閻魔「よくぞ参った…死神諸君」【安価】(79)




ドプッ



……此処は、何処? 目が、染みる…




ゴポッ…



……息が、出来ない

……上手く動けない…いや、泳げない?

……何かが全身に纏わり付いて、気持ち悪い…




ホワッ…



……? 頭を上に向けた時、僅かに瞼の内側が白っぽくなった

……光?

あそこを、目指せば…!

ザバァッ!



やっと…外に出られた

まだ目は開けられない…
けど、肩から頭だけは圧迫感から解放された

ただこのまま気を抜いたら、自分の身体はまたすぐ肩から下のモノに沈む

何処でもいい。とにかく、進まなきゃ…




それから数分は経ったと思う

多分下手くそであろう泳ぎと手探りのみで、運良く固い地面らしきものに辿り着く事が出来た


げほっ!げほっごほっ!おぇっ!

ドボッ、ベチャッ


すぐに自分は、口や鼻の中に詰まった泥状のモノを吐き出す
苦しい…痛い…


???「……」


…? そこに、誰かがいる?


バサッ


その瞬間、自分の頭に何かが覆い被さる

この感触は…少しザラつきはあるけど、程よい大きさの布? 拭けって事でいいのだろうか?


???「……」


目の前にいるであろう誰かは、何も言わず、そこから動く気配もしない

とりあえず自分は見えない相手に軽く礼だけを済ませ、この布で顔から足の先までこびり付いた泥状のモノを急いで拭き取る



また数分後、全身が先程よりはすっきりした
そろそろ目も開けられそうだ

自分に布をくれた相手の姿をしっかり見て、もう一度礼を言わないと


目を開けた自分の前には…

↓1 誰がいた?

①老人
②大男
③子供



老人「……」


目の前には、老人が立っていた

老人の格好は、一言で言えば"和服"
昔の農民が羽織っていたような服を、色が落ちた後もボロ切れになるまで着尽くした感じだった

身体は自分よりもほんの少し小柄に加えて、一見非常に痩せているように見える
しかし服の隙間から見える胸板や腕の太さを見ると、見た目からしての年齢の割にはしっかりとした筋力の張り(?)がある

そしてしわくちゃで仏頂面をした頭には、薄く多少長い髪と髭を生やしている
どちらも薄汚れて灰色になったような白をしていた

あ…ぬ、布。ありがとう…ございます

老人から感じる威圧感のようなもので吃ってしまったが、自分は拭いた布を一旦畳んで手に取り、もう一度その老人に感謝した
出来れば洗える場所で洗ってから返したいくらい、その布は灰色に濁った泥で塗れていた

老人「……」グイッ

しかし老人は、自分が使った布を奪い、地面に叩きつけように捨てた

そして、捨てた布よりも遥かに大きな布を自分に渡して来た

老人「……何もないと寒いだろ。それを纏ってさっさと付いて来な」

わ、分かりました…

老人「ったく、忙しい身だってのに…なんでこの儂が…」




老人「何で儂の近くで…」ブツブツ

老人「何で罪人でもない奴を…」ブツブツ

老人「何で儂じゃなくてアイツを行かせなかったんだ…」ブツブツ


言われた通り自分は歩く老人の後を付いて行くが、未だに彼はブツブツと文句を垂れている
多分…いや、その殆どが自分に対しての内容だ

全裸で泥塗れだった自分に拭く物と纏う物を渡しておいて、これらの文句を叩く
明らかに老人のさっきまでの行動と今の言葉に矛盾が生じてるので、彼には悪いがおかしな男としか思えない

このちょっとしたイラつきを少しでも紛らわす為、歩きながらゆっくりと周囲の風景を視察してみた



???「……苦労を掛けた。礼を言う、懸衣翁」


少し時間を置いて甲冑姿から発せられた声は、とても低くて渋みのある男の声だった

そしてこの老人は懸衣翁(けんえおう)という名前らしい


老人→懸衣翁「全くだ馬鹿野郎が!何で儂の管轄にこいつが出て来た!?」

???「……それは私も分かりかねる。しかし、例え小さな規模の泥沼からでも産まれるという事はこれで明白となったな」

懸衣翁「んなこたぁ関係無え!こちとら暇じゃねえんだ!さっさと連れ行きやがれ!」

???「……請け負った。あの老婆にも宜しく伝えてくれると有り難い」

懸衣翁「伝えた所でアイツの頭の血管が切れるだけだわ阿呆が!今働いてるのはアイツだけだからな!其れに引き替えそっちは楽でいいよなぁ~…指導官様よぉ!」

甲冑の人に罵詈雑言を浴びせ終えた懸衣翁は、荒々しい足取りで来た道を引き返していった

あと、さっき言ってた指導官って…


???「……迷惑をかけたな、申し訳ない」

い、いえ。何だかんだあの人からは拭く物と着る物を貰ったので

???「……いや、彼奴では無く泥沼から救い、保護をするのが本来私の役割だったからだ」

???「……そして私の管轄外の場所から貴殿が現れ、その場所の管轄であるあの老人に一時的な保護を頼み…現在に至る」

そうだったんですね
あ、そういえば名前は…

???「……私に明確な名は存在しない。指導官とだけ呼んでくればそれで良い」

分かりました、指導官さん

???→指導官「……さんは要らぬが…まぁ、しばらくは良い」

指導官「……突然だが、貴殿にはこれから私と共に"とある場所"へ移って貰う」

指導官「……色々と問いたいのは其方の方だとは承知している…しかし其方の求めている全ての答えは、その"とある場所"で全て得られる筈だ」


確かに…この世界は何なのか、自分はこれからどうすればいいのか、まず自分はこれからどうなるのか

まだ何1つ分らない

本心を言えばまだこの人を完全には信用してないけど、自分1人でいるよりこの世界に詳しい人といる方が、まだ安全だ


指導官「……しかしその前に、私からの3つの問いに貴殿は嘘偽り無く答えて貰う」


……分かりました。受けます


指導官「……では、問う」

↓1 ……森林・海原・人街。この中で1つのみ貴殿が訪れるとしたら、何処だ?

↓2 ……大いなるもの・相応のもの・小さきもの。この中で1つのみを得るとしたら、貴殿はどれを選ぶ?

↓3 ……苦痛を恐れるか?嘘偽りじゃ無ければ良い。好きなように自身の言葉で答えて頂こう




指導官「……ふむ…確かに聞いた。礼を言う」


指導官さんから出た質問は、3つとも単純ながら意味深な要素を含んだものだった

でも一応感謝はされてるし、どの答えも嘘は全く付いてない
上手く答えられたと思う


指導官「……では、約束通り連れて行こう」


そう言った後、何故か指導官さんは人差し指の先を自分の額に向け…


トンッ


…ほんの僅かな力で1回突いてきた



グルンッ


っ!?

突かれた瞬間、自分の身体が勢い良く真後ろへ倒れていく
でも痛みは全く感じなかった。まるで後頭部が地面に吸い寄せられているようだ


自分の手足で支えようにも、全身が麻痺でもしてるかのように自由が利かない
指導官さんは一体何をしたんだ?
このままだと頭から肩、肩から背中の順に潰れてしまう


こんな事を考えてる内に、もう後頭部は地面に到達する

それでも自分の耳は…その時の彼の声を聞き逃さなかった



指導官「…  …  ま  た  後  程  会  お  う」

自分はこの後訪れる痛みに備える

……が、

             ・・・・
そのまま自分の背面は地面に激突せず、いきなり視界が真っ暗になった

いや、背中から耳…耳から両目…両目から鼻の先までが、まるで地面の中へ一瞬で溶け込むように地中をすり抜けたのかもしれない
そして地面を踏んでいた足の裏は見えない何かで固定されたまま

そして全身が地中へ

まるで自分が高速で進む時計の針にでもなったように、物凄く勢いのついた回転で後方へ引っ張られ続ける




気付いた時には、既に景色が変わっていた…



ガヤガヤ


???「うわっ!?」コテッ


ガヤガヤ


???「ちょ、ちょっと!びっくりした~っ!

???2「ん?」


ガヤガヤガヤガヤ


???2「おいそこの嬢ちゃん、尻餅なんか着いてどうした?」

???「いやこの男の人が!ここの床からいきなり飛び出して来たんだよ!」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ


???2「床から?んなもん一体どうやって…

???3「あら?見た感じお仲間さn……ってあなた、何かぼーっとしてない?」



ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ


???4「おにいちゃんだいじょうぶ?」手フリフリ

???5「ちょっと君、意識はあるかい?」肩トントン

???6「…んー?そこの美形さぁーん。何かありましたぁー?」

???5「え?いや、どうやらこの男性が…


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ



あの赤黒い空は?
あの荒野のような地面は?
あの臭みのあった空気は?


そしてこの空間は何だ?
そしてこの人混みは何だ?


今度は何処だ?



最初に自分を心配してくれた数人には、とりあえず「大丈夫です」と伝えた
その後驚いた気持ちを落ち着かせながら、ゆっくり今いる場所から移動し、人混みの中を歩きながら状況を確認してみた

そして少しだけ分かった事がある


1つ……自分含めてここの人達は、ある建物のある部屋らしき空間にいる

とても高い天井と途轍もなく長い四方の壁には、橙色と黒色を背景に、生傷の絶えない全裸の男女が…角を生やした赤色・青色・黄色の男女から様々な拷問を受けている…
そんな様子の絵が一面に描かれていた
何本もの足で埋もれて分かりにくいけど、多分床にも描かれてると思う

あと、床から天井の半分ぐらいの高さまである分厚い扉が1つ



2つ……ここにいる人達の会話を拾ってみると殆どが初対面で、皆も自分と同じく部屋を見回るついでに色々な人と情報交換をしてるらしい

そのせいで行き交いが激しいけど、お互いにちゃんと立ち止まって交換をしてる人や、何故か雑談を交わしてる人や、壁に凭れかかっているだけの人もいた

成人を迎えた男性、女性、男の子、女の子、妙齢の男性、女性、老人、老婆…年齢もバラバラだ




…でも

真っ白な髪

真っ白な肌

布1枚を纏った格好

そこだけは皆同じだった



……多分自分も、同じ姿なんだろう…






パシィンッ!!





っ!!何だ!?



ザワザワz………


ザワザz…………


……………




…皮膚と皮膚がぶつかり合い、弾けたような音が空間中に響いた


…まさに無音


先程のざわつきが、まるで一瞬で凍り付いたようにピタリと止んでる
多分100人以上はいる全員が足を止めて、音の鳴り響いた方へ振り向く
すると全員の目が見開き、驚きを隠せない表情に変わる



全身漆黒の甲冑姿

白い仮面

2メートルぐらいはあろう身長

いつの間にか大きな扉のある壁とは反対側の壁に、腕を組んで仁王立ちをした指導官さんがいた



…いや、指導官さんだけじゃない
他にも誰かが立っている


胸元に牡丹と勲章のような装飾品が複数付いたロングコートをベルトで固定し、帽子・腕章・ブーツを身に付けた軍服姿の男性

とんがり帽子・マント・ミニスカートが特徴的で、西洋の魔女をモチーフにしたような格好の女性

パーカー・半ズボン・皮らしき手袋を身に付け、癖の無い真っ白な髪を足元まで伸ばした子供


自分の立ち位置もあってあまりよく見えないけど、偶然見えた3人と指導官さんを含めた10人以上が自分達の様子を見ている
指導官さんと同じく彼らの服装も全身真っ黒で、全く同じ頭蓋骨の仮面を被っていた


あの扉が開いた様子は無い
開いたとしてもこれだけの人数だ。誰かが絶対に気付く筈なのに、音が聴こえるまで1人も彼らがこの部屋に入って来た様子や存在に気が付かなかった…




そして何よりも…
彼らの存在に加えて、横に並んでいる彼らの"背後にいる1人"が…より異様な雰囲気と威圧感を発していた




……それは、大男



所々金色と紺色を織り交ぜたような橙色の道衣を身に纏い、その上から更に彼岸花の模様が施された羽織を纏っていた
身長は1番大きい指導官さんの2倍かそれ以上はある
分厚そうな服装の上からでも、ガタイの良さがひしひしと威圧感と共に伝わってくる

そして岩のように硬そうな握り拳には、随分長く使い込まれたであろう木製の薄い厚さで出来た棒が握られていた

目元や額には少し皺があり、口元と顎には多くの髭を蓄え、頭には黒く変わった形の帽子
そして帽子の真ん中には、何かの文字が縦に2つ
読み方は分からないけど、何処かでその文字を見た覚えはあった気がする



……その大男の口から、しわがれていながらもしっかりとした響きのある声が発せられる






「儂の名は…"閻魔(えんま)"と云う」


「そして…」





閻魔「よくぞ参った…死神諸君」





………しに…がみ…?

※(プロローグ的なのは)もうちっとだけ続くんじゃ
文章力アレで亀更新だけど、良ければ読んでって※




「エ、エンマ?シニガミ?なんだそりゃ」

「貴女は知ってますか?」

「な~んか聞いた事あるよ~な、無いよ~な」

「…………俺も」ボソッ

「あたしゃ初めて聞いたねぇ……」



思い出した…あの帽子の2つの文字は、"えんま"って読むんだ
という事は、自分が今いるこの世界は…
あと自分達がしにがみって……まさかあの死神?

何故自分達が死神と呼ばれるのか…今言われた事が本当なら、何故自分達は地獄にいるのか…疑問だらけで自分は酷く混乱している
それに引き換え、此処にいる人達の殆どは"大男の名前と死神という単語"に対して疑問を浮かべていた
1度ぐらいは聞いた事あると思うんだけど…誰もが知らない?




……あれ?自分は何処でそんな事を知ったんだ?



ザワザワザワザワ

ザワザワザワザワザワザワ


閻魔「…静粛に」


ザワz…………


閻魔が片手を挙げた
すぐに部屋全体が再び静まり返る


閻魔「初耳の者もおれば、名を聞いて察した者もおるじゃろう…全く分からぬ者の為にも、掻い摘んで話そう」

閻魔「これを聞いても理解が出来ぬならそれでも良い…後々理解し、受け入れるよう心掛けよ」

閻魔「諸君らが今いるこの世界は…"彼ノ世(あのよ)"と云う」

閻魔「生きている者共が住む"此ノ世(このよ)"とは真逆の世界であり…」

閻魔「此ノ世で死に、"霊"又は"魂"と云うあやふやな存在になった者が訪れるべき世界じゃ」


閻魔「更に彼ノ世は2つに分かれておる…その1つは"天国"であり、もう1つは"地獄"」

閻魔「儂はこの地獄と天国の狭間に存在するが、主に地獄を統括する者でもある」

閻魔「それ故、儂の元に訪れた魂の罪を見定め…この地獄に堕とす使命を背負っておる」

閻魔「そして此処には儂の配下である多くの"獄卒"が住み、此ノ世で罪を犯した魂に罰を与え続ける」

閻魔「例えを挙げるならば…丁度この部屋の壁に描かれているような光景が常日頃行われておる」

閻魔「角の生えた方が獄卒で、多くの血飛沫をあげている方が…罪を犯した魂共じゃ」

閻魔「取り敢えずは、この世界について説うた」

閻魔「次は今いる諸君らは何をすべきか…これを今から話す、心して聞け」


…………

…………


閻魔「この地獄にある泥沼から這い出て来た諸君らは"死神"と云う存在として…」

閻魔「此ノ世に彷徨う霊の身を魂として儂の居る元へ導く"力"…」

閻魔「この力を定められた期間の間に培い、期間を過ぎ次第…此ノ世で振るって貰う」

……!


ザワザワ

ザワザワザワザワ

ザワザワザワザワザワザワ


ざわつきが再び大きくなる
その時(実際には口は見えないけど、)口を開いたのは指導官さんだった

指導官「……ここまでで私らに問いたい事はあるか。少しであれば今ここで答えよう」

↓1で聞きたい事を。話と関係の無い内容だった場合はズラす
主人公が聞いても良いし、主人公以外の誰かが聞いてみても良し
主人公以外なら聞きたい事+簡単な容姿を



???「はいはーい!質問いいですかー!」


……声が聞こえた

皆の不安と緊張感だけが漂うこの空気を打ち破るように、真後ろの少し離れた所からとても元気な声が聞こえてきた
声の高さからして、多分女性だろう

試しに見てみると…
何人もの白い頭髪が固まっている中から一本だけ白い腕が伸びていて、誰かが手を振っている


指導官「……是非顔も拝見したい。が、此処からでは見えん」

指導官「……悪いが、私達のいる方へ出て来ては貰えないか」

???「分かりました!今そっち行きますね」

このまま真っ直ぐ指導官さん達のいる前方へ進むらしい
声の主は人混みの中を「すみません」と言いつつ進んで来る

そろそろ自分がいる所に近づいて来たので、道を開ける為に少し左へ寄った



自分の側を横切った声の主は、やっぱり女性だった


自分よりも小柄で、足は細く、少し歳も若く見える
元々真っ白な肌故にぱっちりとした青色の瞳が映えていて、得意げ且つにこやかな表情で進む姿が勇ましい


???→活発そうな女性「おっと、ごめんね?」


あと癖が強いせいなのか…
肩まである白い髪の毛先は、1本1本それぞれ違う方向へ伸びているように見える


一目見ただけなのに、とても印象的だった


そんな彼女は、自身の身体を覆っている布がずり落ちないように両手でしっかりと握りつつ最前列を目指す


活発そうな女性「……ぷはぁ!やっと出れたぁ!」


…そして到着したようだ


指導官「……ふむ…よくぞ辿り着いた。礼を言う」

活発な女性「えへへ~どもども」

指導官「……では、何を知りたい」

活発な女性「…あなたもそうだけど、その変わったお面を付けた人黒い人達は一体何なんですか?」

活発な女性「そこにいるエンマさんの部下みたいな?」

指導官「……それくらいならば、答えよう」


             ・・・
指導官「……先程、閻魔様は貴様らに力を培って貰うとおっしゃっていたな」

活発な女性「えぇ、言ってましたね」

指導官「……私達はその力を得る為の指導をする死神であり、獄卒と同じく閻魔様の部下でもあり、今後貴様らの上司になる者だ」

指導官「……長年の時を経て、死神としての力と知識、経験は心得ていると自負している」

指導官「……ただし、此方にいる閻魔様以外、私達に決まった名なぞ存在しない。貴様らは私達の事を『指導官』とだけ呼べば…それで良い」


やっぱりそうか…
さっきの話と"指導官"さんの名前から察するに、彼らは自分達を死神として教育するつもりなんだ


活発な女性「なるほどね~…それじゃもう1つ」

活発な女性「その指導官達は白いお面は一緒なのに、格好だけバラバラなのは何でですか?」

指導官「……それh

???「それについては私(わたくし)がお答えしましょう」


また女性の声だ

落ち着いた上品さのある言葉が、指導官さん……いや、甲冑の指導官の言葉を遮る
動いたのは、あの魔女っぽい格好をした女性の指導官だった
隣にいる甲冑の指導官のおかげで小さく見えるけど、自分や活発な女性と比べるとやや高めの身長で体つきも違うから、多分歳上だろう


指導官→甲冑の指導官「……余計な事は話すな」ボソッ

???→魔女の指導官「今まで私が、そんな失敗をした事がありまして?」ボソッ

2人がお互いに何かを呟いたように見えたけど、此処からだと何も聞こえない


魔女の指導官「初めまして、元気で可愛いお嬢さん。あなたの質問に答えるには、まず先にあなた達の出生のお話もしなきゃいけなくなりますの」

魔女の指導官「この話はこれからいつでも聞けますし、少し長くなってしまいますけど…よろしいかしら?」


その時活発な彼女は…


↓2 なんて答えた?

①「はい!」と答えた
②「それじゃ……また今度で!」と答えた


活発な女性「はい!」

魔女の指導官「いい返事ね…他の方々もよろしくて?」


自分含め、ほぼ全員が無言で頷いた


魔女の指導官「まず、死神である私達やあなた達はどういった経緯で生まれたのかを説明しますわね」


魔女の指導官「まずは普通の魂の場合、天国か地獄で永い時を経た魂は後に"輪廻転生"を行います」

魔女の指導官「これは亡くなって彼ノ世に来た魂が、生きていた時とは別かまた同じ種族の生き物として此ノ世に生まれる事を言いますの」

魔女の指導官「その中で死神となる魂は、【輪廻転生を閻魔様が定めた数まで何度繰り返したか】【その内何度人間として生まれ変わり死んだのか】」

魔女の指導官「この2つの条件を満たす事で普通の魂は死神の魂に変質し、地獄にある泥沼から身体を得て生まれて来ますわ。その証拠が、この真っ白な肌と髪」

魔女の指導官「そして私達指導官の身形にばらつきがある理由…それは、私達の"前世"に関係がありますの」


魔女の指導官「前世とは…此ノ世で今の生を謳歌している"今世"の生き物が、生まれ変わる前の此ノ世で生を謳歌していた時の一生…」

魔女の指導官「私達死神の場合、輪廻転生によって人間だった時の前世の身体がいくつも魂に記憶されてますで…生まれる際はその中で魂に1番馴染みのある身体で生まれます」

魔女の指導官「そして私達の魂と身体を拝見して下さった閻魔様は、今度は私達の身体に1番馴染みのある身形や装備を魂の一部から作り出し…与えてくれますの」

魔女の指導官「ちなみに死神は、人間だった時の一生で得た常識的な概念は前世から引き継げても、記憶を引き継ぐ事は一切ありませんわ」


魔女の指導官「これd

???「今君が言った『記憶』は曖昧に表現し過ぎだ。そこだけ少し訂正させて貰おうか?…ケヒッ」


魔女姿の指導官が話す中、今度は猫背で後ろに手を組んだあの軍服姿の指導官が話を遮る
男性の声だ


???→軍服の指導官「突然話を切ってしまい申し訳ないね。今さっき彼女が挙げた『記憶』には、単に思い出とか以外にも…知識的な概念というものも含まれる」

軍服の指導官「要は前世で人間だった頃に、他人の口やとある情報源から学んで得た記憶の事だ。簡単に例えるならば、学び舎で歴史や数学等を学んだ記憶等がそれに当たる」

魔女の指導官「ちょ、ちょっとあなt

軍服の指導官「しかし輪廻転生を終えても尚、極稀にそのような記憶も引き継いで生まれてしまう死神も存在するのだよ」


歴史…数学…学び舎?
……ちょっと待って、それh



軍服の指導官「丁度そこの方にいる君のようにね……ケヒヒッ」



軍服の男は不気味な笑いを溢しつつ、遠くから自分を指差した






閻魔「よさんか…この、戯け者がァ!!」






軍服の指導官「……ッ!?」


部屋全体に響く閻魔の一言で、軍服の指導官の自分達は身体がビクリと跳ね、その場で固まる

そしてまるで後悔でもしたかの様に、さっきよりも引きつったような表情をしていた




甲冑の指導官「……貴様が原因だぞ」

魔女の指導官「あの男が割り込んだだけよ。私のせいではないですわ」

パーカーの指導官「…これは、みんなのせい」

おっと訂正
軍服の指導官の自分達→軍服の指導官と自分達


そして暫くして…



閻魔「そこの死神よ…済まぬ。右も左も分からぬお主に、更に混乱を与えてしもうたな」

閻魔「後に此奴には儂が十分な仕置きを与える…許せ」



「あのひとってたしか、いきなりここにでてきてからぼんやりしてるひとじゃなかったっけ?」

「そうなの?何か怪しいな…」

「何だ何だ?あの男は何か知ってるってのかい」

「記憶を持った魂…シニガミですか……興味深い。面白そうだ」


あの軍服の指導官のおかげで、自分が他の皆とは違う死神だという事は分かった

けどそれが周りの死神達からも認知される様に大袈裟に発覚したせいで、皆から変な目で見られたり自分に関する話が聞こえてくる

はっきり言って息苦しい

初対面だったけど、今この時をもってあの指導官に対しての恨みが完全に消える事はないだろう…


活発な女性「……」


しばらくまた死神達の小言が色々な場所から漏れ出し、ざわめきが続く
けど全員がまた落ち着きを取り戻し、再び閻魔が話し始めた


閻魔「…兎も角じゃ」

閻魔「これから先の詳細は指導官らに聞き、死神としての力を蓄えよ…」

「「「「「………」」」」」


閻魔「…分かった者は返事をせいッ!!!」

「「「「「は、はいっ!」」」」」ゾクッ


自分達はつい怯えたような返事を返してしまう
『もし彼らに反抗したら、きっと自分達は消されるだろう』
そんな恐怖を抱いている事が、一目で指導官達に見抜かれてしまうぐらいに


閻魔「…良し」

閻魔「お主らも、これまで通り指導官としての使命を…全うせよ」

指導官「「「「「ハッ!」」」」」


怯えた自分達に比べ、約10人程の指導官は閻魔に対して覇気の篭るしっかりとした返事を返す



閻魔「では…」


閻魔「改めて、よくぞ参った…死神諸君」


閻魔「儂、全地獄統括者 兼 閻魔庁最高裁判官"閻魔"と、その部下であり…お主ら死神の"指導官"共々が…歓迎する」


閻魔「そして、これより130日間…指導官らの様な死神を目指し」




閻魔「精進するが良い…」


あとこれらの1日の内、2~3人の死神は必ず閻魔様から黒ノ間に呼ばれ、『自分の名前』『黒い衣服』『動物の頭蓋骨の仮面』『鎌』『小さなレンズのような物』『何かの紙の切れ端』の6つを授けてくれる
実際に授けられた死神達本人から聞き、ほぼ全員の内容と一致してるので嘘ではなさそうだ

ただ名前と衣服はまだ分かるけど、何で仮面は人間の頭蓋骨じゃなくて動物の頭蓋骨なのなかは謎だ
一般的に知られてる死神の逸話通りなら、仮面は人間の頭蓋骨か指導官達のようなものだと思ってたけど…
あとレンズと切れ端なんて何に使うつもりだろう?

…まぁ、考えても仕方が無い。



そして突然だけど、初日から90日ぐらいが過ぎたある時、緑ノ間にいる自分は甲冑の指導官から呼び出しを受けた

「……今から閻魔様が居(お)られる黒ノ間へ向かえ。貴様を待っている」と

ようやく自分の番かと気付いた自分は、少し緩くなった下着代わりの包帯をしっかり締め直してから部屋を出た
それにしても、再び閻魔様の姿を見るのも凄く懐かしい気がする


【緑ノ間~黒ノ間へ続く通路】


ペタッペタッペタッペタッ


自分が裸足の為、結構長くて広いこの通路には何かが張り付くような足音が響く
普段の部屋はあんなにも騒がしいのに、今はこの音しか聞こえないぐらい静かだ…
けど、もうすぐ黒ノ間の扉の前に着く筈だ

……よし、見えてきた


ペタッペタッペタッペタッ



タッタッタッタッタッタッ

ペタン…ペタン…ペタン…


……ん?


「ん?」

「?」


扉の前に着いたと思いきや、2人の死神が目の前に現れる

魔女の指導官までとはいかないけど膨らみのある胸・股間と尻・肘・右手首に包帯が巻かれ、細い腕と足、肩まで伸ばした癖毛、青い瞳が目立つ

…例の活発な女性の死神だった


活発な女性「あ、ども~」フリフリ

「…」ペコッ


自分に軽く手を振る死神と軽くおじぎをする死神
どうやらこの2人も閻魔様に呼ばれたようだ
ちなみに自分は活発な女性の方と殆ど関わりが無く、自分と組が違う彼女は就寝する時に黒ノ間でチラリと見かける程度だ
ただ噂によると、厳しい修練の中、明るい且つ前向きな彼女の励ましのおかげで立ち直る死神も少なくは無いらしい

そしてもう1人の死神は…

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