若林智香「チアフルボンバーズのリーダー?」 (121)

アイドルマスターシンデレラガールズより、若林ちゃんを中心とした、チアボンSSです。
少し長めですがゆっくりとお付き合いいただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1493820158

「へ?チアフルボンバーズの…リーダー?」

秋空に、大きなポニーテールが揺れる。

「はい!!そう言えば決めていませんでした!!!」

良く晴れた秋の日の午後。
日の当たるテラスで3人がにぎやかに話をしている。

「確かにっ!決まってなかったかも。でも茜ちゃん急にどうしたの?」

3人の中では最年長の女性だろうか。
何故かひとりだけ野球のユニフォームに似せた服を着た一人から、
茜と呼ばれた少女がバン!と机をたたく。

「実は!この前未央ちゃんと遊びに行った時に話になりました!!
ニュージェネレーションズは未央ちゃんがリーダーだそうです!!!」

「どの辺が実はか分からないけど、そうなんだね。どこもリーダーって居るのかな?」

ポニーテールの少女は少しとまどいながらも茜を見て首をかしげる。

「分かりません!!!」

「ポジティブパッションは決まってるんだっけ?」
「多分!未央ちゃんです!!それか藍子ちゃん!!!」
「あはは…茜ちゃんじゃないことは確かなんだ」

茜と呼ばれた少女はぐいっと机に乗り出し、
こぶしを突き上げると、声高らかに宣言する。

「私は!チアフルボンバーズのリーダーは智香ちゃんが良いと思います!!!」

「…へ?」

長い髪を、大きなポニーテールにした、智香と呼ばれた快活そうな少女は
茜の勢いに気おされ、目を丸くして気の抜けた声を上げる。

「あたしも!さんせーい!」

「いやいや、友紀さんまでそんな簡単に言わないでくださいっ!」
こういうことはちゃんとみんなで話さないと!」

「ですので!今日集まってもらいました!うーん!!気合が入りますねえ!!!」

日野茜、姫川友紀、若林智香。

チアフルボンバーズと呼ばれるユニットを組む3人のアイドル。

その名の通り、応援することが大好きな、元気ありあま…元気あふれるユニット。
これは、そんな彼女たちが「リーダー」を求めて巻き起こす一幕の物語。

「なんでアタシなんですかー?!」

急な茜ちゃんの提案に、驚くだけだったけど、
アタシはやっと大きな声をあげることが出来た。

「いつも友紀さんがプロデューサーさんからの
連絡伝えてくれますし、アタシは友紀さんと思ってました!」

「いやーあたしはただ年長者なだけで、連絡を回してるだけだよー」
「そんなあ…」
「茜ちゃん、ちゃんと理由あるんだよね?」

「あります!!!」

「理由?」

茜ちゃんはビシっと真っ直ぐに指を伸ばすと高らかに声を上げる。

「よーく聞いてください!!」

「友紀さんは学生時代、野球部のマネージャー、
私はラグビー部のマネージャーをしています!!」

「だねっ、懐かしいなあ…!青空のもと、白球を追い掛けた日々…」
「いいですねえ!青!春!ですね!!燃えますね!!!」
「い、いやいや…それじゃ理由になってないよー茜ちゃん」

「いえ、続きがあります!!」

「なんと!智香ちゃんだけが、選手なんです!プレーヤーなんです!!
どおおおおして!こんなことに気付かなかったのか!日野茜、恥ずかしい限りです!!!」

「おおー確かに、智香ちゃんだけ選手だね!」
「ええ〜?!だとしても!それでリーダーっておかしいよ!
「おかしくないです!アイドルになる前からチアリーダーとしてみんなを元気にしてきた
智香ちゃんです!チアフルボンバーズの、えーなんだ、なんというのでしょう、考え?」
「アタシ?え、考え?」
「うー!前にこれも未央ちゃんが言っていたのに!メモするべきでした!!」
「ユニットのコンセプト的な?」
「多分それです!さすが友紀さん!コンセプトです!!」

「コン!セプト!!つまり、私たちがどういうユニットであるかを考えれば
リーダーは自然と決まってしまうわけです!!」

腕を高い位置で組み、うんうんと茜ちゃんは頷く。

…うん、うん?


「…全然分からない」


「あはは!あたしは何となく茜ちゃんの言ってることわかるなー」
「ホントですか、友紀さん?適当言ってるんじゃ…」
「さすがです!わかっていただけましたか!!」

「何より、リーダーとそもそも名前がついています!
選手でリーダー!!完璧です!!!」

「チアリーダーのリーダーってそういう意味じゃないよぉぉ」

茜ちゃんが嬉しそうに、さらにうんうんと力強くうなずく。
く、首が心配になるよ…

「今すぐにとは言いません!ちょっと考えてもらえませんか!!」
「えー急だよー!」
「智香ちゃんなら大丈夫です!!」

押し切られてしまった…

家に帰ったアタシは、今日の突然のお願いを思い出し小さくため息をつく。
枕に顔を押し付けても、答えなんか出るはずもなく、
うーんと声をこもらせながら天井を見上げる。

リーダーかあ…

部活や学校でも、これまでアタシはリーダーと呼ばれる立場になったことがなかった。

人を応援することや、元気付けることは大好きだけど、
何か、人を率いるということはあまり頭に無かった。

目に炎を燃やして、アタシにリーダーをすすめてきた茜ちゃんの顔と、
その横でニコニコ笑う友紀さんの顔を思い浮かべて…

どうして、二人はアタシにリーダーをしてほしいんだろう…

茜ちゃんのパワフルさは本当にいつもすごいなあと感心する。
元気を与える立場のアタシが逆に元気をもらっちゃう。

友紀さんもいつも元気だけど、やっぱり大人で、
ニコニコ誰にもわけ隔てなくて素敵だなあって思う。

アタシがリーダーより二人がリーダーをしたほうが
良いように思えるんだけどなあ…

茜ちゃんが言ってた、本田未央ちゃん。
ゆっくり話したことはないけどすっごく人懐っこくて、
少しの時間で仲良くなれて、寄り添うことの出来る人。

うーん…アタシじゃないと思うんだけどなあ…

でも!

二人ともチアリーダーのことを勘違いしてるみたいだし…
これはこれで、チアのことを知ってもらう良い機会かもしれない!

「では!お二人にはチアについてもう少し知ってもらおうと思います!」

数日後、レッスンの合間にアタシは事務所の会議室を借りて、
二人と話をすることにした。

「おおー良いですね!決意が伝わります!!」
「確かにチアフルってついてるのに、あたしチアのこと全然知らないからなあ」
「私もです!さすがリーダー!気が利くとはこのことですね!!」
「リーダーになるとは言ってませんっ!」

でもいい機会なのは事実だ、せっかくだし二人にもチアのことを知ってもらいたい。
そう思って、フリップ形式にした紙を取り出した。

「やや!これは本格的ですね!」
「ちょうど春に新入生への部活紹介用に作ったものがあったから、
部室からちょっと借りてきました!」

トントントンとフリップを揃えながら、
目をキラキラさせる二人を見る。

「ホントは説明をしながら実際に演技をするんですが、
今日はアタシ一人なので、紙の説明でごめんなさい」

うんうん!と小さい子供のように頷く二人を
微笑ましく思いながら、アタシは最初のフリップをめくる。

「ではまず、そもそもチアリーディングとは何か、からです」

「お二人も野球だったり、ラグビーだったり、
関わりのあるスポーツでチアリーダーが応援にかけつけることがあると思います」

あるねー!ありますね!!!という元気な返事に頷きながらアタシは続ける。

「学校によって、もしくはスポーツ団体によってスタイルはあるかと思いますが、
多くは、何かのスポーツの応援をすることを目的とはしていません。
チアリーディングはれっきとした競技スポーツだからです」

「え?でも智香ちゃんも良く、今日はアメフトの応援なんです、
って言って頑張ってるじゃん」

「そうですね!もちろん、何かのスポーツだったり、
地域のイベントに参加したりすることも大切な活動ですし、大好きです!」

「でもそれは、アタシは
そもそものチアリーディングという競技があってのことと思っています」

そう言って、アタシはフリップをめくる。

「細かい競技のことは後にしますが、一番今日覚えてもらいたいのは」


「チア・スピリット、という考えです!」

「チア?」
「スピリット??」

目を丸くする二人を、でもしっかりと聞いてくれる二人に
ありがたいなあと思いながら続ける。

「はい。チアリーディングの発祥は諸説あるので、はぶきますが、
アタシがチアを始めたころに聞いて素敵だなあって思ったのは」

「チアリーディングは、選手、観客を応援し、
励まし、元気付け、勇気を与え、そして笑顔にする唯一の競技であり」


「そのための努力を惜しまないのが真のチアリーダーである…!」

「これを聞いたときに、本当にワクワクしたんです。
人を笑顔に出来るスポーツはいっぱいあります、いえ、全てのスポーツが
人を笑顔に出来るんです」

「でもチアリーディングは、相手チームって考えはなくて、
例えば大会に参加するみんなが、その場に居るみんなが同じチア・スピリットのもと、
お互いを励ましあって競技します」

「すごいんですよ!
競技中、別のチームも、観客の皆さんも掛け声に参加してくれるんです!
成功したらもちろん大きな歓声、拍手!失敗しても奮い立たしてくれるんです!
こんな素敵なスポーツ、他にないなって思って…」

「この輪が、チアをこえて広がっていったらいいな、
みんなが応援の輪の中で、支えあえたらいいな、不安になんてさせない!
絶対に笑顔にするんだ!!それがアタシにとってのチア・スピリットなんです☆」


……
………

あ、あれ?二人とも…??
ちょ、ちょっと調子に乗って話しすぎたかな…?


「………素晴らしい!!」


と思ったら茜ちゃんが大きな声とともにグイっと乗り出してくる。

「素晴らしいスピリットです!!!智香ちゃんらしい、本当に素敵な考えです!!!」

「あ、ありがとう…!」

ちょっと恥ずかしいけど、単刀直入に言ってくれるその言葉は
やっぱり嬉しい。

「そうだよね、智香ちゃん、いつだって勝っても負けてもちゃんと応援してるもんね。
あたしだったら、キャッツが負けた時は相手に応援なんて出来ないや」

「そうですね!!私もついつい悔しいという思いが先に出てしまいます!!!

「なんか良いことを聞いた気分だねー!」

「はい!!これは今日のレッスンにも身が入りますね!!!」

うおおお!と今にも走り出しそうな勢いで茜ちゃんが立ち上がる。


……ん?

「…あの、チアの話を続けても良いですか…?」

アタシは用意したフリップの束から顔を出して、
おずおずと二人に話しかける。

「せっかく…借りてきたので」

「あ、はは!ごめんごめん!ついつい…ね」

二人がてへへと笑いながら、茜ちゃんが何かに気づいたように
きれいに挙手をする。

「聞きたいことがありました!!
チアダンスとチアリーディングはどんな違いがあるのでしょうか?!」

「お!茜ちゃん、良い質問です!」

想定していた順番ではなかったけど、ちょうど良かった、
大慌てで、お目当てのフリップを取り出すと…

「スタンツ…?」
「タンブリング…??」

見慣れない言葉なのか二人がぱちくりと目を丸くする。

「はい、チアリーディングは2分半と競技時間が限られています。
その限られた時間の中で」

「スタンツ、皆さんがよく目にする組み体操のようなもので、いわば花形です」

「すごい高いところに上がったり、飛んだりするアレだね!」

さすが友紀さん、と頷きながらアタシは続ける。

「タンブリング、側転やバック転、ロンダートなどこちらは器械体操でしょうか。
メンバーでタイミングを合わせて連帯感と躍動感のある演技をします」

「そしてダンス、スタンツやタンブリングがいわば体操的なものとすれば、
これは自由です。先ほど言った、2分半のうち、1分半だけ音楽を使っていいことに
なっていますので、曲に合わせてみんなで踊ります」

「スタンツやタンブリングは、例えばスタンドの応援では出来ないので、
このダンスをチアダンスとして、応援できるように改良しているんです」

「な、なるほどー…時間制限とか、音楽とか細かいんだね…」

「競技ですからね!でも集中しているととてもそんな短く思えません!」

「音楽の無い時間はしーんと静まり返っているのでしょうか?!!」

「それがね、全然そんなこと無くって、観客の人の歓声がすごくて、
アタシたちもかなり大きな声出さないとうまくいかないくらい」

初めて、大会に出たときの衝撃はすごかった。
観客席から見る風景とは当たり前だけど、全く違う世界で、
聞こえてくる音もまるで違う、すぐそばにいるメンバーの声が聞こえないくらい

「でもアタシは指示を出さないといけないポジションですし、
何より声の大きさは自慢なので、しっかり届くんですよ☆」

そういうと、友紀さんが何かに気づいたようにニヤニヤする。

「…茜ちゃん、今言ったね?」

「友紀さん、言いましたね!!!」

「指示をするポジション!!リーダーですね!!!」

ははは…そうだった。
チアの説明でテンションの上がっていたアタシはすっかりそのことを忘れていた。

「あ、あの!ポジション上、仕方ないんです!スタンツのタイミング指示とか!」

「ええ〜ホントー??」

「ホントですっ!アタシはスポットというポジション、指示を出したり、
ベース、あの組体操の要ですね、そのベースを支えるポジションで、
トップ、飛んだり高く上がる人です、そのトップの補助に入ることも多いです」

何とか話題を変えようと、次に準備してたポジションのフリップをめくり
説明を続ける。

「トップ、ベース、スポットかあ。あたしたち3人なら、
茜ちゃんがトップで、アタシがベース、智香ちゃんがスポットって感じ?」

「そうですね、でもスタンツは基本的には4人欲しいですし、
そもそも競技も16人までなので結構な大人数なんですよ」

「16人!!!うちの事務所で集めるとなると…
これはなかなか大変ですね!!!」

「お、うちでチアリーディングチーム作っちゃう??
キャッツの専属応援チームにいいかも…!!」

「キャッツは…さすがに自前の応援チーム持っているんじゃないですか?」

「あ、居るっ!みんなすっごい良い笑顔でかわいいんだよね!!」

そうして話はどんどんチアから離れていき、
その日はリーダーの話が出ることがなく、ワイワイと話が続いた…

アタシが二人にチアの説明をしてから数日、

「智香ちゃんに教えてもらったチアのモーションもサマになってきましたね!!!」

そういって、バシっとハイブイ…両手をVにして高くあげるチアの基本ポーズ、
を茜ちゃんは笑顔でやってみせる。
少し背は低くてもキレのある動きで、まっすぐに肘をピンと伸ばすその姿は
今すぐにでもトップで活躍できそうだ。

二人でレッスンをしていると友紀さんが私服のままやってきた。

「お疲れっ!お、やってるねー!」

「あ、友紀さん、お疲れ様です!
茜ちゃんとチアの振り付けを練習してたんです☆」
「私たちはチアフルボンバーズですからね!チアの振り付けを取り入れたいです!!!」
「せっかく二人にもチアのことも知ってもらったし、何か三人でしたいですね…」

そういうと友紀さんは一瞬驚いたような顔になった後、
これでもかという満面の笑顔になる。

「ふっふっふ!なんと!そんなお二人と、あたしに朗報です!」


「それは朗報ですね!!」
「あ、茜ちゃん、まだ友紀さんまだ何も言ってないよ…」
「おおっと!そうでした。勢いでついっ!」

「これ見て!じゃーん!!」

そう言って友紀さんがバッグからおもむろに取り出したのは、
プリントの束、企画書だった。

「おお!!これは企画書?!もしや私たちで何かのイベントに?!!」
「うん、そうなんだっ!プロデューサーからさっき受け取ってさー」

その企画書に書かれていた文字は…

「イベント!!企画案!!!」

目を大きく広げた茜ちゃん!

「シンデレラの?!」

アタシ!

「舞踏会?!?!」

そして、友紀さん!

…?友紀さん?


「…なんで見たはずの友紀さんが一番驚いてるんですか?」
「い、いやあ、ついつい二人のテンションに合わせなきゃって思っちゃって」

「シンデレラって未央ちゃんの部署の名前ですね!!」

「そうそう、そこのプロデューサーさんの発案なんだってさ、
って言っても全然詳細は分からないんだけどさー」

「でもねっ!」


「あたしたち3人で大きな舞台、出られるんだよっ!」


「……嬉しいなあ!」

本当に嬉しそうに、心底嬉しそうに、
友紀さんは嬉しいと呟く。


「アタシたち…3人で大きな舞台…!」

アタシは友紀さんの言葉をかみ締めるように繰り返した。
大きな舞台…これまで中々3人で立てなかった舞台…!

「特訓にもいっそう、身が入りますね!!曲や衣装はどうなるのでしょうか!!!」

「あたしたち用の曲ってのはさすがにこのタイミングでは間に合わないみたいだけど、
お揃いの衣装は準備するって言ってたよっ!」

「おお!お揃い!…くぅ~、いいですね~!お!そ!ろ!い!!」

じーん…!という音がまるで聞こえてきそうなくらい、
じーんとした表情で茜ちゃんが繰り返す。

「曲は無くても、衣装が同じってだけで一体感ありますね!」

「衣装というか、ユニフォーム?!デザインとかお願いできるのかなぁ~」

「こう!挑戦と言いますか!!トライと言いますか!!燃えるようなのが良いですね!!!」
「そうですね、せっかくだからチアの衣装も参考に…」
「智香ちゃん!!そういった資料はあるんでしょうか?!!」
「資料…ではないですけど、大会の写真や動画はいっぱいあるので
参考になると思いますよ☆」
「いいね、いいねー!じゃあ、あたしもキャッツの試合の動画を…」
「キャッツは関係ないですよ!」
「えー!関係なくないよー!」

…その日アタシたちは遅くまで、
まだ見ぬ大きなイベントに思いをはせながら色んなアイディアを出し合った。

翌日、アイドル活動がオフだったアタシは部活に参加した。
こちらも全国大会の予選が近く、チアダンスはほぼ完成、
タンブリング、メインスタンツの練習も佳境に入っていた。

大会まで残り2ヶ月とちょっと、パートを区切って、
少しずつミスやタイムラグを減らしていく丁寧な作業。

全体パートの練習につながる、いわば最も重要な練習期間ともいえる。

その休憩中に、昨日友紀さんにもらったコピーを部員のみんなに見てもらった。

また仮書きのタイトルと、日時、場所しか書いていないコピーだけど、
アタシには誇らしく、そして

「すごーい!あの会場って何万人も入る大きな会場でしょー!」
「すっかり智香もアイドルだねー!私たちの大会にもファンが来ちゃうんじゃない?」
「えへへ、ありがと〜」

最近はアイドルの活動も増えてきて、今までみたいに部活だけを
やるってことは出来なくなっちゃったけど、それでも部員のみんなは
アタシのアイドル活動を理解してくれて、暖かく接してくれた。

今回の大会も必死に練習に追いつくことで、
これまで通りのメンバーでチームを組んで挑むことになっている。

だから、そんなみんなにこうしてアイドル活動を報告するのは
少し恥ずかしいけど、嬉しかったし、
見たよーと言ってもらったり、褒めてもらうことは本当に励みになっていた。

今回は広い会場だから、みんなにも来てもらえる、
普段、中々出来ない恩返しを少しは出来る、そう思っていたところに…

コピーを近くて見ていた一人の顔が、

曇った。


「…智香、この日程って…」
「え?」

そう言われて、改めて日程を見て、
アタシは文字通り、目の前が真っ白になった…

「…あ、あぁ…」

シンデレラの舞踏会の日程は、
アタシたちが今、目指している大舞台、



全国大会予選の日程と、まるっきり、一緒だった。



チアフルボンバーズの3人で出られる、その嬉しさに舞い上がっていたアタシは、
それに気づくことが出来なかった。

「…どうするの?」

「………」

きっと、顔面蒼白で、口を開いたままだったであろうアタシに、
見かねた部員の仲間が慌ててフォローする。

「ま、まあさ、こっちは予選だしさ!」
「そうだよ!あんなおっきな会場でなんて出来ないよ!」
「智香だって、大きなイベント始めてでしょ?ちゃんと出ないとダメだよ」
「あたしたちで予選は突破するから、本選はお願いだよー?」

「……あは、あはは、そう…だよね」

アタシは、ただただ乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。

口々に発せられるメンバーの悪意の一つも無い、心からの気遣いも、
今のアタシは…

ただ、通り過ぎるだけだった。

「でも…智香が出られないなら、フォーメーションも変えないと…」
「…そうだね、メンバーもちょっと考え直さないとダメだね」
「いや…スタンツそのものも変更しないときついよ」

メンバーのその言葉にハっとする。

そうだ…ずっとこれまで同じメンバーでやってきた
スタンツ、フォーメーション…今のメンバーでしか出来ない呼吸がある…!

チアは信頼のスポーツ、何より今からの変更だなんて…!

「ちょ、ちょっと待って…!それは……」


…でも、アタシはちょっと待って、何を言いたいのだろう…


「…智香?」

「あ、アタシ、やっぱりちゃんと予選から出たいなあって…えへへ☆」

その言葉に、それまで黙っていた一人が口を開いた。
このチームのメイントップ、スタンツのエースとも言える一人。

アタシと、ずっと一緒のスタンツを組んできた大切な仲間。

「智香」

その声と、その目は、とても鋭い。


「大会には、予選には出ないで」


それは、予想できた言葉だったけど、アタシを大きくぐらつかせる

「………」

「そんな顔してる智香とは、一緒に出たくない」

アタシは、今どんな顔をしてるんだろう…
きっと、笑えていない。

きっと……きっと…

不安な顔をしている。

「ちょ、ちょっと…!」
「まだ智香だってはっきり言ったわけじゃ」

慌てて周りの部員が制しに入るが、彼女の眼光は変わらない。
キッとそちらを向きなおして続ける。

「はっきり言ったわけじゃないから、私は言ってるの」

「部活にアイドルの活動に、どっちも精一杯やってる智香のこと、尊敬してる。
どっちにも手を抜かないことも分かってる」

「でも出られるのは、どちらかだけ。
だから、ちゃんと決めて」

厳しい言葉だとは…思わない。

「ずっとこのメンバーでやってきた。ベースのみんなが居るから私は飛べる」

うつむいて顔を上げられないアタシから見えるその足は…

震えていた。

それに気づきハっとして顔を上げる。

そこには、鋭い眼光ながらも、今にも泣き出しそうな顔と震えた声で

「そして、いつだってすぐ後ろで智香が支えてくれるから、指示を出してくれるから、
大きな声が聞こえるから、どんな怖い技だってやってこれた」

それは本当にアタシのことを信頼してくれているから、
淀みなく続けられる言葉。

「このまま、大会に出て、本当に笑って演技できる?
観てくれる人たち…笑顔に出来る?」

制止しようとしていた他の部員たちも、
彼女の言葉に黙ったまま下を向いている。

「ごめん、智香…言い過ぎてるの、分かってる…」

どんどん小さくなっていく声に

「………」

アタシはそれでも…
言葉を返すことが出来ない。

だってそれは、アタシ自身が一番分かっていることだから。

「でも…私は、智香と出たい。これまでやって来た智香と、一緒に出たい」

本日はここまでにして、また起きてから続きを投降させていただきます。
お付き合い頂いている方々、ありがとうございます。

遅くなりましたが、再開いたします。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。

チアボンで出られるイベントと、チアの大会の日程がかぶっていたことに気づき
部員に指摘を受けたところからです。

勢いよくレバーを捻って、熱いシャワーを浴びる。
どれくらい熱いシャワーだったか分からない。

普段、部活の練習やレッスンでかいた汗や疲れを落としてくれるシャワーは…
今日は何も落としてくれないみたいだった。

かいた汗が違うからだろう、感じた疲れが充実感のある疲れじゃなかったからだろう。

アタシは…


笑顔じゃなかった。


『チアリーディングは、選手、観客を応援し、
励まし、元気付け、勇気を与え、そして笑顔にする唯一の競技であり』

『そのための努力を惜しまないのが真のチアリーダーである…!』


アタシ自身が、友紀さんたちに言った言葉。


『このまま、大会に出て、本当に笑って演技できる?
観てくれる人たち…笑顔に出来る?』


………!


今にも泣き出しそうだった、不安な表情と声を思い出し、
熱いシャワーの中で、アタシは息を詰まらせる。


そうだ…このまま本当に笑顔で、演技が出来るのだろうか。


誰かを応援すること、元気にすることに
心から憧れて始めたチアリーディング。


実際にチアリーディングに触れて、
それは憧れから、アタシ自身の原動力になって、
もっと広い世界で人を元気にしたいって思って、アイドルを目指して…

『素晴らしいスピリットです!!!智香ちゃんらしい、本当に素敵な考えです!!!』

『そうだよね、智香ちゃん、いつだって勝っても負けてもちゃんと応援してるもんね。
あたしだったら、キャッツが負けた時は相手に応援なんて出来ないや』

茜ちゃんが、素晴らしいと言ってくれた、
アタシのアイドルとしての姿をずっと見ててくれてた、

アタシは今、自信を持ってチア・スピリットがあると言えるのだろうか。


『あたしたち3人で大きな舞台、出られるんだよっ!』

『……嬉しいなあ!』

友紀さんの満面の笑顔が蘇る。

ずっと、ずっと待ってた、チアフルボンバーズでの大舞台。
大切な3人で出る、アタシたちの大舞台。

やっとアイドルとして、大きな舞台で頑張る姿を見せることが出来る…

頑張る姿…?
アタシは今、頑張っていると言えるの?

誰に…?
誰にその姿を見せるの?


『でも…私は、智香と出たい。これまでやって来た智香と、一緒に出たい』


みんなの前で、足を震わせながら、
アタシにちゃんと、強い意志で自分の想いを伝えてくれた彼女…


やっぱり、アタシは…


自問自答と、答えの無い葛藤を繰り返しながら、
どこか温度を失っていくアタシの体とは逆に、
シャワーの温度はどんどん上がっていっているように感じた。

翌日、一人レッスンルームでストレッチをしていると、
ダダダダダダ!と誰かの走る音が聞こえてきた。

まあでも、これは…

「おはようございまーす!!」
「お、おはよう茜ちゃん」
「昨日はしっかり休めましたか!休養も大事ですからね!!」

勢い良くレッスンルームに入ってきた茜ちゃんに挨拶を返しながら、
茜ちゃんの言う「昨日」という言葉に小さくギクリとする。

アタシはまだ、昨日のショック…
イベントと大会予選の日程が同じであったこと、
そして、どちらに出るか結論を部員の前で出せなかったことを引きずっていた。

でも、これから始まるレッスンの前に、
アタシは、ちゃんと話をしたい。

「おや!元気が無いですね!智香ちゃんらしくない!!休みすぎましたか?!」

その言葉にいよいよギクリとする。
…さすが茜ちゃん、ちゃんといつも人の目を見て話すことが出来るから、
やっぱり気づくよね。

「おはようございまーす!茜ちゃん、智香ちゃんおはよう!」

そんなことを考えていると、友紀さんも時間通りに到着した、
トレーナーさんが来るまではまだ時間がある。

…よし!

「あの!お二人にお話がありますっ!」

…レッスン着に着替えた2人に、アタシは意を決して声をかける。

「おお、何でしょう!イベントが決まって最初のレッスンですからね!
ここはリーダーからお話でしょうか!!」
「あはは…ううん、違うの。でもイベントの話だよ」
「……」

…?
なんだろう、友紀さんがやけに真剣な顔をしてる…

「ちゃんと話しておかないといけないことがあります」

きっと、私は今まで見せたことのないくらい真剣な表情をしていただろう。
その私の表情に茜ちゃんもごくりと、大きくのどを鳴らす。

「実は…シンデレラの舞踏会の日、チアの大会と日程が同じでした」

「…え?!智香ちゃん今なんと?!」

これでもかと目を大きく開いた茜ちゃんが、
慌てたように口を開く。

「日程が一緒とは!これは大変ですね!!走って間に合うでしょうか!!!」

あ、茜ちゃん…

走っても…どれだけ急いでも…

「……あ、あの…」

「車でも一時間はかかるから、走ってじゃとても間に合わないね」

アタシが言葉を返せないでいると、
友紀さんが間髪いれず、冷静に指摘をする声が続く。



でも…

「友紀さん?!それでは、智香ちゃんはライブに出られないじゃないですか!!」



え?


茜ちゃん今、何て?


「な、なんで茜ちゃん?アタシは…」


「なんでって、大切なチアリーディング部の試合ですよ!!
そちらに出るには、ライブには出られないじゃないですか!!!」


思いがけない言葉に、アタシは思わず言葉を失ってしまう。
友紀さんは…目を閉じて、口を開かない。

アタシが混乱の中、何も言えないでいると、
目を血走らせた茜ちゃんがあっという間にアタシの目の前にやってくる…!

「まさか!チアの大会に出ないだなんて言わないですよね!!??」

茜ちゃんがガシっと私の腕を掴む。


「それは!!あってはいけないことです!!!!」


その声は、今まで聞いたことのない温度の声、
大きな、いつもの茜ちゃんの声のはずなのにどこか震えていて

その手は、強い強い力で握っているはずなのに、どこか遠慮していて…

その顔は、その表情は…

「チアは!智香ちゃんの全部の!智香ちゃんのアイドル活動の力の源です!!
それを優先しないなんてことは、あってはいけないです!!!!」


あ……


目が、見られない。


あああ…


茜ちゃんのその口調と、その不安そうな表情は…きっと…


アタシは慌てて首を振って友紀さんを見る。

友紀さんは少し困ったように、いつもの優しい笑顔で首をかしげ…
でも、何も口を開かない。

「茜ちゃん…友紀さん…」

ちゃんと決断して、ちゃんと自分で決めて、
ちゃんと自分の言葉で伝えようって思ってきたのに…


そして、二人も同じ思い、


きっと二人も私の思いを理解してくれるって分かってたはずなのに…
アタシが…


「ごめんなさい……!ごめんなさい……!!」



チアの大会を選んだ。



ちゃんと、そう自分の言葉で、
ちゃんと、二人の目を見て伝えないといけないのに…

でもアタシは、


まだ…きっと、


不安な顔をしているんだ…!


だから茜ちゃんは…それが分かって…


「……………!!!」


悔しくて…!情けなくて…!


チアのチームメイトにも、目の前の二人にも…
ちゃんと自分の決断を、思いを伝えないといけないのに…!!


アタシは声を出すことができず、経験したことの無い感情で
ただただうつむきながら涙を流していた。

「…あ…あか…」

まるで、自分の声では無いよう…
伝えたい言葉が、喉を通して出てくれない…

「…智香ちゃん!!」

ハっとして、顔を上げる…


「謝るような、ことじゃないです!!!」


アタシの腕を強く掴む、
そして、見たこともない不安な表情で見上げるその顔も涙が浮かんでいた。

でも大きな目に涙を堪えながら、
アタシをまっすぐと見るその目は、いつもの茜ちゃんで…

それはきっと、アタシを心から信じてくれている目で…

アタシは…

「あ、…茜ちゃんは…アタ…!」


その目に、リーダーだって強く背中を押してくれた声に…


「アタシがリーダーだって…言ってくれたのに…!!」


きっと、応えられて、いない…


「…なのに!リーダーのアタシが…うわぁぁぁぁぁぁ!」


とうとう、堪えきれず…
アタシは声を上げて泣き出してしまった…

自分がリーダーで無くたっていい。


この3人を率いなくたっていい。

でも、同じ思いで進んでいきたい。

同じ方向を走っていきたい。

笑顔で、アタシが二人を笑顔にするんだ。


…アタシは、ちゃんとその覚悟で今日、二人の前に立てていた…?

そのためにチアの大会に出ることをちゃんと伝える覚悟で立てている…?


情けない…!


本当に情けない…情けない…!!


誰よりもアタシは、二人を応援して、元気にして、背中を押して、
そして一緒に走らないといけいないのに…

…でも、


また目を伏せてしまったアタシを叱咤するように、
アタシを掴む腕の力が、これまで以上に強い強い温度を持つ。
再び、ハッとして顔を上げ、目の前の…


「…私は!!」


「それでも智香ちゃんがリーダーだって思ってます…!!!!」


顔を真っ赤にして、目に大粒の涙をためて…
搾り出すように茜ちゃんが続ける。


「智香ちゃんがいつか言ってたことを、私はずっと覚えています!!!」

『一番の応援は、自分ががんばる姿をみんなに見せることだって。
トップアイドルこそ、最高のチアリーダーですよね!!』



「智香ちゃんにとって、チアリーディング部は、大切なものです!!」

「部活に、アイドルに!どっちも一生懸命頑張る智香ちゃんだからこそ!!
ファンのみなさんは、智香ちゃんのファンなんだと思います!!!」

「応援を通じて、チアリーディングを通じて、みんなを元気にしたい!
そういう思いでアイドルになった智香ちゃんが、私は!好きです!!大好きです!!」

「だから!!ちゃんと笑顔で!!一緒にやってきたいんです!!!」

目の前で、泣いてくれる。


「智香ちゃんがトップアイドルに!最高のチアリーダーになる時に!!
私は一緒に走っていたいんです!!!」


大きな目から涙をボロボロと零しながら、
一心不乱に訴えかけてくれる。

「一緒に…うぐ…一緒に…!一緒に…!
これからも…友紀さんと3人で!チアフルボンバーズで…うわあああああああ!!」


…そうなんだ………


どんなことがあったって、人を批判することなんて出来なくて、
決して、自分の考えだけで物事を判断するようなことが出来ない人。


そして、ただただ、まっすぐに人を信じることが出来る人。


茜ちゃんは、ずっと、



ずっと、アタシの心配だけをしている。



アタシにとっての『チア』の大切さを本心から理解してくれていて、
だから、笑顔じゃない、不安そうな顔をしていたアタシのことが、ただただ心配で…

ーーーーーー


「はーい、よしよし、よく言えたね茜ちゃん」


いつぶりだろうか…友紀さんがゆっくりと口を開く。

黙って聞いていた友紀さんは泣きじゃくる茜ちゃんを
アタシから離すと今度は優しく胸に抱き寄せる。

「はい、智香ちゃんも涙拭いて。笑顔が売りなのに台無しになっちゃうよ」

茜ちゃんを抱いた腕と別の手でアタシにハンカチを差し出す。

「あたしが言いたかったこと、全部茜ちゃんに言われちゃったなあ」

「ゆ、ゆぎざん…おおおお、ごめんなざいいいい…!」

「………」

アタシは手渡されたハンカチで涙を拭くこともなく、
ただただ涙を流し続けている。


言葉を返したい、その目を見て話したい。
心から、想いを伝えたい。

喉まででかかった言葉が、しかし詰まってしまう。


「ゆっくりでいいよ」


そんなアタシを友紀さんはただただ、優しく微笑む。

「智香ちゃんの言葉で、智香ちゃんの想いが聞きたいな」

「あたしも、茜ちゃんと智香ちゃんと、これからもっともっと、
もっともっと!一緒に頑張りたいっ」

そこに、普段のニコニコ笑ってくれる元気さは無い。
でも、それ以上に強く優しい口調が…


アタシの胸の奥を熱くする。


「じゃあさ、智香ちゃんが考えている間に、ちょっとあたしの昔話させてもらおうかなー」

ニコッと笑い、ウインクをした友紀さんがその両目を閉じる。


「あたしね」

目を閉じたまま友紀さんが静かに口を開く。
少し涙が止まった茜ちゃんも、その腕に抱かれながら友紀さんを見上げている。

「最初、2人とユニット組むって聞いた時、めっちゃ嬉しかったんだよね」

アタシもその日のことは、ちゃんと覚えてる。
ずっとずっと忘れないんだろうなあって思う、大切な瞬間。


「でね、いまさらだけどっ、野球!すーーーーーっごい好きでさっ!」


「ちっちゃい時に、お兄ちゃんとキャッチボールをしてから、
ずっと野球が好きで、地元の少年野球チームに入ったりもして、
ちなみにあたし、そこそこ名の知れた選手だったんだよっ?」

「でさ、当然プロ野球、高校野球にもはまって!…でもね、
誕生日がくるたびに、どんどん分かっちゃうんだ」

「女の子は、甲子園には出られない。…プロには、なれない」



「何かに負けたとか、誰かにダメって言われたとか、そういうことじゃなくて、
そもそもあたしの『夢』には道がなかったんだよね」

「悔しくて、悔しくて…!なんでなんでって!…何回泣いたか分からないくらい。
野球の神様のことも……すっごい恨んだ」


「でもさ、野球のこと、嫌いになんてなれなくて」


「だから試合に出られなくても、野球の近くに居たくて、
学生の頃はマネージャーもやって…」

「それで、卒業して…これからどうするんだろうなあ、あたし…
って時にプロデューサーにスカウトしてもらったんだよね」

「前に言ってましたね!野球に関わる仕事が出来るからって」

「あははっ、そうそう!あんまりファンのみんなの前ではダメかもしれないけど」

「そんな、ダメなことないですよ!友紀さんがファンの皆さんのことも、
野球のことも大切にしていること、それこそファンの皆さんはわかっていますよっ!」

「ありがと。うん…!だから、なんだよね。
…そう言ってもらえる場と、チームメイトが出来たことが本当に嬉しくってさ…!」

「野球っていう『夢』では、確かにあたしはチームの一員になれなかったかもしれないけど」



「ゆっきーの場所はここだよ、チームに必要なんだよって、
ずっと裏切られたと思ってた野球の神様に、ようやく笑ってもらえた気がして」



「だからアイドルになることが出来て…!二人と、チームメイトになれた…!」


「だからさ、チアフルボンバーズはあたしにとって、
ずっと憧れてた『夢』なんだよっ!」

「諦めたと思ってた、同じチームで何かをやるっていう『夢』、
信頼するチームメイトと何かに挑戦するって『夢』…やっと叶ったんだっ!」

友紀さんの顔にいつものニコニコした笑顔が帰ってくる。


「智香ちゃん」


「今回のシンデレラの舞踏会は本当に大事なイベント。
智香ちゃんもそれが分かっているから、悩んでくれているのは、嬉しい。
…すごく辛い選択なことも分かってるよ」

「……はい」

「きっと、すっごくすっごく悩んで、頑張って答え出して、
そしてちゃんと伝えないいけないって思ってくれたんだよね」

笑顔で、強い光をもって、アタシを見つめる瞳。

「…はい…でも、アタシきっと…」




「ここから、頑張ろうよっ!!!」



「……!」

今日、会って、一番大きな声、でもそれは強い声ではなく、
アタシの心に風を通す、大きな声。


「あたしたちの活動はこれからじゃん!、
ここからようやくプレーボールだからっ!!」


………すごい。


やっぱり、素敵だなあ…友紀さん。

今、目の前の力強い笑顔を見ていると、
とても一度『夢』を諦めた人の笑顔には見えない。

きっと、話してくれた以上に辛い思いをしてきたはずなのに
今こうして、アタシのために笑顔で、


元気付けてくれる。


ありがとうございます。
エール、しっかり受け取りました。


茜ちゃん、ごめんね、不安にさせて。
アタシのことを一番に心配してくれてありがとう。

茜ちゃんのまっすぐに


想い、ちゃんと固まりました。


今度は、アタシの番。

「アタシも」

ちゃんと自分の言葉で、

自分の想いを。


アタシはしっかりと二人の目を見て、大きく息を吸い込んだ。


「アタシもっ!チアフルボンバーズが大好きです!!」


「誰かを応援したい、元気にしてあげたい、そう思って始めたアイドル活動です」

「これまでやってきたことや、歩んできたことは全然違うかもしれないけど、
同じ思いで活動が出来る、このユニットがあること、本当に嬉しいです!!」

「友紀さん、茜ちゃん」


今、


「散々迷って、答えを出したつもりで居て…部員やお二人にも迷惑をかけちゃったけど、
ちゃんと言わせてください」


アタシはきっと、


「アタシをこれまで支えてきてくれたのは、アタシを形作ってきたものは、
チアリーディングです!」


二人の目をしっかりと見て、



「ごめんなさい!アタシは、チアの大会に出ます!」



迷いの無い顔で立っているだろう。

「もっともっと成長したい…!」

「お二人に、前にチア・スピリットのことをお話しました」

「見ている人を笑顔にすること!不安にさせないこと!
そのための努力をして、アタシ自身が笑顔になること!」

アタシは、この数日、そのスピリットを持って、
アタシのことを信じてくれている人の目の前にいられただろうか。

「チームメイト、友紀さん、茜ちゃん、
そんなこれからも一緒に、頑張っていきたいみんなを
アタシ、不安にさせちゃってました」


きっと出来てなかった。

一番に、笑顔を見せたいみんなを、不安にさせてしまっていた。

「チアは、自分たちが心からの笑顔じゃないと、
人を笑顔にすることなんて出来ないんです」

だから

「もう迷わないです!!」

大丈夫、もう、迷わない。

「シンデレラの舞踏会、出たいです!
3人で、出たいです!!」

「でも、きっと今のままのアタシでは最高の応援を、
ファンの皆さんに頑張っている姿を見せられない」


「もう不安になんて、させない!」


「アタシの、3人の、応援の力に出来るように、
ファンのみんなに、アタシたちを支えてくれる人を元気にするために、
ちゃんとチアと、もう一度向き合いたいです!!」

一気に、一息に、
でも二人の目を離すことは無く想いを伝えた。


そんなアタシを見る二人の目は、


力強く、そして何より優しかった。


「何もごめんなさいなことなんて無いよ」

「はい…!」

「さっきも言った通り、あたしたちはここからがプレーボールだから!」

「だから」


「ちゃんと決断した智香ちゃんは偉い!
はっきりと言ってくれてほんとに嬉しいよ!!」


ニっと、白い歯をいつもの気持ちの良い笑顔で、
ぐっと親指を突き出す。

「もっともっと成長したいかー、いいじゃんいいじゃん!」

「はいっ!チアで培ったことをもっともっとアイドル活動に活かして、
どんどん新しい夢にトライしていきたい、ずっと思っていたことです」

「友紀さんが『夢』だって言ってくれた、この3人で、
どんどん、夢をかなえていきましょうね☆」

「…あはは、さすがだねっ!励ましてたつもりだったのに応援されちゃった…」

友紀さんは、胸の中でずっと静かにしている茜ちゃんを
優しく眺めながら静かに口を開く。

「茜ちゃんはね、智香ちゃんに
チアフルボンバーズをもっともっと好きになってもらいたかっただけなんだよ」

「………」

「いつだったかなーあたしと二人で居る時に言ってたんだ。
智香ちゃんはすごい!どっちにも全力で本当にすごいっ!!って」

「でもそれはきっと大変だから…
チアフルボンバーズをもっと居心地のいい場所にして、
智香ちゃんが、あたしたちが楽しく過ごせる場所にしたいって」

「その手段の一つがリーダーなんだって思った。
きっと、無理に智香ちゃんにリーダーになってもらいたいなんて思ってないよ」


……茜ちゃん。

「…………よーーーーしっ!!!!!!!」





突然、それまで静かにしていた茜ちゃんが飛び上がった…!
び、びっくりした…



「走りましょう!!!」



その目は、まだ少し涙が浮かんでいるけど、
燃え盛る炎を宿して、

これまで何度も聞いた茜ちゃんらしい言葉で、強く強くガッツポーズを繰り返す。

「すっきりしました!!でも、私たちには涙は似合いません!!」


「だから!!」


「流した涙よりも多く!汗を流しましょう!!!!」

「あははっ!良いね!いこういこう!走り終わったらビールだー!!」

「私は!お茶だー!!!」

「アタシは!…えーとなんだ、アタシ何かありましたっけ?」

そう言うと、友紀さんがぷっと吹き出したのを皮切りに、
3人で顔を見合わせて大笑い!

「あはははは!これぞチーム!やっぱり私たちは笑っているほうがいいですね!!!!」

さっきまで、泣いてたはずなのに、
こんな一瞬で笑顔になれちゃう、そんな3人…



「「「ねーーー!!」」」



ありがとう、茜ちゃん、ありがとうございます、友紀さん。

アタシもこの3人で笑っていたい、これからもずっと笑っていたい、
これから始まるアタシたちの活動で、もっともっと色んな人を、笑顔にしたい。

駆け足でごめんなさい。
外出いたしますので、また続き、大団円に向けては夜に投稿させていただきます。

戻りました。あと数時間で終わるようにします。
お付き合いいただいている方々、ありがとうございます。さいごまでよろしくお願いいたします。

チアボンのメンバー、ゆっきと茜ちゃんの前で、
しっかりとチアの大会に出ると宣言した若林智香ちゃん、そこから再開です。

部活に参加したアタシは、部員の前でしっかりと謝罪した。


チームに混乱を招いたことを謝り、
改めて、大会予選に参加させてほしいと、お願いした。
これまで以上に、練習に励むと誓う。


そして、友紀さんと茜ちゃんと最後に約束したこと―


『友紀さん、茜ちゃん、一つお願いがあります』

『なんでしょう?!!』

『イベントには出られないですが、
チアフルボンバーズとしてのレッスンは、させてくれませんか?』

『他にも出番のあるお二人に、こんな自分勝手なお願いすること、
本当に失礼だなって思ってます…』

『けど、せっかくいただいたお仕事、例え出られなくても
しっかり、レッスンはしたいんです…!!』

『………………よくぞ!!!!!!!』


『言ってくれました!!!!』

『それでこそリーダー!!それでこそ智香ちゃん!!!
私の知っているアイドル、若林智香ちゃんです!!!』

『あはは…またリーダーって言ってるけど、でもありがと!』

『智香ちゃーん、大丈夫~?あたしたち、チアの方があるからって
レッスン緩めたりしないよ〜?』

『はい!望むところです☆』

『あははっ!いいねいいね!じゃあ約束だよっ!
3人でレッスン、しっかりやりきる!』



『そして、3人で、大きな舞台に立つ!!』


茜ちゃんが言ってくれた、
部活にアイドルにどっちにも一生懸命頑張るアタシだからこそ、
ファンの人が、アタシを応援してくれる。

アタシは、誰かを応援したくて、元気にしたくてアイドルになったけど、
そのアイドル活動を通じてファンの人たちがアタシを応援してくれる。

そんな単純な事実が、やっぱり嬉しい。


だから、絶対に手を抜きたくない。


そんなの当たり前じゃん、アイドルの方もちゃんとやんないなら、
それこそ、私たち怒るよ?

そう言ってくれるメンバーたちの笑顔にも誓う。

絶対に、このメンバーで予選、突破しようね!

それからの数ヶ月は本当にあっという間だった。

部活のチアの練習に、チアフルボンバーズのレッスンに、
120%の力で走り続けるのは、体力的には確かに悲鳴をあげていたかもしれないけど、
きついとはただの一度も思わなかった。

確かな目標があって、そこに向かって全力で取り組めることの
充実感をアタシは改めて感じていた。

そして、


チアリーディング全国大会予選、シンデレラの舞踏会


その日を迎えた。

アップを終え、控え室で準備をしていると、電話が鳴る。

『こんにちは!!日野!茜です!!!』

「あはは…茜ちゃん、名前…出てるよ?」

『それはそうですが!!挨拶はすべての基本!!ちゃんと名乗らないと!!』

「そうだね、それはごめんなさい。こちら若林智香です☆どうしました?」

『そろそろ智香ちゃんの学校の出番とプロデューサーから聞きました!!』

「そうなんだ!うん、もう少しで始まるよ!」


『智香ちゃん!今!!笑顔ですか?!!!』


ビリビリと、茜ちゃんの声が電話から響く。


その声は、自信と確信に基づく、強い声。
あの日、不安にさせてしまった声とは何もかも違う強い強い声。


うん。


もちろんだよ、茜ちゃん!


「うん!アタシたちの笑顔、ちゃんとみんなに届けるよ☆」

『はい!!直接応援には行けませんが、心のずーっと奥から、応援しています!!
智香ちゃんと!!智香ちゃんの仲間ならきっと大丈夫です!!ファイトーっ!!!』

その力強いエールに、心が震える。

遠く離れた場所でも、電話越しでも、その熱意と想いが伝わる。

私と、そして会ったこともない私のチームメイトを
どこまでも強い意志で鼓舞してくれる。


誰かに応援されることはこんなにも幸せなことなんだ。


当たり前と思ってきた、そんな簡単な事実を、
心の奥から実感する。

もっともっと、アタシも

幸せを与えられるアイドルになりたい。

これほどまで勇気をくれる仲間を持ったことを…

改めて幸せだなあと、ただただ感じる。


「ありがとっ!茜ちゃんも友紀さんも出番多いけど、張り切ってね!!」

「アタシたちのエールが茜ちゃんと友紀さんに届きますように!!」

『ありがとうございます!!智香ちゃんの分もしっかり走ってきますよ!!!』

『友紀さんは今出番中ですが、伝言があります!!
これは!私の想いでもあります!!!』


『智香ちゃん!想いは一つ!!
今は離れた場所で、別の試合だけどあたしたち3人の想いは一つ!!
いつか!大きな舞台で3人で立つために!!ファイトーーーーー!!!』

………………………………………………


そして、大会予選は終了した。


「智香!事務所の人が来てるよ!呼んできてって」
「えっ?」

無事に、大会予選を終え、ジャージに着替えていると
慌ててチームメイトが走ってきた。

アタシはチームメイトに言われた場所で急いで向かった、
そこには…

「プロデューサーさん?!ど、どうしたんですか?シンデレラの舞踏会は?!」

シンデレラの舞踏会は無事に、そして大成功で終わったことを聞き、
ホッと一安心したのもつかの間…

プロデューサーさんが、車を待たせているから、会場に大急ぎで向かおうって。

「え?!今からですか?ちょ、ちょっと!」

アタシはプロデューサーに言われるがまま、
小型のロケバスに乗って会場へと向かった…

「わああ…やっぱり大きいですね…!」

いざ目の前にすると、会場の大きさにびっくりする。
アタシがさっきまでいた市民ホールだって、何千人入る大きな会場だと思ったのに…

プロデューサーさんに促され、関係者入り口ではなく、
アリーナへ続く一般入り口からアタシは入場する。

ファンのみんなは帰り、すっかり観客席は電気が落ちていて、
もう誰も居ないはずの会場内は…


でも、アリーナは煌々と眩しいライトに照らされていて…

「「智香ちゃん!!」」


そこには、舞踏会を終えたはずの友紀さんと茜ちゃんが居た…!!

「友紀さん…!茜ちゃん…!」

友紀さんはいつものニコニコした笑顔で、
茜ちゃんは千切れるんじゃないかってくらいに腕をぶんぶん振っている。


なんで!


なんでなんでなんで…!


もうシンデレラの舞踏会は終わったはずなのに…


アタシはアリーナを走り抜けて二人の元を目指した…!

「よっ待ってました!もう勝利のヒーローインタビューも終わっちゃうよ~?」

「智香ちゃん!…来てくれて、ありがとうございます!!」

茜ちゃんが目に涙を浮かべて、ガシっと私の両手を掴む。

あの日、アタシを強く掴んだ時の表情とは異なり、
そこに不安そうな顔はない。力強い、笑顔。

「なんで…なんでまだ…!舞踏会は終わったんじゃ…」




「終わっていません!!!!!!!」




誰も居ないアリーナに、その大きな声がどこまでも響き渡る。

「約束したじゃないですか!3人で大きな舞台に立つ!!
まだ、チアフルボンバーズは歌っていません!踊っていません!!!」

あぁ…

あぁ…

なんて人たちなんだろう…

それで2人は…アタシのために…

「智香ちゃーん!ダメだよ?自分のために?とか思っちゃ」


…え?
にやりと笑った友紀さんがアタシたち二人に近づく。


「言ったでしょ!チアフルボンバーズは、この3人はあたしの『夢』なのっ!」

茜ちゃんが握ったままの両手を、友紀さんもかぶせてくれる。

「来てくれて、本当に嬉しい…!」


「一緒に、夢、叶えよっ!」


友紀さんの言葉と、握る腕に力が加わる…

アタシはいつから流していたか分からない涙を拭くことも無く
うんうんうんと首を縦に振り続ける。

はたと気づくと、2人は…

アタシたち3人で着るはずだった、
アタシだちだけ…この日のためのチアフルボンバーズの衣装だった。

今日の2人は、別のユニットで参加していて、この衣装を着ることはないはずなのに…


そしてアタシも…


「まさか、その衣装で登場するとは!!さすがリーダー!気合が違いますね!!」

ロケバスの中で、着替えを忘れたことに気づいたアタシに、
プロデューサーさんが渡してくれた衣装…
なんで今、衣装?って思ったけど、

そうか、そうだったんですね…


プロデューサーさんも、アタシたちのために…

「智香ちゃん、大会はどうだった?」

「…はい!」

友紀さんの問いに、アタシは無事に予選を突破したこと、
そして、あの日、アタシに大会に出ないことをすすめたメンバーとも
ちゃんと和解したことを伝えた。

それは、さっきロケバスの中で、荷物を忘れた電話をした時の会話。

「うん。うん。ホントごめんね!後で取りに行ってもらうね!」

部員の一人に預かってもらって、事務所の人に取りにいってもらうことになった。

『智香、ちょっと代わりたいってー』
「うん?」

『…智香、予選お疲れ様…その、ありがと』

彼女とは…

大会予選にちゃんと出る、そう決意して、
改めて部員に迎えられた後も、彼女とはちゃんとその話ができていなかった。
でも今こうして…

「あ、アタシも一緒に出来て良かった…!ありがとう!」

電話越しに聞こえるその優しい声に、アタシは思わず涙声になってしまう。

『やーだ、泣いてるの?ちょっとやめてー』

カラカラ笑うその声は、あの日以来聞けてなかった気がする。

『せっかくちゃんと話したかったのに、智香すぐどっか行っちゃうんだもん』

「ご、ごめん」

『…智香らしくて良いよ。どっちも精一杯、しっかり。すごいよ』

「……」

『練習、どんどんきつくなってくのに、アイドルのレッスンもあるのに、
練習くらい笑わなくていいのに、声出さなくていいのに、一番声出てた』

『ちゃんと謝りたかったんだよね…智香が、どっちも大事にしてるって分かってたのに
ごめんね、私…目先の大会のことでカッとなっちゃって』

「ややや、やめてよー!アタシが…あの時、どっちにもはっきりしなかったから」

『…うん。だから、今日、すごい心強かった。
ちゃんと話せなかったけど…本番で智香が居るって思うと安心してさー』

「…うん!アタシも!!」

『声でかいからさー、集中してても歓声あっても全然耳に入ってくるんだよね、あ、居るな?って。あははは!』

「あはは!」

『やっぱ思いっきり声出して、思いっきり笑顔の智香が良いよ』

「…うん」

アタシは、トップの真後ろに居て、彼女を支える。
トップの位置からはきっと見えないはずの私の笑『顔』。

それでも、そう言ってくれる彼女の言葉はウソなんかじゃないんだと思う。

『とっとと消えちゃったツケは明日からの練習で払ってもらうよ~』

「そ、そりゃもちろん…!!って明日はさすがに休もうよっ!」

『智香』

穏やかな声が続く。

『チアで全国優勝!そんなアイドル、聞いたことない。絶対今まで居ない。
そうなってくれたら、私たちも嬉しい!だから』


『全国優勝、絶対しようね』


「…うん!絶対しようね!」

絶対しようね!心の中で、強く、もう一度その言葉を呟き、
アタシは電話を切った。

もう一度、大きく心に風が通ったような気がした。


「うん、良い仲間だねっ!さすが智香ちゃんのチームメイト!!」

「はい、最高の仲間です!絶対、全国優勝しますから、
友紀さんも茜ちゃんも来て下さいね☆」

「もちろんです!!そして!!」

「さあ!泣いてる場合ではありません!!
送り出してくれた智香ちゃんの仲間のためにも早速!!いきましょう!!!」

そういう茜ちゃんもボロボロと涙をこぼしながら、腕を強く強く握る…!

「…うん!まだ体はあったまったままだから、いつでもいけるよ!」


…その時、舞台袖からガヤガヤと声が聞こえてきた。

「おーやってるやってるー!本田未央、参上いたしましたっ!」

「未央ちゃん!!来てくれましたか!」

未央ちゃんを先頭に、着替えを済ませた事務所のみんながやってくる…!
これって…!

「いやいや〜何だか茜ちんの熱量がいつもの1.5、いや2倍増しって感じだったからねぇ!
みんなにも声かけといたよ!」

「ありがとうございます!!」

「智香ちゃん、お疲れ様です。3人の衣装、お似合いですね」

未央ちゃんの横で、
にこにこほんわかした笑顔で立っていた藍子ちゃんが
アタシに近づいてきて衣装を褒めてくれる。

「未央ちゃん!藍子ちゃん!
改めまして、こちらが我らがチアフルボンバーズのリーダー!智香ちゃんです!!」

いつの間にか背後に移動していた茜ちゃんが、
アタシの肩を思いっきり掴んで、未央ちゃんに向けてズっと差し出すような仕草をする。

…ま、またリーダーって言ってる…さっきも言ってたような…

「おおーチアボンのリーダーはともちんなんだね!」
「い、いやアタシは一言も…」
「はい!ヒーローとは遅れて登場するものですからね!ついにお披露目です!!」
「ん?茜ちん、リーダーからヒーローに変わってるよ?!」
「ヒーローであり、リーダー!!良いじゃないですか!!!」
「あははは!さすが茜ちん!これは強力なライバル登場だなあ!」

「ライ!バル!!いやー良いですねえ!熱い!!燃えてきました!!!」

「えぇー…茜ちゃん、未央ちゃん…ライバルって茜ちゃんもポジティブパッションのメンバーだよぉ…」
「やや!そうでした!いや、忘れていたわけではありません!
ついついリーダーの誕生に興奮してしまいました!」

「あはは!いいじゃんいいじゃん!そうやってみんなで楽しくやろうよ!」

そう言って未央ちゃんはアタシに人懐っこいウインクをする。

「うん!元気が一番だよね☆楽しみにしててねっ!」

「茜ちゃん、いつも私たちの練習の時もお二人の話をしてるんですよ?」
「あああ、藍子ちゃん、それは言わない約束です…!!!」
「えーいいじゃないですかっいつもすごく楽しそうですよ♪」

「私、茜ちゃんから聞くお二人の雰囲気、大好きです。
智香ちゃんの、誰かを応援したい、そしてファンの人から応援されて、
どんどん応援の輪を広げていきたいって考え、素敵だなあって思います」

「私も…みんなが笑顔になるような、優しい気持ちになれるような
アイドルになりたいって思ってますっ!智香ちゃんと似ているかもしれませんね♪」

そう言ってうふふと優しく笑う顔は、今まで見たどんな笑顔よりも優しく見えた。
みんなが笑顔に、優しい気持ちに…素敵な考えだなあ。

「藍子ちゃん!ありがとう!これからどうぞよろしくねっ」

「…おっとっと~?あーちゃんまで取られるとポジパもさすがにまずいぞ~」
「と、取ってないよ!!」

「う~ん…やはり、ここは…やられる前にやれ!ゆっきーをこちらにもらおう!!」
「み、未央ちゃん!早まってはいけません…!!!」

「あら、何だか盛り上がってると思って来たら、友紀ちゃんたちでしたか」

「あっ楓さん!」

「素敵な3人、良いユニットですね」

「え?」

「レッスンかしら、何度か3人で居るところを見かけました。
先輩として、しっかりと二人を支える友紀ちゃん、かっこよかったですよ」

「あ、ありがとうございます。えへへ…嬉しいなっ!」

「人が増えれば増えるほど、思いも、願いも強くなって
それは素晴らしい力になりますが、一つになるまでが大変ですよね」

「…はい。ちょっと寄り道をしちゃったし、今回3人でイベントに出ることは
出来なかったですけど、あたしたちのためには大事なことだったと思ってます」

「だって、逆転ホームラン打って一等賞になる方が気持ち良いじゃないですかっ!」

「良い笑顔。友紀ちゃんがそう自信を持って言えるのだから、
きっと確かなことですね♪」

「あたし、あんまり人を引っ張ったりするタイプじゃないから、
正直、年下の二人と組むって聞いた時、すっごい!嬉しかった反面、
心配にもなったんですよ…」

「だから今、自信を持ってこれがあたしの自慢のチームだって思えるから…
それが伝わってるのは嬉しいですっ!」

「…強く、人を引っ張ることだけが、人を導くことではないですからね」

「…はい!」

「私も、そういうタイプではありません。
だけど、人から思われなくても、強い意志は持っているつもりです」

「私なりに、私のやり方でファンに、事務所の仲間に、スタッフの皆さんに
少しでも恩返しをしていきたいと思っています。まだまだ、成長していきたい」

「…私は中々ユニットを組む機会が無いので、とても羨ましいです。
だからいつか、友紀ちゃんをユニットの先輩にしてもらって、一緒に歌いたいですね」

「あ、あたしが先輩は無理かなあ…でもっ!」

「あたしも!楓さんと一緒に歌いたいです!!」

「見ていてください!打ち上げ遅れちゃってごめんなさいだけど、
今日最後の打席、ちゃんと送り届けます!」

「はい♪ちゃんと、見届けます。一緒に行きましょうね♪」


「それに」




「打ち上げに先輩がふせんぱい、だなんてダメですから、ふふっ」



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「おー!良い感じに集まってきましたねー!!燃えます…!!!」

気が付けば、アイドルのみんな、ダンサーのみなさん、スタッフの皆さんも
集まって結構な人数になっていた。

何万人も入るこの会場で、100人に満たない数は少ないのかも知れないけど、
…でもアタシたちのためだけに集まってくれる、
それだけで胸が熱くなる。

今日だけは、この時間だけは、アタシたち3人の時間。

最高のパフォーマンスを見せるよ!!

「…じゃあ、そろそろいきましょうか☆」

「智香ちゃん!!」

茜ちゃんがなんだか…いや、いつも通りかな?
目にらんらんと炎をともしてこちらを見ている。

「ついに!リーダーとしての自覚が!!」
「出てませんっ!!」

あぁ…ついつい茜ちゃんを遮って声が出てしまう。
…ごめんね、茜ちゃん。でも、ありがとう。

アタシ、自分がチアフルボンバーズのリーダーって自覚は、
やっぱり、無い。

でもね、それはね…

あの日、誓った思いは変わらない。

同じ思いで進んでいきたい。同じ方向を走っていきたい。

二人が転んだら、アタシがエールを送りたい。

…アタシが倒れても、きっと二人は立ち上がるエールをくれる。

そんな3人だったら、
友紀さんが『夢』だって言ってくれた、茜ちゃんが大好きだって言ってくれた、
この最強のチームだったら、リーダーなんて要らないと思ってるから☆

「よーしっ!いつものやつ、いっちゃう?!」


友紀さんが、イタズラっぽい笑顔で、ウインクをして、
『いつものやつ』を宣言する。

それは、いつの日か、3人でした会話。


『あたしさ、3人でライブ出るなら始まる前にやりたいことあるんだよねっ』

『やりたいことですか?』


『そう!3人で手を繋いで、掛け声!!』


『良いですね!!掛け声!!チームって感じです!!!』
『良いよね!なんだろう、一体感!?チームが一つになるみたいな感じで!』

『こんな掛け声がいいとか、候補ってあるんですか?』
『せっかくチアのユニットですから!!チアとか、こうトライとか!!入れたいですね!!!』
『ふっふっふ、それがね、ちゃんと考えてるんだー!』

『けど今はダメー!またのおったのしみー!』
『ええ~教えてくださいよー!』

「あははっ、合わせるのは、初めてですよ☆友紀さん」

でも、力強く握られたアタシの右手と左手の温度は、
とても初めてには感じられなかった。


それは、これから、きっと何かが始まる予感。


それは、これから先、何があっても忘れない瞬間。


「いきますっ!チアフルボンバーズ!!」


アタシは、隣に立つ、大好きな、頼もしい仲間に目配せをする。
二人から力強い笑顔が返ってくる…!


「「「せーの!!!」」」


アタシたちは繋いだ手を大きく振って、高くジャンプした…
会場中に、3人の揃った声が響き渡る…!




「「「Cheerful☆Try!!」」」




fin

長らくのお付き合いありがとうございました。
乱分乱筆、ご容赦ください。

選挙も終盤となりました。少しでも若林ちゃん、ゆっき、茜ちゃん、
チアフルボンバーズの三人の後押しになればと思います。

いつか、三人の舞台を見たい。その日が必ずくると信じて、P活動を続けてまいります。

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