穂乃果「めざせポケモンチャンピオン!」 (167)

何番煎じか分かりませんが、ラブライブとポケモンのクロスssです。

拙い文章力ではありますが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

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第1話 穂乃果はこの子と旅に出る



ツバサ「ボーマンダ、りゅうのまい!」

ボーマンダ「ボァアアアア!」


激しい舞により、ボーマンダの力が急速に高まっていく……!


エリートトレーナー「ヨノワール、れいとうパンチだ!」

ヨノワール「ヨノォーワッ!」


氷を帯びたヨノワールの拳が、舞を続けるボーマンダに迫る。
だが、その拳が直撃する寸前、ボーマンダの舞が終演を迎えた。


ツバサ「かわしなさい!」

エリートトレーナー「何⁉」


ボーマンダはヨノワールの攻撃を紙一重でかわす。
そして、勢い余ったヨノワールの後ろに素早く回り込んだ。


ツバサ「決めるわよ」


繰り出されるは暴虐なる龍の突撃。



ツバサ「ドラゴンダイブ!」

ボーマンダ「ボォオオマァアッ!」



ほぼ零距離から放たれた一撃がヨノワールを穿ち、容易くその体力を奪い去る。


ヨノワール「ヨノワぁッ⁉」

エリートトレーナー「ヨ、ヨノワール!」

ジャッジ「ヨノワール、戦闘不能! よって勝者―――チャンピオン、ツバサ!」



 *


所変わって、オトノキシティのとある家の居間にて。
熱心にTV画面を見つめる少女とポケモンがいた。その少女の名前は高坂穂乃果。


穂乃果「……」


そして、その隣に座っているポケモンはヒコザルである。


ヒコザル「……」

雪穂「お姉ちゃんもヒコザルも、そんなに近づいてTV見てたら、目悪くなるよー?」


妹の雪穂の声は、先ほどまでのバトルに見入っていた姉とそのパートナーポケモンには届いていない。


穂乃果「……今のバトルすごかったね、ヒコザル」

ヒコザル「ヒコ!」


未だにTV画面を見ながら話す2人。両者の手には汗が握られていた。


雪穂「ねぇ……二人とも聞いてる?」


聞こえていない。


穂乃果「あんなバトル、私たちもしてみたいね!」

ヒコザル「ヒコ!」


お互いに見つめ合う穂乃果とヒコザル。
どちらも、その目は熱く燃えていた。


雪穂「はぁ……全然聞こえてないね、これ」

穂乃果「……よーし、決めた! 決めたよ雪穂!」


穂乃果はそれまで無意識ながら無視していた雪穂の方を向いて、語りかけた。


雪穂「あ、一応聞こえてたんだ。ようやくTVから離れるのを決めたの?」

穂乃果「そうじゃないよ!」


穂乃果は立ち上がり、熱のこもった声で叫んだ。



穂乃果「穂乃果、ポケモンチャンピオンになる!」



雪穂「……はい?」


姉の突然の宣言に、呆気に取られる雪穂。


穂乃果「なるったらなる!」


こうしてここに、ポケモンチャンピオンを夢見る少女がまた1人生まれたのだった。


 *


―――翌日。オトノキシティの外れにある南研究所2階に、3人の少女が集まっていた。


穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん。穂乃果は旅に出ることにしたよ」


穂乃果は、幼馴染である2人に向かってそう伝えた。


海未「……いつもながら唐突ですね、穂乃果は」


呆れたような表情をしているのは、園田海未。


ことり「いきなり旅なんて……どういうこと?」


戸惑いを露わにしているのは、南ことり。


穂乃果「穂乃果、ポケモンチャンピオンになるって決めたの!」

ことり「ち、チャンピオンって……穂乃果ちゃん、本気なの?」

穂乃果「本気も本気、メガホンキだよ!」

海未「いや、意味が分かりませんが」


若干気合が空回り中の穂乃果だった。


海未「穂乃果、あなた今までバトルになど興味なかったではないですか」

穂乃果「昨日、TVでチャンピオンのバトルを見たの! もうすごくって! 相手のポケモンをバッタバッタと倒すんだよ?」

ことり「ああ……そういえば、昨日エキシビションマッチをやってたね」

穂乃果「あんなの見たら、穂乃果もチャンピオン目指すしかないよ!」

ことり「別に目指さなくていいと思うけど……」


海未「つまりは、またいつもの思いつきと言うことですね」


穂乃果はいつも、思いつきの行動で海未とことりを振り回していた。


穂乃果「それでね、今日は旅に出るのに二人の許可を貰おうと思って集まってもらったんだ」

海未「はい? 私たちの許可?」

ことり「どうして穂乃果ちゃんが旅に出るのに、ことりたちの許可をもらう必要が?」

穂乃果「それがね?」



――回想。昨日のことである。


穂乃果『お母さん、穂乃果旅に出る! いいよね?』

穂乃果母『あ、あなたはまた……はぁ』


娘の突拍子もない発言に、思わずため息をつく母。穂乃果のもう何度目か分からない思いつきの行動の中でも、今回のはとんでもなかった。
当然止めようと考えたが、この状態の穂乃果に考えを改めさせるのは至難の技である。
なので――。


穂乃果母『……じゃあ、海未ちゃんとことりちゃんの許可が出たらいいわよー』

穂乃果『分かった!』


母は娘の友人に説得を任せた。


――回想終了。


海未「おばさま……こちらに丸投げですか」

ことり「あ、あはは……」

穂乃果「というわけで、二人ともいいよね? 穂乃果が旅に出ても」


『いいわけないだろう』
海未もことりも、その言葉が顔に浮かび上がっていた。


海未「私は反対です。旅というのは穂乃果が考えているほど甘くありません。色々な危険も
ありますし、それに―――」

穂乃果「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって」

ことり「穂乃果ちゃん、どこからそんな自信が……?」

海未「おそらく、何も考えていないだけです」

穂乃果「ひどいよ海未ちゃん!」

海未「ひどいのは穂乃果のお気楽思考です!……とにかく、私は旅に出ることに反対ですよ」

穂乃果「むぅー……」


穂乃果は悟った。この状態の海未を説得するのは骨が折れそうだと。


穂乃果「じゃあ、ことりちゃんはどう思うの?」


なので、もう1人の幼馴染に助けを求めた。


ことり「うーん……ことりも、穂乃果ちゃんが心配かな」

穂乃果「こ、ことりちゃんまで……」


海未にもことりにも反対され、このままでは穂乃果は旅立つことが出来ない。……だが、穂乃果は諦めなかった。


穂乃果「それならバトルして決めようよ!」

ことり「え?」

海未「なぜそうなるのですか……」

穂乃果「穂乃果が旅に出ても大丈夫だって、バトルで証明するよ」

ことり「バトルで証明って……ことりはバトル出来ないよ?」

穂乃果「もちろんそれは分かってるって」


ことりはポケモンを所持しているが、バトルをしたことは一度もなかった。ならば残るは―――。


穂乃果「だから海未ちゃん、勝負だよ!」


海未を指差して、穂乃果は勝負を申し込んだ。


海未「はぁ……やはり私ですか」


穂乃果のご指名に、海未は大きくため息をついた。


穂乃果「この町のジムリーダーの海未ちゃんに勝てば、文句ないでしょ? ついでに最初のジムバッジも貰っちゃうよ!」


そう。穂乃果の言うとおり、海未はオトノキシティのポケモンジム、オトノキジムのジムリーダーである。なので、その実力は折り紙付きだ。しかし――。


海未「……随分、舐められたものですね」


穂乃果の発言を聞いた海未の纏う雰囲気は、先ほどまでとは全く異なっていた。



海未「本気で、私に勝てると思っているのですか?」



海未から闘気があふれ出す。その目は親友に向けられる目ではなく、チャレンジャーに向けられるそれへと変貌している。


穂乃果「う……」


今まで受けたことのない強烈なプレッシャーに、たじろぐ穂乃果。


穂乃果「か、勝つよ! それで穂乃果は旅に出るの!」


だが穂乃果の意思は折れなかった。穂乃果の目も、ジムリーダーと言う強者を見つめるものへと変わる。

一方、幼馴染2人が剣呑な雰囲気で対峙するのを見て、ことりは何とかこの場を丸く収めようと――。


ことり「二人とも落ち着い――」



ことり母「話は聞かせてもらったわ!」



――したところで、闖入者が現れた。


ことり「お母さん⁉ いつから聞いてたの⁉」


颯爽と登場した彼女は南博士。ことりの母親であり、この地方のポケモン研究の第一人者でもある。


ことり母「そんなことはどうでもいいわ。二人とも、バトルはうちの庭にあるフィールドを使っていいわよ。思う存分戦いなさい!」

穂乃果・海未『ありがとうございます!』

ことり「なんで火に油を注ぐの⁉」


 *


―――南研究所、中庭。


ことり母「使用ポケモンは一体。どちらかのポケモンが戦闘不能になったら終了ね。審判は私が務めるわ」

ことり「どうしてこんなことに……」


ことりの視線の先では、フィールドを間に挟み、穂乃果と海未が対峙している。


穂乃果「海未ちゃん。穂乃果が勝ったら、旅に出るのを認めてもらうからね」

海未「ええ、分かりました」

穂乃果「約束だからね! あ、それとジムバッジも忘れちゃだめだよ?」

海未「本来、野良試合でバッジを渡してはいけないのですが……まあ、いいでしょう」

ことり「海未ちゃん。それって、ほんとにいいの?」

海未「大丈夫ですよ。負けなければいいだけですから」


海未からは絶対的な自信が感じられる。
万に一つも負けることはないと信じているのだ。


穂乃果「絶対に勝つもん! ファイトだよっ、ヒコザル!」

ヒコザル「ヒコ!」


穂乃果の投げたモンスターボールから、ヒコザルが飛び出てくる。


穂乃果「ヒコザル、海未ちゃんに勝てば旅に出られるの。だから、絶対に勝つよ!」

ヒコザル「ヒコッ!」


めらめらと燃えるしっぽの炎から、ヒコザルの気合が伝わってくる


海未「ではこちらも……お願いします、ワニノコ!」


海未が繰り出したのは、ワニノコだった。ジムリーダーの繰り出すポケモンである。
当然、一筋縄ではいかない強さを―――。


ワニノコ「……ZZZ」


……寝ていた。
その場の全員ががくっと転げる。


海未「いや、なんで寝ているんですか! 起きてください、ワニノコ!」

ワニノコ「ワニ……? ワニャァア……」


海未に怒鳴られ、大きくあくびをしながらワニノコが目を覚ます。


ことり母「なんだか締まらないわね……」

ことり「あはは……海未ちゃんのワニノコはのんきさんだから」

穂乃果「海未ちゃ~ん、緊張感なくなったよ~」

ヒコザル「ヒコ~」

海未「わ、私に言わないでください!……ワニノコ、穂乃果たちとバトルです。シャキッとしてください」

ワニノコ「ワニ?……ワニャ!」


どうやら事情が呑み込めたようで、ワニノコがシャキッと立ち上がる。


海未「これでお互いに、バトルの準備が整ったようですね」

穂乃果「整ってなかったのはそっちだけだと思うけど……」

海未「……うるさいです」

ことり「ワニノコ、寝起きでちゃんと戦えるのかな……?」

海未「大丈夫です! おばさま、始めてください!」

ことり母「い、いいのね? じゃあ……」


一呼吸おいて、ことり母が宣言する。


ことり母「バトル―――はじめっ!」


先に動いたのは穂乃果だった。


穂乃果「ヒコザル、ひのこ!」

ヒコザル「ヒィコッ!」


ヒコザルから放たれたいくつもの火の粒が、ワニノコを襲う!……が。


ワニノコ「……ワニャ?」


『今、何かした?』とでも言わんばかりのワニノコ。かわそうとするどころか微動だに一つしなかった。

それを見て穂乃果は驚愕する。


穂乃果「ぜ、全然効いてない⁉」

海未「ワニノコは水タイプ。炎技の効果はいまひとつです。忘れたのですか?」


「水」は「炎」に強いです。タイプです、相性です。
これはポケモンバトルでは常識である。


穂乃果「い、今のはあいさつ代わりだよっ! ヒコザル、ひっかく!」

ヒコザル「ヒコッ!」


ひっかくはノーマルタイプの技。水タイプに効果はそれなりだ。
穂乃果の指示を聞いたヒコザルが、ワニノコへと突っ込んでいく。


海未「かわして下さい」

ワニノコ「ワーニッ」

ヒコザル「ヒコ⁉」


ワニノコはヒコザルの直線的な動きを見切り、ひっかくをかわした。


海未「今です、ヒコザルの腕に噛みついて下さい」

ワニノコ「ワニャッ」


空振りしたヒコザルの腕に、ワニノコがかぷっと噛みついた。


ヒコザル「ヒギャ⁉」

穂乃果「ヒコザル⁉」

海未「ふふっ、穂乃果もワニノコの噛みつき癖は知っているでしょう? 一度噛みついたら中々離しませんよ?」

ヒコザル「ヒギャっ! ヒギャっ!」

ワニノコ「ワーニワニーワー♪」


必死で腕をぶんぶん振っているヒコザルとは裏腹に、楽しそうなワニノコであった。


 *


ことり「うぅ……。バトルが始まっちゃったけど、ことりはどっちを応援したら……?」

???「どっちも応援すればいいんじゃない?」

ことり「あ、それがいいかも。ありがとう絵里ちゃん」

絵里「いえいえ、どういたしまして」

ことり「……」

絵里「……」


―――若干の間。


ことり「絵里ちゃん⁉ いつからいたの⁉」

絵里「今来たところよ」


彼女は絢瀬絵里。南博士の助手を務めている少女だ。


絵里「博士に用事があったんだけど、研究所の中に誰もいないんだもの。庭の方から声が聞こえたから来てみれば……何だか、面白いことになってるわね」

ことり「あ、あはは……」

絵里「それで、なんで穂乃果と海未がバトルしてるの?」

ことり「それがかくかくメブキジカで―――」


ことりはこれまでのいきさつを絵里に簡単に説明した。


 *


海未「さあ、穂乃果。ここからどうしますか?」

穂乃果「それなら……ヒコザル! そのままワニノコを地面に叩きつけて!」

海未「! そう来ますか」


ヒコザルは噛まれた腕を地面へと叩きつけた。


ヒコ「ヒーコッ!」

ワニノコ「ワニャ⁉」


そうなれば当然、ワニノコも地面へと激突する。


ことり「ワニノコがヒコザルの腕から離れた!」

穂乃果「今だよ! ひっかく!」


ワニノコはヒコザルの真正面。かわせる距離ではない。


ヒコザル「ヒコヒコヒコッ!」

ワニノコ「ワニャワニャ⁉」


勢いよくひっかかれるワニノコ。


海未「ワニノコ! 一旦離れなさい!」

ワニノコ「ワニッ!」


指示に従い、ワニノコはヒコザルから素早く距離を取った。


海未「まさか噛みつかれた腕ごと、ワニノコを地面に叩きつけるとは思いませんでした」

穂乃果「えへへ。よーし、このままガンガン行くよ! ヒコザル、ひっかく!」


ヒコザルが再び、ワニノコへと突撃する。


海未「そうはさせませんよ。ワニノコ、ジャンプです」

ワニノコ「ワーニャ!」


ワニノコが自らの背よりも高く跳び上がり、ひっかくをかわした。


穂乃果「跳んでかわされた⁉」

海未「そのまま噛みついてください」


落下する勢いのまま、ワニノコはまたしてもヒコザルの腕に噛みついた。


ワニノコ「ワニャッ!」

ヒコザル「ヒコッ⁉」

穂乃果「ヒコザル、もう一度地面に叩きつけちゃえ!」

海未「そのままヒコザルを放り投げなさい!」

穂乃果「えっ⁉」


穂乃果が指示を言い終ると同時、その指示に対するカウンターを海未が言い放った。
噛みつきながらその相手を放り投げるなど、並大抵では不可能である。
だが、ワニノコの強靭なあごの力はそれを可能にした。


ワニノコ「ワァーニャッ!」

ヒコザル「ヒキャッ⁉」


放り投げられたヒコザルは、そのまま地面へと叩きつけられた。


穂乃果「ヒコザル!」

ヒコザル「ヒ、ヒコォ……」


地面に倒れ伏すヒコザル。受けたダメージのせいで、上手く立ち上がれないようだ。
その様子を見て、海未が告げる。


海未「どうやら、これまでのようですね」

穂乃果「まだだよ! 頑張ってヒコザル! 決めたでしょ? 私たちは絶対にポケモンチャンピオンになるって!」

ヒコザル「ヒ、ヒコ……!」



穂乃果「ヒコザル、ファイトだよっ!」



その声援に、消えかかっていたヒコザルの闘志が再燃する。


ヒコザル「……ヒィイイコオオオオオ!」


瞬間。ヒコザルの尻尾が、さっきまでの『ひのこ』など比べ物にならないほどの大きな炎へと燃え上がった。


ことり「あ、あれは⁉」

絵里「ヒコザルの特性―――もうかよ!」


もうか。ヒコザルの体力が限界に限りなく近づいた時に発動する、最後の灯火。だがそれゆえに、その炎は猛烈なまでに膨れ上がる。
それを証明するように、今のヒコザルの尻尾の炎は、普段の何倍にも燃え盛っていた。


穂乃果「いくよ! ヒコザル、ひのこ!」

ヒコザル「ヒコォオオオオオオオ!」


ヒコザルから放出される火焔が、ワニノコを飲み込んだ。


ワニノコ「ワニィイイー⁉」

海未「ワニノコ、大丈夫ですか⁉」

ワニノコ「……ワニ!」


ワニノコが海未に答える。
だがその体は、今の火焔により確実にダメージを負っていた。


ことり「さっきのひのこと威力が全然違う……!」

穂乃果「すごい……! すごいよ、ヒコザル!」

ヒコザル「ヒコ!」

海未「……さすが、穂乃果とヒコザルですね」


その時、海未の瞳は幼馴染を見つめる優しいものになっていた。


海未「……ですが、ジムバッジをかけている以上、簡単に負けてあげるわけにはいきません」


だが、すぐにそれは切り替わる。
今の海未は穂乃果の幼馴染の園田海未ではなく、ジムリーダーの園田海未だからだ。


海未「ワニノコ、本気で行きますよ」

ワニノコ「ワニ!」


海未とワニノコの目の色が変わった。


穂乃果「決めるよヒコザル! ひのこ!」

ヒコザル「ヒコオオオオオ!」


再びヒコザルから、猛烈な勢いの火焔がワニノコに向かって放たれる。
だが海未とワニノコは、その攻撃をもう一度受けるつもりは毛頭なかった。


海未「ひのこに向かってれいとうパンチ!」

ワニノコ「ワーッニィ!」


放たれた火焔に、正面からワニノコのれいとうパンチが炸裂する。


穂乃果「え⁉」


そして、一同は信じられない光景を目にした。



炎がれいとうパンチによって凍り付いたのだ。



ことり「うそ……。ひのこを凍らせるなんて……」

絵里「とんでもないわね……」


タイプ相性では、こおり技のれいとうパンチは、ほのお技のひのこに不利である。それを上回るということは……両者の間に、圧倒的なまでのレベルの差があるということだ。


もうかでも埋められないほどの、圧倒的な差が。


海未「決めますよ……ヒコザルにれいとうパンチ!」

ワニノコ「ワーニャッ!」


ヒコザルへと一気に距離を詰め、ワニノコの氷の拳がヒコザルを撃った。


ヒコザル「ヒギャッ⁉」

穂乃果「ヒコザル!」


ヒコザルが地面へと倒れ伏す。もう立ち上がる力は残されていなかった。


ことり母「ヒコザル、戦闘不能!……よって、勝者は海未ちゃん!」


勝負が終わると同時、穂乃果はすぐさまヒコザルへと駆け寄った。


穂乃果「ヒコザル、大丈夫⁉」

ヒコザル「ヒコ……」

ことり母「穂乃果ちゃん、オボンの実よ。ヒコザルに食べさせてあげて。体力が回復するから」

穂乃果「ありがとうございます! ほら、ヒコザル」

ヒコザル「ヒコ?」


穂乃果はオボンの実をヒコザルに口にさせる。ヒコザルはもぐもぐむしゃむしゃと咀嚼すると――。


ヒコザル「……ヒッコ!」


回復!


ことり母「元気になったみたいね」

穂乃果「良かったぁ……」


ヒコザルが元気になり、安心する穂乃果。


ことり「二人とも、お疲れさま」

絵里「いいバトルだったわよ」

穂乃果「あれ? 絵里ちゃん、いつの間に来てたの?」

海未「気づいていなかったのですか? バトルの途中から、ことりと一緒に見学していまし
たよ」

穂乃果「ぜ、全然気付かなかった」

絵里「それだけバトルに集中していたみたいね」

穂乃果「あはは、そうみたい。……でも、負けちゃった。ごめんね、ヒコザル。せっかく頑張ってくれたのに……」

ヒコザル「ヒコォ……」


うなだれる穂乃果とヒコザル。


ことり「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「やっぱり海未ちゃんは強いね。穂乃果たちじゃ、全然かなわないや」

海未「一応、ジムリーダーですからね。今回が初バトルの穂乃果たちには負けられませんよ」

穂乃果「うん……」

ことり「それで海未ちゃん。バトルは海未ちゃんが勝ったけど……」

海未「ええ。バトル前に、穂乃果が勝てば旅を認めると約束しました」

穂乃果「……」

海未「ですが……そういえば、私が勝ったら旅を認めないとは約束していませんでしたね」

穂乃果「……え?」


海未の言葉に、穂乃果が顔を上げる。


海未「穂乃果たちの本気は、バトルを通して伝わってきました。親友の本気の決意を、邪魔することなんてできませんよ」

ことり「海未ちゃん、それじゃあ……?」

海未「ええ。……行ってきなさい、穂乃果」

穂乃果「……や、やったあー! ありがとう海未ちゃん! 大好き!」


嬉しさの余り、海未に抱きつく穂乃果。


海未「全く、穂乃果は調子がいいですね」

ことり「良かったね、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「うん! ありがとうことりちゃん!」

海未「まあ正直、穂乃果一人での旅はやはり心配なのですが……」

ことり「あはは……確かにそうだね」

ことり母「それなら私にいいアイデアがあるわ」

ことり「え? お母さん、アイデアって?」



ことり母「ことり、海未ちゃん。あなた達も、穂乃果ちゃんと一緒に旅をすればいいのよ!」



海未・ことり『え⁉』

穂乃果「それだ! さすがことりちゃんのお母さん! ナイスアイデア!」

ことり母「でしょ?」


ドヤ顔のことり母だった。


海未「いや、なんでそうなるんですか!」

絵里「でも確かに3人で旅をするなら、海未とことりの心配が無くなるわね」

ことり「そ、それはそうかもしれないけど……」

海未「ですが私はジムがあるので旅には出られないと――」

ことり母「あ、大丈夫よ。さっき海未ちゃんのお母さんに電話したら、旅に出てる間はジムリーダーを代理でやってくれるって」

海未「いつの間にそんな電話を⁉」

ことり「お母さん、最初からこうするつもりだったんじゃ……?」

ことり母「さあ、どうかしらね?」

絵里「まあいいんじゃない? 一人で旅をするより、三人の方が楽しいだろうし」

穂乃果「そうだよ。海未ちゃんとことりちゃんがいれば百人力だよ!」

海未「……どうします、ことり?」

ことり「じゃあ……ことりも穂乃果ちゃんと一緒に行こうかな?」

穂乃果「ほんと⁉」

ことり「うん! それで、海未ちゃんは?」

海未「では……私も行くことにしましょう」

穂乃果「やったぁ! じゃあ三人旅だね!」


ことり母「ふふ、ならみんな、これは私からのプレゼントよ」


ことり母が、白衣のポケットから3つの機械を取り出した。


穂乃果「プレゼント?」

ことり「お母さん、これ……ポケモン図鑑?」

ことり母「そう。ポケモンと出会うことで、その図鑑にポケモンの情報が記録されていくの。図鑑をポケモンにかざすことで、そのポケモンの情報を見ることもできるのよ。きっとあなたたちの旅の役に立つわ」

穂乃果「科学の力ってすごいね!」

海未「本当に頂いていいのですか?」

ことり母「もちろんよ。二人とも、ことりをよろしくね?」

穂乃果・海未『はい!』

穂乃果「よーし、じゃあ出発だよ!」

海未「ええ!」

ことり「えぇ⁉」


明後日の方向に走り出す穂乃果たち。図鑑を手に、穂乃果たちの旅が今始ま――。


海未「……いや、なんでですか! まだ旅の準備もしていないでしょう! 手ぶらで旅に出るつもりですか⁉」

穂乃果「あ、そうだった」


まだ始まらなかった。


絵里「なんだか先行きが不安ね」

海未「全く……。今日は旅の準備をして、出発は明日にしましょう」

ことり「穂乃果ちゃん、すぐ出発したいのは分かるけど、ちゃんと準備しなきゃだよ?」

穂乃果「うぅ……しょうがないなぁ」


『(しょうがないのはお前だ)』
海未たちはみんなそう思ったが口には出さなかった。


絵里「旅は何があるか分からないから、きちんと準備したほうが良いわよ」

穂乃果「は~い。……あ、そういえば旅に出たら、絵里ちゃんともしばらくお別れだね」

絵里「そうでもないんじゃない? だって、穂乃果はジム巡りをするのよね?」

穂乃果「うん、そうだよ。……あ、そっか。隣町のアジンシティのジムって」

絵里「そういうことよ。ジムで待ってるわ」

穂乃果「うん!」

絵里「さて、では博士、そろそろ調査の報告を」

ことり母「あ、そうね。じゃあ研究所の中に戻りましょうか」

海未「では私たちは旅に必要なものを買いに行きますか」

ことり「そうだね」

穂乃果「お菓子もいっぱい買おうよ!」

ことり「穂乃果ちゃん、お菓子は300円までだよ」

穂乃果「バナナはおやつに入らないよね?」

海未「二人とも、遠足じゃないんですよ……?」


これからの旅が不安になる海未であった。


 *


―――翌日の朝

高坂家の玄関では、家族全員で穂乃果を見送ろうとしていた。


雪穂「お姉ちゃん、ちゃんとハンカチ持った?」

穂乃果「大丈夫、ちゃんと持ってるよ」

穂乃果母「穂乃果、ティッシュは? 忘れてない?」

穂乃果「忘れてないって」

雪穂「持ち物に名前、ちゃんと書いてる?」

穂乃果母「迷子になったら、ジュンサーさんの所に行くのよ?」

穂乃果「二人とも、さっきから穂乃果を子ども扱いし過ぎだよ!」

穂乃果母&雪穂『だって穂乃果(お姉ちゃん)だし……』

穂乃果「それどういう意味⁉」

穂乃果母「あ、そうだわ。……ほら、おまんじゅうも持っていきなさい」


どこからか饅頭の箱を取り出した穂乃果母。


穂乃果「えぇー……。あんこ、もう飽きたんだけど」

穂乃果母「饅頭屋の娘がそんなこと言わないの。しばらく食べられなくなるんだから、すぐにあんこが恋しくなるわよ」

穂乃果「そうかなあ……?」

雪穂「じゃあ頑張ってね、お姉ちゃん。ヒコザルもね」

穂乃果母「二人とも、この旅で、いろんなものを見てきなさい。しっかりね」

穂乃果「雪穂、お母さん……」

ヒコザル「ヒコッヒコッ!」

穂乃果父「…………」

ヒコザル「ヒコ!」

穂乃果父「…………!」


がしっと、手を握り合うヒコザルと穂乃果父。男の旅立ちに、言葉はいらなかった。


穂乃果母「男同士の別れの挨拶も済んだみたいね」

穂乃果「……そうなの?」

ヒコザル「ヒコ!」

穂乃果母「じゃあ、二人ともいってらっしゃい」

雪穂「いってらっしゃい!」

穂乃果父「……!」

穂乃果「うん、いってきます!」

ヒコザル「ヒッコ!」


 *


―――園田家

海未「お母さま、ポケモンたちとジムの事、よろしくお願いします」

海未母「ええ。ですが海未さん、本当に連れていくのはワニノコだけでいいのですか?」

海未「はい。みんなにはジムを守っていてもらいたいんです」


海未は旅に出るにあたって、ワニノコ以外の手持ちポケモンを全て母に預けていた。


海未母「私のポケモンで挑戦者と戦ってもいいんですよ?」

海未「いえ、今のジムリーダーはお母さまではなく私ですから。私のポケモン達でチャレンジャーの相手をするべきだと思います」

海未母「……私が言うのもなんですが、海未さんは少々真面目すぎるかもしれませんね」

海未「そうでしょうか?」

海未母「少し肩の力を抜いてみたらどうですか?」

海未「肩の力……ですか」

海未母「せっかくの旅なのですから、その方が楽しめると思いますよ」

海未「……そうですね」

海未母「ふふ、海未さんをよろしくお願いしますね、ワニノコ」

ワニノコ「ワーニャッ!」

海未「ではお母さま、いってまいります」

ワニノコ「ワニ!」

海未母「ええ、いってらっしゃい」


 *

―――南家

ことり「お母さん、じゃあそろそろ行くね」

ことり母「ちゃんと枕は持った? あなた、あれが無いと眠れないでしょう?」

ことり「大丈夫。一番にバッグにしまったから」

ことり母「それならいいけど。……たまにはうちに連絡するのよ?」

ことり「うん、分かった」

ことり母「モクちゃん、ことりのことをよろしくね」

モクロー「ホゥ!」


ことりのパートナーポケモン、モクロー。
ニックネームはモクちゃんである。


ことり母「それとことり」

ことり「なに?」

ことり母「この旅であなたのやりたいこと、見つけてらっしゃい」

ことり「……うん。いってきます、お母さん!」

モクロー「ホーッ!」

ことり母「ふふ、いってらっしゃい!」


 *


―――1番道路の手前


穂乃果「海未ちゃ~ん、ことりちゃ~ん!」
 
ことり「あ、来た!」

海未「穂乃果、遅いですよ」

穂乃果「ごめんごめん」

海未「こんな日まで遅刻しないでください」

ことり「まあまあ、海未ちゃん」

海未「まったく……では穂乃果も来たことですし、出発しましょうか」

穂乃果「あ、ちょっと待って海未ちゃん」

海未「どうかしましたか?」

穂乃果「あのさ、確かポケモンリーグに出場するには、ジムバッジを8個集めなきゃいけないんだよね?」

海未「ええ、そうですよ」

穂乃果「それじゃあさ、海未ちゃん。穂乃果がジムバッジを7つ集めたら、穂乃果ともう一度バトルしてくれない?……今度は本気で」

海未「!」


穂乃果の最後の台詞に、海未の表情が変わった。
穂乃果は気付いていた。昨日のバトルで、海未が本当の実力を出していなかったことを。

おかしいのだ。

ワニノコはほのおタイプには有利なみずタイプ。なのに、昨日のバトルでは一度もみずタイプの技を使用しなかった。それどころか、わざわざ不利なれいとうパンチを使用したのだ。海未がタイプ相性を分からないはずがない。

穂乃果は手加減されていたのだ。


最初から、最後の一撃まで。


手加減されても負けるほどの実力差が、今の穂乃果と海未にはあった。

だから、穂乃果は決めた。バッジを7個集めるほどに強くなったら、もう一度、今度は本気の海未と戦い、そして勝って最後のバッジを手に入れると。

穂乃果の決意をその瞳から感じ取り、海未が不敵に笑う。


海未「……ふふ、いいでしょう。その時は全力で相手をしますよ」

穂乃果「約束だよ?」

海未「ええ、約束です」


穂乃果と海未がお互いを見つめ合う。……もう1人いるのに。



ことり「……なんだかことり、蚊帳の外だね。このまま一人で旅に出ようかなぁ?」

穂乃果・海未『えぇ⁉』


まさかのことりの言葉に、慌てふためく穂乃果と海未。


穂乃果「か、蚊帳の外なんて、そんなことないよ、ことりちゃん!」

海未「そうです! だ、だから一人で行くなんて言わないでください!」

ことり「ふふっ、冗談だよ。一人でなんて行かないから」

穂乃果「よ、良かったぁ」

海未「ことり、たちの悪い冗談はやめてください……」

ことり「ごめんね、つい」


さっきの2人の雰囲気にことりが疎外感を感じたのは事実だった。
なのでことりは、ちょっとしたお茶目を2人にしてみたのである。


海未「なんだか、どっと疲れましたが……では、今度こそ行きますか?」

ことり「うん、そうだね」

穂乃果「じゃあ、二人とも、準備はいい?」

海未「はい」

ことり「うん!」

穂乃果「よーしっ! いっくよー!」


その日、少女たちはまだ見ぬ世界への最初の一歩を踏み出した。



―――つづく



これにて1話終了です。……が、2話へと続く話も一緒に投稿しようと思います。


第1.5話 ポケモン、ゲットだよ!



アジンシティへと歩みを進める穂乃果たち。―――だったが。


海未「あ、そういえば。穂乃果、ちょっといいですか?」

穂乃果「なに、海未ちゃん?」



海未「今のままでは、穂乃果はジム戦に挑戦できませんよ?」



穂乃果「へー、そうなんだぁ…………えぇぇえええええええええ⁉」

ことり「穂乃果ちゃん、リアクション遅くない?」

穂乃果「な、なんで⁉ なんで挑戦できないの⁉」


必死の形相で海未に詰め寄る穂乃果。


海未「お、落ち着いてください! ちゃんと説明しますから!」

穂乃果「落ち着いてなんかいられないよ! ジムに挑戦できなかったら旅に出た意味ないよ⁉ もう帰るの⁉ これじゃちょっとした散歩だよ!」


ちなみに旅立ってからまだ1時間も経っていなかった。


海未「だから、落ち着きなさい! 私は『今のままでは』と言ったんです!」

穂乃果「い、今のままでは?」


ようやく、穂乃果が海未から離れる。


海未「ええ。ジム戦に挑むには複数の手持ちポケモンが必要になるんです」

ことり「あ、そっか。穂乃果ちゃんの手持ちポケモンは、ヒコザルだけだもんね」

穂乃果「じゃあジム戦をするには、何匹いなきゃ駄目なの?」

海未「それは挑戦者の持っているバッジによって変わります。基本的には0~1個の場合が2匹、2~3個の場合が3匹、4~6個の場合は4匹、そして最後のバッジの時はフルバトルになりますね。まあ、例外はありますが」

穂乃果「……へー」

海未「ちゃんと分かりましたか?」

穂乃果「わ、分かったよ⁉」


分かったような気がした穂乃果だった。


ことり「えっと……つまり穂乃果ちゃんが最初のジム戦をするには、最低でもあと1匹ポケモンが必要ってことなの?」

海未「ええ、その通りです」

穂乃果「あ、なるほど」


今度はちゃんと分かった穂乃果だった。


ことり「穂乃果ちゃん、なるほどって……」

海未「やっぱり分かっていなかったようですね」

穂乃果「と、とにかく、ジムに着くまでにポケモンをゲットしなきゃ! ど、どこかにポケモンいないかな~?」


穂乃果は2人の視線から逃げるように、近くの草むらをがさごそと探りだす。


海未「あからさまに誤魔化しましたね」

ことり「目が泳いでるもんね……あっ⁉ ほ、穂乃果ちゃん、足元!」

穂乃果「ふぇ?」


ことりが穂乃果に注意を促した瞬間、『ぎゅむっ』という音とともに、穂乃果は何かを踏みつけた。


???「リン⁉」

穂乃果「あれ? 何か踏んだような……?」


穂乃果が恐る恐る足元を見てみると……そこにいたのは一匹のコリンクだった。


コリンク「リ、リィイイイイン!」


コリンクは涙目になって穂乃果を睨みつけている。
穂乃果のぼうぎょは特に下がらなかったが、穂乃果は良心の呵責を感じた!


穂乃果「……も、もしかして、君のしっぽ? あのぅ、そのぅ……ごめんね?」

コリンク「リィインクゥウウウウウ!」


コリンクのスパーク!


穂乃果「ぴぎゃああああああああああああ!」

海未・ことり『穂乃果(ちゃん)⁉』


こうかはなかなかだ!


穂乃果「し、しびれびれ……」


穂乃果はまひして技が出にくくなった!

海未とことりが急いで穂乃果に駆け寄る。


海未「穂乃果、大丈夫ですか⁉」

ことり「しっかりして、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「しびれびれび……はっ! び、びっくりしたぁ。いきなり電撃をしてくるんだもん」

ことり「穂乃果ちゃん、大丈夫なの?」

穂乃果「うん。ちょっと痺れただけだよ」

海未「怪我が無いみたいで良かったです」

ことり「そうだね。でも……」

コリンク「リン! リィイイン!」


コリンクは穂乃果に対して怒りの炎をめらめらと燃やしている。
ちょっとやそっとじゃ許してはくれなさそうだ。


穂乃果「あの子、めちゃくちゃ怒ってるね」

海未「しっぽを踏まれたのですから、当然だと思いますよ」

ことり「今にも、また攻撃してきそうだよ?」

穂乃果「うーん、どうしよう…………あ、そういえばこの辺に」


そう言うと、穂乃果は自分のバッグを漁り出した。


ことり「穂乃果ちゃん?」

海未「どうしたのですか?」

穂乃果「……あった!」


穂乃果はバッグの中からある物を取り出した。それは―――。


穂乃果「じゃじゃーん! 穂むら特製まんじゅう、略して『ほむまん』!」

海未「なぜ今、ほむまんを?」

ことり「も、もしかして」


2人の疑問をよそに、穂乃果はコリンクに向けてほむまんを差し出した。


穂乃果「ほーらコリンク、ほむまんだよ~? あんこおいしいよ~?」

ことり「やっぱり食べ物で釣る気だ……」

海未「いや、そんなことで怒りが収まるはず―――」

コリンク「リン♪」


コリンクはほむまんに食いついた!


穂乃果「食べた!」

海未「えぇ⁉」

ことり「ホントにうまくいっちゃった……」


 *


穂乃果「どう? おいしかった?」

コリンク「リン♪ リン♪」


コリンクはしっぽを振って喜んでいる。ほむまんの味が相当お気に召したらしい。


穂乃果「そっか、良かった!」

海未「このコリンク、かなり単純ですね」

ことり「あはは……」


穂乃果はしゃがみこみ、コリンクへと語りかける。


穂乃果「コリンク、さっきはしっぽ踏んじゃってごめんね? わざとじゃなかったんだけど……」

コリンク「リン! リンリン!」


コリンクは穂乃果の足に頬をすりすりとこすりつけている。その様子からは、もう敵意を感じない。


ことり「コリンク、許してくれたみたいだね」

穂乃果「うん!……あ、そうだ。ねえ、コリンク」

コリンク「リン?」

穂乃果「穂乃果は今、ポケモンチャンピオンになるために旅をしてるの。これから、いろんな人とバトルして、最強のポケモントレーナーになる……予定なんだ」


真剣な表情で、穂乃果はコリンクへと自身の思いを告げる。


穂乃果「それでね、コリンク。良かったら、穂乃果と一緒に来ない? あなたと一緒に旅がしたいの」

コリンク「……リン!」


穂乃果の誘いに、コリンクは元気な鳴き声で答えた。


穂乃果「一緒に来てくれるの?」

コリンク「リン!」

穂乃果「ありがとう! じゃあ行くよ、モンスターボール!」


穂乃果はコリンクに向かって、優しくモンスターボールを放り投げた。


《ころん、ころん、ころん―――パチン!》


穂乃果「う~、やったぁ! コリンク、ゲットだよっ!」


ことり「やったね、穂乃果ちゃん!」

海未「初ゲット、おめでとうございます」

穂乃果「えへへ……出ておいで、コリンク!」


穂乃果がモンスターボールを開くと、コリンクが飛び出てくる。


コリンク「リン!」

穂乃果「コリンク、これからよろしくね」

コリンク「リン♪」

ことり「これで、穂乃果ちゃんはジムに挑戦できるんだよね?」

海未「はい、そうなりますね」

穂乃果「よーし、じゃあアジンシティに向かって競争だよ! だーっしゅっ!」

コリンク「リィーン!」


海未とことりを置いて、穂乃果とコリンクはアジンシティに向かって走り出した。


海未「いや、なんでですか!」

ことり「穂乃果ちゃん、待ってー!」


2人が慌てて穂乃果たちを追いかける。

さあ、目指すはアジンシティ。
穂乃果は無事、1つ目のジムバッジを手にすることが出来るのだろうか?



―――つづく

これにて1.5話も終了です。2話も早いうちに上げようと思います。

第2話 アジンジムのたたかい!



オトノキシティを旅立った穂乃果たちは、ついにアジンシティへとやってきた。


穂乃果「やっと着いたー!」

海未「隣町ですし、やっとと言うほどの距離でもなかったと思いますが」

ことり「でもことり、この町まで歩いてきたのは初めてだから……思ったより遠かったなぁ」


ことりの表情には、若干の疲れが見て取れる。


海未「ことりまで何を言っているんですか。いいですか2人とも。この先の旅はもっと歩くことになるんですから、この程度でそんなことを言っていては――」



???「海未さーんっ!」



海未「はぇ⁉」


海未が説教を開始しようとした矢先、突然何者かが海未に抱きついてきた。


???「やっぱり海未さん! ハラショー!」

海未「はら……まさか亜里沙ですか⁉」

亜里沙「はい、亜里沙です!」


海未に抱きついた少女は亜里沙。彼女は―――と、もう一人来たようだ。


絵里「みんな、無事に着いたみたいね」

穂乃果「絵里ちゃん!」

ことり「もしかして、迎えに来てくれたの?」

絵里「ええ。そろそろ来る頃かと思って」

亜里沙「お姉ちゃんと一緒に待ってたんです」


そう。彼女は絵里の妹、亜里沙。
穂乃果の妹、雪穂の親友であり、そして―――。


亜里沙「一秒でも早く海未さんに会いたくて!」

海未「そ、そうですか」


超が付くほどの海未の大ファンである。……好意は嬉しいが、若干引き気味の海未であった。


ことり「亜里沙ちゃん、相変わらず海未ちゃんのこと大好きなんだね」

亜里沙「はい、海未さんは私の憧れですから♪」

穂乃果「いや~、海未ちゃんもスミに置けないね」

海未「そのにやけ顔をやめなさい、穂乃果。……絵里、そろそろ助けてください」

絵里「いいじゃない。ファンは大事にしたほうが良いわよ」

海未「私はアイドルではないのですが!」

絵里「ふふっ、仕方ないわね。亜里沙、そろそろ海未を離してあげなさい。それじゃあまともに歩けもしないわ」

亜里沙「あっ……ごめんなさい、海未さん」


亜里沙が海未から体を離す。


海未「いえ、大丈夫ですよ」

穂乃果「大丈夫ならそのままくっついててもいいんじゃない?」

海未「黙っていなさい、穂乃果」

穂乃果「は~い。ちぇっ」

亜里沙「穂乃果さん」

穂乃果「何、亜里沙ちゃん?」


亜里沙が穂乃果を正面から見つめる。

彼女の纏う雰囲気は、さっきまで無邪気に海未に甘えていた少女のものとは異なっていた。


亜里沙「お姉ちゃんから聞きました。ジムに挑戦しに来たんですよね?」

穂乃果「! うん、そうだよ」


そして今の彼女からは、先日の海未と同種類の―――。


穂乃果「だから……亜里沙ちゃん、お願いできるかな?」

亜里沙「もちろんです。アジンジムジムリーダーとして……絢瀬亜里沙、穂乃果さんの挑戦をお受けします!」


ジムリーダーとしてのプレッシャーが、放たれていた。


――アジンジム、観客席


ことり「うぅ、いよいよ始まるね」

絵里「我が妹ながら、亜里沙は強いわよ?」

ことり「! う、海未ちゃん。穂乃果ちゃん、大丈夫かな?」

海未「……おそらく、かなり厳しいと思います」

ことり「そ、そうなの?」

海未「はい。……ですから、私たちは穂乃果を全力で応援しましょう」

ことり「うん! 穂乃果ちゃん、がんばれ~!」

絵里「……さて、穂乃果は亜里沙にどんなバトルで挑むのかしら?」





―――アジンジム、バトルフィールド


審判「それではこれよりアジンジム、ジム戦を始めます。使用ポケモンは両者2体、どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になったら決着となります。なお、バトル中のポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます」


フィールドを挟み、穂乃果と亜里沙が向かい合う。


亜里沙「ジムリーダーとして戦う以上、穂乃果さんが相手でも手加減はしません。全力で相手をします!」

穂乃果「私も全力でいくよ、亜里沙ちゃん! ヒコザル、ファイトだよっ!」

ヒコザル「ヒコッ!」


穂乃果の1匹目はヒコザル。ボールから出た途端、その場で宙返りをしたその様子から、元気いっぱい、やるき十分のようだ。


亜里沙「出てきて、エネコっ!」

エネコ「エーネっ♪」


亜里沙が繰り出したのはエネコ。可愛らしく自分の尻尾を追いかけて、その場でクルクルと回っている。元気いっぱい……おそらく、やるき十分だろう。


共にポケモンを繰り出し、両者の間に沈黙の時が流れる。

そして……その沈黙をジャッジが引き裂いた。


審判「それでは……バトル、開始っ!」


開始と同時に穂乃果が動いた。


穂乃果「それじゃあ行くよっ! ヒコザル、ひのこ!」

ヒコザル「ヒィコォッ!」


ヒコザルから放たれた火の粉が、エネコへと降りかかる。


亜里沙「かわして!」

エネコ「エネっ!」


だが距離が離れ過ぎていた。
楽々とかわされ、今度は亜里沙がエネコへと指示を与える。


亜里沙「チャームボイス!」

エネコ「エ~ネ~♪」


エネコの可愛らしい鳴き声が、衝撃としてヒコザルに襲い掛かった。


ヒコザル「ヒコっ⁉」


衝撃を受け、そのまま後ろへと吹き飛ばされそうになるヒコザルだったが――。


穂乃果「ヒコザル、引いちゃ駄目! 突っ込んで!」

ヒコザル「っ! ヒコッ!」


ヒコザルは踏みとどまり、一気にエネコへと突っ込んだ。


穂乃果「ひっかく!」

ヒコザル「ヒコッ!」

エネコ「エネっ⁉」


そして、ヒコザルのひっかく攻撃がエネコへとダメージを与える。



亜里沙「チャームボイスを受けながら突っ込んで来るなんて、すごい気合です!」

穂乃果「それが穂乃果たちの一番の武器だよ!」

亜里沙「じゃあ、これはどうですか? エネコ、メロメロ!」

エネコ「エ~ネッ♡」


エネコがヒコザルに可愛らしく微笑んだ。


ヒコザル「ヒコ⁉」

穂乃果「ヒコザル⁉」


それを受けたヒコザルは……。


ヒコザル「ヒ~コ~♡」


目がハートマークになっている!


穂乃果「ひ、ヒコザル? どうしたの?」

亜里沙「ヒコザルはメロメロ状態になったんです。今のヒコザルは、まともにエネコに攻撃できませんよ?」

穂乃果「そんな……ヒコザル! ひのこだよっ!」

ヒコザル「ヒ~コっ♡」


ヒコザルにはエネコのキュートな鳴き声しか聞こえていない!

穂乃果の声など雑音だ!


穂乃果「き、聞こえてない……」

亜里沙「ふふふっ。エネコ、おうふくビンタ!」

エネコ「エネっ! エネっ! エネっ!」

ヒコザル「ヒコ♡ ヒコ♡ ヒコ♡」


エネコの尻尾で両頬を交互に叩かれるヒコザル。その声は心なしか嬉しそうに聞こえた。


穂乃果「やられてるのに幸せそうにしてるんじゃないよ!」

ヒコザル「ヒコォ♡」


恍惚の表情である。


亜里沙「決めますよ。もう一度おうふくビンタ!」

エネコ「エーネッ!」


またしてもエネコがヒコザルに攻撃しようとするも、ヒコザルは笑顔でそれを受けようとしている。


穂乃果「……い……い……」


それを見て穂乃果が―――キレた。



穂乃果「いい加減にしてよヒコザルぅうううううううううううううう!」



そして、その怒りの叫びがミラクルを引き起こす!


ヒコザル「!……ヒコ?」


ヒコザルの目が元に戻った!


穂乃果「! かわしてヒコザル!」

ヒコザル「ヒ、ヒコッ!」


穂乃果の指示に従い、とりあえずエネコの攻撃を避けるヒコザル。


亜里沙「えっ⁉ メロメロが解けた⁉」

穂乃果「そのままひっかく!」

ヒコザル「ヒィコっ!」

エネコ「エネ⁉」


メロメロが解けたヒコザルは、躊躇なくエネコへと攻撃を加える。


穂乃果「ひのこ!」

ヒコザル「ヒィイコォオオオ!」

エネコ「エネっ⁉」


そしてエネコに至近距離からのひのこが炸裂。
これにはさすがに耐え切れず……。


エネコ「エ、エネ……」


魔性のエネコはその場に崩れ落ちた。


審判「エネコ、戦闘不能! よって勝者、ヒコザル!」

穂乃果「やったあ!」

ヒコザル「ヒコォ!」


 *


―――観客席


ことり「すごい! 穂乃果ちゃんが勝ったよ!」

海未「まさか、大声を出してメロメロを解くとは」

絵里「さすが穂乃果、面白いバトルをするわね。……でも、ジム戦の本番はここからよ」

海未「そうですね。ここからが穂乃果たちの正念場です」

ことり「え、どういうこと?」

絵里「ふふ、すぐに分かるわ」





―――フィールド


亜里沙がエネコをボールに戻す。


亜里沙「お疲れさま、エネコ。……すごいです、穂乃果さん! あんな方法でメロメロを解除するなんて!」

穂乃果「いやあ、あはは」


ただの偶然である。


亜里沙「私の残りポケモンは一体。このポケモンを倒せば穂乃果さんの勝ちです。出てきて、ミミロップ!」

ミミロップ「ミミロゥ!」


亜里沙が繰り出したのは、ミミロップ。折りたたんだ長い耳がチャームポイントだ。
よく見ると、耳元にシュシュのような可愛らしい飾りを付けている。お洒落したい年頃だろうか?


穂乃果「ミミロップ……そのポケモンを倒せば、穂乃果の勝ちだね」

亜里沙「ふふふ……そんな簡単にバッジはあげませんよ?」

穂乃果「望むところだよ。ミミロップも絶対に倒して、穂乃果はバッジを貰うよ!」


意気込む穂乃果だったが、それに対し、亜里沙は首を振った。


亜里沙「違いますよ、穂乃果さん。穂乃果さんが倒さなきゃいけないのは、ミミロップじゃないです」

穂乃果「え? それってどういうこと?」

亜里沙「こういうことです。……いくよ、ミミロップ!」

ミミロップ「ミミロ!」


亜里沙の髪留めが、強い輝きを放ち始めた! 

さらに、それに呼応するかのようにミミロップのシュシュが輝き始めた!


亜里沙「ミミロップ……メガシンカ!」

ミミロップ「ミィ―――!」


輝きは、ミミロップの体を包み込んでいく……!

そして、光が消えた時、そこにいたのは。


メガミミロップ「―――ミロゥッ!」


姿を変化させ、さらなる力を得たミミロップだった。


亜里沙「これが亜里沙の最後のポケモン……メガミミロップです!」

穂乃果「メガ……ミミロップ……!」



―――観客席



ことり「う、嘘⁉ メガシンカ⁉」

絵里「あれがあるから、この地方のジム戦はレベルが高すぎるって言われるのよね」

ことり「この地方のジム戦はって……ま、まさかジムリーダーって、みんなメガシンカが使えるの⁉」

絵里「それはそうよ。少なくともこのラブラ地方では、メガシンカが使えることがジムリーダーの必須条件だもの」

ことり「えぇ―――――――――っ⁉」

海未「ことり、まさか知らなかったのですか?」

ことり「初耳!」

絵里「え、海未のジム戦を見学したこととかないの?」

海未「そういえば……オトノキジムのジム戦は関係者以外立ち入り禁止なので、穂乃果とことりは私のジム戦を見たことは無いですね」

絵里「ああ、なるほどね」

ことり「う、海未ちゃん。穂乃果ちゃんには伝えてたの?」

海未「い、いえ、てっきり知っているものかと……」

絵里「ことりが知らなかったなら、おそらく穂乃果も知らないでしょうね」


だらだらと汗をかき始める海未。


海未「……。……ほ、穂乃果ならきっと大丈夫です。私は穂乃果を信じています」


海未は穂乃果への信頼を……目を逸らしながら口にした。


絵里「誤魔化したわね」

ことり「うぅ、頑張れ穂乃果ちゃーん!」


――フィールド


その穂乃果はと言えば。


穂乃果「まさかメガシンカするなんて……すごいや!」

亜里沙「え?」

穂乃果「メガシンカしたポケモンと戦えるなんて、思わなかったよ! う~、すっごい燃えてきた!」


穂乃果はメガシンカを見ても全くひるむことなく、むしろ気合を増していた。


亜里沙「ハラショー! 穂乃果さん、流石です。メガシンカしたミミロップを見て、さらに闘志を燃やすなんて」

穂乃果「亜里沙ちゃん。穂乃果たちは負けないよ!」

亜里沙「亜里沙たちだって、負けません!」


そして再び、戦いの幕が上がる。


穂乃果「よーし、行くよヒコザル! ひのこ!」

亜里沙「ミミロップ、ねこだまし!」

メガミミロップ「ミロ!」

ヒコザル「ヒコ⁉」


穂乃果が技を指示するも、ミミロップのねこだましにより、技を出すことは叶わなかった。

ねこだましは、場に出た最初の攻撃時にのみ使える技。
どんな相手よりも早く技を繰り出し、受けた相手は必ずひるみ、技を出すことが出来ない。


亜里沙「かみなりパンチ!」


亜里沙は攻撃の手を緩めなかった。
ミミロップの右拳が雷を帯び、ヒコザルへと撃ちつけられる。


メガミミロップ「ミィイイロゥ!」

ヒコザル「ヒキャっ!」


ねこだましに続き、かみなりパンチまでもを食らうヒコザル。
ダメージが大きいのか、足元がふらついている。


穂乃果「まずい! ヒコザル、一旦戻って!」

ヒコザル「ひ、ヒコ……!」


穂乃果はヒコザルをモンスターボールに戻した。


穂乃果「お疲れさま、少し休んでて」


亜里沙「ぎりぎりで戦闘不能にはならなかったみたいですね」

穂乃果「亜里沙ちゃん……強いね、メガミミロップ。それに、とんでもなく素早い」

亜里沙「ふふ、メガミミロップの力は、まだまだこんなものじゃないですよ?」

穂乃果「穂乃果たちだって、こんなものじゃないよ! いくよコリンク、ファイトだよっ!」

コリンク「リン!」


穂乃果は2体目であるコリンクを繰り出した。
コリンクの周りに、バチバチッと稲妻がはじける。


亜里沙「穂乃果さんの2体目はコリンクですか」


ヒコザルと違い、コリンクは無傷。亜里沙は気を引き締める。


穂乃果「一気にいくよ、でんこうせっか!」

コリンク「リンリン!」


ミミロップに負けぬほどの速さで、コリンクが突撃する。


亜里沙「ミミロップ、れいとうパンチ!」

メガミミロップ「ミィ!」


それを迎え撃つは氷の拳。冷気を帯びた左拳が、コリンクへと迫る。


穂乃果「そのままスパークだよっ!」


コリンクは、でんこうせっかからスパークを発動。
まさに電光のような体当たりと、れいとうパンチがぶつかり合う!


コリンク「リンリン、リィイイン!」

メガミミロップ「ミィイイロゥ!」

コリンク「―――リンッ⁉」


押し負けたのはコリンクの方だった。そのまま吹き飛ばされるが、なんとか体勢を立て直す。


穂乃果「くっ! コリンク、まだいける?」

コリンク「リン!」

亜里沙「これで決めます! とびひざげり!」

メガミミロップ「ミミロ!」


ミミロップの俊敏な動きから繰り出されるとびひざげりが、コリンクへと迫る。


穂乃果「かわして!」

コリンク「リン!」


コリンクは横に跳び、ミミロップの狙いから外れる。


亜里沙「逃がしません! ミミロップ!」


亜里沙が叫ぶと、ミミロップはその長い耳を地面に叩きつけた!


メガミミロップ「ミィミ、ロゥっ!」


するとその衝撃により、とびひざげりの方向が変化する!


穂乃果「なっ⁉」


その先に居るのは、言うまでもなく。

コリンクの小さな体をミミロップの膝が捉える。


コリンク「リ、リン…………」


その攻撃により、コリンクは倒れた。


審判「コリンク戦闘不能。ミミロップの勝ち!」

穂乃果「……戻ってコリンク」


穂乃果は倒れたコリンクをボールへ戻し、中に入ったコリンクに語りかけた。


穂乃果「お疲れさま、ゆっくり休んでてね」


―――観客席


海未「これで、お互いに残りポケモンは一体ですね……数の上では」

絵里「だけど穂乃果のヒコザルは、既に戦闘不能寸前。これはもう決まりかしら?」

海未「そうですね……ですが、穂乃果なら」

ことり「うん。穂乃果ちゃんなら」


海未とことりは、穂乃果を真っ直ぐに見つめていた。


絵里「二人とも、まだ勝ち目があるって言うの?」

海未「いえ、分かりません」

絵里「……何それ?」

海未「でも、穂乃果ならこの状況からでも何とかする……そう思えるんです」

ことり「ほら見て絵里ちゃん。穂乃果ちゃんはまだ諦めてないよ」


―――フィールド


穂乃果「ヒコザル、ファイトだよっ!」

ヒコザル「ヒコ!」


ヒコザルが飛び出てくるが、その体は立っているのがやっとの様子だ。


亜里沙「穂乃果さん。そのボロボロのヒコザルじゃ、あと一発攻撃を受けたら終わりです。もう勝ち目はほとんど無いですよ?」

穂乃果「それでも穂乃果たちは諦めないよ。ね、ヒコザル?」

ヒコザル「ヒコ!」


穂乃果とヒコザルがお互いに頷き合う。


亜里沙「ハラショー! さすが穂乃果さんです。では始めましょうか……これが最後です!」


そして今、ラストバトルが幕を開ける。


穂乃果「いくよ、ヒコザル! 必ず勝って、バッジをゲットだよっ!」

ヒコザル「ヒコ!……ヒィイコォオオオオ!」


瞬間。ヒコザルの尻尾が燃え上がる。自分の体よりも、何倍も大きく。

穂乃果とヒコザルの闘志のように!


亜里沙「もうか……! まだヒコザルには、それがありましたね!」

穂乃果「ひのこ!」

ヒコザル「ヒィイコォオオオオ!」


ヒコザルがミミロップめがけて猛烈な勢いの火焔を噴き出す。
そのあまりの勢いに、ミミロップは避けることが出来なかった。


メガミミロップ「ミロっ⁉」

亜里沙「これがひのこ⁉ かえんほうしゃ並みの威力……! ミミロップ、一気に決めるよ! とびひざげり!」

メガミミロップ「ミミロ!」


ミミロップのとびひざげりが、ヒコザルに迫っていく。


穂乃果「かわして!」

亜里沙「逃がさないと言いました!」

メガミミロップ「ミィミ!」


ヒコザルがかわそうとするが、先ほどと同じように、ミミロップが自らの耳を地面に打ち付け方向を転換する。


穂乃果(やっぱりかわしきれない!……それなら!)

穂乃果「地面に向かってひのこ!」

ヒコザル「ヒィイコォオオオオ!」


猛烈な勢いで地面へと噴き出した火焔は、ヒコザルの体を勢いよく空へと浮かび上がらせる。


メガミミロップ「ミロ⁉――――ミィっ⁉」


とびひざげりは空を切り、ミミロップはそのまま地面へと激突した。


亜里沙「ひのこを噴射して空を……⁉」

穂乃果「今だよ! ひのこ!」

ヒコザル「ヒィイイコォオオオオオ!」


地面にうずくまっているミミロップへと、空中から一直線に火焔が噴きつけられる。


メガミミロップ「ミィー!」

亜里沙「ミミロップ! これ以上はやらせません! かみなりパンチ!」

メガミミロップ「ミィ!」


ミミロップは右拳でかみなりパンチを放とうとした。

だが、その瞬間!


メガミミロップ「ミ、ミロ⁉」


突然、ミミロップの体をしびれが襲った!


亜里沙「まひ⁉ そんなどうして……まさかコリンクのスパークで⁉」


そう。コリンクのスパークにより、ミミロップはまひ状態になっていたのだ。
それが今、ようやくミミロップの動きを止めた。


穂乃果「今だ! これで決めるよ、ひのこぉおおおおおおおおお!」

ヒコザル「ヒィイイコォオオオオオ!」


空中から落下してきたヒコザルが、ミミロップの真上から火焔を放射する!


メガミミロップ「ミ、ミィー!」

亜里沙「ミミロップ!」


そして――――。



ミミロップ「―――ミ、ミロゥ…………」



ミミロップはメガシンカが解除され、フィールドへと崩れ落ちた。


審判「ミミロップ戦闘不能、ヒコザルの勝ち! よってこの勝負、チャレンジャー穂乃果の勝ち!」


穂乃果「やったあー! ありがとうヒコザル!」

ヒコザル「ヒコ!」


お互いに抱きしめ合う穂乃果とヒコザル。そして―――。


コリンク「リン!」


コリンクが勝手に飛び出してきた!


穂乃果「コリンク! 大丈夫なの⁉」

コリンク「リン! リン!」


どうやら喜びでダメージを忘れているようだ。……単純。


穂乃果「うん、やったよコリンク! 穂乃果たちの勝ち!」

コリンク「リン! リン!」

ヒコザル「ヒコ! ヒコ!」


穂乃果がヒコザルとコリンクを抱きしめていると、観客席からことりたちが降りてきた。


ことり「おめでとう穂乃果ちゃん!」

海未「やりましたね、穂乃果!」

穂乃果「うん!」


亜里沙「ミミロップ、お疲れさま」

ミミロップ「ミロゥ」

絵里「いいバトルだったわよ、亜里沙」

亜里沙「ありがとう、お姉ちゃん」


亜里沙「穂乃果さん、ハラショーです! あんなやり方でとびひざげりをかわされるなんて、考えもしませんでした!」

穂乃果「えへへ、そうかな?」

海未「とびひざげりは外した場合、自身にダメージを受けてしまいます。あそこでかわしたことが勝利の決め手でしたね」

ことり「穂乃果ちゃんの機転のおかげだね」


しかし、穂乃果は首を振る。


穂乃果「ううん、コリンクとヒコザルのおかげだよ。コリンクがミミロップをまひ状態にしてくれたから、ミミロップが最後に動きを止めたんだし。ヒコザルがもうかを発動してたから、ひのこの勢いが強くなってたんだもん」

絵里「それに穂乃果の機転が加わって、とびひざげりをかわせたということね」

ことり「じゃあ、3人の力を合わせた勝利だね」

穂乃果「うん!」

海未「……それに、まひ状態であったことでミミロップのすばやさは普段より落ちていましたからね」

穂乃果「え、そうなの?」

海未「まひの追加効果ですよ。元々のすばやさであったなら、おそらくひのこを出す間も無くやられていたでしょう」

絵里「亜里沙。あなた、ミミロップがしびれて動けなくなるまで、まひ状態だと気付いていなかったでしょ?」

亜里沙「あぅっ」

絵里「あなたのその、バトルに集中すると視野が狭くなる所は悪い癖よ。ポケモンの状態はいつも注意深く見ておくこと」

亜里沙「はい……」

海未「亜里沙もまだまだジムリーダーとしては未熟なようですね。うかうかしていると、すぐに穂乃果に抜かされますよ?」

穂乃果「抜かしちゃうよ?」

亜里沙「あうぅ……あ、それじゃあ穂乃果さん、これを」


亜里沙が穂乃果へとバッジを差し出す。


亜里沙「アジンジム勝利の証、フィアレスバッジです」

穂乃果「これが……初めてのジムバッジ!」


穂乃果はバッジを受け取ると嬉しくなり、たまらずポケモンたちと叫んだ。



穂乃果「フィアレスバッジ、ゲットだよっ!」
ヒコザル「ヒッコ!」コリンク「リィンッ!」


絵里「じゃあみんな、今日は私たちの家に泊まっていきなさい」

穂乃果「え、いいの?」

絵里「もちろんよ。夕飯は私の手料理を振る舞うわ」

ことり「ありがとう絵里ちゃん」

海未「お言葉に甘えさせて頂きます」

亜里沙「え⁉ 海未さんが家に来るんですか⁉ お、お姉ちゃん、亜里沙先に帰って部屋片付けるね!」

絵里「あ、亜里沙⁉」


亜里沙のしんそく! 家へと真っ直ぐに駆け抜けていった!


絵里「……行っちゃったわ」

海未「別に私は気にしないのですが」

絵里「あの子もお年頃なのよ。……そういえば穂乃果、次に行くジムはもう決めてるの?」

穂乃果「ううん、まだだよ」

絵里「だったらドヴァ―ジムにしたら?」

穂乃果「ドヴァ―ジム?」

絵里「確かそのジムがこの町から一番近いジムだったはずよ。ジムリーダーはでんきタイプの使い手だったと思うわ」

穂乃果「でんきタイプのジムかあ。よし、じゃあ次のジムはドヴァ―ジムにする! 二人とも、いいかな?」

海未「私は構いませんよ」

ことり「ことりもいいよ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「じゃあ決まりだね」

絵里「それとドヴァ―シティに行く途中の町で、タッグバトルの大会が開かれるそうよ。賞品も出るみたいだし、せっかくだから参加してみたら?」

穂乃果「タッグバトルって、たしか二人一組でするバトルだっけ」

絵里「ええそうよ。……あ、でも穂乃果たちは3人だから1人参加できないわね」

海未「では今回は穂乃果とことりで参加してみたらどうですか?」

ことり「え、海未ちゃんどうして? ことり、バトルしたことないんだよ?」

海未「だからですよ、ことり。せっかく旅に出たのですから、新しいことに挑戦してみるのも悪くないのではないですか?」

ことり「新しいことに挑戦……」


ことりは何かを思案するように少しの間黙り込んだ。


ことり「……うん、そうだね。穂乃果ちゃん、ことりと一緒でいいかな?」

穂乃果「もちろんだよ! 頑張ろうね、ことりちゃん」

ことり「うん!」

海未「では決まったことですし、そろそろ絵里の家へ行きましょうか」

絵里「そうね。亜里沙が今か今かと海未が来るのを待ってるものね」

海未「私限定ですか……?」


ちなみに、既に亜里沙は家へと辿り着き、部屋にせっせと掃除機をかけていた。


―――翌日


亜里沙「海未さん、また泊まりに来てくださいね」

海未「はい、また機会があれば」

亜里沙「約束ですよ!」

海未「え、ええ」


若干引き気味の海未であった。


海未「……また会いに来ますから。今度は私が手料理でも振る舞いますよ」

亜里沙「ほ、ほんとですか⁉ 亜里沙、楽しみに待ってます!」

絵里「良かったわね、亜里沙」

亜里沙「うん♪」

穂乃果「じゃあ、そろそろ行こっか?」

海未「ええ、そうですね」

ことり「絵里ちゃん、お母さんをよろしくね。放っておくと、寝ないで研究したりするから」

絵里「任せて。博士の助手として、きちんと博士の体調管理もしておくわ」

ことり「絵里ちゃんがお母さんの助手で良かったよ」

穂乃果「絵里ちゃんなら、安心だもんね」

絵里「あ、博士といえば……私は研究のためによくオトノキの各地に行くから、運が良ければどこかで穂乃果たちと会えるかもね」

穂乃果「ふっふっふ……その時は穂乃果、今よりずっと強くなってると思うよ」

絵里「ふふ、楽しみにしておくわ。穂乃果がチャンピオンを目指す以上は―――」



絵里「いずれ、私とも戦うことになるんだし」



穂乃果「そうだね、絵里ちゃんと戦うことに…………え、なんで?」

絵里「なんでって……え、貴方それ本気で言ってるの?」

穂乃果「へ?」

海未「穂乃果、あなたまさか知らないのですか?」

穂乃果「なにを?」

ことり「穂乃果ちゃん、絵里ちゃんの職業は分かる?」

穂乃果「それは勿論、ことりちゃんのお母さんの助手でしょ?」

ことり「ううん、そっちじゃなくて」

穂乃果「そっちって……他に何があるの?」

亜里沙「ほ、穂乃果さん。一応聞きますが、四天王って知ってますか?」

穂乃果「『シテンノー』?……そんなポケモンいたっけ?」

絵里「ポケモンじゃ無いわよ!」


ちなみにそんなポケモンはいない。


絵里「穂乃果、あなたポケモントレーナーなのに四天王も知らないの?」

穂乃果「その四天王って、チャンピオンに関係あるの?」

絵里「か、関係あるも何も……」


穂乃果の無知ぶりに、頭が痛くなってきた絵里であった。


ことり「絵里ちゃん。穂乃果ちゃん、この前まであんまりポケモンバトルには興味なかったから」

絵里「そ、そういう問題なの……?」

海未「穂乃果は興味が無いことにはあまり関心を寄せませんから……あり得ない話じゃ無いですね」

穂乃果「?」

ことり「あのね、穂乃果ちゃん。ポケモンリーグにはチャンピオンの他に四天王っていう人たちが4人いて、その人たちに勝たないとチャンピオンには挑戦できないんだよ?」

穂乃果「え、そうなの⁉ バッジ8個集めたら、チャンピオンに挑戦できるんじゃないの⁉」

絵里「違うわよ……。あなた、よくそんなのでチャンピオン目指すとか言えたわね」

穂乃果「いや~、それほどでも」

絵里「褒めてないわよ!」

穂乃果「でも、その四天王と絵里ちゃんが何か関係あるの?」



亜里沙「お姉ちゃんはその四天王の一人なんです」



穂乃果「へ~、絵里ちゃんが四天のうぇえええええええええええええええ⁉ ほんとに⁉」

絵里「ほんとよ」

穂乃果「絵里ちゃん、ことりちゃんのお母さんの助手じゃ無かったの⁉」

絵里「四天王の役目があるのは基本的にリーグ開催時くらいなの。だから普段は博士の助手をしているのよ」

穂乃果「し、知らなかった。いや~、びっくりだよ」

絵里「私の方がびっくりよ。むしろハラショーよ。まさか今までずっと知らなかったなんて」

穂乃果「じゃあ、絵里ちゃんはポケモンバトル強いの?」

亜里沙「穂乃果さん。お姉ちゃんは私の何倍も強いですよ」

穂乃果「そ、そんなに⁉」

絵里「強くなきゃ、四天王は務まらないからね」

穂乃果「そっかぁ……じゃあさ亜里沙ちゃん。海未ちゃんと絵里ちゃん、どっちが強いと思う?」


穂乃果は悪魔の選択を亜里沙に繰り出した!


亜里沙「う、う~ん……」

ことり「答えなくていいよ、亜里沙ちゃん⁉ その質問、答えちゃったら―――」



亜里沙「海未さんです!」



絵里「亜里沙⁉」


きゅうしょにあたった! 絵里(の心)にこうかはばつぐんだ!


ことり「亜里沙ちゃん! 絵里ちゃんが今まで見たことないくらい悲しい顔してるよ⁉」

亜里沙「あ⁉ じゃ、じゃあ二人ともとっても強いです!」

絵里「……今さら言い直しても、もう亜里沙の本音は分かったわ」

亜里沙「ご、ごめんねお姉ちゃん。つい……」


絵里がどんよりとした目で海未を睨みつける。


絵里「……海未。今からあなたは私の敵よ」

海未「……お願いですから、そのような怖い目で睨まないでください」

穂乃果「海未ちゃん、ファイトだよっ!」

海未「ファイトじゃないです穂乃果のせいでしょう!」


穂乃果は明後日の方向を見据える。


穂乃果「……それはさておき、穂乃果がチャンピオンになるには、絵里ちゃんを倒さなきゃなんだね」

海未「目と話をそらさないでください!」

穂乃果「絵里ちゃん。絶対にバッジを8個集めるから顔を洗って待っててよ!」

絵里「……顔は毎朝洗ってるわよ」


恐ろしいほど低い声で答える絵里。


ことり「穂乃果ちゃん、顔じゃなくて首だよ」

穂乃果「……。じゃ、じゃあどっちも洗えばいいよ。その方が清潔だし!」

ことり「そういう問題じゃないよ⁉」

絵里「……あなた達、もうとっとと出発すれば? ばいばいまたねさようなら」

穂乃果「別れの挨拶投げやりだね⁉」


絵里の目は既に焦点が合っていなかった。


海未「穂乃果、本当にもう行きましょう。絵里の貫くような視線が凄く痛いです」

ことり「じゃ、じゃあね二人とも。またね」

亜里沙「は、はい。みなさんお元気で」

絵里「海未、いつか必ず倒すから覚悟しておきなさい……!」


絵里は小さく、だがドスの利いた声でそう呟いた。


―――絢瀬家から少し離れて。


海未(精神衛生上、最後の絵里の台詞は聞かなかったことにしておきましょう……)

穂乃果「よーしっ、次の町に向けて出発だよっ!」

海未「……穂乃果、後で覚悟しておきなさい」

穂乃果「な、何も聞こえないよっ! そして穂乃果は次の町に向けて走り出すよっ!」


穂乃果はにげあしを発動した! ついでにぼうおん(両耳に指で栓)も発動した!


海未「待ちなさい穂乃果ぁっ!」

ことり「海未ちゃん落ち着いて! 穂乃果ちゃんも逃げちゃだめだよぉ!」



穂乃果は無事、1つ目のバッジを手に入れた。
……まあこの後、無事では済まないことになりそうではあるが。

とにもかくにも、穂乃果はポケモンリーグへの道を踏み出したのであった。



―――つづく

これにて第2話終了です。……が、すぐに3話も上げようと思います。
書き溜めてあったのですが、出し惜しみするのも嫌らしいと我ながら気付きました。

……あと、街の名前はテキトーです。
絵里にちなんで、ロシア語の数字を順にあててるだけです。
アジンシティ=亜人シティとかの深い意味はありません。

第3話 謎の少女と正義のポケモン



アジンシティを出発した穂乃果たち。……だが、何かトラブルがあったようだ。


穂乃果「ヒコザル、ひのこ!」

ヒコザル「ヒィイコォオオオオ!」


ひのこが空を飛びまわっていたヤヤコマに命中する。


ヤヤコマ「ヤコっ⁉」


ヤヤコマはそのダメージにより地面へと落下した。


海未「今です穂乃果!」

穂乃果「うん! いけっ、モンスターボール!」


穂乃果の投げたボールに当たり、ヤヤコマが中に吸い込まれる。


『ころん、ころん、ころん……ぱちっ☆』


穂乃果「やったぁ! ヤヤコマ、ゲットだよっ!」

ヒコザル「ヒッコォ♪」

穂乃果「じゃあヤヤコマ、出ておいで」


穂乃果がボールからヤヤコマを出した。


ヤヤコマ「ヤコ!」


穂乃果はしゃがみ込み、ヤヤコマと目を合わせて語りかける。


穂乃果「ねえヤヤコマ。さっきヤヤコマが穂乃果から取ったのは、穂乃果が大事にとっておいた最後のほむまんだったの。穂乃果、すごく悲しかったんだよ?」

ヤヤコマ「ヤコ……」

穂乃果「ちゃんと反省してる?」

ヤヤコマ「……ヤコ!」

穂乃果「もう人のものは取っちゃだめだよ?」

ヤヤコマ「ヤコ!」

穂乃果「うん。じゃあ許してあげる」

ヤヤコマ「ヤッコ!」

穂乃果「あ、それと成り行きでゲットしちゃったけど……このまま穂乃果のポケモンになってくれるかな?」

ヤヤコマ「ヤコ♪ ヤッコ♪」


ヤヤコマが穂乃果の周りを飛び回る。


穂乃果「いいの? ありがとうヤヤコマ!」

海未「これで、また旅の仲間が増えましたね」

ことり「これからよろしくね、ヤヤコマ」

ヤヤコマ「ヤコ!」


穂乃果「じゃあ、みんなを紹介するね。出てきてコリンク!」

コリンク「リン!」

海未「ワニノコも出てきてください」

ワニノコ「ワニ!」

ことり「モクちゃんも出ておいで」

モクロー「ホゥ!」

穂乃果「みんな。新しく仲間になったヤヤコマだよ。仲良くしてあげてね」

「リン♪」「ワニャ!」「ホォ」

ヤヤコマ「ヤコ♪」

ヒコザル「ヒコ!」

海未「ではヤヤコマの紹介も済みましたし、私たちは昼食の準備を始めますか」

ことり「あ、そういえばもうそんな時間だね」

穂乃果「うぅ、穂乃果もうお腹ペコペコだよぉ~」

海未「はいはい、すぐに作りますから」

ことり「じゃあいつもみたいに、ご飯が出来るまでモクちゃんたちはみんなで遊んでてね」

海未「お昼が出来るころには戻ってきてくださいね」

「ヒコ!」「ワニ!」「ホゥ」「リン!「ヤコ!」


ヒコザルたちが元気に走っていく。

いつも穂乃果たちは、食事の準備をしている最中、ポケモンたちを自由に遊ばせているのだ。


穂乃果「……穂乃果もみんなと遊んでたいなぁ」

海未「駄目です。ちゃんと手伝いなさい」

穂乃果「分かってるよぉ。……あれ?」


穂乃果が視線の先に何かを見つける。


ことり「穂乃果ちゃん、どうかしたの?」

穂乃果「あそこ……人が倒れてるよ⁉」

ことり「えぇ⁉」

海未「なんですって⁉」

穂乃果「ほら、あそこ!」


穂乃果の指差す先では、少女らしき人影が地面に倒れていた。


海未「本当ですね……私がちょっと様子を見てきます」

穂乃果「あ、穂乃果も行くよ」

ことり「ことりも」

海未「では、まず脈の確認を……」


そう言って海未が少女ののどに手を当てる。
すると、海未の瞳が驚愕に見開かれた。

海未「な⁉ この人、すでに死んで―――」

穂乃果・ことり『えぇ⁉』

海未「―――はいませんね。きちんと脈があります」


ずっこける穂乃果とことり。


穂乃果「海未ちゃん⁉」

ことり「驚かさないでよぉ!」

海未「す、すみません。一回やってみたかったんです」

穂乃果「今のは冗談になってないよ!」

ことり「海未ちゃん、時々変なところでボケるよね……」

海未「こ、こほん! とにかくこの人は息もしていますし、目立った外傷もないです」

穂乃果「う~ん? じゃあ、何でこんなところで倒れてたんだろ?」

海未「私の推理によると――」


名探偵ウミの海未色の脳細胞が唸りを上げる!



海未「―――昼寝でもしていたのではないでしょうか?」



ことり「昼寝⁉」


斬新すぎた迷推理にことりが驚愕する。
一方、穂乃果は納得の面持ち。


穂乃果「あ、なるほど! 今日はいい天気だし、お昼寝日和だもんね!」

海未「はい。おそらく、陽だまりにまどろんで、そのまま眠ってしまったのでしょう」

ことり「えぇ……? こ、こんな道端でお昼寝するかなぁ?」

海未「きっとこの人はそういう趣味なのでしょう。なので、この人はこのまま寝かせておいてあげたほうが良いと思います」

穂乃果「起こしちゃ悪いもんね」

海未「では、私たちは昼食の準備に戻りましょ―――」


そうして、海未たちがその場を離れようとした瞬間。



昼寝してた少女「いやちょっと待って⁉」



突然、倒れていた少女が起き上がった!


穂乃果「わ⁉ びっくりしたぁ」

海未「す、すみません。起こしてしまいましたか……?」

昼寝してなかった少女「起こすも何も寝てないから! うち倒れてたの! 見れば分かるやん!」

穂乃果・海未『⁉』


驚きの表情になる穂乃果と海未。『その発想はなかった』とでも言いたげだ。


ことり(やっぱりお昼寝してたんじゃなかったんだ……)

倒れてた少女「さっきからなんなん⁉ なんで昼寝なんて発想に行きつくん⁉ こんな道端で昼寝するわけないやん! なんなん趣味って⁉」

海未「あの……倒れていたにしては随分とお元気ですね?」

元気な少女「うるさいよ!……いや、うちも好きで叫んでるんじゃないんよ⁉ 君らにツッコミどころが多すぎるの!」

穂乃果「ご、ごめんなさい」

ことり「あ、あの……結局どうして倒れていたんですか?」

倒れてた少女「ああ、それは……あ、今ので最後の力出し切った。もう駄目や……」


少女はまた地面へと崩れ落ちる。


穂乃果「え⁉ し、しっかりしてください!」


《ぐぅ~!》
少女のお腹から、そんな音が鳴り響いた。


穂乃果「……へ?」

ことり「今の音は……?」

海未「まさか……」

紫髪の少女「お、お腹……空いた…………がくり」


―――一方その頃、ポケモンたちは


ヒコザル「ヒコ! ヒコヒコ!」

モクロー「ホゥ……」

ワニノコ「ワーニィ」

コリンク「リン!」

ヤヤコマ「ヤコヤッコ」


*何を言っているか全く分からないので、ここからは日本語字幕でお届けします。


ヒコザル「みんな、なにして遊ぼっか?」

ワニノコ「おいらはお昼寝がいいなぁ」

モクロー「あんたはいつもそれね……少しはシャキっとしなさいよ」

コリンク「ワニノコはのんきだから、シャキッとするなんて無理だよ。姐さん」

ヤヤコマ「姐さん? モクローのこと?」

コリンク「そうだよ。姐さんはみんなの姉貴分なんだ」

ヤヤコマ「へえ~。じゃあ僕も姐さんって呼ぼうかな。いいですかい、姐さん?」

モクロー「好きにしなさいよ。……でもなんか馬鹿にしてない?」

ヤヤコマ「そんなことありやせんよ、姐さん」

モクロー「その口調が馬鹿にしてるって言ってんのよ!」

ヒコザル「落ち着いてよ、モクロー! ヤヤコマも、モクローをからかわないで!」

ヤヤコマ「ごめんごめん。からかいがいがあって、つい」

モクロー「あんたぶっ飛ばすわよ!」

ヒコザル「モクロー、喧嘩は駄目だよ! ヤヤコマはいたずら好きなだけだから、そんなにムキにならないで! ほら、深呼吸!」

モクロー「ぐうぅ……すぅー、はぁー……すぅー」

ワニノコ「ふわあ……もう食べられないよ……」

モクロー「あんたは寝てんじゃないわよ!」

ヒコザル「やつあたりもやめなよ!」


ヒコザルがモクローを押さえつける。


モクロー「放しなさいヒコザル! まずワニノコをつついて、次にヤヤコマ、おまけであんたとコリンクもつつくの!」

ヒコザル「おまけで僕らまでつつかないでよ!」

ヤヤコマ「ねえコリンク。この3匹、いつもこんななの?」

コリンク「そうだよ。面白いでしょ」

ヤヤコマ「うん、かなり」


ヤヤコマとコリンクは、暴れるモクローとそれを抑えるヒコザル、そしてのんきに昼寝するワニノコの様子を傍から眺めている。


と、ヤヤコマがワニノコのある一点に目を止めた。

ヤヤコマ「ねえ、ワニノコのあのお腹に付けてる石みたいなの何?」


ワニノコのお腹には、丸い石のようなものがくくりつけられていた。


コリンク「何でも、お守りらしいよ。もうずっと付けてるみたい」

ヤヤコマ「へー……」

コリンク「……いたずらで取ろうとしちゃ駄目だよ?」

ヤヤコマ「ヤコッ⁉ そ、そそそ、そんなことしないって!」

コリンク「ホントかな……」


そんな和気あいあいとしたやりとりをするポケモンたちに、2つの影が近づく。



ヤンチャムA「ようようてめえら、誰の許可取ってここで騒いでんだ?」

ヤンチャムB「この辺りは俺たちの縄張りなんだよ。痛い目に遭いたくなけりゃ、とっととどっかに消えな!」



不良のヤンチャムたちが現れた!


ヤヤコマ「なんか出てきた!」

コリンク「ああ言ってるけど、どうする?」

ヤヤコマ「ヒコザルたちに任せようよ」

ヒコザル「も、モクロー! ほら、ヤンチャムたちが何か言ってるよ!」

モクロー「今忙しいから放っときなさい!」

ワニノコ「むにゃ……やっぱりもう少し食べさせて……」


不良のヤンチャムたちは無視された!


ヤンチャムA「なんだこの雑な扱いは!」

ヤンチャムB「調子こいてんじゃねーぞ!」

モクロー「なんかさっきからうるさいわね……あたしたちとやるっての?」

ヤンチャムA「ああ、てめえらまとめてぶっ飛ばしてやる!」

ヤンチャムB「これでもくらえ! からてチョ―――」



???「そこまでだ悪党ども!」



突然、辺りに凛々しい声が響き渡った。


ヒコザル「こ、今度は何⁉」

ヤンチャムA「なにもんだ! 出てきやがれ!」

???「正義の心を持って、この世の悪を打ち倒す。強きを挫き、弱きを助ける正義のポケモン!」



ケルディオ「聖剣士ケルディオ、ここに参上!」



正義のポケモン、ケルディオが現れた!


ヤンチャムB「……なんだこいつ?」

ヤンチャムA「ただの馬鹿だろ。ほっとこうぜ」


正義のポケモン、ケルディオも無視された!


ケルディオ「ほっとかないで⁉ この僕が来たからには、君たちに彼らを傷つけさせないよ!」

ヤンチャムB「上等だ! だったらてめえから片付けてやんよ!」

ヤンチャムA「やんよやんよ!」

ケルディオ「片付くのは君らの方さ! くらえ、バブルこうせん!」


ケルディオのバブルこうせんがヤンチャムたちに炸裂する。


ヤンチャムA・B『ぐあああああっ!』

ケルディオ「そしてとっしん!」

ヤンチャムA・B『ぎゃあああああああっ!』


息つく暇も無く繰り出されたとっしんに、ゴミクズのように吹き飛ばされるヤンチャムたち。


ケルディオ「どう、まだやる?」

ヤンチャムA「て、てめえ覚えてやがれ!」

ヤンチャムB「親分に言いつけてやる!」


捨て台詞(*技ではない)を吐きながら、ヤンチャムたちは一目散に逃げていった。


ヒコザル「……行っちゃった」

モクロー「最後まで小者っぽい奴らだったわね」

コリンク「助けてくれてありがとう、ケルディオ」

ヤヤコマ「2人相手に1人で勝つなんて、やるね!」

ケルディオ「いやぁ~、あはは。まあ、正義は必ず勝つってことだよ」

モクロー「ねえ。あんた随分タイミングよく出てきたけど、まさかタイミング測ってたんじゃないわよね?」

ケルディオ「そ、そんなわけないだろ⁉ なんてこと言うのさ!」

ヒコザル「そうだよモクロー。助けてくれた人に対してそんな言い方は駄目だよ」

モクロー「……まあいいわ。じゃあ邪魔者もいなくなったことだし……あんたたちをつつくわね!」

ヒコザル「まだつつく気だったの⁉」

ヤヤコマ「姐さん、根に持つタイプだね」

ワニノコ「……うん、デザートは別腹だよ……」

コリンク「ワニノコ、あの状況でまだ寝てたんだ」

ケルディオ「よ、よく分からないけど、暴力は良くないよモクロー」

モクロー「あんたは黙ってなさい! つつくわよ!」

ケルディオ「は、はい!」

ヒコザル「黙っちゃうの⁉ そこはもうちょっと―――」



ゴロンダ「俺の子分たちをいじめたのはお前たちかぁあああ!」



不良の親分、ゴロンダが現れた!


モクロー「……今度は何?」

ヤンチャムA「こいつらです親分!」

ヤンチャムB「てめえら、覚悟しろよ!」

コリンク「あ、さっきのヤンチャムたち!」

ゴロンダ「てめえら、よくも俺の可愛い子分たちを可愛がってくれたなぁ……お礼に俺もお前たちを可愛がってやるよ!」


ゴロンダは指をぱきぽき鳴らしている。


コリンク「な、なんかこいつは強そうだよ!」

ヒコザル「確かに、ヤンチャムたちとは全然違う……!」

モクロー「めんどくさいわね……ケルディオ、さっきみたいにやっちゃいなさい」

ケルディオ「……え? 僕?」

モクロー「そりゃそうでしょ! なんで意外な感じなのよ!」

ケルディオ「いや、だって……」

モクロー「いいから、さっさと行きなさい!」

ケルディオ「わ⁉ ちょ、押さないで!」


モクローに蹴飛ばされ、ゴロンダの前へと出てくるケルディオ。


ヤンチャムA「あ、親分! このケルディオが俺たちをやったやつです!」


ヤンチャムがケルディオを指差してそう叫ぶ。
それにケルディオは再び凛々しい声で答え――。



ケルディオ「……ぽ、ポケモン違いじゃない? 僕は見ての通りダイケンキだよ」



衝撃の事実発覚! ケルディオはダイケンキだった⁉


モクロー「なに言ってんのあんた⁉」


モクローたちが驚きわななく。


ヤンチャムA「え、マジで? わりぃ、間違えた」

ダイケンキ?「分かればいいケンキ」

ヤンチャムA「――ってそんなわけあるか! どこからどう見てもケルディオだろうが!」

ケルディオ「ば、ばれた⁉」

モクロー「当たり前でしょ! 角しか共通点ないわよ!」

ゴロンダ「そうか、てめえか……じゃあ、たっぷり可愛がってやんねえとなぁ!」

ケルディオ「ひいいいいいいいいいい! 怖いよぉおおおおおおお!」


ケルディオは背を向けて逃げ出した!


モクロー「は⁉ あんた何であたしの背中に隠れるのよ!」

ケルディオ「助けてモクロぉおおおおおおおおお! 怖いよぉおおおおお!」

モクロー「いやあんたがあたしたちを助けるんじゃなかったの⁉ っていうか女の背中に隠れるんじゃないわよ! あんた男でしょ⁉」

ケルディオ「怖いのに男も女も関係ないじゃん!」

モクロー「逆ギレしてんじゃないわよ!」

ヒコザル「ど、どうしたのケルディオ⁉」

コリンク「強きを挫き、弱きを助けるんじゃなかったの⁉」

ケルディオ「何言ってるのさ! 弱きを挫くならともかく、強い奴に勝てるわけないじゃん!」

ヤヤコマ「えぇ⁉ さっき正義は必ず勝つって……」

ケルディオ「勝てないときは逃げるんだよ!」

モクロー「あんた情けないにもほどがあるでしょ!」


そんな情けないやりとりを見て、ゴロンダが呟く。


ゴロンダ「……なあ、お前ら本当にあんなのにやられたのか?」

ヤンチャムA「た、多分」

ヤンチャムB「あいつ、もしかしてさっき強気だったのは、俺たちになら勝てると思ってたからか?」

ヤンチャムA「なんだそれ! それじゃあてめえの方こそ弱い者いじめじゃねーか!」

ケルディオ「ぎくぅっ⁉」

ヒコザル「図星なの⁉」

モクロー「あんたどこが正義のポケモンなのよ!」

ゴロンダ「てめえらごちゃごちゃといつまでやってんだ! めんどくせえ……てめえらまとめてぶっ飛ばしてやる!」


ゴロンダが指をぱきぽき鳴らしながらケルディオたちに近づいてきた。


ケルディオ「ひぃいいいいい!」

モクロー「こうなったら仕方ない……ワニノコ、起きなさい!」


モクローがぐうすか寝ていたワニノコをつついた。


ワニノコ「むにゃむにゃ……もうご飯?」

モクロー「あんた夢でたらふく食ってたでしょ!……って今はそんなことどうでもいいわ。ワニノコ、あのゴロンダをやっちゃいなさい!」

ワニノコ「……なんで?」

モクロー「襲われてるからよ! 早くしなさい!」

ワニノコ「……よく分からないけど、分かった。えいっ」


ワニノコはみずでっぽうでも撃つかのような動作で、ゴロンダにハイドロポンプをお見舞いした!


ゴロンダ「ぐぉおおおおおおおおおおおっ⁉」


ゴロンダがすさまじい勢いで吹っ飛び、後方にあった木へと激突する。


ワニノコ「あ。ごめん、やりすぎちゃった」

ヤンチャムA「兄貴⁉」

ヤンチャムB「あ、兄貴を一撃で……? なんだあいつ⁉」

モクロー「あんたたち、まだやるってんならこのワニノコが相手になるわよ。さあ……どうすんの?」

ヤンチャムA「く、くそぅ……覚えてやがれ!」

ヤンチャムB「兄貴、しっかり!」

ゴロンダ「ちくしょう、何だあのチビ野郎は……」


ゴロンダたちは森の中へと逃げていった。


ワニノコ「ごめんねー」

ヒコザル「行っちゃった」

モクロー「ふん、口ほどにもない奴らね」

ヤヤコマ「なんで姐さんが偉そうなんだろう……?」

コリンク「姐さんはいつも偉そうだよ」

モクロー「うるさいわよそこ!」

ヒコザル「でもさすがワニノコだね。一発でやっつけちゃった」

ワニノコ「ねえ、なんだったのあれ?」

モクロー「後で話すわ。今はそれよりケルデ――」


ケルディオ「ワニノコさん、僕を弟子にしてください!」


『……はい?』


いつのまにやら、ケルディオがワニノコの前で頭を下げていた。


ワニノコ「弟子? っていうか君だれ?」

ケルディオ「僕はケルディオって言います。たった今見たあなたの強さに胸が痺れました! お願いします、僕を弟子にしてください!」

ワニノコ「えぇ……? いきなりそんなこと言われても……」

モクロー「ちょっとあんた。それよりさっきのは何よ。ゴロンダ相手に情けなくビビりまくって」

ヒコザル「確かに、あれは全然正義のポケモンとは思えなかったよ」

ケルディオ「そのぅ……実は僕、本当は聖剣士見習いなんです」

ヤヤコマ「見習い? 聖剣士って見習いとかあるの?」

コリンク「っていうかそもそも聖剣士って何?」

ケルディオ「聖剣士は簡単に言うと、世界の平和を守るポケモンたちのことです。僕は聖剣士の先輩たち、コバルオン、ビリジオン、テラキオンと一緒に修行しながら各地を旅していたんです」

ヒコザル「『いたんです』って……じゃあ今は違うの?」

ケルディオ「いつまで経っても先輩たちが僕を正式な聖剣士として認めてくれないから、頭にきて家出したんです」

モクロー「子供か!」


ケルディオ「それでふらふらとしてたら、ヤンチャムたちに襲われてるモクローさんたちを見つけたので、助けに入った次第で」

ヤヤコマ「あいつらなら倒せそうだったから?」

ケルディオ「はい」

コリンク「じゃあゴロンダは?」

ケルディオ「強そうで、倒せそうになかったから逃げました」

モクロー「そんなヘタレたことしてて、先輩たちに認めてもらえるわけないでしょ!」

ケルディオ「うぅっ! やっぱりそうですかね……」

モクロー「当たり前でしょ! 正義の味方が敵を選り好みしてるんじゃないわよ!」

ケルディオ「うぅ……だ、だから僕、さっきのワニノコさんを見て、すごいとおもったんです。突然起こされて目の前に敵が迫っていても全然恐れない心。そしてゴロンダを一撃で倒した力。どっちも今の僕には無いものです!」

ヒコザル「力はともかく、ゴロンダが迫ってきても落ち着いてたのは、ただワニノコがのんきだからだと思うけど……」


そんなヒコザルの言葉はケルディオには聞こえていなかった。


ケルディオ「僕、力も心も強くなって、立派な聖剣士になりたいんです! ワニノコさんみたいに、強くなりたいんです! お願いしますワニノコさん、弟子にしてください!」

ワニノコ「事情は分かったけど……おいら、師匠なんて向いてないしなあ」

モクロー「ま、それはそうね」

ヒコザル「ワニノコはマイペースだからねぇ」

ケルディオ「そこをなんとか!」

ワニノコ「う~ん……それじゃあさ――――」


―――その頃、穂乃果たちは。


紫髪の少女「いやぁ~食べた食べた! ことりちゃん、ごちそうさま。とっても美味しかったよ」

ことり「お粗末様でした」


倒れていた少女はことりたちのご飯をご馳走になり、すっかり元気を取り戻していた。

食事をしている最中、少女は穂乃果たちに自らの名前を名乗った。
彼女は希と言うらしい。

ことり「希ちゃんが元気になって、良かった」

希「ことりちゃんは優しいなぁ。……そっちの2人と違って」

海未「む、失敬ですね希は」

穂乃果「そうだよ。穂乃果たちだってご飯作るの手伝ったんだよ?」

希「そうやね。そっちには感謝してるよ。どうもありがとう。……でも、うちはさっきの昼寝扱いを忘れてないよ?」

穂乃果「あー……そっちか」

海未「いえ、まさか空腹で倒れていたとは思わなかったのです」


本当に思っていなかったのが恐ろしい。


希「まあ、最終的に助けてくれたんやし、もういいけどね」

穂乃果「でも希ちゃん、運が悪かったね。食料失くすなんて」

希「うち、普段は運がいい方なんやけどなぁ……あ、逆に考えればことりちゃん達に助けてもらえたんやから、運が良かったってことやない?」

穂乃果「おお、確かに。ラッキーだね、希ちゃん」

ことり「それはちょっとポジティブすぎじゃないかな?」

希「運なんて結局、その人の気の持ちようなんよ」

海未「なるほど。そうかもしれませんね」

希「そうだ。ご飯のお礼に、ことりちゃん達を占ってあげようか?」

穂乃果「占い?」

ことり「希ちゃん、占いが出来るの?」

希「出来るも何も、うちは旅の占い師なんよ」

海未「そうだったんですか。どうりで怪しい格好をしていると思いました」

希「海未ちゃん、ナチュラルに失礼やね」

穂乃果「占いって、何が占えるの?」

希「何が占えるかって? ふっふっふ……うちのスピリチュアルパワーにかかれば、占えないものなんて何もないやん!」

穂乃果「なんでも占えるってこと?」

希「そのとーり!」

ことり「希ちゃん、すごいね!」

海未(嘘くさいですね……)

希「むむむ……海未ちゃんは今、嘘くさいって思ったね!」

海未「な、何故分かったのですか⁉」

希「言ったやん? うちに占えないものは無いって!」

海未「そんな、まさか……!」


ことり(今のは占いというより、テレパシーとかなんじゃ……)

希「どう? 信じてもらえた?」

海未「く……認めざるを得ませんね」

穂乃果(海未ちゃん、チョロいなぁ……)


穂乃果とことりは、海未の将来に不安を感じた。


希「よし! じゃあ海未ちゃんもうちの占いを信じたことやし、さっそく占おっか?」

穂乃果「あ、ちょっと待って。穂乃果、ポケモンたちが気になるから、探してきていいかな?」

希「ポケモンたち?」

ことり「ことりたちが食事の準備をしてる間、ポケモンたちだけで遊んでもらってるの」

海未「そういえば、戻ってくるのが遅いですね。いつもは食事の準備が終わるころには、きちんと戻ってくるのですが」

穂乃果「心配だから、ちょっと探してくるよ。ごめんね、希ちゃん。占いはまた後でお願い」

希「いや、それならうちがポケモンたちの場所を占うよ」

穂乃果「え、占いで? そんなことまで分かるの?」

希「うちはなんでも占えるって言ったやん?」


そう言うと希は、懐からタロットカードを取り出す。


希「じゃ、ちょっと待っててな。むむむむ……」

海未「タロットカードでポケモンの居場所が分かるとは思えないのですが……」

ことり「ここは希ちゃんのスピリチュアルパワーを信じようよ」

希「むむむ……分かった!」

海未「もう⁉」

穂乃果「そ、それでみんなはどこにいるの?」

希「こっちに向かってきてるみたいやね。心配いらなかったみたいよ?」

穂乃果「へ? そうなの?」


すると、遠くからヒコザルの鳴き声が聞こえてきた。

鳴き声のした方を見ると、ヒコザルたちが穂乃果たちのもとへと向かってきている。


海未「あ、本当ですね。みんな戻ってきましたよ」

ことり「みんな、無事で良かったぁ。……あれ? 見たことないポケモンが一緒にいるよ?」


戻って来たポケモンたちの中に、一匹見知らぬポケモンが混じっていた。


ケルディオ「ディオ!」

穂乃果「ほんとだ」


穂乃果はポケモン図鑑をケルディオに向ける。


穂乃果「ケルディオっていうポケモンみたい」

海未「随分珍しいポケモンのようですね」

希「へ~、うちも初めて見るポケモンやなぁ」

穂乃果「みんな、ケルディオと友達になったの?」

ヒコザル「ヒ、ヒコ……ヒコ?」

穂乃果「何その反応」


なんだか煮え切らない反応だった。他のポケモンたちも微妙な表情をしている。


ワニノコ「ワニ、ワニワ」

海未「おや、どうしたのですかワニノコ。私の荷物を漁りだして」


なぜかワニノコが、海未のバッグの中を漁り出した。何かを探しているようだが……。


ワニノコ「……ワニ!」


取りいだしたるはモンスターボールだった。


海未「? なぜ空のモンスターボールを?」

ワニノコ「ワニ! ワニワニワー!」


『いけ、モンスターボール!』とでも言うように、ワニノコがケルディオに向けてボールを放り投げた!


海未「ちょ⁉」


『ころん、ころん、ころん……ぱちっ☆』


穂乃果「け、ケルディオを……」

ことり「ゲットしちゃった……」

希「うち、ポケモンがポケモンをゲットするとこ見たの、初めてや」

海未「わ、ワニノコ! 何をやっているんですか!」

ワニノコ「ワーニッ!」


ワニノコがモンスターボールのボタンをぱちっと押し、ケルディオを外に出す。


ケルディオ「ディオ!」

穂乃果「あ、ケルディオ出てきた」


海未「ワニノコ、なぜ勝手にケルディオをゲットしたのですか?」


海未がワニノコに事情を聞く。


ワニノコ「ワニ、ワニワ―ニワ」


ワニノコは『ワニ、ワニワーニワ』と答えた。


海未「……って、聞いても全然分かりませんね。当たり前ですが」

穂乃果「こういう時、ポケモンの言葉が分かればいいのにね」

希「あ、うち分かるよ」

ことり「そうだよね。希ちゃんみたいに分かれば……え⁉ 希ちゃん、ポケモンの言葉分かるの⁉」

穂乃果「えぇ⁉」

海未「ほ、本当ですか⁉」

希「もちろん。うち、生まれつきポケモンの言葉が分かるんよ。きっとスピリチュアルパワーのおかげやね」

ことり「スピリチュアルパワー万能だね⁉」

海未「で、ではワニノコの言っていることも分かるのですか?」

希「当然やん。じゃ、ちょっと事情を聴いてみるね。ワニノコ、話してくれる?」

ワニノコ「ワニ、ワニワニワー」

希「ふむふむ。ならモクローたちも聴かせてくれるかな?」

モクロー「ホゥ、ホゥホゥホー!」

ヒコザル「ヒコ、ヒコヒッコ」

ヤヤコマ「ヤコ、ヤッコ」

コリンク「リン! リンリン」

希「なるほど、ヤンチャムにね」

海未「本当に言葉が分かってるみたいですね……」

穂乃果「でもヤンチャムって?」

ことり「さあ?」

ケルディオ「ディオ……ディオ!」

希「ふーむ、そういうことね」

海未「希、どうでしたか?」

希「簡単に説明すると、ケルディオがワニノコに弟子入りしたみたいなんよ」

海未「弟子入り⁉」

ことり「どうしてそんなことに……?」

希「それがかくかくメブキジカ―――」


希はポケモンたちから聞いたことを海未たちに伝え出した。


―――説明終了


希「―――ということがあったみたい」

海未「つまりヘタレのケルディオが強くなるために、ワニノコに弟子入りしたということですか?」

希「簡単に言うとそうなるね」

海未「ワニノコ、本当ですか?」

ワニノコ「ワニ!」


ワニノコが海未の言葉に頷いた。


海未「……本当みたいですね。でも、それでなぜケルディオをゲットすることになるのですか?」


希「ワニノコは、自分に師匠は向いてないから、代わりに海未ちゃんにケルディオの情けない性根を叩きなおしてもらおうと思ったみたいや。それでゲットしたんやね。『海未ちゃんは自分の手持ちを甘やかさないから』って言ってるよ」


海未「た、確かに甘やかしたりはしませんが……」

ケルディオ「ディオ!」

希「『僕を強くしてください大師匠!』やって」

海未「何ですかその呼び方!」

穂乃果「海未ちゃん、ついにポケモンの師匠になったんだ」

ことり「さすが海未ちゃん」

海未「二人までやめてください!……ケルディオ、本気ですか?」

ケルディオ「ディオ! ルディオ!」

希「『本気です! 立派な聖剣士になりたいんです!』って言ってるね」


その言葉を聞いて、海未は真剣にケルディオの処遇を考える。


海未「……いえ。やはり駄目です。ケルディオ、あなたは家出してきたのでしょう? コバルオンたちはきっと心配しているはずです。すぐに彼らの所へ戻りなさい」

ケルディオ「ディ、ディオ……」

ことり「あ……それはそうだね」

穂乃果「きっと今頃ケルディオのこと、探してるんじゃないかな?」

希「うん、そうみたいやね」

穂乃果「希ちゃん、そうみたいって……?」

ことり「もしかして、占いでコバルオンたちのこと分かるの?」

希「占いっていうか……あそこにいるやん?」

『え⁉(ディオ⁉)』


希が指差した方を見ると、少し離れた場所に緑色のポケモンがいた。そのポケモンからは威厳のようなものを感じる……。

視線が合うと、そのポケモンは穂乃果たちのもとへと近づいてきた。


ビリジオン「……ビィジオ」

ケルディオ「ディ、ディオ⁉」

希「あのポケモンはビリジオンやって」

海未「やはりケルディオを迎えに来たみたいですね」


ビリジオンはケルディオへ語りかける。


ビリジオン「ビィ、ビィジオン……ビリィ」

ケルディオ「ディオ⁉」

希「え⁉」

穂乃果「な、なんて言ってるの?」

希「『話は聞かせてもらった……お前の好きなようにしてみろ』って」

『え⁉』

海未「ビリジオン、あなたはケルディオを連れ戻しに来たのではないのですか?」

ビリジオン「ビリィ、ビィジオ。ビィビィジオン。ビィジオ」

希「『そのつもりだったが、話を聞いて気が変わった。こいつのヘタレは我々ではもうどうしようもない。君がこいつの性根を叩きなおしてやってくれ』やってさ」

海未「えぇ⁉」

穂乃果「そんなにどうしようもないんだ……」

ビリジオン「ビィジオ、ビリジ。……ビィジォ」


何か言葉を残すと、ビリジオンがその場から去っていく。


ケルディオ「ディオ⁉ ディオ! ディオ!」


そのビリジオンの背中へ、ケルディオは涙目で何かを叫び続けていた。


ことり「あ……ビリジオン、行っちゃったよ。最後に何か言ってたけど……?」

希「ビリジオンは『ケルディオ、ヘタレが治るまでは我々の前に顔を見せるな。……では達者でな』って言ってたね。ケルディオは『そんな⁉ ちょっと待って! 待ってビリジオン!』って」

穂乃果「うわぁ……」

海未「ほぼ勘当ですね……」


穂乃果たちが、哀れみの視線でケルディオを見つめる。


ことり「ね、ねえ、海未ちゃん。ケルディオが可哀そうだから、面倒見てあげようよ」

穂乃果「もう行くところ無いみたいだもんね。それに、ビリジオンの許可も出たし」

海未「……はぁ。仕方がないですね。では私と一緒に来ますか?」

ケルディオ「ディオ⁉ ディディオ!」

希「『いいんですか⁉ ありがとうございます大師匠!』だって」

海未「できれば大師匠はやめてほしいですが……これからよろしくお願いしますね、ケルディオ」

ケルディオ「ディオ!」


こうして、正義のポケモン見習いのケルディオが海未の手持ちに加わったのであった。


―――それから少し経って


海未「希、ありがとうございます。あなたが居なければ、ケルディオの事情が分かりませんでした」

希「いいよ、気にせんで。ご飯のお礼ってことで」

穂乃果「それにしても、希ちゃんが羨ましいね。ことりちゃん」

ことり「うん。ことりも希ちゃんみたいにポケモンが何を言ってるのか知りたいなぁ」

希「まあ確かにうちはポケモンの言葉が分かるけど、ことりちゃんたちもなんとなくは分かるんやないの?」

ことり「確かに、なんとなくは分かるかも……」

希「言葉が分からなくてもきちんと向き合えば、伝えたいことは伝わるんよ。ポケモンも人間もね」

穂乃果「そっか……そうだね」

海未「なら、今のままでも十分かもしれませんね」

希「ふふ……じゃあ、うちはそろそろ行くね」

ことり「ことりたちと反対方向ってことは、希ちゃんはアジンシティに行くの?」

希「うちの親友がアジンシティに住んでるんよ。仕事のついでに会いに行こうと思って」

穂乃果「へー、そうなんだ」

海未「あの、ところで希。別れる前に聞いておきたいんですが……私たち以前どこかで会いませんでしたか?」

希「ううん、海未ちゃんとは初対面のはずやけど。海未ちゃんみたいな子は一度会ったら忘れないやろうし」

海未「そうですか。どこかで会ったような気がしたんですが……気のせいだったみたいです」

希「そうそう、気のせい気のせい。じゃあ、バイバイ3人とも。またね」

海未「あ、はい。また会いましょう、希」

ことり「またね、希ちゃん」

穂乃果「希ちゃん、ばいばーい」


お互いに別れを告げ、穂乃果たちはタッグバトル大会の開かれる街へと、希はアジンシティへと、それぞれ歩みを進めるのであった。


―――希と別れてから数分後


穂乃果「希ちゃん、アジンシティに行くのかぁ」

ことり「もしかしたら、絵里ちゃんたちと会うかもね」

穂乃果「絵里ちゃん、占いとか信じてなさそうだよね。亜里沙ちゃんは信じてそうだけど」

海未「あの二人はそういうところは似ていないですよね。使用するポケモンのタイプも亜里沙はノーマルで絵里は氷ですし」

穂乃果「へー、絵里ちゃん氷タイプを使うんだ。……そういえば希ちゃんの持ってるポケモンって、やっぱりエスパータイプなのかな?」

ことり「あ、なんだかすっごく似合うねそれ」

穂乃果「だよね」

海未「確かにそうですね。希にはエスパータイプが……うん?」


その言葉に海未は何かが引っかかった。立ち止まり、その何かについて考え始める。


ことり「どうかしたの、海未ちゃん?」

海未「希……エスパー…………それにアジンシティの親友……まさかそれは……あぁ⁉」

穂乃果「う、海未ちゃん?」

海未「二人とも! 希は、あの東條希ですよ!」

穂乃果「へ? どういうこと?」

ことり「東條希……あ! そっか! なんで気付かなかったんだろ!」

穂乃果「な、何に?」

海未「希の正体は……エスパータイプの使い手、東條希」



海未「絵里と同じ、四天王の一人です」



穂乃果「四天王…………え、えぇえええええええええええええ⁉」


穂乃果たちが出会ったスピリチュアル少女は絵里と同じ四天王、東條希であった。
この出会いは偶然か、それとも必然か……なんにせよ、旅はまだまだ続く。

穂乃果たちはこれからも、様々な人々と出会っていくことだろう。



―――つづく

第3話 エピローグ~親友2人~



アジンシティへと歩みを進める希だったが、一旦足を止めた。


希「さて、アジンシティに着く前に、えりちに電話しておこうかな」


希はポケギアを取り出し、絵里の番号を呼び出す。

数回のコール音の後、絵里へと繋がる。


絵里『はい、もしもし』

希「えりち、やっほー」

絵里『希? どうしたの急に』

希「さてここで問題です。うちは今どこにいるでしょうか?」

絵里『知るわけないでしょ』

希「えりち、ノリ悪いなぁ。……いや、というより機嫌悪い? 何かあったん?」

絵里『亜里沙が……いや、なんでもないわ』

希「え~、気になるやん。亜里沙ちゃんがどうかしたん?」

絵里『ど、どうもしないわよ。それより、私に何か用があるんじゃないの?』

希「あ、そやね。実はうち今、2番道路にいるんよ。もうすぐアジンシティに着くところ」

絵里『え? そんな近くに来てるの?』

希「だからえりちのとこに遊びに行こうと思って。えりち今日ヒマ?」

絵里『まあ、仕事は無いけど……』

希「決まりやね。じゃ、1時間ぐらいで着くと思うから」

絵里『あのねぇ、まだ私はOKしてないでしょう?……まあいいけど』

希「そうそうえりち。さっきえりちが前に話してた子たちに会ったよ」

絵里『それってもしかして……穂乃果たちのこと?』

希「うん、えりちの言ってた通り、面白い子たちやね」

絵里『ふふ、そうでしょ? 穂乃果もことりも……海未もね』

希(今、海未ちゃんのとこだけ間があったような……気のせいかな?)

希「あ、どうせだからあの2人も誘う? いつもはあれやし、たまにはプライベートで遊ぶのもいいんやない?」

絵里『そうね……確かに悪くないかもね』

希「じゃ、うちが連絡しとくよ」

絵里『お願いしていい?』

希「任せといて。ほな、またあとで」

絵里『ええ、待ってるわね』


ポケギアが切れる。


希「3人とも素直じゃないから、仕事の時以外は私が呼びかけないと集まろうとしないんだもんなあ……。私もそういうの、あんまり得意じゃないのに」


小さな声でそう呟きながら、希はポケギアのある番号を呼び出す。


希「さて、じゃあまずは―――」



―――つづく

これにて第3話も終了です。
ちょっと今回は趣の異なる話になりましたが、もう当分このような話はないと思います。……気が変わらなければ。
ま、まあとりあえずその予定はないです。ポケモン成分多すぎるので。

今日はもう無理ですが、4話も早いうちに上げようと思います。


第4話 前編 みんなで参加! タッグバトル!!



旅を続ける穂乃果たちは、タッグバトル大会が開かれる街へとやって来た。


ことり「ここがタッグバトル大会の会場かぁ」

海未「スタジアムでやるとは……思っていたより大きな会場ですね」

穂乃果「この方がテンション上がるよ!」


穂乃果たちがスタジアムを前にして会話をしていると――。



???「あぅっ⁉」
穂乃果「うぇっ⁉」



突然、穂乃果の体に誰かがぶつかってきた。
お互いに体勢は崩れたが地面に転がるまでには至らず、なんとか踏みとどまる。

穂乃果にぶつかった少女が、慌てて頭を下げた。


若草色の髪の少女「ご、ごめんなさい! ぶつかっちゃって……」

穂乃果「あ、ううん。こっちこそごめんね。よそ見してたから、避けられなかったよ」

若草色の髪の少女「い、いえ、私がぶつかったのが悪いから……」


お互いに謝り合っていると、少し離れた位置から呼びかける声が。



???「かよち~ん! ほら、受付はあっちだって!」



橙色の髪をした少女が、穂乃果にぶつかった少女を呼んでいるようだ。


穂乃果「あ、友達が呼んでるみたいだよ? 早く行かなきゃ」

若草色の髪の少女「は、はい。その、本当にすみませんでした!……ま、待って凛ちゃん!」


少女はその場を去っていった。


ことり「穂乃果ちゃん、大丈夫?」

穂乃果「うん、ちょっとぶつかっただけだから。それより、あの子たちも大会に出るみたいだね」

海未「どうやらそのようですね」

ことり「あの子たちもそうだけど、出場する人いっぱいいるね。なんだか緊張してきちゃった」

海未「ことり、大丈夫ですか?」

ことり「う、うん……」

穂乃果「ことりちゃん、頑張ろうね。目指すは優勝だよ!」

ことり「ふぇ⁉ ゆ、優勝⁉」

海未「なぜさらに緊張させるようなことを言うんですか穂乃果は!」

穂乃果「え、気合が入って緊張がほぐれるかなって思ったんだけど」

海未「明らかに逆効果でしょう!」

ことり「う、海未ちゃん落ち着いて。そんなに怒らな……あれ? なんだか、緊張が無くなったかも」

穂乃果「え、ほんと⁉」

海未「ことり、穂乃果に気を使わなくていいんですよ?」

ことり「ううん。なんだか本当に緊張がどこかに行っちゃったみたい」

ことり(もしかしたら、穂乃果ちゃんと海未ちゃんのいつものやり取りを見たからかな?)

穂乃果「ほら、やっぱり気合が入ったからだよ」

海未「そ、そうなのですか?」

ことり「……う、うん。そうかも」

穂乃果「ほらぁ! 穂乃果の狙い通りでしょ? さあ海未ちゃん、穂乃果に何か言うことがあるんじゃない? さあ、さあさあ!」


穂乃果は非常にうざい顔で海未に謝罪を要求した!


海未「くぅ……!…………お、おや? もうすぐ大会が始まるようですね。二人ともそろそろ出場の受付に行くべきなのではないですか? では私は観客席に向かいますね。二人とも頑張ってください」


海未は早口でそう告げると、すたこらさっさとその場から離れた。


穂乃果「あ、海未ちゃん逃げた! ずるい!」

ことり(ご、ごめんね、海未ちゃん)

穂乃果「もう……じゃあ受付に行こっか、ことりちゃん」

ことり「そ、そうだね。行かないとね」


後で海未にお詫びのマカロンでも作ってあげようと決めたことりであった。


―――逃げ出した海未はスタジアムの周りを歩いていた。


海未「全く、穂乃果はすぐ調子に乗りますね……。さて、観客席にはどこから行けば―――」



???「はぁ⁉ 来れなくなったってどういうこと⁉」



いきなり、大きな怒鳴り声が海未の耳に響いてきた。


海未「?」


海未が声のした方を振り向くと、赤い髪をした少女がポケギアで電話をしていた。


赤い髪の少女「にこちゃんが出たいって言ったんでしょ! わざわざ来てあげたのに、何でこんな直前でそんなこと言い出すのよ!」

海未(……随分感情的になっていますね)

赤い髪の少女「―――それなら、確かに仕方ないかもしれないけど。全く……じゃあ私ももう帰るから」

赤い髪の少女「―――はぁ⁉ どうしてもあの賞品が欲しいから帰らないで参加してほしい⁉ タッグバトルの大会なのよ⁉ 一人でどうやって出るのよ!」

赤い髪の少女「―――なんとかして出場してって……じゃあそのなんとかのやり方を説明しなさいよ!」

赤い髪の少女「――――その辺にいる人と組めばいいですって……? そんなに都合よく一緒に出場してくれる人がいるわけないでしょ⁉ あ~、もう知らないわ! バイバイにこちゃん!」


怒りをぶつけるかのように、少女は勢いよくポケギアを切った。

電話では怒りを露わにしていた少女だが、すぐに肩を落とし、ため息をつく。


赤い髪の少女「……はぁ、なんでこうなるのよ……」


うなだれる彼女の表情は海未には見えなかったが、その声に力がないことは分かった。


海未(な、なんだか今にも泣き出しそうな雰囲気ですね。これは放っておくのも……)

赤い髪の少女「賞品が欲しいって言われたって、どうしようもないじゃない……」


一人呟く少女に、海未は近づき声をかけた。


海未「あ、あのー、ちょっといいですか?」

赤い髪の少女「……? 私に何か用?」

海未「いえ、その……もしよければ、私と一緒に大会に出場しませんか?」

赤い髪の少女「え⁉ な、なんでそんな……⁉」


突然の海未の申し出に、少女は驚きを隠せなかった。


海未「すみません。先ほどの電話の会話が聞こえてしまったもので」

赤い髪の少女「さ、さっきの聞いてたのね……」

海未「それで、随分お困りのようでしたから。私で良ければ一緒に出場しますが」

赤い髪の少女「それは……私としては願ったり叶ったりだけど……。でも、どうして?」

海未「どうして、というと?」

赤い髪の少女「なんで見ず知らずの他人である私と出場してくれるのよ?」

海未「? 困っている人がいたら力を貸すのは当然では?」


海未は何を聞かれているのか分からない……そんな表情をしていた。


赤い髪の少女「は……?」


逆に少女は、何を言っているのか分からない……そんな表情になった。


海未「な、何かおかしかったでしょうか?」


少女はその海未の表情を見て、海未が本気で言っていると確信し……小さく笑い出した。


赤い髪の少女「ふ……ふふふっ、分かったわ。あなた、とんでもないお人好しってわけね」

海未「お、お人好し?」

赤い髪の少女「変なこと聞いて悪かったわ。自己紹介がまだだったわね。私は西木野真姫よ」

海未「私は園田海未と申します。よろしくお願いします、真姫」

真姫「よろしくね。……海未」


真姫は少し逡巡してから、海未の名を呼んだ。若干、頬が赤く染まっている。


海未「はい。では受付に行きましょうか。急がないと受付を締め切ってしまうかもしれません」


受付へと向かおうとする海未の背中に、真姫は小さな声で呟いた。


真姫「……ありがとね、海未」

海未「? 今、何か言いましたか?」

真姫「何にも言ってないわ。さあ、早く行くわよ」


こうしてここに、海未と真姫の即席タッグが誕生したのだった。


―――スタジアム内


会場内には、すでに多くの出場者が集まっていた。


穂乃果「ことりちゃん、もうそろそろ始まるみたいだよ」

ことり「うん、そうみたいだね。……あれ?」


ことりが何かを見つけたようだ。


穂乃果「どうかしたの?」

ことり「穂乃果ちゃん。あれ、海未ちゃんじゃない?」

穂乃果「海未ちゃん?」


ことりが指差す方を見ると、海未が見知らぬ少女と一緒に会場内に入ってきていた。


穂乃果「……ほんとだ。なんで観客席じゃなくてここにいるのかな?」

ことり「さあ……? それに、海未ちゃんと話してる子は誰だろ?」

穂乃果「うーん、とりあえず呼んでみようよ。おーい、海未ちゃーん!」


穂乃果の呼び声に、海未は穂乃果たちに気付いた。すぐに穂乃果とことりのもとへ歩いてくる。


海未「穂乃果、ことり。ここにいたんですか。人が多くて見つけられませんでした」

穂乃果「ねえ海未ちゃん、その子は?」

海未「あ、はい。紹介しますね。彼女は―――」

真姫「海未。いいわ、自分でするから。西木野真姫よ。あなたたちが、穂乃果とことり?」

穂乃果「うん、穂乃果だよ。よろしくね、真姫ちゃん」

ことり「はじめまして、ことりです」

真姫「ええ、よろしくね」

穂乃果「ねえねえ、真姫ちゃんは海未ちゃんのお友達なの?」

真姫「え? そ、それは……」

海未「はい、そうですよ。そして今日はパートナーです」

ことり「パートナーということは、もしかして……?」

海未「はい。私も真姫と一緒にこの大会に参加することになりました」

穂乃果「え、海未ちゃんも出るの?……はっ! まさかさっきの恨みをこの大会で晴らそうと……?」


穂乃果が恐る恐るそう聞くと、海未の表情が邪悪に変わる!


海未「ふふふ……その通りです。穂乃果への積年の恨みを晴らすため―――って、なんでそうなるんですか! 違いますよ!」

穂乃果「……ほんとに?」

海未「…………………………勿論です。少し事情が出来ただけですよ」

穂乃果「今かなり間があったけど⁉」

海未「穂乃果の気のせいでしょう。よくあることです気にしないでください」

穂乃果「いや、凄く気になるよ⁉ めちゃくちゃ気にするよ!」

ことり「あ、あはは……でも、事情って?」

真姫「海未は私に付き合って出場してくれてるの」

穂乃果「真姫ちゃんに?」

ことり「それって―――」


ことりはその事情とやらを聞こうとしたが。



司会『それでは皆様! 時間になりましたので、これより大会のトーナメント表を発表いたします!』



タイミング悪く、大会の司会の声に遮られてしまった。


海未「始まるようですね。その話は後にしましょう」

ことり「そうだね。ちょっと気になるけど」

真姫「たいしたことじゃないわ。……二人とも、悪いけど今日は海未を借りるわね」

穂乃果「どうぞどうぞ」

ことり「ちゃんと返してね、真姫ちゃん」

海未「私は物ですか……?」


司会『ではこちらが、今回のタッグバトル大会の組み合わせになります!』


スタジアムの電光掲示板にトーナメント表が表示される。


穂乃果「えーと、穂乃果たちの最初の相手は…………え⁉」

ことり「……うそ」

海未「いきなりですか……」

真姫「……やりづらいわね」



一回戦 第一試合

 穂乃果&ことり VS 真姫&海未


―――30分後


スタジアムのフィールドでは、穂乃果とことり、海未と真姫がそれぞれのトレーナーボックスに立っていた。


穂乃果「いきなり海未ちゃんとバトルかぁ」

ことり「海未ちゃんが相手じゃ、ほとんど勝ち目が無いよね……」

穂乃果「そんなことないよ、ことりちゃん。バトルはやってみなきゃ分からないんだから」

ことり「でも……」

穂乃果「それに、これがことりちゃんの初バトルなんだもん。勝とうよ、ことりちゃん」

ことり「う、うん、そうだね。……ことり、頑張るね」

穂乃果「その意気だよ、ことりちゃん」


―――フィールドの反対側では


真姫「ごめんね、海未。こんなことになっちゃって」

海未「別に謝る必要はありませんよ。私は二人と戦えるのが嬉しいですから」

真姫「そう……なの?」

海未「ええ。真姫、穂乃果とことりが相手でも遠慮はしないでくださいね」

真姫「……私にも目的があるから、遠慮するつもりは無いわ」

海未「ふふ、そうですよね」


審判「ではこれより、一回戦第一試合を開始します。使用ポケモンは1人1体。どちらかのタッグのポケモンがすべて戦闘不能になったら決着となります。なお、使用するポケモンはこの大会中変更することは出来ません」


説明が終了し、海未たちがそれぞれのポケモンを繰り出す。


海未「ではよろしくお願いします、ケルディオ!」

真姫「いくわよ、ワカシャモ!」

ケルディオ「ディオ!」

ワカシャモ「シャモ!」

穂乃果「ヒコザル! ファイトだよっ!」

ことり「モクちゃん、お願い!」

ヒコザル「ヒコ!」

モクロー「ホゥ!」


4匹のポケモンがフィールドに現れた。

もうすぐバトルが始まる。フィールドを緊張が支配し――。


モクロー「……ホゥ?」


そこで、モクローがケルディオに目を止めた。


モクロー「ホゥ、ホゥホォ!」


モクローがケルディオに向かって何事かを叫び出す!


ケルディオ「ルディ⁉ ル、ルディオ!」


モクローの剣幕にケルディオは背を向けて逃げ出し、海未の背中へと隠れた!


海未「いや、なんで私の後ろに隠れるんですか! ヘタレてないで、しゃんとしなさいケルディオ!」

ケルディオ「ディ、ディオゥ……」


ケルディオが海未に押されながら、渋々フィールドへと戻る。


穂乃果「そういえばケルディオ、モクちゃんが苦手なんだっけ」

ことり「モクちゃん、脅かしちゃ駄目だよ」

モクロー「……ホゥ」


ことりにたしなめられ、ようやく落ち着くモクロー。


真姫「ねぇ海未……そのポケモン、大丈夫なの?」

海未「じゃ、若干不安ですが……きっと大丈夫だと思います。おそらく……多分……」


大丈夫には聞こえなかった。


審判「あのぅ、そろそろいいですか?」

海未「すみません、もう大丈夫です」


海未がそう答えると、審判が一呼吸おいて告げる。



審判「それでは……バトル、開始っ!」


穂乃果「よぉし、行くよ! ヒコザル、ワカシャモにひのこ!」

海未「ケルディオ、ひのこにバブルこうせん!」

ヒコザル「ヒィイイコオオオオオ!」

ケルディオ「ルディッ!」


ワカシャモを狙い放たれたひのこが、バブルこうせんにより打ち消される。


穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「うん! モクちゃん、ケルディオにこのは!」

真姫「ワカシャモ、かえんほうしゃで焼き払いなさい!」

モクロー「ホーゥホッ!」

ワカシャモ「シャァーモォッ!」


さらに、ケルディオへと放たれたこのはも、かえんほうしゃが焼き尽くした。


ことり「こっちの技が全部相殺された⁉」

穂乃果「やっぱり相性が悪いね……」


ヒコザルとモクローはほのおタイプとみずタイプ。

ヒコザルはみずタイプであるケルディオに、モクローはほのおタイプであるワカシャモに相性が最悪である。


穂乃果「よし、ことりちゃんはケルディオだけを狙って。ワカシャモはこっちが引き受けるよ」

ことり「了解、穂乃果ちゃん。モクちゃん、もう一度このは!」

モクちゃん「ホーゥホッ!」


ケルディオへと再びこのはが迫る。


海未「ケルディオ、避けてください!」

ケルディオ「ディ―――ディオ⁉」


ケルディオは動きが遅れ、避けることが叶わなかった。


ことり「当たった!」

海未「ケルディオ、大丈夫ですか?」

ケルディオ「ディ、ルディ!」


海未はケルディオの今の様子を冷静に分析する。


海未(自らに効果抜群の技が来たから、動揺して動けなかったようですね。フィジカル面はまだ問題ないとして……やはりメンタル面を鍛える必要がありそうです)


一方、その隣では穂乃果と真姫の攻防が続いていた。


真姫「ワカシャモ、かえんほうしゃよ!」

穂乃果「ヒコザル、ひのこで迎え撃って!」

ワカシャモ「シャァーモォッ!」

ヒコザル「ヒィイイコオオオオ!」


かえんほうしゃとひのこが正面からぶつかり合う。


穂乃果「互角……!」

真姫「ワカシャモを舐めないで!……こっちの方が上よ!」


その言葉と同時、ひのこがかえんほうしゃに押され始める。


ワカシャモ「シャァアアアアアッ!」

ヒコザル「ヒ、ヒコォッ⁉」


ついには完全に押し負け、ヒコザルにかえんほうしゃが炸裂する。


穂乃果「ヒコザル! 大丈夫⁉」

ヒコザル「ヒ、ヒコ!」

穂乃果(真正面からの打ち合いで負けた……今のままじゃ勝てない!)

ことり「穂乃果ちゃん、大丈夫⁉」

穂乃果「うん、なんとかね。でも、このままじゃ……。よし、イチかバチかあの作戦でいこう、ことりちゃん」

ことり「それって、どっちの作戦?」


穂乃果とことりは、この大会に出るにあたっていくつかの作戦を用意していた。


穂乃果「突っ込む方! ケルディオをお願い!」

海未「真姫、あっちは何かする気みたいです! ケルディオ、ヒコザルにバブルこうせん!」

真姫「分かったわ! ワカシャモ、ヒコザルににどげりよ!」

ディオ「ルディッ!」

ワカシャモ「シャモッ!」


バブルこうせんとにどげりがヒコザルへと迫る。


穂乃果「ヒコザル、バブルこうせんにひっかく! にどげりは根性で耐えて!」

真姫「こ、根性ですって⁉」

海未「……穂乃果らしいですね」


ヒコザル「ヒコヒコヒコヒコ!」


バブルこうせんをひっかき続けるヒコザル。

だがそこへ、ワカシャモのにどげりが炸裂する。


ワカシャモ「シャモッ、シャモッ、シャーモッ!」

ヒコザル「ヒキャっ⁉……ヒ、ヒコッ!」


にどげりを食らうも、ヒコザルはバブルこうせんを全てひっかききった。


穂乃果「ことりちゃん、今のうちだよ!」

ことり「モクちゃん、あやしいひかり!」

モクロー「ホォーウ……ホゥ!」

ケルディオ「ディオ? ディ……オ……?」


ヒコザルの攻防の裏でケルディオへと接近していたモクローが、あやしいひかりを放つ。

ケルディオはこんらんした!


海未「ケルディオ⁉ 混乱させられるとは……とっしんです、ケルディオ!」

ケルディオ「ディオー!」

海未「いや、そっちは壁です!」

ケルディオ「ディッ⁉」


ケルディオは混乱していたために、壁へととっしんしてしまった。

壁に激突し、ケルディオは自らにダメージを負う。


ことり「このまま決めるよ、モクちゃん! つつく!」

真姫「させないわ! ワカシャモ、モクローにニトロチャージ!」

ワカシャモ「シャ―――モッ!」


炎を纏った突進が、技を出そうとしていたモクローを穿つ!


モクロー「ホゥ⁉ ホ、ホゥ……」


ニトロチャージにより、モクローの体力が根こそぎ奪われる。


審判「モクロー、戦闘不能!」


ことり「モクちゃん! も、戻って!」


ことりが急いでモクローをモンスターボールへと戻す。


穂乃果「い、一撃で……」

真姫「効果は抜群よ。これで2対1ね」

穂乃果「っ! で、でもケルディオは混乱してるから、1対1と変わらないよ!」

真姫「確かに1対1ね……でも、残っている体力は全然違うわよ。リザードはほぼ無傷。それに対してヒコザルはかなりのダメージを負ってるわ」

穂乃果「ヒコザル……」

ヒコザル「ヒ、ヒコ……」


穂乃果はヒコザルの様子を窺う。

既に体には多くのダメージが刻まれていた。


真姫「このバトル、私たちの勝ちよ!」

穂乃果「……ううん、負けないよ! 感じるから……ヒコザルの中から湧き上がってくる力を!」

ヒコザル「……ヒィイイコオオオオオ!」


ヒコザルの尻尾の炎が、熱く大きく燃え上がる!


真姫「なるほど……もうかね。でも、それくらいで勝てると思わないで!」


もうかはほのおタイプの技の威力が上がる特性だ。

強力ではあるが、真姫のワカシャモもほのおタイプ。
たとえもうかで火力が上がったところで、大したダメージにはならない―――真姫はそう判断した。



だが、穂乃果は感じ取っていた。

ヒコザルの中から湧き上がってくる力は、それだけではないことを。



穂乃果「まだだよ! もっともっと熱く! ヒコザルぅうううう!」

ヒコザル「ヒィイイ――――キアアアアアアアア!」



瞬間、炎がさらに激しくなり、ヒコザルの体が光に包まれた!



真姫「な⁉ あの光は……⁉」

ことり「こ、これって……」

海未「……進化!」


そして―――光が、消える。



穂乃果「―――行くよ……モウカザル!」

モウカザル「―――ヒキャア!」



そこにいたのは、ヒコザルの新たな姿―――モウカザルだった。


ことり「ヒコザルが……モウカザルに!」

真姫「まさか進化するなんて……」

海未「真姫、まだバトル中ですよ!」

真姫「はっ⁉」


真姫は呆気に取られていたが、海未に言われ、気を引き締める。


穂乃果「じゃあいくよ! モウカザル、ワカシャモにマッハパンチ!」

モウカザル「ヒィーキャッ!」

ワカシャモ「シャモッ⁉」


モウカザルの拳が、目にも止まらぬ速さでワカシャモを撃った!


真姫「速い⁉」

ことり「すごい! マッハパンチを覚えたんだ!」

穂乃果「そのまま連続マッハパンチ!」

モウカザル「ヒキャ! ヒキャ! ヒキャア!」

ワカシャモ「シャモォッ⁉」


モウカザルの拳が、幾度となくワカシャモに炸裂する!


真姫「くっ! ワカシャモ、すなかけよ!」

ワカシャモ「シャッ!」

モウカザル「ヒキャ⁉」


ワカシャモは地面を蹴り上げ、砂を巻き上げた。

巻き上がった砂がモウカザルの目に入り視界を奪う。


真姫「これでモウカザルの目は見えない! その状態で技が当たるかしら⁉」

穂乃果「当てるよ!」

真姫「な⁉」

穂乃果「モウカザル、かえんぐるま!」

モウカザル「ヒィイイキャアアアアアアア!」


自身が炎となるかのように、モウカザルが赤き炎を纏う!


穂乃果「右斜め前!」


穂乃果がワカシャモの位置を叫んだ。

そして何ら迷うことなく、モウカザルは穂乃果が指示した方向へと瞬時に突進する!


モウカザル「キャァ――――ゥッ!」

ワカシャモ「シャモッ⁉…………シ、ャ……」


炎を纏いしモウカザルの強烈な突撃が、ワカシャモを貫いた。



モウカザルの炎が尻尾の先を除いて四散し―――ワカシャモが、ばたりとその場に倒れた。



審判「ワカシャモ、戦闘不能!」


真姫「……お疲れさま、ワカシャモ。戻って休んでて」


真姫がワカシャモをボールに戻す。


海未「マッハパンチだけでなく、かえんぐるままで覚えたとは……」

穂乃果「海未ちゃん、これであとはケルディオだけだよ」

海未「そのようですね。ケルディオ、バブルこ―――」

ケルディオ「ディオディオディオディオォッ!」


ケルディオは明後日を向いて連続でにどげりを放っている!

凄まじい形相だ……何らかの幻覚を見ているのかもしれない!


海未「……駄目ですね、これは」

穂乃果「それじゃあ決めるよ、マッハパンチ!」

モウカザル「ヒィ―キヤッ!」

ケルディオ「ディオ⁉……ディ、ルディ……」


マッハパンチが軽々と決まり、ケルディオはその場に倒れた。


審判「ケルディオ、戦闘不能! よって勝者、穂乃果&ことりペア!」


穂乃果「いやったぁー! ことりちゃん、穂乃果たちの勝ちだよ!」

ことり「うん! やったね、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「かっこよかったよ、モウカザル!」

モウカザル「ヒキャ♪」


穂乃果に褒められ、モウカザルが胸を張った。


ことり「モクちゃんも、頑張ったね」


ことりがモクローのモンスターボールを見つめて、ささやく。

モクローはモンスターボールの中ですやすやと眠っていた。


海未「お疲れさまです。戻ってください、ケルディオ」


海未がケルディオをボールに戻す。


真姫「負けちゃったわね」

海未「すみません真姫」

真姫「な、なんで謝るのよ?」

海未「その、優勝どころか一回戦で負けてしまったので……」

真姫「あのねぇ……海未がいなかったら、私は出場すらできなかったのよ? こっちがお礼を言うならまだしも、海未が謝る必要なんてないでしょ」

海未「それはそうかもしれませんが…………真姫、ちょっと待っていてください」

真姫「?」


そう告げると、海未は穂乃果とことりの方へ歩いて行った。


穂乃果「そういうことなら任せてよ!」

ことり「ことりたちが優勝出来たら、賞品は真姫ちゃんにあげるね」

海未「だそうです、真姫。だからまだ諦めるのは早いですよ」

真姫「……え?」

穂乃果「穂乃果は今、モーレツに感動しているよ……! 友達のために賞品を獲ろうとしてたなんて……真姫ちゃん、なんていい子なの!」

ことり「とっても優しいんだね、真姫ちゃん」

真姫「ヴェエエエエエ⁉」


穂乃果とことりの真姫を見る目が、生暖かいものに変わった!


真姫「う、海未、あなた全部話したの⁉」

海未「ええ、二人に協力してもらうために……駄目でしたか?」

真姫「だ、駄目っていうか……」

穂乃果「真姫ちゃん、いい子いい子したげるね」

ことり「ことりのマカロンあげるね、真姫ちゃん」


穂乃果が真姫の頭を撫で始めた!

ことりがバッグからとっておきのマカロンを取り出した!


真姫「二人が私のこと、うざいくらい優しい目で見てくるんだけど⁉……や、やめなさい穂乃果! なでなくていいわよ! ことり、マカロンもいらないわ!」

ことり「そんなに遠慮しなくていいよ、真姫ちゃん」

穂乃果「真姫ちゃんは照れ屋さんだねぇ」

真姫「遠慮してないわよ! 照れてないわよ! その目やめなさいよ!」

海未「良かったですね、真姫」

真姫「何もよくないんだけど!」


穂乃果「あ、そういえばこの大会の賞品ってなんだっけ?」

ことり「確か受付の時に貰ったチラシに書いてあったよ。えーっと……ポケモンのタマゴとポケモンの化石だって」

穂乃果「真姫ちゃんのお友達はタマゴに興味があるの? それとも化石マニア?」

真姫「……どっちも違うわ。あの子が欲しがってるのは、もう一つの方」

穂乃果「もう一つの方?」

ことり「あ! 目玉商品としてもう一つ、ルチアのサイン色紙っていうのがあるよ」

海未「真姫の友達が欲しがっているのは、それだそうです」

穂乃果「ルチア? だれ?」

ことり「ホウエン地方の有名なコンテストスターだよ。穂乃果ちゃんに分かり易く言うと、アイドルみたいなものかな」

穂乃果「へ~、アイドルかぁ」

真姫「……私の友達、アイドルマニアでね。ルチアの大ファンなのよ」

穂乃果「なるほど。だから真姫ちゃんは、色紙をその友達にプレゼントしてあげたいんだね」

海未「そういうことです」

真姫「なんで海未が答えるのよ!」

穂乃果「よぉーし! ことりちゃん、真姫ちゃんの為にも絶対優勝しようね!」

ことり「そうだね。頑張ろう、穂乃果ちゃん!」

真姫「勝手に盛り上がらないで!」



4人のバトルは穂乃果とことりの勝利に終わった。
だが、大会はまだ1回戦が終わったばかり。

2人は優勝を目指して頑張ることを、真姫に誓うのだった。


真姫「誓わなくていいわよ!」



―――つづく

これにて第4話(前編)も終了ですが、後編もすぐに上げます。

第4話 後編 タッグバトル! ファイナル!!



タッグバトル大会に参加した穂乃果とことり。

海未と真姫とのバトルに勝利した2人は、その勢いに乗り、破竹の勢いで勝ち進んだ。


司会『それでは、次の試合がいよいよ決勝戦! ここまで勝ち上がってきたのは、この4名です!』


決勝戦 

穂乃果&ことり VS 花陽&凛




―――観客席


真姫「穂乃果たち、ついに決勝まで来たわね」

海未「きっと穂乃果とことりなら、このまま優勝できます」

真姫「私たちに勝ったんだもの。優勝ぐらいして貰わないとね」

海未「サイン色紙のこともありますしね」

真姫「ま、まあそれもあるけど……純粋に二人を応援するわよ」

海未「友達として、ですか?」

真姫「……海未、その生温かい目やめてくれる?」

海未「すみません、つい」

真姫「さっきから全く……もう!」


―――フィールド


既に穂乃果とことりはフィールドのトレーナーボックスの中に立っていた。


ことり「いよいよだね、穂乃果ちゃん。これに勝てば、優勝……」

穂乃果「うん、絶対に勝とう!……あれ?」


穂乃果が視線の先に何かを見つける。


ことり「どうかしたの?」

穂乃果「あの対戦相手の子、大会前に穂乃果とぶつかった子じゃない?」

ことり「あ、ほんとだ」


穂乃果の指した先……反対側のトレーナーボックスの中には、若草色の髪の少女がいた。


穂乃果「お~い!」


穂乃果が少女に向けて大きく手を振る。


凛「にゃ? あの子、こっちに手を振ってるよ?」

花陽「ほんとだね。……あ、あの人!」

凛「かよちん、知り合い?」

花陽「う、うん。ちょっと……」


フィールドを挟み、穂乃果が相手に届くように大きな声で告げる。


穂乃果「お互い、いいバトルにしようね!」

花陽「は、はい! よろしくお願いします!」


審判「それでは、これより決勝戦を開始します! お互い、ポケモンを出してください!」



穂乃果「じゃあいくよ! モウカザル、ファイトだよっ!」

ことり「モクちゃん、お願い!」

モウカザル「ヒキャ!」

モクロー「ホゥ!」

凛「いくよ、かよちん!」

花陽「うん! 頑張って、フシちん!」

凛「ゲコガシラ、シュシュっといくにゃ!」

フシギソウ「フシー!」

ゲコガシラ「コガ!」


4体のポケモンがフィールドに出そろった。


審判「それでは……試合開始っ!」


いよいよタッグバトル大会、最後のバトルが幕を開ける。


穂乃果「先手必勝! ゲコガシラにマッハパンチ!」

モウカザル「ヒィ―キャッ!」

ゲコガシラ「コガ⁉」


モウカザルのマッハパンチがゲコガシラに決まる。

穂乃果の得意な速攻だ。


凛「中々の速さだね。でも速さならこっちも負けてないよ! ゲコガシラ、でんこうせっか!」

ゲコガシラ「コーガッ!」

モウカザル「ヒキャッ⁉」


お返しとばかりに、ゲコガシラのでんこうせっかがモウカザルにヒットする。


穂乃果「やるね!」

凛「そっちこそ!」

ことり「ことりたちもいくよ! モクちゃん、ゲコガシラにこのは!」

花陽「フシちん、つるのムチで叩き落として!」

モクロー「ホーゥホォ!」

フシギソウ「フーシィ!」


モクローからこのはが放たれるも、フシギソウの伸ばしたつるのムチがその全てを叩き落とした。


ことり「全部防がれた⁉」


凛「さすがかよちん! そのままやっちゃえ!」

花陽「うん! フシちん、はっぱカッター!」

フシギソウ「フゥウッ、シィー!」


フシギソウから数えきれないほどの葉が、モウカザルとモクローを切り刻むべく撃ちだされる。


穂乃果「だったらこっちは焼き尽くすよ! モウカザル、ひのこ!」

モウカザル「ヒィイキャアアアア!」


はっぱカッターを焼き尽くさんと、モウカザルがひのこを噴き出す。


凛「まずいにゃ! ゲコガシラ、みずのはどう!」

ゲコガシラ「ゲッコォ!」

ことり「モクちゃん、このは!」

モクロー「ホーゥホォ!」


ゲコガシラがひのこを狙いみずのはどうを放つも、モクローのこのはがそれを切り裂いた。
そして、ひのこがはっぱカッターを焼き払う。

だが、それで終わらない。

みずのはどうを裂いたこのはは、そのままゲコガシラへと。
はっぱカッターを焼いたひのこは、そのままフシギソウへと。

それぞれ技を貫通し、相手へと達した!


フシギソウ「フシ⁉」

ゲコガシラ「コガ⁉」


凛「くっ! かよちん、一気に攻めるよ!」

花陽「分かった!」

凛「ゲコガシラ、モウカザルにつばめがえし!」

穂乃果「迎え撃つよ! マッハパンチ!」

ゲコガシラ「コゥ、ガッ!」

モウカザル「ヒィ―キャッ!」


モウカザルとゲコガシラ。お互いの左頬に、お互いの右拳が撃ち込まれる。

勢いよく打ち込まれた拳に、両者が後ろへと吹っ飛んだ。


穂乃果「こっちの方がダメージが大きい……⁉」

凛「当ったり前にゃ! 効果は抜群だよ! かよちん、モクローを! 今なら1対1!」

花陽「フシちん、とっしん!」

フシギソウ「フゥ……シィッ!」


フシギソウが力強く地面を蹴り、モクローへと迫る。 


穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「モ、モクちゃん、つつく!」

モクロー「ホゥ!」


フシギソウのとっしんに、モクローはつつくで対抗する。―――しかし。


モクロー「ホッ⁉」

ことり「押し負けた⁉」


タイプ相性ではモクローが有利だったが、地力の差がそれを上回り、フシギソウに軍配が上がった。


凛「ナイス、かよちん!」

花陽「ありがとう、凛ちゃん!」



穂乃果「さすがに決勝まで勝ち上がって来ただけあるね。あの二人、すっごく強いよ」

ことり「うん……」


今の攻防に敗れたことで、ことりの目にはほんの少しの諦めの色が浮かんでいた。

無意識のうちに、ことりは視線を下げてしまう。


―――だが。


穂乃果「でも負けない」

ことり「!」


穂乃果の力強い声に、ことりは顔を上げる。


穂乃果「ことりちゃん、このバトルを見てる人みんなに教えてあげようよ」


穂乃果はことりの目を真っ直ぐに見つめ、太陽のように笑う。



穂乃果「最強のタッグは、穂乃果とことりちゃんだって!」



……その言葉に、ことりの中の不安が霧散する。


そして、ことりも穂乃果に笑顔で答えた。



ことり「勝とう、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「その意気!」


今のことりはもう、誰にも負ける気がしなかった。


ことり「ねえ穂乃果ちゃん、あの作戦いけるかな?」

穂乃果「もちろん! モウカザル、あれいけるよね?」

モウカザル「ヒキャ!」

穂乃果「よし! やろう、ことりちゃん!」

ことり「うん!」


花陽「凛ちゃん、何かやる気みたいだよ」

凛「はったりにゃ! このまま勝つよ! やっちゃえ、かよちん!」

花陽「う、うん! フシちん、モクローにつるのムチ!」

凛「ゲコガシラ、モウカザルにみずのはどう!」

フシギソウ「フーシィ!」

ゲコガシラ「コゥガッ!」


同時に放たれた攻撃が、モクローとモウカザルにそれぞれ迫る。


穂乃果「モウカザル、みずのはどうをかわしてモクちゃんの前へ! つるのムチからモクちゃんをかばって!」

モウカザル「ヒキャ!」


指示通り、モウカザルはみずのはどうをかわす。

そしてそのままモクローの前へと辿り着き、つるのムチをその身に受けた。


モウカザル「ヒキャアッ!」

花陽「モクローをかばった⁉」

穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「いくよモクちゃん!」



ことり「ソーラービーム!」

モクロー「ホォオオオ―――――!」



ことりが叫ぶと、モクローが天から降り注ぐ陽光を吸収し、その身に力を蓄え始める!


花陽「そ、ソーラービーム⁉」


花陽は動揺した。


ソーラービームはくさタイプの技の中でも、最高クラスの威力を誇るのだ。

まともに受ければ、ひとたまりもない。


凛「かよちん、モクローを止めるよ!」

花陽「う、うん!」

凛「まずは邪魔なモウカザル! ゲコガシラ、つばめがえし!」

花陽「フシちん、つるのムチ!」

ゲコガシラ「コゥガッ!」

フシギソウ「フーシィッ!」


モクローをかばうモウカザルを倒さんと、同時に仕掛けられる攻撃。


穂乃果「つばめがえしにマッハパンチ!」

モウカザル「ヒ、キャァア!」


穂乃果は効果抜群の技であるつばめがえしのみを狙い、指示を出した。

しかしマッハパンチでは相殺しきれず、さらにモウカザルはつるのムチで打たれる。

だが―――。

モウカザル「ヒ、ヒ……ッキャ!」

花陽「ま、まだ立ってる⁉」

凛「あれだけ食らって倒れないなんて……こうなったら相殺するしかないよ、かよちん! 同時攻撃にゃ!」

花陽「う、うん!」

そこで、モクローの準備が整った。

モクロー「ホゥ!」

ことり「穂乃果ちゃん、準備OKだよ!」

穂乃果「じゃあこっちもいくよ! モウカザル!」

モウカザル「ヒキャ!」

モウカザルはモクローをかばいダメージを負ったことで、もうかが発動していた。


尻尾の炎が、より激しさを増している!



―――そして始まる、最後の攻防




凛「ゲコガシラ、みずのはどう!」

花陽「フシちん、はっぱカッター!」

穂乃果「モウカザル、ひのこ!」

ことり「モクちゃん、ソーラービーム!」



ゲコガシラ「ゲッッコォ!」

フシギソウ「フゥウッ、シィー!」

モウカザル「ヒィイイキャアアアアアアア!」

モクロー「ホォオオオ、ホォッ!」



4匹のポケモンの技が同時に放たれ、激しくぶつかり合う。



衝突の余波により、会場中を爆煙が包んだ。






そして―――煙が晴れる。






ゲコガシラ「……ゲ、ゲコ……」

フシギソウ「……フシィ……」

モウカザル「……ヒ、キャ……」



モクロー「……ホゥ!」



フィールドにはただ一匹、モクローだけが地に伏さず、その翼をはためかせていた。


審判「ゲコガシラ、フシギソウ、モウカザル、戦闘不能! よって勝者、穂乃果&ことりペア!」



ことり「か、勝ったの……? ほ、穂乃果ちゃん……」

穂乃果「ことりちゃん……うん、勝ったみたい」



穂乃果&ことり『やったぁ―――!』



穂乃果「モウカザル、よく頑張ったね! えらい!」

モウカザル「ヒ、ヒキャ……ヒキャ♪」


穂乃果はモウカザルに肩を貸し、喜びを分かち合う。


ことり「モクちゃん、お疲れさま! ありがとうね!」

モクロー「ホゥ♪」

ことりもモクローを抱きしめ、共に笑みを交わし合った。


花陽「負けちゃった……」

凛「かよちん、決勝まで来れたんだから十分だよ」

花陽「うん……そうだね」

凛「……」


―――大会終了後


穂乃果「はい、真姫ちゃん。ルチアのサイン色紙だよ」


穂乃果は賞品のサイン色紙を真姫に差し出した。


真姫「……本当に貰っていいの?」

ことり「もちろん。お友達、喜んでくれるといいね」

真姫「ことり、穂乃果……その、ありがとう」


真姫ははにかみながら感謝を述べ、色紙を受け取った。


ことり「いえいえ」

穂乃果「どういたしまして、だよ」

海未「良かったですね、真姫」

真姫「海未も、ありがとね」

海未「私は何もしていませんよ。……そういえば二人とも、残りの賞品はどうするんですか?」

ことり「ポケモンのタマゴと化石のことだよね」

穂乃果「あ、それなら穂乃果が化石を、ことりちゃんがタマゴを貰うことにしたんだ」


その言葉の通り、ことりの手にはポケモンのタマゴがあった。
タマゴを傷つけないよう、ケースに入れられている。

化石の方は既に、穂乃果のバッグにしまったようだ。


海未「そうですか。……タマゴはともかく、化石は持っていてもあまり意味が無いですね」

穂乃果「……やっぱりそう思う? 穂乃果、化石マニアじゃないからなぁ……」

ことり「や、やっぱり穂乃果ちゃんにタマゴをあげよっか?」

穂乃果「い、いいよいいよ。そのタマゴはことりちゃんのだよ。さっきジャンケンで決めたんだし」

海未「ジャンケンで決めたんですか……」

ことり「穂乃果ちゃんがそうしようって」

穂乃果「でも、ホントにどうしよう化石」


真姫「そういえば……トゥリーシティで化石の復元が出来るって聞いたことがあるわよ」

穂乃果「化石の復元⁉ それホント⁉」

真姫「ええ。化石を持っていけばポケモンを復元してくれるらしいわ」

穂乃果「じゃあ、穂乃果の化石も復元できるのかな?」

真姫「多分、出来るんじゃない?……よくは知らないけど」

海未「ふむ。トゥリーシティですか……たしかジムもあったはずですよ」

ことり「今調べてみたけど、温泉も有名みたいだね」

穂乃果「じゃあドヴァーシティの次は、トゥリーシティに行こうよ!」

海未「ええ、構いませんよ」

ことり「ことりもOKだよ」

穂乃果「よぉーし、じゃあまずはドヴァーシティのジムだね! それで次はトゥリーシティ!」

凛「ねぇねぇ、ドヴァーシティのジムに挑戦するの?」

穂乃果「うん、そうだよ。……って、あなたいつの間に⁉」


いつの間にやら、穂乃果の隣には凛が立っていた。


凛「通りがかったらちょうどドヴァーシティって聞こえたから、つい話しかけちゃったんだ。ね、かよちん」

花陽「あ、あの、さっきはバトルありがとうございました。すごく楽しかったです」

穂乃果「あ、えーっと……花陽ちゃんと凛ちゃん、だったよね」

花陽「はい」

凛「そっちは穂乃果ちゃんにことりちゃん、だよね。そっちの2人はたしか第一試合に出てた……」

海未「海未です。はじめまして」

真姫「真姫よ」

凛「よろしくね、海未ちゃんに真姫ちゃん」

穂乃果「それで、どうしたの? 凛ちゃん」

凛「あ、そうそう。穂乃果ちゃん、ドヴァーシティのジムに挑戦するんでしょ? 良かったら案内してあげようか?」

穂乃果「え、案内って……」

凛「凛とかよちん、ドヴァーシティに住んでるんだ。ね?」

花陽「う、うん。……でも凛ちゃん―――」


花陽が何かを言いかけたが、凛はそれを遮るかのように話を続けた。


凛「ジムの場所も知ってるから、案内してあげるよ。一回バトルした仲だしね」

穂乃果「ありがとう、凛ちゃん、花陽ちゃん。じゃあ、お願いしていいかな?」

凛「任せるにゃ!」 

ことり「じゃあドヴァーシティまでは、凛ちゃん達と一緒だね」

海未「二人とも、よろしくお願いします」

花陽「は、はい。こちらこそ」

真姫「……じゃあ、私はそろそろ行くわね」

穂乃果「真姫ちゃん、もう行っちゃうの?」

真姫「ええ。私の友達がいるのはこことは別の町だから、急がないと遅くなっちゃうのよ。出てきて、トロピウス!」


真姫がトロピウスの入ったボールを空へと投げる。


トロピウス「ピゥ!」


ボールからトロピウスが飛び出し、翼をはためかせながらゆっくりと降りてきた。


真姫「みんな、今日は本当に助かったわ。また会ったら、その時は今日の借りを返すわね」

穂乃果「べつにそんなのいいよ。……また会おうね、真姫ちゃん」

ことり「ばいばい、真姫ちゃん。……またね」

海未「また会いましょう、真姫」

真姫「ええ、また」


お互いに別れを告げ、真姫がトロピウスの背中へと乗る。


真姫「―――トロピウス、そらをとぶよ!」

トロピウス「ピゥウ!」


そして、真姫を乗せたトロピウスは、空の彼方へと飛び去っていった。



ことり「真姫ちゃん、行っちゃったね」

穂乃果「でも……きっとまた会えるよ」

ことり「そうだね……いつかまた会えるよね」


穂乃果とことりが、真姫の去っていた空を見つめながら呟いた。



海未「そうですね。会いたい時はポケギアで連絡すればいいですし」



海未が同じく空を見つめながら、何でもないことのように呟いた。


穂乃果&ことり『うん。…………えっ⁉』

海未「どうしました?」

穂乃果「……海未ちゃん、今なんて?」

海未「ですから、真姫とはポケギアの番号を交換しましたから、いつでも電話できると」

ことり「いつの間に交換してたの⁉」

海未「あれ?……言っていませんでしたか?」

穂乃果「聞いてないよ! じゃあ普通に連絡とって会えるじゃん!」

海未「そうですよ。真姫もそういう意味で『また』と言っていたのだと思いますが……」

ことり「そ、そうだったんだ」


正直、当分真姫とは会えないと思っていた穂乃果とことりは、その言葉を聞いて脱力した。



―――そこで、唐突に凛が空を見上げて呟く!



凛「『でも……きっとまた会えるよ』」

穂乃果「それさっきの穂乃果の真似⁉ 凛ちゃんやめて! 滅茶苦茶恥ずかしいよっ!」

花陽「り、凛ちゃん、やめてあげて!」


花陽が凛をたしなめる。


凛「『そうだね……いつかまた会えるよね』」


だが凛はやめなかった!


ことり「ちゅん⁉」

花陽「ことりちゃんの真似も駄目だよぉ!」



穂乃果とことり。2人はその強い絆で優勝を掴み取った。
きっとその絆はこれからも、より強く育まれていくことだろう。

……さあ、次はドヴァージム。
まだ見ぬジムリーダーを相手に、穂乃果は2つ目のバッジを手に入れることが出来るのだろうか?



―――つづく

これにて第4話も終了です。
この話、元々は前後編に分けていなかったのですが、バトルは1話につき1回にしたいと思い、こういう形にしました。

5話も早いうちに上げたいですが、ちょっと遅くなるかもです。

第5話 V(ボルト)


旅を続ける穂乃果たちは、ついに2つ目のジム、ドヴァージムへとやってきた。


凛「着いたよ、穂乃果ちゃん。ここがドヴァージム!」

穂乃果「よーし、じゃあさっそく―――すみませーん! ジム戦に挑戦に来ましたー!」


穂乃果は大きな声で叫んだが、ジムからは何の反応もなかった。


ことり「……返事が無いね」

海未「留守ですかね?」

穂乃果「そんなぁ⁉ せっかく来たのに!」

花陽「り、凛ちゃん」

凛「穂乃果ちゃん、大丈夫にゃ。もうすぐ帰ってくると思うよ」

穂乃果「ほ、ほんとに?」

凛「うん、見ててね。―――ただいま~」


凛はそう言うと、ジムの中へ一歩踏み出した。


凛「ほら、今帰って来たよ♪」

穂乃果「……へ?」 

ことり「な、なにしてるの、凛ちゃん」

海未「……ま、まさか」

凛「ふっふっふ……今こそ凛の正体を明かす時!」



凛「何を隠そう、凛がこのジムのジムリーダーだったのだーっ!」



穂乃果「えぇ―――――――――っ⁉」

ことり「ほ、本当に?」

凛「嘘じゃないよ。ね、かよちん」

花陽「うん。凛ちゃんは正真正銘のジムリーダーだよ」

海未「なら、なぜ黙っていたのですか?」

花陽「凛ちゃんに『黙ってた方が面白いにゃ』って口止めされてて……」

海未「く、くだらないことを……」

凛「さあ、穂乃果ちゃん。ジムリーダーとして、穂乃果ちゃんの挑戦、受けて立つよ!」




―――観客席


ヤヤコマ「ヤコー! ヤッコ!」

花陽「……どうしてヤヤコマがいるの?」

ことり「ヤヤコマはでんきタイプに相性が悪いから、今回はお休みなんだって」

海未「モンスターボールの中にいるのも退屈だろうということで、ここで応援してもらうそうです」

花陽「そ、そうなんだ」

ヤヤコマ「ヤコー! ヤコヤッコ!」



―――フィールド


審判「それではこれよりドヴァージム、ジム戦を開始します。使用ポケモンはお互い2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になったら決着です。なお、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ可能です。では、お互い1体目のポケモンをお願いします」

穂乃果「凛ちゃんがジムリーダーだったのは驚いたけど……凛ちゃんが相手でも、負けないよ! モウカザル、ファイトだよっ!」

モウカザル「ヒキャッ!」

凛「望むところだよ、穂乃果ちゃん! モココ、モコっといくにゃ!」

モココ「モコ!」


穂乃果と凛がお互いに1体目のポケモンを繰り出した。


審判がお互いの準備が整ったことを確認する。


審判「それでは……試合開始っ!」



穂乃果「いくよっ! モウカザル、マッハパンチ!」

モウカザル「ヒィ―キャッ!」

モココ「モコっ⁉」


開始と同時、モウカザルのマッハパンチがモココへと決まる。

相も変わらずの先手必勝である。


凛「穂乃果ちゃん、またいきなりマッハパンチ?」

穂乃果「これは穂乃果たちのあいさつ代わりだよ」

モウカザル「ヒキャ!」

凛「じゃあ、次はこっちのあいさつにゃ! モココ、エレキフィールド!」

モココ「モォーコォっ!」

フィールド中に電気がほとばしる!



穂乃果「これは……フィールドが、電気に包まれた⁉」

凛「これが凛たちのフィールド! エレキフィールドが発動している時、でんき技の威力が上がるんだよ!」

穂乃果「……なんだか、アウェーって感じだね」

凛「さあいくにゃ! モココ、10まんボルト!」

モココ「モーコ、コォオオオオ!」


モココから激しい稲妻が放出される。


穂乃果「かわして!」

モウカザル「キィ!」


だがモウカザルはそれをかわし―――。


穂乃果「そのまま、かえんぐるま!」

モウカザル「ヒィイイキャアアアアアアア!」


炎を纏いて、モココへと突っ込んだ!


モココ「モコっ⁉」

凛「モココ!……やっぱり速いね。でもこれならどうする? モココ、でんじは!」

モココ「モコ!」


モココから放たれたでんじはが、モウカザルの体にまとわりつく。


モウカザルはまひ状態になった!


モウカザル「ヒ、ヒキャ⁉」

穂乃果「モウカザル⁉」

凛「でんじはで、モウカザルはまひ状態になったんだよ」

穂乃果「まひ状態……しびれのせいで、たまに技が使えなくなるんだよね」

凛「それだけじゃないよ。……しびれのせいで、ポケモンのすばやさも落ちるんだにゃ! モウカザルのスピードは封じたよ!」

穂乃果「そういえばそんな効果もあるんだっけ! ならモウカザル、マッハパンチ!」

モウカザル「ヒ、ヒィ―キャッ!」


モウカザルがマッハパンチを繰り出すが、先ほどまでの勢いが失われている。



凛「かわしてモココ!」

モココ「モコ!」


モココは軽々とマッハパンチをかわした。


穂乃果「モウカザル、全然速さが出てない……!」

凛「さあ、今度はかわせる? モココ、10まんボルト!」

モココ「モーコ、コォオオオオ!」


モココから再び、激しい稲妻が放たれる。


穂乃果「かわして!」

モウカザル「キ、ィ……⁉」


モウカザルは体が痺れ、動くことが出来なかった。

そこに、10まんボルトが直撃する。


モウカザル「ヒキァァア⁉」

穂乃果「モウカザル!」

凛「そんな速さでかわせるわけないにゃ!」

穂乃果「モウカザル、大丈夫⁉」

モウカザル「ヒ、ヒキャ!」

穂乃果(こっちの攻撃は当たらないし、相手の攻撃はかわせない。だったら……!)

凛「もう一度にゃ、10まんボルト!」

モココ「モォーコッ!」


三度、モココから放たれる、激しい稲妻。



穂乃果「だったら……かわさなきゃいいだけだよ! モウカザル、10まんボルトを右手だけで受けて!」

モウカザル「ヒキャ! ヒ、キィイイ!」


モウカザルは手の平を開き、10まんボルトを右手で受けた。


凛「そんなことをしても、ダメージは減らないよ!」

穂乃果「そんなの分かってる!」

凛「ならこれで終わりにゃ! モココ、10まんボルト!」

モココ「モォーコッ!」


そして四度、激しい稲妻がモココから放たれる。



―――だが、それに穂乃果は笑みを浮かべた。



穂乃果「今だよ! モウカザル、10まんボルトにかみなりパンチ!」

モウカザル「ヒキャ……ヒィーキャア!」


突如、モウカザルの右腕が雷を纏い、迫りくる10まんボルトへと撃ち出される!


凛「にゃ⁉」

穂乃果「そのまま突っ込んで、モココにもやっちゃえーっ!」

モウカザル「ヒィーキャア!」


モウカザルは10まんボルトを突破しモココへと接近、かみなりパンチによる一撃を加えた!


モココ「モコッ⁉……モ、モコ……」


その一撃に、モココが崩れ落ちる。


審判「モココ、戦闘不能! モウカザルの勝ち!」

穂乃果「モウカザル、やったね!」

モウカザル「ヒキャア!」


凛がモココをボールへと戻す。


凛「モココ、お疲れさま。……穂乃果ちゃん。モウカザルはかみなりパンチを覚えてたの?」

穂乃果「ううん。たった今覚えたとこだよ」

凛「たった今⁉」

穂乃果「モウカザルは前にかみなりパンチを受けたことがあるから、見よう見まねで出来るかなって」

凛「見よう見まねって……」

穂乃果「エレキフィールドのおかげでフィールド中に電気が溢れてたし、モウカザルは、まひ状態だったでしょ? 右手に10まんボルトを受ければ帯電して、かみなりパンチが撃ちやすくなるんじゃないかなって思ったんだ」

凛「だから10まんボルトを右手で?……無茶苦茶にゃ」



―――観客席


ヤヤコマ「ヤコー♪」

海未「相変わらず無茶苦茶ですね、穂乃果は」

ことり「でも、穂乃果ちゃんらしいバトルだったよ」

花陽「タッグ大会の時もだけど……穂乃果ちゃんって、いつもあんなバトルをしてるの?」

海未「そうですね……大体あんな感じです」

花陽「すごいね……」

ことり「だからことりたちは、いつもハラハラしながら見てるんだ」

花陽「わ、分かる気がする。でも、あんなバトルもあるんだね……」

ヤヤコマ「ヤッコ!」



―――フィールド


凛「……でも、穂乃果ちゃんのバトル、面白いね!」

穂乃果「そうかな?」

凛「うん、とっても! 凛、テンション上がってきたにゃー! さあいくよ、これが凛の2体目! ライボルト、ビリッといくにゃ!」

ライボルト「ラーイッ!」


凛の2体目、ライボルトがフィールドへと現れる。


穂乃果「2体目はライボルト……ううん、メガライボルトかな?」

凛「その通り! ライボルト……メガシンカ!」


凛の持つメガリングと、ライボルトの持つライボルトナイトが共鳴する!


ライボルト「ラーィ―――――」


ライボルトの体を光が包んでいく……!


メガライボルト「ボォ――――ウッ!」


そして光が霧散し、ライボルトはメガライボルトへとメガシンカした!


穂乃果「あれが、メガライボルト……! モウカザル、このままいける?」

モウカザル「キキャ!」

穂乃果「じゃあいくよ! かえんぐるま!」

モウカザル「ヒィイイキャアアアアアアア!」

凛「かわすにゃ!」

メガライボルト「ライ!」


モウカザルがかえんぐるまを繰り出すも、ライボルトはまるで稲妻の如くその場から離れ、攻撃をかわした。



穂乃果「速い⁉」

凛「ライボルト、10まんボルト!」

メガライボルト「ラーイボォオオオオ!」


先ほどのモココよりも激しい稲妻が、ライボルトから放たれる。


穂乃果「モウカザル、10まんボルトにかみなりパンチだよっ! そのままライボルトにもやっちゃえーっ!」


モウカザルはさっきの要領で10まんボルトにかみなりパンチを撃ち、突破。そのままライボルトへと突っ込んだ。


モウカザル「ヒィーキャア!」

メガライボルト「ライッ!」

凛「ライボルト、そのまま耐えてかみくだく!」

メガライボルト「ライ!」


ライボルトがモウカザルの肩に勢いよく噛みついた!


モウカザル「ヒキャア⁉……ヒ、キィ……」

穂乃果「モウカザル⁉」


その攻撃を受け、モウカザルはその場に倒れた。


審判「モウカザル、戦闘不能! ライボルトの勝ち!」


穂乃果がモウカザルをボールへと戻す。


穂乃果「……ごくろうさま、ゆっくり休んでてね」



凛「モウカザルは10まんボルトをかみなりパンチで突破できても、ダメージはそのまま受けてた。あんな荒業、何度もやれるものじゃないよ」

穂乃果「……そうみたいだね」

凛「さあ、穂乃果ちゃん。次のポケモンは何を出すの?」

穂乃果「穂乃果の2体目はこの子! コリンク、ファイトだよっ!」

コリンク「リン!」


コリンクが元気よくフィールドへと飛び出してくる。


凛「あ、コリンクだ! でんきタイプで来るんだね」

穂乃果「コリンクならエレキフィールドの効果を使えるからね。これでもうこっちもアウェーじゃないよ」

凛「確かにそうだね。でもアウェーじゃ無くなったからって、凛のメガライボルトを倒せるかな?」

穂乃果「倒してみせるよ! ね、コリンク?」

コリンク「リン! リンリン!」

穂乃果「じゃあいくよ、コリンク! でんこうせ―――」


穂乃果が技を指示しようとした瞬間。

突然、コリンクの体が淡く光り出した!


コリンク「リン! リィ―――――――!」

穂乃果「⁉ ど、どうしたの、コリンク⁉」

凛「なんにゃ⁉」




―――観客席


ことり「コリンクの様子が変だよ!」

花陽「か、体が光り始めた……」

海未「あれは……進化の光です!」



―――フィールド


コリンク「リン! リィ―――――」

穂乃果「コリンク、まさか……!」


―――そして、光を打ち払い、コリンクは新たな姿をその場に現す!



ルクシオ「―――クシオォ!」



凛「し、進化したにゃ!」

穂乃果「コリンク、ルクシオに進化したんだ! やったね!」

ルクシオ「クシオ!」

凛「いきなり進化なんて……凛、びっくりしたよ」

穂乃果「あはは、穂乃果もびっくり。……でも、今の進化で穂乃果にルクシオの気持ちが伝わって来たよ」

凛「ルクシオの気持ち?」

穂乃果「それはね―――」





穂乃果「このバトル、絶対に勝つっていう気持ちだよ!」

ルクシオ「ルクシィ!」






穂乃果とルクシオから漲る闘志が、凛の体へと伝わる。


凛「!……そっか。でも、そう簡単には勝たせないよ! ね、ライボルト!」

メガライボルト「ラァーイッ!」

穂乃果「望むところ! さあいくよ、ルクシオ!」

ルクシオ「ルク! クシオ!」

穂乃果「ルクシオ?……! もしかして新しい技を覚えたの⁉」

ルクシオ「ルクシィ!」

穂乃果「よーしっ! じゃあルクシオ、その技で攻撃っ!」

ルクシオ「ルーックシオ!」


ルクシオはライボルトへと接近すると、その鋭い牙で勢いよく噛みついた!


メガライボルト「ライッ⁉」

凛「にゃ⁉ 今のはかみつく⁉」

穂乃果「ルクシオ、かみつくを覚えたんだね!」

ルクシオ「クシオ!」

凛「新技まで覚えたなんて……俄然テンション上がって来たにゃ! よーしっ! ライボルト、10まんボルト!」

メガライボルト「ラーイボォオオオオ!」

ルクシオ「クシィッ⁉」


ライボルトの10まんボルトが、ルクシオを撃ち貫く。


穂乃果「ルクシオ! まだまだいけるよね!」

ルクシオ「ク、クシオ!」

穂乃果(メガシンカしてるだけあって、技の威力はあっちが上みたい……。正面からの打ち合いじゃ勝てない。なら……!)

穂乃果「ルクシオ、にらみつける!」

ルクシオ「クシィ!」

メガライボルト「ラ、ライ……!」


ルクシオはメガライボルトをにらみつけ、防御を下げた



間髪入れず、穂乃果は指示を出す。


穂乃果「でんこうせっか!」

ルクシオ「ルーックシィ!」

凛「かわすにゃ!」

メガライボルト「ライ!」


ライボルトの方が速く、ルクシオのでんこうせっかをかわす。


―――しかし、穂乃果はそれを承知の上だった。


穂乃果「反転してライボルトの背中に飛び乗って!」

ルクシオ「クシオッ!」

メガライボルト「ライ⁉」

凛「にゃ⁉」


ルクシオがライボルトの背中に飛び乗り、しがみつく。


穂乃果「そのままかみつく!」

ルクシオ「クゥシィ!」

メガライボルト「ライィ⁉」


死角からの攻撃に、ライボルトは動揺する。


凛「落ち着いてライボルト! 動き回って振り落とすの!」

メガライボルト「ライッ! ライッ!」


ライボルトは自身の持てるスピードを惜しみなく発揮し、ルクシオを振り落としにかかる。


穂乃果「ルクシオ、頑張って! そのまま連続でスパーク!」

ルクシオ「クゥシィ! シィ! シィ!」

メガライボルト「ライ⁉ ライッ! ライッ!」


スパークを受けながらもライボルトは動き回るが、ルクシオは振り落とせない。


凛「全然振り落とせない……! だったらライボルト、10まんボルト!」

メガライボルト「ラーイボォオオオオ!」

ライボルトが自身の頭上へと10まんボルトを放つ。

ルクシオ「クシオッ⁉」



穂乃果「ルクシオ、こうなったら根比べだよ! ライボルトが倒れるまでスパーク!」

凛「だったらこっちもルクシオが倒れるまで10まんボルトにゃ!」

ルクシオ「クゥシィ! シィ! シィ―――!」

メガライボルト「ラーイボォ! ボォ! ボォ―――!」


電撃、電撃、電撃! 


その場に居る者たちの視界を埋め尽くすほどの稲光が、怒涛の如くルクシオとライボルトより放たれる!





穂乃果&凛『いっけぇええええええええ!』



ルクシオ「シィ―――――――ッ!」

メガライボルト「ボォ―――――ッ!」








―――光が、収まる。








ライボルト「…………ボ、ボゥ……」

ルクシオ「…………ル、クシィ!」



ルクシオは強く地を踏みしめ、その場に立っていた。


審判「ライボルト、戦闘不能! ルクシオの勝ち! よって勝者、チャレンジャー穂乃果!」



穂乃果「やったぁ――――! やったね、ルクシオ!」

ルクシオ「クシオ!」


穂乃果がルクシオに駆け寄り、思い切り抱きしめる。

そこへ、観客席からヤヤコマたちが降りてきた。

ヤヤコマ「ヤコー!」

ことり「穂乃果ちゃん、おめでとう!」

海未「これで2つ目のバッジ、ゲットですね」

穂乃果「うん!」



凛「お疲れ様、ライボルト。ナイスファイトだったよ」


凛がライボルトをボールへ戻す。


凛「……あ~あ、負けちゃったにゃ」

花陽「お疲れさま、凛ちゃん」

凛「あ、かよちん。どうだった? 今のバトル」

花陽「凛ちゃんも穂乃果ちゃんもとっても凄かったよ!……今の私じゃ、あんなバトルは出来そうにないや」

凛「そんなことないよ。かよちんだって―――」


凛が花陽に何かを伝えようとしたところで、穂乃果が駆け寄ってきた。


穂乃果「凛ちゃん。バトル、すっごく楽しかったよ!」

凛「あ……うん、凛もだよ。あんなにバトルでテンション上がったの、久しぶりだよ!」

花陽「凛ちゃん、バッジを渡さなきゃ」

凛「あ、そうだったにゃ。じゃあ穂乃果ちゃん。これがドヴァージム勝利の証、イエローバッジだよ。受け取って!」


凛がポケットからバッジを取り出し、穂乃果へと差し出す。


穂乃果「ありがとう!」



穂乃果「イエローバッジ、ゲットだよっ!」

ルクシオ「クシオ!」 ヤヤコマ「ヤッコ!」




凛「ねえねえ、穂乃果ちゃんたちは次にトゥリーシティに行くんだよね?」

穂乃果「そーだよ。ジムがあるみたいだし、化石の復元をしたいからね」

凛「じゃあその後は、どのジムに行くか決めてるの?」

穂乃果「ううん、それはまだ」

凛「そっか。……ねえ、かよちん。ちょっと話があるんだけど……」

花陽「? どうしたの、凛ちゃん」

凛「あのね、ごにょごにょ―――」

海未「今更ですが私たちの旅、計画性が無さすぎませんか?」

ことり「でも、その方が旅らしくていいんじゃないかな?」

穂乃果「ことりちゃんの言うとおりだよ、海未ちゃん」

海未「そうですかね……?」



花陽「えぇ――――――⁉」



穂乃果「な、何⁉」

海未「なんですかいったい⁉」

とり「は、花陽ちゃん? いきなり大声出したりして、どうしたの?」

花陽「あ、そのぅ……り、凛ちゃん、本気なの?」

凛「かよちん、もう凛は決めたよ。絶対その方がいいにゃ!」

花陽「で、でも―――」

凛「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん。お願いがあるんだけど、いい?」

穂乃果「へ?」

海未「なんですか急に?」

ことり「えっと、お願いって?」



凛「凛とかよちんを、旅の仲間に入れてほしいの!」



ほのことうみ『えぇ⁉』


海未「り、凛? それはどう―――」

穂乃果「いいよ! 一緒に行こうよ!」

凛「ほんと? ありがとう穂乃果ちゃん!」

海未「穂乃果⁉ 決断早すぎじゃないですか⁉」

穂乃果「え? 海未ちゃんは、2人と一緒は嫌なの?」

海未「いえ、そうではないですが……」

ことり「ことりも一緒に旅するのは全然いいよ。でも凛ちゃん、どうして急に?」

凛「実はね? かよちん、今度ジムリーダー就任試験を受けることになってるの」

花陽「……」

穂乃果「ジムリーダー就任試験……海未ちゃんも昔受けたやつだっけ?」

海未「そうですね。ジムリーダーになるには、それに合格しなければなりませんので」

凛「にゃ? 今、海未ちゃんも受けたって言った?」

海未「はい。言ってませんでしたが、私もジムリーダーなんです」

凛&花陽『えぇ⁉』

花陽「海未ちゃん、ジムリーダーだったのぉ⁉」

凛「だ、だったらますます穂乃果ちゃんたちと一緒に行ったほうが良いよ、かよちん!」

花陽「り、凛ちゃん」

穂乃果「えーと……ジムリーダー就任試験が、穂乃果たちと一緒に旅することと関係あるの?」

凛「穂乃果ちゃんたちと一緒に旅をすれば、色んなことが経験できると思うんだ。それでその経験は、きっとかよちんの試験の役に立つと思うの」

海未「ふむ、経験ですか。たしかに、旅は人を成長させると言いますね」

凛「そう、それにゃ! 旅で成長して、かよちんはメガかよちんになるんだよ!」

穂乃果「なにそれ、かっこいいね!」

花陽「ならないよぉ⁉」

ことり「あ、あはは……」

ことり(めがよちゃん……いいかも。今度ぬいぐるみ作ろっと)

海未「それで、花陽は分かりましたが、凛はなぜ旅に出たいのですか?」

凛「かよちんが旅に出るなら、親友の凛も一緒に行かない理由は無いにゃ」

海未「なるほど」

凛「……色んな町のラーメン屋さん巡りしたいしね」


凛は小さくそう呟いた。



海未「今何か言いませんでした?」

凛「ううん、何も言ってないよ? まあそんなわけで、凛とかよちんは穂乃果ちゃん達に付いてくにゃ」

穂乃果「うん。これからよろしくね、凛ちゃん」

海未「待ってください。花陽はそれでいいんですか?」

花陽「……うん。穂乃果ちゃん達が良ければ、付いて行っていいかな?」

穂乃果「もちろんだよ」

ことり「うん、花陽ちゃんなら大歓迎」

海未「では5人旅ですか。賑やかになりそうですね」

穂乃果「楽しい旅になりそうだね」

ことり「そうだね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「あ、ねえねえ花陽ちゃん。ジムリーダーの試験ってどこでやるの?」

花陽「ピャーチシティだよ。私の実家があるんだ」

穂乃果「え、花陽ちゃんって、この町に住んでるんじゃないの?」

花陽「ううん、ずっとピャーチシティに住んでるよ。この町には、ちょっと凛ちゃんに会いに遊びに来てるだけ」

凛「凛も2年前まではピャーチシティに住んでたんだよ。今は引っ越して、この町に住んでるけど」

ことり「じゃあ2人とも、ピャーチシティで育ったんだね」

花陽「うん、そうだよ」

凛「だから、凛とかよちんは幼馴染なんだにゃ!」

ことり「ことりたちと一緒だね」

海未「そうですね。……しかしピャーチシティですか。ここからだと結構遠いですね」

穂乃果「そうなの?」

凛「うん。トゥリーシティからだと、チェティーリシティを経由していくことになるから、ちょっと遠くなっちゃうんだけど……。あ、でも途中のチェティーリシティにもジムがあるんだよ」

穂乃果「なら、その町でもジムに挑戦できるね。それでその後はピャーチシティで、花陽ちゃんとジム戦だ!」

花陽「え⁉ わ、私と⁉」

穂乃果「うん。花陽ちゃんがジムリーダーになれたら、その時は穂乃果と最初のジム戦をやろうよ!」

花陽「……う、うん。分かった。もしジムリーダーになれたら、その時は穂乃果ちゃんと最初に戦うね」

穂乃果「やった! 約束だよ?」

花陽「うん、約束」



穂乃果「よーし、それじゃあさっそく―――」



『ぐ~!』



穂乃果のお腹から、大きな音が景気よく鳴り響く。


穂乃果「……ご飯食べに行こっか?」

ことり「そういえば、もうそんな時間だね」

海未「ですね」

凛「だったらラーメン屋に行こうよ。凛、美味しいお店知ってるんだ」

穂乃果「おぉ、いいね!」

凛「よーし! じゃあラーメン屋に!」

穂乃果「レッツゴーだよ!」


穂乃果と凛のでんこうせっか! 

ラーメン屋に向けて駆け抜けていった!


海未「ちょ⁉ なに勝手に決めて勝手に走り出してるんですか! 2人とも待ちなさい!」

ことり「海未ちゃん。2人とも、もう行っちゃったよ」

海未「……花陽。凛の言っていたラーメン屋って、どこにあるか分かりますか?」

花陽「多分何度か一緒に行ったお店の事だと思うから、案内するね」

海未「お願いします、花陽。全く、あの2人は……」

ことり(これから先、毎回こんな感じにならないといいなぁ……)



凛に勝利し、穂乃果は2つ目のバッジを手に入れた。
そして加わった新たな旅の仲間、凛と花陽。

穂乃果たちの旅はますます賑やかになることだろう。



―――つづく



これにて第5話も終了です。……が、6話もほぼ書き終わっているので、早ければ今日には上げたいと思います。


ここはドヴァーシティの街中。なぜか、穂乃果が一人でいるようだ。


穂乃果「まずは右……いない。左も……いないね。後ろは……やっぱりいない。前は……うん、当然いないや。も、もしかして空に!……いるわけないよね。ふむ、周りを見てもどこにもみんながいない。ということは、やっぱり……はぐれた?」



穂乃果「どうしよぉ―――っ⁉」



穂乃果(と、とにかく落ち着こう。こういう時は素数を数えれば落ち着くって海未ちゃんが言ってたね。1……あれ? 1って素数だっけ? 違ったっけ? そもそも素数って…………そ、素数なんてどうでもいいよ! よし、まずはどうしてこうなったのか思い出してみよっと。確かみんなで買い物をしてて……)




―――時は少し遡り、数十分前


海未「ふむ、食料はこんなところですね」

ことり「あとは寝袋とかが必要だよね」

凛「旅って結構必要なものあるんだね~」

花陽「3人とも、私たちの買い物を手伝ってもらっちゃって、ごめんね」

海未「何を言ってるんですか。これから一緒に旅をするのですから、当然ですよ」

ことり「そうだよ。ね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん」


穂乃果たちは、凛と花陽の旅支度に付き合っていた。


穂乃果「でも、そろそろどこかで休憩しない? ずっと歩きっぱなしで疲れたよ~」

凛「凛は全然平気だよ?」

花陽「凛ちゃんは体力あるもんね」

ことり「でも、ことりもちょっと休みたいかも」

海未「では、休憩できる場所を探しますか。どこかに喫茶店でもないですかね?」

穂乃果「喫茶店かあ……それらしいお店は……ん?」


そこで穂乃果が視線の端に何かを見つける。


花陽「あ、喫茶店なら、そこの角を曲がった先にあったはずだよ」

穂乃果(あの緑のぷにぷにしたの……なんだろ? 今まで見たことないけど……ポケモンなのかな?)


穂乃果が見つけたのは、小さな緑色の物体だった。


凛「そこの店はいつも空いてるから、のんびり休めると思うにゃ」

穂乃果(もしかして、珍しいポケモン? あ! 目が合った……と思ったら逃げた!)


緑色の物体は穂乃果と目を合わすと、一目散にその場から逃げだした。


ことり「じゃあ、そこで休もっか。行こ、穂乃果ちゃ――」

穂乃果「待って! 逃げないで!」


穂乃果は緑色の物体が逃げた方向へと駈け出す。


ことり「穂乃果ちゃん⁉ どうしたの⁉」

海未「どこに行くんですか⁉ 貴方が待ちなさい、穂乃果!」



―――現在


穂乃果(それで、あの緑の……ポケモン? を走り回って探してたら、みんなとはぐれちゃったんだっけ。……どうしよ。絶対、海未ちゃんに怒られる)

穂乃果「はぁ……。連絡とりたいけど、ポケギアの電池切れてるんだよねぇ。どこかに電話があればいいんだけど……とりあえず、探してみよ」


―――10分後


穂乃果「み、見つからない……!」

穂乃果(よく考えたら、公衆電話なんてあんまり見かけないよね……)

穂乃果「なんか歩き回ったらお腹減って来たなぁ……そういえば、休憩しようって話してたとこだったし。……あ、パン屋さん発見! すみませーん」

パン屋のおばちゃん「いらっしゃい! 何にするんだい、お嬢ちゃん?」


穂乃果はメニューを眺める。


穂乃果「そうだなぁ……あ! このスペシャルいちごジャムパンください!」

おばちゃん「じゃあ、お代は500円ね」

穂乃果「はい、500円ピッタシ!」

おばちゃん「あいよ。これがおばちゃん特製いちごジャムパンだよ」

穂乃果「わぁ、おいしそう!」

おばちゃん「運が良かったね、お嬢ちゃん。今日はちょうどこれが最後の1個だったんだよ」

穂乃果「そうなんですか? なんだかラッキーな感じ。それじゃあいただきま―――」



???「おばちゃん、スペシャルいちごジャムパンちょーだい!」



穂乃果がいちごジャムパンに口を付けようとした瞬間、隣からそんな声が耳に入る。

穂乃果がそちらに目を向けると、帽子を被った少女がパン屋のおばちゃんに500円玉を差し出していた。



穂乃果(ん? 穂乃果と同じの注文してる。あ、でもたしか……)

おばちゃん「ごめんねぇ。ちょうどこのお嬢ちゃんの分で売り切れちゃったんだよ」

少女「! そ、そんな……。この町に来たときは、スペシャルいちごジャムパンを食べるのが私の楽しみだったのに……」


少女は500円玉をチャリーンと落とし、絶望に満ちた表情でその場に崩れ落ちる。


穂乃果(す、凄い落ち込んでる……)

少女「これが……絶望……? ふふっ……パンではなく、絶望を味わうことになるなんてね……」

穂乃果(どうしよう……。パン食べたいけど……なんだか……)

少女「絶望ってしょっぱい味がするのね……あ、そっか。私の涙の味かぁ……」

穂乃果(た、食べにくっ!)

穂乃果「あ、あのぅ」

少女「なにかしら……? 私は今絶望の味を噛みしめて――」



穂乃果「良かったらこれ、譲りましょうか?」
少女「いいの⁉」



穂乃果の提案を聞くと、少女は瞬く間に立ち上がった。


穂乃果「は、はい」

少女「じゃ、じゃあ……いや、やっぱり全部は悪いわ。……なら半分! 半分だけ貰える?」

穂乃果「え? 半分でいいんですか?」

少女「ええ、分けて貰えるだけでもありがたいもの」

穂乃果「じゃあ、半分こですね」


穂乃果がパンを半分にちぎる。


穂乃果「はい、どうぞ!」

少女「ありがとう! 貴方とっても優しいのね! 女神さまって呼んでいいかしら?」

穂乃果「い、いやぁ、それは遠慮させてください。私、高坂穂乃果っていいます。だから穂乃果でいいですよ」

少女「分かったわ。めが――穂乃果さん」

穂乃果(めがって言った……)

少女「じゃあ私も名前を……あ、その前に帽子取ったほうが良いわよね」

穂乃果「あ、わざわざ別に―――え……⁉」


少女が帽子を取ると、穂乃果は目を丸くした。

なぜなら、そこにいた彼女は―――。



ツバサ「私、綺羅ツバサっていうの。よろしくね、穂乃果さん」



穂乃果「ちゃ……チャンピオン⁉」


ポケモンリーグチャンピオン、綺羅ツバサだったのだ。



―――公園のベンチ


穂乃果「びっくりしました! まさかツバサさんに会えるなんて……! あとパン美味しかったですね! そっちもびっくりしました!」

ツバサ「ほ、穂乃果さん、ちょっと声のボリューム下げて。すごく目立つから。あとパンはホントに美味しかったわよね」

穂乃果「あ、すみません。私、テンション上がっちゃって。生のツバサさん……生ツバに会えたから、つい」

ツバサ「うん。その気持ちは嬉しいけど、その略し方は2度と使わないで」


ツバサの脳内では生唾と変換された。

チャンピオンを前にしているからか、穂乃果の口調は普段より丁寧なものへと変わっている。


穂乃果「私、ツバサさんのバトルを見て、チャンピオンを目指そうって決めたんです。だから本当に会えたのが嬉しくて」

ツバサ「へぇ、穂乃果さんはチャンピオンを目指してるのね。バッジはもういくつか集めたの?」

穂乃果「今2つです。ちょうど昨日、2個目をゲットしたばかりなんですよ」

ツバサ「あら、そうなの」

穂乃果「私、この調子でバッジを8個集めて、必ずポケモンリーグに出場します!」

ツバサ「ふふ。熱いわね、穂乃果さん」

穂乃果「それでその、図々しいお願いかもしれないですけど……ツバサさん、私とバトルしてくれませんか?」

ツバサ「バトル? 今かしら?」

穂乃果「はい! 今の私たちの力でどれくらいツバサさんと戦えるのか、知りたいんです。お願いします!」

ツバサ「うーん、穂乃果さんにはパンを貰ったし……そうだ。じゃあ、1つ質問に答えてくれるかしら?」

穂乃果「質問……ですか?」

ツバサ「ええ。あなたの答えに私が満足出来たら、バトルしましょう」



ツバサ「穂乃果さん。あなたにとって、ポケモンは何かしら?」



穂乃果「私にとっての、ポケモン……?」

ツバサ「聞かせて、貴方の答えを」

穂乃果「う、うーん……私にとってのポケモンは……いつも一緒に居てくれる家族、かな」

ツバサ「家族?」

穂乃果「その、ポケモンって言うか……私、モウカザルとずっと小さい頃から一緒で。ずっと一緒に過ごしてきて……だからもう、家族と同じなんです」

ツバサ「……なるほどね」

穂乃果「す、すみません。なんだかうまく答えられなくて」

ツバサ「ううん、とっても素敵な答えだったわ。じゃあやりましょうか、バトル」

穂乃果「! はい! お願いします、ツバサさん!」



―――街はずれの森


ツバサ「ここならギャラリーもいないし、ちょうどいいわね。穂乃果さん、あなたの手持ちポケモンは何体?」

穂乃果「あ、3体です」

ツバサ「じゃあ3対3ね。私はこの子で相手をするわ。さあ、出てきて!」


ツバサが天高くモンスターボールを放り投げる。


ボーマンダ「ボォオオオオ!」

穂乃果「ボーマンダ……! ツバサさんのエース!」

ツバサ「さて、穂乃果さんの1体目は何かしら?」

穂乃果「この子です! ヤヤコマ、ファイトだよっ!」

ヤヤコマ「ヤッコ!」


穂乃果はヤヤコマを繰り出した。


ツバサ「あら、元気のいい子が出てきたわね。じゃ、始めましょうか。先行は穂乃果さんでいいわよ」

穂乃果「じゃあいきます! ヤヤコマ、つつく!」

ヤヤコマ「ヤッコーッ!」

ボーマンダ「ボォ」


ヤヤコマが疾風のような速さでボーマンダへと攻撃した。


ツバサ「へぇ、速いわね。その子の特性、はやてのつばさ?」

穂乃果「そうです。だから、ひこう技のスピードが上がるんですよ」

ヤヤコマ「ヤッコ!」

穂乃果(でもあんまりボーマンダには効いてないか……)



穂乃果「この調子で行くよ、ヤヤコマ! かげぶんしん!」

ヤヤコマ「ヤコヤコヤコーッ!」


ヤヤコマの姿が何体にも分かれる。


穂乃果「さあツバサさん、どれが本物か分かりますか?」

ツバサ「うーん、どれなのかしら? 分からないわ」


ツバサが分身したヤヤコマを見渡し、そう告げた。


ツバサ「……でも甘いわね、穂乃果さん。どれが本物か分からないなら……全部倒せばいいだけよ! ボーマンダ、りゅうせいぐん!」

ボーマンダ「ボーォオオオマッ!」


ボーマンダが天へとエネルギーを撃ち出し、ヤヤコマの飛んでいる高さを上回るほどまで昇っていく。

そして上昇が止まり―――辺り一面へと流星が降り注ぐ!


穂乃果「⁉ かわしてヤヤコマ!」

ヤヤコマ「ヤコ! ヤコヤコォ―――ヤコ⁉」


降り注ぐ数多の流星により、ヤヤコマは他の分身ごと、体を撃ち抜かれた。


穂乃果「ヤヤコマっ!」

ヤヤコマ「ヤ、ヤコ……」

ツバサ「ヤヤコマ、戦闘不能ね」


穂乃果はヤヤコマをボールへと戻す。


穂乃果「ありがとね、ヤヤコマ。戻って休んでて」


穂乃果「次は任せたよ、ルクシオ! ファイトだよっ!」

ルクシオ「クシャ!」


ルクシオはボールから飛び出ると、辺りにバリバリと稲妻を散らした。


ツバサ(この子も元気いっぱいね。ポケモンはトレーナーに似るっていうけど……ふふっ)

穂乃果「いきますよ、ツバサさん! ルクシオ、でんこうせっか!」

ルクシオ「ルーックシャア!」


ルクシオがボーマンダに突撃するも―――。


穂乃果(これもほとんどダメージが入ってない……!)

ツバサ「なるほど……さっきのヤヤコマといい、穂乃果さんはスピードで攻めるバトルスタイルなのね。じゃあこっちもすばやさを上げるわよ! ボーマンダ、りゅうのまい!」

ボーマンダ「ボォオ――――!」


りゅうのまいにより、ボーマンダの力が急速に高まっていく……!


穂乃果(りゅうのまい……たしかこうげきとすばやさを上げる効果だっけ。なら今のうちに!)

穂乃果「ルクシオ、スパーク!」

ルクシオ「クーッシォ!」

ボーマンダ「ボマッ……!」


ルクシオの雷を纏った突撃が、ボーマンダを直撃する。



穂乃果「今度は効いてる!」

ツバサ「さすがに効果抜群の技は効くわね。……じゃあ今度はこっちの番。りゅうのまいを舞ったボーマンダの攻撃、耐えられるかしら?」



ツバサ「ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」

ボーマンダ「ボォオオマァアアア!」



凄まじい勢いでルクシオへとボーマンダが迫る!


穂乃果(速い⁉ これはかわせない!)

穂乃果「迎え撃つよ! スパーク!」


ルクシオ「クシャアッ!」

電撃を纏うルクシオ。

ボーマンダと正面から激突する!



ルクシオ「クシオォオオオオ!」

ボーマンダ「マァアアアアアアア!」






ルクシオ「オオオオ――クシャッ⁉……ル、ルク……」


ドラゴンダイブの凄まじい威力に、ルクシオが吹き飛ばされた。


穂乃果「ルクシオっ!」

ツバサ「ルクシオも戦闘不能。これで穂乃果さんはあと1体ね」


穂乃果がルクシオを戻す。


穂乃果「戻って、ルクシオ。お疲れさま、ありがとね」


穂乃果「最後は任せたよ、モウカザル! ファイトだよっ!」

モウカザル「ヒキャ!」


モウカザルが元気よくボールから飛び出てくる。


それを見て、ツバサは微かに笑みを浮かべた。


ツバサ(ふふっ。やっぱりこの子も穂乃果さんに似てるわ)

ツバサ「さあ穂乃果さん、これで最後よ。貴方とポケモンの全力……おもいっきり私にぶつけてみて!」

穂乃果「!……はい! 見せます、穂乃果たちの全力を! よぉーしっ! 行くよ、モウカザルっ!」

モウカザル「ヒキャアッ!」

穂乃果「マッハパンチ!」

モウカザル「ヒィーキャッ!」

ボーマンダ「ボオ⁉」


穂乃果お得意の速攻が、ボーマンダへと決まる。


ツバサ「やるじゃない! そうこなくちゃね! ボーマンダ、ドラゴンダイブよ!」

ボーマンダ「ボオオオオオオマァアア!」

穂乃果「かげぶんしん!」

モウカザル「ヒキャキャキャキャ!」


モウカザルは何体にも分身。

ボーマンダが突撃するも、それは分身のモウカザルだった。


ボーマンダ「ボオ⁉」

ツバサ「! その子も使えたのね! なら分身ごと食らいなさい! りゅうせいぐん!」

ボーマンダ「ボーォオオオオオマッ!」

穂乃果「そうくると思ってました!」


数多の流星が辺りに降り注ぎ、分身したモウカザルを次々と消し去っていく。



―――だが、最後の一匹のモウカザルまでもが、流星によって撃ち消される。




ツバサ「モウカザルが……いない⁉ 一体どこに………………なっ⁉」


ツバサがフィールドの隅から隅まで視線を巡らせると―――。





モウカザルは、ボーマンダの腹に張り付いていた。





モウカザル「ヒキャ!」

ツバサ「いつの間にあんな所に……⁉」

穂乃果「かみなりパンチ! 撃って撃って撃ちまくって!」

モウカザル「ヒーッキャア!」

ボーマンダ「ボアッ⁉」


モウカザルは片手でボーマンダを掴んだまま、もう片方の手で幾度となくかみなりパンチを撃ち出す!


ツバサ「振り落としなさい、ボーマンダ! ドラゴンダイブ!」

ボーマンダ「ボオオオオオオマァアア!」


ボーマンダが中空へ向かってドラゴンダイブを放つ。


モウカザル「ヒ、ヒキャッ⁉」


その凄まじい勢いに、モウカザルは振り落とされた。


ツバサ「……驚いたわ、穂乃果さん。正直、ここまでやるとは思わなかった」

穂乃果「ツバサさん! これが穂乃果たちの全力です!」

ツバサ「ええ。あなたの全力、確かに見せてもらったわ」



ツバサ「……だから、私もそれに応えなきゃ失礼よね?」


ツバサがポケットからペンダントのようなものを取り出す。


ツバサ「いくわよ、ボーマンダ!」

ボーマンダ「ボォ!」

穂乃果「? なにを……まさか!」


穂乃果が注視すると、そのペンダントにはめ込まれていたのは―――キーストーンだった。


ツバサ「その身に眠りし天空の力を、今こそ解き放て!」


ツバサのペンダントと、ボーマンダの持つボーマンダナイトが共鳴する!



ツバサ「ボーマンダ、メガシンカ!」

ボーマンダ「ボォオオ――――」



ボーマンダは光に包まれ―――。





メガボーマンダ「マァ―――――――!」





メガボーマンダへと、その姿を変えた。



穂乃果「メガ……ボー、マンダ……!」


ツバサ「さあいくわよ、穂乃果さん!」

穂乃果「来るよ、モウカザル! こっちもいくよ!」

モウカザル「ヒキャ!」

ツバサ「すてみタックル!」

穂乃果「かえんぐるま!」

メガボーマンダ「ボオォオオマァ―――!」

モウカザル「ヒーッキャア―――!」 


炎を纏いしモウカザルの突撃と、天を引き裂くボーマンダの突撃が真正面からぶつかり合う!





―――そして





モウカザル「ヒ、ヒキャアッ⁉」


敗れたのは、モウカザルだった。




モウカザル「……ヒ、ヒキャ……」

穂乃果「モウカザルっ⁉」

ツバサ「モウカザル、戦闘不能……名残惜しいけど、これでバトルは終わりね」


穂乃果がモウカザルをボールに戻す。


穂乃果「……お疲れさま、モウカザル。モンスターボールの中でゆっくり休んでね」

ツバサ「お疲れさま、ボーマンダ。あなたも戻って」

ボーマンダ「ボオ」


ツバサもボーマンダをボールに戻した。


穂乃果「ツバサさん、私たちの負けですね。やっぱり全然敵わなかったです」

ツバサ「全然敵わない? 穂乃果さん、それはなんの冗談かしら?」

穂乃果「へ? だって私たちはツバサさんのポケモンを1体も……」

ツバサ「あなたたちは私たちにメガシンカを使わせた。……全力を出させたのよ? 全然敵わなかったなんて、そんなわけないじゃない」

穂乃果「あ……」

ツバサ「バトルして分かった。いずれあなたは今よりずっと強いトレーナーになる。だから――」



ツバサ「強くなったあなたともう一度戦えるの、楽しみにしておくわね」



穂乃果「!」


ツバサの言葉に、穂乃果の胸が震える。


穂乃果「……はい! 絶対、私、今よりもっと……ううん」



穂乃果「もっともっともっと強くなって! 絶対にもう一度、ツバサさんに挑戦します!」



―――穂乃果はツバサと別れ、一人街を歩いていた。


穂乃果(ツバサさん、すっごく強かったなぁ。穂乃果もいつかは、あれくらい強くなれるのかな?……なれればいいな)

穂乃果「よし! まずは次のジム戦に向けて頑張ろっと!……あれ? 何か忘れてるような……」



海未「穂~乃~果~……っ!」



穂乃果「う、海未ちゃん⁉」

凛「やっと見つけたにゃ!」

穂乃果「凛ちゃんも……あっ! そっか! 穂乃果みんなとはぐれてたんだった!」

海未「なんですか、そのはぐれていたのを今思い出したかのような台詞は!」

穂乃果「あ、あはは……ごめん。忘れてた」

海未「(ぶちっ!)」

穂乃果「ひぃ⁉ 海未ちゃんの何かが切れた!」

凛「穂乃果ちゃん。むしろどうやったら忘れられるの?」

穂乃果「い、いやぁ、それが色々あって……あ、ことりちゃんと花陽ちゃんは?」

凛「2手に分かれて探してたんだ。あ、二人に穂乃果ちゃん見つかったって連絡しなきゃ。……じゃあ凛、連絡してくるね」


凛は穂乃果に背を向け、距離を取っていく。


穂乃果「凛ちゃん⁉ 待って! ここで連絡すればいいじゃん! 穂乃果を海未ちゃんと2人きりにしないで!……ホントに行っちゃったぁ⁉」

海未「穂乃果……カクゴハデキテイマスネ?」

穂乃果「なんで片言なの⁉ それ滅茶苦茶怖いからやめてよ! 海未ちゃ―――」



―――数分後


ことり「凛ちゃん!」

花陽「穂乃果ちゃん、見つかったの?」

凛「うん、一応……」

花陽「一応?」

ことり「それで、穂乃果ちゃんは?」

凛「……あそこ」



穂乃果「わたくし、高坂穂乃果はもう2度と自分勝手な行動をせず、周囲に……えっと」

海未「周囲に迷惑をかけないことを誓います、です。はい、もう一度最初から! まだ43回残ってますからね!」

穂乃果「うえぇえん! もう勘弁してよぉ!」

海未「泣き言言わずにさっさとしなさい!」



ことり「穂乃果ちゃん、道路に正座させられてる⁉」

花陽「ど、どうしてあんなことに……?」

凛「海未ちゃんがブチ切れたんだにゃ……」

ことり「と、とにかく海未ちゃんを止めなきゃ!」

花陽「そ、そうだね。あんなの、こんな往来でやることじゃないよ。通りがかる人、みんな見てるし」

凛「一人じゃ怖くて止められなくて、二人が来るのを待ってたんだ。今こそ、3人で海未ちゃんを止める時にゃ!」

ことぱな『お、おー!』



―――少しして


穂乃果「やっと解放されたよぉ……うぅ、ことりちゃあーん!」

ことり「よしよし。もう大丈夫だよ、穂乃果ちゃん」

花陽「泣きじゃくってる……」

凛「海未ちゃん、やりすぎだよ」

海未「……少しやりすぎましたかね」

穂乃果「少しじゃないよ! 過剰にやりすぎだよ!」

海未「もとはと言えば穂乃果が悪いのですよ!」

穂乃果「うぐっ! そ、それは…………みんなごめんね、迷惑かけて」

ことり「もういいよ、穂乃果ちゃん」

凛「気にしてないにゃ」

花陽「穂乃果ちゃん、海未ちゃんにすごく叱られたみたいだしね」

穂乃果「みんな……」

海未「さて、では買い物の続きをしましょうか。穂乃果、もうはぐれないでくださいね」

穂乃果「もう! 分かってるよ、海未ちゃん」



―――その日の夜 ポケモンセンター裏


穂乃果「うーん、あんまり星見えないなぁ……あ、でも少しは見える!」

海未「穂乃果、一人で部屋を抜け出して何をしているんですか?」

穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん。ごめんね、起こしちゃった?」

ことり「眠れないの? 穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん、なんだか眼が冴えちゃって」

ことり「珍しいね。いつもはぐっすり寝てるのに」

海未「何かあったんですか?」

穂乃果「今日さ……ツバサさんに会ったんだ」

海未「ツバサ……まさか、チャンピオンですか?」

穂乃果「うん」

ことり「そっか……チャンピオンを見つけて追いかけたから、穂乃果ちゃん迷子になったんだね」

穂乃果「え?……うん、まあ、そ、そんなとこ」

海未「……迷子の理由は別みたいですね」

穂乃果「……本当は珍しいポケモンを見つけたからです」

ことり「そんな理由だったんだ……」

海未「どうせ、そんなことだろうと思っていました」

穂乃果「ま、まあその話は置いといてさ! 穂乃果、ツバサさんとバトルしたんだよ」

ことり「チャンピオンとバトルしたの?」

穂乃果「うん。でも、負けちゃった。ストレート負けってやつだね」

海未「まあ……そうでしょうね。相手が悪すぎます」

穂乃果「でもさ、ツバサさんとバトルして……見えたんだ」

ことり「見えたって……何が?」

穂乃果「ツバサさんがいる、高み」

海未「高み……ですか?」

穂乃果「うん。あそこが、穂乃果の目指す高みなんだよ」

ことり「穂乃果ちゃんの、目指す高み……」




穂乃果「今までは、ぼんやりしてて見えなかった」



穂乃果「ほんとにたどり着けるのかも、あやふやで分からなかった」



穂乃果「でも、今日はっきり見えた」



穂乃果「あの高みまで、穂乃果は昇っていきたい……ポケモン達と一緒に!」





ことり「穂乃果ちゃん……。きっとたどり着けるよ、穂乃果ちゃんなら」

海未「私もそう思います。穂乃果なら、きっと」

穂乃果「ことりちゃん……海未ちゃん……。……よーしっ! みんな出てきて!」


穂乃果はモウカザルたちのモンスターボールを放り投げた。


モウカザル「ヒキャ!」

ルクシオ「クシャ!」

ヤヤコマ「ヤコ!」

穂乃果「モウカザル、ルクシオ、ヤヤコマ。穂乃果は今日、改めて決めたことがあるんだ」

モウカザル「ヒキャ?」



穂乃果「穂乃果、絶対チャンピオンになる!」



穂乃果「空に光る星みたいに、今はまだ届かないけど……いつかきっと、この手で掴んでみせる!」



穂乃果「ここからが本当のスタート! みんなで力を合わせて、一緒に強くなっていこう!」



穂乃果「―――ファイトだよっ!」



モウカザル「ヒッキャ!」

ルクシオ「クシャッ!」

ヤヤコマ「ヤッコ!」



海未「……私たちも、穂乃果に負けていられませんね」

ことり「そうだね、海未ちゃん。ことりはまだ、穂乃果ちゃんみたいにやりたいことは見つかってないけど……穂乃果ちゃんを見てたら、ことりも頑張らなきゃって思うよ」

海未「穂乃果に負けないくらい、私たちもこの旅で成長していきましょう」

ことり「うん!」



―――翌日


花陽「凛ちゃん。遅いね、穂乃果ちゃんたち」

凛「もう凛たち、10分待ってるにゃ~」

穂乃果「―――お~い!」

凛「あ、やっと来た!」

海未「すみません、遅くなりました」

ことり「2人とも、待たせちゃってごめんね」

穂乃果「ごめんね。寝坊しちゃったんだ」

凛「もう、穂乃果ちゃんったら! 凛、待ちくたびれたよー」

穂乃果「ホントにごめん……ん? ねぇ、なんで穂乃果だけ名指しなの?」

凛「だって穂乃果ちゃんが寝坊したんでしょ?」

穂乃果「そうだけど……でも海未ちゃんとことりちゃんも寝坊したんだよ?」

凛「え、そうなの?」

花陽「3人で寝坊したっていうこと?」

海未「恥ずかしながら……」

ことり「昨日、ちょっと夜更かししちゃったの」

凛「夜更かし? みんなで何かしてたの?」

穂乃果「外で星を見てたんだよ。手が届くかな~って」

凛「穂乃果ちゃん、まだ寝ぼけてるの? 星に手が届くわけないにゃ」

穂乃果「分かんないよ? 穂乃果の手がゴムみたいに伸びれば!」

凛「おぉ! ゴムゴムの穂乃果ちゃんだね!」

海未「アホな話していないで、もう出発しますよ」

ほのりん『は~い』

ことり「ふふっ、5人旅の始まりだね」

花陽「ちょ、ちょっと緊張してきたかも」

凛「何言ってるの、かよちん。ここはわくわくするとこにゃ!」

花陽「わくわく……うん、そうだね!」

穂乃果「じゃあ行こう、みんな! トゥリーシティに向けて、しゅっぱぁーつ!」



チャンピオンのツバサと出会い、穂乃果は自らの目指す高みをその目に焼き付けた。

今はまだそこには届かないが、未来がどうかは分からない。



なぜなら、穂乃果たちの旅はまだ、始まったばかりなのだから。





第6話 START:DASH!!




これにて、完結となります。
短い間でしたが、読んでいただきありがとうございました。





……嘘です。はい、全然話終わってないですよね。バッジもまだ2個ですし。
でもある意味では嘘じゃありません。


これにて、第1部完結となります。


第1部はいわゆる旅立ち編でした。構想上では、ここから本格的に旅が始まります。
始まる……んですが、もう書き溜めのストックが次の1話分しか残っていません。

本来遅筆なので、これから先は更新ペースがかなり遅くなると思います。

なので、このスレに上げるのは一旦ここで終わりにして、第2部は新規スレを立てようと思います。
長い時間中途半端にしておくの、何か嫌ですので。

穂乃果「かそくする思いはでんこうせっかで」

というタイトルにしようと思っています。まあ、立てたらこっちにも貼りますので。


その話、第7話に関しては早いうちにあげようと思っています。
(約1名、ここまで名前しか出ずにまともに出番がなかった方がいらっしゃるので)



では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

次スレ立てました。

穂乃果「かそくする思いはでんこうせっかで」
穂乃果「かそくする思いはでんこうせっかで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492680095/)

こっちはHTML依頼出しておきます。

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