鈴谷秘書艦と新入り不知火 (172)

地の文ありです。
読みにくいかもしれませんが、それでもよければ見てください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492902410

ようやく着いた、横須賀から大湊まで車で1日かけて私は今大湊鎮守府の前に居る。横須賀よりは規模は小さいが、練度は全鎮守府の中で最も高いと言われている大湊。特に、秘書艦をしている航空巡洋艦の『鈴谷』と言う方はその中でもずば抜けていると言う噂を聞いた。とても緊張する、どのような厳しい方なのか、そしてどのような訓練をしているのかとても気になる。


門の守衛に身分証を見せ敷地の中に入っていく。今は午後1時、丁度昼食時なのだろうか外には誰も居ない。が、建物の中からは賑やかな声が聞こえてくる。訓練と休み時間はキチンと分けているのだろう、ますます訓練の内容が気になってきた。


??「おっ、ねぇ君が新入りの艦娘だよね?確か~...不知火だった?」


後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこにはセーターに上着を羽織った翡翠色の長髪の女性。左手にはケッコンカッコカリの指輪が付いている。とてもニコニコしてこちらを見ている、あまり厳しそうではないことから秘書艦では無いと思った。が、それはすぐに否定されることになる。


鈴谷「私は秘書艦の航空巡洋艦または攻撃型軽空母の『鈴谷』、よろしくね」


このようなのほほんとした人が秘書艦だとは思わなかった。最も厳しくキリッとした方だと、思っていた為物凄い騙された気分だ。


不知火「あの、私は貴女が最も強い艦娘だと聞いたのですが」


鈴谷「あはは、ないない。そんなことあったらこの鎮守府はもう潰れてるって」


私の言葉を聞くと、笑われて軽く否定される。確かに陽炎から聞いた出所不明の噂話、信憑性はかなり低い。所詮は噂話かと思い、切り替えていくことにした。


鈴谷「んじゃま、提督のとこに行こっか。執務室に案内するよ」


不知火「はい、お願いします」

案内されるがまま建物の中に入っていく。3階にあるらしく、階段を登っていく。さっさと登り挨拶をして射撃訓練でもしたい。1日も車で座っていたら体が鈍ってしまいそうで怖かった。


鈴谷「はい、ここが提督の執務室。あんまり綺麗じゃないけどまぁ執務室ってことで、ね?」


不知火「は、はぁ...」


秘書艦がノックをするとかなり高い声が聞こえてくる。まさかと思ったが、そのまさかだった。中に入ると、机に書類が山のように積み上がっている。高さから見て1メートル50くらい、これは一人で処理しきれる量なのだろうか。 それに、床にも何個か書類の束が落ちている。山の横から提督と思われる方が一人、そして女性である。


不知火「不知火です。ご指導、ご鞭撻、よろしくです」


提督「あ、君が不知火ね。横須賀のバカから聞いてるわ。最近は襲撃も無いし自由にやってるから、特に厳しい訓練とかもないわよ」


心の中を見透かされた様な言葉が飛んできた。とはいえ、練度が最も高いのは間違いないはず。もう少し聞きたい。

昼食食べたので再開します
間を空けて欲しいとの指摘があったので、文に出来るだけ間を入れていこうと思います。

提督「あ、そうそう。鈴谷、ちょっとこの子のテストをしてきてくれないかしら、どこの艦隊に入れるか考えないといけないから」


鈴谷「ん、軽母か航巡、どっち?」


提督「航巡でお願い」


今思えば、軽空母か航巡、その時に応じて艦種を変えられるのはとても便利だろう。
それに、第二改装の航巡は横須賀に居た利根と筑摩が居た。
最近開発されたばかりの航空巡洋艦『鈴谷』の第二改装の性能、あの二人と比べてみようと思う。


鈴谷「あ、そうだ。不知火だったよね」


不知火「はい、何かしてしまいましたか?」


鈴谷「違う違う、ちょっと固すぎ、もうちょっとやわらかくでいいのに」


と言われても、元からこの固い表情はどうしようもない。
陽炎にも何度も言われ続けた。


出撃準備室に向かうと、先に送られていた艤装が並べられている。
私個人のロッカーの様な設備、この辺りは横須賀の方が進んでいた。


鈴谷「不知火は前どの艦隊に居たの?」


不知火「これでも横須賀の第一主力艦隊に所属していました」


そう、何を隠そう私は横須賀の最前線艦隊、通称『殴り込み』に居た。
突然現れた敵艦隊にも真っ先に突っ込み撃滅する。
自分でも言うのも何だが、陽炎型の中でも最も強いと思う。

鈴谷「そっかー、それじゃあこの鎮守府でも第一艦隊になれるね~」


もちろんこの鎮守府でも第一艦隊の座を狙いにいくつもりでいる。
陽炎型の名に泥を付けぬよう、いつも最前線で戦い続けないといけない。


不知火「いつかは第一艦隊の帰還の座を奪って見せます」


秘書艦はいつも笑顔が消えない。こう言っている時でさえ笑顔で応援されていた。


艤装を装着し、演習海域へ移動した。晴れていて波もない。
風もなく砲弾も素直に飛んでくれるだろう。


鈴谷「それじゃ演習始めよっか、いつでも良いよ~」


お互いかなりの距離をとり、相手の姿が米粒程度にしか見えない。
無線から相手の声がこっちに聞こえてくる。
こちらも準備出来た合図として、空砲を鳴らす。

今日はここまで。
明日に続けます

再開します

駆逐艦の速力を活かして一気に距離を詰めていく。副砲の弾幕が私の行く先を遮り、迂闊に近づくことができない。
ならば弾切れを狙おう、砲弾は無限ではない。


間も無くして副砲の弾幕が止む。
私はその隙を逃さず、面舵一杯で航路を変えた。
魚雷を敵の航路の先へ放ち 、行動可能範囲を絞らせる。


今までもこうして数多の深海棲艦を葬ってきた。
演習だからと言って遠慮はしない。
ここで秘書艦に勝ち、第一艦隊の旗艦の座を奪う。
私は陽炎型として、一番前に立たなければいけないのだ。


だんだんと敵の動きが鈍くなり始める。
私は一気に速力を最大まで上げ肉薄した。
魚雷が近づいてくるが、この速力なら簡単に避けられる。
もう秘書艦の体は5mから10mもう私は、勝利を確信した。


...何て私の確信は一瞬で塵と成り果てる。
再装填を終えた副砲が、再び弾幕を張って私の前に立ち塞がる。
それだけなら回避は容易いが、見えない場所からの爆発に私の体は宙に舞った。
何が起きたのかそのときの私には理解できなかった。


そのまま海面に叩きつけられ、背中に痛みが走る。
うっすらと見えた空、航空機が11機隊列を組んで飛んでいた。
航空巡洋艦をなめていた。
水上攻撃機『瑞雲』、初めて航空火力は恐ろしいと思った。

鈴谷「はい、鈴谷の勝ち♪」


20.3㎝3号砲が私の眉間に当てられている。
どうしようもない、私は両手を上げ降参の意思表示をした。
でも、瑞雲の爆装だけで打ち上げられる爆発が起きるだろうか。


不知火「その瑞雲には何の爆弾を装着させているのですか?」


鈴谷「普通の爆薬を入れた爆弾だけど?」


普通の爆薬だけであんな水柱が立つわけがない。
考えていると1つだけ思い当たる物があった。
さっき回避した魚雷、雷跡が無かった。
酸素魚雷だとすれば、先程の爆発も理解できる。
完全に私の敗北だ。


鈴谷「ちょっと急ぎすぎな感じがするかな~、もう少し落ち着いて戦ったらいいかも」


不知火「...」


納得出来なかった。
こんな負け方をして悔しかった。
上からと下から、駆逐艦なら回避できて当然のものを回避することが出来なかった。

鈴谷「んじゃま、戻ろっか」


不知火「はい...」


負けてしまった。
今まで通りに最前線で戦って私たちの名前を残さなければいけないのに。
このままじゃ、陽炎型の恥さらしと言われてしまっても仕方がない。
余程私が深刻な顔をしていたのだろう。
秘書艦が私の顔を覗き込んで来た。


鈴谷「何々?何か悩み?鈴谷にも聞かせてよ」


秘書艦の笑顔はやはり消えていなかった。こんなに笑顔でいられるなんてと、少し羨ましく思ってしまった。


不知火「何でもありません」


こんな悩み、他人に、ましてやさっき知ったばかりの人なんかに教えられるわけがない。
さっさと鎮守府に戻り、部屋で反省しないといけない。


鎮守府に戻り、司令官の元へ報告しに行った。未だ書類の山に身を隠し、1枚ずつ確実に処理していっていた。

ここまで

再開します

提督「あら、終わったの?」


まだ万年筆の字を書く音が部屋中に響かせながら、こちらへ声をかけてくる。
この報告で私の所属する艦隊が決まる。


鈴谷「ん、鈴谷としては第三鎮守府正面海域哨戒艦隊かな~。皆との動き方を覚えてもらわないといけないし」


提督「鈴谷がそう言うならそうしましょう。不知火を正式に第三鎮守府正面海域哨戒艦隊、『三哨』に
配属とします」


第三鎮守府正面海域哨戒艦隊...当分は鎮守府前の海域を警戒をすることが私の役目となるだろう。
早く活躍をして第一主力艦隊を目指さなければいけない。


陽炎との約束、当分の間は果たすことができないだろう。
でも、いつかは必ず成し遂げる。


不知火「では、失礼してもよろしいでしょうか」


鈴谷「あ、待った待った!まだ部屋の場所言ってないよ!」


そうだ、急きすぎたせいで暮らす部屋の場所を聞くのを忘れていた。それに、艦隊の同じメンバーさえ聞いてもいない。

鈴谷「三硝の待機部屋は、1階の右奥だから皆と仲良く頑張ってねー!」


陽気な声に送られ、何か初めての買い物をする子を送られるような気分になった。


部屋を出て1階へと降りた。もう、食事の時間が終わったのだろう、何人かの艦娘とすれ違い挨拶をする。
部屋まではそこまで遠くなく、2分もかかることはなかった。


部屋の前まで着くとドアをノックした。
すると懐かしい声が中から聞こえる。
ドアが開き、中から出てきた者は横須賀で新入りの頃に一緒になった磯風本人だった。


磯風「不知火か、久しぶりだな」


不知火「ええ、本当に。貴女もこの部隊?」


「ああ、そうだ」と返す磯風の顔は前に比べてかなり凛々しく思える。
何かあったのか、それとも何か覚悟を決めた顔なのか、それは彼女より聞くほかあるまい。


不知火「貴女、少し変わった?」


磯風「私か?確かに変わったかもしれない。でも、この鎮守府に居れば不知火も変わるさ」

ここまで
やはり夜は頭が回りませんね...

再開します

とにかく磯風に部屋の中へ入れてもらった。
どうやら他の子達は昼食に出ているようだ。
服がハンガーに架かって、壁から壁に縄が張られているところに全て洗濯物のように干されている。
それに、ロッカーには名札がキチンと貼られて誰のものか分かるようにされていた。


不知火「他の人達は昼食?」


磯風「ああ、まだ不知火が来たことも聞かされてないだろう」


部屋に帰ってきたら知らない奴がいるのはかなりおかしなことだ。
ここは1度部屋から出て、帰ってきた頃を見計らい訪れた方がいいのか。



磯風は「私から説明する」と言っているが、それでは私が他人と話すのが苦手と言うレッテルを貼られかねない。
それに、この目付きのせいで第六駆逐の電には涙目になられた。


悩んでいると、ガチャッとドアノブの音がして三哨のメンバーが帰ってきた。
「イッチバーン!!」と叫びながら部屋に入ってきて、後ろのまだ部屋に入っていない子に起こられている。
少し声が大きくてうるさい。


??「あれ、初めて見る子が居る?」


磯風「白露、もう少し静かにできないのか?」

後ろから「そうよ」と声が飛んでくる。
白露はこっちを凝視したまま全く動かず、後ろも心配したのかこちらを覗き込んでくる。


??「知らない奴ね、服を見る限り陽炎型の様だけれど」


私にも彼女の服には見覚えがあった。
小学生の様な服にランドセルの様な艤装、朝潮型の艦娘。
髪を左右両側で結び、花飾りがしてある。


白露「まさか三哨にも新しいメンバーが来るとは、これは明日は雨かな?満潮はどう思う?」


満潮「知らないわよ、どうせ左遷かなんじゃないの?」


まぁ、ある意味間違っていない。
試験で敗れて三哨になったのだ、左遷も同然であろう。
あまり言ってはいけないが、早く活躍しなければ落ちぶれてしまうと私は思っている。


磯風「今日からこの三哨のメンバーになる不知火だ、この部屋で共に住むことになるぞ」


不知火「不知火です、ご指導ご鞭撻、よろしくです」

ここまで、平日は2レスずつ更新するようにします。

再開します

いつもの台詞を言って、二人の前で敬礼をする。
相手は一応先輩、上下関係はちゃんと横須賀で叩き込まれてきた。
もちろん服の畳み方や敬礼の腕の角度、艤装の手入れまで仕込まれている。


満潮「そんなに固い挨拶されても何も嬉しくないわよ。もっと普通にしてくれないかしら」


白露「そうそう!私達は同じ艦隊の仲間だからね!」


どうやら大湊では、上下関係はかなり緩いらしい。
あの司令官の教えだろうか、横須賀と違ってかなりやりにくい。


三哨のメンバーに挨拶を終えると、鎮守府内にアラームが鳴り響いた。
鳴り止むと同時に、隣の部屋が騒がしくなりバタバタと廊下を駆け出していくのが分かった。


不知火「...今のは?」


磯風「一哨の哨戒時間だ。哨戒艦隊は4つあり、一哨、二哨、三哨、四哨がある。2時間毎に交代する決まりだ。それに、駆逐艦の私達にも32号電探が装備されている」


大湊は最も北にある鎮守府だからだろうか、かなり哨戒艦にも装備が潤沢らしい。
じっさい、さっきから白露が32号電探を見せつけてきてかなりうざい。
さっきの演習では特に気にしていなかったが、確かに32号電探が装備されていた。


白露「どう、いいでしょ」


ふふんと胸を張ってこちらにドヤ顔をしてくる。
どこかのバカと同じ鬱陶しさを感じた。

不知火「でも、駆逐艦に装備させたら電探の数が足りないのでは?」


満潮「あのバカが電探をたくさん開発したの、お陰でどれだけ出撃に駆り出されたか」


白露「いつもなら空母の人達が出る任務も、駆逐艦が駆り出されたからね~」


空母の代わりに駆逐艦が駆り出されるとは、余程ボーキサイトが枯渇したのだろうか。
いくら資材を節約するとはいえ、駆逐艦を駆り出すとは相当だったのだろう。
横須賀は最も資材が多く搬入されるため、資材が枯渇する何てことは着任してから1度もありはしなかった。


磯風「大湊に異動することになって1年経つが、未だに横須賀が恋しく思う。何より陽炎に会いたい」


白露「磯風が何回も口に出す陽炎って誰?満潮も気になるでしょ?」


満潮「別に誰だって構わないわよ」


不知火「陽炎のことならこの不知火がお答えしましょう」


自慢ではないが陽炎のことなら何でも答えられるかもしれない。
起きる時間や寝る時間、いつもの口癖や行動順序は全部答えられる。

ここまで、もうちょっと読みやすいように頑張ります

再開、りっく☆じあ~すしてサボってました。
本当に申し訳ない

不知火「陽炎は私達陽炎型の長女、戦場ではあまり頼りにはなりませんがとても面倒見が良いのです」


長すぎる説明は色々と文句を言われそうなので、必要最低限のことを説明した。
磯風は何故か苦笑いしていたが、間違いは言っていない筈だ。


磯風「おい不知火、説明が雑すぎるぞ。もう少し詳しくできないのか?」


不知火「ダラダラと説明するよりは簡潔にまとめた方が良いでしょう?」


満潮「そうね、不知火の言う通り。他人の長女の説明を長々と聞かされても退屈なだけだもの、それに興味ないし」


白露「んー、まだ妹の時雨達とは1度も会えてないし...ノーコメントで」


不知火「まだ姉妹艦と会えてないのですか?」


これは驚きだ。確か白露型は10隻全ての艦の艤装が開発完了していると聞いたことがある。
横須賀には夕立と山風が居た。二人とも第二主力艦隊に配属されていた。
誰とも会ったことがないとは...相当縁がないのか...


磯風「私達は確か17人姉妹だったか?今考えればバカみたいに多いな」

不知火「17隻じゃなくて19隻よ。多いのは変わり無いけど」


磯風「2隻ぐらい間違えるさ。それにしてもやはり特型駆逐艦の派生型だから多いのか?」


満潮「そんなこと言ったら私達も特型駆逐艦の派生型になるんじゃないの?知らないけど」


白露「というか吹雪型以降の駆逐艦って全部派生型じゃないの?」


ということは吹雪が私達の一番の長女となるのか?
あんな芋っぽい田舎っ子が私達の長女に?
...あまり考えたくはないが、つまりはそう言うことなのだろう。


...特型駆逐艦は恐ろしい...


満潮「...あんなぼんやりしたのが私達の実の長女?考えられないわね」


白露「なるほど、ならこれから吹雪『お姉ちゃん』って呼ぶ?」


「「「無理」」」


白露「吹雪が聞いたら泣くよ~?」

ここまで
...特型駆逐艦って恐ろしい...

再開します

吹雪のことを話しながら、私はカバンから1本のジュースを取り出す。
いつも横須賀で陽炎からもらっていたレモネード、少し甘すぎる様な感じもするが何ら不満の無い味である。


満潮「あんた、そういや横須賀で第一艦隊だったのよね?」


不知火「ええ、そうですが?」


満潮「私の演習相手になりなさい」


不知火「...はい?」


突然の申込みに、一瞬頭が回らなかった。
が、ちゃんと考えればいい話だろう。
今の磯風に私の戦いかたを見せることができる。


不知火「良いですよ、開始時刻は?」


満潮「30分後よ、演習許可書ももらわないとだから」

そう言って引き出しから1枚の紙を取りだし、『満潮』と『不知火』の名前を書き連ねる。少しばかり文字が崩れ、そこに満潮特有の癖が混じって読みにくい。


白露「別に演習するのは良いと思うけど、誰が審判をやるの?」


満潮「白露に決まってるでしょ、あんたも早く準備しなさい」


白露「えぇ~...哨戒時間までゆっくりしたいのに~...」


磯風「なら私は白露の付き添いをしよう。途中で逃げないためにな」


満潮「それじゃ、これをあのグズに出してくるから」


何故か司令官のことを貶すと、少しご機嫌な様子で演習許可書を貰いに紙を持って部屋を出ていった。
よくわからないまま演習の準備をしていると、白露がめんどくさそうにしてゆっくりと立ち上がる。

ここまで

再開します

白露「めんどくさいなぁ~...何で旗艦の私がぁ~...」


旗艦だったのか...と一言余計なことを言いそうだったが、モチベーションを失われてはどうしようもない。心の奥底にしまい、口のなかにレモネードを含む。


磯風「白露、先に行って準備するぞ。海域の波の様子の確認だ」


白露「えぇ...」


磯風が白露の耳を力強く引っ張って部屋から出ていき、中には私一人だけが残された。とにかく体のストレッチで体を柔らかくなるようほぐしておく。


満潮「よし、許可を取れたわ!」


今度は満面の笑顔で部屋に入ってくる。手には青い演習許可書を持っていた。


満潮「あの二人は?」


不知火「先に演習海域へ、海の様子を」


満潮「そう、まあ良いわ。ほら行くわよ」


私も白露と同じように部屋の外へ引っ張り出された。

出撃準備室へ連れ込まれ、艤装を装備させられる。かなり強引だったが、まぁ問題はないだろう。


満潮「あんたの艤装って黒潮と同じなのね」


不知火「黒潮がこの大湊に?」


満潮「いや、先週舞鶴の方に飛ばされてたわね。会いたかったら、舞鶴に同じように飛ばされたら?」


不知火「なぜ飛ばされたか分かりますか?」


満潮「知らないわよ。何かバカしでかしたら飛ばされるんじゃないの?」


少しムカッとした。
それが顔にも出たのだろう、それか無意識のうちに殺意が目に現れたのか満潮がギョッとした顔でこっちを見ている。


満潮「そんな怖い顔しなくても良いでしょ、軽い冗談よ」


不知火「...そうですか...」

ここまで

再開します

艤装を身に付け、海へと出る。
さっき使ったばかりの艤装は整備が終わってはいないが、大きなダメージを受けたわけではないので一戦ぐらいはどうと言うことはないだろう。
急く気持ちを抑え、指定の位置まで来ると白露の合図が鳴るまで待機する。


磯風『不知火、聞こえるか?』


無線から磯風の声、海上で彼女の声を聞くと選抜試験のことを思い出す。
それに、穏やかな海と肌を撫でるような風はまるで初めて艦娘として海へと漕ぎ出た時のよう。


不知火「ええ、ちゃんと聞こえてるわ。相手はもう準備できたのかしら?」


磯風『そう急くんじゃない。開始はあと一分後だ、それまでちゃんと戦いかたを考えておけよ。満潮はああ見えて、敵を嵌めたりするのが得意だからな』


どうやら一筋縄ではいかなさそうだ。
確実な勝利のためにはどのような戦法でも取ると言うことだろうか。

磯風『さてはて、個人的にこの試合は満潮が勝つと私は踏んでいる』


不知火「私が負けるとでも?」


磯風『残念だが、そう私は踏んでいる』


不知火「一応、理由を聞かせてもらいましょうか」


磯風『何、単にこの鎮守府に来てからの日数が違うというだけさ』


よく分からなかった。が、今の私の実力を侮られているのは分かる。
ならば、この演習で勝って見せつけてやろう。
私の実力を!


磯風『と、そろそろ始まるぞ。まぁ、今の不知火の実力を満潮に見せつけてやれ』


白露『それじゃいっくよー!空砲、ってー!』


演習の開始の空砲が海域全体に鳴り響いた。

次回更新で戦闘シーンあります

再開します

演習開始と同時に、一気に最大戦速まで上げ距離を詰める。さっきと同じ方法だ。駆逐艦は距離を詰め、接近戦へと持ち込んだ方が早い。
どうやら、満潮も私と同じことを考えているようだ。向こうも最大戦速でこちらに迫ってくる。
ならばチキンレースと洒落込もう、どちらが先に航路を変えるか。


お互い全く速度を落とさない。航路も変える気もない。そのまま二人とも目標に向かって進み続ける。


不知火「(来なさい...そのまま...!)」


全く速度を落とさなかった二人は、真っ向からぶつかり金属の甲高い音と大きな水柱が立った。


白露「うわわ!ぶつかったよ!?」


磯風「あれは始末書を書くはめになるな、まあ良いんじゃないか?」


当の二人は、主砲同士をぶつけ睨み合っていた。間に入れば目力だけで殺されてしまいそうなほどである。


満潮「よく逃げなかったわね...!」


不知火「貴女こそ...!」


左腕にサイドアームについている砲を付けると、そのまま満潮の頭に向かって放つ。
すぐに顔を動かされ避けられたかと思うと、右足の膝蹴りが腹部にめり込む。
一瞬、意識が消えそうになるが舌を噛んで何とか堪え、左足で満潮の体と距離を離す。

再び主砲を向け、3発ほど砲撃し2発は外れたが1発は左肩に命中する。演習弾だからそこまで威力はないが、まともに当たれば最悪骨が折れるだろう。
満潮は痛そうに左肩を押さえているが、少し嫌な顔をしただけでこちらへ砲弾を放ってくる。
1発は右肩、2発目は右脇腹、3発目は左膝、4発目は鳩尾に。一発たりとも外れることはなかった。


不知火「うっ...!?ゲホッゲホッ!」


あまりの痛みと気持ち悪さで膝をついてしまう。
負けてたまるかと気合いだけで再び立ち上がり、魚雷を放ち対空機銃で目眩ましをする。
せめて目を潰せればと思うが、掠りさえもしなかった。


満潮「鈍いわね。それでよく横須賀の主力艦隊に居られたわ、その様子じゃ他の陽炎型もただの雑魚みたいね」


ブチッと不知火の頭の中で何かが千切れたような音が響き、目の前が真っ赤になってそこにいる女を殺そうという考えだけで頭の中が染まっていく。


不知火「殺してやる...絶対に...!」


さっきまでの痛みは完全に引き、狂ったかのように満潮に突進する。


満潮「ふん、いい加減諦めなさいよ!」


満潮が全弾命中させ、勝利を確信した。
が、それは間違いだったと不知火の姿を見て思い知った。


磯風「っ!白露!今すぐ不知火を止めるぞ!」


白露「えっ、ほえっ!?」


不知火は満潮を飛びかかり首を掴んで目一杯力を込める。爪が肌に食い込み、血が溢れ出す。


満潮「ぐっ...かはっ...!」


磯風「不知火!止めろ!!」


磯風と白露が不知火を羽交い締めにして満潮から引き剥がす。歯を剥き出しにし、唸り声を上げる不知火の姿はまるで獣の様だった。

ここまで

再開します。
個人的には陽炎と不知火のカップル大好きです。

磯風「落ち着け不知火!私だ!」


磯風と白露に引き剥がされた不知火は、自我が戻ってきたのか唸り声が止まり剥き出しにしていた歯もいつの間にかいつもの状態に戻っている。


満潮「ゲホッゲホッ…!!」


首を絞めていた手は離れ、ダランと力なく垂れた。


不知火「…磯風?」


磯風「ふぅ、一段落ついたな」


白露「はひぃ~…不知火怖ぁ~」


不知火から解放された満潮は何度も咳き込み、目からは涙が出ている。不知火は悟った、自分が何をしたのかを。


満潮「…ったく、いきなり首を絞めることは無いでしょ…」


不知火「…すみません」


深々と頭を下げ、誠心誠意を込めて自らのした過ちを謝る。おそらく磯風が止めなければそのまま絞め殺していただろう。


満潮「いいわよ、元は私があんたを煽ったりしたからだから」


お互い蟠りが出来ずに済んだことは本当に良かったと思う。まぁ、それよりも嫌なものが出来てしまったが…

鈴谷「良い友情かな~」


磯風「ひ、秘書艦殿!?」


どこからともなくいきなり現れた秘書艦に驚きつつも、すぐに立ち上がり敬礼をする。本人は堅苦しい敬礼を嫌っているようだが、仮にも軍人の私たちは最低限の規律は守らなければいけない。


鈴谷「さっきの演習勝手に見てたのは先に謝っとくね。それで、不知火」


不知火「はい」


鈴谷「鈴谷が来た理由、分かるよね?」


分かっている。私の爪に付いた血と皮、自分で首を絞めていたことを示しているかのような証拠が残っている。


満潮「待ってください!」


満潮が割って入り、先程の弁明を始めた。


満潮「確かに不知火は私の首を絞めました。ですがその原因は彼女を煽ったことにあります!せめて、私にも同じような罰を!」


鈴谷「んー、そだねぇ。なら二人には1週間昼の1時から3時まで廊下の掃除をしてもらおっか」


不知火「…そのような罰で良いのですか?」


鈴谷「もっとキツイ方が良い?」


不知火「い、いえ!」

ここまで

再開します

鈴谷「んじゃ、適当に切り上げて鎮守府に戻ってきてね~」


笑顔で私たちに手を振って鎮守府に戻っていく。だが、誰がどう見ても目が笑っていなかった。 あれは怒らせたらいけない人だ。


不知火「…目をそらせばやられてました」


磯風「ここの秘書艦は見かけによらずかなり怖い。怒らせるようなことはするなよ?」


不知火「肝に命じておきます」


白露「帰ろ帰ろ♪ここにいてもしょうがないし、次の哨戒の時間までゆっくりしたいし」


私達は鎮守府への帰路についた。

~~執務室~~


鈴谷「たっだいま~」


提督「お帰りなさい、視察はどうだった?」


鈴谷「問題なしだね、でも不知火のことだけ気にかけといて」


提督「というと?」


鈴谷「あの子から昔の私の匂いがする」


提督「確かに、それは要注意人物ね」


鈴谷「ちょ、ひどくなーい!?」


提督「ふふ、冗談冗談。それじゃ、書類手伝って」


鈴谷「はいはい」

ここまで

再開します

部屋に帰ってきた四人は哨戒の時間まで、それぞれのベッドでくつろぐことにする。が、さっきのことがあったせいか、全然落ち着けない。


白露「あぁ~、疲れたぁ~…」


磯風「白露、そんなに疲れたのなら寝ろ。まだ哨戒まで仮眠できるぐらいの時間はある」


白露「ん、お休み~」


数分も経たない内に白露の寝息が聞こえ始めた。流石に早すぎるだろうと思ったが、旗艦の仕事はそんなに忙しいのか。


満潮「全く、全然仕事しないくせに寝ることだけは一人前なのね。なんて白露が旗艦なのかしら、それなら磯風がやった方が良かったじゃない」


…どうやらダメみたいだ。


磯風「そう言えば白露が戦うところはまだ見れてないな。旗艦になるくらいだ、それぐらい強いんだろう 」

不知火「なるほど、この辺りには深海棲艦そんなに出てこないのね」


磯風「そうだな、あんまり出てこない。というより横須賀に獲物を横取りされてるからな。こっちにはほとんど出てこない」


聞いていて少し胸が痛くなった。同時に納得もいった、横須賀の担当範囲の広さに。横須賀は太平洋側ほぼ全域、北側と南側まで手を回していたため大規模作戦の時の艦娘の疲労もすごいことになっていた。


満潮「あんたたちもいい加減寝なさいよ。哨戒で倒れても知らないわよ」


磯風「そうだな。少し寝るとしよう」


部屋の電気を消し、窓のカーテンも閉めて部屋の中を暗くする。この部屋だけ夜が来たみたいだ。

ここまで、また夜にでも

再開します

次に私が目を覚ましたのは二哨の抜錨サイレンだった。一哨の時と同じように廊下からドタドタと走る音が聞こえてくる。


不知火「…目が覚めました…」


磯風「奇遇だな、私もだ。あんなに騒がしくて寝ていられるわけ無い。ただ…」


白露「……zzZ」


満潮「朝潮お姉ちゃん…」


二人はまだ寝ている。白露は寝息として、満潮は何やら寝言をいってるようだ。


磯風「あの二人は違うようだ。どうだ不知火、久しぶりに走り込みでもしないか?」


不知火「ええいいわよ」


ベッドから起き上がり外出の用意をし、運動靴を取り出す。荷物からジャージを取り出し走る前に軽い準備運動をする。

部屋を出、軽く外周を走ることにした。とは言え、鎮守府の外周ともなると一周だけでかなりの距離があり、トレーニングにはちょうどいい。


磯風「ふふっ、横須賀じゃ立ち入り禁止区域が多かったからあまり広々と使えなかったが、大湊ならほとんど無い。存分に走れるぞ♪」


不知火「良いわね、なら今から一時間走り続けましょうか」


磯風「上等だ」


走り出していく二人の姿を鈴谷はバッチリと見ていた。まるでストーカーだとでも言われそうなものだが、今の彼女には不知火を見張る義務がある。なにか仕出かさないように。


鈴谷「ふむふむ、仲間関係は大丈夫と。なら後はチームワークだね」


評価を用紙に書いていき、最後に一言コメントを書いておく。

ここまで

再開します

走り終え、結構疲れた。寒かったからそこまで汗はあまり出なかったが、それでも暖まった体が気温で徐々に冷えていく。


磯風「戻ろう、そろそろ準備だ」


不知火「もうそんな時間…早く戻りましょう」


駆け足で寮の中に入って部屋に向かう。今は何時何分かは分からないが、早く支度をした方が安心できる。一応は1時間走るつもりだったが、走り終えた時の時間はわからない。


白露「お帰り~どこ行ってたの?」


私たちが部屋に帰ってきたら既に二人は起きていた。どうやら身支度をしているようで、ポケットの中にゴソゴソと飴を入れている。


不知火「走っていました、それよりもなぜ飴をポケットに?」

白露「ほら、旗艦は頭使うし道中での糖分回復ってことで」


1つ口の中に入れて転がし甘さを楽しんでいる。

満潮「ここの旗艦はいつも飴を持っていっているのよ。呆れたでしょ」

呆れたというよりは、飴をなめている余裕があるかと思った。戦闘中は砲雷撃戦だけに集中しているので、飴なんてなめていたことなんてない。


白露「いいじゃん、しょっぱい風に当てられて甘いのが恋しくなるもん。そうだ、不知火にも1個あげる」


イチゴ味をもらった。イチゴよりもブドウの方が好きだが、もらったものに文句は言えない。


不知火「ありがたくもらっておきます」


白露「さってと、先にいって待ってるね。まだちょっと眠いから向こうで寝てる~」


磯風「なら、私たちがそっちにいったら叩き起こしてやる」


白露「あはは~、それは勘弁願いたいね~」


やたら言葉が伸びている。本当に眠そうだ、でも向こうで思いっきり爆睡されるのも迷惑だ。

ここまで

再開します

磯風「あれが私たちの旗艦だからな。だが、安心しろ、やるときはやる」


不知火「そうじゃなければ、旗艦にはなってないでしょう」


旗艦になるには相応の指揮能力と、判断力、そして戦闘力が必要となってくる。白露にはそんな能力があるようには思えない。


満潮「ほら、白露が寝る前に早く行くわよ。本当に寝かねないわ」


磯風「それもそうだ。不知火、早く行こう」


不知火「はい」

足早に出撃準備室に向かう。そんなに時間は経っていない筈だが、到着するとロッカーを背にして寝言をいっていた」


白露「飴がいっぱいだぁ…」


満潮「本当に寝てんじゃないわよ!!」


白露「あいだぁ!?」


満潮がキツ目のげんこつを頭に食らわせる。ゴッと鈍い音が響いた。


白露「っ~!そんな強く殴らなくてもよくない!?」


満潮「準備室で本当に寝るバカがどこに居るのよ!!」


白露「ここにいるよ!!」


自慢気に自分に指を指してドヤ顔している。イラッとしたのか、今度は腹部に重い一撃をくらわせた。


白露「ぐふっ…さ、流石満潮…重い一撃…!」

ここまで

再開します

お腹を押さえて床にうずくまる。満潮がため息をつきながら、ロッカーを開け艤装の準備をし始める。磯風もまるで何もなかったかのように、ロッカーに向かっていく。三哨ではいつもの事なのだろうか。
疑問に思いながらも、面倒なことに巻き込まれるのは嫌なのでさっさと準備を始めることにする。


磯風「不知火も白露の扱いになれてきたな」


不知火「扱いというか放置でしょ?」


磯風「そうだな、まぁうちの旗艦は基本あんな感じだから気にすることはない。寧ろ…そらっ!」


白露「ひぎぃ!?」


横腹を蹴られて更にうずくまる。流石にやりすぎなのではと思ったが、その顔は赤くなり息は荒くなっていた。…まさかのドMでしたか


不知火「えぇ…?」


磯風「見ての通りだ。本当にこれが三哨の旗艦だと思うと恥ずかしくなる」

白露「ふ、ふふ…妹達には見せられない醜態…良いね…!」


満潮「バカ言ってる暇があったらさっさと準備しなさいよ!」


横ではいろいろゴチャゴチャしてるが、気にせずに早く準備をしよう。構っていては、哨戒に支障が出る。…どうやら私はとんでもない部隊に配属されたようだ。でも、1つ分かったことがある。


不知火「頭を殴れるのは嫌なのにお腹は良いんですか…」


磯風「知らん、謎のこだわりがあるようだ」


腰に艤装を着け、サイドアームと主砲がちゃんと動くかを確認する。只でさえ海にいる私たちには錆は天敵である。そんなことをしていると、鎮守府内にアラームが響き渡った。


満潮「ほら、交代の時間よ。行くわよ、ダメ旗艦」


白露「よっし!第三鎮守府正面海域哨戒艦隊、抜錨します!!」


海に飛び出して行く。今日の海は凪いでいる。雲もほとんどなし、まさに晴天。絶好の哨戒日和である。

ここまで
白露可愛い、愛でたい。

再開します

数分、海を走ると前方から二哨のメンバーが帰ってくる。何度か戦闘があったのか、各々の艤装がボロボロになっている。


霞「ほら、交代よ。ったく、今日は運が悪いわ」


白露「ちょちょ、何かあったの?」


霞「やたら深海棲艦の斥候が多かったの。おかげで燃料も弾薬もカツカツよ」


白露「まぁ、交代だから休んでなよ」


霞「ええ、そうするわ。二哨は鎮守府に帰投!後は三哨に任せるわよ!」


疲れきった二哨のメンバーはフラフラの体で鎮守府へと帰っていく。


磯風「今日は会敵が多そうだ。不知火、初出撃は忙しそうだぞ」


不知火「構わないわ、沈められるだけ沈めるのみよ」


磯風「ははっ、その通りだ」


主砲に弾を込める。魚雷もいつでも撃てるようにし、電探を使い索敵を密にする。


白露「全員、第四戦速。もしかしたら深海棲艦が二哨を追って来てるかもしれないから、砲雷撃戦の準備してね」


満潮「はいはい、一隻たりとも見逃すんじゃないわよ」


未だ海は凪いでいる。電探に反応は無し、目視でも敵影は確認できない。

白露「あっ、飴が無くなった。二個目食べちゃお」


満潮「ちょっと待って、さっきまで真面目にやってたのにもう切れたの?」


白露「んー、何か口に含んでないとやってられないんだよねぇ」


さっきまで真面目だったのが台無しである。まぁ、さっきの白露の言っていたことは正しく、電探に12隻の深海棲艦連合艦隊が写った。


白露「12隻?ちょっと多いなぁ、皆やれる?」


磯風「この中に戦艦がいるとして、ちゃんと魚雷が当たれば十分やれるな」


満潮「追っ払うだけなんだから、さっさと済ませるわよ」


磯風「不知火、いけるか?」


不知火「ええ、いつでも」


だんだんと敵艦隊との距離が縮まって、目視でも確認できるほどまでには近づいている。


白露「まぁ、ちゃちゃっとやっちゃおっか。全員突撃!」


「「「了解!!」」」


一気に速度を上げ、魚雷発射管を敵艦隊に向けた。

次回戦闘回です。
多分上手く書けないとは思いますが、出来るだけ頑張ります

再開します

駆逐艦は接近して魚雷を叩き込むのが本懐、それにそもそも接近しないと主砲が届かない。どうやら向こうの射程範囲に入ったようだ、まだ米粒程の大きさの敵艦から幾つかの光が一瞬輝いて消えた。


白露「回避行動!」


私たちの周りに大きな水柱がたった。大きな波で体のバランスを崩され狙いがよく定まらない。無理にでも前へ進み距離を詰める。


白露「魚雷良い!?撃って撃って!」


酸素魚雷が敵に向かって跡も残さず進んでいく。当たれば万々歳、当たらなくても牽制にはなるだろう。そろそろ主砲が届く距離にまで近づく。


白露「砲戦用意!目標敵護衛駆逐艦!撃てー!」


私の主砲が火を吹いた。最大限まで改装・改造された私の艤装、駆逐艦も沈めるのなんて容易かった。

放たれた私の砲弾は見事敵の弾薬庫に命中し爆発して沈んでいった。白露たちの砲弾も命中した様だ。合わせて4隻が沈んでいく。相手もやられているだけではない、こちらを沈めようと砲弾が飛んでくる。


私たちは何てことなく全弾回避した。戦艦からの副砲が鬱陶しいが、先程放った酸素魚雷が戦艦に命中し、火の塊となって沈んでいった。


白露「敵戦艦撃沈!残党狩りだよ!」


軽巡も中には居たが、私たちの一斉射で沈んでいった。エリートやフラグシップではないから、沈めるのなんて容易かった。まさに弱いものいじめだった。残りの駆逐艦を沈め戦闘はたった2分で終わってしまった。

途中用事て一度抜けました。
申し訳ありません。

再開します

再び哨戒に戻る。突然右腕に軽い痛みを感じ左手で軽く擦ると少し大きな鉄の破片が刺さっている。引き抜くと血がダラダラと垂れるが、痛みは艤装のお陰かそれほどなかった。おそらく先程の砲弾の破片が飛んできたのだろう、これくらいいつもの事だと割り切る。


磯風「不知火、何をやっている?」


声をかけられ前を向くと三人の姿が少し小さくなる位距離が離れていた。傷に意識が向いて速度が落ちていた様だ。速度を上げて三人の元へ追い付くが、傷口を押さえていた手袋が血に染まっていた。


磯風「おい、出血してるじゃないか。大丈夫か?」


不知火「これくらい何ともないわ。それに傷口ならそろそろ閉じるわ」


艤装の効力でさっきの傷はほとんど閉じている。出血も止まりこれ以上傷口を押さえ続ける必要はない。左手を自由にし、哨戒を続ける。


白露「まぁその傷ぐらいなら大丈夫だね。ならもう少し遠くの方まで行こっか」


海図と羅針盤を使って航路を決める。少しずつ鎮守府から離れているのか、これまでの航路で分かった。

特に何事もなく私たちは海を走り続けた。戦闘があった事が嘘のように海は静まり返っている。これからまた少し経って、三哨のメンバー全員に無線が入った。


提督『あーあー、三哨の皆。聞こえてる?』


満潮「ええ、ちゃんと聞こえてるわ。さっさと言ってくれないかしら、こっちも暇じゃないのよ」


無線の向こうでゴホンと咳払いをするのがわかる。


提督『さっき鎮守府に来るはずの輸送船団から連絡が来てね。そこから東に10㎞程ね。申し訳ないんだけどそっちの方に行ってくれないかしら。どうやら羅針盤が狂ったらしいわ』


羅針盤が狂う。深海棲艦出現してから海自体の磁場や海流がおかしくなった。それによって羅針盤がおかしな方向へ向いたりその場で回り始め、加えて海流の突然な変化によってどこか別の海域に向かってしまうことを羅針盤が狂うと言う。


白露「あちゃー、狂っちゃったか~。ならしょうがないね」


提督『それに、その輸送船が向かった先の海域は深海棲艦がよく出る海域なの』


磯風「分かった。旗艦。早く向かうぞ」


白露「んじゃ、出発!」


予定していた航路を変更し、東へ向かうことにする。

ここまで

再開します

海の上を走り続けて5分、輸送船団の反応が電探に写る。冷たい海風を顔で感じながら更に海を走り続けて、輸送船団の旗艦へ連絡をとる。それは、白露の仕事なので、私たちは辺りの警戒をしていよう。


白露「んじゃ、ちょっとみんな黙っててね。さてとっ…『あー、あー、こちら大湊鎮守府所属、第三鎮守府正面海域哨戒艦隊、旗艦白露。前方の輸送艦隊応答せよ』」


『こちら大湊行き輸送船団、艦娘か助かったよ。それと、そんなに堅苦しくなくて良いぞ』


白露「『いえいえ、こちらも軍人なのでそうはいきません。とにかく大湊鎮守府まで護衛しますから、少し遠回りをして大湊まで行きましょう』ということで、ちょっとだけ危ないから守ってね?」


満潮「はいはい、旗艦の考えに従うわ。そこの二人もそうよね?」


磯風「かまわない」


不知火「右に同じ」


白露「んじゃ、まずは船団と合流するからね」


第三戦速に変え船団へと近づく。空は雲行きが怪しくなり始め、雨が降るかと思っていたが代わりに雪が降ってきた。

白露「あちゃー、雪降ってきたかぁ~。不知火は知らないかもだけど、この辺りの海域って雪が降り始めると狙ったかのように霧が出て来るんだよねぇ」


磯風「それに合わせて面倒なことに霧が出てくると深海棲艦の動きが活発になってな、やたら接近戦を仕掛けてくるから厄介なことこの上ない」


不知火「そう、鎮守府から応援を頼むので?」


白露「うーん、一応頼んどこうか。四哨にでも来てもらおうか」


白露が鎮守府と無線を飛ばし、念のために応援をお願いしている。だんだんと海には霧が立ち込め始めいき、30メートル先さえ見えなくなってきた。


不知火「…本当に霧が濃い。はぐれないように…」


羅針盤を見ながら航路を合わせる、はぐれないようにと考えてゆっくりとついていった…筈だった。


磯風「おい、満潮。面白いことを教えてやろう」


満潮「何よ」


磯風「実はな、不知火はビックリするぐらいの方向音痴なんだ。電車の乗り場を教えてもなぜか反対方面に行き、歩けば歩くほど目的地から離れる。流石に建物の中や何度も行ったことのある場所なら、迷子にならないんだがな」


満潮「ちょっと待ちなさい、ならあいつどうやって大湊まで来たの?」


磯風「おおかた、横須賀の司令官に車でも手配してもらったんだろう」


満潮「んで、その不知火はどこ?」


磯風は周りを見回すがどこにもいない。とにかく、視認できる範囲には居なさそうだ。


磯風「…」


満潮「…嘘でしょ」

ここまで、おっちょこちょいの不知火っていいと思うんですよ。

再開します

霧の中、ゆっくりと航路を確認し続けていると、周りから他の3人の声がしないことに気がついた。先程よりも酷くなった霧は、10メートル先さえも見せてくれない。空から降ってくる雪が私の頬を、まるで痛め付けるかのように冷やす。

電探を見ても3人の反応はない、前方に輸送船団が居たはずなのに反応が1つもない。自分の居場所も分からないまま、とにかく羅針盤を使えば輸送船団には合流できるだろうと思い、南東に進路を向ける。それにしても酷い霧だ、訓練生だった時に文献でみたキスカ島の様だ。


不知火が居なくなってかれこれ10分は経つ、合流した輸送船団から離れることは出来ず、かといって不知火を見捨てることは出来ない。

磯風「白露、ちょっと良いか?」

白露「??どしたの?」

磯風「不知火、私が探してきてもいいか?」

そう言うと白露は少し難しい顔をした。分かっている、たった1人のために輸送船団護衛任務から離れるのもおかしな話だ。だが、白露は笑顔になって

白露「うん、良いよ」

許可してくれた。実際のところをいうとあまり許可されるとは思わなかったのだ。

磯風「良いのか?任務から離れるんだぞ?」

白露「私と満潮が居ればなんとかなるって、もしかして旗艦が信用できない?」

磯風「いや、今回限りは信用させてもらおう。見つけ次第、お前たちに合流する。先にいっててくれ」

白露「あいよー」

ここはどこだろう、段々と目的の場所から離れている気がする。それに、霧が晴れないせいか今どちらを向いているかわからない。さて、どうしたものか…

不知火「ん…?」

1つ、電探に反応がある。ゆっくりとだがこちらに近づいている。相変わらずの霧で姿は見えない、艦娘か深海棲艦か…

磯風「よし、居た居た」

不知火「磯風?私ははぐれていたのね…」

磯風「全くだ。ほら、早く向かうぞ。この縄を持て、はぐれないようにな」

不知火「ええ」

1本の縄を腰に巻き付け、外れないようにする。

磯風「よし、行くぞ」

不知火「了解」

ここまで

手袋に染み込んだ血がまだ乾き切っていなかったのだろうか。握った縄に血の痕がつき、ベッタリとへばりつく。

磯風「不知火、腕の傷は大丈夫か?」

不知火「もう治ったわ。なぜそんなことを?」

磯風「いや、また血が出てるからな」

不知火「え?」

腕を見ると、さっきと同じ傷の場所から再び大量の血が出ている。傷口が開いたのだろうか。こぼれ出る血を手で止める。

磯風「艤装の調子が悪いのかもしれないな。戻ったら司令官に言ってみたらどうだ?」

不知火「そうね、そうするわ」

幸い傷口はまた閉じて、血も完全に止まった。そろそろ白露たちと合流できるだろうか。

白露『あー、あー、不知火と磯風、聞こえてる?』

無線から白露の声が聞こえる。

磯風「ああ、きこえるぞ。どうした?」

白露『そっちは見つかった?』

磯風「見つかったぞ、今そっちに向かってる」

白露『なら、早めに合流してね。提督に心配かけたくないし』

磯風「了解だ。不知火、行くぞ」

最大戦速で海原を駆ける。

不知火たちがこちらに向かっている頃、白露と満潮は優雅な船の旅を楽しんでいた。電探には自分達以外の反応が全く映らず、輸送船団から襲われたという連絡も来ない。

満潮「静かね、このまま何事もなく鎮守府に帰りたいわ」

白露「まぁね、鎮守府まであとちょっと。提督に連絡いれよっと」

無線を繋ぎ、提督にそろそろ入港することを伝えようとする。

白露「あーあー、こちら三哨旗艦白露。入港許可を求めます」

返事は帰ってこない。無線自体は繋がっている。今は席をはずしているのだろうか。このままだと輸送船団を入港させることができない。

鈴谷『あーえっと、提督代理の鈴谷だよ』

白露『秘書艦?提督は?」

鈴谷『何か上から呼ばれて出かけちゃった。要望なら私が聞くけど、何かあったの?』

白露「輸送船団の入港許可を求めます」

鈴谷『なるほどね。良いよ、輸送船団入港し次第三哨も入港して良いよ』

白露「ありがとうございます。ふぅ、満潮輸送船団に連絡しておいて」

満潮「はいはい」

長いようで短いような二時間だった。とにかく今は入港させることを考えよう。

ここまでです

再開します。

白露「満潮、輸送船を案内してあげて」

満潮「はいはい、辺りの警戒よろしく」

満潮が輸送船を率いて鎮守府に向かう。電探に反応はなく、波も穏やか。これほどまでに航行しやすい海があっただろうか。ただ、この視界を遮る霧と降り続ける雪さえなければ。こんなに酷い霧は着任したとき以来だ。

時計で時刻を確かめる。そろそろ哨戒の交代時間、まだ不知火を迎えに行った磯風も帰ってこない。とは言え、先に帰るのは旗艦としての名が廃る。

白露「遅いなぁ、そろそろ満潮が入港し終えるってのに」

ふと電探を見ると、反応が2つこちらへ向かってくる。ピッタリとくっついて離れず、それに少しだが艦の海を走る音が聞こえてくる。

白露「磯風…?おーい、磯風ー!」

必死に二人の方向へ呼び掛け、返事を待つ。それを聞いたのか、反応がさっきよりも早くこちらへ向かってくる。ようやく帰ってきたと安堵、気を抜き迎えに行こうとした。だが、霧から出てきたのは二つの黒い塊。

白露「っ!?」

白露は寸での所でイ級との衝突を回避、すれ違い様に砲弾を2発撃ち込みこれを沈めた。背後から迫るもう1体からの砲弾を避けきれず1発被弾、左肩を損傷し艤装の排煙部分がおしゃかになったが、主砲を持ち換え赤く光る目を撃ち抜きこれを撃破する。
残骸が火と煙をあげ、まるで狼煙のように空高く昇っていった。

白露「いったぁ…もう、紛らわしいなぁ」

肩に砲弾の破片、そして火傷の痕。かなり痛々しいが鎮守府に戻りさえすれば、こんな傷すぐに治る。

磯風「おい白露!大丈夫か!?」

声をかけられて白露が顔を上げるとそこには磯風と不知火の姿があった。

白露「ったく…二人とも遅いってば」

磯風「すまん、鎮守府に戻ろう」

不知火「すみません、これも不知火の落ち度のせいです…」

白露「いいよいいよ、それよりもさっさと入渠したいなぁ」

二人は白露を支えるようにして航行する。

港へ戻ってくると先に満潮が帰投しており、四哨が交代で海に出ていった。白露が体を伸ばし艤装を背負ったまま入居場へと向かっていった。

満潮「まさか、輸送船団のお守りまでしなきゃいけないなんてね」

不知火「…」

満潮「ほら、落ち込まない。初出撃でこの濃霧、慣れてる私たちでさえ迷うんだからしょうがないわよ」

不知火「いえ…」

必死でフォローしてくれてはいるのだろう、でも初出撃でこんなに恥を晒してしまったのだ。このままだと陽炎に会わせる顔がない。

満潮「はぁ…不知火、ちょっとこっち向きなさい」

不知火「…何を」

両頬を勢い良く挟まれて結構大きな音が響いた。頬がヒリヒリする。

満潮「そんなに気にしたってなにも変わらないわよ。それよりも嫌なことなんて忘れて、さっさとご飯食べて寝た方が有意義よ」

不知火「…そうですかね」

満潮「そうそう、あとその敬語やめて。同じ駆逐艦に敬語を言われるとなんか落ち着かないわ」

不知火「…分かった」

満潮「よろしい」

ようやく手を離してくれた。未だに頬がヒリヒリする。どれだけ強く挟まれたのだろう。

ここまで

再開します

磯風「おい不知火、メンテナンスの準備ができたぞ」

満潮「何かあったの?」

不知火「艤装のメンテナンス、少し調子が悪いので」

満潮「そう、ちゃんと治してもらってきなさい」

磯風の元へ向かうと口に手を当てて、肩を揺らして笑っている。少しイラッとするが、気にせず工廠に向かいたい。

磯風「し、不知火…その頬は…プフッ…♪」

不知火「…笑わないで」

磯風「こんなの笑うに…プフッ…」

何度も吹き出す磯風に咳払いをして笑いをやめるよう促す。昔の私であったら拳で磯風の顔を殴っているところだろうが、今の私はそんなことはしない。衝動をグッとこらえ気持ちを鎮めようと努める。

磯風「悪い悪い、それにしても艤装の不調か。ハッキリとした故障なら修理もしやすいだろうに」

不知火「環境の変化での故障…それとも劣化…」

少し考えながら歩いていると、誰かと軽く肩がぶつかりよろめく。

不知火「あっ、申し訳ありません」

頭を下げて謝罪すると、相手の足が止まる。

??「…ん…あぁ…」

眠そうな顔をして歩いていく。頭をあげて少しだけ見えた相手の顔を見ると、驚いてしまいえっ、という声を出してしまった。聞こえなかったようで、そのまま歩いていってしまった。

不知火「…磯風、あの人って」

磯風「あぁ…吹雪だな。あいつあんなんだったか?」

そのまま歩いていく吹雪の姿を良く見ると、髪はボサボサで荒れており後ろで結ばれているはずの髪も結ばれていなかった。

不知火「人の裏って…分からないものね…」

磯風「そうだな…さて、ここが工廠だ」

鉄の重たい扉を開けて中の様子を伺う。装置の稼働音が鳴り響き、唯一の工作艦の明石がいた。

不知火「明石さん」

明石「あ、不知火ちゃん。久しぶりだねぇ」

あったのはかれこれ1年前ほどだっただろうか。彼女はたった1人の工作艦ということもあってか、各地の鎮守府と白地を転々としている。装置の修理と艤装のチェック、彼女が言うには「もう10人同じ体があればなぁ」だそう。

明石「それで、二人で何のご用かな?」

不知火「艤装のチェックをお願いします。少し具合が悪いようで…」

明石「ん、見せて」

背負っていた艤装を床におくと、艤装をゆっくりと分解し始める。

ここまで

再開します

明石「んー…おっ?」

何かを見つけたように声を上げると、缶を取り出しさらに奥まで手を滑り込ませる。こちらからでは何が起きているかは分からないが、故障の1つでも見つけたのだろうか?

明石「あったあった。これが故障の原因だね」

そう言って1つの大きな鉄の破片をこちらに見せてくる。

明石「これが艤装の奥深くまで入り込んでたせいで上手く機能しなかったみたいだから、後は軽い修理で直るよ」

不知火「ありがとうございます」

明石「良いよ良いよ、こっちで元の場所に戻しとくから」

不知火「はい、それでは」

ひとまず故障が治ったことに安堵する。横からニヤケ顔で小突いてくる磯風に、鳩尾へ肘を入れるとそのまま工廠を後にし廊下へ出る。

磯風「さ、流石に…鳩尾はダメだろう…!」

不知火「自業自得」

そのまま廊下を歩いていると、向かいから駆け足で駆逐艦娘がやって来る。かなり急いでいるのか額に汗を滲ませ呼吸を乱していた。

磯風「し、白雪…な、何を急いでるんだ…?」

白雪「磯風さん!吹雪を見ませんでしたか!?」

磯風「それならさっき不機嫌そうに向こうに歩いていったが…どうかしたか?」

白雪「いえ!それでは!!」

もうダッシュで廊下の向こうへ消えていく。何人かすれ違った艦娘は不思議そうに眺めていた。

不知火「白雪は確か舞鶴所属だったような」

磯風「確か新人時代の時、初演習で舞鶴としたとき居たな」

そんな昔の事を、自分でも良く覚えていたと感心する。

磯風「まぁ、異動なんてどこでもあることだろう。現に私たちがその異動してきた艦なんだからな」

不知火「それもそう、ね」

磯風「さて、次は白露の様子を見に行こうと思うが、不知火はどうする?」

不知火「ついていくわ」

磯風「ならこっちだ。早く向かおう」

不知火「えぇ」

今日だけで鎮守府内を行ったり来たり、今日中に敷地内を探索するつもりはなかったがついでに済ませられたと思えば、ちょうど良かっただろう。

ここまで

再開します

ドックへの道は磯風が丁寧にわかりやすく教えてくれた。意外と重たい扉を開け中に入ると、奥のベッドで白露が寝ていた。傷はすっかりと治り、いつでも退室できるようになっていた。

白露「やぁやぁ2人共、さてはお見舞いかな?」

嬉しそうににやけ、切られたリンゴを口へ運ぶ。既に誰かが来た後のようだ。

磯風「どうやら見舞いに来なくて良かったみたいだな、帰るぞ不知火」

白露「わー!待って待って!」

必死に袖にすがり付くと、犬のように顔を擦り付ける。犬かと言いたくなったが、既に2人の犬達が居るのを思い出すとその言葉を奥底へ封じ込めた。

白露「せっかくだからリンゴ剥いていってよ。皮を切るの苦手でさぁ」

不知火「それなら私が」

ナイフを手に取りリンゴの皮を薄く剥く。昔、数多くのリンゴの皮を剥いてきた経験を活かす時がまさかこんな時だとは思わなかった。こんなスキルを身に付けてさせてくれた陽炎には感謝しなければいけない。

磯風「へぇ大したんだ。それは陽炎姉さん絡みか?」

不知火「ご明察、流石ね」

磯風「ふっ、あの陽炎姉さんの事だ。どうせ風邪でも拗らせて寝込んだんだろう」

リンゴの皮を剥き終わると蔕を取り除き、8等分にして種を取る。皿に盛り付けると、ベッドの台に置いておく。当の白露は剥いた後の皮を両手で広げていた。

白露「おぉ~~~!すごーい!」

磯風「ここまでリンゴの皮は長くなるのか。すごいな」

そこまで誉められると嬉しい。2個目のリンゴを剥こうと手を伸ばしたとき、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。

鈴谷「やっほー♪」

磯風「ひっ、秘書艦殿!」

すぐに立ちあがり敬礼をする。苦笑いを浮かべながら椅子に座るよう促す。…前も磯風は同じ様な驚き方をしていたような気がする。

鈴谷「もー、堅苦しいのは良いってば。それよりも不知火に用事があるんだけど、良いかな?」

不知火「はい、分かりました」

ドックの外まで連れ出され、1つの手紙を手渡される。

鈴谷「はいこれ、横須賀の陽炎からね。流石は長女、次女への手紙も怠らないねぇ♪」

不知火「…今読んでも?」

鈴谷「部屋に戻ったらね、それと廊下の掃除しなくてもいいよ。みんな使う廊下の筈なのに埃1つ無いからね。これ満潮にも伝えてあるから~」

私は、掃除が消えた嬉しさよりも陽炎から来た手紙が気になって仕方がなかった。

不知火「…」

鈴谷「あれ?もしもーし?聞こえてる?」

不知火「…っ?」

鈴谷「あ、帰ってきた。ということであとはおねがいね~」

まだ多少ボーッとしている私の脳ミソを動かせるために、顔を両手で叩きシャキッとする。既に秘書艦はいなくなっていた。

ここまで

再開します

手紙をポケットへしまい込むと、白露のベッドに戻る。それほど時間は経っていない筈だが、既に白露はベッドから降りあくびをしながら体を伸ばしていた。

白露「いや~、やっぱり体を動かさないと鈍るね~。変にベッドで寝るもんじゃないや」

磯風「流石は体力バカだな、訓練でもするか?」

白露「良いね!さっさと満潮も呼ばないと!」

磯風「そうだな。不知火、満潮探してきてくれるか?」

不知火「はいはい、と言ってもどこにいるか」

磯風「それなら桟橋に行ってみろ、暇なときはそこで海を見てることが多い」

不知火「なるほど、それじゃ」

桟橋、私たちにとっては出撃と帰還する最も大切な場所。そこに心が釘付けにされるような娘は少なくはない。実際、私自身も桟橋から動かないことがあった。

ドックを出て、外へと出る。あまりさっきまでの雪は止んでいたが、曇りっぱなしで空気は冷えっぱなしだ。吹き付けてくる風を手で防ぎながら、前へ進む。

外に人は誰もいない。それもそうだ、こんな悪天候に好んで出るような物好きはいない。

歩いていくとようやく海が見えてきた。木の桟橋は改めて見ると小さくかなりボロボロだが、これを見ると安心するのは艦娘としての性なのだろうか。

桟橋にはただ1人、満潮が足を海へ投げ出して座っている。ただ、悲しげな表情を見るとこちらまで不安になってくるのはなんだろう。

不知火「満潮」

満潮「…不知火?何?」

不知火「白露が訓練をすると言っています」

満潮「そう、分かったわ。ったく、人に頼らず自分で呼びに来なさいっての」

そう言った彼女の目の下は赤く腫れている。泣いたあとなのだろうか。息は少し荒い。

不知火「満潮、ちょっと良いですか?」

満潮「何?白露達が待ってるんでしょ?」

不知火「その目、どうしたのですか?」

満潮「放っといてよ、ほら訓練するんでしょ」

彼女は駆け足で白露達のところへ向かっていく。その後についていき、ドックへ再び向かう。

ここまで

再開します

ドックに戻ると、白露は既にベッドから降りて柔軟をしていた。磯風が後ろから、背中を押して胸が太股についている。

白露「おかえり~…アイタタタタタッ!」

磯風「もう少し静かにしろ。もっと痛くするぞ」

白露「ちょっとは手加減をしてってば…!」

磯風は今もグイグイと背中を押し、前屈のまま白露は痛みで呻いている。その割りには上半身はピッタリと下半身にくっついている。

満潮「何やってんのよ」

磯風「見ての通り、白露の柔軟だ」

白露「アイタタタタタッ!」

相変わらず痛そうな声をあげている。それにしても柔らかい体だ、これだけ柔らかければ十分だろう。

不知火「申請書はありますか?」

磯風「問題ない、ここにある」

そう言って申請書をヒラヒラと見せつけてくる。満潮が横から奪い取ると、机に備え付けてある鉛筆で名前を書いていく。

白露「んじゃ、申請書出してくるから艤装の用意しといてよ。備品の準備もよろしくねー!」

白露はドックを出て走っていく。磯風はやれやれといった表情でこちらを見てくる。

磯風「どうせ白露の事だ。準備が終わった頃を見計らってこっちに来るつもりだろうさ」

満潮「いつもの事よ。不知火もあんな奴の部隊に配属させられるなんて幸薄いわね」

不知火「慣れることにします」

満潮「それが一番よ」

クスクスと笑うと全員でドックを出る。風は先程よりも弱くなり、多少は楽になるだろう。

廊下を歩いていると、吹雪を背負った白雪が向こうから歩いてくる。熟睡しているのだろうか、体を完全に白雪に預けガクンと首が垂れていた。

磯風「やぁ白雪、吹雪は見つかったみたいだな」

白雪「えぇ、ありがとうございます。白露さんが走っていきましたが、今から訓練か何かですか?」

磯風「体が鈍って仕方がないそうだ。旗艦の命令に従うのは随伴艦の役目だからな」

白雪「それなら、私達もお手伝いしましょう」

磯風「良いのか?」

白雪「吹雪の場所を教えてくれたお礼です。最善を尽くさせていただきます。ほら、吹雪」

吹雪「んぅ…何…」

白雪が吹雪を揺らして起こす。まだ眠そうな目を擦りながら背中から降りる。

白雪「訓練のお手伝いですよ」

吹雪「分かった…準備してくるね…」

ヨタヨタとたどたどしい足取りで準備室へと向かっていく。

不知火「あの、あれは大丈夫なのですか?」

白雪「今は寝起きですが、ちゃんと眼が覚めれば戦えますから」

ニコニコと返事をされ、こちらからの返しに困った。今思えば、吹雪型がその後の駆逐艦の派生元、その一番艦の戦い方はどういうものなのだろうかとても興味がある。

白雪「それでは私も準備してきます。また後で」

吹雪の後を追って白雪も準備室へ向かう。私達もさっさと準備をしてこよう。

廊下を歩いていると様々な艦娘とすれ違った。皆、ノビノビと過ごしていてとても生活しやすそうであった。読む機会を失った陽炎からの手紙は、夜寝る前に読むことにする。

満潮「今更だけど、あんな吹雪を見るの初めてね。あれが本性だったりするの?」

磯風「いや、さすがに違うだろ。あれは眠いだけに違いない…そうだよな?」

不知火「いや、知らないけど」

謎の胸騒ぎに私達全員が襲われた。吹雪には芋くさい田舎娘というイメージがあり、それが定着してしまっていた。

磯風「ま、まぁ、何だって良い。それよりも訓練だ、訓練!」

満潮「分かってるわよ。何でそんなに大声出してるのよ。周りに迷惑でしょ」

満潮のごもっともなお叱りが出たところで、白露が戻ってくる前に準備を済ませられるように駆け足で準備室に向かう。

ここまで

再開します

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準備室に着くとロッカーの中の艤装を取り出す。ちゃんと破片も取り出されたようで新品のように綺麗だった。

磯風「流石工作艦、明石万々歳だな」

不知火「あの人が居なかったら私たちはマトモに出撃できないでしょうね」

砲塔と魚雷管を装着する。仰角を変えて動作を確認する。どちらもスムーズに動くことを確認すると、機関を背負いアームの調整をする。

満潮「調子良さそうね」

不知火「はい、今度こそちゃんと動いて見せます」

満潮「なら任せたわよ」

水面に足をつける、浮力も問題なくそのまま立つことが出来た。少し進んでみると痕跡はちゃんと残っており、どれだけ移動したのかも確認できる。

満潮「というか不知火、あんたまた敬語になってるわよ」

不知火「すみません」

満潮「ここまで敬語が出るなら癖ね。磯風には普通だから陽炎型以外には敬語になるのかしら?」

この敬語はどうしようもない。訓練生時代からの癖で陽炎型の一部以外には敬語で話していて、陽炎や黒潮に手伝ってもらったが治ることはなかった。

満潮「まあ気にしていてもしょうがないわ。不知火の喋りやすい様にしゃべればいいわよ」

不知火「そうします」

艤装の準備を終え、訓練用のペイント弾を装填し試し打ちとして備え付けの鉄棒に向かって発砲する。問題なくインクは鉄棒にへばり付き、無事に撃てることを確認する。

訓練海域に移動すると、吹雪が準備を進めていっていた。テキパキと進めていき、ほぼ準備できていた。

磯風「おーい、白雪。来たぞ」

白雪「あ、皆さん。こちらは吹雪の1個が終われば準備完了です」

磯風「こっちは白露が来れば準備完了だ」

白露「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃジャーン!」

最大速力でやって来た白露は急旋回で私たちに海水をぶっかけて止まった。シャツが海水で張り付く。

満潮「何してんのよこのバカ!」

白露の頭を勢いよくしばくと、濡れたスカートを絞っていた。

白露「ごめんごめん、それで白雪たちも訓練するの?」

白雪「いえ、私はお礼として皆さんの訓練をお手伝いさせてもらうだけですから」

白露「そうなの?」

磯風「ああ実はな…」

白露に事の経緯を伝える。何度かクスクスと笑って白雪が手伝ってくれることを喜んでいた。

白雪「それじゃ、私はこの的を動かしますから訓練開始の合図に空砲を1発ならしてくださいね」

そう言うと白雪はロープを持ち的を動かす。最後の一個に吹雪が結び終えると、大きなあくびをして白雪と同じように的を引っ張っていく。

白露「私が陣形を言うから、それに合わせて艦隊行動してね」

磯風「了解、旗艦殿」

白露「それじゃ、いっくよー!」

1発の空砲が辺りに鳴り響き、訓練の開始を告げる。

全員一斉に速度を上げ、まずは基本の単縦陣から始める。第四戦速での航行を始め、目標の的まで距離を詰める。白雪がこちらを確認すると、逃げるようにして動き始める。

白露「目標前方!初弾、撃て!」

各々から放たれたペイント弾は放物線を描いて飛んでいく。的には2発、満潮と不知火が放ったペイント弾が命中した。次弾の装填を急ぎ、魚雷管も目標に向ける。

白露「命中弾、夾叉確認!各自修正、次弾用意、撃て!」

2斉射目は7発が命中、1発が的を越えて少し後ろに着水した。すぐさま白露から次の命令が飛ぶ。

白露「単縦陣から複縦陣に変更!最大戦速!」

2列目の私が白露の横に行き、さらに速度を上げる。白露の顔にはいい笑顔が浮かんでいた。

白露「2個目行くよ!右砲戦用意、各自の判断で撃て!」

最大戦速のせいか体が揺れ、狙いが定まるのはまだあとであった

ここまで

再開します

体の揺れが収まってきたのを見計らい、狙いを定め的を撃ち抜く。すぐに体を向きを変えて次の的に向かう、吹雪が引っ張る的はチョロチョロと小刻みに震えかなりうざったい。速度をあげ、限界まで近づき初弾で命中させる。

不知火「よし、このまま…」

突然頭部を誰かに叩かれる。頭を押さえ振り返ると満潮が怒った顔でこちらを見ていた。

満潮「急ぎすぎ!実戦だったら死んでるわよ!?」

不知火「え?」

白露たちの方を見るとかなり距離があり、白露が笑っているのが見える。白雪達も苦笑いをしているようで道具を引き上げてこちらに向かっていた。

白露「あははは、まさかそんなに先々行かれるとは~…」

不知火「すみません…」

何故か今日は謝ってばかりのような気がする。このままでいいんだろうか。

白露「1回動き合わせるところからやろっか。先にやれば良かったかな」

磯風「あれだ、前の鎮守府の艦隊の動き方が身に付いてるからこっちに慣れてないんだ」

白露「でも、さっきの哨戒の時は迷子になった以外はちゃんと出来てたよね?」

磯風「…しらん!」

満潮「とりあえずやればいいでしょ。出来たら他に原因があるんだから」

白露「それもそっか。不知火、準備いい?」

不知火「問題ありません」

気持ちを切り替える。気にしていてはしょうがない、さっさとこちらに慣れなければ。

白露「それじゃあ輪形抜いた4つやろっか。白雪達もやる?」

白雪「そうですね、吹雪はどうしますか?」

吹雪「わ、私は食べ損ねた昼食の分を食べたいからいいかなって」

白雪「そうですか、それじゃあ私たちはここで。続き頑張ってくださいね」

二人は使った的を戻るついでに持ち帰っていった。

ここまで

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