北条加蓮「まゆがアタシを堕とす話」 (33)


*女子寮

加蓮「へぇ、寮の中って結構広いんだね」

佐久間まゆ「加蓮ちゃんは寮に来るのは初めてでしたか?」

加蓮「うん。誘われることもあったんだけど、ちょっとタイミングずれたりとかしてね」

まゆ「それでは、加蓮ちゃんの初めてはまゆになるんですね」

加蓮「変な言い回しはやめてよー」

まゆ「うふふ」

加蓮「もう、まゆったら、いっつもそうやって笑って誤魔化す」

まゆ「加蓮ちゃんが遊びに来てくれたのが嬉しくて」

加蓮「まぁ、悪くないかな」

まゆ「ふふっ、凛ちゃんの真似ですか? あ、ここがまゆのお部屋ですよ。どうぞ入ってください」

加蓮「はーい、お邪魔しまーす」

加蓮(まゆに料理を教わるために寮を訪れたんだけど、まさかあんなことになるなんて今のアタシは知らなかったんだよね……)





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*まゆの部屋

加蓮「うわっ、女の子の部屋だ!」

まゆ「もう、加蓮ちゃん。まゆは元々女の子ですよー」

加蓮「あ、そういうことじゃなくてね。ピンクと赤の内装で、ふわふわもこもこのハートのクッションとか如何にも女の子な感じが珍しくて」

まゆ「凛ちゃんや奈緒ちゃんのお部屋は違うんですか?」

加蓮「凛の部屋はどっちかと言えば機能美みたいなカッコいい感じだし、奈緒の部屋は……うん、あれは男の子の部屋だよ」

まゆ「漫画などが多いと聞いたことがありますねぇ」

加蓮「漫画も確かに多いけどさ、ロボットのおもちゃとかフィギュア? みたいなものとかいっぱい置いてあるんだよ。アニメとかもやたら充実しているし」

まゆ「奈緒ちゃんらしいですね。今度まゆもアニメを借してもらおうかしら」

加蓮「あれ? まゆってアニメ見るの?」

まゆ「アニメや漫画関係のお仕事もありますからねぇ。というのは建前で、仙台の実家に居た頃はそれなりに見ていました」

加蓮「へぇー、意外」




まゆ「そうですか? 仙台駅の周辺なんてそういったお店がいっぱいありますよぉ?」

加蓮「え? そうなの? アキバ的な?」

まゆ「あの場所ほどではありませんが、充実していると思いますよ。お人形さんも売っていますし」

加蓮「……あえて触れないようにしていたんだけどさ、あの人形ってプロデューサーさん?」

まゆ「ヘッドだけ自作です♪」

加蓮「凄いけど、似すぎでしょ……。あと、やたら大きいし」

まゆ「三分の一サイズですね」

加蓮「北条加蓮は今日もまたまゆの闇を見るのであった」

まゆ「愛ですよー」




加蓮「まぁ、Pさん人形は置いておいて。今日はお料理指導ありがとうございました」ペコリ

加蓮(寮の台所でアタシはまゆからいくつかの料理を習っていた。「せっかくだからまゆのお部屋に行きませんか?」と言われてこうしてここに居るってわけ)

まゆ「まゆでお役に立てたなら嬉しいですね」

加蓮「すっごい勉強になったよ。ほんとありがとね。前にプロデューサーさんに作ってきたお弁当見た時も思ったけど、本当にまゆって女子力高いよね」

まゆ「いえいえ、まゆなんて」

加蓮「あれで謙遜されたら世の女の子の立場がないからね。アタシなんて今まで揚げたイモくらいしか作れなかったし」

まゆ「それはそれで凄いと思うんですがねぇ」

加蓮「あんなのイモを油に放り込んで塩かけるだけだし」

まゆ「たまに豪快ですよね、加蓮ちゃんは」

加蓮「そうかなー?」




まゆ「はい、どうぞ」

加蓮「ごめんね。お茶までいただいちゃって」

まゆ「お口に合うと良いのですが」

加蓮「うん、美味しいよ。ダージリン?」

まゆ「ダージリンのセカンドフラッシュです」

加蓮「なんだかよく分からないけど、いい香り」




加蓮(二人で暫し紅茶の香りと味を楽しむ。そんな時間が少しだけ流れる)

まゆ「お料理はプロデューサーさんに、ですか?」

加蓮「……うん、日頃のお礼にね。聞かれていなかったからって、黙っててごめん」

まゆ「うふっ、承知の上ですよぉ。それにプロデューサーさんはまゆたちのプロデューサーさんですからね」

加蓮「まゆって丸くなったよね、主に性格が」

まゆ「そうなんですか?」

加蓮「そうなんです」

まゆ「ふふっ」




加蓮「ねぇ、まゆ。これってシルバーリング?」

加蓮(学習机の上でキラキラ光っている指輪が、さっきから気になっていたんだよね。ちなみにアタシたちはテーブルでお茶していて、部屋の隅に机はあるよ)

まゆ「はい。チャロアイトのシルバーリングですね」

加蓮「へぇ、紫色で白い模様? みたいなのが入っていて綺麗だね。でも、出しっぱなしで放置していていいの? なくすよ?」

まゆ「まゆのお部屋なので大丈夫です」

加蓮「アタシだったら絶対なくすからそう言い切れるの羨ましいな」

加蓮(指輪を見つめる。これって本物の宝石だよね。いいなー、アタシもお金貯めて指輪買っちゃおうかな)




まゆ「もし良ければつけてみますか?」

加蓮「え? いいって。指のサイズもあるだろうし、人様の大切なものを身に着けるのは気が引けるし」

まゆ「まゆは気にしませんよぉ。それにサイズも合うはずです」

加蓮「……ほんと? お言葉に甘えるよ? 薬指にはめちゃうよ?」

まゆ「はい、どうぞ」

加蓮「やった! 近くで見るといっそう綺麗だね。……あ、本当にサイズぴったし」

まゆ「チャロアイトの宝石言葉は癒しと浄化です」

加蓮「うん、何だかつけているだけで癒されるね」

加蓮(アタシはその気になった。のは冗談だけど、この紫色の宝石を見つめていると引き込まれそう……)

まゆ「そして、──魅惑です」

加蓮「え……?」

加蓮(何を言ったのか理解できなくてまゆを見る。まゆの顔が目に入った瞬間、胸がときめいた。え、なにこれ……?)




まゆ「加蓮ちゃん。まゆはプロデューサーさんのことを愛しています。まゆの全てで尽くしてあげたいそんな愛です」

加蓮(まゆの言葉が耳元でささやかれる。アタシはそれをボーっと聞いた)

まゆ「最初はそれが全てでプロデューサーさんに近づく女性は全て敵だと思っていました。でも、そうでもないことに最近気付きました」

加蓮(まゆの吐息が熱い)

まゆ「この事務所でとても大切な友達がまゆにもできたんです」

まゆ「プロデューサーさんへの独占欲が湧き出しても、彼女を傷つけることなんてできませんでした。多分、初めての感覚だったと思います」

加蓮(友達の中にアタシも入っていればいいなとぼんやり思った)

まゆ「彼女のこともまゆは好きだったんですね。プロデューサーさんへの隷属とは違う、彼女からまゆを愛してもらいたいそんな愛だったと思います」




加蓮(まゆの吐息がさらに熱さを増して、私の耳を溶かしていく。まゆの花のような甘い香りがアタシの頭を痺れさせた)

まゆ「そんな時、まゆはあるお店でこの指輪を見つけました。いわくつきの指輪でした。つけた人は指輪の持ち主に魅惑されるそんな品です」

加蓮(何も考えられない。まゆの言葉が心地いい)

まゆ「宝石は年数を経ると魔性が宿ると言いますが、このチャロアイトは本物でした。そう、あなたを魅惑してくれる素敵な指輪だったんですよぉ?」

まゆ「……加蓮ちゃん。まゆを愛してくれますか?」

加蓮(心地のいいまゆの声に誘われて、アタシは心の中で「うん」と呟いた)




まゆ「ねぇ、加蓮ちゃん。プロデューサーさんのことは好きですか?」

加蓮「……うん……。だけど……まゆが居るし……凛と奈緒も、他の皆も……居るから、駄目なんだ……」

加蓮(アタシはまゆの言葉へ素直に答えてしまう。そうしなければいけないような気がした)

まゆ「加蓮ちゃんならまゆは許しますよ? それに、こんなに素敵な加蓮ちゃんなんですから、プロデューサーさんもすぐ好きになっちゃいますよ」

加蓮「……ほんと……?」

まゆ「はい。あなたのまゆが保証します。お料理も今日教えてあげましたよね?」

加蓮「……うん……プロデューサーさんに……つくってあげる、の……」

まゆ「良い子ですね、加蓮ちゃんは。きっとそんな可愛い加蓮ちゃんにプロデューサーさんは感激してくれます」

加蓮「……うれしい……」

まゆ「はい、まゆも嬉しいです。まゆの大好きな加蓮ちゃんが大好きなプロデューサーさんを好きになるなんて、とても素敵なことです」

加蓮「……すき……」

まゆ「はい、まゆも加蓮ちゃんのことが好きですよ」




加蓮「……アタシが、すきなのは……」

まゆ「まゆですよ」

加蓮「……まゆ……」

まゆ「はい。加蓮ちゃんが好きなのはまゆです。一番愛しているのも、一番尽くしてあげたいのも、一番笑顔にしてあげたいのも、全部まゆです」

加蓮「……うん……まゆが……すき、だったんだ……」

まゆ「はい。まゆを愛してください」

加蓮「……まゆを……あい、する……」

まゆ「あなたのまゆで、まゆの加蓮ちゃんです」

加蓮「……あたしの……まゆ……」

まゆ「あなたのまゆですよ」

加蓮「……あはっ……うれしい……」




まゆ「まゆも嬉しいです。ねぇ、加蓮ちゃん? まゆのことは好きですか?」

加蓮「……うん……まゆ、すき……」

まゆ「はい、まゆも加蓮ちゃんのことが大好きですよ。両想いですね?」

加蓮「……りょうおもい……やったぁ……」

まゆ「まゆも恋が成就して喜んでいますよぉ。ねぇ、加蓮ちゃん?」

まゆ「──まゆさえ居れば、他に何もいらないですよね?」

加蓮「……うん……まゆさえ、いれば……ほかはいいや……」

まゆ「うふっ。良い子ですね、まゆだけの加蓮ちゃん」

加蓮(まゆがアタシの頭をやさしく撫でてくれる。小さな身体で一所懸命撫でてくれる)

加蓮(愛しい。そんな姿がどうしようもなく愛しくて、アタシはまゆの身体を抱きしめた。やわらかい……。夢心地のままアタシはまゆの体温を感じ続けた)




*後日・事務所

神谷奈緒「最近、加蓮とまゆっていっつも一緒に居るよな?」

加蓮「もしかして、奈緒ったら寂しいのー?」

奈緒「ニヤニヤすんな! べ、別に寂しいわけじゃないからな!」

渋谷凛「奈緒のツンデレいただいたよ」

奈緒「ツンデレじゃねーし!」

加蓮「あははっ!」

奈緒「くそっ! 笑い転げやがって!」




まゆ「加蓮ちゃん。一緒に帰りませんか?」

加蓮「うん、今行くー。それじゃあ、アタシはまゆと一緒に帰るから」

奈緒「おう。気を付けて帰れよー」

凛「また明日ね」

加蓮「うん、バイバイ」タッタッタ

奈緒「まったく、小走りするくらいまゆにべったりかよ」

凛「嫉妬してる?」

奈緒「そんなわけないだろ! ……いや、まぁ、最近一緒に帰れていないから寂しくも、って変なこと言わせんな!」

凛「奈緒が勝手に言ったんだよ。でも、左手の薬指にペアリングまでして本当に仲が良いよね」

奈緒「え? ペアリングなんかしていたか?」

凛「うん。チャロアイトのシルバーリングだと思うよ」




*帰り道

加蓮「まーゆ♪」

まゆ「はいはい、あなたのまゆですよー」

加蓮(アタシはまゆの腕に抱き着いた。まゆもそれを受け入れてくれる)

加蓮「ねぇ、こうして歩いていると他の人からはどう見えるかな? やっぱり恋人?」

まゆ「仲良しの女の子同士ですかね」

加蓮「えー、恋人がいいー」

まゆ「大丈夫ですよ。まゆの心は加蓮ちゃんと一緒にありますから」

加蓮「えへへ」

まゆ「ところで加蓮ちゃん。プロデューサーさんにお料理は作って差し上げたんですか?」

加蓮「あ、忘れてた」

まゆ「良いんですか?」

加蓮「いいの。アタシにはまゆが居るから」

まゆ「うふ。加蓮ちゃんは可愛いですね」

加蓮「まゆはもっと可愛いよ!」

まゆ「ふふ、ありがとうございます」




加蓮「ねぇ、まゆ」

まゆ「なんですか? 加蓮ちゃん?」

加蓮「アタシに何かしたよね?」

まゆ「はい。加蓮ちゃんがまゆを愛してくれるように、その指輪をはめてもらいました」

加蓮「正直なんだね」

まゆ「はい。加蓮ちゃんのことが好きですから」

加蓮「うん、アタシも」

加蓮(自分の意識がこの指輪のせいで変わっていることは理解していた。だけど、まゆに感じる愛しさは本物で、アタシはまゆなしで生きていけなくなっていた)




まゆ「それに、今のまゆも加蓮ちゃんと一緒ですから」

加蓮(まゆの部屋で"無防備に置かれていた"もう一つの指輪を先日まゆにつけてあげた。その指輪の所有者は何故か私になっていたらしい)

加蓮(だから、アタシの目にはもうまゆしか映らないし、まゆもアタシしか映らない)

加蓮(それが、いつも通りを演じるアタシたちの本当)

加蓮「ねぇ、まゆ。今日もまゆの部屋に泊まってもいい?」

まゆ「良いですよ。今日もまゆの手料理を作ってあげます」

加蓮「やったー!」

加蓮(手をギュッと握り合い、アタシとまゆは今日も幸せいっぱいに家路を歩いて行く)



                                    終わり




最近毎日この系統のさらに濃いものを書いていたのでちょっと息抜きです

選挙はまゆとトライアドとふじともをよろしくね

皆さん、読んでいただきありがとうございます
SSは大体息抜きで書いているもので
指輪で自分のものにした上で、加蓮のものにしてもらった感じですかね

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