水本ゆかり「ハーメルンの子守唄」 (35)

SSR水本ゆかりをお迎えしたので投下します

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1493652318

 事務所

ゆかり「おはようございます」

P「ああ、おはよう……」

ゆかり「プロデューサーさん? どうかなさいましたか? 顔色が優れないようですが」

P「気のせいじゃないか……?」

ゆかり「いえ……そんなことはないです。その、覇気があまり感じられなくて」

P「んなこたないよ!! ほら元気元気!! ボンバーーーーー!!!」

茜「ボンバーーー!! いい掛け声ですね!! 負けてられません!!!」

P「ボンバーーーーー!! ほらほら!! ゆかりもボンバろうぜ!!」

ゆかり「え、ええ? ボン、バー?」

茜「もっと大きく熱く!! ボンバーーー!!」

ゆかり「ボンバーーーー!」

全員「「「ボンバーーーーー!!」」」

ちひろ「……静かにしてくださいね?」


 車の中

P「怒られちゃったなあ」

ゆかり「でも、久しぶりに大声で叫んだ気がします」

P「たまにはさ、海に向かって馬鹿野郎って叫べたら……」

ゆかり「!! プロデューサーさん! 信号、赤です!」

P「えっ? んわぁ!!」

ゆかり「間一髪、でしたね」

P「そ、そうだな……」

ゆかり「プロデューサーさん。やはり体の調子が良くないのでは」

P「そ、そんなことないって……ゆかりは心配性だなぁ」

ゆかり「そんなにしんどそうな顔を見せられたら心配にもなります」

P「……そんなに顔色、悪い?」

ゆかり「はい。ものすごく悪いです」

P「むぅ……担当アイドルに指摘されるなんてよっぽどだな」

ゆかり「風邪をひかれているんですか?」

P「そういうのじゃなくてな、その、なんと言えばいいか……ここんとこ、全く眠れなくてな」

ゆかり「眠れない……」

P「家に帰って疲れた体をお風呂で綺麗にして、さぁあとは寝るだけだーってベッドに入っても、全然眠くならないんだ。疲れているのに、体はしんどいのにな」

ゆかり「それって、不眠症なんじゃ」

P「そうみたい。いやー、生まれてこの方一度も風邪をひいた事がない健康さだけが唯一の取り柄だったんだけど、返納しないといけないなこりゃ」

ゆかり「今すぐに病院に行ったほうが」

P「それはできないよ。今はゆかりのプロデュースで忙しくてそんな暇もありゃしないし。ここが正念場なんだ、この仕事がうまく行けばゆかりはまた新しい世界へ羽ばたけるはずなんだから」

ゆかり「だからって、いつまでも眠れないんじゃしんどいだけです」

P「これでも色々試しているんだぞ? それでもどうにもうまくいかないんだ。薬も飲んだし余計疲れようと寝る前に近所を走ったりしたけど、効果はないし」

ゆかり「そんなのって」

P「でもほら。こういうのってふとした拍子にぐっすり眠れたりするから気長に待つよ」

ゆかり(そんな悠長なことを言っていますけど、もう限界だって顔をしています。不眠症、私に何か出来ることは……)


ゆかり「悩みがあるなら、聞きますよ?」

P「ゆかり?」

ゆかり「不眠症はストレスや不安が原因、とも聞きますので、もしプロデューサーさんがお悩みならば私と一緒に解決できたらと思うんです」

P「それは……出来ない、かなぁ」

ゆかり「どういうことですか?」

P「ん? あー、うん。俺の問題だしね、ゆかりには関係ないよ」

ゆかり「プロデューサーさん……」


ラジオ『次のお便りはRN:総選挙美穂ちゃん宜しくさんから』

『楓さん、こんばんは。僕の失敗は彼女とクラシックのコンサートを聴きに行ったとき、ついつい寝てしまって彼女が怒って寝ている僕をおいて帰ってしまったんです。目が覚めたら至近距離に掃除のおばちゃんがいてビックリしました。彼女の機嫌を取るのは大変でしたし、クラシックのコンサートは苦い思い出でいっぱいです』

『クラシックの音楽は、心地よさに任せて眠くなる気持ちは分かります。でも彼女さんは、一緒に聞いて感動を共有したかったのではないでしょうか? 次からは聞きに行く前にカフェインを取っておくほうが良さそうですね』

『クラシック……クラシック……クラシックらしっく、この曲をお届けしましょう』

P「クラシックか、懐かしいなぁ。ゆかりを最初に見つけたのもクラシックのコンサートだったし……」

ゆかり(クラシック、眠くなる……あっ)

ゆかり「プロデューサーさん」

P「ん?」

ゆかり「一つ、アイデアがあるんですけど――」

 翌日

P「おはよ、ゆかり……」

ゆかり「おはようございます、プロデューサーさん。昨日よりも、しんどそうですね」

P「ははは……眠れないから疲れが溜まる一方なんだ。それで、昨日話していたアイデアって?」

ゆかり「それは……私の演奏です」

P「ゆかりの演奏?」

ゆかり「はい。私のフルートでプロデューサーさんを眠らせたいと思います」

P「眠らせたい、ってそんな魔法みたいなことできるのか?」

ゆかり「はい。フルートの心地よい音色を聞けば、きっと眠くなると思うんです」

P「確かにフルートの音色は優しいし聴いているだけで癒される気がするけど」

ゆかり「実際、私はフルートの音で人を眠りに誘っているんです」

P「マジで?」

ゆかり「はい。この前も外で吹いていたら近くのベンチで美穂さんが寝ておりましたので……」

P「それ、フルートの音が原因じゃない気がする」

ゆかり「それに。お恥ずかしい話なんですが、私はたまに自分の演奏している音で眠ってしまうんです」

P「……大丈夫なのか? 俺が心配になってきたぞ」

ゆかり「何にせよ、物は試しです。眠ってもらうための演奏、というのは人生で初めてですが心を込めて演奏しますね」

P「それならなおさら寝るのは失礼な気がするな」

ゆかり「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、プロデューサーさんは難しいことを考えずに耳から伝わる音色だけに心を委ねてください。それでは」

~~♪

P「……」

ゆかり「すぅ、すぅ……」

P「……先に寝ちゃったよ」

ゆかり「あ、あれ……ここは……雪国? じゃない、事務所……?」

P「おはよう、ゆかり」

ゆかり「おはようございます? ……あっ」

P「随分気持ちよさそうに寝ているもんだから、起しにくくてね」

ゆかり「私としたことが……本当に眠ってしまうなんて。申し訳ございません」

P「あはは……」

ゆかり「プロデューサーさんは眠れて、いないんですよね」

P「すごくいい演奏だったよ、掛け値なしに。……だから却って眠れなかった」

ゆかり「眠ってもらうための演奏だったのに……」プクー

P(ほっぺた膨らませて可愛いな)

ゆかり「あっ、ちょ、ほっぺたをつつかないでください」

P「ごめんごめん、つい誘われるように指が」

ゆかり「さっきの曲ではダメだったのでしょうか? それでは次はこの曲を……」

~~♪

ゆかり「すぅ……」

P「天丼?」

P「おはよう、ゆかり」

ゆかり「うぅん……ここは砂漠……じゃなくて事務所?」

~♪

P「おはよう、ゆかり」

ゆかり「うぅん……ここは空に浮かぶ島……じゃなくて事務所?」

~♪

P「おはよう、ゆかり」

ゆかり「うぅん……ここは列車の中……じゃなくて事務所?」

~♪

P「おはよう、ゆかり」

ゆかり「うぅん……ここはゾンビだらけの島、じゃなくて事務所?」

P「……夢の中では麦わら帽子の海賊の仲間なのか?」

ゆかり「どうして私ばかりが寝てしまうんでしょうか? もしかしてプロデューサーさんはフルートの音が聞こえない特異体質とか」

P「そんなピンポイントな特異体質になった記憶はないぞ」

ゆかり「こうなれば有香さんに物理的に眠らせてもらうか……それとも法子さんと一緒に満腹になるまでドーナツを食べて眠気を誘うか……」

P「後者はともかく前者は事務所NGってことで」

ゆかり「しかしこのままじゃプロデューサーさんが永遠に眠れなくなります。略したら永眠だなんて、演技が悪いですし」

P「誰も略してなんて言ってないんだけど……」

ゆかり「どうすれば」

P「その気持ちだけで嬉しいよ。今日は可愛い一面も見れたし」

ゆかり「そ、それとこれは……。コホン、明日も私の演奏を聴いてください。今度こそ、本物の眠れる曲を吹いてみせますから」

P「おーいゆかりー! って行っちゃった……意外と足速いな、あいつ」

 とある楽器屋

ゆかり「眠くなる曲を探しているんですが……演奏を聴いた人が不眠症でもたちまちコロリと眠ってしまうような……えっ? ある、んですか?」

ゆかり「この楽譜は……! そんなことが」


翌日 事務所

P「おはよう……ってなんだ? すごく騒がしいが」

ちひろ「プロデューサーさん! あれを見てください」

P「あれ? ……なあ!?」

みく「魚魚魚!! 魚を食べると頭がよくなるにゃ!!!」

七海「まだまだありますよー?」

みく「もういっそ生で食べさせるにゃ!!」

P「み、みくが魚を食べてるーーーーー!?」

P「い、一体これは何だ……? 天変地異の前触れか?」

ゆかり「おはようございます、プロデューサーさん」

P「あ、ああゆかり、おはよう」

ゆかり「その顔は信じられないものを見た、と言いたそうに見えます」

P「いや、だってさ、あの猫キャラでありながら魚が苦手というアンバランスなカルマを抱いていたみくが……」

みく「おかわりにゃあ!!」

P「あんなに貪るように魚を食べているんだぞ……?」

ゆかり「それは、私の演奏の力です?」

P「……は?」

ゆかり「実は昨日帰った後に楽器屋さんで楽譜を探していたんです。プロデューサーさんを確実に眠らせることができる曲なんですけど」

P「確実に眠らせるって言い方ほかになかった?」

ゆかり「そうしたら、一つ見つけたんです。耳から入った音色は深い安らぎを与え、あらゆる人を深い眠りと幸福に導くと言われた曲が」

P「えーと、どういうこと?」

ゆかり「簡単に言ってしまえば……催眠術の類です。聞いた人を催眠状態にすることができるとのことで」

P「……胡散臭くないか?」

ゆかり「私も半信半疑……3割信7割疑くらいでいたんですけど、たまたま出会ったみくさんに演奏してみたところ」

P「ああなってしまった、と」

ゆかり「流石にドッキリ、ってことはありえないでしょうし、これは本物です」

P「マジでか」

ゆかり「みくさんには申し訳なさを感じますが、これで効果は実証できたわけですし……プロデューサーの不眠症もこれで治ると思います」

P「そううまくいけばいいけど……でも待てよ? その音を聞いたら催眠状態になるっていうのなら、吹いているゆかりもかかるんじゃないか? 普通に演奏していても眠くなってたぐらいだし」

ゆかり「そんなこともあろうかと、耳栓を用意しています」

P「ぬかりねえなぁ、ゆかりだけに」

ゆかり「?」

P「何でもないです!」

ゆかり「それでは……リラックスして聞いてくださいね」←耳栓済み

P「あぁ」

ゆかり「聞いてください。曲名は……ハーメルンの子守唄」

~~♪

P(心地よい音色が俺の耳に入っていき、体中に広がっていく)

ゆかり「~~♪」

P(彼女の息遣いが、震える空気が、優しい音色が、心地いい)

P(心地いいここちいいここちい……)

P「……すう」

ゆかり「~~♪」

ゆかり「はぁ、いかがだったでしょうか?」

P「……」

ゆかり「プロデューサー……さん?」

P「……フゴッ、すぅ……」

ゆかり「寝ています?」

P「うみゅう……」

ゆかり「これは……成功したのでしょうか?」

P「すぅ……」

ゆかり「ふふっ。気持ちよさそうな寝顔です。写真を撮ったら、怒られるでしょうか?」

P「ん……んん……」

ゆかり「おはようございます、プロデューサーさん」

P「あ、あれ……俺、寝てたのか?」

ゆかり「ええ、それはもうぐっすりと。すっかり日も暮れちゃいました」

P「そんなに寝ていたのか!? まじか」

ゆかり「はい、まじです」

P「もしかして、ずっとここに?」

ゆかり「はい。いつ起きても良いようにここにいました」

P「そっか。退屈だったろうに、すまないな」

ゆかり「退屈だなんて……とても有意義な時間でしたよ?」

P「そう? しかし久しぶりに寝たなぁ。なあ、ゆかり。もしまた眠れなくなったら」

ゆかり「はい。私が眠らせてあげますよ。子守唄、ですからね」

P「俺のほうが大人なんだけどなあ」

ゆかり(それからというものの、プロデューサーさんに演奏を聴かせて眠ってもらう、というのが日課となりつつありました)

ゆかり(無防備な寝顔を見せてくれるのが私の前だけ、というのが少し嬉しかったんです)

ゆかり(だけど……私の中で良からぬ考え、というのが大きくなっていきました。それは……)

P「すぅ……」

ゆかり「プロデューサーさん、聞こえますか? 聞こえるなら右手をあげてください」

P「はい……」

ゆかり(それは催眠状態になった彼との対話。つまり、心を覗こうという禁忌でした)


ゆかり「えーと……あなたの名前と職業を教えてください」

P「……○○△△。アイドル事務所のプロデューサー」

ゆかり「子供の頃にペットを買っていましたか?」

P「蛇を……飼っていた……」

ゆかり「子供の頃の夢はなんでしたか?」

P「ツチノコを捕まえて一攫千金……、もしくは逆玉……すぅ」

ゆかり「ゴリラのものまねをしてください」

P「ウッホホwwwwwwウッホウホホwwwwwwwwww」

ゆかり「……過去に付き合った女性の数は?」

P「ウホホホwwwwwwww」

ゆかり「人に戻って、答えてください」


P「……誰ひとりとして、いない」

ゆかり「っ! い、いますき……」

P「……すぅ」

ゆかり「……焼き、食べたいですか?」

P「……食べたい」

ゆかり「というのはともかくとして……」

P「……すぅ」

ゆかり「今、悩んでいる事は……ありますか?」

P「うぅん……」

ゆかり「私は、プロデューサーさんの力になりたいんです。だから恥ずかしがらないで、心の奥にある不安を」

P「……ゆかり」

ゆかり「えっ?」

P「ゆかりのことで、悩んで……」

ゆかり「わ、私が……原因?」

P「ゆかりにとって、大事な時期で……頑張らないといけないのに……俺は力不足で、俺のせいでゆかりを羽ばたかせることができなかったら……そう思うと、不安で眠れなくて……」

ゆかり「ずっと、思いつめていたんですか。私に悟られないように」

P「ゆかりはシンデレラになる素質があるのに……」

ゆかり「プロデューサーさん……。私の声を、よく聞いてくださいね」

ゆかり「私が三つ数えるとプロデューサーさんは目を覚まします。そして……」

ゆかり「ひとつだけ、心に刻んで欲しいんです。不安を消す、なんてことは私は出来ません。だって」

ゆかり「私も……不安なんです。新しい世界に飛び込んでいけるのか、とかアイドルとしてのこれから、とか……でも。それを否定したくはないんです」

ゆかり「私もプロデューサーさんも不安なんだから、二人で分け合えば少しは気が楽になると思うから……だから」

ゆかり「これからも、一緒に頑張っていきましょう。プロデューサーさん」

ゆかり「3、2、1……」

P「ん、んん……」

ゆかり「おはようございます、プロデューサーさん」

P「ああ、おはよう……ん? どうかしたか? なんかニヤニヤしてるけど」

ゆかり「いえ、何でもありませんよ?」

P「もしかしてイタズラしたとか……ってゆかりに限ってそれはないか」

ゆかり「そ、そうですね……」

ゆかり(ゴリラの真似をさせたなんて言えません……)

P「でもなんだろなぁ。何回かゆかりの演奏で眠らせてもらったけど、今日は寝覚めもいつもより良い。気持ちが楽だ」

ゆかり「もう私のフルートがなくても眠れそうですね」

P「そんな気がするよ。ありがとう、ゆかり。ちょっとぐずついたけど、一緒に頑張ろるな」

ゆかり「はいっ。一緒に新しい世界に行きましょうね」

ちひろ「大変ですプロデューサーさん!」

P「? ちひろさん、どうしたんですか顔を真っ青にして」

ちひろ「テレビ! テレビを見てください!」

P「? 誰かが結婚会見でもした……」

みく『マグロとったにゃあああああ!!!』

キャスター『人気アイドルの前川みくさんがアイドルを引退してマグロ漁師になると宣言して……』

P「」

ゆかり「えぇ……」

ゆかり(この後荒れ狂う海の上でフルートを吹いて催眠を解除しました)

七海「」ズイズイズイ

みく「無言でお魚を持ってこないでええええええ!!!!」

おしまい

水本ゆかりさんと結婚したい、そんな気持ちで書きました。読んでくださった方ありがとうございます

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom