魔王「もう無理だ。勇者に勝てるわけないよ……」(50)

魔王の城――

魔王「もう無理だ。勇者に勝てるわけないよ……」

側近「なにをおっしゃいますか、弱音を吐かないで下さい」

魔王「そう言うけど、知ってるかい? 勇者一行が今まで全滅した回数?」

側近「報告ではパーティー全滅が十三回、勇者死亡が二十回、戦士死亡が――」

魔王「この報告おかしいよね。今までずっと思っていたけど」

側近「流石が魔王様、お気づきになりましたか」

側近「この記録は勇者一行が我らの領土に踏み入れてからのもの。正確な記録ではございません」

魔王「違うって。なんで勇者一行は死んでも蘇るんだよ!!」

側近「それは以前報告した通りでございます」

魔王「女神だかの加護を受けていて死んでも蘇るんだっけ?」

側近「はい。その加護は周囲の者にも効果があるようで――」

側近「勇者に選ばれた者、つまりパーティーメンバーも復活いたします」

魔王「その時点で詰んでない?? ゾンビ部隊とか勝ち目ないじゃないか!!」

側近「なにおっしゃいます、魔王様にも邪神の加護があるではございませんか!」

魔王「勇者以外には殺されないって言う意味わかんない加護のこと?」

側近「はい。より正確に言えば――」

側近「勇者だけが扱える伝説の聖剣が魔王様の胸に突き刺さらない限り死にません」

魔王「それでその伝説の聖剣ってどこにあるんだっけ?」

側近「ここより遥か南にある塔で四天王の一人、鉄壁のスライム殿が守っていましたが」

側近「先日、スライム殿は勇者一行に敗北。聖剣は勇者に奪われてしまいました」

魔王「勇者が聖剣を所持していたらこの加護って意味ないよね?」

側近「そのようことはございません。高度な魔法が扱えたり、同族に力を分け与えたりと……」

魔王「勇者だって同じような力が使えるんだし意味ないと思わない?」

側近「そ、それは……」モゴモゴ

魔王「やはり私達の敗北は必至だ。逃れることはできないんだ……」

側近「そ、そんなことはございません。希望を持ってください」アセッ

魔王「どんな希望が私達に残っているっていうんだい?」

側近「勇者とはいえ、痛覚はございます。斬られれば血が吹き出し、叩かれれば骨が砕けます」

側近「人がその痛みに何度も耐えられるでしょうか?」

側近「文字通り死ぬ思いをしてまで、勇者は魔王城まで来るでしょうか?」

側近「肉体は死ななくとも、勇者の精神は死ぬはずです!!」ドヤッ

魔王「精神がタフじゃない勇者ってなによ?」

魔王「すでに十数回は全滅しているのに諦めず魔王城を目指しているしさ」

魔王「どう考えても詰んでるよ。一っ欠片も希望なんか残っていないって」

側近「……魔王様、今まで黙っていたのですが実はあるのです、魔界にも」

魔王「何が?」

側近「勇者を倒すことが可能な魔剣が……」

魔王「嘘ーっ!?」ガタッ

側近「嘘ではございません。魔王様だけが扱える邪悪なる魔剣があるのです」

魔王「なんと! では、私がその剣で勇者を突き刺せば復活しないのかい!?」

側近「はい、勇者を倒せます」

魔王「ど、何処にあるの?」

側近「この城の宝物庫にございます」

魔王「ここにあるだって!? なぜ今まで黙っていたんだ!」

側近「重臣達が魔王様には扱いきれない代物だと判断したためです」

魔王「むっ! はっきり言う、気に入らないな」イラッ

側近「申し訳ございません。ですが事実、魔王様では魔剣を完全に扱うことは難しいかと」

魔王「流石は伝説の魔剣ということか……」

魔王「しかし、その程度のことで諦めたくない。特訓すれば何とかなるだろう」

魔王「頼む、魔剣をここに持ってきてくれないか」ペコッ

側近「そこまで魔王様がおっしゃるのなら…… 承知致しました!」ダダダッ

魔王「」ドキドキ

側近「魔剣、お持ちしました」パッ

魔王「これが、魔剣……」スッ

側近「……」アセッ

魔王「ちっさ!! うわっ、小さい、小さいよ」チマッ

魔王「あぅ、握りにくいって」プルプルッ

側近「ですから、竜魔族である魔王様には扱えない代物だと」

魔王「でもこれ、人間が持つと丁度いいサイズだよね?」

側近「実は初代魔王は人魔族、つまり人間に近い魔族だったのです」

側近「ですから引き継がれた武具は全て人間サイズなのです」

魔王「へー、そうなんだ。じゃあ、新しい武器作ろうよ。勇者を倒せればいいだけだしさ」

魔王「作るなら…… うーん、そうだなー、私が扱いやすい半月斧とかがいいな」

側近「それは不可能なのです」

魔王「えっ!?」

側近「その魔剣は失われた技術でつくられたもの。今の我々の技術では……」

魔王「そうか、そうだよね」

魔王「魔族は勇者に何度も滅ぼされているんだった。当時の技術が残っているわけないか」

魔王「魔剣が無事なだけでも奇跡みたいなものなのに…… ごめん」ペコリッ

側近「いえ、こちらこそ申し訳ございません」

魔王「魔剣を元の場所に戻してきてよ。側近の言うとおり、私ではどう頑張っても扱えないみたいだ」

側近「ハッ!!」ダダダ

魔王「四天王の一人、大地のケンタウロスくんなら扱えたんだろうな……」ハァ

側近「申し訳ございません、魔王様。期待を持たせるようなお話を……」

魔王「いや、気にしないでくれ。普通なら生まれたときとか、魔王に就任した際に渡されるものだし……」

魔王「その時に渡されなかった事を考えればわかることだった」

魔王「それより魔剣の存在を教えてくれてありがとう。知らないのは流石に魔王として恥ずかしいからね」

側近「い、いえ……」

魔王「でも、これって邪神のミスだよね。どうして竜族なんかを魔王に選んだのだろう?」

魔王「初代王と同じ人魔族にすれば良かったのに……」

側近「魔族最強の種である魔竜族に力を授ければ無敵だと思ったのかも知れません」

魔王「その考えは間違っているよ。勇者を倒せない魔王に価値があるとは思えない」

側近「その様なことをおっしゃらないで下さい。貴方が魔王だからこそ、私達はここまで戦えるのです」

魔王「ありがとう。でも私は、もう……」

魔王「ねえ、側近。降伏しないかい?」

側近「なりません!」ガタッ

魔王「四天王は全員倒され、残るはこの城にいる者達だけ……」

魔王「もういいんじゃないかな? ここまでよく頑張ったよ。だから、もう楽に……」

側近「それではここまで戦ってきた者達が哀れでございます」

魔王「え?」

側近「彼らは勇者に勝てないと知りながら、それでも諦めず挑み続けました」

側近「自由を勝ち取るため、愛するものを守るために……」

側近「だのに生き残った我々が諦めては彼等に失礼ではございませんか!?」

魔王「!?」ハッ

魔王「そ、そうだ。その通りだ」

魔王「彼等の戦いを無駄にしてはいけない。そんなことわかっていたはずなのに……」

魔王「恐怖心から私は逃げることばかり考えていた」

魔王「ごめん、もう弱音は吐かないよ。倒れていった者達の為、今を生きる者達の為――」

魔王「最後の一人になろうとも戦うことを誓うよ」

側近「ま、魔王様っ!!」ブワッ

魔王「それに側近の言っていた通り、殺せなくとも諦めさせることは可能かもしれない」

魔王「何度でも討ち倒し、魔王に歯向かうことがどれほど愚か教えてやろう」

側近「はい。希望を捨てるにはまだ早いです」

魔王「私は駄目だな、王だというのに…… ありがとう、君のお陰で目が覚めたよ」

側近「いえ、私は生意気を言ったのです。そのようなお言葉はお止め下さい」

魔王「頑張ろう、側近」

バンッ!

部下「報告、勇者一行が城内に侵入。現在、王座に向けて侵攻中です!!」

魔王「!?」ガタッ

側近「城門の守備についていたリザードマン兄弟はどうしたのです」

部下「勇者一行に奮闘するも討死いたしました」

魔王「そうか、御苦労であった。もうよい、持ち場に戻ってくれ!」バッ

部下「ハッ!!」ダダダ

魔王「ついにこの城まで辿りついたか。となれば、ここに来るのも時間の問題か……」

側近「いえ、城内には我が軍きっての精鋭部隊がおります」

側近「勇者とはいえ、そう簡単に突破できるとは思えません」

バンッ!!

部下「ハァ、ハァ…… グハッ」ボトボト ダバー

魔王「どうしたんだい、その傷は…… ま、まさかッ!?」

部下「報、告。勇者一行、勢い激しく……侵攻、止められません」

部下「もう、ここまで迫ってきています。魔王様……後は、頼みました…よ」ガクッ

魔王「部下達よ、すまない」グッ

側近「早すぎる。もう精鋭部隊が突破されたと言うのですか!?」

魔王「側近!」

側近「!?」ビクッ

魔王「もうすぐ勇者は来るだろう。となれば、残るは私達だけ……」

側近「は、はい……」

魔王「抗おう、最後まで!」

側近「はいッ!!」

ギギギィィィ

側近「扉の開く音!?」ビクッ

勇者「チーッス、勇者でぇーす。魔王さんのお部屋はここですかー?」

魔王「ゆ、勇者!?」

勇者「あっ、マジで魔王さんだー! ちょっ待って、仲間呼ぶからよー」アセッ

勇者「おーい! ここにいたぞーー!!」

戦士「おお、随分早く見つかったなー」ドタドタ

魔法使い「ほんとなの、勇者?」テテテ

僧侶「前のダンジョンは無限回廊でしたから、今回はとくに短く感じますね」トコトコ

戦士「アッハハア。前のダンジョンは面倒だったなー」ドタドタ

勇者「早く来いよー。魔王さん待たせてンだからー!!」

ゾロゾロ

戦士「こいつが魔王かー」ジロジロ

魔法使い「竜が最後なんて如何にもって感じね」ジー

僧侶「王道でよいではありませんか」フフッ

魔王「(戦士、魔法使い、僧侶か…… 攻守のバランスが良く隙がないな)」

魔王「しかし、なんだろう? なんかやりにくいなー」ボソッ

側近「魔王様、相手のペースにのまれてはなりません」コソッ

勇者「おっ、全員集合したな!!」

勇者「よーしっ、魔王の口上聞いて戦闘だぜ!!」

勇者一行「「おおーー!!」」

魔王「う、うむ。よくきたな、勇者達よ」

魔王「ここに辿りつくまで数え切れない死の恐怖が襲い掛かったはずだ」

魔王「なにゆえ、もがき苦しみながらも戦う?」

勇者「決まってンだろ! ママンが怖いからだよ!!」

魔王「えっ! お、お母さん!?」オドッ

魔法使い「まだそんな理由で戦ってたわけー?」ハァ

僧侶「ふふっ、勇者様らしい」クスッ

戦士「勇者のおっかさん、そんなに怖いのか? 会ってみたいものだなー」

勇者「んじゃ、魔王を倒したら俺ン家で打ち上げやろうぜ。ママンの料理はサイコーでよ」ウヒョー

魔王「ええと……」コホン

魔王「で、では勇者達よ。これから貴様の母以上の恐怖と絶望を見せてやろう!」

勇者「いくぜ、みんな!!」

魔王「まずは小手調べだ。我の切っ先、喰らうがいい!!」ゴゴ…

僧侶「鋭い爪です。まともに受けてはなりませんよ」

勇者「いや、あの一撃を受け切りその隙に斬りかかる」

勇者「だから頼んだぜ、戦士!!」グッ

戦士「よし、まかせろ」バッ

魔王「ふざけたことをッ!!」シャッ

ガッ!

魔王「なっ、この一撃を受け止めるとは!?」ビクッ

戦士「へへっ、俺の左腕は見事に砕けたがな」ボキッグチャァ

勇者「ナイス、俺達の肉壁!!」グッ

勇者「よし、今度は俺の番だ。こいつを、くぅらえ!!」ザンッ!

魔王「グハッ!! なんという強烈な一撃、これが勇者と聖剣の力なのか!?」ヨロッ

勇者「続けていくぜ」ザン!ザン!ザン!

魔王「グハァァァッ!! 鋭く重い一撃を、こんなにも素早く繰り出せるとは……」フラッ

魔法使い「たたみかけるわ。爆発魔法発動!!」ドカーン

魔王「くぅー、しまった!?」グラッ ズウウン

勇者「とどめだ!!」チャキッ

側近「魔王様ーーッ!!」

魔王「(やられるッ!? 私はこんなにも呆気なく負けてしまうのか……)」

【回想 魔王の城――】

スライム「大丈夫ですよ、魔王様」

魔王「本当に行くのかい?」

スライム「やはり私が聖剣の守りでは不安ですか?」

魔王「そうじゃないよ。大切な兵を割いてまで守りに行く必要がない気がして……」

スライム「聖剣が勇者の手に渡れば、魔王様は殺されるかもしれないのですよ!?」

魔王「だからだよ。聖剣にはその程度の価値しかない」

魔王「私は自分の命を守るためだけに、君達を危険な目に合わせたくないんだ」

スライム「ですが……」

魔王「スライム殿だって知っているだろう。あの塔には女神の結界が張られていることを」

スライム「存じております。その結界により我々魔族は十分の一程度の力しか出せないということは」

魔王「それにより聖剣を動かすことは愚か、触れることすら叶わない。奪われるのは明白――」

魔王「いや、我らの陣地にあの塔が存在しているだけで聖剣はすでに勇者の物なのかもしれない」

スライム「それでも私は行きます。魔王様をお守りする為に!!」

魔王「ス、スライム殿……!」

スライム「確かに塔には女神の結界が張られております。しかし、この体までは弱らせることは出来ないでしょう」

スライム「何度でも勇者達の攻撃を耐え抜き、聖剣を――いえ、貴方をお守り致します」

魔王「で、でも……」

スライム「鉄壁とまで言われた私です。魔王様を悲しませるような事は絶対に致しません」

魔王「わかった。約束だ。命を捨てる様な真似は絶対にしないって」

スライム「誓います。では!」バッ

南の塔――

スライム「ぐがっ!! まさか、私の防御力を上回る攻撃とは……」ドシャッ

勇者「よっしゃーー! 伝説の聖剣ゲットだぜい!!」チャキン

僧侶「これで邪神の加護を打ち破ることが可能になりましたね」

魔法使い「しっかし、変な敵だったわね。一切攻撃してこないなんて」

僧侶「そうですね、とても気味の悪い相手でした……」

戦士「俺は素晴らしい敵だと思ったけどなー」ウーン

勇者「倒した敵なんてどうでもいいだろ。次、行こうぜ!」ニカッ

現在 魔王の城――

魔王「そうだ、まだ倒れるわけにはいかない」

魔王「スライム殿のためにも、ここで倒れるわけにはッ!!」

魔王「ウオオオオオオン!!!!」

ピカーーッ

勇者「なんだ? 魔王の体が光り出したぜ!?」ビクッ

僧侶「おそらく第二形態です!」

戦士「お約束だな」

魔法使い「姿が変化し、パワーアップするのね。気を引き締めないと!」

魔王「これは、どういうことだ…… 体の底から力が溢れてくる」ズウウウン

勇者「なんだよ、図体がでかくなっただけか。なら同じ戦術でいくぜ」ダッ

戦士「応!」ドドッ

僧侶「お待ちください、危険です!」

魔王「フンヌッ!!」ズドン

戦士「攻撃は、俺が受けるッ!!」バッ

ガッ

戦士「ぐわあああああ」バタッ

僧侶「戦士が一撃で……!?」

勇者「問題ねーって、いつも通りだろ?」ダッ

僧侶「確かに。では私は蘇生を始めます。魔法使いは勇者の援護を!」

魔法使い「オッケー!」

勇者「よし、後ろをとった。いくぜ!」ザン!

魔王「くっ、同じ手をくらうとは……」シマッタ

ガキーン!

勇者「なにィ!? 聖剣が通らねー!!」ビクッ

魔法使い「それなら私の炎魔法でぇー!」ボウ

キーン!

魔法使い「魔法も効果が無いなんて、そんな!?」

魔王「なんと! 攻撃力だけでなく、防御力までも上がっているのか!?」

側近「まるでスライム殿が力を貸してくれているようですね、魔王様」

魔王「うむ、これならばいけるかも知れん。ウオオオオオオオンッ!!」グアッ

勇者「仕方ねぇ…… 危険だが正面から攻撃するしかねーな」

魔法使い「ええ。頑丈な鱗で守られている側面や背面は避けて、比較的柔らかい腹部を狙ったほうが賢明ね」

僧侶「では皆さんがいつでも死ねるよう復活の魔法を準備しておきます」パァァ

戦士「うむ。ならば俺は魔王の注意を引き付けることに全力を尽くすのみ」フッカツ

側近「何か策があるようです。お気をつけください、魔王様」

魔王「大丈夫だ、恐れることはない。奴等の攻撃は通用しないのだからな」フフン

勇者「よし、態勢は整った。いくぞ、みんな!!」ダッ

勇者一行「「おおおおお!!」」

戦士「ぬおおおお!」ドドド

魔王「きたか、地に臥せろッ!!」ズゥン

戦士「ぐわああああああ!」バタン

魔法使い「いくわ。爆発魔法最大パワーで発動ッ!!」チュドーン

魔王「くぅ、戦士をおとりにして詠唱時間を稼ぐとは……」

魔王「だが、貴様の魔法ごときでは目眩ましにしかならんぞ!」グオッ

勇者「うおおおーーっ! 突き抜けろ、俺の聖剣ッ!!」ダッ

ズシュッ

魔王「グアッ…… 爆風に身を隠し、懐に飛び込むとは正気かッ!?」ヨロッ

側近「下手をすれば味方の魔法で死ぬ可能性があったはず。勇者一行は死に慣れている!?」ビクッ

勇者「今だ、勇者最大の奥義『神雷剣』を受けろッ!!」バチバチ

魔王「斬撃と魔法が融合した一撃だと!? こ、これは耐えられないよーっ!!??」

魔王「(また私はやられるのか。すまない、みんな……)」

【回想2 魔王の城――】

ケンタウロス「冗談きついぜ、魔王」

魔王「正気なのかい? 打って出るなんて…… 砦で迎え撃つほうが絶対にいいよ」

グリフォン「確かに、防衛戦は明らかにこちらが有利。ですが――」

ケンタウロス「見ての通り俺達、防衛戦は得意じゃない。狭い砦内じゃ戦いづらいからな」

グリフォン「なので得意な荒野で戦おうと思っています。海で戦われたクラーケン殿と同じように」

魔王「だけど!」

ケンタウロス「ハハッ、魔王は心配性だなー」

グリフォン「魔界四天王の二人が打って出るんです。負けはありませんよ」フフッ

ケンタウロス「そうさ、大地と天空の覇者がタッグを組むんだ。最強無敵だって!」

魔王「だけどクラーケン殿、スライム殿に次き、君達まで失ったら……」

ケンタウロス「行かせてくれよ。もう黙って見ていられないんだ」

グリフォン「お願い致します、出撃の許可を!」

魔王「わ、わかった」

ケンタウロス「ありがとよ、魔王!」

魔王「でも、一つだけ約束して欲しい。危なくなったら逃げるって、命を大事にするって!」

ケンタウロス「わかってる、絶対に死なない。負けだとわかったら一目散に逃げるさ」

グリフォン「ありがとうございます、魔王様。私達のわがままを聞いて下さって」

魔王「けど不思議だな。二人はいつの間に仲良くなったんだい?」

魔王「昔は大地の方が凄い、いや天空の方が凄いって、いがみ合っていたのに……」

ケンタウロス「クラーケンやスライム、いや多くの仲間が死んで気づかされたんだ」

グリフォン「いつまでも私達がこんなくだらないことで争っていてはいけないと」

魔王「そう、だったんだ……」

ケンタウロス「魔王のせいじゃないさ。クラーケンの死も、スライムの死もな」

グリフォン「ご自分を責めないでください。私達が選んだことです」

魔王「……」

ケンタウロス「んじゃ名残惜しいが俺達は行くぜ」

グリフォン「では行ってきます、魔王様!」

魔王「勇者を甘く見ては駄目だよ、十分に気をつけて!」

荒野――

ケンタウロス「まさか、俺達を…… 大地と天空を打ち破るとは」グシャ

グリフォン「勇者は想像以上です。魔王様、気をつけてください」ドサッ

勇者「マジびっくりしたわ! 中ボスが移動中に出てくンだもんよ」ヒヤッ

魔法使い「ほんと、ボスはダンジョンの奥で待ってて欲しいものね!」プンプン

僧侶「斬新でよかったではありませんか」パアア

戦士「ふぅーっ。俺が壁にならなければ、また全滅だったな」フッカツ

勇者「んじゃ、次行こうぜ!!」

現在 魔王の城――

魔王「そうだ、私は四天王たちの遺志を受け継いでいるんだ」

魔王「まだだ、まだ死ねないッ!!」

魔王「彼等の戦いを、想いを無駄にしないためにも――」

魔王「ウオオオオオオオオオ!!!!」

ピカーーーー!!

勇者「うわっ、また光り出しやがった」サッ

魔法使い「第三形態ね。この間に戦士を復活させましょう」

僧侶「これは第四形態まであると思った方がいいですね」パアア

戦士「んー、面倒なことになってるなー」フッカツ

フシュゥーーーー!!

魔王「これはどういうことだ、背中から翼が生えているだと!?」バサッ

側近「なんと神々しいお姿。魔王様、まるでワイヴァーンのようでございます!」

魔王「四天王の皆が私に力を貸してくれたのだな。――もはや恐れるものなどない!」

魔王「もう貴様の剣はとどかん!」バサッバサッ

魔王「魔法使いの魔法では致命傷をあたえることは不可能!」ゴゴゴ

魔王「さあ、どうする勇者よ。これが真の恐怖と絶望だッ!!」

僧侶「竜に翼を得たる如し、とはまさにこの事ですね」

魔法使い「一筋縄ではいかないみたい。どうするのよ、勇者?」

勇者「へへっ、ついに究極魔法を使うときがきたようだな」

魔王「きゅ、究極魔法だとッ!?」ビクッ

勇者「僧侶、魔法使い、俺に力を貸してくれ」

魔法使い「ええ!!」キラン

僧侶「お任せ下さい!!」キラン

側近「二人の魔力が勇者に集まっていきます、これは……」

魔王「三位一体の超攻撃魔法を繰り出すつもりか!?」

魔王「しかし、詠唱には時間がかかるようだな。灼熱のブレスで止めてみせる!」ガァァ―

戦士「やらせん。その時間、俺が稼ぐ!!」バッ ドーン

側近「戦士、いつの間に!?」

戦士「くうーっ、熱い。だが、勇者達の攻撃はもっと熱いぞおおおおおおお」

戦士「いけ、勇者よ。俺の屍を越え、愛と正義の一撃を魔王にィ!!」バッタン

勇者「これが俺達の全力だあああーっ!!」バチバチ チュドーン

魔王「グアアアアアアーーーーッ!!」ヒューー ベチャ

勇者「魔王が地に落ちた。よーし、今度こそ魔王に聖剣を突き立て全てを終わらせる」バッ

僧侶「お待ちください、勇者!」ガシッ

勇者「どうしたよ、僧侶」ピタッ

僧侶「どうせ第四形態になります。この間に態勢を立て直しましょう」

勇者「っと、それもそうか!」

勇者「よし、肉壁を蘇生させるぞ。魔法使いは全員に強化系魔法だ」

魔法使い「ラスボスって面倒ね」ハァ

戦士「ん、まだ終わってないのか?」フッカツ

【回想3 魔王の城――】

エルフ「魔王様、魔王様ーっ!」

魔王「君はエルフじゃないか? 故郷に帰ったはずじゃ……」

エルフ「魔王様にお願いがあってきました。私に砦を一つお貸しください」

魔王「何を言っているんだい、そんなこと出来ないよ」

エルフ「四天王のお二人が守備に就くはずであった防衛拠点があります」

魔王「そういうことを言っているんじゃない。私は君に危険なことはさせたくないんだ」

魔王「そもそも妖精族である君にはこの戦いは無関係のはずだ。なぜそこまで?」

エルフ「魔王様は人間に捕まった私を助けて下さいました。その恩をお返ししたいのです」

魔王「そのことは気にしなくていいと言ったはずだよ」

魔王「それに私は君にこんなことをして欲しくて助けたわけじゃない!」

エルフ「それは存じています、いますが!」

魔王「話は済んだね。もう故郷に帰るんだ」

エルフ「魔王様ッ!」

魔王「すぐにここも戦場になる。いつまでもこんな場所にいちゃいけないよ」

エルフ「ですが……」

魔王「君を巻き込みたくないんだ。分かってくれ……」

エルフ「わ、わがままを言ってごめんなさい……」

魔王「本当なら君を送って行きたい所だけど、勇者に見つかって私達の仲間だと勘違いされたら大変だ」

エルフ「大丈夫です、お気遣いなさらず。魔王様、今までありがとうございました」

エルフ「どうか、どうかお元気で」タタタ

側近「良かったのですか、魔王様は彼女のことを……」

魔王「だからこれでいいんだよ……」

数日後――

側近「魔王様、大変です。誰かが砦の防衛についています!!」

魔王「どういうこと? あの拠点は捨てて、城の守りを厚くすると伝えたはず……」

側近「はい、徹底させました。だのに、どうして……」

魔王「まさか、彼女が!?」

砦――

エルフ「魔王様、ごめんなさい。貴方との約束を破ります」

エルフ「でもわかって下さい。私はどうしても貴方に死んで欲しくないのです」

エルフ「さあこい勇者よ」

エルフ「この砦から先には一歩も通しません。私の魔法でつくりあげた迷宮で果てしなく迷い続けるのです」

数時間後――

エルフ「ごめんなさい、魔王様。何一つ、お役に立てませんでした……」ズシャ

エルフ「魔王様、あ……ておりま……」ガクッ

戦士「無限迷宮とは考えたな。お陰で何時間も同じ所を歩かされた」

勇者「しっかし、こいつ弱かったな。ダンジョンが本体って感じで」ザシュッザシュッ

僧侶「四天王は全員倒してしまったのですから、仕方がないでしょう」

魔法使い「だからって、こんな子まで使うなんて…… 最低だわ、魔王」

僧侶「はい、実に不愉快です。妖精族まで戦いに利用するなんて……」

勇者「マジ胸糞。こっちはアトラクション気分でダンジョン攻略してンだ」

勇者「もうちょっと考えて敵を配置して欲しいもんだぜ」ペッ

現在 魔王の城――

魔王「ウオオオオオオオオアアアアアアアア!!!!」ガバッ

魔王「まだ終わっていないぞ!」

魔王「私の心が折れぬ限り、何度でも立ち上がって見せる!!」

魔王「四天王のみんな、エルフ、見ていてくれ。私は絶対に諦めはしないッ!!!!」

ピカーーーーーー!!

勇者「うわっ!? マジで第四形態突入しやがった」

僧侶「やはりありましたね。ふふっ、嬉しいです」

魔法使い「これが最後形態であって欲しいわね」

戦士「ここで全滅したらまた第一形態からかー。面倒臭いな」アハハッ

シュウーーーー

側近「魔王様、そのお姿は……」

勇者「巨大化、飛竜化の次は人型化かよ。パッとしねーな」

魔王「勇者よ、今なんと言った?」

勇者「人型とかパッとしないって言ったの。俺らと同じ姿とかつまんねーなって」

魔王「ウオオオオオ、やったあああ!!」ガッツポーズ

側近「ついにやりましたね。魔王様の諦めない心が奇跡を起こしたのです」ホロリ

魔王「側近よ、今すぐに宝物庫からアレを取りに行くんだ。その時間は私が稼ぐ」

側近「わかりました。必ずアレをお持ちします」ダダッ

魔法使い「アイツ行かせていいの?」

勇者「大丈夫だろ? 魔王さえ倒せばいいンだし雑兵は無視でよ」

魔王「フッ、その油断が命取りになったな。これで万に一つも勝ち目はなくなったぞ」

勇者「なんだとッ!?」

魔王「側近に魔剣を取りに行かせたのだ。その魔剣が我に渡ったとき、貴様らの命運は尽きる」

勇者「まさか…… この城の宝箱に入っていた、あの呪われた剣のことか!?」

魔王「えっ!?」

勇者「すまん、盗んだ」

僧侶「謝る必要はありません。宝箱や壺の物色は勇者の基本です」

魔法使い「そうよ。そんなに大事なら傍に置かない魔王が悪いわ」

魔王「そんな、馬鹿な……」ヨロッ

勇者「ラスボスが全裸で丸腰ってのも可哀想だから返してもいいけど……」

勇者「あの剣、実家に送ったから無理なんだよ。悪いな!」

魔王「送った……?」

勇者「移動魔法のちょっとした応用で必要のない武器や防具は家に送ってンだ」

勇者「冒険が終わったらママンと爺ちゃんとで店屋やろうと思ってよ」

魔王「やっと勇者を倒せると思ったのに、皆の無念を晴らせると思ったのに……」

魔王「もう駄目だ、おしまいだ」ガクッ

勇者「だから魔法主体で戦ってくれよ。じゃあ、いくぜ!!」ダッ

魔王「ああ、しまったっ!?」

勇者「くぅらえ、神雷剣ッ!!」バチバチ ザンッ

魔王「グアアアアアッッ!!」ザシュゥ

勇者「ええっ? 避けないのかよーッ!?」

魔王「おのれぇ、勇者。よくぞ我を討ち倒したな。だが、まだだ!」

魔王「今回――この時代は、貴様ら人間が勝ったと言うだけのこと」

魔王「次の時代では、必ずや我らの遺志を受け継いだ者達が貴様らを滅ぼしてくれる」

魔王「フハハハハア。目に浮かぶぞ、勇者が敗れる未来がな…… ぐふっ」バタッ

勇者「え? これで終わり?」

僧侶「そのようですね、邪悪な気配が消えました」

魔法使い「なら安心ね。また光るんじゃないかってビクついちゃったわ」アセッ

戦士「これでエンドマークというわけか。ふぅー、長き戦いだったな」キリッ

勇者「えぇ、やだよ。こんな終わりとか。つまんねー……」

魔法使い「文句言わないの。さ、帰りましょう」

戦士「うむ。早く皆に知らせよう」

僧侶「気を緩めずに。故郷に帰るまでが魔王討伐ですからね!」

勇者「仕方ない。んじゃ、残党に殺されないよう魔族は根絶やしだ!」

一行「「おおおおお!!」」

――こうして人間と魔族の戦いは終わり、地上に光が戻った。
それから幾千の昼と幾千の夜を経て、再び闇の底から魔王が目覚める次の時代――

<新たな時代>
始まりの国 城内――

大臣「大変です、国王。ゆ、勇者が死にました!」

国王「ハハハ、何を驚いておる。珍しくもない」

国王「最初の洗礼、大ガラスの群れにでもやられたのか?」

大臣「魔王です。魔王に勇者が殺されたのです」

国王「なんと、それはまことか!? で、勇者は?」

大臣「復活いたしません。優れた大神官でも勇者は蘇生させることは出来ず……」

国王「あの噂は本当だったのか。魔剣によって倒された勇者は完全に死ぬという噂は!?」

大臣「そ、そのようなことが……」

平原――

魔王「こんなに容易く勇者が倒せると思いませんでした。イージー過ぎて怖いくらいです」

側近「この勇者は旅に出て間もない戦闘経験の乏しい勇者でした。むしろ奮闘したほうでしょう」

魔王「そうなのですか?」

側近「終わりとは案外呆気ないものですよ」

側近「とにかく、これで我ら魔族の勝利は揺るぎないものとなりました」

魔王「感謝します。このような偉業を成し遂げられたのも側近の働きがあればこそ……」

側近「いえ、感謝するのは私達の方です。貴女が勇者を倒せる魔王で本当によかった」

魔王「そ、そうですか……」

側近「さあ、新魔王城に帰還しましょう。これから忙しくなりますよ」

魔王「は、はい!」

側近「(見ておられますか、魔王様。私はついに悲願を達成したのです)」

側近「(魔族が平和に暮らせる世界を創って見せます。新しい魔王と共に……)」

遥か昔、遠い糞スレの彼方で投稿していたSSの再挑戦です。

見難い所や酷い所が結構あったとは思いますが、最後まで読んで頂きありがとうございましたー。ではでは!

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