【ミリマス】ロコ「血色のキャンバス」 (74)


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ロコ


というアイドルをご存知だろうか。
いや、きっと記憶に新しいと思う。
アーティストとしてその表現技術を極めるためにアイドルになることを選んだ彼女だ。


トップアイドルも夢じゃない彼女だった。
その、ロコのことを少し話そう。


これは彼女が芸術家として、人々の記憶に残るための血と汗と涙の話。



ロコは765プロという事務所に入ってきた時に

「ロコはロコのアートスキルをもっとブラッシュアップするために
 アイドルというニューウェーブにチャレンジしようと考えたんです」


彼女の自己紹介に大しての皆の反応は言わずもがな。
この子は何を言っているのだろう、という顔をしていた。



要するに己の芸術的センスを磨くために
もっと別のことにも目を向けて挑戦することで
何か表現方法が新しいものを得ることができるのではないか。

と思ってアイドル事務所に入ってきた子だ。

そう、変なやつだ。





そんな不思議な経緯を持ったロコだったが、
最初はそれこそロコが作るものにみんな関心を抱いていた。


やはり"ちゃんと"絵を描かせれば上手い。
デッサンも上手で基本に忠実に、を守れば
何でも描き上げてしまう。


だが、彼女はそれでは退屈だった。
彼女はその退屈な世界を切り開くためにこの事務所に入ってきたみたいな所がある。



だからこそ自分でもっとその先を目指し
手を加えてしまうのだが、
みんなにはそこが理解できないようで、
ロコの作品は見る見るうちにゴミ扱いされていた。ひどい扱いだ。

だが、気持ちは分かってしまった。




分からないことが分かってしまった。
皆が理解出来ない、否していないことが分かってしまった。


「みんな、ロコのアートが分からないんです……」

「そうだな。みんな理解してないんだよな」



「……そういうプロデューサーこそ、ロコのあげたアート
 時々ダストボックスで見つけるんですが」

「……」


あれは壊れてしまったんだ。うっかり落として。
本当に事故だったんだ。

というかゴミ箱を漁るんじゃない。





ロコは呆れた顔で「もういいです」と言っていた。
でも、話を聞いて付き合ってくれるのが人が少ないのか、
嬉しそうにしていた。

そうやってロコは拗ねた素振りをすると俺は決まってこう言った。



「そう言うな。なぁ、今度は何作って見せてくれるんだ?」



拗ねてそっぽ向いたロコもニヤリと笑って次の計画を話してくれる。
その時でロコは本当に楽しそうだった。



いつだって、アートのことを考えていたロコだったが、
そんなロコもスランプの時期もあるようで、
真っ白のキャンバスの前でずっと腕組をしている。


「……どのアートも描いてきました。
今描いても過去のアートが頭をよぎって駄目です」




彼女にもそんな時期はあるのだな、と軽く考えていた。
うーん、うーん。とキャンバスを横から覗いてみたり、
上に掲げてみたりと色々やっている。


今思えば、俺に対してスランプであると打ち明けてくれたのは、
SOSのサインだったのかもしれない。
俺はそれに気がつくことは出来なかった。



ロコにも他のアイドルと同等にレッスンを受けさせる必要がある。
彼女もアイドルだから当然だ。


結局キャンバスは持っていく!と言って聞かないロコはレッスンスタジオにも
持っていっていたが、筆や絵を描く道具は一切置いてくるほど
バタバタして出てきたので、やはりキャンバスは荷物になっていた。


それでもロコは休憩の度に、キャンバスの前に座り込んでじっと観ていた。



「コロちゃんその真っ白なキャンバスは何なんですの」

「コロじゃないです、ロコです……」

「……? 元気がありませんわね。どうしたんですの?」


俺は千鶴さんに説明する。



「千鶴さん、ロコは今実はスランプで……」

「スランプ……」



他人のことを人一倍気にかけることが出来る千鶴さんは
レッスンスタジオの隅で座り込むロコの近くに行き
優しく頭をなでていた。


「そうでしたの。誰でもそういう時期はありますわ。
 でも焦らなくていいんですのよ」

「チヅル……」


「でもあなたは今、アーティストではなくアイドルとしてこの場いるのではなくて?」

「そうです……」

「でしたら他の方も心配してしまいますわ。
さ、立ち上がって今は目の前のことに集中しましょう」


こういう所は千鶴さんはさすがだなぁと思う。
上手いこと誘導したなぁ、と関心していた。
本来は俺の仕事だが。

ロコも気を取り直したのか、今はレッスンに集中するべきだと
割り切ったのか、すっと立ち上がる。



一通りダンスレッスンを終えたあと、
タオルで汗を拭くロコに千鶴が駆け寄ってきた。


「これ、もし良かったらプロデューサーと行ってきてください」

「それは……?」

「ファンの方に頂いたんですの。でもわたくしは残念ながら
 絵画のことは分からないことが多くて
 ……2人が行った方が何かと有意義でしょう?」



受け取ったチケットには絵画個展と書かれていた。
大きなな会場を貸し切ってまでやるそうで、
それはすごい人なんだろうなぁ、と薄く考えていた。


ロコに見せるとロコは飛び上がり喜んでいた。
そして犬のようにその場をバタバタを駆け回ったあと千鶴さんに飛びついた。



「ち、チヅルーーー!」

「きゃっ!」

「サンキューですよチヅル!この人は現代アートの巨匠とも呼ばれる高藤さんです」


聞いたこともない名前があがるが、やはりロコのようにその道を行く人間には
有名な人なのだろう。


ロコ曰く、「この方は町並みなんかそれこそ美しく描く人ですが、
真骨頂はエロとグロです!!」と言っていた。
千鶴さんは引いていたが。



その後はロコからの提案ですぐにでも見に行きたいということだったので、
絵画展が始まるその日に行くことになった。


確かにこれでロコ自身のスランプ脱却の鍵となる何かが得られればいい。
譲って貰った絵画展のチケットをロコは大事そうにカバンにしまっていた。



ニコニコと笑顔のロコは、
本当に今から楽しそうで。
絵画展まではキャンバスの前には立たないし、ロコナイズも封印すると言った。


彼女自身が一番自分がスランプに陥っていることを理解していて
何をどうあがいても抜け出せなかったスランプの鍵が自分の手元にある。
そう考えると今更キャンバスの前に立ち自分のスランプを刺激し悪化させない方がいいと考えたようだ。


果たしてそれが意味があるのかは置いておくとして。
いい気分転換にはなると思っていた。




絵画展当日。



駅前で待ち合わせをしたロコは時間ピッタリに現れた。
先に到着していたから、ロコを待つ形になっていたが
ロコはすぐに見つかった。




テレビに出るきゃりーぱみ●ぱみゅよりも派手なんじゃないかという
格好で登場したロコだった。
でかいサングラスを装着しているのに頭にもう一つ別のサングラスをしていた。
あとで判明したが俺にかけさせる用だったらしい。


会場まで歩いて行く中でロコは永遠と鼻息荒く、
高藤という今日見に行く個展を開いている人物のアートが素晴らしいかを力説した。


その話は俺にとって退屈なものではなく、ロコが絵のどこを評価し、
どこにすごいと感じ、ロコならこうするという色々なロコ自身の意見を聞けたからだ。

楽しそうに話すロコを見るのが好きだった。



会場はすでに長蛇の列になっていた。
どこのイベントでもそうだが、始発以前から並んでいそうな人すら見かける有様だった。
仕方ないので今ある最後尾に着く。
そこから約1時間後、やっと入館できる所まできた。


やっとの思いで入館したが、ロコはぐんぐんと歩いていき、
1つの絵をじっくり見ることなどしなかった。

本来はこういう歩き方の方がいい、とあとでロコは言っていたが。




1つの絵は観ても10秒程だった。
俺もそれに習って一つの絵を10秒だけ見るようにした。


山と川と花が一面に広がる絵。
女性の絵。
自然の中にある山小屋の絵。
料理の絵。


女性の裸の絵。
雪の降る山の絵。
半裸で寝そべる女性の絵。
裸体。



い、いかん。
男たるものどんなタッチの絵だろうと女性の裸には反応してしまう。
ロコのいる前で……いや幸いロコは俺の前を歩いているからチラ見くらい
していても別にバレることはないが。


というか女性の絵の比率が多く感じるな。
いや俺がそればかり観ているからという訳ではなく。


それにしても……しかし、
なんでも描かれていた。
ここにある絵は正直誰が観ても”普通に上手い”という感想しか出てこない。
それぐらい俺は素人だったが。



だが、皆それぞれの絵に立ち止まりじぃっと見つめるお客さんがいた。
心を絵に奪われたように。


そして、ロコも1つの絵だけピタっと止まってじっと観始めた。
その絵が気に入ったのかと思ったらすぐに歩きだした。
どうやら違ったのか?

ロコが一体何に興味をしめしたのかが気になる……。



ロコが立ち止まった絵は人がバラバラになった絵だった。
手足の四肢がもぎ取られ胸元はバックリと開けられて内蔵が飛び出ている。


ものの30分もしないうちに最後まで見終わってしまった
俺とロコだったが、ロコは係の人に話しかけ
もう一度最初から観たい、といい出した。



そして再び元に戻ってきたが、
今度は一目散に先程のバラバラ死体の絵の前に来たロコだった。


その絵をじっと見つめるロコは
他の絵画の前にも一人は必ず居た心を絵に奪われた人のような
本当に絵を観ているのか分からない、そんな虚ろな目をしていた。


「お気にめしましたかな……?」




そうロコに話しかけたのはこの絵画展を開いた高藤だった。
事前にネットでどんな人のか調べていた俺もすぐに気がついた。

というかあんな風に厳重に警備の人間が近くにいるなら誰だって何となく気づくだろう。
振り返るロコは驚いて声も出ないようで口をパクパクさせていた。


そして俺の方に駆け寄ってきて
「ドッキリですか!? カメラはどこですか!?」


この反応……。
ロコが順調にバラエティアイドルに
育っていて俺は少しうれしかったのは内緒だ。



「いや、俺もびっくりしてるよ。まあ初日だから様子を見に来ているんだと思うよ」

「少し話してきても!?」

「ああ、いってこいよ」


ロコはすぐに高藤の所に駆け寄り
自分はアイドルでアートも極めているなどと自分のことマシンガントークで話しだした。
高藤はそれこそ80以上いってるのではないかという老体で
白髪交じりの頭が特徴の爺さんだった。


「アイドル……ふむ」


ロコをまじまじと見つめる高藤は
顎の髭を弄りながらロコに言った。
それは厳しい目だった。



「君は何故アーティストでありながらアイドルをする?」

「えっ? それは先程も説明しました通り
 アーティストとしての表現の幅を広げようとして……」

「……そうじゃない。君は可愛らしい見た目をしている。
 君自身が本当はそれを理解しているんじゃないのか?」

「……ッ」



ロコはどう返していいか分からない様で言葉に詰まっていた。
確かにロコは可愛いし、見た目だってアイドルと十分に言えるもの。
しかし、何故アイドル。アイドルでなければいけない理由はなんだったのか。


「ああ、すまない。そんな所を責めるつもりじゃないんだ。
 だが、……羨ましいと言えば良かったかな」

「羨ましい……?」



「ああ。羨ましい。君のように若くて可愛い女の子だったらば
私も私自身の身体と声を使い全てを表現できただろう」

高藤は続ける。


「もし私が君ならば、こんな紙の上に残すものだけには拘らないがね」

「君が思うアートとは何かね?」




……。
ロコが思うアート。

ロコはその質問には答えなかった。
答えられなかった。


ロコは話題をそらすように、自分が立っていた
バラバラの死体の絵について聞き出した。




「あの、この絵なんですけど。
どうして人をこんな風に描いたんですか」

「君はこの絵に何を感じる?」

「ロコは……いつも美術館とか見て回る時は最初にばーっと全部を観て
 それから印象に残ったものをじっくり見るようにもう一週するんです。
 そしたらもうこれしか残らなくて……ずっとここに立っていたんです。

 この絵には恐怖や狂気を感じます。
 とても怖い……です」


ロコはそう素直に答えた。
俺も同じような感想だ。



この絵は不気味というか、ただグロテスクな絵なだけじゃない。
何かこの死体から喜びを感じるんだ。


「そうか。君もこちら側か」


高藤は嬉しそうに微笑んだ。
そして「来たまえ。裏へ案内しよう」と俺とロコを案内した。


「少し、アーティストとしてのテストをしようじゃないか」


この高藤の言葉に俺とロコは一気に緊張する。


高藤に着いていくと白い部屋についた。
そこには白いキャンバスと絵描きの道具か色々と揃っていて、
その奥にゲージに入った犬がいた。

柴犬で大人しく座っている。


「道具も一式ある。あの犬を私の心に残すために
 世の中に残すために描いてみなさい。

 形式はなんでもいい。
 
 この部屋自体に描いてもあの犬に描いてもいい。
 とにかくアーティストとして私の心を掴みにきなさい」




高藤の突然のテストに驚きこそするが、
ロコはすぐに近くにあった筆と絵の具を取り白いキャンバスに描き出した。

ロコも高藤という自分の憧れた巨匠を目の前にして
認められたいと張り切っていた。


これが認められて弟子入りや共同の何か企画とか
始まればロコはアーティスト方面で急上昇することになる。
こんなチャンスは逃すことはできない。



しかし、描き終えようとした所で高藤がストップをかけた。
彼は残念そうにロコの描いたキャンバスを床に置き避けた。
代わりに取り出した白いキャンバスをまた置く。


ロコは不安そうに俺の方を見る。
俺もその時は口を出せなかった。
芸術家にだけにしかわからない領域なのだろうか、口を出してはいけないのかと思った。



「君は今、本気で私の心臓を掴むような絵を描こうと思ったかい?
 私には”私に気に入られようとするためだけの絵”を描いたようにしか見えなかった」


「……そ、それは……でもそれは心を掴んだということになるのでは」


「君はあのバラバラになった人間を観て、”この絵は私に気に入られたいがために描いた絵”だと
 思ったのかい? 違うだろう? あれは私の絵が、君の心臓を掴んだのだ」


俺には何が違うのかはよく理解できなかったが、
ロコはすごく真剣な表情で聞いている。



「本気の加減が全く伝わらなかった。そこの彼は理解していたようだが、
 今君は人生のターニングポイントに立っているんだぞ」


そこの彼っていうのは俺のことか。


「君は今、”どうしても行かないといけない場所”に間に合わなくて
 どうにかしようと本気で悩んだ挙句、

 走って急ぐ

 なんて生易しい答えを選んだようにしか見えない。
 本気で、本当に、間に合わなくてはいけない、人生最大の危機であるならば、
 私だったら……

 走ってる車を無理やりでも止めて奪い、時速150kmで車を走らせるね。
 君にはその本気加減が全く足りてなかった」



……。
言っていることが無茶苦茶だ。
芸術家ってのはみんなこうなのか。

いや、ロコは……違うよな。



「私が今からもう一度、君の心臓を掴むような芸術を描こう。
 その工程をよく観ておきなさい。
 久しく見る同じタイプのアーティストに会えて私は興奮しているのだ」


そして、引き出しから取り出したのは、



斧だった。




ガリガリと斧を引きずりながらゲージの犬に向かって歩く。
そして……
 


ゲージを開けた瞬間、おずおずと中から出てきた犬の首を斧で切り落とした。



「きゃああああああっ!!!」






ロコの悲鳴が部屋に響く。
ぶわぁ!!と広がる犬の血はみるみるうちに白い部屋を染めていく。


そして、次に四肢を斧で、切り落としていく。
バキン、べちょ、びちゃびちゃ。

「キャンバスをもってこい! はやく渡せえええ!!」

「は、はい!!」




人が変わったように怒鳴り散らすのにびっくりして
ロコは置いてあったキャンバスを手に取り駆け足で高藤に持っていった。


そして高藤はそれを乱暴に奪い取ると犬の手足を使い
キャンバスを汚していった。

犬の眼球をえぐり、キャンバスに叩き込み、
毛を何本も鷲掴みにし引き抜いてキャンバスに擦り付けた。



その何も言うことの出来ない時間が5分程続いた。
そして、火照った顔聞いてきた。

「どうだい」


先程の優しい印象のお爺さんに戻った時には高藤の着ている服は真っ赤になっていた。
そして白かったキャンバスには血と毛と眼球で描かれた絵が完成していた。

どうだいも糞もねえ、俺には何がどうなってるのかさっぱりわからなかった。


「な、なんでこんなことをするんだ!!」

「……ああ、あの犬のことかい。保健所で処分を待つ子だったのだ。
 保健所の方には許可を頂いて私が殺処分をしているのだ」

「だからといって……そんなことが許される訳がない!
 そ、そもそもそんな許可が降りるわけが……」


アイドルであるロコの心にトラウマを作りかねない。
ロコの方を見るとロコはさっきの真っ赤なキャンバスを手に
息を荒げて興奮していた。


「ろ、ロコ……?」



「君はプロデューサーという立場の人間だから理解しがたいのかもしれないね。
 君のために説明してあげるとすると……
 例えば君は待ち行く普通の人を注目するかい?

 
 通勤電車で揺られる見知らぬサラリーマンに注目するかい?
 よほど人間観察が好きでなければ別に気にかけはしないだろう


 だが、じゃあこういう人はどうだい?
 松葉杖をついてる、片足のない男性を観た時。
 無意識に注目してしまわないかい?
腕のない人を見た時、注目しないかい?


 こういう絵の残虐性は時としてぎゅっと人の心を掴むことがある。
 私はね、今ロコくんの脳にもこの絵を焼き付けたが、
 君もターゲットにしていたのだよ?」




お、俺もターゲットに……?


「今君は先程の目の前で起きた出来事で頭がいっぱいだろう?
 私はね、今君の空っぽの脳内という真っ白のキャンバスに強い記憶をアートとして残したのだよ」


「ふ、ふざけるな!!! ロコ、帰るぞ!!」


俺はロコの腕を取る。
それでもロコは真っ赤なキャンバスを離さなかった。
帰り道真っ赤なキャンバスを抱えるロコと
それを引っ張って歩く俺の間に会話はなかった。



脳内ではあのジジイが斧を振り下ろす瞬間の映像が
何度も繰り返し流れる。
ちくしょう。あのジジイの言った通り、色濃く刻まれていやがる。


ロコも放心状態でいた。




ロコ……。

ロコ、お前のアートはあんなものじゃないはずだ。


そうだろう?



ロコはしばらく休ませることにした。
1ヶ月もロコは休みを取らせた。

その間、俺はロコの家に足繁く通い、
ロコの世話をした。


ロコは大体ベッドの上に座っていて、
他愛ない話を俺とした。



いつものロコだった。楽しそうに笑い、
からかうとぷりぷりと怒り、そしてそうやって怒ってみせた時にロコに決まっていう


なぁ、今度は何作って見せてくれるんだ?


という、言葉は言うことはなかったが、仲直りはすぐに出来た。



「ロコ、そろそろ一ヶ月が経つが、もう大丈夫か?」

「はい、プロデューサー、いつもベリーサンクスです」


その言葉を期にロコは復帰し、
すぐ復帰ライブとして大きなライブを用意した。
俺とロコは一丸となってそのライブに向けてがむしゃらにレッスンを繰り返した。


あの時の、誰も知らない事件のことなど
なかったかのように。

記憶にこびり付いた汚れを汗と一緒に流し落とすように。



休みの期間はロコとの間であの赤いキャンバスの話題はどちらもが避けていた。
赤いキャンバスは事務所で預かり社長に頼み誰にも手の届かない所に封印してもらっている。
他の誰にも見せることのできない、あんな絵……いやあれは絵なんかじゃない。
ただの狂気そのものだ。


ライブ当日。


ロコはレッスンの成果なのか晴れやかな表情で挑んでいた。
ライブに出ることへの緊張など無い。とても穏やかな顔をしていた。


誰もがロコの復帰を喜び、客席からは多くのおかえり、という声が響いた。


そして……





ロコは死んだ。






センターステージに立ち、ソロ曲を披露する時のことだった。

ロコの復帰最初のロコの曲だ。
迫り上がるセンターステージ。

ロコはその最後の瞬間、俺と目が合った時に優しい笑顔を見せた。
だが、俺には分かってしまった。
何をしようとしていたのか。


「ロコォォオーーー!!!!」




会場のど真ん中のセンターステージで、
ロコは己の身体を爆薬でバラバラに吹き飛ばし、死んだ。

この日、何万規模と人の入った会場で、
皆の前で彼女は自殺した。


ライブは中止、警察からの事情聴取を受け、
俺は何日も拘束され解放されたのは日付も分からない頃だった。

ショックすぎる出来事に誰から受け取ったかも覚えてないが
俺宛という遺言書を受け取った。





プロデューサーへ。
ロコです。あ、この手紙はロコナイズは無し、控えめに描きたいと思います。
先日は高藤さんの絵画展に一緒に付き合ってくださってありがとうございました。
それからいっぱいお休みしてるロコの所に来てくれてありがとうございました。


高藤さんのことは驚く内容が多かった一日でとても疲れてしまいましたが、
ロコにとってはとても重要なターニングポイントになった気がしました。


確かにあの方がロコに言ったように今のロコでは
誰の記憶にも残らない、アイドルをあのまま引退すれば
きっと数年先の人の記憶に残らない何の特徴もないアイドルで終わっていました。



だからこそ、ロコは人々の空白のキャンバスに
ロコの名を永遠に、呪いのように刻みつけることを決めました。
あの時、高藤さんがロコ達にしたように。


方法は間違っているかもしれません。


今頃はニュースが、メディアが、全国がロコのことを大々的に取り上げ、
ロコの死ぬ瞬間を間近で観た人たちは
あの部屋で観た犬と同じ衝撃が走っていると思います。




永遠にロコの名を刻むために。


ロコは、ロコ自身がアートになることを決めました。
最高で、最大で、最低のアートです。


プロデューサーはちゃんと観ていてくれましたでしょうか、
ロコの集大成にして最後のアート。
タイトルは……『エクストリーム』でどうでしょうか。




ロコのアートとは、ロコ自身だったんです。

あの赤いキャンバスは私の形見として残しといてください。
これが最後のわがままです。

いつの日か、また会える日まで。
親愛なるプロデューサー。


ロコ より。



遺書は今でも机の中にしまってある。

犬で作ったアートは
封鎖され立ち入り禁止となった765プロから持って帰り自宅の部屋に飾った。


高藤が犬の血と毛と目で作ったのは
女性の横顔だった。



俺はそれに話しかける。


「おはよう」

「いってきます」

「おやすみ」

「……」

「なあ、今度は何作って見せてくれるんだ?」



おわり


どうもすみませんでした。
芸術とは爆発だ、というのを書きたかったんです。
ロコは大好きです。

高藤もろおだったり?
http://i.imgur.com/0txWhK9.jpg
ナムナム

>>3
ロコ(15) Vi
http://i.imgur.com/g4g3wDP.jpg
http://i.imgur.com/YX2IWzv.jpg

>>13
二階堂千鶴(21) Vi
http://i.imgur.com/hmjKb0Y.jpg
http://i.imgur.com/pcAd01d.jpg

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