派遣されております」

キノじい「ご安心くだされ…」


ピーチ「はい…」


ピーチ(…)





ピーチ(キノじいはこう言っているのに…この胸騒ぎは一体?)ギュッ


―レース開幕から5分が過ぎようとしていた、僅か5分、しかし…
  時速100キロ越えで走る彼らは相当な距離を走行している事になる―



ルイージ「ん?あれは…」



―今大会は障害物がある、選手にはただそれだけを教え、具体的な内容は
一切知らせない、無いようによってはソレを逆手に取られかねないからだ
     


 ―周囲に建築物は一切無く、平坦な道が延々と続くかと思われた―



―しかし! 変化は訪れる…!

―それは【穴】だッ!


―道のど真ん中から、端っこまで幾つもの【穴】が無数に空いている―



   ―こういう時、経験が物を言うとは良く言った物だ…―
―ルイージは【穴】を見てすぐにピンと来た、大きさ、造り…それらが―
    ―あれは【何の穴】であるかすぐに悟らせたのである…―




ルイージ「やれやれ、鬼が出るか蛇が出るか…それとも土竜かな?」


   ―土竜<モグラ>…記憶を失う前の兄と何度も冒険をした…―
―そして、幾度と無く見てきた存在の内の一匹なんだろうとルイージは―
―予見する、穴の大きさ的に車輪を取られ、身動きが取れない事態は―
  ―ない筈である、唯一の心配事はただそれぐらいであった…―







マリオ(…なんだ、この【穴】は…?)


   ―弟と違い、"冒険の記憶"が無いマリオには分からない…―

―それが、何の【穴】であるか、…此処が勝負の分かれ目になるだろう―


マリオ「…単にデコボコで走行し辛い道という訳ではなさそうだな」


―そう言いつつも、速度は決して緩めない…っ!
 警戒はすれど、後ろのライバル達を前に行かせるつもりは微塵も無い―



そして…っ!

            トップは"穴の直前"までたどり着く!




ボコンッ!!




マリオ「!!」


チョロプー「ピィーーーーーー!!」


*********************************


           今回は此処まで!


  ※またしてもミス

 >>46でヨッシーがルイージをさん付けじゃなく呼び捨てにしてますが

   前回同様さんをつけ忘れただけです

   決してヨッシーがルイージを舐めてるわけじゃないです、はい

*********************************


       ―跳びだしたのはチョロプーだった…っ!―


マリオ「ぐっ!」ギュルルルル!


 ―咄嗟の判断、ハンドルを全力で切り、車体は勢いよくスピンする―

―それによりチョロプーはマリオの顔に跳びつけず
 車体に取り付く事となるのだが…車体全体に掛かる強烈なGと遠心力―


  ―それによって、彼はすぐさま、跳ね飛ばされる結果となる―





ブウウウウゥゥゥンン!!

               ギュウウウウンンン!!!

マリオ「ちぃッ抜かされたかっ!」





―直線上に向かっていた車体の運動エネルギーは回転と共に乱れ…
    結果として後方のライバル達に機会を与えてしまったのだ!―




減速…っ! この僅かな出来事でトップは順位を2つ落とす…っ!

 キャサリン、ワルイージの順にマリオを追い抜きそして…っ!



キノピオ「…!マリオさん」

ルイージ「勝たせてもらうぜ…兄さんっ!」


 加速特化型の機体が英雄の隣に並ぶ!背後にはもう一人の英雄

キノピオ&ルイージ「「うおおおおおお!!」」


―二人は思う、英雄<マリオ>が、決して勝てないと思えた敵が…!
  最大の対戦相手が今!何の幸運か自分達の前に"堕ちて"きたと―



マリオ「…ふぅ」

マリオ「どうも勘違いしてたな
    最大のライバルはお前達四人じゃなかった」

             ―しかし…―








マリオ「俺にとってのライバルとは他でもない"俺"だったな…

            俺の…俺の"慢心"こそが最大の敵だ…っ!」





これは断じて幸運などでは無い…眠れる獅子が目覚める瞬間だったのだ


―穴だらけの道、当然だが先ほどのように穴にはチョロプーが潜む
  ただし、全ての穴という訳ではない、当然ながらダミーの穴もある―


マリオ「フンッ」ガッ


     ―フットペダルを踏み込み速度を上げるマリオ―
―同じくマリオに並び走行していたキノピオもフットペダルを踏み込み―
    ―両者共に機体を加速させるッ!…ルイージを除き―


マリオ「…」
キノピオ「…っ!」



―結果は…

      キノピオの圧勝であった!


 元より彼の機体は不要なパーツを全て抜き取り加速性に特化させた機
 この手のパワー比べならば彼が勝利するのは白明の理であった










…そう、これが"ただの相手"ならば、だ!―



ルイージ(キノピオ、勝ちを焦ったね…)


―遠ざかっていく二人の背を見つめるルイージはキノピオの敗北を思う―


―――
――


キノピオ「…うっ!」グンッ

マリオ「…」


  ―両者は機体の出せる可能な限りの最大加速で道を突っ切る―
―マリオとの差は一向に開いていく、キノピオが前へ、そして段々と―
―豆粒みたいな見えたトップと2位の背が大きくなってくる…しかし!―



キノピオ(…ま、まだだ!相手はマリオさんだぞ!
      此処で速度を緩めれば…きっと抜かれる!!)




 彼は知っている、"スーパーマリオ"という人物が今までどれ程の奇跡を
起こしてきたのかを…

 かつて、幾度と無く自国の姫を攫った大王と戦い生還してみせた男

 かつて、"武器世界"より訪れた侵略者達を倒した男

 宇宙人タタンガの撃破、怪力ワリオからマリオランドの奪還
 ドルピック島での事件解決、ゴロツキタウンの地下に眠る"女王"討伐
 マメーリア王国の件、過去から帰れなくなった姫の救出
 …そしてダークスターの事

 例を挙げたら限りが無い…それ程の男なのだ
 "そんな男だと分かっている"だからこそキノピオは速度を緩めない

 否ッッ!緩めなかったのだ!それが敗北に繋がると気付かずに!





     ガコンッ!





キノピオ「!?」


      ―…一瞬、彼は自分の状況が飲み込めなかった―

―身体に衝撃が走り、視界がぶれる、そして感じるのは奇妙な浮遊感―

―それもその筈だ…何せ




       彼の機体は横軸に一回転しながら宙を舞ったのだから…




キノピオ「ぅぁ……
        うわああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」



  ―彼の機体の加速性は余分な重量を取り払った事にもよる―
 ―しかし、その分、操作性の悪い物となっており、カーブの際にも―
     ―早目にハンドルを切る必要があったのだ…―

無論、彼だってこのピーキーな機体に慣れるため練習はしていた
 だが彼は"マリオ"というあまりにも大きな存在のプレッシャーに負けた
速度を緩める事なく、突き進み彼の車輪、車体は"穴の上"を通過した


キノピオもマリオもチョロプーの事を危惧し、可能な限り穴を避けていた

もう一度言うが、キノピオの機体はかなりピーキーな性能
 加速すればするほど、ハンドルを切るタイミングはズレる…
穴の真上を通過していると気付かなくなるほどに…


英雄は素人にはまず不可能な加速をしつつ、穴を見事に避け続け
同じくキノピオもそれを実行してはいた、だが…焦りのあまり彼は
操縦ミスを犯し、よりにもよってチョロプーの潜む穴の上を通った

もしも、これが並みの速度で走る機体ならば、飛び跳ねたチョロプーは
キノピオの顔にでも張り付く程度だっただろう…


だが、チョロプーが地表から飛び出すよりも速く
 通過しようとする加速性だ…堅い地層の岩盤を掘りながら飛び出す程の
彼等の力はそのままキノピオの車体を下から突き上げる形になり…!



キノピオ「―ああああああぁぁぁぁぁ!!」



   ガ シ ャ ァ ア ア ア  ア ア ン !



最低限の重さがあれば、宙を舞うことも無かったろうに…


そのまま横軸回転をしながらスッ飛ぶ時速数百キロの弾丸と化した機体は
トップと2位の付近に墜落、爆散…まるでトゲゾーの甲羅でも投げた様だ

キノピオは幸運にも席から跳ね飛ばされて茂みへ…


ルイージ「…さて、行くか」


遠くで起きた爆発、立ち上る黒煙を確認し、ようやくルイージは
フットペダルを踏み込み加速する…


【会場・観客席】






     ガ シ ャ ァ ア ア ア  ア ア ン !





ピーチ「じい!早く救護班を!」ガタッ

キノじい「ひ、姫!落ち着いてください」

ピーチ「あのような光景を見たのです、落ち着いてなどいられません!」

キノじい「ただいま、救護班が向かっておられますじゃ!」



ピーチ「…っ」

キノじい「…お気持ちは痛いほど分かります
     今大会は参加者の安全を考えておりました…
     ですが、あれは我々の予想を上回る異例の事態だったのです」


ピーチ「…ごめんなさい」


キノじい「…謝るのはこのじいの方です…」

ピーチ「…」

ピーチ(マリオ…どうかご無事で…)








ジュゲム「あーっと!?キノピオ選手の機体が大破、炎上したァーッ!」



テレサ「隣国の遣い!?」
   (キノピオさん!?)


クリボー「うおぉっ!?リア充爆発しろとは思ってたけど
     こんなんアリかよ!?」オロオロ

ノコノコ「二人とも落ち着きなさい、キノピオ君なら茂みに落ちただろう
     死んではいませんよ」

クリボー「いや、そうだけどよ!気の合うダチ公が
     あんな事になってんスよ!落ち着けってのは無理だってっ!」




  ノコノコ「此処で私達が慌てた所で何か事態が変わりますか?」



クリボー「ぐっ、それ言われちゃ、ぐぅの音も出ないッス…」





テレサ「約束されし時の運は…自らの手で掴み、変え行く物なり」
   (…だったら"行きましょう"、私達が事態を変える為に…)



クリボー「へっ?」
ノコノコ「テレサ君?」







テレサ「此処で大いなる時を無駄にして何となる?
    口論に時を欠くなら、戦友の下へ駆けつけるのが道理だろう?」

  訳(ノコノコ先輩の言う通り、此処で慌ててても何も変わりません
    なら助けに行きましょうよっ!
    クリボー先輩だってなんだかんだでキノピオさんとお友達でしょ
    お喋りしてる暇があるなら、私達がどうにかしましょうよっ!)





ノコノコ「…やれやれ、テレサ君、君は強い女性ですね」

クリボー「確かにそりゃあ、そうだけどよォ
     どうすりゃ良いんだよ…
     こっからかなり距離あんぞ?車でもあれば話は変わっけど…」




















       ヨッシー「お困りのようですねぇ?」ヌッ









クリボー「ギャアアアアアアア!?!?出たああああぁ!?」

テレサ「しょ!?食人蜥蜴ッ!?」
   (ヨ、ヨッシーさん!?いやああぁぁぁっ!卵投げないでぇ!?)




ノコノコ「あっ、どうもヨッシーさん」ペコリッ

ヨッシー「やぁ、ノコノコさん
     この間はカメカメハーブティーのギフトを送ってもらって
     ありがとうございますね」





クリボー「ゼェ…ゼェ… と、突然出てこないでくださいよォ~
     心臓に悪いッスから…」


テレサ「わ、我等を驚愕させようとは新緑の鱗を持つ竜よ…」
   (そ、そうですよヨッシーさぁん…)



クリボー「つーか、あんた等なんか妙に親しげじゃないッスか?」





ノコノコ「ああ、私達はよく文通してますからね」

ヨッシー「ええ、ノコノコさんからはクッキーに合う茶葉を
     頂いてますね、代わりに此方からお菓子や果物を送りますが」




クリボー「えっ?なにその、裏話的な話、初耳なんスけど?」



ノコノコ「まぁ、仕事と関係ないプライベートな話ですし」


テレサ「貴公ッ!何の目論見あって我等に接触したッ!」
   (あのう…私達に何か御用でしょうか?)オドオド



ヨッシー「移動手段が欲しいと言ってましたね?
           よければ私のカートをお貸ししますよ?」


クリボー「えっ、マジで!?」

ヨッシー「はいっ!…本当は私も参加して1位は無理としても
     ベスト4までに入れば賞金で世界食べ歩き旅行に
     行けると思ってましたが」


ヨッシー「この大会は大事な大会ですからね…地味なルイージさん含め
     その他の人に華を持たせようと辞退したんですよ」


ノコノコ「つまり、調整したカートがあるものの、それは手持ち沙汰に
     なっているということですかな?」

ヨッシー「ええ、クリボー君達に特別に貸してあげます!
      ただ、その代わり…」







    ワリオ「オイ、どうだ!売り上げは上がったか?」







ヨッシー「…ウチの商品を大量に買ってくれませんかね?」ハァ…

ノコノコ「…あー、そういう事ですか」


ヨッシー「フルーツジュースの売り上げが良すぎるもので
     こうして屋台から観客席まで立ち歩きで販売に来てるんですよ
     私のカートをお貸しするので売り上げ向上にご協力を」



クリボー「どんだけ買えばいいんスか?」



ヨッシー「えー、ざっと100名様分買っていただければ…」



クリボー「ちょっ…!」



ヨッシー「確かにアレな交渉だとは思いますよ?
     でも、それだけ払えば私のカートは"無期限"、しかも壊しても
     修理費その他の請求は一切しません」


ヨッシー「まぁ…新車を購入するような物と思っていただければ…」




 -どうせ私のお古をチェーンナップしただけの物ですし、と-
  -スーパードラゴンのヨッシーは車体のキーを見せます-


ノコノコ「…はぁ、分かりました」


ノコノコ「ただし、今現金での持ち合わせはありません」


ノコノコ「ですのでクレジットでお願いしますよ?」


ヨッシー「…私が言うのも何ですが、良いんですね?」





ノコノコ「私も、キノピオ君…友達の安否が心配ですからね」ニコ



テレサ「同士よ!」
   (ノコノコ先輩…)

クリボー「…あんた、漢だよ」



―――
――




ヨッシー「此方になります」



  -ヨッシーに案内されついて来たテレサ、クリボー、ノコノコは-
    -友達の下へ行こうとヨッシーのカートを受け取ります…-
 -本来、レース大会に参加する予定だった為、それは会場に納車され-
      -いつでも発進可能な状態になっていました…-


-ヨッシーの卵を連想させる白と緑の水玉模様…ガッチリとした
  やや大型の機体、四輪駆動で見るからにパワー重視といったカート-


-キノピオのカートが加速性に優れた機体なら、これは急斜面の山道
  車輪を取られやすい湿地帯や浜辺の走行に特化したタイプだろう-



クリボー「おおっ!?かっけー!!」


テレサ&ノコノコ「「えっ?」」



-緑と白の水玉模様…お世辞にもお洒落なデザインとは言えない
            どちらかといえばお茶目なデザインである-


ヨッシー「さっすが、クリボー君、センスが分かりますね~」




ノコノコ「…あー、とりあえず行きましょうか?」



ノコノコ「では私が運転しますので」


- 一人乗りというより、二人乗りが可能な大型車にノコノコ
              後ろにクリボー、テレサがしがみ付く-



- 迷わずノコノコが運転席に乗り込んだがこれには理由がある -

  まず、このカートはヨッシー専用に調整されており、当然ながら
 シートの位置、ハンドルの高さ、フットペダルの場所もヨッシー専用…





要は、短身のクリボーではアクセル、ブレーキが踏めても
 ハンドルを操作できないわけだ…



テレサに至っては論外、ハンドルは持てても
       脚が無いからアクセルが踏めない

 (念力で動かせる【キングテレサ】という例外はあるが…)


これ等の理由で二人は運転免許が取れない
 体格的にも条件を満たすのはノコノコだけであった…




ノコノコ「行きますよ?」





 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !





 - 今ッ!三匹のクッパ城門番隊が親友の為に会場を飛び立った…!-






―――
――




救護班A「ぅぐ…」ドサッ


救護班B「こ、此方、キノコ王国医療スタッフ…き、緊急じた―」


ゴスッ!     ドサッ…



「おっと…通信はやめてくれよワシ等も事を起こす前に
  面倒な事になるのは嫌じゃからのう?」




ゲドンコ星人「ゲヒャヒャ・・・」

*********************************


           今回は此処まで!



            [前にも書いた事]

―そのどれもが、過去に行われたレースのように機体が大破するような―
―過酷な物ではない、従って【選手の安全は絶対に保障された大会】だ―

>安全な大会とは一体なんだったのか…



マリオ世界の物価は作品によって違うので

ノコノコがクレジット払いで購入したジュース1杯1コインとは限らない


※100人分は飲み切れないのでクッパ城宛で
 郵送してもらう事にしました


  …関係ないけどあの世界の食べ物はマジで美味しそうだから困る
 【ふっかつドリンク】とか【ヨッシーのクッキー】とか味が気になる

*********************************




ワルイージ「へっ、ようやくチョロプー群を抜けたか!」




熱烈なトップ争いで1位の地位についたのは意外にもワルイージだった


彼とキャサリンはマリオを追い抜いた後、1位の座を賭けて競っていたが
突如、後方より飛んできた来た機体の爆発に巻き込まれた


ワルイージ(まさか、こんな早くに使うとは思わなかったぜ・・・)



彼専用にチェーンアップされた機体の動力部には特注製の仕掛けがある

"一時的にエンジンを暴走寸前までフル稼働させ爆発的な加速力を生む"
そのようなギミックがあるのだ!
 その速さは【ダッシュキノコ】三つ分に相当するっ!



ワルイージ「…チッ、意図的にエンジンを暴走させるから
      あまり使いたくはねぇが無かったが
      アレはしゃーねぇぜ…」


博打好きのワルイージだからこそこんな無理のある装置がつけられている
もっとも・・・今回ばかりは彼の命知らずな性格がつけた機能が
結果的に彼を救ったのだが…



現在トップ争いをするのは3機のマシン・・・



すなわち


1位のワルイージ
2位のマリオ

そして…まだ薄らとしか見えていない緑の影…



キャサリンの機体はキノピオ機の爆発に巻き込まれ炎上
咄嗟の判断で機から降りてリタイアの形となった



マリオ「…次は山道か」


マリオ(…ッ!)ズキッ

マリオ(くそっ!さっきのモグラを見てからまた頭痛がしやがる…)


何処かでアレを見た気がする、だが何処でかが思い出せない

平坦な道から進む度に傾度の増す山道の急カーブも寸分違わない
完璧なコーナーリングで曲がりきる


無駄の無い、僅かな動作で大幅に曲がるでもなく、着実に1位との距離を
埋めていく英雄

彼の機体はキノピオやワルイージ達と違い何の改造も施されていない


つまりッッ!

完全にドライバーの素の技量だけで1位争いの場に居たのだっ!


なだらかな斜面から徐々に傾度は増加していく
 風に揺れる芝生の小波が見えなくなる頃には目に映る世界は…


マリオ「ガードレールがあるから転落の恐れは無いが…
    ここでの障害物は勘弁してほしいな」チラッ



レース用という事もあり少し広めの車道

ガードレールの先は奈落の底である



マリオ「…こんな谷底、マントやしっぽが無けりゃお陀仏…っ!」


不意に声に出した"単語"…




          【マント】?


          【しっぽ】?




自分は何を言っているのだ?


"しっぽ"とは何のことだ?何の動物の尻尾だ?

"マント"だと…?あのヒラヒラした布きれの"マント"?



なぜ、それが無ければお陀仏だというのだ?




マリオ「っ!くそ!俺は一体どうしたって言うんだっ!!」




【最近、テニスやゴルフにパーティーばかりで何かを忘れている】
その忘れている事柄はすごく大事な事だった

そして、時々頭の中に浮かんでは消えるおぼろげな映像<ヴィジョン>…

喉まで出かかって、もう少しで記憶に掛っている霧が晴れるという所で
消えていくソレ等にマリオは苛立ちを隠し切れないのだ


マリオ「…今は、目の前に集中する、ただそれだけだ」


頭痛と胃の中にあるモヤモヤとした感情と戦いながらも
目の前を走る男を見据える



まだ戦いは終わってなどいないのだからッッ!!






―――
――



ルイージ「見えてきたぞ、兄さんと!…顎長男」

超えるべき目標…と
事あるごとに喧嘩を売って来るうっとおしい男にルイ―ジが声を漏らす


以前からワルイージはルイージ…というよりもマリオブラザーズに対して
対抗心を燃やす男であった

テニス大会G・C杯においても彼は優勝の際、トロフィー片手に
わざわざルイージに自慢しに来たのだ
当のルイージは心底どうでも良いと言った顔で軽くあしらったが…
(マリオもクッパも出場しなかったのだからある意味勝って当然である)



ただ…長い顎と悪人面であることを除けば意外とマメな一面もある男

そんな努力家でもある


ルイージ「あの男の事だ、機体に仕掛けの一つや二つはあっても良い筈」

何にしてもルイージにとってこれは好機だった
1位と2位の差は最初こそ開いていたがドライバーの腕によって
その差はほぼ無いものとされていた

マリオはすぐにワルイージの後ろにつく

だがワルイージも簡単に抜かされる程の間抜けではない



マリオ「もらった!」

ワルイージ「させっかよ!」ギャギャッ!


マリオ(チッ!進路妨害め…!)


英雄は加速させて紫の機を追い抜こうとする

だが相手はそれを見逃さない


相手はハンドルを切り、左右へ動く


マリオの進路を塞ぐようにであるッ!





ハンドルを右へ切って走れば前方の機体も追い抜かれまいと右へ移動
逆に左へ向かえば奴もまた進路を妨害する

牽制…ッ!

フェイントを掛けてもそれを見抜き巧みにマリオをトップへは行かせない


マリオ「やってくれるな!」



仮にマリオが追い抜けたとしてもワルイージには"加速装置"がある
抜かれれば、また抜き返し、道を阻む…!

イタチごっこも良いところである


そんな小競り合いが続けば、トップと2位の速度も落ち
ルイージが彼らに近づけるのもまた必然



ルイージ「利用させてもらうぜ!」


段々と姿が大きく見えてくる2機の機体にルイージは追い上げを掛ける!


三機の距離差もほぼ無いに等しい状態となった頃、変化は訪れる

マリオ「むっ!」

ワルイージ「あぁん?」

ルイージ「トンネルだね・・・」


暗いトンネルの中へと差し掛かる…!



中はまるで夜中の森のように暗く、明かりはせいぜい頼りなく輝く
非常灯の明かりだけである

元々、誰も使わなかった廃止予定の山道を急遽、改装したような物
今、3人は自機に備え付けられたライトのみが頼るべき"目"である


マリオ(ぬぅ…これでは!)

ワルイージ(チィ・・・!おとなしく安全運転を心がけるか!)


ライトで多少前方が見えはするが、それでも不安定な道先に変わりはなく
マリオも先頭の男を追い抜こうと思えば追い抜ける

…追突が原因で機体が大破する可能性を完全に無視すればの話だが

ワルイージもワルイージで後方よりマリオが追い抜きを掛ける可能性を
考えざるを得ない

後ろからのライトで相手の位置はおぼろげにわかるが…

向こうがライトを消せばどうだ?

完全に位置は解らなくなり

左右どちらから抜けるか分からなくなる



ワルイージにせよ、マリオにせよライト一つ消すか否かで
相手から自分の位置を悟らせにくい状況は作れる






 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !


 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !


 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !


三機のエンジン音が暗闇の中で喚く

依然として動かない順位!

停滞するそれぞれの関係・・・!


ルイージ「…!出口か!」


微かに暗いトンネル内に光が入り込む

ルイージの目先の光景は…
トップを走るワルイージ、そして彼から少し右後方にマリオ…


ルイージ「…!賭けに出るか!」




一か八かの賭け・・・それは…!




ルイージ「はぁあ!」


一気にフットペダルを踏み込み追い上げの加速を行う!


マリオ「なっ!」
ワルイージ「あんだとぉ!?」


ワルイージとマリオ・・・この二人が今やっていることは
"追い抜かれぬように進路を阻む" "前方の相手を追い抜く"この二つ

先程も言ったようにマリオが右側へ寄って走ればワルイージも
追い抜きを阻止すべく右へ

逆に左に行けば奴もまた左側へと沿って走行する





ルイージ(…"察して"くれよ…兄さんっ!)





…ならば"両側から攻めれば良いのだ"


ワルイージから見て右側にマリオ!
そして左側からルイージが急加速で追い抜きを仕掛けるッッ!


右か左か進路妨害をしてやれるのは当然一人であり
必然的にマリオかルイージのどちらかはトップへと躍り出る

そしてどちらか一方が前へ出てしまえばいつまでもイタチごっこなど
している場合ではなくなる、何が何でも1位に戻るため
ワルイージはあれやこれやと苦労する事になる

残った双子の片割れを妨害してる暇など無いほどに、だ…



マリオ「…そういうことか!ルイージ!!」


これは一種の賭け、どちらか一人しか進めないなら当然マリオをトップに
戻し、ルイージは3位のままで終わるという
兄に打ち勝とうとする弟にとって皮肉な結末にもなり得る…ッ!


全ては…



ルイージ「奴<ワルイージ>次第だッ!」



ワルイージ「ぐぅっ…っそぉ…」



ワルイージ「くそぉ!くそぉぉ!クソクソぉ!ドクソ野郎がァ!」



ルイージの思惑に気が付きワルイージは吼える


ワルイージ(畜生!どうすりゃあイイってんだ!)

記憶があろうと無かろうと決して変わらないモノは存在する…




        ―双子の英雄<マリオブラザーズ>―



彼らの警戒すべき点はそのコンビネーションにある・・・!

長年の付き合いだからこそ、お互いの思惑が理解できる


かつて大魔王クッパを…!

マメ―リアで暗躍するゲラゲモーナ一味を…!

宇宙から舞い降りてきたゲドンコを打倒した時だってそうだ!



"この二人だからできる事"



人はこれを次のように呼んだ・・・ッ!




  【ブラザーアタック】と…ッ!





ルイージ「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

マリオ「っっつああああああああああぁぁ!!!」


左から猛接近の弟
右は隙あらばワルイージを追い抜く姿勢の兄!


そこには記憶の有無など関係ないッ!


マクラノ島での【ジェットボード】やクッパの体内を冒険した時の
【はね~るメット】や【ぶんしんタルたいほう】さらに言えば
幾多もの敵を蹴散らした【あちこちウィンドウ】…


今、ここに歴戦の兄弟が牙を向くッ!!



ワルイージ(っざけんな、記憶喪失野郎め!
      こんな時だけ息ピッタリの連携してんじゃねぇよ!!)


 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !



ワルイージ(チィ!どうするよ!?マリオかルイージか…!)

抜かれるのは最早確定的…ならばどちらがトップへ行く事を許すかだ


ルイージ「貰ったァぁぁぁぁぁ!!」

ワルイージ「やらせるわきゃねぇえだろうがぁ!!!」


ギュゥウウウウンン



ワルイージはハンドルを大きく切る











        マリオ「…前へは俺が行かせてもらう・・・」





栄光の1位へ舞い戻ったのは兄であった


ワルイージは(苦肉の策だか)記憶喪失であるマリオを前へ行かせた
本調子でない英雄など恐るるに足らない

いざとなれば加速装置で横に並ぶことはできる…


そこで彼は警戒すべき相手をルイージ一人と定める



ワルイージ「残念だったなァ!緑の弟よォ!!」


ルイージ「ぐっ・・・」


ルイージ(僕は……
        賭けに負けたのか…!)


奴はマリオの先行を許し、ルイージの行く手を阻む…

ルイージにとって皮肉な結末で終わったのだ…





マリオ「むっ!トンネルを抜けるか!」


暗いトンネルを抜け、初めに拝むのは日の光だ…
時間にして7~8分だったのかもしれない
それでも闇に目を慣らしていた彼らの目を眩ませるには十分すぎる

マリオ「…今なら地中から飛び出すモグラが
        サングラスを掛ける理由も頷けるな」


穴だらけの地点で飛び出してきた"チョロプー"達の出で立ちを思い出す
彼らがサングラスを掛ける真の理由が何かは知らないが
マリオはそんな皮肉めいた事を呟き、機体の速度を上げる


此処から先は下り道だ…


―――
――



マリオ等が白熱とした戦いを繰り広げる頃、所変わってチョロプー群…


「あいたた…」ヨロ…


「…僕のマシーン、壊れちゃったなぁ…」


真っ白な頭に赤い斑点模様…機体が爆散する前に投げ飛ばされた
キノピオその人だった…

キノピオ「はぁ~これで、僕もリタイアかぁ…」




      「あらぁ…でも、恰好良かったわよん♪」



キノピオ「えへへ、そう言ってもらえるとすごく嬉しい…って!?」



がさっ・・・


茂みの奥から姿を現す声の主

頭に特徴的な大き目のリボン
トカゲ等の爬虫類に見られるような長い尻尾
ピンク…というよりかは小豆色に近い体色に真っ白なお腹
大き目な瞳と大きな口

そして長い睫にアイシャドーを塗った目元がチャームポイント


そう…彼女(?)は!



キノピオ「キャサリンさん!」


キャサリン「あらぁん、キャ・ッ・シ・ーって呼んで♪」


キノピオの機体の爆発に自機を巻き込まれワルイージとのトップ争いから
惜しくも身を引く事を余儀なくされた彼女(・・・彼?)であった


キャサリン「キノちゃんも中々恰好良かったわよ?
       ヨッシーちゃんには劣るけどね」


パチンっ、とウインクをしながらキノピオの健闘ぶりを讃える
キャサリンにキノピオは照れる


キノピオ「あはは…ありがとうございます!」

キャサリン「機体は壊れちゃったけど…お迎えって来るのかしら?」

キノピオ「ええ、こんな事になっちゃったし…たぶん医療スタッフの方も
     一緒に来てくれるとは思うんですけどね…」


ガス欠やタイヤのパンク等でリタイアするしかない参加者が出た時に備え
ある程度、国のスタッフが動けるようにはしている
 機体が爆発するというのは想定外だっただろうが…

まぁ、なんにしても迎えが来るまで二人は此処で
暇を持て余す事になるだろう


キノピオ「そういえばキャサリンさんは
      どうして大会に参加なさったんです?」

キャサリン「いやぁ~ん、それを乙女に訊いちゃう?」クネクネ

彼女(オカマ…?)は体をくねらせて照れくさそうに語ってくれた
優勝は無理でも入賞入りを果たし
その賞金でヨッシーとデートに行こうとしていた、と…

キャサリン「ほらぁ、ヨッシーちゃんってモリモリ食べるじゃない?
      だからお金がたくさん欲しくて…」

キノピオ「はぁ…そうですねぇ」


つまるところ、この恐竜族は思い人(?)とのデートの資金稼ぎの為に
参加していたらしい、そして惚気(?)話を延々と暫く聴かされた後…



キャサリン「・・・あらん?何か聴こえるわね…エンジン音?」ピクッ



      roooo……


   キノピオ「…!キノコ王国の救護班ですかね!」





        rooooooo………!





   キャサリン「…いえ、ちょっと待ちなさい…これ…」







   キャサリン「普通の車のエンジン音じゃないわよ…」



  恐竜族のキャサリンは自慢の耳で音を聞き分ける

   キャサリンの口調は気づけばゆったりとした物では無くなっていた




    ROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !





    遠い向こうから近づいてくる"車体"が見える…


    そして…その"車体"に掲げられている"旗"をキノピオは見るッ!





   キノピオ「あっ!? あの旗は…! あの"国旗"は…!」



   キャサリン「あれは…!車じゃないわ!あれは…!!」



GOROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !




 キャサリン「あれは…! "戦車" だわッッ!!!」




通常のカートの何倍もの出力を持つエンジンが高らかに轟音を響かせ
【戦争の為の兵器】が地を走って行くッ!


 その機体は…!







          "旧"クッパ帝国軍の国旗を掲げて…ッッ!!






            キノピオ「せ!?せせせ、戦車!?」





立ち上る土煙、辺りに唸る轟音…遠目に見えていたシルエットは徐々に
近く、大きく、より鮮明に見えてくる

鋼鉄製の車輪…ゴム製の履帯

しかし、装甲の殆どは木材…ベニヤ板のようなモノ
丸太を縄で括りつけて縛ったかのようなモノを使用しており
金属の光沢が目立つのは車両の先端に設備された砲塔を初め
上層部のハッチ等の一部の部分であった





 それは、まるで…"敗戦し大破した戦車"を乏しい資材で辛うじて
走行できるように応急処置をしたかのような…
 言ってしまえば急ごしらえな見てくれであった




キャサリン「な、なによ!なんなのよアレッ!」



肉眼で捉えられるだけでも10両…小型の戦車が6
残りは砲が2門以上の大型だ



キノピオ「わ、分かりません!!あ、いや、分かりますけど…
     でも理解できません!!」

キャサリン「キノちゃん、どういう事…!」


キノピオ「え、えっと…まず、あの戦車なんですが僕はアレが
     何処の軍のモノなのか分かるんです
        でも、それはありえない事で…」


突然の兵器の登場に驚きを隠せず、同様するキノピオ
彼にキャサリンは落ち着いて説明するように諭す


キノピオ「は、はい…まず、あれは"旧"クッパ軍のモノなんです」

キャサリン「クッパ軍…? じゃあアレってクッパ大王の戦車?
      協定条約はどうなってるのよぉ?」


キノピオ「…  "旧" クッパ軍です…」





 "旧"

 わざわざ、【旧】という所を強調するキノピオは話を続ける


キノピオ「あの武装…あれは今から【10年以上前の武装】なんですよ!」

キャサリン「?…??」

キノピオ「昔…ピーチ姫がクッパに攫われて、マリオさんが
     ルイージさんと共に姫を救出しに向かった時に使われた…

      今はもう、全て廃棄された筈の兵器なんです!」


キノピオ「ありえないんですよ!
     とっくの昔に全部スクラップになった筈なのに…!!」


             …そうです


         これは【過去からの忘れ物】…





「前方に人影を確認ッ!キノコ王国の住人と…?恐竜族でしょうか?
 ピンク色のスーパードラゴンと思わしき者がッ!!」


「……ワシ等の前に現れるとは運がないのう」ハァ…




       かつて、戦う事を誰よりも生きがいとし

      闘争本能を誰よりも誇りとした者達が居た…




「如何いたしますか…?」


「…」



          そう、"彼ら"は帰って来た…




「…」


「ふむ、景気付けにはよいかもしれんのう…」











            「構わん、撃て」












  【過去からの贈り物】は…災厄"達"はキノコ王国に帰って来た…!









  ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン


―――
――



 BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !



クリボー「な、なぁ、…もうちょい詰められないッスかねぇ?」

ノコノコ「無茶言わないでください、これでも詰めている方です」


キノコ王国の城門を抜ける事、数分…
機体から投げ出されたキノピオの元へ向かう3匹は
レースの実況モニターでも見た平坦な道を走っていた…


道中、此処からトップへ躍り出るのは無理だと悟り
リタイアする選手をちらほらと見かける…


最早、他に走る者が居ない車道はただっ広く、それでいて空いている
高速道路となんら変わらない


ノコノコ「元々、2人乗りの機体に無理矢理3人乗ってるんですよ?
     …それにレディに窮屈な思いをさせるのですか?」


テレサ「同士よ…我に気を遣う必要は無いぞ?」
   (あのぅ…私は別に大丈夫ですよ?)


クリボー「ぐっ…それを言われちゃあなぁ…男が廃るっつーか…」


ノコノコ「なら、我慢ですな」


クリボー「…ハァ、そうッスね」








 roooo……




クリボー「あん?」




 rooooooo………!




クリボー「なんか聴こえるような?」


ノコノコ「…?そうですか?私は何も…っ!?」



       キキィィー―――-ッ!!



クリボー「おわああぁぁぁぁー―――っ!?」
テレサ「!?何事!?」




 急ブレーキを掛けられた事で慣性の法則に従い乗っていた三匹は身体が
前のめりになり、シートベルトをしていたノコノコはともかく
 彼に捕まっていたクリボー、そしてテレサは
危うく車体から跳ね飛ばされそうになった



クリボー「なにすんスか!?あぶっねぇなぁ・・・」





ノコノコ「・・・」





ノコノコ「クリボー君、私は疲れているのかな?」


クリボー「ハァ?いきなり何を訳わかんない・・・―――」






青ざめた瞳、見つめる先には彼らクッパ軍にとって懐かしいモノがある





クリボー「・・・マジかよオイ」


テレサ「・・・戦車」





【7匹の子クッパ達】


その昔、クッパ帝国軍はピーチ姫を攫った後、子クッパ七人衆
すなわち【ラリー】【モートン】【ウェンディ】【イギー】【ロイ】
【レミー 】【ルドウィッグ】等が世界各国の国王から魔法の杖を奪い
王達の姿を動物に変え政府の動きを止めるなど本格的な世界侵攻を図った


もっともソレはマリオブラザーズの活躍により失敗に終わったのだが…




今、ノコノコ達の眼差しの先にはその時代の産物があるッッ!!



木製の装甲、スパナを投げる【プー】達の潜む鉄製のハッチ
コストパフォーマンスと生産性のみを重視し、旋回しない砲塔を用いた
自走砲に近い創りの戦車等は確かに過去のクッパ軍のモノであった!



クリボー「ど、どどどどいうことッスかぁ~!?」




突如、目の前に現れた過去からの贈り物


さぞ混乱した事だろう、大戦時代の旧式戦車が平和な時代に出現する

戦車がタイムスリップでもしてきたかのようである



キリキリッ  ガシャンッ!


テレサ「! 砲が我等を狙っているぞ!」
    (せ、先輩!!砲門が私達に…っ!)


ノコノコ「ッ!」グッ



GYUROOOOOOOOoooooooo…!!!!!



予測不可能な事態に陥り、呆けていた彼は後輩の声でハッと我に返り
アクセルを強く踏み込む

刹那…! 機体のマフラーは排気ガスを噴出し
車輪は土埃を上げてその場から発つ



クリボー「のわあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ノコノコ「くっ!振り落とされないようにしっかり掴まってください!」

クリボー「む、無茶言うなああああぁぁぁあああぎゃあああああ!?」


テレサ「うっ…」グッ



彼らがその場から直ぐに発った後だった…







 先程までノコノコ達が居た場に砲弾が着弾し
       黒煙立ち上るクレーターを築き上げたのは…



クリボー「うううううう撃ってキタアァァァァ!?」


一発目の砲弾が放たれ、それを合図としたかのように二発目、三発目と
矢継ぎ早に戦車の群れは砲弾を打ち始める



クリボー「何!何!なんなの!なんなワケ!?何で俺等狙われてんの!」

ノコノコ「そんな事、私だって知りませんよ!!」


跳んでくる火薬の塊を避ける為にブレーキ、アクセルを交互に踏み分け
ハンドルを大航海時代の船長が面舵、取り舵と舵を取るように
命一杯に動かしていく…

故に彼らはジェットコースターの比ではない強力なGに晒される



       ズドオオオオオォォォォン!!



クリボー「ぎにゃああああああああぁぁぁぁぁ!? 今当たりかけた!
     死ぬ死ぬ!誰かヘルプウウウウウウゥゥ!?」


ノコノコ「煩いですよ!!黙ってください!」

*********************************


           今回は此処まで!



            [前にも書いた事]



 今回出た【戦車】


>木製の装甲、スパナを投げる【プー】達の潜む鉄製のハッチ
>コストパフォーマンスと生産性のみを重視し、旋回しない砲塔を用いた
>自走砲に近い創りの戦車等は確かに過去のクッパ軍のモノであった!



    SFC時代のゲーム【マリオ3】のworld8

    つまり暗黒の国に登場した戦車ですね…



 砲から火が出るタイプや砲弾、キラー、ボム兵など
 バリュエーション豊富(?)な戦車が多く出てきますね

*********************************





     ズドオオオオオォォォォン!!



                ズドオオオオオォォォォン!!




轟音唸り、黒煙が立ち上る大地

自分達目掛けて向こうに敵意があるのは明らかだった




クリボー「どうすんの!?どうするんよコレ!?
      このまんまじゃ俺達いつか吹っ飛ばされるっスよ!!」

ノコノコ「くっ…それは分かりますがっ!」グッ



フットペダルを交互に踏み分けハンドルを切る
この動作のみで飛んでくる砲弾を避け続けるノコノコは友人の言葉に
"この後をどうするか"答えを返せずにいる


向こうは戦闘を想定して創られた兵器

対して此方は非武装の競技用の車両…避ける以外に何ができようか?
こういう時に「ジリ貧」という言葉が浮ぶのだろう



ノコノコ「…相手は事もあろうに旧クッパ軍の戦車を使っています」

ノコノコ「問題は…アレを使っている連中が何者かです」



可能性として考えられるのは3点

・自分達は知らされていないが上層部の判断



 クッパが協定で「お互い仲良くしましょうね」と油断させ
その間にキノコ王国を攻め落とすという策を練っていた


個人的にこれはありえないと彼は考える

まず、ピーチ姫を攫っていない…
彼女を捕らえる前に行動を起こすのはクッパらしくない

マリオブラザーズを頼みの綱とし、国防能力があまり高くは無いとはいえ
そんな事をすれば国が警戒態勢を敷く筈だ

攫う前に姫は厳重警備体制の中へ避難させる
(屈強な兵隊揃いのクッパ軍団ならわけなく蹴散らせるが)そこまで
何も考えない程、彼等の使える主君は無能ではない


クッパは内政はともかく戦<イクサ>に関しては頭が回る御仁だ


それにクッパ軍である自分達を攻撃する意図が掴めない…


とすれば消去法で残り2点である可能性がある

すなわち…





   ノコノコ「…テロリスト、ですかねっ!」キッ!




キノコ王国でもクッパ軍団でも無い全くの第3勢力
それが何処で拾ったかしらないが戦車の残骸を回収して
戦闘行為を行っている…



そう考えたッ!




…いや、…本当は"そう思いたかっただけ"

2点の内、ノコノコは可能性の低い方を選びたかった



―――信じたくなかったんだ…




お互い信頼しあっていたと思っていた同じクッパ軍団の仲間が
謀反を起こし、あまつさえ苦楽を共にした仲間の自分達を
吹っ飛ばそうとしているなどと考えたくなかったのだ…



…テロリストである可能性が低い事には当然理由がある

戦車の残骸はマリオ達と闘争を繰り広げた古戦場にあった残骸
ゴミ捨て場の瓦礫を10年分掘り起こしていくなどすれば幾つかは見つかる



それだけならまだ第3勢力の存在と決め付けられるが
あれを修復したとなれば、"旧クッパ軍"時代から所属している技術士
もしくは設計図等のどちらかが必要だ


少なくとも、あの現役時代から現代までのそのままの状態で来たような
復元を見る限りには…




そして如何に簡単な創りとは言え、運用方法を熟知するとなれば
それなりに訓練期間も要する

戦車等が何年前に復元されたか、はたまた昨日今日で直されたかは
知らないが、砲弾を数発撃てるぐらいには
乗りなれた乗員が乗っているのは間違いない


クリボー「…な、なぁ…テロリストって…言うけどよ…ありゃあ…」


テレサ「…同士よ、我等は思考を止めるべきにあらず
    我等の前に立ちはだかる者は何人たりても敵である筈なのだが」
    (ノコノコ先輩…考えたくはありませんが
      あの戦車に乗っている人達は…クッパ軍の人なのでは?)


ノコノコ「…」



ノコノコ(分かっていますよ…、分かってはいるんですよ)


 可能性の低い方とは別の可能性…この協定中に
我らが仕える主君の意に背き、あまつさえ苦楽を共にした同志さえも討つ

 どのような事情か何がどうしてそうなったかさえ分からない
だが、襲ってきたのは紛れも無い"仲間"達…一番否定したい可能性だった



ノコノコ「…クリボー君、君とは長い付き合いだから訊いて置きたい」



ノコノコ「私達は今、旧クッパ軍の兵器を使いクッパ様の名誉を
      貶めようとしている"テロリスト"達に狙われています」


ノコノコ「私達の取れる選択は2つ」




―――"テロリスト"
       半ば家族同然のような同胞達が襲ってきたとは言わない




ノコノコ「このまま、砲弾をどうにか避け続け
             この場から撤退…もしくは」






   ドドドドドドドドド…!

             ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!











   ノコノコ「私達とクッパ様の名誉の為…っ!
                アレを大破する事ですっ!」







クリボー「た、戦うっていうのかよ…ッ!相手は戦車だぜオイ!」


ノコノコ「…君が嫌だというなら私は全力で君達を安全地帯まで逃がす」




ノコノコ「そして、再び戻ってアレを止めます」



クリボー「…ノコノコ」



後輩のテレサ、そして自分と違いサボることなく門番として勤務した
旧知の友を見る…


   ――目には決意の色が見えた

   一度、この目をすると相手がマリオだろうとルイージだろうと
   問題無く吶喊していくのは彼がよく知っていた…







クリボー「…汚ねぇッスよ」



クリボー「あんたぁ、マジに汚ねぇ…」



クリボー「マジで卑怯過ぎッス」



ノコノコ「…」

テレサ「……っ!」オロオロ



クリボー「仲間を逃がして、自分だけ戻って突撃とか…」

クリボー「そんなんモン
      ベタな少年漫画ならそいつぁ死亡フラグじゃねーッスか」




クリボー「俺、自分でも酷いヘタレだって自覚はあるッス」

クリボー「けどよ、そんな事言われて『はい、逃げます』って
      なんつーか、"男が廃る"っつーか…」










クリボー「俺はヘタレッスよ…でもね、ダチ公見捨てて尻尾巻く程
      糞野郎じゃねーッスよ!!!」












ノコノコ「そう言ってくれると思ってました」ニッコリ


クリボー「うわぁ…最高に汚ねぇ…」


ノコノコ「それで、テレサ君、君はどうする?
      レディーは逃げても良いと思いますよ?」



テレサ「わ、我とて誇り高き軍の一員!それに隣国の遣いを見ずに
     帰るなど片腹痛いわ!」
    (わ、私もお手伝いしますっ!キ、キノピオさんだって
      見つけていませんしっ!)




ノコノコ「ふふ、では行きましょうか…!」



 ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン !



戦車の発砲音を背景に彼等はお互いの顔を見る


ああ、自分達は良い友人に恵まれた…

久しく忘れていた感覚、共に力を合わせ共通の強敵へと立ち向かう感触




    【クッパ軍門番3人衆 VS "旧"クッパ軍】・・・ッ!




ノコノコ「ふんっ!」グッッ!


GYUROOOOOOOOoooooooo…!!!!!



クリボー「ぬおおおおぉぉぉぉっ!?」ガクンッ!


勢いよく踏みつけるアクセル
もう何度体験したか…急加速で身体が後ろへと仰け反りそうになるのを
堪え、3匹の門番を乗せた機体が突っ込んでいく






―ノコノコ『良いですか?作戦は大まかに言ってしまえば
       一台でも構いませんので戦車の無力化、奪取です』


―クリボー『簡単に言ってくれますねぇオイ!?』


―テレサ『…どうするのだ?』


―ノコノコ『知っての通り、あの戦車は【プー】がマリオさんを
       迎撃する為のハッチがついています』


―ノコノコ『あそこから内部へ入り込み一台奪う
       その為にはクリボー君、君が要となります』


―クリボー『のわっ!?あっぶねぇ…!また砲弾が真横に落ちたっ…って
      俺ッスかぁ~!?』


―ノコノコ『ある条件が揃ったらあの戦車のすぐ傍まで接近します
       そしたらこの中で身軽な君が戦車へ飛び乗る事』


―ノコノコ『浮遊が可能なテレサ君が適任では?と
       考えるかもしれませんが
       君でなければ駄目な理由がある、それは――』







クリボー「マジにこんなん巧くやれるんですかねぇ…」



自他認めるヘタレ筆頭の彼…ノコノコにああは言ったモノの
やはり怖いモノは怖い…


自然と身体は震えだす…


クリボー(今、相当な速度で走ってるよな…)


クリボー(こんで飛び乗るのに失敗したら俺…)…ゴクッ!


母なる大地にその身を打ち、全身打撲程度では
済まない怪我を負うのは間違いない



クリボー「ええいっ!ままよ!!」


涙を堪え、唾を飲み込み覚悟を決める
  腐っても彼はクッパ軍の一員だ…っ!


―――
――


「戦車長!向こう側が此方に突っ込んできます!」

「なんだと…!? おい、指揮官殿はなんと!?」

「少々お待ちください…!……電報が届きました!
  『ワシ等は本隊と合流しキノコ城へ向かう、1両残してはいく
     おぬし等で確実に仕留めよ』との伝令であります!」


「そうか!ならば撃てぃっ!」


「「「「了解<サー! イエッサー!>」」」」


―――
――


  GOROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !



ノコノコ(…! 2両残して殆どが…っ!)


丁度、自分達が目掛けている車両とそのすぐ傍の1両を残し
散開するように道をそれてこの場を離れる戦車部隊

ノコノコ等を無視し、そのまま整備の行き届いた道から王国への突撃
そしてあえて迂回させ、反対側やまた別の方面から国へ攻め込む進み方


一点から攻めるではなく、東西南北あらゆる方面から攻める事で
国民ならびピーチ姫の脱出ルート防ぎつつ四方八方から侵攻するにより
相手国家を混乱させる一種の心理戦である…



キリキリッ  ガシャンッ!


テレサ「せ、先輩!!ノコノコ先輩!砲が!!」


距離を詰め、その状態で砲門が此方を向く
これにはテレサが素を出してしまう程だ




ノコノコ「まだです!まだ!距離を詰めて…っ!」



ノコノコ(後少し…っ!)



小型戦車6両の内の2両が残るハイウェイ…

自軍の兵器だったからこそ欠点は分かる、あの砲門は旋回しない砲塔を
用いた 自走砲に近い創り…

故に戦車には攻撃パターンが2、3点しかない
敵に接近し、そのまま相手を轢殺…
上部ハッチから【プー】がスパナを投げる、砲塔による発砲…


欠点とはすなわち、機体の懐に潜り込む事である…!

履帯で踏み潰される事さえ注意していれば、真正面でなく真横に居れば
然程、脅威でもないし
 その位置でなら砲に狙い撃ちされる事はなく、車両のすぐ下では
【プー】達にとっても死角となり、仮に気付かれていても
スパナを当てづらいのだ


それに…





―――
――


「せ、戦車長殿!奴等、此方に接近してきます!」

「うろたえるな!非武装の機体に何ができる!」

「で、ですがこれ以上接近されては同士も援護ができなくなります!」

「ぐ、ならば早く撃て!この距離では外すまい!」

―――
――





それに…

    懐に接近すればもう1両の戦車に撃たれる事もなくなる
 同士討ちで戦車を破壊してしまう事になりえるからだ




  ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン !








   ノコノコ「来たッ!今です!テレサ君!」



     テレサ「…っ!はぁあっ!!!」




 放たれた砲弾は真っ直ぐノコノコたちへと向かっていく、そう!
この至近距離では外しようが無い!直撃は確実であったァ!!!


  だが…!






   スウゥゥゥゥ…・ ・ ―― ‐




「せ、戦車長!あ、相手が…!」

「ば、馬鹿な…!」

「き、き、き…」パクパク…











  「 消 え た だ と お お おお オォ ォォ!?!?」











【アイテム:テレサ】

 一定時間、ライバルに姿を認識できなくさせ、なおかつ
 緑甲羅、赤甲羅、バナナの皮、その他の攻撃を受け付けない









  ドオオオオオオオォォォォォン!!

放たれた砲弾は門番3人衆に直撃する筈だった…ッ!!


しかし、直撃の寸前で3人は姿を消す…否ッッッ!




  テレサの念力により彼等に当たる筈だった砲弾は透過したのだッ!

後方で黒煙を上げ地にクレーターを創る!しかし門番3人衆は生きている

 姿は見えずともエンジン音が聞こえるのだッ!



「お、落ち着け!テレサだ!テレサの力を使っているだけに過ぎん!
  砲弾を用意しろ!奴等が現れたらぶち込め!」

「せ、戦車長!砲弾が1つ無くなってます!」

「な、なにィ!?」



【アイテム:テレサ】

 追加効果としてライバルの持っているアイテムを奪う効果がある



テレサ「…ぁ、ぅ」グッタリ
ノコノコ「…お疲れ様です、後は彼に任せましょう…」



ノコノコは友人を見据える、今、敵から奪った
     火薬の塊を持ち飛び移らんとする勇姿を…ッ!

*********************************


           今回は此処まで!



           [前にも書いた事]



>懐に入れば大丈夫

戦車は実際車輪に触れててもダメージを受けませんからね…

横スクロールのステージだから放置してればゲームオーバー(轢殺)
それを注意すれば真っ直ぐにしか飛ばない砲弾や【プー】は脅威じゃない

精々、たまに戦車から飛び出すボム兵くらいですね…あのステージ





  マリオカートで赤甲羅3つをテレサに奪われた時の悔しさは異常

*********************************



 徐々に3人の乗った機体は戦車へと近づく

この時、既にノコノコの策通り戦車からの砲撃は無くなっていた!



唯でさえ姿を認識できなくなった3人(仮に位置を特定できても透過…)
姿を現した頃には相手の懐に飛び込んだ状態、同士討ちを恐れ
もう1両からの援護射撃は来ないだろう






   クリボー「…つ、ついに来ちまった…」ゴクッ




生唾を飲み込む

武者震いが止らない

冷汗が滝のように流れ出す





ノコノコ「クリボー君!飛び移るんだ!」

テレサ「せ、せんぱい…」コホッ



クリボー「…っ! う、うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」ダッ!



かつてクッパ軍団がある男に乗っ取られた事があった
【マメーリア王国】で暗躍し、後に姿を眩ませていた人物
自称天才科学者【ゲラコビッツ】の手によって…


その時に彼も捕らえられ【エクボンの森】の牢へ幽閉された



クリボー(や、やってやる!俺だってクッパ軍なんだ!)



半ば野ざらし、誰の目にも止らぬ森の奥深くで救いを待った時に
主君が解放してくれた事、共に戦った日々は今だって忘れない…そう!




     あの時のように!彼は奮い立ち跳んだッ!




クリボー「うああああああぁぁぁぁ!やっぱ怖えええぇぇぇぇぇ!!」



以前ならば主君が発破をかける為に背中に火炎を吹きかけた事だろう
あの時は本当によく跳んだものだ…



       ヒュウウゥゥゥ…


            ガ ン  ッッ  !!




クリボー「あでっ!?」



クリボー「いっつ~…でも、なんとか飛び乗れたッス」


 敵から奪った火薬の塊も落としてはいない
彼の姿はテレサの効力でまだ敵には見えない…きっと戦車内部では
見えない何かが降ってきたと騒いでいるだろう




―――
――


「なんだ!今の音は!」

「て、敵です!敵が飛び乗ってきました!」


「総員!武器を持――」



戦車長が乗組員に指示を出した頃にはもう遅い
上部ハッチが開かれクリボーが突入する!

ご丁重に火気厳禁の砲弾まで抱え込んで――




クリボー「動くんじゃねーッスよ!!
      動いたらコイツをブン投げる!っしたらドカンだぞ!」





「ぐっ…!」



クリボー「っ…あんた…!」



乗員を彼は当然見た、どれも全て見知った顔だった…
予測はしていたが"やはりそうだった"、と認識し
彼は内心で落胆する



そして彼等を指揮する【戦車長】の顔を見る



クリボー「どういうことだよ?なんでこんな事すんだよ!」



クリボー「【ブーメランブロス】…!」



ブーメランブロス「…」


クリボー「おい!黙んなよ!なんだってこんなワケわかんねぇ事…!」



ブーメランブロス「栄光のクッパ軍を再興するためだ!」

クリボー「ハァ!?再興!?お前何言ってんだよ!」



ブーメランブロス「我々は覇気を失くしてしまわれた
          クッパ様の目を覚ます為に"指揮官殿"に従った!」


ブーメランブロス「全ては栄光を取り戻す為だ!」


 【戦車長】こと、ブーメランブロスは沈黙を破り、語り出す
徐々に語気を荒げ、雄々しく…息巻くように言葉を紡ぐのだ



ブーメランブロス「なぁ!お前だって同じクッパ軍団なら分かるだろ!」


ブーメランブロス「かつてマリオ達と戦っていた俺達は輝いていた!」


ブーメランブロス「なのにッ!…なのに、だ…ッ!」




彼は…『過ぎ去った栄光』を思い出しながら唇を噛み締める
そしてクリボーへ言うのだった


ブーメランブロス「時が経つにつれて、俺達は…戦場へ出なくなった」


ブーメランブロス「俺だけじゃないッ!俺の仲間も!みんな、みんな!
          戦いを誇りに想い、日々闘争していた俺達がだ!」


ある時は雪と氷に覆われた地で
  ある時は照り付く太陽の下、砂漠のど真ん中でだって戦った


互いに傷つけあい、痛み、苦しみもした



だが…そんなモノは後になって「良い思い出だった」と笑い飛ばせる程
その"瞬間が誇らしかった"…


 自分達は尊敬すべき漢の為に戦い、好敵手と呼べる強者と戦った

そんな"誇り"を持っていた…




ブーメランブロス「俺が最後に戦ったのが何時だか分かるか?」


ブーメランブロス「ルドウィック様達と共に各国を攻めた時を最後に
          俺は戦場から姿を消した…」



ブーメランブロス「兵舎の隅で新人達に在りし日の武勇伝を語り
          またいつかクッパ様の為に戦える、そう信じて
          長い月日を待ち続けて!」








ブーメランブロス「気付けば俺はいい歳したジジイだ…
           自慢の武器はカビ臭い武器庫で埃にまみれ…」







ブーメランブロス「俺は!俺達は"埃"にまみれたかったんじゃない!
           "誇り"の中で生きて居たかったんだ!」

ブーメランブロス「お前なら分かるだろ!?なぁ!?」




クリボー「…わかんねぇッスよ」


 初めてクリボーが戦場に出た時は青臭い小僧と周りに言われた
中でも目の前のブーメランブロスは自分の何倍も生きてた年長者で
自分が馬鹿やるたびに自分を叱ってくれた


ある種の親心みたいなモノだったのかもしれない…


他の兵もいい歳したオッサンばっかで
 青二才だった彼は同僚のノコノコとくだらない話をしてよく笑っていた


クリボー「俺よォ、いつも説教ばっかのあんた等は好きじゃなかったッス
     けど…"いつかはこうなりてぇ"って思える男だと思ってた」


クリボー「矛盾してんのはわぁってる
      先輩面して、聴く側にしちゃ迷惑な…でもちゃんと後輩の事
      考えてくれるオッサンになりてぇって…」



クリボー「それが…なんでこんなテロ紛いな事すんだよ…」




クリボー「栄光? 誇り? そりゃ確かに良いもんだよ…
     けど、こんな風に今の平和をぶっ壊してまで欲しいのかよ…」





      ブーメランブロス「…俺にとっては今の世界は生き辛いんだ」





ブーメランブロス「毎日、テニスやゴルフにパーティばかり…          
         ああ、そうさ!誰もが手を繋いで平和を謳歌する!」


ブーメランブロス「そりゃ、最高に幸せだろうよ、誰一人傷つかないんだ
          でも…そんな世界がやって来て
          暗い物陰の隅に押しやられる奴等はどうだ?」



ブーメランブロス「初めは【アイツは強かった】と敵の心に
         印象を残せる程、華々しく戦った
         だが、時代が流れてしだいに誰からも忘れ去られて」




ブーメランブロス「俺は…そんなの嫌だ、誰だって良いから
          俺達が居た事を記録して欲しいんだ
          俺達の名前を覚えていて欲しいんだよ!」





なんとも言えない気持ちだった…


目の前の口うるさい年上は、クリボーの憧れだ

…確かに気持ちは分からなくなかった、時が経つにつれて彼等が
前線に立たされなくなって、落ちぶれていく姿

もし自分がそんな立場なら認められただろうか?


ブーメランブロス達の"指揮官殿"とやらが
何を考えて行動しているかは分からない…その指揮官も同じなのだろうか




クリボー「おっさん…もうやめようぜ、な?」



ブーメランブロス「…」



クリボー「こいつぁ…この戦車はまだ何処も襲ってないわけじゃん?
      いや、確かに俺らに向かって発砲はしたけどよォ」


クリボー「でもよ? まだキノコ王国には侵攻してねぇじゃんか!
      まだ引き返せるッスよ!!」




彼が目の前の元上司…そしてどれもこれも見知った顔ばかりの乗組員を
見渡しながら言う




クリボー「今なら!今ならまだ引き返せる!俺らだって
      此処であった事を黙ってっから!
       無かった事にすっから!だからさァ!」






 「クリボー君、それは流石に厳しいかと思いますよ」カンカン…





クリボー「…ノコノコ」




ノコノコ「…っと、ご無沙汰しておりますブーメランブロス教官殿」



戦車のハッチが開き、鉄梯子を降りてくる友人は次のように口を開く



ノコノコ「…仮に我々が口を閉じていても
      "指揮官殿"とやらが教官殿達が今作戦に参加していたと
      口を開けば懲罰は免れません…」


ブーメランブロス「あぁ…わかってるよ」


ノコノコ「このままでは、どうあがいても何かしらの罰は免れません」



ノコノコ「…そこで私からある提案、いえ交渉をしたいのです」

ブーメランブロス「言ってみろ」










ノコノコ「今作戦の最大責任者たる"指揮官殿"とやらが
      どのような人物なのか」


ノコノコ「私たちに"その情報を売って"いただけませんか?」


クリボー「おいおい…」
ブーメランブロス「…ほう?」


  ザワザワ…
               オイオイ…



ノコノコ「先も申し上げたように…どの道、教官殿
     ひいてはこの車両の乗組員皆さんの罰は免れません…」


ノコノコ「ですが、此処で起死回生の策です」




ノコノコ「簡単に言ってしまえば…」



・ クッパ軍内部に元から怪しい動きを働く一派が居た

・ "クッパに誰よりも誠実な忠臣"であるブーメランブロス等が気付く

・ 反クッパ勢力のテロリストに"加入するフリ"をして情報を探っていた


と、言う筋書きを作ってしまえば良いとの事だった




初めからクーデターなど起こす気は更々無く、むしろ阻止すべく動いた
という事にして自分達はそれを裏付ける証人になれば良いと

 相手が何か喚きだしたり証拠を突きつけようとも
全ては欺く為の発言でした!とでも言い後は知らぬ存ぜぬを通す



ノコノコ「悪くない提案だと思いますが?
       元より、軍内部の不審な動きは噂されてましたし
      その一派を見破ったと言っても多少は信憑性もあるかと」



クッパ軍内部に不審な動きがあるという噂は以前からあった
 事実としてクッパがノコヤン等、信頼の置ける腹心達に動きを探らせ
疑わしきを見張るように指示を出していた程だ

 尤も…時代が進むに連れ、人員の増加に伴い
最古参から新人兵までの生活の保障など

気がつけばクッパ一個人だけでは
手に余る程の軍勢に"なり過ぎて"しまったが故に
全員の動きまでは把握しきれなかった

(今でこそエリート3人組と呼ばれる親衛隊も
   過去にゲラコビッツに寝返る事態があった程だ…)




ブーメランブロス「…俺に"指揮官殿"を
         今の俺たちを導いてくれた御方を売れと言うか?」



ノコノコ「…教官殿自身は良いかもしれません、ですが」




ノコノコ「この車両の乗組員はどうなさるおつもりで?」チラッ



「せ、戦車長」
「…ぅ、うぁ…」
「っ!」
「…お、俺たちの処遇…!!」


 それは半ば脅迫に近い強請りだ
この武人然とした壮年の男は情に厚い

だからこそ効果的な言霊をノコノコは選んだ



ノコノコ「人質を取るような形で卑怯とは分っていますが
               その上で言わせていただきます」


ノコノコ「教官殿の個人的なご意見で部下を危険に晒しますか?」






ノコノコ「貴方の仰る【"栄光"のクッパ軍団】とは
              このような軍隊でしたか?」



ノコノコ「それが貴方の"誇り"だと言いますか…!」




ブーメランブロス「…ぐっ」











クリボー「おっさん…俺からも頼む」


クリボー「おっさん達はまだ誰も傷つけてねーじゃん
            だからよォ…まだやり直せるッス」





クリボー「頼むから…こんなこと、もう止めよ?頼むわ本当…」


それは心からの訴えだった


人一倍ヘタレと自負し、戦<イクサ>になることを嫌って
マリオの記憶が戻らなければ良いとさえ言うクリボーの本心







クリボー「俺よ、アンタみてーに誇りとかねぇし
       ノコノコみてーに頭も良くねぇ…
      なんかテレサみたいにスゲェ力もねぇ弱いやつだから」



クリボー「だから戦いなんかやってるより、皆でワイワイ集まって
     パーティーやってるような今が良いって思うのかもしんねぇ」


クリボー「でも、こんだけは言える
      誰も傷つかねーなら、それが一番良い事だ」





クリボー「俺のこの考え、これだけは絶っ対に間違ってないッス」


ノコノコ「…教官殿、お願い致します」ペコッ
クリボー「おっさん!マジ頼む」



ブーメランブロス「俺の先の主張は聴いただろ、二度も言わせるのか」

ブーメランブロス「埃にまみれ、いつしか大事な誇りさえも忘れ
                     抜け殻のように生きる」


ブーメランブロス「生き地獄から救済の手を
             伸べてくださった大恩ある御方を…」



ブーメランブロス「…」




【戦車長は】周りを見た…

再びあの戦地へ…

まるで長年夢にまで見た愛人に逢いに行くが如く恋焦がれた輝かしい戦場



その地を今一度、踏みしめたい、手に汗を握らざるを得ないあの熱を
もう一度だけ掴みたい…ッ!


そんな個人的な感情で動いた自分に
黙ってついてきてくれた【愛すべき乗組員達を】彼は見た






     ブーメランブロス「…お前達の要求は呑めん」






クリボー「…っ、んでだよ!」

ノコノコ「左様ですか…」



 ブーメランブロス「お前達に指揮官殿を売ることはできんっ!
            そして!貴様等に言うことがある!」









 ブーメランブロス「…此処に居る、搭乗員は…
          こいつ等は全員【俺に脅されて仕方なくやった】」






「せ、戦車長!!」「まっ、待ってくだせぇ!!」「違う!俺達は!」






 ブーメランブロス「こいつ等は俺に脅されて強制的に働かされた!
                  罰を受けるのは俺だけだッ!!」



俺がやった…ッ!そう主張する戦車長

その一方で真逆の証言を矢継ぎ早に口にしていく乗組員達…



どちらの言い分が事実かは最早言うまい



ノコノコ「…分りました、この件はそう報告させていただきます」



ブーメランブロス「…恩に着る」



一人の兵として、一人の"漢"として導いてくれた人は売りたくなかった
そして、忠義を誓うべきクッパへの謀反でもあると心のどこかで
理解し切っている…だから罰も甘んじて受ける



だが…ッ!



部下だけは…ッ! 部下だけは巻き込まない…ッ!


彼の心はそのような結論へとたどり着いた




クリボー「…こっからどうすんだよ」


ノコノコ「まずは…キノコ王国とクッパ様…
         そしてマリオ殿に事を伝えます」


ノコノコ「このような事態ではレース大会も何も
            あったもんじゃありませんからね」



 身柄を拘束させて貰いますと…ノコノコが戦車長の身動きを
取れぬようにする、同じように他の乗組員も…


ノコノコ「さ、もう一両の車両も動きを封じましょう?
      外で見張って貰ってるテレサさんにも悪いですしお早めに」




彼等にとって優に10年以上前の懐かしの車両
当時自分達も乗り組んだ戦車の動力キーを外し、完全に無力化した車両を
二人は後にしようとする…




ブーメランブロス「おい」



そして、呼び止められる


ブーメランブロス「ちょっと見ない内に成長したなお前ら」


ノコノコ「お褒めの言葉として頂きます」

クリボー「おっさん…部下想いな所とか変わってなくてよォ
     やっぱアンタかっけぇって思ったわ」


ブーメランブロス「…ふん」


クッパ城の門番3人衆が戦車部隊と戦う少し前に時間は戻る…









  ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン






キノピオ「う、うわあああああぁぁぁ!?」




突如として現れた10年も昔の兵器そして、放たれた弾頭
後、数刻もしない内に自分は爆炎に巻き込まれ焼けてしまうかと覚悟した




 しかし…ッ!!






キャサリン「ふんっっ!」ボンッッ






 キノピオのすぐ近くで【何か】が風を切る音がした


そしてその【何か】は…っ!
 戦車隊とキノピオ等を結ぶ中心線上で弾頭と衝突し
大気を震わせて爆散したッッ!!




キャサリン「…ったく、どこの誰だか知んないけど
           ちょぉっと物騒なんじゃあな~い?」




キノコ王国の住人はほとんどが戦いを経験した事がない


が…


このキノピオは別である…

彼はかつてマリオ、ルイージ、そして自国の姫と共に
【夢の世界】を冒険した事があった



そして今のはその時の冒険で幾度となく目にしたもの…
キャサリンの【タマゴ】砲撃である!!



キャサリン「キノちゃん、立てる?」

キノピオ「は、はい…なんとか」



キャサリン「それじゃあさ、ちょっと悪いんだけどお願いがあるのよね」



キャサリンは空を…目を細め、遠い向こうの先にある場所を見据える



キャサリン「なぁ~んか緊急事態みたいだし、ヨッシーちゃん達に
       この事を知らせてほしいのよ」


キノピオ「知らせる…どうやってですか?」





目の前の軍機は明らかに攻撃の意志を持っている
向こうは乗り物、此方は徒歩…

亀とチーターを同時によーいどん!で走らせたらどちらが早いかは明確で
まだ多少距離があろうとも逃げ切れるか否かと言えば…それは…



キャサリン「んもぅ!やぁね!忘れちゃったの?」


キャサリンがそんなキノピオの考えに気が付いたのか次のように言うのだ





キャサリン「思い出して?彼方達が私と戦った時の事を…」



キノピオ「…!!まさか!」


キャサリン「そっ!その、ま・さ・か!彼方くらいの子なら小さいから
      よーく飛んでいくわよ?」クスッ




キノピオ「で、でもそしたらキャサリンさ――」



キャサリン「良いから、行きなさい、ちょっと気になる事があるのよ」チラッ


 鮮やかな体色を持つ竜人は火を噴いた戦車を見据えて口にした
その時だけ、声のトーンが落ちていた事にキノピオは気づかなかった


キノピオ「……わかりました、でも無事で居てくださいね?」


―――
――


「?なんじゃ、あいつ等はなにをしとるんじゃ?」

「…!? ま、まずいぜ!おい指揮官さんよォ!早いとこアイツ等
  ふっ飛ばしちまわないと不味いぜ!キノコ王国まで高跳びされちまう!」

「なにぃ?それはどういう事じゃ?」

―――
――



キャサリン「風よおーし、距離よおーし、方向よおーし
       キノちゃん!準備良いわね?」

キノピオ「はいっ!」


キャサリンの頭部の上にキノピオが乗っていた…

戦車に搭乗していた"旧"クッパ軍の指揮官はそれを見て
何が狙いかと訝しむ


そして、指揮官に協力する一人の男が相手の思惑に気が付くのだ!



キャサリン「ふんッッッッッ!!!」




大きく息を吸い込んだ後に吐き出すブレスのように
筒状の大きな口から複数の卵を吐き出す!

瞬きすら惜しい一瞬の間に打ち出された卵<ダンガン>の数は優に7つ!
戦車砲と同等の威力を持つソレは放たれたァ…ッ!!



―――
――


「彼奴等がなにを企んでおるかは知らぬだが
  数の上ではワシ等が有利じゃ、撃ち落とせぃ!」

「はっ!!」

―――
――



  戦争が始まった!

まるでそうとしか言いようの無い光景
方や飛ばすものはタマゴ、もう片方は無機質な火薬の塊

 それはSF映画のように全弾空中で衝突しあい
辺り一面を爆炎と薬莢の匂いに包ませる
赤黒い煙がお互いの姿を見せなくさせ、狙いも次第に定まらなくなる




それこそがキャサリンの狙いだった!!



キャサリン「げほっ…あー、久しぶりにやったから結構キツイわねコレ」

キャサリン「タマゴ連射撃ちなんて…これ以上できないかも」

キノピオ「キャサリンさん…」

キャサリン「大丈夫よぉ、ちゃーんと最後の一発分は残してるから」



キャサリン「しっかり頼むわよ!」

キノピオ「…ご無事で!」



煙でお互いの姿が見えにくいこの状況で最後に打ち出すタマゴ
それは…!!





   キャサリン「キノコ王国上空行~発射しまぁす!!」




キノピオをタマゴの上に乗せての砲撃!
【確実】にこの事態を報告できる人物を逃す最後の一手であった!!



キノピオ「うぐぅっ!?」


 撃ち出された卵には小さな少年、彼は数年前の出来事を思い出す
マリオブラザーズと姫…その護衛としてピクニックへ行き
見知らぬ洞窟の奥にある扉を開けた事


そして夢の世界"サブコン"へ誘われた日の事を…



キノピオ(…ははっ、そういえばあの時もこんな感じでしたっけね!)



背後からは激しい轟音と煙が絶え間なく上がり続ける…
あれはもう戦争と呼んでも差し支えない戦闘と化していた




キノピオ(…キャサリンさん、必ず王国に事の次第をお伝えしますっ
      どうかご無事で!)


風を切る音と大気の中を突っ切りながらも彼は振り返る
己を命掛けで逃してくれた恩人が居た地を‥っ!



もう…戦車の影すら豆粒のように見えてしまう程
              遠ざかっていくというのに









 さて、読者諸氏よッッッ!!

キノピオは…キャサリンの無事を強く祈った…っ!


先も述べた通り、彼は多くのキノコ王国国民の中で最も"戦闘"を経験した
住民であり、その初陣とも言うべき舞台が夢の国サブコンであり

そして初めて苦戦した相手もまたキャサリンであった…っ!


ゆえに彼女(オカマ?)の実力の程は嫌という程に理解している


 そう…


 あっけなく…あまりにもあっさり敗北するはずが無いと信じているのだ





「…ちと早いが…造ったブツを使うとするかのう」

「…まさか、アレがオリジナルとはなぁ…確かに見れば面影あるな…」




 だが…






  そんなキノピオの予感は…  あっさりと崩れ去る…


キャサリン「ん、んん?」



ぱたり、と鳴り止んだ砲撃…
 未だ黒煙に覆われた視界はお互いの姿を認識させず
何がどうなっているのか理解させてはくれない

これにキャサリンは首を傾げた




キャサリン(…妙ね?砲撃が止んだ?)


キャサリン「もしかして私を狙うのを諦めちゃったのぉ?」


一人に構ってられないと判断し
戦闘の中断、本来の目的通り王都へ侵攻を再開したか、はたまた
闇雲に撃った卵が幸運にも命中し沈黙させたのか?



キャサリン「けほっ…けほっ…どっちにしても私も早いとこ
       此処から逃げた方が良いかしらね…」



キノピオの前で強がりはしたものの…状況は著しく良くない
長年平和という名のぬるま湯に浸かり鈍った身体
本調子とは言い難いコンディションで卵の連射を繰り出した身だ

 芝や地表の焼け焦げた匂い…チリチリと身を焦がす熱気と舞う火の粉
人より頑丈なドラゴンの身とはいえそれは厳しいモノであった







                        キュルキュル…







キャサリン「っ!」ピクッ



キャサリン(違うッ!まだ健在だわ!)バッ



直ぐに身構え機械音のする方角目掛けて渾身の一撃を放つ…だがっ!







      ゴ オオ オ オ ォォ ッ!


                      べしゃっ!!!!



キャサリン「な、に!?」



自分が撃ち出した卵は何かに衝突し砕ける音がした

 そして煙のベールを突き破り
自分に飛んでくるのは…【巨大な卵】であった


   キュロキュロ…キュルキュル‥‥




 【巨大な卵】が煙のカーテンを突き破りできたのぞき穴から見えた
メタリックなボディー…まだ塗装はされていない肉体は地面でパチパチと
燃え盛る炎に照らされていて、"ソレ"の回りを踊るように火の粉が舞う


無機質な鉄の塊…そして命の光を灯さない不気味な信号を発する目玉
恐らくあの砲塔が二門の大型戦車の中にでも収納されてたのだろう

自分がドンパチしてた戦車よりかは一回り小さめな
だが大の大人の3~4人分はある背丈…



 塗装されていない敵側のその"新兵器"とやらはキュルキュルと車輪を
動かしながらそのシルエットを露わにするのだ…っ!




キャサリン「…何の冗談かしら?笑えないわね」






 そいつの…全容が明らかになり、キャサリンはキノピオに言った
 【気になる事】が確信へ変わる事を悟る…





















       メカキャサリン「…ガガッ ――ピピッ」キュルキュル










自分の撃ち出した卵を粉みじんに粉砕したのは紛れも無くヤツだッッッ!!


無機質な目は命ある此方の姿を認識するや否や紅く輝く…
あたかも『お前の身体も自身の血で紅く染めてやろう』と言うように
 機械の瞳は狂気の紅を彩らせた……ッッ!!




      【 キャサリン  VS メカキャサリン !!!】



          戦  闘  開  始  !!



 - かつて、夢の国サブコンを支配しようとしたモノが居た -


多くの配下を従え、次々と世界を侵攻していく悪夢の軍勢…
連中は文字通り夢の世界の住人で、夢の世界でしか活動はできなかった…



 が…



例外はあった、侵攻を受ける住人が現実の世界から4人の男女に救援を
求めたように侵略者達も現実世界から『儂と共に来い』と

所謂スカウトというモノだ…

その呼びかけに応じたのがキャサリン含めヘイホー達だった…





そして…









    メカキャサリン「… ――ピピッ」キュルキュル…





   メカキャサリン「… ギイイイイイイイイィィィ」ギュンッッッッ!!!!







キャサリン「来たッ!」





自分を模した鉄屑はその世界で創られたモノ
キャサリンが"気になっていた事"というのは……




    "火薬の匂い"だった…





人間ではなくドラゴン族である彼女(彼?)は鼻が人一倍利く
だから"懐かしい火薬の匂い"をずっと感じていた


あの戦車の撃ち出す砲弾が爆散する度に立ち込める焦げ臭さから


   
   メカキャサリン「… ッッッ」ボゥッ‼


今度はタマゴじゃない、真っ黒な砲弾それも
クッパ軍の【マグナムキラー】級のモノが撃ち出される



キャサリン「ぅ、うわああああぁぁぁぁぁ!!」


"本来なら【マグナムキラー】級の火力を
     打ち出せる程の性能は備わっていない"兵器からの高火力


想定外の攻撃だ、当然それに対抗すべく全力で迎撃を図るモノの…




  ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン






キャサリン「――――――ッ」




【キラー】砲の中でも【マグナムキラー】は元々拠点攻撃用として
開発された超弩級の火力を誇る、それをいともたやすく落せるのは精々
マリオブラザースくらいが良い所で…面白いくらいに当たる卵の弾雨で
 多少、速力は落ちたもの勢いを完全に殺す事はできなかった




結果はご覧のありさま…真っ赤なリボン諸共に黒コゲになったドラゴンが
一匹宙に舞う結果となった…



キャサリン「ぅぐッ――――かはっ!」



投げ出されるように宙を舞った身体は固い地面に打ち付けられ
バスケットボールのように2、3回バウンドする…






――眩暈がする、吐き気もする、脚に立ち上がれるだけの力が入らない



キャサリン(…っ、ったく身体中の骨にヒビでも入ったんじゃないのぉ‥
        もうちょっと筋トレでもしとくんだったかしらねぇ)




「よう、カマ野郎!久しぶりだな!」


キャサリン「…」


「んだよ、俺の顔忘れたのか?それとも何か?今のでお陀仏か?」


キャサリン「っさいわねぇ、クソ鼠」




瞼を開くのも正直しんどいわぁ…、っと内心で愚痴を零しながら
薄らと…今回のクーデター騒動に加担した男を

そして、メカキャサリンの製作に関わったソイツを見て
"気になっていた火薬の匂い"は揺るぎない確信になっていた


キャサリン「いつから、クッパ軍に就職したのよ
                 ドン・チュルゲ……!」



 サブコンの侵略者達がキャサリンやヘイホー達に呼びかけ
同じくして現実の世界より導かれし男


灰色の体毛と大きな丸い耳、ミミズの様にうねる尻尾
紫色のグローブをはめた手でサングラスをクイッと上に少しあげて
ソイツはキャサリンを見下ろす…



チュルゲ「別にクッパ軍に就職した訳じゃねーよ
      ここ数年、俺は一度も可愛い息子共を使ってねぇ」


チュルゲ「それがもう…退屈で退屈でよぉ
               死にそうなくらいだったんだぜ」チュッ



 手に持った可愛い可愛い"息子"に父親は真心を込めて唇を落す

爆弾魔として名高い彼奴の"息子"は日光に照らされて鈍い輝きを放つ

丸くて黒い鉄の塊に一本の長い導火線…実にシンプルなデザインだ




キャサリン「知ったこっちゃないわよ…で、その可愛い可愛いガラクタを
      世間様に自慢したいからテロ紛いな事でもやってんの?」



チュルゲ「だな、丁度暇してた時に面白い話を小耳に挟んだ
       んで俺は"指揮官さん"に雇ってもらったつー訳だ」



チュルゲ「良い経験だったぜ?クッパ軍の【キラー】とか
      設計図見せてもらったり、戦車砲に火薬つめたり…」


チュルゲ「俺の理想の生活って奴さ」


チュルゲ「それはそうとあのチビをよくも高跳びさせやがったなオイ」


チュルゲ「面倒な事させやがって…平和ボケした連中が
      驚く顔見れっと思ったのによォ、あ~ちくしょう」グイッ



キャサリン「…レディーの肩掴んでどうする気よ変態」


チュルゲ「変態はテメェだ、テメェは此処に放置してても構わねぇが
     念の為に連れてくぜ、いざとなりゃ人質にゃあ使えっからな」



キャサリン「クソ鼠」ボソ

チュルゲ「うるせぇカマ野郎」






      【 キャサリン  VS メカキャサリン 】


 全く想定外かつ、キャサリン以上の火力を持つ武装での攻撃に屈し…

  キャサリンの敗北…






キャサリン(…キノちゃん…ヨッシーちゃん達に伝えて頂戴ね…)

―――
――

【キノコ王国 ~国道~】


ブロロロロロ…

…十数年前はコンクリートで舗装された車道と言う物は存在しなかった
 だが、時代が進むにつれて近代化は進み、キノコ王国でも
ガソリンエンジンを搭載した機械が道を走るようになった

 カートレースという催し、娯楽が世に広く出回った事もあり
比較的裕福な市民層は貯蓄をはたいて車を購入するようになった

さて、此処で実際に運転を試みた多くの国民が
『でこぼこだらけの砂砂利の上は走りにくい』と王国政府に要望を出した

 国の代表として何度かカートレースに参加した経験を持つピーチ姫は
国民の声を聴いて、確かに…と納得し



  道路の舗装工事、今までなかった"国道"という政策を実地した‥



市民の不満の声の解消もさることながら、流通や国営バスなどの運営面を
考えればやって損のある政策ではないと説き、政治家達を納得させた




こうして、誕生したのがこの国道である



ヨッシー「いやぁ~、わざわざすいませんねぇワリオさん」

ワリオ「へっ!早い完売だったからな急ぎで原料を仕入れるだけだ」




レース会場として工事された道とは違う車道
中央分離帯には紫陽花が植えられていて、梅雨の時期にバスの窓から
それを見るのを楽しむ老人には人気であるそうな…


さて、そんな国道の右車線を一大のバイクが走り抜ける


イエローの塗装に全長2.7m、チタンレスのマフラーは豪快な音をたて
搭乗者はゴーグル付きのヘルメット着用でワイドハンドルを握り
お世辞にも長いと言えない脚をペダルに乗せて走るのであった


ヨッシー「今さらですけど僕達交通違反じゃないですかねー」


ワリオ「あぁん?良いんだよッ!
     どうせニケツなんざ誰だってやってんだろうしよォ」


ワリオ「それより事故らねぇように捕まってろよ!」

ヨッシー「はいはい」



フルーツジュースを販売していた彼らは
原料となる果実の買い出しに向かっていた、本日は雲一つ無い日本晴れ
降り注ぐ日光はさながら真夏日の酷暑に匹敵する暑さで思いのほか
バカ売れしたという訳だ


ヨッシー「しっかし、やっぱりワリオさんはツンデレですねぇ
     原料の買い出しと称して交通事故にあったキノピオ君の安否を
      確認しようとするんですもん」


ワリオ「うるせー!そんなじゃねぇっつってんだろォ!!!」

ヨッシー「はいはい…――おや?」



ワリオ「ったく…国道の途中から車線変更すりゃ近道になる…
     たまたまだ、偶然此処を通るから
        様子見ついでにからかってやろうとだな…」





ヨッシー「何か聴こえませんか?」






ワリオ「あぁ?」







―――――――ン







ヨッシー「何か…こう、風を切るような音…いや、これは…」










―――――――――ゥゥゥゥゥゥン…






      ヨッシー「これは…"落下音"ですかね?」






―――――ヒュウウウウウウウウウウゥゥゥゥン!





ワリオ「!?!?ななななな、なんだありゃあっ!?
                なんか落ちてくるぞオイ!?」
















キノピオ(onタマゴ)「ワリオさーーーん!!ヨッシーさぁぁぁん!!」

*********************************


           今回は此処まで!





           [前にも書いた事]


どうでもいい補足:【ワリオバイク】

 メイドインワリオに出て来るあのバイク、スマブラでも乗ってたりする
 任天堂ホームページで調べて見ましたが製作者曰く
 ワリオは短足で腕も長くないから身体のサイズに合わせた
 バイクを創るのが非常に難しかったとかなんとか…




*********************************


前の時もだけどキノピオの卵移動、USAでキャサリンの卵に乗らないと進めないとこ思い出した
…最初キャサリン倒してしまって進めなくなったわ

このクリボー好きだわ、力を持たない雑魚キャラだからこそ言える台詞だよなぁ。



 僅かな…本当に僅かな"刻"が過ぎ去っていった
彼らが機体の心臓部に熱を灯し走り出しどれ程経っただろうか

 開幕当時は満タンだった化石燃料もその減り具合から
どれだけの排出量で走り続けたか、長距離運転手なら想像に難しくない





マリオ「…?きのせいか?」チラッ



岩、岩、岩…見渡す限りが全て無骨と言って世界
峠のトンネルから飛び出したトップの視界はずっと草木一本生えない
峡谷<キャニオン>を走り続けていた


人工的に拓かれた道、アスファルトの黒と中央に見える一本の白線
それ以外は焦げ茶色の無機質な岩、後は精々空の青さくらいが見えるモノ



 人工的な建物は全く無く、あえて言うなら
今彼らの走る道そのものが人工物と呼べる
それ以外は自然が創造した芸術的な岩の表面だ
 長い年月を雨風が砂塵の一粒一粒を削った至高の一品









マリオが視線を周囲にちらつかせたのは何も
        芸術を堪能したいと思ったからではない







"英雄"の…彼の潜在的に"眠りつづけている"超人的な身体能力が…っ!

彼の聴覚が遠くで"爆発音"のようなモノを感じ取ったからである!





マリオ「…いかんいかん、集中せねば!」グッ



つい先ほども慢心こそが最大の敵だと彼は思い出した
此処で如何に2位、3位と距離を離したとて顔を背けるのは
 今戦っている相手への不敬でもある、そう思いハンドルを強く握る








ワルイージ (ッん畜生がッ!!本当に何の仕掛けもねぇのかよ!!
          あのマシンはよォ!!!!!)



紫のイメージカラーは前方を走る、赤を見つめて心中で悪態つく
彼は虎の子である加速装置を使うタイミングを見計らっていたが‥


ワルイージ(…野郎、まるで隙を見せやがらねェ…!)



先述した通り、ワルイージが特注でチェーンナップした加速装置は
【ダッシュキノコ】3つ分に相当する超加速を発揮する…ッ!


 だが…これは一時的にエンジンを暴走させる諸刃の剣

 この曲がりくねった道で後先も考えずに使おうモノなら
1位の横をぶち抜けるどころかガードレールをぶち抜けて谷底行きだ

如何に命知らずな彼とてそんなアホはやらかさない

彼の夢は対抗心を燃やすマリオブラザーズに自身の優位性を見せつける事




表彰台の天辺で自分より低い位置で悔しそうな顔する兄弟を見下しながら
金ぴかトロフィーに口づけをする事…



粉々になった機体の残骸に埋もれながら硬い地面とキスする事では無い…




ワルイージ(しかも、【ダッシュキノコ】を普通に使うよりも燃費が悪ぃ
       通常の4倍は燃料を消費しちまう…)



何度も連続して使用して、エンジンがお釈迦にならずとも
この一台だけが燃料切れでゴールテープを切れませんでした!なんて事も
有り得るのだ…




だからこそ、十二分に性能を発揮できるタイミングを計りたいのだが

目の前の"赤"は見事な走行テクニックでそれを阻止する…!



相手は此方の切り札が加速装置とは知らないだろうが
もしかしたら何処かで予測…あるいは直感的に感じ取っているのだろう

だから直線状の道に出られそうな時でさえ
ワルイージの加速が殺されるような走り方をするのだ…ッ!







日進月歩、そんなやり取りをする"赤"と"紫"を…"緑"は不快に思った



そのやり取りは正しく"真のライバル"と呼べる漢同士の戦い‥ッ



英雄…マリオとその位置で戦うべきは顎長男ではなく自分だっただろう!
そんな怒りを3位のルイージは思わされた



ルイージ「…くっ!僕じゃ足元にすら及ばないっていうのかッ!」


ご自慢の機体はマフラーからCO2と僅かな水を排出する…
まるで彼の悔恨の情を代弁し涙するようにも思えてくる



ルイージ「…情けないのはドライバーの腕そのもの、か…っ!」


オヤ・マー博士…が特別に造った機体を生かせぬまま、終わるのか?
それを想い、ネガティブな彼が口からポツリと出した言葉







 オヤ・マー『フェッ、フェッ、フェッ!
         しかし君はいつだって謙虚じゃのう?』




  ルイージ『謙虚?僕がですか?』




 オヤ・マー『そうじゃ、君は自分を過少評価し過ぎ取る…』フム



 オヤ・マー『君はいつだって【永遠の2番手】【緑の日陰者】
        そう呼ばれても怒る事無く、それを甘んじておる』



  ルイージ『はははっ、まぁ事実ですよ…!
            実際僕ぁ兄さんと比べれば――』


























        オヤ・マー『それじゃよ…』









 オヤ・マー『何が "兄さんと比べれば" なんじゃ?ん?』




 オヤ・マー『…わしはのぅ、ご覧のとおり研究第一の学者馬鹿じゃ』


オヤ・マー『じゃから、君とあのお化け騒動で初めて出会うまで
      君ら"英雄兄弟"の活躍を知らんかったわい!』フェッフェッフェッ!


 オヤ・マー『新聞も読まずに日々研究じゃからなぁ!』



 オヤ・マー『…じゃからの、わしは
          "捕まった兄を助けに来た勇敢な君"しか知らん』




 オヤ・マー『世間一般ではお兄さんの方が取り上げられとるよ』



 オヤ・マー『新聞の一面で写真に大きく映るのはいつも赤い帽子の彼』


 オヤ・マー『君はいつだってその隣で小さく映る、目立たんようにな』






 オヤ・マー『陰口のようで言いたくないが‥国民の評判も
         お兄さんと比べれば"頼りない"、"影が薄い"と言う』


 オヤ・マー『じゃから思うのじゃよ…皆
         本当に君を理解しとるか?とのぅ…』フェッフェッフェッ!





  ルイージ『…博士』




 オヤ・マー『マリオくんがキングテレサに捕まり
         絵の中に閉じ込められた、あの事件を知る人物は』

 オヤ・マー『わしと君、そして当のマリオくん…
          あ、後キノピオ君じゃな、あの女の子にモテとる』





 オヤ・マー『…"無敵の英雄"を救った、"それ以上の英雄"…
          新聞にもニュースでも報道されない
         わしが初めて出会った"英雄兄弟"は君じゃ』













 オヤ・マー『本当の君はお兄さんより劣った人間なんかじゃない』

 オヤ・マー『君は "強く勇敢で優しい人間" なんじゃよ』

 オヤ・マー『本当なら一対一で戦えば十分お兄さんと互角…
        いや、もしかしたらそれ以上かもしれんのじゃ』




  ルイージ『買いかぶりすぎですよ…』



 オヤ・マー『…君が、そういうのなら多くは言わん
         じゃが君は心の中で思うとるじゃろう?
        いつかは兄さんを越えたい、強くなりたい、と…』







 オヤ・マー『自信を持て、君は勝てる人間なんだ』



BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !



渓谷<キャニオン>に3台のエンジン音が響く…

ルイージは…今、自分が搭乗している機体を
手掛けてくれた老人の激励を思い出していた




ルイージ「…博士、僕は…」




――フェッフェッフェッ!
    君の機体にはあのバキューム同様の特別機能がある…!



―――バキューム…の事は君がよく知っとるじゃろう?
            じゃから、使い方はあえて言わん
                さぁ!今日はレース開催日じゃ!






―――存分に暴れて行け!









ルイージ「……ごめん」



ルイージ「どうも僕はネガティブで
      いつも悪い方悪い方に考えちゃうんだ」







ルイージ「こんなにも最高の機体に乗ってるのに…
      なのにドライバーの僕がこれじゃあ、悪いよな…っ!!」









 ルイージ「博士…僕は…あえて!あえて!
       あなたの特別機能は使いません!実力で倒しますッ!」







このレースでは…!この試合では決して兄に特別な何かでは勝たないッ!

本当の自分だけで勝負するんだ!!

ルイージは消えかけた闘志を再び燃やしだしたッ!



















          ウィン…!  …ウィン!









――それは過去からの贈り物だった









マリオ(…ん?)

ワルイージ(あん?なんだぁ、突然空が暗くなりやがったぞ?)


ルイージ(?今日の天気予報じゃ雨は降らない筈…?)




走路が濡れているか乾いているか、それもドライバーとして
重要な判断基準だ

故に彼ら3人は当然テレビの前で降水確率は確認していた

全国的な晴れ模様…、多少外れることはあろうと
空気に湿った匂いも混じらず、雲の流れも悪くない

そんな天候だった





ワルイージ「!?!?!?!お、オイ!ありゃあ何の冗談だっ!?」




 日光を遮るのは白雲では無かった
人工物など一切無い、無骨な岩の芸術品しかない世界
 そこで見たメタリックな人工物が…青空を切り裂くように飛んでいたのだ











      ゲドンコ星人「「「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…ッ!」」」




 それを見て真っ先に叫んだのはワルイージだった

"何の冗談だ?"まさしく言い得て妙である



既製の航空技術を何世紀分も飛び越した科学技術だ
プロペラ機だとかジェットエンジン、そんなレベルじゃない

レトロなSF映画でお決まりのように宇宙人が乗ってる"空飛ぶ円盤"
それに使われているような反重力装置と言っていいだろう



ルイージ「な、な…なっ!」パクパク




 思わずハンドルを握る手が震えた
唐突に飛来して来た"空飛ぶ円盤"

 これといって彼らは歴史のお勉強は大好きという訳ではない
あくまで世間一般レベルの常識さえ学べば良いだけであって
それ以上の知識を求むのは考古学者志望くらいのモノである


今、目にしてるものはそんな世間一般レベルで学べるモノだ
ハイスクールの教科書にそのシルエットはデカデカと記載されている

十数年前、過去のキノコ王国にやって来た"災厄達"であるッ!!




まるで理解が追い付かないッ!!とでも言ったようにワルイージは呆然と
そして…それ以上の衝撃を受けるルイージ!







ルイージ「ば、馬鹿な…!あり得ない!アイツ等は過去の世界で
                    僕達が倒した筈だっ!!!」








かつて…!【ゲドンコ姫】と【ゲドンコ姫の姉】が住みやすい惑星を求め
遠い宇宙の彼方からキノコ王国へとやって来たのだ

首都や近辺の村、非武装の民間施設、軍事施設問わずに侵攻を初め
一般市民を捕まえては生命力を奪い取り兵器群のエネルギーにするなど

言って見れば旧世紀の非人道的な植民地支配と似たような事を始めた訳だ


決して風化させてはならない恐怖の時代として義務教育で習う歴史の一頁
その象徴が目の前を我が物顔で飛んでいるのだ…冗談にしては度が過ぎる













        マリオ「ぅぁ…あ、頭が…ッ!?」ズキッ





ルイージ「ハッ!に、兄さんッ!」バッ!



まるで自分達を見下すかのように平行して
3人の頭上を飛ぶ忌々しいフォルムから視線を外す…!



あまりにも突飛した出来事…ッ!

故に反応が遅れた…ッ!





マリオ「あ」

















マリオ「うおあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァ――」










ルイージ(っ!な、なんてこった!!)




今の今まで彼らはマリオには事実を隠し続けていた
直ぐに記憶を戻してやるべきだ、戻さない方が良い

これは賛否評論だ

元からルイージ等は命に関わる程の無理をしてほしくないという事も
確かにあった、それに記憶喪失には様々な種類がある

一例だが本人が自身を護る為、無意識に事故に遭った記憶に蓋をする
解離性健忘の場合など
無理に思い出させる事で脳に大きな負担が掛かる場合がある


戻してやるにしてもゆっくりと時間を掛けて戻すように便宜を図るのが
正しいのだ、あのクッパでさえ思い出して欲しいという本心を抑え
好敵手の完全復活の為、協定を結んでいたくらいだ…




だが、これで今までの苦労も水の泡…




キイイイイイイィィ―――ッ ギャギャギャッ!!


ワルイージ「オイオイ!!マリオの野郎…!
        ガードレールに擦りながら走ってやがんぞオイ!」



―――いつだったか誰かが言ってた気がする



悪い事というモノは一度起きてしまえば
     ドミノ倒しのように立て続けに起きる、と






ルイージ(…なんだよコレ)




刹那、ルイージの目には世界が白黒<モノクロ>に映った



友人のヨッシーと自宅のソファーに座って
世間話でもしながらプレイするゲームボーイの画面のように…


世界が白と黒だけで構築されたように思えた






時が長い







一分一秒が長い、永い




音が聴こえない








よく自分達兄弟をライバル視する顎長男が兄に向って何か叫んでる

でも内容が聴こえない




兄が…ハンドルから手を離して頭を抱えている
        目の前の道なんて一切見やしない、手放し運転





兄のカートが真っ白なガードレールに擦る度に火花が出ていく




音は聴こえない、でも"何か"が見ろと叫んでいる気がした


ゆっくりと上空の円盤に視線を向けようとする…

思考回路は通常の速度なのに、首…いや、身体の動きがスローだ


揺れ動く視界もスローだった








































           ゲドンコ星人「…ゲヒャッ」ニタァ…


























 毒々しい紫色キノコに手足が生えたような
一度見たら、忘れたくても忘れられない気色悪い生物が
開かれたハッチから顔を覗かせていた


八重歯のような二本の歯と笑みを浮かべるように歪んだ赤紫色の目

奴は…枯れ木みたいな細長い腕に銃を構えていて…


その銃口は地上に向けられていた


射線の先は僕でも、顎長男でもない…ずっとずっとその先…


  今、一番狙いやすい標的と化した人だった





       ルイージ「止めろおおおおおおおおおぉぉぉッ!!!」









――僕が声を発したと同時だったッ!



奴の手に持つ光線銃が地上目掛けて熱線を放ったのは…っ!





ジイィィィ――――ッ! ジュウウウウゥゥ…!



文字通り、光の速さで降り注いだレーザー光線はいともたやすく
                兄さんの機体の前半分を"溶断"した


熱線で溶断された機体の前半分はそのまま後方へ吹っ飛び
高温で真っ赤になった断面図を見せつけながら走行する僕らの後ろへ
ド派手な音を立てながらこの下り坂を豪快に転げ落ちていく








前輪が無くなった事で嫌な音を立てて前のめりになる機体と
むき出しになった動力部…











奴はそこに無慈悲にも2発目をぶち当てたッッ!














ワルイージ「……マリオの機体が…」

ルイージ「 」





ワルイージ「…粉々にぶっ飛んじまった」


その日、渓谷にガソリンエンジンの爆発による黒煙が立ち上った




キキッーッ!




ルイージ「…」スタッ



ワルイージ「んなっ!?お、オイ!何、カートから降りてんだよォ!?」






ルイージ「」チラッ





【炎上したマリオの機体】ボォォォォォ…!




ブレーキを掛けて、機体を停めて彼は大地の上に降り立つ
逃げるように走行を続ける顎長男がルイージに向かって叫ぶ


が、無視する








ワルイージ「っ…!そ、そりゃあよォ!!

        【マリオが"ぶっ殺されんだ"!】

           動揺すんのはわかっけど逃げねぇと―!」









この時、彼は見た…ッ!



遠い向こうから…更に飛んでくる数機の円盤をッ!


さしずめ、"援軍"という奴なのだろう



ワルイージ「じょ、冗談じゃねぇぞ!流石の俺だって…こんなっ!
                  …死んじまったら元も子もねぇ…っ!」



 命知らずと評される彼でさえ慄く程の大群

 命とは勝算があってこそ賭ける価値がある
初めから犬死が確定している事ならばさしもの彼だって引け腰になる



ワルイージ「お、オイ!!言っとくが俺は警告したかんなっ!!!
          わりぃ事言わねぇからテメェも早く逃げやがれ!」





 別に彼、ワルイージを非難するつもりはない
彼の行動は"人間"として正しい




『死んじまったら元も子もない』その通りである



彼は努力家にして慎重な男だ

 英雄兄弟よりも自分が優れた人間だと世間にアピールしたい
そういう願望を持ちながらも彼がマリオ達と競うのは
『テニス大会』や『サイコロを振るパーティ』…といった具合の
命知らずの癖に本気で命を賭けない闘いだ


必要最低限は賭ける、が

本当に"『常人』には渡れないヤバい橋を渡る"事だけは避けるのだ!


人間なら自分の命を誰よりも大切に想う、当たり前の感情だ

 此処で彼が逃げたとして誰も咎められないし
むしろ賢明な判断と評価できよう








もしも、此処で彼が逃げてなかったとしよう…








それならば彼は間違いなく…





          "叩きのめされた"だろう…ッッッ!














         ルイージ「…」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!





英雄兄弟<マリオブラザーズ>の片割れ…ッ!


その闘いはまさしく鬼神の如しッ!!

見てしまえば彼は叩きのめされた…ッ!


そう…決して努力だけでは勝てない…っ! 圧倒的才能…っ!


 英雄達を越えたいッ!そんな彼の夢、目標は粉々になっただろうッ!




  ゲドンコ星人A「ゲーヒャヒャッwwww!」

  ゲドンコ星人B「ζ†ζΘ§ζ――!!」ゲラゲラ

  ゲドンコ星人C「ケケッ!!」ビシッ!



醜いエイリアン共が母星の語源で何かを言い合っている

 一匹は腹を抱えて大笑い、別の円盤から此方を見る奴も
同じように大口開けて嘲笑う

 そして、先程熱線を命中させた奴は恐らく上官と
思われる奴に何か言われてるのだろう…地上からでは見え辛いが
宇宙船内部に居る何者かに敬礼のポーズをしている


だがッ!そんな事はどうだって良い!!!




  ルイージ「ふぅ…いつだって勝てなかったなぁ」スタスタ

  ルイージ「永遠の2番手、日陰者…」スタスタ


  ルイージ「僕だって人間さ、そうだよ"欲望"はあった」スタスタ



  ルイージ「いつか"勝ちたい"、追い抜きたい目標だった」スクッ




  ルイージ「僕も…あの顎長男と同じで勝ちたいって夢があったさ」





  ルイージ「……僕の、いつか乗り越えてゆく真の目標でもあった」スッ




ルイージは上空に見える円盤目掛けてゆっくりと歩み出す手には今拾った
人間の拳程度の大きさの石ころを抱えて…



奴らが何を話そうがどうでも良い…っ!

連中が何を想おうとどうだって良い…っ!


何故ならばッ!



ゲドンコ星人D「ケヒャ?」ユビサシ


ゲドンコ星人「「「イーーーッ!!!」」」ゲラゲラ!



一匹の宇宙人が歩み寄るルイージに気が付き指を射す
多くの同胞がそれを見て大笑いだ

そして一匹が先ほど、マリオの機体を壊した銃口を向けてッ!





           ゲドンコ星人C「キイイィィツ!!!」ガチャ!

























           ブ ン ッ ッ ッ ッ‼!!





                     ――――ゴスッ!!






















  ゲドンコ星人「「「「ケケケケケケケ!!………ケ ケッ…?」」」」







   ゲドンコ星人C「…ケ、ヒャ?」チラッ
















ゲドンコ星人の宇宙船は地上に居るマリオ等を的確に撃つべく
可能な限りの低空飛行を試みていた






   円盤と地表との距離…高さにしておおよそ20m<メートル>ッッッ!!
           (※約マンション6~7階建てに相当)







ゲドンコ星人が熱線を放つ事は無かった…

引鉄を引く前に自分の真横を何がすっ飛んできたからだ



渓谷のゴツゴツとした岩肌にもその音が反響するかのようだった

目にもとまらぬ速さですっ飛んできたそれは…











  ゲドンコ星人C「!!!!!キ、キイイイイイイイイ!?!?!?!?!」







彼らの宇宙船に大穴をブチ開けていたのだからなッ!!




高さ20m<メートル>も離れた地表からプロ野球選手が全力のストレートを
ブチ込んだ時と同じ態勢のルイージが宇宙船を睨みつけていた…ッッ!!




ルイージ「…うん、兄さんの【ハンマー ナゲール】だったら
               宇宙船の装甲を余裕で貫通してたなぁ」



開かれたハッチのすぐ横…にデカデカと開いた大穴からは
すぐさま火が噴き出す、その後は…簡単だ




 ゲドンコ星人「「「ΣζΠζΠ△▼Θ!!!!」」」



 制御不能となった機体はすぐさま、煙を巻き上げながらゴツゴツとした
岩肌にぶつかりながら谷底へ滑り落ちていく


煙をあげて墜落していく宇宙船
その様は…かつて【ゲドンコ姫の姉】との最終決戦で
                    見た光景を思い出させる








――――奴らが何を話そうがどうでも良い…っ!



―――――連中が何を想おうとどうだって良い…っ!










――――――――何故ならばッ!









  ルイージ「さて…正直、自分で言うのもなんだけど
                 僕はあんま怒らないタチさ」




  ルイージ「…キミ達が一体どうして蘇っただとか
                  何を考えてるだとか」


  ルイージ「そんなモンはどうだって良いさ…重要な事は、そうだね」
















   ルイージ「キミ達は僕に"もう一度倒される"、ただそれだけだよ」










         ルイージ「掛かって来い…ッ!」








………数分後、数機の宇宙船の残骸とクレーターが渓谷にできたそうだ




―――――――――
――――――
――――

 ヒュウウウゥゥゥゥ…




 ― ……ッ!! うぉ…、身体…痛い、な… ―




           キョロキョロ…




 ― 俺…どう なったんだ? 死んだのか どこ見ても真っ暗だ ―



  ― 俺は たしか … … っ 頭 が 痛いっ …ぐっ ―




― た しか   空に 変なのが 飛んできて 光が 俺の機体 ―




 ― ……そう、だ  爆発して 俺の身体は 谷底に 落ちて行って―





 ― っ、身体中 あちこち 痛い  …? 『痛い』? ―


 ―痛み を感じる…? まだ 死んでない? ―




   『ヘイ!マリオ!そろそろ夢から目を覚ましたらどうだい?』


           ―…だ れだ? ―


   『やれやれ…僕達を忘れちゃったのかい?酷いなぁ…
        キミの取り柄は身体の頑丈さだけじゃないだろう?』


      ― 俺 が 知ってる 奴 な、のか?  …


 『そうさ! 僕、いや、僕だけじゃない…
           キミの中に居るたくさんの人さ!』



        ― "俺の中のたくさんの人?" ―



  『ああ!キミの思い出の中に居るよ、僕達はいつだって、ずっと』


   『……おっと、手は貸さないよ?
                 "自分の力"で思い出すんだ!』






『ずっと忘れられたまんまじゃ僕もフカフカ君も寂しいからね!』







           声の主は誰かわからない

       懸命に記憶を辿ろうとするも顔が分からない



  頭の中に靄が掛かったようにその"誰か"を思い出す事ができない
















             だけど…





      ― 俺は…お前を知っている…気がする ―







   胸の奥で熱く、何かが込み上げ来る、何かが叫びをあげる




『焦る必要はないさ!キミは…そうだな少し頑張り過ぎただけなんだ』

『たまには落ち着いてよーく周りを見る事だって大切なんだぜ?』





  『だから焦らないで思い出すんだ…キミならできるさ』







 涙が出そうだった…年甲斐もなく

 いい歳した男が大粒の涙を流しそうになる…


 理由も何も分かりはしない…だが
    思い出してやれない事が無性に悔しく思えた




 遠い昔に忘れてきた大切な何か…


 平和を謳歌する世界の何処かで見失った"落とし物"…






[もう大丈夫です すみません う~ん!泣いた後って すっきり!]



           - っ!  -



 靄が掛かった記憶の片隅に一瞬誰かの姿が見えた気がした…

 見慣れた王国で自分が一人の少年と出会っている






 [キミが助けてくれたのかい! ありがとう!助かったよ!]

 [キミの噂は天空まで届いているよ]



 深い森の奥で自分が一本の弓矢を叩き落とし誰かを救っている


   - …あ、あぁ…お、俺は…!!俺は…!! ―






 靄は次々と消え去り…彼は声の主達の顔を思い出していく…っ!










  - お、俺は…   お前たちを 知っているッ! -










 『…フフッ、やっと思い出してくれたのかい?やれやれだよ…』


 『ぼく達だけじゃないですよ…
   もっと もーっとたくさんの人が貴方の中に居るんです!』


 『キミの強さは…人と人との繋がりさ!
   キミが誰かを護ろうとする想い、そして
         皆が心からキミの事を覚えていようとする想い』



 『昔は小さな子供、今は大きくなってもう大人かもしれない』


 『けどね…"皆"は大人になった今も子供の頃に
    強く憧れたスーパーヒーローを今だって覚えてるんだぜ』


 『誰かを想うからこそ、キミ自身も誰かに強く想われている…』


 『それこそがキミ自身の"誰かの為に頑張ろう"っていう
              力強い意志の源…そうだろう?』



『今は大人で、かつて子供だった…そんなたくさんの"誰か"達』



『キミと一緒に胸躍る大冒険を夢見た子供たちは
   …一緒に冒険した仲間は
     キミの勇姿を決して忘れてなんかいないんだよ』



 - …なのに、俺が忘れてたら、恰好つかないよな…すまん -



 『…さぁ、もう夢から醒める時間だ、行くんだっ!』


 『皆が貴方の帰りを待ってるんですよ!行きましょう!』




 - …! 待ってくれ!!!『---』『--』! -





  記憶の奥に掛かっていた霧は今っ!散り散りになって消えたッ!

 それと同時に声の主は彼の見える所から消えていく…




 ようやく顔を思い出せたのに…



 『うふふ!あの二人だけじゃないわよ!英雄さん!』


           - !! -


 『くすっ!貴方…ちゃんと自分の名前を言えるかしら?』




      - ああ…言えるさ…俺は…っ! -





 マリオ「俺はマリオ…いやッ "スーパーマリオ"なんだ…!」



『…うふっ!安心したわよ?…マリオ、帰り道分かる?
 もしも分からなかったら私が杖で叩いて誘導してあげちゃうわよ♪』



マリオ「…大丈夫だ、昔みたいにバケツを頭から被ってないからな」ニィ



『そっ!安心したわ!なら早く帰りなさい、ルイージ君が一人寂しく
 ゴールで待ってるわよ?』


 真っ暗な世界…見渡す限り闇しかない空間で目の前の人物が
 指し示す方角は光り輝いていていた、そして…


『マリオ!』『マリオさん!』『頑張れ!マリオ』『マリオ、サン!』



 彼の思い出の中に居るたくさんの人が道を切り拓いていく…



一歩、彼は歩み出す


白いグローブをはめた手で帽子の鍔を摘まむように持ち、少しだけ
深く被りなおす



 『たまには会いに来いよ!』
 『僕らのトコに時々で良いから顔を見せなよ!』



二歩目を踏み出す

焦げ茶色の年季の入ったブーツ、すり減った厚底が靴音を鳴らし
彼の身体を光の方へと進ませる



 『マリオサン!もし疲れたらまたバカンスにでも来てくだサイ!』
 『私の所にも遊びに来てよねっ!待ってるんだから!』



ゆったりと歩き出した初歩から少し早めの駆け足気味に

3歩目、4歩目…5歩、6歩、次々とペースを速めていく



 『おーい!オイラ達だっているんだぜ!』
 『ゴンザレス!また闘技場に来い!今度こそ俺が勝ってやるからな』



歩く速度から駆け足に、そして彼は走り出す


何物にも代えることのできない友人達の顔を見渡しながら…


 『アニキ!頑張れよ!』
 『マリオちん!がんばるでしゅ!』


 『マリオ!』
 『マリオさん!』
 『マリオ!!』
 『マリオくん!!』


 誰も彼もがその顔に微笑みを浮かべる


 長らく待ちわびた英雄の帰還を…っ!


 記憶の中の存在である彼等はマリオに次々と激励の言葉を掛け
 腕を伸ばし、勇気を分け与えるかの様に
 ハイタッチをしようとする者も居た


 思い出の彼等に触れる事はできない、その腕は全てすり抜けてしまう


 だが…




     マリオ「ああ、行ってくるさ…っ!」


 決して触れる事は叶わなくとも、"燃え上がるような熱き何か"が
 彼には伝わって来るような気がした




 それが…今は何よりも誇らしかった

―――
――



【渓谷:奈落の底】



…パチッ




マリオ「……」ムクッ



彼は長い眠りから目を醒まし、ゆっくりと身体を起こす



マリオ「…いっ…あたた…落ちた時に腰を思いっ切り打ったか…?」

マリオ「…歳は取りたくないもんだなぁ…」チラッ




        ヒュウウウウゥゥ…




上を見上げる、光はほんの小さな一点のみ、それほどまでに空は遠く
如何に今居る場所が地上からほど遠い場所かを思い知らされる




マリオ「…ゲドンコ星人め…やれやれ
     なんでこの時代に連中が居るんだか…」フゥ…



自機の爆破で奈落の底へと投げ飛ばされ、高さにして
おおよそ高層ビル15階からの飛び降り自殺のようなモノだった

常人なら"腰が痛い"程度で済むレベルでは無い




マリオ「ふぅ…マントや尻尾で空飛んでた時は彼方上空から落下しても
    ビクともしなかったがな…足腰が弱るとコレだもんな」


さも何事でも無いかのように軽い屈伸運動を済ませ、数歩後ずさる




そしてそこから助走をつけて…っ!







  マリオ「…フンッ!」バッ!






  彼は…"飛んだ"


  もはや"跳んだ"ではない、"飛んだ"のだ…ッッッ!!

―――
――


ワルイージ「ひ、ひぃぃぃ…!!!た、たすけてくれぇ!!!」


  ゲドンコ星人「「「ギィィィィ!!!」」」



ワルイージ「ち、ぢぐじょうううう!!なんで俺を追ってくんだよォ」


自慢の【ダッシュキノコ】3つ分相当の加速が可能なエンジンを
フル活用して彼は上空から今も執拗に追い続ける異星人から逃れようと
必死で車体を走らせていた


ワルイージ「クソ!クソ!クソォ!!俺が何したってんだよ!!」


ただカートレースに出てただけなのにこの理不尽なアクシデント
どうこうなる訳でも無いのに叫ばずには居られなかった



ジイィィィ――――ッ! ジュウウウウゥゥ…!


ワルイージ「う、うわぁっ!…あ、あぶねぇ…ッ!」


すぐ真横でアスファルトが煙を発し液状化する…
上空の空飛ぶ円盤から放たれる凶悪な熱線がいつ己の身を焼き滅ぼすか

彼はそれを想像するだけで今にも泣き出してしまいそうだった…


ワルイージ「あぁ!神様でも悪魔でも何でも
           良いから誰か助けてくれぇぃ!!」


マリオ「よっ!ワルイージ、随分困ってそうだな?」シュタッ


ワルイージ「はぁああん!?………っ!?で、でたァ!?」


マリオ「わっ!…っとと、前見て運転しろよ」グラッ


ワルイージ「ま、マリオのお化けがががが…!」ガクガクガク

マリオ「…あー、気持ちは分かるが俺は死んでない
       ほら見ろ、脚だってちゃんとあるだろ?」


ワルイージ「ほ、ほほほ、本当にマリオか!?生きてんのかよォ!?」

マリオ「ああ…壁キックなんて久しぶりにやったよ」


今しがたほぼ垂直な絶壁と言っても差し支えない岩肌を昇り切り
丁度目の前を走ってた彼のマシンへと飛び乗った自慢の剛脚を指さす


マリオ「なぁ、ワルイージ…お前はまだ死にたかないよな?」

ワルイージ「んなモンあたりめーだろボケッ!」



マリオ「…ならこの機体を俺に預けてみないか?
     それで俺が後ろのアレ潰して来てやるぜ」ニィ

久しく忘れていた闘志が彼の中を血液のように廻っていく…


 最近、テニスやゴルフにパーティばかりで忘れていた彼の生きがい…




         冒険の始まりだ…っ!

*********************************


           今回は此処まで!


           マリオついに覚醒ッ!!


           [前にも書いた事]

 ※普通の人間なら高層ビル15階程度の高さから落ちたら死にます

  が……しっぽマリオやらマントやら風船やらで普通に
  雲より上ぐらいまで飛んで落下しても死なないのがマリオですね



 しかし3D系からはちょっとライフが減るようになってしまった(死ぬとは言ってない)




 【渓谷:奈落の底】からの帰還
 ※プロのロッククライマーでも匙を投げる断崖絶壁から壁キックで登ってきました

*********************************
>>117 >>118 ありがとうございます!



ワルイージ「ハァ!?俺のマシンを寄越せだとォ!?」

マリオ「ああ、頼む」





ワルイージ「ぐっ…こ、この野郎…こいつは特注製なんだぞ
            滅多糞に金が掛かったってのにィ~!」

マリオ「金じゃ命は買えないだろう?」ニィ


ワルイージ「そ、そりゃあ、そうだが…」




"金じゃ命は買えない"

 全くのド正論だが、この男がそう言うと何故か
説得力が欠けるように思えるので不思議である
 命知らずの冒険野郎がッ!と自分は棚に上げて彼は内心で悪態を吐いた



ワルイージ「良いかッ!"貸すだけ"だからな!!壊すんじゃねぇぞ!」

マリオ「ああ、十分さ!」




―――
――






ゲドンコ星人D「ギッ?」





一匹の異星人は奇妙なモノを見た

彼等が乗り込んだ機体は未だ"狩り"の真っ最中だった



空想物語によくありがちなシンプルな形状の飛行物体は
依然変わらず高度20m<メートル>を維持、速度は地表を走る自動車に合せる

 航空機特有の翼に掛かる揚力もプロペラも何もあったもんじゃない
現代航空工学を完全に無視したソレに乗り込んでいたパイロット達も
その奇妙なモノに首を傾げた



ゲドンコ星人E「ギギィ?」

ゲドンコ星人F「ウケキャ!!」


 空飛ぶ円盤内部は人間が見れば思わず目を背けたくなるような
毒々しい色合いの電子光で彩られていた


我々、人類が…脳が生理的に嫌悪する、否定したくなるような心理の色

異星人たる彼等には心落ち着くような色合いなのだろうが…


さて、そんな異色な色彩を放つ計器達
【高度計】から【磁気コンパス】…etc、その中で人類が未だ見る事の
叶わないだろう未知の測定器もある

そして…その一つ、テレビ画面のような小さな画面を彼等は凝視する


 小さな窓枠のような正方形のモニタリング
そこから溢れだす色合いだけは人類にとって救いであり
彼等にとっては"ゲドンコ流のテラフォーミング"したくて堪らない光景


愛すべきこの惑星の景色が映し出されていた…



ゲドンコ星人F「ギィィ?」チラッ

ゲドンコ星人E「!…!ケヒャッ!」


ゲドンコ星人F「!!…キヒャヒャッ」ニタァ



モニターに映し出されたのは母なる大地
そして先程まで彼等が執拗に追い回していた一台の"原始的な乗り物"


技術の発達した彼等から見て、あの乗り物は"原始的"なモノだ
そう結論付け、見下していた

その様を象徴するかのように上空から…!



そうッ!まるで…!無邪気な子供が道端で蟻の巣を見つけ
   "お遊び感覚"で潰してやろうとでも言うかのようにッッ!!





 追い回す円盤とそれに乗り込む仲間達と通信機で話していた
誰が一番にアレを壊せるか遊ぼうぜ、っと…



もう一度言う、彼等は正しく"狩り"の真っ最中だった





"狩り"の対象は車輪を停め、その場に留まった

それを画面越しに見て彼らは仲間の顔を見やり笑った




  『ああ、ついにコイツは観念したんだな』っと






ゲドンコ星人F「キッキッ!」ゲラゲラ

ゲドンコ星人E「キャキャキャ!」ゲラゲラ





ゲドンコ星人たちは高らかに笑い、そして獲物を嗤った
低速飛行ゆえに風圧を物ともせず開いたハッチから顔を覗かせていた
同胞に戻って来いと合図を送り…、そして



 ゲドンコ星人D「キーッ!キキキッ!」

 ゲドンコ星人「「「キキッー!」」」


 絶望し、諦めたのであろう相手を完膚無きまでに蹂躙し尽くしてやる
そう考えた残虐な異星人共はあえて破壊力の高い機体に備え付けらえた
熱線銃の方を使い盛大な花火にしてやろうとコンソールを弄る















    読者諸氏よッッッ!!!あえてもう一度言おうッッ!!



 彼等、ゲドンコ星人は……まさしく"狩り"の真っ最中だったッ!








  そう…! "狩り"の真っ最中…『だった』…ッ!























           バシュンッ!ジイィィィ――――ッ!


           ギュィイィィィ――――ッ!










―――指先に掛けられた引鉄は引かれた

―――破滅への光は放たれた



―――フットペダルは強く踏みつけられた

―――急停止からの急加速、エンジンの魂は勢いよく燃え始めた




  ―――――光は放たれ、熱線は砂利をガラス状にするほどに焼き
              地表は爆炎と赤黒い煙を天へと昇らせる


破滅への光は放たれた、そして今ッ!
       "彼等"を殲滅せんとする序章の狼煙が上がったのだッ!


ワルイージ「ぎにゃああああああああああああ!?!?!?」ガクンッ!


【ダッシュキノコ】3つ分相当の超加速に加え背後で起きた爆風を
推力にした常識外れな機動


言葉通り"爆発的な"加速を見せたそれは一気に彼等との距離を稼いだ



元より円盤とワルイージのカートは相当距離を詰められており
遅かれ早かれ、あの状態ではいつ追いつかれてもおかしくなかった

 いくらドライバーの運転テクニックが良かろうと機体性能に差が
有り過ぎるのだ、向こうは障害物もコーナーサイトも無視した
航空機、こっちはそれらを無視できない四輪車









 そこで運転を変わった英雄は特注製のエンジンを最大限に
生かす方法を瞬時に察したのだ

機体性能の特徴を簡潔に言われた彼は考えた

エンジンを意図的に暴走させる急加速も一度使えば暫くの間
クールタイムが必要となる

更に先述の通り、敵は障害物も何も関係なく飛んでくるのだ


このままいけばジリ貧なのは分かり切っていた





だから"一度の加速"で数回分の差を開くことにしたのだッ!




 GYUROOOOOOOOoooooooo―――-!!!!!


どの道追いつかれる程に詰められた距離を逆に利用する

 マリオはワザと機体を停車させ、相手が打ち込んでくる事を狙った
何度も戦い抜いた相手ゆえ諦めた素振りを見せればタチの悪い彼等は
最大火力で殺しにかかって来ると分かっていた


彼等をギリギリの位置まで引きつけ、打ち込んでくる武装の火力による
爆風すらも推進剤の代わりにしてぶっ飛ばすッ!


・停車した事で慢心した敵方は的中させるべく減速する

・宇宙船の主砲を避ける為の急加速で距離を開く

・それに付け加え、背後で起きるであろう爆風でぶっ飛ぶ


通常の【ダッシュキノコ】一回では不可能な距離の取り方が完成である




……当たり前の事だが、ビーム砲は"光の速さ"で跳んでくるのだ
      ちょっとでも加速のタイミングが遅れれば機体は爆散

コンマ0.1秒の遅れも許さない機械のような精密性が必要とされる作業



この赤い帽子の男……ブランクがあるだろうに平然とやってのけた…!


ワルイージ「ヒッ、ヒィィィィ!!ばっきゃろォ!!!
       こんなとこでそんなん使ったらァぁぁあああ!!!!」


曲がりくねった道の多い渓谷の車道

ワルイージも逃れる為とはいえ、ほぼ直進しかない場面でしか
加速装置を使用しなかったのだが…






ワルイージ「あばばばばばば!ぶつかるゥゥゥ!?」

マリオ「大丈夫だ、人間この程度じゃ死なんさ!」ギュィィン!!


そう言って更にペダルを踏みしめ速度を上げる命知らず馬鹿
 ハナっからぶつかる事が前提の発言である


ワルイージは…、今にも失神しそうな彼は薄れゆく意識の中で思った



   ‐ワルイージ『あぁ!神様でも悪魔でも何でも
              良いから誰か助けてくれぇぃ!!』‐



 …確かに神様でも悪魔でも何でも良いから助けろと叫びはしたが

 何故よりによって自分以上の命知らずな冒険馬鹿野郎に縋ったのか…

 過去に戻れるなら数刻前の自分をぶん殴ってやりたい、と思った

















  マリオ「…すまんな、壊しはせんが傷は付きそうだ
            心配するな、修理費は俺持ちだから、な?」




 申し訳なさそうに言う英雄の言葉が耳から入り

 集中線が見えるような気のする視界が前方に白いガードレール

 そして…その先に広がる青空とゴツゴツの岩肌、谷底の奈落




  ワルイージは思った


 「あっ、オレ、これ死んだわ」



 ズバッ、ベキャッ、ゴシャバキィィィ―――ッ!



 赤い帽子の英雄は大空を飛ぶ鳥の気持ちになった

 顎長男は目を剥いて精神が大空を飛んでいった




ゲドンコ星人はその有様を見て硬直した




彼等は残虐非道な宇宙生物である




が、…同時に彼等にも【感情】と呼べるモノはある


指導者の名の元に結託し合い、同胞が倒されれば怒り狂う事もあるし

余りにも強大な敵を前にすれば怯える事も無くは無い




今、彼等が抱いた感情は呆れとも、驚愕とも言えない



四輪車が空を飛んだのだ、しかも…










ダンッ‼! ダダンッ!! ―――ズドンッ!ギャギャギャッ!ギュルッ!


BUROOOOOOOOoooooooo…!!



子供がよく河原で遊ぶ際に水切りと呼ばれる遊びがある

 拾った小石を水面に回転を掛けながら投げる遊びで
小石が遠心力によって如何に遠く、何回飛んでいけるかを競うお遊戯



 ガードレールをぶち破った鉄の塊はそのまま奈落の底から
突き出るように生えたタケノコ岩を踏み台にしてバウンド…




かつて…英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>達が【レインボーロード】で
幾度となく魅せ続けてきた大ジャンプであった…




ズドンッ!と一際大きな音を渓谷中に響かせ、"向こう側"の車道に着地

着地と同時横滑りしながらスピンした機体を何処にもぶつけることなく
平然とした大道芸をやってのけたマシンは走り出した





   ゲドンコ星人F「ヽ§ヽΘζ…」



   ――――冗談だろ…おい‥


語源は誰にも理解できないが、恐らくそう言ったのだろうな…



マリオ「ふぅ…!いやぁ…!久しぶりにやったなぁ!」ハッハッハ!


マリオ「…あー、やっぱり機体に傷ついちまったか…
     すまんな、…事が終わったらちゃんと修理費は―」クルッ









ワルイージ「」ブクブクブクブク




マリオ「……」


マリオ「……これからはもうちょい安全運転をすべきか…」ポリポリ



口から泡を吹いて気絶している彼を見て
後ろ頭をポリポリとかくマリオ…





  ズドォォォォン!!!




マリオ「むっ!」バッ!



遠くで爆発音、そして黒煙が上がるを見て何事かと身構えた
だが、その正体がなんであるか彼は察した



マリオ「……そうか、あっち側には確かルイージが居たんだったな」


 ズドォォォン!!  ドガシャァァァァン!!  ゴォォォォ…!



岩肌が赤い閃光に照らされ、一瞬、焦げ茶色に見えてる

 鳴り止まない破壊音、上がる黒煙
遠目にチラッと見える火を噴きながらどうにか逃げようとジグザグに
飛行し…あと一歩の所で最終的に地表からすっ飛んできた投石で
撃沈される宇宙船の影


今頃、向こう側はクレーターと残骸だらけなんだろうな…




マリオ「…さて、コイツも此処まで避難させとけば安全だろう」


目を醒ます様子が一向に見受けられない気絶者に背を向け

マリオはサンセット色に染まる向こう側へと歩き出した



彼は…『完全に記憶を取り戻した』のだッ!


―――
――



ボコンッ!!


革靴の底が叩き出したのは金属がめり込んだ音

立ち昇るのは黒煙と聴きなれない言語と金切声

天へ昇る悲鳴と煙、対を成すのは地の底へ堕ち征く歪んだ円盤だ







―――チュドオオオオオオオォォォン!



墜落と同時それらから噴き出していた焔は更に勢いをあげ
終いには機体そのモノが一つの火球と化す



     「ギィィィイイイイイii」「アギィィィャァァaa――」ボジュゥ…



 パチパチと焚き木が出す音のようなソレと金属製の塊が崩れ落ちる音
そしてド派手な爆発音のハーモニーの中に紛れる生き物のような声は
炎に包まれかき消される…




一匹のゲドンコ星人が機体の窓からソレを見て2頭身を震わせる


異星人の目には空を駆ける一人の悪魔…否ッ!死神の姿が目に映るッ!








   ルイージ「ッらああああぁぁぁ!!」メシャァアアアアッッ!





猛々しく咆えた漢はまたひとつ…!またひとつ!と強靭な足腰で
外来の科学技術を鉄屑へと変えていくッ!

鼯鼠<ムササビ>が木から木へと飛び移るように彼は跳ぶのだ


文字通り鉄骨並み…いや、それ以上の規格外骨格と
超人の域である筋力が円盤のウイング部に当たる部分を踏み抜く





…脆い

なんと脆いものか…っ!


それを比喩するならば正しく
『冬の初め頃にできたちっぽけな
 凍った水溜りを長靴の子供がお遊び感覚で踏んで砕く』それに等しい




外宇宙からやって来た金属は薄い氷の膜のようにぶち割られる…




"普段、温和な人間ほどキレた時の恐ろしさは破格である"




現代人なら誰しもが一度は小耳に挟むこの思想を説いた人物は
どのような実体験からそう言い広めたのやら…



頼りない髭、永遠の2番手、気苦労の絶えない凡夫…




前線で戦う彼の姿を見ぬ一般人の率直な感想だ



今の姿を見ればその認識は上書きされるだろう…


次々と鉄屑に変わる宇宙船と業火の渦に悲鳴諸共飲まれ炭化する同胞
窓から空と地獄絵図に変わる地を交互に見て居た1匹のゲドンコは…
思わず悲鳴を上げた



…? 何故悲鳴をあげたかって? 理由は至って単純だ…















           "次は自分達の番だから"









シュタッ! ボコンッッッ




飛来してきた"人間兵器"

直後、安定性抜群の機体が大きく傾き
異常を知らせるアラームのけたたましさが彼等の命運を物語る


幼子を護る揺り籠のような優しい揺れは嵐に遭い転覆寸前の船を…
けたたましさは搭乗員の命のリミットを…

それぞれよく表現していた…



【窓ガラスの向こうに映るルイージ】「…」ギロッ


ゲドンコ星人「キ キィィィィ!!!!!!! ! ! ! ! 」ビクッ


兄を殺された

その感情を持って飛来してきた漢と目が逢った…
異星人はその瞳に確かに鎌を持った髑髏が映るように錯覚する


ゲドンコ星人の宇宙船は実に頑丈な創りであった

窓ガラスはクッパ軍の【キラー】砲ですら傷一つつかない程の物質で
出来ている…この星の強化硝子なんぞとは強度が段違いだ


彼等の星の光線銃でさえ、防ぎきる



【窓ガラスの向こうに映るルイージ】「…」グググッ!


握り拳を創った白いグローブを彼はこれ見よがしに見せつける
腕を思いっ切り引き延ばし、一発の右ストレートを繰り出す




瞬間ッッッ!拳は音速を超えたッ!!



強化硝子をぶち抜き、金縛りにあったゲドンコの鼻先で
寸止めされた握り拳と割れた硝子の音に搭乗員は一斉に見る




ゆっくりと…



ゆっくりと……



ゆっくりと………っ




ゆっくりと……………ッッッ!




ビデオテープに録画された植物の蕾が花を咲かせるまでを
早送り再生で見せるように…握り拳は開かれる…




――――――――ポゥ…




 パーの状態になった掌中心部に緑色の粒子のような何かが集まる!




 目と鼻の先で開かれた白いグローブ付きの手に集まる美しい緑の輝き

それは…翡翠<ヒスイ>の如し美しさ…彼は畏怖の念さえ忘れ、思わず見惚れ






          ルイージ「【ファイアボール】」




―――ジュウゥゥゥ!!!!



           彼は世を去った




後方へと仰向けになるように倒れ込む姿は実にスローモーションだった


倒れ込む同胞の顔が見え始めて彼等は絶句する


焼け爛れた顔、眼球も唇も2本だけの歯も何もかも…紫色の肌も
こんがりウェルダン状態だ


キノコステーキの芳ばしい香りが船室に漂う




…ドサッ!



1、2回床にバウンドした時彼等は漸く我に返る





何を呆けているのだッッッッ!!!



次は誰の番だ!?次は"自分"なのだぞッッ!!




「「「―――――――――ッッッ!!」」」



恐怖の波は彼等の心のダムを決壊させる

完全に恐慌状態に陥り、反撃も動くことも忘れ竦みあがる


次は誰だ…ッ!

自分なのか…ッ!それとも隣の仲間か!?後ろの仲間なのか!?


緑の悪魔が次に指先を向けるのは"誰"なのか、僅かな寿命と
隙さえあらば逃れられるか、という淡い希望を抱く
彼等の予測はどれでも外れだ





ジュボォォォオオオ!!


生命活動を終え、大の字で倒れた仲間の身体全身が二度目の火球で
完全に燃え上がり炎の塊と化す



ルイージ「たあああああぁぁ―――ッ」ゲシャッッ‼



彼は力の限り右脚を使って緑炎の塊を蹴り飛ばした

燃える塊からゲシャッ!と骨が砕け散る音が聴こえたが
 そんなことはどうだって良い、何ら躊躇いの無い死体蹴り

 ボウリング場でストライクを取った時のような爽快感だった
燃える焼死体は"残りのピン"を巻き込んで
宇宙船内のメインコンピューターに突っ込む


誰が次に死ぬか、ではない、彼等の予測は全て大外れ


正解は全員が同時に命を落とす、である




―――チュドオオオオオオオォォォン!



…こうして、また一機、黒煙を上げて墜落していく

墜落の間際に鼯鼠<ムササビ>のように他の機体に飛び移る姿が
また別の誰かの目に止まっていく




―――ドオオオオオオオォォォン!

――――――ドゴシャアアアアァァァン!!


<ギッ! ギィィィ―――!
<アギャアアアアアァァ!!



―――バッグオォォォォン!!

―――――ズガシャァァァン!!



 ズドォォォン!!  ドガシャァァァァン!!  ゴォォォォ…!







渓谷にクレーターと宇宙船の残骸が幾つも積み重なる
大穴が空いた地面、それを埋め尽くし新たな山を築く鋼鉄製のガラクタ





ルイージ「もう終わりかい…?」シュタッ





 ゴゴゴゴゴゴゴ…!


  ドドドドドドド…!






ルイージ「キミ達は僕の兄さん、越えるべき壁を壊した"強敵"だ」


ルイージ「誰もが認める英雄を倒した強者なんだ」





ルイージ「そんな強敵が"僕如き"に
           あっさり負けるのかい?」ゴゴゴ…!


ルイージ「そんなんじゃあ、僕の気が収まらないよ」ゴゴゴ…!

ルイージ「その程度じゃないだろうッ!
        掛かって来いッッッッ!!!!!!」ゴゴゴ…!




       「…その辺にしとけよ、ルイージ」シュタッ!

*********************************


           今回は此処まで!



    もうすぐ、前スレ分は全て此方にもって来れそうですね

*********************************



ルイージは思わず息を飲んだ


 まだ目前には浮遊する異星の兵器達がある、が…そんなことさえも
忘れてしまう程に彼は眼を見開いて、背後を振り返る



「らしくないぞ、お前がそんなに青筋立ててキレるなんて」



ルイージ「…っ!…!」パクパク



金魚の物真似か?と目の前の男は声も出せない彼を見て肩を竦める


トレードマークの赤い帽子にオーバーオールと白いグローブ…
年季の入った革靴で砂埃舞う渓谷の地を踏みしめる姿







ルイージ「にい…さん…!」

マリオ「おっと、ワルイージにも言ったが俺は幽霊じゃあないぞ?
    この通り脚だってある」ポンポン



ほら、見て見ろよ?と右手で片足を叩くリアクションを見せる




ルイージ「っ…な、なんだよ…心配、させやがって!!」

ルイージ「本気で死んだかと…思ったじゃんかよっ!」



――生きていた、"生きててくれた"

―――声は震えてたし、涙は無意識に流れる


かつて、キングテレサに囚われていたマリオを救い出した時と
同じように彼は身内の無事に心から涙した…!



マリオ「ははっ!まさか!俺の不死身さはお前が一番知ってるだろう」

マリオ「ルイージ…」フッ…



彼は此方に歩み寄り、小さく握り拳を創る、そして…





  マリオ「オラァッ!」バキィィ

 ルイージ「ぶべらっ!?」ベキョッ




思いっ切り弟の顔面をぶん殴った



ルイージ「ぐ…あ、あがが…な、なにふふんだひょ!!」
   訳(ぐ…あ、あがが…な、何するんだよ!!」



マリオ「ふぅーっ」コキコキ!


手首を鳴らして、彼は一呼吸、そして弟に言い放つ


マリオ「今、なんで俺がぶん殴ったか分かるか?ルイージ」


ルイージ「いっつぅ~…なんでだよ」ヒリヒリ






マリオ「…この一年近くお前は
      俺に記憶の事を黙ってた今の一発はソレな」



記憶喪失のマリオに要らんお節介を焼いた事での一撃



ルイージ「そ、それは…!」


マリオ「で、だ!」グッ


再び拳を創る英雄……その強靭たる肉体の鉄拳は…ッ!



              バキィィ!!!



ルイージ「に、兄さん!?」

マリオ「っ…ったた…結構痛いもんだな、コレ」





今、弟の顔面を殴りつけた拳はそれ以上の強さで
マリオ自身を殴りつけた…


これには弟も困惑した、兄は何を考えたのか?やはり頭か何処か
後遺症でも残っているのでは!?と


マリオ「おう…今、失礼な事でも考えなかったか?」


ルイージ「(ギクッ)ま、まっさかぁ~…」




マリオ「…」

マリオ「今の一発は……」




マリオ「お前やヨッシー…姫…それに国の色んな人達に
      心配ばっか掛けた自分勝手な修行馬鹿への怒りだ」



マリオ「今の今まで…お前たちの僅かな気遣いや、何が何でも
    俺に過度なトレーニングをさせないために色々してきた事…」

マリオ「色々と、な…思い出すと
      同時に客観的にも視えるようになったからな」

マリオ「…すまん、今までお前にも迷惑を掛けた」







――――…渓谷は静まり返っていた、ただただ…そこには静寂があった





いや、厳密に言えば廃材と化した宇宙船が燃える音や未だ浮かぶ
ゲドンコ星人の機体の浮遊音もあっただろう




だが…この兄弟の周囲には入り込める音など無かった…



片や、思いっ切り腫れた頬を抑え
片や血が滲み出ている口元なんて気にせず頭<コウベ>を垂れる







…今、ルイージの目の前にはマリオが居る…


そう…かつて、幾多モノ"冒険"を経験した真の英雄が帰って来た






 -今、実に1年振りに"本当の意味で"この兄弟は…邂逅できたのだ-




 悟られぬ為に…そんな想いからの真の意味で本心を語らず、明かさず
血の繋がった兄弟だというにも関わらずどことなく余所余所しい


見ようによっては上辺っ面だけの家族関係
そんな冷めた見方にもなり得るモノとは違う…


おおよそ365日近く間の開いた本音の同士の語り合い…ッ!それが!
目の前に在るのだッ!





マリオ「…本当に大事なモノを俺は見失ってたさ」





『焦る必要はないさ!キミは…そうだな少し頑張り過ぎただけなんだ』

『たまには落ち着いてよーく周りを見る事だって大切なんだぜ?』





マリオ「夢ん中で…友達に教えられたよ」


マリオ「…英雄<ヒーロー>たるモノが
      こんな大事なモン見落としてたんだ、笑っちまうぜ」


ルイージ「…兄さん…」


 マリオは天を仰ぐように…そして遠い何処かに居る友人の姿を視る
かつて【カジオー軍団】との闘いで、共に在りし日を駆け抜けた友を…




 マリオ(今ならお前たちの名前を呼んでも良いだろう…?
                 なぁ、"ジーノ"…"マロ"…)






 マリオ「俺を殴れ、ルイージ、今まで姫や国民…そして―――」



 ―――そして…俺の好敵手<ライバル>達に





マリオ「―――…色んな人に迷惑を掛けたこの俺をッ!!」

マリオ「童話の走れメロスのラストシーンみたいに思いっ切り
     音が出るくらいぶん殴れッ!」






ルイージ「…っぷ!」

ルイージ「ぷっはははははははっ!」



ルイージ「ようやく記憶が戻ったと思えば…くっく…!」

ルイージ「弟を思いっ切りぶん殴ってしまいにゃ
      次に自分も殴れ、か…やっぱり変わらないな…」



ああ、これだ

これでこそ、あの"英雄"なんだ
自分が憧れ、そしていつの日にか追い抜くべき高み…っ!





ルイージ「オーケーだ!歯ぁ食いしばりなよッ!
      さっきの仕返し込みで喝を入れるからさッ!」グッ!



―――――ベキィィ!!



マリオ「おごッ!?…」ヨロッ


マリオ「…なんだよ、俺が筋トレを怠けてた間に鍛えてたのか?」


ルイージ「ふふんっ!これがスーパールイージさんの実力さ!」





マリオ・ルイージ「「…」」


     「「…っぷ! あっはっはっは!!!!」」



マリオ「は、はは…あっ!、久しぶりに大笑いしたから
                   くく!腹が痛いな」



ルイージ「本当だよね、…僕等がどんだけ兄さんを遊びに連れてっても
      此処まで笑ってくんなかったのにさ~」




マリオ「俺には…やはりこの生き方が性に合ってるようなんでな」スッ

ルイージ「そっか…それが兄さんにとって
             幸せな人生なら…仕方ない、か」スッ




邂逅の末に大笑いした英雄兄弟は…ゆっくりと同じ方角を見据えて
目つきを細めた



マリオ「なぁ、久しぶりに勝負しないか?」


ルイージ「勝負だって?奇遇だね、僕も記憶が戻った記念で
      ちょいとばかし兄さんと競いたい事があったんだよ」



マリオ「そりゃ奇遇だ…なら勝負事の内容はこんなのでどうだ?」



マリオ「今、現在進行形でキノコ王国内に現れたゲドンコの宇宙船を
     どっちが多くぶっ潰すか?」






2人は同じ方角を見る、同じ空の同じ空間の同じ機体共を



ルイージ「なら、この事態の引鉄は何か?黒幕は居るのか?何者か?
      それも調べ上げて事件を解決したらボーナス得点付きに
      しようぜ、その方が燃えるだろ?」





マリオ「よく分かってるじゃないか」ニヤリ

ルイージ「伊達にアンタの弟やってないからね」ニィ!





マリオ「…ド派手に…」

ルイージ「ああ、やってやろうぜ…!」











    -  英雄兄弟<マリオブラザーズ>の復活だッ!   -


―――
――



渓谷にて紅と碧が天を駈け始めるとほぼ同時刻…




         【キノコ王国 ~城下町~】




「うわああぁぁ!!!テロだァ!!テロリストが攻めて来るぞッ!」

「は、早く逃がして!!!」

「うぇ~ん!ママ~!」



        ワー! ワー! キャー! キャー!



ヨッシー「はいはい!そこの人!ちゃんと避難指示を出してる方に
      従ってくださいね~!」

ワリオ「おうコラ!!そこのテメェ!列を乱してじゃんあねぇぞ!」



キノピオ「こっちです!皆さん!指示に従って避難施設へ!」







ワリオ「チッ!こいつぁ不味ぃぞ!
         …どいつもこいつもパニックってらぁ」

ヨッシー「そりゃそうですよ、此処長い事平和が続いてたって時に
      突然『戦車に搭乗した武装テロリストが攻めて来た』!
      なんて報告が来れば国内大騒ぎですよ」



キノピオ「すいませんっ!お二人共、お手伝い頂いて」


ワリオ「へっ!とんだゴタゴタに巻き込まれたモンだがよォ~!」

ワリオ「ちゃんとお国から
    お手伝いの恩賞金っつーモンが貰えんだろォ!」


ワリオ「期待しとくからな!…おい!そこの老夫婦!
        早く避難所へ…あぁん!?孫が居ねぇだァ!?」





<クソガ!ショーガネー オレガサガシテキテヤルゼ!





ヨッシー「それにしても"旧クッパ軍"…ですか」


ヨッシー「やれやれ、平和なご時世とやらが
        よっぽどお嫌いなんでしょうかねぇ」



キノピオ「はい…この目で見たんです!間違いありません!」



ヨッシー(ふむ…クッパ軍団の人員が今回のお祭り屋台に
                全員出払ってたわけでない)

ヨッシー(…クリボーくん言ってましたねぇ…なるほど…
         クッパ軍全員ではなく…一部の人員ですか)

ヨッシー(ノコノコさんとはよく文通してましたし…大体
      キナ臭い話も小耳に挟みはするんですよね、私)




ヨッシー「もうそろそろ、この辺りの避難は
        完了と言ったところでしょうね」


キノピオ「はいっ!」







ヨッシー「…ワリオさんが戻って来次第、私は
      この非常識なお客様方を見てきますね」


キノピオ「そ、それって…」



ヨッシー「折角のお祭りで、マリオさんとルイージさんの一騎打ちが
     見れそうだったのに、それが台無しですよ?」


ヨッシー「この有事が臨時ニュースで国内に報道
      おかげでレース中継も屋台のご馳走もおじゃんです」


ヨッシー「怒ってますよ?私」



ペロン…っ!と舌を出す仕草を見せる緑の友達に
キノピオは何と声を掛けていいか分からない


あえて言うなら…





キノピオ「あのぅ…できれば穏便に…」



ヨッシー「…まぁ、手加減はしますよ?多分ですけど」トテトテ…





そういう彼の手にはタマゴがしっかりと抱えられていた…






その昔、コウノトリが落とした双子の赤子を守り抜いたという
伝説的な卵の狙撃手の腕は未だ健在である…



ズルズル…


トテトテと靴を履いたトカゲが歩いて征く、その背を5個の卵が
追いかけて行く…ッ!

*********************************


           今回は此処まで!


*********************************


 キノコ王国はピーチ姫の代から急速な発展を遂げた国家である
特筆すべきは先述の通りガソリンエンジン式の乗用車と国道関連だ


それ以前の交通機関と言えば、先々代の時代より建設されたキノコ鉄道
港にある昔ながらの帆船であった


 国内南部に位置する港も時代の変化に伴い変わっていく
かつて大海原へ風力と潮、漢達の直感だけを頼りに航海した船は
機械的なモノへと姿を変え、名残のあるモノは今や少ない





そんな港湾はすぐ近場に飛行場<エアポート>も備わっており
諸外国へ旅立つ者ならば誰しもが訪れるであろう場所となった














  王国でテロが起きた時ッ!友好国からの援軍が来ると
           すれば間違いなく此処に到達するのだ…ッ!






彼奴等が此処を放置しておくはずがないッ!








キュルキュル…!

ドドドドドドド…ッ!




港にそびえ立つ古ぼけた灯台にて羽を休めていた鴎は異常を察し
飛び立った、それは憩いの場が戦火に包まれると本能で察したが故か

 設立記念公園の中央にある日時計周辺のパンジーは不安げに揺れ
威風堂々とした佇まいで正午過ぎを示していた晷針もまた
招かれざる客人の行進曲にその身を震わす




ノコノコ達を素通りし、幾つかの部隊に別れた戦車隊

その一端が我が物顔で地響きをあげる、我、此処に行進ス…!





「あーあー、聴こえっか?
  これから予定通り俺らは空港を占拠すっぞ」




先頭の車両から後続へと指示が飛ぶ



「あぁ~、青い海、白い雲
    んでもって清々しい波音…くぅ!良いねぇ」





一両の戦車が向きを変える
波止場から少し右方面…そびえ立つは真っ白な灯台



「こう天気が良くて思わず欠伸が出ちまいそうな
             ポカポカした日にゃあよォ~」






















  ドン・チュルゲ「打ち上げ花火<センカ>が
             無性に見たくなるよなァ~!」チュウッ!










そしてッ!一発の凶弾は放たれるッ!


グローブを嵌めた手はサングラスをほんの少しだけ上げて
 破壊衝動を秘めた眼光を覗かせる、fireの合図と共に火を噴く砲身

チュルゲ自慢の火薬を詰め込んだ鉛玉は大気を震わせ
時化の日も船乗りを救ってきた白い灯台に着弾する



まだ夕暮れには早すぎる時刻、時間にして1秒にも満たない僅かな合間

港はセピア色に包まれる…それは一日の終わりを振り返る色とは違う
かつての美しい光景に"さよなら"を告げる始まりの色なのだろう





光に遅れて耳を劈くような爆音が港全体を震撼させた

それは古き時代から憩いの場であった港の悲鳴なのかもしれない


立ち昇る黒煙、炎上しながら灯台"だったモノ"は黒ずんだ瓦礫を落す

 吹っ飛ばされた灯台の破片は爆発と同時に流星の如く流れ
近場の船乗りご用達のバーから倉庫、記念公園の建物に落ち…

それは新たな火種となる…


チュルゲ「ンン~!良いねぇ!スカッとするぜ!」チュッ!




"耳を劈くような音"…当然ながら搭乗員の多くは眉を顰め
一部の者は耳を塞いだ




―――チュドオオオオオオオォォォン!


――ドゴォォォン!




一発の砲撃から生まれた二次災害、灯台の破片が落ちた倉庫群の中には
火気厳禁の物資が保管されていたコンテナもあったし

船乗りが酒を煽るバーに至っては酒蔵目掛けてピンポイントだ


このネズミ男がそこまで計算してやったかどうかは乗り組み員の誰にも
識別できないでいた、ただ…


 優雅なクラッシック音楽でも聴いているかのように
悦に浸った顔の爆弾魔が末恐ろしき人物であるという認識だけは増した





キャサリン「……アンタって本当、サイっっテー…」


チュルゲ「あ゙?なんか言ったかカマ野郎」





キャサリン「言ったわよクソネズミ、こっちはロープで
       身体グルグル巻きなのよ?おかげで騒音が耳を直撃よ」



あー、やだやだ、と悪態つく元同僚にネズミ男は振り向きもせずに
「おー、そうかい、そうかい、堪能できてよかったじゃねーか」と告げ



チュルゲ「うっし!おめーらのボスも言ってたろ?此処の現場担当は
      全部俺に一任するってよ!
       俺の言う通りバリバリ働いてもらうぜ!」



と、爽快に笑う…今のドン・チュルゲは頗る機嫌が良い
後ろでキャサリンがどれだけ罵倒しようがどこ吹く風と言った所なのだ




チュルゲ「海面にぷかぷか浮いてるお舟も飛行場の航空機も動く奴ぁ
      全部まとめてボン!だ」

チュルゲ「船着き場も滑走路さえも跡形もなく吹っ飛ばす」









チュルゲ「何者もこの国から逃げられねぇ、誰もこの国に来させねぇ」

チュルゲ「平和ボケした、餓鬼どもによォ…
             戦争ってのを教えてやるのさ」ニタァ



心底喜びに打ち震えていた

心底嫌悪の念に駆られていた




チュルゲと旧クッパ軍の認識の違いだった





武人として、強敵と闘える事を誰よりも誇りに思い、戦地にて
持てる技術・技巧の限りを尽す




 彩るは華、咲き乱れ、枯れ果てるまでの僅かな時の中で懸命に輝く
灯火のような儚さ…閃光のように鮮烈で鮮明に脳裏に焼き付く気高さ





確かに彼等も街の占領や、各国の行政を司る城や軍務担当の砦の占拠は
過去幾度となくやって来ただろう













だが、――それでも、"無差別な破壊だけは嬉々として遂行しなかった"




戦略上、必要と判断した破壊行為こそしても…



破壊活動そのものに悦びを覚える



そんな気狂いの男と英雄と拳を交える日々を夢見た戦士達では
違いすぎるのだ…




闘いを求めてクーデターに賛同した者

平和をただ「つまらない」と一蹴しテロ活動を起こす者


同じようで似通らない思想





彼等からして見れば、必要な事とは言えチュルゲのような男は
下劣な輩でしかないのだ、…溝鼠よりも汚らしい、品性の無い気狂い



チュルゲ「なぁんだぁ?随分としけた面じゃねーかよ?」


チュルゲ「折角の花火大会だぜ、もっとパーッと盛り上がろうぜ」チュッ!





「…自分達はまだ作戦の遂行中であります」
「予期せぬ事態はいついかなる時も起こり得ますので」
「気を緩めすぎては全体の士気にも悪影響ですから、ハイ」



チュルゲ「ケッ!そうかい、そうかい、おー!ヤダヤダ
      これだから軍人さんってのは、つれねーの何の…」




両手を大袈裟に広げ、おちゃらけたように悪態をつく…彼奴の眼光は
相変らず黒レンズの向こう側に隠されている

だが、その口元がサングラスの向こう側がどのような眼つきをしているか
その程をよく窺わせた





チュルゲ「んじゃま!ちょっくら作戦を完了させちまうとすっか
      全車両に通達だ!港地区ニ於ケル我カ作戦ヲ遂行ス!
      ちったぁ!格好つけた分にして送ってやんな!ははっ!」








本格的な破壊行動の電報が送られんとする、今まさにその時であった























 ――――プロロロロロロロ…





無線手の役割を担う搭乗員は通信機器から思わず手を離した

彼は空の彼方から此方へ向かってくる"プロペラ音"を聴いたからだ




行き場を失った手は宙に、双眼は焦点が合わず、唇はパクパクとさせ

顔の色は蒼白を通り越して血気の失せた死人色だったと後に隣に居た
無線手の友人は語る



「――ぁまだ」


「は?」



掠れた声に眉を顰め、なんだ一体?と尋ねた





すぐにわかる事になる、何故隣に居たこの戦友がこのような顔をしたのか








         「そ!空に機影を確認ッ!こちらに接近中ですっ」





チュルゲ「あぁん?ゲドンコ共…もう終わったのか?
     おう!おめーら早いトコやっちまわねぇと手柄持ってかれんぞ」



  「…違います、"プロペラ"の音がするんです…
         そんなのゲドンコ星人の機体に使われてません」


死人色の彼はどうにか声を絞り出す、だが声は身体と同じで震えていた





チュルゲ「あ"?んじゃ何か?
      もうどっかの国からか軍がスクランブルしてきたってのか」




 「違うんです……」





 「……ぁ」

 「…う、ぅぁあ、ああぁ…っ!」








彼等は気がついた…その"聞きなれたプロペラ音"が何であるか


空の彼方に映る機影が徐々にハッキリとしてくる…



 そう…道化師<ピエロ>を模したその空飛ぶ物体の輪郭が
              それに乗っている人物が誰かわかったのだ



      -『――ぁまだ』-


先程の無線手の掠れた声が脳内でリピートされる


今なら分かる、あれは『―――様だ』とそう言葉を漏らしたのだ、と





























ノコノコ「おお!見えてきましたね!」

クリボー「ッスね!飛べるテレサを先にキノコ王国に向かわせて
      俺らが城に戻るっ!なんとか間に合ったってトコか!」














―――プロロロロロ!…シュバッッ!!!   ヒュゥゥゥゥゥン



門番を務めるノコノコとクリボーはあの御仁をお連れ致したのだ

プロペラ式の小型飛行船から彼は飛び降りた



 けたたましい落下音、舞う粉塵と降り立った彼の地点を中心に
大地すら揺るがす振動の波が広がる

吹き飛ぶ火煙衝撃で崩れ落ちる家屋…そう










            "大魔王"が空からやって来た



*********************************


           今回は此処まで!


            引っ越し完了


*********************************



 静寂、不気味なまでに辺りは静まり返った
先刻まで駆動音を響かせた戦車にもし心があるのだとすれば人で言う所の
畏怖の念があったかもしれない


火を噴いた砲身は未だ熱が篭り続け
発煙は降ってきた"彼"から逃げる様に天へと舞い上がる…



爬虫類特有の尻尾と甲羅、それは"彼"の部下の多くと同じであった

ただ、彼の場合は象牙や牛の角のようにトゲ状に骨が変質した骨棘を尾に
有していて、背中の甲羅にも10本の棘が生えており
 更には燃えるような真っ赤な鬣の両脇にも雄雄しい角を携えていた


 その様は亀というよりもジュラ紀に君臨した
肉食獣の帝王達に近しいモノがあった



 鍛え抜かれたその逞しい筋肉はどこぞの王朝時代の彫刻に匹敵する
ある種の美を感じさせ、その両腕に黒鉄製の腕輪
そして首元に同じ材質の首輪をつけており、これまた彼の存在を
象徴するかの如くトゲがついていた






「あ、あぁぁ…」ガタガタ
「く、く・・・く…!!」ブルブル











 「クッパ様だ…!クッパ様が…っ!自ら御出陣なされたのだ…!」






誰かが口を開いた



 これがかつての自分達がキノコ王国へ攻め入る時ならば彼等の士気は
爆発的に上がっただろう、在る者は熱狂的なまでに雄たけびを挙げ
在る者は攻める前から勝利さえも確信した


在る者は鬼神の如き強さに敬意と恐怖を交え声をあげて、身を震わせた




が、今はまるで状況が違う




自分達を"常勝"へと導いてきた軍神は…今ッ!まさにこの瞬間に!


 自分達を処罰すべく此処にはせ参じたのだッッッ!!





彼等は悪い意味で身を震わせるだろう



チュルゲ(…チッ、タマのちいせぇ野郎共が)



鼠男は覇王の出現と共に縮こまりだしたし乗り組み員達に内心、舌を打つ


黄色く堅い皮膚、何物をも容易く切り刻む鋭い爪
口元から覗かせる凶悪な牙を持つ怪物の顎は巨岩さえも嚙み砕く




一言で表すなら言葉通りの"怪獣"


それも怪獣の王である




未だ舞い上がった粉塵のベールに包まれた彼はその全身を
鮮明に見ることは叶わない


だがらこそ、表情の分からない窺えないシルエットがより一層
威圧感を出していた


心なしか大魔王の殺気すら放たれているように思えるのだから
彼等が縮こまるのは致し方ない



余りにも巨大な存在の前で「嗚呼、自分達は所詮雑兵に過ぎないのだ」と
取るに足らない矮小な…ちっぽけな存在でしかない、と








 その恐ろしさを誰よりも知る彼等は脳裏にその楔を叩き込まれる



圧倒的なまでの実力差…ッ!

圧倒的なまでの戦闘能力…ッ!








目の前に広がる絶望の滝………ッッ!

勝てる道理など万が一…否、億が一にも存在しないという事実を改めて
脳細胞の奥深くに突き立てられるのだッ!






チュルゲ「なぁ~にビビってんだぁオイ?
        おしっこ漏れちゃったのか軍人さんよォ」チュッ


チュルゲ「ケッ!…マジで糞野郎だな」チュッ!


「なな、な、なんだと‥!」



チュルゲ「相手はなんだ?年老いた時代遅れの糞爺<ロートル>だ
                   何を恐れてやがるんでい」チュッ




チュルゲ「てめー達はなんで今此処に居やがる?
       こうやって一つのお国相手に喧嘩ふっかけんのはなんでだ
      それどころかあの大将の考えに背いてんのはなんだ?」





チュルゲ「今のてめーらの大将はあのロートル大王じゃねぇ
     "指揮官さん"だろうがッ!億んでんじゃあねぇぞ軍人共ッ!」





  「!?」「うっ!」「…っっ!」「それは―――」





チュルゲ「てめーらの指揮官さんは雪山で
       そりゃ大層ご立派な演説をしただろーが」



チュルゲ「俺もちょいと聞いたがありゃ目からウロコだぜ、うん」


チュルゲ「諳んじやろうか?え"っ?いってやらぁ!
     『闘いこそが全て勝利の余韻、戦士を称える名声こそが
               ワシ等の人生そのものと呼べた!』」




 「…ゴクッ」「俺達の…全ては!!」「勝利、戦士の名声」






チュルゲは失意の眼に野心を灯していくモノたちを見て
 これだから単純な馬鹿は扱いやすい、とほくそ笑む


チュルゲ「『ワシ等の主君クッパ様にはかつての覇気は
          無く、ただ堕ちたとしか言いようが無い!』」


チュルゲ「『故にこれは決して主君への謀反に非ず!
    クッパ軍団の輝かしき黄金時代を取り戻す為の行為!』』






そこまで言い、間を置く、呼吸を一つ、そして最後の一押しとばかりに








チュルゲ「『我等が主にあるべき姿に戻っていただく為の行為である』」




チュルゲ「違うか?」ニィ




「そ、そうだ…俺達のしてる事は!」「裏切りなんかじゃない‥!」
「クッパ様に正気に戻って頂くための…ッ!」



心拍数は2倍速でリズムを刻み、手にはべったりと手脂が滲む程だった

 それは怖れであり、畏怖であり…戦士として"強敵を相手にする悦び"に
打ち震えていた証拠でもあった





キュロキュロ…キュルキュル‥‥!

       ギュルルルル…!!!





旧クッパ軍が修繕した車両の中で最大規模を持つ機体から
オリジナルを容易く打ち破った鋼の蜥蜴が駆動音を轟かせて飛び出す


 陸上巡洋艦の名を冠する程に大掛かりなソレは全60t近い重量を持つ
機械仕掛けのドラゴンを格納し走行できる馬力すらも持ち合わせていた


 ゆえに彼等は自分達こそが今作戦の戦略の上で要となる存在だと
そう信じていたし、港ならびに空港の占拠・破壊命令という大役を
授かるだけの戦力を有していた



だから、その"心許ない武装"でクッパが倒せると過信したのだ



「【キラー砲】装填完了!いつでも撃てます!」

「出し惜しみはするなッ!全弾放てぇぇっっ!!」





  ズドォォォン!!

           ドドンッ!!





人の背丈を優に2回りも超える巨獣は何も言わず一歩片足を前に出す

発砲音と重なり、それが恰も彼の大魔王の出陣を盛り上げる伴奏のようで
遠巻きに見ているノコノコとクリボーには滑稽に見えた



クリボー「なぁ、俺らは行かなくて良いんスかね?…いやクッパ様が
       そうご命令なされたんスけど」

ノコノコ「良いんです、足手まといにしかなりませんから」




クリボー「……手加減、してくれっかなぁ」

ノコノコ「…灸を据えるだけだ、と申しましたから
         死人は出ないでしょうな、たぶん」








メカキャサリンの背後から垂直に飛んでくるキラー砲の援護射撃が
クッパの身体に命中するのを見て彼等は呟いた



「!? …っ、あ、当たったぞ…」

「ど、どういうことだ!?」

「た、確かにクッパ様は協定の日以来、御体を鍛えては―――」



ザワザワ…!

      ガヤガヤ!



年老いた帝王、時代遅れのロートル、チュルゲの言葉が彼等の心に
染みのように広がっていく






 「…やれる」ボソ





 誰が口火を切ったか分からなかったが、その一言が上がれば後は
小石を投じた水溜りの波紋の如く周囲は口を揃えだす






 「やれるぞッッ!!あれだけの砲撃を受けたんだ!!!
    如何にあの御方といえど無傷で済むはずが無い!!」


 「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉー―-――っっ!!!」



 「クッパ様も、と、年老いたのだ!!!我らでも勝機があるぞォ!!」












 肉眼でも分かる、派手な爆炎にその巨体が包まれていったのが
一発の砲弾で地を抉り、焦土とする自慢の火薬の塊

それがゲリラ屋にして爆破のプロの手で更に強化されていた
 湧き上がり浮足立つ乗員は次の瞬間、凍り付く









ヒュゥゥゥゥ――――





          クッパ「…」




両腕を組んだ全く以って傷一つ無い帝王の姿に戦慄する


クッパ「…」ハァ


眼を細め、君主は紅色のため息を吐く…


生ある者を瞬時に焼き殺すであろう高温の吐息は大気の温度と混じり消え

 黄土色の鱗に付着した煤をまるで
お気に入りの一帳羅についた汚れを払う様に煩わし気に片腕で叩き落とす

 雄雄しく唄っていた砲塔のコーラスはピタリと鳴り止み
ソレが車両内の様子を物語る…意気消沈と戦意が失せた兵士

恐怖の楔が倍になって突き刺さり奥歯で心境を詩にした雑な合唱を
演奏し始める戦士の顔ぶれが…




クッパ「嘆かわしいことだ、もう止めたのか
         それで吾輩の部下を名乗るだと…?」








      クッパ「半端者共が、恥を知れ」




声は届かずとも視線は届く『どうせやるのならば捨て身で来い』と
『勝てぬと分かっていても死力を尽くすのが我が軍の誇りであろう』と

謀反を起こした者への叱咤を含めた一瞥をくれてやった




 キュラキュラと機械仕掛けの爬虫類の方がまだ可愛いものだと
心底、帝王は質の落ちた自軍に落胆した


こんな玩具<ガラクタ>でさえ進軍して来るというのに
 なんだその程度の志で戦<イクサ>をする気だったのかと




ズシンッ、ズシンッ!

キュララララ…!




味方の援護射撃で舞う爆炎、火薬の匂い…煤の霧雨の中を鋼鉄の竜が

年老いた、されどその肉体は覇王たる風格を漂わせる大怪獣が



戦地に立つ、猛る者は吼え、怖れ慄く者は泣き叫び
体裁も形振りさえも構わずに哭く





 優に一年ッッッ!!365日に渡り魔王が律してきた
             その剛腕を振るう時がやってきたのだッッッ!





     【クッパ VS メカキャサリン&戦車隊】

           戦闘開始ッッッ!


チュルゲ「オイ!糞共何してやがる!!さっさっと撃ちやがれねぇか!!」


「だ、駄目だ…勝てる訳が」ガタガタ
「と、取り返しのつかない事をしちまったんだ…」ガクガク
「逃げよう!!!い、今ならまだ、まま、間に合う!」


戦場の軍神を…っ!

傷一つ付かぬ化け物を目の当たりにして彼等は…っ!クッパを見た兵は!



      『 クッパ を みて どうよう している !』



 その狼狽えぶりは【カジオー軍団】の力に屈服し、やむを得ず君主に
反旗を翻さずを得なかったあの日を彷彿させた

違いがあるとすれば、それは圧倒的な武力を前に君主も居らずで
支配下に置かれる事を強請られた事

そして、今回は誰かの意志ではなく自らの意志で背いたという違いだ



 つまり弁明も何もあったもんじゃあない
屠られたとしても文句の言える立場に非ず




チュルゲ「…」ツカツカ…



ドン・チュルゲは蚯蚓のような尻尾をうねらせ、1人の搭乗員の前まで
歩いてきた、そして…


――――ブンッッッ!


「…ぇ」



紫色のパンチグローブを嵌めた右腕でアッパーカットを下顎に喰らわせた





            ボッッッッ!ゴォォォォォォン!!!




「「「「!?!?」」」」



          「…カ"ッ…ひぇっ、ふ?」プスプス…パタッ




チュルゲ「俺ぁ爆破のプロでなァ、俺のグローブは
             ちょいとした特注品なんだわ」

チュルゲ「此処ンとこ、よぉ~く見てみ?
      ナックルの部分が盛り上がってんだろう、殴ると火を噴く
      チュルゲ製の魔法の薬莢が組み込んであんだわ」


耐火性能抜群、自身の拳だけは爆破の熱からも衝撃からも護り抜く
 そのグローブで一人の下顎を打ち砕いた鼠男は底冷えする程に
極めて冷徹に言い放った


チュルゲ「臆むな、戦って死ね、さもなくば此処で今すぐ死ね」


黒光りのレンズの奥に沸々と苛立ちを募らせた


炎のように粗暴で狂的で、ソレで居て極めて冷静で残酷な冷血漢は
 敵前逃亡を図るなら此処で自害しろ、と言うのだ


前門は大魔王、後門は狂人である




車両内は嫌に寒かった、氷点下の世界に投げ込まれたんじゃないかと
錯覚するほどに底冷えしていた

 目の前にはプスプスと煙を上げ、肉の焼け爛れる悪臭を熱と共に
立ち込めさせる同志が倒れ伏せる


熱が漂うのに、背筋には氷を突っ込まれた気分だ




「か、顔の肉が…うっ…お、おえぇぇぇっっ!!」ビチャビチャ

「っ!…ぜ、全員!持ち場に戻れ!衛生!衛生ッ!応急処置を!早く!」




 見事に皮膚が焼け剥がれた同胞を見て
前門よりもすぐ間近にある後門から逃れるという選択を彼等は下した


―――
――


メシャッ!!ベチャッ!!!

 メカキャサリンの口部型砲塔より吐き出される巨大卵を正拳突きで
打ち砕く、破片が鋼鉄のボディーに突き刺さるが
痛みを感じぬは痛覚を持たぬ機械の利点である

 卵による物量弾が通用しないとAIが判断するや否やキャサリンを倒した
【マグナムキラー】級の火薬弾の発射、そしてサブで
備え付けられた火炎放射の筒管が人で言うところの喉の部分に出始めた



拠点破壊用の主砲、回避行動を取られた際に逃げ場を無くすよう
満遍なく周囲一帯を火の海に帰る、そういう攻撃パターンを組まれているのだ





  ボウッッッ!!!




クッパ「そんなモノッッ!!!」ガシィィィ!!!ズザザザザザ-z__!!



両の腕でそれを掴み、脚に力を入れ、爪を地に立て踏ん張る
それだけで城の城壁を倒壊させる兵器は止まったのだ





クッパ「ハアアアアアアアアア ア アァ ァ ッ ッ!!」ブンッ!



-―――ヒュゥゥゥ!! ドボンッッ!


腕を振り上げ、巴投げのように振り飛ばされた砲弾は風を切る音と共に
大海に沈む、そのまま浮かび上がることは無いであろう



メカキャサリン「キュピピ!ピーーーーッ!」ガコッ


 眼をチカチカと点滅させ、がこんっ!と口部のシャッターを開く
喉元まで上がっていた火炎放射の機関が顔を覗かせた

オリジナルのキャサリンもドラゴン族、故に火を吐く事ができ
多機能性を持たせるべくチュルゲはそこに目をつけ設計図に組み込んだ



本来のモデルに似せた性能、しかし本来のモデルを上回る強さをと!


殺戮マシーンの口部が鈍い輝きを見せる

 鋼鉄の口内で炎色反応を起こす可燃性の高い化学液が
花火の美しさと火の恐ろしさを瞳へ焼き付かせるべく
前準備を完了させた合図だった




メカキャサリン「ジュゴォォォォォォォォォ」ボワッッッ!!!




赤、青、緑、黄と彩艶やかな、これから火葬される者への手向け




それは帝王の身を包み、焼かんとする











  クッパ「なんだ、こんな時に花火とはお目出度いヤツだな」






目を薄らと細め、春の暖かな日差しの中で日向ぼっこを
楽しむ無邪気な子供のような顔で大魔王は笑った、いや…"嘲笑った"


煉獄に焼かれ苦しむどころか、大きく息を吸い、噴き出された猛火を
喰らい始めたではないか…っ!



クッパ「ガッハッハ!愉快な奴め…!余興の礼をしてやろう…」スゥゥゥ…!



顎を、大口を、牙の門を開き…!

深い…深い…っ とてつもなく深い深呼吸……っっッ!!


火炎と共に燃え続ける酸素を大きく吸い込んで、そして―――!





     - 灼熱の吐息<ブレス>とはこうするのだ…ッ! -




 大魔王は"地獄"を吐き出した…!



鋼鉄の蜥蜴が噴き出したソレを打ち上げ花火と喩えるならば

怪物王の吐き出した"地獄"は活火山の噴火口から噴き出す獄炎である



 渦を巻き周囲の炎さえもそれに惹かれ渦に飛び入ったかのように巻かれ
大火事が一つのうねりをあげる大蛇となりて機械の頭部があった場所を
通り過ぎ、後にはドロリと表面が溶鋼状となり地表に零れ出した鉄屑が…






(首なし)メカキャサリン『ぎ ぎぎぎ ギイイイ』バチ! バチチチ…





―――ボタッ! ボトッ! ジュゥゥ!!




溶鉱炉から溢れだした液状金属のようになった頭部

8割が融け出し、バチバチと剥き出しの回路が火花をスパークさせる


直後トチ狂ったように全速前進を初め、クッパ目掛けての突撃を開始した
殺戮目的の機体に感情などはない



 然るに、この機体が顔を溶かされ、醜悪な容姿に変えられた事に
怒りを露わにして駄々を捏ねる聞き分けの無い子供が大人に衝動的に
八つ当たりをするソレと見紛うような行動に出たと思えても
それは気のせいである







メカキャサリン『ぎ ぎぎぎ ギイイイ ギギイギギイギイイイイイイイ』バチバチッ!




塗装も焼け剥がれ、痛々しいとさえ思う程に変わり果てた機械は
渾身の力を以てしてクッパ大王に挑む……が





  ガシッ!







クッパ「ほう、今度は相撲か?それともなんだプロレスか?
        良いぞ、好きなだけ来るが良いワガハイが遊んでやる」





メカキャサリン「ぎ、ぎぎぎ…!?」メキッ メキメキ バキィッ




 60t…㎏<キログラム>に換算する事、重さ60000㎏に及ぶ鉄の塊を
受け止めた剛腕は枯れ木の小枝へし折るより簡単にその鉄腕をへし折った

*********************************


           今回は此処まで!



>>198


『訂正』

クッパ「嘆かわしいことだ、もう止めたのか
         それで吾輩の部下を名乗るだと…?」



クッパ「嘆かわしいことだ、もう止めたのか
         それで ワガハイ の部下を名乗るだと…?」





ごめんなさい、クッパならワガハイを漢字で言わないですね…







           次回予告ッ!


      (敵が)圧倒的絶望編part2



*********************************



クッパ「脆い腕だな」ポイッ



取っ組み合いが始まって1分も経たぬ間に試合は終わった

 腕力に物を言わせてへし折り、剰え引き千切った金属製のソレを
興味無さげに放り投げた

ひび割れ、焦土と化した大地に鉄屑が落ちては甲高い音がエコーする


 頭部は熔かされていた…

 最大火力の【マグナムキラー】砲も、火炎放射器も使い物にならない
 縦しんば使えたとしよう、この化け物に効果が一度でもあっただろうか

 60tの重量と四輪駆動での突撃、その身を武器とした渾身の突撃は
 何の意味も為さなかった




―――初めから闘いですら無かったのだ…




クッパ「むっ?もうネタ切れなのか…
          なんと芸が無い、つまらんヤツだ」ググッ



 茫然と立ち尽くすしかなかった、剥き出しの配線コード
火花散らす頭部の電子回路、今しがた腕を捥いだ化け物の腕は
鋼のボディーを逃げぬように掴んでいた


 攻撃手段を奪われ、逃げるという選択さえも無くなった
そして殺戮兵器のAIは考えることを止めた


 クッパはこれから鷲掴みでするように右手を広げる
ジュラ紀の肉食獣の牙をも凌駕する爪を…っ!

顔の熔けた頭部目掛けての鋭い貫手という型で放った…ッ!





        メジャッ ッ ッ ッッ ッ ッ!!




鉄の融点は1538℃…凡そ溶岩の持つ熱量より300℃以上の高温である

獄炎の吐息により熔鉄と化した頭部へ追い打ちのような形で突き刺した腕

 右腕の皮膚が焼ける、その行為は自らの腕に痛みを伴わせる行い
クッパは"あまりにも張り合いの無い相手"へ敢えてそれを行った



クッパ(…つまらん、本当につまらん…あまりにも"満たされん"ぞ)



腕に溶岩を上回る熱量、痛みが迸る…



 かつて、彼が"心の底から認めた好敵手"との対決で

     幾度となく経験した痛み…唯一

       生命を賭した死闘を…誇りを実感できたソレ…




  クッパ「貴様の顔は見飽きたぞ、消えろ」グシャ



鼠男は腸が煮え繰り返るような思いだった



 数刻前までの彼は頗る上機嫌であった、幼少の頃から"何かを壊す事"を
愛して止まなかった


 小さい頃は積み木を重ねたモノを蹴り飛ばし
公園の砂場に作られたトンネルやお城を踏みつぶす

 成長するにあたり、火薬の製法、ゲリラ屋の戦術、テロに必要な知恵
成人してからと言えばそれら犯罪に必須の学術へと情熱を打ち込んだ



 全ては数刻前に港の灯台目掛けて打ち上げた花火のように頬を綻ばせる
傍迷惑な芸術作品を生み出す為であった







そんな彼奴の芸術は重い腰をあげた壮年の皮膚は愚か、甲羅のトゲにすら
傷一つ付けられないのだ

更には車両内から湧き上がる臆病者どもの喚き声







糞野郎どころか蛆虫以下とさえ、吐き捨ててやりたい苛立ち…







 さっきだって一人、クッパ大王が砲弾の嵐に呑まれて無傷だったことに
逃げ腰になった奴にアッパーカットをお見舞いし―――
















             チュルゲ「…ぁ?」











煮え繰り返る怒りの熱はそのまま脳に伝っていた
火に掛け湯が沸騰するやかんや鍋のように脳も熱かった


が、その熱が急速に冷めていく、頭は驚くほどクリアに、冷静になる



 冷汗が首筋から垂れ始める、1つ、ある可能性が浮かびゾッとした



車両をゆっくりと見渡す、首を動かす


油の切れた機械人形のようにぎこちない動きで


車両内に居るのは旧クッパ軍の古参…と野心を持った若い連中






先述の通りだ


玄人も乗ってはいる…だが圧倒的に"古参と比べて新参の若者が多い"のだ








チュルゲ(…まさかっ!?)バッ!








ドン・チュルゲ


火薬のプロフェッショナル、裏稼業でその名を聴けば誰もが口を揃える
 過去に夢の王国の侵略者たちの誘いに乗り、キャサリンやヘイホー達と
英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>相手に戦う前はその胸の内にある狂気を以て
あらゆる地域を凄惨な阿鼻叫喚の地獄絵図へ変えて来た




 そんな彼が今回、数両の戦車を率いて、航路、空路を押さえるという
大役を"指揮官殿"から授かった

ご丁重に部隊の兵を自由にできる指揮権限までくれた上でだ




港湾、飛行場<エアポート>、同盟国からの軍隊の上陸、補給線を断つ役割を


【ブーメランブロス】のような実力相応の中堅や古参の漢達ではなく
そんじゃそこらの壊し屋風情に任せたのだ






 チュルゲは"指揮官殿"の演説を諳んじた
いともたやすく頭の悪いヤツは乗せられた

そして一部の勇気と蛮行の違いが分かる冷静な玄人たちは自棄になった




  チュルゲ「…ょッ」






  チュルゲ「ちっっっきしょおおおおぉぉぉぉ!!!!
                 そういうことかよぉぉぉっ!!」


奇しくも鼠男の憤りが劈くように上がると同時だった


"指揮官殿"を乗せた本隊が国道を進み首都を目視できる距離に到達した


「クッパ城とキノコ王国、その中間の位置に港湾はある」



「ワシ等が今日を作戦決行の日と決めたのはそこにある」

「ええ、マリオ達はカートで遠くへ、戻るのに時間が掛かるでしょうな」

「うむ、そして…」




"指揮官殿"が続く言葉を促す



「…クッパ様、ですね」


「遅かれ早かれ、ジュゲムTVの中継で事はあの御方のお耳に入る
  王国を…ピーチ城を可及可能な限り迅速に制圧
 記憶の戻らぬマリオはともかく弟、それに歴戦の戦士も多数居る」


「英雄兄弟がすぐには戻れぬ状況
  少しでも戦力の薄い状態で挑まねばならぬ
 協定を結んでおるクッパ様もこの事態には御出陣なさるじゃろう」






 嗄れた<しわがれた>声で、老兵は憂いを帯びた目を伏せたまま嘆いた






「…クッパ軍は…我らが栄光のクッパ軍団はあまりにも肥大し過ぎた」

「お前たちとワシ等は長い付き合いじゃな」


「「「はっ!」」」



「…ワシが前線に出たのは【ルドウィック】様らとの世界侵攻作戦の時
  それ以前は城で見張りをしとったわい」

「あのクッパ様が赤子の頃からのお付き合いじゃて」




「…皆が"忠義"をもっておった、じゃが…どうしたことか?
  【ゲラコビッツ】の時を覚えておるか?」


「【カジオー軍団】に洗脳された時とは訳が違う、自らの意志で
  あの御方を裏切る不義の者が出始めた…っ!!」


「…あの御方ですら御し切れぬほどに肥大しすぎた、だから…"選別"した
  僅かな足止めで構わなかった、クッパ様が無視なさるのなら
 そのまま港の摂取とすればよいだけじゃ」




「野心だけを持つ不忠不孝の若造共には生贄の羊となってもらったわい」




―――
――



 初めから自分達が"捨て石"だと分かり切っていて既に
諦めの色を顔に浮かべていた玄人の兵




漸く事態に気がつき始めた者

未だに戦車を降りて走って逃げればまだ助かる、と淡い幻想を抱く新人




指揮系統は混乱を極めており最早、誰も戦おうとしなかった



チュルゲ「クソッタレぇ!!」ガンッ!



チュルゲ「……っ」ギリッ









それは混乱の騒ぎに紛れ誰の耳にも聴こえはしなかった




チュルゲ「ゲリラ屋を…この俺を道具として利用しやがったってのか…
         この俺を…っ!爆破のプロフェッショナルを…!!」




チュルゲ「―――っけんじゃねぇ
      舐め腐りやがってッ!この落とし前つけてっやらぁ」







 この状況下なら誰も彼もが怯え、狼狽え
戦意喪失から立ち直れないだろう…この狂人を除いて



 爆弾狂は目先のクッパなど見ていなかった
見るべきは自分をコケにした老兵ただ1人ッッ!!










ゴソッ…



キャサリン(……不味いわね)


キャサリン(あと少しで縄抜けができそうだってのに、このまんまだと
        アイツ諸共クッパ大王にやられちゃうじゃないの!)


 魔王の快進撃を余所にドラゴン族は拘束から解き放たれるべく
縄抜けを試みていた、平和という湯に浸かり骨抜きとなっていたのは事実



とはいえキャサリンも腐っても強者の部類に属する

悟られぬよう関節を外し、黙々とその作業に没頭していた




 幸いにもチュルゲ以下他の乗り組み員も皆が
迫りくる悪夢にばかり気を取られていて、一言も発さずに事に及んでいた
彼女(?)を訝しむ者はいなかった


 いや、それだけ余裕が無いのだ、気がついていたとして
それをどうこうするより目先のアレをどうにかしたい、と




「おい見ろ!」
「あっ!あいつら…先に逃げる気だ!」


 モニター画面に映る最前列に居た車両の履帯が動き出す
あまりにも遅すぎた戦線離脱を試みたのだ


我先にと逃げ出すそれに続くように他のモノたちもまた撤退を始める


「ど、どうする…」チラッ
「どうったって…」チラッ





チュルゲ「――-ブツブツ」フーッ…フーッ






気でも触れたか



此方の武装が全く以って歯が立たぬ状況に平然とした態度を
保てなくなったか、年若い男達は思った


サングラスの向こうはモニター画面を見てなどいない、息は荒く
 何かを延々と呟いていた






その考察は半分正しい



若手の兵隊ですら、チュルゲの異様さに気がついたのだ

歴戦の兵が気付かなぬ訳が無い、これまで以上の狂気を鼠男から感じる


敵前逃亡を試みる味方を撃ち殺せだの、今にも逃げようとする
乗り組み員を先程のように爆殺しようとすらしない




ただ、"自分を嵌めた老兵"への呪詛を完全に
          イっちまった眼で唱える異様さに身震いを覚えた








 クッパ『 聴 こ え る か ! 降 伏 し ろ ! 』





「うわっ!?」キーン
「耳がぁっ…」キーン



 モニター画面に映る大怪物は天すら裂ける大音量で
声を発していた、スピーカーは軽い耳鳴りを起こすそれを拾い丁重に
戦場に居る全ての兵の鼓膜を直撃させる






 クッパ『今から車両を全て破壊する…死にたくなければ降りろ』







"死にたくなければ"





今、車両を出れば地獄のような"お仕置き"が主君から執行されるのは明白


だが、主君は部下の命までは取らない
お優しい懐をお持ちの御仁で在らせられるのだ…



 精々、二度と謀反を企てようなどと
思いたく無くなるくらいにお灸を据える程度で済ます



 年老いた今のクッパなら溶岩の真上に縛り上げ
じわじわと皮膚を焼き焦がす熱で炙る程度で許すだろう、お優しい事だ







―――
――







クッパは声をあげたあと、相手方の出方を見ていた


どう出るか…



その答えはすぐだった



藪を突けば蛇が出る、蜂の巣を棒で叩けば兵隊がわんさか出る


 輝かしき旧クッパ軍の軍旗という反旗を靡かせていた戦車からは
ぞろぞろと兵士は降り立った、顔色はどれもこれも死人色で
これからを思えばこそ生きた心地など微塵も無かったであろう



「…おい、早く降りろよ」
「うるせぇよ…」




どの声も覇気がない、通夜を迎えたように
そして何かに憑かれ脚を前へ進ませる以外の術を忘れたように歩き出す










   クッパ「…キサマ等、全員降りたのか」




   クッパ「一度は自分達で"旗を掲げた身"でありながら…」




   クッパ「誰一人として今の自分が信ずるモノの為に戦わんのか!」









         …い、命だけは…
…ヒッ!                で、出来心だったんですっ
     …お、お助けを…







若い兵は縮こまり、その場に跪いた

老いた兵は、何も言わず打ち震えた









   クッパ「……」


   クッパ「もうよい…」


   クッパ「命まで取らずともワガハイ自ら鉄槌を下そうかと思った」





   クッパ「もう……怒鳴り散らす気力さえ消え失せた」



その言葉を聴いて兵は何を想うたか?

主君を悲しませたことへの哀しみであろうか
武人としての器の小ささを思い知った事であろうか



ならば可愛げもある


生贄の羊として切り捨てられた男達は苦渋のあまり皺だらけの顔を歪めた






 だが、跪いてベソをかいていた者は事もあろうにそれを聞き
安堵の息を吐いたのだ


 疫病にでも犯された病人と見紛う程に悪かった顔色は
血行の良い赤みが出た顔へと変わり
絶望のどん底に居る様を表した口角は天にも昇る気持ちを表現した




拳を振るいあげ、石畳の上に叩き付ける





            [<つきでろボボーン>]





           バ コ ンッ ッ ッ!!





梃子の原理、石畳をぶち割りさらには地盤の層をも揺るがす一撃

震撼させた大地は劈くような悲鳴をあげた





その悲鳴は目先にあった一両の底面装甲を突き破る…!


 元より戦車というのは被弾率の高い前面、側面、そして後面の順に厚く
造られる代物なのだ


 取り分けて、戦車装甲の中で弾が最も当たらない底面と上面が薄い
それゆえに爆撃機と地雷が天敵とされている




コストパフォーマンスに特化させた木材と薄い金属板とは言え、それを
ぶち抜く地脈の槍にそれに乗っていた搭乗員は青ざめた


 最初の犠牲となった戦車は大岩の穂先に持ち上げられ、5m程
上がった所で"真っ二つ折れた"
 一枚のビスケットのど真ん中をフォークで突き刺して力を込め
ぱきっ!とへし折るように、それは真っ二つだ


 拉げた燃料タンク、スプリンクラーの散水を彷彿とさせる
ガソリンの飛び散り…電気系統の千切れた配線から飛び出るエレキテル


港町にまた一つ、人工物が燃える音が加わった


 両肩から先に生える2本の太鼓桴は次々と地盤を叩きあげ
破壊音が小気味の好い爽快な拍子を取っていく


ガラガラと音を立てて崩れる炭化した灯台の上部

燃え上がる港酒場の酒庫は酒樽に引火する度に景気の良い花火が上がる

宙ぶらりんになって、"耐え切れなくなった"戦車の木片と金属板の落下音




 ドン・チュルゲの優雅なクラシック音楽に勝るとも劣らない
 狂気的なお祭り音頭が朗らかに冴えわたる




設立記念公園に咲き乱れていたパンジーの花弁も愉快な民謡に堪らず
踊り出したくなったのでだろう




茎から先っぽがもう何も無い





風にひらひら舞い、火の粉と手を取り合って華麗に踊っている











夏祭りの会場に落ちて溶けたかき氷のような頭をした鉄屑の真上をひらり


祭りに来て迷子になった子供みたく泣きじゃくる兵の頭上をひらりひらり


軒並みの屋台のようになった戦車の残骸をひらりひらり










たった一両を残して全滅した戦車隊







さぁ、お祭り最後の締めは頭のイかれた花火職人の乗った御神輿だ!





クッパ大王の鼻先で燃えるパンジーの花弁<はなびら>がひらり…



               ―――ブンッッ!



…鼻先で踊った花弁は鬱陶しそうに払われた腕でかき消された

―――
――





- 溝鼠、いつだって俺は言われてきた


- 最っっ高の褒め言葉だぜ


- そんじゃそこらの在り来たりな綺麗事並べる野郎共より正々してらぁ




-ママに教わったでしょ?人は生きてるならイイコトしなきゃ駄目なのよ
   悪い事すると閻魔さまにベロを抜かれちゃうのよ?





-どいつもこいつも糞だ、道徳だぁ?

-悪い事はしちゃいけないんですぅ?






- 反吐が出るぜッッッ!! 鳥肌は立つわ、聴くだけで蕁麻疹が出やがる

   
- いつだって自分がしたいようにやって、したいように生きた





- 見てて虫唾の走る野郎はケツ穴に爆竹突っ込んでガタガタ言わせた

- 俺様特製の爆竹さ!最後は涙と鼻水と糞撒き散らしてザマァ見ろだ!





- イイコトしろだぁ?するなら綺麗なネェちゃんとイイコトしてぇな!







- 俺に指図する奴ぁ誰彼構わず爆殺した

- 利害が一致するなら多少は何も言わねぇでやった





-生まれてこの方、俺は一度だって舐められた事ぁねぇ


-裏稼業にその人ありと呼ばれた火薬のプロフェッショナル


- いつしかそう呼ばれるまでになった


- "その筋"で首領<ドン>とまで呼ばれるようになった



- そんな俺をこうも舐め腐りやがった…





























            チュルゲ「―――」ブツブツ ブツブツ




















   狂人は動かない




   1人では運用不可能な…もはや巨大な棺桶とかした車両の中で

   誰に聞かせるでもない呪詛を呟いていた











            チュルゲ「―――」ブツブツ ブツブツ








            チュルゲ「―――」ピタッ






            チュルゲ「…ふへ、ふへへ…ヘヘヘ」





チュルゲ「ああ、良いさ…やってやらぁ」ニタァ




チュルゲ「糞ジジイが……テメェの大好きな
            ロートル大王をやってやるよ」チュッ








チュルゲ「裏の業界で成り上がった男の意地だ…
          まさか虎の子のコイツを使うとはな」ジャコッ



チュルゲ「"コイツ"をキノコ王国の城に撃ち込んだら
               さぞスカッとしたろうによぉ」










サングラスの裏にある瞳は闇市界隈切っての火薬売りとして集めた資金で
購入した秘蔵の兵器を見つめていた






―――
――




戦車に搭載された砲、メカキャサリン、【マグナムキラー】

どれだけの火力を以てしても大魔王は止まらなかった


 あの戦車に詰め込んだ全ての弾薬を全て撃ったとしても
チュルゲに勝機など無い

それが降伏した兵たち、遠目で見てるノコノコとクリボーの見解だった



クリボー「…!ノコノコ見ろよ
      敵さんの大将がパッチ開けて顔出したぞ!」

クリボー「勝ち目ねぇから遂に白旗あげるんスかね…?」


ノコノコ「いや、よく見るんだ…何か様子がおかしい」



クリボー「…あん?なんだぁありゃ…なんか脇に抱えてんな」

ノコノコ「…筒状の物に見えますな…少し車体を前に進ませましょう」



ブロロロロ…!



フットペダルを踏み、排気ガスを出しながらカートは前へと動き出す





火薬のプロが脇に抱え込んだ筒状のソレ



バズーカ、…いやロケットランチャーか…何れにせよ
【キラー】の直撃でもビクともしない覇者に効く筈など無く

やけっぱちになった狂人の最期の悪足掻きかと誰しもが思った

















          ――――その時までは













彼奴がそれを構えた途端に戦場に居る皆が顔色を変えた



クッパ大王でさえも驚いた







クリボー「オイオイ…マジか、あれってマジモンかよオイ!?」

ノコノコ「なんてことだ…まさかあんなモノまで…確かにあれなら
      マグナムキラー砲どころの威力ではないっ!
     あのサイズなら車内で誰にも気づかれずに隠し持てる訳だッ」



闇市場でそれがどういった経緯で売られていたのか?

盗難か、横流しか…はたまた故障品を誰かが修理したのか、分からない






  クッパ「…そうか…!面白い、面白いぞっ!!」ニヤッ




大王はかつて煮え湯を飲まされたその兵器を見て…


        "[スーパースコープ]"を構えた男を笑ったッッッ!!

*********************************



           今回は此処まで!

      長らくお待たせ申し訳ございませんでした






           【解説】

『スーパースコープ』

SFCソフト【ヨッシーのロードハンティング】でマリオがヨッシーに跨り

敵を撃ち抜いてきたビーム兵器、燃料は乾電池である。



※実際に電池を入れてスーファミの2Pに取りつけた赤外線センサーを
 テレビの上に置いて遊ぶゲームソフトです。



 最近の認識で言うならスマブラのアイテムと言った方が分かりやすい
 連射式からボタン溜め押しで強力な一撃を放つ奴ですね


原作で全身鎧に身を包んだフルアーマー状態のクッパすら倒す驚異の兵器

*********************************



命の保証など無い、それゆえのスリル


 自転車あるいは軽自動車でブレーキを一切利かせずに
下り坂を駆け下りる瞬間、風と化すその一時


湯水の如く湧き出る脳内麻薬、分泌されるアドレナリンは彼にとって
程よい刺激を与えてくれる嗜好品と呼んでもとって過言ではない



口角を釣り上げたままの帝王は先程までの気怠さとは打って変わり
生き生きとした表情で歩行速度を上げていた


爪を立てて大振りに地面を抉るように腕を振るう

 ボーリング球を投げるフォームに酷似した殴打技は直径40~50㎝の
マンホールの蓋相当サイズの岩を吹き飛ばす



 吹き飛ばされた岩塊は距離にして100mの位置で光弾の列は接触
熱した鉄板に冷水を浴びたような蒸発音と灰色の煙瞬く間に広がる




チュルゲ「野郎ッ!目眩ましか…!」ズジャジャジャジャ…ッッッ!!


一直線に並んだ光弾の後続は灰色の煙雲が漂う中に
飛び込みドーナッツ状の穴を空け、その後を規則正しく続いていく


右か、左か、どちらかに移ったかに違いないと判断した彼奴は
身体を左右ジグザグに捻らせ∞の字状に弾幕を張る




  バジュウゥゥゥ!!


                      ドジュゥゥゥウゥゥ――z__!








 チュルゲ「くそったれ…っ!健在かよォ!!」ガショッ!




剛腕が風を切る音

採掘現場、あるいは解体工事現場で見かける重機が堅い物質を砕く音



巨石が飛んだ音


蒸発音



広がる鼠色の煙雲、未だ健在の魔王は此方目掛けて一直線だ
顎の下に汗が溜り、ポタリと落ちる…

 焦りを覚え始めたのは汗水が落ちたのと同時で、エネルギー残量が尽き
一つ目のカートリッジを装填しなければならないの時でもあった




ズガガガガッ―――――!





一進一退ならばましも、相手に【後退】の2文字は無い

チュルゲの陣取る位置へと煙雲の発生原は押し寄せていた



大王が一歩前に進みながら岩塊を

チュルゲの必死の弾幕は飛んでくる砲丸を食い止める防壁として





足止め、いや…足を止めることすら儘ならない、このままでは…っ!



彼奴が己の体色と同じ暗色の煙を眺め不安に駆られた時、福音は鳴った









   クッパ「ぐぉ "ぉ お゛ おぉっ――!」グジュゥゥゥ!!








これまでテロ活動を続けて来た男は知っている

爆心地で"運悪く"生き延びてしまった犠牲者の呻き声を



"運良く"苦痛を味わうことなく即死した者と違い、致死量の出血と
神経が焼かれ、まともに機能しない身体

それでも生にしがみ付こうと嘲りに来たチュルゲに命を乞い願った人間の
喉奥から絞り出したような声を


無機質な岩ではない、肉が焼ける音と演技でも何でもない苦痛に悶えた声



うねる尻尾はピン!と逆立ち、品の無い笑みが浮かぶ
僅かに空いた唇から齧歯類特有の2本の前歯と粘度の高い涎が溢れていく


チュルゲ「そこかぁッ!糞ジジイィぃぃぃぃ―――っ!!!」チュッ!


 じゅるっ!と口元から垂れていた体液を啜りギラついた目で
大きな丸みを帯びた耳が声を捉えた方角へ照準を合わせた


老体に、それも生身であるならば
喩え掠りであったとしても痛覚は並々ならぬモノだ


 動きが鈍くなるのは明白で、この機を逃すまいと
連射式から収束型の撃ち方に切り替え、ボタンを指で強く押す



先端に集まる光は渦を巻き、それは一つの輝きとなって―――迸った








             バッグォオオオオオン…ッッッッッッ!!!








渦を巻いた光は巨大な球となり、――――直撃した



 オレンジ色の閃光に目が眩む、爆心地を中心に波状に広がる衝撃波に
思わず仰け反りそうなった



火柱が上がり、ワンテンポ遅れて爆発…










「く、クッパ様…!」
「み、見ろ!生きてるぞ!」

「け、けどよ…ありゃ…」










腕を十字にクロスさせ、顔の前に出していた…だが、その腕はズタズタで

黄色い鱗の付いた皮膚は剥がれ落ちたように赤黒くなり出血が酷かった

王者の燃え盛る炎を連想させる立派な鬣<たてがみ>も焼け焦げていたし

肩や腕の金属製の腕輪は熔解してしまったのか、はたまた蒸発か消え
 装着していた身体の部位は焼け焦げていた







 年老いた漢は、両脚で立っていた、脚の爪で踏ん張ったのか
 地面には機関車の車輪跡のように2つの跡が残る



 2本線のすぐ傍には破片が落ちていた


 クッパ大王の…脚の爪だ…高火力を真正面から受け止め
 それを踏ん張った際に、脚の生爪が剥がれ、粉々に飛び散ったのだ



当然ながら、脚の指先からも血が噴き出ていた



   誰も、何も言わなかった。 何も言えなくなった。



チュルゲ「ッしゃっ!ビンゴだァ!!」



爪が剥がれ、血が指先から噴き出す脚に決して浅くはない痛みを負った腕



 未だ脳内は福音が鳴り響く、チュルゲはスコープの接眼レンズで
相手の顔を見る、どんな顔か、苦悶に満ちた帝王の表情はさぞ愉快だろう


パーティーゲームのミニゲームにありがちな百面相のように
威厳もへったくれも無い顔なのだろうと、嬉々としてそれを眺めた







チュルゲ「…」チュッ…!

チュルゲ「………」




チュルゲ「んだよ、その眼つき…」

チュルゲ「普通そういう時ってのぁなぁ、痛みと死に直面した恐怖で
              凍り付くってので相場が決まってんだよ」







チュルゲ「その諦めないっつー眼差し
      脚も腕もクッソ使えねぇ状態で尚、闘志が薄れない眼つき」





チュルゲ「さいっっっっこうに不愉快だわ…」ジャコッ!


 チュルゲは動きが見て取れるほどに鈍くなった漢へ
砲身を向け再び連射式で撃ち出す


―――
――




      命の保証など無い、それゆえのスリル

  死と隣り合わせの最中でこそ、必死に生を…勝利を掴む事を渇望する




 その危機的状況でこそ初めて到達できる『境地』…ッッ!



 それが彼は堪らなく好きだった






   クッパ「ウオオオオォォォォォォォおおおおおおっ!!」




帝王は咆えた、天すら揺るがす猛々しい声で



「は、走りだしたぞ‥っ!」

「ひぇっ…指先からあんだけドバドバ血ぃ出てんのに!?」






脚を一歩前に出す


脚の裏にピリッと痛みが走る
地獄の針山、針の筵の上を素足で駆け抜けていると錯覚する


指先は既に感触が無いに等しい、血を流し過ぎたか



だが、そんなこと些細な事だとでも言いたげに駆ける



加速すればするほどに空気の層を身体は貫いていく

風が焼けた皮膚を傷める、ヒリヒリどころの話ではない



だからどうした?とでも言いたげに駆ける




爆弾狂は絶えず、闇市で手にした光学兵器を撃ち続ける
 雨粒が如くそれは身体に被弾し、火を噴きあげ
たんぱく質が焼ける異臭が否応無しに己の鼻孔へ劈くように流れ込む







それで歩みを止める程、矮小な老人か?
         と、その姿を見せつけるように駆け続ける…っ!!








「すげぇ…」ゴクリッ

「傷だらけになって尚も立ち向かう…」
「あんなとんもねぇ兵器を前にして、俺じゃあできこねぇよあんなの」


「…はは、戦車がいくらあったって俺達じゃ逆立ちしたって勝てねぇな」
「老いゆえに衰えた、…そうタカを括った自分が情けない」





「…あの御方こそが…!」

「我らが城主を何故信じなかったというのだ…っ!」



「…反旗を翻した自分にこんなことを仰る資格も
      想うこともすらも烏滸がましい事だろう…が…!!」




  「クッパ様…!」「クッパ様!」「クッパ様!!



おそれ


恐れ、惧れ、畏れ


字面で表すならその3文字の発音は次の順に次の意味合いがある


1つ、其は単純に目の前で起きている出来事に対しての恐怖心

1つ、其は自分達の身に降りかかるやもしれぬ未確定の未来への危"惧"








1つ、其は――――







「クッパ様!!」「大魔王クッパ様!」「クッパ様ぁぁぁ!」





       ――其は、恐怖の中に『敬い』の念すら抱く恐ろしさ




生物は本能的に巨大な力に惹かれる

 喩えば獅子や虎の咆哮に竦み上がる肉食獣、同じ狩る側でありながらも
その雄叫びに身を縮こまらせる


 幼子が"おいた"をやらかして父親に怒鳴られた時、心臓がひゅっとなる
そんな経験はなかろうか?



生物は本能的に力を強く前面へ出す者に対して恐怖を感じながらも
そこに惹かれ、時として敬意すらも抱くのだ


嗚呼、目の前に居る彼こそが"王"であり、自分は跪き頭を垂れる側だ、と






扇動は確かにあった、だが自分達の意志で謀反を起こしたも同然


後に処罰を受けるだろうと分かっていても声高々にあげずにはいられない



今この時だけは、この瞬間だけは
何も考えず華やかな舞台に熱狂する観客で居たい






クッパ「うおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっっっっ!!」


チュルゲ(っ、くっっそだらぁぁぁぁ!!
        此処まで来られちゃ賭けにでるしかねぇ!!」)



捨て身、身の守りなど完全に捨て去った進軍は狂人を震え上がらせた


弾幕なんぞ意味を成さない、チュルゲは最後の博打に出る他ないっ!




ガコッ! ギュォォォォオオオオオオオオオ




連射式から収束へと切り替え、至近距離で放つ



至ってシンプルだ、それをやれば間違いなく自分も巻き添えは喰らう


悪く言えば追い詰められた
良く言うので在らば脳天をぶちまけるには都合の良い至近距離に来た



 チュルゲ(早く溜れッ!)ギュォォォオオオオオオ


 クッパ「―――――」ブォンッ!!






魔王は血の滲んだ両腕を車体へ伸ばす、指先が触れるまで十秒も要らない















 チュルゲ「っっしゃぁあああああ勝ったのはぁぁぁ俺だあああぁぁ!」








腹の底からの声、唾で出来た泡を口から下品に吐き散らしながら高らかに
己の勝利を宣言する






僅かな秒差ッッ!!



チュルゲが光の迸流を解き放つ準備が整う方が早かったのだ!!






















         ボ ウ ッ ッ ッ ッッ ッ!














発射音は確かに鳴った、チュルゲの耳にもよく聴こえた
























            ゴォ ッ ッッッ シャ ッッ…!












鈍い音が鳴った、チュルゲの後頭部からだ、本当によく聴こえた










「ハァ~イ♡ 私のタマゴのお味はどうかしらぁ?クソネズミ~♪」




カチッ





  ギュゥオオオオオオオオオォォォォォッォー――――――…







巨大な光の渦が、迸流が解き放たれた、包砲からの莫大なエネルギーは

大魔王クッパでさえも滅することができたのではないかと思式熱量で




それは天へと昇る龍の煌めきが如しであった





鈍い音と鈍い痛み、突然の衝撃はスコープの照準に映っていたクッパから
大きく逸れ、晴れ晴れとした大空へ強制的に移動させるには十分だった









チュルゲ「っんの糞オカマ野郎があああああああああああああああっ!」





キャサリン「はんっ!いいザマね、裁いてもらうと良いわ」










ガシッ!



クッパ「ぬんッッ」



チュルゲ「―――ま、待てっ、や、やめ









クッパ「 う"お" お"お お"  お"  お"おぉ ぉお

      おお" お " お "おおお お " お"お" お 

             お"おおお ォォォォァァ ッッッッッ!!!」






チュルゲの言葉を待たずして車体は母なる大地を離れる


 キャサリンはすぐさま飛び退き、乗員がたった一人となった戦車を
剛腕が持ち上げる、水平だった筈の視界は傾き、バランスを崩した鼠男は
転げ落ちるようにハッチの底へと転落した


がんっ!彼奴が車内に落ちて行ったと同時にハッチは幸か不幸か閉じた




 ズシンッ!!60t相当のメカキャサリンの比ではない戦車を抱え上げ
それを肩に担ぐようにして身体の軸を回転させるッッ!!









  かつてッ!大魔王はあのスーパーマリオに尻尾を掴まれ

 ハンマー投げ選手を彷彿させるジャイアントスイングを見舞われたッ!





 自分よりも遥かに小さき漢、身の丈は自分の半分以下のちっぽけな人間
体格的にも圧倒的に優位にあるはずの帝王は英雄の筋力に
文字通り振り回された、そして自らが設置した爆弾目掛けて投げる


 自分がマリオを振り飛ばし
最後には粉微塵にしようとした物によりにもよって自分が投げられたのだ


相手を掴んで遠心力を加えながら投げ飛ばす…苦汁を舐めさせられた技を
"敢えて"クッパ大王は使う




大気が震え、そこに渦ができる




竜巻だ





トンデモナイ重量の塊が円を描き、その力の中心は―――




クッパ「ウ"ヴォオオオオオオオオオオォォォオオオオオ―――ッ!!」




血走った目でGを加え続ける地獄の帝王である


超スピードで重力の壁が圧が次々と重なり、棺桶と化した戦車は軋みだす


 ミシ…ッ  ミシッ…!
                メキメキッ!


べっこべこに潰れた空き缶のように装甲はへこみ、ボロボロと崩れ始める



外側だけソレなのだ、ならば内部はどうなっているのか?


既に全速力で安全地帯まで逃げ切ったキャサリンの耳にも聴こえない






棺桶の内部から上がる悲鳴と何かが思いっ切りぶつかる音


読者諸氏は虫取り網と虫かごを持ち昆虫採集に行った経験はあるだろうか

 虫を入れておく箱に小石を一つ入れ
それを思いっ切り上下左右に振った記憶は無いだろうか



もしもそんな記憶があるのならばそれを連想すればいい



"箱"の中で壁へ、鋼鉄製の梯子へ、機器へ、モニタリングへ撥ねては跳び
跳んでは衝突する、それを延々と繰り返す


硝子や鋼鉄の破片が身体中に刺さったかもしれない

骨も肉も避けるし、粉々かもしれない









車内は地獄のピンボール状態だ、玉は…言うまでもあるまい









大回転ッ!クッパ大王その勢いに乗り遂にがそれを天目掛けて投擲ッッ!
時速300を超えた棺桶が大気圏すら貫くのではと思いかねない速度で上昇


 遊園地の絶叫系アトラクションでも体感できないだろう
急上昇&急落下のコンボ、上空3300ft<フィート>に到達し空気の薄い層から
それは落ちて来る


当然、落下地点では魔王が拳を練り上げて待っていた




          クッパ「破ァッッッ!!!」







              破裂




膨らんだ風船がパンッ!と割れる様にその一撃を合図に戦車が"破裂"した

もう一度言う、"破裂"だ

*********************************


           今回は此処まで!



  クッパVSチュルゲに時間掛け過ぎて申し訳ない

  別視点に次から移ります!





ミンチよりひでぇや
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物々しい排気音をあげて【過去からの贈り物】達はキノコ王国国道を進む

 塗装整備もなされていない道を走り続けた履帯は途中から国道線に乗り
その侵攻速度をあげて行った





皮肉にも国民の為に築かれた政策が国民を脅かす敵対勢力の促進となった





砲門が2門、砲塔が3基の大型戦車が2両、そして小型の車両が6両…

それが"指揮官"の搭乗する車両であった



 門番三人衆を前に小型を2両残し、後に本隊等と合流し
その内、"篩に掛けて"…ドン・チュルゲに権限を持たせた"癌細胞"と分離





10両だけの戦車…部隊は今や














 BUROOOOOO…!




BUROOOOOOOOOOOOOOO…!!






BUROOOOOOOOOOO O O !  !  !   !










 二 個 中 隊 規 模 の 軍 勢 と な っ て い た ッ!





「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!」」」」」」




軍隊に置いて、分隊は約13名の人員、小隊で43名ッ!

中隊が一個中隊につき182名に及ぶ!!

即ち360余名の武装した歴戦の兵<ツワモノ>共が国攻めに馳せ参じたのだッ!



卑怯、卑劣?なんとでも言うがよい






相手は自分達のような蟻の群れを蹴散らす主君たる大魔王

そしてその魔王と同格の英雄兄弟、の内の一人

それに付け加えて、この国にはその兄弟に勝らずとも劣らぬ豪傑揃いだ





たかが300名如きで正面から戦って何故勝てると口にできようか

なにゆえ大戦時代の兵装を復元した程度で勝てる道理が見出せようか







なればこそ一生涯にあるかないかの機を逃す手が何処にあると申すのだ!






"指揮官"は皺だらけの瞼を閉じ、静かに熱を感じていた



眼を閉じていても感じ取れる


自分達の……恋焦がれたあの美しくも儚い、輝いていた世界がそこにある



砂塵も、煙炎も、傷つき倒れていく友の姿さえも…ッ!



その瞬間は何もかもが愛おしかった

その刹那を、瞬きすらも惜しい、命取りになる最高の瞬間を…





 どんな絶世の美女を見たとしても決して抱けない
胸を熱く燃やし尽くす程の"焦がれ"がそこにあった


【埃】被ってた闘争心に再び『誇り』を滾らせる魂の唄がそこにあるッ!





眼で見るまでも無い



"指揮官"は今、光の中に居る…薄暗い蜘蛛の巣が張った部屋で

ただ堕情を抱いて、泥濘の底へ何処まで沈みやがて消えるだけじゃない


志を共にした猛者の"闘いそのもの"を称える賛歌が溢れていた!!



「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!」」」」」」


1つ、それはある意味で救いであるが、救いではないのだ


何が言いたいか、まず結論から言っておく



彼等は勝敗そのものは精々持って"オマケ"程度と考えている

無論、やるからには勝ちたいが、だが本命はそこじゃない





昔、戦争で活躍した漢達が…ッ、闘争に誇りを持ち雄姿を称えられた兵が

時代の流れと共に朽ちて塵芥となり消えていく…



誰の記憶にも残らず、やがては姿も名前でさえも忘れられてしまうこと


 それが彼等には【死ぬことなんかよりも百倍辛い事】なのである




どうせ消えるなら

このまま日の目を拝むことも無く霞のように四散していくならば





もう一度、戦<イクサ>場に馳せよう…部隊の花形となろう

栄光のクッパ軍団はかつて誰よりも闘いこそを生きがいとした筈だ


強敵と闘いそして自分達がどこまでやれたのか、いつだってそうだった



  今の若い小僧共には理解できんだろうよ

    大戦時代に誇りを持った男の心なぞ、鼻で嗤うだろうよ!




玉砕上等!自分達の戦火を見て何かを感じる者が"たった一人"でも居れば

その姿を記憶の片隅に留めてくれる者が現れたならば



…もしも、主君たちが、敬愛する強敵たちが何かを想ったならそれでいい




彼等にとっての『平和』は身体蝕む"甘い毒"でしかない

      自分の存在意義が無い、生きている意味が亡い




   だから【戦火】という"激しい治療薬"を追い求める…





今の常世は"生き辛い"のだよ…今、自分達が乗ってる戦車と同じ…

「役目を終えたらもう要らない」「邪魔だ」「不要な存在だ、捨てよう


ある意味で戦いは『生きる意味を見出せる』救い
だけどそれは…平和に馴染めない不器用な漢達を本当の意味では救えない


自分達の誇りの為に。

生きる意味をもう一度取り戻したい、廃棄物で終わりたくない。


またアイツ等と戦いたい。


誰かに忘れ去られたくない、俺達を思い出してほしい。






色んな感情が渦巻く、自分自身の都合、主君の事、強敵と拳を交えた時








「なんじゃ、子供の喧嘩と同じじゃのう」


「は!…指揮官殿?」



「ん、ちとな…おかしゅう思うただけじゃわい見てみぃ」スッ


「…」チラッ


「ふ、ふふ…どいつもこいつもイイ歳したモンが眼を輝かせおる
               余程血肉湧き踊っとるんじゃろう」ニィ!



「そういう指揮官殿も…随分と"お若い"ようですね」ニヤリ


「ハッハッハ!こやつめ!…クッパ様のため声をあげとるがの…」

「あげておりますが…なんですか?」






「それ『も』紛れも無く本心じゃがのう
      …結局はワシもお前らも皆、自分の夢、望みの為じゃて」



「…………」




「恥じるな」



「……」



「クッパ様にかつての栄光を思い出して欲しいのもまた本心だが
  自分の欲もまた同時に存在する本心じゃ

 いっそ開き直れ、認めぬ方が尚更タチが悪いわいマヌケ」


「ハッ!」ビシッ




「ワシ等は平和な世の中でのんびり暮らす事のできんデカイ子供じゃよ」


「…」





「毎日テニスやゴルフにパーティー三昧、そんな天国みたいな平和に…

   【退屈】に順応できんと駄々を捏ねる馬鹿デカイ子供よのぉ」






「……」




「退屈が嫌いだから刺激を求める、そしてふと真っ先に思い出すのは
 "大好きな喧嘩相手"でちょっかい掛けたがる…
     そんな悪餓鬼だと思うたんじゃよ!ハッハッハ!」



「ふっ、違いありませんな」




「うむ…!王国城壁が見えたな、さぁ!"ちょっかい"を出しに征くか!」


「「「「応ッッッッ!!」」」」




「皆に通達!天は我らに最大の好奇を与え給うたッ!!!
  これを逃すのは大虚けじゃ!予定通り切り込み部隊―――隊出陣!」









「さぁ!ワシ等の愛した世界の門戸を叩けぇぃ!!放てぇぇ―――ッ」













  ボッッッッッッ!!!



                     ――――カッ!







稲妻が近くの木々に落ちる音に酷似していた、音が止むころには

キノコ王国の城壁に大穴がガッポリと開いていた

   平和という脆い壁もボロボロと崩れ始める事を象徴するように


―――
――



 市民の避難は完了している、実戦経験など皆無に等しい
平和のぬるま湯にどっぷりと浸かった城仕えのキノピオ達が
その手に棒きれを持っていた



英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>に頼り切った彼等はその小さな脚と細い腕を
プルプル震わせていた…


小刻みに震える紅い斑点模様の彼等は
国内の至る所に配備されていた何処から侵入されても
東西南北、全方位に十数名居れば(無意味だろうけど)対応できると考え



キノピオA「だ、だだだ、大丈夫かな…」ガクガク

キノピオB「ししし、心配ななにゃいでしゅよ
       く、クリボーくらい追い払えます!」ガクガク


キノピオC「あ、あっちの方ってワリオさんや向こうにヨッシーさんが
            居るから、あぅぅ…向こうに配備されかった」



キノピオD「いざとなったら!この棒を投げつけてやりましょう!!
      いつまでも怖がってちゃ駄目なんだ!
            僕たちだってお城の兵隊さんだもん」




キノピオB「…な、投げたら棒がなくなるけど、その後囲まれたら?」



キノピオD「……」

キノピオD「や、やっぱりモノを投げるのは良くないよね、うん」








  ボッッッッッッ!!!



                     ――――カッ!





   ズドガァァァァー――ン!!




キノピオs「「「「キャー―――!!」」」」



吹き飛ぶ城壁ッ!パラパラと空から降ってくる破片
タルや木箱の影に光の速さで隠れる十数名のキノピオの群れッッ!



クッパ大王も港で足止めされ、マリオ達も遠くの空でゲドンコと交戦中


護りが完全に手薄になったキノコ王国に遂にッ!
           "旧"クッパ軍が攻めて来たァ――――ッッッッ!!



ドッゴォォォォン


ズゥゥゥン! ボガァァン!!




キノピオB「に、西側からも音が…!」

キノピオC「そ、それだけじゃないよ、もっと遠くからも」






"旧"クッパ軍はキノコ王国首都をぐるりと包囲するように囲んでいた


 王国そのものを…そう、一枚のマルゲリータ・ピッツァと考えて貰おう

 英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>不在、加えて協定を結んでいるであろう
彼等が主君クッパが部下の不始末を罰すべく如何に迅速に動いたとしても
到達にはまだ猶予がある(港の足止めを計算に入れなかったとしてもだ)


しかし、国内には怪力ワリオを始めとする超人がまだ居る



だからこその四方八方から一斉攻撃を仕掛ける必要がある





国家の本丸…ピーチ城を陥落させる為にどれだけの戦力が必要か?

何処から攻め込めば、最短ルート、かつ最低限の兵力で可能か?



それも踏まえて"指揮官殿"は配置した






クッパなら、間違いなく駒をこう動かしただろう、と考えて



以前記述したがクッパは内政はともかく戦<イクサ>に関しては秀でていた

幼少の頃より、"指揮官殿"の教育をスポンジが水を吸うが如く取り入れた

…政治はあまり良くなかった事からカメックは頭を痛めていたが




話を戻そう





カメ一族の覇者となったクッパの手腕はいつだって英雄兄弟を苦しめた


砦内に針の山、マグマの上に浮かぶ金網、ドッスン…隠しブロックと扉

ジャンプ台で跳ねた瞬間にピンポイントで撃ち出されるキラー

乗った瞬間に落下する板、飛び移りを困難にさせる数々の敵達…etc




いつだって難易度の高い"旅路<ゲームステージ>"を考案してきたとも




時には足を滑らせて、憐れ!奈落の底へ真っ逆さま!


 敵を避けきったかと思えば思わぬ位置に配備された伏兵に一撃貰い
身体が縮むような思いさえもしたことだろう



そんなクッパの恩師でもあるのが"指揮官殿"であり


今、キノコ王国を誰も逃げられないように完全包囲し
一枚のピッツァを8等分するようにそれぞれ地域分担で
同時侵攻作戦の展開も進ませているのだ



南側、南西側、西側、北西側…と切り分けていったピザ生地の"どれか"は
一騎当千の怪物が居ることだろう


如何に英傑であれど身体は一つだ、1区画で攻め込んできた敵と交戦中に
他の区画から侵攻した自軍…内どれか一つでも
本丸を落として降伏させればよいのだ




―――
――


ガラガラ…!

   パラパラ…





   ワリオ「へっ!奴さんのおでましか…」ポキッ、ポキッ




ガラガラと崩れ落ちる煉瓦と破片、立ち込める真っ白な煙


紫色のオーバーオール、長袖を愛用する英雄兄弟とは違い黄色の半袖から
見える筋肉盛々の丸太のように太い腕
 トレードマークの帽子同様に『W』の文字が描かれたグローブを嵌めた
手をポキポキと鳴らし煙の向こうから規律正しい足音の行進曲を聴く





ザッザッザッザッ!


 『―――』ザッザッ!

 『―――』ザッザッ!

 『―――』ザッザッ!

 『―――』ザッザッ!



未だ白煙の中で揺れるだけの人影、…相手は何か分からない



"指揮官殿"とやらが、切り込み部隊『―――隊』である




ワリオ(…あぁん?なんだぁ、ヤケにすっとろい動きじゃあねーか)



白煙の向こうから、ぞろぞろ…わらわら…数は…? 思ったより少ない?

それに何故、"突撃"してこない、奇妙だ




壁をぶち破ったなら、その勢いに任せ電撃作戦を展開すれば良いモノを…
 白煙や砂埃で互いの姿は認識し辛い、そのまま散らばるように
穴から這い出て、建造物を利用する市街地戦に持ち越せば
防衛戦に徹せねばならないこちらとしては不利になるはずだが…?




 『―――』ザッザッ!
 『―――』ザッザッ!
 『―――』ザッザッ!
 『―――』ザッザッ!





ワリオ「…薄っ気味悪ぃ連中だな」チッ

ワリオ「なんだか知らねぇが来ねぇならこっちから行ってやらぁ!!」



ゴォ!!闘牛の突進を思わせる力強い動き、煙の向こうに揺れる"人影"は
4、5…7ッ!! 辛うじてだが『手足』や『頭部』のシルエットが見える



つまり【クリボー】や【サンボ】…【ハナチャン】のような相手ではない

人型…【ノコノコ】系のカメ一族だろうとワリオは推測を立てていた





 『―――』ザッザッ!…ヒュンッ!!






       ワリオ(っ!野郎…何か投げやがった!)サッ!




―――視界を遮る白の中で猛者は風切り音を確かに聞いた



とすればあれは【ハンマーブロス】か!?
 煙に巻かれる最中、肉眼では確認できなかった"何か"を音を頼りに回避

紙一重で己の真横を過ぎ去った"何か"は棒状の形をしていた、とし
か認識できず、ハンマーであるとは断言できなかった




ワリオ「うらっしゃあああぁぁぁァァ―――ッ!喰らいやがれぇぇ!!」




その短い脚からは想像もつかぬフットワーク
 横跳び回避からのステップインでそのまま2体の『―――』目掛けて
渾身のダブルラリアットをお見舞いしてやるッ!



ボキャァァァアアアッッッッ!!

決まったッッ!!



渾身のダブルラリアットッ!ワリオの丸太のように太い腕が
前方2体の『―――』の首を情け容赦なく捉え、そのまま走り抜ける


『――ギッ”!』ゴシャアッ!
『――ゲッ”!』ゴシャアッ!


小さな悲鳴をあげ、2体は後頭部から硬い石畳目掛けて倒れ込む


 ごしゃあっ!!―――鈍い音がしたが振り向かない
そのまま倒した2体のすぐ左後ろに居た奴目掛けてエルボーを喰らわせる

めしゃっ!!硬いモノが砕ける感触を肘に感じた

手加減はしてやったつもりだが鼻っ面は確実に折れただろう




  ヒュンッ! ヒュンッ!




ワリオ「!」サッ

ワリオ「ほっ!!」パシッ!


エルボーを喰らった相手が膝をついて崩れ落ちるように倒れると同時に
左右から挟み撃ちをする形で投擲

1つは屈んで避ける

もう1つは、真剣白羽取りを彷彿とさせる動きで"それ"を掴んだ



 ワリオ「ケッ!てめぇ等さっきから何投げてやがん…だ…?」




風が吹いた、視界を遮る粉塵は煙共々に晴れていく…




ワリオ「な、なんじゃああこりゃあぁ~!?」ガーン!!



彼が掴んでいた物…それは『骨』だった…





カロンA「―――」ザッザッ!

カロンB「―――」ザッザッ!

カロンC「―――」ザッザッ!

カロンD「―――」ザッザッ!



倒されてバラバラになったカロンの骨『―――』カタカタ…!!


復活カロン「―――ギッ””…―――」バッ!……ザッザッ!




カロン…なるほど、通りで動きが遅い筈だ


動く屍兵たる彼等は倒せど倒せど何度でも蘇るのだ、頭部を踏みつけても
一時的に動きが止まるだけで、一定時間が経過すれば再動する




ヒュッ!ヒュッ!



ヒュヒュヒュ!!!





ワリオ「うおっ!?」



骨を十字にクロスさせた手裏剣のような"ソレ"…先程からワリオ目掛けて
投擲されていた棒状の武器の正体だった


彼奴等、自身の肉体(というか骨格)から数本、骨を抜き取りソレを敵に
投げつける習性がある

 2本の骨をバツ印になるように合わせれば、中心点が結合して
ブーメランと化す




驚くべきはそこじゃない、連中は骨を抜き取っても数分もすれば
何事もなかったかのように再生するのだ


投げても投げても無くならない、増殖する

そのメカニズムはどのような原理なのか自軍の者同士でさえも分からない





 ヒュッヒュッヒュッ! ヒュンッ! ヒュンッ ヒュンッ!





屍兵の胴体の一部が豪傑目掛けて投げられる、躱された骨はそのまま
民家の壁や石畳の地面にめり込む様に突き刺さる

これが直撃すれば間違いなく人の肉など抉れてしまうだろう





ワリオ「ぐっ…!――んだよっ、こりゃあ!さっきより数増えてんぞ!」



カロンA~D「―――」ザッザッ!



"一度倒されたが復活した"カロンA~C「―――-」ザッザッ!





骸骨を殴る、蹴る、踏みつける、物言わん骸<むくろ>と化す








 しかして不死の兵隊は起き上がる




 一度起き上がる、再び倒れても蘇る、三度敵として相見える





死なぬのだ、彼奴等は…












     カロンA~H「「「「「――――」」」」」ザッザッザッザッ







煙の向こうから見えた影はそれほど多くは無かった




だが…ッ!





ワリオ「うぉおおおおりゃぁああああああああああぁぁぁッ!」



ブンッ ビュンッ! グルンッ!ゴベシャッ!



カロンD「ギッ」ベキャッ!

カロンC「ゲギィ――!」メシッ!ミシミシッ!!




拳が猛威を振る度に、蹴りが薙ぐ度に、ひび割れ破壊されていく死の兵隊



死、破壊――――そして―――



"復活した"カロン「…―――」パラララッ…!カシャッ!…ザッザッ


                 そして――――再生、復活



―――
――




ワリオ「…はぁ、はぁ…ぜぇ…」ハァハァ…



カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ

カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ


カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッザッ





カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ!





どう見ても数が減るどころか増えている、それは一目瞭然であった


それもその筈だ







カロン「―――」ブンッ ヒュッ




ワリオ「くそったれ!」サッ スカッ








地面に大量に散らばったカロンの身体の一部たち『―――』


地面に大量に散らばったカロンの身体の一部たち『―――』カタカタ…!




地面に大量に散らばったカロンの身体の一部たち『―――』バラララララ!






"増殖"カロン「ギッ!―――-」ザッザッ





カロンは自身たちで個体数を増やす事ができるのだッ!

これこそが"指揮官殿"が第一陣の切り込み隊として送り出した際たる理由


 疲れ知らずの不死身の兵を一人送れば侵攻先で増殖し、気がつけば
始末に負えない程に量産し終えているという状況になる

相手は倒せない上に数が増え続けるそれ相手に勝手に疲弊してくれる



ワリオ…彼もまた紛れもない超人の領域に到達した漢だ



単純なパワーだけならそれこそマリオにもクッパの怪力にだって匹敵する

それこそ重さ100t越えの超重量級戦車だって素手で持ち上げ、投げれる






こと此処に至っては"相性が悪すぎた"…



 英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>は一体、如何にして
この恐るべき敵を退けたのか?




その答えを此処で言うとしよう





 彼等が初めてこの死骸兵共と遭遇したのは【7匹の子クッパ達】が
世界各国への侵攻作戦を展開していた時代だ


砦を始めとする要塞の守りに配置されていることが多かった

あの頃は今と違って4足歩行の亀だったが…




不死身のこいつ等をどう処理したか


ある時はハンマーを投げ、二度と復活できないように
完全に原型が分からない程に粉々にした



ある時は背中に付けた大空さえも飛べるマントを利用した
 空すら飛べるマントの風圧を利用した回転攻撃で
『場外へふっ飛ばした』…つまり倒せないから視界に映らない程遠くへ
飛ばしただけである




ある時は踏みつけて、バラバラになった瞬間、頭部を拾い上げて
奈落の底や煮え滾る溶岩の中へ放り込んだこともあった



…ただ最後のに限っては復活が遅くなるというだけで
完全に倒しきれなかったが



 ワリオ「ずらぁぁぁッ!」ドゴォォ!!



繰り出された正拳突きがカロンの頭部を首の付け根部分から弾き飛ばす
 頭部は口をあんぐりと開いた、なんとも間抜けな表情を晒したまま
ピンボール玉か何かのように他の同族にぶつかり目をぐるぐると回しながら



吹き飛んだカロンの頭部『―――』ズリ…ズリズリ



ワリオ「うっへぇ…生首だけで胴体に向かって這ってやがる」




―――
――




キノピオJ「うわああぁぁぁぁぁ!!」ドタバタ

キノピオK「きゃあああああぁぁぁぁ!!」ダッダッダッ

キノピオN「に、にげろおぉぉぉ」ヒィィィ!!





カロン×64『――――』ザッザッザッ









 東南部城壁から入り込んだカロン部隊は順調にその数を増やし
大通りへと到達していた、まるで我が物顔で凱旋するかのように









キノじい「…くっ、姫様」


ピーチ「…マリオ」ギュッ




 王城テラスから双眼鏡でその有様を見渡す家臣
歯痒さと不甲斐なさを胸に英雄たちの帰還を祈るしかできない姫…


 今、王城の門は固く閉ざされている、国民の多くが城内に避難しており
城門はピーチ姫の力によってより強固なモノとなっている


 注目されることが少ない為知らぬ者も多いが姫は
封印を施す力に長けている、過去に【ダークスター】を始め
【ゲドンコ姫の姉】だって封じていた事があるし

もっと昔の話をすればブロックに変えられた国民の魔法を
解除することすら可能なのだ



自分<ピーチ姫>にできること―――それは国民の安全を守る為
絶えず城に結界を張り続ける事である


歯痒い、一国を治める者が結局いつもマリオに…誰かに頼るしかできない



 好奇心と歯痒さから、かつては【カジオー軍団】との闘いに
同行したこともあったが今は前線に出るべきではない、守りに徹せねば








……このままでは時間の問題であろうが




ドガァァァァァン!!


   ドゴォォォォォッ――――z___________________________ッッン!!






"このままでは時間の問題"…その懸念は現実となる














ワリオ「な、なにぃ~!?」グググッ

カロン「ギッギッ…ぎべっ!」ゴバキャッッ!




骨亀にチョークスリーパーを掛けていたワリオは城壁の方へ視線を送る

 相手方の頭部やら胴体やらが軋み、音をあげて砕け散るのとるのと
ほぼ同じタイミングで首都を守る城壁が破壊された



ブルの集団「「「「「ウオオオオオオオオオオオォォォォォ!」」」」」





 逞しい筋肉の鎧を持ったマッシブなショルダータックルが
一斉に仕掛けられたのだ

粉々に粉砕された壁の向こうから【ブル】が…その後ろから
控えていた無数の兵が雪崩れ込んでくる…ッ!









カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ
カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ


復活カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ
復活カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ


増殖カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ
増殖カロン×10「「「「「「「「「―――――」」」」」」」」」ザッザッ






   ワリオ「うっ!…ぅ、ぅおおおおおおぁぁぁああああああ!?」





中も外も、敵だらけだった…体力が消耗し始めた男は驚愕した




カロン「「「「「――――」」」」」ワラワラ…ゾロゾロ



ワリオ「畜生ッ!どけぇテメェ等!」ベキッ!バキャァァァ!!ゴスッ!


ワリオ「どけっつってんだろうが!!聞いてんのか!頭腐ってんのか!」




無駄に頭数だけは増えた骨頭共は怪力ワリオの動きを阻害する


武装した【ブル】、メットを深々と被り金鎚を投げる【ハンマーブロス】

痛くないのか棘付き鉄球を口の中に入れて優々と歩く【ガボン】

ガボンと似たような挙動をし、地表を歩ける【フーフーパックン】





 その後からも"旧クッパ軍"の兵が続いてくるが…
そのどれもがワリオにとって見覚えのない者達だった


"緑のデカイ靴を履いたクリボー"、"ブロックに潜む小さな奴"…

"蝋燭に灯るサイズの灯に脚が生えた奴"

"蛇のようにうねるファイアーバー"…etc








 屍兵に纏わりつかれているワリオを尻目に彼等はそのまま首都の中心
目掛けて走り出すっ!














       ヨッシー「お困りのようですね」シュッ!








カロン「ビッ」カパッ







 一瞬の出来事だった、白に緑の斑点模様がついた"何か"が
数十匹に及ぶ骸骨を彼の視界から消した




ワリオ「あぁ!?お前…!」




 この緊迫とした状況下に不釣り合いな、暢気な声だった

靴を履いたスーパードラゴン、ワリオ曰く『食えない奴』の御出ましだ




ヨッシー「随分と侵入されましたね…」アチャー

ワリオ「…お前、あっち側担当だろーが、なんで此処に居んだよ!」



ヨッシー「んー?あぁー、それですか?」
















ヨッシー「既に殲滅しましたので
           一番近場のワリオさんの援護に来たんですよ」






ワリオ「はぁ~!?」



ヨッシー「…今回、私怒ってますよ?
        これではお祭り屋台の御馳走も
           ルイージさんの晴れ舞台(?)もおじゃんです」





既に食い尽くした屋台も時間が経てば材料を仕入れるだろうに、と
 ヨッシーは嘆いていた、そんなことを聴きたいんじゃあない
ワリオの目線に気がついたのか食い意地の張った蜥蜴が続ける



ヨッシー「…ええ、先に城へ走れば良いだろうと言いたいのでしょう」




ヨッシー「ハッキリ言いますが、手遅れです」キッパリ

ヨッシー「戦力が足りないんですよねぇ、これが…
        いやはや今回は流石にしてやられましたねー」


ヨッシー「普段頼りなく見えますがルイージさん一人居ないだけでも
      十分国内の防衛力は衰えますよ?
        向こうはそれを見越したんでしょう、ええ」



相性の悪い相手、【ヨッシーにも喰えない存在】は確かに居る
 その上、護りが手薄の状態での人海戦術…
何もかもが不利だった、今から駆けたところで勝敗は見ている、と


ヨッシー「向こう側で私が敵を鎮圧し終えた頃には
        既に大群がお城に向かってます、仮に全力で向かっても
      数の上で奮闘してる間に敵は私達を素通りして制圧する」


ヨッシー「…私の見立てだと
       どうにもクッパとはまた違う誰かの指揮に思うんですね」



ヨッシー「何が目的か存じませんが、城の制圧後、住人やピーチ姫には
       すぐには手をあげないでしょう…」


ヨッシー「敵の動きを見てて分かります、なら今私がすべきこと」







ヨッシー「…悔しいですが、此処は"奪還に備える"、ですね」


ヨッシー「緊急体制が敷かれたのはTV越しにクッパもしてるでしょうし
      ルイージさん達も遅からず知るでしょう…」






悔しいだろうが、此処は『"奪還に備える"』…それが意味するところは





つまり……






ワリオ「…けっ、てめぇはやっぱ喰えねぇ奴だぜ」


ヨッシー「辛抱強く待たれる方ですからね、ピーチ姫は」




ヨッシー「…ええ、悔しいですよ、悔しいですとも
                自分が情けなくなるくらいに」ボソ



ヨッシー「城自体はピーチ姫の御力で簡単には落とせません
       多くの方はお城へ避難しましたが、お城から離れた
       避難用シェルターに入った人も居ます」



ヨッシー「…近場の避難所へ急行します」スッ【ヨッシーのタマゴ(下)】


  ブンッ!!!! ギィィッ!? カパッ!


ヨッシー「それ」ブンッ【ヨッシーのタマゴ(上)】


カパッ!


ワリオ「…その卵の殻であっち側の【カロン】達をやったのか」


ヨッシー「ええ、倒せない敵を倒そうとする必要性は
     ありませんから、閉じ込めて無力化すればいいだけです」ブンッ

*********************************


            今回は此処まで!




  【解説:ヨッシーのタマゴ】


 ヨッシーが生む卵と言えば多くの人が投げて使う武器と考えるでしょう

(スマブラとかヨッシーアイランドとか…





 ゲームボーイ版ソフト『ヨッシーのたまご』

同じくGBソフトの『ドクターマリオ』同様の…所謂ぷよぷよ的なゲーム



上から【クリボー】【テレサ】【ゲッソー】【パックン】

そして『ヨッシーのタマゴの欠片(下半分)』

『ヨッシーのタマゴの欠片(上半分)』が落ちて来る



同じキャラを2つ重ねると消滅し、また、卵の欠片を使って
サンドイッチを作るように挟めば挟んだ敵を一気に消して得点が入る




 このように、卵で敵を閉じ込める、という使い方があるわけですね…


*********************************


―――
――



【キノコ王国 工業区】



ハンマーブロスA「ブル隊に続け!閉ざされた城を開城させるんだ!!」




ムーチョ工作兵「「「了解<ラジャー>」」」つ『ボム兵』




 国家の経済を支える要衛、工場が立ち並ぶ工業区画にて
【ブル】の集団に続き【ムーチョ】の部隊が先頭に居るリーダー格の兵に
従うように走り続けていた


 ガスマスクを装着したヘイホーの酷似した容姿の彼等の両手には
自我を持たぬボム兵が抱えられていて、背中の撥条<ゼンマイ>を捻れば…

その丸っこいフォルムについた可愛い脚で"カミカゼ=アタック"とやらを
遂行しようとするのだろう





鉄と工場油の独特な匂いが鼻につく中、彼等は坂道を登っていく
 乗用車からレースで使用されるカートの製造…
ガスや水道の配管に必要な道具に機材の類も多くは此処で精製される


 工場が多い区画というのは近隣住民への生活環境の問題で
人の住まいからはそこそこ離されている

緊急事態寂れた故に稼働ラインを停止し業務員が撤退したのなら尚更
寂れた印象を感じるのも無理はない



 赤茶色の錆びたフェンスを、タイヤや廃車を無造作に積み上げた
廃材置き場を横切って彼等は確かに見た










           ヒュッ!











   何者かの影が…


        横たわり全滅したブル隊の傍を飛び去ったのを…





ハンマーブロスB「なっ!今のは―――」

ハンマーブロスC「オ、オイ!しっかりしろ…くそっ!気絶してやがる」



ハンマーブロスA「お互いに背を護れ!周囲をしっかりと見るんだ!」バッ


ハンマーブロスB/C「応ッ!」バッ!サッ!
ムーチョ「「「了解!」」」サッサッ!







嫌に静まり返っていた





飛び去った人影の様なものは何だったのか?


状況を見るにそれがブル隊を全滅させたのだと思うが…、あの跳躍力は…



英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>が帰還して来たにしては早すぎる
通信機による報告では豪傑ワリオもこの地域担当ではない…ヨッシーもだ



では、誰だ?



眼を細め周囲を見ていたハンマーブロスBは忙しなく目を動かす…




  倒れた同胞<ブル>(全員 気絶で死者は0名)

  錆びたフェンス…鉄と油の匂いの工場地帯の風景

  ゆっくりコロコロと転がるタイヤ、積み重なった廃車

  横倒しのドラム缶、地べたに直置きされた工具

  所々に散らばったブル達のメットやアーマーの破片






…ここで違和感に気がついた






ハンマーブロスB(…ぁ?)







   転がってるタイヤ「」コロコロ……ピタッ




 西部劇で転がってる干し草の様な物体<ダンブルウィード>よろしく転がる
ゴム製のタイヤがある…


積み上げられたタイヤの山から1つだけ落ちて転がったとしよう

 落下して転がったとするならば、あんなに"ゆっくりと"…それも倒れず
直立でピタリと止まるモンか?普通…



違和感を抱く、すると次に人は疑念を抱き、朧げな疑念は次の推理へ繋ぐ
判断材料へ変わる



ハンマーブロスBが答えを出す前に日光を遮る影が自分達の真上に現れた













         鋼鉄製バレル『 』ギュルンッ!!









顔をあげた時にはもう遅いッ!


 "ヤツ"はタイヤをジャンプ台の代わりにして飛び去った、あの跳躍力は
そういうことだったのだ…っ!!



此処は工場地帯だ横倒しのドラム缶は幾らでもある




鋼鉄製のバレル―――金属の『樽』を"いつものように投げた"



そうとも、祖父から直伝のタル投げだ

















     ドンキー「 バ ナァ ナァ パワ ァァァァ!!」ブンッ!






ゴベシャッ!!  一発目は顔を上げたブロスBの鼻っ面にクリーンヒット

被っていたヘルメットはブル隊の破損したメット同様に罅割れて砕けた
顔面――鼻先の骨も砕けた

 そして跳びながら片腕で放り投げた二発目は
地面に叩きつけるように投げつける、それはワンバウンドして
 ブロスCは使い物にならなくなった利き腕の二の腕を抑え
痛みに唸るような声をあげながら倒れ伏した



ハンマーブロスB「」バタッ

ハンマーブロスC「ぐ、ぐおぉぉおおお―――ッ」





ドサッ!



ハンマーブロスA「き、貴様は…!!」





「おおっと!その手に持ってるの下した方が良いよ?」スッ




 降り立ったソイツは体格のイイ、全身毛むくじゃらで
厚い胸板に映える赤いネクタイが目につく輩だった


 そしてブロスAが金鎚を手に持ち振りかぶろうとした所で聴こえた声
年若い子供に多く見られる中性的な音域で―――




「それを投げるよりも先にオイラが撃ち抜いちゃうからね」



ゆっくりと首を後方へ、見えたのは赤いネクタイの相棒とお揃いの赤帽子
黄色い星が目立つシャツ一枚と長いしっぽ




世にも奇妙な武装、『ピーナッツ・ポップガン』を構えた少年の姿だった



ドンキー「君たちのお友だちにはちょっと寝ててもらったよ」


ドンキー「こんな楽しいお祭りの日に暴れるなんて悪い事だからね」




歴戦の兵を2名、瞬く間に沈めたゴリラこと"ドンキーコング"は
どこかマイペースな、穏やかでのんびりとした口調でそう告げた



ディディー「公演報酬<バナナ>の為に遥々来たってのに、物騒だなぁ」




彼等は今日この日、島から遠路遥々船でキノコ王国へ来ていたのだ

 祭りを盛り上げるための演奏者を探していたキノピオに良い伝手がある
そう言って紹介料と交渉の駄賃を稼いだワリオの誘いに乗ってきて
 偶々この騒動に巻き込まれた



ディディー「やれやれだよ、ウチの馬鹿ワニ軍団以外に銃を使うなんて」


ディディー「ランキー、タイニー、チャンキーも皆呆れてるだとうなぁ」







- ワリオ『という訳で、この日にパーティーあるからな
              おたくらに来て貰いたいって訳だ』-


 -ワリオ『『ボンゴ』『エレキギター』『サキソホン』『トロンボーン』
    それに『トライアングル』…おたくらのバンドなら最高に舞台を
                    盛り上げられるだろ?』-



-ワリオ『んん?報酬?心配すんなってちゃんと
         良質なバナナ用意しとくから、じゃあな!』-









演奏者"5人"…それに加えて全員を束ね
 尚且つ彼等の盛り上がる公演のDJを務める人物が1人…そう、彼こそは









  「なんじゃ…お前さんら、そんな生っちょろい腕で
           マリオの敵を名乗るつもりだったのか?」カツカツ






杖を付いて歩いてきた彼は部隊を一瞥、しわがれた声でため息を吐く
















 そう、彼こそは…――"マリオの宿敵にして原点ともいえる伝説の男ッ!"













 クランキー・コング「三下共が、…お前さん等じゃ100年早いわい」





    初 代 ド ン キ ー コ ン グ …ッッ!!





- 1つの『国』があった…雲の上まで届く高層ビルが立ち並ぶ大都会 -



- 文字通り天に近く夏の屋上は雨上がりだと陽炎<カゲロウ>が揺れる程 -



- コンクリートジャングルと呼べる都市が設立されたのは【1981年】 -



     - 今は『1人の女性が市長として治めている』 -












通称『都市の国』と呼ばれたその国の市長が、政治の舞台に立つ前に

1匹のゴリラに攫われるという事件があった…



それは当時の新聞にも大々的に取り上げられ、その経緯もあって
 注目を浴び、一躍時の人となった彼女に選挙の票が入ったとも言われる







 人々は知らない





 その事件はまだ、"無名だった頃の英雄"が関与した事を



 人々は知らなかった、女性を救い出した後に
 都会の喧騒から静かに暮らせる国に移住した1人の配管工を






 知る者は少ない、限られた極僅かしか知らない








 英雄マリオの好敵手…クッパ大魔王よりも前のライバル…









-それが今、この目の前に居る年老いた老人であるという事を…ッッ!-




ハンマーブロスA「ク、クランキー・コング…だと!?」





蓄えた白髭、丸渕眼鏡、折れ曲がった腰…ヨボヨボの爺さん
 高齢者と武装した兵士ではタイマン張ってどちらが勝つかは一目瞭然




…の筈なのだが





クランキー「ハァ…ワニ公共と言い、爬虫類に碌なモンがおらんわい」



クランキー「おい、そこの若造、武器を捨てて投降せい命までは取らん」





ハンマーブロスC「ぅ、ぐ…は、ハンマーブロスA!!!」
ハンマーブロスA「!」ハッ!




気絶したB、そして使えなくなった利き腕を抑えながらも自分に
『老いぼれ相手に屈するのか!?』と叱咤しようとする同志の目線



冷静に考えろ、今この場にいるのは3匹だ







ディディー『ランキー、タイニー、チャンキーも皆呆れてるだろうなぁ』





後ろで銃を構える少年の発言だ

他に仲間がいるのは分かる、だが今の言い方では
               "この場に居ない"のも分かる




ボム兵を所持したムーチョ工作兵、利き腕が使えない同僚1人、自分自身


数の上ではこちらが有利だ、肉を切らせる覚悟で突撃すればあるいは――






長年の付き合いであるCの視線で意図を察した
利き腕の使えない彼が後ろのディディーに肉壁として突撃し
 盾の役目を果たしながらムーチョ隊にヤらせる

お前はネクタイ付きを頼む、と…老人など恐るに足りん



いや、むしろ、あの老人を人質にしてしまえば…!!!








       クランキー「やめとけ、死に急ぐな小童」






ハンマーブロスA/C「「!!」」



ドンキー「?」
ディディー「は?何言ってんだよクランキー」キョトン





クランキー「長生きしとるからの、眼を見ればなんとなーくわかるわ」

クランキー「ほれ!さっさっと武器を捨てんかい、このウスラトンカチ」



ハンマーブロスA「~っ!ふ、ふざけるなぁぁァ!!!耄碌ジジイがぁァ」









 クランキー「ふぃ~~…今日は暑いのぉ?
            怒鳴り散らすと体温があがるぞ、ほれ」パサッ





ハンマーブロスA「うっ!?」ピタッ





突撃せよ、そう続けるつもりだった…それを見て踏みとどまった、否


足を止めてしまった





 ドンキー「ディディー!」バッ!

 ディディー「OK!」パァン!



ハンマーブロスA「ぐぎゃっ!」ベシャッ!

ハンマーブロスC「おごっ!?」ズドッ



クランキー「なっさけないタマじゃのぉ」フゥ…パタパタ


クランキー「…そこでビビらず、突っ込んくれば
       ウチの馬鹿垂れ共の一瞬の隙をつき、撃たれることも
       組み伏せられることなく一矢報いたろうに」


クランキー「肝っ玉の小さい奴め」





パタパタ、ワザとらしく暑い日に手で風を仰ぐ仕草
目の前の老人がやった事?


そんなモンは簡単な事だ




ただ着ていた上着を少し脱いだだけだ



 パサッと、布のすれる音、若き在りし日の逞しい胸板も
筋肉質な上腕二頭筋も見る影も無い


如何にもな"か弱いお爺ちゃん"身体がそこにあるだけだった








…ただ、小さな筒が上半身に大量に巻き付いていただけだ






南国特有の椰子の木、その繊維を生かした紐で大量に括りつけた小さな樽




 職人魂とでも言うべきか、太さ、長さは竹水筒程のモノで
よくこのサイズの樽を創ったモノだ…



それが脱いだ上着の下に左右5本ずつ、計10本!






その樽には一本、毛糸のような物が伸びていた



その樽には白い塗料で文字が書かれていた、英語で3文字









           『 T N T 』







クランキー「全く以って情けない
        こんなもんで臆病風に吹かれおってからに」



クランキー「老い先短いこのジジイと
           運命を共にする覚悟も無い玉無しとはな」




クランキー「ちぃと喉が渇いたのぉ…」スッ ブチッ スポッ!ポイッ!



ハンマーブロスA/C「「!?」」




 なんという事だろうか、この老人…身体に巻き付けていた
竹水筒サイズの『TNTバレル』を一本引き千切り
導火線を引っこ抜いたばかりかそれを口元に運んで―――!!





 クランキー「んっ!んぐんぐ、…ぷはぁ…うまいうまい」







中身を飲み干したでは無いかッッ!!



  TNT…TriNitroToluene<トリニトロトルエン>




爆薬の一種で、ドンキーたちが自分達の宿敵【キング・クルール】率いる
クレムリン軍との戦闘で樽の中に入れて投げることに使われた…


その破壊力たるやクレムリン軍の恐怖…
巨大蜂【ジンガー】の赤部隊をも吹き飛ばす威力を誇るのだ!





クランキー「ん?なんじゃ
        このバナナジュースの入った水筒が気になるか?」





ハンマーブロスA「…は?」

ハンマーブロスB「バナナ、ジュー…ス?」




クランキー「ペッ!…毛糸の繊維と泥が少し入ってもうたわい…」



クランキー「飲み口の小さな穴に本来はストローを入れとくんじゃがの」

クランキー「その辺で工面できる毛糸と泥を詰めてあたかも導火線が
       ついとるようにしただけじゃ」


クランキー「工場区画の此処なら油性ペンもペンキもなんでもある」




 クランキー「カカッ!本物と思うたか?たわけ!
           入国審査の際に爆発物所持で捕まるわい」ニィ


尤も、"めくら"共は騙せたがのぉ?と老いて知略に磨きを増した老人は
茫然とする兵士2人を笑っていた


―――
――


王国内は何処もかしこも騒然としていた










キノピオ「はぁ…はぁ!…皆!逃げるんだ!」ブンッ!


カロン「ギッ!」ベキャッ(首が取れる)


モブキノピオA「キ、キノピオ隊長!」



キノピオ「八百屋さん…野菜を拝借しますよ!」つ『カブ』

キノピオ「はぁぁぁっ!!」ブンッ!ブンッ!



ゴシャ、ベキィ

<ギッギィ!?



テレサ「隣国の遣いよ!!無事か!!心配を掛けさせるとは何事か!!」
 訳:(き、キノピオさぁん!無事だったんですね!良かったよぉ…っ)




キノピオ「テレサさん!…君も早く避難して」

テレサ「見くびるな!我が闇の力を以て汝に加護を与えてやろうぞ!!」
 訳:(嫌です!!私だって戦えるんです!キノピオさんを護らせて!)


キノピオ「…テレサさん、分かった!僕から離れないで!」






モブキノピオB「隊長もげろ!!」

モブキノピオA「言ってる場合じゃないでしょ!逃げるよ!」












キノコ王国民、クッパ軍団…その垣根すらも超えて









ワリオ「退けやぁァァ!!ワリオラリアットぉぉおおおおオオオ!!」




ブルA「ぐわああーーーーーっ!!」ドギャンッ


ブルB「お、俺達が力負けするなんて…!」


ブルC「うわぁっ、ま、前が見えないっ!?」





ヨッシー「はいはい、よそ見してる人は舌で目隠ししちゃいますねー」








お祭りに来ていたクッパ軍のカメック「くっ…!これはどういうことだ!!」



"旧"クッパ軍ハンマーブロス「うるせぇ!!これは名誉の戦いなんだ!」


お祭りに来ていたハンマーブロス「やめろ!クッパ様は協定を―――」



"旧"クッパ軍ブロス「邪魔をするな同志よ!俺達の誇りを思い出せ!」




現クッパ軍ハンマーブロスA「こんなのテロだ!戦<イクサ>じゃない!」

現クッパ軍ハンマーブロスB「めでたい祭りの日に、何考えてんだお前!」




"旧"クッパ軍ブロス「平和ボケの腑抜け共めぇ!性根叩き直してやる!」








現クッパ軍カメック「くっ…!避難所にこやつ等を近づけるな!」

現クッパ軍ヘイホー「「「「オオー!」」」」










イマ、この瞬間…此処に在る平和の為に、過去に埋もれた栄光の為に








クランキー「むっ!」



ドンキー「く、クランキー!見てご覧よ!あれ!」






遠目に見えるピーチ城『  』ボッガァァァァン!




ディーディー「うっわ…火柱上がってんじゃん、あれヤバいんじゃ」



クランキー「…」ジッ


ドンキー「たいへんだよ!僕たちも行こう!?」


クランキー「焦るな、まずは逃げ遅れたモンを助けに行け阿呆め」

クランキー「此処からでは如何に素早く動いたとて間に合わぬわ」










クランキー「……まったく、何をしている」

クランキー「…こんな時こそお前がいなくてどうするじゃ」

クランキー「この有事にまだ自分を取り戻せないのなら…」


クランキー「結局おまえさんは"その程度の男"だったというだけじゃ」




クランキー「…」


クランキー「…いい加減記憶の1つ2つ
       ポンポンと思い出さんかい、儂をがっかりさせるな」ボソ



















誰もが戦っていた、誰もが走り出していた、自分達にできる何かの為に








「装填!完了致しました!!」


「よしっ!ってーーーーっ!!」




ドドドッ

ドドッ!

ズドンッ!!


















キノじい「…姫様!なりませぬ!」バッ


ピーチ「……私の力で強固な物にしても次で限界です」




キノじい「し、しかし「キノじい…」









ピーチ「…自分の力ですもの、限界も、分かってしまうんです」フルフル







ピーチ「…門を開いてください、私が投降します」






キノじい「っっですが!」プルプル






           ピーチ「…じい、お願い」ニコッ




キノじい「……わかり、ました…っ」





「申し上げます!ピーチ姫が降伏するとのことです!!」


「民間人の安全の保証などいくらかの条件がついておりますが…」






「たった今、"指揮官殿"から通信が入った提示された要求は
   飲むとのことだ…城の旗を降ろせ!我らの旗をつけにいくぞ!」

「お前達は例のモノを城に運べ!」




「やった…ついに、ついにやったんだ!」

「ああ、…へへ!!なんか涙出て来たな
   これからは気に入りの枕もさらに高くして寝れるってもんだ!」



























  ――――この日、キノコ王国は落城した
















「クッパ様!大変ッ!ジュゲムTVをご覧ください」

ノコノコ「……」

クリボー「…ッ、んでだよ…!」

クッパ「諸外国への救援要請は出したな…全軍!手筈通りに動け!」



クッパ「これより我々は『協定条約』に則り、キノコ王国救援に向かう」


クッパ「港、空港に残る者以外全員ワガハイに続け!!」




フヨン、フヨン…












ルイージ「これさぁ…どこで操縦覚えたワケ?」


マリオ「ああ、これか…」


ルイージ「うん、これ」


マリオ「聞いて驚くなよ?…俺の勘だ」ニィ


ルイージ「わーお、そりゃすげぇ」


マリオ「お前が手当たり次第ぶち壊したゲドンコ星人共の宇宙船から
     唯一動きそうな奴を今こうやって飛ばしてるがな…」





マリオ「ぶっちゃけ、適当に押したらなんか飛んだってだけだ
        どれがブレーキで、どれがアクセルかも分からん」フッ!



ルイージ「わーお、そいつぁすげぇ…」



マリオ「途中で事故って墜落するかもわからんな!」ハハハ!



ルイージ「わーお、それはやべぇ…身震いしてきたよ、いや本当」




マリオ「…それにしても、もし俺達の推測通りだとしたら…今回の黒幕」

ルイージ「…あー、アイツね、アイツ、一度コテンパンにしたってのに」



マリオ「…まだ、この枕だけじゃ証拠不十分だがな」

ルイージ「うん…でも兄さんの中じゃ確定なんだろ?」


マリオ「まぁな、…さて、もうじきキノコ王国だ」









     マリオ「もう、随分と待たせたからな…」



 マリオ「俺達<マリオ・ブラザーズ>の力、久しぶりにみせようぜ」ニィ

       ルイージ「へへ…っ!程々に、ね」ニヤリ

*********************************



        今 回 は 此 処 ま で !



*********************************

―――
――




ワリオ「……」望遠鏡スチャ、ジーッ






ヨッシー「ワリオさーん、どうですかー?」

ワリオ「ちったぁ待ってろってんだ!今視始めたばっかだ!!」ジーッ





ワリオ「旗は取っ払われて悪趣味な旗が上がってやがるぜ、ケッ!」

ワリオ「主張の激しいこったぁ、落城からそんな時間経ってねぇのに」


ヨッシー「キノコ王国の国旗の代わりに"旧"クッパ軍のですか」


ワリオ「おう!だせぇデザインだよなァ!
        『W』って旗掲げた方が格好いいぜ」ガッハッハ!






キノピオ「おおおお、お二人共!何を暢気な事を言ってるんですか!」


テレサ「笑止!闇に染まりし王城を笑う時を見誤ろうとはな…」
 訳:(そ、そうですよぉ!お城が侵略されたんですっ!
              笑ってる場合じゃありませんよ!!)






ワリオ「ほーん、んで?てめぇ等みてーに慌てりゃ解決するってか?」


キノピオ「そ、それは…」



ワリオ「しねぇだろ」

キノピオ「…」



ヨッシー「焦る気持ちは分かります
       ですが無策で突っ込んでも返り討ちが関の山ですね」



キノピオ「…こういう時、僕は自分が情けなく思います」



キノピオ「僕たちお城を護る役目のキノピオは
            一体何のために居るんだろうって…」ギュゥッ



テレサ「…隣国の遣いよ、自らを責める出ない」ピトッ
  訳:(キノピオさん…そんなに自分を責めないで…)




ヨッシー「その考え方はどうかと思いますけどね、私は」ヤレヤレ…

キノピオ「…?」



ヨッシー「一体何のために居るんだろう、ですって?
        今しがた自分で口にしたじゃありませんか」


ヨッシー「城を護る為に居ると」



キノピオ「っ…それで、守れなかったから…自分は何なんだろうって!」


ヨッシー「そこですよ、そこ」







ヨッシー「君は、自分を完璧無欠のスーパーヒーローか何かとでも?」



ヨッシー「譲って超人的な能力を携えていたとしても
      100%護れるなんてそんなバカげたは話はありえませんね」




ワリオ「だな、俺やコイツが居たにも関わらずあのザマだからな」

ワリオ「っつーか、何か?さっきからそれは
        てめぇより強ぇ俺達への当てつけか?あぁ?」



ヨッシー「ええ、そうです、マリオさんが居たとしても同じです」

ヨッシー「奪われる時は奪われ、落とされる時は落とされます…」






ヨッシー「そして奪われた度にマリオさんは
             何時だって走り出して取り戻しました」


ヨッシー「重要なのは、守れなかったなら守れなかったなりに
     その時々で如何にベストな行動を迅速にできるかです」





ヨッシー「初めから奪われない前提なんていうのは
      馬鹿げている所じゃありませんね…寧ろ烏滸がましいです」



キノピオ「ッ!」


テレサ「喰人蜥蜴…!言葉が過ぎるぞ!」
  訳:(ヨッシーさん、そんな言い方あんまりですよ)



ヨッシー「事実です」

ヨッシー「自分の脳内で思い描いた局面が常にあるワケがないんですよ」

ヨッシー「どれだけ訓練を積もうが、どれだけ危機的状況を予測しても」

ヨッシー「"護れない時は護れないのだから仕方ない"の一言に尽きます」



ヨッシー「二度言いますよ?重要な事は守れなかったのなら
       守れなかったなりに、次にすべきベストを尽くすです」



ヨッシー「くよくよして、めそめそ泣いて後悔して
      そうやって停滞してても解決なんてまずありえません」







ヨッシー「反省会は何もかもが全て終わってから、それで良いんですよ」





キノピオ「…」





ヨッシー「それに私が見る限りベストな行動をとってたと思いますよ?」

ヨッシー「現にこうしてテレサさんと合流後に逃げ遅れた人を
      私達が近くに居た最寄りの避難所へ誘導してたんですから」


ヨッシー「胸を張って誇って良いんですよ、君は」

ヨッシー「えっへん!と大威張りで踏ん反り返るだけの事をしてます」



キノピオ「…ありがとうございます」



ヨッシー「はいはい、どういたしまして…」ニコッ

ヨッシー「さっきから静かなワリオさん、そっちの状況はどうですかー」



ワリオ「…んあ?なんだいありゃあ…」ポリポリ


ワリオ「城の裏っ側にある資材置き場だかゴミ捨て場があんだろ?」

ワリオ「奴さん、なんか"妙なガラクタ"をわんさか運んでるぜ」


ヨッシー「ガラクタ?」


ワリオ「…ほらよ」スッ


ヨッシー「どうも……、ふむ…どう見ても鉄屑ですね」パシッ、ジーッ


ワリオ「戦車のパーツ…でもねぇな、本当にタダの鉄の塊だ」

ヨッシー「…バリケード? あ、この国の工業区に持ってて
          鋼鉄製戦車の量産を…いや、それにしては…?」





 この国の工業区…ドンキーコング等が居た
工場地帯に運び戦車を造る為の資源にする気か…

そう考えたが不自然だ、その資源を木製戦車の強化に当てればいいのだ
確かに、コストパフォーマンスや修復のし易さを売りにした造りだが

 確認できた限りで、全てがソレだ、1、2両ぐらい鋼鉄製を造っても
問題無さそうだが…?



ワリオ「あの屑鉄は一旦置いといてだ」

ワリオ「城の周りはさっきまで街中にわんさか居た【カロン】共だ」

ワリオ「んで、ご丁重に各方面に戦車数両と城ン中にも外には居ない
     【ブル】公共と【ハンマーブロス】の団体様だ」



ワリオ「唯一手薄そうなのは…」







ヨッシー「"空"、ですか…」






ピーチ城、庭園は無論…外敵の侵入を防ぐための御堀周辺にも兵は大勢だ

地上からの正面突破は骨が折れる…ともすれば手は3つ



1つ、水中だ



嘗て、クッパが"ピーチ姫を絵画の中に閉じ込めた事件"の時

 秘密裏に開発していた潜水艦で海から城内に攻め入った事がある
潜水艦が発見された場所…【クッパのウォーターランド】と呼べる場所で
それが発覚した




2つ目は地中


地下から穴を掘っての潜入
時には城ごと地面から宇宙まで持ち上げた事もあった



ピーチ城は先に書いた通り、御堀がある

御堀というのは古典的だが効果的な防衛機構だ

敵兵が容易に入り込めないような深さを誇る水堀というのは古来から近世
長く使われてきたモノで地上からの侵攻を難しいモノへと変える



こういった地上からの防御力はそこそこあるのだが
 反面、地下や上空からの侵攻には滅法弱いのである…



ワリオ「俺らが攻め入る側に回るとな…あの正面の橋を通るっきゃねぇ」

ワリオ「敵は橋んとこ重点的に兵を配備してやがるし
    突破してすぐのエントランスも団体さんが居やがるんだろうよ」

ワリオ「くそっ、こーいう時に限って城の無駄に高い防衛力が恨めしい」




ヨッシー「…そうですね、私は泳げませんからね
     南の島でバカンスしてた頃よく溺れました…水堀はちょっと」


キノピオ「えっ…ヨッシーさん普通に泳げたんじ「私は泳げません」

キノピオ「あ、はい…」


「そりゃまいったなァ…バレルジェットも持って来てないしなぁ」


ワリオ「お?帰って来たな、どうだあっちの避難所から使えそうなのは」




ディディー「んー、缶詰とか乾パンがこんだけ」ドッサ

ディディー「あとは毛布とかかなー」


ドンキー「人も連れて来たけど…ここに集めた人皆じゃ足りないよね」

ワリオ「…だな、収容できる数に限りあるしなァ」ポリポリ




キノピオ「あの…すいませんね、街の防衛に手を貸していただいたのに」


現クッパ軍ブロスA「いえ、自分達は協定に則っただけであります!」

現クッパ軍ブロスB「当然の事です!」ビシッ



キノピオ「でも、怪我をした人も居るのに地べたに寝かせててなんだか」



現クッパ軍カメック「いえいえ…我らは丈夫ですゆえ」

現クッパ軍カメック「スペースに限りがあるなら民間の方を優先せねば」



 国中に居た兵の大部分は今や"旧クッパ軍"の軍旗をはためかせる
ピーチ城の衛兵と転じていた


牙城と化した城に乗り込む事も現戦力ならば不可能、ではない

ただ、乗り込んだ後が問題だ


 殴り倒してもすぐに蘇る【カロン】を始め
ヨッシーでも飲み込めない屈強な部隊がわんさか来るのは目に見える

頼みの綱はこの場に居る現状戦力たちだけだ、それが一網打尽にされては
本当にもうどうしようもなくなってしまう




何か、現状を打破できる…"流れ"…それを誰もが欲していた…っ!





ディディー「はぁ~あ、クランキーはランキー達と反対側に行ったけど」

ディディー「きっと碌なモン見つかんないだろうなぁ…」ゴロン


ディディー「…」ポケー



止まった流れ…停滞にうんざりとした顔で少年は寝転び空を見上げる


白い雲、青い空…煙を上げながら城に向かって飛んでく機影





ディディー「…は?」


白い雲に絡みつくように黒ずみの煙は空に昇り混ざっては消えていく


 煙を燻らせるのは嘗てこの国に災禍を齎した宇宙からの来客のモノで
それを目にした一同は眼を丸くした



キノピオ「あ、あ、あれはゲドンコの!?」


ヨッシー「ワリオさん、ちょっとそれ拝借しますね」ペロンッ

ワリオ「あっ!てめっ、この…俺の望遠鏡を舌で盗るんじゃねぇ!!」


ヨッシー「いいじゃあないですか、別に食べたりしませんよ」スチャ





ヨッシー「…」ジーッ






ヨッシー「…ふっ、ふふふ!」


キノピオ「よ、ヨッシーさん…?」オソルオソル

テレサ「ど、どうしたのだ…一体?」

ワリオ「…んだよ、ほくそ笑みやがって何見えてんだオイ」






ヨッシー「ワリオさん、これ返しますね」ポイッ

ワリオ「わっ!馬っ鹿お前コレ高ぇんだぞ!!」ガシッ


ヨッシー「みなさん、状況が変わりました
          私は今から城攻めに行ってきますので」ビシッ



ワリオ「ハァ!?状況を説明しろって!」

ドンキー「待ってよ、1人じゃ危ないよ」




ヨッシー「すいませんねぇ…柄にもなくちょっと興奮してるみたいです」

ヨッシー「あの宇宙船左から2番目の割れた窓ガラスをご覧ください
          内部の様子がくっきり見えますので…では!」シュタッ




ワリオ「あっ!…糞がッ!!
       あの野郎何の説明も無しになんだってんだ!」スチャ!


ワリオ「…!」ジィー






ワリオ「…ハッ!そういうことかよ…はしゃぎやがって…」

ワリオ「誰よりも先に合流して文字通り美味しいトコだけ食うってか」



ワリオ「アイツ一人に…
    いや、"アイツ等"に御馳走喰われて堪るかってんだよォ!」バッ!



キノピオ「わ、ワリオさんまで!?一体何が起きたんです!」





ワリオ「…」ピタッ


ワリオ「へへ…死んだ魚みてーな目をした奴が…漸く光取り戻したんだ」





  ワリオ「 マ リ オ が 記 憶 取 り 戻 し て 帰 っ て 来 や が っ た ぜェ!!」




―――
――




ルイージ「うひゃぁ…こりゃ凄い、数時間ぽっちでもうお城がアレだ」

ルイージ「随分と手がお早いことで」ヤレヤレ


マリオ「おっ、城門が開いてぞろぞろ出て来るな」

マリオ「流石に煙あげた友軍機(?)がこっちに飛んで来たらそうだな」



ルイージ「ハハッ!派手な凱旋パレードだなぁ~
             …み~んな目をまん丸くしてらぁ」


マリオ「だな、此処は1つ歓迎の出迎えに答えてやるとするか」ハッハッハ!




マリオ「早速、こいつを"不時着させる"とする」






真面な操縦の仕方など知らぬ

単に、直感…計器の位置や、ゲドンコの手足のパーツ的にどのスイッチ
どんなレバーがどういう役割か、重要なモノであれば当然押し辛い位置に
無いだろうという憶測などから来る…"感"で操縦していたマリオは


その異星の乗り物を地に降ろす方法だけはしっかりと分かっていた



マリオ「ふんッッッッ!!」つ【ハンマー】ゴッッッ!


操縦桿『 』メシャァァ!!


…バチッ!バチチチッ!…BON!



 …異星の乗り物は、ゆったりと
それでいて徐々に加速しながら"着陸"体制に入った…

火を噴きながら悲鳴を上げ始めた城門前で構えていた旧クッパ軍目掛けて




 阿鼻叫喚と化していた城門前にて、倒れ伏した一人の兵士がゆっくりと
重たくなった瞼を開き、今しがた焼土になった母なる大地から顔を離す


緑色のヘルメットは罅割れ、砕けていて…密かな自慢である髪型も焼け
焦げ臭い匂いを漂わせる片腕で目元を抑え立ち上がる




仲間達はどうなった?



一体何が起きたのだ?



何故ゲドンコの機体が降って来た?







周りで同胞が同じく負傷した者の肩を支えこの場から退避する姿が映る




【カメック】医療班を呼べ!大丈夫か!?死ぬなとしっかりしろ!と
戦友を励まし喝を飛ばす者…




そして、この彼のように立ち上がり事態を把握しようとする者


それがこの場に居る歴戦の兵達だ、割れたメットを被った首を左右に振り
被害状況を確認、そしていつも手にしていた槌に手を伸ば―――


…先の爆破で柄から先が焼き切れ、鉄製の頭も何処ぞに失せたようだ




苛立たし気に小さく舌を打ち、棒きれになった柄だけでも握りしめる
無いよかマシだ



「くそったれ!なんだってんだ!」


 少し離れたところで自分の内情を代弁したような声を同志が口にする
彼も自身同様に…膝をつきながらも爆心地を眺めていた

じっと、警戒するように…













     不意に、空が暗くなった。











1つ、―――たった1つだけ思い違いをしていた






彼等はこの奇襲に対して臨戦態勢を取ったのは良い



問題は次だ、彼等は何処を警戒したか、だ



 ブービートラップ、という単語を洋画や漫画で小耳に挟むことはあるか
簡単に説明してしまえば、それは戦術における1つの技法だ

相手の目に見える範囲に目立つモノを"ワザとおいて"そっちに注意を惹き
近づいた相手はBOMM!という罠の一種だ




 何もこれに限った話ではないが
人の意識や関心を多方面に逸らすという手段はあらゆる分野で存在する



 例えば手品だってそう、ありきたりな脱出マジックだって
壮大な前フリでデカい箱の鎖だの鍵だのに目線が集まってる中、手品師は
床下の隠し扉や鍵を掛ける大勢のアシスタントに変装して紛れて去ったり

ネタが分かると「ああ、騙された…そういうことか」と思わされる物だ





炎上する異星人の機体…
    その残骸から乗って来た人物が馬鹿正直に出てくる筈が無い…









気付いた時にはもう遅い、急に空が暗くなった事で彼は天を見上げた













    ルイージ「 Y e a h h h h h h  h!! 」ヒューッ






太陽のど真ん中に逆光で黒塗りとなったシルエットが1つ



遥か上空からッ!あの墜落の間際にカタパルトから射出した戦闘機の如く

新緑色の四輪駆動のマシーンがッッ!!英雄兄弟を乗せて跳んで来たのだ!



ヒューーーーーッ!!





ルイージ「そらそらそらぁ!!退いた退いた退いた!!」ビー――ッ!!


ルイージ「撥ねちゃっても知らないよォ!
       轢かれても生命保険は下りないんだからさァ!!!」





けたたましい警笛<クラックション>の音が空から響き渡る

ハンドルの中央に掌を押し当て何度も圧を掛けて暴走族よろしくな騒音を
捲し立てるのは帰って来た永遠の2番手だ


そしてその背後には……紅い悪魔ことマリオが控えているッ!!





マリオ「俺が言えた口じゃないが
      その警笛連打はどうなんだ?族っぽくないか…」ヤレヤレ

ルイージ「いやぁ~、レースやパーティーじゃない冒険は
       久々だからついね?テンション上がっちゃってさ」ハハハ!






 笑いながら落下してくる悪魔の姿に
"既に戦う前から満身創痍"の兵は戦慄した



1台の機体に【ダブルダッシュ杯】を彷彿させる二人乗りスタイル…

緑の弟の背後には片手に"ナニカ"黒い物体を持った英雄が居る



太陽光のせいでそれが何なのかは初めは分からなかったが徐々に彼等が
地表に近づくにつれて影のシルエットは取り払われ…輪郭が見え始めた









  「ぼ、ぼ、ボム兵だぁああああああああああぁぁぁぁッッッ!!」








白いグローブの上にちょこんっ♪と可愛らしく椅子でも座ってるように
鎮座する黒い物体はネジ付きの玩具そのもののようだった


 自我を持たないタイプのボム兵の虚ろな目がただただ
冷たく怯える兵達の顔を映していた…




「ひ、ひぃぃっ、つ…潰されちまうっ」サッ!

「うわぁぁぁぁぁあああ!!」ゴロッ…ゴロゴロ




満身創痍の身体の何処にそれほどの力があったのか最後の気力を振り絞り

 人間二人分の体重を上乗せした四輪駆動のマシンの落下地点に居た兵は
身を捩らせるように転げてその場を離れ九死に一生を得る



ギュルルルルルゥゥゥン…ッ!



滞空中にエンジンを唸らせ、マフラーから排気ガスを吐き出し車輪は宙で
文字通り空回りする、着地と同時に摩擦熱を生み出しながら車体は前へ…





ルイージ「ヒュゥウゥゥィィゴオオオオォォォ!!!」ドギュゥゥゥン

マリオ「ほらよっ!」ブンッッ!!





機体の後方に立ち乗りするマリオは軽い一声と共に火薬の塊を投げる

それは嘗て、何の気まぐれか国を挙げて開催された野球大会
通称"マリオスタジアム・ミラクルベースボールGC杯"の時と全く変わらぬ
投球フォームでした、金属の塊が磁石に吸い寄せられるかのように



ボム兵はピーチ城の玄関口にコツン、と可愛らしい音を立てました












          B O O O O M !!





「ぎへぇぇぇえええええええええぇ!?」
「ごびゅっ――」
「あああ"あ あ あ あ"あああぁぁぁ"ぁああ"" あ」




城内から悲鳴が上がります

一番扉に近い位置でのたうち回っていた城外の兵も悲鳴を上げます




ルイージ「おっっわ、痛そ~……」

マリオ「なるべく倒れてる奴は轢かないように気を付けて運転しろよ?」

ルイージ「"なるべく"、ね」

マリオ「ああ…"なるべく"、な…やむを得ん場合は目を瞑る」


 目を瞑る、であって絶対に轢かないではないのだ

…とはいえ

いくらテロ被害だと、国の一大事とは言えそのような人道に反する行いは
そうホイホイとは流石にしないだろう




ルイージ「っと、言ってる側から道幅を陣取るように敵が…」

ルイージ「参ったなこりゃ、迂回どうこうでどうにかなるレベルじゃない」






マリオ「ならばアクセル全開で直進すれば良いだろうに」キッパリ







…前言撤回、普通に横たわる怪我人を撥ね飛ばしていくようです





マリオ「なに、たかだか車両による人身事故程度のダメージだ」

マリオ「スター状態で吹っ飛ばすのに比べれば有情だ」

ルイージ「それもそうか」ギュルルルルルルッ!





「 お ぎ ゃ ああ あ あ あぁぁ―――ッ、
              お、俺のて、手がぁぁ」メギョ、バキョ!


「ふ "お" ぉ   ぉおおおお」片脚グシャ





「ご、ごほ…なんだ今の爆発はっ!?」
「無事な奴は手を貸せ!怪我人を運べ!」
「お、おい……そ、外を見ろよ!!英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>だァ!」
「マリオだ――っ!マリオが帰って来たぞ!!」
「同志たちを轢きながらこっちに来るぞォ!!」
「容赦なしかよ!!」
「じょ、冗談じゃねぇぇ…!」



ざわ…ざわ…っ!


「ばかやろぉぉぉぉ!!何ビビッてやがんだ!
          むしろ俺達はこれを望んでただろォ!」



「!!」


「そうだ俺達の闘い…闘争が…――敵でありながら憧れた強さが」ゴクリッ

「…へ、へへっ!此処で俺達も日和っちまったなぁ…っ!!」

「ウオオオオオォォォ!!立ち向かうんだァァァ―――ッ!」


【ピーチ城:エントランス】


ちらちらと粉雪の様に降って来るのは灰…煤、さしずめ黒雪とでも呼ぶか




 冬を象徴する妖精とは対極の色合いのそれは純白の石橋を暗色に染め
その真上を四輪車が豪快に突っ切る、後にはタイヤ痕がくっきりと残る


ボム兵の先制攻撃で門の役割など当に果たせなくなった"大穴"に躊躇なく
兄弟の乗った機体は突っ込む、そこで彼等が目にしたのは…っ!




ルイージ「oh…こりゃぁ、また…」BROOoo…!

マリオ「…ほう?」ニヤリ




「全軍突撃ィィ―――ッッ!!」

「英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>っ!此処であったが30年!今度こそ!」キッ

「俺達が…俺達が勝利の栄光を掴むんだぁぁぁぁ!!」





ギラついた眼差し……血走った目






己の内にある恐怖心、戸惑い―――

―そして、同時にそれらに自ら克服し恐怖を乗り越えようとする『意志』



負の感情と、正の感情、"相反するソレ"が入り乱れた者

奥に行けば行く程、迷いなど元から無いと言いたげな眼つきをした熟練兵


逢いたかった…逢いたかったぞ!宿敵<トモ>よ!と目で訴えかけてくる者



誰も彼もが【逃げる】という選択<コマンド>を選ばない…っ!!






 初手で爆弾が飛んできて、死にかけて、次いで四輪車に乗ったやべぇ奴が
何の躊躇いも無く人を撥ね飛ばしたり車輪で轢き逃げしていく光景を
目の当たりにしたら普通は恐怖したり、逃げたいと思う



 が、歴戦の兵は逃げない、最初こそ狼狽えたがすぐに
奥の方に控えていた最古参たちの一喝で戦う意志を見せた




ルイージ「あぁ…やだやだ、ああいう目したのって僕、苦手なんだよね」

ルイージ「こう…なに、なんてーの?躾が成ってて人を襲わない無害でも
          ブルドックの凄味のある顔は苦手だなぁ~的な?」


マリオ「俺はああいう顔つき嫌いじゃないがな、血肉躍るじゃあないか」



ドドドドドドドドドド…!!


ブル「ウオオオオオオオオオオォォォ―――ッ!!」


 まだ生き残っていた【ブル】部隊の一人が我こそが一番槍だ!と
鍛え抜いた肉体を以てマシンへ駆けだす、その勇士に連なる様に
2人目、3人目…4人目と押し寄せる波となって彼等は突撃する





 …これが一人、であったなら正面衝突で
ガソリンエンジンに押し負け吹っ飛ばされるまでが予定調和だが


 永く語り草となっている"三本の矢"の教訓と同じだ
束となればそう易々とへし折れはしないッッ!!








ルイージ「…はぁ~…どうする兄さん?」

マリオ「関係ない、行け」ニィ!



ルイージ「へぇへぇ、だと思いましたよ」グンッ!




既に分かり切った質問だが弟は兄に問う



自身がさっき言ったがこの手の眼つきをした相手は苦手だ


"苦手"、ではあるが…"嫌い"だとは公言していない

苦手と嫌いでは微妙にニュアンスが違う、つまり――――




ルイージ「ああいうのは俺なりの礼儀を尽くす、だろ…ったく、もうっ」



 グン!とアクセルを思いっ切り踏み込み、城内で急加速をつけながら
緑色の帽子が後方に飛ばないように鍔を掴み抑える最中


 『…あぁ、なんだかんだ言ってやっぱ、僕もこの人の弟だなぁ』と思い
後方の同乗者と自分自身に呆れながら兄の美学を口にした







   立ち向かう戦士は礼儀を以て踏み越えていく


"喩え、それが1匹の非力なクリボー、ノコノコでも関係なく踏みつぶす"


…十数年もの間、今までだってずっとそうしてきたことだ





       ゴッッッッッガッ!



ブルA「お" ぶっぅ…ぅ ゥゥウウウウ、ぬおおおおおおオオ!!!」




 踏み込まれるフッドペダル、それによって加速した機体は
ブル軍団の先頭を走っていた切り込み隊長の腹にぶち当たる

 普通ならこれで吹っ飛ぶが、力学的に衝突先の相手が
ぶつかって来た相手より質量がある場合はその例に当てはまらない



たった一人じゃない


その後ろには先頭の彼を支えるように多くの仲間が押し寄せる
暴徒が集まり大型のバスやトラックを横転させるようなそれと同じだ


堅いプロテクターと甲羅に身を包んでいるとはいえ前門の四駆、後門の波




前後から"サンドイッチ"にされた彼は目を見開き、失神しかけた…









そう、"しかけた"だ、 彼は意識を手放さなかった






ブルA「ぐ、ぐがががが、ハアアアァァ―ーー!!!」

「押し切れぇい!!」
「俺達の意地を見せたれ!!」
「後ろの最古参のジジイ共にも俺達の矜持を見せつけるんだよォ!」



ブルA「フーッ!フーッ!」



【ブル】…その名の通り、闘牛<ブル>を思わせる鬼気迫る気迫…っ!


充血した眼、血の滲む唇を噛み締め、込み上げてくる胃の中を気合で抑え


彼は…ッ!





ブルA「行かせねぇ…っ、 ビビッてなんかいねぇ…」フーッ フーッ!プルプル

ブルA「お前達、英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>の伝説は
       俺達が終わらせるんだ…、俺達が勝利するんだよォ!!」




気力を振り絞り、痛みに振るえる両手を大きく広げ…なんと!

   こともあろうに彼は両手の指を回転する車輪に突っ込んだァ!!



ベシャアアアアアアアアアァァァ―――ッッ!


ブルA「ぐ"ふ・…ご、おおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」ブシャァァ



カート車輪「」バゴンッッッ


 5本の指はカート前輪のホイールを突き破り、その回転を止めた
それだけに留まらず…闘牛が如し彼はソレを素手で引き抜いたァ!!



マリオ「…ほう」

ルイージ「うわっ!タイヤぶっこ抜かれた…」


 がこんっ、前輪を失った事で車両全体は前のめりに沈む様になった
車体はそのまま前面を床に擦りつける…このまま走行すれば間違いなく
磨れていくこと間違いなしだ



ブルA「へ、へへ…これでテメェらの侵攻はおし、まい――だ…」フッ



 先頭の勇士は言葉を言い切ると同時に意識を手放し
昏睡という名の水底に沈んで―――


         ガシッ



マリオ「良い『覚悟』だな、こいつをやるよ」グッ!『スーパーキノコ』

マリオ「ふんっっ!!」ブンッ





口にキノコ突っ込まれたブルA「―――」ヒューン…ゴシャアアァァン!




マリオ「ルイージ、やれ」

ルイージ「あいあいさー、っと」カチッ



 意識を手放したブルAの首を鷲掴んだ白い手袋は
そのままエントランス端にある柱へと彼を投げ飛ばし、弟に指示を飛ばす




今、この兄弟が乗る四輪駆動のマシンは…っ!





――フェッフェッフェッ!
    君の機体にはあのバキューム同様の特別機能がある…!





ルイージ「兄さんには素の実力で勝ちたい
       だからレースじゃこれは使わなかった…」


ルイージ「でもこれはレースじゃない、博士使わせてもらいますよ」


 さて走行中にタイヤが外れ、脱輪状態で尚走り続ければどうなるか

諸君は想像がつくだろうか―――アクション映画ならば車体をすり減らし
火花を散らしながらも前へと進んでいくだろう


 そして映画の中の機体は決まって"都合よく"ハンドルの切った方角に
正しく曲がり、さも何事もなかったかのように運転できるだろう






現実の自動車がそんなフィクションの世界通り、思い通りに動くものか




 コントロールを失うわ、そもそも地面とキスをし続ける車体半分が常に
摩擦を生み出すブレーキの役割を果たす

まともな走行など不可能である



そう、それが普通の自動車であったならばだ







 ブルAが人間一人の片腕で軽々と、お手玉遊びか何かのように
放り投げられた事でその後続に続く者がトップに躍り出る

 先任者の決死の行動により停止状態に近い減速とバランスを崩した車体
そして後ろの仲間達に押しつぶされる形にこそなったが
そのダメージは先のブルAよりも遥かに軽いモノだった




ブルB「――な、なんだってんだこりゃあ!」



 これで食い止められると心の奥で勝利を確信した彼は、脳裏に浮かんだ
栄冠のヴィジョンが波打ち際の砂の城のように崩れていくのを感じた








        ルイージの機体が"変形"した


いや、変形といってもただ後方部にノズルが一本生えて来たようなモノだ




そう、排気ガスを噴出するマフラーの真横、1本…



"掃除機のノズルのような何か"が…だッッ!!




  ルイージ「一応、確認ね、やっちゃっていいの?」

   マリオ「構わん、やれ」



あーあ…壊しちゃったら博士怒るかなぁ、と
             ぼやきながら弟はそれを稼働させた


ハンドルの右側に『R』と書かれたボタン、左側に『L』と刻まれた物
緑色の鍔付き帽子を被った彼は迷わず自分のイニシャルと同じソレを押す



 BUOOOOOOOOO-――――!!!!





【オバキューム】…それは嘗てルイージがあの白衣を着た初老の男と
初めて出会った日に譲り受け、そして以来、事あるごとに巻き込まれる
お化け騒動の解決に必ず持ち出す相棒のような存在だ


お化けを吸い込む掃除機という文面だけ見ればシュールな機械だが

 その吸引力たるや計り知れないモノだ、そのちっぽけなマシンの何処に
それだけの馬力があるというのか

あからさまに機械そのものの数十倍以上の重量を遠くから吸い寄せ
逆に"噴出"することさえ可能にするのだ





そして、この後ろから伸びるノズルは…『L』のトリガーを引かれた事で









        ドギャアアアアアアアァァァァー――――ン




ブルB「ぐ"べ"ッ―――」

後方のブルs「「「おごぉぉおおおおおっ!?」」」」





"噴出"……ただ空気を出すだけ、たったそれだけだった



だが、問題は量である


 もしも、これを何かに喩えろと言われれば宇宙進出のシャトルや
軍事兵器のミサイルの姿勢制御にさえ使われる
小型液体ロケットエンジンのスラスターと比喩してもいい




ギイイイイ―――ぎぎいぎぎっ


前輪を失い地面に触れたままの車体は――――





 ―――――そのまま金属製のボディを地面に擦り合わせ
            嫌な音を奏でながら火花を散らして前へ進む


否、後ろから"暴力的な力"で押し出されるように突き進んでいるのだッ!





ブルB「が――ほ"ば―――」







声が 出ない




声を発しようにも肺が空気を取り込めない
深呼吸して酸素を取り込もうにも絶叫系マシンの降りと捩れコースターを
一回転する時の遠心力で息がつまる時の感覚に酷似している


 暴力的な空気のジェット噴射によって推進力を得た四輪駆動は
車体のボンネットに群がるように体当たりした集団諸共前へ突き進む



―――そしてこのままいけば壁にでも衝突するという間近で進路を変えた




ブルB(い、ったい なに が   ハッ!?)




身体全体に激しいGが掛かる中で彼は見た…何故前輪を失ったこの機体は
止まる事も無く、更に方向転換ができるのか?



残った後輪だけで無理くり方向転換をしているのか?朦朧とする意識の中
ブルBは確かに見た






      "離陸してる"機体の後輪「 」カラカラ…







 ブルB「―――――――」




  ブルB(しゃ、車輪が『既に中に浮いてやがる』…ッッ!)






 この機体はもはや車輪の力で動いてない、完全に後ろのジェット噴射で
推力を得て更に方向転換もそれ頼みになっているのだ



ルイージがハンドルを切ればそれに対応して掃除機ノズルが向きを変え

文字通り宇宙ロケットのスラスターと同じように姿勢制御を為している
完全に浮遊はせず車体の前半分が地面に擦れたまま後ろ半分が宙に浮いた



そんな出鱈目で滅茶苦茶で頭トチ狂ってるとしか言い様の無いゴリ押しで



 排出される暴風圧は更に勢いを増し
遂には蜜を掛けた砂糖菓子に群がった蟻のような集団をふっ飛ばした…!


高速道路上を猛スピードで走れば勝手にワイパーを動かすまでもなく
フロントガラスの雨雫が横へ流れて振り落とされるのと同じだ


プロテクターに身を包んだ巨漢たちはそのまま城の室内壁に叩きつけられ
大きな罅割れを作る


 失神する群衆には目もくれず英雄兄弟は弾丸と化した機体に乗って
階段を登っていく



ズガガガガガガ!!!




…国一番の石工が手塩にかけて作った高品質の大理石製の石階段が
擦れる車体の先端でゴリゴリ削れていく、ルイージに機体を託した博士は
なにゆえ、此処まで機体強度を上げたのか…


 その気になれば大気圏突入可能な推力を発揮するモンスターエンジンを
搭載したのだ、車体全体がGに耐え切れずに分離することを阻止する為か




水の力だけでマグマ煮えたぎる火山洞窟から一気に上空まで飛び上がれる
ロケットノズルなんてモノを平然と開発してドルッピク島に置いたり

タイムマシンを開発できる科学力だ、掃除機で大気圏突入くらい余裕だ






ブルがめり込んだ城の壁『 』ボロ…

砕け散った柱『』ペキョ…メキメキ

最初にマリオがぶん投げたボム兵の爆風で割れた窓ガラス『』風ヒュゥウウ




辛うじて生きてる"旧"クッパ軍面子「――」チーン




機体が去った後には金属片と摩擦熱の煙―――というより床が焦げて
お高い高級絨毯がチリチリと燃え始めている



この部屋だけピンポイントで落雷つきの台風が発生したかのようだった





タッタッタ…!!



  ヨッシー「……!ははっ!派手にヤってるじゃあないですか!!」


  ヨッシー「血が騒ぐって奴ですねこれは…!」


  ヨッシー「他の人差し置いて一番乗りで来たんですから
              僕の見せ場も残してくださいよ…!」ダッ



【ピーチ城 2F】



「ぐげっッ!?」ドゴォ!

「ほげばっ!」グシャッ!




前へ突き進む度に損壊していくマシン『 』ズジャジャジャジャ―ッッ!!



ルイージ「はいはい!退いた退いたぁ!!暴走車のお通りだぁ!」



 相も変わらず機体の前半分は地面に擦って削れながら走り続ける
いつかは無敵時間が終わる【スター】かはたまた【キラー】状態の様に
目の前に立っていた者全てを撥ね飛ばして突き進む



ルイージ「で、一応確認取るけど上でいいんだよね」

マリオ「お決まりのパターンだろ、クッパと煙は高いが好きなのさ」







マリオ「…以前、メタコロ病が流行ったあの時と同じだ」

マリオ「【ゲラコビッツ】を体内に宿した【ダーククッパ】が居た屋上」




ルイージ「…OK、OK、毎度の事ながらラストバトルは雰囲気重視ね」



"旧"クッパ軍の大将首は……この一連の騒動の主犯は天辺に居るッ!!

 既に小破から中破と呼んでも差し支えないロケットエンジンの機体に
更に喝を入れる…ッ!


スラスターからは噴出する風はある種の台風を凝縮して放つかの様な
勢いでノズル部分さえも悲鳴を上げ始める


当然のことながら悲鳴を上げるのは後方部だけではない

それだけ全力でぶっ飛ばせば、力学的に見て当然ながらGも増す
 ついでに撥ね飛ばされる敵兵の悲鳴も種類が増える




「おぎゃあああああぁぁあぁぁぁああああぉぉぉおほほおっ!?」ボキャッ

「げびゃっっッッッッッッッッッッッッッッッッッッ?!」メキョッ


通り過ぎた機体の衝撃波で粉砕した城の美術品『 』パリン!

通り過ぎた機体の衝撃波で粉砕した城の備品『 』バキッ

機体が突っ込んで破壊し尽くされた扉『 』ボッッッキャァァァ!!


―――
――



―――
――




ブーメランブロス「わ、わしの相棒がぁぁぁぁ!!」



ヨッシー「ふぅむ…これは良い素材ですね
      磨き上げた樫の木を加工したモノとお見受けします」モグモグ

ヨッシー「この香ばしさ、この歯応え…!」バリバリ、ゴクン




  ヨッシー「いやはや美味ですよ、美味!」ニッコリ




ブーメランブロス「返せぇ!!かえせぇぇぇ…わしの長年の相棒…っ!」

ブーメランブロス「かえせぇぇぇ、びぇぇぇぇん!――へこ"っ」ドサッ



ワリオ「ふぃ~…オイ、あんま遊んでやんなよ」

ヨッシー「いやぁ、こうして本格的に"敵を食べてもOK"なのって裕に
       1年ぶりでしたもので、つい食レポを交えたくなりまして」


ワリオ「…趣味わりぃ~の」ブンッ 腹パン!ボコォ!


ガボン「ごは"!」ドサッ

ガボンが咥えてた鉄球『 』ドスンッ



ヨッシー「それにしてもワリオさん流石ですね」

ヨッシー「ドンキーやディディー君も居たのに一番早く追いつくなんて」


ヨッシー「私、かけっこには自信あるんですよ?
       もっと距離を離してたと思ったんですけど」ペロンッ♪

靴クリボー「ひぃっ!く、喰うな!死にたくない助けt―グチャッ、バリボリ






……ポコンッ♪




ヨッシーのタマゴ (ストック6個目)『 』コロコロ…♪



ワリオ「…アイツ等よりかは街の地理も詳しいからな近道したんだよ」

ヨッシー「な~るほど、…これ以上持てませんね、え~いっ!」タマゴ ポイ


ヨッシーのタマゴ『時速190Km』ゴォォッ!!


ヒマンブロス「へ?」

―――ゴッッッッ!!

ヒマンブロス(頭部陥没)「 」ドサッ


ワリオ「…‥」


ヨッシー「さぁて!!地上の部隊は全滅してましたけども」

ヨッシー「運良くマリオさん達に遭遇せず無事だった兵が
      上の階から下りてきますね、飢えずに済みそうですね」ニコッ




ワリオ「俺やっぱお前苦手だわ」




ヨッシー「はい?何か言いましたか?」ペロンッ、タマゴ ポコン

ワリオ「何も言ってねぇよ喰えねぇ奴、んな事よりテメェ気づいてっか」



ヨッシー「…はて、なんのことでしょう」ヒップドロップ!



ワリオ「ケッ!白々しい…城の外や1階の玄関でくたばってる奴らはよォ」

ワリオ「"主犯格"共にとっちゃあ有象無象の雑兵だろうが…」


ワリオ「幹部だ何だと箔付きのお偉方は高ぇ所に居んのが王道だ」

ワリオ「将棋で言やぁ王将の近くに金銀、んで飛車だ角行と居んだよ」




ワリオ「…あの馬鹿兄弟が何やったか知らねぇが"歩兵"共はほぼ全滅」




ワリオ「今、上の階層から下りて来てんのは必然…
             今回の首謀者一派の中枢だろォが」



ワリオ「雑魚共ぶっ飛ばされてんだ、側近や近い奴を送り出すしかねぇ」

ワリオ「…」チラッ





ブーメランブロス「 」(気絶中)

ガボン「 」(気絶中)

フーフーパックン「 」(以下略)

靴クリボー「  」

ヒマンブロス「  」




ワリオ「…俺は見覚えの無い、この敵さんのラインナップよな」

ヨッシー「…」ペロンッ ウギャァァァ!!ばくっ!


ワリオ「倒せば倒すだけ親玉の芯の部分に近づく、雑兵が居ない分
     グループの中心核の連中が動く他ねぇ…そうでなくても――」



ヨッシー「…"あの時代"の戦車を改修できて、運用可能
           答え言っちゃってるようなモンですよねぇ」

ワリオ「わかってんじゃねぇかよオイ」



ヨッシー「いえいえ、僕もワリオさんと同じですよ」

ヨッシー「僕は『"現役時代"のこの方々と戦ったことはありません』」


ヨッシー「ワリオさんは尚更、見覚えも無いのは無理の無い事でしょう」


ヨッシー「ただ、クッパ軍にはよく文通してる知人が居ましてね」

ヨッシー「茶葉とクッキーの交換なんかもよくしてるんですよ」



ヨッシー「それで闘争の無い期間、オフの時は他愛も無い話をよくして」


ヨッシー「実際その眼で見た事はありませんがね
       よく武勇伝を語ってくれましたよ、ええ」



ワリオ「…まぁ、国が7つも乗っ取られるデカい話だったからな」

ワリオ「国同士のパイプが切れて株式経済に問題があった」

ワリオ「人伝くらいにゃぁ俺も聞いた事ぁあんだよ」

ワリオ「で、見覚えの無い顔のオンパレードだからな、消去法で行けば」




ヨッシー「はい、その通りです…
        今頃上で暴れてるマリオさん達もお気づきでしょう」



―――
――





マリオ「邪魔だ」つ『道中ブーメランブロスからパクった武器』シュッ!



ブーメラン『 』ヒュルルルルルゥ…!




ファイアスネーク「ぐびっ」(頭部かき消え)ボジュッ

パタメット「ひゅぶっ!」ボガッ

ファイアブロス「げろばッッ!」ゴスッ!



マリオ「」パシッ!ブーメラン キャッチ


ルイージ「おっと、曲がり角だ、あっそーれカーブ!」ギュイィン

中破マシン『 』グゥオオンッ!!



<ズゴォォォン!!ズガガガガガッ キィィーーーーーッッ!



ウォーク「」ピクピク…

クッキー「」(粉々)

リフトメット「…ぐ、ぶ――ダ ダレカ タスケ"" デ」






マリオ「…こういう時」

ルイージ「ん~、なんだい兄さん」


マリオ「国や姫が一大事なこの時に不謹慎なんだろうが敢えて言いたい」







  マリオ「ひどく懐かし気持ちだ…」

  ルイージ「……」



  マリオ「何もかもが煌めいていたあの頃」

  マリオ「今よりも弱くて挫けそうな事が何度もあって」

  マリオ「それでも姫を救う旅を止めずにやり遂げたあの日々…」





 マリオ「ああ、帰って来たんだなって思えるんだ」






何度も何度も次のステージへ続くステップが踏み出せなくて

幾度も幾度も足を踏み外して、次こそ行けると思った矢先で敵に阻まれて



 それでもめげなかった、それでもタイミングを合わせて遂には憧れた
冒険の終着点を超え続けた…


見る顔ぶれ全てが懐かしい


あの頃を嫌でも思い出させてくれる、嫌な事もたくさんあった
 ひょっとしたらトラウマだったかもしれない

 それでも…それでもあれから幾年と経った今では
それさえも"古き良き思い出"で語れてしまう程に



 改修工事が行われたピーチ城の3階、教会のような神秘的な
ステンドグラスが左右にずっと続く長い通路を機体は走る…



  赤い鍔付き帽子を目深く被り感慨深く兄が呟く

  緑の鍔付き帽子を人差し指で上に少しだけ弾き弟も「そうだね」と…




ルイージ「悔しいけど、それは…同意、かなぁ…ハァ、本当悔しいけど」

マリオ「…ああ」




黄金時代

栄冠の時代と呼べたあの頃、…若き日を思い起こす



感慨深く言葉を吐き出す兄の言葉



それを真に理解できるのは自分と姫……と、キノピオが1人だけだろうな


 長い付き合いのヨッシーですら、それは分からない
ルイージは思った、同じく兄の方も身内と姫とキノピオの中の一人だけと


"体験した当事者"だからこそのシンパシーだ




 ステンドグラスから射す光に照らされて
モンスターマシーンで駆る2人の影が床には映し出される


右と左、両サイドからの日光で丁度、真後ろに、影が尾を引く様に連なる




 マリオ「あの頃は楽しかったな…」

 マリオ「オレンジ色の音符ブロックを踏んだら空飛ぶ宝船に乗れて」

 ルイージ「ああ、コインがザックザクッ!ってね」ハハ!



 マリオ「ふざけて白いブロックの上でずっとしゃがんでたら…」

 ルイージ「うわっ、それよく覚えてるわぁ~」

 ルイージ「何故かすり抜けて笛を持ってたキノピオの隠れ家に行った」

 マリオ「だな、そんな便利なモノあるなら出し惜しみせず寄越せとな」

 ルイージ「あははっ!二人で旅の道中愚痴ってたよね~!」ケラケラ


 マリオ「まぁ、コックパに荒されてる国を放置はできんかったがな」

 ルイージ「うんうん、土管の国とか空の国とか…」

 ルイージ「あ、敵とかブロックがめちゃデカい国にも行ったよね」


 マリオ「あったあった、初めて見た時は驚いたもんだ」ハハハ!




 マリオ「…屋上で待ち構えてるのはアイツだろうな」

 ルイージ「此処まで一度も見てないモンなぁ…実力あるのに」



 マリオ「まずは会って殴り飛ばすそんで眼を覚まさせてやろうぜ」

 ルイージ「荒治療だけど仕方ないよな…」



 マリオ「だが、その前に」
 ルイージ「うん」



 ステンドグラスから射す光に照らされて
モンスターマシーンで駆る2人の影が床には映し出される

右と左、両サイドからの日光で丁度、真後ろに、影が尾を引く様に連なる















 " 右と左  『 両 サ イ ド か ら の 日 光 』で "
























   ステンドグラス『 』ガシャァァァン!!





マリオ「そら来た左からだぞルイージぃぃぃ!!!」


ルイージ「ハッ!上等だい、何度も同じ手が効くモンですかってんだ!」







 鮮やかな景色の中、空を舞い囀る平和の象徴に手を伸ばす一国の姫君を
表現したステンドグラスは割られ、ソイツは入って来た




城内の絨毯『 』ボッッッ!!メラメラ

城内のカーテン『 』ボワァッッ!ゴォォォ…

飾られた花瓶の花『 』メラメラ…




      たいよう「―――――」ギラギラギラ…!ヒューーン



そいつは何が憎いのか、恨みがましい視線を向けながら自分の周囲を…!
 ありとあらゆる物を怒りの炎で焼き尽くさんと無関係なモノまで
巻き込みながら兄弟の後を追い始めた…!


熱源体、ソイツそのものが【バブル】や【ウォーク】と同じで
"火"そのものなのだ…っ!

*********************************


          今回は此処まで!


  【たいよう】…登場作品 マリオ3

 砂の国(砂漠ステージ)で画面上部に居て見た目まんま太陽

 初見者はただの背景だと思うが、れっきとした敵キャラで

 ある程度進むと、突然急降下攻撃を繰り返してくる

 その意地悪そうな顔通り、粘着質で執念深くプレイヤーを追い回す







  実は、ノコノコの甲羅を掴んで投げれば倒せるという…



*********************************



たいよう「―――」ボォォォ!メラメラ!



じりじりと照りつける日差しを背に半壊に近い状態のロケットが突き進む
 長い通路の終着点が見え始め、次に取るべき道順を組み立てる


この先は城の改修工事に伴い、広々としたスペースになった間取りだ


 元々は【チクタクロック】があった場所だが
巨大化したクッパとの戦後修理で今は全く違う、円柱が立ち並ぶ
多目的ホールとして再利用されている



 兄弟からすれば只の障害物でしかない円柱だが、後ろの奴からすれば
柱をぶち抜いて突っ込んでくるだろう




マリオ「ルイージ、少し早いが予定繰り上げだ、"花火"をかましてやれ」

ルイージ「アイアイサー!じゃあさジグザグで行こう」




たいよう「――――」ズオオオオォォォォ―――ッ!!




城内の絨毯『 』メラメラ

城内のカーテン『 』ボォォォ…




城の石床『 』コンガリ

城の石壁『 』クロコゲ



ルイージ「見た目まんま太陽だけどアイツは粘着質な見かけ倒しだから」

マリオ「ああ、布みたいな素材は兎も角、奴の熱量では…」

マリオ「質量のある石材は直に触れてもすぐに熔解はしないだろうさ」


マリオ「この先の柱は利用できる、ジグザグで行け」



半壊の機体『 』ズゴォォォ…!




  ピシッ、ペキッ…ペキッ パキッ カランッ



Gに耐え切れずに外れた後輪『 』カランッ


 規格外の負荷を掛け既にガタが来ていた後輪の結合部が外れ出す
ナットとボルト、幾つかの螺子が子気味のいい金属音を立てて落ちていく

背後からの太陽光に照らされたホイールが
 回転したまま光の発生源に呑まれていく…ジュッ!焼ける音がして
小さな車輪は焼失した、ナットやボルトの様な小さな部品は
燃え尽きた後輪以上にタイムラグも無く世から失われた


ルイージ「広間に突入するよ、作戦開始だ!」


 彗星だ、英雄の駆るそれは夜空に一筋の尾をひく流星と表現される


見る者が居れば、きっとそのように評したに違いない
 摩擦熱で真赤に照り出した機体前半分は火花を上げ、外面のパーツも
自壊し、とうの昔に道中に置き去りにしてきた


剥き出しになったエンジンが悲鳴の様に熱気をあげ、過ぎ去った後には
燻った金属片をばら撒いていく





 "太陽と彗星の鬼ごっこ"は間もなく終わりを迎えようとしていた…!




マリオ「そろそろ削れ過ぎてエンジンまで擦りそうだ、角度を調整しろ」

ルイージ「はいよ」カチッ!


"つんのめり"から少しずつ機体を浮上させる、今度は逆に後輪を失くした
後方部を地面に擦りつけ、代わりに前方部を上へ

 鮫や海豚<イルカ>が海面からひょっこりと顔だけ出す様な姿勢だ



 ズジャヤァァァァァァ!!



 大破寸前の煙をあげた機体が一際大きく揺れ
思わず帽子が飛びそうになったマリオは片手でそれを抑えた

ばきっ、排気ガスを吐き出すマフラーが折れて太陽に直撃する



たいよう「―――-」ギリィ、ギラギラ…!



顔にあたったそれに顔を顰め、つり上がった眼を更に釣り上げる
 太陽と機体の距離は徐々に縮み始めていた…っ!



ルイージ「oh、今のでバキュームノズル、ヤっちゃったかな?」


マリオ「いや、じれったいのが嫌いな奴さんがペースアップしたのさ」



前のめりの姿勢から後ろを引き摺る姿勢にすればどうなるか

"四輪車"として最早全く機能しないこのカートが唯一前へ突き進めるのは
オヤ・マー博士のオバキューム機構の賜物だ


マフラーのすぐ傍の掃除機ノズルが推進力を生み出すスラスター代わりに
なっているからだ…


 マフラーが折れるような無茶な姿勢にしたことで、もしかしたら
罅の1つでも入ったかもしれないし、なにより障害物となる円柱を避けて
ジグザグ走行をしている


 敵は躱すことなく、そのまま顔面から真っすぐ突っ込んで柱ごと
ぶち抜いてくる、距離を詰められるのは当然だった




――……では、何故そのような不利にしかならない行為を行うのか?




大破寸前の機体『  』パキィィィ!

 バキッ!メシッミシミリミリミ――ッッ


ルイージ「…!兄さん、掃除機ノズルはッ!」

マリオ「うろたえるな、無事だ……そろそろだな、用意しろ!」



 姿勢制御に集中し後方下部を見れず焦りの声をあげる弟に対して
後ろに掴まっている兄は冷静に、用意しろ、と声を掛けた




     たいよう「―――――」…メラメラ、 ニタァ




 太陽が哂った。


 長距離走の選手だゴールテープを目視し、短距離走の如く形振り構わず
全力で突っ走るそれと同じだ



たいようは一気に速度をあげ

遂には英雄兄弟の背にあと僅か50㎝あるか否かというところまで迫った!




  マリオの背『 』プスプス…ジュッ!


 マリオ「…っ……日焼けサロンなら勘弁して欲しいところだ、全くっ」

 ルイージ「兄さん!」


 マリオ「……」


 マリオ「ちと、背中がヒリヒリするが…どうにか間に合ったようだな」

 マリオ「ルイージ!今だ!やれ!」



 たいよう「――――グォォォォオオオ」ゴォォォォ



 たいよう は 大きく くち を あけ 兄弟を 飲み込もうとした!





 ルイージ「そらぁ!とべぇぇぇぇぇ!!」グイッ



 ボッッッッ!ドゴオオオオオォォォォォォォォォ!!


  たいよう「――-!?」ググッ



 大破寸前の四輪駆動が、飛んだ



 マリオ「間に合ったな、"減量"成功だ」ニィ



ルイージ「よく咄嗟で思い付いたね、こんなアイデア」

マリオ「ああ、キノピオのおかげだよ」

マリオ「レースの時に余分なパーツを限界ギリギリまで引っこ抜いて
          加速性を高めた骨抜きマシーンにしてただろう?」


マリオ「下から【チョロプー】に突きあげられて勢いよく飛ぶ程だ」


マリオ「俺とお前、大人二人分の体重と機体そのものの重量だ」チラッ




 無数に散らばる機体の破片『 』




マリオ「コイツが地を駆る馬から、鳥になるまで削る必要があったのさ」




ちょっと背中熱かったけどな、と苦笑しながら、後ろを見やる


大破寸前の鉄屑が、宇宙空間で自由に飛び回るロケットの様に宙を行く
 喰らおうと大口開けていた太陽は浮上した際にノズルから噴出された
空気圧と捕食対象が大きく移動した事で攻撃を見事に外した


マリオは確かに悔しそうな顔をする太陽を見た



彗星は太陽を翻弄してやったのだ




 ルイージ「こりゃあいいねぇ!飛べるって最高!」ゴォォォォォ!

 マリオ「ああ!後ろのに構う必要はない狙うは大将首だ!」


  マリオ「窓ガラスぶち割って一気に屋上まで浮上しろ!」



  たいよう「――――-っ!」




 ピーチ城は水堀という防衛機構だ、故に地上からの侵攻にはある程度は
守りに徹せられる、しかし、地下と上空からの攻撃には滅法弱い



そう、上空から攻められれば、いともたやすく外敵の侵入を許す

こいつら兄弟は城内を馬鹿正直に攻略する気はないッ!
 散々、城の中で暴れて軍をひっかきまわした挙句、外に一度出て
そこから攻めると言っているのだ…っ


見過ごせるわけがない…っ!!



たいようは、彼はそう判断した



    たいよう「―――――」ギュゥゥン!!



たいようは空飛ぶ屑鉄に乗った兄弟を追う



窓ガラス『 』ガッシャァァン!



 ゴオオオオォォォゥゥゥゥン!


 ギュゥゥゥゥン!



 黒煙上げる機影と遅れて発光体が城内から飛び出す…っ!そして―――





     たいよう「―――ウゥっっっ!?」







        本物の太陽『 』カッッッ

      太陽に向かう機影『 』ゴオオオォォォ!



 逆光だ


 外に出て、英雄兄弟の乗った鉄の羽馬は太陽に向かって上昇するように
高度を上げていた、眩しくないとでもいうのか


たいようが、太陽の、そのまばゆい輝きに視力を奪われる



 光の中に一点の黒星、煙を噴き出し日光で煌めく流れ星が在る



 たいようは、"気づけなかった"





       たいよう「――――――」ギラギラギラギラ ビューンッ!








「やーれやれ…馬鹿正直に僕を追って来たのかい、ならキミの負けだ」


 声が、自分よりも高い位置から降り注いだ







「お前から見て光を背負う形だ、何人乗ってるか識別できないだろ?」


 声が、自分よりも低い位置から投げられた




      たいよう「――――!?」ハッ!


  ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

 マリオ「…」ガシッ!



 窓際に男は立っていた、茶色のブーツ、赤い帽子にオーバーオール
片方の白いグローブは壊れた窓枠を掴み、もう片方の手では



 たいようが壊した円柱『 』ゴゴゴゴ…!



たいようが英雄兄弟<マリオブラザーズ>を追い回した際に突っ込んで壊した
あの柱を…っ!巨樹の丸太の様に太く長いソレを
大工が角材を肩に乗せるかの如くマリオは担いでいた


たいようの眼にはそこから先の一連の動作がスローモーションに見えた


担いでいた円柱を今から投擲競技でもやると言わんがばかりの姿勢で持ち



たいよう、弟の乗った機影、太陽が一列、一直線に並んだところで放つ

有史以前から人類が狩猟や闘争で培ってきた投擲をそのまま直に…!




 それと並行して、マリオの方を振り向いた【たいよう】の背後では
モンスターマシンが宛ら航空機と見紛う宙返り飛行を見せUターンし始め


 太陽に向けて高度をあげる、からの たいように向かって急降下だ




  マリオ「はああああああアアぁぁぁぁぁぁぁっっッッ!!」グゥオォン!



  ルイージ「いいいいぃぃィィやっっはぁぁぁ――――ッ!」ギュォォン!






  投擲槍と化した円柱『 』ギュンッッッ!!

   大破寸前の機体『 』キィィィィ――ンッ!



    ゴッッッ!


 たいよう「―――――ォゴヴッッ」



 質量の多い石材は瞬時に熔かす事ができない、先端はじりじりと
焼け始めたが当然、偽りの太陽の身体にぶち当たる前に焼失はできず


 柱は太陽を後ろから突き上げ、そのまま加速する…ッ!
熱源体を先端に鏃にした一本矢と化したソレは慣性に従い…その先はッッ



   急降下してくる大破寸前の機体『 』ズオオォォォォォォ…!



 元は四輪駆動車だ、そう…今でこそオバキュームという掃除機の
空気圧の排出力だけで飛ぶというトチ狂った怪物機だがあれは、自動車だ

即ち……"ガソリンを入れた燃料タンク"がまだ中心部にあるッッ!


 全ての点が重なり合う、投げた柱、たいよう、機体、太陽…

【たいよう】は下からの衝撃と上からの加速をつけた重量に挟まれる



  ルイージ「博士に壊してごめんって謝らないとね…!」

  ルイージ「ヨッシー式乗り捨てジャンプ!とぉッ!」ピョイーン



 弟は操縦席から身を乗り出し、そのまま飛び降りる
ギリギリまで軌道を修正し、激突確実のコース、そして爆発の巻き添えに
ならない絶妙な位置で愛機から飛び出したのであった


…もう塗装も剥げ墜ち、イメージカラーのグリーンは何処にもない

燃え尽きた色、灰色で所々煤まみれの機体…そんな彗星の最期の輝きだ







       たいよう「―――ォ、ォオオオオオオォォォ!!!!!!!」





   ズゴオオオオオオォォォォォォッッ!!

  ベシャッ!メシャッ!グシャァァッ!!




 衝突音、中身が空になったスチール缶を踏み潰したような音





   機体中心部の燃料タンク『  』…ボッ!








    ボッガアアアアアアアァァァァァァァ―――z_________ン!!








  ルイージ「ひゅー!たっまやーーーー!!」ヒュゥゥゥゥ―――ン


    ガシッ!


   マリオ「ああ、どでかい花火だったな」

  ルイージ「ナイスキャッチ、ありがとね」


   マリオ「さて…、此処からは地道に行くとするか」

   ルイージ「っても、もう天辺までは本当に直ぐだけど」


 爆散する前の彗星で割って出た窓を潜り城内へ戻る

…道のりはもう僅かである


 外と内、窓枠の境界線を越えて再び城内へと戻り
兄弟は荒れ果てたフロアを歩く、目指すは屋上へ向かう階段


 マリオ「今回は妙な術が掛かっちゃいないようだな」



目を凝らして階段の1段目から先行きが見えぬ上部まで見てから彼は言う

あの見た目だがクッパはあれでも魔法の才があった
 赤ん坊の頃から箒に跨った優秀な魔法使いが教育係だったのもある


城のあちこちに散らばった【スター】を一定数集めねば絶対に最上階には
辿り着くことができない魔術が掛けられた階段を経験したことがある


今回その類の術は掛かっていない…




この先にいる奴自身にはそこまでの魔法に対する素養がないからだ



完全な武闘派タイプ、両腕を大きく振り回しながら突進してくる大柄な男


倒されても倒されてもめげず、そして…努力家でもあった





 コックパ等による侵略戦争時にマリオ達の進軍を堰き止める砦を
一任されるほどに人望が厚く、そこそこに強さもあった


何度打ち破られても、すぐに戦線復帰を果たし、鍛えに鍛え
自力で飛行能力を身に着けるなど、進化し続ける努力家


それが、おそらくこの城の一番上で待ち構える男なのだ




なればこそ"旧"クッパ軍の面子が従うのも頷ける

血気盛んで武闘派揃いの【ブル】軍団も通ずる所があるからこそ
容易く引き抜けたのだろうな



  コツッ…コツッ…



調査を続ければ続ける程に、靄の掛かった人物像は抽象的から具体的に

コクッパ七人衆の事変で戦った戦車や古き軍勢を束ねられ実力もある
その時点でかなり限定的だった人物像はあっという間に兄弟に特定された



ただ、ひとつ、ひとつだけ…調査の際に腑に落ちない点があった



 コツッ…コツッ…コツッ…



それは、爆発狂の下衆鼠こと【ドン・チュルゲ】との接点だ



 今回の一件は本当に全て、"指揮官殿"とやらが
1から10まで全て仕組んだのか…そこが引っ掛かったからいつも以上に
調査に時間を割いたのであった
 故に兄弟は落城前に帰って来ることができなかったという耳の痛い話だ


 ドン・チュルゲは一体どこで、"旧"クッパ軍が戦<いくさ>準備に
精を出していると知ったのか


…いや、平和という奴を心底毛嫌いする溝鼠のことだ


マリオが記憶喪失の期間に"退屈"から解放される面白そうな情報が無いか
裏社会を歩き回っていたかもしれない

それこそルイージにオヤ・マー博士が以前進言していた
『"記憶が戻らん間に事を起こそう"と思う者』とやらだった可能性だ




……にしても、だ


 あまりにも"準備が良すぎる"…【メカキャサリン】の設計図だって
チュルゲが常に持ち歩いていたのか


もっと言えば永久凍土の下で眠るゲドンコ星人をどうやって探り当てた?

 考古学者や発掘隊でさえ、雪山に金属反応があると分かったのが最近だ
彼等を出し抜ける速さで先回りしての採掘







コツッ…コツッ…コツッ…コツッ… ピタッ





きっと、これは単純な話じゃない



何者かが……もっと大きな存在が裏で暗躍してるとしか思えかった



階段を昇りつめ、脚を止めた二人は扉の奥に居るであろう指揮官

             ――の後ろに控える存在に目星をつけていた




"旧"クッパ軍にチュルゲとの接触を図れて
ゲドンコ達の埋まった地点の情報も誰にもバレずに流されるような奴



その手段と方法は何か、どんな些細なことだって構わない

最近、奇妙なことは無かったか…誰の目から見ても不自然じゃなく
怪しまれない情報の伝達方法は何だ!?


 英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>は思い当たる全てを考え、そして
直感的にコレだと思い当たったモノを挙げ、ひとつ確認を取った



そもそも語源違い言葉が通じない異星人のゲドンコが
どうやって"旧"クッパ軍と意思疎通を図り、同盟を結んだか


 翻訳手段は、確かにあったのだ、城まで乗って来た宇宙船の中に





それで98%ほどの疑いは100%の確証に変わった――アイツが首謀だ、と



ギィィィ…!



  マリオ「よぉ…久しぶりだな、ブンブン」

 ルイージ「あのさぁ、こういうのみんな困るんで止めて貰えます?」



年季の入った棘付きの甲羅には少しだけ罅が入り、肌は皮膚荒れの様に
カサカサとしているのが見て分かる

 ただし薄皮一枚の下は現役時代のそれと変わらぬ
逞しい筋肉隆々とした肉体美で、ギリシャ彫刻に匹敵する一種の美だった



  マリオ「周りに取り巻きの一人も伏せておかないとはお前らしいな」


 ブンブン「…久しいのう、戻ってきおったか」ニィ



嗄れた声で紡がれた「戻ってきおったか」には万感の意が籠もっていた


  マリオ「色々言いたい事はあるが、まずテメェはぶん殴る」

  マリオ「細かい事をくどくどいうのはその後だ」


 ブンブン「ワシの様な老人を労わろうとは思わんのか?英雄兄弟」


 ルイージ「はっはっは、御冗談を!そういうのはか弱い老人の言葉さ」

 ルイージ「アンタの様なゴリマッチョな老人が居て堪るか」



 ブンブン「ふっ、ならば仕方ないなワシはワシ自身を護る為に
       暴行を振るおうとする悪漢共にささやかな抵抗をしよう」



そういって、歴戦の老兵は鍛錬を1日たりとて欠かさず築いた腕を広げた



             ――ダ
                   ヒュッ ヒュッ



 赤と緑が同時に跳ねた、地表の人影が小さな豆粒になる前にその上を
両腕を広げた老人が過ぎ去った

 大きく振り被りながら回転させた腕とは裏腹に出鱈目な機敏性を見せ
影の真上を過ぎる直前で踵脚を床にめり込ませ、急制動を掛ける


               ―――ンッ


言葉通り音を置き去りにして突撃をかました老兵は急制動からの減速
 そして、めりこませた踵脚から重心を爪先に移動させながら
膝を折り曲げ身体を屈める、そしてジャンプ台の足全体のバネを利かせて
脚力だけで飛び上がった…ッ!


 手足を折り曲げ、首も引っ込める、罅の入った棘付き甲羅に籠り
自身が回転する棘鉄球と化す


最初の突撃で生じた前方向への慣性を利用し、マッド運動の前転の如く
回転方向事体は全面に、しかし、脚力で跳ねた方角は真後ろに居る
二人目掛けてのスピンボールだ

躱されて、地に落ちたなら卓球の変則球と同じで回転に合わせて再び
英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>目掛けて跳ねる追撃球となる


―――
――


【ピーチ城 中庭】


ドシャァァ!ガラガラガラ!!


ムーチョA「うわぁぁぁ!」ササッ


モンスターマシンで暴れ回った兄弟と【たいよう】の疾走戦で城の上層は
火災が発生し、中庭で作業に従事する工作兵の横に燃える瓦礫が落下した


ムーチョB「大丈夫か!?」

ムーチョA「あ、ああ…」


ムーチョB「なんとしてもこれを完成させるんだ!」



 中庭に集められた鉄屑の山、それはワリオとヨッシーが避難所から
双眼鏡で眺めていた、"ガラクタ"の山だった

 対した戦力にならない兵、監督を務める一部のブンブン指揮官殿の側近
ここで造られている何かを死守する為に防衛に回された者

皆が何かに憑りつかれたかの様に鉄屑を繋ぎ合わせていた


古戦場から破棄された戦車たち、そして運ばれたこのガラクタは…

"武器"の墓場から連れて来た残骸だった
既に魂など無い鋼の骸をパズルのように合わさるそれは既に
"胴体"が出来ていた、中央の黄色い星の印、右手には金鎚を握るその身体




 ムーチョC「た、大変だぁぁぁぁぁ!」ドタバタ!

 ムーチョB「なんだ!?どうしたってんだ!」

 ムーチョB「既に上では記憶を取り戻したマリオが居るんだぞ!」



これ以上何があるというんだ!そう言うと…


ドォォォン!!


地響きと同時に城門前で上がる黒煙、そして―――






     クッパ「皆の衆よ!道を開けぇぃ!!」





怒鳴り散らしたムーチョも疲弊しきった工作員も守備に回された老兵さえ
それには震えあがり縮こまった

いよいよ以って"終わり"がやってきたのだ



―――
――




  クッパ「繰り返す、戦闘行為を直ちに中止し、道を開けろ!」


  クッパ「開かぬというならばワガハイへの反逆とみなし処罰する」




 クリボー「クッパ様!!サラサランドより援軍が
        デイジー姫の指揮で間もなく到達するそうっス!」

 ノコノコ「此方、マメーリアからの兵団が国境を越えてきたそうです」

   クッパ「うむ、ご苦労であった」



 クランキー「うしゃしゃ、どうじゃ!亀ぇウチのタル大砲は!
               全くもって良い精密性じゃろうぉ?」

  ドンキー「クランキーやめなよ、それでクッパ、次はどうするの」

 ディディー「粗方、マリオ達がやっちゃったしねぇ」

 ディディー「残りも先に行ったワリオとヨッシーでやったでしょ多分」



 キノピオ「でもまだ、潜伏してる人も居るんですよね」
  テレサ「…」ギュッ


 クランキーが即座に造ったタル大砲に応急手当を施されたキャサリンが
チュルゲ産の弾薬を詰め込む

溝鼠を退治して得た物は奴の置き土産の火薬と
チュルゲが裏社会で手に入れたスーパースコープとカートリッジだ

 クッパの指示で空港にあった動ける航空機
旅客機でもバスでもタクシーでもなんでも使える物を利用して
ありったけの物資と使える人員を引き連れてきたのだ…っ!



中庭に居た者達は、その現状を知りどうしたか?




 ムーチョB「う、うおおおおお!!こうなりゃ自棄だ!」

 ムーチョB「守備に回ってる奴も交代制で休んでる奴も全員だ!」

 ムーチョB「急ピッチで作業を進めるんだ!!!」



 「「「お、おおおおぉぉぉぉぉ!!」」」



―――
――


 ギュルルルルルゥッ!


  マリオ「そらぁああっ!」ブンッ、ガスッ!

 ルイージ「ほらよっと!」タッ、ゴッ!


バウンドした棘球を兄弟はそれぞれ左右に大きく離れるように避ける
 二度目の着地と同時にブンブンは横軸に身体を捻り、スピンを掛ける
赤帽子目掛けての跳弾となった彼は何処に隠しもっていたのかハンマーで
高く飛ばされ、その直後に飛び跳ねた弟に地表目掛けて叩き落とされた

排球で謂う所のトスからスパイクとでも言った所か、城の屋根にめり込み
回転を止めた老兵は甲羅から顔と手足を出し、ゆっくりと起き上がる


起き上がると同時にぱらぱらと屋根瓦の破片が落ち、肩に残ったそれらも
払うように手を動かす、ぐるりと準備運動前の軽い肩慣らしの様に



 ブンブン「…はっ 相も変わらずようやるわい」ニヤリ

 ブンブン「じゃがのう、これはどうだ?」ブゥゥン!!



グルグルグルグル…!


 意外ッ!それは人間手裏剣ッッ!

両腕を大きく広げ、脚をピタリと合わせての大回転、チリチリと摩擦熱で
地面が焦げ臭い匂いを放ち始めたその瞬間、老人の身体は宙を舞ったァ!



  ブンブン「ぬははははっ!まだこれで終わると思うなァ!」シュンッ!



この男は努力家だった、それはマリオもルイージも認めていた

一度倒した後、再び相見えた時は決まって成長した姿で兄弟を苦しめた
背中から羽を生やし自ら飛行能力を手にし、着地と同時に甲羅の棘を使い
兄弟の【ジャンプ攻撃】を返り討ちにしたこともあった


そして今回も彼は進化を見せた



  ルイージ「へぇ、【テレサ】の真似事かな?」

   マリオ「お次は透明人間化とはな」



  ギュルルルル

                    ブゥゥゥン

          グルグルグルグル




見えない。



超高速で動く人間手裏剣は音を自分が過ぎ去った宙にばら撒く


四方八方にブンブンが複数人いるとしか思えない程に…



                 「ぬははは!」
    「覚悟せいっ!」

                「今日こそ引導を渡してくれる!」
         「ワシが捉えられるか!?」
  「行くぞ!」
          「ぬははははは!」






    マリオ「シッッ!」シュッ!



右拳を顎の上まで上げてから軽いジャブを繰り出す―――


         ベキャッ



   ブンブン「……――」フラッ



 マリオ「つい最近まではトレーニングもせず長い休暇を満喫したがな」



 マリオ「…俺達はお前以上の実力を持つ強敵と戦った経験がある」

 マリオ「今更、その程度の小細工が通用するものか」



   ブンブン「…」ヨロッ





あまりにも、


あまりにも、呆気ない終わり方だった…たった一発


これほどまでの騒動を起こし、国家を一つ短時間で支配した軍の指揮官が




ワンパン

たった一発の拳で、…ついぞさっきまで記憶喪失だった男が


暢気に球技大会やカートレースを満喫してた腑抜けが



敵の宇宙船で大遅刻して戻って来た様な人間たった一人のワンパンで…!




  ブンブン「…ぉ、ぉぉぉおお・・・」ガクッ


膝を地に着けた





  ブンブン「…ハァ、はは、どうした?まだワシはこの通りじゃ」

  ブンブン「気絶なんぞしとらんぞ?意識がある…ピンピンしとるわ」


  ブンブン「いつもみたく、あと2回は強烈なのお見舞いせんかい…」



  マリオ「…」

  ルイージ「……あー」ポリポリ



無言で佇む兄と、気まずそうな顔で後ろ頭をかく弟は目の前にいる

 過去の栄光を捨てきれない老人をただ見つめていた


 ブンブン「今は息があがっとるが、すぐに整えてお前等を叩き潰すぞ」

 ブンブン「…はやくトドメを刺さんかい、…はやくやらんかいッ!」


  ブンブン「そんな目で見るな!早くトドメを刺せぇぇ!!」

   マリオ「…もう、やめろよ、気が済んだだろ」スッ

面白い
>>1の他作品ってある?



  ルイージ「もう止めときなって」

  ルイージ「アンタはチェスや将棋で言うなら王様取られたんだよ」



  ルイージ「気は済んだだろ」



"気は済んだだろ"

兄も弟も、同じ言葉を口にする



 指揮官殿――いや、ブンブンは嘗て共に戦地を掛けた多くの同胞を
伴って今回の騒動を起こした


蜘蛛の巣が張られた薄暗い部屋の隅っこで、埃被って、そのまま朽ちて…


 輝かしい栄光も名誉も、『誇り』を【埃】で埋もれさせて錆びていく
平和に馴染めない不器用な男が、過去の栄光を求めてこんな馬鹿げた事を
しでかしたのだと…



 戦いでしか生きがいを見いだせない者にとっては
平和は自身を蝕む甘い毒でしかない


 甘い毒よりも鮮烈で口の奥が鉄の味で満たされるような苦みの強い薬を
誰よりも求めた、たったそれだけの話なのだ
 おそらく、この話を冷静な人間が聞けば十中八九、そんな理由で
国1つ侵攻したのかと呆れ、鼻で嗤うだろう



だが、マリオブラザーズは笑わない



彼等とて、同じ世界観を持っているから



頭打って記憶喪失になるくらいに身体を鍛えまくり、常に己の限界突破を
目指すチャレンジ精神旺盛な冒険野郎で大馬鹿野郎のマリオ


一見、お気楽でマリオよか客観的に物事を見てそうで何だかんだで
やっぱりこいつ等兄弟だ、血は争えないと思わせるルイージ



戦いに生きたい、強者との闘いで人生に"華"を持ちたい

勝利し、栄冠を掴んで、凱旋を果たす…そこに意義を感じるタイプの人種





 同族だからこそ共感できる慣性がそこにある
       …だから、ブンブンを嗤わない

  彼の行いを"肯定こそしない"が"否定もしない"のである



もしも、自分が同じ立場だったら…



  マリオ「………俺も、お前の気持ちは、…あー、なんだその」

  マリオ「…解っちまうんだよ、俺も同じ、だから…な」


マリオは、ブンブンを一瞥して、目を閉じた

********************
――――――
―――――
――――
―――
――


 -ルイージ『…その、さ
         兄さんは今の生活ってどう思ってるの』-

 -マリオ『…? 今の生活だと?』-



-ルイージ『普通に暮らして、たまに配管工としての依頼があって
           そんでその賃金で生活してく今の生活だよ…』-


-マリオ『別段何も思わないさ、収入は少ないがそれなりに
                  充実した毎日だと俺は思う』-



-マリオ『ただ…』-

-ルイージ『ただ?』-



-マリオ『…去年ぐらいか俺が"下水管の修理中に頭を打ったらしいな"
                 その頃からずっと違和感がある』-


-マリオ『ずっと"大切な物を忘れてる"ような感覚でな
               特にそれが最近強くてな』-





-マリオ『寝ても覚めてもソレばかり考えてしまって
     他の事が頭に入らない、お前やピーチ姫、ヨッシーと
   遊びに行ったり美味い物を食べたりしてる時だってそうだった』-







-マリオ『最近、何をやっても満たされない
      何をしても面白いとか楽しいって思えないんだ…』-




-ルイージ『…』-








-マリオ『どう言えば良いんだろうな…抜け殻みたいに生きてるような
              "生きてて楽しくない"っていうかな…』-









-ルイージ『兄さん、それは言いっこ無しだ
        生きてる事をつまらないとか言わないでくれ
              僕やヨッシー、それに姫だって哀しむ』-

-マリオ『…ああ、すまんな』-



――
―――
――――
―――――
――――――
********************




 マリオ「……解っちまうんだ、解ってしまうんだよ、俺も同じだから」

 ルイージ「兄さん…」




カートレースよりもずっと前、テニス大会前のまだ記憶喪失だった頃…


何をしても満たされず、"生きている事がつまらない"そう感じたマリオが
胸の内をルイージに語った時の事を思い起こしていた



 人生に生きる意味を感じない、衣食住も金銭も人間関係も
どんなに恵まれていても、どれほど周りの眼から見て羨むような環境でも

それが本人にとって幸せとは思えない事もある


 人間、一人一人が異なる価値観を持ち、誰かにとっての幸せは
当人にとっては幸せでも何でもなく

逆にその人にとって不幸だと思える境遇は別の価値観を持つ人からすれば
喉から手が出る程に渇望する幸福という場合もあり得る





  嗚呼、こいつは"同族"だ、…こいつは俺と同じなんだ。




 マリオは目の前の老兵を見て、…いや、此処に来る前から正体に見当を
つけていた時からも、そして老兵の下に集い、自分達も大手挙げた奴らも

みんな、自分と同じで、ずっと死んだように生きていたんだと



ただ心臓が動いていれば生きているんじゃない

ただ裕福で不自由ない生活をしてれば幸福なんじゃない




薄暗い部屋の隅で埃を被って、儘ならない想いだけを塵芥よりも募らせて
燻った魂の火を燃やし続けた


…止められるワケが無いじゃないか、それはマリオ自身に置き換えるなら

お前はこれから二度と冒険に出るな



今後、冒険どころか何一つ活躍もせず、時代と共に消えて
遠い未来で、自分が生きた痕跡さえ薄れて…

昔、子供達に憧れられたヒーローとして語り草になることさえも無い


そう言われているようなモノ


 サンタクロースが子供に夢を与える仕事と免許を剥奪されて
人生の生きがいを失くして、未来永劫、指を咥えて延々と生殺しにされる

喩えるならそんな状態だ



 ブンブン「……」


 マリオ「お前は十分凄かったさ」

 マリオ「300人近くだぜ」



 マリオ「クッパに忠義を誓う古株連中の奴らでさえもお前に賛同した」

 マリオ「"アイツ"が裏で手引きしてたのも確かにあったかもしれんが
      それでもお前と同じ気持ちでここまで多くの奴が来たんだ」


 マリオ「お前に共感し、賛同させた
      ……例え老いたとしてもあのクッパに
       何の許可も取らず、自分の意志で行動を起こさせた」



 マリオ「感服モンだよ、全く」


 ルイージ「どうせ、乗っ取ったはいいけどこの城もすぐ奪還される」

 ルイージ「ワリオやヨッシー、それに僕がレースから帰れば直ぐに」



 ルイージ「一時の儚い夢って分かっててやったんだろ?どうなんだい」



 ブンブン「……」

 ブンブン「…。」



 ブンブン「そう、さな…一時の儚い夢、じゃのう…」



 呼吸を整えるように、一間開けて、やがて…
彼は観念したように言葉を漏らした



 そして、思い出したように彼は英雄兄弟を見つめ尋ねた



 ブンブン「…のう、さっきの『"アイツ"が裏で手引きしてた』とは…」


 マリオ「…ああ、多分、お前は無自覚なんだろうなって思ってた」

 マリオ「いや、お前だけじゃない…お前の部下たちもそうだって」


 ルイージ「僕達が昔懲らしめてやった往生際の悪い奴さ」

 ルイージ「アンタは利用されたんだよ、ブンブン」




 眉をあげて、それはどういうことだともう少しだけ詳細を求めようと
彼は口を開きかけたところで…舞台に更なる役者が降り立った



  ―――プロロロロロ!…シュバッッ!!!   ヒュゥゥゥゥゥン





   クッパ「マリオォォォ――――ーッッッ!!」ヒュウウウゥゥン!




  城上空に響き渡る重低音、耳の鼓膜が引き千切られるんじゃないかと
錯覚するような怒鳴り声に、思わずルイージが耳を塞ぎ
ブンブンも顔を歪め、ただ1人…名前を呼ばれた男だけは
平然とした表情で声の主を見上げていた



   クッパ「――――コォォォォォッッ!!!!」カパッ!ボォォォッ




  ルイージ「はぁ!?あの馬鹿嘘でしょ!」バッ!



此方に振って来る怪物は大顎を開き、喉奥で燃え盛る紅蓮を見せる
 脳がそれを認識するや否や、猛炎を吐き出す1秒前のクッパに
文句の1つでも投げながら倒れたブンブンの腕を無造作に掴みその場を
飛び退いた



 紅炎が屋根の上に叩きつけられ、四散したのはその直後だった


 桶いっぱいの水を物見台の真上から地表にひっくり返したような勢いで
獰猛な紅桜の花びらが吹雪く、一枚一枚が触れただけで大火傷の花弁に
見える美しい炎の揺らめき、恐ろしい熱量の桜吹雪だ


見慣れた赤い帽子の男はブレス攻撃の火線からは既に外れていた

ブンブンを連れてその場を飛び退くのに気を取られ何時、マリオが其処を
離れて好敵手の火炎攻撃から逃れたのかは見えなかったが


 燃え盛る灼熱の有効範囲からは数メートル先の地点にマリオは居た



ギュルッ!


 プロペラ機から飛び降りた奴は火を吐き終えた後、上体を大きく捻り
そのまま大きく身体を旋回させながら着地地点を赤い帽子に定めた


初めからルイージは眼中に無い



 利き手の指を曲げて何かを鷲掴みにする様な動きで
爪による切り裂きを繰り出すッ!



  クッパ「喰らえぇぇぇ―――ッ!」

  マリオ「通用するとでも思ったかぁぁぁぁっっ!!」



 剣の達人が抜刀術の構えで神速の一閃を放った、凡人の眼には
それほどの恐ろしく早い振り下ろしに見えたことだろう


パシッ!乾いた音と同時に片手でクッパの腕を掴み、上空から降って来た
その巨体の重量ごとマリオは彼奴を受け止めた


   クッパ「甘いぞ!」シュッ

   マリオ「むっ!?――うぐぁ!」ドガッ! ズサーーーッ!


  クッパ「ワガハイに尻尾がある事を忘れたままか!バカめ!」


 利き腕を封殺されもう片方の腕を振り下ろす――のではなく
彼特有の武器である尻尾を振るい、マリオの横腹を思いっ切り叩きつけた


人間の構造には無い尻尾による追撃ですっぱ抜かれ、ゴルフボール並みに
飛んで尖り屋根に叩きつけられるマリオは、小さく呻き声をあげる…


【たいよう】の熱で少し焼けた時よりも

【ゲドンコ星人】のビームで機体を壊され谷底に落ち身体打った時よりも


今日、戦った敵から受けた攻撃で一番に効いた一撃である



 クッパ「ハァッ―――とぉっ!」シュバッ!――ヒュゥゥン、ズシンッ!


 クッパ「ガハハハ!情けないものだなマリオよ!」

 マリオ「いってぇ…な、このクソ野郎…」ヨロッ…


 クッパ「あれほどお前が掴んで飛ばした尾に今度はお前が飛ばされる」

 クッパ「これを笑わずして何が笑えるか!」


 マリオ「久々に会って早々に嫌味かよ…ったく」



 クッパ「…フン!」














     クッパ「…よくぞ帰って来たな、待っていたぞ」






     マリオ「…あぁ、悪かったな、待たせちまった」







 ルイージ「兄さん!クッパ!!」


 クッパ「なんだ緑のヒゲ、貴様も居たのか…」

 ルイージ「…へぇへぇ、どーせ僕は緑のヒゲでごぜぇますよーだ」


 クッパ「…。」チラッ、ジッ

 マリオ「見ての通りだ、全部思い出したさ…ルイージにも聞いた」

 マリオ「お前は俺が思い出せない間自分の家おとなしくしてたんだろ」


 マリオ「苦労かけたな、一番暴れたがりの問題児のお前が抑えたんだ」


 マリオ「…だが、再会の記念で出合い頭に殴りかかるんじゃねぇよ」



ブレスに爪、尻尾、常人なら数回死んでる"挨拶代わり"である

*********************************



       少しですが、今回は此処まで!


>>400の会話文は>>23の回想ですね、幸せの定義は人それぞれ違う…





>>398 あります、これ以外で速報Rに現在進行形で3~4ほど
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良かったら作者の他のスレの名前教えて?


 ブンブン「クッパ様…」ヨロッ

 クッパ「ブンブンよ、此度の件はわかっているな」


痛む箇所を抑えながら老人は仕える者に声を掛けた
 この後の事は分かっている


 御叱りのお言葉も、罰も甘んじて受けよう…
どうしても抑えきれない、このまま胸の内に押しとどめては
胸が張り裂けんばかりの情動があった

主君の為と言いつつも心の片隅には自分の為が無かったとは言えない


 英雄兄弟と再び、戦って負けて…心は満たされた


 勝敗云々じゃない、老いて手足すら皺くちゃで動かす度にプルプルで
もう二度自力で身体を動かすこともできない要介護老人になる前に
恋焦がれた戦場に戻った、人生の大半を打ち込んで来た場所に返り咲いた



――――戦うことができた、それだけで、心はもう満たされていた



 道半ば一度、朽ちて錆びついた車の車輪が再び磨き上げられて
今度こそ旅の終着点に到達出来た様に
 ずっと停滞していた彼の世界はもう一度動きだせたのだから


 ブンブン「…。はい、ワシの独断で軍を動員させました」

 ブンブン「覚悟はできておりますゆえ」


 クッパ「お前がやったことはワガハイが協定を組んでいる国に
     対して攻撃を仕掛けるというワガハイの顔に泥を塗ることだ」

  クッパ「不問には、できん」


 ブンブン「…仰る通りです」








 クッパ「…だが、だ」



 クッパ「お前の暴走も元を正せばワガハイにも非があるのだ」

 クッパ「軍の肥大化を理由にお前達一人一人をよく見てやれなかった」


 クッパ「…。」

 クッパ「…実践経験の浅い若手たちの指導教育、それが必要と考えた」

 クッパ「だからマリオ達と戦場で戦う兵の半数以上を新しく入った
     新兵ばかり配備して最古参で実力のあるお前達は城に置いた」



  クッパ「それが古くから仕えて来たお前達にとって
       耐え難い苦悩を与え、誇りを奪い取る結果になったのだ」



クッパ「人員が増えすぎた事で軍が抱える不満や実情の監督不十分と」

クッパ「新人教育の名目、その二つを盾にお前達を蔑ろにしてしまった」


   クッパ「…すまなかったな」




   ブンブン「~~ッ…っ!クッパ様…」グッ




  クッパ「…お前の処遇は城に帰ってから言い渡す」

  クッパ「最後に、まだ一つだけ大仕事が残っているからな」

  マリオ「…もう、いいのか」


 クッパ「うむ、我が軍を好きにしてくれた落とし前は
              キッチリとつけさせてもらおう…!」


 終始を眺めていたマリオもルイージも常に気を張っていた
"何か"に警戒していたのだ…
 騒動の大将首であった指揮官殿ことブンブンを倒した今も…ずっと



 クッパ「最後に一つだ、ワガハイの非もあるがもう一つ…」

 クッパ「お前含めて全員に酌量の余地がある」



 ルイージ「…そうそう、クッパが落ちて来た所為で説明できなかった」

 ルイージ「さっきも言ったけどブンブン、アンタ利用されたんだよ」





     - ぐふ、ぐふふ…! 流石やなぁ… -




 ブンブン「な、なんじゃこの声は…頭に直接響いて…」




 マリオ「…はぁ、溜息も吐きたくなるぜ」

 マリオ「テメェをぶちのめしたあの日から何年経ったと思ってるんだ」

 マリオ「そんなに復讐がしたかったのか」




- 当たり前やろボケェ!ハァ~…
   あんさんが記憶失くした言うとるから
       ビッグチャンス到来やで!!思うとったのに -


  - せーっかく、ワイが立てた計画が全部パーやで… -




 ルイージ「回りくどい作戦だなぁ、クッパのより杜撰だよ」ヤレヤレ

 クッパ「おい緑のヒゲ」



   - どや?中々凝った演出やったろぉ? -

 - あんさんが過去にぎょーさん倒して来た敵が大集合 -


 - なのに、そこ亀ジジイはこうもあっさり負けるわ使えんわホンマ -


 …姿は見えない、だが声の主は確かにこの場に居る全員に語り掛けた



 マリオ「語源が通じない宇宙人のゲドンコ共と手を組んでる」

 マリオ「その時点で疑問は持ったさ、そしてあらゆる可能性を考えた」




 マリオ「どうやってゲドンコとブンブン達は意思疎通が出来たのか」


 マリオ「"ある意味催眠に近い暗示"だったな…」

 マリオ「ブンブン…お前、いや軍全体がこれと同じモノを持ってるな」





 マリオはそういって一つ、手にした物を掲げて見せた
老人はそれに見覚えがあった…
 それは一見すれば何処のご家庭にもある何の変哲もない生活用品
強いて言うなら、甘い香りがしてフカフカで安眠が約束されそうな"枕"だ




  ブンブン「それは…確かにワシ等が使ってた枕じゃが…」






-『…へっへっへ、ありがとよキャプテン・シロップ』-


-シロップ『にしても、"あんた等"も変な奴等だね、こんな雪山で
      降ろして欲しいだなんてさ、オマケに…
      なんだい、その荷物は?

       アタシにゃ唯の"枕"にしか見えないけどねぇ』-


-『"枕"が変わるとイイ夢見れないんでね…俺達は』-

-シロップ『ふぅ~ん、まぁなんでもイイんだけどね』-




 あの日、ゲドンコ星人が埋まっている雪山まで採掘する為
脱獄させた女海賊の船での会話をふと思い出す

何故、それを彼が持っているのか




 マリオ「ゲドンコ星人の宇宙船をパクって来た時に中で見つけたのさ」

 ルイージ「君らさぁ~、これ幾つ盗んで来たワケ?」

 ルイージ「いや少数を発言力のある偉い人等で使い回したかもだけど」



 クッパ「ほぉ~、懐かしいモノだな」フム


 クッパ「黒幕の正体は鼠から聞き出したから知ったが…」

 クッパ「そうか、それを使ってかナルホド…」


 マリオ「ん?あぁ~、チュルゲの奴ことか、それでお前知ったのか」

 マリオ「さて、話はそれたがこの【ユメまくら】だ」


 マリオ「【マシュマロ王国】にあったこれをお前は利用した」















         マリオ「違うか、"マムー"」













 - …ぐふ、ぐふふ…!ご名答…せやで! ワイこそが悪夢そのもの -



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォォォ…!



       マムー『悪夢の大王 マムー様や…』ボォォォ



 緑の体色、腹部には大きな白が円を描きそこに赤い宝石を嵌めた
首飾りがぶら下がっていた、爬虫類の蛙そのものと言った顔に
性根の悪さをこれでもかと言わんばかりに主張した二重目をしている

 恰幅の良いでっぷりとした体格に加えて戴冠式の王族が着る様な
マントの裾に鋭い爪の生えた腕を通し頭には王冠を乗せ
 アラビアンナイトを思わせる空飛ぶ絨毯に
踏ん反り返るように奴は座っていた


  ブンブン「こ、こやつは…」ググッ



  マムー『おおっと、今あんさん達が見とるのはワイの幻や』

  マムー『殴ろう思っても無駄さかい、そのつもりでな』



  クッパ「なるほど…初めて見たな」フム




  クッパ「お前がマメーか」

  マムー『マムーや!!人の名前間違えんなや亀ェ!!』



 覇者は何処か皮肉めいた微笑を浮かべて悪夢の帝王に次のように言う


 クッパ「おぉ、すまんな、…このような回りくどいやり方しか
         できん輩の名など一々覚える気も起きんのでな」


 クッパ「夢を変幻自在に操れる者が居るとだけは噂に聞く事があった」

 クッパ「だがこれで高が知れたものだな」



  マムー『…今の内に好きかってほざいとけや』



 マリオ「【マシュマロ王国】は観光地として良い場所だからな」

 マリオ「心に付け入る隙があるクッパ軍の古参兵が立ち寄るのを狙い」



 マリオ「そして、名物の【ユメまくら】を
          使った者の夢にお前が入り込み、暗示を掛ける」


 マリオ「大方、枕を盗んで同じ不満を抱いてる者にそれとなく使う
             そんな暗示を心に植え付ける悪夢だろう?」


 マリオ「目が醒めた後は"夢"の内容は残らない」

 マリオ「しかし植え付けられた暗示は残り続け
      お前からの命令を無意識の内に実行しようとする」


 マリオ「不自然な点や疑問にさえ気づかない
            それを含めての"催眠"…いや"洗脳"か」



 ルイージ「最初は1人、2人だったのが伝染病みたいに増えてって」


 ルイージ「少しずつ拡大、んでブンブンとか要になる人物も取り込む」

 ルイージ「そうやってお前はゆっくりと侵食した」



 ルイージ「ブンブンや他のクッパ軍、全員の心を煽り立てる様な夢で」

 ルイージ「"旧"クッパ軍を扇動させたのさ…」


 ルイージ「当然、そこには自分にとって都合良く動く暗示も
              こっそり混ぜた極上の夢を使ってね」




 ブンブンは声を出せずにいた。

 今まで自分は自分の心情と信念に従って動いたと思った
だが、戦士として戦いたかったという想いすらも、全て見知らぬ誰かに
突っつき回されて思うように誘導された行動だったというのか…ッ!


 マリオ「ゲドンコ共とは言葉で会話してたワケじゃない」



 マリオ「"夢"ってのはよ、便利なモンだよな」

 マリオ「抽象的でふわふわとしててさ…」

 マリオ「明らかに不自然でありえない物事が起きても」

 マリオ「見てる間は何の疑問も持たず受け入れるんだ」



 マリオ「あの言葉が通じないエイリアン共にも通用するさ」

 マリオ「アイツ等の夢なんだから、語源関係なく誘導できる」


 あるいは、毒々しいあの宇宙人の精神に感応することでマムーも
かの惑星の語源を覗き見て、メッセージを夢越しに送れたのか…


ブンブン含め、誰一人として言葉が通じないのに自分達に協力してくれる
そういう思想を疑わない、そもそも何故、その前提で物事を進めた?


 初めから誰一人、疑問を持たないのだ


 深層心理に『脳がその事実に気づかいてはならない』という命令を
発信する暗示という棘を…っ

過去の栄光に今一度縋りたくなるような心地よい夢という名の麻薬で
深々と差し込んでいくからだ


 城攻めの大まかな作戦も統率も取れていたワケじゃない

 どっちもある意味、洗脳された状態だったから
お互いの関係を怪しまなかったに過ぎない




 "旧クッパ軍"が戦<イクサ>を起こそうと思い立ったのも

 ゲドンコが埋まってる場所を知らせ、目覚めたばかりで協力的なのも

 ドン・チュルゲがどうやって騒動が起きる情報を握って参戦したのかも



何もかも、夢の支配者であるマムーの策だったのだ…ッ!



 クッパ「それで、どうする気だ小物?」

 クッパ「今目の前にいるお前が幻だから殴れないならどうだという」


 ルイージ「そうそう、お前夢の世界の住人じゃん?」

 ルイージ「前は【サブコン】に入ったから僕達で物理的に干渉できた」

 ルイージ「逆に言えばお前そっちからじゃ現実世界の僕達に触れない」



 ルイージ「この数年で僕達も色んな人と仲良くなってね」

 ルイージ「特に夢の世界に干渉することに
      掛けてはプロの人とも知り合いになったんだ」


 ルイージ「ゆっくりと態勢整えて
       大勢の仲間とそっちにボコりに行ってもいいんだぜ?」





  マムー『そらぁ困るわな、態勢整わん内に潰さんとあかんなァ~』


  マムー『ぐふふ!安心せい、ワイはそこんとこ考えてんで』

  マムー『夢の世界だけじゃなく現実も乗っとる為に』

  マムー『ごっつぅエエモン造らせたんや…』ニィ



ゴゴゴゴゴゴゴゴ…



  クッパ「なに!?」

 ブンブン「うぉっ!…この揺れは、まさか中庭のアレが完成したのか」



 マムー『ワイはご存じ夢の世界の住人や現実世界に肉体が無い』


 マムー『無いならなぁ、"造れば"ええねん』

 マムー『さぁて!!過去からの贈り物作戦のメインディッシュ登場や』



  マムー『目ん玉かっぽじってよぉく
           見とけぃマムー様のニューボディーをな!!』



  ゴゴゴゴゴゴゴ…!

 ルイージ「なんだって!?」ハッ!?



 マリオ「っ!?…まさか、…クソッ!野郎なんて物をッ」
 クッパ「なるほど、鉄屑を集めて作っていたのこれか…厄介だな」



英雄と覇者は表情を苦々しい物に変えた

それは彼等の激戦の記憶にある鋼の肉体…

そいつは"武器"の墓場から連れて来た残骸だった
既に魂など無い鋼の骸をパズルのように合わさるそれは既に
"胴体"が出来ていた、中央の黄色い星の印、右手には金鎚を握るその身体


  「ぐふ、ぐふふ…良い身体や、ワイの新しい身体ぁぁぁ!!」






 緑の帽子を被った英雄は額から出た汗を拭った

 彼は実物を見た事は無いが、音に聞いたことだけはあった


 それは老兵のブンブンとて同じだった




 「うおおおぉぉぉぉ!guoo…!GUOOOOOOO!!!!」ゴオォ!




 その全容が露わになり、過去の産物の名を英雄と覇者が呼んだ





        マリオ/クッパ「【カジオー】…ッ!」








 マムーinカジオーボディー「ぐふふ!ぬぅふふ!ぬははははは!!」

 マムーinカジオーボディー「さぁ!!ラストバトルの開幕や!!」



*********************************


            今回は此処まで!


  解説(?)【メカマムー】


 スーパーマリオくんネタ、かなり前に仰った通りマリオくんネタです

 大事なことだから2回ry)



 マリオUSAに置いて夢の世界【サブコン】を支配し
 悪夢の世界を作ろうとした存在【マムー】

 元はマリオとは別のゲーム【夢工場ドキドキパニック】世界の住人



 口を開いて泡を吐き出す攻撃を行う巨大カエルで野菜が大の苦手

 野菜を引っこ抜いて口の放り込んで倒すのが本来の攻略法である




 マリオくんだと今まで倒して来たUSAボスを取り込んだ姿になり

 身体が【チョッキー】で頭部から三首蛇の【ガプチョ】が生え
 また【ヒーボーボー】の炎を利用も可能なうえ


 ハンマーやたぬきスーツ、フラワーからキノコまで全て


 "現実世界から持ち込まれたパワーアップアイテムを消し去る"という

 とんでもないチート能力まで発揮したのであるッ!
 夢世界サブコンを支配するだけあるようだ




 そして最後は倒したと思いきや巨大メカになってまだ襲い掛かるという
 怒涛の展開が――――




    ―――と思いきや、ヨッシーに一口で喰われて終わった








 マムーinカジオーボディー



 急ピッチで造られたマリオRPGのラスボス【カジオー】の最終形態を
 現実世界での肉体としたマムー

 最終決戦の幕が開くッ!!


>>408

サガフロンティア長編SS

【ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】】


ラブライブ安価コンマスレ

穂乃果「えっ…此処、何処なの…?」【せいぞん・たんさく・げぇむ】【R-18】


他にもあと2~3ほど
*********************************

加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive
アーカイブ(7/28配信)

スーパーマリオメーカー2 配信 Part7

マリオメーカー2 バトルモードSランク目指す
/高難易度コースクリアする。

https://www.youtube.com/watch?v=QVNzwdSr39o


Jun Channel

https://www.youtube.com/channel/UCx1nAvtVDIsaGmCMSe8ofsQ




 言葉通り血肉持たざるボディは世に再臨した。


 原始から始まった人間は楽園の林檎を齧り、いつしか知恵を手にした
身に着けた探求心と好奇心はあらゆるものを創造した



その過程で創られた―――鉄と火薬、それらを用いた暴力


 鈍い輝きを放つ命を感じさせない不気味なソイツは忌むべき人の叡智を
これでもかと言わんがばかりに繋ぎ合わせたような象徴だ



 カジオーボディ『グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ』カッ



 再構築された鉄屑の魔王は産声を上げる
夕刻、朱色の空へ唸る様に咆えた、恨みがましい怒りとも
現世に舞い戻った事に対する歓喜にも受け取れるような叫びと共に
 彼奴は起動と同時に倒れていた上体を起こし右手の鉄槌を振り回す
砂場で創った泥の城を壊したかのように脆く崩れる城壁
当然ながら一部を破壊された城は傾き英雄兄弟達も落ちそうになる



 ブンブン「う、うおぉぉぉぉぉ!!」ズザーッ

 ガシッ



 マリオ「くそっ!城の修繕費が高くついちまうぜ…!」ガシッ

 ブンブン「す、すまなんだ」

 マリオ「礼は良い、んなことより手ぇ放すんじゃねぇぞ」



 傾いた屋根の縁を掴み、持ちこたえるマリオは嘗て倒したモノを睨む


 【カジオー】の頭部は過去の決戦で数パターンの変形を見た
戦車であったり魔法使いを模していたりだが現在対峙している頭部形態は




   マムーヘッド『ぐふ、ぐふ…ぐふふ』ニタニタ

 ルイージ「うわぁ、きっしょいな、どデカい鉄のカエル頭かぁ」シュタッ


 夕光を反射する鉄色の顔面はでっぷりと膨らんだ頬、丸みを帯びた鼻や
ツインアイの上部に再現された二重…マムーの特徴を捉えていた


 マムー「なんやワレ人の顔にケチつけたらアカンって
                 親に教わらんかったんか~?」


 マムー「ほな、あんさんから潰れた顔になってもらいまひょか」
 カジオーボディ『ウゴオオォォォォォォォ!!』グワァン


 胴体は右手を振り上げる、鉄槌がオレンジの光源を遮るように掲げられ
照らされた武器は太陽の色に染まる様に変色する


 じゅわり…っ!



 空気が揺れる、鉄塊が熱を帯びて輝黄赤色へと変わる
真夏日の雨上がりに見るアスファルト上の蜃気楼じみた空間のぶれ

屑鉄魔王の肉体に寄生した悪夢の脳は鉄槌を下す指示を送る


 焔の槌は振り下ろされる、高度が下がるにつれてルイージの頭上に点を
合わせた黒い影は大きくなり、終いにはピーチ城の屋根を粉砕する



―――ゴシカァン!!



  ルイージ(うまく挑発に乗ってくれるじゃあないか!)ガシッ

  壊れた窓枠『』



 ギリギリまで敵の攻撃を引き付けてからの飛翔、屋根から離宮の屋根へ
飛び去ろうとする際に壊れた窓枠を拾いあげる


 そして跳んだ弟の視界に映ったのは…




 マムー「ぐっふっふ!そないな遅さで逃げられる思うたんかボケェ!」



 愚鈍に見える巨体からは想像もつかない機敏性
振り下ろした筈の右腕は既に引かれていて、振り翳したまま身体を捻り
横軸にフルスイングをぶちかまそうとするマムーの姿だったッッ!!



   ルイージ「おおっと!?…こいつぁやべぇかも」タラーッ



 初手で挑発をかまして自分にヘイトを向けさせて
自分は彼奴の攻撃回避に専念、その隙に火力の高い兄とクッパが
がら空きになったマムーの背部から叩くッ!



 というのが想定していた理想の動きだったのだが…
如何せん【カジオー】と対峙した経験が無い故に相手の俊敏性を見誤った


 早速"保険"を使うことになるとは思わなかったと、冷汗がタラリ…




夕陽を背景に屑鉄王の影が迫る、赤焼けに良く映える黒い鉄槌が

巨影の後ろに何かを抱えた人影と甲羅を背負った怪物の影も



  マムー「死にさらせぇぇぇぃぃぃいいいいいいッッ!!」



  ゴベキャッッッ!!

 鋼鉄の腕は確かに、物体を潰した感触を感じ取っていた
ニタニタと笑うカエル頭の口角が更につり上がる…!



   マムー「っしゃぁぁまず1匹ぃぃっ!!」グルンッ!



 生物の構造上決してありえない首の動き、180℃頭部がぐるりと回って
後方から迫る二人を捉えた



    マリオ「どらぁぁぁぁッ!!」グッ!

    クッパ「破ァァッッッッッッ!!」ブンッ


首が旋回した時、既に跳躍した英雄と覇者は目先に居た


 年季の入ったブーツで顔がこちらを向く事など初めから想定済みだと
謂わんばかりに顎下から蹴り上げる姿勢を見せる


 英雄より僅かに低い位置には裂けぬ物など無いと仲間達に誇らしげに
語っていた爪を振り上げて首元から胴を掻っ捌いてやろうと両腕を己が
背まで振りかぶる覇者の姿もあったのだ



   マムー「しゃらくさいわ!」カッ!



 鉄蛙の両目に赤紫色の怪しい光が灯ったかと思えばそれは放たれる
本来のカジオーには備わっていない高出力の破壊光線が空へと穿たれるッ


 逃げ場のない空中でこの距離、速度では歴戦の勇士も巧くは避けれまい
そんなマムーの予測を上回る動きをやってのけるのが真の英雄達だ




   マリオ「恨んでくれていいぞ!」ドガッッッ!

   クッパ「おうッ!後で100倍にして返してやろうぞ!」ガッッ




 さて振り返ってみよう、マリオは鉄蛙の顎下を蹴り上げる為に飛び
その僅かに低い位置に同じくクッパが喉元から下に向かって裂くべく居る



 咄嗟の判断…っ! 歴戦であるが故の応用…っ!


 なによりも、好敵手<ライバル>であるが為に可能な阿吽の呼吸…っ!




 大魔王クッパは自身の甲羅の棘に触れるかどうかまで振り上げた両腕を
十字にクロスさせて頭の上に乗せる

 英雄マリオは…そのまま"クッパを踏み台にした"…ッ!!



 真冬にできる凍りついた水溜りをパリンっ!と踏み割る様に鍛えた脚で
自分の真下に居るクッパの頭部を――頭を護る様に交差した野太い両腕を

力強く下方向に向かって蹴落とす様に踏みつけたのだ…ッ!




 結果…っ!


 上から圧を加えられることによって急速落下していく覇者
 彼を踏み台にしたことで更に上昇していく英雄


 宛ら磁石の同極同士をくっつけた時に発生する反発力の如く…っ!
お互いが宙でそれぞれ上下に分かれて迫りくる破滅の光を回避したのだ!




  マムー「ぬぅぅ!?…サーカスのピエロかいなっ」チッ




「サーカスの曲芸はお嫌いかい?じゃあマジックショーなんてどうさ!」




 マムーの照準は好敵手を踏み台にした事で更に高く、それでいて一気に
距離を詰めてきたマリオに合わせられることは必然であった


 破壊光線の第二波までに掛かる時間ならギリギリ赤帽子を撃墜できた筈
頭部はマリオを凝視し、胴体部は当たるかどうか分からずとも
クッパへの牽制になれば良いと鉄槌で薙ぎ払う様に振るう




   そこで聞こえてきたのがもう一人の英雄の声だ




 マムー「!?」ハッ!



 ルイージ「無防備な頭を~~っ ダブルスレッジハンマーでドーン!」


――――ドガッシャァァァ




  マムー「 く" が っッッ!?」グワンッ




 プロレス技に置ける打撃技の一種、両手を組んで作った拳の鎚で
思いっ切り相手の頭部を殴打してやるハンマーパンチが炸裂する

 声の主は間違いなく"手応えありだった相手"…

いや確かに死んだかどうかまで確認はしていなかったが、ありえない
 マリオでさえクッパを踏み台にしたことで得た高高度を
自分を殴りつけてきた緑のヒゲはあっさりと得ていたのだ

 屑鉄帝王の背丈よりも遥かに高い制空権を獲得した英雄の弟に
殴りつけられたことによりマリオに向けていた筈の照準は外れ
赤紫色の破壊光線は虚しく地平線の彼方へと飛んでいく



 マリオ「上のお次は下からだぜ?忙しいだろう…なァア!!!」ヒュゴッ



 汚れ切った茶色の靴が下顎を撃ち抜く、自動車のボンネットが
潰れた時に聴こえる嫌な音が響いて鉄の蛙は天を見上げさせられる


 ウゲッ!!っと声を漏らして破壊光線射出装置と化した眼球が言葉通り
眼を回し、中央の瞳が渦を巻く


       ―――ザ ン ッ  ッッ ッッ



ギィギギギギッ…!メキキィィィーッ


 次いで聞こえたのは腹部から分厚い金属板を強引な力で引っぺがす音だ
視界がグルグル回る悪夢の帝王はまだ揺れる視界の中で腹の皮を一枚裂き
剛腕で剥がす亀族の覇王を見た…っ


  クッパ「ムッ?金属板の腹を破ってもまだ金属板があるのか…」

  クッパ「まるでタマネギの皮のようだな」グググッ!


  クッパ「フンッッッッ!!」


 鉄屑ボディをタマネギと吐き捨てて右ストレートを繰り出す
圧倒的な体格差にも関わらず、よろめき思わず二歩後退る鉄屑の帝王



  ルイージ「いってぇぇぇぇ…っ!」シュタッ



  ルイージ「くっそあの蛙、石頭…あっ、いや鉄頭か?」ヒリヒリ

  ルイージ「無駄に硬くなって帰って来やがって、あー!もうっ!!」



  マリオ「…"保険"を掛けていたとしても甘く見過ぎだ、気を付けろ」

  マリオ「【奴】はあの見た目に反してそこそこ早いからな」



  ルイージ「…わかってるよ、実際想像してたのより速かったからね」



 鉄蛙の鉄頭を思いっ切り両手で殴りつけた英雄の弟は
白いグローブ越しにヒリヒリと痛む手に息を吹きかけていた

主役は兄、二番手は大人しく囮や陽動のサポートに…と
手慣れた動きをしようと思えば想定外の鉄槌スイングが来たから驚きだ



  マリオ「お前なら、壊れた窓枠を拾うだろうと思って俺も拾ったが」

  マリオ「俺がもし窓枠を抱えながら走っていなければどうする気だ」


  ルイージ「なぁに、兄弟の絆を信じたまでさ」ヘヘッ!




   クッパ「お喋りしてる場合でもなかろう…」スクッ!

   クッパ「見ろ、ワガハイ達の攻撃を受けてもあの通りだ」





  マムーinカジオーボディー「……。」ヒュゥゥゥゥ…



 ほんの僅かにへこんだ後頭部と顎下にできた窪み、そして覇者によって
"文字通り皮一枚"の損傷…経験者2人は与えたダメージの少なさから
頑丈な肉体を得たマムーを一瞥して『そうだろうな』と思った



  マムー「ぐふ、ぐっふっふ…」



 ゴゴゴゴゴ…!





討ち滅ぼされた筈の異界の王、その形骸を依り代とし"夢魔"は大地に立つ





 マムー「ぬはははははっ!ええやないかっ!!ワイのボディーはァ!」





 黒鉄の巨人は心底愉快そうに笑い半狂乱気味に鉄槌を振り回す
ただ目の前の3人に当てるでもなく、軽い準備運動でもするように

その肉体が徐々に自分に馴染んでいくように…ッ!!



 ルイージ「うっわ、そんなありかよ…」

  クッパ「!…これは厄介だな」



  マムー「何を驚いとんねん、ワイはマムー様や…」ニタァ…

  マムー「【夢世界】を支配する悪夢の王のマムー様なんやで!!!」



―――
――




 悪夢は現実となりて。



 胡蝶の夢という思想があり曰くソレは『夢と現実の区別がつかない』
そんな状況を表現した言葉だそうだ


 現在進行形で目の当たりにしている光景はそんな思想さえも上回る状況
幻夢が現実との間にある明確な境界線を飛び越え現世に干渉するのだから




  カジオーボディー『…グオオオオオオ!!』シュウウウウウゥゥゥ…!




  マリオ「オリジナルのカジオーも自己修復機能があったがな…」

  マリオ「形態変化もせずに、それも生身の人間みたいな治り方とは」



 英雄兄弟、大魔王が与えた傷はみるみる内に塞がった
頭部に出来た窪みも、切り裂いた腹部の装甲も…
カジオー本来が持つべき修復機能を遥かに上回る回復速度で
 血肉の通った有機生命体の擦り傷が細胞の力でどんどん治る様に…っ



  マムー「悪夢を実現させるのが夢世界の支配者や…」

  マムー「どや?タダでさえ頑丈な鋼の肉体が人間みたいに治る」

  マムー「どれだけ殴っても先が見えない、終わりの見えぬ"悪夢"」




マムー「現実で自由に活動できる肉体を得たからこそ夢から現実に…!」

マムー「悪夢の王たる力がなさしめる能力で干渉可能になったんや!」



  マムー「にしても…あんさん等」

  マムー「…ちぃっと見ん内におもろいことできる様になったやんけ」

  マムー「そっちの緑がどうやって助かったんかやっとわかったわ」



 ルイージ「…へへ、面白いマジックショーだっただろ」グッ


 あの時、クッパとマリオがマムー目掛けて飛翔した時…
確かに赤い英雄は"何かを抱えていた"…その何かというのは城の窓枠だ


 ルイージ「【あちこちウィンドウ】…種も仕掛けもありませんってね」



 マムー「はんっ!種がわかればどうってことのないトリックやな」

 マムー「ワイが手応えありと感じたんはあんさんの骨やなく窓枠や」


 マムー「そっちの赤い方が亀と跳んどった時に抱えてたブツを投げた」

 マムー「ワイの頭上より上空に投げられたブツ…窓枠から瞬間移動と」

 マムー「そないなとこやろ?」


 念のために用意していた"保険"…万が一にも避け切れないという事体に
なった場合は拾い上げた窓枠を【あちこちウィンドウ】として利用して
 そこからマリオが拾った方の窓枠へワープすることで緊急離脱
焔槌がぶち当たる頃には弟の姿は既に鋼鉄巨人の上に投じられた窓枠から
出てくるという寸法だ


 回避と同時にそのまま奇襲攻撃への流れを自然に持っていく
首が旋回して此方を見ることまで何もかも織り込み済みで
マリオも敵の死角となる後頭部側にルイージが現れる様に投げた



……とはいえ、本当にただの"保険"であって
  いつでも視覚外から仕掛けられる布石として撒く程度のつもりだった


 これほど早く使うことになるなど想定外だ




  マムー「惜しかったな~?初見なら対応に困るやろけど」

  マムー「初見殺しは、一度見てしもうたら初見殺しやなくなるで?」




 手札を知られたのは確かで、更に3人の一斉攻撃でも
あれだけしかダメージを与えられなかった


 その癖カジオーの修復機能を圧倒的に上回る常時自動回復を見せつける
マムーの"悪夢の力"による回復力…っ!
 もう鉄屑帝王の肉体には外傷と呼べる物は無くなっていたッ!



  マムー「ぬはははっ!ワイは無敵の力を手に入れたんや!」

  マムー「目ぇかっぽじってよぉく見ときやぁぁぁ!」メキッ、メキッ



 ビキビキ…ベキョッ!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!



 マリオ/ルイージ「「…!」」

 クッパ「なんなのだ…あやつらは…」




ぺきぺき…にょきっ!

うじゅる…うじゅる…!

ぼぉぉぉぉぉ…めらめら…っ!



 ルイージ「悪夢の王、ね…確かにこりゃあ名にふさわしいバケモンだ」

  マリオ「ああ…マムー軍総出でお出ましとはな」


 黒鉄の胴体、頭部に罅が入り内側から"何か"が出てきた…
卵から孵化した雛が嘴で殻を打ち破る様にソイツ等は姿を見せたのだ


 身体の両サイドから生えた甲殻類を思わせる計6本の節足と
肩部からメキメキと音を立てながら生えてきた
蟹の鋏を思わせる金属製のロボットアーム


 背部に円形状の穴が開いたかと思えばガス管に酷似した配管が数本出て
恐らく可燃性のガスと思われる気体を噴出
 それが勢いよく発火してマムーが大火を背負うかの様であった
背景にある夕陽と相まって神話に出る太陽を背負う王か何かだ


 最後にマムーの頭部を模した王冠付きの蛙頭の天辺から3つ
うじゅるうじゅると蠢きながらそれは伸びていた


蛇だ。

三又の蛇が牙を覗かせ、クッパには目もくれずに英雄兄弟を見て嗤う
何がおかしいのか、愉快そうに…お道化ながら彼等は口にした



 「ガーです、くくくっ」
 「プーですっ、へへへ!」
 「チョでーすっ、きひひっ」


 「「「皆合わせてガプチョでーすっ!ギャハハハハハハ!」」」



 人を喰ったような態度と底意地の悪そうな吊り上がった目元
金属のメカメカしい姿に変わっても尚健在で嘗てのマムー軍幹部は嗤った


  マリオ「三馬鹿蛇に蟹部分は【チョッキー】か、背部からの炎は…」

 ルイージ「【ヒーボーボー】だろうね」


 ブンッッッ!


 右腕の鉄槌による薙ぎ払いが飛んでくる


 シュバッ!シュバッ! ギュリィィィィン―――ッッ!


 胴体から伸びる鋼鉄の6本脚がそれぞれ鉄槍と化して迫って来る

 蟹鋏のアームがドリルじみた螺旋回転を加えて左右から振るわれる


 マムー「くたばれやぁぁぁぁぁぁ!!」ガッ、ビィィィッッ

 ガプチョ「「「そらそら」逃がしゃしねぇよ」喰っちまうぞ!」


 赤紫色の破壊光線がマムーヘッドの眼球から撃たれる

 三つ首の蛇がそれぞれ火炎・叩き潰し・毒牙を使って来る



 ドッッッ!!ベギャッ!ゴッガアアアアアアァァン!


 さしもの英雄達も手数の多さに舌を打った、付け根部分から直線状に
飛んでくる蟹足の槍を躱しながら本体を叩きに向かう兄弟、その進路を
潰す様に三つ首蛇の中央が鉄の身体で圧し殺そうと身を振り
 赤と緑が左右に分かれて跳ぶと赤に目掛けて破壊光線と火炎弾の雨が
緑側には執拗に追尾して毒液を滴らせる牙を剥ける蛇頭がそれぞれ向かう

 英雄兄弟<マリオ・ブラザーズ>と比べて素早さが若干足りていない覇王は
横薙ぎの焔槌を屈むことで紙一重に回避するも
 ドリル回転の鋏が両サイドから挟み込む様に攻めて来る、自慢の剛腕で
それを受けきり回転を止めるまでに至るのだがマリオ目掛けて撃たれた
破壊光線がそのまま城の屋根伝いを焼きながらクッパの元へやって来る



  クッパ「おのれ、止むを得んかっ!」バッ!シュバッ!


 回転を止めた蟹鋏くらいはそのまま腕力でへし折ってやりたかったが
眼先に迫った赤紫色の光のカーテンに呑まれるわけには行かない

 ガッシリと掴んでいた両手を放してチョッキーの腕を解放し
その場を飛び退く、破壊光線の光に今しがた立っていたピーチ城の屋根が
灼かれたのは直ぐのことであった


―――
――



  ルイージ「しつこいんだよっ!この蛇頭!」

   「うひゃひゃ誉め言葉だぜ!そして余所見してる場合か~?」


  ルイージ「うげげっ!?」

   「前からどうもこんにちはってなァ!!」


 追尾してくる頭部とは別でさっき自分達を叩き潰そうとした頭が
前方から突っ込んでくる、前門は蛇、後門も蛇と来たモンだ…ッ!

 噛み砕かんとする相手の動きを見切り踏みつけても後ろは未だ
追い続けて、そうこうしてる内にまたもう一体が態勢を整える
 一向にマムー本体への攻撃が加えられない…っ!


―――
――


  ボォッ! ボォッ!

  火炎弾『』ボォォォォ!!


  マリオ「ふゥっ!はっ!でやぁぁぁ!」タンッ、タタンッ、シュタッ


  「ちょこまか動いてんじゃねーよ!!!」ボォォォ
  マムー「いい加減に墜ちろぉぉぉ!!」ビィィィィーッ


  マリオ「遅い…っ!そして貰った!」サッ!ググググ…!
  マムー「甘いわ!」


―――――ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


  マリオ「うっ、ぐわあああああぁぁっ」ジュウウウッ


 マムー「只単に死角となる背中を護るだけやと思うたか!」

 マムー「背部のヒーボーボーは前含む全面防御範囲やわかったか!?」



  マリオ「~~っ!」スタッ

  ルイージ「兄さんっ!」タッタッタッ…!


 マリオ「クッパの火炎ブレス並の火力とはやるじゃねぇかよ…」

 マリオ「背面攻撃が炎壁で防がれたから今度は正面と思ったらコレか」


 瞬時に受けたダメージを回復する常時自動回復機能、頑丈な肉体
攻撃を仕掛けようとする者を焼こうとするカウンター
 更にあまりにも多すぎる手数と重火力


 認めたくはない…が、認めざるを得ない、攻守共にヤツは完璧だ

加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

高難易度ステージ集
VIPマリオ『スーパーマリオメーカー2』編

『マリメ2で視聴者が作ったマリオをプレイする』
(15:20~放送開始)



https://youtube.com/watch?v=RPqSnJez-YI

加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

視聴者作成『マリオメーカー2』
VIPマリオ風鬼畜ステージ集
『スーパーUNKマリオワールド』配信

【難易度★★★★★
W6-5:マグマグタワーから】

『マリメ2で視聴者が作ったマリオをプレイする
その5』
(15:00~放送開始)

https://youtu.be/RPqSnJez-YI

加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive
視聴者作成『マリオメーカー2』鬼畜ステージ集

『スーパーUNKマリオワールド』#6
W6-5『マグマグタワー』から


『マリメ2で
視聴者が作ったマリオをプレイする。その6』
(19:28~放送開始)


https://youtu.be/8Ch4X1AeEn0

■夏のつべら第6弾
『視聴者が創りしUNKマリオ2 完全攻略放送』
▽マリオメーカー2/創作ステージ
「SUPER MARIO 2 UNK WORLD」
1-1『デコボコへいげん』~8-4『最終決戦』
36時間放送(12:00~)

https://youtu.be/RxQf-J8qGKw

1以降の配信

https://youtube.com/@junchannel

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