一ノ瀬志希「橘ありすちゃんの変身実験」 (29)

次レス注意書き

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※主な登場キャラ
一ノ瀬志希
http://i.imgur.com/IYlc1hE.jpg
橘ありす
http://i.imgur.com/jg14W2H.jpg

※ちょっとだけ登場キャラ
鷺沢文香
http://i.imgur.com/erSOYvk.jpg
櫻井桃華
http://i.imgur.com/OVBQbbq.jpg

※ホラー路線?



匂いを支配する者は、人の心を支配する。

――パトリック・ジュースキント『香水』Ⅱ32

●02


『実験』のきっかけは、ほんのささいな雑談でした。

その日のわたしは事務所の談話室で、文香さんと桃華さんに、
VR(ヴァーチャル・リアリティ)についての話を聞いてもらっていました。

「この間、VR技術の体験レポをする仕事に行ってきたんですが……」

わたしはプロフィールの趣味欄に『ゲーム・読書』と書いていた縁で、
最新VR技術を導入したゲームのデモを体験する仕事をいただきました。

「種類はいっぱいあったんですが、一番すごかったのはダンスゲームでした……やってみたら、
 眩しいスポットライトも、観客の歓声も、音楽の鼓膜や肌まで震えるような響きも、
 まるで本当にライブをしてるんじゃないかって気分になりましたよ」

体験させてもらったVR技術は、想像をはるかに超えた再現度で、
わたしはすっかり感銘を受けてしまいました。

「……実際にライブの経験があるありすさんに、そこまで言わしめるとは……」
「ゲームのことは詳しく存じませんが、そこまで言われると、わたくしも興味が湧いてきましたね」
「夢中になって何度もプレイしてたら、終わってヘッドマウントディスプレイ外した瞬間、
 疲れがどっと出て、がっくり膝をつきそうになってしまいました」
「ライブの後の脱力感まで再現してるんですの? それもすごいですわね」

そしてわたしは、メーカー関係者でもないのに文香さんと桃華さんへ熱弁を振るっていました。



すると、わたしが熱くなって大声になってしまったせいか、

「ふーん、そのVRって、匂いも再現してくれるの?」

わたしたち3人と少し離れたところにいた志希さんが、会話に入ってきました。

「……志希さんは、こういった技術にお詳しいのですか」
「いーや、あたしはぜんぜん。こーゆーindustryは、晶葉ちゃんなら詳しいんじゃない?」

わたしはそこで、自分がVRについて音と光のことばかり話していたことに気づきました。
ヘッドマウントディスプレイで覆われていたのが目と耳だけだったので、当然なんですが。



「匂いも再現する技術の開発は進んでいるらしいですけど、目や耳に比べると印象は薄かったですね。
 シューティングゲームで銃を撃つと硝煙の匂いがする、というのがあったのですが……」
「ありすちゃんは、硝煙の匂いを嗅いだことがあるの?」
「いいえ……だから、あまり没入感はありませんでした」
「なんだ。じゃあ言うほど大したことないね」

普段のわたしであれば、志希さんの切って捨てる言い方に苦笑するだけで済ませたでしょうが、
(志希さんは自分の関心をそそらない分野について、ものすごくそっけないんです)
あの時のわたしはVRの興奮覚めやらぬ状態で、つい志希さんの態度に噛み付いてしまいました。

「匂いこそ、大したことないんじゃないですか? メーカーの方がおっしゃってましたけど、
 人間が五感から知覚して得る情報の8割は視覚、1割は聴覚が占めているようですよ」
「……単純にいえば、視覚と聴覚は9割現実ということになりますね」
「へぇ? 視覚と聴覚で9割ねぇ」

わたしと文香さんの言葉を聞いて、志希さんは両手で鼻と口を覆いながら、
笑いを噛み殺す真似をしました。



「ありすちゃん、専門家とやらの言うことをあまり鵜呑みにしちゃいけないよ。
 専門家ってのは、自分の専門分野を過大評価する習性があるから、割引して聞いてあげなきゃ」
「それを言ったら、志希さんだって匂いの専門家みたいなものじゃないですかっ」

すると志希さんはいきなり顔色を険しくして、低い声音の返事をぶつけてきました。

「ありすちゃん。人を本当に支配しているのは、嗅覚と匂いだよ。
 まとう匂いが変われば、その人も別人みたいに変わっちゃうぐらい、その支配は強い。
 ……そもそも嗅覚を視聴覚ごときと同列に語っちゃダメ。
 これらの間には根本的な違いがあるんだ……ナニか、分かる?」


●03


わたしは質問に虚をつかれて、文香さんと桃華さんの顔を見ましたが、
お二人も困惑した様子で目配せし合うばかりでした。

「もしかして、ありすちゃんや桃華ちゃんの年だと、五感の仕組みって学校でちゃんと習ってない?」
「……もしかして、私の年齢だと分からなければダメな質問でしょうか……」
「文香ちゃんなら、知識は頭にあるはずだよ。
 ただ、その知識がこの質問と結びついてないから答えられないだけ」



文香さんは目を閉じて考え込む間、わたしもわたしなりに答えを考えていました。
嗅覚……これは、視覚や聴覚と何が違うのでしょう。

そこでわたしは、自分が「嗅ぐ」という動作をほとんどしないで生活していることに気づきました。

何か物を「嗅ぐ」時間は、「見る」「聞く」とくらべてすごく短いのです。
今日何かを「嗅いだ」場面としてパッと思い浮かぶのは、朝食のパンの焼き具合と、
レッスン後の汗の匂いをきちんと消臭できたか確かめるぐらい。

考えれば考えるほど、嗅覚は視聴覚と比べて軽いもののように思えます。



「じらしてもしょうがないね。志希ちゃん大ヒントあげちゃうよ。
 目は光を感知する、耳は音波を感知する。じゃあ、鼻はナニを感知するかな」
「それは、匂いの元となる物質で――あっ」
「文香さん?」

文香さんが目を見開いた瞬間、わたしと桃華さんは同時に文香さんの名を口に出していました。



「……『嗅覚は、知覚対象を直接体内に摂取している』という違いでしょうか?」
「あってるけど、そんなキッチリした言葉使おうとしなくても正解にするよー」

志希さんと文香さんの間では通じたようですが、
わたしは(おそらく桃華さんも)チンプンカンプンでした。

「例えば……ありすさんや桃華さんが紅茶を淹れて『いい香りだな』と思った時……
 お二人の鼻の中には、目に見えないほどの小さな紅茶の飛沫が、直接入り込んでいるのです」
「え、じゃあもしかして」

ここでわたしが桃華さんと顔を見合わせた瞬間、連想した場面は……
綺麗ではないので、言及を差し控えさせていただきます。

「それに対して、今お二人が『鷺沢文香の姿を見ている』というのは、
 この部屋の蛍光灯から放出されている光線が私の体にぶつかって、その反射光を目でとらえているということです。
 私の体細胞や体液が、直接お二人の目に入り込んでるわけではありません」
「ということは……わたくしたちが『文香さんの声を聞いている』というのも、
 文香さんの声帯から生じた空気の振動を、わたくしたちの耳で拾っているということになりますわね」

桃華さんのつぶやきに、文香さんと志希さんは軽く頷きました。



「……でも、わかりませんわ。どうしてそれが『根本的な違い』ですの」
「目が感じ取るのは光だけ、耳が感じ取るのは音波だけ。対して鼻が感じ取るのは千差万別の匂い分子。
 だから、感じ取れた物があたしたちの人体に及ぼす生理反応の種類も、その影響の深さも段違いなの」
「それゆえ、嗅いだら死ぬ毒物はあっても……見たら死ぬ光、聞いたら死ぬ音は存在しません……」
「まぁ、光や音の物理量が大きすぎて死ぬことはあるだろうけどね」

小梅さんや涼さんが聞いたらガッカリしそうな例示で、
わたしにもおぼろげながら話がつかめてきました。



「とまぁ、理屈こねてみたけど……これだけじゃ腑に落ちないよねぇ……そうだ!」

志希さんは芝居がかった大仰な手つきで、部屋の掛け時計を指し示しました。
時計の針は2時過ぎを指していました。

「御三方に匂いの重要性をわかってもらうために……
 これからこの志希ちゃんがオヤツをおごっちゃうよ♪」

そうして志希さんは、わたしたち3人を残して部屋を出ていきました。

(途中で恐縮ですが●01が抜けてるのは正常です)



●04


少し時間が経ってから、志希さんはスーパーのビニール袋を下げて帰ってきて、
しばし台所に篭ったかと思うと、たこ焼き器を引っ張り出してまた部屋に戻ってきました。

「フンフンフフーン♪ フンフフーン♪ フレデリ――じゃないっ、志希ちゃーん♪」

志希さんは軽快な鼻歌とともに、たこ焼き器を熱しながら油を塗っています。

「……たこ焼きを、ご馳走してくださるのですか」
「そー♪ この間、笑美ちゃんに焼き方を教えてもらってねー」

志希さんはトロリとしたタネをたっぷりとたこ焼き器に流し込み、
続いて切った茹でダコ、揚げ玉をパラパラ投入。さらにネギをフワフワと散らします。

やがて香ばしい匂いが漂ってくると、志希さんは鉄板上にキリを一閃、二閃、三閃。
タネを16個の穴ごとに切り分け、よどみない手つきでたこ焼きをひっくり返していきます。

わたしはその様子をただ『上手だなぁ』と気楽に眺めていましたが、
ふと隣の桃華さんが険しい顔をしているのに気づきました。

「なんで、そんな顔をしているのですか?」
「ありすさん……志希さんから食べ物をもらうときは、気をつけたほうが良いですよ」



「桃華ちゃーん、そんな顔して見張ってなくても、今回はタバスコなんか入れないよー」
「タバスコ!? それはどういう……?」
「……聞いたまま、ですわ」
「桃華ちゃんがいるから、たこ焼きにしたんだって。
 こうやって目の前で作ってあげないと、桃華ちゃんは警戒して食べてくれないだろうし」

生地の色がこんがりキツネ色に染まると、志希さんはたこ焼きの一つを割って火の通り具合を確かめ、
火を止めると船皿を取り出して手早くたこ焼きを載せ、刷毛でソースを塗り、
マヨネーズでジグザグ模様を描いて、鰹節と青のりを散らし、脇に千切り紅しょうがを――

「お嬢さん方、たこ焼き一丁上がり!」

志希さんの手際の鮮やかさは、
いつか桃華さんと一緒に回った屋台のおじさんにも負けないほどでした。



「……とても、おいしそうな匂いがしますね」
「おお! 我ながら惚れ惚れしちゃうほど芳しいメイラード反応!
 ……ああ、匂いが何とかってハナシだったっけ? 冷めて匂いが飛びきらないうちに食べて食べて♪」

そう言って志希さんは爪楊枝を刺してたこ焼きを口に入れました。文香さんもすぐあとに続きます。
こうなると、不安だったわたしたちも後に続かないわけには……実際、たこ焼きはとても美味しそうですし……。

「少なくとも、ロシアンルーレットではなさそうですね」
「お待ちになって……わたくしが、先に参りますわ」
「んもー! 桃華ちゃん、それたこ焼きを食べる前の台詞じゃないよー!」

桃華さんはライブ直前のような顔つきで爪楊枝を刺して、たこ焼きを口に運びました。

「……あっ、おいし――」
「でしょう? 笑美ちゃんのお墨付きだってもらってるんだよ♪」
「……ど、どうやらわたくしの懸念は、杞憂だったようですわね」

わたしも爪楊枝を手に取り、たこ焼きを一口……。

「せっかくだし、食レポの練習やってみようか? どうです橘さん、一ノ瀬屋のたこ焼きのお味は?」
「え――ふぇっ? ん、んぐっ――」

外はカリカリ、中はフワフワとした感触に包まれて、
口の中にはソースの甘酸っぱさに青のり、鰹節、マヨネーズが最初に舌に広がって、
そのあと心地よいアツアツの熱とともに揚げ玉とお出汁の風味が口から膨らんで鼻まで抜けて、
それらをサッパリと引き締めるネギ、そして歯を立てれば真だこの――

「お、おいひい、ですっ」
「にゃははっ! 作った甲斐があったね♪」

わたしの口から出せたのは、たった一言だけでした。


●05

「ところで……たいへんおいしいたこ焼きをいただけているのは嬉しいのですが……
 さきほど私たちは、嗅覚と視覚・聴覚の差異について話していましたよね……?」
「そうですわね。これでは味覚がメインなのでは」

志希さんは、また大げさに爪楊枝をチッチッチッと横に振って、
それを脇の紅しょうがに刺して口に放り込みました。

「味覚は『知覚対象を直接体内に摂取している』という意味で嗅覚の仲間だけど、
 実は嗅覚の一部みたいなものなの。鼻炎起こすと、味がほとんどわからなくなるでしょう?」
「……なるほど、鼻風邪や花粉症にかかると、何を食べても味気なくなりますからね……」

「その差はね、化学物質センサーとしての性能が、舌と鼻でケタ違いだから生じるの。
 舌が感じられる味なんて、受容体の種類でいえばせいぜい5つか6つの組み合わせ。
 対して鼻で感じられる匂いは、同じ受容体の種類でいえば数百種類の組み合わせになるもん。全然違う。
 まぁ、舌は鼻と違って液体に溶け込んだ物質を感知できるから、鼻の単なる劣化コピーではないけど」

わたしは、嗅覚への認識を改め始めていました。
たこ焼きになびいたわけではありませんが、物を味わうのも嗅覚に依存するのなら、
『視覚と聴覚だけで9割』というのは確かに言い過ぎかもしれません。



「まぁ、嗅覚が圧倒的に重要な理由は、もう一つあるんだけどね……
 それは、この紅しょうがを食べてみたら分かるよ」
「……この紅しょうがを、ですか」

わたしは、さっき志希さんが口に運んでいた紅しょうがを見ました。
たこ焼きというよりは焼きそばについてそうな、何の変哲もない千切り紅しょうが。

「ま、ムリに食べろとは言わないけどねー」
「……いいですよ、いただきますとも」
「ありすさん、慎重に考えたほうが……」
「大丈夫ですって。わたしは、さっき志希さんがこれを食べているところを見てましたから」

そう、志希さんがこの紅しょうがを、食べ、て――



「うぇえ――え、うぇええっ」
「志希さん! あなたって人は!」
「にゃ、にゃんでこのしょうが、甘いんですかぁあぁ……?」

わたしは予想外の暴力的な甘さに屈し、行儀悪いとは思いつつも紅しょうが? を吐き出してしまいました。

「あれー? ありすちゃんは牛肉にイチゴソースぶっかける猛者って聞いたから、甘いのには強いと思ったんだけど」
「……これは、しょうがではありませんね。果物……リンゴでしょうか?」
「文香ちゃんせーかい♪
 リンゴに甘味料と赤色ホニャララ号くん使って、紅しょうがっぽい見た目にして刻んだ紅しょうがもどきでーす」

わたしがぎょっとして顔をあげると、文香さんが平然とした顔で、
紅しょうが、もとい紅りんごをつまんで食べていました。

「ふっふー、視覚に頼ってるからこーゆー勘違いして勝手に混乱するハメになるんだよ」
「志希さん、あなたこのためだけに、こんなものを作ったんですの?」

桃華さんはわたしの背中をさすりつつ(わたしの惨状を予期していたようです)
なじり半分呆れ半分の声で疑問をぶつけました。すると志希さんは――



「目は閉じればいい。耳はふさげばいい。口は吐き出せばいい。じゃ、鼻は?」


●06

志希さんの声を認識した瞬間、
わたしは呼吸が――もちろん鼻呼吸です――が止まりました。

「匂いは呼吸の兄弟、呼吸に乗って無意識のうちにも人のナカに入り込んでくる。
 だから逃れることはできない。これが『人を本当に支配しているのは、嗅覚と匂い』たる所以だよ」

志希さんは身をかがめて、わたしの目の前に顔を寄せてきました。
当然鼻もすぐ近くです。志希さんにわたしの匂いを嗅がれたら、
わたしはどこまでが志希さんに筒抜けになってしまうのでしょうか。



「……志希さんの言わんとすることはわかりました」
「まだ納得いかない?」

でも、わたしは志希さんほど鋭い嗅覚を持ち合わせていないせいか、
志希さんの言葉が腑に落ちませんでした。

「人を支配しているのは匂いだよ。だから『まとう匂いが変われば、その人も別人みたいに変わっちゃう』よ」
「……じゃあ、わたしを別人みたいにすることもできるんですか?」
「もちろんできるよ。例えば……キミの憧れの文香ちゃんみたいにしてあげる」

わたしが顔をあげると、志希さんの満面の笑みと、目が点になっている文香さんが見えました。



「ありすちゃんが望むなら、今日から一ノ瀬・トリスメギストス・志希の実験を開始するよ。
 あたしの叡智で、キミを文香ちゃんにメタモルフォーゼさせちゃう。
 だいじょうぶ、水銀を金に変えるのに比べたら、ずっとラクラクだから♪」

こうして、わたしたちの奇妙な『実験』が始まりました。


●07


実験で最初に行ったのは、文香さん愛用のストールを借りることでした。

「クンカクンカ、スーハースーハー……ふんふんふーん、これが文香ちゃんの匂い……♪」

志希さんは文香さんからストールを渡されるやいなや、それを鼻息高くスーハースーハーと嗅ぎ始め……



「ナニぼーっとしてるのありすちゃん。キミも嗅ぐんだよ?」
「えっ」
「イヤ?」
「い、イヤなわけないじゃないですか。嗅ぎますよ、ええ」

私は志希さんにストールの半分を分けてもらい、そこに顔を埋めました。
柔らかくて、温かくて、ほのかに甘い――イチゴの甘酸っぱさとはぜんぜん違う、懐かしく安らぐ――

「あたし、前に神田の文香ちゃん家のお店に行ったことがあるんだけど、やっぱりその匂いと似てる。
 インクの刺々しさがとれて、代わりに本棚の木やニスを吸った紙の匂い」
「ビブリオマニアみたいなことを言いますね」
「とにかくこの匂いに集中して頭に焼き付けて。これがゴールなんだから」

わたしと志希さんは、文香さんの前で立ち尽くして、二人でストールをスーハースーハー……
あれ、なんだかとても落ち着きます。さすがは文香さんです……。

「あ、あの」
「ナニかな文香ちゃん?」
「その……熱心に嗅ぐような匂いでは……なぜか、肌を見られるより恥ずかしい気がします……」

なるほど、目の前で自分の衣服に顔を埋めて深呼吸されたら、
私も何だか変な気分になると思います。しかし文香さんの匂いは落ち着きます。

「文香ちゃんの感覚は、いたって正しいよ。
 愛用されてる衣服の匂いは、肌なんかよりもその人の生活習慣を遥かに雄弁に物語るの」
「……そうなのですか?」

「例えば……体臭からはどんなシャンプーやボディソープ使ってるか、ナニ食べてるか、
 ちゃんと寝てるか、体調崩してないか、運動習慣があるか、生理周期がいつとか分かるし、
 洗剤や柔軟剤からもその人自身の匂いの好みとか、現在の経済状況とかが分かるし、
 もちろん布そのものの材質も、買ってからどれくらい経つかも匂いで……」
「……えっ」
「志希さん、まるでホームズとかデュパンみたいですね」



またある時は、志希さんとわたしで文香さんのお家にお邪魔して一緒に夕食をいただきました。

「前も言ったけど、匂いは生活習慣を映す鏡なんだ」
「……思考は言葉に、言葉は行動に、行動は習慣に、習慣は性格になり、やがて運命となる……
 マザー・テレサの格言、ですね……」
「もしかして匂いは、その人の運命につながっているのでしょうか?」

文香さんの叔父様も、いきなり押しかけてきたわたしたちにびっくりした様子でしたが、
わたしと志希さんと文香さんで台所にならんでお料理できたのは、実験関係なしに楽しかったです。

「最初はありすちゃんを文香ちゃんの体臭に寄せようかと思ったけど……模倣すべきことばかりじゃないね。
 文香ちゃん、もう少し食生活に気を遣おう? まずは自炊の習慣をつけることから……」
「……志希さん、あなたは自炊されているのですか……?」
「最近までしてなかったけど、響子ちゃんに教育されちゃって……」



正直、わたしは志希さんが文香さん風味のなりきり用香水を作る程度……と甘く見ていました。

わたしの変身実験は、わたしが思うよりずっと本格的でした。
ちょっとたじろぐ気持ちも残っていましたが、もう今更後には退けませんでした。

まぁ、志希さんに付き合うのも苦痛ではありませんでしたし……。



●08

それからまた日が経った頃、わたしは愛用していたタブレットを机にしまい込んで、
代わりに文香さんから借りた古書を持ち歩いて、空き時間に読むようになりました。

「ありすちゃんが視覚や聴覚にかまけて、嗅覚を軽く見ていた原因って、タブレットとか電子機器のせいかもね」
「……なるほど、タブレットが発するのは音と光だけですものね」

ベージュ色の古書は、ストールで覚えた文香さんのような匂いがして、
これを持ち歩いていると、いつもいつでも文香さんがそばにいる気分で、とても安心できます。

「光や音は、匂いと違って電子機器で記録・複製・加工できるから、今の世の中に満ち溢れちゃってるけど……
 でも光や音は湖に映る月影みたいなもの、つまりidola(幻像)に過ぎないの」
「……いどら?」

「……idolaはラテン語、です。idol(偶像)の語源ですね」
「あたしアイドル活動はスキだけど、いくらなんでも光と音だけに頼りすぎと思うんだよ」
「確かに、ヴォーカルもダンスもヴィジュアルも、光と音を通してファンの皆さんに訴えかけるものですね」

「でも、idolaは触れようとしても手の届かない物。無理に手を伸ばせば……」
「……詩仙のごとく湖に落ちて溺れ死ぬ、ということですか」
「ふっふー♪ 洒落利いてるでしょ?」


●09

そんな日が続く内……私が、志希さんの実験の効果をおぼろげながら感じ始めたのは、
桃華さんの反応がきっかけでした。

「ありすさん、お茶菓子をいただいたのですが、お茶でも……ありすさん?」
「……あ、桃華さん。失礼いたしました」

私が事務所の談話室の片隅で古い文庫本を開いているときに、
桃華さんがお茶に誘ってくださって……ですが、本に没入していた私は、気づくのが遅れてしまいました。

「ありすさん、この頃は本当に文香さんそっくりになってきましたかしら」
「……そうでしょうか?」
「さきほど、かな子さんがマカロンをお持ちいただいて……皆さんわいわい盛り上がってましたのに、
 どこ吹く風で読書に集中されていた姿などは、文香さんさながらでしたわ」

桃華さんの表情は、呆れと感嘆が入り混じっているようでした。

「もし文香さんが帰国されて、二人で席を並べて本を読むようになったら、
 姉妹といっても皆様疑わないかと存じますわ」

その頃、文香さんはお仕事でヨーロッパに出られていて、数週間ほど顔を合わせていませんでした。
もっとも、私は何日かおきの朝に文香さんと(文香さんにとっては夜でしょうが)電話で話していますので、
あまり会っていないという感覚はありませんでした。

「……光栄ですね。もっともこれは、志希さんのおかげではないかと……」
「志希さんはやることなすこと突飛で、わたくしはあの方の後を追うなんて思いもよりませんが、
 ありすさんのことも考えてくださってると思います……わたくしのお姉さまですもの」
「……そういえば、わたしは志希さんに『in fact』のジャケット撮影の時もお世話になりましたね」
「……わたくしのお姉さまですのよ?」
「……ふふ、桃華さんの、ですね」
「むぅ……」

わたしがいつもより早く文庫本を閉じると、桃華さんは不思議そうな顔でこちらを見つめていました。

「少しお早いですね。ご用事でも……ありすさんのマカロン、とっておりますが」
「お気を遣わせてしまいすいません……今日は、文香さんの本を返しに……文香さんの古書店へ寄るつもりでして」
「文香さんはご不在ですが、支障ありませんの?」
「文香さんのおじ様には、挨拶したことがありますので……」



事務所から地下鉄に少し揺られて、神保町で下車。
地下鉄のホームから階段を上がって、靖国通りと白山通りの交差点に立ちます。

右手には、まず武道書や日本思想に強い大雲堂、自然科学を手広く扱う明倫館……
書泉グランデの看板が近くなる頃には、もうどっぷり神田古書店街へ入り込んでいます。

「志希さんにかぶれたわけではありませんが、独特の匂いがする場所ですわね」

文香さんのおじ様が経営されている古書店は、靖国通りが右に曲がり、
三省堂書店を過ぎてさらにもう少し歩いたところにあります。
お店は開いていて、奥のレジ近くに文香さんのおじ様が立っているのが見えました。



「ごめんください……おじ様、ごめんください」

おじ様はわたしの声を聞いて、ふっと顔をこちらに向け、目を見開き、
何か言おうとして口をパクパクさせていました。

「お仕事中すみません……この間お邪魔いたしました、橘です……」
「わ、わたくしは櫻井と申しますわ。文香さんには、いつもお世話になって」
「あ、あぁ……橘ありすさんと、櫻井桃華さんですね。お話、うかがっております」

わたしたちの口上で、おじ様は声が復活したのか、挨拶を返してくださいました。

「一瞬、焦りました。私を『おじ様』と呼ぶのは、文香――あの子ぐらいでしたので。
 いつの間に、お仕事から帰ってきたのかと」
「……お気を悪くさせてしまいましたか。本をお返しに参りましたので、お邪魔でしたらすぐに……」
「いいえ、ごゆるりと……といっても、こんな時間ですか」

そういえば、夕焼け小焼けのメロディもとっくに鳴っていました。

おじ様は、わたしと桃華さんの顔を交互に見やりつつ、

「あまり遅くなっては、親御さんが心配されるでしょうか」
「それでは、お返しいたします……また、お世話になってもよろしいでしょうか……?」
「どうぞ。よろしければあの子がいる時に、またご同僚など連れて……あの子が喜びますので」

わたしたちは薄れ行く茜空に急かされるように、鷺沢古書店をあとにしました。



「あの、『親御さんが心配されるでしょう』のとき、おじ様はわたくしの顔を見て言いませんでしたか?」
「……どうでしょうかね」
「ありすさんのほうが、わたくしより数歳年上に見えたのでしょうか」
「……まさか。同い年ですのに……」
「むぅ……」



●10

文香さんの帰国を数日後に控えた頃、
私は志希さんから一瓶の香水をいただきました。

「ふぅー……なんとか間に合ったよ。ありすちゃん専用の文香ちゃんパフューム♪」
「私専用の……文香さんパフューム、ですか……?」
「うん♪ 文香ちゃんを完璧に再現するため、
 文香ちゃんとありすちゃんの体臭ギャップを埋める特別調合の香水だよ。
 こっちのほうじゃ、あたしにつけても文香ちゃんにはなれないんだ」

志希さんが言うには「香水は素の体臭と混ざって一つの匂いを織りなす」とのことで、
つまりこの香水は「私の体臭と混ざった時に、文香さんの体臭を再現する」よう調整されたものとのことでした。

「いやー、この一ノ瀬・トリスメギストス・志希が本気で再現を目指しちゃったから、
 だいぶ待たせちゃって……でも、期待には応えられると思う。
 このパフュームは、賢者の石が金属と卑金属の垣根を飛び越えるように、
 ありすちゃんを文香ちゃんその人の匂いへ変貌させてしまうハズ♪」

……そういえば、この趣向は元々、私を文香さんへ変身させる『実験』でしたね。

「実は、文香さんがご帰国される日、私は羽田までお迎えに行く約束をしておりまして……
 ……少しでも、文香さんに近づけた姿をお目にかけられれば、と。
 こんなことを考えるようでは、まだまだ子供っぽいでしょうか……?」
「いいねソレ! あたしもありすちゃんについていって、文香ちゃん迎えに行っていい?」
「……それはぜひとも……では、ご一緒ということで」



もはや私に『実験』にこだわる気持ちはありませんでした。
今思えば、私の言い方は子供じみておりましたし……。

ただ、文香さんに憧れる気持ちはそのままでした。
私を文香さんへ近づけるために数ヶ月も尽力してくださった志希さんに感謝と、
あとやはり……この香りをまとったらどうなるのだろう、という期待感もありました。

「ありがたく……使わせていただきます」
「文香ちゃんへのお披露目、楽しみだね♪」

志希さんが手渡してくださった香水は、指先に乗るほど小さい壜に収まっていて、
壜には鷺が浮き出し加工された金色のレッテルが貼ってありました。
その壜を両手で包み込むと、今ここに文香さんがいるような気さえしました。

「香水の付け方は……うーん、いいや。一緒に行くから、あたしが面倒見てあげる。
 香水は、時の流れの一筋に、うたかたの王国を築く魔法……あたしがキミに、かけてあげよう」

そうして私たちは、文香さんの帰国を心待ちにしつつ予定日まで過ごしました。


●11

私と志希さんは、やや乾燥気味の人いきれが行き交う、
国際線ターミナル出口で文香さんを待っていました……のですが、
志希さんは私に香水をつけてくれた後、

「ごめんっ、ちょっと外させて」
「……志希さん、もう文香さんの便は着いていて……そろそろ、来る頃かと思いますが……」
「何かあったら、携帯にでも連絡して――じゃあ、頼んだよ!」

と、どこかへ消えてしまいました……。
そして志希さんがいなくなった直後、スーツケースやキャリーバッグを引く人影の流れが生じます。
おおかた、乗客の荷物受取が済んだのでしょう……もう、文香さんが来てしまうのでは……?

そして、私の目は懐かしき文香さんの姿を捉えました。
隣に歩く男性は、文香さんに同行していた彼女の担当プロデューサーさんで、私とも顔見知りです。
どうやらお二人とも、まだ私の姿には気づいていないようでした……身長のせいでしょうか。



この時、私の中にふと悪戯心がきざしました。
文香さんとプロデューサーさんにこっそり近づいて、いきなり肩をたたくという子供っぽい遊びです。

ただ、帰国前の文香さんと最後に話した時、私は「相当大人っぽくなった」と見栄を切ってしまったので、
逆にこのぐらい不意打ちしてもいいか、という心づもりがありました。

お二人は私が待っていることを知っているので、ターミナル出口できょろきょろと辺りを見回しています。
私を探しているのでしょうか……しかし私は体が小さく、荷物も持っていません。
大荷物を持っている人や、家族連れの陰に隠れて、こっそり接近することは容易でした。

「文香さん、文香さん」

そうして私は、私より20cmほど高い文香さんの肩に手を伸ばしました。



「その声、ありすさん――」

私の方へ振り返った文香さんは、前よりほんの少しだけ肌が焼けていて、
見開かれた目は相変わらず空のように澄んでいました。

しかし、文香さんの声は突然凍りつき、それから文香さんはすぐ口を両手で覆い、
言葉にならないこもった声を漏らしながら床に膝をつきました。

「……文香さん?」

私は、自分の予想以上に文香さんを驚かせてしまったのだと思い、
慌てて文香さんを助けようと手を伸ばし――

「――えっ……?」

私の手が、文香さんの口から離れた片方の手で振り払われ、
それと同時に私の耳は信じがたいつぶやきを聞き取っていました。

「文香が……二人?」



「何をおっしゃって……お二人とも、私は橘ありすです。同僚の顔をお忘れですか……?」
「いや、あの、それは分かって……ありす、ありす……ありすさん、だよ、ね?」
「プロデューサー!?」

私とプロデューサーは顔を見合わせてうろたえるばかり。
そして文香さんは青ざめた顔を両手で隠しながら、よたよたとあらぬ方へ足を向けていました。

「す、すまん、ちょっと時差ボケがきつくて……後で連絡させるから!」
「文香さん、プロデューサー……ま、待ってください、私です……私は、橘ありすで――」

文香さんが足をもつれさせてよろめき、たまたま私と目が合いました。
その瞬間、文香さんは子供がイヤイヤをするように首を振って目をつむり、私の足は棒を化しました。
文香さんはそのまま、プロデューサーに腕を引かれてターミナルを出ていきました。



「わ……私、たちばな……橘、ありすで……」


●12



「いーや、あの二人の鼻は、キミを『鷺沢文香』と認識していたハズだよ」



●13


瞬間、私は懐かしき文香さんのストールを顔に巻かれた錯覚に襲われました。
それはあの時と同じ、柔らかくて、温かくて、ほのかに甘い、安らぐ――しかし、ここにはありえないはずの匂い。

私の喉にぐねぐねした棒を突っ込まれたような吐き気が走り、私は反射的に口を両手で押さえ、
虫唾の苦さと視界に散る火花を感じながらターミナルの床に膝をつきました。

「うぇえ――え、うぇええっ」

いくら虫唾を出そうとしても、まったく出ない、何も無い、ただ、吐き気だけがどんどん私に折り重なって、

「無駄だよ……紅しょうがとは違うんだ。匂いは、吐き出せない」

無理やり首を向かされた先には、志希さんの微笑――いや、違う、これは、あり得ない――



私の目の前に、『一ノ瀬志希の顔をした鷺沢文香』が――



「や、やめ――っ、来ないで、くだっ……」

目と耳は、それを一ノ瀬志希と断言し、鼻はそれを鷺沢文香と主張して譲りません。
私の頭が、感覚が、食い違って、乖離して、分解されて、足元から崩れます。

「文香ちゃんが、キミを前にして動揺したということは、あたしの目論見は成功だね。
 そりゃあ肝も潰れるよ。いきなり『ありすちゃんの顔をした自分のドッペルゲンガー』が現れるんだもの」

目眩がひどくなって、私の視界はあっけなく潰れ、体が排水口の渦に飲まれるように、
がっくりと力が抜けていきます。そして私の鼻と喉に突っ込まれた見えない棒は、
どろどろのペーストかクリームかに溶けて体積を増して、私をますます詰まらせます。

「目を閉じて、耳塞いで。視聴覚ごときに惑わされないで。あんなの影絵や糸電話と同じだよ。
 嗅覚に身を任せて。そうすれば、床が突然抜けたような不安も収まる。さぁ、ここにいるのは誰……?」

それはあの時と同じ、柔らかくて、温かくて、ほのかに甘い、安らぐ――



あれ?

私と、もう一人の匂いが、同じ?――じゃあ、私は、この人は、どっちが、どっちで……


●14


わたしが目覚めた時、私の体はふかふかしたベッドらしき感触に寝かされ、
匂いは薄いアルコールと、甘ったるいフローラルを感知していました。

目覚めた、というのは語弊があるかもしれません。
わたしは意識を取り戻しても、目は開けていませんでした。
そこに何が映るのか予想できなくて、怖くて開けられなかったのです。

手を動かすと、人肌のような温もりと感触にあたりました。
さらに撫で回すと、ふわふわとした髪の毛らしきものも――

「ふにゃぁ……らんぼーに撫でちゃ、ダメェ……」



わたしが意を決して目を開くと、やはり視界には白いシーツのベッドに寝かされたわたしの体と、
そのベッドに上半身を突っ伏している志希さんの姿が見えました。

「ここ、空港の救護室。ゆっくりしてっていいって」
「あの……その、わたし……ご、ごめんなさい、文香さんに会うのが待ち遠しくて、
 寝不足かなんかで、倒れちゃいました……?」



「……ごめんね。あたし、やりすぎた」

志希さんの謝罪は、わたしの「あれは寝不足のせい」という現実逃避を完膚なきまでに打ち砕きました。

あの頭が空中分解していく感覚は、見えも聞こえもしないどろどろで窒息させられる感覚は、
自分と他人の区別が溶け落ちる感覚は、匂いといううたかたの王国が露わにした、まぎれもない現実でした。

「もう、金輪際『匂いこそ、大したことない』なんて言えませんね」
「いや、その……あたし、本当に大人気なかったというか……」



ベッドの脇で小さくなっている志希さんを見ながら、
わたしはふとVRの硝煙もどきを思い出しました。

もし将来、志希さんをうならせるほどの嗅覚VRが誰かによって実現するとしたら、
その誰かには、少なくとも志希さん並の良識を持ち合わせていて欲しい……と、心密かに願いました。



(おしまい)


こんなSS読ませておいてなんですが、どうか総選挙は志希に投票お願い致します。


【楽曲試聴】「秘密のトワレ」(歌:一ノ瀬志希)
https://www.youtube.com/watch?v=wD3olymAvN0

【楽曲試聴】「女の子は誰でも」(歌:一ノ瀬志希)
https://www.youtube.com/watch?v=QMtlK6yj5f8


あと20~30年ぐらい本棚に入ってた岩波文庫って、
天からほのかに甘くやわらかい安心する匂いがします。
もし文香の匂いがあるなら、たぶんそんな感じだと思います。


(志希過去作)

一ノ瀬志希「フレちゃんは10着しか服を持たない」
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一ノ瀬志希「できたよ! 惚れ薬♪」佐久間まゆ「待って下さい」
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455118306/)
など

それでは

あっ、ホンマ……(絶句)

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