白菊ほたる「わたしにできること」 (15)

※注意事項

・アイドルマスターシンデレラガールズのSSです
・暗い
・デレステの白菊ほたるコミュメモリアル1を下敷きにしています
・暗い
・独自要素あり

          ◆◆◆

俺はモバP。
俺が白菊ほたると出会ったのは、ある番組の収録の後のことだった。
同じ事務所所属の、バーター出演するはずの売れっ子がドタキャンして現場に来なかった。
そうして大きな仕事を失ったのはおまえのせいだと前の事務所のプロデューサーに非難され、解雇されたのだと。
そう寂しげに言った彼女を放っておけなくて、俺はほたるをスカウトした。
いかに売れっ子だろうと、ドタキャンをするなんてのはプロとして失格だ。
ひいては、そういう可能性があるアイドルを放置していた事務所こそが責任を追求されるべきであって、決してほたるのせいであるはずはない。
ほたるは、幸せになるべきだと、強く思ったのだ。
むろん、義侠心からだけのことじゃない。
小さいけど澄んだ声。
13歳とは思えない、儚げで整ったルックス。
なによりも、それでもアイドルになりたい、という思い。
ほたるにはトップアイドルになれる資質が確かにあるとそう信じたからだ。
俺は彼女をスカウトし、レッスンを積ませ、同じ事務所のアイドルたちと積極的に交流させた。
自慢じゃないがうちのアイドルたちはルックスだけでなく性格もいいのだ。
その優しさがきっとほたるを癒すだろう。
ほたるには悪い評判もあったが、なんのその。
俺は走り回って彼女に仕事を取ってくる。
たしかにほたるが来てから奇妙に不運なできごとがありはしたが、どれも小さなことだった。
俺は気にするほたるを平気だと、気にするなと笑い飛ばして、自分がほたるの言う不幸なんかに負けないと見せつけた。
その甲斐あって、俺やアイドルたちと、ほたるはうまくやっていけていた。
バカな俺は、あの日までそう信じ込んでいたんだ。

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        ◆◆◆

モバP「そんなバカな。ほたるが辞めたいって、そう言ったんですか」

ちひろ「はい、その通りです。先ほど辞表を出して、寮に戻りました。Pさんにはとても直接はいえないから、ごめんなさいと伝えておいてほしい、って」

モバP「バカな・・・ちひろさんは、みんなは、止めなかったのか」

モバP(今ここにはちひろさんの他に、ほたると仲がよかったうちのアイドルたちも居る。だがみんな一様に暗い顔をしているばりだ。決して不仲だったわけでもないんだ、俺同様、あいつが辞めると言い出したことに憤ったり、止めようとする奴がいたっていいはずなのに)

ちひろ「Pさんのいいたいことは解ります。ただ、何にせよ、これを見てからにしてくださいますか」

モバP「これは?」

ちひろ「ほたるちゃんからPさんあての手紙です。たぶん、私たちがほたるちゃんから聞かされたことと、同じことが書いてあります。私たちは、これを聞かされたから、彼女を止められず、どうしていいかわからずに居るんです」

モバP(手紙にはたしかに、ほたるの字が並んでいた)
モバP(ところどころ涙でにじんだ、小さな文字が・・・)

  ◆◆◆

前略 プロデューサーさんへ

あの日、前の事務所を解雇されて行き場を失っていたわたしをプロデューサーさんが拾い上げてくださってから、もう何ヶ月が経ったでしょうか。
わたしはプロデューサーさんのおかげで、夢を諦めずに済みました。
幸せなアイドルになりたいって。
もういちど挑戦しようと思うことができました。
わたしはあの時、ほんとうにうれしかったんです。
プロデューサーさんに拾われて、もう一度夢を見ることを許されたわたし。
そのわたしが事務所を辞めたいと言い出すなんて。
それがどれほどひどい裏切りか、プロデューサーさんをがっかりさせるか、解ってるつもりです。
ああ、でも、でも、もう、だめなんです。
わたしはこれ以上、アイドルを目指すことは、できないんです。
ごめんなさい。ごめんなさい。
許してください、なんていいません。
ただ、お願いです。
わたしは、プロデューサーが、事務所の皆が、大好きです。
本当に、本当に、今も大好きなんです。
それだけは、どうか、信じてほしいのです。

そして、その上でどうか、わたしを引き戻そうとはしないでほしいのです。

みんなはなにひとつ、悪くない。
原因はただひとつ、わたしの心の弱さなんです。



プロデューサーさんは、不吉な噂が広まってしまっているわたしがちゃんとデビューするために、たくさん走り回ってくれましたね。
わたしの周りで不運な出来事がおこっても。
プロデューサーさんの身に不都合なことがおこっても。
大丈夫だって、このぐらいでは自分も会社もびくともしないんだって、笑って元気づけてくれましたね。
この事務所のアイドルの子たちは、そんなプロデューサーさんを信じているのでしょう。
みんな明るくて、やさしくて、笑顔がまぶしくて。
色々な場所で不幸を呼んできたわたしを受け入れて、支えてくれました。
不幸なんか気にしないって。
わたしが一緒にいるのがうれしいんだって。
ここに来て、わたしははじめて誰かと共に夢を目指す喜びを知りました。
他のアイドル候補の子と友達になって、レッスンを終えて笑いあったり。
目標を話し合ったり。
それがどれほどうれしかったか解りません。
わたしもここで、きっとアイドルを目指していけるんだ。
幸せになっていけるんだ。
そう、信じたいと思っていました。


ある日のことです。
わたしは、以前の事務所で一緒だったアイドル候補の子と、町で再会しました。
彼女は、わたしが新しい場所でアイドルを目指していることを、よろこんでくれました。
だけど、わたしは思い出しました。
自分が来たせいで不幸になってしまった人は、確かにいたんだって。
わたしは今、幸せだけど。
誰かを不幸せにする、わたしの定めは消えずにそこに、あるんだって。
最初、わたしは前向きになろうと思いました。
ここでがんばれば、きっと不幸を越えていけるって。
でも、届くはずのものが届かなかったり。
すぐ近くで、事故が起きて、誰かに怖い思いをさせたり。
壊れるはずのない備品が、その日に限って壊れてしまったり・・・
この事務所に来てからも、わたしの周りではそんなことが起こり続けていましたね?
それは小さなことで、わたしのせいじゃないって、プロデューサーさんも、みんなも言ってくれましたね。
そして、わたしのためにお仕事をとってきてくれて。
わたしが傷つかないよう、皆で支えてくれて。
わたしはどんどんアイドルという夢に近づいていき、どんどん幸福になりました。


みんなが、わたしに、幸せになっていいよと言ってくれる。
幸せに、してくれる。
わたしは急に、自分がみんなから幸福をもらってばかりだと気づきました。
それはまるで、どんどん高く積みあがっていく塔のようです。
でも、ときどき起きる不幸な出来事は、わたしの不幸が変わらずそこにあることを。
かつてその不幸で、同じ夢を持つ人たちを苦しめたのだということを、思い出させて。
たくさんもらう幸せに対して、私がなにも返せていない、と。
むしろ、今も昔と変わらず、皆に無用の不幸を追わせる可能性があるのだと悟らざるを得ませんでした。
そしてわたしは、幸せが、怖いと思うようになりました。
プロデューサーさんの厚意が、みなの優しさがわたしを幸福にしてくれることを、うれしいと思えなくなりました。
それらをいつか自分が壊してしまうかもしれないという想像は、自分がこれまで不幸だったことの何倍も恐ろしいものだったんです。
みんなの笑顔がまぶしくて、事務所がわたしにとって大事な場所になればなるほど、恐ろしさは増していきます。
もし事務所の皆の笑顔を、わたしが曇らせるようなことがあったら・・・
きっとわたしの心は、それに耐えられないでしょう。


プロデューサーさん。
幸せにおびえて、逃げ出したいと思うような女の子に、アイドルになる資格があるでしょうか。
皆を笑顔にしたいなどと願う資格があるでしょうか。
人を不幸にするものは、人に幸福にしてもらう価値があるのでしょうか?

大好きな事務所の、大好きなみんな。
わたしを拾い上げてくれた、大好きなプロデューサーさん。
ごめんなさい。
こんなわたしでごめんなさい。
さようなら


          ◆◆◆



モバP「ばかな・・・!」

ちひろ「どこに行くんですか」

モバP「ほたるの所ですよ。当たり前じゃないですか。もう一度言いますが、なんでちひろさんはほたるを止めなかったんですか」

ちひろ「なんて言って止めるんですか?」

モバP「それは・・・」

ちひろ「ねえPさん。あなたも私も、事務所のアイドルの子たちも。ほたるちゃんに幸せになってもらいたいと思って、そう接してきましたね。与えられるものは、惜しまなかった」

モバP「・・・」

ちひろ「それが間違ってたかどうかなんて、私にはわかりません。だけど、お手紙、読んだでしょう。はっきりしているのは、そんな私たちこそが、ほたるちゃんを追いつめていたということです」

ちひろ「不幸なんて心の持ちようだし、小さな不幸なんて私たちは大丈夫。それは、優しさのようでいて、違ったのではないでしょうか。私たちは、ほたるちゃんがこれまで、自分の不幸でどれほど長く、深く、傷ついていたのか、見誤っていたのではないでしょうか」

モバP「そんな・・・」

ちひろ「たぶんまだ、ほたるちゃんは寮で荷造りをしているでしょう。だけど、行って、なんと声をかけて引き留めますか。わたしも、他の子たちも、それが解らないから、止めにいけずにいるんです」

ちひろ「Pさん。あなたは、どうやってほたるちゃんを止めますか?」

  ◆◆◆


【二時間後、女子寮】

ほたる(荷造りは、おしまい・・・こことも、もうお別れ)

ほたる(本当はもっと、ここにいたかった。ううん、いまも、居たい。だけど、それは出来ないから)

ほたる(これ以上ここが好きになったら、わたしは耐えられないから。機会も友情も、やさしさも。もらってばかりのわたしが、皆の幸せを壊すなんて、あってはならないことだから・・・)

ほたる「・・・ぐすっ」

モバP「ほたるー!!!(扉バーン!!)」

ほたる「え、あ、ぷ。プロデューサーさん!?」

モバP「辞表の話は聞いた。手紙も読んだ!すまん!(土下座)」

ほたる「あ、謝らないでください。皆に悪いところなんて、ひとつもないんです。わたしが・・・わたしが悪いんです。耐えられない、わたしが。だから、ここを、離れないと」

モバP「ほたる、聞いてくれ」

ほたる「・・・」

モバP「俺は、おまえに辞めてほしくない。幸せになってほしい。ここでアイドルを目指してほしい。だから、手紙を読んでから今まで、どうしたらおまえを止められるか、ずっと考えていた。だが、思いつかなかった。おまえはやさしい子だから、決して自分の不幸が、好きになったものを傷つけることを許せないだろうからだ」

ほたる「・・・はい。だから、わたしはここを」

モバP「だから、俺はおまえに残酷な頼みをすることにした。おまえにここにいてもらうために。おまえに、ここに居ていいんだと思ってもらうために」

モバP「ほたる、おまえの不幸な過去を、皆の役に立ててくれ」

ほたる「・・・っ」

モバP「おまえは不幸だ。人を不幸にもしてきたのかもしれない。だけどなほたる。ここでおまえと仲良くなったアイドルたちも、トップアイドルになろうとするこれからの人生で、一度も不幸な目にあわずにいる、なんてことはできないだろう・・・ああ、だからおまえも不幸を気にするな、なんていうつもりは、ない」

モバP「ただ、はっきり言えるのは、おまえと仲良くなった彼女たちは、おまえほど不幸に慣れてはいない、ということだ。いつか不幸が訪れたとき、彼女たちは、きっとひどく傷つくだろう」

モバP「おまえは不幸を味わってきた。たぶん、俺やちひろさんより、ずっと・・・ほたる。そのおまえのこれまでを、おまえに優しくしてくれたアイドルたちのために、役立ててくれ。お願いだ」

モバP「おまえは不幸の兆候がどんなものか、よく知っている。不幸な出来事が起きたとき、どうすべきなのかも、解るはずだ。何度も経験してきたことならば、傷を広げない方法も理解しているはずだ。他のアイドルが見舞われた不幸を出来る限り小さくとどめ、傷を防ぎ、立ち直りを助けてやってくれ。これはおまえにしかできないこと。おまえだけが皆に与えてやれる、幸福よりも貴重な財産なんだ」

ほたる「わたし、だけが・・・」

モバP「残酷なのは承知だ。だが、そんなことをさせてでも、俺はほたるにここに居てほしい。アイドルになってほしい。だから、俺はおまえにこれを頼むことにした・・・頼む。皆を、助けてやってくれ」

ほたる「・・・そうすれば、わたし、皆を助けることが、できますか」

モバP「絶対だ。おまえほど不幸を経験したアイドルは居ない。おまえほど、不幸に立ち向かった経験のあるアイドルは居ない。そうだろう?」

ほたる「そうしたら、わたしは、ここに居ても、いいんですか?」

モバP「そうして皆を守るなら、おまえは何度も自分の過去の不幸を反芻しなくちゃいけない。それはきっと、辛いことだ・・・だが、そうしてでも、俺はおまえに、ここに居てほしい」

ほたる「・・・わたし、やります」

モバP「わたしの不幸が、誰かの役に立つのなら。わたしの不幸が、あのやさしい人たちの笑顔の足しになるのなら。やります。やらせてください」



          ◆◆◆

俺はモバP。
ほたるはあれから、俺の言ったことおり、事務所を守ってくれている。
アイドルとして歌いながら、辛かった昔と何度も向き合って、友達や事務所を守っている。
あれが、ほたるのために正しかったのかどうか、俺には解らない。
いや、きっと正しくはなくて、ほたるは今も傷ついているのかもしれない。
だから俺は、一瞬も逃さずほたるを見守り続ける。
彼女の機微を見落とさないように。
彼女の苦しみを見落とさないように。

それはきっと、彼女を引き留めた俺の責任なのだ。

<了>

以上です。ありがとうございました。

申し訳ありません、一部訂正します

×→モバP「わたしの不幸が、誰かの役に立つのなら。わたしの不幸が、あのやさしい人たちの笑顔の足しになるのなら。やります。やらせてください」

○→ほたる「わたしの不幸が、誰かの役に立つのなら。わたしの不幸が、あのやさしい人たちの笑顔の足しになるのなら。やります。やらせてください」

です。
痛恨のミス…

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