白菊ほたる「諦め切れないはずの夢」 (14)

白菊ほたるちゃんの誕生日記念&総選挙応援SSとして書きました。

こちらで書かせていただくのは初めてですがよろしくお願いいたします。

独自解釈・独自設定・コレジャナイ感等々ありますのでご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492533237


「はぁ……」

今日もオーディションに落ちてしまいました。
所属していたプロダクションはいくつも倒産し、今のプロダクションに所属させていただいてから早数ヶ月。
レッスンと平行しながらいくつかのオーディションも受けさせてもらっていますが、まだ良い結果はありません。

ふと見つけた公園に入り、ベンチに座ります。
空を仰いでみると、太陽がこれでもか、というくらいに輝いています。
それは、私にはとてもまぶしすぎて……。

腕を伸ばし、手のひらでそれを遮ります。
その手を握ってみても、掴めるものは何もありません。



この日、私のプロデューサーさんは他に担当しているアイドルの付き添いをしているため、オーディション会場が近かった私は一人で事務所に帰ってきました。

「ただいま戻りました」

「あ、ほたるちゃん。おかえりなさい」

事務所にはちひろさんがいました。

「ほたるちゃん、悪いんですけれど、今からお留守番頼めますか?ちょっと出かけなければいけなくなってしまって」

「は、はい。大丈夫です」

「ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いしますね」



また、一人になってしまいました。



「ただいま戻りました!」

本を読んでしばらく待っていると、プロデューサーさんが戻ってきました。

「おかえりなさい、プロデューサーさん」

「あれ?ほたる一人だけか?ちひろさんは?」

「ちひろさんは出かける用事ができてしまったそうで、私がお留守番を頼まれたんです」

「そうか。ありがとうな、ほたる」

「い、いえ…」

「それで、今日のオーディションはどうだった?確か即日発表だったよな」

それは、できれば聞かれたくないことでした。
でも、聞かれるのはわかっていましたし、答えないわけにもいきません。

「はい……。その…今日もダメ、でした。…すみません」

「そうか…」

プロデューサーさんが、残念そうな顔をします。
私は、その顔を見るたびにとても申し訳なくなります。

私のせいで…すみません。

「でもまぁ、次があるさ!」


「次がある」
その言葉を、何度聞いたことでしょう。

最初のプロダクションでそれを2回聞いたあと、その「次」はありませんでした。

次のプロダクションでは1回目のあと、もうその「次」はありませんでした。


「…なんて……」

「ほたる?」

「"次"なんてありませんよッ!!」

「っ……」

まるで、自分の口が自分のものではないように、勝手に言葉を吐き出します。

「前も、その前も、そうでした!『"次"頑張ればいい』とか『また"次"がある』とかそんなことばっかり!本当は、"次"なんてないくせにッ!」

「ほたる……」

「プロデューサーさんも、そう思ってるんですよね?私には未来(つぎ)なんかない、疫病神なんだ、って!」

「ほたる!」

めちゃくちゃに叫んでいた私の身体は、そっと何かに包まれました。

「ほたる、すまなかった…。いっぱい心配かけたな……」

プロデューサーさんの腕に包まれながら、涙があふれ出てきてしまいます。

違うんです……プロデューサーさんは悪くありません……
私の不幸のせいで……私が悪いんです……

そう言いたいのに、口から出てくるのは嗚咽ばかり。

「ほたるには、"次"を目指してほしい。次っていうのは、未来っていうのはそんな悲観して見るもんじゃない。"未来"は目指すべき目標なんだ」

プロデューサーさんの手が、私の頭をそっと撫でます。

「だから、一緒に頑張ろう。ほたる」

「…っはい。プロデューサーさん」


--------



あれから、ほたるは大きく成長した。

大きな仕事はまだ少ないが、ドラマの脇役やゴシック系の衣装のモデルなど、コツコツと経験を重ねていった。

ほたるは、今までレッスンを中心に行ってきたため、ボーカルやダンスの基礎はしっかりしており、仕事さえとれれば、その実力をいかんなく発揮してきた。
しかし、撮影などの仕事だけは多少苦労していた。
ほたるは、自分のことを不幸体質だと言い、実際に多くの不幸な経験をしてきている。
そのためか、眉毛がいわゆる「困り眉」でほとんど固定されてしまっているため、表情を作るのに苦労しているようだ。

ある時、ほたるがこう言った。

「私って、暗いですよね……。いいんです、よく言われてますから」

それに対し、俺はこう言った。

「なら、もっと笑顔の瞬間を増やしていこう。趣味なんだろ?笑顔の練習」

「練習は、今でもしてますけど、やっぱり難しいです。どうしても悲しげな微笑みになってしまって……」

「それでいいじゃないか。確かに仕事によってはにっこりした表情が必要な時もあるが、そういった表情が必要な時だってある。ま、アイドルとしていろんな表情ができることに越したことはないけどな」

「そういう考え方も、あるんですね」

「ついでに、ほたるがよく言ってる『不幸体質』とやらも、考え方しだいというか気の持ちようだと思うぞ」

「そう、ですか?」

「ああ。例えば、外出したときに財布を家に置いてきてしまったことがあるが、その時はこう思ったんだ。『財布を置いてきたおかげで余計な買い物をせずにすんだ』ってな。こういうこと、ほたるにもあるんじゃないか?」

「…そういえば、天気予報が雨だったので折りたたみ傘を持って出かけたら、一日中お天気だったことがあります。あの時は予報が外れちゃって不幸だな、としか思ってませんでしたけど、よく考えれば、お天気なことはいいことですもんね」

「なっ?そういうもんなんだって。何事も考え方しだいだ」

「そう、思えるようになりたいですね」



それ以降、ほたるは少しずつではあるが前向きになっていった。

「プロデューサーさん。私、最近思うようになったんです。今まで私が不幸だったのって、プロデューサーさんに出会うために幸運を使い果たしたんじゃないかって」

「そうか。それじゃあ、これからその分の幸運をいっぱい取り戻さなきゃな!」

俺は、ほたるの期待に応えるため、熱心に営業に回った。

今でもオーディションなどは、不運によって受からないことが度々あるが、それなら直接仕事をとってくればいい。

最近では、ほたるの悪評よりもその実力が評価されることが多く、そこそこ大きな仕事をとってくることも難しくはなくなってきていた。

それでもなお、ほたるのことを偏見の目で見るスタッフは少なくない。

今日も、営業で向かった出版社でほたるの名前を出したとたんに、やれ「疫病神」だの、やれ「不幸がうつる」だのと散々言われてしまった。

俺は、それが自分のことのように悲しかった。



こういう嫌なことがあった日は、決まって自宅で酒を飲み、すべてを忘れることにしている。

しかし、今日は残業があり事務所に遅くまで残らなければいけない。
最悪泊まりになる可能性もある。

俺は少し迷ったが、事務所の近くにあるコンビニに行くことにした。

もう夜遅く、他の社員や事務員は帰宅してしまったため、事務所にはもう俺しか残ってない。

酒を飲んで少し仮眠をとってスッキリしよう。

自分にそう言い聞かせながら事務所に戻り、缶を開けて酒を飲む。
チビチビと飲んでいるうちに、俺の意識は段々と闇に飲まれていった。



--------



お財布を、事務所に忘れてきてしまいました。

確か今日は私のプロデューサーさんが夜遅くまで残業をすると言っていたので、恐らくまだ事務所は開いているでしょう。

外から事務所の窓を見てみると、明かりがまだ点いていました。

一度事務所に電話をしよう、と思ってすぐに、携帯も一緒に忘れてきてしまったことを思い出しました。

運良く開いていた裏口から事務所の中に入ることができました。

プロデューサーさんがまだ中にいるはずですが、カギを閉め忘れているのでしょうか。



プロデューサーさんがいるであろう部屋に、ノックをしてから入ります。

「プロデューサーさん?」

声もかけてみますが、お返事はありません。

近寄ってみると、どうやら寝てしまっているみたいです。
机の上にお酒の缶があるので、どうやらそれを飲みながら眠ってしまったようです。

お財布と携帯をとって出て行こうとする私の耳に、プロデューサーさんの声が聞こえました。

「プロデューサーさん?」

振り向いてみると、どうやら寝言のようです。

「なん、で…ほたるが……んな目に…」

私の夢、でしょうか?

「ううっ……」

今度はすすり泣く声も聞こえてきました。

プロデューサーさんが泣いているところを、私は初めて見ました。

いつもあんなに笑っているプロデューサーさんが、私のために泣いている…?

「きゃあっ!」

私は動揺した拍子に、何かにつまづいて、盛大に転んでしまいました。

「うあっ!?」

その音で、どうやらプロデューサーさんも起きてしまったようです。

「だ、大丈夫か?ほたる」

「は、はい…」

「というかなんでこんな時間に事務所にいるんだ?」

「ええっと…」


私は立ち上がり、経緯を説明します。
プロデューサーさんの寝言と、泣いていたことは伏せて、私がこっそり帰ろうとしたら転んでしまったことにしました。

「じゃ、じゃあ私は帰りますから…」

「あ、もう遅いから俺が送って…いけねえわ。酒飲んじまった」

「だ、大丈夫です。一人で帰れます」

「って言ってもなぁ、もう終電間に合わないぞ」

確認してみると、確かにもう間に合わない時間でした。

「ど、どうしましょう…?」

「仕方ない、ほたるは仮眠室を使いなさい。俺はソファで寝るから」

「ええっ、でも」

「アイドルをソファで寝かせるわけにはいかないからな」

「わ、わかりました。プロデューサーさんも、寝るときはちゃんと横になってくださいね」

「わかったわかった。きりのいいところまでやったら俺も寝るよ。じゃあ、おやすみ」

プロデューサーさんは笑ってそう言いました。

「おやすみなさい」



私はこの日、プロデューサーさんの涙を初めて見ました。

プロデューサーさんも、私と同じように泣くときもあるんですね……。

そして、起きてから私に見せた笑顔。
いつも見るプロデューサーさんの笑顔。

私も、あんな笑顔ができるようになりたいと、そう思いました。



それからしばらくして、私はある音楽番組のオーディションに参加させていただくことになりました。

その番組は、新人アイドルのオーディションの段階から撮影をし、合格者は後日、生放送の番組内で歌を歌う、といった内容でした。

このオーディションの段階から撮影が始まっているとあって、控室には緊張感が漂っています。

「あら、あなたも来てたのね」

そう私に声をかけてきたのは、以前同じプロダクションに在籍していた方でした。

「お久しぶりです」

「あなた、まだアイドル辞めてなかったのね」

「はい。私の夢はトップアイドルになることですから」

私がそう言うと、彼女は笑いだしました。

「あははっ!あなた、疫病神のくせによくそんなことが言えたわね。私が落選したのもあなたのせいだわ!」

どうやら、彼女は惜しくも落選してしまったようです。
でも

「私は、信じていますから」

私の幸運を使い果たしてまで出会った、私のプロデューサーさんを。

「私は、諦めませんよ」

そう言って彼女の目をまっすぐ見ます。

「ッ…これ以上話してると不幸がうつりそうだわ!」

彼女はそう言うと、そそくさと立ち去ってしまいました。



オーディションの結果、私は無事生放送の出演権を獲得することができました。



数日後、私はプロデューサーさんと一緒に、生放送のための楽曲について打ち合わせをしています。

というのも、私はまだ持ち歌がないので、カバー曲から選ぶことになっています。

「俺は、この曲がいいと思うんだけど」

そう言ってプロデューサーは一つの曲を紹介しました。
聞いてみると、すこしアップテンポな曲。
今まで私があまり歌ったことがない曲調でした。

「私に、歌えるでしょうか?」

「ほたるになら歌えるさ。それに、俺はこの曲がほたるにぴったりだと思うんだ。特に歌詞がな」

プロデューサーさんから渡された歌詞カードを見ます。

「これ……」

「な、ほたるにぴったりだろ?」

「は、はい。私、頑張って練習します!」


そして迎えた生放送本番。

私は、ステージの袖で出番を待ちます。

「緊張してるか?」

「はい。でも私は進んでいくと決めましたから」

「そうか」

「はい」

私はこのステージで、私を応援してくれているファンの方に、そして私に光をくれたプロデューサーさんに、伝えなければならないことがあります。



「ありがとうございましたー!次は、白菊ほたるさんです!曲は――」

とうとう私の出番になりました。

曲が始まり、私は精一杯の気持ちを込めて歌います。


たとえ心無い言葉で私の夢を笑われたとしても
たとえ長い闇に夢を遮られたとしても
一つの光、それを信じ続けていれば
夢を諦め切れるはずなんてありません。


今日の間奏で、私は叫びます。

「私は、きっとトップアイドルになってみせます!たとえどんなに不幸だとしても!」


客席から、歓声が沸き上がります。

しかし、まだ曲は続きます。

私は力の限り歌い続けます。



ラストのワンフレーズを歌い切り、曲が終わります。

「ありがとうございました!じゃあほたるちゃん、最後に何か一言!」

司会の人に促され、私は再びマイクを持ちます。

「私は、みなさんに伝えたいことがあります!」

客席を見つつも、ちらりと袖に目をやることも忘れません。

深く息を吸い、そして一言。

「本当に、ありがとうございます!」

私はそれだけ言い、深々と頭を下げました。

今までとは違う意味での、お辞儀。

長い、長いお辞儀の後、私は袖にはけました。



「おかえり。ほたる」

「はいっ!」

私はプロデューサーさんに抱きしめられながら、その腕の中で確かに思ったのです。

私は幸せだ、と

以上になります。

ありがとうございました。

このSSが、ほたるの総選挙応援の一助になればと思います。

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