十代「よう」 明日香「十代!?」(22)


明日香「十代? 本当に十代なの?」

十代「俺以外の誰だって言うんだよ? 久しぶりだな、明日香」

明日香「久しぶりってレベルじゃないわよ。卒業以来会ってないじゃない」

十代「あれ? そうだっけ?」

明日香「少しも連絡寄越さないで……今の今まで何処行ってたのよ?」

十代「まあ色々だな。ちょっと前まではロンドンで大立ち回り演じてたし」

明日香「何だか相変わらずね、貴方って」


十代「とりあえず立ち話も何だしどっかで話さねえ? せっかく久々に会ったんだし」

明日香「それは構わないけど」

十代「じゃあ何処か店でも……ってもうこの時間だから喫茶店とかは閉まってるか」

明日香「なんならウチ来る? マンション、すぐそこだから」

十代「いいのか?」

明日香「他の人ならともかく貴方なら危険なさそうだし」

十代「何か微妙に引っかかる言い方だな。行くけど」


明日香の部屋……

十代「悪いな、夕飯までご馳走して貰って」モグモグ

明日香「部屋に戻る道すがらずっとお腹鳴らされたら出すしかないでしょうが」

十代「いや、ここ数日ちゃんと飯を食べてなかったもんで。しかしお前って料理上手かったんだな」パクパク

明日香「それはどうも。というか学生時代の時にも一度食べさせてあげたと思うんだけど?」

十代「あれ、そうだっけ? とりあえずおかわり」モキュモキュ

明日香「まあ覚えてないでしょうね。貴方ってそういう人だから」ハァ


十代「それにしても結構いい所に住んでるんだな」キョロキョロ

明日香「あんまりジロジロ見ないでよ。普通よ、普通」

十代「今は学校の先生やってるんだっけ?」

明日香「そうだけど……って、何で貴方が知ってるのよ?」

十代「ちょっと前に万丈目に聞いた」

明日香「ん? 万丈目君とは連絡取ってるの?」

十代「いや、この前たまたま会っただけだ……何か今一瞬俺を睨まなかったか?」

明日香「べ、別に睨んでないわよ。気のせいよ、気のせい」


十代「しかし明日香が学校の先生か。結構イメージにぴったりだな」

明日香「そうかしら?」

十代「そういえば前からなりたいとか言ってたもんな。いや、素直にすげーって思うぜ」

明日香「…………」

十代「明日香?」

明日香「え? あ、ごめん。ちょっとぼぉーとしてたわ」

十代「そうか……あ、おかわり」

明日香「貴方、ちょっとは遠慮ってものを覚えなさいよ」

…………

十代「いやー食った、食った。ご馳走様、満腹だぜ」

明日香「そうでしょうね。あれだけ食べて満腹にならなかったら病気だと思うわ」

十代「しかしこんなにご馳走して貰ったならこっちからも何かお礼しねえとな」

明日香「別にいいわよ、夕飯ぐらい。そういうの目的でご馳走した訳でもないし」

十代「いや、実はちょっと前に貰ったもんなんだけど俺1人だと処理に困ってさ……」

明日香「何? 厄介物押し付ける気?」

十代「そんなもんじゃねえよ、ほら」

明日香「え? ワインじゃない。しかもかなり上等の……どうしたの、これ?」


十代「だから貰い物だよ。良かったら今ここで一緒に飲まねえ?」

明日香「まさか酔わせて変な事するつもりじゃないでしょうね?」

十代「えー、そんな事言う? というか俺なら危険ないだろうって言ったの明日香の方じゃん」

明日香「冗談よ。でも私そんなにお酒強くないわよ?」

十代「それでも全く飲めない訳じゃないんだろう? あ、グラスはそこの奴使っていいか?」

明日香「ちょっと、勝手に触らないでよ。用意なら私がするから」

十代「せっかく旧友と話すのに何も飲まないのも勿体しないしな。今夜はパーッとしようぜ、あははっ♪」

明日香「だからそんなに飲めないんだってば……もう」

…………

十代「弱いとか言ってた癖に結構飲んでんじゃん」

明日香「貴方に付き合ってるだけよ。それにこのワイン美味しいし」

十代「しかし卒業から結構経つけど……みんなすげーよな」

明日香「何よ、急に」

十代「そのまんまの意味だよ。翔はカイザーと新しいリーグ作って頑張ってるし、万丈目も今やエドに並ぶ人気プロデュエリストだ」

十代「三沢もこの前デュエルの論文で賞を貰ってたな。ネットのニュースで見たよ」

十代「そしてお前は学校の先生として未来ある若者を育ててる……うん、やっぱりみんなすげーよ」

明日香「…………」


十代「その点、俺は未だに定職付かずに風の吹くまま気の向くまま世界中をプラプラしてる。まあそれはそれで楽しんだけどさ」

十代「だけどやっぱり俺と比べるとみんなすげーし立派だと思う……って、何か俺さっきからすげーすげーしか言ってないな」アハハ

明日香「…………」

明日香「……凄くないわよ」

十代「ん?」

明日香「万丈目君や翔君達はともかく……私は凄くはないし立派でもないわよ」

十代「明日香?」

明日香「むしろ私から見れば自由に生きてる貴方の方が凄いし立派だと思うわ」


十代「いや、それは無いだろ。お前学校の先生なんだぜ? 先生って立派なもんじゃないか」

明日香「確かに私は教師で先生よ。そういう肩書は持ってる」

明日香「でもそれは教員試験にさえ合格すれば誰だって持てる肩書よ」

明日香「そして肩書を持つ事と良い先生になれる事はまた別問題なのよ」

十代「…………」

明日香「ねえ、十代」

明日香「本当言うと……本当言うとね」

明日香「私って先生に向いてないんじゃないかって……最近思てるの」

十代「…………」


明日香「生徒達ともあんまり上手くいってない……」

明日香「生徒達の気持ちも分からない事が多いし……こちらが伝えたい事も中々伝わらないし……」

明日香「保護者の人や他の先生との関係も良いとはいえない……思った事が出来なくて毎日もどかしさを感じてる……」

明日香「でも夢だったから。先生になるのは夢だったから何とかしようって……私なりに頑張った」

明日香「元々簡単な事じゃないって分かってけど……それでも……でも……」

十代「…………」

明日香「最近はちょっと……もう、限界かもしれない……」


十代「……辞めたいのか、先生?」

明日香「……うん」

十代「辞めて、その後はどうするんだ?」

明日香「考えてないけど……貴方に着いて行くのとか、それはそれで楽しいかもね……」

十代「そっか……」

明日香「本当こんなに辛いなら……夢は夢のままにしておいた方が良かったのかもね……」

十代「…………」


十代「……あー」

十代「とりあえずだ……最初に言っとくが俺は止めないぞ」

明日香「…………」

十代「これはお前の人生だし、お前の問題だ」

十代「だから俺がとやかく言う事でもないし、辞めたいなら辞めるのもありだと思う」

明日香「…………」

十代「まあそれを踏まえてあえて言わせて貰うならさ」

十代「それでもお前は凄いし立派だと俺は思う」

明日香「…………」


十代「夢を見る事は誰にだって出来るんだよ。でも叶えられるのは誰にもでも出来る事じゃない。大きい夢なら尚更だ」

十代「お前はその誰にでも出来ない事を立派に叶えたんだ」

十代「それって十分凄い事だし立派な事だと俺は思うぜ」

明日香「…………」

十代「だからさ……『夢は夢のままにしておいた方が良かった』なんて言うなよ」

十代「お前、先生になる為に滅茶苦茶頑張ったんだろう?」

十代「試験にさえ合格すれば肩書は取れる? それだってそう簡単に取れるもんじゃないだろ?」

十代「それなのに叶えたのが間違いだったみたいな事言ったら……それは昔のお前を否定する事になるんだぞ?」

十代「そんな悲しい事……言うなよ」

明日香「…………」


十代「最初に言ったけど俺は止めない」

明日香「……うっ……うぅ……」

十代「決めるのはお前だ、明日香……だけど」

明日香「うあっ……うぐぅ……」

十代「本当頑張ってるな……やっぱりすげーし立派だよ、お前」

明日香「うっ……うああぁぁぁ……」

十代「というかお前は少し考えすぎなんだよ。アカデミアの女王だったんだろ? もっとドーンとしろよ、ドーンと」ナデナデ

明日香「ひくっ……あ、頭……えぐっ……撫でないでよ……」

十代「ちょうど撫でやすい所に頭があるお前が悪い」ナデナデ

明日香「うるさい……ひくっ……十代の……馬鹿ぁ……」

…………

チュンチュン……

明日香「……んっ」

明日香「あれ、私……?」

明日香(何時の間に寝てたのかしら? というか掛けてある上着……これ、十代の?)

明日香「って、十代? 何処行ったの?」キョロキョロ

明日香(まさかもう帰ったの? 一言も無しに?)

明日香「あら、これは……置手紙?」


『ガッチャ、美味しい飯だったぜ! 今度はみんなで飲もう! またな! 十代』


明日香「…………」

明日香「……本当相変わらず何だから」クスッ

明日香「うん……今日も1日頑張りしょうか!!」

…………

ユベル『何も言わず出て来て良かったのか?』

十代「大丈夫だろう、置手紙もして来たし」

ユベル『しかしわざわざ酒を手土産に会いに行くとはね。しかも偶然会った様に装うとは』

十代「明日香って結構頑固だからな。スムーズに悩み聞くにはこういう方法が一番なんだよ」

ユベル『だからってあんなに高い酒を買う事はないだろ? 食費まで削って』

十代「いや、どうせ飲むなら美味い酒飲みたいじゃん♪」



子供「ねえ、あのお兄ちゃんさっきから1人で何ブツブツ言ってるの?」

母親「しっ、見ちゃいけません!」


十代「大会で吹雪さんに会った時に最近明日香が元気が無いって聞いて心配したけど」

十代「とりあえず多少ガス抜きは出来ただろうし、一先ず大丈夫だろう。それにあいつは強いしな、こんな事で終わらないさ」

ユベル『……随分とあの女に肩入れするね』

十代「そりゃ学生時代の大切な仲間だし……ってどうしたんだよ、ユベル? さっきから機嫌悪くないか?」

ユベル『べ・つ・に!』プイッ

十代「変な奴だな……おっ、ファラオに大徳寺先生! 悪いな、一晩外に待って貰ってて」

ファラオ「にゃ~」

ハネクリボー『クリクリ~』

大徳寺『それで十代君、次は何処に行くにゃ?』

十代「ん? そんなの決まってるだろ」

十代「風の吹くまま、気の向くままさ!」

<おわり>


読んでくれた人、ありがとうございました。

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